(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】異常予兆検知装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230710BHJP
【FI】
G05B23/02 R
G05B23/02 301X
G05B23/02 302T
G05B23/02 301Q
(21)【出願番号】P 2019168540
(22)【出願日】2019-09-17
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 亮太
(72)【発明者】
【氏名】青木 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】富永 真哉
(72)【発明者】
【氏名】名倉 伊作
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-161327(JP,A)
【文献】特開2016-134024(JP,A)
【文献】特表2016-517582(JP,A)
【文献】国際公開第2015/025380(WO,A1)
【文献】特開2012-014385(JP,A)
【文献】特開2011-170458(JP,A)
【文献】特開2012-174120(JP,A)
【文献】特開2012-138044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントから送信される複数のプロセス信号を取得する取得部と、
前記プロセス信号のトレンドを学習した学習モデルを格納する学習モデルデータベースと、
前記プロセス信号の実測値を入力値として、前記学習モデルにより算出した、前記プロセス信号の予測値を出力する予測部と、
前記実測値と前記予測値の差分値を閾値で除算した規格化値を出力する規格化部と、
複数の異なる前記プロセス信号の前記規格化値を同時に表示する表示部と、
前記閾値に基づき範囲設定される前記予測値の正常範囲及び前記実測値のトレンドを重ね書きしたグラフを生成するグラフ生成部と、を備える異常予兆検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の異常予兆検知装置において、
前記グラフには、前記正常範囲を逸脱した前記実測値のトレンドに沿って注意喚起を促すマークが標記される異常予兆検知装置。
【請求項3】
プラントから送信される複数のプロセス信号を取得する取得部と、
前記プロセス信号のトレンドを学習した学習モデルを格納する学習モデルデータベースと、
前記プロセス信号の実測値を入力値として、前記学習モデルにより算出した、前記プロセス信号の予測値を出力する予測部と、
前記実測値と前記予測値の差分値を閾値で除算した規格化値を出力する規格化部と、
複数の異なる前記プロセス信号の前記規格化値を同時に表示する表示部と、
前記規格化値に基づいて前記プロセス信号の属性データをソートして表したテーブルを生成するテーブル生成部と、を備える異常予兆検知装置。
【請求項4】
請求項2に記載の異常予兆検知装置において、
前記実測値が前記正常範囲を逸脱している前記プロセス信号が存在する状態で、他の前記プロセス信号の前記グラフを前記表示部に表示する場合に、
前記表示部に前記正常範囲を逸脱している前記プロセス信号に関する前記マークが併せて表示される異常予兆検知装置。
【請求項5】
請求項2に記載の異常予兆検知装置において、
任意の前記プロセス信号の前記グラフを前記表示部に表示する場合に、
前記任意のプロセス信号と相関性が高い他の前記プロセス信号を前記表示部に表示し、さらに前記他のプロセス信号のうち前記実測値が前記正常範囲を逸脱している前記プロセス信号には前記マークが併せて表示される異常予兆検知装置。
【請求項6】
プラントから送信される複数のプロセス信号を取得する取得部と、
前記プロセス信号のトレンドを学習した学習モデルを格納する学習モデルデータベースと、
前記プロセス信号の実測値を入力値として、前記学習モデルにより算出した、前記プロセス信号の予測値を出力する予測部と、
前記実測値と前記予測値の差分値を閾値で除算した規格化値を出力する規格化部と、
複数の異なる前記プロセス信号の前記規格化値を同時に表示する表示部と、
前記プロセス信号が安全上超えてはならない制限値を保持する保持部と、
既に演算された前記差分値のトレンドから外挿により推定差分値を演算する外挿演算部と、
