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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】ツルーイング方法及びツルーイング装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/00 20060101AFI20230710BHJP
【FI】
B24B53/00 C
B24B53/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019114929
(22)【出願日】2019-06-20
(65)【公開番号】P2021000683
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-05-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本機械学会2018年度年次大会での学会発表 平成30年9月9日~9月12日 関西大学 千里山キャンパス 大阪府吹田市山手町3-3-35 主催 日本機械学会
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 章亀
(72)【発明者】
【氏名】峠 睦
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-076013(JP,A)
【文献】特開平03-060972(JP,A)
【文献】特開平04-053675(JP,A)
【文献】久保田 章亀,乾式環境下でのダイヤモンドの高効率・高精度加工法の開発ー窒素を利用した方法の提案ー,2016年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集,日本,公益社団法人精密工学会,2016年12月31日,287-288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドまたはCBNで構成された多数の砥粒を有する電着砥石に対して、前記電着砥石表面から突出した複数の前記砥粒の切れ刃高さを均一化するツルーイング方法であって、
金属酸化物で構成された加工部材を前記砥粒の切れ刃先端と接触させ、接触部位に窒素ガスを供給すると共に、前記加工部材を前記砥粒の切れ刃先端に接触させた状態で変位させる工程を備え
前記接触部位で、前記加工部材と前記砥粒との間の摩擦で生じる放電により励起窒素を生成する
ツルーイング方法。
【請求項2】
前記砥粒はダイヤモンドで構成され、
前記加工部材は、合成石英であり、
前記加工部材を加熱して、前記合成石英と前記砥粒との固層反応を促進する
請求項1に記載のツルーイング方法。
【請求項3】
ダイヤモンドまたはCBNで構成された多数の砥粒を有する電着砥石に対して、前記電着砥石表面から突出した複数の前記砥粒の切れ刃高さを均一化するツルーイング装置であって、
金属酸化物で構成された加工部材と、
前記砥粒の切れ刃先端を前記加工部材と接触させて前記電着砥石を保持する保持機構と、
前記加工部材及び前記砥粒の切れ刃先端との接触部位に窒素ガスを供給する窒素ガス供給部と、
前記加工部材と前記砥粒の切れ刃先端とを接触させた状態で、同加工部材と前記電着砥石を相互に摺動させる摺動手段とを備え、
前記接触部位で、前記加工部材と前記砥粒との間の摩擦で生じる放電により励起窒素を生成する
ツルーイング装置
【請求項4】
前記砥粒はダイヤモンドで構成され、
前記加工部材は、合成石英であり、
前記加工部材を加熱する加熱部を備え、
前記加熱部の加熱により、前記合成石英と前記砥粒との固層反応を促進する
請求項3に記載のツルーイング装置
【請求項5】
前記摺動手段は、
前記加工部材と前記砥粒の切れ刃先端を接触させた状態で、前記加工部材を回転駆動する加工部材駆動部と、
前記加工部材に向けて前記電着砥石を付勢する付勢部と、
