(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】多糖類エステル化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 3/10 20060101AFI20230710BHJP
C08B 3/06 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
C08B3/10
C08B3/06
(21)【出願番号】P 2021524555
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2019022237
(87)【国際公開番号】W WO2020245929
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-04-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「革新材料による次世代インフラシステムの構築~安全・安心で地球と共存できる数世紀社会の実現~」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 大祐
(72)【発明者】
【氏名】玄田 雅志
(72)【発明者】
【氏名】和田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】瀧 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 憲司
(72)【発明者】
【氏名】松村 裕之
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0376835(US,A1)
【文献】特開2019-073625(JP,A)
【文献】国際公開第2016/068053(WO,A1)
【文献】特開2017-190437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B,C08H
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類含有バイオマスと、アニオンの共役酸のpKaが真空中における計算値として2~19である塩基性イオン液体と、エステル化剤を、せん断力付与機構を備える混練機を用いて反応させる多糖類エステル化物の製造方法
であって、
前記多糖類含有バイオマスと前記塩基性イオン液体を練り混ぜ、第1の混練物を生成する第1混練工程と、
前記エステル化剤と第1の混練物を練り混ぜ、反応させて多糖類エステル化物を含む第2の混練物を生成する第2混練工程と、
前記第2の混練物を搬送しながら押し出す押出工程を有し、
前記第1混練工程、前記第2混練工程および前記押出工程の少なくとも2つの工程で、せん断力付与機構を備える混練機を用い、
前記第1混練工程、前記第2混練工程または前記押出工程の1以上の工程において、有機溶媒を用い、
前記多糖類含有バイオマス1に対する前記塩基性イオン液体の重量比割合が、0.5~10であり、
前記多糖類含有バイオマス1に対する前記有機溶媒の重量比割合が、0.5~10である、多糖類エステル化物の製造方法。
【請求項2】
前記塩基性イオン液体を構成するカチオンが、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、およびテトラアルキルアンモニウムカチオンからなる群より選択される1種である、請求項1に記載の多糖類エステル化物の製造方法。
【請求項3】
前記塩基性イオン液体を構成するアニオンが、カルボン酸アニオン、アミノ酸アニオン、シアン化物イオン、およびフッ化物イオンからなる群より選択される1種である、請求項1または2に記載の多糖類エステル化物の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の多糖類エステル化物の製造方法であって、
前記第1混練工程、前記第2混練工程および前記押出工程の少なくとも1つの工程を連続的に行う多糖類エステル化物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の多糖類エステル化物の製造方法であって、
前記第1混練工程、前記第2混練工程または前記押出工程のいずれかの工程において、スクリューを備える混練機を用いる多糖類エステル化物の製造方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の多糖類エステル化物の製造方法であって、
スクリューを備える混練機を用いて前記第1混練工程を行うに際し、
前記混練機のスクリュー直上に、前記多糖類含有バイオマスと前記塩基性イオン液体を同時に導入する多糖類エステル化物の製造方法。
【請求項7】
前記エステル化剤は、鎖状エステル化合物、環状エステル化合物、不飽和アルデヒド、飽和アルデヒド、酸ハロゲン化物、酸無水物、およびアリルアルコールからなる群より選択された1以上である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の多糖類エステル化物の製造方法。
【請求項8】
前記多糖類エステル化物における、セルロースエステルの含有量が80重量%以上である請求項1~
7のいずれか一項に記載の多糖類エステル化物の製造方法。
【請求項9】
前記多糖類含有バイオマス中の多糖類の水酸基1当量に対する、前記エステル化剤の当量が0.5~7当量である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の多糖類エステル化物の製造方法。
【請求項10】
前記多糖類含有バイオマス中の多糖類の水酸基のエステル化率が23%以上である請求項1~
9のいずれか一項に記載の多糖類エステル化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類エステル化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セルロースやリグノセルロースなどの多糖類を含有するバイオマス(以下、「多糖類含有バイオマス」と称する場合がある)を溶解する溶媒としてイオン液体が提案されており、該イオン液体を利用して、均一系反応下で多糖類を誘導体化する技術が紹介されている。イオン液体は極めて揮発性が低く、揮発による汚染や引火などの危険がなく、且つセルロースなどを溶解する力が強いため、多糖類を加工する際の溶媒として研究開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1の実施例1には、バガス(サトウキビ残渣)120mgを、イオン液体である1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート4gに溶解させ(イオン液体中のバガス濃度:3重量%)、80℃、撹拌条件下で一晩真空乾燥させた後、イソプロペニルアセテート4mLを反応系に加え、反応溶液から、メタノールによる再沈殿、続くろ過により固体状の多糖類誘導体(酢酸セルロース)を得たことが記載されている。
【0004】
また、非特許文献1には、シュレンク管内で、バガス600mgを、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート10mLに溶解させ(イオン液体中のバガス濃度:6重量%)、16時間撹拌し黒褐色の均質粘稠溶液を得た後、過剰量(20mL)のイソプロペニルアセテートを上記溶液に添加し、30分間撹拌することによりアセチル化を行い、メタノール不溶分から高粘性反応混合物(酢酸セルロース、全置換度:約3)を得たことが記載されている。
【0005】
また、非特許文献2には、セルロースと、イオン液体である1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライドと、無水コハク酸とを、特定割合(重量比)で高速ユニバーサルグラインダーを用いて混合し、得られた混合物を二軸スクリュー押出機で押し出し(反応時間:約2~3分)、押し出された材料を水中で沈殿させ、ろ過することにより、セルロース誘導体(コハク酸セルロース)を得たことが記載されている。しかしながら、セルロース:1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド:無水コハク酸を1:5:1(重量比)の割合で反応させた場合でも、全置換度は0.245に留まる。
【0006】
また、非特許文献3には、セルロースと、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライドと、尿素、無水フタル酸、無水マレイン酸、およびブチルグリシジルエーテルからなる群から選択される反応導入剤とを、1:3:1(重量比)でブレンダーを用いて混合し、得られた混合物を二軸スクリュー押出機で押し出し(保持時間:10分)、押し出された材料を、蒸留水とアルコールで連続して洗浄し、修飾されたセルロース(全置換度:0.24~0.61)を得たことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2016/068053号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【文献】S.Suzuki,et al.,RSC Adv.,2018,8,21768-21776.
【文献】Magdi E.G.,et al.,RSC Adv.,2013,3,1021-1024.
