(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】衣類
(51)【国際特許分類】
A41H 43/04 20060101AFI20230710BHJP
A41D 27/00 20060101ALI20230710BHJP
A41B 9/06 20060101ALI20230710BHJP
A41D 27/10 20060101ALN20230710BHJP
【FI】
A41H43/04 Z
A41D27/00 A
A41B9/06 C
A41D27/10 E
(21)【出願番号】P 2019212685
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519053094
【氏名又は名称】東麗(香港)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 大地
(72)【発明者】
【氏名】谷口 卓充
(72)【発明者】
【氏名】松本 真吾
(72)【発明者】
【氏名】大塚 亜津希
【審査官】山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222969(JP,A)
【文献】特許第6153544(JP,B2)
【文献】特開2018-119255(JP,A)
【文献】登録実用新案第3210964(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41H 43/04
A41D 27/00
A41D 27/10
A41B 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する生地からなり、着用者の人体部位を通過させる開口部を有する衣類であって、
前記開口部は、生地端を二つに折り返した構造からなり、前記生地端に沿って単列または複列状に付設されたドット状の接着剤により前記生地端と生地本体とが固着されており、
前記開口部の一部は曲率の変化するパターンで構成されるとともに、
前記生地の端部側に付設された前記接着剤の列は、前記生地の端部から2mm以内に付設され、
前記開口部の曲率半径の最も小さい部分の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤の間隔の平均値は、前記開口部の曲率半径の最も大きい部分の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤の間隔の平均値の85%未満であることを特徴とする衣類。
【請求項2】
前記開口部の曲率半径の最も大きい部分の曲率半径に対する、前記開口部の曲率半径の最も小さい部分の曲率半径の割合が、1.2~50%である請求項1に記載の衣類。
【請求項3】
前記生地端の折りの返し量が2~25mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の衣類。
【請求項4】
前記接着剤の折線側の列が、前記折線から0.5mm以上の間隔を空けて付設されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の衣類。
【請求項5】
前記接着剤は、前記生地の端部から2mm以内に位置することを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の衣類。
【請求項6】
前記開口部の曲率半径の最も小さい部分に付設された列状に隣接する接着剤は、端部が接触して配置されている請求項1~5のいずれか一つに記載の衣類。
【請求項7】
前記接着剤が反応型ホットメルトであることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣類を構成する生地の端部、例えば開口端部を処理する技術として、二つ折りした生地の端を接着テープで貼り合わせて固着する技術が知られている。例えば特許文献1には、水着の裾部など表生地を折り返す場合、ホットメルトシートを接着して構成する関連技術が提案されている。
他方、衣類を構成する複数の生地どうしを接合する技術として、衣類を構成する生地どうしをドット状に付設した接着剤を用いて接合する技術が知られている。例えば特許文献2には、アンダーシャツの身頃と袖とを接合する場合に、ドット状に繰り返し設けた接着剤により貼り合わせる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-264394号公報
