(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】甲状腺髄様がん標的用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 51/04 20060101AFI20230710BHJP
A61P 5/14 20060101ALI20230710BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A61K51/04 200
A61P5/14
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021540328
(86)(22)【出願日】2020-01-13
(86)【国際出願番号】 KR2020000582
(87)【国際公開番号】W WO2020145776
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】10-2019-0003836
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0003665
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521304944
【氏名又は名称】ヨンセイ・ユニバーシティ,ユニバーシティ-インダストリー・ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】University-Industry Foundation, Yonsei University
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】イ,ウンジク
(72)【発明者】
【氏名】ク,チョルリョン
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Internal Medicine,2009年,Vol.266,pp.126-140
【文献】Anticancer Research,2016年,Vol.36,pp.3803-3810
【文献】日本病院薬剤師会東海ブロック・日本薬学会東海支部合同学術大会2018 プログラム及び講演要旨集,2018年,p.140, Abstract No.I-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
嗅覚受容体OR51E2のリガンドである
、診断用放射性核種で構成されたアセテートを含む、甲状腺髄様がん標的用組成物。
【請求項2】
前記甲状腺髄様がんは、濾胞傍C-細胞(parafollicular C-cell)に由来するものである、請求項1に記載の甲状腺髄様がん標的用組成物。
【請求項3】
前記診断用放射性核種は、炭素-11(C-11)
または酸素-15(O-15)
である、請求項1に記載の甲状腺髄様がん標的用組成物。
【請求項4】
(a)請求項1~3のいずれか一項の組成物が投与された甲状腺髄様がんの発症が疑われる個体において該組成物の診断用放射性核種の信号を検出する段階と、
(b)検出された診断用放射性核種の信号を正常個体の信号と比較する段階と、を含む、甲状腺髄様がんを診断するための情報を提供する方法。
【請求項5】
前記甲状腺髄様がんを診断するための情報を提供する方法は、(b)段階で前記検出された信号が正常個体の信号よりも高い場合、個体は甲状腺髄様がんを発症するリスクが高いと判断する段階をさらに含むものである、請求項4に記載の甲状腺髄様がんを診断するための情報を提供する方法。
【請求項6】
(a)請求項1~3のいずれか一項の組成物が投与された甲状腺髄様がんが発症した個体において該組成物の診断用放射性核種の信号を検出する段階と、
(b)検出された診断用放射性核種の信号が甲状腺以外の部位で表示されるかどうかを確認する段階と、を含む、甲状腺髄様がんの転移の有無を確認するための情報を提供する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甲状腺髄様がんの起源である濾胞傍C-細胞(parafollicular C-cell)で嗅覚受容体OR51E2が発現することを用いた甲状腺髄様がん標的用組成物及び甲状腺髄様がん治療用薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
甲状腺にできたしこりを甲状腺結節といい、大きく良性と悪性に分けられる。このうち、悪性結節を甲状腺がん(thyroid cancer)といい、甲状腺がんを治療せずに放置すると、がんが大きくなり、周囲の組織を侵したり、リンパ節転移、遠隔転移を起こしてひどい場合、生命を失うことがある。甲状腺がんは、起源となる細胞の種類及び細胞の成熟度に応じて濾胞細胞に起源する乳頭がん(papillary thyroid cancer)と濾胞癌(follicular thyroid cancer)、低分化癌(poorly differentiated thyroid cancer)及び未分化癌(逆形成癌、undifferentiated thyroid cancer、anaplastic thyroid cancer)に分けられる。非濾胞細胞に起源する甲状腺がんには、髄様がんとリンパ腫及び転移性癌などがある。