【文献】Y.Zhang, et al.,Carbohydrate Polymers.2014, 99,126-131.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
多糖類エステル化物を工業的に効率よく製造する方法は、未だ存在せず改善の余地がある。なかでも、高濃度条件において、多糖類エステル化物を工業的に効率よく製造する方法は知られていない。
【0010】
非特許文献1はシュレンク管内(バッチ式反応器)でエステル化を行ったものであるが、高置換度の多糖類エステル化物を得るためには、多量の有機溶媒、反応試薬(イオン液体やエステル化剤)を要し、且つ長時間反応させる必要がある。したがって工業的に効率よく多糖類エステル化物を生産できる条件とはいえない。
【0011】
また、二軸スクリュー押出機を用いて、高せん断力下で反応押出を行う非特許文献2、3の方法をもってしても、全置換度はせいぜい0.6程度である。
【0012】
したがって、本発明の目的は、多糖類エステル化物を、工業的に効率よく製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、多糖類含有バイオマスと、アニオンの共役酸のpKaが真空中における計算値として2~19である塩基性イオン液体と、エステル化剤を、せん断力付与機構を備える混練機を用いて反応させることにより、多糖類エステル化物を、工業的に効率よく製造できることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0014】
すなわち、本発明は以下の発明を提供する。
[1]多糖類含有バイオマスと、アニオンの共役酸のpKaが真空中における計算値として2~19である塩基性イオン液体と、エステル化剤を、せん断力付与機構を備える混練機を用いて反応させる多糖類エステル化物の製造方法。
[2]前記塩基性イオン液体を構成するカチオンは、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、およびテトラアルキルアンモニウムカチオンからなる群より選択される1種である、前記[1]記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[3]前記塩基性イオン液体を構成するアニオンが、カルボン酸アニオン、アミノ酸アニオン、シアン化物イオン、およびフッ化物イオンからなる群より選択される1種である、前記[1]または[2]に記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[4]前記[1]~[3]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法であって、
前記多糖類含有バイオマスと前記塩基性イオン液体を練り混ぜ、第1の混練物を生成する第1混練工程と、
前記エステル化剤と第1の混練物を練り混ぜ、反応させて多糖類エステル化物を含む第2の混練物を生成する第2混練工程とを有し、
前記第1混練工程および第2混練工程の少なくとも1つの工程で、前記せん断力付与機構を備える混練機を用いる多糖類エステル化物の製造方法。
[5]前記[4]に記載の多糖類エステル化物の製造方法であって、
さらに第2の混練物を搬送しながら押し出す押出工程を有し、
前記第1混練工程、前記第2混練工程および前記押出工程の少なくとも2つの工程で、せん断力付与機構を備える混練機を用いる多糖類エステル化物の製造方法。
[6]前記[5]に記載の多糖類エステル化物の製造方法であって、
前記第1混練工程、前記第2混練工程および前記押出工程の少なくとも1つの工程を連続的に行う多糖類エステル化物の製造方法。
[7]前記[5]または[6]に記載の多糖類エステル化物の製造方法であって、
前記第1混練工程、前記第2混練工程または前記押出工程のいずれかの工程において、スクリューを備える混練機を用いる多糖類エステル化物の製造方法。
[8]前記[7]に記載の多糖類エステル化物の製造方法であって、
スクリューを備える混練機を用いて前記第1混練工程を行うに際し、
前記混練機のスクリュー直上に、前記多糖類含有バイオマスと前記塩基性イオン液体を同時に導入する多糖類エステル化物の製造方法。
[9]前記第1混練工程、前記第2混練工程または前記押出工程の1以上の工程において、有機溶媒を用いる、前記[5]~[8]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[10]前記エステル化剤は、鎖状エステル化合物、環状エステル化合物、不飽和アルデヒド、飽和アルデヒド、酸ハロゲン化物、酸無水物、およびアリルアルコールからなる群より選択された1以上である、前記[1]~[9]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[11]前記多糖類含有バイオマス1に対する前記塩基性イオン液体の重量比割合が、0.5~10である、前記[1]~[10]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[12]前記多糖類含有バイオマス1に対する前記塩基性イオン液体の重量比割合が、0.5~10であり、且つ、前記多糖類含有バイオマス1に対する前記有機溶媒の重量比割合が0.5~10である、前記[9]に記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[13]前記多糖類エステル化物における、セルロースエステルの含有量が80重量%以上である、前記[1]~[12]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[14]前記多糖類含有バイオマス中の多糖類の水酸基1当量に対する、前記エステル化剤の当量が0.5~7当量である、前記[1]~[13]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[15]前記多糖類含有バイオマス中の多糖類の水酸基のエステル化率が23%以上である前記[1]~[14]に記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[16]前記[1]~[15]に記載の多糖類エステル化物の製造方法により得られる多糖類エステル化物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の多糖類エステル化物の製造方法によれば、多糖類含有バイオマスを原料として、多糖類エステル化物を工業的に効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例で用いた二軸混練押出機の構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を詳細に説明する。本発明の多糖類エステル化物の製造方法は、多糖類含有バイオマスと、特定の塩基性イオン液体と、エステル化剤を、せん断力付与機構を備える混練機を用いて反応させることを特徴とする。
【0018】
[多糖類含有バイオマス]
本発明に適用可能な多糖類含有バイオマスとは、多糖類を含有するものであれば、特に制限されない。例えば、バガス(サトウキビ残渣):ケナフ;スギ、ユーカリ、アカマツ、ポプラ、ラワン、ヒノキ、マカンバ、シトカスプルースなどの木材;カニやエビなどの甲殻類の殻;米、小麦、トウモロコシ、ソルガムなどの穀類;ジャガイモ、サツマイモ、キャッサバなどの芋類;その他のセルロース系植物由来原料(パルプ廃液、稲藁、もみ殻、果実繊維、ギンナンなどの果実核殻、空果房(エンプティ・フルーツ・バンチ))などを挙げることができる。また、これらのバイオマスを精製したパルプなども使用できる。なお、本発明の多糖類エステル化物の製造方法に先だって、上記多糖類含有バイオマスは、裁断、乾燥など、必要に応じて種々の前処理を施し、多糖(例えば、セルロース)を分離抽出する工程を経て、多糖の状態となっていてもよい。上記多糖類含有バイオマスは、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0019】
上記バイオマスに含有される多糖類は、特に制限はなく、一般的な多糖類のいずれであってもよい。複数の多糖類を組み合わせて用いてもよい。上記多糖類としては、例えば、セルロース、ヘミセルロース、キシラン、マンナン、グルコマンナン、グルクロノキシラン、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、ペクチン、キチン、キトサン、アガロース、カラギーナン、イソリケナン、ラミナラン、リケナン、グルカン、イヌリン、レバン、フルクタン、ガラクタン、アラビナン、ペントザン、アルギン酸、ペクチン酸、プロツベリン酸、コロミン酸、ポルフィラン、フコイダン、アスコフィラン、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、タラガム、アラビアガムなどを挙げることができる。上記多糖類は、構造の一部が置換されていてもよい。例えば、セルロースの水酸基の一部がエステル化されているセルロース誘導体を原料として用いてもよい。
【0020】
[塩基性イオン液体]
一般に、イオン液体とは、カチオンとアニオンから構成される塩のうち、比較的低温(例えば、150℃以下)で、液体で存在するものを指す。本発明で用いる塩基性イオン液体とは、アニオンの共役酸の酸解離定数(pKa)が真空中における計算値として2~19であるイオン液体を指す(以下、「特定の塩基性イオン液体」と称する場合がある)。上記特定の塩基性イオン液体は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0021】
上記特定の塩基性イオン液体を構成するカチオンとしては、例えば、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオンなどが挙げられる。
【0022】
上記特定の塩基性イオン液体を構成するカチオンの具体例としては、1,3-ジメチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム、1-デシル-3-メチルイミダゾリウム、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキサデシル-3-メチルイミダゾリウム、1-オクタデシル-3-メチルイミダゾリウム、1-アリル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-エチルピリジニウム、1-ブチルピリジニウム、1-ヘキシルピリジニウム、1-ブチル-4-メチルピリジニウム、1-ブチル-3-メチルピリジニウム、1-ヘキシル-4-メチルピリジニウム、1-ヘキシル-3-メチルピリジニウム、1-オクチル-4-メチルピリジニウム、1-オクチル-3-メチルピリジニウム、1-ブチル-3,4-ジメチルピリジニウム、1-ブチル-3,5-ジメチルピリジニウム、トリメチルプロピルアンモニウムなどを挙げることができる。
