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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】担持金属触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/10 20060101AFI20230710BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230710BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230710BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20230710BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230710BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20230710BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20230710BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230710BHJP
【FI】
B01J35/10 301H
B01J37/02 101C
B01J37/08
B01J23/89 M
B01J35/10 301J
H01M4/86 M
H01M4/90 M
H01M4/88 K
H01M8/10 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020553230
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040661
(87)【国際公開番号】W WO2020080400
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2018197385
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/高温化対応PEFC用革新的シナジー触媒の開発委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000230607
【氏名又は名称】日本化学産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】荒田 知里
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 肇
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 克良
(72)【発明者】
【氏名】内田 誠
(72)【発明者】
【氏名】飯山 明裕
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-157353(JP,A)
【文献】国際公開第2011/065471(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/040038(WO,A1)
【文献】特開2009-302044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
H01M 4/86
H01M 4/90
H01M 4/88
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体粉末と、前記担体粉末に担持された金属微粒子とを備える担持金属触媒であって、
前記担体粉末は、担体微粒子の集合体であり、
前記担体微粒子は、酸化物の微粒子であり、且つ複数の結晶子が鎖状に融着結合されて構成された鎖状部を備え、
前記結晶子は、サイズが10~30nmであり、
前記担体粉末は、空隙を備え、
前記空隙は、BJH法によって決定される細孔径が25nm超80nm以下である二次孔を有し、
前記担体粉末を構成する前記担体微粒子の単位体積あたりの前記二次孔の体積が0.313cm/cm以上である、担持金属触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の担持金属触媒であって、
前記空隙は、前記細孔径が25nm以下である一次孔を有し、
前記一次孔の体積/前記二次孔の体積の値が0.80以下である、担持金属触媒。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の担持金属触媒であって、
前記担体粉末を構成する前記担体微粒子の単位体積あたりの比表面積が83m/cm以上である、担持金属触媒。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1つに記載の担持金属触媒であって、
前記鎖状部は、複数の分枝と、複数の前記分枝の間に存在する孔とを備え、
前記空隙は、前記複数の分枝と前記孔とによって取り囲まれる、担持金属触媒。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1つに記載の担持金属触媒であって、
