(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】キャップ、撮像装置、データ生成システム、およびデータ生成方法
(51)【国際特許分類】
A61B 1/247 20060101AFI20230710BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20230710BHJP
A61C 19/04 20060101ALI20230710BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20230710BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A61B1/247 ZDM
A61B1/00 715
A61B1/00 650
A61B1/00 731
A61C19/04 Z
A61C13/00 Z
G01B11/24 K
(21)【出願番号】P 2020004242
(22)【出願日】2020-01-15
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000138185
【氏名又は名称】株式会社モリタ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】反本 啓介
(72)【発明者】
【氏名】西村 巳貴則
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0247163(US,A1)
【文献】特開2014-061089(JP,A)
【文献】特開2017-113389(JP,A)
【文献】国際公開第2013/132091(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00- 1/32
G01B 11/00-11/30
A61C 1/00- 5/00
A61C 5/20- 5/35
A61C 5/70- 5/88
A61C 8/00-13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置
の入光部に着脱可能なキャップであって、
前記撮像装置は、前記キャップ
を装着したときの
前記入光部から被写界の所定の範囲までの光路の長さが一定
であり、
前記キャップは、
前記撮像装置の少なくとも前記入光部と接続するための開口部を有する筐体と、
前記開口部とは前記筐体の反対側に設けられた採光部と、
前記採光部から取り込んだ光を前記開口部の方向に反射する反射部とを備え、
前記撮像装置
に装着した場合に前記採光部から前記被写界の前記所定の範囲となる
前記筐体の長手方向の長さを持つ特定キャッ
プに比べて、前記筐体の長手方向の長さ
が短く、前記採光部より離れた位置から前記被写界の前記所定の範囲とな
る、キャップ。
【請求項2】
前記
特定キャップを前記撮像装置に
装着して歯列を撮影する場合、前記採光部を設けた前記筐体の一部を前記歯列に沿わせることで前記被写界の前記所定の範囲に歯の歯冠部が含まれ、
前
記キャップを前記撮像装置に
装着して前記歯列を撮影する場合、前記採光部を設けた前記筐体の一部を前記歯列に沿わせることで前記被写界の前記所定の範囲に欠損した歯の部分が含まれる、請求項1に記載のキャップ。
【請求項3】
前
記キャップと分離可能で、前
記キャップと組み合わせることで前記筐体の長手方向の長さを前記
特定キャップと同じ長さに延長するスペーサをさらに備える、請求項1または請求項2に記載のキャップ。
【請求項4】
撮像装置
の入光部に着脱可能なキャップであって、
前記撮像装置は、前記キャップ
を装着したときの
前記入光部から被写界の所定の範囲までの光路の長さが一定
であり、
前記キャップは、
前記撮像装置の少なくとも前記入光部と接続するための開口部を有する筐体と、
前記開口部とは前記筐体の反対側に設けられた採光部と、
前記採光部から取り込んだ光を前記開口部の方向に反射する反射部と、
前記撮像装置に対する取り付け位置を、前記採光部から前記被写界の前記所定の範囲となる第1位置と、前記第1位置に取り付けた場合に比べ前記採光部より離れた位置から前記被写界の前記所定の範囲となる第2位置とに少なくとも可変できる可変機構部と、を備える、キャップ。
【請求項5】
前記可変機構部は、前記開口部側の前記筐体の内面に異なる位置に複数設けられた前記撮像装置と嵌合する溝または突起部である、請求項4に記載のキャップ。
【請求項6】
前記可変機構部は、前記筐体の前記開口部側に設けられたカム機構の溝またはリブである、請求項4に記載のキャップ。
【請求項7】
前記可変機構部は、
前記キャップを取り付ける向きにより前記撮像装置に当接する位置が異なるように前記開口部の端部に設けた切込み部である、請求項4に記載のキャップ。
【請求項8】
撮像装置
の入光部に着脱可能なキャップであって、
前記撮像装置は、前記キャップ
を装着したときの
前記入光部から被写界の所定の範囲までの光路の長さが一定
であり、
前記キャップは、
前記撮像装置の少なくとも前記入光部と接続するための開口部を有する筐体と、
前記開口部とは前記筐体の反対側に設けられた採光部と、
前記採光部から取り込んだ光を前記開口部の方向に反射する反射部とを備え、
前記撮像装置に装着した場合に前記採光部から前記被写界の前記所定の範囲となる前記筐体の長手方向の長さを持つ特定キャップと前記筐体の長手方向の長さが同じで、前記採光部より離れた位置から前記被写界の前記所定の範囲となるように前記
光路の長さを長くする光学素子
をさらに備える、キャップ。
