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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】直流送電システムの保護装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 1/00 20060101AFI20230710BHJP
   H02J 3/36 20060101ALI20230710BHJP
   H02H 3/00 20060101ALI20230710BHJP
   H02H 3/06 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
H02J1/00 301D
H02J3/36
H02H3/00 R
H02H3/06 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019096204
(22)【出願日】2019-05-22
(65)【公開番号】P2020191741
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000241957
【氏名又は名称】北海道電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】内海 貴徳
(72)【発明者】
【氏名】長嶺 紀之
(72)【発明者】
【氏名】竹本 巨人
(72)【発明者】
【氏名】勝又 寛之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泰平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大地
(72)【発明者】
【氏名】森本 幸奈
(72)【発明者】
【氏名】苅部 孝史
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/013053(WO,A1)
【文献】特開昭59-110325(JP,A)
【文献】特開昭59-070128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 1/00
H02J 3/36
H02H 3/00
H02H 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流遮断器を含む一対の交流送電路と直流送電路の両端との間にそれぞれ接続された一対の自励式の電力変換装置と、
双方の電力変換装置側において、事故による過電流が流れる箇所に設けられ、電流値を検出する検出部と、
を有する直流送電システムに設けられ、
いずれか一方の電力変換装置側の検出部により検出される電流値に基づいて、前記一方の電力変換装置側の事故又は他方の電力変換装置側の事故による過電流を検出した場合に、前記一方の電力変換装置を停止させ、前記交流遮断器を開放させることにより、前記交流送電路と前記一方の電力変換装置とを遮断する遮断指示部を有し、
前記検出部は、前記交流送電路及び前記直流送電路における複数個所に設けられ、
複数の前記検出部により検出される電流値に基づいて、事故による差動電流を検出する差動電流検出部と、
検出された差動電流に基づいて、事故が発生した区間である事故区間を判別する事故区間判別部と、
前記遮断指示部による遮断後、前記事故区間の判別結果に応じて、前記交流遮断器の再投入及び前記電力変換装置の再起動を指示する再起動指示部と、
を有する直流送電システムの保護装置。
【請求項2】
前記事故区間判別部が判別した事故区間が、前記直流送電路に含まれる架空線区間である場合に、前記再起動指示部が、前記交流遮断器の再投入及び前記電力変換装置の再起動をさせる請求項記載の直流送電システムの保護装置。
【請求項3】
前記再起動指示部は、前記架空線区間の地絡事故とともに、前記電力変換装置の内部事故及び前記電力変換装置が設置された変換所の構内地絡事故の少なくとも一方が発生している場合に、前記交流遮断器の再投入及び前記電力変換装置の再起動をさせない請求項2記載の直流送電システムの保護装置。
【請求項4】
前記事故区間判別部は、前記電力変換装置内部事故又は前記構内地絡事故であることを示す事故検出信号及び前記架空線区間の地絡事故であることを示す事故検出信号の双方又は一方を出力するように設定され、
