(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】成形体および医療用容器
(51)【国際特許分類】
C08L 23/02 20060101AFI20230710BHJP
C08L 45/00 20060101ALI20230710BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20230710BHJP
C08K 5/49 20060101ALI20230710BHJP
C08K 5/3435 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
C08L23/02
C08L45/00
C08K5/13
C08K5/49
C08K5/3435
(21)【出願番号】P 2019104998
(22)【出願日】2019-06-05
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】藤村 太
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠
(72)【発明者】
【氏名】何 家成
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-130402(JP,A)
【文献】国際公開第2007/088941(WO,A1)
【文献】特開2008-174679(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033968(WO,A1)
【文献】特開2008-144013(JP,A)
【文献】特開2007-119509(JP,A)
【文献】特開平02-173013(JP,A)
【文献】特開平01-185307(JP,A)
【文献】特開平03-172308(JP,A)
【文献】国際公開第2008/068897(WO,A1)
【文献】特開2005-054123(JP,A)
【文献】国際公開第2020/241288(WO,A1)
【文献】特開2018-012746(JP,A)
【文献】特開2020-105332(JP,A)
【文献】特開2022-054983(JP,A)
【文献】特開2021-054905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 45/00
C08L 23/00- 23/36
C08K 3/00- 13/08
C08F 32/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)を有する環状オレフィン系共重合体(P)と、安定剤(B)とを含む環状オレフィン系共重合体組成物(Q)からなる成形体であって、
前記安定剤(B)がフェノール系化合物を含み、前記安定剤(B)の含有量が前記環状オレフィン系共重合体(P)100質量部に対して
0.001質量部以上
0.01質量部以下であり、
前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(A)および前記構成単位(C)の合計含有量が93モル%以上であ
り、
前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(A)の含有量が40モル%以上99.5モル%以下であり、前記構成単位(C)の含有量が0.5モル%以上60モル%以下であり、
ガンマ線を50kGy照射して5日後のラジカル量が5.0×10
12
spins/mg以下である成形体。
【請求項2】
炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)を有する環状オレフィン系共重合体(P)と、安定剤(B)とを含む環状オレフィン系共重合体組成物(Q)からなる成形体であって、
前記安定剤(B)がリン系化合物およびヒンダードアミン系化合物を含み、前記安定剤(B)の含有量が前記環状オレフィン系共重合体(P)100質量部に対して0.0001質量部以上0.3質量部以下であり、
前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(A)および前記構成単位(C)の合計含有量が93モル%以上であ
り、
前記環状オレフィン系共重合体(P)中の前記構成単位(A)の含有量が40モル%以上99.5モル%以下であり、前記構成単位(C)の含有量が0.5モル%以上60モル%以下であり、
ガンマ線を50kGy照射して5日後のラジカル量が5.0×10
12
spins/mg以下である成形体。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の成形体において、
前記芳香環を有する環状オレフィンが、下記式(C-2)で示される化合物および下記式(C-3)で示される化合物からなる群から選択される一種または二種以上を含む成形体。
【化1】
(上記式(C-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R
18~R
31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
28とR
28、R
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31、R
31とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【化2】
(上記式(C-3)中、qは1、2または3であり、R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の成形体において、
示差走査熱量計(DSC)で測定される、前記環状オレフィン系共重合体組成物(Q)のガラス転移温度(Tg)が0℃以上180℃以下である成形体。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の成形体において、
前記環状オレフィン系共重合体組成物(Q)の135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が0.05dl/g以上6.0dl/g以下である成形体。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の成形体において、
前記芳香環を有する環状オレフィンが、ベンゾノルボルナジエンおよびインデンノルボルネンから選択される少なくとも一種を含む成形体。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の成形体からなる医療用容器。
【請求項8】
請求項
7に記載の医療用容器において、