【文献】特許第6249821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衣類の開口部において、開口部の凹型に湾曲し曲率半径の小さい生地端の部分は、生地端側が引き広げられることで引張応力が強くなるため、曲率半径の大きい部分とくらべて接着された部分が剥がれやすいという不具合があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、生地端を二つ折りにしてドット状の接着剤を用いて開口部を固着する際、引張応力が最も大きく加わる曲率半径が最も小さい部分の接着強力を向上して、接着部分の剥れを防止しうる衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る衣類は、伸縮性を有する生地からなり、着用者の人体部位を通過させる開口部を有する衣類であって、前記開口部は、生地端を二つに折り返した構造からなり、前記生地端に沿って単列または複列状に付設されたドット状の接着剤により前記生地端と生地本体とが固着されており、前記開口部の一部は曲率の異なるパターンで構成されるとともに、前記生地の端部側に付設された前記接着剤の列は、前記生地の端部から2mm以内に付設され、前記開口部の曲率半径の最も小さい部分の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤の間隔の平均値は、前記開口部の曲率半径の最も大きい部分の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤の間隔の平均値の85%未満であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る衣類は、上記発明において、前記開口部の曲率半径の最も大きい部分の曲率半径に対する、前記開口部の曲率半径が最も小さい部分の曲率半径の割合が、1.2~50%である。
【0008】
本発明に係る衣類は、上記発明において、前記生地端の折りの返し量が2~25mmであることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る衣類は、上記発明において、前記接着剤の折線側の列が、前記線から0.5mm以上の間隔を空けて付設されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る衣類は、上記発明において、前記生地の端部から2mm以内に位置することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る衣類は、上記発明において、前記開口部の曲率半径の最も小さい部分に付設された列状に隣接する接着剤は、端部が接触して配置されている。
【0012】
本発明に係る衣類は、上記発明において、前記接着剤が反応型ホットメルトであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、開口部の凹型の曲率半径が変化するパターンの生地端を二つに折り返してドット状に配置された接着剤で固着したときでも、曲率半径が最も小さい部分の接着部分の接着強度を向上し、剥れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る衣類の外観を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す衣類の開口部の曲率半径を示す図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す衣類の開口部に接着剤が付設された様子を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1の変形例に係る衣類における開口部での接着剤の付設の例を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、実施の形態2に係る衣類の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という」)を説明する。なお、図面はあくまでも模式的なものであり、本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示すものである。すなわち、本発明は、各図で例示された形状、大きさおよび位置関係のみに限定されるものではなく、図面の相互間においても、互いの寸法や比率が異なる部分が含まれている。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る衣類の構成を示す図である。同図に示す衣類1は、半袖肌着の上衣の一例であり、頭、腕、胴体を通過させる開口部2、3、4を有する。それぞれの開口部2、3、4は、曲率の変化するパターンで構成されており、凹型に湾曲し曲率半径の最も小さい部分5、7、9と、凹型に湾曲し曲率半径の最も大きい部分6、8、10を有する。なお、本明細書では、発明の特徴を説明するために、開口部2、3、4の凹型に湾曲し曲率半径の最も小さい部分5、7、9と、凹型に湾曲し曲率半径の最も大きい部分6、8、10について主に説明しているが、開口部2、3、4は、凹型に湾曲し曲率半径の最も小さい部分5、7、9と、凹型に湾曲し曲率半径の最も大きい部分6、8、10に加え、凹型に湾曲し曲率半径の最も小さい部分5、7、9と、凹型に湾曲し曲率半径の最も大きい部分6、8、10との中間の曲率半径を有する部分も有している。