前記加工部材と前記砥粒の切れ刃先端を接触させた状態で、前記電着砥石を揺動、かつ、回転駆動する電着砥石駆動部とを有する
請求項3または請求項4に記載のツルーイング装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はツルーイング方法及びツルーイング装置に関する。詳しくは、ダイヤモンド砥粒またはCBN砥粒を有する電着砥石を、短時間かつ高精度にツルーイングすることが可能なツルーイング方法及びツルーイング装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
金属ベースの表面に、ダイヤモンド砥粒やCBN砥粒をめっきにて固着した電着砥石は、複雑または微小な形状の砥石を作ることができ、切削特性及び耐摩耗性に優れ、比較的安価であることから、種々の加工に用いられている。
【0003】
この電着砥石は、金属ベースに固着された多数の砥粒のうち、金属ベース表面からの切れ刃先端位置が高い砥粒から、その先端が被加工物に接触して、被加工物の表面を研削する。
【0004】
ここで、電着砥石の砥粒は、めっきにより固着するため、金属ベース表面からの砥粒の突き出し高さのバラツキが大きかった。そのため、切れ刃先端位置が高い砥粒にかかる負担が大きく、砥粒の脱落が生じやすかった。また、研削に関わる砥粒が限定されるため、被加工物の表面の加工精度が低い問題があった。
【0005】
特に、光学ガラスやセラミックス等の硬脆材料の延性モード研削を実現するためには、砥石の表面における砥粒の切れ刃先端位置を精密に揃えることが求められている。この電着砥石の砥粒の切れ刃先端位置を揃える作業は、切れ刃トランケーション、マイクロツルーイング(精密ツルーイング)と呼ばれている。
【0006】
この砥粒の切れ刃先端位置を揃えるツルーイングを行うことで、被加工物の研削に関与する砥粒切れ刃数が増え、被加工物の表面の加工精度が向上すると共に、ひとつの砥粒にかかる負荷が分散され、砥石の長寿命化が期待できる。
【0007】
しかしながら、高硬度材であるダイヤモンド砥粒やCBN砥粒に対して、一般的な機械的ツルーイング法で、砥粒の切れ刃先端位置を揃えることは困難であった。
【0008】
こうしたなか、ダイヤモンド砥粒やCBN砥粒を有する電着砥石に対して、複数の砥粒で、その切れ刃先端位置を揃えることを試みたツルーイング方法が存在する。
【0009】
例えば、ダイヤモンド表面に、導電性皮膜処理を施し、工具電極との間に放電を発生させることで、導電性皮膜と共に、ダイヤモンドを除去するツルーイング方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】電気加工学会誌44No.107 125-132(2010)渡邊幸司ほか
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、非特許文献1に記載のツルーイング方法では、砥粒の切れ刃先端位置のバラツキが減少するものの、切れ刃先端位置を精密に揃えるという点で不充分であり、改善の余地があった。
【0012】
また、電着砥石に対するツルーイングには、より簡易な装置構成で、かつ、短時間でツルーイングが行えることが望まれている。
【0013】
本発明は以上の点に鑑みて創案されたものであって、ダイヤモンド砥粒、または、CBN砥粒を有する電着砥石を、短時間かつ高精度にツルーイングすることが可能なツルーイング方法及びツルーイング装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[加工方法について]
上記の目的を達成するために、本発明のツルーイング方法は、ダイヤモンドまたはCBNで構成された多数の砥粒を有する電着砥石に対して、前記電着砥石表面から突出した複数の前記砥粒の切れ刃高さを均一化するツルーイング方法であって、金属酸化物で構成された加工部材を前記砥粒の切れ刃先端と接触させ、接触部位に窒素ガスを供給すると共に、前記加工部材を前記砥粒の切れ刃先端に接触させた状態で変位させる工程を備える。
