(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】マイクロ波プラズマCVD装置、合成樹脂製容器の製造方法及び合成樹脂製容器
(51)【国際特許分類】
C23C 16/511 20060101AFI20230710BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20230710BHJP
B65D 23/02 20060101ALI20230710BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
C23C16/511
C23C16/42
B65D23/02 Z
H05H1/46 B
(21)【出願番号】P 2019117817
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】矢野 尚之
(72)【発明者】
【氏名】仁井田 一成
(72)【発明者】
【氏名】舘野 恭徳
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-526913(JP,A)
【文献】特開2014-189899(JP,A)
【文献】特開平03-211284(JP,A)
【文献】特開昭63-028874(JP,A)
【文献】特開2017-081615(JP,A)
【文献】特開2006-336095(JP,A)
【文献】特開2004-307981(JP,A)
【文献】特表2010-532708(JP,A)
【文献】特開2005-089859(JP,A)
【文献】特開2019-065318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
B29C 49/00-49/80
B65D 23/02
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボトル状合成樹脂製容器を収容した状態で前記容器内に成膜用の原料ガスを供給する処理室と、
外側導体と内側導体とで構成される同軸導波管と、
前記同軸導波管の先端部を閉塞するとともに、前記処理室内に収容された前記容器の底部と対向した状態で、前記同軸導波管内を伝播するマイクロ波を前記処理室内に向けて透過させる誘電体窓とを有し、
前記内側導体における先端部を含む先端側部分が先細形状をな
し、
前記外側導体における先端部を含む先端側部分が、本体壁の内周面で構成される円柱面状の第1内周面と、先端壁の内周面で構成され、前記第1内周面の先端部から段差状に拡径した円柱面状の第2内周面と、前記先端壁から径方向内側に突出する係止壁とを有し、
前記誘電体窓が、円板状の外側部材と円環状の内側部材とで構成され、前記外側導体の前記本体壁と前記係止壁とによって挟まれて固定され、
前記内側導体の前記先端部が、前記外側導体の前記第2内周面と対向する位置まで軸方向に延在することを特徴とするマイクロ波プラズマCVD装置。
【請求項2】
前記内側導体の前記先端側部分が円錐状をなす、請求項1に記載のマイクロ波プラズマCVD装置。
【請求項3】
ボトル状合成樹脂製容器をブロー成形するブロー成形工程と、
前記容器内に成膜用の原料ガスとマイクロ波とを導入し、前記容器内の前記原料ガスをプラズマ化させて前記容器の内面に蒸着させ、蒸着膜を形成する成膜工程とを有し、
前記成膜工程において、外側導体と先端部を含む先端側部分が先細形状をなす内側導体とで構成される同軸導波管内を伝播するマイクロ波を、前記同軸導波管の先端部を閉塞する誘電体窓と前記容器の底部とを透過させて前記容器内に導入
し、
前記外側導体における先端部を含む先端側部分が、本体壁の内周面で構成される円柱面状の第1内周面と、先端壁の内周面で構成され、前記第1内周面の先端部から段差状に拡径した円柱面状の第2内周面と、前記先端壁から径方向内側に突出する係止壁とを有し、
前記誘電体窓が、円板状の外側部材と円環状の内側部材とで構成され、前記外側導体の前記本体壁と前記係止壁とによって挟まれて固定され、
前記内側導体の前記先端部が、前記外側導体の前記第2内周面と対向する位置まで軸方向に延在することを特徴とする合成樹脂製容器の製造方法。
【請求項4】
前記成膜工程において、前記原料ガスとして有機系珪素化合物ガスと酸素とを用いることによってシリカ蒸着膜を形成する、請求項
