(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】主桁とコンクリート床版の合成化構造、及び主桁とコンクリート床版の再合成化方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20230710BHJP
E01D 24/00 20060101ALI20230710BHJP
E01D 21/00 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D24/00
E01D21/00 B
(21)【出願番号】P 2019143564
(22)【出願日】2019-08-05
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丈達 康太
(72)【発明者】
【氏名】大場 誠道
(72)【発明者】
【氏名】白水 晃生
(72)【発明者】
【氏名】安藤 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤尾 浩太
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-292404(JP,A)
【文献】特開2007-169886(JP,A)
【文献】特開2018-091062(JP,A)
【文献】特開2017-218885(JP,A)
【文献】特開平05-033314(JP,A)
【文献】特開2016-121458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁における分離された状態のコンクリート床版と鋼製の主桁とを合成させるための合成化構造であって、
前記主桁と前記コンクリート床版との間に生じた隙間に配置された空間保持材と、
前記コンクリート床版に設けられ、垂下状に配置されるあと施工アンカーと、
前記主桁
における上フランジの下面に垂下状に
固着される締結材と、
該締結材及び前記あと施工アンカーを介して、分離された前記主桁と前記コンクリート床版とを結合
し一体化する合成治具と、を備え、
前記合成治具は、
前記あと施工アンカーを介して前記コンクリート床版に設置される床版当接板と、
前記締結材を介して前記主桁
における上フランジの下面に設置される主桁当接板と、
該主桁当接板と前記床版当接板とを連結する連結部と、を有するとともに、
少なくとも該合成治具、前記あと施工アンカー及び前記締結材はそれぞれ、前記主桁のウェブを挟んで両側に配置されることを特徴とする主桁とコンクリート床版の合成化構造。
【請求項2】
請求項1に記載の主桁とコンクリート床版の合成化構造において、
前記隙間には、充填材が充填されていることを特徴とする主桁とコンクリート床版の合成化構造。
【請求項3】
橋梁のコンクリート床版における鋼製の主桁との接合部を切断することにより前記主桁から分離された前記コンクリート床版を、前記主桁に
一体化し合成させる、主桁とコンクリート床版の再合成化方法であって、
切断により前記接合部に生じた隙間に、前記空間保持材を設ける工程と、
前記コンクリート床版にあと施工アンカーを設ける工程と、
前記主桁に
おける上フランジの下面に締結材を
垂下状に固着する工程と、
分離された前記コンクリート床版と前記主桁とを、前記あと施工アンカー及び前記締結材を介して合成治具により結合
し一体化する工程と、
を備えることを特徴とする主桁とコンクリート床版の再合成化方法。
【請求項4】
請求項3に記載の主桁とコンクリート床版の再合成化方法において、
前記隙間をシーリング材で囲繞したのち、該隙間を充填材で充填する工程を備えることを特徴とする主桁とコンクリート床版の再合成化方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の主桁とコンクリート床版の再合成化方法において、
前記主桁に前記締結材を設ける工程を、前記接合部を切断する前に実施することを特徴とする主桁とコンクリート床版の再合成化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート床版と鋼製の主桁とが一体化した合成構造の橋梁において、接合部を切断することにより主桁から分離されたコンクリート床版を、主桁に再合成させるための、主桁とコンクリート床版の合成化構造、及び主桁とコンクリート床版の再合成化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁の主桁上に設置されたコンクリート造の既設床版を新設床版に取替える更新工事を行うには、まず、既設床版と主桁との分離作業を行うとともに、既設床版を搬送車両に積載可能な形状に切断したうえで、既設床版を撤去する。次に、既設床版が接合されていた主桁の上面に残ったコンクリートかすやアンカー筋、サビ等を除去する下地処理を行う。これらの作業が終了した後、下地処理した主桁の上面に新設床版を設置する作業を行う。