【0023】
上記特定の塩基性イオン液体を構成するアニオンとしては、例えば、ハロゲンアニオン、擬ハロゲンアニオン、カルボン酸アニオン、リン酸アニオン、フェノラート、ピリミジンオラートなどを挙げることができる。なかでも、ハロゲンアニオン、カルボン酸アニオン、リン酸アニオンが、多糖類含有バイオマスとの親和性に優れることから好適に採用できる。
【0024】
上記ハロゲンアニオンとしては、例えば、フッ化物イオンが挙げられるが、これに限定されない。
【0025】
上記擬ハロゲンアニオンとしては、シアンアニオン、チオシアネートアニオン、シアネートアニオン、フルミネートアニオン、アジドアニオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
上記カルボン酸アニオンとしては、炭素数1~18のモノカルボン酸アニオンまたはジカルボン酸アニオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。カルボン酸アニオンとしては、例えば、ギ酸アニオン、酢酸アニオン、プロピオン酸アニオン、酪酸アニオン、吉草酸アニオン、フマル酸アニオン、シュウ酸アニオン、乳酸アニオン、ピルビン酸アニオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。なお、本発明の多糖類エステル化物の製造方法においては、上記特定の塩基性イオン液体のアニオンとして、カルボン酸アニオンを用いても、アニオン由来のアシル化が抑制され、後述するエステル化剤によるアシル化のみを進行させることも可能である。このため目的とする多糖類エステル化物を工業的に一層効率よく製造することができる。
【0027】
上記リン酸アニオンとしては、リン酸アニオン、炭素数1~40のリン酸エステルアニオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。上記リン酸アニオンとしては、例えば、リン酸アニオン、メチルリン酸モノエステルアニオン、オクチルリン酸モノエステルアニオン、オクチルリン酸ジエステルアニオン、ラウリルリン酸モノエステルアニオン、ラウリルリン酸ジエステルアニオン、ステアリルリン酸モノエステルアニオン、ステアリルリン酸ジエステルアニオン、エイコシルリン酸モノエステルアニオン、エイコシルリン酸ジエステルアニオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
なかでも、本発明で用いる塩基性イオン液体は、カチオンが下記式(1)で表され、且つアニオンの共役酸のpKaが真空中における計算値として2~19であるイオン液体が好ましい。このような塩基性イオン液体は、上記多糖類含有バイオマスとの親和性や溶解性に優れる。このため、上記多糖類含有バイオマスの溶媒として、さらには触媒としての機能を有する場合もある。
【0029】
【化1】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、アルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基または置換もしくは非置換のフェニル基であり、R
3~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、アルケニル基、アルコキシアルキル基または置換もしくは非置換のフェニル基である)
【0030】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基などの1~20個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。これらのアルキル基の末端には、スルホ基が結合していてもよい。また、アルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、1-オクテニル基などの2~20個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状のアルケニル基が挙げられる。また、アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、1-メトキシエチル基、2-メトキシエチル基、1-エトキシエチル基、2-エトキシエチル基などの2~20個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状のアルコキシアルキル基が挙げられる。さらに、置換もしくは非置換のフェニル基としては、水酸基、ハロゲン原子、炭素数1~6(または1~4)のアルコキシ基、炭素数1~6(または1~4)のアルケニル基、メチルスルホニルオキシ基、置換もしくは非置換の炭素数1~6(または1~4)のアルキル基、置換もしくは非置換のアミノ基、置換もしくは非置換のフェニル基、置換もしくは非置換のフェノキシ基および置換もしくは非置換のピリジル基から選択される1~2個の基で置換されてもよいフェニル基が挙げられる。
【0031】
上記多糖類含有バイオマスに対する溶解性、およびエステル化反応の触媒としての機能を一層効果的に発揮する観点から、上記式(1)中、式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、アルキル基、アルケニル基または置換もしくは非置換のフェニル基であり、R3は水素原子であり、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子、アルケニル基または置換もしくは非置換のフェニル基であることが好ましい。
【0032】
上記特定の塩基性イオン液体は、アニオンの共役酸のpKaは、真空中における計算値として2~19であり、好ましくは、3~17、より好ましくは4~12である。上記アニオンの共役酸のpKaが真空中における計算値として、上記範囲内にあると、エステル化反応における触媒としての機能を一層発揮する。このようなアニオンとしは、例えば、ギ酸アニオン、酢酸アニオンなどのカルボン酸アニオン、各種アミノ酸アニオン(グルタミン酸アニオンなど)、シアン化物イオン、フッ化物イオンなどを挙げることができる。
【0033】
なお上記pKaは、Advanced Chemistry Development (ACD/Labs) Software V11.02 (c1994-2016 ACD/Labs)によって、計算することができる。例えば、データベースのSciFinder(登録商標)から、上記pKaを入手することができる。
【0034】
また、上記アニオンの共役酸のpKaは、ジメチルスルホキシド(DMSO)中におけるpKaを目安とすることもできる。この場合の上記アニオンの共役酸のpKaは、例えば、9~29であり、好ましくは10~25であり、より好ましくは12~19であり、さらに好ましくは12.3~18.6である。上記pKaは、25℃での値をいう。
【0035】
したがって、本発明では、別の側面において、多糖類含有バイオマスと、25℃におけるアニオンの共役酸のジメチルスルホキシド中におけるpKaが9~29である塩基性イオン液体と、エステル化剤を、せん断力付与機構を備える混練機を用いて反応させる多糖類エステル化物の製造方法を提供する。
【0036】
本発明に好適に用いられるイオン液体の具体例としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムアセテートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、操作性の観点から、上記特定の塩基性イオン液体は室温で液体であることが、より好ましいが、特に限定されるものではない。
【0037】
本発明によれば、一般に高価な塩基性イオン液体の使用量を低減することが可能となる。上記多糖類含有バイオマス1に対する上記特定の塩基性イオン液体の重量比割合は、例えば、0.5~10であり、好ましくは、0.7~7、より好ましくは0.8~3、さらに好ましくは1~2.5、特に好ましくは、1~1.5である。
【0038】
上記特定の塩基性イオン液体は、セルロースの溶解度でも特定することが可能である。上記特定の塩基性イオン液体1gに対するセルロース(数平均重合度:105)の溶解度は、例えば0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上、さらに好ましくは0.2g以上、特に好ましくは0.3g以上である。上記値は、120℃における溶解度である。上記の数平均重合度105のセルロースとしては、市販品を利用することができ、例えば、Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」を挙げることができる。なお、本発明における数平均重合度は、ポリスチレン校正用標準物質換算(フェニルイソシアネートと反応させたカルバニル化セルロース試料)のテトラヒドロフラン(THF)中におけるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって求められる数平均重合度をいう。上記測定法による商品名「Avicel PH-101」の見掛け上の数平均重合度は105である。
【0039】
[有機溶媒]
本発明では、上記特定の塩基性イオン液体とともに有機溶媒を使用してもよい。上記有機溶媒は、上記特定の塩基性イオン液体との相溶性、上記多糖類含有バイオマスや多糖類エステル化物との親和性、上記多糖類含有バイオマスと上記特定の塩基性イオン液体の混合物の粘度などを考慮して適宜選択することができる。また上記有機溶媒は、上記特定の塩基性イオン液体と反応しないもの、該イオン液体と混合した状態で原料となる上記多糖類含有バイオマス、および製造する多糖類エステル化物に対する溶解性が高いものが好ましい。上記有機溶媒を用いると、上記特定の塩基性イオン液体の使用量を低減させることができ、多糖類エステル化物の製造コストを抑えることも可能となる。上記有機溶媒は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0040】