前記事故区間判別部からの前記電力変換装置内部事故又は前記構内地絡事故であることを示す事故検出信号の出力にオフディレイタイマが設定されている請求項記載の直流送電システムの保護装置。
【請求項5】
いずれか一方の電力変換装置側における前記差動電流検出部が差動電流を検出した場合に、これを通知する信号を他方の電力変換装置側に伝送する伝送装置を有する請求項2乃至のいずれかに記載の直流送電システムの保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、直流送電システムの保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、長距離大電力送電に適した送電システムとして、従来の三相交流による送電システムと比較して、設備の低コスト化や送電損失の少ない高効率の直流送電システムが注目されている。このような直流送電システムにおいては、発電された交流電力を直流送電用の直流に変換するコンバータや、送電されてきた直流を都市内の交流に変換するインバータなどの電力変換装置が必要となる。つまり、一対の交流送電システムの交流送電路に、それぞれ一対の電力変換装置が接続され、これらの電力変換装置及びその間に接続された直流送電路によって、直流送電システムが構成されている。
【0003】
ここで、電力変換装置に用いられる変換器として、モジュラーマルチレベル変換器(MMC:Modular Multilevel Converter)の実用化が進められている。MMCは、コンバータ、インバータのスイッチングに伴う高調波が交流系統に流出しないように、正弦波に近い電圧波形を出力できる。このようなMMCを用いた電力変換装置は、長距離大電力の送電方式である高電圧直流送電システム(HVDC)に適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WО2016/013053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のような直流送電システムにおいては、直流送電路に架空線区間が含まれる場合がある。そして、直流送電システムに発生した事故が、架空線区間への落雷などに起因する一過性の事故である場合がある。このような場合、MMC内部のコンデンサに蓄積されたエネルギーを利用して、一旦、MMCの全スイッチング素子をオフとするゲートブロック(GB)状態として、交流遮断器を開放して事故電流を除去する。そして、事故電流の除去後は、再度、交流遮断器を投入して、電力変換装置を高速に再起動させたいという要請がある。
【0006】
一方、事故は、電力変換装置の内部事故や、電力変換装置が設置された変換所の構内地絡事故、直流送電路のケーブル区間での地絡事故の場合も存在する。このような事故が一方の電力変換装置側で発生した場合、従来の他励式の電力変換装置においては、一方の電力変換装置側でこれを検出して電力変換装置の停止、交流遮断器の開放を行っていた。
【0007】
しかし、他方の電力変換装置側においては、一方の電力変換装置側の事故を検出できない。このため、双方の電力変換装置の間で、通信設備を備え、一方の電力変換装置側の事故を他方の電力変換装置側に伝達して、他方の電力変換装置の停止、交流遮断器の開放を行っていた。
【0008】
但し、事故発生時には高速かつ確実に事故発生点を切り離す必要がある。ところが、通信設備に通信遅延や故障が発生すると、迅速な処理ができなくなる。しかも、両電力変換装置が遠隔地に設置されている場合には、通信設備の通信遅延の影響は、より大きくなる。
【0009】
本実施形態は、自励式の電力変換装置を用いた直流送電システムにおいて、事故電流を高速に除去できる直流送電システムの保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態の直流送電システムの保護装置は、交流遮断器を含む一対の交流送電路と直流送電路の両端との間にそれぞれ接続された一対の自励式の電力変換装置と、双方の電力変換装置側において、事故による過電流が流れる箇所に設けられ、電流値を検出する検出部と、を有する直流送電システムに設けられ、いずれか一方の電力変換装置側の検出部により検出される電流値に基づいて、前記一方の電力変換装置側の事故又は他方の電力変換装置側の事故による過電流を検出した場合に、前記一方の電力変換装置を停止させ、前記交流遮断器を開放させることにより、前記交流送電路と前記一方の電力変換装置とを遮断する遮断指示部を有し、前記検出部は、前記交流送電路及び前記直流送電路における複数個所に設けられ、複数の前記検出部により検出される電流値に基づいて、事故による差動電流を検出する差動電流検出部と、検出された差動電流に基づいて、事故が発生した区間である事故区間を判別する事故区間判別部と、前記遮断指示部による遮断後、前記事故区間の判別結果に応じて、前記交流遮断器の再投入及び前記電力変換装置の再起動を指示する再起動指示部と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の直流送電システムを示す構成図
