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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】軸受、移動体および搬送装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20230710BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017250163
(22)【出願日】2017-12-26
(65)【公開番号】P2019027583
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-10-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2017150236
(32)【優先日】2017-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】飯野 朗弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩信
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸博
【合議体】
【審判長】平田 信勝
【審判官】内田 博之
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-51063(JP,A)
【文献】特開2008-290295(JP,A)
【文献】特開2007-125720(JP,A)
【文献】特開平10-279244(JP,A)
【文献】特開2012-121559(JP,A)
【文献】特開2007-69587(JP,A)
【文献】特開2007-106985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 35/00-39/06 , F16C 43/00-43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪の外周面に形成された被覆層を備え、
前記被覆層は、
前記外輪の外周面に形成され、非晶性プラスチックからなる第一の材料層と、
前記第一の材料層の外面に熱可塑性エラストマーが熱融着されることにより前記被覆層の外周面を形成する外周面層としての、熱可塑性エラストマーからなる第二の材料層と、
を備え、
前記第二の材料層は、前記第一の材料層よりも軟らかい材料であり、
前記第一の材料層は、
前記外輪の外周面を覆う外周面層と、
前記外周面層の軸線方向の両側に連結されて前記外輪の軸線方向両側面と重なる一対の側面層と、
を有し、
前記熱可塑性エラストマーはチタン酸カリウム繊維を含有することを特徴とする軸受。
【請求項2】
前記第二の材料層は、
前記第一の材料層の外周面を覆う外周面層と、
前記外周面層の軸線方向の両側に連結されて前記第一の材料層における前記一対の側面層の軸線方向両側面と軸方向において重なる一対の側面層と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の軸受。
【請求項3】
前記第二の材料層の前記一対の側面層は、前記外輪の軸線方向両側面の少なくとも一部と重なることを特徴とする請求項2に記載の軸受。
【請求項4】
前記第一の材料層の外周面および前記第二の材料層の内周面の一方には、凸部が形成され、前記第一の材料層の外周面および前記第二の材料層の内周面の他方には、前記凸部と係合される凹部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の軸受。
【請求項5】
前記第一の材料層の外周面には前記凸部が形成されており、
前記第二の材料層の内周面には前記凹部が形成されており、
前記凸部の軸線方向の寸法は、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されており、
前記凹部の軸線方向の寸法は、前記凸部に対応して、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項4に記載の軸受。
【請求項6】
前記第一の材料層の前記一対の側面層における外面間の前記軸線方向の寸法は、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されており、
前記第二の材料層の前記一対の側面層における内面間の前記軸線方向の寸法は、前記第一の材料層における前記一対の側面層に対応して、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の軸受。
【請求項7】
前記第一の材料層の前記一対の側面層は、前記外輪の軸線方向両側面と全周にわたって重なっていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の軸受。
【請求項8】
前記第一の材料層は、前記外輪の外周面から径方向外側に向けて前記軸線方向の寸法が漸次大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の軸受。
【請求項9】
前記第二の材料層の外側面にはゲート跡が設けられ、
軸線方向からみたときの前記ゲート跡は、外形が前記第二の材料層の肉厚寸法より大きく形成され、前記第二の材料層と前記第一の材料層との両方に軸線方向で重なるように配置されることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の軸受。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の軸受を複数有し、前記複数の軸受の内輪を本体部に固定し、前記複数の軸受の前記被覆層を接触物に接触させた状態とし、前記被覆層並びに前記被覆層が固定された前記外輪が前記接触物に対して転がる車輪として機能することを特徴とする移動体。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の軸受を一対有し、夫々の前記被覆層同士を隣接して配置し、前記軸受の内輪が支持軸に取り付けられ、前記外輪および前記被覆層が回転することにより、一対の前記被覆層間に挟み込まれた搬送物を搬送することを特徴とする搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受、移動体および搬送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、転がり軸受の用途として、転がり軸受の外輪で紙幣や切符などの搬送物を搬送することや、転がり軸受を移動体の車輪として接触物に沿って転がせることが知られている。この場合、外輪の外周面には搬送物や接触物との摩擦力を大きくしたり、外輪が転がり接触しながら動作する際の音(ノイズ)を低減したりするために、外輪にウレタンゴムを被覆することがある。
ウレタンゴムは、耐摩耗性に優れ、さらに外輪に強固に接着固定できる。外輪にウレタンゴムを装着する製造工程は以下の通りである。
【0003】
まず、転がり軸受の外輪の外周面をサンドブラスト処理により粗く加工し、粗く加工した外周面に接着剤を塗布する。次に、転がり軸受を金型内にセットし、ウレタン原料(液体)を外周面と金型との間に流し込み、金型に圧力をかけて成形する。ついで、金型内において高温で所定の時間(硬度によるが半日から1日程度)保持する。ウレタンゴムを高温で硬化させるとともに、接着剤に高温をかけてウレタンゴムを外周面に加硫接着する。