シリンジまたは薬液保存容器である医療用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体および医療用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂は、透明性や耐薬品性等の性能バランスに優れている。よって、例えば、医療用容器等の成形体を形成する材料として用いられることが検討されている。このような環状オレフィン系樹脂を含む樹脂組成物に関する技術としては、例えば、特許文献1や特許文献2に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、特定の環状オレフィン系樹脂を2種含む環状オレフィン系樹脂組成物が記載されている。そして、その組成物により、スリップ性が改良され、透明性、表面光沢に優れ、さらに衛生面に優れた成形体を得ることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、環状オレフィン系樹脂60~90重量部と、数平均分子量が75,000~500,000である芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体および/またはその水素添加物10~40重量部とからなる環状オレフィン系樹脂組成物が記載されている。そして、その組成物により、衝撃強度に優れるとともに防湿性にも優れた成形体を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-26693号公報
【文献】特開平8-277353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリンジや薬液保存容器等の医療用容器は、通常、滅菌した後に内容物が充填される。この滅菌の際、容器に対して電子線あるいはガンマ線が照射される場合がある。
本発明者らの検討によれば、従来の環状オレフィン系樹脂を用いた医療用容器においては、電子線あるいはガンマ線照射によって変色が発生しうる場合があることが明らかになった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。つまり、本発明は、電子線あるいはガンマ線照射による変色が少なく、かつ、透明性に優れる成形体および医療用容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは本発明に関する上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、成形体、特に医療用容器を構成する樹脂として、α-オレフィンから導かれる構成単位および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位からなる環状オレフィン系共重合体と安定剤を含む環状オレフィン系共重合体組成物を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。そして、以下に示される本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示す成形体および医療用容器が提供される。
【0010】
[1]
炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)を有する環状オレフィン系共重合体(P)と、安定剤(B)とを含む環状オレフィン系共重合体組成物(Q)からなる成形体であって、
上記安定剤(B)の含有量が上記環状オレフィン系共重合体(P)100質量部に対して0.0001質量部以上0.3質量部以下であり、
上記環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)および上記構成単位(C)の合計含有量が93モル%以上である成形体。
[2]
上記[1]に記載の成形体において、
ガンマ線を50kGy照射して5日後のラジカル量が5.0×10
12spins/mg以下である成形体。
[3]
上記[1]または[2]に記載の成形体において、
上記安定剤(B)が、フェノール系化合物、リン系化合物およびヒンダードアミン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む成形体。
[4]
上記[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の成形体において、
上記環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)の含有量が40モル%以上99.5モル%以下であり、上記構成単位(C)の含有量が0.5モル%以上60モル%以下である成形体。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の成形体において、
上記芳香環を有する環状オレフィンが、下記式(C-2)で示される化合物および下記式(C-3)で示される化合物からなる群から選択される一種または二種以上を含む成形体。
【化1】
(上記式(C-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3であり、R
18~R
31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
28とR
28、R
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31、R
31とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
【化2】
(上記式(C-3)中、qは1、2または3であり、R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。)
[6]
上記[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の成形体において、
示差走査熱量計(DSC)で測定される、上記環状オレフィン系共重合体組成物(Q)のガラス転移温度(Tg)が0℃以上180℃以下である成形体。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の成形体において、
上記環状オレフィン系共重合体組成物(Q)の135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が0.05dl/g以上6.0dl/g以下である成形体。
[8]
上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の成形体において、
上記芳香環を有する環状オレフィンが、ベンゾノルボルナジエンおよびインデンノルボルネンから選択される少なくとも一種を含む成形体。
