(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】制振ダンパの試験装置
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20230710BHJP
G01M 7/02 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01M7/02 Z
(21)【出願番号】P 2020042770
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019109062
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 久也
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-036982(JP,A)
【文献】特開2017-090180(JP,A)
【文献】特開2017-219380(JP,A)
【文献】特開2014-214862(JP,A)
【文献】中国実用新案第206832445(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 5/00 - 7/08
13/00 -13/045
99/00
F16F 7/00 - 7/14
15/00 -15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材及び第2部材が軸線方向に相対変位することによって振動を抑制する制振ダンパを試験する制振ダンパの試験装置であって、
前記軸線方向に互いに間隔を隔てて配置された不動の第1反力壁及び第2反力壁と、
当該第1及び第2反力壁の間に、前記軸線方向に互いに間隔を隔てて配置され、前記軸線方向に移動自在の第1可動体及び第2可動体と、
前記制振ダンパの前記第1及び第2部材の間の相対変位を増幅するための液圧シリンダ機構と、を備え、
当該液圧シリンダ機構は、
作動流体が充填された第1シリンダ、及び、当該第1シリンダ内に前記軸線方向に摺動自在に設けられ、前記第1シリンダ内を第1流体室と第2流体室に区画する第1ピストンを有し、前記第1シリンダ及び前記第1ピストンの一方が支持体に固定され、前記第1シリンダ及び前記第1ピストンの他方が前記第1可動体に連結された第1液圧シリンダと、
作動流体が充填され、断面積が前記第1シリンダよりも小さい第2シリンダ、及び、当該第2シリンダ内に前記軸線方向に摺動自在に設けられ、前記第2シリンダ内を第3流体室と第4流体室に区画する第2ピストンを有し、前記第2シリンダ及び前記第2ピストンの一方が前記支持体に固定され、前記第2シリンダ及び前記第2ピストンの他方が前記第2可動体に連結された第2液圧シリンダと、
前記第1流体室と前記第3及び第4流体室の一方とに連通する第1連通路と、
前記第2流体室と前記第3及び第4流体室の他方とに連通する第2連通路と、を有し、
前記制振ダンパは前記第2可動体と前記第2反力壁の間に配置され、前記第1及び第2部材は前記第2可動体及び前記第2反力壁にそれぞれ連結されており、
前記試験装置は、前記第1反力壁と前記第1可動体の間に配置され、前記第1可動体を介して前記制振ダンパを前記軸線方向に加振するためのアクチュエータをさらに備えることを特徴とする制振ダンパの試験装置。
【請求項2】
前記液圧シリンダ機構は、互いに並列に設けられた複数の液圧シリンダ機構で構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の制振ダンパの試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1部材及び第2部材が軸線方向に相対変位することによって振動を抑制する制振ダンパを試験する制振ダンパの試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の制振ダンパの試験装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この試験装置は、マスダンパを対象としており、水平に延びる支持フレームと、マスダンパを加振するアクチュエータと、アクチュエータを制御する制御装置を備える。支持フレームは、鋼材から成る複数のフレーム材を井桁状に組み立てたものである。アクチュエータは、所定の加振性能(最大荷重、最大振幅や最大速度)を有しており、支持フレーム内の一方の側に配置されている。