加硫接着後に、ウレタンの外周面を研磨により所定の寸法、精度に仕上げる。これにより、転がり軸受の外輪の外周面にウレタンゴムが被覆される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平6-87717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の転がり軸受では以下のような課題がある。
すなわち、金型内でウレタンゴムを長時間にわたり硬化させる必要があり、外輪の外周面への接着剤の塗布に時間がかかり、ウレタンゴムの硬化後にウレタンの外周面を研磨により所定の寸法、精度に仕上げる必要がある。
よって、ウレタンゴムが外周面に被覆された転がり軸受を大量生産する場合には、ウレタンゴムを外周面に被覆するための設備を多数備える必要があり、設備費が嵩む。また、外輪の外周面をサンドブラストで粗く加工する工程や、粗く加工した外周面に接着剤を塗布する工程が必要である。このため、ウレタンゴムが被覆された転がり軸受を、安価で大量に製造することは難しい。
【0006】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、被覆層を備え、安価に大量に製造できる軸受、移動体および搬送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために本発明の一態様にかかる軸受は、外輪の外周面に形成された被覆層を備え、前記被覆層は、前記外輪の外周面に形成され、非晶性プラスチックからなる第一の材料層と、前記第一の材料層の外面に熱可塑性エラストマーが熱融着されることにより前記被覆層の外周面を形成する外周面層としての、熱可塑性エラストマーからなる第二の材料層と、を備え、前記第二の材料層は、前記第一の材料層よりも軟らかい材料であり、前記第一の材料層は、前記外輪の外周面を覆う外周面層と、前記外周面層の軸線方向の両側に連結されて前記外輪の軸線方向両側面と重なる一対の側面層と、を有し、前記熱可塑性エラストマーはチタン酸カリウム繊維を含有することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、熱可塑性エラストマーを熱融着して外周面を形成することにより、外周面層としての第二の材料層を熱融着により強固に固定できる。よって、従来必要とされていた、サンドブラスト加工工程や、接着剤による塗布工程を不要にできる。これにより、熱可塑性エラストマーによる被覆層を備えた軸受を、安価で大量に製造することができる。
また、第二の材料層を第一の材料層よりも軟らかい材料とすることにより、第一の材料層に硬い材料を使用できる。軟らかい材料とは、曲げ弾性率、硬度(例えば、デュロ硬度A(デュロメータ硬さA))が小さい材料をいう。硬い材料とは、曲げ弾性率、硬度(例えば、デュロ硬度A(デュロメータ硬さA))が大きい材料をいう。
また、第一の材料層が外輪の外周面に形成されることにより、第一の材料層が環状に形成される。よって、第一の材料層が冷却されて硬化する際の収縮により、第一の材料層が外輪の外周面に強固に取り付けられる。
また、第二の材料層を第一の材料層よりも軟らかい材料とすることにより、軸受の外輪(すなわち、第二の材料層)で紙幣や切符などの搬送物を搬送する場合や、軸受を移動体の車輪として接触物に沿って転がせる場合に、第二の材料層で音(ノイズ)を低減できる。
さらに、第一の材料層は、外輪の外周面を覆う外周面層と、外周面層の軸線方向の両側に連結されて外輪の軸線方向両側面を覆う一対の側面層と、を有する。これにより、第一の材料層は、冷却して収縮することにより、外輪の軸線方向両側面を一対の側面層で挟み込み挟持できる。よって、本発明の軸受は、第一の材料層を外輪に強固に固定させることができ、第一の材料層が外輪から脱落することを防止できる。
【0009】
また、前記第二の材料層は、前記第一の材料層の外周面を覆う外周面層と、前記外周面層の軸線方向の両側に連結されて前記第一の材料層における前記一対の側面層の軸線方向両側面と軸方向において重なる一対の側面層と、を有することを特徴としている。
【0010】
この構成によれば、第二の材料層に一対の側面層を形成し、一対の側面層で第一の材料層における一対の側面層の軸線方向両側面を挟み込むようにした。よって、第二の材料層が冷却して収縮することにより、第一の材料層における一対の側面層の軸線方向両側面を第二の材料層の一対の側面層で挟持できる。よって、本発明の軸受は、第二の材料層を第一の材料層に一層強固に固定させることができ、第二の材料層が外輪から脱落することを防止できる。
【0011】
また、前記第二の材料層の前記一対の側面層は、前記外輪の軸線方向両側面の少なくとも一部と重なることを特徴としている。
【0012】
この構成によれば、第二の材料層の一対の側面層は、外輪の軸線方向両側面を覆い、第二の材料層の一対の側面層で、第一の材料層の軸線方向両側面と、外輪の軸線方向両側面とを挟み込むようにした。よって、第二の材料層が冷却して収縮することにより、第一の材料層の軸線方向両側面と、外輪の軸線方向両側面とを、第二の材料層の一対の側面層で挟持できる。よって、本発明の軸受は、第二の材料層を外輪および第一の材料層に強固に固定させることができ、第二の材料層が外輪から脱落することを防止できる。
【0013】
また、前記第一の材料層の外周面および前記第二の材料層の内周面の一方には、凸部が形成され、前記第一の材料層の外周面および前記第二の材料層の内周面の他方には、前記凸部と係合される凹部が形成されていることを特徴としている。
【0014】
この構成によれば、第一の材料層の外周面と第二の材料層の内周面とは、凸部と凹部とにより互いに係合されるので、熱融着に加えて係合することによりさらに強固に固定させることができる。よって、本発明の軸受は、第二の材料層を第一の材料層に強固に固定させることができ、第二の材料層が外輪から脱落することを防止できる。
また、この構成によれば、第二の材料層と第一の材料層とが凸部と凹部とで係合するので、第二の材料層に一対の側面層を設けることなく、第一の材料層に固定することができる。よって、本発明の軸受は、第二の材料層に一対の側面層を設ける場合と比較して、被覆層の軸線方向の寸法を抑えることが可能になるので、軸受全体の薄型化を図ることができる。
【0015】
また、前記第一の材料層の外周面には前記凸部が形成されており、前記第二の材料層の内周面には前記凹部が形成されており、前記凸部の軸線方向の寸法は、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されており、前記凹部の軸線方向の寸法は、前記凸部に対応して、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されていることを特徴としている。
【0016】
この構成によれば、凸部の軸線方向の寸法は、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されており、凹部の軸線方向の寸法は、凸部に対応して、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されているので、凸部と凹部との係合力をさらに高めることができる。よって、本発明の軸受は、第二の材料層を第一の材料層に一層強固に固定させることができ、第二の材料層が外輪から脱落することを防止できる。
