(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】新規な乳酸菌およびその応用
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20230710BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20230710BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230710BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230710BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230710BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230710BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230710BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20230710BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230710BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230710BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20230710BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230710BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230710BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230710BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20230710BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20230710BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230710BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230710BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230710BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20230710BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20230710BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230710BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230710BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230710BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230710BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230710BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20230710BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A61K35/747
A61P37/02
A61P37/08
A61P29/00
A61P1/04
A61P25/00
A61P25/18
A61P21/00
A61P43/00 105
A61P25/20
A61P9/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/14
A61P25/08
A61P27/02
A61P9/10
A61P17/02
A61P25/24
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/06
A61K9/14
A61K9/08
A61K9/10
A23L33/135
(21)【出願番号】P 2020536979
(86)(22)【出願日】2019-01-04
(86)【国際出願番号】 CN2019070494
(87)【国際公開番号】W WO2019134690
(87)【国際公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-11-24
(32)【優先日】2018-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【微生物の受託番号】DSMZ DSM 32322
(73)【特許権者】
【識別番号】519010189
【氏名又は名称】ベネド バイオメディカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ イン-チェン
(72)【発明者】
【氏名】ホアン フイ-ユ
(72)【発明者】
【氏名】ウー チエン-チェン
(72)【発明者】
【氏名】シュー ヂィ-シン
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-002959(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146916(WO,A1)
【文献】CHENG, M.-C.,Prevention of hypertension-induced vascular dementia by Lactobacillus paracasei subsp. paracasei NTU 101-fermented products,Pharmaceutical Biology,2017年,Volume 55, Issue 1,P. 487-496
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離および精製された乳酸菌であるラクトバチルスパラカゼイPS23(PS23)であって、ライプニッツ研究所DSMZ・ドイツ微生物細胞培養コレクションにブダペスト条約に基づき寄託され、DSM受託番号32322が付与されているPS23。
【請求項2】
請求項1に記載のPS23、および、任意で食用担体または医薬的に許容される担体を含む組成物。
【請求項3】
前記PS2
3は、生存細胞または死細胞である細菌全体の形態で用いられ得る、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
経口投与に適した形態を成す、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
固体、半固体、液体、および、粉末の顆粒の形態を成す、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