【0003】
上記の作業はいずれも、一般車両の通行止めや種々の通行規制等の工事交通規制を行ったうえで実施する必要があり、なかでも、既設床版と主桁を分離し撤去する作業は、既設床版が主桁の上面に設けられたスタッドジベルとモルタルを介して強固に接合されていることから、特に手間と時間を要する。
【0004】
ところが、都市部等の重交通路や長大トンネルに挟まれた山間部等では、長期間にわたって一般車両の通行止めや種々の通行規制等の工事交通規制を実施すると、周辺地域の交通環境に悪影響を及ぼしかねない。このため、これらの作業に係る労力を低減して工事交通規制を実施する期間を短期化し、迅速に更新工事を実施できる方法が望まれている。
【0005】
このような中、例えば特許文献1には、コンクリート床版を主桁に固定する治具を用いたコンクリート床版の撤去方法が開示されている。具体的には、主桁の上面近傍に位置するコンクリート床版のハンチ部に対して、橋軸直交方向に貫通する孔を橋軸方向に間隔を設けて複数設けたのち、この孔を利用してハンチ部のコンクリートに、スタッドジベルの切断に用いる工具を挿入可能な幅を有する亀裂を、主桁の上面に沿わせて発生させる。次に、亀裂が生じた状態のコンクリート床版と主桁とを治具を用いて固定したうえで、亀裂を利用してスタッドジベルの切断作業を行う。
【0006】
これらハンチ部に孔を設ける工程からスタッドジベルを切断する工程までを、道路の通行止めを行わずに実施し、こののちに道路の通行止めを行って、治具を撤去するとともに既設床版をクレーン等により吊り上げて亀裂を境界として既設床版と主桁とを分離し、分離した既設床版を細分化して搬出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法によれば、コンクリート床版と主桁を分離し撤去する作業時に必要となる一般車両の通行止め期間を短縮することができる。しかし、ハンチ部のコンクリートに発生させる亀裂について、主桁の上面に沿って発生するよう制御する方法や、スタッドジベルの切断に用いる工具を挿入可能であって車両の走行に支障のない範囲の幅を持たせる方法等が、具体的に開示されておらず、実施するには課題が多い。
【0009】
また、ハンチ部のコンクリートに発生させた亀裂を利用してスタッドジベルを切断する工程では、治具を用いてコンクリート床版を主桁に固定しているが、治具が設置された状態で工具を用いてハンチ部内方に配置されているスタッドジベルを切断する作業は煩雑であり、作業期間の長期化を招きかねない。
【0010】
さらに、既設床版と主桁とを固定する治具は、主桁のウェブに貫通孔を設け、この貫通孔を利用してボルトにより主桁に締結しているが、一般に主桁のウェブに貫通孔を設ける場合には、ウェブに対して補強部材を設ける必要が生じる。したがって、治具を設置するためだけに主桁のウェブに貫通孔を設けることは、不経済であり多大な手間を要することから、必ずしも好適な方法とはいえない。
【0011】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、コンクリート床版を主桁から切断分離し撤去する作業の効率化を図るとともに、コンクリート床版を主桁から切断分離したのち撤去するまでの間に橋梁上で交通解放期間を確保することの可能な、主桁とコンクリート床版の合成化構造および主桁とコンクリート床版の再合成化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、本発明の主桁とコンクリート床版の合成化構造は、橋梁における分離された状態のコンクリート床版と鋼製の主桁とを合成させるための合成化構造であって、前記主桁と前記コンクリート床版との間に生じた隙間に配置された空間保持材と、前記コンクリート床版に設けられ、垂下状に配置されるあと施工アンカーと、前記主桁における上フランジの下面に垂下状に固着される締結材と、該締結材及び前記あと施工アンカーを介して、分離された前記主桁と前記コンクリート床版とを結合し一体化する合成治具と、を備え、前記合成治具は、前記あと施工アンカーを介して前記コンクリート床版に設置される床版当接板と、前記締結材を介して前記主桁における上フランジの下面に設置される主桁当接板と、該主桁当接板と前記床版当接板とを連結する連結部と、を有するとともに、少なくとも該合成治具、前記あと施工アンカー及び前記締結材はそれぞれ、前記主桁のウェブを挟んで両側に配置されることを特徴とする。
【0013】
本発明の主桁とコンクリート床版の合成化構造によれば、コンクリート床版上に設けられる道路の路面に、主桁から分離される前後で略同一の路面高さを維持するよう、主桁とコンクリート床版との間に生じた隙間に空間保持材を配置したうえで、主桁にコンクリート床版を結合させる合成治具を、締結材とあと施工アンカーを用いて主桁のウェブを挟んで両側に設置する。すると、コンクリート床版上に設けられる道路上を車両が通行した際に生じる橋軸方向のせん断力は、主桁に設けた締結材により負担され、また、コンクリート床版に橋軸直交方向の移動や鉛直方向の回転等を生じさせるような外力が作用した際には、これらの外力に対して空間保持材と合成治具が抵抗する。さらに、コンクリート床版の鉛直力は空間保持材を介して主桁に作用されて支持される。