【0017】
また、前記第一の材料層の前記一対の側面層における外面の前記軸線方向の寸法は、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されており、前記第二の材料層の前記一対の側面層における内面の前記軸線方向の寸法は、前記第一の材料層における前記一対の側面層に対応して、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されていることを特徴としている。
【0018】
この構成によれば、第二の材料層の一対の側面層における内面の軸線方向の寸法は、第一の材料層における一対の側面層に対応して、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されているので、第一の材料層と第二の材料層との径方向に沿う係合力を向上させることができ、第二の材料層を第一の材料層に一層強固に固定できる。よって、本発明の軸受は、第二の材料層が外輪から脱落することを防止できる。
【0019】
また、前記第一の材料層の前記一対の側面層は、前記外輪の軸線方向両側面全周にわたって重なっていることを特徴としている。
【0020】
この構成によれば、第一の材料層の一対の側面層は、外輪の軸線方向両側面を全周にわたって覆っているので、第一の材料層が冷却して収縮することにより、外輪の軸線方向両側面を全周にわたって一対の側面層で挟持できる。よって、本発明の軸受は、第一の材料層を外輪に一層強固に固定させることができ、第一の材料層が外輪から脱落することを防止できる。
【0021】
また、前記第一の材料層は、前記外輪の外周面から径方向外側に向けて前記軸線方向の寸法が漸次大きくなるように形成されていることを特徴としている。
【0022】
この構成によれば、第一の材料層の軸線方向の寸法を径方向外側に向けて漸次大きくすることにより、第二の材料層を第一の材料層に一層強固に固定できる。これにより、第二の材料層が外輪から脱落することを防止できる。
【0023】
また、前記第二の材料層の外側面にはゲート跡が設けられ、軸線方向からみたときの前記ゲート跡は、外形が前記第二の材料層の肉厚寸法より大きく形成され、前記第二の材料層と前記第一の材料層との両方に軸線方向で重なるように配置されることを特徴としている。
【0024】
この構成によれば、第二の材料層の肉厚寸法よりゲートを大きく開口させた。さらに、ゲートを第二の材料層と第一の材料層との両方に軸線方向で重なるように配置させた。これにより、第二の材料層の肉厚寸法を小さくした場合でも、第二の材料層を良好に成形できる。
さらに、第一の材料層の被覆外周部に大きな圧力で熱可塑性エラストマーを充填することができる。これにより、第二の材料層と第一の材料層との両層の密着力を高めることができる。
【0025】
上記の課題を解決するために本発明の一態様にかかる移動体は、上述の軸受を複数有し、前記複数の軸受の内輪を本体部に固定し、前記複数の軸受の前記被覆層を接触物に接触させた状態とし、前記被覆層並びに前記被覆層が固定された前記外輪が前記接触物に対して転がる車輪として機能することを特徴とする。
また、上記の課題を解決するために本発明の一態様にかかる搬送装置は、上述の軸受を一対有し、夫々の前記被覆層同士を隣接して配置し、前記軸受の内輪が支持軸に取り付けられ、前記外輪および前記被覆層が回転することにより、一対の前記被覆層間に挟み込まれた搬送物を搬送することを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、耐久性を確保できるとともに低コストの駆動モジュールとすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、被覆層を備え、安価に大量に製造できる軸受および駆動モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第一実施形態に係る軸受の断面図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る第二の材料層にチタン酸カリウム繊維を含有させた状態の特性を示すグラフである。
図3】本発明の第一実施形態に係る軸受の変形例を示す側面図である。
図4】本発明の第一実施形態に係る軸受を備えた移動体を示す側面図である。
図5】本発明の第二実施形態に係る軸受の断面図である。
図6】本発明の第三実施形態に係る軸受の断面図である。
図7】本発明の第四実施形態に係る軸受の断面図である。
図8】本発明の第五実施形態に係る軸受の断面図である。
図9】本発明の第六実施形態に係る軸受の断面図である。
図10】本発明の第七実施形態に係る軸受の断面図である。
図11】本発明の一実施形態に係る変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る軸受の断面図である。
図1に示すように、軸受10は、輪体12、複数の転動体14、リテーナ16および被覆層18を備える転がり軸受である。
輪体12は、外輪21および内輪22を備える。外輪21と内輪22は、軸受10の軸線Oと同軸上に配置されている。内輪22は、外輪21の径方向の内側に配置される。内輪22は支持軸3に固定される。
複数の転動体14は、輪体12を構成する外輪21と内輪22との間において、環状に配置される。リテーナ16は、複数の転動体14を周方向に均等配列させた状態で転動自在に保持する。
【0030】
外輪21は、例えばステンレスなどの金属材料からなる。外輪21は、円筒状の部材であり、例えば鍛造や機械加工などにより形成される。外輪21は、外周面24と、内周面25と、中央部26とを有する。
外周面24は、外輪21の径方向外側に環状に形成されている。内周面25は、外輪21の径方向内側に環状に形成されている。中央部26は、軸線O方向の中央に形成されている。中央部26は、内周面25のうち軸線O方向中央の部位25aが径方向内側に突出して形成されている。
【0031】
内周面25のうち中央部26の部位25aには、外輪転動面29が形成されている。外輪転動面29は、軸線O方向の中央に形成されている。外輪転動面29は、転動体14の外表面に沿うように側面断面が円弧状に形成されている。外輪転動面29の断面における曲率半径は、転動体14の外表面の曲率半径と略同一か、若干大きくなるように形成される。外輪転動面29は、外輪21の内周面25の全周にわたって形成されている。外輪転動面29は、複数の転動体14の外表面が当接可能である。
【0032】
内輪22は、例えばステンレスなどの金属材料からなる。内輪22は、軸線O方向に所定の厚さ寸法を有する、略円筒状の部材であり、例えば鍛造や機械加工などにより形成されている。
内輪22の外周面22aにおける軸線O方向の中間部には、内輪転動面23が形成される。内輪転動面23は、転動体14の外表面に沿うように側面断面が円弧状に形成されている。内輪転動面23の断面における曲率半径は、転動体14の外表面の曲率半径と略同一か、若干大きくなるように形成される。内輪転動面23は、内輪22の外周面22aの全周にわたって形成されている。内輪転動面23は、複数の転動体14の外表面が当接可能である。
【0033】
内輪22が支持軸41に固定されることにより、被覆層18が外輪21とともに回転する。被覆層18(第二の材料層44)の外周面35は、例えば、紙幣や切符などを搬送する面、または接触物5(図4参照)を転がる面である。
