(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】主軸装置及び主軸装置を搭載した工作機械
(51)【国際特許分類】
B23B 31/117 20060101AFI20230710BHJP
【FI】
B23B31/117 601A
(21)【出願番号】P 2023003574
(22)【出願日】2023-01-13
【審査請求日】2023-03-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521123998
【氏名又は名称】株式会社MCK
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】金松 実
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-148049(JP,A)
【文献】実開昭61-195940(JP,U)
【文献】特開2013-208659(JP,A)
【文献】特開2017-221990(JP,A)
【文献】米国特許第05342155(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00 - 31/39
B23Q 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側と外側に二重に配置された第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とをその基部側に有する工具用又はワーク用のホルダー
を先端に装着して使用する主軸装置において、
前記ホルダーの前記第1の被クランプ部をクランプする第1のクランプ機構を前端側に有する第1のドローバーと、前記ホルダーの前記第2の被クランプ部をクランプする第2のクランプ機構を前端側に有する第2のドローバーとを備え、前記第1のドローバーと前記第2のドローバー
は主軸筒内で直列
又は一部が直列方向に重複した状態に配置させられるとともに、進退可能に配置させられ、
前記第1のドローバー
と主軸筒
によって前記主軸筒をシリンダとしてピストン
側となる前記第1のドローバーが進退
する
ように構成されるシリンダ装置が配設され、前記主軸筒内への圧力流体の導入によって前記ピストンは前記主軸筒内を軸方向に移動可能とされ、
前記第1のドローバーは、押動手段によって進出方向に押圧されることで、第1の付勢手段による付勢力に抗して前進させられ、前記第2のドローバーは前記第1のドローバーの前進に伴って前記第1のドローバーに直接的又は間接的に押動され第2の付勢手段による付勢力に抗して前進させられるように構成され、
前記押動手段によって前進させられた前記第1のドローバーは所定の進出位置で前記第1のクランプ機構が解除されるとともに、前記第1のドローバーに押動された前記第2のドローバーの前記第2のクランプ機構も解除され、
前記押動手段による押圧力の解除に伴って前記第1のドローバーは前記主軸筒基部方向に後退させられて前記第1のドローバーの前記第1のクランプ機構が作動させられ、前記第2のドローバーは前記第2の付勢手段の付勢力によって前記主軸筒基部方向に後退させられて前記第2のクランプ機構が作動され、
前記第1のドローバー
が進
出又は後退する少なくとも一方の動作の際に前記シリンダ装置
に導入された前記圧力流体の押圧力を前記第1のドローバーに付加するようにしたことを特徴とする主軸装置。
【請求項2】
前記押動手段による押圧力の解除に伴って前記第1のドローバーは前記シリンダ装置の押圧力と
前記第1の付勢手段の付勢力との合力によって前記主軸筒基部方向に後退させられて前記第1のドローバーの前記第1のクランプ機構が作動させられ、前記第2のドローバーは前記第2の付勢手段の付勢力によって前記主軸筒基部方向に後退させられて前記第2のクランプ機構が作動されることを特徴とする請求項1に記載の主軸装置。
【請求項3】
前記押動手段によって前進させられた前記第1のドローバーによって前記第1のクランプ機構が解除される際には、前記第1のドローバーの前進方向の推進力に前記シリンダ装置の前記ピストンの進出によって発生する押圧力が付加されていることを特徴とする請求項1に記載の主軸装置。
【請求項4】
内側と外側に二重に配置された第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とをその基部側に有する工具用又はワーク用のホルダー
を先端に装着して使用する主軸装置において、
前記ホルダーの前記第1の被クランプ部をクランプする第1のクランプ機構を前端側に有する第1のドローバーと、前記ホルダーの前記第2の被クランプ部をクランプする第2のクランプ機構を前端側に有する第2のドローバーとを備え、前記第1のドローバーと前記第2のドローバー
は主軸筒内で直列
又は一部が直列方向に重複した状態に配置させられるとともに、進退可能に配置させられ、
前記第1のドローバー
と主軸筒
によって前記主軸筒をシリンダとしてピストン
側となる前記第1のドローバーが進退
する
ように構成されるシリンダ装置が配設され、前記主軸筒内への圧力流体の導入によって前記ピストンは前記主軸筒内を軸方向に移動可能とされ、
前記第1のドローバーは、押動手段によって前進させられ、前記第2のドローバーは前記第1のドローバーの前進に伴って前記第1のドローバーに直接的又は間接的に押動され付勢手段による付勢力に抗して前進させられるように構成され、
前記押動手段によって前進させられた前記第1のドローバーは所定の進出位置で前記第1のクランプ機構が解除されるとともに、前記第1のドローバーに押動された前記第2のドローバーの前記第2のクランプ機構も解除され、
前記押動手段による押圧力の解除に伴って前記所定の進出位置にある前記第1のドローバーは前記シリンダ装置によって前記主軸筒基部方向に後退させられて前記第1のクランプ機構が作動され、前記第2のドローバーは前記付勢手段の付勢力によって前記主軸筒基部方向に後退させられて前記第2のクランプ機構が作動されるようにしたことを特徴とする主軸装置。
【請求項5】
前記押動手段によって前進させられた前記第1のドローバーによって所定の進出位置で前記第1のクランプ機構が解除される際に前記
シリンダ装置に導入された前記圧力流体の押圧力が付加されることを特徴とする請求項4に記載の主軸装置。
【請求項6】
前記押動手段による押圧力の解除に伴って作動する前記シリンダ装置は、前記第1の付勢手段が作動した後に作動することを特徴とする請求項1に記載の主軸装置。
【請求項7】
前記押動手段による押圧力の解除に伴って作動する前記シリンダ装置は
、第2の付勢手段が作動した後に作動することを特徴とする請求項4に記載の主軸装置。
【請求項8】
前記所定の進出位置から前記第1のドローバーが後退する際には、前記第2のドローバーの前記第2のクランプ機構が作動された後に前記第1のドローバーの前記第1のクランプ機構が作動することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の主軸装置。
【請求項9】
前記第1のクランプ機構は前記主軸
筒の径方向に進退する干渉体を有し、前記第1のドローバー
が第1の進出位置に配置された状態において、前記第1の被クランプ部をクランプする前記干渉体が、前記第2のドローバーの内周面に形成された収容部に面した位置に配置されることによって前記第1のクランプ機構が解除されることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の主軸装置。
【請求項10】
前記第2のクランプ機構は前記主軸
筒の径方向に進退する干渉体を有し、前記第1のドローバーが前記第1の進出位置に配置された状態において、前記第2の被クランプ部をクランプする前記干渉体が、前記主軸筒の内周面に形成された収容部に面した位置に配置されることによって前記第2のクランプ機構が解除されることを特徴とする請求項9に記載の主軸装置。
【請求項11】
前記ホルダーは前記主軸筒の先端に形成されたホルダー装着穴に装着されることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の主軸装置。
【請求項12】
ワーク用の前記ホルダーは進退可能なレバー部材に前記第1の被クランプ部が形成される構造とされ、前記主軸先端に装着された前記ホルダーに前記第2のクランプ機構が作動した状態で前記第1の被クランプ部を介して前記レバー部材が引き出されてアンクランプ状態の前記ワークがクランプされ、前記第1のドローバーが前進することで前記レバー部材は押し戻されクランプ状態の前記ワークがアンクランプされることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の主軸装置。
【請求項13】
請求項1~7のいずれかに記載の主軸装置を搭載した工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内側と外側に二重に配置された第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とをその基部側に有する工具用又はワーク用のホルダーを、主軸先端に装着させて使用する主軸装置及びそのような主軸装置を搭載した工作機械等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工具もワークもどちらも取り付け可能な工作機械の主軸に装着する多機能ホルダーが出願人によって開発されている。そのようなホルダーを主軸に装着する際に使用するホルダー保持機構、そのようなホルダー保持機構を有する主軸装置等もホルダーと同時に開発されている。
