(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】減速装置
(51)【国際特許分類】
F16H 19/02 20060101AFI20230710BHJP
F16H 37/12 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
F16H19/02 D
F16H37/12 Z
(21)【出願番号】P 2019137674
(22)【出願日】2019-07-26
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】391003819
【氏名又は名称】株式会社ハッピージャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 世那
(72)【発明者】
【氏名】大沼 滋夫
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06622580(US,B1)
【文献】特開昭61-268256(JP,A)
【文献】実開昭53-152941(JP,U)
【文献】実開昭54-007144(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 19/02
F16H 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部からの回転動作を出力部に伝達する減速装置において、
前記入力部を形成する入力側回転軸と、
前記入力側回転軸に設けられ小径部と大径部とを有した入力側巻胴と、
前記入力側回転軸に対して平行に延設され前記出力部を形成する出力側回転軸と、
前記出力側回転軸の各端部に結合され該出力側回転軸に垂直に延びる一対のアームと、
前記一対のアームの間で前記入力側回転および前記出力側回転軸に対して平行に延び、
前記一対のアームに結合され、前記出力側回転軸を中心として揺動可能に設けられた揺動軸と、
前記揺動軸に設けられた差動巻胴と、
前記入力側巻胴と前記差動巻胴との間に張り渡されたワイヤとを具備
し、
前記ワイヤが、
第1の端部において前記小径部に巻き付けられ、反対側の第2の端部において前記大径部に巻き付けられ、前記第1と第2の端部の間で前記差動巻胴に巻き付けられた第1のワイヤと、
第1の端部において前記小径部に巻き付けられ、反対側の第2の端部において前記差動巻胴に巻き付けられた第2のワイヤと、
第1の端部において前記大径部に巻き付けられ、反対側の第2の端部において前記差動巻胴に巻き付けられた第3のワイヤとを具備する減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部からの回転動作を出力部に伝達する減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットの関節やアクチュエータの出力軸に外力を加えることで駆動系が動作する現象をバックドライブと称し、バックドライブのしやすさを示す概念をバックドライバビリティと称する。人間協調型ロボットや、ハプティックデバイス等では、高出力、高精度といった性能のみならず、外力に対してバックドライブしやすいことが求められている。
【0003】
バックドライバビリティを左右する重要な要素の1つに、モータのような入力部から出力部へ動力を伝達する動力伝達装置または減速装置がある。従来、減速装置は、平歯車列や、遊星歯車、ウォーム歯車等が用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした従来技術による歯車を用いた減速装置では、噛合う歯車の間にはバックドライブ時にも滑り摩擦を生じ、その抵抗によりバックドライブが妨げられる。
従って、本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、減速比が高く、高効率でありながらバックドライバビリティの高い減速装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、入力部からの回転動作を出力部に伝達する減速装置において、前記入力部を形成する入力側回転軸と、前記入力側回転軸に設けられ小径部と大径部とを有した入力側巻胴と、前記入力側回転軸に対して平行に延設され前記出力部を形成する出力側回転軸と、前記入力側回転および前記出力側回転軸に対して平行に延び、前記出力側回転軸を中心として揺動可能に設けられた揺動軸と、前記揺動軸に設けられた差動巻胴と、前記入力側巻胴と前記差動巻胴との間に張り渡されたワイヤとを具備する減速装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、減速装置は歯車を用いないので、噛合う歯車の間の滑り摩擦を生じることがなくバックドライブ時の摩擦が小さく、バックラッシュを生じることがなく、更に、潤滑が不要で静音性に優れているとの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第1の実施形態による減速装置の斜視図である。
【
図3】
図1の状態にある減速装置の第1~第3のワイヤの位置関係を示す斜視図である。
【
図4】
図1の状態からモータが矢印A1で示す方向に回転したときの状態を示す減速装置の斜視図である。
【
図5】
図4の状態にある減速装置の第1~第3のワイヤの位置関係を示す斜視図である。