【0034】
転動体14は、ステンレスなどの金属材料やジルコニヤなどのセラミック材料などにより球状に形成される。転動体14は、外輪21の外輪転動面29および内輪22の内輪転動面23の間に複数個配置されて、外輪転動面29および内輪転動面23に沿って転動する。複数の転動体14は、リテーナ16によって、転動自在に周方向に沿って環状に均等配列される。軸受10には潤滑用のグリースが封入されている。
【0035】
外輪21の外周面24には被覆層18が形成されている。被覆層18は、第一の材料層43と、第二の材料層44とを備えている。
【0036】
(第一の材料層43)
第一の材料層43は、外輪21の外周面24に形成されている。第一の材料層43は、外輪21の外周面24に射出成形によりインサート成形される。第一の材料層43は、外周面層31と、一対の側面層31a,31bとを有する。外周面層31は、外輪21の外周面24を覆っている。一対の側面層31a,31bは、外周面層31の軸線O方向の両側に連結されている。一対の側面層31a,31bは、外輪21の軸線方向両側面21a,21bを全周にわたって覆っている。
【0037】
第一の材料層43は、例えば硬質プラスチックで形成され、特に、非晶性プラスチックが熱可塑性エラストマーとの熱融着性に優れるため好ましい。非晶性プラスチックとしては、ポリカーボネート、ABS樹脂、あるいは、ポリカーボネート、ABS樹脂のアロイ材などが好ましい。第一の材料層43が冷却されて、外周面24に対して外輪21の中心に向かって(径方向に)密着するように力が加わるため、第一の材料層43が、外輪21の外周面24に射出成形により固定されている。
第一の材料層43は、外周面24に沿って硬質プラスチックで環状に形成されている。
よって、第一の材料層43が冷却されて硬化する際の収縮により、第一の材料層43が外周面24に強固に取り付けられる。
【0038】
ここで、第一の材料層43は、外輪21の外周面24を覆う外周面層31に加え、第一の材料層43の外周面層31における軸線O方向の両側に連結されて外輪21の軸線方向両側面21a,21bを覆う一対の側面層31a,31bを有する。これにより、第一の材料層43は、冷却して収縮することにより、外輪21の軸線方向両側面21a,21bを一対の側面層31a,31bで挟み込み挟持できる。よって、第一の材料層43は、外輪21に対して強固に固定される。
【0039】
第一の材料層43を外輪21の外周面24にインサート成形する際には、軸受10が成形型の内部に収められ、外輪21の軸線方向両側面21a,21bが成形型に接触して支えられる。このように、軸線方向両側面21a,21bが成形型で支えられることにより、第一の材料層43が外輪21の外周面24にインサート成形される。また、外輪21の単体に対して第一の材料層43をインサート成形しても構わない。
【0040】
(第二の材料層44)
第二の材料層44は、第一の材料層43の外周面34(外面)に形成されている。第二の材料層44は、被覆層18の外周面35を形成している外周面層である。
【0041】
第二の材料層44は、熱可塑性エラストマー(TPE)で形成されている。熱可塑性エラストマーは、第一の材料層43の材料となる非晶性プラスチックとの熱融着性に優れている。
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系(TPS)、オレフィン系(TPO)、塩ビ系(PPVC)、ウレタン系(TPU)、ポリエステル系(TPEE)が適用可能である。機械的強度、耐摩耗性の観点からウレタン系(TPU)、ポリエステル系(TPEE)、スチレン系(TPS)が好ましい。さらに好ましい熱可塑性エラストマーとしてポリエステル系(TPEE)が挙げられる。
ウレタン系(TPU)は、耐摩耗性に最も優れるが成形性に問題があり、吸湿性が高く充分な乾燥が必要である。さらに、アニール処理も必要であり、製造に時間がかかるとともに成形精度にも問題がある。また、ウレタン系は、機械的強度や耐摩耗性が熱可塑性エラストマー中で最も優れている。このため、ウレタン系は、被覆層18に機械的強度や耐摩耗性の特性が必要な場合に使用される。
【0042】
ポリエステル系(TPEE)は、ウレタンを除く熱可塑性エラストマーのなかでは耐摩耗性、機械的強度が最もすぐれるとともに、硬質プラスチックとの熱融着性にも優れている。また、ポリエステル系(TPEE)は、吸湿性も低く、成形性も良好なため被覆層18の材料として最適である。
【0043】
ここで、第二の材料層44の熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系(TPEE)が好ましい。ポリエステル系は、耐摩耗性、機械的強度が優れるとともに、硬質プラスチック(すなわち、第一の材料層43)と熱融着性に優れている。
熱融着とは、例えば、第一の被覆層14の熱可塑性エラストマーが加熱により溶融して硬質プラスチック(滑り軸受12の外周面17)に付着することをいう。
よって、2色成形時に効果を発揮する。また、ポリエステル系(TPEE)は、吸湿性も低く、成形性も良好なため軸受10の第二の材料層44の材料として最適である。
音(ノイズ)を抑えるという観点から、第二の材料層44のデュロ硬度Aは75~95が望ましい。例えば、デュロ硬度Aを92とすることにより、音(ノイズ)を良好に抑え、かつ、第一の被覆層14の機械的強度や耐摩耗性を良好に確保するという観点から特に好ましい。デュロ硬度Aが75未満であると、第二の材料層44の機械的強度や耐摩耗性が問題となることが考えられる。
【0044】
第二の材料層44の熱可塑性エラストマーは、第一の材料層43の非晶性プラスチック(硬質プラスチック)よりも軟らかい材料である。すなわち、第一の材料層43に硬い非晶性プラスチックを使用できる。よって、外輪21の外周面24に第一の材料層43を溶融状態で射出成形し、射出成型後に溶融状態の第一の材料層43が冷却、凝固することにより、環状の第一の材料層43が収縮する。よって、第一の材料層43を外輪21の外周面24に強固に固定できる。
軟らかい材料とは、曲げ弾性率、硬度(例えば、デュロ硬度A(デュロメータ硬さA))が小さい材料をいう。
硬い材料とは、曲げ弾性率、硬度(例えば、デュロ硬度A(デュロメータ硬さA))が大きい材料をいう。
【0045】
次に、第一実施形態の軸受10の作用効果を説明する。
【0046】
第一実施形態の軸受10は、外輪21の外周面24に形成された被覆層18を備え、被覆層18は、外輪21の外周面24に形成された第一の材料層43と、第一の材料層43の外周面34に熱可塑性エラストマーが熱融着されることにより被覆層18の外周面35を形成する外周面層としての第二の材料層44と、を備え、第二の材料層44は、第一の材料層43よりも軟らかい材料であり、第一の材料層43は、外輪21の外周面24を覆う外周面層31と、外周面層31の軸線O方向の両側に連結されて外輪21の軸線方向両側面21a,21bを覆う一対の側面層31a,31bと、を有する。
【0047】
この構成によれば、熱可塑性エラストマーを熱融着して外周面35を形成することにより、外周面層としての第二の材料層44を熱融着により強固に固定できる。よって、従来必要とされていた、サンドブラスト加工工程や、接着剤による塗布工程を不要にできる。
これにより、熱可塑性エラストマーによる被覆層18を備えた軸受10を、安価で大量に製造することができる。
