(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系遮光性シーラントフィルムとその積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20230710BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B27/18 Z
(21)【出願番号】P 2018184322
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】594023526
【氏名又は名称】株式会社武田産業
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(74)【代理人】
【氏名又は名称】田中 政浩
(72)【発明者】
【氏名】加賀美 史朗
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-143033(JP,A)
【文献】国際公開第2017/098953(WO,A1)
【文献】特開2009-062095(JP,A)
【文献】特開2018-090723(JP,A)
【文献】特開2004-107417(JP,A)
【文献】特開2011-051348(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0135916(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
B29C 55/00 - 55/30
B29C 61/00 - 61/10
B29C 48/00 - 48/96
C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
B65D 67/00 - 79/02
B65D 81/18 - 81/30
B65D 81/38
B65D 85/88
B65D 65/00 - 65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層、外層および中間層よりなっていて、いずれの層も厚みが
7~200μmであって、エチレン単位が2~30モル%であり、ブロック共重合体が70~90質量%でランダム共重合体10~30質量%よりなるプロピレン-エチレン共重合体よりなり、メルトフローレートがシーラントフィルム全体として3~7g/10分で、内層および外層は合わせて4~50g/m
2の二酸化チタンを含有し、中間層は0.3~15g/m
2のカーボンブラックを含有していて、315~380nmの紫外光の透過率が0.5%以下、380~760nmの可視光の透過率も0.5%以下である、遮光性ポリプロピレンシーラントフィルム
。
【請求項2】
内層と外層の二酸化チタンの含有量が10~30質量%であり、中間層のカーボンブラックの含有量が10~25質量%である請求項1記載の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルム
。
【請求項3】
フィルムの弾性率がMD、TDいずれの方向も1500MPa以上である請求項1又は2のいずれかに記載の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルム
。
【請求項4】
内層、外層および中間層を上向き空冷式インフレーション製膜機で共押出しすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムの製造方法
。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の遮光性ポリプロピレンシ-ラントフィルムにガスバリア層を積層した積層フィルム
。
【請求項6】
ガスバリア層がシリカもしくはアルミナを蒸着した蒸着フィルム又はエチレン-ビニルアルコール共重合体よりなる請求項5記載の積層フィルム
。
【請求項7】
さらに基材層が積層されている請求項5又は6記載の積層フィルム
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン-エチレン共重合体よりなり、上向き空冷式インフレーション法によって製膜された遮光性シーラントフィルムとその積層体に関するものである。当該フィルムは、耐衝撃性などの強度に優れ、レトルト加熱できる耐熱性を有し、さらにリサイクル性にも優れている。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、ポリエチレンと並び廉価で透明性、耐熱性、柔軟性、耐候性、リサイクル性などに優れた樹脂である。ポリプロピレン樹脂を主材とするフィルムは、包装材料の密封ヒートシール性を担うシーラントフィルムとしても多用されている。一般的なポリプロピレンシーラントフィルムはCPPとよばれ、キャスト法を用いて製膜されるものが殆どであった。