前記酸化物は、チタン又はスズを含む、担持金属触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担持金属触媒及びその製造方法に関する。本発明の担持金属触媒は、燃料電池のカソード電極触媒として好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、火炎法によって製造したNb-SnOナノ粒子を800℃で熱処理することによって担体粉末を製造し、この担体粉末を用いてカソード電極触媒を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】J. Electrochem. Soc. 2015 volume 162, issue 7, F736-F743
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1には、Nb-SnOにPtを担持した触媒に黒鉛化カーボンブラックを添加することによって、高湿環境下でのセル性能が向上する点が開示されている。しかし、黒鉛化カーボンブラックの添加は、触媒の長期安定性を損なう虞があるので、黒鉛化カーボンブラックを添加することなく、高湿環境下でのセル性能を向上させることが望まれている。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高湿環境下でのセル性能を向上させることが可能な担体粉末を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、担体粉末と、前記担体粉末に担持された金属微粒子とを備える担持金属触媒であって、前記担体粉末は、担体微粒子の集合体であり、前記担体微粒子は、酸化物の微粒子であり、且つ複数の結晶子が鎖状に融着結合されて構成された鎖状部を備え、前記結晶子は、サイズが10~30nmであり、前記担体粉末は、空隙を備え、前記空隙は、BJH法によって決定される細孔径が25nm超80nm以下である二次孔を有し、前記担体粉末を構成する前記担体微粒子の単位体積あたりの前記二次孔の体積が0.313cm/cm以上である、担持金属触媒が提供される。
【0007】
本発明者らが鋭意検討を行ったところ、高湿環境下でのセル性能が低下するのは、触媒反応に伴って発生する水が触媒中の細孔に詰まってしまうフラッディング現象によるものであることが分かった。そして、この知見に基づき、担体微粒子を構成する結晶子のサイズが10nm以上であり、且つ二次孔の体積が0.313cm/cm以上である場合には、触媒反応に伴って発生する水が触媒外に速やかに排出されるためにフラッディング現象が抑制されるので、黒鉛化カーボンブラックを添加することなく、高湿環境下でのセル性能を向上させることができることを見出し、本発明の完成に到った。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】担持金属触媒100の触媒構造のモデル図である。
図2図1から担体微粒子150を抜き出した図である。
図3図1における担体微粒子150の分枝160の状態を示す図である。
図4図1におけるガス拡散径路を示す図である。
図5】燃料電池のモデル図を示す。
図6】担体粉末を製造するための製造装置1の、バーナー2の中央を通る断面図である。
図7図6中の領域Xの拡大図である。
図8図6中のA-A断面図である。
図9図8中の領域Yの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0010】
1.担持金属触媒100
図1図4に示すように、担持金属触媒100は、複数の結晶子120が鎖状に融着結合されて構成された鎖状部を有する担体微粒子150の集合体である担体粉末と、担体粉末に担持される金属微粒子130とを備える。以下、各構成について説明する。
【0011】
1-1.担体微粒子150及び担体粉末
担体微粒子150は、希土類、アルカリ土類、遷移金属、ニオブ、ビスマス、スズ、アンチモン、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、タンタル、タングステンから選ばれる一種以上の元素を含む酸化物の微粒子である。希土類、アルカリ土類、ニオブ、ビスマス、アンチモン、タンタルは導電性を向上させるド―パントになる理由により好ましく、遷移金属は導電性を与える母体を構成する元素になる理由により好ましく、上記の他の元素は遷移金属以外でありながら導電性を与える母体を構成する元素になる理由により好ましい。なお、これら微粒子は強酸性条件下でも溶解しないことから、チタン、鉄、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、スズのうち少なくとも一種類が含有されていることが好ましい。
【0012】
図1図3に示すように、担体微粒子150には、その分枝160及びその複数の分枝間に存在する孔で取り囲まれた立体的な空隙110が形成されている。分枝160は、担体微粒子150を構成する複数の結晶子120が鎖状に融着結合されて構成された鎖状部が枝として分かれた部分である。酸化剤である酸素及びまたは燃料である水素を拡散させ、担持金属触媒100上へ輸送するガス拡散経路を上記した担体微粒子150の立体配置により形成されている。