[9]
上記[1]乃至[8]のいずれか一つに記載の成形体からなる医療用容器。
[10]
上記[9]に記載の医療用容器において、
シリンジまたは薬液保存容器である医療用容器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電子線あるいはガンマ線照射による変色が少なく、かつ、透明性に優れる成形体および医療用容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。なお、本実施形態では、数値範囲を示す「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0013】
[環状オレフィン系共重合体(P)]
まず、本発明に係る実施形態の環状オレフィン系共重合体(P)について説明する。
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)は、炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)と、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)と、を有し、環状オレフィン系共重合体(P)中の構成単位(A)および構成単位(C)の合計含有量が93モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上、そして好ましくは100モル%以下である。
【0014】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)は、炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A)および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)を含むことにより、透明性を良好に保ちながら、成形体の耐放射線性を向上させることができる。
以上から、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)によれば、電子線あるいはガンマ線照射による変色が少なく、かつ、透明性に優れる成形体を得ることが可能となる。
【0015】
(炭素原子数が2~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(A))
本実施形態に係る構成単位(A)は炭素原子数が2~20のα-オレフィン由来の構成単位である。
ここで、炭素原子数が2~20のα-オレフィンとしては、直鎖状でも分岐状でもよく、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素原子数が2~20の直鎖状α-オレフィン;3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン等の炭素原子数が4~20の分岐状α-オレフィン等が挙げられる。これらの中では、炭素原子数が2~4の直鎖状α-オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。このような直鎖状または分岐状のα-オレフィンは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)の含有量は、好ましくは40モル%以上99.5モル%以下、より好ましくは50モル%以上90モル%以下である。
上記構成単位(A)の含有量が上記下限値以上であることにより、成形体の耐熱性や寸法安定性を向上させることができる。また、上記構成単位(A)の含有量が上記上限値以下であることにより、得られる医療用容器の成形性等を向上させることができる。
本実施形態において、構成単位(A)の含有量は、例えば、1H-NMRまたは13C-NMRによって測定することができる。
【0017】
(芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C))
本実施形態に係る構成単位(C)は芳香環を有する環状オレフィン由来の構成単位である。
本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、例えば、下記式(C-2)で示される化合物、下記式(C-3)で示される化合物等が挙げられる。これらの芳香環を有する環状オレフィンは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
【化3】
上記式(C-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3である。mは0または1であることが好ましく、1であることがより好ましい。nは0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。qは1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
R
18~R
31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基である。
R
18~R
31はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
またq=1のときR
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
28とR
28、R
28とR
29、R
29とR
30、R
30とR
31、R
31とR
31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0019】
【化4】
上記式(C-3)中、qは1、2または3であり、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基である。
R
32~R
39はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0020】
また、炭素原子数1~20の炭化水素基としては、それぞれ独立に、例えば炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、および芳香族炭化水素基等が挙げられる。より具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基等が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロヘキシル基等が挙げられ、芳香族炭化水素基としてはフェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基等のアリール基またはアラルキル基等が挙げられる。これらの炭化水素基はフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0021】
