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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】乳酸菌発酵食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/13 20060101AFI20230710BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A23C9/13
A23C9/123
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019065914
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020162477
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(73)【特許権者】
【識別番号】509060729
【氏名又は名称】株式会社ヤクルトマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 達矢
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 洵己
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴雄
(72)【発明者】
【氏名】上川 智弘
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-124490(JP,A)
【文献】特開平05-091851(JP,A)
【文献】特開昭64-002549(JP,A)
【文献】特開2019-141008(JP,A)
【文献】特開2016-146751(JP,A)
【文献】特開2014-060935(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102948489(CN,A)
【文献】特開平10-276703(JP,A)
【文献】特開平04-084855(JP,A)
【文献】特開2019-062889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 9/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳または乳製品を主成分とする培地に乳酸菌を接種、培養して乳酸菌発酵食品を製造するにあたり、
乳酸菌の培養前の乳または乳製品を主成分とする培地または培養中の発酵液に対して、オリーブオイルまたはひまわり油のリパーゼ分解物を添加することを特徴とする乳酸菌発酵食品の製造方法。
【請求項2】
乳または乳製品を主成分とする培地が、獣乳または獣乳を原料として製造される乳製品を主成分とする培地である請求項1記載の乳酸菌発酵食品の製造方法。
【請求項3】
乳酸菌がラクトバチルス・カゼイである請求項1または2記載の乳酸菌発酵食品の製造方法。
【請求項4】
乳または乳製品を主成分とする培地に乳酸菌を接種、培養して乳酸菌発酵食品を製造するにあたり、
乳酸菌の培養前に乳または乳製品を主成分とする培地に対して、油脂のリパーゼ分解物を添加することを特徴とする乳酸菌の増殖促進方法。
【請求項5】
油脂のリパーゼ分解物が、オリーブオイルまたはひまわり油のリパーゼ分解物である請求項4記載の乳酸菌の増殖促進方法。
【請求項6】
乳または乳製品を主成分とする培地に乳酸菌を接種、培養して乳酸菌発酵食品を製造するにあたり、
乳酸菌の培養前の乳または乳製品を主成分とする培地または培養中の発酵液に対して、油脂のリパーゼ分解物を添加することを特徴とする乳酸菌の生残性改善方法。
【請求項7】
油脂のリパーゼ分解物が、オリーブオイルまたはひまわり油のリパーゼ分解物である請求項6記載の乳酸菌の生残性改善方法。
【請求項8】
油脂のリパーゼ分解物を有効成分として含有することを特徴とする乳酸菌の増殖促進剤。
【請求項9】
更に、酵母および乳化剤を含有するものである請求項記載の乳酸菌の増殖促進剤。
【請求項10】
油脂のリパーゼ分解物を有効成分として含有することを特徴とする乳酸菌の生残性改善剤。
【請求項11】
更に、酵母および乳化剤を含有するものである請求項10記載の乳酸菌の生残性改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳酸菌発酵食品の製造方法に関し、さらに詳細には、製造時の乳酸菌の増殖促進効果が高く、保存時の乳酸菌の生残性改善効果にも優れる乳酸菌発酵食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ヨーグルトや発酵乳などの生菌含有飲食品は、整腸作用等の生理機能を有する食品として広く飲食されている。これらの生理機能を効果的に発揮させるためには、製造時に乳酸菌が効率良く増殖するとともに、保存中にも乳酸菌が減少することなく維持される必要があるが、原料や条件等によって、発酵時に乳酸菌が十分に増殖しなかったり、保存中に死滅して生菌数が減少するなどして、期待された生理機能が得られないという問題があった。
