(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】ワックス模型の作製方法
(51)【国際特許分類】
A44C 27/00 20060101AFI20230710BHJP
【FI】
A44C27/00
(21)【出願番号】P 2019057867
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】391017849
【氏名又は名称】山梨県
(74)【代理人】
【識別番号】100097043
【氏名又は名称】浅川 哲
(74)【代理人】
【識別番号】100128071
【氏名又は名称】志村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】林 善永
(72)【発明者】
【氏名】神藤 典一
(72)【発明者】
【氏名】宮川 和博
(72)【発明者】
【氏名】小松 利安
(72)【発明者】
【氏名】有泉 直子
【審査官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-017523(JP,A)
【文献】特公昭49-006458(JP,B1)
【文献】特開平02-187233(JP,A)
【文献】特開平06-063693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44C 27/00
B22C 7/02
B22C 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原型を作るためのゴム型のキャビティ内に、溶融した第1のワックスを注入することにより、原型のワックス模型を作製する方法において、
前記ゴム型のキャビティ
は対向する第1内壁面と第2内壁面とを有し、第1内壁面及び第2内壁面の少なくとも一方の内壁面の全体に、前記第1のワックスより融点
が2℃以上低い第2のワックスを、前記溶融した第1のワックスの注入前に塗布
し、
前記第2のワックスの塗布量を、第1のワックスの注入量と第2のワックスの塗布量との合計量の15wt%以上で40wt%以下とすることを特徴とするワックス模型の作製方法。
【請求項2】
前記ゴム型のキャビティの内壁面に塗布された第2のワックスは、ゴム型のキャビティ内に注入された第1のワックスの固化に伴ってその表面にコーティングされる請求項1に記載のワックス模型の作製方法。
【請求項3】
前記第2のワックスの融点が、第1のワックスの融点をX℃としたとき、式40≦Y≦X―2を満たす温度Y℃である、請求項1又は2に記載のワックス模型の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックス模型の作製方法に係り、特にロストワックス法を用いて指輪や耳飾りなどの装身具を製造する場合に有用なワックス模型の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
指輪や耳飾りなど装身具の製造法として広く用いられているロストワックス法は、装身具と同じ大きさ及び形状の原型をワックス模型で作り、このワックス模型に基づいて作った鋳型の中に溶融した貴金属材料を流し込んで装身具を製造するものである。
【0003】
一般に装身具は、ロストワックス法の一種であるいわゆるソリッドモールド法と呼ばれている方法で製造されることが多い。この方法は、ツリー状に組み立てたワックス模型の周囲に石膏を流し込んで耐火物の鋳型を作り、鋳型を加熱してその中に埋没させたワックス模型を脱ろうさせたのち、鋳型の空洞内に溶融した貴金属材料を流し込み、貴金属材料を固めたのち鋳型を除去してワックス模型と同一形状の製品を製造するものである。ところが、このソリッドモールド法では、製品の形状によっては、製品形状を成す空洞内の貴金属材料が完全に凝固する前に、湯道に残された貴金属材料が完全に凝固してしまうことがあり、そうした場合は製品に巣が生じるといった問題があった。
【0004】