【
図6】
図1の状態からモータが矢印A2で示す方向に回転したときの状態を示す減速装置の斜視図である。
【
図7】
図6の状態にある減速装置の第1~第3のワイヤの位置関係を示す斜視図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態による減速装置の斜視図である。
【
図9】本発明の第3の実施形態による減速装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1~3において、第1の実施形態による減速装置10は、ベース部材12、該ベース部材12に取り付けられた入力部としてのモータ14、入力側巻胴を形成する第1の巻胴18、差動巻胴を形成する第2の巻胴46、第1と第2のプーリ34、38を介して第1と第2の巻胴18、46の間に張り渡された第1~第3のワイヤ50、52、54、および、出力部としての回転軸26およびアーム30、32を主要な構成要素として具備している。ベース部材12は、フレーム(図示せず)のような静止部や、ロボットアーム(図示せず)のような可動部に固定される平板状の部材であり、入力側回転軸を形成するモータ14の出力軸16を通す穴12aを有している。
【0009】
出力軸16には、該出力軸16と共に回転するように第1の巻胴18が固定される。第1の巻胴18は、小径部20と、小径部20よりも直径が大きな大径部22とを備えている。小径部20と大径部22は、互いに同心に配置され一体に形成されている。小径部20と大径部22は、それぞれの円筒外表面に、第1~第3のワイヤ50、52、54を受け入れる螺旋状の溝が形成されている。
【0010】
ベース部材12には、固定軸24が取り付けられている。固定軸24は、円柱状または円筒状の部材であり、出力軸16の中心軸線Oinに対して概ね平行に延設されている。固定軸24の円筒外表面には、出力側回転軸を形成する回転軸26がベアリング28を介して固定軸24の中心軸線Oout周りに回転可能に支持されている。回転軸26の円筒外表面には、第1と第2のプーリ34、38が、それぞれベアリング36、40によって、中心軸線Oout周りに回転可能に支持されている。
【0011】
回転軸26の各端部には、一対のアーム30、32が取り付けられている。一対のアーム30、32は、固定軸24の中心軸線Ooutに対して垂直な方向に延びている。アーム30、32の先端には、揺動軸42が、アーム30、32に対して回転しないように固定されている。本実施形態では揺動軸42は、出力軸16の中心軸線Oinおよび固定軸24の中心軸線Ooutに対して平行に延びる。揺動軸42の円筒外表面には、ベアリング48によって、第2の巻胴46が固定軸42の中心軸線Od周りに回転可能に支持されている。
【0012】
第1のワイヤ50は、第1の端部50aが第1の巻胴18の小径部20に固定され、小径部20に巻き付けられている。第1のワイヤ50は、更に、
図1に示すように第1のプーリ34の上側に配置されるように第2の巻胴46へ向けて延設され、第2の巻胴46に巻き付けられる。第1のワイヤ50は、更に、第2のプーリ38の下側に配置されるように第1の巻胴18の大径部22へ向けて延設され、該大径部22に巻き付けられ、その先端(第2の端部)50bが大径部22に固定されている。
【0013】
第2のワイヤ52は、第1の端部52aが第1の巻胴18の小径部20に固定され、小径部20に巻き付けられている。第2のワイヤ52は、更に、第1のプーリ34の下側に配置されるように、第2の巻胴46へ向けて延設された後、第2の巻胴46に巻き付けられ、その先端(第2の端部)52bが第2の巻胴46に固定されている。
【0014】
第3のワイヤ54は、第1の端部54aが第1の巻胴18の大径部22に固定され、大径部22に巻き付けられている。第3のワイヤ54は、更に、第2のプーリ38の上側に配置されるように、第2の巻胴46へ向けて延設された後、第2の巻胴46に巻き付けられ、その先端(第2の端部)54bが第2の巻胴46に固定されている。
【0015】
第2と第3のワイヤ52、54の第2の端部52b、54bは、好ましくは、第2の巻胴46において反対側の端部分に固定される。また、第2と第3のワイヤ52、54は、互いに逆方向に、それぞれ小径部20と大径部22に巻き付けられている。同様に、第2と第3のワイヤ52、54は、互いに逆方向に第2の巻胴46に巻き付けられている。
【0016】
更に、第1と第2のワイヤ50、52の第1の端部50a、52aは、小径部20において反対側の端部分に固定され、第1と第2のワイヤ50、52は、互いに逆方向に小径部20に巻き付けられている。同様に、第1のワイヤ50の第2の端部50bと、第3のワイヤ54の第1の端部54aは、大径部22において反対側の端部分に固定され、第1と第3のワイヤ50、54は、互いに逆方向に大径部22に巻き付けられている。
【0017】
以下、
図4~
図7を参照して、本実施形態の作用を説明する。
モータ14によって、第1の巻胴18が出力軸16と共に矢印A1の方向(時計回りの方向)に回転すると、第1のワイヤ50は小径部20によって巻き取られると同時に、大径部22から送り出される。このとき、第2のワイヤ52は小径部20から送り出されると共に、第3のワイヤ54が大径部22によって巻き取られる。
【0018】