【0003】
前記甲状腺がんの種類のうち、甲状腺髄様がん(medullary thyroid cancer)は、全体の甲状腺がんの1%未満を占め、体内のカルシウム量を調節するカルシトニン(calcitonin)を分泌する濾胞傍C-細胞(parafollicular C-cell)で発生する。甲状腺髄様がんは、多発性である場合が多く、転移が比較的よく発生し、手術後に放射性ヨード治療がよく効かないので、根本的な治療方法は、外科的手術により甲状腺を除去することである。殆どの甲状腺髄様がん患者においては、カルシトニンとCEA(carcino embryonic antigen)の血中数値が増加するため、前記2つの因子の血中数値は、甲状腺髄様がんの予後予測及び再発関連因子として活用される。しかし、前記2つの因子は、甲状腺髄様がんが形成された後に増加するため、甲状腺髄様がんを早期に診断することが難しく、これによって甲状腺髄様がんの治療も遅くなるという短所がある。
【0004】
本発明者らは、甲状腺髄様がんの標的化剤発掘のために努力した結果、甲状腺の濾胞傍C-細胞で嗅覚受容体OR51E1及びOR51E2が多く発現することを確認し、これを甲状腺髄様がんの診断、標的及び治療用途に使用できることを確認し、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、診断用放射性核種で標識された嗅覚受容体OR51E2のリガンドを含む甲状腺髄様がん標的用組成物を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、前記甲状腺髄様がん標的用組成物を使用して甲状腺髄様がんを診断する方法、甲状腺髄様がんの転移有無を確認する方法を提供することである。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、アセテート及びこれに結合された治療用放射性核種を有効成分として含む甲状腺髄様がん治療用薬学的組成物及びこれを用いた甲状腺髄様がん治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明の一態様は、診断用放射性核種で標識された嗅覚受容体OR51E2のリガンドを含む甲状腺髄様がん標的用組成物を提供する。
【0009】
本明細書において用いられる用語の「甲状腺髄様がん(medullary thyroid cancer)」は、カルシトニンを分泌する濾胞傍C-細胞(parafollicular C-cell)に由来する甲状腺がんで、発病率は低い方であるが、多発性である場合が多く、転移が比較的よく発生するため、甲状腺がんの中では、予後が悪い方に属する。また、手術後に放射性ヨード治療がよく効かないため、根本的な治療方法は、外科的手術で甲状腺を切除することである。
【0010】
本明細書において用いられる用語の「嗅覚受容体(olfactory receptor、OR)」は、匂い物質と選択的に結合する受容体で、ヒトは、約390個の嗅覚受容体を有している。匂い物質と嗅覚受容体間の選択的な結合によって嗅覚神経細胞で嗅覚神経信号が発生し、発生した嗅覚神経信号を大脳で感知して匂いを認知することになる。しかし、最近の研究によると、鼻の他に、皮膚、筋肉、腎臓、前立腺などでも嗅覚受容体が発現しており(異所性発現、ectopic expression)、匂い認知以外に嗅覚受容体の様々な機能に対する研究が行われている。
【0011】
本発明において用いられる嗅覚受容体OR51E2(Olfactory receptor 51E2)は、前立腺に多く発現してPSGR(Prostate-Specific G-Protein Coupled Receptor)とも呼ばれる。前立腺癌の悪性化に関与することが知られているが、甲状腺及び甲状腺がんにおける機能については、知られていない。
【0012】
本発明の一具体例において、前記嗅覚受容体OR51E2のリガンドは、アセテート(acetate)、ノナン酸(nonanoic acid)、プロピオネート(propionate)、ベータ-イオノン(β-ionone)、アゼライン酸(azelaic acid)、エストリオール(estriol)、エピテストステロン(epitestosterone)、19-OH AD(19-hydroxyandrost-4-ene-3,17-dione)、パルミチン酸(palmitic acid)、アンドロステンジオン(androstenedione)、D-アラニル-d-アラニン(D-alanyl-d-alanine)、グリシルグリシン(glycylglycine)、コージビオース(kojibiose)、尿素(urea)、AFMK(N-acetyl-N-formyl-5-metoxykynurenamine)、ペラルゴニジン(pelargonidin)、ヒドロキシピルビン酸(hydroxypyruvic acid)、ブラジキニン(bradykinin)、8-ヒドロキシグアノシン(8-hydroxyguanine)、イミダゾロン(imidazolone)、2-ピロリドン(2-pyrrolidinone)、2-ケトグルタル酸(2-ketoglutaric acid)、L-グリセリン酸(L-glyceric acid)、グリシン(glycine)及び13-シスレチノイン酸(13-cis retinoic acid)からなる群から選ばれてもよく、好ましくは、アセテートが用いられてもよい。