上記の問題を解決する手段としては、例えば、鋳型に設けられる湯道を太くし、湯道に残された貴金属材料の凝固を遅らせるなどの対策が考えられる。しかしながら、湯道を太くしてしまうと、湯道に残された貴金属材料のロスが大きくなってしまう他、鋳造後にツリーから個々の製品を切り離す際に貴金属の切断加工がやっかいになり、切り離した後の製品の仕上げが煩雑になるといった問題があった。
【0005】
そこで、本願の発明者は、従来のソリッドモールド法に代えて、ロストワックス法の一種であるいわゆるセラミックシェルモールド法による装身具の鋳造を試みた。この鋳造法は、ツリー状に組み立てたワックス模型に耐火物の被覆と乾燥を複数回繰り返して薄いコーティング層を形成し、内部のワックスを脱ろうさせたのち、焼成することで鋳型に強度を与えるものである。この鋳造法はソリッドモールド法と比較して、鋳込み金属の凝固速度を部分的にコントロールできるというメリットがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、いわゆるセラミックシェルモールド法で装身具を鋳造する場合は、鋳込み金属の凝固速度を部分的にコントロールできるため、指向性凝固させやすくなるメリットがある。指向性凝固ができれば、上述の巣の発生を抑えることができる。単に湯道を太くするという手法と比較すると、湯道に残された貴金属材料のロスも少なく、また、ツリーから個々の製品を切り離す際の切断加工も容易となるメリットがある。しかしながら、この鋳造法では鋳型が薄いコーティング層によって形成されているため、ワックスを脱ろうさせる際に鋳型内でのワックスの膨張により鋳型が割れるおそれがあった。
【0007】
そこで、本願発明は、鋳型が薄いコーティング層によって形成される場合であっても、ワックスを脱ろうさせる際に鋳型の割れを防ぐことができるワックス模型の作製方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るワックス模型の作製方法は、原型を作るためのゴム型のキャビティ内に、溶融した第1のワックスを注入することにより、原型のワックス模型を作製する方法において、前記ゴム型のキャビティの内壁面に、前記第1のワックスより融点が低い第2のワックスを、前記溶融した第1のワックスの注入前に塗布しておく。なお、本発明における融点とは、DSC(示差走査熱量測定)における吸熱ピーク温度と定義される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るワックス模型の作製方法によれば、ゴム型のキャビティの内壁面に、第1のワックスより融点が低い第2のワックスを第1にワックスを注入する前に塗布しておくので、ゴム型のキャビティ内に注入した第1のワックスの表面に第2のワックスがコーティングされたワックス模型が作製される。そして、このワックス模型を鋳型から脱ろうする際には、第2のワックスが第1のワックスよりも先に溶融して鋳型壁面に浸透可能な状態となる。そのため、第1のワックスが熱膨張する際には第2のワックスが鋳型の壁面を浸透することで、第1のワックスの熱膨張時での鋳型壁面への負荷が軽減され、脱ろう時における鋳型の亀裂を効果的に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ワックス模型を作製するためのゴム型の斜視図である。
【
図2】ゴム型の上型と下型を一体にした時の断面図である。
【
図3】ゴム型によって作製されたワックス模型の斜視図である。
【
図5】セラミックシェルモールド法を用いて装身具を製造する場合の工程図である。
【
図7】シェル鋳型の断面を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るワックス模型の作製方法について、その実施形態を詳細に説明する。なお、図面は、本発明のワックス模型の作製方法に用いるゴム型及びワックス模型などを模式的に表したものである。これらの実物の寸法は、図面上の寸法と必ずしも一致していない。また、重複説明は適宜省略させることがあり、同一部材には同一符号を付与することがある。また、本発明の技術的範囲は以下で説明する各実施の形態には限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。本発明のワックス模型の作製方法は、特にセラミックシェルモールド法によって指輪や耳飾りなど装身具を製造する際に適している。