【0013】
図1図3に担持金属触媒の構造モデルの例として示したように、担体微粒子150は、分枝同士がつながる点(分岐点、以下単に分岐と称す場合もあり)b1、b2、b5、b4、b1で囲まれた第1の孔部、分岐点b1、b2、b3、b1で囲まれた第2の孔部、分岐点b2、b3、b6、b7、b5、b2で囲まれた第3の孔部、分岐点b1、b3、b6、b7、b5、b4、b1で囲まれた第4の孔部の計4つの孔部を備える。ここで各孔部(第1~第4の孔部)の分岐点で囲まれた面を孔面とすると、空隙110はこれら4つの孔面で囲まれる立体的空間である。担体微粒子150は、このように複数の分枝同士がつながる複数の分岐点で囲まれる孔部を複数備える。そして複数の孔部によって囲まれる立体的空間(空隙)が互いに連続して備えられた構造となっている。したがってこの空隙が酸素や水素などのガス拡散径路(ガス拡散パス)となる。図4は、図1におけるガス拡散径路を示す図である。図4では、空隙110のガス拡散径路(ガス拡散パス)の一例を示している。酸化剤(ガス)、燃料ガス等の流れ(ガス拡散径路)170は図4に示すように空隙110を介して所望の方向に流れることができる。つまりこの空隙110がガス拡散径路となる。
【0014】
なお、担体微粒子150の簡素な構成としては、単に1つの孔部(たとえば分岐点b1、b2、b5、b4、b1で囲まれた第1の孔部)を備えるようにしてもよい。この場合は、結晶子120の結晶子粒の厚みの分の空隙110を備えることになる。さらに簡素な構成としては、担体微粒子150は1つ以上の分枝を持つものであってもよい。この場合であっても担体微粒子150同士間に分枝があるために密着できずその間に空隙110を備えることができる。
【0015】
なお、上記で孔部と記したところは、閉曲線(クローズドループ)と言い換えてもよい。あるいは、複数の上述した分岐点(たとえば分岐点b1~b7)を含む閉曲面に囲まれた空隙110を有すると言い換えることもできる。分岐点b1~b7としては、分枝同士がつながる担体微粒子150を構成する金属酸化物の結晶子の重心としてとらえることもできるし、あるいはこの結晶子上の任意の1点としてもよい。
【0016】
結晶子120のサイズは、10~30nmが好ましく、10~15nmがさらに好ましい。このサイズは、具体的には例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30nmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。結晶子120のサイズ(結晶子径)は、XRDパターンのピークの半値幅からシェラー式に基づいて求めることができる。結晶子120が小さすぎると酸化物が溶出されやすくなって触媒の耐久性が低下する虞がある。結晶子120が大きすぎると二次孔体積が小さくなってフラッディング現象が起こりやすくなる虞がある。
【0017】
担体微粒子150の集合体は、粉末状である。このような集合体を「担体粉末」と称する。
【0018】
担体粉末中の担体微粒子150の平均粒子径は、0.1μm~4μmが好ましく、0.5μm~2μmがさらに好ましい。担体微粒子150の平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置によって測定することができる。
【0019】
以下、担体微粒子として酸化スズの微粒子を用いた場合について説明する。担体粉末の比表面積は、12m/g以上が好ましく、25m/g以上がさらに好ましい。この比表面積は、例えば12~100m/gであり、具体的には例えば、12、15、20、25、30、35、40、45、50、100m/gであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。これらの数値は酸化スズの微粒子の場合であり、他の酸化物を用いた場合は、酸化スズと真密度が異なるため単位重量当たりの数値は異なる。従って、一般化するために、担体粉末を構成する担体微粒子の単位体積あたりの数値に換算する。酸化スズの真密度は、6.95g/cmであるので、この真密度を上述した数値に掛け合わせれば1cmあたりの比表面積に換算できる。例えば、12m/gは83.4≒83m/cm、25m/gは173.75≒174m/cmになる。この値は、具体的には例えば、83、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170m/cmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0020】
担体粉末に含まれる空隙110は、BJH法によって決定される細孔径が25nm以下である一次孔と、細孔径が25nm超80nm以下である二次孔を有する。二次孔の体積は、0.045cm/g以上である。この数値も酸化スズの微粒子の場合であるので、一般化するために担体粉末を構成する担体微粒子の単位体積あたりの数値を求めることにする。同様に酸化スズの真密度を掛け合わせると、0.045cm/gは、0.31275≒0.313cm/cmとなり、担体粉末1cmあたり0.313cmの二次孔体積を有することになる。同様に、以下に示す単位重量あたりの数値も容易に一般化(単位体積あたりの数値)することができる。