【0013】
本発明の一具体例において、前記診断用放射性核種は、炭素-11(C-11)、窒素-13(N-13)、酸素-15(O-15)、フッ素-18(F-18)、リン-32(P-32)、銅-64(Cu-64)、ガリウム-67(Ga-67)、ガリウム-68(Ga-68)、ルビジウム-82(Rb-82)、ジルコニウム-89(Zr-89)、テクネチウム-99m(Tc-99m)、インジウム-111(In-111)、ヨウ素-123(I-123)、ヨウ素-131(I-131)、キセノン-133(Xe-133)、タリウム-201(TI-201)及びトリウム-229(Th-229)からなる群から選ばれてもよい。
【0014】
本明細書において用いられる用語の「放射性核種(radionuclide)」は、不安定な原子核を持つ原子をいい、原子核が安定する方向に変化する過程で核反応が発生し、この過程でアルファ線、ベータ線、ガンマ線などの放射線が放出される。一般的にアルファ線とベータ線は、透過力は弱いが、物質の変性を起こし、特に生きている細胞のDNAに変性を引き起こす場合、その細胞を死滅させる性質が強く、がん細胞を殺す用途に使用される。ガンマ線は、電磁波であり、進行中にある物質に出会うと、その物質の化学結合の間を抜けていく確率が高いため透過力が高く、がん細胞死滅用途よりは疾病診断用途に多く使用される。
【0015】
本発明において、OR51E2のリガンドに放射性核種を標識する方法は、当業界に知られている方法を使用してもよい。例えば、OR51E2のリガンドに放射性核種に該当する元素が含まれている場合、リガンドの合成時に放射性核種を含んでリガンド自体が放射線を放出するように製造してもよい。また、リガンドがOR51E2に結合する能力を妨げない範囲で、リガンドの一部官能基または官能基の一部の元素を放射性核種に置き換えてもよい。他の方法では、リンカー(linker)を通じてリガンドと放射性核種または放射性核種を含む化合物を連結させることができる。前記リンカーには、DOTA(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetraacetic acid)、DTPA(Diethylene triamine penta aeetic acid)、DO3A(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7-triacetic acid)、NOTA(1,4,7-triazacyclononane-1,4,7-triacetic acid)、NODAGA(1,4,7-Triazacyclononane、1-glutaric acid-4,7-acetic acid)、TETA(1,4,8,11-tetraazacyclotetradecane-N、N'、N''、N'''-tetraacetic acid)などの両機能性キレート剤(bifunctional chelating agent、BCA)が用いられてもよい。前記リンカーは、金属性放射性同位元素と配位結合を形成してもよく、リンカーの中でDOTAまたはNOTAは、Ga-68の標識によく使用され、DOTAは、In-111、Y-90、Lu-177、Ga-68などの標識に広く使用される。
【0016】
本発明の一具体例において、前記OR51E2のリガンドとしては、アセテートを使用してもよく、この場合、アセテートの炭素元素を炭素-11に置き換えて使用してもよい。炭素-11は、半減期が20分で、炭素がすべての有機物の構成元素になるため、有機物の性質を変化させずに標識してもよい。
【0017】
本発明のさらに他の態様は、下記段階を含む甲状腺髄様がんの診断方法を提供する。
(a)第1項~第4項のいずれか一項の組成物を甲状腺髄様がんの発症が疑われる個体に投与する段階、
(b)投与した組成物の診断用放射性核種の信号を検出する段階、及び
(c)検出された診断用放射性核種の信号を正常個体の信号と比較する段階。
【0018】
本発明の一具体例において、前記甲状腺髄様がんの診断方法は、(c)段階で前記検出された信号が、正常個体の信号よりも高い場合、個体に甲状腺髄様がんが発症したと判断する段階をさらに含んでもよい。
【0019】
本発明において、嗅覚受容体OR51E2は、正常濾胞傍C-細胞でも発現するが、甲状腺髄様がんが発症した場合、濾胞傍C-細胞の数が増加することになり、正常個体(甲状腺髄様がんが発症しない個体)と比較して診断用放射性核種の信号が高く表示されるため、甲状腺髄様がんの発病有無を判断しうる。