【0003】
キャスト法では、製膜性を良好にするため分子量の比較的小さい樹脂が使用されており、そのために機械的強度や耐衝撃強度が低く、さらに耐熱性も不充分であった。
【0004】
一方、ポリプロピレン樹脂は、ポリエチレン樹脂と比較して溶融張力が低く、且つ結晶化速度が速いため、シーラントフィルムを製造する場合には、上向き空冷式インフレーションでは吹き込みバブルの形状維持が不安定であったり、吹き込み比(ブロー比)を大きくすることが困難であり、均一で厚みの薄いフィルムや幅の広いフィルムを得ることが困難であった。その結果、インフレーション製膜は、通常は水冷法で下向きで行われていた。
【0005】
上向き空冷式インフレーション法によるポリプロピレンシーラントフィルムの製法としては、特許文献1や特許文献2に開示されている方法がある。
【0006】
特許文献1には、プロピレン系エラストマー及び/またはエチレン系エラストマーからなるエラストマー成分を含有したポリプロピレン系樹脂を用いた空冷式インフレーション法によるシーラントフィルムが開示されている。この発明は、ポリプロピレン系樹脂が低温ヒートシール性に劣る点をエラストマー成分を加えて改善し、さらに、油分含有食品を包装してハイレトルト処理したときに生じるゆず肌問題も解決したものである。
【0007】
特許文献2にも、ポリプロピレン成分に、プロピレン-エチレン共重合体またはポリプロピレン-αオレフィン共重合体をエラストマー成分として含有したポリプロピレン樹脂組成物を空冷式インフレーション法により製膜する発明が開示されている。この発明は、ポリプロピレンが低温での耐衝撃性に劣るという問題を解決したものである。
【0008】
そして、本出願人は、ポリプロピレン樹脂の配合を工夫し、ダイスから吐出する樹脂バブルの下側を保温する保温管を設けたり、空冷するエアー温度を調整したりして徐冷することにより、ポリプロピレンシーラントフィルムを上向き空冷式で良好に得られる方法を開発して、これを特許出願した(特許文献3)。
【0009】
この樹脂は、プロピレン単独重合体70~95%、プロピレン共重合体エラストマー5~30質量%からなるプロピレン系樹脂組成物100質量部に対し、エチレン-α-オレフィン共重合体1~50質量部を配合したものである。また、このシーラントフィルムを内層、中間層および外層の三層構成とし、内層および外層は前記樹脂組成物60~80質量%、二酸化チタン15~30質量%およびプロピレンランダム共重合体5~15質量%とし、中間層は前記樹脂組成物70~90質量%、カーボンブラック10~25質量%およびプロピレンランダム共重合体15~30質量%とした遮光性シーラントフィルムも開発した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-331578号公報
【文献】特開2004-27218号公報
【文献】特開2018-90723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ポリプロピレンシーラントフィルムを下向きでインフレーション法で製膜する方法は、重機である押出機を階上に設置しなければならず、原料供給ラインや耐荷重架台など設備投資の負担が大きかった。更には、高分子量のポリプロピレンの製膜が出来ず、高い結晶性も得難い。
【0012】
一方、上向き空冷式インフレーション法は、樹脂フィルムを商業生産する上での、最も経済的な製膜方法として、ポリエチレン樹脂フィルムはキャスト法のみならず該法によっても生産されている。
【0013】
この上向き空冷式インフレーション法は、溶融バブルが製膜時の引取(タテ方向)と吹き込み(ヨコ方向)に縦横に整列しながら結晶化が進み固化するため、結果として高い引裂性を有するものとなる。引裂強度が高いことは、包装材料として高強度を有する反面で、消費者の開封時には“開け難い”包装材料となる。
【0014】
特許文献1、2の方法は、低温ヒートシール性や低温での耐衝撃性を改善するものであるが、上向き空冷式インフレーション法における製膜の不安定性や引裂性を基本的に解決するものではない。
【0015】
本出願人が先に開発した方法は、製膜の不安定性や引裂性を解決したものであったが、樹脂組成物から3種の樹脂を配合するものであるので、より少ない種類の樹脂を用いて、上向き空冷式インフレーション法でポリプロピレンシーラントフィルムを製造できる方法の開発が望まれる。
【0016】
一方、被包装物の品質保持等の観点から、遮光性の包装材料も多用されている。この遮光性の付与には、従来、主に、カーボンブラックとアルミニウム箔が用いられてきた。
【0017】