【請求項9】
前記撮像装置は、口腔内の歯牙の形状を三次元データとして取得する口腔内スキャナである、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のキャップ。
【請求項10】
前記
特定キャップ
と取り換え可能
で、請求項1~請求項3
、請求項8のいずれか1項に記載の前記キャップと、
前記入光部を有し、前記キャップと着脱可能に接続する筒部と、を備える、撮像装置。
【請求項11】
請求項4~請求項7のいずれか1項に記載の前記キャップと、
前記入光部を有し、前記キャップと着脱可能に接続する筒部と、を備える、撮像装置。
【請求項12】
前記撮像装置は、前記入光部に前記
特定キャップ
と前記キャップとを取り換えることで、前記採光部からの前記被写界の前記所定の範囲の位置を変更可能であって、
前記採光部から前記被写界の前記所定の範囲となる前記
特定キャップか、前記採光部より離れた位置から前記被写界の前記所定の範囲となる前
記キャップかを判別することが可能な判別部と、
前記判別部で判別された結果に応じて前記撮像装置での制御モードを変更するモード変更部と、をさらに備える、請求項10に記載の撮像装置。
【請求項13】
前記撮像装置は、前記可変機構部を備えている前記キャップの取り付け位置を前記第1位置または前記第2位置に可変することで、前記採光部からの前記被写界の前記所定の範囲の位置を変更可能であって、
前記撮像装置に対する取り付け位置が前記第1位置か、前記第2位置かを判別することが可能な判別部と、
前記判別部で判別された結果に応じて前記撮像装置での制御モードを変更するモード変更部と、をさらに備える、請求項11に記載の撮像装置。
【請求項14】
前記撮像装置は、口腔内の歯牙の形状を三次元データとして取得する口腔内スキャナであって、
前記
特定キャップが取り付けられている場合、咬合面部分を含む歯牙の三次元データを取得し、
前
記キャップが取り付けられている場合、前記咬合面部分が喪失し前記咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データを取得する、請求項12に記載の撮像装置。
【請求項15】
前記撮像装置は、口腔内の歯牙の形状を三次元データとして取得する口腔内スキャナであって、
前記第1位置に前記キャップが取り付けられている場合、咬合面部分を含む歯牙の三次元データを取得し、
前記第2位置に前記キャップが取り付けられている場合、前記咬合面部分が喪失し前記咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データを取得する、請求項13に記載の撮像装置。
【請求項16】
前記撮像装置は、
前記咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分が喪失した歯牙を含む生体内部情報を取得した場合、前記咬合面部分を含む歯牙の三次元データと、前記咬合面部分が喪失し前記咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データと、前記生体内部情報とを重ねて表示装置に表示させる、請求項14または請求項15に記載の撮像装置。
【請求項17】
口腔内の歯牙の形状を三次元データとして取得する撮像装置と、前記撮像装置と通信可能に接続され、補綴物を作成するためのデータを生成するデータ生成装置と、を備えるデータ生成システムであって、
前記撮像装置は、
入光部に着脱可能なキャップを装着したときの前記入光部から被写界の所定の範囲までの光路の長さが一定
であり、
前記キャップは、
前記撮像装置の少なくとも前記入光部と接続するための開口部を有する筐体と、
前記開口部とは前記筐体の反対側に設けられた採光部と、
前記採光部から取り込んだ光を前記開口部の方向に反射する反射部とを備え、
前記撮像装置は、
前記採光部から前記被写界の前記所定の範囲とな
る特定キャップを取り付けるか、または取り付けた前記キャップが前記撮像装置に対する取り付け位置を可変できる可変機構部をさらに備え、前記撮像装置に対する取り付け位置が前記採光部から前記被写界の前記所定の範囲となる第1位置にある場合、咬合面部分を含む歯牙の三次元データを取得し、
前記採光部より離れた位置から前記被写界の前記所定の範囲とな
るキャップを取り付けるか、または取り付けた前記キャップが前記可変機構部をさらに備え、前記撮像装置に対する取り付け位置が前記採光部より離れた位置から前記被写界の前記所定の範囲となる第2位置にある場合、前記咬合面部分が喪失し前記咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データを取得し、
前記データ生成装置は、
前記撮像装置で取得した前記咬合面部分を含む歯牙の三次元データと、前記咬合面部分が喪失し前記咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データとに基づいて、前記咬合面部分が喪失し前記咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙と接する部分を少なくとも含む補綴物を作成するためのデータを生成する、データ生成システム。
【請求項18】
口腔内の歯牙の形状を三次元データとして取得する撮像装置と、前記撮像装置と通信可能に接続され、補綴物を作成するためのデータを生成するデータ生成装置と、を備えるデータ生成システムで補綴物を作成するためのデータを生成するデータ生成方法であって、
前記撮像装置は、
入光部に着脱可能なキャップを装着したときの前記入光部から被写界の所定の範囲までの光路の長さが一定