上記有機溶媒は、種々の有機溶媒のなかから適宜選択することができる。具体的には、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリドン、ピリジンなどを挙げることができる。クロロホルムは、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートなど、一部のイオン液体と反応するため適用できない場合あるが、本発明の範囲から除外されるものではない。
【0041】
好ましい態様において、酪酸セルロースを製造する場合は、テトラヒドロフラン、酢酸セルロースを製造する場合は、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソランなどが、好ましく用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0042】
上記多糖類含有バイオマス1に対する上記有機溶媒の重量比割合は、例えば0~10であり、好ましくは0.5~10であり、より好ましくは0.7~7、さらに好ましくは0.8~3、特に好ましくは1~2.5、最も好ましくは1~1.5である。
【0043】
[エステル化剤]
本発明における、エステル化剤としては、特に限定されず、製造する多糖類エステル化物の種類に対応する化合物を適宜選択して用いることができる。なかでも、反応性の観点から、上記エステル化剤としては、鎖状エステル化合物、環状エステル化合物、不飽和アルデヒド、飽和アルデヒド、酸ハロゲン化物、酸無水物、およびアリルアルコールからなる群より選択された1以上であることが好ましい。上記エステル化剤は、それぞれ一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0044】
なお本発明では、不飽和アルデヒドや飽和アルデヒドなどの、上記特定の塩基性イオン液体でなければ反応しない化合物を上記エステル化剤として利用することができる。アルデヒドを用いた場合には、上記特定の塩基性イオン液体とアルデヒド成分から発生するBreslow中間体が酸化されることで生じる活性エステル中間体がセルロースと反応する。不飽和アルデヒドでは不飽和結合が内部酸化剤として働き、飽和アルデヒドでは空気中酸素が酸化剤として機能する。Breslow中間体の発生に塩基性が強く関わるため非塩基性イオン液体では同反応に関する触媒活性を示さない。
【0045】
上記鎖状エステル化合物としては、酢酸メチルなどのカルボン酸アルキルエステル、酢酸イソプロペニルや酢酸ビニルなどのカルボン酸アルケニルエステルなどの化合物を挙げることができる。鎖状エステル化合物として従来、カルボン酸アルキルエステルは、カルボン酸無水物などと異なり、非常に安定な化学物質として知られていた。したがって、エステル化反応を引き起こすには、腐食性の高い酸触媒(例えば、無機酸、有機酸、ルイス酸などが挙げられ、具体的には、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、3フッ化ホウ素など)を別途用いることが必須であった。本発明によれば高いせん断力が付加された条件下で、上記特定の塩基性イオン液体を用いることによりエステル化反応が進行するため、酸触媒を別途加えることなく、エステル化反応を進行させることが可能である。
【0046】
上記環状エステル化合物としては、開環重合し得るものであればよく、例えばβ-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、α,α-ジメチル-β-プロピオラクトン、β-エチル-δ-バレロラクトン、α-メチル-ε-カプロラクトン、β-メチル-ε-カプロラクトン、γ-メチル-ε-カプロラクトン、3,3,5-トリメチル-ε-カプロラクトンなどラクトン類およびグリコリド、ラクチドといったラクチド類であるが、これらに限定されない。
【0047】
上記鎖状もしくは環状エステル化合物を反応させる場合、必要に応じて、2種以上の鎖状もしくは環状エステル化合物を用い、多糖類の一分子中に異なる置換基を導入することができる。例えば、セルロースに対し、ビニルブチレートなどの酪酸エステルおよびイソプロペニルアセテート(IPA)などの酢酸エステルを同時に反応させることにより、セルロース分子のそれぞれの水酸基がアセチル基もしくはブチリル基により置換された酢酸酪酸セルロースを製造することができる。一般に、アセチル基に比べてより長い炭素鎖を有するブチリル基などの置換基を導入することにより生成物のガラス転移点は低下するため、2種以上のエステル化合物の配合比を変化させることで生成物の成形性などの特性を制御することができる。
【0048】
上記不飽和アルデヒドとしては、例えば、2-ブテナール、2-ヘキセナール、2-デセナール、2-ウンデセナール、2-ジエナール、2,4-ヘプタジエナール、2,4-デカジエナール、シンナムアルデヒド、ベンズアルデヒドなどの芳香族アルデヒドなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
上記飽和アルデヒドとしては、例えば、プロパナール、ヘキサナール、オクタナール、ノナナールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
上記酸ハロゲン化物としては、例えば、カルボン酸フッ化物、カルボン酸塩化物、カルボン酸臭化物、カルボン酸ヨウ化物が挙げられる。カルボン酸ハロゲン化物の具体例としては、フッ化アセチル、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、フッ化プロピオニル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、フッ化ブチリル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、フッ化ベンゾイル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイルなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、カルボン酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。
【0051】
上記酸無水物としは、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水吉草酸、無水カプロン酸、無水エナント酸、無水カプリル酸、無水ペラルゴン酸、無水カプリン酸、無水ラウリン酸、無水ミリスチン酸、無水パルミチン酸、無水ステアリン酸、無水オレイン酸、無水リノール酸、無水リノレン酸、無水安息香酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸は反応性が高いため好適に採用できる。
【0052】
上記アリルアルコールとしては、例えば、メタリルアルコール、アクリルアルコール、2-ヒドロキシメチル-1-ブテン、α-ヒドロキシメチルスチレンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
上記エステル化剤の量は、上記多糖類含有バイオマス中の多糖類の種類、上記エステル化剤の種類、反応温度、反応時間(滞留時間、保持時間)、混練条件などの種々の条件に応じて適宜選択することができるが、上記多糖類含有バイオマス中の多糖類の水酸基1当量に対し、例えば、0.5~20当量であり、好ましくは0.7~15当量であり、より好ましくは0.7~10当量であり、さらに好ましくは0.7~7当量、特に好ましくは0.7~5当量である。なお、上記多糖類の水酸基の一部のみを上記エステル化剤と反応させて、得られた多糖類エステル化物の一部に水酸基が残されたままであってもよい。
【0054】
また、上記エステル化剤の量は、目的とする多糖類エステル化物の反応の程度、すなわち、上記多糖類が有する水酸基1.0当量に対し、どれだけの当量をエステル化するか(以下、「目的置換当量」と称する場合がある)に応じて調整することができる。上記目的置換当量の多糖類エステル化物を得るためには、最低、上記目的置換当量と同じ当量のエステル化剤を必要とする。従来技術では、反応の効率が悪いために上記目的置換当量に対し大過剰のエステル化剤を使用することが一般的であった。本発明によると、反応の効率がよいため、エステル化剤の使用量を低減するという観点からは、上記目的置換当量の5.0倍当量以下、好ましくは、2.0倍当量以下、さらに好ましくは、1.2倍当量以下、下限値としては1.0倍当量でも目的とする置換当量の多糖類エステル化物を得ることが可能である。また、反応時間を短縮するなどの観点からは、上記目的置換当量を達成するのに最低限必要なエステル化剤の当量(1.0倍当量)より多めに使用すること、例えば上記目的置換当量の1.2倍当量~2.0倍当量使用することも好ましい。
【0055】
[その他の成分]
本発明においては、エステル化反応を促進するために、酸触媒を使用してもよい。上記酸触媒としては、例えば、無機酸、有機酸、ルイス酸などが挙げられ、具体的には、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、3フッ化ホウ素などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、本発明においては、高いせん断力が付加された条件下で、上記特定の塩基性イオン液体を用いることにより、効率的にエステル化反応が進行するため、通常、酸触媒を使用する必要はない。むしろ酸触媒を使用しない(すなわち、意図的に配合しない)ことが、作業工程の安全性の面や、製造コストを抑える観点から好ましい。
【0056】
次に、本発明の多糖類エステル化物の製造方法について説明する。
【0057】
本発明の多糖類エステル化物の製造方法は、多糖類含有バイオマスと、特定の塩基性イオン液体と、エステル化剤を、せん断力付与機構を備える混練機を用いて反応させることを特徴とする。
【0058】
本発明の多糖類エステル化物の製造方法において、上記多糖類含有バイオマスと、上記特定の塩基性イオン液体と、上記エステル化剤の3つの成分は、全ての成分を同時にせん断力付与機構を備える混練機に投入し、反応させてもよい。上記3成分を同時に混練する場合の、上記3成分中における上記多糖類含有バイオマスの濃度は、特に限定されないが、例えば、5~35重量%であり、好ましくは、7~35重量%であり、より好ましくは10~35重量%である。
【0059】
また、いずれか2つの成分(例えば、上記多糖類含有バイオマスと、上記特定の塩基性イオン液体)をあらかじめ混合した後に、残りの1成分(上記エステル化剤)加えて混合し、その後せん断力付与機構を備える混練機を用いて反応させてもよい。