カーボンブラックを用いると包装材料が黒色になるため、下が透けて見える色は印刷できず、印刷には不適である。アルミニウム箔については、環境問題から、プラスチックの回収とリサイクルが進められているが、プラスチックにアルミニウム箔が含まれているとその分別回収ができないためリサイクルできない。また、アルミニウム箔が含まれていると電子レンジで加熱するとスパークが起こるため電子レンジ加熱ができないという問題もある。
【0018】
本発明の目的は、機械的強度や耐衝撃強度などの物理強度が高く、レトルト加熱に耐える耐熱性があり、表面に印刷をすることができ、リサイクル性や電子レンジ加熱の問題もない遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムを、簡単な樹脂組成で上向き空冷式インフレーション法で製造しうる手段を提供することにある。
【0019】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行い、ポリプロピレン樹脂の内、エチレン単位が2~20質量%のプロピレン-エチレン共重合体を用いて徐冷をしながらインフレーション製膜を行えば、プロピレン-エチレン共重合体のみで、他にエラストマーやエチレン-α-オレフィン共重合体等を加えなくても上向き空冷式インフレーション法で、機械的強度や耐衝撃強度などの物理強度に優れ、レトルト加熱に耐える耐熱性があるポリプロピレンシーラントフィルムを製膜の不安定性や引裂性の問題もなく製造しうることを見出した。そして、このポリプロピレンシーラントフィルムを、三層構成にして、内層と外層には二酸化チタンを15~30質量%配合し、中間層にはカーボンブラックを10~25質量%配合すれば、被包装物の品質を維持できて良好な遮光性が得られ、表面印刷を行なうことができ、リサイクル性や電子レンジ加熱の問題もない、遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムが得られることを見出した。
【0020】
一方、本発明者が、従来のポリプロピレンシーラントフィルムであるキャストフィルムについて、同様に二酸化チタン、カーボンブラック、二酸化チタンの三層構成の遮光フィルムとしてレトルト加熱処理を行ったところ、カーボンブラックや二酸化チタンの添加によって耐衝撃強度の著しい低下や異臭の発生が大きくなる現象がみられ、従来のキャストフィルムにカーボンブラックや二酸化チタンを加えた遮光フィルムはレトルト加熱用包装材としての実用化は不可能であった。
【0021】
従って本発明は内層、外層および中間層よりなっていて、いずれの層もエチレン単位が2~30モル%のプロピレン-エチレン共重合体よりなり、内層および外層は二酸化チタンを含有し、中間層はカーボンブラック含有していて、315~380nmの紫外光の透過率が0.5%以下、380~760nmの可視光の透過率も0.5%以下である、遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムを提供するものである。
【0022】
この遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムをアルミニウム箔積層フィルムの代替品として使用するには、用途によっては、酸素ガスや水蒸気のガスバリア性が不足する場合がある。そこで、本発明は内層、外層および中間層を合わせたプロピレン-エチレン共重合体のメルトフローレート(MFR)が10g/10分以下であり、フィルムの弾性率がMD、TDいずれの方向も1500MPa以上である請求項1ないし3のいずれかに記載の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムを提供するものでもある。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、機械的強度や耐衝撃強度などの物理強度が高く、レトルト加熱に耐える耐熱性があり、表面に印刷をすることができ、リサイクル性や電子レンジ加熱の問題もない遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムを、簡単な樹脂組成で上向き空冷式インフレーション法で製造することができる。また、この遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムにガスバリア層と基材層を積層することにより、アルミニウム箔積層フィルムに匹敵する遮光性とガスバリア性を有するフィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムを製造するインフレーション製膜機の一例の概略構成を示す図である。
【
図2】その保温筒と整流部材の配置を示す図である。
【