ところで、一次孔及び二次孔は、触媒反応に伴って発生する水の排出に深く関わっており、一次孔は主に触媒表面で生成した水をその一次孔に連結する二次孔へ輸送する働きをしており、二次孔は主に一次孔から運ばれた水を触媒層外に輸送する働きをする。それら一次孔及び二次孔の体積が小さすぎると、フラッディング現象が起こりやすい。本実施形態では、二次孔の体積が0.045cm/g以上という比較的大きな値であるので、フラッディング現象が抑制される。二次孔の体積は、例えば0.045~0.100cm/gであり、具体的には例えば、0.045、0.050、0.055、0.060、0.065、0.070、0.075、0.080、0.085、0.090、0.095、0.100cm/gであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。他の酸化物に一般化すると、二次孔の体積は、例えば0.312~0.695cm/cmであり、具体的には例えば、0.312、0.350、0.400、0.450、0.500、0.550、0.600、0.650、0.695cm/cmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0021】
一次孔の体積/二次孔の体積の値は、0.80以下であることが好ましい。この場合に、二次孔の体積が十分に大きくなって、フラッディング現象が抑制されやすい。この値は、例えば0.10~0.80であり、具体的には例えば、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0022】
担体粉末は、空隙率が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。空隙率は、例えば50~80%であり、具体的には例えば、50、55、60、65、70、75、80%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。空隙率は、水銀圧入法またはFIB-SEMによって求めることができる。
【0023】
担体粉末は、安息角が50度以下であることが好ましく、45度以下であることがさらに好ましい。この場合、担体粉末は小麦粉と同程度の流動性を有しており、取り扱いが容易である。この安息角は、例えば20~50度であり、具体的には例えば、20、25、30、35、40、45、50度であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。安息角は、落下体積法によって求めることができる。
【0024】
担体粉末の導電率は、0.001S/cm以上であることが好ましく、0.01S/cm以上であることがさらに好ましい。この導電率は、例えば0.01~1000S/cmであり、具体的には例えば、0.01、0.1、1、10、100、1000S/cmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。導電率は、JIS規格(JIS K 7194)に基づいて測定することができる。
【0025】
担体微粒子150は、複数の結晶子120が鎖状に融着結合されて構成された鎖状部からなる分枝160を有しており、これ自身が電子を流す性質を備える。担体微粒子150は図1図4に示すように、複数の分枝160を持ち、分枝同士が互いにつながる分岐点(b1~b7)を介して分枝同士がネットワークを組んだ状態となっており、これらの間は電気的に導電性の性質を有することになる。従って図1のP0点から点線で示した担体微粒子150の分枝160は、これ自体が電子伝導径路(電子伝導パス)140を構成している。
【0026】
1-2.金属微粒子130
金属微粒子130は、触媒として機能しうる金属(例:白金)又は合金の微粒子である。担体粉末に担持される多数の金属微粒子130の平均粒子径は、1~20nmであることが好ましく、3~10nmであることがさらに好ましい。この平均粒子径は、具体的には例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20nmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。金属微粒子130の平均粒子径が1nm未満であれば、電極反応の進行と共に溶解し、また20nmより大きくなると電気化学的活性表面積が小さくなり所望の電極性能が得られない。金属微粒子130の平均粒子径は、担持金属触媒100のTEM画像に写っている全ての金属微粒子130の外接円の直径を測定し、その算術平均によって求めることができる。
【0027】
金属微粒子130は、触媒能を有する任意の金属又は合金で構成される。金属微粒子130は、貴金属のみ、又は貴金属と遷移金属の合金で構成されることが好ましい。金属微粒子130は、コアと、これを被覆するスキン層を備えてもよい。コアは、貴金属と遷移金属の合金を含むことが好ましい。スキン層は、貴金属を含むことが好ましい。貴金属としては、白金が好ましく、遷移元素としてはコバルト(Co)あるいはニッケル(Ni)が好ましく、特にコバルトが好適である。