【0003】
マスダンパは、ボールねじ式のものであり、内筒と、内筒に対して移動自在のねじ軸と、ねじ軸の移動に伴って回転する回転マスを有する。内筒は、支持フレームの他方の側に連結され、ねじ軸は、連結部材を介してアクチュエータに連結されている。また、この試験装置には、連結部材に作用する荷重をダンパ反力として検出するロードセルや、マスダンパの内筒に対するねじ軸の相対変位をダンパ変位として検出する変位センサが設けられている。
【0004】
この構成によれば、マスダンパの性能試験を行う際には、制御装置による制御の下、アクチュエータが駆動され、その加振力が連結部材を介してマスダンパに入力され、マスダンパが作動する。そして、ロードセルで検出されたダンパ反力や、変位センサで検出されたダンパ変位などに基づいて、マスダンパの性能が評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来の試験装置では、アクチュエータがダンパの一端側に直列に連結されているため、アクチュエータの加振性能(最大荷重、最大振幅や最大速度)が、そのまま試験装置の加振性能になる。このため、試験装置の加振性能に限界が生じ、例えば、所望の試験条件に対し、最大振幅や最大速度が不足する場合がある。
【0007】
そのような場合、アクチュエータの変位を増幅する増幅機構、例えばパンタグラフ式の増幅機構を用いることが考えられる。しかし、パンタグラフ式の増幅機構は、その形状が直線に近い状態では特に、幾何学的に非線形になるという特性を有するため、アクチュエータの出力波形を例えば正弦波としても、ダンパへの入力波形は正弦波にならず、試験を良好に行うことができない。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、制振ダンパに入力される増幅倍率を一定に保ったまま、アクチュエータの加振による変位を増幅しながら制振ダンパに入力でき、それにより、加振性能の高速化によって試験を良好に行うことができる制振ダンパの試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するため、請求項1に係る発明は、第1部材及び第2部材が軸線方向に相対変位することによって振動を抑制する制振ダンパを試験する制振ダンパの試験装置であって、軸線方向に互いに間隔を隔てて配置された不動の第1反力壁及び第2反力壁と、第1及び第2反力壁の間に、軸線方向に互いに間隔を隔てて配置され、軸線方向に移動自在の第1可動体及び第2可動体と、制振ダンパの第1及び第2部材の間の相対変位を増幅するための液圧シリンダ機構と、を備え、液圧シリンダ機構は、作動流体が充填された第1シリンダ、及び、第1シリンダ内に軸線方向に摺動自在に設けられ、第1シリンダ内を第1流体室と第2流体室に区画する第1ピストンを有し、第1シリンダ及び第1ピストンの一方が支持体に固定され、第1シリンダ及び第1ピストンの他方が第1可動体に連結された第1液圧シリンダと、作動流体が充填され、断面積が第1シリンダよりも小さい第2シリンダ、及び、第2シリンダ内に軸線方向に摺動自在に設けられ、第2シリンダ内を第3流体室と第4流体室に区画する第2ピストンを有し、第2シリンダ及び第2ピストンの一方が支持体に固定され、第2シリンダ及び第2ピストンの他方が第2可動体に連結された第2液圧シリンダと、第1流体室と第3及び第4流体室の一方とに連通する第1連通路と、第2流体室と第3及び第4流体室の他方とに連通する第2連通路と、を有し、制振ダンパは第2可動体と第2反力壁の間に配置され、第1及び第2部材は第2可動体及び第2反力壁にそれぞれ連結されており、試験装置は、第1反力壁と第1可動体の間に配置され、第1可動体を介して制振ダンパを軸線方向に加振するためのアクチュエータをさらに備えることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、制振ダンパの軸線方向に沿って、不動の第1反力壁及び第2反力壁が設けられ、第1及び第2反力壁の間に、軸線方向に移動自在の第1可動体及び第2可動体が設けられており、第1可動体と第2可動体の間に、上述した構成の第1及び第2液圧シリンダ並びに第1及び第2連通路を有する液圧シリンダ機構が設けられている。また、第1反力壁と第1可動体の間には、アクチュエータが配置されている。試験時には、第2可動体と第2反力壁の間に制振ダンパが配置され、その第1及び第2部材が第2可動体及び第2反力壁にそれぞれ連結されるとともに、アクチュエータが駆動され、その加振力により、第1可動体を介して制振ダンパが軸線方向に加振される。