【0012】
本発明のワックス模型の作製方法は、原型を作るためのゴム型内に、溶融した第1のワックスを注入することにより原型のワックス模型を作製する際に、前記第1のワックスより融点が低い第2のワックスを前記ゴム型のキャビティの内壁面に塗布しておき、そのあとにゴム型のキャビティ内に第1のワックスを注入する。ゴム型から取り出されるワックス模型は、第1のワックスにより形成される中実部と、この中実部の表面に第2のワックスにより形成されるコーティング層とからなる。
【0013】
本発明の作製方法では、第1のワックスより融点が低い第2のワックスを前記ゴム型のキャビティの内壁面に塗布する工程を備える。この塗布工程は第1のワックスをゴム型のキャビティ内に注入する注入工程より前に行われる。キャビティの内壁面に塗布された第2のワックスが固化し始めた状態のときに第1のワックスをキャビティ内に注入することによって、第1のワックスと第2のワックスとが一体となり、第1のワックスからなる中実部の表面に第2のワックスからなるコーティング層が形成されたワックス模型が得られることになる。
【0014】
上記のワックス模型を得るために、第2のワックスは第1のワックスより融点が低いものが選択される。第2のワックスの融点は、第1のワックスの融点をX℃としたとき、式 40≦Y≦X―2 を満たす温度Y℃であることが望ましい。第1のワックスの表面に第2のワックスがコーティングされたワックス模型をシェル鋳型から脱ろうさせる際に、先ず融点の低い第2のワックスを溶融させ、次に第1のワックスを溶融させるためである。2℃以上の融点の違いがあれば、効果を得るための温度差としては十分である。一方、融点が低すぎると、作業者がワックス模型を取り扱う際に軟化してしまうおそれがあるため、融点は40℃以上が望ましい。第1のワックスと第2のワックスの組み合わせは、特定のワックスに限定されないのは勿論である。例えば、第1のワックスとして融点58.5℃のFreeman製のターコイズ(製品名)と、第2のワックスとして融点55.3℃の信和産業製の1924M(製品名)との組み合わせ、融点62.1℃のFerris製の1582ブルー(製品名)と、融点60.1℃のFreeman製のフィリグリーピンクフレーク(製品名)との組み合わせなどが適用される。
【0015】
また、第2のワックスが塗布されるゴム型の内壁面は、一例では互いに対向する第1内壁面と第2内壁面とを有する。第2のワックスは、前記第1内壁面及び第2内壁面の少なくとも一方の内壁面に塗布される。ワックス模型を作製するためのゴム型は、例えば、
図1及び
図2に示されるように、ゴム型1の内部に溶融ワックスを導き入れる注入口2と、溶融ワックスが充てんされるリング状のキャビティ3と、注入口2からキャビティ3内に溶融ワックスを導く湯道4が設けられている。この実施形態において、ゴム型1は上下二つに分かれた上型1aと下型1bとからなり、上型1a及び下型1bのそれぞれが断面半円形状のキャビティ部を有する。上型1aのキャビティ部3aの内周面には湾曲状の第1内壁面3a’が形成され、下型1bのキャビティ部3bの内周面にも同様の湾曲状の第2内壁面3b’が形成されている。本発明では、前記第1内壁面3a’及び第2内壁面3b’の少なくとも一方に第2のワックスが塗布されている。なお、前記ゴム型1は、この実施形態のように、上型1aと下型1bとが分離されたものに限られることなく、例えばゴム型1のキャビティ3内で固化したワックス模型を、ゴム型1から取り出すための切り込みが設けられた上下一体型のものであってもよい。
【0016】
前記第2のワックスは、前記第1内壁面3a’及び第2内壁面3b’の少なくとも一方の内壁面の全体に塗布されるのが望ましい。第2のワックスが第1内壁面3a’に塗布されている場合には、上型1a側のキャビティ部3a側に充てんされている第1のワックスの片側面に第2のワックスの層が形成され、逆に第2のワックスが第2内壁面3b’に塗布されている場合には、下型1b側のキャビティ部3b側に充てんされている第1のワックスの片側面に第2のワックスの層が形成される。このように、少なくとも第1のワックスの片側面の全体に第2のワックスの層が形成され、