【0060】
均一系の反応であり、工業的に効率よくエステル化反応を進行させることができる観点から、上記多糖類含有バイオマスと上記特定の塩基性イオン液体を練り混ぜて、第1の混練物を生成する第1混練工程と、エステル化剤と第1の混練物を練り混ぜ、反応させて多糖類エステル化物を含む第2の混練物を生成する第2混練工程とを有し、前記第1混練工程および第2混練工程の少なくとも1つの工程で、せん断力付与機構を備える混練機を用いることが好ましい。
【0061】
[せん断力付与機構を備える混練機]
せん断力付与機構を備える混練機を用いることにより、例えば、多糖類エステル化物の出来上がりの濃度が30重量%を超える高濃度であっても、短時間に均一に混合・練和することができ、均一系でエステル化反応を効率的に進行させることができる。また、十分なせん断力が反応物に付与されるため、工程中で用いる反応試薬類(例えば、特定の塩基性イオン液体、エステル化剤、有機溶媒など)を低減することも可能となる。また、上記反応試薬類の低減に伴い、得られる多糖類エステル化物のボリュームも低減するため、沈降精製する過程で用いる試薬類(例えば、メタノールなど)を低減することも可能となる。このように、系全体で効率が向上するため、製造工程のコストダウンにも寄与する。
【0062】
上記せん断力付与機構を備える混練機としては、例えば、振動式混練機(円柱状のロッド数本を入れたドラム本体に強力な円運動を与え、ロッド間、ロッドとドラム間で原料に圧縮、衝撃やせん断などを与え混合・混練を行う装置)、ホイール回転式(「マラーミキサー」と称される場合がある)、縦型撹拌羽根式、単軸スクリュー回転式(「単軸押出機」と称される場合がある)、多軸スクリュー回転式などを挙げることができる。なかでも、より強いせん断力を被混練物に付与することができる観点から、縦型撹拌羽根式、単軸スクリュー回転式、および多軸スクリュー回転式などの、スクリューを備える混練機が好ましい。
【0063】
上記スクリューを備える混練機のなかでも、一般的で汎用性があることから、多軸スクリュー回転式がより好ましく、特に二軸スクリュー回転式の混練機(「二軸スクリュー混練機」、「二軸混練押出機」、とも称される場合がある)が好ましい。また、上記単軸スクリュー回転式や多軸スクリュー回転式などの連続混練機を用いると、後述の第1混練工程、第2混練工程および押出工程を、連続的且つ効率的に実施することができる。
【0064】
上記多軸スクリュー回転式の混練機の形式としては、スクリュー軸形状やスクリュー回転方向など種々のタイプものを、作業性などの観点から適宜選択することができる。例えば、スクリュー軸が平行なものとコニカルタイプのスクリューが軸を斜交したもののいずれでもよい。スクリューは、かみ合い型と非かみ合い型のいずれでもよい。スクリュー回転方向は、同方向回転型、異方向回転型のいずれでもよい。
【0065】
スクリュー回転数は、適宜調整することができるが、例えば、30~150rpmの範囲である。上記スクリュー回転数を調整することにより、被混練物の混練機内の混練時間(滞留時間、反応時間)を調節することができる。
【0066】
混練時間は、後述の各工程で説明するように、適宜調整することができる。スクリューを備える混練機で混練することで、十分な滞留時間を確保しつつ反応物を搬送し、押し出すことが可能となる。
【0067】
なお、上記せん断力付与機構を備える混練機は、温度制御機構を備えていることが好ましい。このような温度制御機構(加温や冷却もしくは保温)としては、公知のものを採用でき、例えば、電気、温水などのヒーターを挙げることができるが、これに限定されない。上記せん断力付与機構を備える混練機は、温度制御機構を備えている場合、製造工程内において、被混練物の温度を制御することにより、作業効率を一層向上させることができるとともに、多糖類エステル化物の置換度を調節することも可能となる。加熱する場合の温度は、例えば、40~200℃の範囲から適宜設定できる。加熱された被混練物は必要に応じて冷却してもよく、この場合の温度は、例えば100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下である。
【0068】
[第1混練工程]
第1混練工程は、上記多糖類含有バイオマスと上記特定の塩基性イオン液体を練り混ぜ、溶解させて第1の混練物を生成する工程である。当該工程では、上記特定の塩基性イオン液体は、上記多糖類含有バイオマスを溶解させる溶媒としての役割を発揮する。上記特定の塩基性イオン液体中における、上記多糖類含有バイオマスの濃度は、例えば、5~70重量%、好ましくは、10~65重量%、より好ましくは20~65重量%、さらに好ましくは30~63重量%、特に好ましくは40~60重量%である。本工程では必要に応じて、上記有機溶媒を使用してもよい。上記有機溶媒中における、上記多糖類含有バイオマスの濃度は、例えば、5~70重量%、好ましくは、10~65重量%、より好ましくは20~65重量%、さらに好ましくは30~63重量%、特に好ましくは40~60重量%である。
【0069】
上記多糖類含有バイオマス1に対する上記特定の塩基性イオン液体の重量比割合は、例えば、0.5~10である。また上記多糖類含有バイオマス1に対する上記有機溶媒の重量比割合は、例えば0~10である。
【0070】
第1混練工程における混練条件(温度・時間)は、上記特定の塩基性イオン液体が上記多糖類含有バイオマスの溶媒として機能する条件であればよい。混練温度は、例えば、40~180℃(好ましくは、60~150℃、より好ましくは80~120℃)であり、混練時間は、例えば、0.1分以上、より好ましくは0.2分以上、さらに好ましくは0.3分以上であり数日間(例えば、3日間)以下、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下、さらに好ましくは30分以下、特に好ましくは15分以下(例えば、10分以下、好ましくは5分以下)である。
【0071】
好ましい態様において、スクリューを備える混練機を用いて上記第1混練工程を行うに際し、上記混練機のスクリュー直上に、上記多糖類含有バイオマス(例えば、多糖類を含有する固体状のバイオマス)と上記特定の塩基性イオン液体を同時に導入してもよい。上記導入原料は、スクリューにより混練機内の混練ゾーンに送り込まれ、溶解と混練を同時に、効率的に進行させることができる。上記導入は、通常、混練機に備えられた原料供給部を介して行われる。上記原料供給部に設置するホッパーとしては、例えば、振動ホッパー、強制フィーダー付ホッパー、ホッパードライヤー、真空ホッパー、窒素置換ホッパーなどを挙げることができる。また上記ホッパー下には、上記導入原料を、上記スクリューを備える混練機に定量的に供給する装置が取り付けられていてもよい。
【0072】
[第2混練工程]
第2混練工程は、エステル化剤と第1の混練物を練り混ぜ、反応させて多糖類エステル化物を含む第2の混練物を生成する工程である。第2混練工程では、第1の混練物に含まれる上記特定の塩基性イオン液体が触媒として作用する場合もある。本工程では、必要に応じて上記有機溶媒を使用してもよい。
【0073】
上記エステル化剤の量は、上記多糖類含有バイオマス中の多糖類の種類、上記エステル化剤の種類、反応温度、反応時間(滞留時間、保持時間)、混練条件などの種々の条件に応じて適宜選択することができるが、上記多糖類の水酸基1当量に対し、例えば、0.5~20当量である。
【0074】
上記多糖類含有バイオマスと上記エステル化剤との重量比は、上記エステル化剤の種類や含有多糖類の種類により適宜選択することができるが、上記多糖類含有バイオマス1に対する上記エステル化剤の重量比割合は、例えば0.5~10の範囲内であってもよい。
【0075】
本工程では必要に応じて、さらに上記有機溶媒を使用してもよい。混練条件(温度・時間)は、エステル化反応が効率的に進行する条件であればよい。混練温度は、例えば、40~180℃(好ましくは、60~150℃、より好ましくは80~120℃)であり、混練時間は、例えば、0.1分以上、より好ましくは0.2分以上、さらに好ましくは0.3分以上であり数日間(例えば、3日間)以下、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下、さらに好ましくは30分以下、特に好ましくは15分以下(例えば、10分以下、好ましくは5分以下)である。
【0076】
好ましい態様において、第2混練工程における被混練物の、工程内の滞留時間(反応時間)は、例えば2時間以内であり、より好ましくは1時間以内であり、さらに好ましくは30分以内であり、特に好ましくは10分以内である。上記滞留時間が2時間以内であることにより、従来法よりもエステル化の反応時間を大幅に低減することができる。本工程では、滞留時間と混練温度により、多糖類エステル化物の置換度を所望の範囲に制御することが可能である。なかでも、上記滞留時間が10分程度の極めて短時間である場合、多糖類の分子量低下を防止する効果により優れる。加えて、塩基性イオン液体に特有の副反応の発生を一層抑制することが可能となる。
【0077】
[押出工程]
押出工程は、上記第2の混練物を押し出す工程である。上記押出工程は、上記第2の混練物を搬送する工程を伴う場合もある。押出温度条件は、例えば、40~180℃(好ましくは、60~150℃、より好ましくは80~120℃)である。押出し時間は、用いる装置により適宜調整しうる。なお、第1混練工程と第2混練工程を、異なる混練機を用いて実施する場合は、上記押出工程としては、上記第1の混練物を押し出してもよい。この場合も、上記第1の混練物を搬送する工程を伴う場合があってもよく、押出温度条件はすでに述べたとおりである。好ましい態様において、例えば、単軸押出機や、二軸混練押出機などの連続混練設備を使用する場合は、滞留時間が上記の範囲になるようにして、連続的に上記第2の混練物の押出しを行いうる。本工程では、必要に応じて上記有機溶媒を使用してもよい。
【0078】
反応時間の短縮および作業効率の改善の観点から、上記第1混練工程、上記第2混練工程および上記押出工程の少なくとも1つの工程を連続的に行うことが好ましい。
【0079】
反応時間の短縮および作業効率の改善の観点から、上記第1混練工程、上記第2混練工程および上記押出工程の少なくとも2つの工程で、上記せん断力付与機構を備える混練機を用いることが好ましい。
【0080】
なお、本明細書において、「連続的」とは次の意味を有する。
【0081】
上記第1混練工程を連続的に行うとは、一定量が連続して供給される上記多糖類含有バイオマスと上記特定の塩基性イオン液体を、練り混ぜて、第1の混練物を生成することを指す。
