(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】乳化化粧料組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/31 20060101AFI20230710BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20230710BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20230710BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20230710BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20230710BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20230710BHJP
A61K 8/891 20060101ALI20230710BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20230710BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A61K8/31
A61K8/06
A61K8/34
A61K8/37
A61K8/55
A61K8/86
A61K8/891
A61K8/92
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2019053510
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】田辺 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】松尾 真樹
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-269502(JP,A)
【文献】特開2017-178789(JP,A)
【文献】特開2019-119690(JP,A)
【文献】特開2017-178787(JP,A)
【文献】特開2011-032175(JP,A)
【文献】特開2007-314442(JP,A)
【文献】特開2005-263781(JP,A)
【文献】特開2018-168105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分A、下記成分B、下記成分C、下記成分D、下記成分Eおよび下記成分Fを含有し、
前記成分Bの含有量が0.1~5.0質量%であり、
前記成分Cの含有量が5.0質量%以下であり、
前記成分Dの含有量が1.0~6.0質量%であり、
前記成分Eの含有量が
5.0~20.0質量%であり、
前記成分Fの含有量が50.0~90.0質量%であり、
前記成分Cと前記成分Eとの含有量の質量比(成分C/成分E)が0.03以上であり、
前記成分Aと前記成分Cとの含有量の質量比(成分A/成分C)が0.1~2.0である、
乳化化粧料組成物。
成分A:HLBが14.0~20.0であり、ポリオキシエチレン鎖を有するノニオン性界面活性剤
成分B:リン脂質
成分C:炭素数12~22の脂肪族アルコール
成分D:ジプロピレングリコールおよび/またはプロピレングリコール
成分E:炭化水素油、エステル油、シリコーン油および植物油からなる群より選択される、少なくとも1種類の油分であって、各油分のIOBの加重平均が0.2~0.5である少なくとも1種類の油分
成分F:水
【請求項2】
αゲルを形成している、請求項1に記載の乳化化粧料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化化粧料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚に対する様々な効果を持たせるために、多様な成分および組成比を有する乳化化粧料組成物が、日夜研究・開発されている。
【0003】
中でも、保湿を目的とする皮膚化粧料などにおいては、塗布時の閉塞性に優れる観点から、αゲルを形成している乳化製剤が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、αゲルは、界面活性剤、高級アルコールおよび水を混合した系において形成され、界面活性剤および高級アルコールから構成される2分子膜を有する。この系内に高極性油を混合すると、2分子膜を構成する成分が油相側に多く分配されることとなり、αゲルの安定性が損なわれるという課題があった。
【0006】
この課題に対する解決手段として、2分子膜の構成成分である界面活性剤および/または高級アルコールの配合量を増加させることが、従前知られていた。しかしこの解決手段では、使用時にべたつきが生じたり、剤の伸びが低下したりする問題があることが、本発明者らの検討の結果明らかとなった。
【0007】
本発明の課題は、高極性油を含む製剤において、界面活性剤および/または高級アルコールを多量に含有させることなく、伸びがよく、安定なαゲル製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、水相に特定の多価アルコールを配合して水相側の極性を調整し、特定のノニオン性界面活性剤を選択すれば、界面活性剤および/または高級アルコールを高配合させることなく、高極性油を含む製剤においてαゲルを安定に形成できるという新規知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の乳化化粧料組成物は、以下の発明を包含する。