また、第二の材料層44を第一の材料層43よりも軟らかい材料とすることにより、第一の材料層43に硬い材料を使用できる。軟らかい材料とは、曲げ弾性率、硬度(例えば、デュロ硬度A(デュロメータ硬さA))が小さい材料をいう。硬い材料とは、曲げ弾性率、硬度(例えば、デュロ硬度A(デュロメータ硬さA))が大きい材料をいう。
また、第一の材料層43が外輪21の外周面24に形成されることにより、第一の材料層43が環状に形成される。よって、第一の材料層43が冷却されて硬化する際の収縮により、第一の材料層43が外輪21の外周面24に強固に取り付けられる。
また、第二の材料層44を第一の材料層43よりも軟らかい材料とすることにより、軸受10の外輪(すなわち、第二の材料層44)で紙幣や切符などの搬送物を搬送する場合や、軸受10を移動体の車輪として接触物に沿って転がせる場合に、第二の材料層44で音(ノイズ)を低減できる。
さらに、第一の材料層43は、外輪21の外周面24を覆う外周面層31と、外周面層31の軸線O方向の両側に連結されて外輪21の軸線方向両側面21a,21bを覆う一対の側面層31a,31bと、を有する。これにより、第一の材料層43は、冷却して収縮することにより、外輪21の軸線方向両側面21a,21bを一対の側面層31a,31bで挟み込み挟持できる。よって、本実施形態の軸受10は、第一の材料層43を外輪21に強固に固定させることができ、第一の材料層43が外輪21から脱落することを防止できる。
【0048】
また、第一の材料層43の一対の側面層31a,31bは、外輪21の軸線方向両側面21a,21bを全周にわたって覆っているので、第一の材料層43が冷却して収縮することにより、外輪21の軸線方向両側面21a,21bを全周にわたって一対の側面層31a,31bで挟持できる。よって、本実施形態の軸受10は、第一の材料層43を外輪21に一層強固に固定させることができ、第一の材料層43が外輪21から脱落することを防止できる。
【0049】
前述したように、被覆層18の第一の材料層43および第二の材料層44は、例えば2色成形で形成される。具体的には、外輪21の外周面24に第一の材料層43が非晶性プラスチックの射出成形によりインサート成形される。第一の材料層43がインサート成形された後、第二の材料層44が熱可塑性エラストマーの射出成形によりインサート成形される。
第一の材料層43や第二の材料層44を射出成形するために金型が用いられる。特に、第二の材料層44を射出成形する金型は、例えばゲートG1が第二の材料層44の軸線O方向の一方側(図1中で左側)に相当する位置に配置される。溶融された熱可塑性エラストマーがゲートG1から金型の内部(キャビティ)に充填されることにより、第一の材料層43に第二の材料層44がインサート成形される。
金型のゲートG1を第二の材料層44の軸線O方向の一方側に相当する位置に設けることにより、熱可塑性エラストマーの充填個所を第二の材料層44の外周面35からずらすことができる。
【0050】
また、金型のパーティングラインPLは、例えば軸受10の軸線O方向において第二の材料層44の外側面45に位置させる。パーティングラインPLは、第二の材料層44の外周面35からずらした位置に配置されている。
このように、ゲートG1やパーティングラインPLを外周面35からずらすことにより、熱可塑性エラストマーをゲートG1から金型内に充填させる際に生じるバリや、パーティングラインPLにより生じるバリなどが外周面35に生じさせないようにできる。これにより、外周面35からバリを除去する後加工を不要にできる。
【0051】
ところで、非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーを射出成形する際の金型温度は150℃以下(好ましくは100℃以下)と低く抑えられる。また、溶融された非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーがゲートG1から金型内に充填されると、非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーは瞬時に固まる。よって、溶融された非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーの高温は軸受10に封入されたグリースまで伝わらないようにできる。これにより、溶融された非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーの高温でグリースを劣化させるおそれはない。
【0052】
ここで、被覆層18を外周面24に溶着することにより、被覆層18を外周面24に接着剤で接着する必要がない。被覆層18と外周面24との間に接着剤を介在させないことにより次の効果が得られる。
すなわち、小型の軸受の場合、例えば、被覆層を外周面に接着剤で接着すると接着剤の塗布ムラにより、接着剤を外周面に均一の厚さ寸法に塗布できないおそれがある。一方、小型の軸受の場合、被覆層の厚さ寸法が1.0mmより小さくなることが考えらえる。この状態において、接着剤が外周面に均一の厚さ寸法に塗布されていない場合、被覆層の硬度が不均一になることが考えられる。
このため、被覆層が被覆された小型の軸受で搬送物を搬送する場合や、被覆層を接触物に沿って転がり動作させる場合に、音(ノイズ)が発生したり、トルクムラの原因となったりするおそれがある。
【0053】
これに対して、被覆層18を外周面24に溶着することにより、接着剤を不要にできる。これにより、軸受10が小型で被覆層18の厚さ寸法が1.0mmより小さくなった場合でも、被覆層18の硬度を全周において均一に保つことが可能になる。これにより、軸受10を小型に形成した場合でも、搬送物を軸受10で搬送する場合や、接触物に沿って軸受10を転がり動作させる際に、音(ノイズ)の発生や、トルクムラの原因を抑えることができる。
【0054】
なお、第一実施形態では、被覆層18を外周面24に溶着のみで設ける例について説明したが、軸受10の用途に応じて、例えば溶着に接着剤を併用させて被覆層18を外周面24に設けてもよい。
【0055】
第一実施形態では、被覆層18の第一の材料層43を、硬質プラスチック(非晶性プラスチック)としては、ポリカーボネートなどを使用する例について説明したが、例えば第二の材料層44と同様に熱可塑性エラストマーを使用してもよい。
よって、第一の材料層43と第二の材料層44とを一層良好に熱融着することができる。これにより、第二の材料層44を第一の材料層43に一層強固に固定でき、第二の材料層44が外輪21から脱落することを一層確実に防止できる。
【0056】
ここで、例えば、第二の材料層44の摩耗量を確保するために、表1、図2に示すように、熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を含有することも可能である。
表1は本発明の第二の材料層44にチタン酸カリウム繊維を含有させた状態の特性を示す表である。図2は第二の材料層44にチタン酸カリウム繊維を含有させた状態の特性を示すグラフである。
表1、図2において、チタン酸カリウム繊維を含有しない熱可塑性エラストマー(ポリエステル系(TPEE))をエラストマー(単体)として示す。チタン酸カリウム繊維を10wt%含有した熱可塑性エラストマーをエラストマー(10wt%)として示す。