【0011】
このアクチュエータによる加振に伴い、第1可動体が軸線方向の一方の方向に変位すると、第1液圧シリンダの第1シリンダと第1ピストンが、軸線方向に相対的に変位する。この相対変位に伴い、その方向に応じて、第1液圧シリンダ内の作動流体が、第1流体室又は第2流体室から第1連通路又は第2連通路を介して第2液圧シリンダの第3流体室又は第4流体室に流入する。これに伴い、第2液圧シリンダの第2シリンダと第2ピストンが相対的に変位することによって、その一方に連結された第2可動体が駆動されるとともに、第2可動体に連結された制振ダンパの第2部材が軸線方向に駆動される。それと同時に、第2液圧シリンダ内の作動流体が、第4流体室又は第3流体室から第2連通路又は第1連通路を介して第1液圧シリンダの第2流体室又は第1流体室に流入し、戻される。
【0012】
この場合、本発明によれば、第2液圧シリンダの第2シリンダ(第2ピストン)の断面積が第1液圧シリンダの第1シリンダ(第1ピストン)の断面積よりも小さいため、アクチュエータの変位は、増幅された状態で、第1及び第2部材の間の相対変位(以下、適宜「制振ダンパの相対変位」という)として制振ダンパに入力される。以下、この点について説明する。
【0013】
ここで、第1及び第2ピストンの断面積をそれぞれA1、A2、アクチュエータの加振に伴う第1及び第2シリンダに対する第1及び第2ピストンの変位をそれぞれD1、D2とすると、第1液圧シリンダからの作動流体の流出量(押しのけ容積)V1と第2液圧シリンダからの作動流体の流出量(押しのけ容積)V2は、それぞれ次式(1)及び(2)で表される。
V1=A1・D1 ・・・(1)
V2=A2・D2 ・・・(2)
また、両流出量V1、V2は互いに等しいため、次式(3)が成立する。
A1・D1=A2・D2 ・・・(3)
【0014】
以上から、第2液圧シリンダの第2ピストンの断面積A2と第2シリンダ-第2ピストン間の変位(制振ダンパの第1部材の変位)は反比例する。また、制振ダンパの第2部材は第2反力壁に連結されており、不動(変位=0)である。したがって、この試験装置の変位増幅率(アクチュエータの変位に対する制振ダンパの相対変位の増幅率)RAは、次式(4)で表される。
RA=D2/D1=A1/A2 ・・・(4)
以上のように、制振ダンパの相対変位は、アクチュエータの変位に対してA1/A2倍、増幅され、第2ピストンの断面積A2が小さいほど、より大きくなる。
【0015】
以上のように、本発明の試験装置によれば、アクチュエータと制振ダンパの間に設けられた液圧シリンダ機構の作用により、制振ダンパに入力される増幅倍率を一定に保ったまま、アクチュエータの加振による変位を増幅しながら制振ダンパに入力できる。これにより、加振性能の高速化によって試験を良好に行うことができる。また、アクチュエータ自身の加振性能の強化を必要とすることなく、既存のアクチュエータをそのまま用いることができる。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の制振ダンパの試験装置において、液圧シリンダ機構は、互いに並列に設けられた複数の液圧シリンダ機構で構成されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、液圧シリンダ機構として、互いに並列の複数の液圧シリンダ機構が設けられているため、制振ダンパの反力が、複数の液圧シリンダ機構の複数のピストンロッドなどによって分担して支持される。したがって、液圧シリンダ機構の数を適切に設定することにより、制振ダンパ反力を過不足なく支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態による試験装置を、マスダンパとともに概略的に示す図である。
【
図2】
図1の試験装置のうちの1つの油圧シリンダ機構を拡大して示す図である。
【
図4】試験装置の制御装置などを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による試験装置1を、試験対象である制振ダンパとしてのマスダンパ21とともに概略的に示している。このマスダンパ21は、例えば建物などの構造物の振動を抑制するためのものであり、本出願人による特許第5314201号の