【0010】
(1)下記成分A、下記成分B、下記成分C、下記成分D、下記成分Eおよび下記成分Fを含有し、
上記成分Bの含有量が0.1~5.0質量%であり、
上記成分Cの含有量が5.0質量%以下であり、
上記成分Dの含有量が1.0~10.0質量%であり、
上記成分Eの含有量が1.0~20.0質量%であり、
上記成分Fの含有量が50.0~90.0質量%であり、
上記成分Cと上記成分Eとの含有量の質量比(成分C/成分E)が0.03以上であり、
上記成分Aと上記成分Cとの含有量の質量比(成分A/成分C)が0.1~2.0である、
乳化化粧料組成物。
成分A:HLBが14.0~20.0であり、ポリオキシエチレン鎖を有するノニオン性界面活性剤
成分B:リン脂質
成分C:炭素数12~22の脂肪族アルコール
成分D:ジプロピレングリコールおよび/またはプロピレングリコール
成分E:IOBが0.2~0.5であり、炭化水素油、エステル油、シリコーン油および植物油からなる群より選択される、少なくとも1種類の油分
成分F:水。
【0011】
(2)αゲルを形成している、上記(1)に記載の乳化化粧料組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高極性油を含む製剤において、界面活性剤および/または高級アルコールを多量に含有させることなく、伸びがよく、安定なαゲル製剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。
【0014】
本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。本明細書において特記しない限り、成分の含有量を表す質量%は、乳化化粧料組成物全体の質量を100質量%とした値である。
【0015】
高極性油には、角質層を柔軟にし、肌を軟らかくする効果(エモリエント効果)があることが知られており、様々な化粧料に配合されている。しかし、αゲルを形成している乳化製剤において高極性油を配合すると、αゲルに含まれる2分子膜の構成成分(界面活性剤および高級アルコール)が油相側に多く分配され、αゲル構造が不安定になってしまうという課題があった。
【0016】
そこで、本発明では、HLBの比較的高い界面活性剤と、ジプロピレングリコールおよび/またはプロピレングリコールとを配合することによって、従来の解決手段の短所を克服した。各成分による作用効果は以下のように推定されるが、これに限定されるものではない。
1.角質層を柔軟にする効果を目的として、高極性油(成分E)を配合する。ただし、このままでは、2分子膜形成成分が油相側に分配されやすくなり、αゲルが形成されなくなる。
2.HLBの比較的高い界面活性剤(成分A)を配合して、2分子膜形成成分が水相側に分配されやすくする。ただし、このままでは、2分子膜の曲率が大きくなりすぎ、αゲルが形成されなくなる。
3.高級アルコール(成分C)を配合して、2分子膜の曲率を小さくし、αゲルを形成させる。従来法では、高級アルコールが油相に溶解してしまうので、配合量を多くする必要があった。ただし、高級アルコールを配合しすぎると使用感が悪化する。
4.ジプロピレングリコールおよび/またはプロピレングリコール(成分D)を配合して、水相の極性を下げる。その結果、高級アルコールが油水界面に分配されやすくなるため、高級アルコールの配合量を増やすことなく、αゲルが形成される。
【0017】
〔各成分〕
以下、本発明の乳化化粧料組成物に含まれる、各成分について順に説明する。
【0018】
[成分A:HLBが14.0~20.0のノニオン性界面活性剤]
成分Aは、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)が14.0~20.0であり、ポリオキシエチレン鎖を有するノニオン性界面活性剤である。成分Aは、2分子膜の構成成分の一つであり、αゲルの形成および安定性に寄与している。成分Aは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0019】
成分AのHLBは、好ましくは14.0~18.0である。HLBは、グリフィン法により求めることができる。複数種類の成分Aを用いる場合には、各成分AのHLBの加重平均を、成分A全体のHLBと見做す。
【0020】
成分Aとしては、例えば、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどのポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンステロールエーテルおよびその誘導体;ポリオキシエチレンラノリンおよびその誘導体;ポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
【0021】
本発明の乳化化粧組成物において、成分Aと成分Cとの含有量の質量比(成分A/成分C)は、0.1~2.0であり、好ましくは0.2~1.5であり、より好ましくは0.2~1.3である。成分A/成分Cの質量比は、αゲルの2分子膜の曲率を調節するパラメータである。上記質量比が0.1以上であることにより、αゲルの安定性が向上する。上記質量比が2.0以下であることにより、αゲルが形成されやすい。
【0022】