これらの技術が開示されている先行技術として特許文献1を示す。特許文献1の主軸装置ではこのような多機能ホルダーを装着するための独自のクランプ構造を備えている。具体的には、例えばその
図2に示すように、ホルダー自体をクランプ(把持する)ための外掴み機構(外ドローバ85、外ボール92a等から構成される)と、ホルダーのチャック機構を開閉するための可動式のプルスタッドのヘッドをクランプするための内掴み機構(内ドローバ84、内ボール92b等から構成される)を備える構成が採用されている。つまり、内側と外側に二重の被クランプ部を有する多機能ホルダーをクランプするための機構である。そして、主軸上部に配置された2つのシリンダ装置(2重押引機構9a)によって外ドローバ85と内ドローバ84をそれぞれ別個に進退させてクランプ動作をさせるようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、二つの被クランプ部をクランプするために上記のように2つのシリンダ装置を別個に主軸装置に配置させることは、主軸装置を大型化・重量化させることとなり、かつ複数のシリンダ装置が必要であるため高コスト化することとなる。また、2つのシリンダ装置の動作を制御しなければならず操作上も面倒である。また、メンテナンス上でも不利である。
そのため、例えばシリンダ装置のような押動手段を1つだけ使用して上記のようなホルダーの内側と外側の2箇所をクランプする機構が求められていた。
本発明は、このような問題点に鑑み主たる目的として、1つの押動手段を駆動させることで多機能ホルダーの内外の2箇所をクランプすることができる主軸装置及び主軸装置を搭載した工作機械等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために第1の手段では、内側と外側に二重に配置された第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とをその基部側に有する工具用又はワーク用のホルダーを先端に装着して使用する主軸装置において、前記ホルダーの前記第1の被クランプ部をクランプする第1のクランプ機構を前端側に有する第1のドローバーと、前記ホルダーの前記第2の被クランプ部をクランプする第2のクランプ機構を前端側に有する第2のドローバーとを備え、前記第1のドローバーと前記第2のドローバーは前記主軸筒内で直列又は一部が直列方向に重複した状態に配置させられるとともに、進退可能に配置させられ、前記第1のドローバーと主軸筒によって前記主軸筒をシリンダとしてピストン側となる前記第1のドローバーが進退するように構成されるシリンダ装置が配設され、前記主軸筒内への圧力流体の導入によって前記ピストンは前記主軸筒内を軸方向に移動可能とされ、前記第1のドローバーは、押動手段によって進出方向に押圧されることで、第1の付勢手段による付勢力に抗して前進させられ、前記第2のドローバーは前記第1のドローバーの前進に伴って前記第1のドローバーに直接的又は間接的に押動され第2の付勢手段による付勢力に抗して前進させられるように構成され、前記押動手段によって前進させられた前記第1のドローバーは所定の進出位置で前記第1のクランプ機構が解除されるとともに、前記第1のドローバーに押動された前記第2のドローバーの前記第2のクランプ機構も解除され、前記押動手段による押圧力の解除に伴って前記第1のドローバーは前記主軸筒基部方向に後退させられて前記第1のドローバーの前記第1のクランプ機構が作動させられ、前記第2のドローバーは前記第2の付勢手段の付勢力によって前記主軸筒基部方向に後退させられて前記第2のクランプ機構が作動され、前記第1のドローバーが進出又は後退する少なくとも一方の動作の際に前記シリンダ装置に導入された前記圧力流体の押圧力を前記第1のドローバーに付加するようにした。
これによって、押動手段によって押すだけで第1のクランプ機構と第2のクランプ機構の解除ができる。また、押動手段を退避させることで第1及び第2の付勢手段の付勢力によって第1のクランプ機構と第2のクランプ機構の両方を作動させることができ、ホルダーの2つの被クランプ部をクランプし、またアンクランプする構造が簡単になり、主軸装置の小型化・低コスト化に貢献することとなる。
また、第1のドローバーの進退の際にシリンダ装置のピストンの移動によって発生する押圧力(圧力流体の押圧力)を付加することによって、第1のドローバーの第1の付勢手段の付勢力にシリンダ装置の押圧力を組み合わせることができ、第1のドローバーの作動力を増強することができる。
【0006】
また、第2の手段として、前記押動手段による押圧力の解除に伴って前記第1のドローバーは前記シリンダ装置の前記ピストンの移動によって発生する押圧力と第1の付勢手段の付勢力との合力によって前記主軸筒基部方向に後退させられて前記第1のドローバーの前記第1のクランプ機構が作動させられ、前記第2のドローバーは前記第2の付勢手段の付勢力によって前記主軸筒基部方向に後退させられて前記第2のクランプ機構が作動されるようにした。
これによって、シリンダ装置の押圧力により特に第1のクランプ機構をより強い力で作動させることが可能となる。具体的には第1のドローバーがシリンダ装置のピストンの移動によって発生する押圧力と第1の付勢手段の付勢力との合力によって主軸筒基部方向に後退させる際には、それらの力は同時に作用してもいずれかが先に作用するようにしてもよい。
また、第3の手段として、前記押動手段によって前進させられた前記第1のドローバーによって前記第1のクランプ機構が解除される際には、前記第1のドローバーの前進方向の推進力に前記シリンダ装置の前記ピストンの移動によって発生する押圧力が付加されているようにした。
これによって、シリンダ装置の押圧力が第1の付勢手段の付勢力に加算されることにより第1のドローバーをより早い速度で進出させることができ、第1のクランプ機構をより早い速度でアンクランプさせることが可能となる。そして、第1のクランプ機構をより早い速度でアンクランプさせることで、第2のクランプ機構もより早い速度でアンクランプさせることができる。
【0007】
また、第4の手段として、内側と外側に二重に配置された第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とをその基部側に有する工具用又はワーク用のホルダーを先端に装着して使用する主軸装置において、前記ホルダーの前記第1の被クランプ部をクランプする第1のクランプ機構を前端側に有する第1のドローバーと、前記ホルダーの前記第2の被クランプ部をクランプする第2のクランプ機構を前端側に有する第2のドローバーとを備え、前記第1のドローバーと前記第2のドローバーは主軸筒内で直列又は一部が直列方向に重複した状態に配置させられるとともに、進退可能に配置させられ、前記第1のドローバーと主軸筒によって前記主軸筒をシリンダとしてピストン側となる前記第1のドローバーが進退するように構成されるシリンダ装置が配設され、前記主軸筒内への圧力流体の導入によって前記ピストンは前記主軸筒内を軸方向に移動可能とされ、前記第1のドローバーは、押動手段によって前進させられ、前記第2のドローバーは前記第1のドローバーの前進に伴って前記第1のドローバーに直接的又は間接的に押動され付勢手段による付勢力に抗して前進させられるように構成され、前記押動手段によって前進させられた前記第1のドローバーは所定の進出位置で前記第1のクランプ機構が解除されるとともに、前記第1のドローバーに押動された前記第2のドローバーの前記第2のクランプ機構も解除され、前記押動手段による押圧力の解除に伴って前記所定の進出位置にある前記第1のドローバーは前記シリンダ装置によって前記主軸筒基部方向に後退させられて前記第1のクランプ機構が作動され、前記第2のドローバーは前記付勢手段の付勢力によって前記主軸筒基部方向に後退させられて前記第2のクランプ機構が作動されるようにした
第4の手段の構成はシリンダ装置単独で第1のドローバーを後退させるケースである。
これによって、押動手段によって押すだけで第1のクランプ機構と第2のクランプ機構の解除ができる。また、押動手段を退避させることでシリンダ装置と付勢手段の付勢力によって第1のクランプ機構と第2のクランプ機構の両方を作動させることができ、ホルダーの2つの被クランプ部をクランプし、またアンクランプする構造が簡単になり、主軸装置の小型化・低コスト化に貢献することとなる。また、シリンダ装置による押圧力によって第1のドローバーの作動力を増強することができる。
また、第5の手段として、前記押動手段によって前進させられた前記第1のドローバーによって所定の進出位置で前記第1のクランプ機構が解除される際には、前記シリンダ装置に導入された前記圧力流体の押圧力が付加されるようにした。
これによって、シリンダ装置の押圧力が第1の付勢手段の付勢力に加算されることにより第1のドローバーをより早い速度で進出させることができ、第1のクランプ機構をより早い速度でアンクランプさせることが可能となる。そして、第1のクランプ機構をより早い速度でアンクランプさせることで、第2のクランプ機構もより早い速度でアンクランプさせることができる。
【0008】
上記において「第1のドローバー」はホルダーの第1の被クランプ部をクランプする第1のクランプ機構を前端側に備えている。前端側とは主軸先端側となる。ホルダーの第1の被クランプ部の配置位置は第2の被クランプ部との関係で定まり内側となる場合も外側となる場合もある。