前記推定差分値のトレンドの延長線が前記閾値に到達するまでの第1余裕時間を計算する第1計算部と、
周期変動する前記予測値の極大値に前記推定差分値を加算した推定極大値を出力する加算部と、
前記推定極大値のトレンドの延長線が前記制限値に到達するまでの第2余裕時間を計算する第2計算部と、を備える異常予兆検知装置。
【請求項7】
プラントから送信される複数のプロセス信号を取得するステップと、
前記プロセス信号のトレンドを学習した学習モデルをデータベースから読み出すステップと、
前記プロセス信号の実測値を入力値として、前記学習モデルにより算出した、前記プロセス信号の予測値を出力するステップと、
前記実測値と前記予測値の差分値を閾値で除算した規格化値を出力するステップと、
複数の異なる前記プロセス信号の前記規格化値を同時に表示するステップと、
前記閾値に基づき範囲設定される前記予測値の正常範囲及び前記実測値のトレンドを重ね書きしたグラフを生成するステップと、を含む異常予兆検知方法。
【請求項8】
プラントから送信される複数のプロセス信号を取得するステップと、
前記プロセス信号のトレンドを学習した学習モデルをデータベースから読み出すステップと、
前記プロセス信号の実測値を入力値として、前記学習モデルにより算出した、前記プロセス信号の予測値を出力するステップと、
前記実測値と前記予測値の差分値を閾値で除算した規格化値を出力するステップと、
複数の異なる前記プロセス信号の前記規格化値を同時に表示するステップと、
前記規格化値に基づいて前記プロセス信号の属性データをソートして表したテーブルを生成するステップと、を含む異常予兆検知方法。
【請求項9】
プラントから送信される複数のプロセス信号を取得するステップと、
前記プロセス信号のトレンドを学習した学習モデルをデータベースから読み出すステップと、
前記プロセス信号の実測値を入力値として、前記学習モデルにより算出した、前記プロセス信号の予測値を出力するステップと、
前記実測値と前記予測値の差分値を閾値で除算した規格化値を出力するステップと、
複数の異なる前記プロセス信号の前記規格化値を同時に表示するステップと、
前記プロセス信号が安全上超えてはならない制限値を保持するステップと、
既に演算された前記差分値のトレンドから外挿により推定差分値を演算するステップ
と、
前記推定差分値のトレンドの延長線が前記閾値に到達するまでの第1余裕時間を計算するステップと、
周期変動する前記予測値の極大値に前記推定差分値を加算した推定極大値を出力するステップと、
前記推定極大値のトレンドの延長線が前記制限値に到達するまでの第2余裕時間を計算するステップと、を含む異常予兆検知方法。
【請求項10】
コンピュータに、
プラントから送信される複数のプロセス信号を取得するステップ、
前記プロセス信号のトレンドを学習した学習モデルをデータベースから読み出すステップ、
前記プロセス信号の実測値を入力値として、前記学習モデルにより算出した、前記プロセス信号の予測値を出力するステップ、
前記実測値と前記予測値の差分値を閾値で除算した規格化値を出力するステップ、
複数の異なる前記プロセス信号の前記規格化値を同時に表示するステップ、
前記閾値に基づき範囲設定される前記予測値の正常範囲及び前記実測値のトレンドを重ね書きしたグラフを生成するステップ、を実行させる異常予兆検知プログラム。
【請求項11】
コンピュータに、
プラントから送信される複数のプロセス信号を取得するステップ、
前記プロセス信号のトレンドを学習した学習モデルをデータベースから読み出すステップ、
前記プロセス信号の実測値を入力値として、前記学習モデルにより算出した、前記プロセス信号の予測値を出力するステップ、
前記実測値と前記予測値の差分値を閾値で除算した規格化値を出力するステップ、
複数の異なる前記プロセス信号の前記規格化値を同時に表示するステップ、
前記規格化値に基づいて前記プロセス信号の属性データをソートして表したテーブルを生成するステップ、を実行させる異常予兆検知プログラム。
【請求項12】
コンピュータに、
プラントから送信される複数のプロセス信号を取得するステップ、
前記プロセス信号のトレンドを学習した学習モデルをデータベースから読み出すステップ、
前記プロセス信号の実測値を入力値として、前記学習モデルにより算出した、前記プロセス信号の予測値を出力するステップ、
前記実測値と前記予測値の差分値を閾値で除算した規格化値を出力するステップ、