第1の巻胴18が回転する間、第1のワイヤ50が小径部20に巻き付けられる長さは、大径部22から送り出される長さよりも短くなる。同様に、大径部22によって巻き取られる第3のワイヤ54の単位時間あたりの長さは、小径部20から送り出される第2のワイヤ52の長さよりも長くなる。小径部20に巻き付けられる第1のワイヤ50の長さと、大径部22から送り出される第1のワイヤ50の長さの単位時間あたりの差分と、大径部22によって巻き取られる第3のワイヤ54の長さと、小径部20から送り出される第2のワイヤ52の長さの単位時間あたりの差分は等しくなるので、アーム30、32によって回転軸26に結合されている揺動軸42は、
図4に示すように、回転軸26と共に中心軸線Oout周りに矢印A1方向に揺動する。
【0019】
第1の巻胴18が出力軸16と共に矢印A2の方向(反時計回りの方向)に回転すると、第1のワイヤ50は小径部20から送り出されると同時に大径部22に巻き取られる。このとき、第2のワイヤ52が小径部20に巻き取られると共に、第3のワイヤ54が大径部22から送り出される。これにより、上述した理由から、揺動軸42は、
図6に示すように、回転軸26と共に中心軸線Oout周りに矢印A2方向に揺動する。
【0020】
入力部であるモータ14の回転速度に対する出力部である回転軸26およびアーム30、32の回転速度の比率である減速比は、第1の巻胴18の大径部22と小径部20の半径の差の逆数に比例する。従って、本実施形態によれば、実質的に無数に減速比を決定することができる。
【0021】
更に、本実施形態による減速装置10は歯車を用いないので、噛合う歯車の間の滑り摩擦を生じることがなくバックドライブ時の摩擦が小さく、バックラッシュを生じることがなく、更に、潤滑が不要で静音性に優れている。
【0022】
本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されず、種々の変更と改良が可能であることは当業者には理解されよう。例えば、既述の実施形態では、第1~第3のワイヤ50、52、54は、共通の1本の揺動軸42に取り付けられた第2の巻胴46に巻き付けられているが、本発明はこれに限定されず、第1~第3のワイヤ50、52、54を複数の第2の巻胴に巻き付けるようにしてもよい。
【0023】
図8を参照すると、本発明の第2の実施形態による減速装置100が図示されている。なお、
図8において、
図1~
図3の減速装置10と共通する或いは対応する構成要素には同じ参照符号が付されており、以下の説明では重複する構成要素の説明を省略する。
【0024】
第2の実施形態では、アーム60、62はそれぞれ二股に形成され、先端部に第1と第2の枝部60a、60b:62a、62bが設けられている。第1と第2の枝部60a、60b:62a、62bに、それぞれ巻胴を備えた第1と第2の揺動軸64、66が取り付けられている。第1の揺動軸64の巻胴に第1のワイヤ50が巻き付けられ、第2の揺動軸66の巻胴に第2と第3のワイヤ52、54が巻き付けられている。
【0025】
この第2の実施形態も、第1の実施形態と同様に作用し、実質的に無数に減速比を決定することができ、バックドライブ時の摩擦が小さく、バックラッシュを生じることがなく、更に、潤滑が不要で静音性に優れている等の効果を奏する。
【0026】
更に、既述の実施形態では、固定軸24の円筒外表面に回転軸26が設けられていたが、本発明は、これに限定されず、中空の回転軸26を固定軸24に回転可能に支持させる構成は必須の構成要素ではない。
【0027】
図9を参照すると、本発明の第3の実施形態による減速装置200が図示されている。なお、
図9において、
図1~
図3の減速装置10と共通する或いは対応する構成要素には同じ参照符号が付されており、以下の説明では重複する構成要素の説明を省略する。
【0028】
第3の実施形態では、モータ14を固定するベース部材は、断面がコの字形を呈するハウジング70によって形成され、出力部は、ベアリング72によってハウジング70に回転可能に支持された回転軸74と該回転軸74に結合された一対のアーム76、78によって形成されている。本実施形態では、ベース部材としてのハウジング70に回転軸74を直接回転可能に支持させ、該回転軸74に第1と第2のプーリ34、38が回転可能に支持されている。
【0029】
この第3の実施形態も、第1の実施形態と同様に作用し、実質的に無数に減速比を決定することができ、バックドライブ時の摩擦が小さく、バックラッシュを生じることがなく、更に、潤滑が不要で静音性に優れている等の効果を奏する。
【符号の説明】
【0030】
10 減速装置
12 ベース部材
12a 穴
14 モータ
16 出力軸
18 第1の巻胴
20 小径部
22 大径部
24 固定軸
26 回転軸
28 ベアリング
30 アーム
32 アーム
34 第1のプーリ
36 ベアリング
38 第2のプーリ
40 ベアリング
42 揺動軸
46 第2の巻胴
48 ベアリング
50 第1のワイヤ
50a 第1の端部
50b 第2の端部
52 第2のワイヤ
52a 第1の端部
52b 第2の端部
54 第3のワイヤ
54a 第1の端部
54b 第2の端部
60 アーム
60a 第1の枝部
60b 第2の枝部
62 アーム
62a 第1の枝部
62b 第2の枝部
64 第1の揺動軸
66 第2の揺動軸
70 ハウジング
72 ベアリング
74 回転軸
76 アーム
78 アーム
100 減速装置
200 減速装置