図2】実施形態の保護装置を示すブロック図
図3】実施形態の処理手順を示すフローチャート
図4】実施形態の変形例1の制御ロジックを示す論理ブロック図
図5】実施形態の変形例1の処理手順を示すフローチャート
図6】実施形態の変形例2の制御ロジックを示す論理ブロック図
図7】実施形態の変形例2の処理手順を示すフローチャート
図8】実施形態の変形例3の制御ロジックを示す論理ブロック図
図9】実施形態の変形例3の処理手順を示すフローチャート
図10】実施形態の事故検出信号の伝送例を示す説明図
図11】実施形態の事故検出信号の伝送例を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
[構成]
実施形態の構成を、図1及び図2を参照して説明する。本実施形態が適用される直流送電システムSは、一対の電力変換装置C1、C2、直流送電路D1、D2、検出部M3~M8、保護装置11α、11β、制御装置12α、12β、伝送装置13α、13βを有する。電力変換装置C1、C2は、直流送電路D1、D2の両端と、交流遮断器SW9、SW10を含む一対の交流送電路A1、A2との間にそれぞれ接続されている。なお、以下の説明では、直流送電路D1、D2を挟んで一方側を電力変換装置C1側、他方側を電力変換装置C2側とする。また、電力変換装置C1側、電力変換装置C2側に、同様の装置がそれぞれ配置されているが、これらの同様の装置を区別しない場合には、電力変換装置C、直流送電路D、検出部M、保護装置11、制御装置12、伝送装置13、交流送電路A、交流遮断器SWとして説明する。
【0013】
電力変換装置C1、C2は、交流電力と直流電力を相互に変換可能な自励式の変換器によって構成されている。自励式の変換器は、自己消弧型のスイッチング素子を用いた変換器である。本実施形態では、スイッチング素子としてのIGBT、整流素子であるダイオード及びエネルギー蓄積素子であるコンデンサから構成されるセル変換器を、複数カスケード接続した高耐圧のモジュラーマルチレベル変換器(MMC)を用いる。
【0014】
一対の電力変換装置C1、C2はそれぞれ同様の構造を有し、一方が交流を直流に変換するコンバータとして機能し、他方が直流を交流に変換するインバータとして機能するが、この機能は相互に交代可能である。また、電力変換装置C1、C2は、全スイッチング素子をオフとすることにより、過電流保護のためのゲートブロック状態となる。
【0015】
直流送電路D1、D2は、架空線及びケーブルを含む。ここでいう架空線は鉄塔等の支持物によって空中にかけ渡された直流送電線である。ケーブルは、架空線以外の直流送電線である。以下の説明では、架空線の区間を架空線区間、ケーブルの区間をケーブル区間と呼ぶ。但し、本実施形態では、架空線区間の事故を、他の事故と区別して処理することを特徴の一つとしているため、便宜的に、直流送電路D1、D2は、架空線区間に相当するものとして説明する。直流送電路D1は本線、D2は接地電位の帰線である。
【0016】
交流送電路A1、A2は、それぞれ別の交流送電システムに接続されている。交流送電システムは、三相交流電源P1、P2からの電力を供給するシステムであり、本実施形態の直流送電システムSを介して、互いに電力を融通し合うことができる。
【0017】
交流送電路A1、A2には、それぞれ交流遮断器SW9、SW10、変圧器T1、T2が設けられている。交流遮断器SW9、SW10は、事故に応じて開放することにより、電力変換装置C1、C2を交流システムから切り離す遮断器である。変圧器T1、T2は、交流システムからの交流電力の電圧を調整して、電力変換装置C1、C2に出力するか、電力変換装置C1、C2からの交流電力の電圧を調整して、交流システムに出力する。
【0018】