複数の異なる前記プロセス信号の前記規格化値を同時に表示するステップ、
前記プロセス信号が安全上超えてはならない制限値を保持するステップ、
既に演算された前記差分値のトレンドから外挿により推定差分値を演算するステップ
、
前記推定差分値のトレンドの延長線が前記閾値に到達するまでの第1余裕時間を計算するステップ、
周期変動する前記予測値の極大値に前記推定差分値を加算した推定極大値を出力するステップ、
前記推定極大値のトレンドの延長線が前記制限値に到達するまでの第2余裕時間を計算するステップ、を実行させる異常予兆検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プラント監視を支援する異常予兆検知技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工知能(AI:Artificial Intelligence)を活用したプラント機器等の異常予兆検知の実用化が進んでいる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば発電プラントの監視のように多種多様なプロセス信号を監視するシステムについて異常予兆検知システムを導入する際にあたっては、監視対象となる多数のプロセス値を効率よく監視すること、検出された異常予兆の原因分析や処置が迅速に行えること、異常予兆の検知性能をパラメータ変更等の運用により調整できること、等の課題がある。
【0005】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、オペレータにとってより使い易いインターフェースや機能を持つ異常予兆検知技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係る異常予兆検知装置において、プラントから送信される複数のプロセス信号を取得する取得部と、前記プロセス信号のトレンドを学習した学習モデル格納する学習モデルデータベースと、前記プロセス信号の実測値を入力値として前記学習モデルにより算出した前記プロセス信号の予測値を出力する予測部と、前記実測値と前記予測値の差分値を閾値で除算した規格化値を出力する規格化部と、複数の異なる前記プロセス信号の前記規格化値を同時に表示する表示部と、を備え、前記閾値に基づき範囲設定される前記予測値の正常範囲及び前記実測値のトレンドを重ね書きしたグラフを生成するグラフ生成部、前記規格化値に基づいて前記プロセス信号の属性データをソートして表したテーブルを生成するテーブル生成部、のいずれかを備えるか、もしくは前記プロセス信号が安全上超えてはならない制限値を保持する保持部と、既に演算された前記差分値のトレンドから外挿により推定差分値を演算する外挿演算部と、前記推定差分値のトレンドの延長線が前記閾値に到達するまでの第1余裕時間を計算する第1計算部と、周期変動する前記予測値の極大値に前記推定差分値を加算した推定極大値を出力する加算部と、前記推定極大値のトレンドの延長線が前記制限値に到達するまでの第2余裕時間を計算する第2計算部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、オペレータにとってプロセス値の異常度を認知し易い、異常予兆を予見し易い、異常予兆検出後にオペレータ対応の支援がある、検知性能調整用のパラメータ変更の支援がある、等といったより使い易いインターフェースや機能を持つ異常予兆検知技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る異常予兆検知装置のブロック図。
【
図2】各実施形態に係る異常予兆検知装置が適用されるプラントの概略図。
【
図3】プロセス信号に関する情報をタイル形式で表示した画像。
【
図6】プロセス信号に関する情報をトレンドグラフ形式で表示した画像。
【
図7】注意喚起のマークが表示されたトレンドグラフの表示画像。
【
図8】規格化値でソートされたプロセス信号の属性データのテーブル及び縮小グラフの表示画像。
【
図9】プロセス信号の実測値の挙動に応じた警告及びインターロックのタイミングを示したトレンドグラフ。
【
図10】プロセス信号の実測値の挙動に応じた警告及びインターロックのタイミングを示したトレンドグラフ。
【
図11】第2実施形態に係る異常予兆検知装置のブロック図。
【
図12】プロセス信号の実測値の挙動に応じた警告及びインターロックのタイミングを示したトレンドグラフ。