であり、
前記キャップは、
前記撮像装置の少なくとも前記入光部と接続するための開口部を有する筐体と、
前記開口部とは前記筐体の反対側に設けられた採光部と、
前記採光部から取り込んだ光を前記開口部の方向に反射する反射部とを備え、
前記データ生成装置は、
前記採光部から前記被写界の前記所定の範囲とな
る特定キャップを取り付けるか、または取り付けた前記キャップが前記撮像装置に対する取り付け位置を可変できる可変機構部をさらに備え、前記撮像装置に対する取り付け位置が前記採光部から前記被写界の前記所定の範囲となる第1位置にある場合、前記撮像装置で、咬合面部分を含む歯牙の三次元データを前記撮像装置から取得するステップと、
前記採光部より離れた位置から前記被写界の前記所定の範囲とな
るキャップを取り付けるか、または取り付けた前記キャップが前記可変機構部をさらに備え、前記撮像装置に対する取り付け位置が前記採光部より離れた位置から前記被写界の前記所定の範囲となる第2位置にある場合、前記撮像装置で、前記咬合面部分が喪失し前記咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データを前記撮像装置から取得するステップと、
取得した前記咬合面部分を含む歯牙の三次元データと、前記咬合面部分が喪失し前記咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データとに基づいて、前記咬合面部分が喪失し前記咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙と接する部分を少なくとも含む補綴物を作成するためのデータを生成するステップとを含む、データ生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置の入光する部分に取付けるキャップ、および当該キャップを取付けた撮像装置、データ生成システム、およびデータ生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野では、歯の三次元形状を撮像装置(口腔内スキャナ)で取得し、取得した歯の三次元形状のデータ(三次元データ、3Dデータともいう)に基づいて補綴物等をコンピュータ上でデジタル的に設計することが行われている。特許文献1には、合焦法の技術を使用して歯の三次元形状を取得する手持ち式の口腔内スキャナが開示されている。具体的に、当該口腔内スキャナでは、線状または市松模様状のパターンを有する光(以下、パターンともいう)を歯に投影し、投影したパターンを撮像した画像から焦点の合う距離を求めて歯の三次元形状を取得している。
【0003】
口腔内スキャナは、口腔内を撮像するためのキャップ(チップともいう)を取り付け、このキャップに設けた採光部から歯に投影したパターンを撮像している。キャップは、口腔内に差込み易い筒状の筐体と、筐体内に設けたミラー(鏡)とを有し、筐体に設けた採光部より投影したパターンを撮像する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、口腔内スキャナは、歯の三次元形状を撮像することを目的に設計されているため、撮像する歯に対して焦点が合うように被写界が設定されている。具体的に、口腔内スキャナでは、キャップの先端を歯列に沿わせて歯の三次元形状を撮像するため、キャップの採光部の近傍に被写界が設定されている。
【0006】
そのため、口腔内スキャナは、撮像する被写界に自由度がなく、個人差や欠損などの症例に応じた様々な形状の歯に対して三次元形状を十分に取得することが困難な場合があった。一方、口腔内スキャナ内に光学機構を設け被写界を変更することは可能であるが、被写界を変更するための光学機構を設けることで筐体が大型化し、口腔内の撮像を阻害する可能性があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、撮像装置を大型化させることなく、撮像する被写界に自由度を与えることができるキャップ、撮像装置、データ生成システム、およびデータ生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係るキャップは、撮像装置の入光部に着脱可能なキャップであって、撮像装置は、キャップを装着したときの入光部から被写界の所定の範囲までの光路の長さが一定であり、キャップは、撮像装置の少なくとも入光部と接続するための開口部を有する筐体と、開口部とは筐体の反対側に設けられた採光部と、採光部から取り込んだ光を開口部の方向に反射する反射部とを備え、撮像装置に装着した場合に採光部から被写界の所定の範囲となる筐体の長手方向の長さを持つ特定キャップに比べて筐体の長手方向の長さが短く、採光部より離れた位置から被写界の所定の範囲となる。
【0009】
本開示に係る撮像装置は、特定キャップと取り換え可能で、前述のキャップと、入光部を有し、キャップと着脱可能に接続する接続部と、を備える。
【0010】