図3及び
図4に示されるように、上記ゴム型1で作製されたワックス模型5は、第1のワックスによって形成される中実体6と、この中実体6の少なくとも片側面に第2のワックスによって形成されるコーティング層7とを備えている。
【0017】
また、本発明では前記第2のワックスの内壁面への塗布量は、第1のワックスの注入量と第2のワックスの塗布量との合計の約15wt%以上であって、50wt%未満であることが望ましい。塗布量が少ないと第2のワックスによるコーティング効果が十分に発揮されないからである。すなわち、シェル鋳型からワックス模型を脱ろうさせる際には、融点の低い第2のワックスが第1のワックスより先に溶融して鋳型壁面に浸透可能な状態となる。浸透による鋳型壁面への負荷軽減の効果を十分に確保するためにも、第2のワックスによるコーティング層6の厚みはある程度必要となる。一方、第2のワックスの内壁面への塗布量が50wt%以上あると、第2のワックスの膨張による鋳型壁面への負荷が増し、脱ろう時に鋳型を割るおそれがある。
【0018】
この実施形態に係るワックス模型5は、
図3及び
図4に示されるように、全体がリング状に形成されている。また、ワックス模型5にはゴム型1の湯道4に残ったワックスが固まってできたワックス柱8が一体に形成されている。上述したように、ワックス模型5は、第1のワックスによって形成される中実体6と、第2のワックスによって形成されるコーティング層7とを備え、コーティング層7が中実体6の表面の片側面又は両側面を被覆している。
図3には前記中実体6の片側面をコーティング層7が被覆しているワックス模型5が示されている。
【0019】
ゴム型1によって作製されたワックス模型5は、セラミックシェルモールド法を用いて指輪や耳飾りなどの装身具を製造する場合に有用となる。一例として、セラミックシェルモールド法を用いた製造方法を
図5の工程図及び
図6の工程説明図に基づいて説明する。なお、
図6の工程説明図は、工程3,4,6,7のみを模式的に示したものである。
【0020】
工程1では、
図1及び
図2に示したように、ゴム型1のキャビティ3の内壁面に第2のワックスを塗布する。第2のワックスを塗布する手段としては、例えば液状の第2のワックスを刷毛などで内壁面に直接付着させ、又はスプレーガンなどで内壁面に吹き付けてもよい。あるいは、液状の第2のワックスの中にゴム型を浸漬し、引き上げることで付着させてもよい。第2のワックスは、キャビティ3の全内壁面を構成する第1内壁面3a’及び第2内壁面3b’又はワックス模型の片側面に対応する第1内壁面3a’又は第2内壁面3b’の内壁面に塗布される。
【0021】
工程2では、予めキャビティ3の内壁面に第2のワックスが塗布されたゴム型1に第1のワックスを注入して、製品原型と同一形状のワックス模型5を作製する。第1のワックスは溶融状態でゴム型1の注入口2からキャビティ3内に注入され、キャビティ3内に充てんされたのち、時間の経過と共に固化が始まる。キャビティ3内で第1のワックスが固化することで、第1のワックスと第2のワックスとが一体となったワックス模型5が形成される。このワックス模型5は、
図3及び
図4に示したように、第1のワックスによって形成されたリング状の中実体6と、この中実体6の表面を被覆する第2のワックスによって形成されたコーティング層7とからなるものである。
【0022】
工程3では前記中実体6とコーティング層7とからなるワックス模型5をツリー状に組み立てワックスツリー9を作製する。工程4では前記ワックスツリー9をフィラーとバインダーとからなるスラリー中に浸漬するディッピングと、スタッコをワックスツリー9に振り掛けることにより、ワックスツリー9の表面にスタッコを付着させるスタッコイングと、乾燥とを複数回繰り返し、ワックスツリー9の表面に薄いシェル層10をコーティングする。
【0023】
工程5でシェル層10を乾燥させる。この乾燥工程では、シェル層10を自然乾燥又は真空乾燥などによって乾燥させることができる。シェル層10を十分に乾燥させてシェル鋳型11としたのち、工程6でシェル鋳型11からワックスを脱ろうさせ、焼成する。脱ろう工程では、シェル鋳型11を加熱することで内部のワックスを溶融させ、溶融したワックスをシェル鋳型11から流し出してシェル鋳型11内に製品原型と同一形状の空洞部12を残す。