【0014】
これにより、コンクリート床版と主桁が、分離された範囲において合成化構造を橋軸方向に所定の間隔で複数形成することにより、コンクリート床版を鋼製の主桁に再合成させることができ、橋梁を合成桁橋として機能させることが可能となる。したがって、接合部の切断により主桁上面に設けられたスタッドジベルとスタッドジベルを埋設するコンクリートが主桁から切断された状態にあっても、コンクリート床版の撤去に係る作業を開始するまでの間に、コンクリート床版上で一般車両の交通解放期間を確保することが可能となる。
【0015】
また、本発明の主桁とコンクリート床版の合成化構造は、前記隙間には、充填材が充填されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の主桁とコンクリート床版の合成化構造によれば、コンクリート床版から主桁に作用する鉛直力を、空間保持材と充填材が分担して主桁全体に作用させるため、コンクリート床版をより安定して支持することが可能となる。
【0018】
本発明の主桁とコンクリート床版の合成化構造によれば、主桁とコンクリート床版とを切断分離する作業と同時に、合成化構造を形成しつつ主桁を補強することができるため、コンクリート床版の更新工事に伴って既存の主桁では耐荷力不足となるような荷重の設計変更が生じた際にも、これに対応することが可能となる。
【0019】
本発明の主桁とコンクリート床版の再合成化方法は、橋梁のコンクリート床版における鋼製の主桁との接合部を切断することにより前記主桁から分離された前記コンクリート床版を、前記主桁に一体化し合成させる、主桁とコンクリート床版の再合成化方法であって、切断により前記接合部に生じた隙間に、前記空間保持材を設ける工程と、前記コンクリート床版にあと施工アンカーを設ける工程と、前記主桁における上フランジの下面に締結材を垂下状に固着する工程と、分離された前記コンクリート床版と前記主桁とを、前記あと施工アンカー及び前記締結材を介して合成治具により結合し一体化する工程と、を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の主桁とコンクリート床版の再合成化方法によれば、切断作業になんら制約を生させることなく接合部を切断する作業を実施しながら、その後方で切断分離されたコンクリート床版と主桁との間に合成化構造を形成することができる。そして、主桁に再合成されたコンクリート床版の撤去に係る作業は、合成治具を取り外すのみの容易かつ簡略な作業で、迅速に開始することができる。したがって、コンクリート床版を主桁から切断分離し撤去する作業の効率化を図ることが可能となる。
【0021】
また、本発明の主桁とコンクリート床版の再合成化方法は、前記隙間をシーリング材で囲繞したのち、該隙間を充填材で充填する工程を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明の主桁とコンクリート床版の再合成化方法によれば、主桁とコンクリート床版との間に生じた隙間を充填材で充填するから、充填材に、圧縮に強く引張に弱いモルタル等の材料を採用すれば、コンクリート床版を安定して主桁に支持させる一方で、合成治具を取り外せば、コンクリート床版に揚重等の上方に向かう外力を作用させることにより、主桁から容易に引きはがし、撤去することが可能となる。
【0023】
本発明の主桁とコンクリート床版の再合成化方法は、前記主桁に前記締結材を設ける工程を、前記接合部を切断する前に実施することを特徴とする。
【0024】
本発明の主桁とコンクリート床版の再合成化方法によれば、橋梁上で工事交通規制を設け、工事交通規制時間帯内に、接合部の切断作業から分離したコンクリート床版と主桁との間に合成化構造を形成する作業を行う場合において、接合部を切断する前に主桁に締結材を設ける工程を済ませることにより、工事交通規制時間帯に実施する作業工程数を減らすことができる、したがって、夜間に橋梁の交通規制時間帯が設定される等、作業時間に制約がある場合にも、コンクリート床版を主桁から切断する作業から分離したコンクリート床版と主桁との間に合成化構造を形成する作業を実施することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、接合部を切断する作業を実施しながら、その後方で分離したコンクリート床版と主桁の合成化構造を形成できることから、コンクリート床版を主桁から切断分離したのち撤去するまでの間に、橋梁上で交通解放期間を確保することが可能になるとともに、主桁に再合成されたコンクリート床版は、合成治具を取り外すのみで容易かつ迅速に主桁から分離できるため、主桁とコンクリート床版の切断分離作業に係る作業効率の