【
図13】各実施形態に係る異常予兆検知方法及び異常予兆検知プログラムのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る異常予兆検知装置10Aのブロック図である。このようの異常予兆検知装置10A(10)は、プラント20から送信される複数のプロセス信号Pを取得する取得部11と、学習モデルが格納される学習モデルDB15と、過去に取得したプロセス信号Pのトレンドを学習した学習モデルを作成、または学習モデルDB15に格納された学習モデルを更新する学習部12と、プロセス信号Pの実測値xと学習モデル15に基づきトレンド予測した予測値yを出力する予測部17と、実測値xと予測値yの差分値δを閾値mで除算した規格化値Nを出力する規格化部16と、を備えている。
【0010】
さらに異常予兆検知装置10A(10)は、プロセス信号Pが安全上超えてはならない制限値zを保持する保持部を備えている。実測値xがこの制限値zに到達すると、インターロックが発動される仕組みになっている。
【0011】
さらに、異常予兆検知装置10A(10)は、実測値x、予測値y、制限値z、差分値δ、閾値m及び規格化値Nに基づいて、後述するタイル、トレンドグラフ、テーブル等といった様々な表示形式の画像を生成する画像生成部30を備えている。これら様々な表示形式の画像は、オペレータにより適宜切り替えられて表示部18に表示され、プラント20の監視に利用される。なおこの表示部18には、複数の異なるプロセス信号Pの規格化値Nが同時に表示される。
【0012】
図2は各実施形態に係る異常予兆検知装置10が適用されるプラント20の概略図である。プラント20には、構成機器の状態を検出するセンサが多数設けられている。そしてこれらセンサが出力するプロセス信号を、中央監視室で集約管理することにより、プラントの運転状態を監視している。なお、実施形態は、原子力発電プラントへの適用を例示しているが、特に限定されるものではなく、多数のプロセス信号を利用して運転状態が監視されるプラントであれば、適用することができる。
【0013】
図1に戻って説明を続ける。取得部11は、プラント20に設置された複数のセンサから送信されるプロセス信号Pをリアルタイムで取得する。なお、誤報などが頻発するセンサからのプロセス信号Pは、取得の対象から除外することができる。この除外の方法として、機械学習による提案等があり、手動で取得/除外を選択的に切り替えることができる。これにより、誤報発生が低減され、オペレータが誤報確認にかける工数が削減される。
【0014】
学習モデルDB15には、過去に取得したプロセス信号Pやプラントを模擬したシミュレーションによって得られたプロセス信号Pの値をビッグデータ解析することで得られた学習モデルが格納される。学習部12は、プラント20の運転にともなって入力されるプロセス信号Pに基づいて、学習モデルの作成、または学習モデルDB15に格納された学習モデルの更新を行う。
【0015】
学習モデルは、例えば、起動時、停止時、定格運転時等といったプラントの運転モードに分類して作成されることが望ましい。このように、分類作成された学習モデルは、プラント20の運転モード等によって、切り替えて適用される。学習モデルの切り替えは、自動や手動で行われる。もちろん、運転モードに関係なく共通の学習モデルが利用される場合もある。
【0016】
なお、学習モデルDB15に予め格納された学習モデルを用いるのみであれば学習部12は設けなくともよい。あるいは、学習モデルDB15に予め学習モデルを格納せずに、プラント20が一定期間運転されることで学習部12が学習モデルを作成して学習モデルDB15に格納することでもよい。しかし、異常予兆検知装置10Aの運用開始時から異常予兆検知を実施し、かつ、学習モデルをより精度の良いものに更新すべく、予め学習モデルDB15に学習モデルを格納するとともに、学習部12を備えることがより好ましい。
【0017】
予測部17は、学習モデルDB15から学習モデルを読み込み、リアルタイム計測されたプロセス信号Pの実測値xを学習モデルに入力し、今後推移するプロセス信号Pのトレンドを予測した予測値yを出力する。そして差分器14からは、時間軸が同じ実測値xと予測値yとの差分値δ(=x-y)が出力される。
【0018】
閾値mは、予測値yを平均値として実測値xが正規分布すると仮定し、この正規分布の標準偏差を任意に定数倍して規定される。そして、次式(1)の範囲を満たす場合に実測値xは正常であると判断され、次式(1)の範囲を外れる場合は実測値xに異常予兆が現れたと判断される。