これらの中でも、本実施形態に係る芳香環を有する環状オレフィンとしては、例えば、ベンゾノルボルナジエンおよびインデンノルボルネンから選択される少なくとも一種が好ましい。
【0022】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)中の上記構成単位(A)および上記構成単位(C)の合計含有量を100モル%としたとき、環状オレフィン系共重合体(P)中の構成単位(C)の含有量は好ましくは0.5モル%以上60モル%以下であり、より好ましくは10モル%以上であり、そしてより好ましくは50モル%以下である。
本実施形態において、構成単位(C)の含有量は、例えば、1H-NMRまたは13C-NMRによって測定することができる。
【0023】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)の共重合タイプは特に限定されないが、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等を挙げることができる。本実施形態においては、透明性や耐熱性に優れる医療用容器を得ることができる観点から、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)としてはランダム共重合体であることが好ましい。
【0024】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)は、例えば、特開昭60-168708号公報、特開昭61-120816号公報、特開昭61-115912号公報、特開昭61-115916号公報、特開昭61-271308号公報、特開昭61-272216号公報、特開昭62-252406号公報、特開昭62-252407号公報、特開2007-314806号公報、特開2010-241932号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0025】
示差走査熱量計(DSC)で測定される、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは0℃以上180℃以下である。得られる医療用容器の透明性を良好に保ちつつ、耐熱性をより向上させる観点から、より好ましくは100℃以上180℃以下であり、さらに好ましくは110℃以上165℃以下である。
【0026】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)の極限粘度[η](135℃デカリン中)は、例えば0.05~6.0dl/gであり、好ましくは0.2~4.0dl/gであり、さらに好ましくは0.3~2.0dl/g、特に好ましくは0.3~1.0dl/gである。
極限粘度[η]が上記下限値以上であると、医療用容器の機械的強度を向上させることができる。また、極限粘度[η]が上記上限値以下であると、成形性を向上させることができる。
【0027】
[安定剤(B)]
本発明に係る実施形態の安定剤(B)について説明する。
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)中の安定剤(B)の含有量は、環状オレフィン系共重合体(P)の含有量を100質量部としたとき、0.3質量部以下、好ましくは0.2質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下であり、0.0001質量部以上、好ましくは0.0002質量部以上、より好ましくは0.0005質量部以上である。本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)中の安定剤(B)の含有量を上記範囲内とすることで、成形体の透明性を良好に保ちながら、電子線あるいはガンマ線照射による変色、ラジカルの発生を効果的に低減することができる。
安定剤(B)の含有量が上記上限値以下であると、得られる成形体において、電子線あるいはガンマ線照射によるラジカルの発生量を効果的に抑制することができる。安定剤(B)の含有量が上記下限値以上であると、成形時の樹脂劣化による変色を抑制でき、得られる成形体の透明性を良好にできる。
安定剤(B)は、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物およびフェノール系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましく、ヒンダードアミン系化合物およびリン系化合物がより好ましい。
【0028】
ヒンダードアミン系化合物[D](以下、単に、化合物[D]、あるいは、[D]とも表記する)としては、ヒンダードアミン構造(具体的には、以下の式(b1)で表される部分構造)を、1つまたは2つ以上有する化合物を適宜用いることができる。
式(b1)中、*は、他の化学構造との結合手を表す。
【0029】
【0030】
化合物[D]として具体的には、公知のヒンダードアミン系光安定剤(Hindered Amine Light Stabilizers:略称HALS)として知られている化合物などを用いることができる。
【0031】
化合物[D]としては、例えば、国際公開第2006/112434号の段落0058~0082に記載のヒンダードアミン系化合物、国際公開第2008/047468号の段落0124~0186に記載のヒンダードアミン系化合物、国際公開第2008/047468号の段落0187~0226に記載のピペリジン誘導体またはその塩、特開2006-321793号公報に記載のポリアミン誘導体またはその塩などを例示することができる。
【0032】
また、Chimassorb 2020、Chimassorb 944、Tinuvin 622、Tinuvin PA144 Tinuvin 765、Tinuvin
770(以上、BASF社製)、Cyasorb UV-3853、Cyasorb UV-3529、Cyasorb UV-3346、Cyasorb UV-531(以上、Cytec社製)、アデカスタブ LA-52、アデカスタブ LA-57、アデカスタブ LA-63P、アデカスタブ LA-68、アデカスタブ LA-72、アデカスタブ LA-77Y、アデカスタブ LA-81、アデカスタブ LA-82、アデカスタブ LA-87(以上、ADEKA社製)等の市販品を用いることができる。
【0033】
本実施形態では、化合物[D]は、以下一般式(b2)で表される構造単位を有する化合物であることが好ましい。