図3】3基の混練機とダイスの配置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムに用いるプロピレン-エチレン共重合体は、プロピレン単位が70~98モル%程度、好ましくは85~95モル%程度のものが好ましい。また、MFRが10g/10分以下、好ましくは0.1~8g/10分程度、より好ましくは0.5~6.0/10分程度のものがよい。重合形態はブロック共重合体、ランダム共重合体のいずれでもよいが、ブロック共重合体の方が耐衝撃性が優れているという理由で好ましい。一方、二酸化チタンやカーボンブラックの配合は、マスターバッチを用いることが好ましく、マスターバッチ用の樹脂としては、ブロック共重合体も利用できるが、ランダム共重合体の方が二酸化チタンやカーボンブラックの分散性に優れているので好ましい。従って、二酸化チタンやカーボンブラックを加えた後の樹脂のブロック共重合体とランダム共重合体の比率は、ブロック共重合体が60~100質量%、好ましくは70~90質量%程度、ランダム共重合体が0~40質量%程度、好ましくは10~30質量%程度になる。
【0026】
本発明の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムは、3層以上の多層フィルムであり、その内層と外層には二酸化チタン、中間層にはカーボンブラックを配合する。
【0027】
そして、二酸化チタンとカーボンブラックは、シーラントフィルム全体として、被包装物の品質を低下させる紫外光と可視光を少なくとも品質を維持できる程度まで遮断できる量が配合される。具体的には、315~380nmの紫外光の透過率が0.5%以下、好ましくは0.1%未満、380~760nmの可視光の透過率が0.5%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.1%未満になるように配合される。この透過率の測定はJIS K 0115に準ずる。
【0028】
このような透過率にするために、二酸化チタンの含有量は、内、外層合わせて4g/m2以上とし、通常4~50g/m2程度、好ましくは6~20g/m2程度とするのがよい。含有率では、内、外層とも5~60質量%程度、好ましくは10~30質量%程度とするのがよい。また、中間層のカーボンブラックは、0.3g/m2以上とし、通常0.3~15g/m2程度、好ましくは0.5~5g/m2程度とするのがよい。
【0029】
各層の厚みは、いずれも5~200μm程度、通常7~50μm程度、特に10~30μm程度が適当である。この厚みは、各層の二酸化チタンやカーボンブラックの含有量に応じて紫外光の透過率が0.5%以下、可視光の透過率も0.5%以下になるように定められる。本発明の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムは、上向き空冷式インフレーション法によって製造される。
【0030】
用いるインフレーション製膜機は、通常のインフレーション製膜機に、エアーリングから樹脂バブルの定常状態におけるフロストラインの上30~800mm、好ましくは30~500mmまでを覆う保温筒を付設したものである。この保温筒を付設することによって溶融樹脂が保温されてゆっくりと結晶化が進み、結果としてフロストライン位置が上昇する。そして、フロストラインより下のところで樹脂は主に縦方向に弱い分子配向が形成され、フィルムの引裂性が向上する。さらに、保温筒により外界の気流の乱れなどの影響を受けなくなり、また、吹込みエアーも整流される。
【0031】
保温筒の材質は内側が見えるよう、例えば透明プラスチックを用いるのがよい。
【0032】
この保温筒の内側には、樹脂バブルの吹込み膨張の曲率に沿った整流部材を設けることが好ましい。この整流部材を設けることによって樹脂バブルの底部の位置と形状を安定させることができる。この整流部材は、樹脂バブルの底部を安定して支えられるよう、均等に配置することが好ましく、例えば、
図2に示すように、複数の円筒を同心円状に配置し、整流部材の上縁は、樹脂バブルの吹込み膨張の曲率に近い形状、すなわち、略お椀形に形成される樹脂バブル底部と相似形に近い形になるように配置される。整流部材の上縁を結ぶ面と樹脂バブル底部との間の間隔(接線と直角方向の間隔)は1~10mm程度とするのがよい。エアー吹出口は通常のエヤリングと同様樹脂バブルの基部に近いところに設ければよい。保温筒の材質はとくに制限はないが、前記のフロストライン状態を容易に視認でき、且つ断熱性に優れた、例えば透明プラスチックを用いるのが好ましい。
【0033】
ただ、これらの保温筒や整流部材は必須ではなく、これらがあるのと同じ状態で徐冷できるよう送風条件を制御することによって、保温筒や整流部材を設置しなくても、上向き空冷式インフレーション法で本発明の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムを製造できる。