図3などに記載されたマスダンパと同様に構成されている。まず、このマスダンパ21の構成及び動作について、簡単に説明する。
【0020】
図3に示すように、マスダンパ21は、内筒22、ボールねじ23、回転マス24、及び制限機構25を有する。内筒22は、円筒状の鋼材で構成されている。内筒22の一端部は開口しており、他端部は、自在継ぎ手を介して第2フランジ27に取り付けられている。
【0021】
また、ボールねじ23は、ねじ軸23aと、ねじ軸23aに多数のボール23bを介して回転可能に螺合するナット23cを有する。ねじ軸23aの一端部は、上述した内筒22の開口に収容されており、ねじ軸23aの他端部は、自在継ぎ手を介して第1フランジ26に取り付けられている。また、ナット23cは、軸受け28を介して、内筒22に回転可能に支持されている。なお、
図1では、マスダンパ21の主要な要素のみに符号を付している。
【0022】
回転マス24は、比重の大きな材料、例えば鉄で構成され、円筒状に形成されている。また、回転マス24は、内筒22及びボールねじ23の外周側に同軸状に配置され、軸受け29を介して、内筒22に回転可能に支持されている。回転マス24と内筒22の間には、一対のリング状のシール30、30が設けられている。これらのシール30、30、回転マス24及び内筒22によって形成された空間には、シリコンオイルで構成された粘性体31が充填されている。
【0023】
以上のように構成されたマスダンパ21では、内筒22及びねじ軸23aの間に相対変位が発生すると、この相対変位がボールねじ23で回転運動に変換された状態で、制限機構25を介して回転マス24に伝達されることによって、回転マス24が回転する。それにより、回転マス24による回転慣性質量効果と、粘性体31のせん断抵抗による粘性減衰効果によって、構造物などの振動を抑制する制振性能が発揮される。
【0024】
制限機構25は、リング状の回転滑り材25aと、複数のねじ25b及びばね25c(2つのみ図示)で構成されている。マスダンパ21の軸線方向に作用する荷重(以下「軸荷重」という)が、ねじ25bの締付度合に応じて定まる制限荷重に達するまでは、回転マス24は、ナット23cと一体に回転する。一方、マスダンパ21の軸荷重が制限荷重に達すると、回転滑り材25aとナット23c又は回転マス24との間に滑りが発生する。
【0025】
次に、
図1及び
図2を参照しながら、試験装置1について説明する。試験装置1は、マスダンパ21を設置し、所定の条件で加振することにより、マスダンパ21の性能試験を行うものである。
図1に示すように、試験装置1は、不動の第1反力壁2A及び第2反力壁2Bと、第1可動フレーム3A及び第2可動フレーム3Bと、マスダンパ21を加振するためのアクチュエータ4と、加振時にアクチュエータ4の変位を増幅し、マスダンパ21に入力するための複数の油圧シリンダ機構5を備えている。
【0026】
第1及び第2反力壁2A、2Bは、H鋼などの複数の鋼材を組み立てることにより形成され、高い剛性を有しており、基礎プレート6上に一体に立設され、左右方向に互いに間隔を隔てて配置されている。
【0027】
第1及び第2可動フレーム3A、3Bはそれぞれ、複数の鋼板を互いに連結し、フレーム状に組み立てたものであり、互いに対向する左右一対の外板3c、3cと、外板3c、3cの上下方向の中心間に連結された中板3dと、外板3c、3cの下端部間に連結された底板3eなどを有する。第1及び第2可動フレーム3A、3Bは、第1及び第2反力壁2A、2Bの間に、第1反力壁2A側から順に配置されている。
【0028】
また、第1及び第2可動フレーム3A、3Bの各底板3eにはガイド8が下方に突出するように設けられ、これらのガイド8、8が、基礎プレート6上に左右方向に延びるように設けられたレール9、9にそれぞれ係合している。この構成により、第1及び第2可動フレーム3A、3Bは、ガイド8及びレール9によって左右方向に移動自在に案内される。
【0029】
図1に示すように、前述したマスダンパ21は、試験時に、第2可動フレーム3Bと第2反力壁2Bの間に設置される。具体的には、マスダンパ21の第1フランジ26が第2可動フレーム3Bの外板3cの中心に一体に連結され、第2フランジ27が第2反力壁2Bの上下方向の中心に一体に連結される。
【0030】
アクチュエータ4は、例えば複動式の直線運動を行う油圧シリンダで構成されたダイナミックアクチュエータであり、所定の加振性能、例えば最大荷重:±3000kN、最大振幅:±100mm、最大速度:±300mm/sの性能を有する。