この化合物は、典型的にはポリマーまたはオリゴマーである。この化合物のような、ポリマーまたはオリゴマーである化合物[D]を用いることで、環状オレフィン系共重合体(P)との相溶性を高められ、組成物をより均一にすることができると考えられる。また、照射により特性吸収を有するような構造に変化しにくいと考えられる。これにより、電子線あるいはガンマ線照射による変色をより少なくし、また、電子線あるいはガンマ線照射によるラジカルの発生をより少なくできると考えられる。
【0034】
【0035】
一般式(b2)において、X1およびX2は、それぞれ独立に、2価の連結基を表す。
X1およびX2の2価の連結基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、これらの基が連結された基、などを挙げることができる。これらの中でも、アルキレン基が好ましく、炭素数1~6のアルキレン基がより好ましく、炭素数1~4のアルキレン基がより好ましい。
一般式(b2)で表される構造単位を有する化合物については、市販品を用いてもよいし、対応するジオールおよびジカルボン酸などを縮重合させることで得てもよい。
【0036】
化合物[D]については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0037】
リン系化合物[E](以下、単に、化合物[E]、または、[E]とのみ表記することもある)については、特に制限は無い。例えば、公知のリン系酸化防止剤を用いることができる。
【0038】
リン系酸化防止剤としては、特に制限はなく、従来公知のリン系酸化防止剤(例えば、ホスファイト系酸化防止剤)を用いることができる。
具体的には、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(シクロヘキシルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン、6-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ〕-2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピンなどのモノホスファイト系化合物;4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(フェニル-ジ-アルキル(C12~C15)ホスファイト)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(ジフェニルモノアルキル(C12~C15)ホスファイト)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジ-トリデシルホスファイト-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(イソデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(ノニルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジメチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチルフェニルホスファイト)などのジホスファイト系化合物などが挙げられる。
【0039】
好ましく用いられる化合物[E]は、3価の有機リン化合物である。より具体的には、化合物[E]は、亜リン酸(P(OH)3)の3つの水素原子が、各々同一または異なる有機基で置換された構造を有する化合物である。
より具体的には、化合物[E]は、好ましくは、下記一般式(c1)、(c2)または(c3)で表される化合物である。
【0040】
【0041】
一般式(c1)、(c2)および(c3)中、
R1は、複数ある場合はそれぞれ独立に、アルキル基を表し、
R2は、複数ある場合はそれぞれ独立に、芳香族基を表し、
R3は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表し、
Xは、単結合または2価の連結基を表す。
【0042】
R1のアルキル基は、好ましくは炭素数1~10であり、より好ましくはt-ブチル基である。
R2の芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、これらがアルキル基等で置換された基などが挙げられる。
R3の炭素数は、好ましくは1~30、より好ましくは3~20、さらに好ましくは6~18である。
R3として好ましくはアリール基またはアラルキル基であり、より好ましくはアラルキル基である。これらアリール基またはアラルキル基は、さらに置換基(例えば、炭素数1~6のアルキル基やヒドロキシ基など)で置換されていてもよい。
Xが2価の連結基である場合、その具体例としては、アルキレン基(メチレン基など)やエーテル基(-O-)などが挙げられる。Xとして好ましくは単結合である。
また、市販品としては、Irgafos 168(BASF社製)、Sumilizer-GP、(住友化学社製)等が挙げられる。
【0043】
化合物[E]については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0044】
フェノール系化合物[F](以下、単に、化合物[F]、または、[F]とのみ表記することもある)については、例えば、2-t-6-(3-t-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,4-ジ-第3級アミル-6-(1-(3,5-ジ-第3アミル-2-ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレート等の特開昭63-179953号公報や特開平1-168643号公報に記載されるアクリレート系フェノール化合物;2,6-ジ-t-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-4-エチルフェノール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2'-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-フェノール)、4,4'-ブチリデン-ビス(6-t-m-クレゾール)、4,4'-チオビス(3-メチル-6-t-フェノール)、ビス(3-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メタン、3,9-ビス(2-(3-(3-t-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-フェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン-3-(3',