本発明の乳化化粧組成物において、成分Aの含有量は、後述する成分Cおよび成分Eの含有量の規定、ならびに含有量の質量比(成分A/成分C、成分C/成分E)の規定から、算出することができる。中でも、成分Aの含有量は、本発明の乳化化粧料組成物100質量%中、0.1~5.0質量%が好ましく、より好ましくは0.3~3.0質量%である。
【0023】
[成分B:リン脂質]
成分Bは、リン脂質である。成分Bは、2分子膜の構成成分の一つであり、主要な構成成分である。成分Bは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0024】
リン脂質としては、化粧料の分野において通常使用される種類のものであれば、特に限定なく用いることができる。このようなリン脂質としては、例えば、レシチンおよびその水素添加物、ホスファチジル酸および/またはその塩、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、大豆由来リン脂質、大豆由来水素添加リン脂質、卵黄由来リン脂質、卵黄由来水素添加リン脂質などが挙げられる。中でも、水素添加レシチンが好ましい。
【0025】
本発明の乳化化粧組成物において、成分Bの含有量は、本発明の乳化化粧料組成物100質量%中、0.1~5.0質量%であり、好ましくは0.3~3.0質量%である。上記含有量が0.1質量%以上であることにより、αゲルを形成できる。上記含有量が5.0質量%以下であることにより、油膜感が強くなることを抑制できる。また、上記含有量が5.0質量%以下であることにより、臭気が強くなりすぎることを抑制できる。
【0026】
[成分C:高級アルコール]
成分Cは、炭素数12~22の脂肪族アルコールである。成分Cは、2分子膜の構成成分の一つであり、αゲルの形成と安定性に寄与している。成分Cは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0027】
炭素数が12~22の脂肪族アルコールとしては、例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、2-オクチルドデカノール、オレイルアルコール、デシルテトラデカノールなどが挙げられる。
【0028】
本発明の乳化化粧組成物において、成分Cの含有量は、本発明の乳化化粧料組成物100質量%中、5.0質量%以下であり、好ましくは4.0質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以下である。含有量が5.0質量%以下であることにより、伸びが低下してヨレ(塗布時にゲル状の塊の触感を与える現象)が生じることを抑制でき、みずみずしさが向上して油膜感を抑制できる。また、含有量が5.0質量%以下であることにより、αゲルの安定性を向上させうる。
【0029】
本発明の乳化化粧組成物において、成分Cと成分Eとの含有量の質量比(成分C/成分E)は、0.03以上であり、好ましくは0.035以上である。成分C/成分Eの質量比は、成分Cの含有量の下限値を実質的に規定している。上記質量比が0.03以上であることにより、αゲルが形成される。
【0030】
[成分D:ジプロピレングリコールおよび/またはプロピレングリコール]
成分Dは、ジプロピレングリコールおよび/またはプロピレングリコールである。成分Dは、αゲルの形成と安定性に寄与している。成分Dは、中でも、ジプロピレングリコールがより好ましい。
【0031】
本発明の乳化化粧組成物において、成分Dの含有量は、本発明の乳化化粧料組成物100質量%中、1.0~10.0質量%であり、好ましくは1.5~6.0質量%である。上記含有量が1.0質量%~10.0質量%であることにより、αゲルが形成される。
【0032】
[成分E:IOBが0.2~0.5の油分]
成分Eは、IOB(Inorganicity Organicity Balance)が0.2~0.5であり、炭化水素油、エステル油、シリコーン油および植物油からなる群より選択される、少なくとも1種類の油分である。成分Eは、例えば、角質層を柔軟にし、肌を軟らかくする目的(エモリエント感を与える目的)で配合される。成分Eは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0033】
成分EのIOBは、好ましくは0.2~0.4である。IOBとは、物質の無機性値(Inorganicity)を有機性値(Organicity)で除した値である。種々の物質のIOBは、例えば、[甲田善生『有機概念図 基礎と応用』、三共出版、1984年、11~17頁]の記載を参照して求めることができる。複数種類の成分Eを用いる場合は、各成分EのIOBの加重平均を、成分E全体のIOBと見做す。
【0034】
炭化水素油としては、例えば、α-オレフィンオリゴマー、ワセリン、イソパラフィン、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、スクワラン、合成スクワラン、植物性スクワラン、流動イソパラフィン、流動パラフィン、水添ポリイソブテン、水添(テトラデセニル/メチルペンタデセン)、イソドデカンなどが挙げられる。
【0035】