【0034】
インフレーション製膜機には、また、樹脂バブルをピンチロールで扁平に折り畳んだ後に多段式の熱処理ロールを設けてフィルムを徐冷することによって、ポリプロピレンは緩やかに二次結晶化が進行し、ロール状に巻き取られたフィルムの巻絞まりや巻皺等の問題を回避できる。この多段式熱処理ロール部のフィルム走行路長は1~20m程度、好ましくは1.5~10m程度、特に好ましくは2~5m程度がよく、熱処理ロールの本数は3~30本程度である。
【0035】
このような上向き空冷インフレーション製膜機を用いてインフレーションフィルムを製膜する方法は、まず、二酸化チタンとプロピレン-エチレン共重合体およびカーボンブラックとプロピレン-エチレン共重合体をそれぞれ190~250℃で混練して、二酸化チタンとカーボンブラックのそれぞれマスターバッチのペレットを作製する。そして、これらのマスターバッチペレットとプロピレン-エチレン共重合体のペレットを、内層、外層、中間層のそれぞれの押出機に投入して混練機で混練し、160~210℃程度でダイスから多層チューブ状に押出す。そして、内側からの空気圧でチューブをふくらませ、外側からエアーを送って保温させながら上昇させる。ブロー比は特に制限されない。このエアーの温度は55~65℃が適当であり、65℃より高いとフィルムに熱がかかり過ぎ、固化を妨げる。一方、55℃より低いと早々に固化してしまう。そして、頂上のピンチロールで扁平に折り畳み、熱処理ロールを通過する間にフィルムの温度を60~65℃程度から40~45℃程度まで20℃程度低下させる。
【0036】
こうして得られたシーラントフィルム全体の弾性率はMD、TDとも1500~2500MPa程度になる。
【0037】
得られたフィルムは、引張り強度(JIS-Z-1702)の縦方向が35~85MPa程度、引裂強度(JIS-Z-1702)(MD)が0.05~1N程度、特に0.05~0.2N程度、衝撃強度(JIS-K-7124)が3kgf以上、そして、耐熱性が135℃程度までである。
【0038】
本発明のフィルムは引張強度が高く、従来のキャスト製膜フィルム(CPP)と比較してその60~80%の厚みで同等の強度が得られる。
【0039】
本発明の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムには、本発明の特徴を確保できる範囲で他の樹脂、例えば、ポリエチレン等を加えることができ、これによりヒートシール強度を任意に調節した易剥離シーラントフィルムを作製することも可能である。ポリエチレンの配合量は、例えば低密度ポリエチレンをそれぞれ5~25質量%程度、合計で10~50質量%程度とすることができる。また、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、フィラー、着色剤などの添加剤を添加することもできる。
【0040】
シーラントフィルムの層数も3層に限定されず、他の機能層を内層、中間層、外層の間やシーラントとして利用されない方の外側に配置することもできる。
【0041】
本発明の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムは、ガスバリア層を積層することによってアルミニウム箔積層フィルムの代替品とすることができる。
【0042】
ガスバリア層は、本発明の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムが不足する酸素ガス、水蒸気等の遮断性を高めるものであり、バリア樹脂フィルム又は蒸着フィルムからなる。バリア樹脂としてはビニルアルコール系樹脂と塩化ビニリデン系樹脂があり、ビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂とエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂がある。塩化ビニリデン系樹脂としては、ポリ塩化ビニリデン樹脂がある。蒸着フィルムは、リサイクル性から透明物質が蒸着されるものがよく、酸化アルミニウムやシリカを蒸着したものがよい。蒸着されたフィルムは、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレンなどがある。これらのなかで、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂のフィルムと酸化アルミニウムやシリカを蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0043】