3に記載の合成樹脂製容器の製造方法。
【請求項5】
前記成膜工程が、前記原料ガスとしてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と酸素とを用いることによってシリカ蒸着膜の接着層を形成する接着層形成工程と、前記原料ガスとしてヘキサメチルジシラザン(HMDSN)と酸素とを用いることによってシリカ蒸着膜のバリア層を形成するバリア層形成工程とを有する、請求項
4に記載の合成樹脂製容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波プラズマCVD装置、合成樹脂製容器の製造方法及び合成樹脂製容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ボトル状合成樹脂製容器の内面にプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によってバリア性等の所望の機能を有する蒸着膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術は、容器内に成膜用の原料ガスとマイクロ波とを導入し、容器内の原料ガスをプラズマ化して容器の内面に蒸着させ、蒸着膜とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内容量が3L以上である大型のボトル状合成樹脂製容器の場合、上記のような技術によって容器の内面に所定の厚さの蒸着膜を形成するためには、通常の500mLサイズの場合と比べると、成膜時のマイクロ波の出力を高く、また、成膜時間を長くする必要がある。しかし、このような成膜条件は、容器への熱負荷が大きいため、容器の熱変形を招きやすいという問題点があり、改善が望まれていた。また、そのため、良好なバリア性を有する大型のボトル状合成樹脂製容器を得ることが難しかった。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決することを課題とするものであり、その目的は、蒸着膜形成時の容器への熱負荷を低減することで、適切な厚さの蒸着膜を有する大型のボトル状合成樹脂製容器を製造することができるマイクロ波プラズマCVD装置及び合成樹脂製容器の製造方法を提供すること、並びに、良好なバリア性を有する大型のボトル状合成樹脂製容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のマイクロ波プラズマCVD装置は、ボトル状合成樹脂製容器を収容した状態で前記容器内に成膜用の原料ガスを供給する処理室と、外側導体と内側導体とで構成される同軸導波管と、前記同軸導波管の先端部を閉塞するとともに、前記処理室内に収容された前記容器の底部と対向した状態で、前記同軸導波管内を伝播するマイクロ波を前記処理室内に向けて透過させる誘電体窓とを有し、前記内側導体における先端部を含む先端側部分が先細形状をなし、前記外側導体における先端部を含む先端側部分が、本体壁の内周面で構成される円柱面状の第1内周面と、先端壁の内周面で構成され、前記第1内周面の先端部から段差状に拡径した円柱面状の第2内周面と、前記先端壁から径方向内側に突出する係止壁とを有し、前記誘電体窓が、円板状の外側部材と円環状の内側部材とで構成され、前記外側導体の前記本体壁と前記係止壁とによって挟まれて固定され、前記内側導体の前記先端部が、前記外側導体の前記第2内周面と対向する位置まで軸方向に延在することを特徴とする。
【0007】
本発明のマイクロ波プラズマCVD装置は、上記構成において、前記内側導体の前記先端側部分が円錐状をなすのが好ましい。
【0009】
本発明の合成樹脂製容器の製造方法は、ボトル状合成樹脂製容器をブロー成形するブロー成形工程と、前記容器内に成膜用の原料ガスとマイクロ波とを導入し、前記容器内の前記原料ガスをプラズマ化させて前記容器の内面に蒸着させ、蒸着膜を形成する成膜工程とを有し、前記成膜工程において、外側導体と先端部を含む先端側部分が先細形状をなす内側導体とで構成される同軸導波管内を伝播するマイクロ波を、前記同軸導波管の先端部を閉塞する誘電体窓と前記容器の底部とを透過させて前記容器内に導入し、前記外側導体における先端部を含む先端側部分が、本体壁の内周面で構成される円柱面状の第1内周面と、先端壁の内周面で構成され、前記第1内周面の先端部から段差状に拡径した円柱面状の第2内周面と、前記先端壁から径方向内側に突出する係止壁とを有し、前記誘電体窓が、円板状の外側部材と円環状の内側部材とで構成され、前記外側導体の前記本体壁と前記係止壁とによって挟まれて固定され、前記内側導体の前記先端部が、前記外側導体の前記第2内周面と対向する位置まで軸方向に延在することを特徴とする。