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施の形態における接合部を切断することにより主桁からコンクリート床版を分離する作業及びコンクリート床版を撤去する作業の概略を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における主桁から分離されたコンクリート床版を主桁に再合成した状態を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における主桁とコンクリート床版の合成化構造を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態における主桁とコンクリート床版の再合成化方法を示す図である(その1)。
【
図5】本発明の実施の形態における主桁とコンクリート床版の再合成化方法を示す図である(その2)。
【
図6】本発明の実施の形態における主桁とコンクリート床版の再合成化方法を示す図である(その3)。
【
図7】本発明の実施の形態における接合部を切断する作業と主桁から分離されたコンクリート床版と主桁とを再合成させる作業を、橋梁上で工事交通規制を設定しながら実施する場合の手順を示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態における合成治具の他の事例を示す図である。
【
図9】本発明の実施の形態における主桁のウェブに設ける補強材を示す図である。
【
図10】本発明の実施の形態における主桁に補強材と合成治具を設ける場合の事例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1(a)(b)で示すように、橋梁200は、I型鋼よりなる鋼製の主桁201と、主桁201上に設置されたコンクリート床版202と、橋軸直交方向に隣り合う主桁201間に、橋軸方向に間隔を有して配置された複数の対傾構203を有している。また、コンクリート床版202の下面には、主桁201との接合部となるハンチ部204が形成されている。なお、橋梁200の主桁201は、鋼製であればI型鋼よりなるものでなくてもよく、ロ型の箱形状であってもよい。
【0028】
このようなコンクリート床版202と鋼製の主桁201が一体となった合成構造の橋梁200において、床版取り替え工事を実施するための大まかな手順としては、まず、
図1(a)(b)で示すように、コンクリート床版202と主桁201との接合部をなすハンチ部204を、主桁201の上面に沿って橋軸と略平行な切断面204aを形成するように水平切断する。
【0029】
次に、
図1(c)で示すように、主桁201から切断分離したコンクリート床版202を、搬送車両に積載可能な大きさとなるよう、橋軸方向及び橋軸直交方向沿ってに略鉛直方向に切断し複数の床版片205を形成する。こうして形成された床版片205を適宜の手段にて撤去したのち、撤去後の主桁201上面に必要な下地処理を施したうえで、主桁201に新設床版を設置する。
【0030】
上記の手順において、ハンチ部204を切断する作業、及び主桁201から切断分離されたコンクリート床版202を切断して複数の床版片205を形成する作業、さらには、複数の床版片205を撤去する作業は、いずれも煩雑であり多大な作業期間を要する。そして、これらの作業期間中は、橋梁200上で一般車両を供用させることができないため、上記の作業を連続して実施すると、一般車両の通行止めや通行規制等の工事規制期間が長期に及ぶこととなる。
【0031】
そこで、本実施の形態では、ハンチ部204の切断作業と並行して、
図2で示すように、切断分離されたコンクリート床版202と鋼製の主桁201との間に合成化構造100を形成して一体化し、両者の再合成化を図ることとする。これにより、ハンチ部204の切断作業が終了したのち、コンクリート床版202を撤去するべく複数の床版片205を形成する作業を開始するまでの間に、コンクリート床版202と主桁201とが再合成された橋梁200上で、一般車両を供用する交通解放時間帯を設けることを可能にするものである。
【0032】
以下に、切断分離されたコンクリート床版202と主桁201とを再合成させる方法について説明するが、これに先立って、再合成化方法により形成される合成化構造100について、その詳細を説明する。
【0033】
≪主桁とコンクリート床版の合成化構造≫
図3(a)で示すように、合成化構造100は、コンクリート床版202のハンチ部204であって切断面204aに設けられたあと施工アンカー2と、主桁201に設けられた締結材3と、切断によりハンチ部204に形成された隙間に打ち込まれた空間保持材4と、この隙間に充填された充填材5と、合成治具1とを備える。そして、空間保持材4、合成治具1、あと施工アンカー2及び締結材3はそれぞれ、橋軸直交方向からみて主桁201のウェブ201bを挟んで両側に配置されている。
【0034】
合成治具1は、