【0017】
衣類1は、伸縮性を有する生地からなる。たとえば、一般の衣料用素材として提供される編物素材であれば、丸編や経編の素材が本発明の実施に必要な伸縮性があり限定されるものではない。また、織物素材であっても、衣料用に伸縮性を持つ素材は本発明に好適である。また用途は、一般的な肌着やカップ付きインナーの他、Tシャツやカットソーなどのアウターウェアの素材に適用することができ、限定されるものではない。
【0018】
図2は、衣類1の開口部2、3、4の凹型に湾曲し曲率半径の最も小さい部分5、7、9の曲率半径5r、7r、9rを示し、凹型に湾曲し曲率半径の最も大きい部分6、8、10の曲率半径6r、8r、10rを示す図である。このとき、例えば、5rは2cm、6rは60cm、7rは1.5cm、8rは70cm、9rは13cm、10rは70cmである。
【0019】
本明細書における曲率半径は、衣類1の開口部2、3、4の形状を構成するカーブの内、3cm間で概ね一致する円の半径を曲率半径とする。また、衣類1の開口部2、3、4の形状を構成するカーブは、衣類1を構成する生地ごとに分けて考えるものとする。すなわち、頭が通過する開口部2が前身頃と後身頃に分かれる場合はそれぞれ分けて考えるものとする。
【0020】
図3(a)は、衣類1の開口部の曲率半径の小さい部分の生地端とそこに付設される単列の接着剤の位置関係の一例を示し、
図3(b)は、
図3(a)の開口部の生地端を折線で二つに折り返した場合の生地端と接着剤の位置関係を示した図である。
【0021】
衣類1は、
図3(a)に示すように、凹型に湾曲した生地の端部13に沿って、ドット状の接着剤11が単列に配置され、
図3(b)に示すように、生地の端端13を折線12で二つに折り返し、接着剤11により生地の端部13と生地本体とを固着している。生地の端部13を折線12で二つに折り返した時、接着剤11を配置した生地の端部13は湾曲の内外周差によって引き広げられる状態となり、それに合わせて接着剤11の間隔d2’も、接着剤11を付設した際の間隔d2より広がった状態となる。曲率が変化するパターンで構成される開口部2、3、4において、ドット状の接着剤11の間隔d2を一律とした場合、曲率半径が最も小さい部分では、接着剤11の間隔d2’が非常に大きくなり、引張応力も大きくなるため、接着剤11が剥れやすくなる。これに対し、衣類1では、開口部2、3、4の曲率半径の最も小さい部分5、7、9の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤11の間隔d2’の平均値は、曲率半径の最も大きい部分6、8、10の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤11の間隔d2’の平均値の85%未満としている。曲率半径の最も小さい部分の接着剤11の間隔d2’の平均値を85%未満とすることで、接着強力を向上し、曲率半径の最も小さい部分5、7、9での接着剤11の剥れを防止することができる。なお、開口部2、3、4の曲率半径の最も小さい部分5、7、9に付設された列状に隣接する接着剤11の端部は、隣接する接着剤と接触して配置されていてもよい。
【0022】
ここで、開口部2、3、4において、曲率半径の最も大きい部分6、8、10の曲率半径に対する、曲率半径が最も小さい部分5、7、9の曲率半径の割合は、1.2~50%であることが好ましい。曲率半径の最も大きい部分6、8、10の曲率半径に対する、曲率半径が最も小さい部分5、7、9の曲率半径の割合を上記範囲とすることにより、曲率半径が最も小さい部分5、7、9に加わる引張応力を低減することができる。なお、開口部2、3、4の曲率半径の最も大きい部分6、8、10の曲率半径に対する、曲率半径が最も小さい部分5、7、9の曲率半径の割合は、曲率半径が最も小さい部分5、7、9の曲率半径を、曲率半径の最も大きい部分6、8、10の曲率半径でそれぞれ除し、百分率で示した数値である。
【0023】
なお、上記したように、衣類1では、開口部2、3、4は、凹型に湾曲し曲率半径の最も小さい部分5、7、9と、凹型に湾曲し曲率半径の最も大きい部分6、8、10との中間の曲率半径を有する部分も有しており、中間の曲率半径を有する部分も曲率半径が最も大きい部分より大きな引張応力が加わり剥離しやすくなる。中間の曲率半径を有する部分の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤11の間隔d2’の平均値も、曲率半径の最も大きい部分6、8、10の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤11の間隔d2’の平均値より小さくすることが好ましい。