【0028】
金属微粒子130の担持量は、1~50質量%が好ましく、5~25質量%がさらに好ましい。この担持量は、具体的には例えば、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0029】
2.燃料電池200
図5に本発明の燃料電池のモデル図を示す。図5において、燃料電池(燃料電池セル)200は、電解質膜230を挟んでアノード201側の触媒層220A、ガス拡散層210Aとカソード202側の触媒層220K、ガス拡散層210Kがそれぞれ対向するように構成される。アノード側ガス拡散層210A、アノード側触媒層220A、電解質膜230、カソード側触媒層220K、カソード側ガス拡散層210Kがこの順に並ぶ構成である。カソード側触媒層220Kは、担持金属触媒100を含む。アノード側の触媒層220Aも担持金属触媒100を含んでもよいが、別の触媒を含んでもよい。固体高分子形燃料電池200のアノード201とカソード202の間に負荷203を接続することにより、負荷203に対し電力を出力する。
【0030】
3.担体粉末の製造方法
まず、図6図9を用いて、担体粉末の製造に利用可能な製造装置1について説明する。製造装置1は、バーナー2と、原料供給部3と、反応筒4と、回収器5と、ガス貯留部6を備える。原料供給部3は、外筒13と、原料流通筒23を備える。
【0031】
バーナー2は、筒状であり、原料供給部3は、バーナー2の内部に配置されている。バーナー2と外筒13の間にバーナーガス2aが流通される。バーナーガス2aは、着火により、バーナー2の先端に火炎7を形成するために用いられる。火炎7によって、1000℃以上の高温領域が形成される。バーナーガス2aは、プロパン、メタン、アセチレン、水素もしくは亜酸化窒素等の可燃性ガスを含むことが好ましい。一例では、バーナーガス2aとして、酸素及びプロパンの混合ガスを用いることができる。高温領域の温度は、例えば1000~2000℃であり、具体的には例えば、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0032】
原料流通筒23には、担体粉末を生成するための原料溶液23aが流通される。原料溶液23aとしては、金属化合物を含むものが用いられる。金属化合物としては、脂肪酸金属(Sn,Ti,Nb,Ta,Wなど)塩が例示される。脂肪酸の炭素数は、例えば2~20であり、4~15が好ましく、6~12がさらに好ましい。脂肪酸金属塩としては、オクチル酸金属塩(オクチル酸スズ、オクチル酸チタン、オクチル酸ニオブ、オクチル酸タンタル、オクチル酸タングステンなど)が好ましい。原料溶液23a中において、金属化合物は、非水溶媒中に溶解又は分散されることが好ましい。
【0033】
外筒13と原料流通筒23の間には、原料溶液23aのミスト化に用いられるミスト化ガス13aが流通される。ミスト化ガス13aと原料溶液23aを原料供給部3の先端から一緒に噴出させると、原料溶液23aがミスト化される。原料溶液23aのミスト23bは、火炎7中に噴霧され、原料溶液23a中の金属化合物が火炎7中で熱分解反応して結晶子120が鎖状に融着結合されて構成された鎖状部を有する担体微粒子150の集合体である担体粉末が生成される。ミスト化ガス13aは、一例では、酸素である。
【0034】
反応筒4は、回収器5とガス貯留部6の間に設けられている。反応筒4内に火炎7が形成される。回収器5にはフィルタ5aと、ガス排出部5bが設けられている。ガス排出部5bには陰圧が加えられる。このため、回収器5及び反応筒4内にガス排出部5bに向かう気流が生成される。
【0035】
ガス貯留部6は、筒状であり、冷却ガス導入部6aと、スリット6bを備える。冷却ガス導入部6aから冷却ガス6gがガス貯留部6内に導入される。冷却ガス導入部6aは、ガス貯留部6の内周壁6cの接線に沿った方向に向けられているので、冷却ガス導入部6aを通じてガス貯留部6内に導入された冷却ガス6gは、内周壁6cに沿って旋回する。ガス貯留部6の中央にはバーナー挿通孔6dが設けられている。バーナー挿通孔6dにはバーナー2が挿通される。スリット6bは、バーナー挿通孔6dに隣接した位置に、バーナー挿通孔6dを取り囲むように設けられている。このため、バーナー挿通孔6dにバーナー2を挿通させた状態では、スリット6bは、バーナー2を取り囲むように設けられる。ガス貯留部6内の冷却ガス6gは、ガス排出部5bに加えられた陰圧によって駆動されて、スリット6bから反応筒4に向けて排出される。冷却ガス6gは、生成された酸化物を冷却可能なものであればよく、不活性ガスが好ましく、例えば空気である。冷却ガス6gの流速は、バーナーガス2aの流速の2倍以上が好ましい。冷却ガス6gの流速の上限は、特に規定されないが、例えば、バーナーガス2aの流速の1000倍である。冷却ガス6gの流速/バーナーガス2aの流速は、例えば2~1000であり、具体的には例えば、2、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、100、200、500、1000であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。なお、本実施形態では、ガス排出部5bに陰圧を加えて冷却ガス6gを流しているが、冷却ガス導入部6aに陽圧を加えて冷却ガス6gを流すようにしてもよい。