図3(a)で示すように、切断分離されたコンクリート床版202と主桁201とを結合するように配置される部材であり、その形状は、橋軸方向からみてコンクリート床版202のハンチ部204であって切断面204aに当接される床版当接板11と、主桁201の上フランジ201aであって下面に当接される主桁当接板12と、主桁201の上フランジ201aであって側面に当接され、床版当接板11と主桁当接板12とを連結する連結部13とを有する。
【0035】
また、床版当接板11の下面側には、
図3(b)で示すように、主桁当接板12及び連結部13の両者に直交する補強リブ14が複数設置されている。そして、床版当接板11には、あと施工アンカー2が貫通する貫通孔111が設けられ、主桁当接板12には、締結材3が貫通する貫通孔121が設けられている。
【0036】
あと施工アンカー2は、
図3(a)で示すように、ハンチ部204の切断面204aから垂下状態で設けられており、その種類は、金属アンカーや接着系アンカーを採用してもよい。
【0037】
締結材3は、主桁201の上フランジ201aの下面から垂下状態で溶接固着されており、例えばスタッドボルト等、ナット(ワッシャーを含む)6を螺合可能な雄ネジ部を備えていればいずれを採用してもよい。
【0038】
空間保持材4は、切断によりハンチ部204に形成された隙間に配置されるものである。その形状は、クサビ形状や矩形形状等いずれを採用してもよく、その材料も、切断によりハンチ部204に形成された隙間に打ち込まれた際に、コンクリート床版202の荷重により変形することがなければいずれを採用してもよい。また、その配置位置は、隙間の形状や幅に応じて、橋軸直交方向からみて主桁201のウェブ201bを挟んで両側に配置してもよいし、片側にのみ配置してもよい。
【0039】
充填材5は、
図6で示すように、空間保持材4により高さ方向の間隔が保持された状態のハンチ部204に形成された隙間の外側部を、シーリング材8を用いてシーリングして漏れを防止した状態で、充填されている。充填材5としては、圧縮に強く引張に弱く、また、乾燥による収縮量が小さい材料が好適であり、本実施の形態では、充填材5にモルタルを採用している。
【0040】
上記の構成を有する合成治具1は、ハンチ部204に生じた隙間に空間保持材4を配置するとともに充填材5を充填した状態で、床版当接板11があと施工アンカー2を介してハンチ部204の切断面204aに当接するようにして固定されるとともに、主桁当接板12が締結材3を介して主桁201の上フランジ201aの下面に当接するようにして固定されている。
【0041】
これにより、合成化構造100は、
図2で示すように、コンクリート床版202上に形成された道路を車両が通行した際に生じる橋軸方向のせん断力を、主桁201の上フランジ201aに設けられた締結材3により負担する。また、コンクリート床版202に橋軸直交方向の移動や鉛直方向の回転を生じさせるような外力作用した際には、ハンチ部204を強固に固定する空間保持材4と対をなす合成治具1で抵抗する。このとき、合成治具1に作用する作用力は、補強リブ14で抵抗する。
【0042】
また、コンクリート床版202上に設けられる道路の路面高さは、空間保持材4によりハンチ部204を切断する前の路面高さに維持され、コンクリート床版202や道路の路面上を走行する車両等から作用される鉛直力は、空間保持材4とともに充填材5を介して主桁201全体に分散して作用され、コンクリート床版202は安定して支持される。
【0043】
このように、切断によりハンチ部204が上半と下半に切断され、主桁201とコンクリート床版202とが切断分離された状態にあっても、これらを一体化する機能を合成化構造100が有する。したがって、
図2で示すように、ハンチ部204が切断された範囲において合成化構造100を、橋軸方向に所定の間隔で複数形成することにより、切断分離されたコンクリート床版202は主桁201とに再合成され、橋梁200を合成桁橋として機能させることが可能となる。
【0044】
なお、合成化構造100は、橋軸方向からみて主桁201のウェブ201bを挟んで両側に各々配置するが、相互に対向する位置に設けてもよいし、例えば、平面視で千鳥配置となるように位置をずらして配置するなど、その設置位置は橋梁200の構造条件や施工状況等に応じて適宜設定すればよい。
【0045】
≪主桁とコンクリート床版の再合成化方法≫
次に、切断分離されたコンクリート床版202を主桁201に再合成させるための主桁201とコンクリート床版202の再合成化方法を、以下に説明する。
【0046】
本実施の形態では、
図1(b)で示すように、橋梁200の橋軸方向に隣り合う対傾構203で区切られた区画Aごとで、ハンチ部204を切断しコンクリート床版202を主桁201から分離する切断分離作業と、分離されたコンクリート床版202と主桁201との再合成化に係る作業を実施する場合を事例に挙げる。
【0047】
<締結材を設ける工程>
まず、