(i)老化を遅延させる(老化防止)、(ii)免疫調節活性を向上させる、(iii)アレルギーを抑制、予防、または、治療する、(iv)炎症を抑制、予防、または、治療する、(v)腸炎症に関連する慢性疾患を予防または治療する、および/または、(vi)気分障害もしくは神経症状を予防および/または治療する、または、被検体のニューロンのアポトーシスもしくは神経変性に関連する疾患を治療もしくは予防するための、請求項1に記載の
PS23を含む製剤。
【請求項7】
前記老化防止は、免疫老化を予防もしくは遅延させる、サルコペニアを予防もしくは遅延させる、または、腸バリアもしくは腸管免疫を高めることを含む、請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
前記PS23は、免疫系の年齢に関係する劣化または免疫老化、および、炎症加齢に関連する慢性疾患を予防または治療できる、請求項6に記載の製剤。
【請求項9】
前記PS23は、サルコペニアを予防または遅延させることができる、請求項6に記載の製剤。
【請求項10】
ニューロンのアポトーシスまたは神経変性に関連する疾患は、卒中、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン-ALS-痴呆複合症、ウィルソン病、多発性硬化症、進行性核上性麻痺、神経障害性疼痛関連の双極性障害、大脳皮質基底核変性症、統合失調症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、認知症、筋萎縮性側索硬化症、網膜疾患、てんかん、脳卒中、一過性脳虚血発作、心筋虚血、筋虚血、脳に対する血流の延長停止に関する手術法により生じる虚血、頭部外傷、脊髄損傷、低酸素症、および、うつ病からなる群から選ばれる、請求項6に記載の製剤。
【請求項11】
前記PS23は、学習能力、記憶力、および、自発運動活性を高めることができる、請求項6に記載の製剤。
【請求項12】
前記PS23は、ストレス関連の疾患を予防または治療できる、請求項6に記載の製剤。
【請求項13】
前記ストレス関連の疾患は、慢性的な脳の炎症、脳血管事故、老化、および、神経変性病を含む、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
前記PS23は、睡眠の質および効率を高めることができる、請求項6に記載の製剤。
【請求項15】
前記腸炎症に関連する慢性疾患は、炎症性腸疾患、および、炎症性腸症候群を含む、請求項6に記載の製剤。
【請求項16】
請求項1に記載の
PS23は、約1×10
7~約1×10
13細胞/日の量の加熱殺菌したPS2
3として、または、約1×10
7~約1×10
13CFU/日の量の生きたPS2
3として投与される、請求項6に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なプロバイオティクスおよびその応用に関する。
特に、本発明は、新規な乳酸菌、関連組成物、および、その使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機構(WHO)は、プロバイオティクスを“生きた微生物であり、十分な量で投与すると、宿主に対して健康的な有益性をもたらす”と定義している。乳酸菌などのプロバイオティクスは、腸機能調節活性、免疫刺激活性、および、抗がん活性を有する。
【0003】
牛乳、パン、野菜、および、他の食用植物材料を含む発酵食品の製造にはさまざまな株の乳酸菌(LAB)が用いられている。乳酸菌(LAB)は、グラム陽性菌の一種であり、一般的に発酵食品の生産に用いられる。食事、および、臨床用途における乳酸菌の利点は、広く研究されている。乳酸菌は、腐敗細菌の成長を阻害するため、発酵中に生成される発酵産物の低pHおよび作用を生かして食品を保存するための発酵材料として利用されてきた。このため、乳酸菌は、チーズ、ヨーグルト、および、他の発酵乳製品などのさまざまな種類の食料品を調製するために用いられてきた。乳酸菌は、摂取するとすぐにヒトや動物に対して有益な性質を示すということが分かっているという点で、大いに注目されている。特に、ラクトバチルスまたはビフィドバクテリウムの特定の株は、腸粘膜にコロニーを形成し、ヒトおよび動物の健康維持に役立たせることができることがわかっている。抗炎症活性および免疫調節活性は、乳酸菌のよく知られた特性である。特許文献1は、ラクトバチルスジョンソニー(Lactobacillus johnsonii)株のDNA配列の使用に関し、特に、微生物と、それらがコロニーを形成する宿主との相互作用を解明し、さらに、そのような株によって示されるプロバイオティック特性の原理を解明するためのゲノム配列に関する。特許文献2は、気分障害、または、神経症状を改善し、神経変性疾患を治療または予防するため、単離した乳酸菌であるラクトバチルスファーメンタム(Lactobacillus fermentum)PS150を提供している。
【0004】
しかしながら、健康に良い新規のプロバイオティクスの開発が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第7875421号
【文献】国際公開公報第2018/129722
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、単離および精製された乳酸菌であるラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)PS23を提供する。PS23は、ライプニッツ研究所DSMZ・ドイツ微生物細胞培養コレクションにブダペスト条約に基づき寄託され、DSMZ受託番号32322が付与されている。
【0007】
また、本開示は、本発明のPS23細胞を含む組成物、および、任意で、食用担体、または、医薬的に許容される担体も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態では、PS23細胞は、生存または死細胞である細菌全体の形態で用いられ得る。一実施形態では、組成物は、経口投与に適した形態を成す。さらなる実施形態では、組成物は、固体、半固体、液体、および、粉末の顆粒の形態を成す。
【0009】
本開示は、また、(i)老化を遅延させる(老化防止)、(ii)免疫調節活性を向上させる、(iii)アレルギーを抑制、予防、または、治療する、(iv)炎症を抑制、予防、または、治療する、(v)腸炎症に関連する慢性疾患を予防または治療する、および/または、(vi)気分障害もしくは神経症状を予防および/または治療する、または、被検体のニューロンのアポトーシスもしくは神経変性に関連する疾患を治療もしくは予防するための製剤の製造における、請求項1に記載の乳酸菌の使用に関する。
【0010】
一実施形態では、老化防止は、免疫老化を予防もしくは遅延させる、サルコペニアを予防もしくは遅延させる、または、腸バリアもしくは腸管免疫を高めることである。
【0011】
一実施形態では、PS23は、免疫系における年齢に関係する劣化(すなわち免疫老化)および炎症加齢に関連する慢性疾患を予防または治療できる。
【0012】
一実施形態では、PS23は、サルコペニアを予防または遅延させることができる。
【0013】
一実施形態では、ニューロンのアポトーシスまたは神経変性に関連する疾患は、卒中、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン-ALS-痴呆複合症、ウィルソン病、多発性硬化症、進行性核上性麻痺、神経障害性疼痛関連の双極性障害、大脳皮質基底核変性症、統合失調症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、認知症、筋萎縮性側索硬化症、網膜疾患、てんかん、脳卒中、一過性脳虚血発作、心筋虚血、筋虚血、脳に対する血流の延長停止に関する手術法により生じる虚血、頭部外傷、脊髄損傷、低酸素症、および、うつ病からなる群から選ばれる。