また、チタン酸カリウム繊維を20wt%含有した熱可塑性エラストマーをエラストマー(20wt%)として示す。チタン酸カリウム繊維を30wt%含有した熱可塑性エラストマーをエラストマー(30wt%)として示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1、図2において、エラストマー(単体)、エラストマー(10wt%)、エラストマー(20wt%)、エラストマー(30wt%)の特性を示す。
熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を10wt%、20wt%、30wt%含有することにより、引張り強さを12Mpaから13MPa,18MPa,23MPaと高くできる。
また、曲げ強さを4MPaから7MPa,9MPa,16MPaと高くできる。さらに、曲げ弾性率を0.05GPaから0.13GPa,0.21GPa,0.44GPaと高くできる。
【0059】
また、図2のグラフに、熱可塑性エラストマー単体、熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を10wt%、20wt%、30wt%含有した状態の摩耗量やデュロ硬度Aを示す。図2、表1に示すように、熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を10wt%、20wt%、30wt%含有した状態において、熱可塑性エラストマーのデュロ硬度Aを94から96,97,98と略同様に確保できる。
さらに、図2、表1に示すように、熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を含有した状態において、熱可塑性エラストマーの摩耗量を減少させることができる。具体的には、チタン酸カリウム繊維を10wt%、20wt%、30wt%含有した状態において、熱可塑性エラストマーの摩耗量を12.5×10-3cmから10.1×10-3cm,7.0×10-3cm,3.8×10-3cmと減少させることができる。
【0060】
ここで、熱可塑性エラストマーの摩耗量は、往復摺動試験により測定される。往復摺動試験条件は、相手材としてガラスプレートを選択し、荷重0.7kg、速度0.16m/sで時間20min往復摺動試験を実施する。
なお、チタン酸カリウム繊維の含有量は、被覆層付き滑り軸受10の用途に対応させて適宜選択する。
【0061】
(変形例)
つぎに、第1実施形態の軸受10の変形例について説明する。
図3は、第1実施形態に係る軸受の変形例を示す側面図である。
図3に示すように、 第1実施形態の軸受10として、第二の材料層44を熱可塑性エラストマーで形成する例について説明したが、その他の例として、第二の材料層44の被覆外周面に、歯車用の複数の歯48を形成することも可能である。これにより、軸受10を歯車47として用いることが可能になる。歯車47は、例えば、遊星歯車機構の内部の小さなプラネタリギア(遊星歯車)として用いることが可能である。
歯車47は、複数の歯48が熱可塑性エラストマーで形成されている。これにより、歯車47が噛み合う際に発生する駆動音を低減することが可能である。
また、複数の歯48を形成する第二の材料層44は、歯車47の耐摩耗性、機械的強度などを考慮してデュロ硬度Aが95を超えた熱可塑性エラストマーの使用も可能である。
【0062】
(軸受10の用途の例)
次に、第一実施形態の軸受10の用途の例を図4に基づいて説明する。
図4は、第一実施形態に係る軸受を備えた移動体1を示す側面図である。
図4に示すように、例えば、軸受10は移動体1(駆動モジュール)に取り付けられて車輪として用いられる。移動体1は、本体部2と、本体部2の両側に取り付けられた複数の軸受10とを備えている。複数の軸受10は、内輪22が支持軸3に取り付けられることにより固定されている。
支持軸3は本体部2に取り付けられている。内輪22が支持軸3に固定されることにより、外輪21および被覆層18が支持軸3に回転自在に支持されている。すなわち、複数の軸受10は車輪として用いられる。
【0063】
移動体1は、複数の軸受10の被覆層18(具体的には、第二の材料層44)が接触物5に接触された状態で配置されている。第二の材料層44は、熱可塑性エラストマーで形成されている。軸受10の外輪21および被覆層18が接触物5を転がることにより、移動体1を接触物5に沿って移動させることができる。
外輪21に被覆層18が形成されているので、軸受10が接触物5を転がりながら移動する際に、被覆層18(特に、第二の材料層44)により音(ノイズ)を低減させることができる。また、外輪21の外周面24に被覆層18が強固に係合されているので、外輪21の外周面24から被覆層18が脱落することを防止できる。
このように、移動体1に複数の軸受10を備えることにより、耐久性を確保できるとともに低コストの移動体1を得ることができる。
【0064】
図4においては、軸受10の被覆層18を接触物5に接触させた状態で回転させ、移動体1を接触物5に沿って移動させる例について説明したが、これに限らない。その他の例として、移動体1を固定状態に保持し、被覆層18を接触物5に接触させて被覆層18の回転により接触物5を移動させてもよい。この場合、机の引き出しにおいて引き出しを接触物5とする場合がこれに相当する。この状態においても、被覆層18により音(ノイズ)を低減させることができる。
また、その他の例として、被覆層付き滑り軸受10を走行方向が旋回する自在車に適用してもよい。被覆層付き滑り軸受10を自在車に適用することにより、移動体1の走行方向に対応させて被覆層付き滑り軸受10を旋回させることができる。
【0065】
また、他の用途の例として、軸受10は紙幣や切符などの搬送装置(駆動モジュール)に用いられる。すなわち、搬送装置は、一対の軸受10の内輪22が支持軸3に取り付けられて、外輪21および被覆層18が支持軸に回転自在に支持される。一対の被覆層18は隣接して配置されている。この状態において、外輪21および被覆層18が回転することにより、一対の被覆層18間に紙幣や切符などが挟み込まれて搬送される。
【0066】
外輪21に被覆層18が形成されているので、軸受10の被覆層18間に紙幣や切符などを挟み込みながら搬送する際に、被覆層18により音(ノイズ)を低減させることができる。また、外輪21の外周面24に被覆層18が強固に固定されているので、外輪21の外周面24から被覆層18が脱落することを防止できる。
このように、搬送装置に軸受10を備えることにより、耐久性を確保できるとともに低コストの搬送装置を得ることができる。
【0067】
次に、第二実施形態~第七実施形態の軸受を図5図10に基づいて説明する。なお、第二実施形態~第七実施形態の軸受において、第一実施形態の軸受10と同一、類似部材については同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
【0068】
(第二実施形態)
図5は、本発明の第二実施形態に係る軸受の断面図である。
図5に示すように、第二実施形態の軸受50では、外輪21の外周面24に被覆層51が形成されている。被覆層51は、第一の材料層43と、第二の材料層52とを備えている。
第二の材料層52は、外周面層53と、一対の側面層54a,54bとを備えている。
外周面層53は、第一の材料層43の外周面34を覆っている。一対の側面層54a,54bは、外周面層53の軸線O方向の両側に連結されている。一対の側面層54a,54bは、第一の材料層43の一対の側面層31a,31bの軸線方向両側面55a,55bのうち、径方向の中間部分よりも外周側の領域を全周にわたって覆っている。