【0031】
アクチュエータ4は、シリンダ4aと、シリンダ4aに対して伸縮自在のピストン部4bを有する。ピストン部4bは、シリンダ4a内を摺動するピストン(図示せず)に順に一体に連結されたピストンロッド及びピストンヘッドで構成されている。アクチュエータ4は、第1反力壁2Aと第1可動フレーム3Aの間に配置されており、具体的には、シリンダ4aが第1反力壁2Aの上下方向の中心に一体に連結され、ピストン部4bのピストンヘッドが第1可動フレーム3Aの外板3cの中心に一体に連結されている。
【0032】
以上の構成により、アクチュエータ4は、作動時、ピストン部4bが左右方向に往復動することにより、第1可動フレーム3Aを軸線方向に加振する。
【0033】
図1に示すように、第1及び第2可動フレーム3A、3Bの間には、シリンダ支持壁7が立設されており、このシリンダ支持壁7に、複数の油圧シリンダ機構5(
図1には3つ図示)が互いに並列に設けられている。シリンダ支持壁7は、第1及び第2反力壁2A、2Bと同様、H鋼などの複数の鋼材を組み立てたものであり、高い剛性を有する。
【0034】
複数の油圧シリンダ機構5は、互いに同じ構成を有する。
図2に示すように、各油圧シリンダ機構5は、第1可動フレーム3A側に設けられた第1油圧シリンダ10Aと、第2可動フレーム3B側に設けられた第2油圧シリンダ10Bと、第1及び第2油圧シリンダ10A、10Bの間を連通する第1連通路16及び第2連通路17を有する。
【0035】
第1油圧シリンダ10Aは、第1シリンダ11Aと第1ピストン12Aを有する。第1シリンダ11Aは、断面積A1が大きく、かつ軸線方向(
図2の左右方向)の長さが小さい短筒状のものであり、一方の端壁において、シリンダ支持壁7に固定されている。第1ピストン12Aは、第1シリンダ11A内に軸線方向に摺動自在に設けられており、第1シリンダ11Aの内部空間を、シリンダ支持壁7と反対側(
図2の左側)の第1流体室13aとシリンダ支持壁7側(
図2の右側)の第2流体室13bに区画している。第1及び第2流体室13a、13bには作動流体HFが充填されている。作動流体HFは、適度な粘性を有する通常の作動油などで構成されている。
【0036】
第1ピストン12Aには、ピストンロッド14Aが同軸状に一体に設けられている。ピストンロッド14Aは、左方に延び、第1シリンダ11Aの他方の端壁を液密に貫通し、その端部には取付用のフランジ15Aが設けられている。
図1に示すように、第1ピストン12Aは、ピストンロッド14及びフランジ15Aを介して、第1可動フレーム3Aの外板3cに一体に連結されている。
【0037】
第2油圧シリンダ10Bは、第2シリンダ11Bと第2ピストン12Bを有する。第2シリンダ11Bは、第1シリンダ11Aと比較し、断面積A2が小さく、かつ軸線方向の長さが大きい長筒状のものである。この第2シリンダ11Bの断面積A2は、例えば第1シリンダ11Aの断面積A1の1/3(=A1/3)に設定されている。第2シリンダ11Bは、一方の端壁において、シリンダ支持壁7に固定されている。
【0038】
第2ピストン12Bは、第2シリンダ11B内に軸線方向に摺動自在に設けられており、第2シリンダ11Bの内部空間を、シリンダ支持壁7側(
図2の左側)の第3流体室13cとその反対側(
図2の右側)の第4流体室13dに区画している。第3及び第4流体室13c、13dには作動流体HFが充填されている。
【0039】
また、第2ピストン12Bには、ピストンロッド14Bが同軸状に一体に設けられている。ピストンロッド14Bは、右方に延び、第2シリンダ11Bの他方の端壁を液密に貫通し、その端部には取付用のフランジ15Bが設けられている。
図1に示すように、第2ピストン12Bは、ピストンロッド14B及びフランジ15Bを介して、第2可動フレーム3Bの外板3cに一体に連結されている。
【0040】
第1連通路16は、第1油圧シリンダ10Aの第1流体室13a及び第2油圧シリンダ10Bの第3流体室13cに連通し、第2連通路17は、第1油圧シリンダ10Aの第2流体室13b及び第2油圧シリンダ10Bの第4流体室13dに連通している。これらの第1及び第2連通路16、17にも作動流体HFが充填されている。
【0041】
試験装置1はさらに、ロードセル17及び変位センサ18を備えている(