また「第2のドローバー」はホルダーの第2の被クランプ部をクランプする第2のクランプ機構を前端側に備えている。第2のドローバーは第1のドローバーの前進に伴って記第1のドローバーに直接的又は間接的に押動される関係にある。第1のドローバーと第2のドローバーは直列に配置させられるが一部重複していてもよい。
また「押動手段」は例えば、油圧シリンダ装置、エアシリンダ装置、モータ装置等を駆動源とする例えばラム(ピストン)のような押圧部材を備えることがよい。押動手段(押圧部材)は第1のドローバーと連結されていても、連結されていなくてもよい。連結されていない場合には単に押動のために接するだけであるため主軸筒が回転する際の負荷にならなくてよい。
「第1の付勢手段」は、押動手段が第1のドローバーを押圧して第1のドローバーを進出させる際に、その進出に伴って圧縮され付勢力を内在することとなる。押動手段からの押圧力が解除されることで付勢力によって第1のドローバーを主軸筒基部方向に後退させることとなる。第1の付勢手段は押動手段に押圧される前からある程度の付勢力をすでに内在していることがよく、その付勢力によって常に第1のドローバーを主軸筒基部方向に押すような構成であることがよい。
「第2の付勢手段」は、第1のドローバーが押動手段によって押動されて前進し、それに伴って第2のドローバーも前進する際に第2のドローバーに圧縮され付勢力を内在することとなる。押動手段からの押圧力が解除されることで付勢力によって第2のドローバーを主軸筒基部方向に後退させることとなる。第2の付勢手段は押動手段に押圧される前からある程度の付勢力をすでに内在していることがよく、その付勢力によって第2のドローバーを主軸筒基部方向に押すような構成であることがよい。
第1及び第2の付勢手段は例えば、バネ装置であれば例えばコイルばね、皿ばね、板ばね等がよい。エアシリンダ装置、油圧シリンダ装置を使用するようにしてもよい。
「被クランプ部」は、クランプ機構によってクランプ(掴む)できる形状である必要がある。被クランプ部は、例えば張り出し部を有していたり、クランプ側の部材が嵌まり込む形状であることがよい。それによって被クランプ部がクランプ機構と干渉してホルダーの取り出し方向への移動が阻止されるためである。
「シリンダ装置」は、圧力流体によってシリンダ内でピストンがスライド移動して駆動される(進退する)一種のアクチュエータである。本発明では主軸筒をシリンダとしてピストンを介して第1のドローバーを進退(あるいは一方向のみの進出)させるために第1のドローバーの周囲に配置される。例えば、第1のドローバー自体が主軸筒をピストンとしたシリンダ装置を構成するようにしてもよい。シリンダ内へ圧力流体を供給する際には第1のドローバーの内部に流路を設けることがよい。圧力流体は、例えば作動油やクーラントを使用することがよい。シリンダ装置は1流路だけの単動仕様であっても2流路の複動仕様であってもよい。
「クランプ機構」は、被クランプ部に対して、例えば主軸の径方向に進退する干渉体を有する構造であることがよい。そして、被クランプ部が挿通される通路内に出没して被クランプ部をクランプすることがよい。干渉体の形状は例えばボール状、円筒状、樽状であることがよい。あるいは干渉体を例えばコレットのような軸を中心に揺動して主軸の径方向に進退するようにしてもよい。
「第2のドローバーが第1のドローバーに直接的又は間接的に押動される」ため、第1のドローバーが第2のドローバーに接して押動してもよく、他の部材を介して押動してもよい。
【0009】
「ホルダー」は内側と外側に二重に配置された第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とをその基部側に有している。工具用又はワーク用としていずれでも使用できる汎用性の高い多機能ホルダーであることがよい。第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とを有していても例えば工具用に特化したホルダーであってもよい。第1の被クランプ部と第2の被クランプ部の2つのクランプする部分があると、ホルダーの引っ張り力が向上するため、特に高負荷の切削に適する。この場合は多機能ホルダーではなく工具ホルダーとして機能する。
多機能ホルダーとした場合に、工具用としては、例えば、マシニングセンタのATC(自動工具交換装置:Automatic Tool Change)において用意される例えばフライス、ドリル、エンドミル、バイト、リーマ等の種々の加工工具を先端側にチャック機構によってチャッキングして装着して使用することができる。ワークの場合にはワークを直接的又は間接的に先端側にチャック機構によってチャッキングして装着し、例えばNC旋盤加工機でこのワークを加工することができる。チャック機構にはクランプ機構も含む。例えば、第1の被クランプ部をプルスタッドのようなレバー部材に形成させ、第1の被クランプ部を押引することでチャック機構を開閉させる。第2の被クランプ部はホルダー装着穴に装着される装着部に形成し、第2の被クランプ部によってホルダーを主軸筒の先端に装着するようにするとよい。
これらの諸定義は以下の手段でも同様である。
【0010】
また、第6の手段として、前記押動手段による押圧力の解除に伴って作動する前記シリンダ装置は、前記第1の付勢手段が作動した後に作動するようにした。
第1の手段において第1の付勢手段がシリンダ装置よりも先に作動することで、先に第2のドローバーの第2のクランプ機構を作動させることができる。そして、その後に第1のドローバーの第1のクランプ機構を作動させることができる。
また、第7の手段として、前記押動手段による押圧力の解除に伴って作動する前記シリンダ装置は、前記第2の付勢手段が作動した後に作動するようにした。
第6の手段において第2の付勢手段がシリンダ装置よりも先に作動することで、先に第2のドローバーの第2のクランプ機構を作動させることができる。そして、その後に第1のドローバーの第1のクランプ機構を作動させることができる。
また、第8の手段として、前記ピストンは前記第1のドローバーと一体的に形成されているようにした。
例えば、シリンダ装置のピストンを第1のドローバーの外壁と一体的に構成するような場合である。
これによって、第1のドローバー自体がピストンと一体化し主軸筒をシリンダとして駆動させられることとなり、部材点数が減り、軽量化やコンパクト化に寄与する。
また、第9の手段として、前記所定の進出位置から前記第1のドローバーが後退する際には、前記第2のドローバーの前記第2のクランプ機構が作動された後に前記第1のドローバーの前記第1のクランプ機構が作動するようにした。
このように時間差で第2のクランプ機構が作動された後に第1のクランプ機構が作動されるようにすることで、ホルダーの誤装着を防止することができる。
また、このように構成することで、例えばホルダーが正しく主軸装置に装着されて第2のクランプ機構によってクランプされ、その後に第1のクランプ機構が可動式のプルスタッドのヘッドをクランプするというような二段階のクランプ動作が可能となるため、ホルダーが正しく主軸装置に装着される前の例えば傾いた状態でプルスタッドをクランプしてしまったり、第1のクランプ機構がうまく作動しなかったりというような不具合が生じにくくなる。
【0011】
また、第10の手段として、前記第1のドローバーは前記第2のドローバーの内周面に接する外周面を備え、前記内周面と前記外周面に案内されて前後にスライド移動するようにした。
これによって、第1のドローバーが進退する際に、あるいは第1のドローバーに押動されて第2のドローバーが進出する際等の両者の相対的な進退動作において中心軸を一致させてがたつかずに移動させることができる。
また、第11の手段として、前記第1のクランプ機構と前記第2のクランプ機構とは前後方向にずれた位置に配置されている前記第1のクランプ機構よりも前記第2のクランプ機構は前記主軸先端寄りに配置されているようにした。
これによって、例えばホルダーの第1の被クランプ部と第2の被クランプ部の位置が前後にずれている場合に対応しやすく、第1のクランプ機構と第2のクランプ機構が同じ位置にないため両者が干渉してしまうこともない。
【0012】
また、第12の手段として、前記第1のクランプ機構は前記主軸の径方向に進退する干渉体を有し、前記第1のドローバーが前記第1の進出位置に配置された状態において、前記第1の被クランプ部をクランプする前記干渉体が、前記第2のドローバーの内周面に形成された収容部に面した位置に配置されることによって前記第1のクランプ機構が解除されるようにした。
具体的な第1のクランプ機構のクランプ状態からの解除構造の構成である。これによって、第1のクランプ機構のホルダーの第1の被クランプ部へのクランプ状態から解除(アンクランプ)することができる。
また、第13の手段として、前記第2のクランプ機構は前記主軸の径方向に進退する干渉体を有し、前記第1のドローバーが前記第1の進出位置に配置された状態において、前記第2の被クランプ部をクランプする前記干渉体が、前記主軸筒の内周面に形成された収容部に面した位置に配置されることによって前記第2のクランプ機構が解除されるようにした。
具体的な第2のクランプ機構のクランプ状態からの解除構造の構成である。これによって、第2のクランプ機構のホルダーの第2の被クランプ部へのクランプ状態から解除(アンクランプ)することができる。
ここでは干渉体が径方向に進出して被クランプ部をクランプし、そのクランプ状態が保持されることでホルダーは装着される。ホルダーの取り外し方向への移動を阻止する係合部があるとなおよい。径方向に進退する干渉体としては、例えば上記のようなボール等やコレットや割爪を配置してもよい。