【0014】
一実施形態では、PS23は、ストレス関連の疾患を予防または治療できる。一実施形態では、PS23は、睡眠の質および効率を向上させることができる。
【0015】
一実施形態では、腸炎症に関連する慢性疾患は、炎症性腸疾患、または、炎症性腸症候群である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】ラクトバチルスパラカゼイ亜種パラカゼイP23、および、他のラクトバチルスカゼイおよびラクトバチルスパラカゼイ株を示す。Mは、マーカー(250~10,000bp);第1列は、ラクトバチルスパラカゼイ亜種トレランスATCC 25599;第2列は、ラクトバチルスパラカゼイ亜種パラカゼイATCC 25302;第3列は、ラクトバチルスカゼイ亜種カゼイATCC393;第4列は、ラクトバチルスパラカゼイ亜種パラカゼイPS23である。
【
図2】加熱殺菌したまたは生きたPS23による糞便の潜血スコアの減少を示す。
【
図3A】PS23によるDSS誘発性結腸短縮の抑制を示す。DSS処置した群の平均長は、対照群より著しく短い。
【
図3B】PS23によるDSS誘発性結腸短縮の抑制を示す。PS23は、結腸におけるDSS誘発性組織損傷を回復させる。
【
図4】PS23は、結腸の炎症性サイトカイン濃度およびMPO活性を低下させることを示す。
【
図5】PS23は、若年期のストレスによって誘発される異常な表現型を正常化できることを示す;(A)および(B)は、MSマウスがオープンフィールド領域の中心区画の滞在時間および進入回数が少ないことを示す;(C)は、MSマウスがEPMオープンアームで過ごす時間のパーセンテージが少ないことを示す;(D)は、立ち上がり回数が少なく、MSマウスの探索的行動が抑制されたことを示す;(E)は、MSは、マウスの不安様行動を引き起こすだけでなく、うつ様行動も引き起こすことを示す。
【
図6】PS23は、MS誘発性炎症を正常化することを示す。
【
図7】PS23は、MS誘発性HPA軸機能不全を正常化することを示す。
【
図8】PS23は、海馬におけるGRおよびBDNFタンパク質の発現を増加させることを示す。
【
図9】母子分離マウスの海馬におけるドーパミン代謝率を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
***p<0.001対対照群;
###p<0.001対MS群。
【
図10】モーリスの水迷路試験によるSAMP8マウスにおける学習能力および記憶力の行動評価を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。#p<0.05対非老化群;*p<0.05対老化群。
【
図11】オープンフィールド試験で評価したSAMP8マウスの自発運動活性を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。#p<0.05対非老化群;*p<0.05対老化群。
【
図12A】SAMP8マウスの脳組織におけるセロトニン量を示す。
【
図12B】SAMP8マウスの脳組織におけるドーパミン量を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図13】SAMP8マウスにおける血清BDNF濃度を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図14A】SAMP8マウスの前頭前皮質および海馬におけるSODの量を示す。
【
図14B】SAMP8マウスの前頭前皮質および海馬におけるGPxの量を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図15】SAMP8マウスの老化度の評価を示す。評価カテゴリは、(A)行動、(B)肌および毛、(C)眼および脊椎を含む。データは平均値±標準偏差として示されている。老化度判定基準は、Takeda et al.,Mechanisms of aging and Development.17(2):183-94 (1981)に従った。
【
図16】SAMP8マウスの貪食活性を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図17A】SAMP8マウスの血清中のIL-10の濃度を示す。
【
図17B】SAMP8マウスの血清中のTNF-αの濃度を示す。
【
図17C】SAMP8マウスの血清中のMPC-1の濃度を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図18】SAMP8マウスの脾臓細胞におけるトータルT細胞およびCD4+細胞のパーセンテージを示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図19】CoAによって刺激されたSAMP8マウスの脾細胞のIFNガンマおよびIL-5の産生量を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図20】SAMP8マウスの血清中のSODおよびGPx量に及ぼすPS23の影響を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図21B】SAMP8マウスの前肢握力を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図22】SAMP8マウスのヒラメ筋の酸素消費速度を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図23】SAMP8マウスの前脛骨筋における筋肉ミトコンドリアの合成に関連する遺伝子発現を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図24】SAMP8マウスの前脛骨筋における炎症性サイトカインIL-6の遺伝子発現を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図25B】SAMP8マウスの腸長を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図26A】SAMP8マウスの腸液におけるMCP-1の量を示す。
【
図26B】SAMP8マウスの腸液におけるIgAの量を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対非老化群;
*p<0.05対老化群。
【
図27A】オープンフィールド試験により評価した、繰り返しCORT注射を受けたマウスの総移動距離を示す。
【
図27B】オープンフィールド試験により評価した、繰り返しCORT注射を受けたマウスの中央区画滞在時間を示す。
【
図27C】オープンフィールド試験により評価した、繰り返しCORT注射を受けたマウスの中央区画進入回数を示す。
【
図27D】オープンフィールド試験により評価した、繰り返しCORT注射を受けたマウスの中央区画までの距離を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05、
##p<0.01対対照群;
*p<0.05、
**p<0.01対CORT群。
【
図28A】繰り返しCORT注射を受けたマウスの、強制水泳試験により評価した不動時間を示す。
【