図4(a)(b)で示すように、切断分離作業を実施する前の区画Aにおいて、あらかじめ主桁201の上フランジ201aに、締結材3を溶接固着する。締結材3は、橋軸方向における合成化構造100を形成する予定位置各々に溶接固着しておく。
【0048】
<ハンチ部を切断し空間保持材4を打ち込む工程及びあと施工アンカーを設置する工程>
次に、
図5(a)で示すように、ハンチ部204を主桁201の上面に沿って橋軸方向に切断し、主桁201とコンクリート床版202とを分離する。なお、ハンチ部204には、主桁201の上面に設けられているスタッドジベル201cがコンクリートに埋設された状態で配置されているから、このスタッドジベル201cも同時に切断する。
【0049】
したがって、ハンチ部204の切断は、ハンチ部204を構成するコンクリートとスタッドジベル201cを併せて切断できる切断工具であればいずれを採用してもよいが、本実施の形態では、ワイヤーソー(図示せず)を用いて、橋軸方向に向けて順次切断する。
【0050】
ハンチ部204による切断作業の後方側では、
図5(b)で示すように、主桁201の上フランジ201aから張り出すようにして残置されたハンチ部204の切断片206をはつり取る。こののち、
図5(c)で示すように、切断によりハンチ部204に生じた隙間に一対の空間保持材4を打ち込むとともに、
図5(d)で示すように、ハンチ部204の切断面204aに、あと施工アンカー2を打設する。
【0051】
なお、上記の切断片206をはつり取る作業から空間保持材4を打ち込むとともにあと施工アンカー2を打設する作業は、必ずしも切断作業の後方側で切断作業と並行して実施しなくてもよく、
図5(a)で示す区画Aにおけるワイヤーソーによる切断作業が終了したのちに、実施してもよい。
【0052】
<コンクリート床版と主桁とを合成治具により結合する工程>
こののち、
図3(a)で示すように、あと施工アンカー2及び締結材3及びナット(ワッシャーを含む)6を用いて合成治具1を設置し、切断分離されたコンクリート床版202と主桁201とを結合する。
【0053】
これにより、橋軸直交方向からみて主桁201のウェブ201bを挟んで配置される合成治具1は、ハンチ部204を挟持するように配置され、こうして形成された合成化構造100は、
図6で示すように、区画Aにおいて間隔を有して複数の配置される。このとき、
図3(a)で示すように、締結材3及びナット(ワッシャーを含む)6による締結構造は、摩擦接合を用いれば、片効きすることもなくまた、ズレが生じることもない。
【0054】
<ハンチ部に生じた隙間に充填材を充填する工程>
また、合成治具1の設置作業と併せて、もしくはこれと前後して、空間保持材4が打ち込まれているハンチ部204の隙間外側部に、
図6で示すように、シーリング材8を取り付け、隙間を囲繞したうえで充填材を充填する。このような充填材の充填工程は、空間保持材4を配置した後であればいずれでもよく、あと施工アンカー2の設置前に実施してもよい。なお、空間保持材4のみで、コンクリート床版202の荷重を支持できる場合には、必ずしも充填材5は採用しなくてもよい。
【0055】
上記のとおり、合成化構造100はハンチ部204を切断する作業を実施しながら、その後方で切断分離された主桁201とコンクリート床版202との間に合成化構造100を形成することができ、切断作業になんら制約が生じることがないだけでなく、合成化構造100を形成する作業に特殊な工具を必要とするような工程も存在しない。
【0056】
また、合成治具1が、あと施工アンカー2及び締結材3とナット(ワッシャーを含む)6により固定されているため、コンクリート床版202の撤去に係る作業を開始する際には、ナット(ワッシャーを含む)6を撤去し、合成治具1を取り外すのみの作業で、容易かつ迅速に再合成されたコンクリート床版202を主桁201から分離できる。
【0057】
さらに、前述したように、切断により生じた隙間に充填した充填材5に引張に弱いモルタルを採用することで、合成治具1を取り外して主桁201より分離したコンクリート床版202は、コンクリート床版202に揚重等の上方に向かう外力を作用させることにより、主桁201から容易に引きはがし、撤去することができる。このように、コンクリート床版202を主桁201から切断分離し撤去する作業の効率化を図ることが可能となる。
【0058】
なお、締結材3を設ける構成は、上記のように、ハンチ部204を切断する前にあらかじめ済ませておいてもよいし、ハンチ部204を切断した後に実施してもよい。
【0059】
上記の主桁201とコンクリート床版202の再合成化方法は、橋梁200において、ハンチ部204の切断作業を行っても、コンクリート床版202に設けられている道路上を一般車両が安全に走行できることが確認できる場合、及び走行荷重制限を行うことにより一般車両の走行が可能であることが確認できる場合には、ハンチ部204の切断作業から合成化構造100を形成する作業の全てを、橋梁200上を交通解放したまま実施する。
【0060】