【0019】
規格化部16から出力される規格化値Nは、差分値δ(=x-y)を閾値mで除算したものであるため、式(1)を変形して式(2)が得られる。つまり、規格化値Nが0から1までの値をとるときはプラント20の運転状態は正常であると判定できる。そして、規格化値Nが1を超える値をとるときはプラント20の運転状態に異常予兆が現れていると判定される。なおプラント20の運転状態の監視は、事前に設定した閾値mを固定して行われる場合もあるし、監視途中で閾値mを変更して行うこともできる。
【0020】
y-m<x<y+m (1)
|N|<1 (N=δ/m,δ=x-y) (2)
【0021】
なお式(2)において、閾値mに替えて、z-yを代入すると、規格化値Nは、予測値yを0とし制限値zを1に規格化した際の、実測値xの規格化値となる。また、式(2)において、閾値mに替えてz-y-mを代入し、差分値δに替えてx-y-mを代入すると、規格化値Nは、異常予兆が発生するときの実測値を0とし制限値zを1に規格化した際の、実測値xの規格化値となる。このように規格化値Nを変形することにより、異常予兆の発生後、インターロックが発動までの裕度を把握することができる。なお、インターロックの発動ではなく中央制御室で制限値超過について警報を発報する場合もある。以降も同様だが、簡便のため、制限値超過の場合はインターロックを発動するものとして説明する。
【0022】
図3はプロセス信号Pに関する情報をタイル形式で表示した画像である。
図4はタイル形式の表示画像の部分拡大図である。タイル生成部31(
図1)は、このようなタイル形式の表示画像を生成する。
【0023】
図3に示すように、それぞれのタイル35は、プラント20の系統別に仕分けられている。そして
図4に示すように、プロセス信号Pの属性データ37に規格化値Nが付随標記されている。
【0024】
このように、規格化値Nで判定することにより、異なるプロセス量(例えば、圧力と流量等)を表すプロセス信号Pの間でも、正常/異常の比較が容易となる。また同一のプロセス量(例えば、温度)を表すプロセス信号Pで閾値mが異なる場合も同様に比較が容易となる。そして、異常兆候が現れるまで(規格化値N=1をとるまで)の裕度も把握が容易となる。
【0025】
そして、タイル35には、規格化値Nが1未満の値から1の値を超えた時点で、メッセージ36が表示され、プラント20の運転状態に異常予兆が現れていることを警告する。
【0026】
さらにタイル35には、規格化値Nの変化方向を示すシンボル記号38も付随標記されている。このシンボル記号38は、規格化値Nの表示が更新される毎に、値の推移方向を示すものが選択表示される。上昇又は下降傾向が継続する(例えば10回更新中、8回以上が同一傾向)場合には、規格化値Nが1に到達していなくてもシンボル記号38の色を替えたり点滅させたりする等して注意喚起する。
【0027】
図5は差分値δのトレンドグラフである。タイル35(
図4)には、差分値δが閾値mを超過(規格化値Nが1を超過)した後に復旧したイベントの時間情報も、予兆履歴38として付随標記されている。このような、一過性の異常変動の履歴がタイル35に表示され、さらに差分値δのトレンドグラフ(
図5)を観察することで、異常予兆が現れたときの対応決定の判断材料になる。また、異常変動の異なるピークを重ねて表示する機能を有し、オペレータによる比較判断を容易にすることができる。
【0028】
また、
図5において、閾値mの設定を変更する際、変更した設定を過去のデータに適用した場合の一過性の異常変動の検出回数を表示することができる。これにより、設定される閾値mが適切であるか否かを事前に確認することができる。より具体的には、閾値mが低いほどプラントの安全性の観点では保守的な設定となるが、それにより異常予兆の検出回数が多すぎると監視の実効性が薄れるため、変更設定を過去のデータに適用した場合の検出回数を参考に設定することができる。
【0029】
図6はプロセス信号Pに関する情報をトレンドグラフ形式で表示した画像である。グラフ生成部32(
図1)は、閾値mと予測値yに基づき範囲設定される実測値xの正常範囲41及び実測値xのトレンド42を重ね書きしたトレンドグラフ40の表示画像を生成する。このようなトレンドグラフ40の画像が表示されることにより、予測値yに対する実測値xの追従性を直観的に認識することができる。