図28B】繰り返しCORT注射を受けたマウスのショ糖嗜好性を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05対対照群;
*p<0.05、
**p<0.01対CORT群。
【
図29A】繰り返しCORT注射を受けたマウスの海馬におけるミネラルコルチコイド受容体の相対発現量を示す。
【
図29B】繰り返しCORT注射を受けたマウスの海馬におけるグルココルチコイド受容体の相対発現量を示す。
【
図29C】繰り返しCORT注射を受けたマウスの海馬におけるBDNFの相対発現量を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
##p<0.01、
###p<0.001対対照群;
*p<0.05、
**p<0.001対CORT群。
【
図30】繰り返しCORT注射を受けたマウスの糞便におけるビフィドバクテリウム種、ラクトバチルス種、および、クロストリジウムコッコイデス群の相対存在量を示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
##p<0.01、
###p<0.001対対照群;
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001対CORT群。
【
図31】繰り返しCORT注射を受けたマウスの脳組織におけるセロトニンレベルを示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
#p<0.05、
##p<0.05対対照群;
*p<0.05、
**p<0.01対CORT群。
【
図32A】PS23を1週間経口投与することによってPSQIスコアが向上したことを示す。
【
図32B】PS23を1週間経口投与することによって睡眠効率が向上したことを示す。データは平均値±標準偏差として示されている。
*p<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0017】
接続詞“および”によってつなげられた単語の群は、それらの単語のそれぞれおよびすべてがその群の中に存在することを要求していると見なされるべきではなく、むしろ、特に記載のない限り、“および/または”として読まれるべきである。同様に、接続詞“または”によってつなげられた単語の群は、その群の中で相互に排他的であることを要求していると見なされるべきではなく、むしろ、特に記載のない限り、“および/または”として読まれるべきである。さらに、本発明の要素または構成要素は、単数で記載されるかもしれないが、単数であると明確に記載していない限り、複数も本発明の範囲内に含まれる。
【0018】
本願明細書中で使用される単数を表す冠詞は、特に明記しない限り単数および複数のどちらも意味する。したがって、単数形を表す冠詞(必要に応じて文法上変化する)は、1つ以上を意味する。
【0019】
用語“プロバイオティクス”とは、適切な量で投与されたとき宿主に健康的効果をもたらす微生物として当技術では認識されている。プロバイオティクス微生物は、毒性のないこと、生存度、付着性、および、有益な効果に関していくつかの要件を満たさなくてはならない。これらのプロバイオティクスの特徴は、同種の細菌においてさえも株に依存する。
【0020】
本願明細書中で用いられる用語“医薬的に許容される”とは、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または、妥当な利益/危険比に比例する他の問題もしくは合併症なしで被検体(ヒトまたはヒトでない動物)の組織と接触して用いるのに適した、健全な医学的判断の範囲内での化合物、材料、組成物、および/または、剤形のことを指す。担体、賦形剤などは、それぞれが製剤の他の成分と共存できるという意味において“許容される”ものでなければならない。適切な担体、賦形剤などは、標準的な製薬の教科書で確認することができる。
【0021】
用語“食用担体”とは、被検体の組織と接触して用いるのに適した化合物、材料、組成物、および/または、剤形のことを指す。各担体もまた、製剤の他の成分と共存できるという意味において“許容される”ものでなければならない。本願明細書中で用いられる用語“有効量”とは、健全な医学的判断の範囲内において、治療される症状が著しく快方に向かうために十分多く、深刻な副作用を避けるために十分少ない(妥当な利益/危険比での)組成物における各株のコロニー形成単位(cfu)の量を指す。
【0022】
本願明細書中で用いられる用語“障害”は、“疾病”または“疾患”と置き換えられる。
【0023】
本願明細書中で用いられる用語“気分障害”とは、気分がひどく変化することを言い表す病気のカテゴリである。気分障害による病気は、大うつ病性障害、双極性障害(躁病-多幸性、活動過多、いい気になり過ぎる、非現実的な楽観主義)、持続性抑うつ障害(慢性低悪性度うつ)、循環気質(双極性障害の軽症型)、および、季節性感情障害(SAD)を含む。本願明細書中で用いられる用語“神経症状”とは、行動、記憶、または、認知の観点から、神経障害および疾患が脳機能に影響を及ぼす病気のカテゴリである。神経症状における病気は、これらに限定されないが、ストレス(慢性的な軽度のストレス)、認知低下、認知障害(軽度認知障害(MCI)を含む)、記憶力の衰え、一般的な記憶力の問題、認知障害、または、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、認知症、筋萎縮性側索硬化症、卒中、および、統合失調症などの神経変性疾患を含む。
【0024】
“治療”とは、特定の疾病または疾患の少なくとも1つの兆候、症状、徴候、または、影響を低下または減少させることを意味するものと理解される。本願明細書中で用いられる“予防”とは、発病率もしくは発病度を制限、低下させるか、または、疾病もしくは疾患の少なくとも1つの兆候もしくは徴候の進行を阻害することであると理解される。本願明細書中で用いられる用語“被検体”とは、本開示の化合物または組成物の投与から恩恵を受けることができる動物である。いくつかの実施形態では、被検体は、例えば、ヒト、霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、および、ラットやマウスなどの齧歯類を含む哺乳類である。典型的には、哺乳類は、ヒトである。
【0025】
一実施形態では、本発明は、単離および精製された乳酸菌であるラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)PS23を提供する。PS23は、ライプニッツ研究所DSMZ・ドイツ微生物細胞培養コレクションにブダペスト条約に基づき寄託され、DSMZ受託番号32322が付与されている。
【0026】
一実施形態では、単離および精製されたラクトバチルスパラカゼイ群は、健康なヒトの糞便から単離される。
【0027】
一実施形態では、16S rRNA遺伝子配列およびpheS遺伝子配列は、PS23がラクトバチルスパラカゼイ亜種パラカゼイに最も類似していることを示す。
【0028】
他の側面では、本発明は、本発明のPS23細胞を含む組成物、および、任意で、食用担体、または、医薬的に許容される担体を提供する。本発明の組成物において、PS23細胞は、生存していているかまたは生存していない可能性のある細菌全体の形態で用いられ得る。好ましくは、細菌細胞は、生きているまたは生存細胞として存在する。
【0029】
本発明の組成物は、投与に適したいかなる形態、特に、経口投与に適した形態であってよい。形態は、例えば、固体、半固体、液体、および、粉末の顆粒を含む。
【0030】