検出部M3~M8は、電流を検出する装置である。検出部M3~M6は、直流送電路D1、D2の両端にそれぞれ設けられた直流電流検出部である。検出部M3~M6としては、直流変流器を用いることができる。検出部M7、M8は、交流送電路A1、A2にそれぞれ設けられた交流電流検出部である。検出部M7、M8としては、交流変流器を用いることができる。
【0019】
保護装置11α、11βは、直流送電システムSを保護するための各種の判断処理を行う装置である。つまり、保護装置11α、11βは、検出部Mにより検出された電流値に応じて、電力変換装置C、交流遮断器SWを制御するための各種の演算処理を行い、その結果を出力する。保護装置11αには、検出部M3、M4、M5、M7が接続され、保護装置11βには、検出部M3、M4、M6、M8が接続されているが、図1では、一部の接続経路の図示を省略している。
【0020】
保護装置11は、ASIC(application specific integrated circuit)などのハードウェア回路や、PLD(programmable logic device)などのプログラムを実行するプロセッサによって構成できる。保護装置11は、上記のようなハードウェア回路、プログラムにより実行される制御ロジックによって、図2に示すように、遮断指示部110、差動電流検出部120、事故区間判別部130、再起動指示部140として機能する。なお、このようなプログラム及びプログラムを記録した記録媒体も、実施形態の一態様である。
【0021】
遮断指示部110は、いずれか一方の電力変換装置C側の検出部Mにより検出される電流値に基づいて、一方の電力変換装置C側の事故又は他方の電力変換装置C側の事故による過電流を検出した場合に、一方の電力変換装置Cを停止させ、交流遮断器SWを開放させることにより、交流送電路Aと電力変換装置Cとを遮断する。過電流の検出は、メモリ等にあらかじめ設定されたしきい値との比較に基づいて行う。
【0022】
つまり、保護装置11αの遮断指示部110は、電力変換装置C1側の検出部M3、M5、M7により検出される電流値から過電流を検出した場合に、電力変換装置C1を停止させ、交流遮断器SW9を開放させる。保護装置11βの遮断指示部110は、電力変換装置C2側の検出部M4、M6、M8により検出される電流値から過電流を検出した場合に、電力変換装置C2を停止させ、交流遮断器SW10を開放させる。
【0023】
自励式の電力変換装置C1、C2は、事故がいずれ側に発生しても、自端に過電流が流れる。本実施形態は、相手端側の事故か否かにかかわらず、過電流を検出した場合には、電力変換装置C1、C2を停止させ、交流送電路A1、A2から切り離す。事故は、例えば、電力変換装置Cの内部事故、電力変換装置Cが設置された変換所の構内地絡事故、直流送電路Dの架空線の地絡事故を含む。これらの事故のいずれの場合であっても、過電流が流れるため、遮断指示部110による電力変換装置C1、C2の停止、交流送電路A1、A2からの切り離しが行われる。遮断指示部110は、交流遮断器SWとの関係では、保護リレーとして機能する。
【0024】
差動電流検出部120は、複数の検出部Mにより検出される電流値に基づいて、事故による差動電流を検出する。地絡事故の発生により事故点に流れ込む事故電流は、事故点を境界として異なる方向となる等のため、事故点を挟む検出部Mにより検出される電流値の差分に基づく差動電流は、健全時とは異なる挙動を示す。このため、差動電流検出部120により検出される差動電流によって、事故の検出が可能となる。
【0025】
事故区間判別部130は、検出された差動電流に基づいて、事故が発生した区間である事故区間を判別する。例えば、保護装置11αの事故区間判別部130は、検出部M3、M5、M7のいずれかにより検出される差動電流に基づいて、検出部M3、M5、M7のいずれかの間の区間における事故であると判定する。この場合には、事故区間判別部130は、電力変換装置C1の内部事故又は構内地絡事故であることを示す事故検出信号を出力する。また、保護装置11αの事故区間判別部130は、検出部M3、M4により検出される差動電流に基づいて、検出部M3、M4の間の区間における事故であると判定する。この場合には、事故区間判別部130は、架空線地絡事故であることを示す事故信号を出力する。
【0026】