本発明の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムは、ガスバリア層に加えて、物理強度の向上やガスバリア層の保護の目的でさらに基材層を積層することが好ましい。
【0044】
基材層には、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、これらの二軸延伸フィルムなどのフィルムを用いることができる。
【0045】
ガスバリア層や基材層の積層方法は、一般的なドライラミネートや押出ラミネートが用いられるが、とりわけ積層方法として常用されているドライラミネートが好適である。その際、本発明の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムは、ラミネート面へ製膜直後にコロナ放電処理を施すことが更に好ましい。コロナ放電処理量は処理直後のフィルム表面の濡れ指数で37~47dyne/cmが好適である。
【実施例】
【0046】
実施例で使用した製膜装置の概略構成を
図1に示す。この装置は、インフレーション製膜機本体1と、これに連結した内層、中間層、外層用の樹脂を溶融混練して押出す3基の混練機と、多段式熱処理ロール群3からなっている。
【0047】
インフレーション製膜機1は、3基の混練機から押出された樹脂をチューブ状に共押出しするダイスと、チューブ状に押出された樹脂を内側から空気圧で加圧する機構(図示されていない。)と、チューブ状に押出された樹脂を外側から空冷する装置と、チューブ状にふくらまされて上昇する樹脂バブル4を徐々に折畳むガイド5とそれを扁平にするピンチロール6からなっている。
【0048】
この外側から空冷する装置は、ブロワー7から温風機9で温めたエアーをエアーリング10や整流部材である多重円筒11間のエアー吹出口に送る分岐管13と、吹出されたエアーの外界からの影響を排除するアクリル製の保温筒14からなっている。保温筒14のダイスからの高さは1000mmであり、内径は、1000mmである。多重円筒11は、上縁が少しずつ高くなった5つの円筒が、
図2に示すように、同心状に配置され、その高さは、内側から、50mm、160mm、210mm、500mm、1000mm、となっている。多重円筒11の各筒間の底面にはエアーの吹出口12が等間隔に配置されている。
【0049】
混練機から供給された樹脂はダイスからチューブ状に押出され、内側からの空気圧でふくらまされて上昇し、ガイド5で徐々に折られて、ピンチロール6で扁平状にされる。それから、ガイドロール15、16を通って、走路長2.5mの多段式熱処理ロール群(テンパリングロール)3で徐冷され、表面処理機17でコロナ処理がかけられる。
【0050】
同一径になった部位での樹脂バブル4の径は600~1000mmであり、フロストライン18のダイスからの高さは30~800mmである。
【0051】
上記の製膜装置を用いて下記の実施例を行った。
【0052】
<使用樹脂>
ブロックPP:プロピレン-エチレンブロック共重合体(エチレン10モル%、
MFR2g/10分、融点160℃)
ランダムPP:ポリプロピレン96モル%、エチレン4モル%
のメタロセン触媒を用いて重合されたランダム共重合体
MFR=8g/10分、融点140℃
ポリエチレン:(比較例8の)高密度ポリエチレン(MFR4g/10分、融点126℃
二酸化チタン:平均粒径 250nm
カーボンブラック:平均粒径 100nm
EVOH:厚み15μm、酸素透過率0.5cc/m2・24hr・atm、
蒸着PET:厚み12μm、酸素透過率0.8cc/m2・24hr・atm、
PET:厚み12μm
【0053】
各物性値の測定方法は次の通りである。
【0054】
<メルトフローレート>
JIS K 7210-1
【0055】
<弾性率>
JIS K 7127
【0056】
<透過率>
波長範囲(紫外315~380nm、可視380~760nm)
JIS K 0115
【0057】
<異臭>
純水180ccを袋(130mm×170mm)へ封入し、レトルト処理(120℃-30分)を行い、60℃に保ち、臭気評価を行った。臭気官能テストは、臭気官能試験で事前に選ばれた合格者5名にて行った。
(臭気基準)
4:強く臭気を感じる
3:やや強く臭気を感じる
2:弱く臭気を感じる
1:微かに臭気を感じる
0:臭気を感じない
【0058】
<落下強度>
水180ccを袋(130mm×170mm)へ封入し、0~1℃に冷やし、レトルト処理(120℃-30分)を行った袋を、高さ120cmからコンクリート床面に5回続けて垂直落下を行った。
【0059】
<総合評価>
◎(最良)~×(悪)
【0060】
〔実施例1~6〕