図4参照)。ロードセル17は、アクチュエータ4の先端に設けられ、アクチュエータ4から第1可動フレーム3Aを介してマスダンパ21に作用する荷重を、マスダンパ21の反力(以下「ダンパ反力」という)PMDとして検出し、その検出信号を制御装置20に出力する。
【0042】
変位センサ18は、マスダンパ21の内筒22に対するねじ軸23aの変位(以下「ダンパ変位」という)DMDを検出し、その検出信号を制御装置20に出力する。制御装置20は、アクチュエータ4を駆動するための電源や、CPU、RAM、ROM、I/Oインターフェースなどの組み合わせで構成されている。
【0043】
以上の構成の試験装置1では、試験対象であるマスダンパ21を第1及び第2可動フレーム3A、3Bの間に、前述したように設置するとともに、制御装置20による制御の下、アクチュエータ4を作動させ、所定の波形(正弦波や地震応答波)及び大きさの条件でマスダンパ21を加振することによって、試験が行われる。そして、試験中にロードセル17及び変位センサ18で検出されたダンパ反力PMD及びダンパ変位DMDに応じて、マスダンパ21の最大速度抵抗力、減衰係数や回転慣性質量などが算出され、マスダンパ21の性能が評価される。
【0044】
次に、この試験中のアクチュエータ4の加振に応じた試験装置1の機械的な動作について、
図1及び
図2を参照しながら詳細に説明する。なお、
図1及び
図2は、アクチュエータ4のピストン部4bが中立位置に位置し、それに伴い、第1可動フレーム3A、第1ピストン12A、第2ピストン12B、第2可動フレーム3B、及びマスダンパ21のねじ軸23aが、それぞれの中立位置に位置している状態を示す。
【0045】
アクチュエータ4が作動し、ピストン部4bが中立位置から例えば右方に変位(移動)すると、第1可動フレーム3A及びこれに連結された複数の第1ピストン12Aが、ピストン部4bと同じ量、右方に同時に変位する(
図1の矢印X1)。この第1ピストン12Aの右方への変位に伴い、各第1油圧シリンダ10Aの第2流体室13b内の作動流体HFが、第2連通路17を介して第2油圧シリンダ10Bの第4流体室13dに流入し、第2ピストン12Bを第3流体室13c側に押圧する。
【0046】
これに伴い、複数の第2ピストン12B及びこれらに連結された第2可動フレーム3Bが左方に変位する(
図1の矢印X2)。それにより、第2可動フレーム3Bに連結されたマスダンパ21のねじ軸23aが左方に駆動されるとともに、第3流体室13c内の作動流体HFが、第1連通路16を介して第1油圧シリンダ10Aの第1流体室13aに流入する(戻る)。また、マスダンパ21の内筒22は第2反力壁2Bに連結されており、不動(変位=0)である。さらに、前述したように、第2ピストン12Bの断面積A2は、第1ピストン12Aの断面積A1よりも小さく、A2=A1/3に設定されている。
【0047】
その結果、この場合の変位増幅率(アクチュエータ4の変位に対するマスダンパ21の内筒22とねじ軸23aとの間の相対変位の増幅率)RAは、前記式(4)により、RA=A1/A2=3.0になる。このように、マスダンパ21の相対変位は、アクチュエータ4の変位に対して3.0倍、増幅される。
【0048】
なお、図示しないが、アクチュエータ4のピストン部4bが上記と逆に左方に変位する場合には、第1可動フレーム3A、第1ピストン12A、第2ピストン12B及び第2可動フレーム3Bの変位の方向や、第1及び第2連通路16、17における作動流体HFの流れが逆になるだけであり、同様の動作が得られる。
【0049】
したがって、前述したアクチュエータ4の加振性能(最大荷重:±3000kN、最大振幅:±100mm、最大速度:±300mm/s)に対し、マスダンパ21に入力される最大振幅及び最大速度をそれぞれ3.0倍である±300mm、±900mm/sに増幅することができる。
【0050】
以上のように、本実施形態の試験装置1によれば、アクチュエータ4とマスダンパ21の間に設けられた油圧シリンダ機構5の作用により、アクチュエータ4の加振による変位を増幅しながらマスダンパ21に入力することができる。
【0051】
以上から、マスダンパ21に入力される増幅倍率を一定に保ったまま、アクチュエータ4の加振による変位を増幅しながらマスダンパ21に入力でき、それにより、加振性能の高速化によって試験を良好に行うことができる。また、アクチュエータ4自身の加振性能の強化を必要とすることなく、既存のアクチュエータをそのまま用いることができる。
【0052】