【0024】
また、接着剤11と、折線12との距離d3は、0.5mm以上とすることが好ましい。開口部の折線12の位置と接着剤11の列が隣接する場合、開口部の折り端を引き延ばした時に繰り返して付設されたドット上の接着剤11のアタリが発現し、開口部の端部に凹凸ができ見た目が悪くなる。そこで、衣類1において、接着剤11は、開口部の端部となる折線12の位置から0.5mm以上の間隔を空けて付設する。より好ましくは1.0mm以上の間隔を空けて付設することである。
【0025】
衣類1の開口部2、3、4の各々において、曲率半径の最も大きい部分6、8、10の3cm区間の隣り合うドット状の接着剤11の間隔の平均値を、曲率半径の最も小さい部分5、7、9のそれぞれ3cm区間の隣り合うドット状の接着剤11の間隔の平均値の85%未満とするためには、ドット状の接着剤11の列が描く曲率半径の大きさと二つに折り返す折り返し量の関係から求めたドット間隔の広がりを考慮して、予め必要なドット間隔で接着剤11を付設することが重要である。すなわち、衣類1の開口部2、3、4のパターンの曲率半径に合わせてドット状の接着剤11の間隔を変化させることが重要である。
【0026】
衣類1の開口部2、3、4の曲率半径の最も大きい部分の3cm区間とは、曲率半径が最も大きい部分に概ね一致する曲率半径の円の接点を中心とした両側1.5cmの範囲のことをいう。曲率半径が最も小さい部分についても同様である。
衣類1の開口部2、3、4の曲率半径の最も大きい部分とは、場合によっては限りなく直線に近いパターンで構成されていても良い。
【0027】
衣類1の開口部2、3、4を構成する生地の端部13は、生地を裁断したままの状態でも良いし、オーバーロックによる縁かがりやテープ状の縫製資材でパイピング処理されていても良く、あるいはヒートカットやレーザーによる裁断の切り端の状態であっても、生地端を二つ折りに返す処理ができるものであれば特に限定されないが、生地端を二つに折り返すものであることから、生地の伸張特性を阻害しないことが好ましい。
【0028】
また、衣類1において、
図3(a)に示すように、生地の端部13と接着剤11の列との距離d1が大きくなると、生地の端部13を折線12で二つに折り返したとき、生地の端部13が自由端となって反り返る不具合が出やすい。したがって、生地の端部13と接着剤11の列との距離d1は、2mm以内とすることが重要であり、好ましくは1mm以内である。なお、接着剤11は、折線12より生地端側に配置しているが、折線12より生地本体側に配置することも考えられる。しかしながら、折線12よりも生地本体側に接着剤11を配置し、生地端の折り返し量を小さくした場合、接着剤11の配置精度や、生地端の折り返し量の精度によっては、接着剤11により生地端と生地本体との確実な接着ができないおそれがある。したがって、接着剤11は折線12よりも生地端側に配置することが好ましい。
【0029】
例えば、
図2に示すような衣類1の腕を通す開口部3の最も曲率半径の小さい部分7の曲率半径7r(1.5cm)と最も曲率半径の大きい部分8の曲率半径8r(70cm)について、生地の端部13から1mmの位置に沿うように直径1mmのドット状の接着剤11を2mmの間隔で単列かつ均一に付設し、3mmの幅で二つに折り返して固着した場合、固着した後の最も曲率半径の小さい部分7の3cm区間の隣り合うドット状の接着剤11の間隔の平均値は2.62mm、最も曲率半径の大きい部分8のそれは、2.01mmとなり、曲率半径の違いにより接着強力に差が生じ、引張応力が最も起きくなる曲率半径が最も小さい部分7では剥離が生じるおそれがある。ここで、例えば、最も曲率半径の小さい部分7に付設するドット状の接着剤11の間隔の平均を1.3mmとした場合、固着後のドット間隔の平均値は1.70mmとなり、最も曲率半径が大きい部分の接着剤11の間隔の84.6%となる。そうすることにより、曲率半径が最も小さい部分7の単位幅当たりの接着強力を向上することができ、接着剤11の剥離を防止することができる。
【0030】
また、例えば、
図2に示すような衣類1の胴体を通す開口部4の最も曲率半径の小さい部分9の曲率半径9r(13cm)と最も曲率半径の大きい部分10の曲率半径10r(70cm)について、生地の端部13から1mmの位置に沿うように直径1mmのドット状の接着剤11を2mmの間隔で単列かつ均一に付設し、15mmの幅で二つに折り返して固着した場合、固着した後の最も曲率半径の小さい部分9の3cm区間の隣り合うドット状の接着剤11の間隔の平均値は2.48mm、最も曲率半径の大きい部分10のそれは、2.08mmとなり、曲率半径の違いにより接着強力に差が生じ、剥離が生じるおそれがある。接着強力を均一にするためには、予め曲率半径に合わせてドット間隔を変化させることが必要となる。ここで、例えば、最も曲率半径の小さい部分9に付設するドット状の接着剤11の間隔の平均を1.4mmとした場合、二つに折り返して固着した後のドット間隔の平均値は1.74mmとなり、最も曲率半径が大きい部分の接着剤11の間隔の83.7%となる。そうすることにより、曲率半径が最も小さい部分10の単位幅当たりの接着強力を向上することができ、接着剤11の剥離を防止することができる。