【0010】
本発明の合成樹脂製容器の製造方法は、上記構成において、前記成膜工程において、前記原料ガスとして有機系珪素化合物ガスと酸素とを用いることによってシリカ蒸着膜を形成するのが好ましい。
【0011】
本発明の合成樹脂製容器の製造方法は、上記構成において、前記成膜工程が、前記原料ガスとしてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と酸素とを用いることによってシリカ蒸着膜の接着層を形成する接着層形成工程と、前記原料ガスとしてヘキサメチルジシラザン(HMDSN)と酸素とを用いることによってシリカ蒸着膜のバリア層を形成するバリア層形成工程とを有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蒸着膜形成時の容器への熱負荷を低減することで、適切な厚さの蒸着膜を有する大型のボトル状合成樹脂製容器を製造することができるマイクロ波プラズマCVD装置及び合成樹脂製容器の製造方法を提供すること、並びに、良好なバリア性を有する大型のボトル状合成樹脂製容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施の形態であるマイクロ波プラズマCVD装置の要部を示す縦断面図である。
【
図2】比較例であるマイクロ波プラズマCVD装置の要部を示す縦断面図である。
【
図3A】3L容器について、実施例及び比較例のマイクロ波プラズマCVD装置を用いて行った対比実験の結果として、成膜時の容器の温度分布と得られた容器のバリア性との測定結果を示す表である。
【
図3B】
図3Aの対比実験の結果として、得られた蒸着膜の厚さ分布の測定結果を示すグラフである。
【
図4A】720mL容器について、実施例及び比較例のマイクロ波プラズマCVD装置を用いて行った対比実験の結果として、成膜時の容器の温度分布と得られた容器のバリア性との測定結果を示す表である。
【
図4B】
図4Aの対比実験の結果として、得られた蒸着膜の厚さ分布の測定結果を示すグラフである。
【
図5A】500mL容器について、実施例及び比較例のマイクロ波プラズマCVD装置を用いて行った対比実験の結果として、成膜時の容器の温度分布と得られた容器のバリア性との測定結果を示す表である。
【
図5B】
図5Aの対比実験の結果として、得られた蒸着膜の厚さ分布の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明をより具体的に例示説明する。
【0016】
図1に示す本発明の一実施の形態であるマイクロ波プラズマCVD装置1(以下、装置1ともいう)は、口部、胴部Ca及び底部Cbを有するボトル状合成樹脂製容器C(以下、合成樹脂製容器Cまたは容器Cともいう)の内面にプラズマCVD法によって蒸着膜を形成する装置である。装置1は、容器C内に成膜用の原料ガスとマイクロ波とを導入し、容器C内の原料ガスをプラズマ化して容器Cの内面に蒸着させ、蒸着膜とすることができる。
【0017】
装置1は、処理室2と同軸アンテナ3を有している。同軸アンテナ3は、同軸導波管4と誘電体窓5で構成されている。同軸導波管4は、外側導体4aと内側導体4bで構成されている。外側導体4aは、外側導体本体6と、外側導体本体6に固定具7で締結された先端部材8で構成されている。誘電体窓5は、内側部材9と外側部材10で構成されている。
【0018】
処理室2は、容器Cを収容した状態で、容器C内に成膜用の原料ガスを供給するように構成されている。処理室2の上部には、同軸アンテナ3が貫通する貫通孔2aが設けられている。処理室2の下部には、容器Cの口部と係合するとともに口部を通じて容器内に原料ガスを供給するガス供給部が設けられている。
【0019】