内層には、ブロックPP80質量%に、二酸化チタン60質量%、ランダムPP40質量%よりなるマスターバッチ20質量%を配合した樹脂組成物、中間層には、ブロックPP80質量%に、カーボンブラック35質量%とランダムPP65質量%よりなるマスターバッチ20質量%を配合した樹脂組成物、外層には、ブロックPP70質量%に、二酸化チタン60質量%とランダムPP40質量%よりなるマスターバッチ30質量%を配合した樹脂組成物を用いた。
【0061】
図1の製膜装置の各混練機にそれぞれ上記の樹脂組成物を投入し、押出温度200℃、ブロー比1.7、バブル径1,000mm、冷却エアーの温度60℃、風量30(HZ)m
3/分、製膜速度12.8m/分で表1に示す厚みで800mm幅の3層共押出フィルムを作成した。フロストラインの位置はダイスから700mmの付近であった。
【0062】
このフィルムは測定時に凝集破壊現象がみられず安定したシール強度、耐熱性、衝撃強度を得られた。
【0063】
得られたコロナ処理が施されている3層共押出フィルムに、表1記載のガスバリア層と基材層を、いずれも接着剤にウレタン系接着剤を用い、ドライラミネート法でいずれも接着層厚3μmで接着し、実施例1~6の積層フィルムを得た。
【0064】
尚、保温筒と多重円筒を取除いて同じ徐冷ができるよう、風量、風温等を制御して、同様の3層共押出フィルムが得られることを確認した。
【0065】
この実施例1~6の積層フィルムについて、表2の各物性値を測定し、表2に示す結果が得られた。
【0066】
〔比較例1~4〕
表1に示す各厚みで、実施例1~6と同様にして2層あるいは3層共押出フィルムを作製し、実施例1~6と同様にして表1記載のガスバリア層と基材層を積層し、比較例1~4の積層フィルムを得た。各積層フィルムについて、表2の各物性値を測定し、表2に示す結果が得られた。
【0067】
同表に示すように、比較例1はカーボンブラック層が無いために、可視光が透過し、かなりの異臭を感じた。比較例2は二酸化チタン層が薄過ぎるために、可視光が透過し異臭を感じた。比較例3はカーボンブラック層が薄いために、可視光が透過し異臭を感じた。比較例4はカーボンブラック層が無いために、二酸化チタン層が厚くあっても、可視光が透過し、異臭を感じた。
【0068】
〔比較例5〕
プロピレン-エチレン共重合体以外は実施例2と同様にして、3層共押出フィルムと積層フィルムを作製し、物性値を測定した結果を表2に示す。
【0069】
比較例5はベースPPの分子量が低いため、製膜時の熱劣化が大きく、異臭が発生し、且つ耐衝撃強度の低下が見られた。
【0070】
〔比較例6〕
押出温度を260℃にした外は、実施例2と同様にして、3層共押出フィルムと積層フィルムを作製し、物性値を測定した結果を表2に示す。
【0071】
比較例6は製膜温度が高いために、結晶化が進み難く、また熱劣化も大きいので、異臭が発生し、且つ耐衝撃強度の低下が見られた。
【0072】
〔比較例7〕
ブロックPPとランダムPPの代わりにホモPPを使用した以外は、実施例2と同様にして、3層共押出フィルムと積層フィルムを作製し、物性値を測定した結果を表2に示す。
【0073】
比較例7はベースPPがホモPPであるために、分子構造的に低温脆性が顕われ、また、着色剤との分散性も悪いので、耐衝撃強度の大きな低下が見られた。
【0074】
〔比較例8〕
ブロックPPとランダムPPの代わりに高密度ポリエチレンを使用した以外は、実施例2と同様にして、3層共押出フィルムと積層フィルムを作製し、物性値を測定した結果を表2に示す。
【0075】
比較例8はベースがHDPEであるために、PPに比べて耐熱性が劣り、レトルト殺菌により、耐衝撃強度の大きな低下が見られた。
【0076】
実施例1~6と比較例1~8の層構成の概要を表1に示す。
【0077】
【0078】
実施例1~6と比較例1~8の各積層フィルムの物性値を測定した結果をまとめて表2に示す。
【0079】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムは、機械的強度や耐衝撃強度などの物理強度が高く、レトルト加熱に耐える耐熱性があり、表面に印刷をすることができ、リサイクル性や電子レンジ加熱の問題もない遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムを、簡単な樹脂組成で上向き空冷式インフレーション法で製造することができるので遮光性ポリプロピレンシーラントフィルムとして幅広く利用できる。特に、ガスバリア層を積層すれば、リサイクル性や電子レンジ加熱に問題があるアルミニウム箔積層フィルムの代替品として利用できる。
【符号の説明】
【0081】
1 インフレーション製膜機本体
3 多段式熱処理ロール群
4 樹脂バブル
5 安定板
6 ピンチロール
7 ブロワー
9 温風機
10 エアーリング
11 多重円筒
13 分岐管
14 保温筒
15 ガイドロール
16 ガイドロール
17 表面処理機
18 フロストライン