【0031】
また、例えば、
図2に示すような衣類1の頭を通す開口部2の最も曲率半径の小さい部分5の曲率半径5r(2cm)と最も曲率半径の大きい部分6の曲率半径6r(60cm)について、生地の端部13から1mmの位置に沿うように直径1mmのドット状の接着剤11を3mmの間隔で単列かつ均一に付設し、5mmの幅で二つに折り返して固着した場合、固着した後の最も曲率半径の小さい部分5の3cm区間の隣り合うドット状の接着剤11の間隔の平均値は4.50mm、最も曲率半径の大きい部分6のそれは、3.04mmとなり、曲率半径の違いにより接着強力に差が生じ、剥離が生じるおそれがある。ここで、例えば、最も曲率半径の小さい部分5に付設するドット状の接着剤11の間隔の平均を1.7mmとした場合、二つに折り返して固着した後のドット間隔の平均値は2.55mmとなり、最も曲率半径が大きい部分の接着剤11の間隔の83.9%となる。そうすることにより、曲率半径が最も小さい部分5の単位幅当たりの接着強力を向上することができ、接着剤11の剥離を防止することができる。
【0032】
接着剤11を構成する樹脂は、天然樹脂よりも合成樹脂の方が好ましく、その中でも熱可塑性樹脂がより好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの他、高分子化合物からなるものであれば特に限定されず、種々のものを用いることができる。
【0033】
接着剤11を構成する樹脂の好ましい硬さとしては、「JIS K 7215 1986年」に記載されているプラスチックのデュロメーター硬さ試験方法に準じて測定したデュロメーターD硬さが10~90であり、より好ましくは10~60である。
【0034】
接着剤11を構成する樹脂の好ましい比重としては、「JIS K 7112 1999年」に記載されているプラスチックの比重測定方法に準じて測定した比重が1.00~1.30であり、より好ましくは1.10~1.20である。
【0035】
接着剤11を構成する樹脂は、反応性ホットメルトであることが好ましい。樹脂が反応性ホットメルトであるとき、樹脂が軟化または溶融して接着部位の構造間に浸み込んで、冷却固化した後に周囲の湿気と反応することにより架橋が進行し、耐熱性および耐溶剤性などに優れた接着構造を形成することができる。
【0036】
ドット状の接着剤11の大きさは、衣類1を構成する生地の組織や厚さによって好ましい大きさが異なる。直径が1.0~2.0mm程度のドットであれば比較的強い接着強力が得られやすいが、生地が薄い場合は生地のおもて側にしみ出して目立ってしまい、外観を損ねる場合があるため、必要な接着強力が得られる範囲内で小さいものが好ましい。直径が1.0mm以下の接着剤であれば、生地厚みが0.5~0.8mm程度のインナー生地の場合でもしみ出しにくく好ましい。更に直径が0.6mm以下の接着剤であれば、生地厚みが0.3~0.5mm程度の更に薄い生地でもしみ出しが目立ちにくく好ましい。接着剤11の直径が小さくなって接着強力が低下する場合は、接着剤11の間隔を小さくすることで補強することができる。なお、本明細書において、接着剤11の直径は、平面方向の長さを意図している。生地端に付設された際の接着剤11の高さは、直径とほぼ同程度であるが、固着されると生地内部に浸透するため衣料1の厚みへの影響はない。
【0037】
生地端の折り返し量は、2~25mmであることが好ましい。二つに折り返した生地端をドット状の接着剤11で固着する場合、ミシン縫製による固着と比べて非常に細い幅の折り返しでも固着することが可能である。折り返しの幅が細いことで、曲率半径の小さい生地端であっても容易に二つに折り返すことができる。好ましくは2~10mmの折り返し量である。
【0038】
ドット状に付設された接着剤11は、実施の形態1において丸の形状であるが、これに限定されるものではない。接着剤11の間隔を変化させられるよう、接着剤11が分離した状態で繰り返し付設させられる形状であれば良く、線状のものや幾何学的な形状のものでも良いし、それらを組み合わせた形状であっても良い。
【0039】
上記した実施の形態1に係る衣類1では、接着剤1を単列に付設しているが、接着剤11は複列に付設してもよい。
図4は、実施の形態1の変形例に係る衣類における開口部での接着剤の付設の例を模式的に示す図である。
図4(a)は、衣類の開口部の生地端とそこに付設される複列の接着剤の位置関係の一例を示し、
図4(b)は、
図4(a)の開口部の生地端を折線で二つに折り返した場合の生地端と接着剤の位置関係を示した図である。