【0013】
また、第14の手段として、前記ホルダーが前記主軸筒の先端に形成されたホルダー装着穴に装着されているようにした。
つまり、ホルダーが主軸装置のホルダー装着穴に装着され、自身の第1の被クランプ部と第2の被クランプ部が第1のクランプ機構と第2のクランプ機構にクランプされている状態である。
また、第15の手段として、ワーク用の前記ホルダーは進退可能なレバー部材に前記第1の被クランプ部が形成される構造とされ、前記主軸先端に装着された前記ホルダーに前記第2のクランプ機構が作動した状態で前記第1の被クランプ部を介して前記レバー部材が引き出されてアンクランプ状態の前記ワークがクランプされ、前記第1のドローバーが前進することで前記レバー部材は押し戻されクランプ状態の前記ワークがアンクランプされるようにした。
これによって、第2のクランプ機構を作動させてワーク用のホルダーをクランプした状態で第1のドローバーによってレバー部材を進退させることができるため、第1のドローバーの第1のクランプ機構のみでワークのクランプ・アンクランプが可能となっている。レバー部材とは例えばプルスタッドやプルボルト等である。
また、第16の手段として、第1~第15の手段のいずれかに記載の主軸装置を搭載した工作機械とすることがよい。
上述した第1~第16の手段の各発明は、任意に組み合わせることができる。特に、第1の手段の構成を備えて、第2~第16の手段の各発明の少なくともいずれか1つの構成と組み合わせを備えるとよい。第1~第16の手段の各発明の任意の構成要素を抽出し、他の構成要素と組み合わせてもよい。
【発明の効果】
【0014】
上記発明では、押動手段によって押すだけで第1のクランプ機構と第2のクランプ機構の解除ができる。また、押動手段を退避させることで第1のクランプ機構と第2のクランプ機構の両方を作動させることができ、ホルダーの2つの被クランプ部をクランプし、またアンクランプする構造が簡単になり、主軸装置の小型化・低コスト化に貢献することとなる。また、シリンダ装置による押圧力によって第1のクランプ機構の動作を補助することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1の主軸ユニットの一部破断縦断面図。
【
図2A】同じ実施の形態1の主軸ユニットの主軸装置において、連結ピンで第1のドローバーを押圧していない第1のドローバーと第2のドローバーがもっとも後退した状態を説明する装置要部の縦断面図。
【
図2B】同じ実施の形態1の主軸ユニットの主軸装置において、連結ピンで第1のドローバーを押圧して第1のドローバーのみが下動した状態を説明する装置要部の縦断面図。
【
図2C】同じ実施の形態1の主軸ユニットの主軸装置において、連結ピンで第1のドローバーを押圧して第1のドローバーと第2のドローバーがもっとも下動した状態を説明する装置要部の縦断面図。
【
図2D】
図2Cの状態の主軸ユニットの主軸装置に対しホルダーを着脱している途中の状態を説明する装置要部の縦断面図。
【
図2E】同じ実施の形態1の主軸ユニットの主軸装置において、押圧状態の連結ピンが少し上がり、第2のドローバーのみが上動してホルダーのフランジ部がクランプされた状態(第2のクランプ機構が作動した状態)を説明する装置要部の縦断面図。
【
図2F】同じ実施の形態1の主軸ユニットの主軸装置において、押圧状態の連結ピンが大きく上がり、第1のドローバーと第2のドローバーの両方が上動してホルダーの膨出部とフランジ部がそれぞれクランプされた状態(第1クランプ機構と第2のクランプ機構が両方作動した状態)を説明する装置要部の縦断面図。
【
図3A】同じ実施の形態1の主軸ユニットの主軸装置において、押圧状態の連結ピンがもっとも大きく上がり、第1のドローバーと第2のドローバーの両方が上動してホルダーの膨出部とフランジ部がそれぞれクランプされた状態(第1クランプ機構と第2のクランプ機構が両方作動した状態)を説明する装置要部の縦断面図。
【
図3B】同じ実施の形態1の主軸ユニットの主軸装置のクランプ機構周辺において、ホルダーの膨出部とフランジ部がそれぞれクランプされた状態で第1のドローバーが大きく後退してホルダーからプルスタッドを引き出した状態を説明する拡大説明図。
【
図4A】同じ実施の形態1の主軸ユニットの主軸装置のクランプ機構周辺において、第1のドローバーと第2のドローバーが内外のボールがロックされて出没不能となる位置に進出している状態を説明する拡大説明図。
【
図4B】同じ実施の形態1の主軸ユニットの主軸装置のクランプ機構周辺において、第1のドローバーと第2のドローバーが内外のボールが出没自在となる位置に進出している状態を説明する拡大説明図。
【
図4C】同じ実施の形態1の主軸ユニットの主軸装置のクランプ機構周辺において、
図4Bの状態で装着途中あるいは取り外し途中のホルダーの膨出部とフランジ部がいずれもクランプされていない状態を説明する拡大説明図。
【
図4D】同じ実施の形態1の主軸ユニットの主軸装置のクランプ機構周辺において、第2のドローバーが
図4Cの状態から後退してホルダーのフランジ部がクランプされている状態を説明する拡大説明図。
【
図4E】同じ実施の形態1の主軸ユニットの主軸装置のクランプ機構周辺において、第1のドローバーが
図4Dの状態から後退してホルダーの膨出部とフランジ部が共にクランプされている状態を説明する拡大説明図。
【
図6】チャック開放状態にあるチャックホルダーの(a)は正面図、(b)は底面図。
【
図7】チャック閉鎖状態にあるチャックホルダーの(a)は正面図、(b)は底面図。
【
図8】実施の形態2の主軸ユニットの一部破断縦断面図。
【
図9】工具チャックホルダーの(a)は正面図、(b)は縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて実施の形態を説明する。
<実施の形態1>
図1に示すように、自動工具交換装置としての主軸ユニット1は、主軸装置2と、主軸装置2の周囲に配設されたハウジング3に包囲されたベアリングユニット4、ハウジング3上方に配設された主軸回転機構5、主軸回転機構5上方に配設されたロータリージョイント6及びハウジング3の上部位置に固定されたシリンダ装置7とを主要な構成としている。まず、主軸ユニット1の概要について説明する。以下の説明では、主軸ユニット1は鉛直方向に主軸装置2の軸方向が配置されるものとして、主軸装置2の先端側は下部側とする。主軸ユニット1は図示しない主軸用フレームによって支持されている。
図1及び
図2A~
図2Fに示すように、合金製の主軸装置2は略円筒形形状の主軸筒8を備えている。主軸筒8は上下方向に連通された通路を備え、外周形状が真円形状とされている。主軸筒8内には第1のドローバー10と第2のドローバー11が収容されている。第1のドローバー10と主軸筒8の間には第1の付勢手段としての第1の皿バネ集合体12が配設されている。第2のドローバー11と主軸筒8の間には第2の付勢手段としての第2の皿バネ集合体13が配設されている。
【0017】
主軸装置2はベアリングユニット4に包囲されている。ベアリングユニット4は主軸ユニット1において主軸装置2を回転可能に支持する部分となる。ベアリングユニット4の内筒部4Aは主軸装置2に固定され主軸装置2と一緒に回転する部分となる。ベアリングユニット4の外筒部4Bはハウジング3側に固定され回転しない部分とされる。ハウジング3は図示しない主軸用フレームによって支持されている。
主軸筒8から上方側に露出した第1のドローバー10の外周には主軸回転機構5を構成する第1のプーリー14が固着されている。第1のプーリー14はロックナット19によって第1のドローバー10に固着されている。主軸筒8は第1のプーリー14の回転とともに回転する。第1のプーリー14から離間した側方位置には第2のプーリー15が図示しない主軸用フレーム側に固定された軸受によって支持されている。第1のプーリー14と第2のプーリー15の外周には駆動伝達用のベルト16が巻回されている。第2のプーリー15と同軸にモータ装置17の出力軸17aが接続されている。モータ装置17は図示しない主軸用フレーム側において支持されている。
第1のドローバー10の上端位置にはロータリージョイント6が配設されている。ロータリージョイント6は図示しない圧力源としての油圧ポンプ装置からの作動油を固定配管を介して主軸装置2内に供給する。ロータリージョイント6は、主軸装置2側と一緒に回転するシャフト部18Aと、図示しない外部の固定配管からの継手が接続される回転しないハウジング部18Bに分けられている。ハウジング部18Bを介して導入される作動油はシャフト部18Aを介して第1のドローバー10内部に供給され、循環して第1のドローバー10からシャフト部18Aを介して排出される。
【0018】
ハウジング3の上部位置にはシリンダ装置7が配設されている。押動手段としてのシリンダ装置7は第1のドローバー10を下方(進出方向に)押圧する機能を有する。シリンダ装置7はハウジング3上部に冠着された筒状のシリンダ本体20と、シリンダ本体20内に上下方向に進退可能に配置されたピストン21を備えている。シリンダ本体20はハウジング3に固定された回転しない部分とされる。シリンダ本体20は作動油の出入り口となる第1のポート23と、第2のポート24とを備えている。ピストン21は第1のドローバー10の外周を包囲するように配置され、第1のドローバー10との間にごくわずかな隙間を有することで、自身は回転せず第1のドローバー10の回転を許容する。ピストン21は第1のドローバー10の回転に連れ回りすることなくシリンダ本体20内に保持される。