【0015】
なお、ここでいう、電着砥石表面とは、平面的な表面だけでなく、略円柱状に形成された電着砥石の側面である円周に沿った面も含んでいるものを意味する。
【0016】
ここで、金属酸化物で構成された加工部材を砥粒の切れ刃先端と接触させ、加工部材を砥粒の切れ刃先端に接触させた状態で変位させることによって、加工部材と砥粒の切れ刃先端との間に電荷移動(摩擦帯電)が起こり、接触部位に引き込まれた空気中で放電が生じる。この放電により、空気中の窒素が励起され、励起窒素がダイヤモンドまたはCBNのエッチング種として作用し、エッチングにより砥粒の切れ刃先端位置におけるダイヤモンドまたはCBNを除去することができる。また、エッチングによる加工により、砥粒の切れ刃先端の位置を、均一かつ精度高く揃えることが可能となる。
【0017】
また、金属酸化物で構成された加工部材を砥粒の切れ刃先端と接触させ、接触部位に窒素ガスを供給することによって、接触部位を窒素ガス環境下におくことができる。即ち、加工部材と砥粒の切れ刃先端との接触部位に、窒素ガスが供給され、エッチング種となる励起窒素が生成しやすくなる。この結果、砥粒の切れ刃先端位置における励起窒素によるエッチングでの、ダイヤモンドまたはCBNの除去効率を高めることができ、短時間での砥粒のツルーイングが可能となる。さらに、励起窒素で切れ刃先端位置が高精度に揃えられた電着砥石によれば、この電着砥石で研削加工した被加工物の加工面に対して、表面粗さの精度に優れた研削加工を施すことが可能となる。
【0018】
本発明では、加工部材と砥粒の切れ刃先端の接触部位、即ち、ダイヤモンド砥粒またはCBN砥粒の切れ刃の先端位置で、接触部位で生成する化学反応性の高い励起窒素を利用して、ダイヤモンドまたはCBNのエッチングを行い、電着砥石の表面から突出した複数の砥粒の切れ刃先端位置を揃えるツルーイングを、高精度かつ効率よく行うものである。
【0019】
また、加工部材を加熱する場合には、砥粒の切れ刃先端位置において、加工部材と、ダイヤモンドまたはCBNとの間の固相反応が促進され、より精度高く、かつ、より均一に、複数の砥粒の切れ刃先端位置を揃えることが可能となる。また、窒素ガスの供給と、加工部材の過熱を組み合わせたツルーイングによれば、ツルーイング後の電着砥石で研削加工した被加工物の加工面に対して、より一層、表面粗さの精度に優れた研削加工を施すことが可能となる。
【0020】
なお、「加工部材」としては、例えば、SiO、ZrO、Al、TiO、Fe、MgO、CaO,NaO、KO、CeO等の金属酸化物、及びそれらからなる構成材料で構成された加工部材が挙げられる。特に、耐摩耗性、耐熱性、化学的安定性に優れる合成石英、サファイアが好ましい。
【0021】
また、砥粒がダイヤモンドで構成され、加工部材が、合成石英である場合には、ダイヤモンドに対して、より精度高く、かつ、より均一に、複数の砥粒の切れ刃先端位置を揃えることが可能となる。
【0022】
[加工装置について]
また、上記の目的を達成するために、本発明に係る加工装置は、ダイヤモンドまたはCBNで構成された多数の砥粒を有する電着砥石に対して、前記電着砥石表面から突出した複数の前記砥粒の切れ刃高さを均一化するツルーイング装置であって、金属酸化物で構成された加工部材と、前記砥粒の切れ刃先端を前記加工部材と接触させて前記電着砥石を保持する保持機構と、前記加工部材及び前記砥粒の切れ刃先端との接触部位に窒素ガスを供給する窒素ガス供給部と、前記加工部材と前記砥粒の切れ刃先端とを接触させた状態で、同加工部材と前記電着砥石を相互に摺動させる摺動手段とを備える。
【0023】
ここで、砥粒の切れ刃先端を加工部材と接触させて電着砥石を保持する保持機構と、金属酸化物で構成された加工部材と、加工部材と砥粒の切れ刃先端とを接触させた状態で、加工部材と電着砥石を相互に摺動させる摺動手段によって、加工部材と砥粒の切れ刃先端との間に電荷移動(摩擦帯電)が起こり、接触部位に引き込まれた空気中で放電が生じる。この放電により、空気中の窒素が励起され、励起窒素がダイヤモンドまたはCBNのエッチング種として作用し、エッチングにより砥粒の切れ刃先端位置におけるダイヤモンドまたはCBNを除去することができる。また、エッチングによる加工により、砥粒の切れ刃先端の位置を、均一かつ精度高く揃えることが可能となる。