一方、保護装置11βの事故区間判別部130は、検出部M4、M6、M8のいずれかにより検出される差動電流に基づいて、検出部M4、M6、M8のいずれかの間の区間における事故であると判定する。この場合には、保護装置11βの事故区間判別部130は、電力変換装置C2の内部事故又は構内地絡事故であることを示す事故検出信号を出力する。また、保護装置11βの事故区間判別部130は、検出部M4、M3により検出される差動電流に基づいて、検出部M4、M3の間の区間における事故であると判定する。この場合には、事故区間判別部130は、架空線地絡事故であることを示す事故信号を出力する。
【0027】
再起動指示部140は、遮断指示部110による遮断後、事故区間の判別結果に応じて、交流遮断器SWの再投入及び電力変換装置Cの再起動を指示する。本実施形態の再起動指示部140は、事故区間判別部が判別した事故区間が、架空送電線であることを示す事故検出信号を受けた場合には、交流遮断器SWの再投入及び電力変換装置の再起動を指示する。一方、再起動指示部140は、事故区間判別部が判別した事故区間が、電力変換装置Cの内部事故又は構内地絡事故であることを示す事故検出信号を受けた場合には、交流遮断器SWの再投入及び電力変換装置Cの再起動をさせない。つまり、架空線地絡事故と判別された場合であっても、電力変換装置Cの内部事故又は構内地絡事故が発生している場合には、交流遮断器SWの再投入及び電力変換装置の再起動をせずに、システム停止とする。
【0028】
例えば、保護装置11αの再起動指示部140は、架空線地絡事故が検出されても、電力変換装置C1の内部事故又は構内地絡事故が発生している場合には、交流遮断器SW9の再投入及び電力変換装置C1の再起動をさせない。また、保護装置11βの再起動指示部140は、架空線地絡事故が検出されても、電力変換装置C2の内部事故又は構内地絡事故が発生している場合には、交流遮断器SW10の再投入及び電力変換装置C2の再起動をさせない。
【0029】
制御装置12は、電力変換装置Cの動作を制御する装置である。本実施形態の制御装置12は、保護装置11からの指示信号に基づいて、電力変換装置Cの停止、起動を制御する。つまり、制御装置12αは、保護装置11αからの停止指示信号に基づいて、電力変換装置C1を停止させる。また、保護装置11αからの再起動指示信号に基づいて、電力変換装置C1を再起動させる。制御装置12βは、保護装置11βからの停止指示信号に基づいて、電力変換装置C2を停止させる。また、保護装置11βからの再起動指示信号に基づいて、電力変換装置C2を再起動させる。
【0030】
伝送装置13は、差動電流検出部120が差動電流を検出した場合に、事故検出信号を、伝送路を介して伝送する。伝送装置13及び伝送路は、事故検出信号を電力変換装置C1側と電力変換装置C2側とで送受信する通信設備である。つまり、保護装置11αの事故区間判別部130が、電力変換装置C1の内部事故又は構内地絡事故であることを示す事故検出信号を出力した場合、この事故検出信号が伝送装置13によって保護装置11βに送信される。また、保護装置11βの事故区間判別部130が、電力変換装置C2の内部事故又は構内地絡事故であることを示す事故検出信号を出力した場合に、この事故検出信号が伝送装置13によって保護装置11αに送信される。このように、保護装置11α、11βにおいて、相手側の事故検出信号を受信した場合には、交流遮断器SWの再投入及び電力変換装置Cの再起動を行わず、システム停止とする。
【0031】
[動作]
(基本動作)
以上のような本実施形態の基本動作を、図3のフローチャートを参照して説明する。なお、以下に示すフローチャートは、システムを構成する各部が実行する処理の流れを示しているため、処理のブロックが並行している部分を含む。また、以下のような手順、制御ロジックによって直流送電システムSを保護する方法も実施形態の一態様である。遮断指示部110は、検出部Mからの電流値に基づいて、過電流が発生したか否かを監視している(ステップS101)。これと並行に、差動電流検出部120は、検出部Mからの電流値に基づいて、差動電流を監視している(ステップS102)。事故の発生により、遮断指示部110が過電流を検出すると(ステップS103のYES)、交流遮断器SWを開放させて、電力変換装置Cを停止させる(ステップS104)。
【0032】
一方、差動電流検出部120による差動電流の検出に基づいて(ステップS105のYES)、事故区間判別部130が、事故区間を判別する(ステップS106)。事故区間が、架空線区間のみである場合には(ステップS107のYES)、差動電流検出部120により検出される差動電流に基づいて、事故電流が除去されたことを条件として、再起動指示部140は、電力変換装置Cの再起動、交流遮断器SWの投入を行う(ステップS108、S109)。