ピストン21の下方位置であって主軸筒8の外方にはリング状のスライダ25が配設されている。スライダ25は連結ピン26によって保持されている。連結ピン26は第1のドローバー10の軸方向に対して直交する方向に挿通され、第1のドローバー10に対して固定されている。連結ピン26の両端は主軸筒8に形成された透孔22から外方に突出されスライダ25と連結されている。スライダ25と連結ピン26は第1のドローバー10に同期して第1のドローバー10(や主軸筒8)の回転とともに回転する。これによって、ピストン21の下方への押圧力はスライダ25を介して連結ピン26に伝達され、第1のドローバー10は連結ピン26に押動されて下方に移動可能となる。
シリンダ装置7は図示しない圧力源としての油圧ポンプ装置からシリンダ本体20内への作動油の供給を受けピストン21が上下方向にスライド移動する。ピストン21の移動に伴ってスライダ25はピストン21に押動されて上下方向に移動する。ピストン21の下方への移動に伴って連結ピン26を介して第1のドローバー10は第1の皿バネ集合体12を圧縮しながら下方に押圧されることとなる。
【0019】
次に、主軸装置2についてより詳しく説明する。
図1、
図2A~
図2Fに示すように、主軸筒8の前端側には主軸キャップ28が連結されている。主軸キャップ28は上下方向に連通した横断面円形となる筒体である。主軸キャップ28は主軸筒8の前端に嵌挿された状態で固定される。主軸筒8は2つの異なる内径寸法の領域を有し、上方側の第1の筒部8Aは第1のドローバー10や第1の皿バネ集合体12の外周と接し、下方側の第2の筒部8Bは第2のドローバー11や第2の皿バネ集合体13の外周と接する。主軸キャップ28の内周面には下方ほど大径となるようなテーパ面形状のホルダー装着穴29が形成されている。主軸キャップ28は主軸筒8とともに主軸装置2の筺体30を構成する。
主軸筒8の第1の筒部8Aと第2の筒部8Bは隔壁31によって区画されている。隔壁31から若干下方に離間した位置には固定リング32が固着されている。
【0020】
第1のドローバー10は横断面における外形が円形形状となるように構成され、異なる6つの大きさの径部分から構成されている。すなわち、第1のドローバー10は、最上部に配置される円盤状のテーブル部10Aと、テーブル部10A下方(前方)に延出されるテーブル部10Aより小径の上部スライド部10Bと、上部スライド部10Bから下方(前方)に延出される上部スライド部10Bより小径の中央スライド部10Cと、中央スライド部10Cから下方(前方)に延出される中央スライド部10Cより小径の下部スライド部10Dと、下部スライド部10D先端側に取り付けられた先端スライド部10Eとから構成されている。中央スライド部10Cにはフランジ状に張り出したピストン部10Fが形成されている。
先端スライド部10Eの前端は円筒形状に形成された円筒部31とされている。円筒部31の内部空間は後述するチャックホルダー51のプルスタッド55後端側を収容し後述する膨出部56をクランプする位置となる。
第1のドローバー10の内部には作動油が流通する第1の流路35と第2の流路36が形成されている。第1の流路35と第2の流路36は第1のドローバー10上端位置でロータリージョイント6のシャフト部18Aに接続されている。第1の流路35は第1のドローバー10の中心に配置され、第1のドローバー10のピストン部10F裏面に開口する。第2の流路36は第1の流路35を包囲するように配置され、上部スライド部10の途中から破線で示す主軸筒8側にシフトして延出され、第2の筒部8Bの内部を下垂して隔壁31裏面に開口する。
第1のドローバー10の外周位置には第1の皿バネ集合体12が配設されている。第1の皿バネ集合体12は連結ピン26と隔壁31間の第1のドローバー10外周(中央スライド部10C外周)に形成された空間33内に付勢された状態で収容されている。
【0021】
次に第1のドローバー10の上下方向中央付近に形成されるシリンダ装置37の構成について説明する。シリンダ装置37は主軸筒8をシリンダ筒とし、第1のドローバー10に一体的に形成されるピストン部10Fをピストンとして構成される。ピストン部10Fの上側が上室34Aとされ、ピストン部10Fの下側が下室34Bとされる。上室34Aは第2の流路36と連通され、下室34Bは第1の流路35と連通されて内部には作動油が充填されている。
第1のドローバー10はピストン部10Fが上動して上室34Aが消失することでそれ以上の上動が規制され、ピストン部10Fが下動して下室34Bが消失することでそれ以上の下動が規制されることとなる。つまり、上室34Aと下室34Bへの第1の流路35と第2の流路36の2つの通路からの上室34A及び下室34Bへの作動油の押し引きでピストン部10Fが進退する複動式シリンダ装置となっている。これによって第1のドローバー10はピストン部10Fを介して作動油の制御によって上下方向に作動させられることとなる。
第2のドローバー11はフランジ部11B上面が固定リング32の下面と当接することでそれ以上の上動が規制されることとなる。第1のドローバー10の円筒部8D先端は第2のドローバー11の先端よりも常に後退した位置に配置される。
【0022】
第2のドローバー11も横断面における外形が円形形状となるように構成されている。第2のドローバー11は筒状の本体11Aと、本体11Aの上部寄り外周に張り出して形成されたフランジ部11Bと、本体11Aとフランジ部11Bとの間にある隔壁11Cと、上方にリング状に突出したリング部11Dとから構成されている。隔壁11Cには通路11Caが形成されている。
第2のドローバー11は本体11Aの下部寄り部分が主軸キャップ28内に収容されて内周面28aと密着させられ、フランジ部11B外周が主軸筒8の第2の筒部8Cの内周面と密着させられている。このような密着構造によって第2のドローバー11が上下方向に直線的にスライド移動する際の案内がされることとなる。本体11Aの先端寄りの内部空間は後述するチャックホルダー51のフランジ部57を収容し、くびれ部58をクランプする位置となる。
第2のドローバー11の本体11Aの周囲には第2の皿バネ集合体13が配設されている。第2の皿バネ集合体13は本体11Aと主軸筒8との間に配置されるとともに、上下方向においてはフランジ部11Bと主軸キャップ28との間に付勢された状態で挟まれるように配置されている。第2のドローバー11と固定リング32の間には第2のドローバー11の周方向の回転を防止するためのピン38が配設されている。ホルダー装着穴29先端にはチャックホルダー51を主軸装置2に取り付けた際にチャックホルダー51側と噛み合ってチャックホルダー51の周方向への回転を阻止するためのキー39が装着されている。
【0023】
このような構成の第1のドローバー10及び第2のドローバー11の筺体30(主軸筒8と主軸キャップ28)に対する配置状態について説明する。
第1のドローバー10と第2のドローバー11は筺体30の内部において一部重複するように直列に配設されている。
第2のドローバー11は筒状の筺体30内においてスライド移動可能に配置されるとともに、自身も筒状に構成されて第1のドローバー10を収容して第1のドローバー10のスライド移動を許容する。第1のドローバー10は下部寄りにおいて第2のドローバー11内にスライド移動可能に収容される。つまり、筺体30と第1のドローバー10と第2のドローバー11によって内外に重複した二重のスライド機構が構成されることとなる。
第1のドローバー10においては、上部スライド部10Bが主軸筒8の第1の筒部8Aに密着した状態で収容され、中央スライド部10Cが隔壁31の通路31aに密着した状態で下垂され、固定リング32の通路32aを連通する。そして、中央スライド部10Cの下部に延出される下部スライド部10Dは第2のドローバー11側の隔壁11Cの通路11Caを連通し、先端スライド部10Eが第2のドローバー11側の本体11A内に配置される。各部材とも密着状態で配置され第1のドローバー10が上下方向に直線的にスライド移動する際に案内がされることとなる。
【0024】
次に第1のドローバー10と第2のドローバー11のクランプ機構について
図2A~
図2F、
図4A~
図4E及び
図5に基づいて説明する。
第1のドローバー10は後述するチャックホルダー51のプルスタッド55側をクランプし、第2のドローバー11は後述するチャックホルダー51の装着部53側をクランプする。
図5に示すように、第1のドローバー10の円筒部8Dには周方向に所定間隔で複数の第1の透孔41が形成されている。各第1の透孔41は第1のドローバー10の円筒部8Dの径方向内外に連通される円径の開口部を有している。各第1の透孔41の壁面41aは内側の開口部径が外側の開口部径よりも小さく内壁がテーパ状となるように構成されている。各第1の透孔41内には第1のボール42が収容されている。第1のボール42の径は第1の透孔41の内側の開口部径より大きく、外側の開口部径よりも小さく構成されている。
第2のドローバー11の先端寄り位置にも周方向に所定間隔で複数の第2の透孔43が形成されている。第2の透孔43の構成は第1の透孔41と同じであるため詳しい説明は省略する。また、各第2の透孔43内には第2のボール44が収容されている。第2のボール44の構成・動作は第1のボール42と同じであるため詳しい説明は省略する。
【0025】
第2のドローバー11の本体11Aの内側であって第2の透孔43よりも上方位置には周方向に所定間隔で第1の凹部45が形成されている。