【0003】
この問題に対し、本出願人は、低脂肪タイプヨーグルトにオレイン酸を添加することにより製品中の乳酸菌の生菌数が増加し、保存中の生残性を向上できることを既に報告している(特許文献1)。また、オレイン酸またはオレイン酸を含有するバター脂肪画分を添加した培地を用いて培養することにより、製品中および胆汁酸中での微生物の生存率が高まることや(特許文献2)、バターミルクを添加することにより乳酸菌の生育促進効果が得られることが開示されているが(特許文献3)、なお、乳酸菌発酵食品において、製品中の生菌数を高め、それを維持し得る技術の確立が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-45968号公報
【文献】特開2000-102380号公報
【文献】特開2008-520202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、製造時の乳酸菌の増殖促進効果が高く、かつ保存中の生残性改善効果にも優れる乳酸菌発酵食品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究の結果、油脂のリパーゼ分解物を添加した培地で乳酸菌を培養することにより、製造時に乳酸菌の増殖が促進され、さらに保存時の死滅が抑制されるため、製品中の乳酸菌の生菌数を高く維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、乳または乳製品を主成分とする培地に乳酸菌を接種、培養して乳酸菌発酵食品を製造するにあたり、
乳酸菌の培養前の乳または乳製品を主成分とする培地または培養中、培養後の発酵液に対して、油脂のリパーゼ分解物を添加することを特徴とする乳酸菌発酵食品の製造方法である。
【0008】
また、本発明は、乳または乳製品を主成分とする培地に乳酸菌を接種、培養して乳酸菌発酵食品を製造するにあたり、
乳酸菌の培養前に乳または乳製品を主成分とする培地に対して、油脂のリパーゼ分解物を添加することを特徴とする乳酸菌の増殖促進方法である。
【0009】
また、本発明は、乳または乳製品を主成分とする培地に乳酸菌を接種、培養して乳酸菌発酵食品を製造するにあたり、
乳酸菌の培養前の乳または乳製品を主成分とする培地または培養中、培養後の発酵液に対して、油脂のリパーゼ分解物を添加することを特徴とする乳酸菌の生残性改善方法である。
【0010】
更に、本発明は、油脂のリパーゼ分解物を有効成分として含有することを特徴とする乳酸菌の増殖促進剤または乳酸菌の生残性改善剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、発酵時の乳酸菌の増殖を促進して製造後の製品中の生菌数を高め得るとともに、保存中においても、乳酸菌の死滅を抑制してその生残性を改善することができる。したがって、乳酸菌発酵食品の乳酸菌生菌数を高い範囲で維持することができ、その生理機能を効果的に発揮させ得るものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の乳酸菌発酵食品の製造方法は、乳または乳製品を主成分とする培地に乳酸菌を接種、培養して乳酸菌発酵食品を製造するにあたり、乳酸菌による発酵前の乳または乳製品を主成分とする培地または培養中、培養後の発酵液に対して油脂のリパーゼ分解物を添加するものである。
【0013】
本発明において、発酵に用いられる乳酸菌としては、特に限定されるものではなく、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属等に属する細菌を用いることができる。これら細菌の具体例としては、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)、ラクトバチルス・ガッセリ(L.gasseri)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(L.helveticus)、ラクトバチルス・サリバリウス(L.salivarius)、ラクトバチルス・ファーメンタム(L.fermentum)、ラクトバチルス・ユーグルティ(L.yoghurti)、ラクトバチルス・デルブルッキィー サブスピーシーズ.ブルガリカス(L.delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・デルブルッキィー サブスピーシーズ.デルブルッキィー(L. delbrueckii subsp. delbrueckii)、ラクトバチルス・ガリナラム(L.gallinarum)、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsoni)、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)、ラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum)、ラクトコッカス・ラフィノラクチス(Lactococcus raffinolactis )、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等を挙げることができる。これらの中でもラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ガゼリ等が増殖促進効果や生残性改善効果という点で好ましく、特にラクトバチルス・カゼイが好ましい。ラクトバチルス・カゼイとしては、例えば、ラクトバチルス・カゼイYIT9029株(FERM BP-1366、寄託日:1987年5月18日)等が例示される。