同軸アンテナ3と処理室2と処理室2に配置された容器Cとは、共通の中心軸線Oを有している。本願において、上下方向とは中心軸線Oに沿う方向である軸方向を意味し、上方とは容器Cから同軸アンテナ3に向かう方向を意味し、下方とはその反対方向を意味し、周方向とは中心軸線Oを周回する方向を意味し、径方向とは中心軸線Oと直交する方向を意味し、縦断面とは中心軸線Oを含む断面を意味している。
【0020】
ガス供給部は、ストロー状のノズル2bを有しており、ノズル2bの上端部から上方に向けて原料ガスを噴き出すようになっている。なお、原料ガスの供給方法は、このようなノズル2bを用いるものに限らない。
【0021】
処理室2は、容器Cの口部を通じて容器C内を負圧化する内側減圧部を有している。また、処理室2は、処理室2の内側で且つ容器Cの外側に位置する空間を負圧化する外側減圧部も有している。内側減圧部と外側減圧部はそれぞれ、例えば、吸引ポンプ等の吸引源と、口部内と吸引源とを連通させる吸引路と、吸引路を開閉可能な電磁弁とで構成することができるが、これに限らない。例えば、内側減圧部と外側減圧部で共通の吸引ポンプを用いてもよい。
【0022】
処理室2は、処理室2に配置された容器Cを周方向に囲繞する周壁11と、周壁11の上端から径方向内側に延在するとともに上面視中央に貫通孔2aを有する上壁12とを有している。上壁12の下面には、同軸アンテナ3と全周に亘って密着可能なシール部12aが設けられている。
【0023】
処理室2は、周壁11と上壁12とで構成される可動部13と、内側減圧部とガス供給部とを有する基部とで構成されている。外側減圧部は可動部13と基部のどちらに設けてもよい。可動部13は基部及び同軸アンテナ3に対して上下方向に移動可能に構成されている。可動部13が基部から離れて上昇することで、容器Cを処理室2内に配置したり、処理室2内から取出したりすることができる。
【0024】
同軸アンテナ3の外側導体4aは、中心軸線Oを中心とする円筒状の本体壁14と、本体壁14の下端部から径方向外側に延在する円環状のフランジ壁15と、フランジ壁15の外周縁から垂下する中心軸線Oを中心とする円筒状の先端壁16と、先端壁16の下端部から径方向内側に僅かに突出する円環状の係止壁17とを有している。本体壁14の内周面で第1内周面18が構成され、先端壁16の内周面で第2内周面19が構成されている。このように、外側導体4aにおける先端部20aを含む先端側部分20は、円柱面状の第1内周面18と、第1内周面18の先端部から段差状に拡径した円柱面状の第2内周面19とを有している。
【0025】
外側導体4aは、先端壁16の上部で外側導体本体6と先端部材8に分割されている。先端部材8は、円環状の下端面に周方向に間隔を空けて並べて設けられた複数の取付け孔を通じて、ボルトで構成される複数の固定具7により、外側導体本体6に固定されている。外側導体本体6の本体壁14及びフランジ壁15の下面と、先端部材8の係止壁の上面との間には、誘電体窓5が挟まれ固定されている。
【0026】
誘電体窓5は、中心軸線Oを中心とする円板状の外側部材10と、外側部材10の上方に中心軸線Oを中心とする円環状の内側部材9とで構成されている。外側部材10は一定の厚さを有している。内側部材9は、外周面を含む径方向外側部分9aが、内周面を含む径方向内側部分9bよりも大きい厚さを有している。径方向外側部分9aと径方向内側部分9bは面一に連なる下面を有しており、この下面が外側部材10の上面に面している。径方向外側部分9aと本体壁14は面一に連なる内周面を有している。
【0027】
内側部材9の径方向外側部分9aの上面には、中心軸線Oを中心とする円環状のシール溝が設けられており、このシール溝には円環状のシール部材21が配置されている。径方向外側部分9aの下面には、中心軸線Oを中心とする円環状のシール溝が設けられており、このシール溝には円環状のシール部材22が配置されている。
【0028】
外側部材10及び内側部材9はそれぞれ、マイクロ波を透過する例えば石英ガラスなどの誘電体材料で形成されている。外側部材10と内側部材9で構成される誘電体窓5は、同軸導波管4の先端部を閉塞しており、処理室2内に収容された容器Cの底部Cbと対向している。
【0029】