エステル油としては、例えば、オクタン酸セチル、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸セチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸プロピレングリコール、2-エチルヘキサン酸セチル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、イソノナン酸イソノニル、アジピン酸ジイソプロピル、テトラオクタン酸ペンタエリスリチル、テトライソステアリン酸ペンタエリトリット、リンゴ酸ジイソステアリル、トリエチルヘキサン酸エリスリチル、ヒドロキシステアリン酸2-エチルヘキシル、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、テトラ(ヒドロキシステアリン酸/イソステアリン酸)ジペンタエリスリチル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチル、(エチルヘキサン酸/ステアリン酸/アジピン酸)グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸/ミリスチン酸/ステアリン酸)グリセリル、ヘキサ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ジペンタエリスリチル、安息香酸アルキル(C12~15)、ヒドロキシステアリン酸水添ヒマシ油などが挙げられる。
【0036】
シリコーン油としては、例えば、メチルポリシロキサン(ジメチコン)、高重合メチルポリシロキサンなどのジメチルシリコーン油;メチルフェニルポリシロキサンなどのメチルフェニルシリコーン油;メチルシクロポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンなどの環状シリコーン油;アミノ変性シリコーン(アミノプロピルメチルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、アミノエチルアミノプロピルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、アミノエチルアミノプロピルメチルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体など)、カルボキシ変性シリコーン、脂肪酸変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、脂肪族アルコール変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、アルキル変性シリコーンなどの変性シリコーン;メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチコノールなどが挙げられる。
【0037】
植物油としては、例えば、マカデミアナッツ油、ユーカリ油、ヤシ油、アボカド油、サフラワー油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ククイナッツ油、シア脂(シアバター)、カカオバター、アーモンド油、ヒマワリ油、ローズヒップ油、オリーブスクワラン、カメリアオイル、キウイフルーツシード油、ツバキ油、杏仁油、ゴマ油、大豆油、ホホバ油、ヒマシ油、ヘーゼルナッツ油、メドホーム油、ハッカ油、アルガンオイル、カロットオイル、ラベンダー油、シュガースクワラン、ダマスクバラ花ロウ、センチフォリアバラ花ロウ、ソケイ花ワックス、椿油、これらの水素添加物(例えば、水素添加ヒマシ油、水素添加ホホバ油、水素添加パーム油、水素添加アボカド油、水素添加大豆油など)などが挙げられる。
【0038】
本発明の乳化化粧組成物において、成分Eの含有量は、本発明の乳化化粧料組成物100質量%中、1.0~20.0質量%であり、好ましくは2.5~15.0質量%であり、より好ましくは5.0~12.0質量%である。上記含有量が1.0質量%以上であることにより、適度なエモリエント感が得られる。上記含有量が20.0質量%以下であることにより、みずみずしさを向上させうる。
【0039】
[成分F:水]
成分Fは、水である。成分Fは特に限定されないが、精製水が好ましい。本発明の乳化化粧組成物において、成分Fの含有量は、本発明の乳化化粧料組成物100質量%中、50.0~90.0質量%であり、より好ましくは60.0~90.0質量%である。
【0040】
[任意成分]
本発明の乳化化粧料組成物は、上記成分A~F以外の任意成分をさらに含んでいてもよい。任意成分は、特に限定されない。任意成分の例としては、低級アルコール;多価アルコール(グリセリン、1,3-ブチレングリコールなど);紫外線吸収剤;粉体;酸化防止剤;防腐剤(メチルパラベンなど);香料;着色剤;キレート剤;清涼剤;増粘剤;ビタミン類;中和剤;アミノ酸;pH調整剤;美白剤;抗炎症剤;消臭剤;動植物抽出物;金属封鎖剤(エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩など)などの添加剤が挙げられる。これらの任意成分は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。また、これらの任意成分の含有量は、目的に応じて適宜決定することができる。
【0041】
上記の任意成分の中でも、本発明の乳化化粧料組成物は、増粘剤を含むことが好ましい。増粘剤の含有量は、本発明の乳化化粧料組成物100質量%中、好ましくは0.05~0.5質量%である。含有量が上記の範囲ならば、充分な安定性を与えることができる。
【0042】