【0014】
なお、本発明において、発酵に用いられる乳酸菌としては、上記のように一般的に乳酸菌と呼ばれるものの他に、嫌気性菌であるビフィドバクテリウム属に属する細菌も含まれる。このようなビフィドバクテリウム属に属する細菌としては、特に限定されず、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(Bifidobacterium catenulatum)、ビフィドバクテリウム・アングラータム(Bifidobacterium angulatum)、ビフィドバクテリウム・ガリカム(Bifidobacterium gallicum)、ビフィドバクテリウム・ラクチス(Bifidobacterium lactis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)等を挙げることができる。これらの中でもビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ等が好ましく、特にビフィドバクテリウム・ビフィダムがより好ましい。ビフィドバクテリウム・ビフィダムとしては、例えば、ビフィドバクテリウム・ビフィダム YIT10347(FERM BP-10613、寄託日:2005年6月23日)等が例示される。
【0015】
上記したラクトバチルス・カゼイYIT9029株およびビフィドバクテリウム・ビフィダム YIT10347は、現在、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番地8 120号室)に寄託されている。
【0016】
本発明において、これら乳酸菌は1種または2種以上を用いることができる。
【0017】
上記乳酸菌を乳または乳製品を主成分とする培地(以下、単に「培地」ということがある)で培養する。培地の主成分である乳または乳製品としては、乳そのものあるいは乳を原料として製造される乳製品であれば特に限定されるものではなく、例えば、牛乳、山羊乳、羊乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、生クリーム、コンパウンドクリーム、ホエータンパク濃縮物(WPC)、ホエータンパク分離物(WPI)、カゼイン、α-ラクトグロブリン、β-ラクトグロブリン、若しくはトータルミルクプロテイン(TMP)等からなる獣乳培地や、豆乳等の植物由来の液状乳を挙げることができ、これらの中でも、発酵性という点で脱脂粉乳、全脂粉乳、牛乳等の獣乳または獣乳を原料として製造される乳製品が好適に用いられる。培地には、上記成分のほかにグルコース、果糖、蔗糖等の糖質やウーロン茶エキス、甜茶エキス等その他の乳酸菌増殖促進剤、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC,ビタミンE等のビタミン類や、各種ペプチド、アミノ酸類、カルシウム、マグネシウム等の塩類などを添加してもよい。
【0018】
本発明では、上記培地に対し、乳酸菌の培養前に、予め油脂のリパーゼ分解物(以下、単に「リパーゼ分解物」ということがある)を添加するか、または培養中、培養後の発酵液に添加する。ここで、培養前の培地または培養後の発酵液に添加することが好ましく、培養前の培地に添加することがより好ましい。使用されるリパーゼとしては特に限定されるものではないが、カンジダ属、クモノスカビ属、アオカビ属、コウジカビ属等の微生物由来のリパーゼが好適に用いられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。このような微生物由来のリパーゼの市販品として、例えば、リパーゼAY「アマノ」30G(Candida rugosa由来)、ニューラーゼF3G(Rizopus niveus由来)、リパーゼMER「アマノ」(Rizopus oryzae由来)、リパーゼDF「アマノ」15(Rizopus oryzae由来)、リパーゼR「アマノ」(Penicillum roqueforti由来)、リパーゼA「アマノ」6(Aspergillus niger由来)等が挙げられる(いずれも天野エンザイム株式会社製)。これらの中でも、乳酸菌培養時の増殖促進効果および保存中の生残性改善効果に優れるためカンジダ属微生物由来のリパーゼが好適に用いられる。
【0019】