【0024】
また、加工部材及び砥粒の切れ刃先端との接触部位に窒素ガスを供給する窒素ガス供給部によって、接触部位を窒素ガス環境下におくことができる。即ち、加工部材と砥粒の切れ刃先端との接触部位に、窒素ガスが供給され、エッチング種となる励起窒素が生成しやすくなる。この結果、砥粒の切れ刃先端位置における励起窒素によるエッチングでの、ダイヤモンドまたはCBNの除去効率を高めることができる。これにより、短時間での砥粒のツルーイングが可能となる。さらに、励起窒素で切れ刃先端位置が高精度に揃えられた電着砥石によれば、この電着砥石で研削加工した被加工物の加工面に対して、表面粗さの精度に優れた研削加工を施すことが可能となる。
【0025】
本発明では、加工部材と砥粒の切れ刃先端の接触部位、即ち、ダイヤモンド砥粒またはCBN砥粒の切れ刃の先端位置で、接触部位で生成する化学反応性の高い励起窒素を利用して、ダイヤモンドまたはCBNのエッチングを行い、電着砥石の表面から突出した複数の砥粒の切れ刃先端位置を揃えるツルーイングを、高精度かつ効率よく行うものである。
【0026】
また、加工部材を加熱する加熱部を備える場合には、砥粒の切れ刃先端位置において、加工部材と、ダイヤモンドまたはCBNとの間の固相反応が促進され、より精度高く、かつ、より均一に、複数の砥粒の切れ刃先端位置を揃えることが可能となる。また、窒素ガスの供給と、加工部材の過熱を組み合わせたツルーイングによれば、ツルーイング後の電着砥石で研削加工した被加工物の加工面に対して、より一層、表面粗さの精度に優れた研削加工を施すことが可能となる。
【0027】
なお、「加工部材」としては、例えば、SiO、ZrO、Al、TiO、Fe、MgO、CaO,NaO、KO、CeO等の金属酸化物、及びそれらからなる構成材料で構成された加工部材が挙げられる。特に、耐摩耗性、耐熱性、化学的安定性に優れる合成石英、サファイアが好ましい。
【0028】
また、砥粒がダイヤモンドで構成され、加工部材が、合成石英である場合には、ダイヤモンドに対して、より精度高く、かつ、より均一に、複数の砥粒の切れ刃先端位置を揃えることが可能となる。
【0029】
前記摺動手段が、加工部材と砥粒の切れ刃先端を接触させた状態で、加工部材を回転駆動する加工部材駆動部と、加工部材に向けて電着砥石を付勢する付勢部と、加工部材と砥粒の切れ刃先端を接触させた状態で、電着砥石を揺動、かつ、回転駆動する電着砥石駆動部とを有する場合には、加工部材に砥粒の切れ刃先端を当接させた状態を維持しながら、接触部位に、電荷移動(摩擦帯電)による放電を生じさせることができる。即ち、励起窒素を効率良く生成でき、砥粒のダイヤモンドまたはCBNの除去の効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明を適用したツルーイング方法及びツルーイング装置では、ダイヤモンド砥粒、または、CBN砥粒を有する電着砥石を、短時間かつ高精度にツルーイングすることが可能なものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明を適用したツルーイング装置を説明するための模式図である。
図2】ダイヤモンド砥粒の切れ刃先端を観察した微分干渉顕微鏡像である。
図3】ダイヤモンド砥粒の切れ刃先端を観察した微分干渉顕微鏡像である。
図4】実施例2の加工後の電着砥石における砥粒A及び砥粒Bの2箇所の切れ刃先端位置の差を示した模式図である。
図5】ツルーイング加工した電着ダイヤモンド砥石の砥石表面の一部における、切れ刃先端が平坦化した部分が観察領域の中で占める割合(a:平均摩耗面積率)と、平坦化され、研削加工に作用する砥粒の総数(n:平均平坦化砥粒数)を示すグラフである。