内側導体4bは、中心軸線Oを中心とする柱状をなしている。内側導体4bにおける先端部23aを含む先端側部分23は円錐状をなしている。なお、先端側部分23は円錐状以外の先細形状をなしていてもよい。先端部23aは球面状の面取り形状をなしているが、これに限らず、平面状の面取り形状をなしていてもよいし、尖鋭形状をなしていてもよい。先端部23aは外側導体4aの第2内周面19と対向する位置まで延在している。
【0030】
外側導体4aはアルミ製であり、内側導体4bは銅製である。なお、外側導体4a及び内側導体4bはそれぞれ、上記以外の導電性を有する金属製であってもよし、導電性を有する非金属製であってもよい。外側導体4a及び内側導体4bで構成される同軸導波管4は、誘電体窓5が処理室2内に収容された容器Cの底部Cbと対向した状態で、マグネトロン等で構成される図示しないマイクロ波発生源から出射されたマイクロ波を軸方向に先端部に向けて伝播させる。同軸導波管4内を伝播するマイクロ波は、誘電体窓5を透過して処理室2内に導入され、さらに容器Cの底部Cbを透過して容器C内に導入される。
【0031】
このとき、マイクロ波は、内側導体4bの先端側部分23が先細形状をなしていることにより、内側導体4bの先端側部分23と外側導体4aの先端側部分20とで挟まれた部分において、
図1に破線矢印で示すように、下方に向けて径方向内側に傾斜する方向に伝播する。その結果、容器C内に導入されるマイクロ波の位置を、
図2に示す比較例のように内側導体4bの先端側部分23が円柱状をなしている場合と比べ、径方向内側にずらすことができると推測される。
【0032】
なお、
図2において、
図1に示す部材に対応する部材に同一の符号を付している。
図2に示す比較例では、内側導体4bの先端部23aの外周面が誘電体窓5の内側部材9の径方向内側部分9bの内周面に接し、内側導体4bの先端部23aの下面が誘電体窓5の外側部材10の上面に接している。
図2に示す比較例は、内側導体4b以外の構成において、
図1に示す装置1と同一である。
【0033】
次に、本実施の形態であるマイクロ波プラズマCVD装置1を用いてボトル状合成樹脂製容器Cを製造する方法(すなわち、本発明の一実施の形態である合成樹脂製容器の製造方法)を例示説明する。なお、本実施の形態である合成樹脂製容器の製造方法は、本実施の形態であるマイクロ波プラズマCVD装置1以外の装置を用いる場合にも適用可能である。
【0034】
本実施の形態である合成樹脂製容器の製造方法は、ブロー成形工程と成膜工程を有している。
【0035】
ブロー成形工程は、ボトル状合成樹脂製容器Cをブロー成形する工程である。容器Cは、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製の基材を有しているが、これに限らず、ポリエチレンテレフタレート樹脂製以外の合成樹脂製の基材を有していてもよい。ブロー成形は、例えば、プリフォームからの二軸延伸ブロー成形であるのが好ましい。また、単層構造に限らず、多層構造の容器Cをブロー成形するようにしてもよい。
【0036】
成膜工程は、ブロー成形後の容器C内に成膜用の原料ガスとマイクロ波とを導入し、容器C内の原料ガスをプラズマ化させて容器Cの内面に蒸着させ、蒸着膜を形成する工程である。この成膜工程では、外側導体4aと先端側部分23が先細形状をなす内側導体4bとで構成される同軸導波管4内を伝播するマイクロ波を、同軸導波管4の先端部を閉塞する誘電体窓5と容器Cの底部Cbとを透過させて容器C内に導入する。
【0037】
また、成膜工程では、原料ガスとして有機系珪素化合物ガスと酸素とを用いることによってシリカ蒸着膜を形成する。成膜工程は、原料ガスとしてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と酸素とを用いることによってシリカ蒸着膜の接着層を形成する接着層形成工程と、原料ガスとしてヘキサメチルジシラザン(HMDSN)と酸素とを用いることによってシリカ蒸着膜のバリア層を形成するバリア層形成工程とを有するのが好ましい。この場合、接着層とバリア層とを有するシリカ蒸着膜を得ることができる。
【0038】
成膜工程において容器C内に導入するマイクロ波は、パルス状に供給することが好ましい。容器Cの大きさと形状、材質等に応じて、パルスのON時間とOFF時間の長さ、出力、成膜時間等を適宜設定することができる。マイクロ波の周波数は2.45GHzであるが、これに限らない。