リパーゼによって分解される油脂は、特に限定されないが、例えば、植物油脂、乳脂等が挙げられる。これら油脂は1種または2種以上を用いることができるが、乳酸菌培養時の増殖促進効果および保存中の生残性改善効果や風味の点から植物油脂が好ましい。
【0020】
リパーゼによって分解される油脂のうち植物油脂は、特に限定されないが、例えば、オリーブオイル、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、なたね油、パーム油、綿実油、落花生、ひまわり油等を使用できるが、これらの中でも、乳酸菌培養時の増殖促進効果および保存中の生残性改善効果や風味の観点でオリーブオイル、ひまわり油等が好ましく用いられる。これらの植物油脂は、作業性等の面から、固形分濃度を調整せず、100質量%で用いることが好ましく、必要に応じて殺菌処理して調製される。
【0021】
また、リパーゼによって分解される油脂のうち、乳脂は、特に限定されず、例えば、上記培地の主成分である乳または乳製品のように乳脂を含むものでよく、例えば、牛乳、山羊乳、羊乳、全脂粉乳、バター、脱脂粉乳、生クリーム、コンパウンドクリーム等を使用できるが、これらの中でも、乳酸菌培養時の増殖促進効果および保存中の生残性改善効果の観点でバター、生クリーム、全脂粉乳等が好ましく用いられる。これらの乳脂は、作業性等の面から、脂肪濃度を3~50質量%程度に調整して用いることが好ましく、必要に応じて殺菌処理して調製される。
【0022】
上記油脂に、上記リパーゼを添加して反応させることにより、本発明に用いるリパーゼ分解物が得られる。リパーゼの添加量は、油脂に対して、好ましくは0.9~2.4質量%、より好ましくは1.2~1.8質量%である。反応温度は、通常30~60℃、好ましくは40~50℃であり、この温度において、通常4~48時間、好ましくは12~24時間程度反応させる。このような範囲であると、乳酸菌発酵時の増殖促進効果および保存中の生残性改善効果に優れるものが得られ、またコストや作業性の面でも好ましい。反応終了後、必要に応じて殺菌処理されるが、乳脂においては殺菌処理による凝固を防止するために、反応終了までに中和剤を添加して中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、重曹などが用いられるが、炭酸カリウム、重曹を添加すると泡が発生する場合があるため、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好適に用いられる。これらの中和剤を添加して、pH6~7.5、好ましくは6.5~7.0となるように中和する。中和剤の添加は、リパーゼ添加前に行う油脂の殺菌処理の後からリパーゼ反応終了後の殺菌処理の前までであればいつでも行うことができるが、リパーゼ反応初期に添加すると、反応が十分に行われない場合があるため、反応終了の2時間前から反応終了後の殺菌処理前に添加することが好ましい。反応終了後のリパーゼ分解物は、水溶液またはペースト状のものであり、それをそのまま用いることもできるが、スプレードライ等により粉末化して用いることが好ましい。
【0023】
油脂をリパーゼによって分解して得られたリパーゼ分解物には、通常、遊離脂肪酸およびこれらのモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドが含まれ得る。
【0024】
これらのリパーゼ分解物を上記乳または乳製品を主成分とする培地に予め添加するか、または培養中、培養後の発酵液に添加する。リパーゼ分解物の添加量は、特に限定されるものではないが、遊離脂肪酸換算で3~100ppmが好ましく、さらに5~80ppmが好ましく、特に5~40ppmが好ましい。本明細書において、遊離脂肪酸とは、遊離の酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸およびリノール酸を意味し、遊離脂肪酸換算とは、これらの遊離脂肪酸の合計の含有量で換算した値であり、後記するHPLCによる各遊離脂肪酸含有量の測定値から求められる。このような範囲であると、製造時の乳酸菌増殖効果および保存中の生残性改善効果に優れ、かつ風味にも優れる発酵食品が得られる。
【0025】
このようにして予めリパーゼ分解物を添加した培地に、上記乳酸菌を接種して培養を行うか、または培養中、培養後の発酵液にリパーゼ分解物を添加する。培養は、例えば、20~50℃程度で8~48時間程度行えばよい。また、培養は必要により嫌気性条件下で行ってもよい。なお、リパーゼ分解物を添加した培地で培養を行うことにより、乳酸菌の増殖を促進することができ、培養終了後の発酵液中の乳酸菌の菌数を、例えば、1.2×10cfu/ml以上、好ましくは1.5×10cfu/mlとすることができる。培養によって得られた発酵液を、必要に応じ、均質化処理し、次いで、別途調製したシロップ溶液を添加・混合し、更にフレーバー等を添加して最終製品に仕上げることができる。
【0026】