本発明の組成物の例としては、食品、特に、乳製品を含む栄養組成物が挙げられる。
【0031】
組成物は、例えば、カプセル、錠剤、飲料、粉末、または、乳製品であり得る。任意で、プロバイオティクス(乳酸菌など)の他の株が存在してもよい。好ましくは、本願の栄養組成物は、ベビーフード、乳児用調合乳、または、乳児用フォローオン調合乳である。好ましくは、本願の組成物は、栄養補助食品、医薬品、栄養強化食品、または、病人向けの特別食(医療用食品)である。本発明の栄養組成物は、補助食品、および、機能性食品も含む。“補助食品”とは、通常食品に用いられる化合物から生成される製品であって、錠剤、粉末、カプセル、ポーション、または、食物とは通常関係のない他の形状をなし、被検体の健康に有益な効果をもたらす。“機能性食品”とは、被検体の健康に有益な効果をもたらす食物である。特に、補助食品、および、機能性食品は、疾病に効く、または、疾病から守ってくれる生理学的効果を有し得る。本発明による組成物が栄養補助食品である場合、水、ヨーグルト、牛乳、または、果汁などの適切な飲料液と混ぜるか、または、固体もしくは流動食と混ぜるなどして投与し得る。
【0032】
その場合、栄養補助食品は、錠剤、丸薬、カプセル、トローチ剤、顆粒、粉末、懸濁液、小袋、トローチ、菓子、バー、シロップ、および、通常は単位用量形態である対応する剤形であり得る。好ましくは、栄養補助食品は、栄養補助食品を調製する従来の工程で製造される錠剤、トローチ剤、カプセル、または、粉末の形態で投与される、本発明の組成物を含む。
【0033】
本願明細書中に記載される組成物は、1つ以上の医薬的に許容される担体、賦形剤、結合剤、希釈剤などを含み得る医薬的に許容される組成物であってよい。本発明の組成物は、例えば、経口投与など、さまざまな経路の投与のために調製され得る。また、組成物は、カプセル化技術などにおける送達ビヒクルと組み合わせて提供され得る。
【0034】
経口投与のためには、粉末、懸濁液、顆粒、錠剤、丸剤、カプセル、ジェルキャップ、および、カプレットが固形の剤形として好ましい。これらは、例えば、本開示の1つ以上の化合物と、デンプンなどの少なくとも1つの添加剤、または、他の添加剤とを混合することによって調製され得る。適切な添加剤は、スクロース、ラクトース、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン、寒天、アルギン酸塩、キチン、キトサン、ペクチン、トラガカントゴム、アラビアゴム、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、合成もしくは半合成ポリマー、または、グリセリドである。任意で、経口投与形態は、不活性希釈剤、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、パラベンまたはソルビン酸などの保存剤、アスコルビン酸、トコフェロール、または、システインなどの抗酸化剤、崩壊剤、結合剤、増粘剤、緩衝液、甘味料、または、香料などの、投与しやすくするための他の材料を含み得る。錠剤および丸剤は、当技術分野で知られた適切なコーティング材料でさらに処理されてよい。
【0035】
経口投与のための液体剤形は、医薬的に許容されるエマルジョン、シロップ、エリキシル、懸濁液、および、溶液の形態をなし、水などの不活性希釈剤を含んでよい。医薬製剤および組成物は、これらに限定されないが、油、水、アルコール、および、それらの組み合わせなどの滅菌液を用いて、液体懸濁液、または、溶液として調製され得る。医薬的に適切な界面活性剤、懸濁剤、および、乳化剤が経口または非経口投与のために添加されてよい。
【0036】
さらなる側面では、本発明は、(i)老化を遅延させる(老化防止)、(ii)免疫調節活性を向上させる、(iii)アレルギーを抑制、予防、または、治療する、(iv)炎症を抑制、予防、または、治療する、(v)腸炎症に関連する慢性疾患を予防または治療する、および/または、(vi)気分障害もしくは神経症状を予防および/または治療する、または、被検体のニューロンのアポトーシスもしくは神経変性に関連する疾患を治療もしくは予防するための方法を提供する。方法は、本発明のPS23細胞、または、本発明のPS23細胞を含む組成物を、被検体に有効量投与することを含む。
【0037】
一実施形態では、有効量は、1日当たり約1×107~1×1013個の加熱殺菌したPS23細胞、または、1日当たり約1×107~1×1013コロニー形成単位(CFU)の生きたPS23細胞である。いくつかの実施形態では、有効量は、1日当たり約1×107~約1×1012、約1×107~約1×1011、約1×107~1×1010、約1×108~約1×1013、約1×108~約1×1012、もしくは、約1×108~約1×1011個の加熱殺菌したPS23細胞、または、1日当たり1×107~約1×1012、約1×107~約1×1011、約1×107~1×1010、約1×108~約1×1013、約1×108~約1×1012、もしくは、約1×108~約1×1011CFUの生きたPS23細胞である。さらなる実施形態では、有効量は、1日当たり約1×1010個の加熱殺菌したPS23細胞、または、1日当たり約1×1010CFUの生きたPS23細胞である。
【0038】
一実施形態では、老化防止は、これらに限定されないが、免疫老化を予防もしくは遅延させる、サルコペニアを予防もしくは遅延させる、または、腸バリアもしくは腸管免疫を高めることを含む。
【0039】
PS23は、貪食活性を高め、全身性炎症を回復させ、T細胞集団およびCD4+細胞集団の総数を増加させ、脾細胞におけるTh1/Th2応答のバランスをとる。したがって、PS23は、免疫系における年齢に関係する劣化(すなわち免疫老化)、および、心血管疾患、がん、および、2型糖尿病などの炎症加齢に関連する慢性疾患を予防または治療できる。
【0040】
また、PS23は、サルコペニアを予防または遅延させることができる。サルコペニアとは、加齢に伴って生じる筋肉量および筋力の低下のことであり、身体障害、生活の質の低下、および、フレイルと強い関連性がある。
【0041】
一実施形態では、ニューロンのアポトーシスまたは神経変性に関連する疾患は、卒中、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン-ALS-痴呆複合症、ウィルソン病、多発性硬化症、進行性核上性麻痺、神経障害性疼痛関連の双極性障害、大脳皮質基底核変性症、総合失調症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、認知症、筋萎縮性側索硬化症、網膜疾患、てんかん、脳卒中、一過性脳虚血発作、心筋虚血、筋虚血、脳に対する血流の延長停止に関する手術法により生じる虚血、頭部外傷、脊髄損傷、低酸素症、および、うつ病からなる群から選ばれ得る。
【0042】
PS23は、学習能力、記憶力、および、自発運動活性を高めることができる。したがって、PS23は、神経変性を予防および遅延させることができる。これらの効果は、脳の酸化ストレスを低下させ、脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を高めることによって達成される。したがって、PS23は、慢性的な脳の炎症、脳血管事故、老化、および、神経変性病などの中枢神経系(CNS)における老化および酸化ストレスに関連する疾患を予防、または、治療できる。
【0043】