上記増粘剤としては、例えば、水溶性を有する、天然高分子、半合成高分子、合成高分子等が挙げられる。上記水溶性を有する天然高分子としては、例えば、アラビアゴム、トラガントガム、グアガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、アイリスモス、クインスシード、ゼラチン、セラック、ロジン、カゼインなどが挙げられる。上記水溶性を有する半合成高分子としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセロース、アルギン酸ナトリウム、エステルガム、ニトロセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロースなどが挙げられる。上記水溶性を有する合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー(アクリル酸・メタクリル酸エステル共重合体)、ポリビニルメチルセルロース、ポリアミド樹脂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。中でも、水溶性を有する合成高分子が好ましく、より好ましくはカルボキシビニルポリマーおよび/またはアルキル変性カルボキシビニルポリマーである。
【0043】
なお、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーおよび/またはアクリル酸・メタクリル酸エステル共重合体を用いる場合は、通常、塩基性物質で中和して用いられる。塩基性物質としては、例えば、トリエタノールアミン、モノエタノールアミンなどのアルカノールアミン類;アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基;アルギニンなどの塩基性アミノ酸などが挙げられる。また、塩基性物質の添加量は、カルボキシビニルポリマーおよび/またはアクリル酸・メタクリル酸エステル共重合体を中和するのに充分な量であり、これら成分の種類や使用量に応じて適宜配合すればよい。
【0044】
カルボキシビニルポリマーとは、主としてアクリル酸の重合体を指す。アルキル変性カルボキシビニルポリマーとは、主としてアクリル酸とメタクリル酸アルキルとの共重合体を指す。カルボキシビニルポリマーおよび/またはアルキル変性カルボキシビニルポリマーは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0045】
カルボキシビニルポリマーおよび/またはアルキル変性カルボキシビニルポリマーは、市販品を容易に入手することができる。カルボキシビニルポリマーの好ましい市販品としては、例えば、「カーボポール934」、「カーボポール940」、「カーボポール941」、「カーボポール980」、「カーボポール981」、「カーボポール1342」、「カーボポール2984」、「カーボポールUltrez 10」、「カーボポールETD 2050」(いずれも日本ルーブリゾール株式会社);「AQUPEC HV-501」、「AQUPEC HV-504」、「AQUPEC HV-505」、「ハイビスワコー104」、「ハイビスワコー105」(いずれも和光純薬工業株式会社)などが挙げられる。アルキル変性カルボキシビニルポリマーの好ましい市販品としては、例えば、「PEMULEN TR-1」、「PEMULEN TR-2」、「カーボポールETD 2020」、「カーボポールULTREZ 20」(いずれも日本ルーブリゾール株式会社)などが挙げられる。
【0046】
〔剤型、製造方法および用途〕
本発明の乳化化粧料組成物の剤型としては、例えば、乳液、クリームなどが挙げられる。本発明の乳化化粧料組成物においては、組成物中にαゲルが形成されている。即ち、本発明の乳化化粧料組成物はαゲルを含む。
【0047】
本発明の乳化化粧料組成物は、常法に則って製造することができる。一例として、水性成分(成分D、成分Fなど)と、油性成分(成分A、成分B、成分C、成分Eなど)とを、それぞれ別々に加温した後、両成分を混合する製造方法が挙げられる。
【0048】
本発明の乳化化粧料組成物の用途は、特に限定されないが、皮膚化粧料が好ましく、より具体的には、例えば、スキンケア化粧料である(保湿化粧料、美白化粧料、アクネケア用化粧料、アンチエージング化粧料(しわ抑制、たるみ抑制などを目的とする化粧料)など)。上記組成物は、化粧品、医薬部外品、医薬品、雑貨などでありうる。
【0049】
本発明の乳化化粧料組成物を適用する部位は、特に限定されない。一例として、上記組成物の適用部位は、顔(額、目元、目じり、頬、口元など)、腕、肘、手の甲、指先、足、膝、かかと、首、脇、背中などである。
【0050】
上記各項目で記載した内容は、他の項目においても適宜援用できる。本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。したがって、異なる実施形態にそれぞれ開示されている技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0051】
本明細書中に記載された学術文献および特許文献のすべてが、本明細書中において参考文献として援用される。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。なお、下記の実施例および比較例における配合量および含有量は、純分に換算した量(質量%)である。なお、各実施例または比較例で調製した乳化化粧料組成物の全質量を100質量%とする。
【0053】
〔評価項目〕
(αゲルの形成)
各実施例および各比較例で得られた乳化化粧料組成物を、偏光顕微鏡(倍率100倍)で観察し、以下の基準で評価した。