【0024】
上記脱ろう工程においては、シェル鋳型11が加熱されることで内部のワックス模型5が徐々に溶融するが、シェル層10に近く且つ融点の低いコーティング層7の方が中実体6より先に溶融して、シェル層10に浸透可能な状態となる。そのために、中実体6が溶融して外側に向かって膨張する際に、コーティング層7がシェル層10の内部に浸透することができる。その結果、脱ろう時のワックスの膨張に伴うシェル層10への負荷が緩和されることになり、シェル層10の亀裂を効果的に防ぐことができる。
【0025】
工程7では、ワックスの脱ろうと焼成が完了したシェル鋳型11の湯口11aから溶融した貴金属材料13が流し込まれる。貴金属材料13は、湯道11bを通って各空洞部12に導かれる。
図7に示されるように、シェル鋳型11は、空洞部12を形成する外側のシェル層10の厚みが薄く形成されている一方、湯道11b付近の内側のシェル層10aが外側に比べて厚く形成されている。そのため、空洞部12内の貴金属材料13は急冷される一方、湯道11b付近では貴金属材料13が空洞部12に比べて徐冷されることになる。その結果、製品側と湯道側とで温度勾配ができ、製品側が先に凝固してから湯道側が凝固する指向性凝固となって、結果的に製品としての貴金属には巣が生じにくくなる。
【0026】
工程8では、シェル鋳型11が冷えてからシェル層10をハンマーなどで除去し、ツリーから各貴金属の固体物を切り落とす。各固体物の表面を磨きバリを落とすなどして仕上げ、製品として完成させる。
【0027】
実施例I
上記のゴム型を用いてリング状のワックス模型を作製し、上記のセラミックシェルモールド法を用いて作製したシェル鋳型からワックスを脱ろうさせた。ここで、シェル鋳型の作製は、次のように行った。まず、コロイダルシリカ(日産化学製スノーテックス30)と純水を2:1の体積比で混合した液を1L用意した。そこに#350のジルコンフラワー4kgを入れて18時間撹拌した後、ザーンカップNo.4での測定値が48秒となるように、#350のジルコンフラワー又は前述の混合液を適宜追加して粘度を調整し、第1層用のスラリーを作製した。さらに、#200のジルコンフラワーを用いることと、ザーンカップNo.4の測定値を38秒とすること以外は同様の手順で、第2層以降用のスラリーを作製した。そして、ワックス模型に界面活性剤(GC製シュールミスト)を噴霧し、第1層用スラリーにディッピングし、メジアン径103μmのジルコンサンドをスタッコイングし、2時間乾燥させ、1回目のコーティングを完了した。その後、第2層以降用スラリーにディッピングし、前述のジルコンサンドをスタッコイングし、2時間乾燥させ、2回目のコーティングを完了した。その後、第2層以降用スラリーにディッピングし、粒径0.3~0.7mmのムライトサンドをスタッコイングし、2時間乾燥させて3回目のコーティングを完了した。その後、同様の手順で、4回目のコーティングを完了した。その後、第2層以降用スラリーにディッピングし、粒径0.7~1.0mmのムライトサンドをスタッコイングし、2時間乾燥させて5回目のコーティングを完了した。その後、同様の手順で、6回目のコーティングを完了した。その後、18時間乾燥させてシェル鋳型の作製を完了した。脱ろうは、300℃の電気炉の中で30分間加熱することによって行った。
【0028】
ワックス模型は、第1のワックスからなる中実体と、その表面を被覆する第2のワックスからなるコーティング層とで形成されている。この実施例Iでは、第1のワックスと第2のワックスとの融点の差と、シェル鋳型からワックスを脱ろうさせた時のシェル鋳型の亀裂の有無との関係について調べた。第2のワックスをゴム型のキャビティの第1内壁面及び第2内壁面の全面に塗布した。また、第2のワックスの塗布量は、第1のワックスの注入量も含めた全体量の約30wt%であり、第1内壁面及び第2内壁面にそれぞれ15wt%ずつを塗布した。実施例1で使用した第1のワックスは、融点58.5℃のFreeman製のターコイズ(製品名)であり、使用した第2のワックスは、第1のワックスより融点が3.2℃低い、融点55.3℃の信和産業製の1924M(製品名)である。また、実施例2で使用した第1のワックスは、融点62.1℃のFerris製の1582ブルー(製品名)であり、使用した第2のワックスは、第1のワックスより融点が2.0℃低い、融点60.1℃のFreeman製のフィリグリーピンクフレーク(製品名)である。