第1の凹部45は円形の開口部形状とされ第1の透孔41の外側の開口部径と同じ径で構成されている。第1の凹部45は第1のボール42が第1の透孔41内でもっとも内側に進出した状態(
図4Aや
図4Eの状態)における第1のボール42の突出量よりもわずかに深い凹部形状となるように構成されている。つまり、第1の凹部45が第1の透孔41に照合された状態で第1のボール42は外側に後退し、もっとも第1の凹部45内に没した状態では第1のボール42は第1のドローバー10の面(つら)から突出することはない。第1の凹部45の壁面は第1の透孔41へ出没しやすいようにテーパ状に形成されている。
第1の凹部45は第1のドローバー10と第2のドローバー11との相対的な位置関係によって第1の透孔41に照合される。第1の凹部45と第1の透孔41が照合されると第1のボール42は遊嵌状態となるため外側に退避可能となり、アンクランプ状態となる。一方、照合されていない場合には第1のボール42が第1の透孔41の内側には若干先端側が突出した状態で内外に移動できず保持されるためクランプ状態となる。本実施の形態ではクランプとは複数の第1のボール42でチャックホルダー51のプルスタッド55や装着部53の軸状の部分をその周囲から押さえ込むことである。
【0026】
主軸筒8の下部内周面7aであってホルダー装着穴29の基部側の近傍位置には周方向に所定間隔で第2の凹部47が形成されている。
第2の凹部47は第2のドローバー11が主軸筒8に干渉するのを避けるために第2の透孔43よりも大きな径に構成されている。また、第2の凹部47が第2の透孔43に照合された状態で第2のボール44がもっとも後退し、第2の凹部47に没した状態では第2のボール44が第2のドローバー11の面(つら)から突出することはないことは、第1のドローバー10側と同様である。第2の凹部47の壁面は第2の透孔43へ出没しやすいようにテーパ状に形成されている。
第2の凹部47は第2のドローバー11が所定の進出位置に配置されることで第2の透孔43に照合される。上記と同様に照合状態で第2のボール44は遊嵌状態となるため外側に退避可能となり、アンクランプ状態となる。一方、照合されていない場合には第2のボール44が若干先端側が突出した状態で内外に移動できず保持されるためクランプ状態となる。
第1の透孔41、第1のボール42、第1の凹部45等によって第1のドローバー10と第2のドローバー11間に第1のクランプ機構が構成される。
第2の透孔43、第2のボール44、第2の凹部47等によって主軸筒8と第2のドローバー11と間に第2のクランプ機構が構成される。
【0027】
このように構成された主軸ユニット1はマシニングセンタ内において図示しないサドルに搭載され、図示しないコンピュータ装置の制御によってワークを加工する。
本実施の形態1では
図6(a)(b)及び
図7(a)(b)に示す3つ爪のチャックホルダー51を主軸装置2のホルダー装着穴29に装着するものとする。チャックホルダー51は図示しないチャック機構が収容されたホルダー本体52と主軸装置2に装着するための装着部53とから構成されている。装着部53はホルダー本体52と一体的に形成された円錐形状の突起体である。装着部53の外周形状はホルダー装着穴29の内周形状に対応する。ホルダー本体52には3つの爪部54が移動可能に取り付けられている。
図6(a)(b)の状態において爪部54がもっとも開き、
図7(a)(b)の状態において爪部54がもっとも閉じた状態とされる(チャックした状態)。装着部53の後端からはプルスタッド55が突出させられている。プルスタッド55はホルダー本体52内のチャック機構にレバー部材として連結されており、プルスタッド55が後方に進出する(引っ張られる)ことで爪部54は開いた状態から閉じた状態となる。
プルスタッド55の先端には係合部としての外方に張り出した略楕円体形状の膨出部56が一体的に形成されている。装着部53の先端は円板状に外方に張り出した係合部としてのフランジ部57が一体的に形成されている。フランジ部57に隣接した装着部53とフランジ部57と間には係合部としてのくびれ部58が形成されている。くびれ部58は装着部53の連続したテーパ形状に対して不連続な窪みが全周にわたって首輪状に形成された部分である。フランジ部57はチャックホルダー51のホルダー装着穴29への装着時(テーパ面同士の密着状態)でホルダー装着穴29よりも奥に配置される。
【0028】
次に、
図2A~
図2F、
図4A~
図4Eに基づいて主軸ユニット1における主軸装置2へのチャックホルダー51のクランプ及びアンクランプ動作について説明する。チャックホルダー51を主軸装置2に装着させる際のチャックホルダー51の状態は
図6(a)(b)の爪部54がもっとも開いた状態がデフォルト状態である。
以下では、まず、A.~C.で第1のドローバー10と第2のドローバー11の進退動作と、第1のドローバー10と第2のドローバー11の先端付近の第1及び第2のクランプ機構の動作を主として説明する。
A.
図2A及び
図4Aは第1のドローバー10が第1の皿バネ集合体12の付勢力によってもっとも上方に押し上げられ、第2のドローバー11が第2の皿バネ集合体13の付勢力によってもっとも上方に押し上げられている状態である。第1のクランプ機構も第2のクランプ機構も解除された状態である。また、シリンダ装置37には第1の流路35から作動油が供給されている状態で、ピストン部10Fはもっとも上動した位置に配置されている。シリンダ装置37に作動油を供給する図示しない油圧ポンプ装置の電磁弁のポートは中立位置にある。電磁弁は中立位置でオープンセンターとなっているため、ピストン部10Fはシリンダ装置37内で自由に上下動するが、本実施の形態では第1の皿バネ集合体12の付勢力によって第1のドローバー10が押し上げられているため、ピストン部10Fはもっとも上動した位置に配置されることとなる。
このような第1のドローバー10の進出位置は第1のドローバー10の初期進出位置となる。初期進出位置を
図2AにおいてS1とし第1のドローバー10の末端位置を基準とする。尚、以下の第1のドローバー10の末端位置は図示しない近接センサで判断されている。
【0029】
第1の皿バネ集合体12による第1のドローバー10への付勢状態と、第1の皿バネ集合体12による第1のドローバー10への付勢状態についてより詳しく説明する。第1の皿バネ集合体12は隔壁31を基準として上部スライド部10Bを押圧している。そして上部スライド部10Bを介して第1のドローバー10全体が上方に押し上げられることとなる。また、第2の皿バネ集合体13は主軸キャップ28を基準としてフランジ部11Bを押圧している。そしてフランジ部11Bを介して第2のドローバー11全体が上方に押し上げられることとなる。フランジ部11Bは固定リング32の下面と当接するためそれ以上の上動が規制されることとなる。
このとき、
図4Aに示すように、第1の透孔41内の第1のボール42は第1の凹部45方向への移動が許容されていないクランプ位置にロックされている。第2の透孔43内の第2のボール44も第2の凹部47方向への移動が許容されていないクランプ位置にロックされている。つまり、この状態ではチャックホルダー51は第1のボール42と第2のボール44と干渉するため未だ接続不能状態である。
【0030】
B.次いで、所定の制御動作によってシリンダ装置7が作動し連結ピン26がピストン21に押圧されて下動することに同期して第1のドローバー10も押圧されて下動していく。このとき、第1のドローバー10を上方に押し上げている第1の皿バネ集合体12による付勢力に抗して第1のドローバー10は下動させられていくこととなる。まず、第1のドローバー10は
図2AのS1の位置から
図2BのS2の位置に移動する。ピストン部10FもS1~S2の距離分下動する。このとき、第1の皿バネ集合体12よりも第2の皿バネ集合体13の方がバネ力が強いため、第1の皿バネ集合体12が連結ピン26がピストン21に押圧されて下動することによって圧縮されている段階では第2の皿バネ集合体13は圧縮されない。つまり、第1のドローバー10のみが下動し、第2のドローバー11は下動せずその位置に留まったままである。
図2Bの状態では第1のドローバー10が下動し、第1の透孔41内の第1のボール42は第1の凹部45方向への移動が許容されアンクランプ状態となる。一方、第2の透孔43内の第2のボール44は第2の凹部47方向への移動が許容されていないクランプ位置のままである。
【0031】
C.連結ピン26が更に下動して、第1の皿バネ集合体12を最大に圧縮した段階、あるいは圧縮することによる付勢力が第2の皿バネ集合体13の付勢力を上回った段階で、第1のドローバー10を介して第2のドローバー11が下方向に押圧される。この段階で連結ピン26の下動によって第2のドローバー11を上方に押し上げている第2の皿バネ集合体13による付勢力に抗して第2のドローバー11は下動させられていく。
図2Cは第1のドローバー10がS1、S2より下がったS3の位置に移動した状態であり、第2のドローバー11がもっとも下動した状態である。ピストン部10FもS2~S3の距離分下動する。
このとき、
図4Bに示すように、第1の透孔41内の第1のボール42は第1の凹部45方向への移動が許容されアンクランプ位置にある。第2の透孔43内の第2のボール44も第2の凹部47方向への移動が許容されアンクランプ位置にある。つまり、チャックホルダー51が接続可能状態となる。
【0032】
次に、以下のD.~H.でシリンダ装置37と協働してチャックホルダー51をクランプ及びアンクランプする際の制御動作を説明する。
D.