なお、本発明において、乳酸菌発酵食品とは、乳等省令により定められている発酵乳、乳製品乳酸菌飲料等の飲料やハードヨーグルト、ソフトヨーグルト、プレーンヨーグルト、更にはケフィア、チーズ等も包含するものである。また、本発明の乳酸菌発酵食品には、種々の乳酸菌を利用した飲食品、例えば、プレーンタイプ、フレーバードタイプ、フルーツタイプ、甘味タイプ、ソフトタイプ、ドリンクタイプ、固形(ハード)タイプ、フローズンタイプ等の発酵乳、乳酸菌飲料、ケフィア、チーズ等が含まれる。
【0027】
更に、本発明の乳酸菌発酵食品には、必要に応じて、シロップ溶液等の他、それ以外の各種食品素材、例えば、各種糖質、増粘剤、乳化剤、各種ビタミン剤等の任意成分を配合することができる。これらの食品素材として、具体的には、ショ糖、グルコース、フルクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース、麦芽糖等の糖質、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール、アスパルテーム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムK、ステビア等の高甘味度甘味料、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース、大豆多糖類、アルギン酸プロピレングリコール等の各種増粘(安定)剤、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、クリーム、バター、サワークリーム等の乳脂肪、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の酸味料、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE類等の各種ビタミン類、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン等のミネラル分、ヨーグルト系、ベリー系、オレンジ系、花梨系、紫蘇系、シトラス系、アップル系、ミント系、グレープ系、アプリコット系、ペア、カスタードクリーム、ピーチ、メロン、バナナ、トロピカル、ハーブ系、紅茶、コーヒー系等のフレーバー類を配合することができる。
【0028】
かくして得られる本発明の乳酸菌発酵食品は、保存中の生残性に優れるものであるため、例えば、この発酵食品を10℃で3週間保存しても、本発明を用いない乳酸菌発酵食品と比べて150%以上、好ましくは200%以上の生菌率を維持し、高い生残率を示すことが可能である。
【0029】
以上のように、上記油脂のリパーゼ分解物は、培地に添加することにより、乳酸菌の増殖を促進する効果を有するものであるため、これを有効成分として用いることにより乳酸菌の増殖促進剤として利用することが可能である。この増殖促進剤を添加する培地としては、上記乳または乳製品を主成分とする培地の他、公知の乳酸菌培養に用いられるものであれば制限なく使用することができ、例えば、MRS培地やSPC培地等を挙げることができる。このような培地に、本発明の増殖促進剤を遊離脂肪酸換算で好ましくは3~100ppm、より好ましくは5~40ppm添加することにより、優れた乳酸菌増殖促進効果を得ることができる。
【0030】
また、上記油脂のリパーゼ分解物は、培地または培養中、培養後の発酵液に添加することにより、保存時の乳酸菌の生残性を改善する効果を有するものであるため、これを有効成分として用いることにより乳酸菌の生残性改善剤として利用することが可能である。この生残性改善剤を添加する培地としては、上記乳または乳製品を主成分とする培地の他、公知の乳酸菌培養に用いられるものであれば制限なく使用することができ、例えば、MRS培地やSPC培地等を挙げることができる。このような培地に、本発明の生残性改善剤を遊離脂肪酸換算で好ましく3~100ppm、より好ましくは5~40ppm添加することにより、優れた乳酸菌生残性改善効果を得ることができる。
【0031】
これら乳酸菌の増殖促進剤および生残性改善剤には、更に、酵母および乳化剤を含有させることが好ましい。また、乳酸菌の増殖促進剤および生残性改善剤には、必要により、香料、各種溶媒を含有させてもよい。
【0032】
乳酸菌の増殖促進剤および生残性改善剤に用いられる酵母としては、特に限定されないが、例えば、ミネラル高含有酵母等のような酵母が好ましい。乳酸菌の増殖促進剤および生残性改善剤における酵母の含有量は特に限定されないが、例えば、1.0~10質量%、好ましくは3.0~8.0質量%である。
【0033】
乳酸菌の増殖促進剤および生残性改善剤に用いられる乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート類、キサンタンガム、グァーガム等を用いることができる。乳酸菌の増殖促進剤および生残性改善剤における乳化剤・増粘安定剤の含有量は特に限定されないが、例えば、キサンタンガム、グァーガム等の増粘安定剤では、0.2~1.0質量%、好ましくは0.3~0.5質量%である。
【0034】