図6】電着ダイヤモンド砥石を用いて、被加工物を研削加工した加工領域の一部の表面粗さを示したグラフである。
図7】電着ダイヤモンド砥石を用いて、被加工物を研削加工した加工領域の一部の表面粗さを非接触形状測定機で測定したデータである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「発明の実施の形態」と称する)について説明する。
図1は本発明を適用したツルーイング装置を説明するための模式図であり、装置を平面視した状態の図である。図1で示すツルーイング装置1は、合成石英定盤2と、電着ダイヤモンド砥石3を保持する試料ホルダー4を有している。また、ツルーイング装置1は、合成石英定盤2と電着ダイヤモンド砥石3の先端部3aとの接触部位に、窒素ガスを供給する窒素ガス供給部5を有している。なお、電着ダイヤモンド砥石3は電着砥石の一例である。
【0033】
なお、合成石英定盤2は、その加工面2aが鉛直方向に略平行な向きとなるように配置されている。また、電着ダイヤモンド砥石3は、略円柱状の形状の金属ベース部の先端の面と、その側面の円周上の面に沿って、多数のダイヤモンド砥粒がめっきにより固着されて形成されている。
【0034】
そして、合成石英定盤2の加工面2aに、電着ダイヤモンド砥石3の先端部3aが接して、ダイヤモンド砥粒の切れ刃先端が加工される。また、合成石英定盤2は加工部材の一例である。
【0035】
窒素ガス供給部5は、窒素ガスを供給する先端部5aが、合成石英定盤2の加工面2aと、電着ダイヤモンド砥石3の先端部3aとの接触部位に向けられて配置されている。これにより、接触部位が窒素ガス環境下となる。
【0036】
ここで、本実施の形態では、加工部材が合成石英定盤2で形成されている場合を例に挙げて説明を行っているが、ダイヤモンド砥粒またはCBN砥粒の切れ刃先端を加工可能な材料であれば充分であって、必ずしも合成石英定盤2で形成される必要はない。例えば、SiO、ZrO、Al、TiO、Fe、MgO、CaO,NaO、KO、CeO等の無機酸化物、及びそれらからなる構成材料で形成されていても構わない。なお、耐摩耗性、耐熱性、化学的安定性に優れる観点から、加工部材として、合成石英、サファイアが採用されることが好ましい。
【0037】
また、合成石英定盤2は、回転数が制御可能な加工テーブル6上に固定され、加工テーブル6の回転によって合成石英定盤2が図1中符号R1で示す方向に回転可能に構成されている。
【0038】
また、試料ホルダー4は、合成石英定盤2の回転軸に対して偏心した回転軸7を中心として図1中符号R2で示す方向に回転可能に構成されている。また、試料ホルダー4は、駆動ステージ8で支持され、駆動ステージ8は、試料ホルダー4と一体的に図1中符号Yで示す方向に揺動可能に構成されている。
【0039】
また、試料ホルダー4は、電着ダイヤモンド砥石3が合成石英定盤2の方向(図1中符号Xで示す方向)に一定の圧力で押し付けられるように、図示しない付勢バネにより付勢されている。
【0040】
ここで、本実施の形態では、試料ホルダー4に保持される電着砥石として電着ダイヤモンド砥石3を例に挙げて説明を行っているが、電着砥石はこれに限定されるものではなく、電着CBN砥石であっても構わない。
【0041】
また、電着ダイヤモンド砥石3の形状は、略円柱状の金属ベース部の先端の面と側面の円周上の面に多数のダイヤモンド砥粒が固着された形状に限定されるものではなく、本形状は、一例である。例えば、電着ダイヤモンド砥石は、略平坦な金属ベース部の面に、多数のダイヤモンド砥粒が固着された形状であってもよく、種々の金属ベース部の形状のものが、ツルーイングの対象となりうる。
【0042】
また、窒素ガス供給部5は、合成石英定盤2の加工面2aと、電着ダイヤモンド砥石3の先端部3aとの接触部位に窒素ガスを供給して、接触部位を窒素ガス環境下とすることができれば、その配置位置は特に限定されるものではない。