【0020】
本発明のさらに他の態様は、下記段階を含む甲状腺髄様がんの転移有無を確認する方法を提供する。
(a)第1項~第4項のいずれか一項の組成物を甲状腺髄様がんが発症した個体に投与する段階と、
(b)投与した組成物の診断用放射性核種の信号を検出する段階、及び
(c)検出された診断用放射性核種の信号が甲状腺以外の部位で表示されるかどうかを確認する段階。
【0021】
本発明において、嗅覚受容体OR51E2は、甲状腺の濾胞傍C-細胞から発現し、甲状腺髄様がんが転移すると、濾胞傍C-細胞の移動により甲状腺以外の部位で診断用放射性核種の信号が表示されるので、放射性核種の信号が表示される位置を把握し、甲状腺髄様がんの転移有無及び転移の位置を判断しうる。
【0022】
本発明者らは、甲状腺に発現する嗅覚受容体を確認した結果、甲状腺の濾胞傍C-細胞において特異的にOR51E1及びOR51E2が発現し、OR51E2のリガンドであるアセテートを処理した場合、OR51E2が細胞内に移動することを確認した。したがって、放射性核種で標識されたOR51E2のリガンドは、OR51E2とともに濾胞傍C-細胞内に移動可能であり、結果として濾胞傍C-細胞を放射性核種であると確認しうる。
【0023】
本発明のさらに他の態様は、アセテート及びこれに結合された治療用放射性核種を有効成分として含む甲状腺髄様がん治療用薬学的組成物を提供する。
【0024】
本発明において、前記薬学的組成物の有効成分は、アセテート及びこれに結合された治療用放射性核種、または放射性核種で標識されたアセテートをすべて含む。
【0025】
本発明において、治療用放射性核種は、生体内でがんなどの目標とした標的に到達すると、放射線を放出してがん細胞を破壊する物質をいう。例えば、前記治療用放射性核種は、炭素-11(C-11)、窒素-13(N-13)、酸素-15(O-15)、フッ素-18(F-18)、リン-32(P-32)、銅-64(Cu-64)、ガリウム-67(Ga-67)、ガリウム-68(Ga-68)、ルビジウム-82(Rb-82)、ジルコニウム-89(Zr-89)、テクネチウム-99m(Tc-99m)、インジウム-111(In-111)、ヨウ素-123(I-123)、ヨウ素-131(I-131)、キセノン-133(Xe-133)、タリウム-201(TI-201)、トリウム-229(Th-229)、イットリウム-90(Y-90)、ホルミウム-166(Ho-166)及びレニウム-188(Re-188)からなる群から選ばれてもよい。好ましくは、ヨウ素-123(I-123)またはヨウ素-131(I-131)が使用されてもよく、ヨウ素-131(I-131)を使用することが最も好ましい。
【0026】
本発明者らは、甲状腺髄様がんの起源細胞である濾胞傍C-細胞で特異的にOR51E1及びOR51E2が発現し、OR51E2のリガンドであるアセテートを処理した場合、OR51E2が細胞内に移動することを確認した。したがって、治療用放射性核種と結合するか、または放射性核種で置換されたアセテートは、OR51E2とともに濾胞傍C-細胞内に移動でき、細胞内で放射線を放出してがん細胞を死滅させることができる。特に、すでに治療効果が知られている放射性核種を使用するため、甲状腺髄様がん細胞の死滅効果を高めることができる。アセテートと治療用放射性核種の結合方法は、前記診断用放射性核種の標識方法と同じ方法を使用してもよい。
【0027】
したがって、本発明は、前記薬学的組成物を甲状腺髄様がんの治療が必要な個体に投与する段階を含む甲状腺髄様がんの治療方法を提供する。
【0028】
本発明の薬学的組成物は、前記有効成分以外に、薬剤の製造に通常使用する適切な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含んでもよい。
【0029】
本発明による薬学的組成物は、それぞれ通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤形、外用剤、坐剤及び滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用してもよい。本発明の組成物に含まれてもよい担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾアート、プロピルヒドロキシベンゾアート、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱物油が挙げられる。
【0030】