乳酸菌の増殖促進剤および生残性改善剤の調製法は、特に限定されないが、例えば、油脂のリパーゼ分解物、プロピレングリコール等の溶媒、乳化剤を混合したものと、酵母を水等の溶媒に分散させたものを混合したものを、更に撹拌・混合して調製することが好ましい。
【実施例
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定を受けないことは言うまでもない。
【0036】
以下の実施例における遊離脂肪酸含有量の測定は、以下の条件のHPLCによって測定された。
(HPLC条件)
サンプル3.5gに内部標準品としてトリデカン酸のメタノール溶液(50μg/ml)を1mlおよびアセトニトリル15mlを加え、撹拌および遠心後に上清3.5mlを回収し、遠心エバポレーターにてアセトニトリルを除去し、メタノールで約5mlに定容し、0.45μmのフィルターでろ過した。この溶液5容量に対しADAM(9-Anthryldiazomethane、フナコシ(株)製)のアセトン溶液(1mg/ml)を1容量加え、室温・暗所で90分以上静置し、高速液体クロマトグラフィーで分析した。標準物質には酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸の計9種類を用い、これら9種の遊離脂肪酸の総和を総遊離脂肪酸とした。分析は以下の条件で行った。
(分析条件)
カラム:Imtakt社製 Unison UK-C8
カラム温度:30℃
流速:1.0ml/分
移動相:A液をアセトニトリル/水=65/35、B液をアセトニトリル/水=85/15とし、0~9分までA液を100%、9~28分までB液を0~100%にリニアグラジエント、28~46分までB液を100%とした。
注入量:10μl
励起波長:365nm
蛍光波長:412nm
【0037】
製 造 例 1
生クリームリパーゼ分解物ペーストの調製:
生クリーム(固形分51.7%)3880gを98℃で30分殺菌した。リパーゼAY「アマノ」30G15gと水135gを攪拌・混合し、A液とした。殺菌した生クリームにA液を添加し、20時間酵素反応させた。反応終了後、50質量%水酸化カリウム水溶液をpH6.7となるまで添加して中和した。中和後、95℃で15分間殺菌し、生クリームリパーゼ分解物ペーストを得た。この生クリームリパーゼ分解物ペーストについて、HPLCにより遊離脂肪酸含有量を測定したところ、38.38質量%であった。
【0038】
製 造 例 2
生クリームリパーゼ分解物粉末の調製:
生クリーム(固形分51.7%)3880gを98℃で30分殺菌した。リパーゼAY「アマノ」30G15gと水135gを攪拌・混合し、A液とした。殺菌した生クリームにA液を添加し、20時間酵素反応させた。反応終了後、50質量%水酸化カリウム水溶液をpH6.7となるまで添加して中和した。中和後、95℃で15分間殺菌し、生クリームリパーゼ分解物ペーストを得た。脱脂粉乳342.8g、生クリームリパーゼ分解物ペースト306.4g、水1154.5gを攪拌・混合し、スプレードライにより粉末化し、生クリームリパーゼ分解物粉末を得た。この生クリームリパーゼ分解物粉末について、製造例1と同様にして遊離脂肪酸含有量を測定したところ20.47質量%であった。
【0039】
製 造 例 3
全粉乳リパーゼ分解物水溶液の調製:
全粉乳(固形分95%)40gを水100gに溶解し、98℃で30分殺菌した。これにリパーゼAY「アマノ」30G0.12gを添加し、50℃で20時間酵素反応させた。反応終了後、50質量%水酸化カリウム水溶液をpH6.7となるまで添加して中和した。中和後、95℃で15分間殺菌し、全脂粉乳リパーゼ分解物水溶液を得た。この全脂粉乳リパーゼ分解物水溶液について、製造例1と同様にして遊離脂肪酸含有量を測定したところ3.59質量%であった。
【0040】
製 造 例 4
全脂粉乳リパーゼ分解物粉末の調製:
全脂粉乳(固形分95%)40gを水157.56gに溶解し、98℃で30分殺菌し、A液とした。リパーゼAY「アマノ」30G0.12gと水0.108gを攪拌・混合し、B液とした。A液にB液を添加し、50℃で20時間酵素反応させた。反応終了後、50質量%水酸化カリウム水溶液をpH6.7となるまで添加して中和した。中和後、95℃で15分間殺菌した。冷却後、スプレードライにより粉末化し、全脂粉乳リパーゼ分解物粉末を得た。この全脂粉乳リパーゼ分解物粉末について、製造例1と同様にして遊離脂肪酸含有量を測定したところ15.55質量%であった。
【0041】
製 造 例 5
バターリパーゼ分解物ペーストの調製:
バター(固形分83%)3000gを50℃にて溶解させた後、98℃で30分殺菌した。リパーゼAY「アマノ」30G37.5gと水337.5g攪拌・混合し、A液とした。A液を殺菌したバターに添加し、50℃で20時間酵素反応させた。反応終了後、95℃で15分間殺菌し、バターリパーゼ分解物ペーストを得た。このバターリパーゼ分解物ペーストについて、HPLCにより遊離脂肪酸含有量を測定したところ、47.1質量%であった。
【0042】
製 造 例 6
バターリパーゼ分解物粉末の調製:
バター(固形分83%)3000gを50℃にて溶解させた後、98℃で30分殺菌した。リパーゼAY「アマノ」30G37.5gと水337.5gを攪拌・混合し、A液とした。A液を殺菌したバターに添加し、50℃で20時間酵素反応させた。反応終了後、95℃で15分間殺菌した。冷却後、スプレードライにより粉末化し、バターリパーゼ分解物ペーストを得た。脱脂粉乳25g、水酸化カリウム0.2g、バターリパーゼ分解物ペースト10gと水114.8gを攪拌・混合し、スプレードライにより粉末化し、バターリパーゼ分解物粉末を得た。このバターリパーゼ分解物粉末について、製造例1と同様にして遊離脂肪酸含有量を測定したところ14.6質量%であった。
【0043】
実 施 例 1
乳酸菌発酵食品の製造:
脱脂粉乳16w/v%、ブドウ糖10w/v%、ウーロン茶エキス0.2w/v%を含有する培地に製造例1で得られた生クリームリパーゼ分解物ペーストを、遊離脂肪酸の合計の含有量が16.5ppmとなるように添加し、100℃で62分間殺菌して培養培地を得た。これとは別にラクトバチルス・カゼイYIT9029株を10w/v%脱脂粉乳溶液に0.5v/v%接種し、37℃で24時間培養して培養液を得た。この培養液を上記培養培地に0.5v/v%接種し、35℃で培養し、酸度が24ml/9gとなった時点で培養を終了して乳酸菌発酵食品を得た。また、比較として、リパーゼ分解物無添加の培地を用いた以外は前記と同様の方法で乳酸菌発酵食品を得た。これらの乳酸菌発酵食品の培養終了時、10℃で14日保存後および21日保存後の生菌数(cfu/ml)をBCP培地で測定した。これらの結果を表1に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
乳酸菌を培地で培養するにあたり、培地に生クリームリパーゼ分解物ペーストを添加することにより、培養終了時の生菌数および保存後の生菌数が、培地に何も添加しない場合と比べて顕著に高くなっていた。
【0046】
実 施 例 2
乳酸菌発酵食品の製造:
脱脂粉乳16w/v%、ブドウ糖2.2w/v%、果糖5.1w/v%、ウーロン茶エキス0.2w/v%を含有する培地に製造例1で得られた生クリームリパーゼ分解物ペースト、製造例2で得られた生クリームリパーゼ分解物粉末、製造例3で得られた全粉乳リパーゼ分解物水溶液、製造例4で得られた全粉乳リパーゼ分解物粉末を、それぞれ遊離脂肪酸の合計の含有量が27.7ppmとなるように添加し、100℃で62分間殺菌して培養培地を得た。これとは別にラクトバチルス・カゼイYIT9029株を10w/v%脱脂粉乳溶液に0.5v/v%接種し、37℃で24時間培養して培養液を得た。この培養液を上記培養培地に0.5v/v%接種し、35℃で培養し、酸度が24ml/9gとなった時点で培養を終了して乳酸菌発酵食品を得た。これらの乳酸菌発酵食品の培養終了時、10℃で14日保存後の生菌数(cfu/ml)をBCP培地で測定した。また、乳酸菌発酵食品の風味について以下の評価基準で評価した。これらの結果を表2に示した。
【0047】
【表2】
【0048】
<風味評価基準>
(評価) (内容)
◎ :非常に良い
○ :良い
△ :やや悪い
× :悪い
【0049】
いずれのリパーゼ分解物の添加においても、実施例1と同程度で製造時に乳酸菌の増殖が促進され、保存中の生残性も向上した。また風味においても良好なものが得られた。
【0050】
実 施 例 3
乳酸菌発酵食品の製造:
脱脂粉乳16w/v%、ブドウ糖2.2w/v%、果糖5.1w/v%、ウーロン茶エキス0.2w/v%を含有する培地に製造例1で得られた生クリームリパーゼ分解物ペースト、製造例5で得られたバターリパーゼ分解物ペースト、製造例6で得られたバターリパーゼ分解物粉末を、それぞれ遊離脂肪酸の合計の含有量が53.5ppmとなるように添加し、100℃で62分間殺菌して培養培地を得た。これとは別にラクトバチルス・カゼイYIT9029株を10w/v%脱脂粉乳溶液に0.5v/v%接種し、37℃で24時間培養して培養液を得た。この培養液を上記培養培地に0.5v/v%接種し、35℃で培養し、酸度が24ml/9gとなった時点で培養を終了して乳酸菌発酵食品を得た。また、比較として、リパーゼ分解物無添加の培地を用いた以外は前記と同様の方法で乳酸菌発酵食品を得た。これらの乳酸菌発酵食品の培養終了時、10℃で14日保存後および21日保存後の生菌数(cfu/ml)をBCP培地で測定した。更に、リパーゼ分解物無添加の乳酸菌発酵食品の生菌数を100%として各リパーゼ分解物を用いた場合の生菌数が何%となるかを算出した。また更に、乳酸菌発酵食品の風味について、実施例2と同様の評価基準で評価した。これらの結果を表3に示した。
【0051】
【表3】
【0052】
乳酸菌を培地で培養するにあたり、培地に乳脂のリパーゼ分解物を添加することにより培養終了時の生菌数および保存後の生菌数が、培地に何も添加しない場合と比べて顕著に高くなっていた。
【0053】
製 造 例 7
植物油脂リパーゼ分解物ペーストの調製:
250mlの耐熱瓶に、表4に記載の処方にて原料を混合後、50℃にて20時間撹拌した。撹拌後、90~95℃にて15分間加熱し、酵素を失活させた。これを冷蔵庫で凝固させた後、50℃にて融解させ、上澄みの油層を回収し、これを植物油脂リパーゼ分解物ペーストとした。HPLCにより、これら植物油脂リパーゼ分解物ペーストの遊離脂肪酸量を測定した。その結果も表5に示した。
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
製 造 例 8
植物油脂リパーゼ分解物粉末の調製:
製造例で得た植物油脂リパーゼ分解物のうち、ひまわり油を用いたものをスプレードライで粉末化して、ひまわり油リパーゼ分解物粉末を得た。
【0057】
実 施 例 4
乳酸菌発酵食品の製造:
脱脂粉乳16w/v%、ブドウ糖2.2w/v%、果糖5.1w/v%、ウーロン茶エキス0.2w/v%を含有する培地に製造例7で得られたオリーブ油リパーゼ分解物ペースト、ひまわり油リパーゼ分解物ペースト、製造例8で得られたひまわり油リパーゼ分解物粉末を、それぞれ遊離脂肪酸の合計の含有量が17.4ppmとなるように添加し、100℃で62分間殺菌して培養培地を得た。これとは別にラクトバチルス・カゼイYIT9029株を10w/v%脱脂粉乳溶液に0.5v/v%接種し、37℃で24時間培養して培養液を得た。この培養液を上記培養培地に0.5v/v%接種し、35℃で培養し、酸度が24ml/9gとなった時点で培養を終了して乳酸菌発酵食品を得た。また、比較として、リパーゼ分解物無添加の培地を用いた以外は前記と同様の方法で乳酸菌発酵食品を得た。これらの乳酸菌発酵食品の培養終了時、10℃で14日保存後および21日保存後の生菌数(cfu/ml)をBCP培地で測定した。更に、リパーゼ分解物無添加の乳酸菌発酵食品の生菌数を100%として各リパーゼ分解物を用いた場合の生菌数が何%となるかを算出した。また更に、乳酸菌発酵食品の風味について、実施例2と同様の評価基準で評価した。これらの結果を表6に示した。
【0058】
【表6】
【0059】
乳酸菌を培地で培養するにあたり、培地に植物油脂のリパーゼ分解物を添加することにより培養終了時の生菌数および保存後の生菌数が、培地に何も添加しない場合と比べて顕著に高くなっていた。また、乳脂由来の油脂リパーゼ分解物よりも低濃度で顕著な効果が確認できた。さらに、植物油脂のリパーゼ分解物は乳酸菌発酵食品の風味も改善することが分かった。
【0060】
製 造 例 9
乳酸菌の増殖促進剤・生残性改善剤の調製:
製造例7で調製したオリーブ油リパーゼ分解物16.2g、プロピレングリコール87.5g、キサンタンガム4.0gを撹拌・混合してA液を得た。これとは別に、水649.7g、酵母エキス41.8g、香料200.0g、クエン酸0.8gを撹拌・混合し、B液を得た。A液とB液を撹拌・混合して乳酸菌の増殖促進剤・生残性改善剤を得た。
【0061】
この乳酸菌の増殖促進剤・生残性改善剤は、10℃以下で1か月間安定に保存できた。
【0062】
実 施 例 5
乳酸菌発酵食品の製造:
全粉乳14w/w%、脱脂粉乳4w/w%、乳ペプチド(LE80GF-US、日本新薬(株)製)0.1w/w%を含む水溶液を135℃で3秒間加熱殺菌して得た培地に、ビフィドバクテリウム・ビフィダム YIT10347株のスターターを初発菌数が2×10cfu/ml程度となるように接種し、37℃でpH4.8~4.9となるまで、大気雰囲気下で培養してビフィズス菌発酵液を得た。別途、ショ糖7w/w%、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC122Y、ダイセル(株)製)1w/w%を含む水溶液に、製造例4で得られた全粉乳リパーゼ分解物粉末を、遊離脂肪酸の合計の含有量が45ppmとなるように添加し、121℃で3秒間加熱殺菌して、シロップを得た。このようにして得たビフィズス菌発酵液40質量部を15MPaで均質化処理後に、シロップ60質量部に添加、混合してビフィズス菌発酵食品を得た。このビフィズス菌発酵食品の培養終了時、10℃で21日保存後のビフィドバクテリウム・ビフィダム YIT10347株の生菌数(cfu/ml)をTOS培地で測定した。更に、リパーゼ分解物無添加の乳酸菌発酵食品の生菌数を100%として各リパーゼ分解物を用いた場合の生菌数が何%となるかを算出したところ、21日保存後の生菌数は233%であった。また、発酵食品の風味を実施例2と同様にして評価したところ風味は○の評価であった。これらの結果を表7に示した。
【0063】
【表7】
【0064】
ビフィズス菌を含有する乳酸菌発酵食品を製造するにあたり、培養後の発酵液にリパーゼ分解物を添加することにより保存後の生菌数が、培養後の発酵液に何も添加しない場合と比べて顕著に高くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の製造方法によれば、発酵時の乳酸菌の増殖促進効果および保存中の生残性改善効果が得られるため、乳酸菌発酵食品中の生菌数を高い範囲で維持することができ、その生理機能を効果的に発揮させることができる。したがって、本発明の方法は、機能性食品等の製造方法として有用なものである。
以 上