【0082】
上記第2混練工程を連続的に行うとは、一定量が連続して供給される上記第1の混練物と上記エステル化剤を、練り混ぜ、反応させて多糖類エステル化物を含む第2の混練物を生成することを指す。
【0083】
上記押出工程を連続して行うとは、一定量が連続して供給しつづけられる第2混練物を連続して押し出すことを指す。
【0084】
[その他の工程]
本発明の多糖類エステル化物の製造方法には、上記工程以外の他の工程(例えば、上記第1または第2の混練物を搬送する搬送工程、成形工程など)や、さらに別の混練機と接続して、追加の混練工程(例えば、第3混練工程や第4混練工程など)を備えることもできる。
【0085】
好ましい態様において、上記せん断力付与機構を備える混練機として、単軸スクリュー回転式や多軸スクリュー回転式などの連続混練機(好ましくは、二軸混練押出機)を採用することで、上記第1混練工程、上記第2混練工程および上記押出工程を連続的に実施することが可能となる。
【0086】
例えば、二軸混練押出機を採用することで、上記多糖類含有バイオマスを上記特定の塩基性イオン液体に良好に溶解させるたけではなく、第1混練物にせん断作用を付与することができる。これにより、上記エステル化剤と反応させる時点において、第1の混練物は、第1混練工程の混練により均一に溶解され混練に適した粘度に維持されている。このため、上記エステル化剤と第1の混練物の反応が一層効率的に進行し、多糖類エステル化物を含む第2の混練物を得ることができる。また、全ての原料(上記多糖類含有バイオマス、上記特定の塩基性イオン液体、上記エステル化剤、必要に応じ有機溶媒など)が、所定量連続供給されることから、一定量の多糖類エステル化物を連続して生産できる。
【0087】
上記の工程で、得られた反応物は、メタノールなどの溶媒を用いて再沈殿、ろ過などを行い、所望の多糖類エステル化物を得ることができる。例えば、上記多糖類含有バイオマスとしてバガスを原料として用いる場合、再沈殿によりセルロースエステル化物が得られるとともに、濾液からさらにリグニン誘導体を得ることができる。反応に用いた上記特定の塩基性イオン液体は、回収して再利用することができる。
【0088】
製造した多糖類エステル化物は、改質などを目的として、別の多糖類誘導体へと変換することもできる。変換方法としては、特に制限されず、例えば、NaOHなどの塩基もしくは硫酸などの酸触媒を用いる従来の方法を採用してもよく、また引き続き上記特定の塩基性イオン液体の存在下で、各種エステル化剤などの反応試薬とさらに反応させてもよく、また上記特定の塩基性イオン液体の非存在下で、酸ハロゲン化物などのエステル化剤を反応させてもよい。
【0089】
次に本発明の多糖類エステル化物の製造方法により得られる多糖類エステル化物について説明する。
【0090】
本発明の多糖類エステル化物の製造方法により得られる多糖類エステル化物の出来上がりの濃度は、特に限定されないが、例えば、20重量%以上、好ましくは、30重量%以上である。ここで、多糖類エステル化物の出来上がりの濃度とは、エステル化反応終了後の反応混合物全量に対する多糖類エステル化物の重量割合(%)を指す。なお本明細書において、高濃度とは、多糖類エステル化物の出来上がりの濃度が、例えば、20重量%以上の濃度を指す。
【0091】
本発明により得られる多糖類エステル化物におけるセルロースエステルの含有量は、例えば80重量%以上であり、好ましくは85重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%である。
【0092】
本発明により得られる多糖類エステル化物において、多糖類含有バイオマス中の多糖類の水酸基のエステル化率は、例えば、23%以上であり、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上である。
【0093】
本発明により得られる多糖類エステル化物がセルロースエステルの場合の全置換度は、使用目的に応じて適宜設定することができるが、例えば0.7以上であり、用途に応じて、3.0までの範囲に任意に調整可能(例えば、0.9以上、1.0以上、1.1以上、1.3以上、2.0以上、2.2以上、2.4以上、2.6以上)である。なお全置換度とは、セルロースの基本単位であるグルコースに存在する3つの水酸基に結合している各置換基の置換度の総和のことである。全置換度が1.0以上の場合、有機溶剤や加熱による成形加工が行い易い。また、本発明によれば、汎用のセルロースエステルと同程度の全置換度、例えば2.0以上のセルロースエステルも製造できる。
【0094】
本発明により得られる多糖類エステル化物の用途としては、特に制限されず、例えば、繊維、ロープ、網、織編物、フエルト、フリース、ウッドプラスチック、炭素繊維複合材料、グラスファイバー複合材料、セルロースナノファイバー複合材料、リグノセルロースナノファイバー複合材料、その他繊維複合材料などの繊維分野;偏光板保護フィルム、光学フィルムなどのフィルム分野;医療機器、電子部品材料、包装材料、眼鏡フレーム、パイプ、棒、工具類、食器類、玩具などのプラスチック分野;コンクリート粘度調整剤、粘土鉱物粘度調整剤などの土木関連分野などに、利用できる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0096】
実施例で用いたせん断力付与機構を備える混練機を
図1に模式的に示す。仕様の詳細は次のとおりである。
【0097】
製品名:ULTnano20TW-20MG-NH(-600)、二軸コンパウンディングテスター(以下、
図1の二軸混練押出機と称する)
製造元:TECHNOVEL CORPORATION
スクリューサイズ:φ=20mm,L/D=20D
スクリュー回転方向:同方向型
ヒーターゾーン(温度制御ゾーン):C(Cylinder)1、C2、C3、H/D 合計4箇所
スクリューエレメント:搬送(Conveying),混合(Mixing)、練和(Kneading)の合計3種類を使用
【0098】
実施例1
試料の準備として、セルロース(100g、Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)を500mLのコニカルビーカーに測りとり、一晩減圧乾燥させた。続いて、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(50g)とジメチルスルホキシド(150g)を大容量の空瓶に測りとり混合し、数分間撹拌させた。事前に、
図1の二軸混練押出機のC1、C2、C3、H/D部分の温度を120℃に設定し昇温した。スクリュー回転数は60rpmに設定した。用意したセルロース、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物、ビニルラウレートの3種類の試料は以下の方法で供給を行った。セルロースは
図1の二軸混練押出機に搭載されているフィーダー(図示せず)を使用し、0.529(g/min)でC1の手前にある投入口F1から供給した。1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物とビニルラウレートはそれぞれ別の定量送液ポンプを使用し(図示せず)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物を1.95mL/minでC1の手前にある投入口F1から供給し、ビニルラウレートを2.70mL/minでC2のF2部分から供給した。
図1の二軸混練押出機の出口から出始めた混合物の色が変化し始めたことを確認した後、2分間ごとに混合物を回収しサンプリングを3回行った。得られた回収物から500mgを測りとり、メタノール20mLを用いた洗浄操作を3回繰り返した後、回収物を一晩かけて減圧乾燥させることで固体を得た。IRおよび
1H NMR測定の解析結果から、回収物は目的のセルロースラウリル酸エステルであることが確認された。3点のサンプリング物の解析結果から、全置換度は2.6、生成物の生産速度は1.8g/minであることが確認された。
IR (ATR, cm
-1) 1738.;
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ; 5.5-3.0 (br), 2.5-0.8 (br).
【0099】
実施例2
試料の準備として、セルロース(100g、Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)を500mLのコニカルビーカーに測りとり、一晩減圧乾燥させた。続いて、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(50g)とジメチルスルホキシド(150g)を大容量の空瓶に測りとり混合し、数分間撹拌させた。事前に
図1の二軸混練押出機のC1、C2、C3、H/D部分の温度を100℃に設定し昇温した。スクリュー回転数は60rpmに設定した。用意したセルロース、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物、ビニルラウレートの3種類の試料は以下の方法で供給を行った。セルロースは二軸混練押出機に搭載されているフィーダー(図示せず)を使用し、0.529(g/min)でC1の手前にある投入口F1から供給した。1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物、ビニルラウレートはそれぞれ別の定量送液ポンプを使用し(図示せず)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物を1.95mL/minでC1の手前にある投入口F1から供給し、ビニルラウレートを2.70mL/minでC2のF2部分から供給した。
図1の二軸混練押出機の出口から出始めた混合物の色が変化し始めたことを確認した後、2分間ごとに混合物を回収しサンプリングを3回行った。得られた回収物から500mgを測りとり、メタノール20mLを用いた洗浄操作を3回繰り返した後、回収物を一晩かけて減圧乾燥させることで固体を得た。IRおよび
1H NMR測定の解析結果から、回収物は目的のセルロースラウリル酸エステルであることが確認された。3点のサンプリング物の解析結果から、全置換度は2.4、生成物の生産速度は1.7g/minであることが確認された。
IR (ATR, cm
-1) 1738.;
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ; 5.5-3.0 (br), 2.5-0.8 (br).