5'-ジ-t-4'-ヒドロキシフェニルプロピオネート)メタン[すなわち、ペンタエリスリメチル-テトラキス(3-(3,5-ジ-t-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート)]、トリエチレングリコールビス(3-(3-t-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート)、トコフェノール等のアルキル置換フェノール系化合物;6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アニリノ)-2,4-ビスオクチルチオ-1,3,5-トリアジン、6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルアニリノ)-2,4-ビスオクチルチオ-1,3,5-トリアジン、6-(4-ヒドロキシ-3-メチル-5-t-アニリノ)-2,4-ビスオクチルチオ-1,3,5-トリアジン、2-オクチルチオ-4,6-ビス-(3,5-ジ-t-4-オキシアニリノ)-1,3,5-トリアジン等のトリアジン基含有フェノール系化合物;6-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ〕-2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピン等を用いることができる。
また、市販品としては、Irganox 1010,Irganox 1035,Irganox 1076,Irganox 1098,Irganox 1135,Irganox 1330,Irganox 1520L,Irganox 245,Irganox 259,Irganox 3144,Irganox 565(以上、BASF社製)、Sumilizer-GP、Sumilizer GS(F)(以上、住友化学社製)等が挙げられる。
【0045】
化合物[F]については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0046】
[環状オレフィン系共重合体組成物(Q)]
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)は成形体、特に医療用容器を形成するための環状オレフィン系共重合体組成物であって、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)と安定剤(B)を含み、必要に応じて、その他の成分を含んでもよい。
【0047】
また、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)中の環状オレフィン系共重合体(P)の含有量は、得られる成形体の透明性および、耐ガンマ線または耐電子線性能の性能バランスをより向上させる観点から、当該環状オレフィン系共重合体組成物(Q)の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは70質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以上100質量%以下であり、特に好ましくは90質量%以上100質量%以下である。
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)は、環状オレフィン系共重合体(P)を上記の比率で含むことにより、得られる医療用容器について、医療用容器に求められる良好な透明性を満足しながら、耐ガンマ線または耐電子線性能をより一層向上させることができる。
【0048】
示差走査熱量計(DSC)で測定される、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは0℃以上180℃以下である。得られる成形体および医療用容器の透明性を良好に保ちつつ、耐熱性をより向上させる観点から、好ましくは100℃以上180℃以下であり、より好ましくは110℃以上165℃以下である。
【0049】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)の極限粘度[η](135℃デカリン中)は、例えば0.05~6.0dl/gであり、好ましくは0.2~4.0dl/gであり、さらに好ましくは0.3~2.0dl/g、特に好ましくは0.3~1.0dl/gである。
極限粘度[η]が上記下限値以上であると、得られる成形体および医療用容器の機械的強度を向上させることができる。また、極限粘度[η]が上記上限値以下であると、成形性を向上させることができる。
【0050】
(その他の成分)
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)には、必要に応じて、酸化防止剤、金属不活性化剤、塩酸吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、天然油、合成油、ワックス、有機または無機の充填剤、環状オレフィン系共重合体(P)以外の樹脂等を本発明の目的を損なわない程度に配合することができ、その配合割合は適宜量である。
【0051】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)は、環状オレフィン系共重合体(P)、安定剤(B)およびその他の成分を、押出機およびバンバリーミキサー等の公知の混練装置を用いて溶融混練する方法;環状オレフィン系共重合体(P)、安定剤(B)およびその他の成分を共通の溶媒に溶解した後、溶媒を蒸発させる方法;貧溶媒中に環状オレフィン系共重合体(P)、安定剤(B)およびその他の成分の溶液を加えて析出させる方法;等の方法により得ることができる。
【0052】
[成形体]
次に、本発明に係る実施形態の成形体について説明する。
本実施形態に係る成形体は本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)を含んでいる。
本実施形態に係る成形体は本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)を含むため、透明性および、耐ガンマ線または耐電子線性能の性能バランスに優れている。この成形体は、電子線あるいはガンマ線照射による変色が少ない。
ここで、本発明者らの別の検討によれば、従来の成形体は、電子線あるいはガンマ線照射によってラジカルが発生する場合があることが明らかになった。これにより、成形体に内容物の充填後に内容物が変質するリスクがあることが懸念される。
これに対して、本実施形態に係る成形体は、電子線あるいはガンマ線照射によるラジカルの発生量を少なくすることができる。そのため、本実施形態に係る成形体によれば、内容物が変質するリスクを低減することが可能である。