【0043】
本発明を適用したツルーイング装置の一例であるツルーイング装置1は、上記のような構成を有することで、合成石英定盤2と電着ダイヤモンド砥石3の先端部3aとの接触部位で、励起窒素を生成して、これをエッチング種とするエッチングを進行させ、ダイヤモンド砥粒の切れ刃先端位置を加工して、複数の砥粒の切れ刃先端位置を、精度高く、均一に揃えることが可能となる。
【0044】
以下、上記の様に構成されたツルーイング装置1を用いたツルーイング方法について説明を行う。即ち、本発明を適用したツルーイング方法の一例について説明を行う。
【0045】
本発明を適用したツルーイング方法の一例では、合成石英定盤2を回転させると共に、電着ダイヤモンド砥石3を回転及び揺動させながら、付勢バネにより、一定の圧力で合成石英定盤2に当接させ、接触部位に窒素ガス供給部5から窒素ガスを供給する。
【0046】
即ち、合成石英定盤2の加工面2aと、電着ダイヤモンド砥石3の先端部3aとの接触部位で、両部材が当接して相対的に変異することで、接触部位に電荷移動(摩擦帯電)を生じさせる。そして、接触部位の空気中に電荷移動(摩擦帯電)により放電が生じ、空気中の窒素や、窒素ガス供給部5から供給された窒素ガス5から励起窒素が生成される。
【0047】
また、接触部位で生成した励起窒素は、化学反応性の高いエッチング種として、電着ダイヤモンド砥石3の先端部3aの切れ刃先端に作用して、同部分のダイヤモンドを除去する。これにより、先端部3aにおける複数のダイヤモンド砥粒の切れ刃先端位置が均一化される。
【0048】
本実施の形態の変形例として、図1に記載の装置構成に、更に、加熱処理部を設けることもできる。この加熱処理部は、一例として、合成石英定盤2の加工面2とは反対側の位置に配置され、合成石英定盤2を加熱する。
【0049】
この加熱処理部で合成石英定盤2を100℃に加温すると、ダイヤモンド砥粒の切れ刃先端位置において、合成石英定盤2と、ダイヤモンド砥粒との間の固相反応が促進され、この固相反応によっても、砥粒の切れ刃先端位置のダイヤモンドが除去される。即ち、励起窒素のエッチングに加えて、固相反応も促進されるため、より一層、効率良く、かつ、高精度に、砥粒の切れ刃先端位置が揃える加工を施すことができる。
【0050】
[効果]
本発明を適用したツルーイング方法及びツルーイング装置は、励起窒素を効率良く生成することで、ダイヤモンド砥粒またはCBN砥粒を有する電着砥石を、短時間かつ高精度にツルーイングすることが可能なものとなっている。
【0051】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、ここで示す実施例は一例であり本発明を限定するものではない。
【0052】
[1.ツルーイング加工による砥石表面の評価]
[実施例1~2及び比較例1]
本発明の実施例1のツルーイング方法として、以下の条件で加工を行った。先ず、本発明の実施例1のツルーイング方法として、合成石英定盤(Φ100)に対して、付勢バネ(バネ定数:0.54N/mm、バネ長さ:4mm)で電着ダイヤモンド砥石(#100)に2.16Nの荷重をかけて当接させた状態で、合成石英定盤を回転数1000rpmで回転させ、電着ダイヤモンド砥石を保持させた試料ホルダーを回転数1000rpmで回転、かつ、揺動(揺動距離:5mm、揺動速度:0.1mm/s)させた。また、窒素ガス供給部より、合成石英定盤と電着ダイヤモンド砥石の先端部との接触部位に窒素ガス(5L/min)を供給した。この様な状況で1時間の加工を行った。
実施例1と同様の方法で、窒素ガス供給部による窒素ガス供給を行わないものを比較例1とした。
また、実施例1と同様の方法で、さらに、ヒーターで合成石英定盤を約100℃に加熱しながら加工する条件の方法を実施例2とした。
【0053】
上記の実施例1~2及び比較例1について、加工前後の電着ダイヤモンド砥石の砥粒の切れ刃先端を観察して、評価を行った。
【0054】