図2Dのように主軸装置2がC.の状態において所定の制御動作によってチャックホルダー51を主軸装置2のホルダー装着穴29に装着させていく。ホルダー装着穴29よりも奥側に装着部53とプルスタッド55が進出しても
図4Cに示すようにプルスタッド55の膨出部56や装着部53のフランジ部57が第1のボール42(第2のボール44)に干渉して進出が妨害されることはない。
E.チャックホルダー51を主軸装置2のホルダー装着穴29に対して装着完了した状態で、所定の制御動作によってシリンダ装置7のピストン21を上動させる。すると、
図2Eのように加重の解除とともに圧縮されていた第2の皿バネ集合体13がその強い付勢力を解除し、第2のドローバー11を再び上方に押し上げることとなる。このときの位置をS3より上がったS4とする。第2のドローバー11の上動に伴ってチャックホルダー51の装着部53の後端のくびれ部58が第2のクランプ機構によって(第2のボール44によって)クランプされる(
図4Dの状態)。しかし、この段階では第1のクランプ機構側はまだ作動していない。
【0033】
F.シリンダ装置7のピストン21が更に上動すると、加重の解除とともに圧縮されていた第1の皿バネ集合体12がその強い付勢力を解除し、
図2Fのように第1のドローバー10を再び上方に押し上げることとなる。これによって第1のドローバー10は相対的に後退することとため、第1の凹部45が移動し、チャックホルダー51のプルスタッド55(の膨出部56の根元のくびれたコーナー部分)も第1のクランプ機構によって(第1のボール42によって)クランプされる(
図4Eの状態)。
このように第1のクランプ機構が作動してプルスタッド55がクランプされた状態で続いて(実際にはピストン21上動に伴って瞬時に)第1の皿バネ集合体12による第1のドローバー10の上方への押し上げ(つまり、上方への後退)によってプルスタッド55は後方(上方)に引き出されることとなり、チャックホルダー51の爪部54が閉じることとなる。このときの第1のドローバー10の位置をS4より上がったS5とする。チャックホルダー51をクランプしているため、S5はS1よりは下がった位置となる。
図2Fでは
図6(a)(b)の状態で図示しないワークをチャックしたと仮定し、爪部54がわずかに移動した場合を図示する。そのため、ここでは
図7(a)(b)ほどには爪部54は閉じていない。
次いで、図示しない近接センサによって第1のドローバー10のS5の位置が検出されると、コンピュータ装置はその検出信号に基づいて油圧ポンプ装置の電磁弁を制御してシリンダ装置37内においてピストン部10Fの下方の油圧室内に第1の流路35から作動油を供給させる。ピストン部10Fはその作動油供給による圧力によって上方に押圧される。これによって、第1のドローバー10には第1の皿バネ集合体12の付勢力に加えて第1のドローバー10を上方に押す油圧の力が作用することとなる。本実施の形態では
図2Fは第1の皿バネ集合体12の付勢力のみでプルスタッド55をもっとも引き出した状態であり、これ以上第1のドローバー10は上方には移動することはない。つまり、ピストン部10Fに加わるシリンダ装置37の圧力によってプルスタッド55を後方(上方)に引く力が増強されることとなる。
【0034】
G.主軸装置2にチャックホルダー51を装着した状態から逆にチャックホルダー51を取り外す(アンクランプする)場合には、まず、図示しないコンピュータ装置はシリンダ装置7のピストン21を進出(下降)させ、F.から順にA.に至るように制御する。F.からD.へと第1のドローバー10を変位させる際に、コンピュータ装置はシリンダ装置7のピストン21の進出に同期させて油圧ポンプ装置の電磁弁を制御してシリンダ装置37内においてピストン部10Fの下方の油圧室内に第2の流路36から作動油を供給させる。ピストン部10Fはその作動油供給による圧力によって下方に押圧される。これによって、第1のドローバー10にはシリンダ装置7の油圧力に加えて第1のドローバー10を下方に押す油圧力が作用することとなる。そのため、第1のドローバー10はシリンダ装置7単独で下動するよりも素早く下動することとなる。
H.
図3Aは上記F.とは異なりチャックホルダー51がワークをチャックしていない、つまり
図7(a)(b)のように爪部54の移動が大きい場合の動作を示している。ワークをチャックしていないため
図2Fに比べてプルスタッド55の引き出し代が大きく、第1のドローバー10はよりS5より上がった初期進出位置であるS1の位置に配置されることとなる(
図3Bの状態)。H.の場合でも図示しないコンピュータ装置はその検出信号に基づいて図示しない油圧ポンプ装置の電磁弁を制御してピストン部10Fの下方の油圧室内に第1の流路35から作動油が供給され、ピストン部10Fはその作動油の圧力によって上方に押圧されることとなる。
尚、上記では動きの各段階を説明するためにあえて第1のドローバー10や第2のドローバー11が別々に動作するような図を示したが、シリンダ装置7及びシリンダ装置37の動きや第1の皿バネ集合体12や第2の皿バネ集合体13の付勢力の解除、油圧ポンプ装置の加圧等の動きは瞬時であるため、実際にはチャックホルダー51が装着される際の第1のクランプ機構と第2のクランプ機構の作動はほぼ同時に実行される。
【0035】
上記のように構成することで、実施の形態1の主軸ユニット1では次のような効果が奏される。
(1)内側と外側(及び前後)の二重の被クランプ部を有するチャックホルダー51をクランプするために、押動手段として1つのシリンダ装置7のみを駆動させてクランプすることができる。1つのシリンダ装置7のみで実現しているため、主軸ユニット1及び主軸装置2を小型化、軽量化することができる。
(2)ピストン21の進退だけで第1のドローバー10を介して第2のドローバー11を動作させるような機構であり、第1のドローバー10は第1の皿バネ集合体12で、第2のドローバー11は第2の皿バネ集合体13で進退するため、シンプルな構成で故障しにくい。
(3)第1の皿バネ集合体12の付勢力のみでチャックホルダー51のプルスタッド55を第1のクランプ機構によりクランプするとともに、上方(後方)に引っ張り上げることができるため、主軸装置2の小型化、軽量化に貢献する。
(4)第1のドローバー10を上動させる際には第1の皿バネ集合体12の付勢力に加えて第1のドローバー10を上方に押すシリンダ装置37の油圧力が作用することとなり、これらの合力でプルスタッド55を後方(上方)に引く力が増強されることとなる。これによって、負荷の大きな加工においてしっかりとしたクランプができることとなる。
(5)第1のドローバー10を下動させる際にはシリンダ装置7に加えて第1のドローバー10を下方に押すシリンダ装置37の油圧力が作用することとなり、これらの合力でプルスタッド55を素早く切り離すことができ、チャックホルダー51の交換等の作業を素早く実行することができる。
(6)第1のドローバー10と第2のドローバー11は直列に配置され、かつ一部重複しているため、主軸装置2の全長や全幅を小型化することができる。
(7)クランプ動作においては、先にチャックホルダー51の装着部53を第2のドローバー11による第2のクランプ機構が作動し、その後にチャックホルダー51のプルスタッド55を第1のドローバー10による第1のクランプ機構が作動してクランプするように時間差でクランプ動作が行われるため、確実に先にチャックホルダー51をホルダー装着穴29に固定することができ、プルスタッド55のクランプの誤動作、例えばプルスタッド55が動いていたり振動していたりして第2のボール44が所定位置でしっかりクランプできないようなクランプミスが生じにくい。
【0036】
<実施の形態2>
実施の形態2は実施の形態1のバリエーションである。実施の形態1では1つのピストン部10Fの上下空間に第1の流路35と第2の流路36の2つの通路から作動油が供給されるような復動仕様の構成であったが、実施の形態2では通路は1つのみの単動仕様でかつ複数のピストン部を有するケースである。また、実施の形態2では作動油ではなくクーラント液を使用する。また、実施の形態1と対応する同様の機能の部材・部分については同じ符号を付すことで詳しい説明は省略する。
図8に示すように、実施の形態2の主軸ユニット71は主軸回転機構としての図示しないスピンドルモータ装置を備え、スピンドルモータ装置に連結されたカプリング72は主軸装置2の主軸筒8に直接連結されている。これによってカプリング72からの回転力が主軸装置2に伝達される。主軸ユニット71の上部位置には主軸筒8を包囲するように実施の形態1と同じシリンダ装置7が配設されている。
実施の形態2の第1のドローバー10は連結ピン26の下位置に配設されている。実施の形態2では第1のドローバー10はその内側に第1の皿バネ集合体12が配設されている上部スライド部10Bと、上部スライド部10Bから下方(前方)に延出される上部スライド部10Bより小径の下部スライド部10Dと、下部スライド部10D先端側に取り付けられた先端スライド部10Eを備えている。上部スライド部10Bにはフランジ状に張り出した2つのピストン部10Hが形成されている。主軸筒8の内側であって2つのピストン部10Hの間には隔壁73が配設されている。