【0030】
図7は注意喚起のマーク45が表示されたトレンドグラフ40の表示画像である。このようにトレンドグラフ40には、正常範囲41を逸脱した実測値xのトレンド42に沿って、注意喚起を促すマーク45が標記される。なお図示を省略するが、いずれか一つのプロセス信号Pにおいて実測値xが正常範囲41を逸脱した場合は、別のプロセス信号Pのトレンドグラフ40に対し、同じマーク45を標記することができる。これにより、トレンドグラフ40を並べて比較することなく、正常なプロセス信号Pと、検知された異常兆候との関連性を検討することができる。
【0031】
より具体的に説明すると、プロセス信号P1が正常範囲41から逸脱している際にプロセス信号P2のトレンドグラフを表示させた場合、トレンドグラフ上にプロセス信号P1の逸脱を示すマーク45が表示される。プロセス信号P2も正常範囲41から逸脱している場合は、例えばプロセス信号P1の逸脱を示すマーク45とは色が異なるマーク45を表示させる。オペレータは、トレンドグラフの表示に応じて、プロセス信号P1の逸脱がプロセス信号P2に影響を与えていない、プロセス信号P1の逸脱開始からプロセス信号P2が逸脱に至らないまでも予測値との乖離が大きくなっている、プロセス信号P1の逸脱に応じるようにプロセス信号P2も逸脱している、等を容易に認識でき、状況の把握や原因の推察等に役立てることができる。
【0032】
また、特定のプロセス信号Pのトレンドグラフを表示する際に、相関性の高い他のプロセス信号を自動で併せて表示するものとしてもよい。他のプロセス信号に関する表示は、例えばトレンドグラフを相対的に小さく表示する、正常時間と異常予兆検出時間と制限値超過で色が異なる時間軸のみの簡易的な表示とする等が考えられる。
【0033】
例えば、過去のデータやシミュレーションによって得られるデータを用いて、複数のプロセス信号Pの相関性を算出した結果を格納するデータベースを設ける。そして、任意のプロセス信号P(ここではP3とする)のトレンドグラフを表示する際に、このデータベースから情報を読みだし、プロセス信号P3のトレンドグラフに併せて相関が高い他のプロセス信号を表示する。
【0034】
また、データベースを設けることに代えて、プラント40の運転中にプロセス信号Pを受信して複数のプロセス信号P間の相関を算出するプロセス量相関計算部を設けてもよい。例えば、学習部12がある期間のプロセス信号を用いて学習モデルを作成/更新する場合に、プロセス量相関計算部は学習モデルの作成に用いる期間と同じ期間のプロセス信号値を用いて、複数のプロセス信号P間の相関を算出する。そして、任意のプロセス信号P3のトレンドグラフを表示する際に、プロセス量相関計算部の計算結果を読みだしてプロセス信号P3のトレンドグラフに併せて相関が高い他のプロセス信号を表示する。
【0035】
図8は規格化値Nでソートされたプロセス信号Pの属性データ37のテーブル46及び縮小グラフ47の表示画像である。テーブル生成部33(
図1)は、規格化値Nに基づいてプロセス信号の属性データ37をソートして表したテーブル46を生成する。例えば、規格化値Nが大きい順番で属性データ37を整列させた場合、異常度が高いプロセス信号Pを順番に並べて重点的に監視することができる。また、このテーブルで、プロセス信号Pの関連する制限事項(LCO)の保安規定をも表示している。オペレータは異常ないし異常予兆の発生時に保安規定の確認が必要となることが多いため、保安規定を表示、必要に応じてリンク機能を付加することで、必要な情報へのアクセスが容易となる。
【0036】
さらにこのテーブル46に付随して、ソートされた複数のプロセス信号Pのトレンドグラフ40(
図6,
図7)を縮小化した縮小グラフ47が並列表示される。これにより、異常度が高いプロセス信号Pのトレンドを対比しながら直観的に監視することができる。
【0037】
図9は、プロセス信号の実測値xの挙動に応じた警告のタイミングA及びインターロックのタイミングBを示したトレンドグラフ40である。このように、実測値xが正常範囲41から逸脱する場合は、そのタイミングAで、異常予兆発生の警告がなされる。そして、実測値xが制限値zに到達したタイミングBで、インターロックが発動される。
【0038】