製剤化する場合には、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調製される。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、本発明の組成物には、少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、デンプン、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調剤される。また、単純な賦形剤の他にマグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤も使用される。経口のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、よく使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィンの他に様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれてもよい。非経口投与のための製剤としては、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤には、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、エチルオレートのような注射可能なエステルなどが使用されてもよい。坐剤の基剤としては、ウィテプソル(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロールゼラチンなどが使用されてもよい。
【0031】
本発明の組成物は、経口または非経口で投与されてもよく、非経口投与法であれば、どれも使用可能であり、全身投与または局所投与が可能であるが、全身投与がより好ましく、静脈内投与が最も好ましい。
【0032】
前記本発明による薬学組成物の投与量及び投与時期は、投与対象の年齢、性別、疾病の種類、状態、体重、投与経路、投与回数、薬の形態によって異なりうる。一日の投与量は、約0.00001~1000mg/kgであり、好ましくは、0.0001~100mg/kgである。前記投与量は、疾患の種類、がんの進行程度、投与経路、性別、年齢、体重などによって適切に増減されてもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明の甲状腺髄様がん標的用組成物は、甲状腺の濾胞傍C-細胞から発現する嗅覚受容体OR51E2によって濾胞傍C-細胞内に陥入されるので、濾胞傍C-細胞に由来する甲状腺髄様がんの診断及び転移有無確認用途に有用に使用されてもよく、甲状腺髄様がん治療用薬学的組成物は、アセテートと嗅覚受容体OR51E2の結合によりがん細胞内に陥入されるので、甲状腺髄様がんを治療しうる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】正常甲状腺細胞と甲状腺髄様がん細胞を嗅覚マーカータンパク質(olfactory marker protein、OMP)及びカルシトニン(calcitonin)で染色した結果を示す。
【
図2】甲状腺髄様がん細胞株MZ-CRC1及びTT、未分化甲状腺がん細胞株FRO及びSW1736、甲状腺乳頭がん細胞株TPC-1及び甲状腺濾胞がん細胞株FTC-133を嗅覚マーカータンパク質抗体で染色した結果を示す。
【
図3】
図3において、Aは、様々な甲状腺がん細胞株においてOR51E1(Olfactory receptor 51E1)及びOR51E2の発現有無を確認した結果であり、B及びCは、甲状腺髄様がん細胞株MZ-CRC1及びTTをそれぞれOR51E1及びOR51E2抗体で染色した結果を示す。
【
図4】
図4において、Aは、濾胞傍C-細胞株に嗅覚受容体リガンドであるアセテート、ノナン酸、プロピオネート及びアゼライン酸を処理した後、p42/44のリン酸化レベルを確認した結果であり、Bは、濾胞傍C-細胞株にアセテートを処理した後、CREB及びp42/44のリン酸化レベルを確認した結果であり、Cは、cAMPのレベルを確認した結果を示す。
【
図5】
図5において、Aは、濾胞傍C-細胞細胞株にアセテートを処理した後、ブロモデオキシウリジンで細胞増殖の程度を分析した結果であり、Bは、細胞内カルシトニンの発現レベルを確認した結果であり、Cは、siRNAでOR51E2の発現を抑制した後、アセテートを処理してカルシトニンの放出レベルを確認した結果を示す。
【
図6】マウスの甲状腺組織をそれぞれ嗅覚マーカータンパク質(OMP)、カルシトニン及びOR51E2抗体で染色した結果を示す。
【
図7】
図7において、Aは、OR51E2遺伝子が緑色蛍光タンパク質(GFP)に置き換えられた形質転換マウスの甲状腺組織を抗体で染色した結果であり、Bは、野生型マウス及び前記形質転換マウスにアセテートを投与した後、血清でカルシトニンレベルを測定した結果を示す。
【
図8】
図8において、Aは、様々な甲状腺がん細胞株に
11C-アセテートを処理した後、陽電子放出程度を測定した結果であり、Bは、CPM(counter per minute)を測定した結果であり、Cは、甲状腺髄様がん細胞株にsiOR51E2を導入させた後、
11C-アセテートを処理してCPMを測定した結果であり、Dは、OR51E2ノックアウトマウスに
11C-アセテートを処理した後、CPMを測定した結果を示す。