【0040】
図4(a)に示すように、凹型に湾曲した生地の端部13に沿って、ドット状の接着剤11-1、11-2が2列に配置され、
図4(b)に示すように、生地の端端13を折線12で二つに折り返し、接着剤11-1、11-2により生地の端部13と生地本体とを固着する。生地の端端13を折線12で二つに折り返した時、接着剤11-1、11-2を配置した生地の端部13は湾曲の内外周差によって引き広げられる状態となり、それに合わせて接着剤11-1、11-2の間隔d2’-1、d2’-2も、接着剤11-1、11-2を付設した際の間隔d2-1、d2-2より広がった状態となる。接着剤11を複列に付設した場合、開口部の曲率半径の最も小さい部分の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤11-1の間隔d2’-1の平均値は、曲率半径の最も大きい部分の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤11の間隔d2’-1の85%未満である。また、開口部の曲率半径の最も小さい部分の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤11-2の間隔d2’-2の平均値は、曲率半径の最も大きい部分の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤11-2の間隔d2’-2の平均値の85%未満である。最も曲率半径の小さい部分の接着剤11-1、11-2の間隔d2’-1、d2’-2の平均値を、最も曲率半径が大きい部分の85%未満とすることで、曲率半径の最も小さい部分での接着剤11-1、11-2の剥れを防止することができる。
【0041】
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2に係る衣類の構成を示す図である。同図に示す衣類20は、肌着下衣の一例であり、足、胴体を通過させる開口部21、22を有する。開口部21、22は、曲率の変化するパターンで構成されており、凹型に湾曲し曲率半径の最も小さい部分24、26と、凹型に湾曲し曲率半径の最も大きい部分25、27をそれぞれ有する。
【0042】
衣類20において、開口部21、22の曲率半径の最も小さい部分24、26の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤11の間隔d2’の平均値は、曲率半径の最も大きい部分25、27の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤11の間隔d2’の平均値の85%未満である。曲率半径の最も小さい部分の接着剤11の間隔d2’の平均値を85%未満とすることで、接着強力を向上し、曲率半径の最も小さい部分24、26での接着剤11の剥れを防止することができる。
【0043】
また、開口部21、22において、曲率半径の最も大きい部分25、27の曲率半径に対する、曲率半径が最も小さい部分24、26の曲率半径の割合は、1.2~50%であることが好ましい。曲率半径の最も大きい部分25、27の曲率半径に対する、曲率半径が最も小さい部分24、26の曲率半径の割合を上記範囲とすることにより、曲率半径が最も小さい部分24、26に加わる引張応力を低減することができる。
なお、衣類20においても、開口部21、22において、凹型に湾曲し曲率半径の最も小さい部分24,26と、凹型に湾曲し曲率半径の最も大きい部分25、27との中間の曲率半径を有する部分も有しており、中間の曲率半径を有する部分も曲率半径が最も大きい部分より大きな引張応力が加わり剥離しやすくなる。中間の曲率半径を有する部分の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤11の間隔d2’の平均値も、曲率半径の最も大きい部分25,27の3cm区間に付設された列状に隣接する接着剤11の間隔d2’の平均値より小さくすることが好ましい。
以上のように、実施の形態2においても、実施の形態1と同様の考え方で本発明の効果を得ることができる。
【0044】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によって限定されるべきものではない。例えば、帽子や腕カバーなどの衣類の開口部に同様の効果を付与してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 衣類
2 頭を通す開口部
3 腕を通す開口部
4 胴体を通す開口部
5、7、9、24、26 曲率半径の最も小さい部分
6、8、10、25、27 曲率半径の最も大きい部分
11、11-1、11-2 接着剤
12 折線
13 生地の端部
20 衣類
21 胴体を通す開口部
22 足を通す開口部