図2に実施例1及び比較例1の結果、図3に実施例2の結果を示す。また、図4に、実施例2の加工後の電着砥石における砥粒A及び砥粒Bの2箇所の切れ刃先端位置の差を模式図で示す。また、図5に、ツルーイング加工した電着ダイヤモンド砥石の砥石表面の一部における、切れ刃先端が平坦化した部分が観察領域の中で占める割合(a:平均摩耗面積率)と、平坦化され、研削加工に作用する砥粒の総数(n:平均平坦化砥粒数)の結果を示す。
【0055】
なお、図2及び図3中の符号Sで示す比較的白くなっている部分が、切れ刃先端が平坦化した領域の一部を示している。なお、図2及び図3では、図面が不明確になることを避けるため、切れ刃先端が平坦化した領域の全てには符号を付けていない。また、図2のうち、(a)は比較例1の加工前、(b)は比較例1の加工後、(c)は実施例1の加工前、(d)は実施例1の加工後の結果である。また、図3のうち、(a)は実施例2の加工前、(b)は実施例2の加工後の結果である。また、図5のうち、(b)は比較例1の加工後、(c)は実施例1の加工後、(d)は、実施例2の加工後の結果である。
【0056】
図2及び図3から明らかなように、比較例1の加工後の電着ダイヤモンド砥石の砥石表面に比べ、実施例1の加工後の電着ダイヤモンド砥石の砥石表面では、切れ刃先端が平坦化した砥粒の割合が多くなっていた。また、実施例2の加工後の電着ダイヤモンド砥石の砥石表面では、実施例1よりも更に、切れ刃先端が平坦化した砥粒の割合が多くなっていた。
【0057】
図4から明らかなように、実施例2の加工後の電着ダイヤモンド砥石では、砥石表面上の2つの砥粒A及び砥粒Bの切れ刃先端位置の差が、0.1μmとなっており、実施例2の加工によって、ダイヤモンド砥粒の切れ刃先端位置が、精度高く、均一に揃えられていることが分かった。
【0058】
図5から明らかなように、平均摩耗面積率と、平均平坦化砥粒数において、実施例1は比較例1よりも大きな値を示した。また、実施例2は実施例1よりも更に大きな値を示した。
【0059】
[2.ツルーイング加工した電着ダイヤモンド砥石による研削評価]
続いて、上記の実施例1~2及び比較例1について、ツルーイング加工した電着ダイヤモンド砥石を用いて、被加工物を研削加工した際の、被加工物の研削面の表面粗さについて評価を行った。
被加工物の研削加工は以下の条件で行った。実施例1~2、又は、比較例1の方法でツルーイング加工した電着ダイヤモンド砥石(#100)と、被加工物である超硬合金のKD20(登録商標)を試験機(ファナック株式会社製の加工機:FANUC ROBODRILLα-D14MiA5)に取り付け、回転数3000rpm、送り速度50mm/min、切り込み量5μmの条件で、被加工物の端部に対して、一往復の研削を行った。
研削後の被加工物の研削面の表面粗さを、非接触形状測定機を用いて測定した。なお、比較対照として、加工する前の被加工物の表面粗さも測定した。
【0060】
図6に、被加工物の研削面の測定範囲における算術平均粗さ(Sa)の結果をグラフで示す。また、図7に、被加工物を研削加工した加工領域の一部の表面粗さを非接触形状測定機で測定した結果を示す。なお、図6及び図7において、(a)は加工前の被加工物、(b)は比較例1の加工後の砥石、(c)は実施例1の加工後の砥石、(d)は実施例2の加工後の砥石で研削加工した結果である。
【0061】
図6に示すように、実施例1の算術平均粗さ(Sa)の値は11.5nmであり、実施例2の算術平均粗さ(Sa)の値は4.0nmであった。図6及び図7の結果から、実施例1は比較例1よりも研削面が平滑に加工され、実施例2は実施例1よりも更に、研削面が平滑に加工されていたことが分かった。
【符号の説明】
【0062】
1 ツルーイング装置
2 合成石英定盤
2a 加工面
3 電着ダイヤモンド砥石
3a 先端部
4 試料ホルダー
5 窒素ガス供給部
5a 先端部
6 加工テーブル
7 回転軸
8 駆動ステージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7