【0053】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(P)または本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)を成形して成形体を得る方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。その用途および形状にもよるが、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等が適用可能である。これらの中でも、成形性、生産性の観点から射出成形法が好ましい。また、成形条件は使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば射出成形における樹脂温度は、通常150℃~400℃、好ましくは200℃~350℃、より好ましくは230℃~330℃の範囲で適宜選択される。
【0054】
また、上記で製造された成形体に、ガンマ線または電子線を照射することで、成形体のガンマ線または電子線照射物(ガンマ線または電子線が照射された医療用容器)を得ることができる。この成形体は、照射により、殺菌または滅菌がなされているため清潔であり、かつ、変色やラジカルの発生が抑えられている。照射線量は特に限定されないが、通常は5~100キログレイ(kGy)、好ましくは10~80キログレイである。
上記で製造された成形体に50キログレイのガンマ線を照射後のラジカル発生量は5.0×1012spins/mg以下であることが好ましい。
ガンマ線照射後のラジカル発生量は電子スピン共鳴法(Electron Spin Rssonance(ESR))により測定される。
50kGyの線量のガンマ線を照射した5日後の試験片を切り出し、それを試験管(詳細は以下)に入れて、以下条件でESRスペクトルを測定する。
・装置:日本電子製電子スピン共鳴装置 JES-TE200
・共振周波数:9.2GHz
・マイクロ波入力:0.1~2.0mW
・掃引範囲:30mT
・変調振幅:1mT
・標準試料:TEMPOL Free Rasical(東京化成工業製)
・測定温度:室温
・測定雰囲気:大気
上記条件下でラジカル量を測定し、既知濃度の標準試料(TEMPOL Free Rasical)のESRスペクトルから作成した検量線を用いて、試験片1mgあたりの有機ラジカル量(spins/mg)を求めることができる。
【0055】
本実施形態に係る医療用容器は本実施形態に係る成形体からなる。
医療用容器としては、例えば、注射器の注射筒外筒(以下、シリンジ)および薬液や薬剤を充填してなる注射筒(以下、プレフィルドシリンジとも呼ぶ。)に使用されるシリンジ、薬液や薬剤を充填してなる保存容器に使用される保存容器(以下、薬液保存容器とも呼ぶ。)等が挙げられる。
【0056】
ここで、プレフィルドシリンジとは、薬液や薬剤があらかじめ充填されているシリンジ形状の製剤であり、1種類の液が充填されたシングルチャンバータイプのものと、2種の薬剤が充填されたダブルチャンバータイプがある。ほとんどのプレフィルドシリンジはシングルチャンバータイプであるが、ダブルチャンバータイプについては、粉末とその溶解液からなる液・粉タイプの製剤と2種類の液からなる液・液タイプの製剤がある。シングルチャンバータイプの内溶液の例としては、ヘパリン溶液等が挙げられる。シリンジ及びプレフィルドシリンジに使用されるシリンジとして、例えば、プレフィラブル・シリンジ、ワクチン用プレフィルドシリンジ、抗がん剤用プレフィルドシリンジ、ニードルレス・シリンジ等が挙げられる。
【0057】
薬液保存容器としては、例えば、広口瓶、狭口瓶、薬ビン、バイアルビン、輸液ボトル、バルク容器、シャーレ、試験管、分析セル等を挙げることができる。より具体的には、アンプル、プレス・スルー・パッケージ、輸液用バッグ、点滴薬容器、点眼薬容器などの液体、粉体または固体の薬品容器;血液検査用のサンプリング用試験管、採血管、検体容器などのサンプル容器;紫外線検査セルなどの分析容器;メス、鉗子、ガーゼ、コンタクトレンズなどの医療器具の滅菌容器;ディスポーザブルシリンジ、プレフィルドシリンジなどの医療用具;ビーカー、バイアル、アンプル、試験管フラスコなどの実験器具;人工臓器のハウジング等が挙げられる。
【0058】
本実施形態に係る成形体は透明性が良好である。透明性は、内部ヘイズで評価される。
また、さらに光線透過率が良好であることが好ましい。光線透過率は用途に応じて分光光線透過率または全光線透過率により規定される。
【0059】
全光線、あるいは複数波長域での使用が想定される場合、全光線透過率が良いことが必要であり、反射防止膜を表面に設けていない状態での全光線透過率は85%以上、好ましくは88~93%である。全光線透過率が85%以上であれば必要な光量を確保することができる。全光線透過率の測定方法は公知の方法が適用でき、測定装置等も限定されないが、例えば、ASTM D1003に準拠して、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)を厚み3mmのシートに成形し、ヘイズメーターを用いて、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体組成物(Q)を成形して得られるシートの全光線透過率を測定する方法等が挙げられる。
【0060】
また、本実施形態に係る医療用容器は、450nm~800nmの波長の光の光線透過率に優れる。
なお、公知の反射防止膜を表面に設けることにより、光線透過率をさらに向上させることができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
<環状オレフィン系共重合体(P)の製造>
[製造例1]
攪拌装置を備えた容積500mlのガラス製反応容器に不活性ガスとして窒素を100Nl/hrの流量で30分間流通させた後、シクロヘキサンおよびベンゾノルボルナジエン(27.0mmol、以下、BNBDとも呼ぶ。)を加えた。次いで回転数600rpmで重合溶媒を攪拌しながら溶媒温度を50℃に昇温した。溶媒温度が所定の温度に達した後、流通ガスを窒素からエチレンに切り替え、エチレンを50Nl/hr、水素を0.5Nl/hrの供給速度で反応容器に流通させ、10分経過した後に、MMAO(Modified MethylAluminoxane)(1.25mmol)、特開2010-241932号公報の段落0112に記載の方法で調製した触媒(0.00050mmol)をガラス製反応容器に添加し、重合を開始させた。