【
図9】甲状腺髄様がん細胞株であるMZ-CRC-1及びTT細胞株にコールドアセテート(cold acetate)を先に処理した後、
11C-アセテートを競争的に処理するか(A及びB)、または
11C-アセテートを先に処理した後、コールドアセテートを競争的に処理して(C及びD)、CPMを測定した結果を示す。
【
図10】MZ-CRC-1細胞株にアセテートを処理した後、OR51E2抗体で細胞を染色した結果を示す。
【
図11】
図11において、Aは、MZ-CRC-1細胞株を投与して腫瘍が形成されたヌードマウスに
11C-アセテートを投与した後、陽電子放出断層撮影(PET)を行った結果であり、Bは、前記ヌードマウスの血清でカルシトニンレベルを測定した結果を示す。
【
図12】甲状腺髄様がん患者に
11C-アセテートを投与した後、PETを行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、一つ以上の具体例を実施例によってより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、一つ以上の具体例を例示的に説明するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない
【0036】
実施例1:嗅覚マーカータンパク質の発現確認
1-1.甲状腺組織及び甲状腺がん細胞株染色
甲状腺で嗅覚受容体(olfactory receptor)が発現するか確認するため、嗅覚マーカータンパク質(olfactory marker protein;以下、OMPという)の発現を確認した。正常甲状腺(thyroid gland)組織と甲状腺髄様がん(medullary thyroid cancer、MTC)細胞をOMP抗体(Rabbit anti-OMP;Santa Cruz、CA、USA)で染色した結果、甲状腺でOMPが発現することを確認でき、甲状腺を構成する細胞の中で濾胞傍C-細胞(parafollicular C-cell)のみでOMPが発現することが分かった(
図1)。甲状腺髄様がんは、濾胞傍C-細胞に由来する悪性甲状腺腫瘍で、カルシトニンは、濾胞傍C-細胞のマーカータンパク質である。
【0037】
1-2.甲状腺がん細胞株染色
甲状腺髄様がん細胞株であるMZ-CRC1及びTT、未分化甲状腺癌(anaplastic thyroid cancer)細胞株であるFRO及びSW1736、甲状腺乳頭がん(papillary thyroid cancer)細胞株であるTPC-1、甲状腺濾胞癌(follicular thyroid cancer)細胞株であるFTC-133をOMP抗体で染色した。
【0038】
その結果、様々な甲状腺がん細胞株の中でも濾胞傍C-細胞に由来する甲状腺髄様がん細胞株であるMZ-CRC1及びTT細胞株でOMPが多く発現することが確認できた(
図2)。
【0039】
1-3.嗅覚受容体の種類確認
甲状腺がん細胞株で発現する嗅覚受容体の種類を確認するためにRNAを分離した後、cDNAを合成して当業界に知られている方法によってリアルタイム-ポリメラーゼ連鎖反応(real-time polymerase chain reaction、RT-PCR)を行った。
【0040】
その結果、甲状腺髄様がん細胞株であるMZ-CRC1及びTT細胞株では、OR51E1(Olfactory receptor 51E1)とOR51E2が多く発現するが、他の甲状腺がん細胞株では、殆ど発現しないことが確認できた(
図3のA)。また、MZ-CRC1及びTT細胞株をそれぞれOR51E1及びOR51E2抗体で染色した結果、前記嗅覚受容体の発現がOMPの発現様相と殆ど一致することが分かった(
図3のB及びC)。
【0041】
実施例2:嗅覚受容体リガンドの影響確認
2-1.濾胞傍C-細胞に嗅覚受容体リガンド処理
甲状腺髄様がん細胞株でOR51E1及びOR51E2が多く発現するので、濾胞傍C-細胞株であるMZ-CRC1及びTT細胞株に嗅覚受容体リガンド(ligand)であるアセテート(acetate)、ノナン酸(nonanoic acid)、プロピオネート(propionate)及びアゼライン酸(azelaic acid)をそれぞれ100μMずつ処理してその影響を確認した。
【0042】
実験の結果、いくつかのリガンドの中でアセテートによってp42/44MAPK(mitogen-activated protein kinase)のリン酸化レベルが増加することが分かった(
図4のA)。また、アセテート処理濃度に比例してp42/44MAPK及びCREB(cAMP response element-binding protein)のリン酸化レベルが増加し(
図4のB)、CREBのリン酸化レベルが増加することによって細胞内cAMPのレベルも増加した(
図4のC)。
【0043】
その後、濾胞傍C-細胞にアセテートを濃度別に処理して培養した後、ブロモデオキシウリジン(Bromodeoxyuridine、BrdU)細胞増殖分析キット(Millipore、マサチューセッツ州)で製造業者のプロトコルに基づいてBrdU結合程度を分析した。