第1のドローバー10の内部(中心位置)にはクーラント液が流通する通路75が形成されている。クーラント液は図示しないポンプ装置によって常時所定の圧力で流動し、第1のドローバー10及び第2のドローバー11の下方の主軸キャップ28内から外方に流下する。通路75は途中で分岐して第1の分岐通路75Aと第2の分岐通路75Bとしてそれぞれ第1のドローバー10の2つのピストン部10Hの下側に連通されている。実施の形態2では上側のピストン部10Hと隔壁73、下側のピストン部10Hと隔壁32と周囲の主軸筒8の壁面との間に上下2つのシリンダ装置77が構成される。
【0037】
このような構成において、スライダ25の上面がピストン21の底面に押圧されることで連結26を介して第1のドローバー10は第1の皿バネ集合体12の付勢力に抗して下動させられる。ピストン21によって第1の皿バネ集合体12を最大に圧縮した段階、あるいは圧縮することによる付勢力が第2の皿バネ集合体13の付勢力を上回った段階で、実施の形態1と同様に最大に下動している第1のドローバー10を介して第2のドローバー11を下方向に押圧する。
そして、チャックホルダー51をホルダー装着穴に収容後にシリンダ装置7の油圧を制御しピストン21を上昇させスライダ25から離脱させることで、実施の形態1と同様に第1の皿バネ集合体12と第2の皿バネ集合体13によって第1のクランプ機構と第2のクランプ機構を時間差で両方とも作動させることができる。更に、第1のドローバー10が上動した段階でクーラント液が第1の分岐通路75Aと第2の分岐通路75Bからシリンダ装置77内に流入して内部の圧力を上昇させる。
実施の形態2では実施の形態1と異なり作動油と比較して圧力が低めのクーラント液によって第1のドローバー10を上方に押す力を第1の皿バネ集合体12の付勢力に合力することとなるが、このような主軸ユニット71であっても、上記実施の形態1の主軸ユニット1と同様の効果が奏される。
【0038】
上記実施の形態は本発明の原理およびその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記実施の形態ではチャック機能を備えたチャックホルダー51をクランプする対象とした例を説明したが、主軸装置2には他のホルダーを装着させるようにしてもよい。例えば、
図9(a)(b)に示すような、工具ホルダー60を使用してもよい。工具ホルダー60はホルダー本体61と装着部62を備えている。ホルダー本体61内の取り付け穴61aには図示しない工具の基部が固定されるようになっている。装着部62後端からはスタッド63が突出させられている。スタッド63は進退しない構成である。スタッド63の先端には係合部としての外方に張り出した略楕円体形状の膨出部64が一体的に形成されている。装着部62の先端は円板状に外方に張り出した係合部としてのフランジ部65が一体的に形成されている。フランジ部65に隣接した装着部62とフランジ部65と間には係合部としてのくびれ部69が形成されている。この工具ホルダー60においては装着部62とスタッド63の形状はチャックホルダー51の装着部53と進出していない状態のプルスタッド55と同形状に構成されている。
このような工具ホルダー60も上記のように主軸装置2に2箇所の被クランプ位置で装着することができるため、工具ホルダー60を内外及び前後において主軸装置2にしっかりと取り付けることができる。特に図示しない工具での負荷の大きな加工においてシリンダ装置による圧力が合力されしっかりとしたクランプができるため有利である。
【0039】
・上記実施の形態1では、第1のドローバー10を後退させてプルスタッド55を後方に引っ張る際に第1の皿バネ集合体12の付勢力とシリンダ装置37による油圧の力を用いたが、両方を用いずとも第1の皿バネ集合体12の付勢力だけ、あるいはシリンダ装置37による油圧の力だけの構成でプルスタッド55を後方に引っ張るような構成としてもよい。第1の皿バネ集合体12の付勢力だけというのは上記段落0033におけるF.で説明したように、本実施の形態では基本的に第1の皿バネ集合体12の付勢力のみでプルスタッド55を後方に引っ張ることができる構成であるためで、例えばシリンダ装置37を備えていても常時油圧ポンプ装置の電磁弁のポートをオープンセンターの中立位置とすればよい。
一方、上記実施の形態1の構成において第1の皿バネ集合体12を取り外すことでシリンダ装置37による油圧の力のみで第1のドローバー10を後退(上動)させることが可能である。
A.シリンダ装置7を作動させ連結ピン26がピストン21に押圧されて下動することに同期して第1のドローバー10も押圧されて下動していく。第2のドローバー11は第2の皿バネ集合体13の付勢力によってもっとも上方に押し上げられているが、第1のドローバー10に押されて下動する。その際に実施の形態1と同様にシリンダ装置7とシリンダ装置37の油圧力の両方を用いることができ、これらの合力によってプルスタッド55を素早く切り離すことができる。
B.逆にピストン21が後退する際には、第2のドローバー11は第2の皿バネ集合体13の付勢力によって上動するが、第1のドローバー10は第1の皿バネ集合体12がないため、シリンダ装置37を使用して上動させる。
具体的には、シリンダ装置37に第1の流路35からピストン部10Fの下側に注油する制御がされ、ピストン部10Fが上動することで第1のドローバー10全体が上動されるようにする。例えば、チャックホルダー51を受け入れるために第1のドローバー10を上昇させる際には、第1のドローバー10は第1のボール42と第2のボール44がアンクランプ位置となるように(ピストン部10Fは
図2Bや
図2Eのような位置)圧力制御される。
【0040】
・上記実施の形態1及び2では、ピストン部10F、10Hは第1のドローバー10の一部として一体的に構成されていたが、別体で構成し第1のドローバー10に取り付けるようにしてもよい。
・上記実施の形態1では、シリンダ装置7のピストン21を上昇させる際に、第2の皿バネ集合体13が付勢力を解放して復帰した後に第1の皿バネ集合体12が付勢力を解放して復帰し、最後にシリンダ装置37が作動してその圧力が第1の皿バネ集合体12の付勢力に合力されるという順になっていたが、第1の皿バネ集合体12が付勢力を解放すると同時にシリンダ装置37が作動するような制御であってもよい。
・シリンダ装置37、77は油圧式、空圧式のどちらも使用することが可能である。
・第1及び第2のドローバー10、11を付勢する手段、装置として、他のバネ装置を使用してもよい。また、付勢する装置としてシリンダ装置を使用するようにしてもよい。
・モータ装置17として多相交流、例えば6相交流サーボモータを使用することがよいが、それ以外のモータや、交流方式ではなく直流方式のモータ装置を使用してもよい。
・クランプ機構の径方向に進退する干渉体として、上記では一例として第1及び第2のボール42、44を使用したが、それ以外にもコレットや割爪を配置して径方向に揺動するように進退するようなクランプ機構であってもよい。
本願発明は上述した実施の形態に記載の構成に限定されない。上述した各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
また、意匠出願への変更出願により、全体意匠または部分意匠について権利取得する意思を有する。図面は本装置の全体を実線で描画しているが、全体意匠のみならず当該装置の一部の部分に対して請求する部分意匠も包含した図面である。例えば当該装置の一部の部材を部分意匠とすることはもちろんのこと、部材と関係なく当該装置の一部の部分を部分意匠として包含した図面である。当該装置の一部の部分としては、装置の一部の部材としてもよいし、その部材の部分としてもよい。
【符号の説明】
【0041】
2…主軸装置、7…押動手段としてのシリンダ装置、8…主軸筒、10…第1のドローバー、10F、10H…ピストンとしてのピストン部、11…第2のドローバー、12…第1の付勢手段としての皿バネ集合体、13…第2の付勢手段としての皿バネ集合体、37…シリンダ装置、51…ホルダーとしてのチャックホルダー、60…ホルダーとしての工具ホルダー、56…第1の被クランプ部としての膨出部、58…第2の被クランプ部としてのくびれ部。
【要約】
【課題】1つの駆動手段で多機能ホルダーの内外の2箇所をクランプすることができる主軸装置及び主軸装置を搭載した工作機械等を提供すること。
【解決手段】二重に配置された第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とを有するホルダーを主軸先端に装着して使用する主軸装置において、第1のドローバー8と第2のドローバー9は主軸筒8内で重複しかつ直列に配置させられる。第1のドローバー8と主軸筒8の間にはシリンダ装置37が配設され、主軸筒8内への作動油の導入によって第1のドローバー8はピストン部10Fをピストンとして主軸筒8内を軸方向に移動可能とされる。第1のドローバー8の進退の際にはピストン部10Fの移動によって発生する押圧力が第1のドローバー8に付加されることとなる。
【選択図】
図1