【0029】
上記実施例Iの結果を比較例と共に表1に示す。比較例1で使用した第1のワックスは、実施例2と同様、融点62.1℃のFerris製の1582ブルー(製品名)であり、使用した第2のワックスは、第1のワックスより融点が1.2℃低い、融点60.9℃のFerris製の1737アクア(製品名)である。
【0030】
【0031】
上記表1に示されるように、第1のワックスの融点より第2のワックスの融点が2℃以上低い実施例1,2では、ワックスを脱ろうさせたあとのシェル鋳型には亀裂が認められなかった。これに対して、第1のワックスとの融点差が1.2℃しかない比較例1では、ワックスを脱ろうさせたあとのシェル鋳型に亀裂が認められた。
【0032】
実施例II
ワックス模型の作製方法、シェル鋳型の作製方法及びシェル鋳型からワックスを脱ろうさせる方法は、前記実施例Iと同様である。また、使用したワックスの組み合わせも、前記実施例1と同様である。この実施例IIでは、第2のワックスの塗布量と、シェル鋳型の亀裂の有無との関係について調べた。第2のワックスの塗布量を、第1のワックスの注入量も含めた全体量の15wt%、20wt%、30wt%、40wt%とした。
【0033】
上記実施例IIの結果を比較例と共に表2に示す。比較例では、第2のワックスの塗布量を、第1のワックスの注入量も含めた全体量の5wt%、10wt%、50wt%、60wt%とした。
【0034】
【0035】
上記表2に示されるように、第2のワックスの塗布量が15wt%~40wt%の範囲にある実施例3~6では、ワックスを脱ろうさせたあとのシェル鋳型には亀裂が認められなかった。これに対して、第2のワックスの塗布量が実施例より少ない比較例2,3及び第2のワックスの塗布量が実施例より多い比較例4,5ではワックスを脱ろうさせたあとのシェル鋳型に亀裂が認められた。
【0036】
実施例III
ワックス模型の作製方法およびシェル鋳型からワックスを脱ろうさせる方法は、前記実施例Iと同様である。使用したワックスの組み合わせも、実施例1と同様である。この実施例IIIでは、第2のワックスからなるコーティング層が第1のワックスからなる中実部の表面を被覆する範囲と、シェル鋳型の亀裂の有無との関係について調べた。実施例7では、第2のワックスの塗布量を第1のワックスの注入量も含めた全体量の15wt%とし、これをキャビティの第1内壁面の全面に塗布した。
【0037】
上記実施例IIIの結果を比較例と共に表3に示す。比較例4では、第2のワックスの塗布量を実施例7と同様15wt%とし、これをキャビティの第1内壁面の半面に塗布し、比較例5では、キャビティの第1内壁面の半面及び第2内壁面の半面に7.5wt%ずつ塗布した。ここで、半面とは、キャビティの内壁面を湯道側の半分と湯道から遠い側の半分に仮想的に区分けした場合における、湯道から遠い側の半分の面積を意味する。
【0038】
【0039】
上記表3に示されるように、キャビティの第1内壁面の全面に塗布した実施例7では、ワックスを脱ろうさせたあとのシェル鋳型には亀裂が認められなかった。これに対して、キャビティの第1内壁面の半面に塗布した比較例4及びキャビティの第1内壁面及び第2内壁面の半面に同量ずつ塗布した比較例5では、ワックスを脱ろうさせたあとのシェル鋳型に亀裂が認められた。
【符号の説明】
【0040】
1 ゴム型
1a 上型
1b 下型
2 注入口
3 キャビティ
3a 上型のキャビティ部
3a’ 第1内壁面
3b 下型のキャビティ部
3b’ 第2内壁面
4 湯道
5 ワックス模型
6 中実部
7 コーティング層
8 ワックス柱
9 ワックスツリー
10 シェル層
10a 内側のシェル層
11 シェル鋳型
11a シェル鋳型の湯口
11b シェル鋳型の湯道
12 空洞部
13 貴金属材料