○(αゲルが形成されている):マルテーゼクロス像が観察された。
×(αゲルが形成されていない):マルテーゼクロス像が観察されなかった。
【0054】
(αゲルの安定性)
各実施例および各比較例で得られた乳化化粧料組成物を、5℃、25℃、40℃の各温度条件下でそれぞれ28日間保管した。保管後の乳化化粧料組成物を、偏光顕微鏡(倍率100倍)で観察し、以下の基準で評価した。
【0055】
なお、上記「αゲルの形成」の評価において、αゲルが形成されていないもの(×)については、安定性の評価を行わなかった(「-」と表示)。
○(安定性良好):5℃、25℃、40℃のいずれの温度条件でも、マルテーゼクロス像が観察された。
×(安定性不良):5℃、25℃、40℃のいずれかの温度条件で、マルテーゼクロス像が観察されなかった。
【0056】
各実施例および各比較例で得られた乳化化粧料組成物を、前腕部内側に塗布し、手でなじませた。各化粧料組成物の塗布時の「剤の伸び」、ならびに、塗布後の肌の「みずみずしさ」および「エモリエント感」を、以下の基準で評価した。評価は、専門評価員3名がそれぞれ行った。
【0057】
(剤の伸び)
○(良好):抵抗を感じずに塗布することができる。
×(不良):塗布時に抵抗(引っ掛かり)が感じられ、実用上不快である。
【0058】
(みずみずしさ:保湿感)
○(良好):肌が明らかしっとりとしたと感じられる。
△(実用可能):肌がわずかにしっとりとしたと感じられる。
×(不良):肌がしっとりとしたと感じられない。
【0059】
(エモリエント感)
○(良好):肌が明らかに柔軟になったと感じられる。
△(実用可能):肌がわずかに柔軟になったと感じられる。
×(不良):肌が柔軟になったと感じられない。
【0060】
〔実施例1~9、比較例1~10〕
表1、2の組成に従って、実施例1~9、比較例1~10に係る乳化化粧料組成物を常法に則って調製した。
【0061】
表1、2中、主な成分の詳細は以下の通りである。
・モノステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン:花王社製、商品名「レオドールTW-S120V」、HLB=14.9
・水添レシチン:日本サーファクタント社製、商品名「レシノールS-10」
・ベヘニルアルコール:高級アルコール工業社製、商品名「ベヘニルアルコール2265」
・ジプロピレングリコール:シェルケミカルズジャパン社製、商品名「ジプロピレングリコールS」
・流動パラフィン:Sonnborn Inc社製、商品名「CARNATION」
・トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル:花王社製、商品名「エキセパールTGO」
・イソステアリン酸プロピレングリコール:青木油脂工業社製、商品名「イソステアリンサンPG」
・ジメチコン:東レ・ダウコーニング社製、商品名「DOWSIL SH200C10cs」
・(エチルヘキサン酸/ステアリン酸/アジピン酸)グリセリル:日清オイリオグループ社製、商品名「ノムコートLAH」
・モノステアリン酸グリセリル:BASF製、商品名「CUTINA GMS-V」
【0062】
【0063】
【0064】
〔結果〕
実施例1、実施例7および比較例5の比較から、成分A/成分Cの値が大きすぎると、αゲルの形成に悪影響が出ることが示唆される。実施例2および比較例7の比較から、成分A/成分Cの値が小さすぎると、αゲルの安定性に悪影響が出ることが示唆される。
【0065】
実施例1、実施例9および比較例8の比較から、成分Bの含有量が少なすぎると、αゲルの形成に悪影響が出ることが示唆される。
【0066】
実施例4、実施例6および比較例2の比較から、成分Cの含有量が多すぎると、αゲルの安定性、剤の伸び、およびみずみずしさに悪影響が出ることが示唆される。実施例1、実施例7および比較例9の比較から、成分C/成分Eの値が小さすぎると、αゲルの形成に悪影響が出ることが示唆される。
【0067】
実施例1、実施例4および比較例6の比較から、成分Dの含有量が多すぎると、αゲルの形成に悪影響が出ることが示唆される。実施例2、実施例5および比較例10の比較から、成分Dの含有量が少なすぎても、αゲルの形成に悪影響が出ることが示唆される。
【0068】
〔処方例〕
モノステアリン酸POE(20)ソルビタン 0.5質量%
水添レシチン 1.0質量%
ベヘニルアルコール 0.7質量%
ジプロピレングリコール 5.0質量%
流動パラフィン 5.0質量%
トリ-2エチルヘキサン酸グリセリル 3.0質量%
イソステアリン酸PG 3.0質量%
ジメチコン 0.5質量%
ヒドロキシステアリン酸水添ヒマシ油 1.0質量%
アルキル変性カルボキシビニルポリマー 0.18質量%
キサンタンガム 0.05質量%
KOH 適量
グリセリン 5.0質量%
1,3-ブチレングリコール 5.0質量%
モノステアリン酸グリセリル 0.4質量%
メチルパラベン 0.2質量%
フェノキシエタノール 0.2質量%
1,2-オクタンジオール 0.1質量%
オクトキシグリセリン 0.15質量%
L-メントール 0.05質量%
香料 0.05質量%
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 0.5質量%
水 残部
合計 100質量%
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、高極性油を含み、伸びがよく、安定なαゲル製剤の製造に利用することができる。