【0044】
その結果、アセテート処理によってBrdU結合レベルが増加することを確認して、細胞増殖が増加することが分かった(
図5のA)。また、アセテート処理によって細胞内のカルシトニンの発現レベルが増加し(
図5のB)、siRNAでOR51E2の発現を抑制した場合、アセテートを処理してもカルシトニンの放出は、増加しなかった(
図5のC)。
【0045】
2-2.マウスの甲状腺組織染色
8週齢の雌C57BL/6マウスから甲状腺を分離して組織切片を作製し、OR51E2、カルシトニン及びOMPをそれぞれの抗体で染色した。その結果、OR51E2、OMP及びカルシトニンが甲状腺組織で同じ部位に位置(co-localizaiton)することが分かった(
図6)。
【0046】
2-3.OR51E2ノックアウト(knockout)マウス
OR51E2遺伝子の位置に緑色蛍光タンパク質(GFP)が挿入されたC57/BL6マウスを購入(Jackson Laboratory、USA)して無菌条件で飼育した。一週間の純化期間を経た後、99%アセテート100μlを注射し、30分後にマウスを犠牲にして甲状腺及び血清を分離した。甲状腺は、カルシトニン及びGFP抗体でそれぞれ染色し、分離した血清では、カルシトニンの濃度を測定した。
【0047】
甲状腺染色の結果、カルシトニンとGFPが同じ部位に位置することが確認でき(
図7のA)、野生型マウスの場合、アセテートによって血清内のカルシトニンのレベルが上昇するが、OR51E2ノックアウトマウスは、カルシトニンレベルが殆ど一定に維持されることが分かった(
図7のB)。
【0048】
実施例3:嗅覚受容体OR51E2に対するアセテートの影響確認
3-1.11C-アセテート処理
起源が異なる甲状腺がん細胞株に放射性同位元素で標識された11C-アセテートを処理(20μCi)し、陽電子放出(positron emission)の程度を確認した。対照群としては、最もよく用いる放射性医薬品であるF-18フルデオキシグルコース(F-18-fluorodeoxyglucose)を処理した。
【0049】
その結果、甲状腺髄様がん細胞株で陽電子放出レベルが高いことが分かり、濾胞傍C-細胞のOR51E2にアセテートが結合することが確認でき(
図8のA)、CPM(counter per minute)の測定結果も甲状腺髄様がん細胞株において最も高いことが分かった(
図8のB)。
【0050】
甲状腺髄様がん細胞株にsiOR51E2を処理してOR51E2の発現を抑制する場合、
11C-アセテートを処理してもCPMが増加せず(
図8のC)、OR51E2ノックアウトマウスの場合、
11C-アセテートを処理しても野生型マウスと比較してCPMが増加しなかった(
図8のD)。
【0051】
3-2.アセテート結合競合実験
甲状腺髄様がん細胞株であるMZ-CRC-1及びTT細胞株にコールドアセテート(cold acetate;放射性同位元素で標識されないアセテート)100μMを処理した後、11C-アセテートを2、5、10、20、40及び60μCi濃度で処理してCPMを測定した。また、MZ-CRC-1及びTT細胞株に11C-アセテートを処理(20μCi)した後、コールドアセテートを0、20、40、80、150及び300μMの濃度で処理してCPMを測定した。
【0052】
コールドアセテートを先に処理し、
11C-アセテートを処理した場合、処理濃度が増加するほどCPMが増加した(
図9のA及びB)。逆に
11C-アセテートを処理した後、コールドアセテートを処理した場合、処理濃度が増加するほどCPMが減少した(
図9のC及びD)。その結果は、コールドアセテートと
11C-アセテートが互いに競争的にOR51E2に結合することを意味する。
【0053】
3-3.アセテートの甲状腺がん診断用途
アセテートとOR51E2の結合が甲状腺がんの診断に活用できるのか確認するため、MZ-CRC-1細胞株(濾胞傍C-細胞)にアセテート100μMを処理し、1分、5分、及び30分後に細胞を染色してOR51E2を確認した。その結果、アセテート処理によってOR51E2が細胞内に移動することが確認できた(
図10)。
【0054】
ヌードマウス(BALB/c)にMZ-CRC-1細胞株を投与(4x10
6細胞/マウス)して腫瘍の生成を誘導し、
11C-アセテートを投与した後、陽電子放出断層撮影(positron emission tomography、PET)を行った。その結果、MZ-CRC-1細胞株による腫瘍の生成部位に
11C-アセテートが蓄積されることが分かり(
図11のA)、血清内のカルシトニンの濃度は、
11C-アセテートの投与によって上昇することが確認できた(
図11のB)。
【0055】
これまでの結果によって、嗅覚受容体OR51E2のリガンドがアセテートであることを確認し、OR51E2とアセテートの結合によってOR51E2が細胞内に移動するので、アセテートが甲状腺髄様がんの診断用途に活用され得ることを確認した。