いくつかの実施形態では、PS23は、ストレス関連の疾患を予防または治療できる。PS23は、不安様行動、探索的行動、および、うつ様行動を回復させ、HPA軸の機能不全を正常化し、海馬におけるGR(グルココルチコイドレセプター)およびBDNFタンパク質の発現を増加させ、ニューロンをストレスから守り、海馬におけるドーパミン代謝率を向上させる。
【0044】
いくつかの実施形態では、PS23は、ストレス関連の疾患を予防および治療する。
PS23は、コルチコステロン(CORT)誘発性うつ様行動を回復させ、海馬におけるグルココルチコイド受容体(GR)、ミネラルコルチコイド受容体(MR)、および、BDNFタンパク質の発現を増加させ、ニューロンをストレスから守り、脳内のセロトニンレベルを上昇させることができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、PS23は、睡眠の質および効率を向上させる。
【0046】
一実施形態では、PS23は、腸透過性を高め、腸炎症を抑制するか、または、粘膜免疫を高めることができる。一実施形態では、腸炎症に関連する慢性疾患は、これらに限定されないが、炎症性腸疾患、および、炎症性腸症候群を含む。
【0047】
図面の簡単な説明に続く発明を実施するための形態は、以下の実施例でより詳細に説明される。言うまでもなく、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0048】
材料および方法
【0049】
1.1 PS23の調製
【0050】
PS23(DSM32322)を健康なヒトの糞便から単離し、その16S rRNA遺伝子配列の系統発生的分類によって新規な株として識別した。単離したPS23を、マンロゴサシャープブロス(MRS;BD Difco(商標)、ベクトンディッキンソン、米国メリーランド州スパークス)に接種し、37℃で18時間培養し、6000×gの遠心分離に10分間かけて収穫した。ペレットをMRS+12.5%グリセロール中に再懸濁して1ミリリットル当たり5×109コロニー形成単位の最終濃度にした。その後、再懸濁溶液をフリーザーチューブにアリコートし、使用するまで-20℃で保存した。使用に当たり、アリコートを1時間予熱して37℃にし、マウスに投与する前に生理食塩水に再懸濁した。
【0051】
1.2 動物および飼育
【0052】
本研究に使用されるすべてのマウスは、国立実験動物センター(台北、台湾)から購入され、国立陽明大学の動物センターに収容された。部屋は、温度22±2度、湿度50~60%、12時間の明暗サイクルに保たれた。特に明記しない限り、マウスには、水および食事を適宜与えた(Lab Diet Autoclavable Rodent Diet 5010;PMI Nutrition International、米国ミズーリ州ブレントウッド)。すべての動物実験手順は、国立陽明大学の動物使用管理委員会によって検討され、承認されている。実験開始前に、マウスを1週間順化させた。
【0053】
1.3 実験計画およびサンプル採取
デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発潰瘍性大腸炎(UC)マウスモデルでは、雌のBALB/cマウス(6~8週齢)を健康(対照)、UC対照(DSS)、DSS+加熱殺菌したP23(加熱殺菌)、および、DSS+生きたPS23(生)群に無作為に割り当てた。1日目から7日目まで、対照群およびDSS群のいずれにも生理食塩水を経口投与し、加熱殺菌群および生群には加熱殺菌したPS23(1×109細胞/マウス/日)、または、生きたPS23(1×109CFU/マウス/日)をそれぞれ経口投与した。8日目、すべてのDSS群の飲み水を5%のDSS水(g/mL)と交換した。14日目、糞便潜血値を測定するためにマウスの糞便を収集した。糞便収集後、マウスを二酸化炭素窒息により死亡させた。結腸を注意深く切除して盲腸から肛門までの長さを測定した。測定の直後に、遠位結腸の小さな部分を切り取り、組織学用の10%リン酸緩衝ホルマリンで固定した。結腸タンパク質の抽出まで、結腸の残りの部分を-80℃で保存した。
【0054】
MS(母子分離)マウスモデルでは、雌の時限妊娠したC57BL/6Jマウスを用いた。PS23の精神作用効果を評価すべく、MS実験群にPS23を投与した。MS群には生理食塩水に再懸濁して加熱殺菌したPS23(1×109細胞/マウス/日)または生きたP23((1×109CFU/マウス/日)をPD29から4週間、強制飼養により投与し、その一方で、MSおよびナイーブ対照群には、同じ期間生理食塩水を与えた。PS23による治療期間の終わりに、マウスに一連の行動試験を行った。試験は、オープンフィールド試験(OFT)、高架式十字迷路試験(EPM)、強制水泳試験(FST)の順に、最もストレスの小さいものから大きいものへと行っていった。
すべての試験は、明るい状態の時に行われた。
【0055】
1.4 結腸組織の均質上清の調製
【0056】
プロテアーゼ阻害剤(シグマアルドリッチ、米国ミズーリ州セントルイス)の存在下で、結腸組織をRIPA緩衝液(50mMのTris-HCl(pH7.5)、150mMのNaCl、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、1%のNP-40、および、0.1%のSDS)に均質化した。結腸タンパク質ホモジネートを氷上で15分間インキュベートし、4℃で、12,000gの遠心分離に10分間かけた。上清を収集して分析するまで-80℃で保存した。ブラッドフォードアッセイによりタンパク質含有量を決定した。
【0057】
1.5 サイトカイン産生の決定
【0058】
血清、または、結腸組織の均質上清におけるサイトカイン濃度を市販のキットで測定した(BiolegendのELISAキットで用いられるIFN-γおよびIL-10、および、eBioscienceのELISAキットで用いられるIL-8、TNF-α、IL-1β、および、IL-6)。
【0059】
1.6 ミエロペルオキシダーゼ活性アッセイ
結腸組織の均質上清におけるミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性のレベルを、市販のキットであるCayman MPO過酸化アッセイキットで測定した。
【0060】
1.7 オープンフィールド試験
【0061】
マウスの自発運動活性をオープンフィールド試験(OFT)により検査した。この試験では、マウスをオープンフィールド活動チャンバに10分間置いた(ツルースキャンアクティビティシステム(Tru Scan Activity System);Coulbourn Instruments、米国ペンシルベニア州ホワイトホール)。四角い活動チャンバ(25.4×25.4×38cm)は、両側に光ビームセンサバーを付けたプレキシガラス壁で形成されている。各試験後にボックスを70%エタノールで清浄した。活動は自動的に記録され、ツルースキャン2.2ソフトウェア(Coulbourn Instruments)により定量化された。総移動距離、移動時間、および、中心区画からの距離および中心区画滞在時間をツルースキャンアクティビティシステムにより測定した。中心部の12.5×12.5cmの領域を中心区画として定義した。
【0062】
1.8 高架式十字迷路試験
高架式十字迷路は、2つのクローズドアームと2つのオープンアームとからなる(高さ45cm、アームの全長66cm、アームの幅10cm、クローズドアームの壁の高さ30cm)。この試験は、マウスの不安様行動を評価するために行われた。交差するアーム(10×10cm)の中心にマウスを置き、迷路の中を10分間自由に探索させた。各試験後に迷路を70%エタノールで清浄した。マウスの活動を迷路中央の天井に取り付けたビデオカメラで記録した。記録された行動を後にEthoVisionビデオトラッキングソフトウェア(Noldus Information Technology、オランダ、ヴァーヘニンゲン)によって分析した。オープンアームおよびクローズドアームにおける総移動距離および滞在期間を定量化した。