一方、道路の走行帯規制を行うことにより、ハンチ部204の切断作業を実施可能であることが確認された場合には、橋梁200の道路上で一般車両の通行止めや種々の通行規制等を実施する工事交通規制時間帯を設定し、この工事交通規制時間帯を利用して工事を実施する。
【0061】
≪工事交通規制時間帯を設けて、再合成化方法を実施する場合≫
具体的には、
図7(a)で示すように、例えば、主桁201が橋軸直交方向に4体並列に配置されている場合において、切断分離作業を行う予定の最左部に位置する主桁201に対して、あらかじめ締結材3の溶接固着作業を行う。
【0062】
次に、
図7(b)で示すように、最左部に位置する主桁201の切断作業に影響のある範囲について、橋梁200上で車線規制を実施し、上記の再合成化方法の手順に従って、ハンチ部204の切断作業を行いつつ、分離されたコンクリート床版202と主桁201との間に合成化構造100を形成する作業を実施する。
【0063】
そして、
図7(c)で示すように、車線規制を解除して交通解放を実施し、合成化構造100によりコンクリート床版202と主桁201とが再合成された橋梁200上で、一般車両を全面供用する。この間に、切断分離作業を行う予定の左から2番目に位置する主桁201において、締結材3の溶接固着作業を行う。
【0064】
次に、再度橋梁200の車線規制を実施して、締結材3の溶接固着した上記の左から2番目に位置する主桁201において、ハンチ部204の切断作業を行いつつ、主桁201とコンクリート床版202とを再合成させる作業を実施する。このような作業を繰り返して実施し、橋梁200における4体の主桁201すべてについて、分離されたコンクリート床版202との合成化構造100を形成する。
【0065】
こののち、橋梁200の車線規制を実施して、合成化構造100の合成治具1を取り外してコンクリート床版202と4体の主桁201すべてとを分離する。以降、適宜の方法を用いて、分離したコンクリート床版202が搬送車両に積載可能な大きさとなるよう、橋軸方向及び橋軸直交方向沿ってに略鉛直方向に切断して床版片205を形成する作業、さらには、複数の床版片205を撤去する作業を実施し、撤去後の主桁201上に新設床版を設置する。
【0066】
なお、本実施の形態における主桁201とコンクリート床版202の再合成化方法は、上記のような、コンクリート床版202の全断面(横断面全面)を取り替える方法だけでなく、半断面を取り替える半断面床版取り替え工法にも適用可能である。
【0067】
半断面床版取替え工法は、例えば、
図7(a)で示すような、上りもしくは下り2車線用の橋梁200において車線規制を行い、コンクリート床版202における走行車線側と追い越し車線側のいずれか一方の半断面分を新設床版に取替え、これと前後して、他方側の半断面分も同様に新設床版に取替える方法である。
【0068】
このように、ハンチ部204を切断しコンクリート床版202と主桁201とを分離する作業と、コンクリート床版202を撤去するべく複数の床版片205を形成する作業との間に、コンクリート床版202と主桁201とが再合成された橋梁200の道路上で、一般車両を供用する期間を設けることが可能になる。したがって、橋梁200の道路上における一定時間の交通解放と工事交通規制を繰り返しながら、コンクリート床版202の切断撤去作業を実施することが可能となる。
【0069】
また、主桁201とコンクリート床版202の再合成化方法は、全ての工程をコンクリート床版202の下方側で実施できることから、コンクリート床版202上に形成される道路上に、施工機器等を設置する必要がない。このため、道路上では工事交通規制時間帯時に、カラーコーン(登録商標)や矢印板等の保安施設を設置する等の簡略な作業を実施するのみである。
【0070】
したがって、上記のような工事交通規制時間帯を夜間に設定することは容易であり、これにより、昼間の交通解放を実現することができ、既設床版取替え工法を実施しようとする橋梁200が都市部等の重交通路上や長大トンネルに挟まれた山間部等にある場合にも、周辺地域の交通環境への影響を最小限に抑えつつ施工を実施することが可能となる。
【0071】
本発明の主桁201とコンクリート床版202の合成化構造100、及び主桁201とコンクリート床版202の再合成化方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0072】
<第2の実施の形態>
本実施の形態では、合成化構造100を構成する合成治具1を、複数の鋼板を加工することにより製作したが、必ずしもこれに限定するものではなく、床版当接板11、主桁当接板12及び連結部13を備える形状であれば、いずれの材料を用いて、またいずれの手段にて製作したものであってもよい。
【0073】
例えば、
図8では、形鋼を用いて合成治具1を製作している。具体的には、
図8(a)(b)(c)で示すように、所望の長さに切断した2個のアングル材を、フランジに高低差を設けた状態でウェブどうしを背中合わせに当接し溶接接合している。