【0036】
本実施形態では、スリット6bを通じて火炎7の周囲に冷却ガス6gを供給しているので、冷却ガス6gが層流になって火炎7の周囲を流れる。このために、ミスト23b,結晶子120、及び担体微粒子150が冷却ガス6gによって撹乱されず、火炎7に沿って移動しながら火炎7によって十分に加熱されて反応が進む。また、担体微粒子150が火炎7から出た後は担体微粒子150が冷却ガス6gによって即座に冷却されるので、鎖状部を有する構造が維持される。冷却された担体微粒子150は、フィルタ5aによって捕捉されて回収される。
【0037】
本実施形態では、担体微粒子150の集合体である担体粉末は、製造装置1を用い、バーナー2の先端に火炎7によって1000℃以上の高温領域を形成し、スリット6bを通じて冷却ガス6gを高温領域の周囲に供給しつつ、この高温領域において金属化合物を熱分解反応させることによって製造することができる。高温領域は、火炎7以外にも、プラズマなどによって形成してもよい。
【0038】
4.担持金属触媒100の製造方法
担持金属触媒100の製造方法は、担体粉末生成工程と、担持工程と、熱処理工程と、還元工程を備える。
【0039】
<担体粉末生成工程>
担体粉末生成工程では、上述の方法で担体粉末を生成する。
【0040】
<担持工程>
担持工程では、担体粉末に金属微粒子130を担持させる。この担持は、逆ミセル法、コロイド法、含浸法などの手法を用いて行うことができる。
【0041】
コロイド法では、担体粉末に金属コロイド粒子を吸着させる。より具体的には、コロイド法で合成した金属コロイド粒子を水溶液中に分散させた分散液を調製し、前記分散液中に金属コロイド粒子を添加及び混合することで、担体粉末表面に前記コロイド粒子を吸着させる。コロイド粒子を吸着させた担体粉末はろ過と乾燥を経て、分散媒と分離することができる。
【0042】
<熱処理工程>
熱処理工程では、500~750℃で熱処理を行う。これによって、担体粉末の結晶子が結晶成長してそのサイズが大きくなる。また、担持工程をコロイド法によって行った場合、コロイド粒子が金属微粒子130となる。この熱処理は、具体的には例えば、500、550、600、650、700、750℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。この熱処理工程の際に、結晶子が結晶成長するが、熱処理温度が低すぎると担体微粒子150の結晶子120が十分に成長せず、溶出されやすくなる。一方、熱処理温度が高いほど二次孔体積が小さくなるので、熱処理温度が高すぎると、二次孔体積が小さくなりすぎて、フラッディング現象が起こりやすくなる。
【0043】
熱処理時間は、例えば0.1~20時間であり、0.5~5時間が好ましい。この時間は、具体的には例えば、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20時間であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0044】
熱処理は、窒素などの不活性ガス雰囲気下や1~4%の水素を含む不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
【0045】
<還元工程>
還元工程では、熱処理工程の後に、金属微粒子130の還元処理が行われる。還元処理は、水素などの還元性ガスを含む還元性雰囲気下で、熱処理を行うことによって行うことができる。還元工程は不要な場合に省略可能である。
【0046】
この熱処理の温度は、例えば70~300℃であり、100~200℃が好ましい。この温度は、例えば具体的には例えば、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、250、300℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0047】
この熱処理の時間は、例えば0.01~20時間であり、0.1~5時間が好ましい。この時間は、具体的には例えば、0.01、0.05、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20時間であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0048】
還元性ガスが水素である場合、その濃度は、例えば0.1~100体積%であり、0.2~10体積%が好ましく、0.5~3体積%がさらに好ましい。この濃度は、具体的には例えば、0.1、0.2、0.5、1、1.5、2、2.5、3、10、100体積%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0049】
熱処理工程での熱処理後の金属微粒子130は、酸化された状態になっている場合があり、その場合、金属微粒子130が触媒活性を示さない場合がある。この場合、金属微粒子130の還元を行うことによってその触媒活性を高めることができる。
【実施例
【0050】
以下に示す方法で担持金属触媒を製造し、各種評価を行った。
【0051】
1.担持金属触媒100の製造