【0063】
1.9 強制水泳試験
【0064】
マウスのうつ様行動を評価するために強制水泳試験(FTS)を用いた。簡単に説明すると、マウスを透明なアクリルシリンダ(高さ30cm、内径10cm、水(23~25℃)を15cm入れる)に入れ、初日は6分間泳がせた。泳いだ後のマウスをティッシュペーパーで拭き、ホームケージに戻した。翌日、マウスに2回目の水泳セッションを5分間受けさせた。水泳セッションをビデオカメラで記録し、行動をEthoVisionビデオトラッキングソフトウェアで分析した。2回目のセッション中の不動時間を定量化した。
【0065】
1.10 血清コルチコステロン
【0066】
血清をまず希釈し、市販のCORT EIAキット(ケイマンケミカルカンパニー、米国ミシガン州)を用いてコルチコステロン濃度を分析した。製造業者の説明書に従い、キットに設けられた基準を用いてコルチコステロン濃度を補間した。
【0067】
1.11 統計分析
すべてのデータを平均値±標準誤差、または、平均値±標準偏差として示した。
【0068】
一元配置または二元配置分散分析(ANOVA)、および、適切な場合、ボンフェローニの事後検定またはスチューデントの両側t検定も用いて群間の差を分析した。
【0069】
実施例1
ラクトバチルスパラカゼイP23の遺伝子型決定
【0070】
PS23の16S rRNAおよびpheS DNA配列と最も類似する16S rRNAおよびpheS DNA配列を有する生物を以下の表に示す。
【表1】
【0071】
16S rRNA遺伝子およびpheS遺伝子の比較は、PS23がラクトバチルスパラカゼイ亜種パラカゼイに属することを示している。
【0072】
ERIC-PCR法および(GTG)
5-PCR法によりゲノムフィンガープリンティングを分析し、P23は、ラクトバチルスパラカゼイの新規株であることが示された(
図1参照)。
【0073】
API 50 CHLキット(bioMerieux、フランス)を用いてPS23の糖利用を調べた。発酵試験は、PS23がラクトバチルスパラカゼイ亜種パラカゼイに類似した生化学的性質を有することを示している。
【表2】
実施例2
PS23は腸出血を抑制する
【0074】
毎日5%のDSSを7日間投与すると組織をひどく損傷させ、腸から出血したので、DSS群の糞便には血が混じっている可能性がある。腸炎症の重症度を測定すべく、13日目に潜血分析のために各マウスの糞便を収集した。暗い色のサンプルほどスコアが高かった。
図2に示すように、DSS群の糞便の潜血スコアは、対照群より著しく高く(p<0.0001)、DSS処置後に腸出血が増加したことを示している。このことは、糞便およびマウスらの肛門が血まみれであるという我々の観察によって裏付けられ、DSSで処置したすべてのマウスが、軽度から重度の腸炎症を患っていることを示している。糞便の潜血スコアが低いことから、加熱殺菌PS23または生きたPS23の長期投与は、出血を抑制することができるとわかった(
図2)。スコアがDSS群より著しく低いことからわかるように、特に、生きたPS23は、加熱殺菌したものより効果的に出血を抑制した(
図2;p<0.05)。
実施例3
PS23は、DSS誘発性結腸短縮を抑制する
【0075】
DSSマウスモデルでは、短縮された結腸の長さに着目する。DSS処置群における平均長は、対照群より著しく短いことがわかった(
図3A;p<0.0001)。しかしながら、PS23群、特に、生きたPS23群における長さは、DSS群より著しく長かった(
図3A;p<0.01)。また、生きたPS23群におけるマウスの結腸にはより固い便が存在し、投与によって下痢が緩和したことがわかった。さらに、組織像は、腸細胞の損失、陰窩の炎症、好中球、粘膜固有層、上皮過形成、および、単核細胞の観察によって評価されるように、PS23が結腸におけるDSS誘発性組織損傷を回復させたことを示した(
図3B)。
実施例4
PS23は、結腸の炎症性サイトカイン濃度およびミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を低下させる
【0076】
DSS-結腸炎モデルでは、DSS誘発性腸炎症、および、TNF-α、IL-6、およびMPO活性の増大が報告されている。DSS処置したマウスの結腸組織でTNF-α、IL-6、およびMPO活性が増大したという同様な結果を見出した(
図4)。一方で、加熱殺菌したPS23および生きたPS23の投与はどちらも結腸組織におけるサイトカイン濃度およびMPO活性を低下させたが、どちらの群におけるTNF-α、IL-6、および、MPO活性の低下もDSS群に対する統計的有意差を達成した。(
図4;p<0.05)。
実施例5
PS23は、MS誘発性不安様行動および探索的行動を抑制する
【0077】
C57BL/6Jマウスに母子分離(MS)を行い、オープンフィールド試験(OFT)、高架式十字迷路試験(EPM)、および、強制水泳試験(FST)を用いてMSマウスの行動を評価した。オープンフィールド領域の中心区画での滞在時間が少なく(
図5(A)および(B))、EPMのオープンアームで過ごす時間のパーセンテージが少ない(
図5(C))。これは、MSがマウスをより不安にさせていることを示している。また、立ち上がり回数も少ないことがわかった(
図5(D))。これは、MSマウスの探索的行動が抑制されたことを示している。さらに、FSTでの不動時間が長くなっているように(
図5(E))、MSは、マウスの不安様行動を引き起こすだけでなく、うつ様行動も引き起こすことがわかった。興味深いことに、加熱殺菌したPS23および生きたPS23を両方とも4週間投与することにより、それらは緩和した(
図5)。これは、PS23が若年期のストレスによって誘発される異常な表現型を正常化できることを示している。
実施例6
PS23は、MS誘発性炎症を正常化する
【0078】
MS群では、血清のTNF-α、および、IL-6は、対照より高いが、抗炎症性サイトカインIL-10は低いというように、MSは、亢進した炎症に対するマウスの免疫をシフトさせることがわかった(
図6)。その一方で、PS23の長期投与は、低下した血清TNF-α、IL-6、および、上昇したIL-10濃度によって示されるように、炎症を抑制した。過度に活性化した免疫反応は、物理的および心理的障害のリスクを高めるので、MSマウスにおける我々の発見は、前のDSS実験で示されたPS23の抗炎症作用を反映し、また、PS23がどのようにしてMSマウスの不安様行動およびうつ様行動を改善するのかということの部分的な根拠となるかもしれない。
実施例7
PS23は、MS誘発性HPA軸機能不全を正常化する
【0079】
MSがHPA軸を破壊することを示す過去の研究とほぼ一致し、MSマウスのCORT濃度は、基礎的状態およびストレス状態のいずれにおいても非MS対照マウスとは異なり、基礎的状態においてHPA軸活動が過剰になることがわかった(
図7;p<0.01)。にもかかわらず、FSTの30分後にCORT濃度は低下し、CORT濃度の基礎的状態とストレス状態との比は、対照より著しく低いことがわかった(
図7;p<0.0001)。これは、HPA軸がMSによって損なわれ、刺激直後の十分なCORT濃度を維持できなくなったことを示唆している。これに対し、加熱殺菌したPS23および生きたPS23のいずれのCORT濃度も、MS群からほぼ対照群の濃度まで改善した(