【0074】
これにより、橋軸方向からみてコンクリート床版202のハンチ部204であって切断面204aに当接される床版当接板11と、主桁201の上フランジ201aであって下面に当接される主桁当接板12と、床版当接板11と主桁当接板12とを連結する連結部13が形成されている。なお、本実施の形態では、溶接接合にスタッド溶接を採用し、合成治具1に外力が作用した際に両者が分離することがない程度に摩擦接合により強固に固着している。
【0075】
<第3の実施の形態>
また、本実施の形態では、合成化構造100を形成するに際し、締結材3を主桁201の上フランジ201aにおける下面に設けたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、上フランジ201aと平行な部分であれば、いずれに設けてもよい。
【0076】
例えば、既設の橋梁200は、現行の設計基準を満足していない場合が散見され、このような場合には、
図9(a)で示すように、主桁201に対して補強材7を設置する。そこで、主桁201のウェブ201bに対して補強材7を設置し、この補強材7を利用して、
図10(a)で示すように、締結材3を設けるとともに合成治具1を設置することにより、ウェブ201bを補強した主桁201とコンクリート床版202とに合成化構造100を形成してもよい。
【0077】
補強材7は、
図9(a)で示すように、主桁201のウェブ201b両面各々に設置される一対の補強材本体71と、補強材本体71をウェブ201bに接合する高力ボルト等の締結具72により構成されている。補強材本体71は、断面をT字形状に加工された鋼材よりなり、頭部711をウェブ201bに当接させ脚部712を上フランジ201aと平行には張り出すようにして主桁201に配置されている。
【0078】
そして、補強材本体71の頭部711及び主桁201のウェブ201bには、それそれぞれ締結具72が貫通する孔(図示せず)が設けられている。また、補強材本体71には、
図9(b)で示すように、脚部712の下面側と頭部711との間に両者に直交する補強リブ713が間隔を設けて配置されている。
【0079】
一方、合成治具1は、
図10(b)で示すように、所望の長さに切断したウェブの大きさが異なる2種類のアングル材を、フランジに高低差を設けた状態でウェブどうしを背中合わせに当接しボルト接合している。これにより、
図10(a)で示すように、ハンチ部204の切断面204aに当接される床版当接板11と、主桁201の補強材7に当接される主桁当接板12と、床版当接板11と主桁当接板12とを連結する連結部13が形成されている。また、主桁当接板12及び連結部13の両者に直交して、補強リブ14が設置されている。
【0080】
このような構成の合成治具1を用いて、補強材7が設置された主桁201とコンクリート床版202との間に合成化構造100を形成するには、
図10(c)で示すように、合成治具1のうち、主桁当接板12を形成するアングル材を高力ボルト等の締結材3を介して補強材本体71の脚部712にボルト接合する。こののち、
図10(a)で示すように、床版当接板11を有するアングル材をあと施工アンカー2を介してハンチ部204に設置するとともに、ハンチ部204及び補強材本体71各々に設置したアングル材どうしを、ボルト接合して連結部13を形成する。
【0081】
なお、合成化構造100は上記の手順にて形成しなくてもよく、例えば、合成治具1をあらかじめ組み立てておき、これを締結材3及びあと施工アンカー2を介して主桁201の補強材7の脚部712及びコンクリート床版202のハンチ部204に設置してもよい。
【0082】
こうすると、主桁201とコンクリート床版202との間に合成化構造100を形成しつつ、主桁201を補強することができるため、コンクリート床版202の床版取り替え工事に伴って、既存の主桁201では耐荷力不足となるような荷重の設計変更が生じた際にも、これに対応することが可能となる。
【0083】
なお、合成化構造100は、上記のとおり補強材7を新たに設置する場合だけでなく、主桁201の上フランジ201aと平行な部分を有する補強材7が、あらかじめ設置されている場合にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0084】
100 合成化構造
1 合成治具
11 床版当接板
111 貫通孔
12 主桁当接板
121 貫通孔
13 連結部
14 補強リブ
2 あと施工アンカー
3 締結材
4 空間保持材
5 充填材
6 ナット(ワッシャーを含む)
7 補強材
71 補強材本体
711 頭部
712 脚部
713 補強リブ
72 締結具
8 シーリング材
200 橋梁
201 主桁
201a 上フランジ
201b ウェブ
201c スタッドジベル
202 コンクリート床版
203 対傾構
204 ハンチ部(接合部)
204a 切断面
205 床版片
206 切断片
A 区画