【0069】
第二実施形態では、第二の材料層52に一対の側面層54a,54bを形成し、一対の側面層54a,54bで第一の材料層43における一対の側面層31a,31bの軸線方向両側面55a,55bを挟み込むようにした。よって、第二の材料層52が冷却して収縮することにより、第一の材料層43における一対の側面層31a,31bの軸線方向両側面55a,55bを第二の材料層52の一対の側面層54a,54bで挟持できる。よって、本実施形態の軸受50は、第二の材料層52を第一の材料層43に一層強固に固定させることができ、第二の材料層52が外輪21から脱落することを防止できる。
【0070】
(第三実施形態)
図6は、本発明の第三実施形態に係る軸受の断面図である。
図6に示すように、第三実施形態の軸受60では、外輪21の外周面24に被覆層61が形成されている。被覆層61は、第一の材料層43と、第二の材料層62とを備えている。
第二の材料層62は、外周面層53と、一対の側面層64a,64bとを備えている。
一対の側面層64a,64bは、外周面層53の軸線O方向の両側に連結されている。一対の側面層54a,54bは、第一の材料層43の軸線方向両側面55a,55bと、外輪21の軸線方向両側面21a,21bのうち径方向の中間部分近傍と、を全周にわたって覆っている。
【0071】
第三実施形態では、第二の材料層62の一対の側面層64a,64bは、外輪21の軸線方向両側面21a,21bを覆い、第二の材料層62の一対の側面層64a,64bで、第一の材料層43の軸線方向両側面55a,55bと、外輪21の軸線方向両側面21a,21bと、を挟み込むようにした。よって、第二の材料層62が冷却して収縮することにより、第一の材料層43の軸線方向両側面55a,55bと、外輪21の軸線方向両側面21a,21bとを、第二の材料層62の一対の側面層64a,64bで挟持できる。よって、本実施形態の軸受60は、第二の材料層62を外輪21および第一の材料層43に強固に固定させることができ、第二の材料層62が外輪21から脱落することを防止できる。
【0072】
(第四実施形態)
図7は、本発明の第四実施形態に係る軸受の断面図である。
図7に示すように、第四実施形態の軸受70では、外輪21の外周面24に被覆層71が形成されている。被覆層71は、第一の材料層72と、第二の材料層73とを備えている。
第一の材料層72の外周面34には、凸部74が突出して形成されている。具体的に凸部74は、第一の材料層72の外周面層31の外周面34に形成されている。第二の材料層73の内周面75には、凸部74に対応して凹部76が形成されている。凹部76と凸部74とは、互いに係合している。
【0073】
第四実施形態によれば、第一の材料層72の外周面34と第二の材料層73の内周面75とは、凸部74と凹部76とにより互いに係合されるので、熱融着に加えて係合することによりさらに強固に固定させることができる。よって、本実施形態の軸受70は、第二の材料層73を第一の材料層72に強固に固定させることができ、第二の材料層73が外輪21から脱落することを防止できる。
また、第四実施形態によれば、第二の材料層73と第一の材料層72とが凸部74と凹部76とで係合するので、第二の材料層73に一対の側面層を設けることなく、第一の材料層72に固定することができる。よって、本実施形態の軸受70は、第二の材料層73に一対の側面層を設ける場合と比較して、被覆層71の軸線O方向の寸法を抑えることが可能になるので、軸受70全体の薄型化を図ることができる。
【0074】
(第五実施形態)
図8は、本発明の第五実施形態に係る軸受の断面図である。
図8に示すように、第五実施形態の軸受80では、外輪21の外周面24に被覆層81が形成されている。被覆層81は、第一の材料層82と、第二の材料層83とを備えている。
第一の材料層82の外周面34には、凸部84が径方向の外側に突出して形成されている。具体的に凸部84は、第一の材料層82の外周面層31の外周面34に形成されている。第二の材料層83の内周面85には、凸部84に対応した凹部86が形成されている。凹部86は、凸部84に係合している。
凸部84の軸線O方向の寸法W1は、径方向内側から径方向外側に向けて漸次大きくなるように形成されている。凹部86の軸線O方向の寸法W2は、径方向外側から径方向内側に向けて漸次小さくなるように形成されている。
【0075】
第五実施形態によれば、第一の材料層82の外周面34と第二の材料層83の内周面85とは、凸部84と凹部86とにより互いに係合されるので、熱融着に加えて係合することによりさらに強固に固定させることができる。よって、第五実施形態の軸受80は、第二の材料層83を第一の材料層82に強固に固定させることができ、第二の材料層83が外輪21から脱落することを防止できる。
また、この構成によれば、第二の材料層83と第一の材料層82とが凸部84と凹部86とで係合するので、第二の材料層83に一対の側面層を設けることなく、第一の材料層82に固定することができる。よって、本実施形態の軸受80は、第二の材料層83に一対の側面層を設ける場合と比較して、被覆層81の軸線O方向の寸法W3を抑えることが可能になるので、軸受80全体の薄型化を図ることができる。
【0076】
さらに、凸部84の軸線O方向の寸法W1は、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されており、凹部86の軸線O方向の寸法W2は、凸部84に対応して、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されているので、凸部84と凹部86との係合力をさらに高めることができる。よって、本実施形態の軸受80は、第二の材料層83を第一の材料層82に一層強固に固定させることができ、第二の材料層83が外輪21から脱落することを防止できる。
【0077】
(第六実施形態)
図9は、本発明の第六実施形態に係る軸受の断面図である。
図9に示すように、第六実施形態の軸受90では、外輪21の外周面24に被覆層91が形成されている。被覆層91は、第一の材料層92と、第二の材料層93とを備えている。第一の材料層92は、外周面層31と、一対の側面層94a,94bとを有する。第二の材料層93は、外周面層53と、一対の側面層95a,95bとを有する。
第一の材料層92の一対の側面層94a,94bにおける軸線方向両側面55a,55bの軸線O方向の寸法W4は、径方向内側から径方向外側に向けて漸次大きくなるように形成されている。これに対応して、第二の材料層93の一対の側面層95a,95bにおける内面の軸線O方向の寸法W5は、径方向外側から径方向内側に向けて漸次小さくなるように形成されている。
【0078】
第六実施形態によれば、第二の材料層93の一対の側面層95a,95bにおける内面の軸線O方向の寸法W5は、第一の材料層92における一対の側面層94a,94bに対応して、径方向内側から径方向外側に向けて大きくなるように形成されているので、第一の材料層92と第二の材料層93との径方向に沿う係合力を向上させることができ、第二の材料層93を第一の材料層92に一層強固に固定できる。よって、本実施形態の軸受90は、第二の材料層93が外輪21から脱落することを防止できる。
【0079】
(第七実施形態)
図10は、本発明の第七実施形態に係る軸受の断面図である。