【0100】
実施例3
試料の準備として、セルロース(100g、Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)を500mのコニカルビーカーに測りとり、一晩減圧乾燥させた。続いて、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(50g)とジメチルスルホキシド(150g)を大容量の空瓶に測りとり混合し、数分間撹拌させた。事前に二軸混練押出機のC1、C2、C3、H/D部分の温度を80℃に設定し昇温した。スクリュー回転数は60rpmに設定した。用意したセルロース、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物、ビニルラウレートの3種類の試料は以下の方法で供給を行った。セルロースは
図1の二軸混練押出機に搭載されているフィーダー(図示せず)を使用し、0.529(g/min)でC1の手前にある投入口F1から供給した。1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物とビニルラウレートはそれぞれ別の定量送液ポンプ(図示せず)を使用し、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物を1.95mL/minでC1の手前にある投入口F1から供給し、ビニルラウレートを2.70mL/minでC2のF2部分から供給した。
図1の二軸混練押出機の出口から出始めた混合物の色が変化し始めたことを確認した後、2分間ごとに混合物を回収しサンプリングを3回行った。得られた回収物から500mgを測りとり、メタノール20mLを用いた洗浄操作を3回繰り返した後、回収物を一晩かけて減圧乾燥させることで固体を得た。IRおよび
1H NMR測定の解析結果から、回収物は目的のセルロースラウリル酸エステルであることが確認された。3点のサンプリング物の解析結果から、全置換度は2.2、生成物の生産速度は1.6g/minであることが確認された。
IR (ATR, cm
-1) 1738.;
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ; 5.5-3.0 (br), 2.5-0.8 (br).
【0101】
実施例4
試料の準備として、セルロース(100g、Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)を500mLのコニカルビーカーに測りとり、一晩減圧乾燥させた。続いて、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(50g)とジメチルスルホキシド(150g)を大容量の空瓶に測りとり混合し、数分間撹拌させた。事前に二軸混練押出機のC1、C2、C3、H/D部分の温度を80℃に設定し昇温した。スクリュー回転数は60rpmに設定した。用意したセルロース、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物、酢酸イソプロペニルの3種類の試料は以下の方法で供給を行った。セルロースは
図1の二軸混練押出機に搭載されているフィーダー(図示せず)を使用し、0.76(g/min)でC1の手前にある投入口F1から供給した。1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物、酢酸イソプロペニルはそれぞれ別の定量送液ポンプ(図示せず)を使用し、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物を2.79mL/minでC1の手前にある投入口F1から供給し、酢酸イソプロペニルを1.57mL/minでC2のF2部分から供給した。
図1の二軸混練押出機の出口から出始めた混合物の色が変化し始めたことを確認した後、2分間ごとに混合物を回収しサンプリングを3回行った。得られた回収物から500mgを測りとり、メタノール20mLを用いた洗浄操作を3回繰り返した後、回収物を一晩かけて減圧乾燥させることで固体を得た。IRおよび
1H NMR測定の解析結果から、回収物は目的の酢酸セルロースエステルであることが確認された。3点のサンプリング物の解析結果から、全置換度は1.1、生成物の生産速度は0.9g/minであることが確認された。
IR (ATR, cm
-1) 1738.;
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ; 5.3-3.4 (br), 2.2-1.8 (br).
【0102】
実施例5
試料の準備として、セルロース(100g、Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)を500mLのコニカルビーカーに測りとり、一晩減圧乾燥させた。続いて、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート (50g)とジメチルスルホキシド(150g)を大容量の空瓶に測りとり混合し、数分間撹拌させた。事前に
図1の二軸混練押出機のC1、C2、C3、H/D部分の温度を120℃に設定し昇温した。スクリュー回転数は60rpmに設定した。用意したセルロース、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物、シンナムアルデヒドの3種類の試料は以下の方法で供給を行った。セルロースは
図1の二軸混練押出機に搭載されているフィーダー(図示せず)を使用し、0.67(g/min)でC1の手前にある投入口F1から供給した。1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物、シンナムアルデヒドはそれぞれ別の定量送液ポンプ(図示せず)を使用し、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物を2.44mL/minでC1の手前にある投入口F1から供給し、シンナムアルデヒドを1.56mL/minでC2のF2部分から供給した。
図1の二軸混練押出機の出口から出始めた混合物の色が変化し始めたことを確認した後、2分間ごとに混合物を回収しサンプリングを3回行った。得られた回収物から500mgを測りとり、メタノール20mLを用いた洗浄操作を3回繰り返した後、回収物を一晩かけて減圧乾燥させることで固体を得た。IRおよび
1H NMR測定の解析結果から、回収物は目的のセルロースフェニルプロピオン酸エステルであることが確認された。3点のサンプリング物の解析結果から、全置換度は1.3、生成物の生産速度は1.1 g/minであることが確認された。
IR (ATR, cm
-1) 1729.;
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ; 8.0-6.5 (br), 5.5-3.0 (br), 3.0-2.5 (br).
【0103】
実施例6
試料の準備として、バガス(サトウキビ残渣)を粉砕し、ふるいによって粒径を150μm以下に揃えた。粒径を分別したバガス(100g)を500mLのコニカルビーカーに測りとり、一晩減圧乾燥させた。続いて、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(50g)とジメチルスルホキシド(150g)を大容量の空瓶に測りとり混合し、数分間撹拌させた。事前に二軸混練押出機のC1、C2、C3、H/D部分の温度を120℃に設定し昇温した。スクリュー回転数は60rpmに設定した。用意したバガス、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物、ビニルラウレートの3種類の試料は以下の方法で供給を行った。バガスは
図1の二軸混練押出機に搭載されているフィーダー(図示せず)を使用し、0.64(g/min)でC1の手前にある投入口F1から供給した。1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物、ビニルラウレートはそれぞれ別の定量送液ポンプ(図示せず)を使用し、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートとジメチルスルホキシドの混合物を2.36mL/minでC1の手前にある投入口から供給し、ビニルラウレートを2.09mL/minでC2の部分から供給した。
図1の二軸混練押出機の出口から出始めた混合物の色が変化し始めたことを確認した後、2分間ごとに混合物を回収しサンプリングを3回行った。得られた回収物から1.0gを測りとり、メタノール20mLを用いた洗浄操作を3回繰り返した後、回収物を一晩かけて減圧乾燥させることで固体を得た。得られたメタノール不溶分100mgをクロロホルム5mLに溶解させろ過し、ろ液を減圧留去した後真空乾燥することによりクロロホルム可溶分を得た。メタノール不溶分のIR測定およびクロロホルム可溶分の
1H NMR測定の解析結果から、回収物は目的のバガスラウリル酸エステルであることが確認された。3点のサンプリング物の解析結果から、メタノール不溶分の生産速度は1.2g/minであることが確認された。
IR (ATR, cm
-1) 1738.;
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ; 5.5-3.0 (br), 2.5-0.8 (br).
【0104】
比較例1
20mLシュレンク管内で、セルロース(120mg、2.22mmol=[OH]、Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)を1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(4000mg、23.4mmol)に溶解させ、80℃で3時間減圧乾燥を行った。反応容器にアルゴンガスを充填したバルーンを取り付け、容器内部をアルゴンで置換し、脱水ジメチルスルホキシド(4.0mL、113mmol)を加え、セルロースが均一に溶液に溶解していることを確認し、ビニルラウレート(9.2mL、37.9mmol)を反応溶液中へ加え、120℃で18時間撹拌した。反応溶液を過剰量のメタノールに加えることで不溶分を析出させ、ろ過後さらにメタノールを用いて洗浄した後に回収した。減圧条件下60℃で一晩不溶分を乾燥させることで、固体を187mg得た。IRおよび1H NMR測定の解析結果から、回収物は目的のセルロースラウリル酸酢酸混合エステルであることが確認された。ラウレートの全置換度は2.03、アセテートの全置換度は0.71であった。
IR (ATR, cm-1) 1738.;1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ; 5.5-3.0 (br), 2.5-0.8 (br).