さらに、油圧シリンダ機構5として、複数の油圧シリンダ機構5が互いに並列に設けられており、マスダンパ21の反力などが、複数の油圧シリンダ機構5によって分担して支持される。したがって、油圧シリンダ機構5の数を適切に設定することにより、マスダンパ21の反力を過不足なく支持することができる。
【0053】
また、第1及び第2可動フレーム3A、3Bの底板3eに設けられたガイド8とレール9によって、試験時、第1及び第2可動フレーム3A、3Bを軸線方向に円滑に案内することができる。
【0054】
なお、本発明は、説明した実施形態や変形例に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、第2油圧シリンダ10Bの第2ピストン12Bの断面積A2を第1油圧シリンダ10Aの第1ピストン12Aの断面積A1の1/3とし、試験装置1の変位増幅率RAを3倍に設定しているが、これらの数値はあくまで例示であり、アクチュエータに対する所望の変位増幅率に応じて適宜、設定することができる。
【0055】
また、実施形態では、油圧シリンダ機構5の第1連通路16が、第1シリンダ11Aの第1流体室13a及び第2シリンダ11Bの第3流体室13cに連通し、第2連通路17が、第1シリンダ11Aの第2流体室13b及び第2シリンダ11Bの第4流体室13dに連通しているが、これに代えて、第1連通路16が第1流体室13a及び第4流体室13dに連通し、第2連通路17が第2流体室13b及び第3流体室13cに連通するように構成してもよい。その場合には、アクチュエータ4の加振に伴い、第1可動フレーム3A及び第1ピストン12Aの変位に対して、第2ピストン12B及び第2可動フレーム3Bが同じ方向に変位することが異なるだけであり、上記と同様の効果を得ることができる。
【0056】
また、実施形態では、第1油圧シリンダ10Aの第1シリンダ11A及び第1ピストン12Aをシリンダ支持壁7及び第1可動フレーム3Aにそれぞれ連結し、第2油圧シリンダ10Bの第2シリンダ11B及び第2ピストン12Bをシリンダ支持壁7及び第2可動フレーム3Bにそれぞれ連結しているが、第1及び第2油圧シリンダ10A、10Bの一方又は両方について、シリンダ及びピストンの連結関係を逆にしてもよい。例えば、第1ピストン12Aをシリンダ支持壁7に連結し、第1シリンダ11Aを第1可動フレーム3Aに連結してもよい。この場合にも、第2ピストン12B及び第2可動フレーム3Bの変位の方向や、第1及び第2連通路16、17における作動流体HFの流れの方向などが変化するだけであり、実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0057】
また、実施形態では、液圧シリンダ機構の第1及び第2液圧シリンダを、作動油を用いた第1及び第2油圧シリンダ10A、10Bで構成しているが、これに代えて、作動油以外の作動流体、例えば水やグリセリンなどを用いた液圧シリンダで構成してもよい。アクチュエータ4もまた、油圧シリンダで構成されているが、制振ダンパを加振し、その第1及び第2部材を相対変位させるものであればよく、例えば電動モータで構成してもよい。また、実施形態では、試験対象の制振ダンパとして、マスダンパ21を用いているが、第1及び第2部材の相対変位によって制振効果を発揮するものであればよく、例えばオイルダンパや、粘性ダンパ、粘弾性ダンパ、鋼材ダンパ、摩擦ダンパなどを用いることが可能である。
【0058】
また、実施形態では、油圧シリンダ機構5の設置数を特に限定していないが、想定される制振ダンパの反力などに応じて適宜、増減して設定することが好ましい。さらに、実施形態では、第1及び第2可動体を、可動フレームで構成しているが、フレーム以外の形状のものを用いてもよいことはもちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 試験装置
2A 第1反力壁
2B 第2反力壁
3A 第1可動フレーム(第1可動体)
3B 第2可動フレーム(第2可動体)
4 アクチュエータ
5 油圧シリンダ機構(液圧シリンダ機構)
7 シリンダ支持壁(支持体)
10A 第1油圧シリンダ
10B 第2油圧シリンダ
11A 第1シリンダ
11B 第2シリンダ
12A 第1ピストン
12B 第2ピストン
13a 第1流体室
13b 第2流体室
13c 第3流体室
13d 第4流体室
16 第1連通路
17 第2連通路
21 マスダンパ(制振ダンパ)
22 マスダンパの内筒(第2部材)
23a マスダンパのねじ軸(第1部材)