図10に示すように、軸受100は、第一実施形態の被覆層18を被覆層108に代えたもので、その他の構成は第一実施形態の軸受10と同様である。被覆層108は、第一実施形態の第二の材料層44を第二の材料層144に代えたもので、さらに、第一実施形態と同様の第一の材料層43を備える。
【0080】
第二の材料層144は、被覆層108の外周面層を形成する。第二の材料層144は、被覆層108の外周面135を形成している外周面層を有する。外周面135は、第一実施形態の外周面35を、湾曲状の外周面135に代えたもので、その他の部位は第一実施形態の外周面35と同様である。
第二の材料層144は、軸線O方向の一方側(図10における左側)に配置された第一端部135aと、軸線O方向の他方側(図10における右側)に配置された第二端部135bとを有する。外周面135は、第一端部135aから第二端部135bまで外径が漸次小さくなるように湾曲状に形成されている。外周面135は、外径が漸次小さくなるように直線状に形成してもよい。
【0081】
第一端部135aには、金型のパーティングラインPLが位置する。すなわち、外周面135は、パーティングラインPLから第二端部135bまで外径が漸次小さくなるように湾曲状に形成されている。よって、被覆層108(第一の材料層43、第二の材料層144)をインサート成形した後、金型の可動型を矢印方向に型開きすることにより、外周面135にバリが発生することを抑制できる。
これにより、外輪21の外周面24に被覆層108(第一の材料層43、第二の材料層144)をインサート成形した後、外周面135からバリを除去する後加工を不要にできる。
【0082】
第七実施形態の軸受100によれば、外周面135の外径が漸次小さくなるように形成されている。よって、外周面135で紙幣や切符などを搬送したり、外周面135が接触物を転がりながら移動したりする際に、紙幣、切符や接触物などに対する接触面積を小さく抑えることができる。これにより、外周面135で紙幣や切符などを搬送したり、外周面135が接触物を転がりながら移動したりする際に、音(ノイズ)の低減に効果が得られる。
【0083】
また、第七実施形態の軸受100によれば、第二の材料層144を第一の材料層43を介して外輪21の外周面24に強固に係合させることができる。これにより、被覆層108が外輪21の外周面24(すなわち、外輪21)から脱落することを防止できる。
また、第七実施形態の軸受100によれば、第一実施形態の軸受10と同様に、外輪21の外周面24に被覆層108が形成された軸受100を大量に、かつ安価に製造することができる。
【0084】
(変形例)
図11は、本発明の変形例に係る軸受の断面図である。
図11に示すように、ゲート径D1が大きいゲートG2から充填する熱可塑性エラストマーで軸受50の第二の材料層52を成形することも可能である。
ゲートG2は、熱可塑性エラストマーで軸受50の径方向において、第二の材料層52の肉厚寸法T1よりゲート径D1が大きく開口されている。さらに、ゲートG2は、第二の材料層52と第一の材料層43との両方に軸線方向で重なるように配置されている。
ゲートG2から金型の内部(キャビティ)に熱可塑性エラストマーが充填されることにより、第一の材料層43の外周面34に第二の材料層52がインサート成形される。
【0085】
ゲートG2のゲート径D1が大きく形成され、ゲートG2が、第二の材料層52と第一の材料層43との両方に重なるように配置されることにより、第二の材料層52の肉厚寸法T2を小さくした場合でも、第二の材料層52を良好に成形できる。
さらに、第一の材料層43の外周面34に大きな圧力で熱可塑性エラストマーを充填することができる。これにより、第二の材料層52と第一の材料層43との両層の密着力を高めることができる。
【0086】
変形例においては、ゲート径D1が大きいゲートG2で軸受50の第二の材料層52を成形する例について説明したが、これに限らない。その他の例として、ゲート径D1が大きいゲートG2で、例えば、軸受60、70、80、90の第二の材料層62、73、83、93を成形してもよい。
【0087】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0088】
例えば、上記の各実施形態の軸受10,50,60,70,80,90,100では、第一の材料層43の一対の側面層31a,31bは、外輪21の軸線方向両側面21a,21bの全周を覆うようにしたが、軸線方向両側面21a,21bの周方向の一部を覆うようにしてもよい。また、上記の各実施形態を組み合わせて軸受を構成してもよい。
【0089】
上記の第一実施形態の軸受10では、第一の材料層43の一対の側面層31a,31bは、外輪21の軸線方向両側面21a,21bの被覆層18を回転摺動とする用途について説明したが、他の部材と軸受とを固定する部材(Oリング代替)や、電食を防止するための絶縁部材としても適用可能である。上記の各実施形態では、外輪21の外周面24に被覆層を設けた例について説明したが、内輪22の内周面に被覆層を設けてもよい。
【0090】
上記の各実施形態では、軸受10,50,60,70,80,90,100の外輪21に第一の材料層および第二の材料層を形成した例について説明したが、その他の例として例えば、外輪21に第一の材料層、第二の材料層、および第三の材料層を順次形成してもよい。加えて、第二の材料層を、第一の材料層よりも軟らかい材料とする。また、第三の材料層を、第二の材料層よりも硬い材料とする。
これにより、軸受を駆動する際の音(ノイズ)の低減を図り、耐摩耗性および耐久性に優れた軸受が実現できる。
【0091】
また、上記の各実施形態の軸受10,50,60,70,80,90,100において、第一の材料層43,72,82,92の外周面34に溝部またはしぼ部を形成してもよい。溝部は、例えば、軸受の軸方向に延びるように形成されている。外周面34に溝部やしぼ部を形成することにより、外周面34への第二の材料層44,52,62,73,83,93,144の接合強度を高めることができる。
【0092】
さらに、上記の各実施形態の軸受10,50,60,70,80,90,100において、第二の材料層44,52,62,73,83,93,144の幅寸法を第一の材料層43,72,82,92の幅寸法より小さくしてもよい。第二の材料層の幅寸法を第一の材料層の幅寸法より小さくすることにより、接触面積を小さく抑え、駆動音を減少させることができる。
【0093】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態および各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 移動体(駆動モジュール)
10,50,60,70,80,90,100 軸受
18,51,61,71,81,91,108 被覆層
21 外輪
24 外輪の外周面
31 外周面層
31a,31b,94a,94b 一対の側面層
21a,21b 軸線方向両側面
34 外周面(外面)
35,135 外周面
43,72,82,92 第一の材料層
44,52,62,73,83,93,144 第二の材料層
53 外周面層
54a,54b,64a,64b,95a,95b 一対の側面層
55a,55b 軸線方向両側面
74,84 凸部
75,85 内周面
76,86 凹部
W1,W4 凸部の軸線方向の寸法
W2,W5 凹部の軸線方向の寸法
O 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11