図7)。これは、PS23が調節不全のHPA軸を正常化することを示している。
実施例8
PS23は、海馬におけるGRおよびBDNFタンパク質発現を増加させる
【0080】
GRは、HPA軸のフィードバック阻害の原因となる主要な受容体である。HPAへの、MSおよびPS23の影響をより詳しく調べるべく、海馬のGRタンパク質レベルを検査した。MSマウスではGR発現が減少することがわかった(
図8)。これは、MSが、HPA軸のフィードバックループを損ない、MS群における血清CORT濃度の上昇の原因となり得ることを示している。また、この領域ではBDNFタンパク質レベルが低下することもわかった(
図8)。海馬におけるBDNF濃度の変化は、うつと関係がある。若年期には、MSがマウスの海馬の発達を阻害し、その結果BDNF濃度が不十分となり、ストレス反応を弱める。これに対し、加熱殺菌したPS23および生きたPS23の両方を長期投与することによって、低下したGRおよびBDNFのタンパク質レベルをMS群よりも著しく高くなるように回復させ(
図8;p<0.05)、海馬のニューロンをストレスから守ることができる。生きたPS23または加熱殺菌したPS23の経口投与は、海馬におけるドーパミン代謝率を向上させた(
図9)。
実施例9
老化促進マウス(Anti-aging Study in Senescence Accelerated Mouse-Prone 8)(SAMP8)モデル
【0081】
【0082】
PS23は、神経変性を予防および遅延させた。PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの学習および記憶力を向上させた(
図10)。
【0083】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの自発運動活性を向上させた(
図11)。
【0084】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスのセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の濃度を高めた(
図12Aおよび
図12B)。
【0085】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの血清BDNF濃度を高めた(
図13)。
【0086】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの前頭前皮質および海馬におけるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、および、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などの抗酸化酵素量を増加させた(
図14Aおよび
図14B)。
【0087】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの老化に伴う生理的変化を遅延および予防した(
図15(A)~(C))。
【0088】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの老化によって低下した貪食活性を高めた(
図16)。
【0089】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの抗炎症性サイトカインIL-10を増加させ、炎症性サイトカインTNF-αを減少させ、炎症性ケモカインMCP-1を減少させることによって全身性炎症を回復させた(
図17A~
図17C)。
【0090】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの脾臓細胞におけるトータルT細胞およびCD4+細胞集団の総数を増加させた(
図18)。
【0091】
PS23の経口投与は、IFNガンマの産生を増大させ、補酵素A(CoA)によって刺激された老いたSAMP8マウスの脾細胞におけるIL-5を減少させた(
図19)。
【0092】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの血清中のスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、および、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などの抗酸化酵素量を増加させた(
図20)。
【0093】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの筋肉量、および、握力を増大させた(
図21Aおよび
図21B)。
【0094】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスのヒラメ筋の酸素消費速度を向上させた(
図22)。
【0095】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの筋肉ミトコンドリアの合成に関連する遺伝子発現を高めた(
図23)。
【0096】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの前脛骨筋における炎症性サイトカインIL-6の遺伝子発現を減少させた(
図24)。
【0097】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの老化現象により損なわれた腸透過性および腸長を向上させた(
図25Aおよび
図25B)。
【0098】
PS23の経口投与は、老いたSAMP8マウスの腸液における炎症性サイトカインMCP-1を減少させ、分泌型免疫グロブリンA(IgA)を増加させた(
図26A及び
図26B)。
実施例10
PS23は、ストレス関連の疾患を予防および治療する
【0099】
PS23は、ストレス関連の疾患を予防および治療する。コルチコステロンを繰り返し注射することによって誘発されたうつモデルの実験計画を以下に示す。
【表3】
【0100】
生きたPS23または加熱殺菌したPS23の経口投与は、CORT誘発性不安様行動、および、探索的行動を回復させた(
図27A~
図27D)。生きたPS23または加熱殺菌したPS23の経口投与は、CORT誘発性うつ様行動を回復させた(
図28Aおよび
図28B)。生きたPS23または加熱殺菌したPS23の経口投与は、海馬におけるグルココルチコイド受容体(GR)、ミネラルコルチコイド受容体(MR)、および、BDNFタンパク質発現を増やし、ニューロンをストレスから守る(
図29A~
図29C)。
【0101】
生きたPS23または加熱殺菌したPS23の経口投与は、CORT誘発性うつマウスにおけるラクトバチルス種、および、ビフィドバクテリウム種などの「良い」細菌の相対存在量を増加させ、クロストリジウム属などの「悪い」細菌の相対存在量を減少させた。結果は、PS23の経口投与が、腸内微生物叢を変調し得ることを示した(
図30)。
【0102】
PS23の経口投与は、CORT誘発性うつマウスの脳におけるセロトニンレベルを上昇させた(
図31)。PS23は、睡眠の質と効率を向上させる。6人の健康な人々にPS23(3×10
10CFU/日)を1週間毎日投与した。睡眠の質と効率をピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)によって初日および7日目に評価した。結果は、PS23の経口投与が睡眠の質および効率を高めることを示した(
図32Aおよび
図32B)。