図10は、プロセス信号Pの挙動に応じた警告のタイミングC及びインターロックのタイミングDを示したトレンドグラフ40である。このように正常範囲41の境界が制限値zに到達したタイミングCで、正常範囲41の境界が制限値zを超えたことの警告がなされる。そして、実測値xが制限値zに到達したタイミングDで、インターロックが発動される。
【0039】
(第2実施形態)
次に
図11及び
図12を参照して本発明における第2実施形態について説明する。
図11は第2実施形態に係る異常予兆検知装置10Bのブロック図である。
図12はプロセス信号の実測値xの挙動に応じた警告のタイミングE及びインターロックのタイミングFを示したトレンドグラフである。なお、
図11においても、
図1に記載された学習部12、学習モデルDB15、規格化部16及び画像生成部30は、存在しているがその記載は省略されている。また
図11において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0040】
第2実施形態の異常予兆検知装置10B(10)は、第1実施形態(
図1)の構成に加えて、さらに、既に演算された差分値δのトレンドから外挿により推定差分値29を演算する外挿演算部23と、推定差分値29のトレンドの延長線(
図12参照)が閾値mに到達するまでの第1余裕時間(タイミングE)を計算する第1計算部26と、周期変動する予想値yの極大値27に推定差分値29を加算した推定極大値28を出力する加算部24と、推定極大値28のトレンドの延長線が制限値zに到達するまでの第2余裕時間(タイミングF)を計算する第2計算部25と、を備えている。
【0041】
図12は、プロセス信号Pの挙動に応じた警告のタイミングE及びインターロックの発生推定タイミングFを示したトレンドグラフ40である。このように、プロセス信号Pの実測値xが周期的に変動する場合であっても、異常予兆発生のタイミングEとインターロックが発動されるタイミングFを推測することができる。ここで、実測値xは周期的に増減を繰り返すので、タイミングFで周期の極大値になるとは限らない。厳密には、タイミングFは、現在のトレンドが継続した場合に実測値xが制限値zを超える可能性が生じる(インターロックが発動する可能性が生じる)と推測される時刻である。つまり、タイミングFは現在のトレンドが継続した場合にインターロックが発生する時刻を保守的に推定したものである。
【0042】
図13のフローチャートに基づいて各実施形態に係る異常予兆検知方法及び異常予兆検知プログラムを説明する。まず、学習モデルDB15から学習モデルを読み出し(S11)、プラント20から送信される複数のプロセス信号Pの実測値xを取得し(S12)、学習モデルに基づきトレンド予測した予測値yを出力する(S13)。
【0043】
そして実測値xと予測値yの差分値δを計算し(S14)、この差分値δを閾値mで除算した規格化値Nを出力する(S15)。この規格値Nの絶対値が1未満であれば(S16 No)、正常であるので、(S12)に戻る。
【0044】
そしてこの規格値Nの絶対値が1を超えれば(S16 Yes)、異常予兆が発生したので警告を出して終了する(S17)。ここで、実測値xが制限値を超えた場合はインターロックが発動するが、これは異常予兆検知プログラムによる処理ではなく、従来からプラントに備えられるインターロック機能によって実行される。
【0045】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の異常予兆検知装置によれば、プロセス値の異常度を認知し易い、異常予兆を予見し易い、異常予兆検出後にオペレータ対応の支援がある、検知性能調整用のパラメータ変更の支援がある、の効果を奏する。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0047】
10(10A,10B)…異常予兆検知装置、11…取得部、12…学習部、14…差分器、15…学習モデルDB、16…規格化部、17…予測部、18…表示部、20…プラント、23…外挿演算部、24…加算部、25…第1計算部、26…第2計算部、27…極大値、28…推定極大値、29…推定差分値、30…画像生成部、31…タイル生成部、32…グラフ生成部、33…テーブル生成部、35…タイル、36…メッセージ、37…属性データ、38…シンボル記号、38…予兆履歴、40…トレンドグラフ、41…正常範囲、42…トレンド、45…マーク、46…テーブル、47…縮小グラフ、P…プロセス信号、x…実測値、y…予測値、z…制限値、δ…差分値、m…閾値、N…規格化値。