<実施例1>
(担体粉末の製造)
図6図9に示す製造装置1を用いて、担体粉末の製造を行った。バーナーガス2aとしては、酸素5L/分、プロパンガス1L/分を混合したガスを用い、このガスに着火してバーナー2の先端に1600℃以上の火炎(化学炎)7を形成した。原料溶液23aとしては、オクチル酸スズおよびオクチル酸ニオブをモル比で0.95:0.05の割合でミネラルスプリットターペンに混合し、溶解させたものを用いた。ミスト化ガス13aとしては、酸素を用いた。9L/分のミスト化ガス13aと、3g/分の原料溶液23aを混合し、スプレーノズル(アトマイザー)である原料供給部3の先端から火炎中心部分に噴霧し、燃焼させ、担体微粒子150の集合体である担体粉末を生成させた。その際、ガス排出部5bを負圧にすることによって、スリット6bから空気を170L/分の流量で吸引することで、生成した担体粉末を回収器5(フィルタ5a付き)に回収した。原料供給部3は、二重管構造(全長322.3mm)からなり外筒13から酸素ガス、原料流通筒23には原料溶液23aが供給され、原料流通筒23先端にはフルイドノズル、エアノズルがあり、そこで、原料溶液23aをミスト23bにした。担体粉末の回収量は60分間の運転で10g以上であった。
【0052】
(金属微粒子130の担持、熱処理及び還元)
次に、金属微粒子130を担体粉末に担持させ、熱処理及び還元を行った。
【0053】
<担持工程>
まず、塩化白金酸六水和物水溶液0.57mLを38mlの超純水に溶解させ、更に炭酸ナトリウム1.76gを加え撹拌した。
【0054】
その溶液を150mlの水で希釈し、NaOHを用いて溶液のpHを5に調整した。その後、過酸化水素を25ml加え、NaOHでpHを5に再調整した。更にCoCl溶液(CoCl (関東化学製)/15mL超純水)を2mL/分で滴下して撹拌した。
【0055】
その分散液に15mLの超純水に0.50gの担体粉末を分散させた分散液を加え、90℃にて3時間撹拌した。室温まで冷却した後、濾過及び超純水及びアルコールでの洗浄を行い、80℃にて一晩乾燥し、金属微粒子130を担体粉末に担持させた。
【0056】
<熱処理工程>
熱処理工程では、担持工程後の試料に対して、窒素中で700℃で2時間の熱処理行った。
【0057】
<還元工程>
還元工程では、熱処理工程の試料に対して、1%水素中で150℃で2時間の熱処理を行って金属微粒子130を還元した。
【0058】
以上の工程によって、金属微粒子130が担体粉末に担持された担持金属触媒100が得られた。
【0059】
<実施例2~3及び比較例1>
ステップS5での熱処理温度を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で担持金属触媒100を得た。
【0060】
2.各種評価
<結晶子サイズの測定>
結晶子サイズは、XRDパターンのピークの半値幅からシェラー式に基づいて求めた。
【0061】
<BET比表面積、一次孔体積及び二次孔体積の測定>
・前処理
サンプル0.2gを測定ガラスセルに量り取り、130℃減圧条件で30mmTorr以下になるまで1~2時間ほど脱水した。その後、室温まで徐冷し、窒素パージした。
【0062】
・測定条件
マイクロメリティクスTriStar3000測定装置を用い相対気圧0.01から0.30の条件にてBET法によりBET比表面積を求めた。上記測定装置を用い相対気圧0.01から0.98の条件にて、窒素ガス吸着過程におけるBJH法を用いて細孔容積分布を得た。得られた分布での細孔径が25nm以下である細孔の体積の合計を一次孔体積とし、細孔径が25nm超80nm以下である細孔の体積の合計を二次孔体積とした。
【0063】
<質量活性>
日本自動車研究所(JARI)による標準セルによって、80℃、湿度100%の条件での質量活性を求めた。
【0064】
【表1】
【0065】
3.考察
500~700℃で熱処理を行った実施例1~3は、800℃で熱処理を行った比較例1に比べて、湿度80~100%という高湿環境での質量活性が高かった。この結果は、実施例1~3は二次孔体積が0.045cm/g以上であるためにフラッディング現象の発生が抑制されたためであると考えられる。また、実施例1~3では、結晶子サイズが12~14nmという十分な大きさであるので、結晶子の溶出が十分に抑制される。
【符号の説明】
【0066】
1:製造装置、2:バーナー、2a:バーナーガス、3:原料供給部、4:反応筒、5:回収器、5a:フィルタ、5b:ガス排出部、6:ガス貯留部、6a:冷却ガス導入部、6b:スリット、6c:内周壁、6d:バーナー挿通孔、6g:冷却ガス、7:火炎、13:外筒、13a:ミスト化ガス、23:原料流通筒、23a:原料溶液、23b:ミスト、100:担持金属触媒、110:空隙、120:結晶子、130:金属微粒子、150:担体微粒子、160:分枝、200:固体高分子形燃料電池、201:アノード、202:カソード、203:負荷、210A:アノード側ガス拡散層、210K:カソード側ガス拡散層、220A:触媒層、220A:アノード側触媒層、220K:カソード側触媒層、230:電解質膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9