【0033】
事故区間が、変換器内部事故又は構内地絡事故である場合には(ステップS107のNO)、再起動指示部140は、電力変換装置Cの再起動、交流遮断器SWの投入をさせず、システムを停止する(ステップS110)。
【0034】
(変形例1)
上記の態様の変形例1の制御ロジックを、図4の論理ブロック図を参照して説明する。すなわち、過電流検出B1、差動電流検出B2、差動電流検出B3の少なくとも1の出力があれば、ORゲートから1が出力され、電力変換装置Cの停止、交流遮断器SWの開放となる(B4)。差動電流検出B2は、変換器内部事故、構内地絡事故による差動電流検出を示す。差動電流検出B3は、架空線区間の地絡事故による差動電流検出を示す。そして、差動電流検出B2の出力は、システム停止B5となり、再起動不可のシーケンスとなる。また、差動電流検出B3の出力は、再起動B6のシーケンスとなる。
【0035】
このような制御ロジックによる動作の例を、図5のフローチャートを参照して説明する。まず、ステップS201~S206の動作は、図3のフローチャートのステップS101~S106と同様である。但し、差動電流の検出によっても(ステップS205のYES)、交流遮断器SWを開放させて、電力変換装置Cを停止させる(ステップS204)。事故区間判別部130が判別した事故区間が、変換器内部事故又は構内地絡事故である場合には(ステップS207のYES)、再起動指示部140は、電力変換装置Cの再起動、交流遮断器SWの投入をさせず、システムを停止する(ステップS208)。事故区間判別部130が判別した事故区間が、架空線区間である場合には(ステップS209のYES)、事故電流が除去されたことを条件として、再起動指示部140が再起動を指示し(ステップS210)、電力変換装置Cが再起動され、交流遮断器SWが投入される(ステップS211)。
【0036】
(変形例2)
上記の態様の変形例2の制御ロジックを、図6の論理ブロック図を参照して説明する。すなわち、架空線区間の地絡事故が発生しても、電力変換装置内部事故、構内地絡事故が同時に発生したり、継続している場合には、システム停止を優先させて、再起動をさせないことが必要となる。そこで、変形例2では、差動電流検出B2の出力を、NOTゲートを介して、差動電流検出B3とのANDゲートに入力する。このため、差動電流検出B3があっても、差動電流検出B2の出力がONである場合には、再起動B6のシーケンスには移行しない。再起動となるのは、差動電流検出B2の出力が無いOFFの状態で、差動電流検出B3が出された場合である。
【0037】
このような制御ロジックによる動作の例を、図7のフローチャートを参照して説明する。まず、ステップS301~S306の動作は、図5のフローチャートのステップS201~S206と同様である。但し、事故区間判別部130が判別している事故区間が、電力変換器内部事故又は構内地絡事故でない場合にのみ(ステップS307のNO)、しかも架空線区間地絡事故である場合のみ(ステップS309のYES)、再起動指示部140が再起動を指示し(ステップS310)、電力変換装置Cが再起動され、交流遮断器SWが投入される(ステップS311)。
【0038】
(変形例3)
上記の態様の変形例3の制御ロジックを、図8の論理ブロック図を参照して説明する。すなわち、変形例3では、差動電流検出B2の出力にオフディレイタイマを設定する。オフディレイタイマは、入力がONになると出力がONになるが、入力がOFFになっても、一定時間経過後に出力がOFFとなる。このため、差動電流検出B2があった場合に、一定時間、出力を継続するので、差動電流検出B3があっても、即座に再起動とはならず、システム停止が優先される。オフディレイの時間tは、事故電流が除去される十分な時間とすることができる。つまり、交流遮断器SWを切って、残留するエネルギーが全部放出されて、直流送電路D1の事故電流が消えるために十分な時間とする。例えば、300ms程度とすることが考えられるが、これには限定されない。
【0039】