【0039】
本実施の形態である合成樹脂製容器の製造方法は、先端側部分23が先細形状をなす内側導体4bを用いていることにより、蒸着膜形成時の容器Cへの熱負荷を低減することができ、その結果、内容量が3L以上である大型のボトル状をなすとともに基材の内側に適切な厚さのシリカ蒸着膜が設けられた合成樹脂製容器Cを製造することができる。なお、本願において大型とは、内容量が3L以上であることを意味している。
【0040】
本実施の形態である合成樹脂製容器の製造方法のこのような効果を確認するために行った比較実験の結果を以下に示す。
【0041】
図3Aと
図3Bは、内容量が3Lの容器Cについて、実施例のマイクロ波プラズマCVD装置1(つまり、
図1に示した本実施の形態であるマイクロ波プラズマCVD装置1)と比較例のマイクロ波プラズマCVD装置1とを用いて行った対比実験の結果を示している。この対比実験で用いた成膜条件は次のとおりである。
【表1】
【0042】
図3Aに示すように、実施例では、容器Cの最大温度が比較例よりも4℃下がり、しかも、酸素透過量(測定器:MOCON社製 OX-TRAN2/20、測定条件:酸素分圧21%、容器外側23℃-55%RH、容器内側23℃-90%RH)及びBIF(Barrier Improvement Factor:バリア膜が設けられていない合成樹脂製容器に対するガスバリア性の改善率)が比較例よりも大幅に向上していることが分かる。また、
図3Bに示すように、実施例では、比較例と比較して、シリカ蒸着膜の厚さ分布がヒール部(底部と胴部の連結部)から肩部(口部から下方に向けて拡径する部分、つまり胴部の上側部分)に亘って全体的に増加していることが分かる。なお、ポリエチレンテレフタレートの熱変形による収縮が生じる温度が通常70~80℃であることを考慮すると、より長い成膜時間に設定することも可能である。
【0043】
図4Aと
図4Bは、内容量が720mLの容器Cについて、実施例及び比較例のマイクロ波プラズマCVD装置1を用いて行った対比実験の結果を示している。この対比実験で用いた成膜条件は次のとおりである。
【表2】
【0044】
図4Aに示すように、実施例では、容器Cの最大温度が比較例よりも僅かに上がったものの、酸素透過量及びBIFが比較例よりも僅かに向上していることが分かる。
【0045】
図5Aと
図5Bは、内容量が500mLの容器Cについて、実施例及び比較例のマイクロ波プラズマCVD装置1を用いて行った対比実験の結果を示している。この対比実験で用いた成膜条件は次のとおりである。
【表3】
【0046】
図5Aに示すように、実施例では、容器Cの最大温度が比較例よりも2.6℃下がり、酸素透過量及びBIFが比較例よりも僅かに向上していることが分かる。
【0047】
以上の結果から、実施例の装置1は大型の容器Cに対する成膜において顕著な効果を有することが確認された。
【0048】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0049】
例えば、前記の実施の形態ではシリカ蒸着膜を形成しているが、これ以外のバリア性蒸着膜を形成するように原料ガスの成分等を変更してもよい。また、バリア性以外の機能を有する蒸着膜を形成するように原料ガスの成分等を変更してもよい。
【0050】
また、前記の実施の形態では誘電体窓5を内側部材9と外側部材10で構成しているが、これに限らず、例えば誘電体窓5を一体構造物で構成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 マイクロ波プラズマCVD装置
2 処理室
2a 貫通孔
2b ノズル
3 同軸アンテナ
4 同軸導波管
4a 外側導体
4b 内側導体
5 誘電体窓
6 外側導体本体
7 固定具
8 先端部材
9 内側部材
9a 径方向外側部分
9b 径方向内側部分
10 外側部材
11 周壁
12 上壁
13 可動部
14 本体壁
15 フランジ壁
16 先端壁
17 係止壁
18 第1内周面
19 第2内周面
20 外側導体の先端側部分
20a 外側導体の先端部
21 シール部材
22 シール部材
23 内側導体の先端側部分
23a 内側導体の先端部
C ボトル状合成樹脂製容器
Ca 胴部
Cb 底部
O 中心軸線