10分間経過した後、イソブチルアルコールを5ml添加して重合を停止させ、エチレンおよびBNBDの共重合体を含む重合溶液を得た。その後、重合溶液を別に用意した容積2Lのビーカーに移液し、さらに濃塩酸5mlと攪拌子を加え、強攪拌下で2時間接触させ脱灰操作を行った。この重合溶液に対して体積で約3倍のアセトンを入れたビーカーに脱灰後の重合溶液を攪拌下加えて共重合体を析出させ、さらに析出した共重合体を濾過により濾液と分離した。得られた溶媒を含む重合体を130℃で10時間減圧乾燥を行ったところ、白色パウダー状のエチレン・ベンゾノルボルナジエン共重合体0.60gが得られた。
以上により、環状オレフィン系共重合体を得た。
得られた環状オレフィン系共重合体100質量部に対して、フェノール系安定剤[F]として、Irganox1010を0.01質量部を配合した。次いで、テクノベル株式会社の2軸押出機KZW12(スクリュー径12mmφ、L/D=45)を用い、設定温度270℃、樹脂押出量30g/minおよびスクリュー回転数200rpmの条件で造粒し、環状オレフィン系共重合体組成物(Q-1)を得た。
【0064】
[製造例2~9]
環状オレフィン系共重合体(P)を構成する各構成単位の含有量の値および安定剤の種類と配合量が表1に記載の値になるように調整した以外は、製造例1と同様に操作を行い、表1に記載の環状オレフィン系共重合体組成物(Q-2)~(Q-9)をそれぞれ得た。
ここで、表1におけるBNBDは下記式(1)で示されるベンゾノルボルナジエンを意味し、IndNBは下記式(2)で示されるインデンノルボルネンを意味する。
【0065】
【0066】
【0067】
得られた環状オレフィン共重合体組成物(Q-1)~(Q-9)の各種物性は下記の方法によって測定または評価し、得られた結果を表1に示した。
【0068】
[環状オレフィン系共重合体(P)を構成する各構成単位の含有量の測定方法]
エチレンおよび芳香環を有する環状オレフィンの含有量は、日本電子社製「ECA500型」核磁気共鳴装置を用い、下記条件で測定することにより行った。
溶媒:重テトラクロロエタン
サンプル濃度:50~100g/l-solvent
パルス繰り返し時間:5.5秒
積算回数:6000~16000回
測定温度:120℃
上記のような条件で測定した13C-NMRスペクトルにより、エチレンおよび芳香環を有する環状オレフィンの組成をそれぞれ定量した。
【0069】
[ガラス転移温度Tg(℃)]
島津サイエンス社製、DSC-6220を用いてN2(窒素)雰囲気下で環状オレフィン系共重合体組成物(Q)のガラス転移温度Tgを測定した。環状オレフィン系共重合体組成物(Q)を常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で-20℃まで降温した後に5分間保持した。そして10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際の吸熱曲線から環状オレフィン系共重合体組成物(Q)のガラス転移点(Tg)を求めた。
【0070】
[極限粘度[η]]
移動粘度計(離合社製、タイプVNR053U型)を用い、環状オレフィン系共重合体組成物(Q)の0.25~0.30gを25mlのデカリンに溶解させたものを試料とした。ASTM J1601に準じ135℃にて環状オレフィン系共重合体組成物(Q)の比粘度を測定し、これと濃度との比を濃度0に外挿して環状オレフィン系共重合体組成物(Q)の極限粘度[η]を求めた。
【0071】
<成形体の製造方法>
[プレス成形]
上記製造例1~9で得られたペレットを、東洋精機社製のハンドプレス機を用いて、250℃の条件でプレス成形し、厚み2mmの角板試験片を作製した。
得られた環状オレフィン共重合体組成物を含む成形体の各種物性は下記の方法によって測定または評価し、得られた結果を表2に示した。
【0072】
[ガンマ線照射]
上記で得られた厚み2mm角板試験片に、ガンマ線50kGyを照射した。
【0073】
[透明性]
得られた厚み2mmの角板試験片と、ガンマ線照射5日後の試験片の内部ヘイズを測定し、以下の基準で透明性をそれぞれ評価した。
内部ヘイズは、ヘイズ計(日本電色工業社製NDH-20D)を用い、ベンジルアルコール中でそれぞれ測定した。
〇:内部ヘイズが5.0%未満
×:目視で試験片が白濁しているもの、または内部ヘイズが5.0%以上
【0074】
[評価:ガンマ線照射直後の色相]
ガンマ線照射直後の試験片を、20mmの厚みで白色紙上に積み上げた。このときの色相および明度を目視評価した。
色相はマンセル表色系に準じた。評価の基準は以下のとおりとした。
○(良い):明度が7~9.5で、かつ、色相が5.0GY~10GYの間である。
△(普通):明度が5~9.5で、かつ、色相が5Y~5GYの間である。ただし、上記の○(良好)に該当する場合を除く。
×(悪い):明度が0以上5未満である、かつ/または、色相が2.5Y~5Yの間である。ただし、上記の△(普通)に該当する場合を除く。
【0075】
上記の評価基準について補足しておく。
明度については、その値が大きいほうが、白色に近く、変色が抑えられていることが明らかである。
色相については、特に医療容器として用いることを考慮した場合、黄色は患者に不潔な印象を与えるとして敬遠されることから、黄色より緑色のほうが好ましいとした。
【0076】
[評価:ガンマ線照射5日後および1カ月後のラジカル量]
ガンマ線照射5日後および1カ月後の試料のラジカル量は、電子スピン共鳴法(Electron Spin Rssonance(ESR))により測定した。
具体的には、50kGyの線量のガンマ線を照射した5日後および1カ月後の試験片を切り出し、それを試験管(詳細は以下)に入れて、以下条件でESRスペクトルを測定した。
【0077】
・装置:日本電子製電子スピン共鳴装置 JES-TE200
・共振周波数:9.2GHz
・マイクロ波入力:0.1~2.0mW
・掃引範囲:30mT
・変調振幅:1mT
・標準試料:TEMPOL Free Rasical(東京化成工業製)
・測定温度:室温
・測定雰囲気:大気
上記条件下でラジカル量を測定し、既知濃度の標準試料(TEMPOL Free Rasical)のESRスペクトルから作成した検量線を用いて、試験片1mgあたりの有機ラジカル量(spins/mg)を求めた。
【0078】
【0079】
【0080】
以上のように、実施例1~7で得られた環状オレフィン系共重合体組成物(Q)により構成された成形体(シート)は透明性および、耐ガンマ線性能の性能バランスに優れていた。一方、芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構成単位(C)を含まない環状オレフィン系共重合体を用いた比較例1は透明性および耐ガンマ線性能の性能バランスに劣っていた。また、安定剤の含有量が環状オレフィン系共重合体100質量部に対して0.4質量部である比較例2は透明性および耐ガンマ線性能の性能バランスに劣っていた。