このような制御ロジックによる動作の例を、図9のフローチャートを参照して説明する。まず、ステップS401~S406の動作は、図5のフローチャートのステップS201~S206と同様である。但し、時間t経過後、差動電流検出部120が差動電流を検出している場合には(ステップS407のYES)、再起動指示部140は、電力変換装置Cの再起動、交流遮断器SWの投入をさせず、システムを停止する(ステップS408)。時間t経過後、差動電流検出120が差動電流を検出しなくなった場合には(ステップS407のNО)、再起動指示部140が再起動を指示し(ステップS409)、電力変換装置Cが再起動され、交流遮断器SWが投入される(ステップS410)。
【0040】
(信号伝送)
次に、電力変換装置C1側と電力変換装置C2側とで、事故検出信号を伝送することにより行われる保護動作を、図10及び図11を参照して説明する。なお、図10及び図11では、直流送電システムSの一部、制御ロジックの一部を示し、他は省略している。
【0041】
図10は、電力変換装置内部事故、構内地絡事故の一例として、電力変換装置C2と検出部M4の間で地絡事故が発生した場合を示す。このとき、電力変換装置C1側の保護装置11αは、上記のように、検出部M3からの過電流を検出し、電力変換装置C1を停止して、交流遮断器SW9を遮断する。電力変換装置C2側の保護装置11βは、検出部M4からの過電流を検出し、電力変換装置C2を停止して、交流遮断器SW10を遮断する。
【0042】
これと並行して、差動電流検出部120が、検出部M4、検出部M6、検出部M8の差動電流を検出すると、事故区間判別部130から出力される事故検出信号を、伝送装置13βが、伝送装置13αに送信する。これにより、電力変換装置C1側の保護装置11αにおいても、上記のように、電力変換装置内部事故、構内地絡事故であるとして、システム停止とすることができる。
【0043】
図11は、架空線区間における地絡事故の一例として、検出部M3と検出部M4の間で地絡事故が発生した場合を示す。このとき、電力変換装置C1側の保護装置11αは、上記のように、検出部M3からの過電流を検出し、電力変換装置C1を停止して、交流遮断器SW9を遮断する。電力変換装置C2側の保護装置11βは、検出部M4からの過電流を検出し、電力変換装置C2を停止して、交流遮断器SW10を遮断する。
【0044】
これと並行して、差動電流検出部120が、検出部M3と検出部M4との差動電流を検出すると、事故区間判別部130から出力される事故検出信号を、伝送装置13βが、伝送装置13αに送信する。これにより、電力変換装置C1側の保護装置11αにおいても、上記のように、架空線区間地絡事故であるとして、再起動させることができる。
【0045】
[作用効果]
(1)以上のような本実施形態は、交流遮断器SWを含む一対の交流送電路Aと直流送電路Dの両端との間にそれぞれ接続された一対の自励式の電力変換装置Cと、双方の電力変換装置C側において、事故による過電流が流れる箇所に設けられ、電流値を検出する検出部Mと、を有する直流送電システムSに設けられ、いずれか一方の電力変換装置C側の検出部Mにより検出される電流値に基づいて、一方の電力変換装置C側の事故又は他方の電力変換装置C側の事故による過電流を検出した場合に、一方の電力変換装置Cを停止させ、交流遮断器SWを開放させることにより、交流送電路Aと電力変換装置Cとを遮断する遮断指示部110を有する。
【0046】
このため、いずれの電力変換装置C側において事故が発生した場合であっても、過電流の検出により、交流送電路Aと電力変換装置Cとを遮断することにより、信号伝送遅れの影響を受けずに、事故電流を高速に除去することができる。
【0047】
ここで、自励式の電力変換装置Cを用いた直流送電システムにおいては、電力変換装置Cの直流側で地絡が発生した場合、事故点に向かってコンデンサのエネルギーが放電する。この場合、電力変換装置Cをゲートブロックすれば、コンデンサの放電は止まり、コンデンサ内部のエネルギーを保存することが可能となる。しかし、電力変換装置Cをゲートブロックしたとしても、地絡事故が発生している間、電力変換装置Cは受動回路になるため、事故電流は交流側から両端のダイオードを介して事故点へ流れ続ける。このため、地絡事故発生後は、交流遮断器SWを開放して、電力変換装置Cを交流側から高速に切り離す必要がある。
【0048】
一方、他励式の電力変換装置においては、一方の電力変換装置側の事故電流は、他方の電力変換装置側に流れないため、通信手段を設けない限り、互いの事故を検出できない。自励式の電力変換装置Cの場合、一方の電力変換装置C側で事故が発生した場合、他方の電力変換装置C側においても事故電流が流れる。そこで、本実施形態では、過電流が流れる箇所に検出部Mを設け、過電流を検出した場合には、いずれかの電力変換装置C側の事故であるかにかかわらず、システムを停止することにより、伝送遅れの影響を受けずに事故電流を高速に除去することを可能とした。