【0105】
比較例2
試料の準備として、セルロース(100g、Sigma-Aldrich社の商品名「Avicel PH-101」、数平均重合度105)を500mLのコニカルビーカーに測りとり、一晩減圧乾燥させた。続いて、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド(50g)とジメチルスルホキシド(150g)を大容量の空瓶に測りとり混合し、数分間攪拌させた。事前に
図1の二軸混練押出機のC1、C2、C3、H/D部分の温度を120℃に設定し昇温した。スクリュー回転数は60rpmに設定した。用意したセルロース、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライドとジメチルスルホキシドの混合物、ビニルラウレートの3種類の試料は以下の方法で供給を行った。セルロースは
図1の二軸混練押出機に搭載されているフィーダー(図示せず)を使用し、0.529(g/min)でC1の手前にある投入口から供給した。1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライドとジメチルスルホキシドの混合物とビニルラウレートはそれぞれ別の定量送液ポンプ(図示せず)を使用し、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライドとジメチルスルホキシドの混合物を1.95mL/minでC1の手前にある投入口から供給し、ビニルラウレートを2.70mL/minでC2の部分から供給した。
図1の二軸混練押出機の出口から出始めた混合物の色が変化し始めたことを確認した後、2分間ごとに混合物を回収しサンプリングを3回行った。得られた回収物から500mgを測りとり、メタノール20mLを用いた洗浄操作を3回繰り返した後、回収物を一晩かけて減圧乾燥させることで固体を得た。IR測定の解析結果から、エステル基に由来するピークは殆ど観測されず、回収物は出発原料のセルロースであることが確認された。
【0106】
[結果の考察]
以上の結果から、次の事柄が確認された。
(1)従来技術(段落0005、0006参照)と比較して、実施例は、全置換度が約10倍に向上した。また、実施例2と3の対比から、温度を調節することにより、任意の置換度の多糖類エステル化物を得ることができることがわかる。
(2)実施例では、比較例1と比べて、有機溶媒の量と、試薬(イオン液体、エステル化剤)の量を約20分の1に低減できた。
(3)実施例では、比較例1と比べて、反応時間を約200分の1に短縮できた。
(4)特定の塩基性イオン液体を用いなかった比較例2では、多糖類エステル化物が得られなかった。
(5)
図1の二軸混練押出機を用いることで、連続生産が可能となった。すなわち、定量供給する限り、一定量の目的物が生産された。これにより、容易に生産スケールの拡大が可能となることがわかる。
したがって、本発明の多糖類エステル化物の製造補法によれば、多糖類エステル化物を工業的に効率よく製造できることが明らかとなった。特に、せん断力付与機構を備える混練機として、
図1の二軸混練押出機を用いる場合、多糖類エステル化物の出来上がりの濃度が30重量%を超える高濃度条件でも、高せん断力により均一に混練され、反応させることができるため、特定の塩基性イオン液体の有する溶媒且つ触媒としての機能が一層効果的に発揮される。加えて、原料を定量供給する限り、一定量の多糖類エステル化物が連続的に生産できるという、連続生産性が確認された。
【0107】
以上のまとめとして、本発明の構成およびそのバリエーションを以下に付記しておく。
[1]多糖類含有バイオマスと、アニオンの共役酸のpKaが真空中における計算値として2~19(好ましくは3~17、より好ましくは4~12、さらに好ましくは4.5~11)である塩基性イオン液体と、エステル化剤を、せん断力付与機構を備える混練機を用いて反応させる多糖類エステル化物の製造方法。
[2]多糖類含有バイオマスと、25℃におけるアニオンの共役酸のジメチルスルホキシド中におけるpKaが9~29(好ましくは10~25、より好ましくは12~19、さらに好ましくは12.3~18.6)である塩基性イオン液体と、エステル化剤を、せん断力付与機構を備える混練機を用いて反応させる多糖類エステル化物の製造方法。
[3]前記塩基性イオン液体を構成するカチオンは、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、およびテトラアルキルアンモニウムカチオンからなる群より選択される1種である、上記[1]または[2]記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[4]前記塩基性イオン液体を構成するアニオンが、カルボン酸アニオン、アミノ酸アニオン、シアン化物イオン、およびフッ化物イオンからなる群より選択される1種である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[5]多糖類含有バイオマスと、塩基性イオン液体と、エステル化剤を、せん断力付与機構を備える混練機を用いて反応させる多糖類エステル化物の製造方法であり、
前記塩基性イオン液体として、カチオンが下記式(1)
【化2】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、アルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基または置換もしくは非置換のフェニル基であり、R
3~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、アルケニル基、アルコキシアルキル基または置換もしくは非置換のフェニル基であり、好ましくはR
1およびR
2は、それぞれ独立して、アルキル基、アルケニル基または置換もしくは非置換のフェニル基であり、R
3は水素原子であり、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、水素原子、アルケニル基または置換もしくは非置換のフェニル基である)で表され、且つアニオンの共役酸のpKaが真空中における計算値として2~19であるイオン液体である、多糖類エステル化物の製造方法。
[6]多糖類含有バイオマスと、塩基性イオン液体と、エステル化剤を、せん断力付与機構を備える混練機を用いて反応させる多糖類エステル化物の製造方法であり、
前記塩基性イオン液体は、120℃における前記塩基性イオン液体1gに対する数平均重合度105のセルロースの溶解度が、0.01g以上(好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上、さらに好ましくは0.2g以上、特に好ましくは0.3g以上)である多糖類エステル化物の製造方法。
【0108】
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法であって、
前記多糖類含有バイオマスと前記塩基性イオン液体を練り混ぜ、第1の混練物を生成する第1混練工程と、
前記エステル化剤と第1の混練物を練り混ぜ、反応させて多糖類エステル化物を含む第2の混練物を生成する第2混練工程とを有し、
前記第1混練工程および第2混練工程の少なくとも1つの工程で、前記せん断力付与機構を備える混練機を用いる多糖類エステル化物の製造方法。
[8]上記[7]に記載の多糖類エステル化物の製造方法であって、
さらに第2の混練物を搬送しながら押し出す押出工程を有し、
前記第1混練工程、前記第2混練工程および前記押出工程の少なくとも2つの工程で、せん断力付与機構を備える混練機を用いる多糖類エステル化物の製造方法。
[9]上記[8]に記載の多糖類エステル化物の製造方法であって、
前記第1混練工程、前記第2混練工程および前記押出工程の少なくとも1つの工程を連続的に行う多糖類エステル化物の製造方法。
[10]上記[8]または[9]に記載の多糖類エステル化物の製造方法であって、
前記第1混練工程、前記第2混練工程または前記押出工程のいずれかの工程において、スクリューを備える混練機を用いる多糖類エステル化物の製造方法。
[11]上記[10]に記載の多糖類エステル化物の製造方法であって、
スクリューを備える混練機を用いて前記第1混練工程を行うに際し、
前記混練機のスクリュー直上に、前記多糖類含有バイオマスと前記塩基性イオン液体を同時に導入する多糖類エステル化物の製造方法。
【0109】
[12]前記第1混練工程、前記第2混練工程または前記押出工程の1以上の工程において、有機溶媒を用いる、上記[8]~[11]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[13]前記エステル化剤は、鎖状エステル化合物、環状エステル化合物、不飽和アルデヒド、飽和アルデヒド、酸ハロゲン化物、酸無水物、およびアリルアルコールからなる群より選択された1以上である、上記[1]~[12]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[14]上記多糖類含有バイオマス1に対する上記塩基性イオン液体の重量比割合は、0.5~10(好ましくは、0.7~7、より好ましくは0.8~3、さらに好ましくは1~2.5、特に好ましくは、1~1.5)である、上記[1]~[13]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[15]上記多糖類含有バイオマス1に対する上記塩基性イオン液体の重量比割合は、0.5~10(好ましくは、0.7~7、より好ましくは0.8~3、さらに好ましくは1~2.5、特に好ましくは、1~1.5)であり、且つ、上記多糖類含有バイオマス1に対する上記有機溶媒の重量比割合は0.5~10(好ましくは、0.7~7、より好ましくは0.8~3、さらに好ましくは1~2.5、特に好ましくは、1~1.5)である、上記[12]に記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[16]前記多糖類エステル化物における、セルロースエステルの含有量が80重量%以上(好ましくは85重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%)である、上記[1]~[15]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[17]前記多糖類含有バイオマス中の多糖類の水酸基1当量に対する、前記エステル化剤の当量が0.5~7当量(好ましくは0.7~7当量)である、上記[1]~[16]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法。
[18]前記多糖類含有バイオマス中の多糖類の水酸基のエステル化率が23%以上(好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上)である上記[1]~[17]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法。
【0110】
[19]上記[1]~[18]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法により得られる多糖類エステル化物。
[20]上記[1]~[18]のいずれかに記載の多糖類エステル化物の製造方法により得られる多糖類エステル化物であって、前記多糖類エステル化物がセルロースエステルの場合の全置換度が0.7以上(好ましくは0.9以上、1.0以上、1.1以上、1.3以上、2.0以上、2.2以上、2.4以上、2.6以上)である多糖類エステル化物。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の多糖類エステル化物の製造方法によれば、多糖類エステル化物を工業的に効率よく製造できる。
【符号の説明】
【0112】
1 二軸混練押出機
11 回転軸
12 バレル
13a,13b,13c,13d,13e,13f スクリュー
14 シリンダー
15 ヘッド(H)/ダイス(D)
16 出口
21 搬送部、搬送エレメントを使用
22 第1の混練部
22a 混合部、混合エレメントを使用
22b 練和部、練和エレメントを使用
23 搬送部、搬送エレメントを使用
24 第2の混練部、練和エレメントを使用
25 押出部(搬送押出部)、搬送エレメントを使用
C1,C2,C3,15 加温ゾーン
F1,F2 原料供給口