【0049】
(2)検出部Mは、交流送電路A及び直流送電路Dにおける複数個所に設けられ、複数の検出部Mにより検出される電流値に基づいて、事故による差動電流を検出する差動電流検出部120と、検出された差動電流に基づいて、事故が発生した区間である事故区間を判別する事故区間判別部130と、遮断指示部110による遮断後、事故区間の判別結果に応じて、交流遮断器SWの再投入及び電力変換装置Cの再起動を指示する再起動指示部140と、を有する。
【0050】
このため、いずれの事故にかかわらず、まず、電力変換装置Cを交流送電路Aから切り離して、事故電流を除去した後に、事故区間によっては再起動のニーズがある場合に、これに応じて再起動させることができる。
【0051】
(3)事故区間判別部130が判別した事故区間が、直流送電路Dに含まれる架空線区間である場合に、再起動指示部140が、交流遮断器SWの再投入及び電力変換装置Cの再起動をさせる。このため、地絡による事故電流を除去した後は、再起動しても問題はない架空線区間の場合には、再起動させることができる。
【0052】
(4)架空線区間の地絡事故とともに、電力変換装置Cの内部事故及び電力変換装置Cが設置された変換所の構内地絡事故の少なくとも一方が発生している場合に、再起動指示部140は、交流遮断器SWの再投入及び電力変換装置Cの再起動をさせない。このため、再起動すべきでない事故の場合にシステムを停止して、再起動を防止できる。
【0053】
(5)事故区間判別部130は、電力変換装置内部事故又は構内地絡事故であることを示す事故検出信号及び架空線区間の地絡事故であることを示す事故検出信号の双方又は一方を出力するように設定され、事故区間判別部130からの電力変換装置内部事故又は構内地絡事故であることを示す事故検出信号の出力にオフディレイタイマが設定されている。このため、架空線区間の地絡事故の事故除去後であっても、電力変換装置内部事故又は構内地絡事故があった場合に、再起動となってしまうことを防止できる。
【0054】
(6)いずれか一方の電力変換装置C側における差動電流検出部120が差動電流を検出した場合に、これを通知する信号を他方の電力変換装置C側に伝送する伝送装置13を有する。このため、一対の電力変換装置Cが、相互に信号を伝送し合うことにより、再起動又はシステム停止を行うことができる。既に過電流による遮断は行われているため、伝送遅延が発生しても問題はない。
【0055】
[他の実施形態]
上記の各実施形態、本明細書において一例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図するものではない。すなわち、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことが可能である。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0056】
なお、直流送電路D1、D2において、架空線区間とケーブル区間との間に検出部を設け、この検出部と他の検出部M3、M4とから検出される電流の差動電流により、事故区間判別部130が、架空線区間の事故か、ケーブル区間の事故かの判別をしてもよい。ケーブル区間の事故であれば、電力変換装置内部事故、構内地絡事故と同様に、再起動指示部140は再起動させない。つまり、電力変換装置Cの内部事故、電力変換装置Cが設置された変換所の構内地絡事故及びケーブル区間の事故の少なくとも一つであれば、再起動させずに、システム停止とする。
【符号の説明】
【0057】
11、11α、11β 保護装置
12、12α、12β 制御装置
13、13α、13β 伝送装置
110 遮断指示部
120 差動電流検出部
130 事故区間判別部
140 再起動指示部
A、A1、A2 交流送電路
C、C1、C2 電力変換装置
D、D1、D2 直流送電路
M、M3、M4、M5、M6、M7、M8 検出部
P1、P2 三相交流電源
S 直流送電システム
SW、SW9、SW10 交流遮断器
T1、T2 変圧器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11