本開示に係るデータ生成システムは、口腔内の歯牙の形状を三次元データとして取得する撮像装置と、撮像装置と通信可能に接続され、補綴物を作成するためのデータを生成するデータ生成装置と、を備えるデータ生成システムである。撮像装置は、入光部に着脱可能なキャップを装着したときの入光部から被写界の所定の範囲までの光路の長さが一定である。キャップは、撮像装置の少なくとも入光部と接続するための開口部を有する筐体と、開口部とは筐体の反対側に設けられた採光部と、採光部から取り込んだ光を開口部の方向に反射する反射部とを備える。撮像装置は、採光部から被写界の所定の範囲となる特定キャップを取り付けるか、または取り付けたキャップが撮像装置に対する取り付け位置を可変できる可変機構部をさらに備え、撮像装置に対する取り付け位置が採光部から被写界の所定の範囲となる第1位置にある場合、咬合面部分を含む歯牙の三次元データを取得し、採光部より離れた位置から被写界の所定の範囲となるキャップを取り付けるか、または取り付けたキャップが可変機構部をさらに備え、撮像装置に対する取り付け位置が採光部より離れた位置から被写界の所定の範囲となる第2位置にある場合、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データを取得する。データ生成装置は、撮像装置で取得した咬合面部分を含む歯牙の三次元データと、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データとに基づいて、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙と接する部分を少なくとも含む補綴物を作成するためのデータを生成する。
【0011】
本開示に係るデータ生成方法は、口腔内の歯牙の形状を三次元データとして取得する撮像装置と、撮像装置と通信可能に接続され、補綴物を作成するためのデータを生成するデータ生成装置と、を備えるデータ生成システムで補綴物を作成するためのデータを生成するデータ生成方法である。撮像装置は、入光部に着脱可能なキャップを装着したときの入光部から被写界の所定の範囲までの光路の長さが一定である。キャップは、撮像装置の少なくとも入光部と接続するための開口部を有する筐体と、開口部とは筐体の反対側に設けられた採光部と、採光部から取り込んだ光を開口部の方向に反射する反射部とを備える。データ生成装置は、採光部から被写界の所定の範囲となる特定キャップを取り付けるか、または取り付けたキャップが撮像装置に対する取り付け位置を可変できる可変機構部をさらに備え、撮像装置に対する取り付け位置が採光部から被写界の所定の範囲となる第1位置にある場合、撮像装置で、咬合面部分を含む歯牙の三次元データを撮像装置から取得するステップと、採光部より離れた位置から被写界の所定の範囲となるキャップを取り付けるか、または取り付けたキャップが可変機構部をさらに備え、撮像装置に対する取り付け位置が採光部より離れた位置から被写界の所定の範囲となる第2位置にある場合、撮像装置で、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データを撮像装置から取得するステップと、取得した咬合面部分を含む歯牙の三次元データと、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データとに基づいて、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙と接する部分を少なくとも含む補綴物を作成するためのデータを生成するステップとを含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係るキャップ、撮像装置、データ生成システム、およびデータ生成方法では、筐体の長手方向の長さが、撮像装置の被写界が採光部から所定の範囲となるキャップに比べて短いキャップを使用することで撮像装置を大型化させることなく、撮像する被写界に自由度を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施の形態1に係る口腔内スキャナの構成を示すブロック図である。
【
図2】本実施の形態1に係るキャップの構成を説明するための概略図である。
【
図3】本実施の形態1に係るキャップのうち筐体の長手方向の長さが短いキャップの構成を説明するための概略図である。
【
図4】口腔内スキャナで欠損歯を含む歯列弓の三次元形状を撮像し、補綴物を生成する方法を説明するための図である。
【
図5】本実施の形態2に係るキャップの構成の第一例を示す概略図である。
【
図6】本実施の形態2に係るキャップの構成の第二例を示す概略図である。
【
図7】本実施の形態2に係るキャップの構成の第三例を示す概略図である。
【
図8】本実施の形態2に係るキャップの構成の第四例を示す概略図である。
【
図9】本実施の形態3に係るキャップの構成の一例を示す概略図である。
【
図10】本実施の形態4に係るキャップの種類の判別手段の一例を説明するための図である。
【
図11】本実施の形態4に係るキャップの種類の判別手段の別の一例を説明するための図である。
【
図12】本実施の形態5に係る口腔内スキャナの表示例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
本実施の形態1に係る撮像装置は、口腔内の歯の三次元形状を取得するための口腔内スキャナである。しかし、本発明に係る撮像装置は、口腔内スキャナに限定されるものではなく、同様の構成を有する撮像装置である三次元スキャナについて適用することができる。例えば、口腔内以外に人の耳の内部を撮像して、外耳内の三次元形状を取得することができる三次元スキャナにも適用できる。
【0015】
[口腔内スキャナの構成]
図1は、本実施の形態1に係る口腔内スキャナ100の構成を示すブロック図である。
図1に示すように口腔内スキャナ100は、キャップ(チップともいう)10、筒部20、筐体30、制御部40、電源部45、表示部50、演算部60を含んでいる。なお、演算部60は、例えばPC(パソコン)などの情報処理装置で構成されており、本開示内容と関連性の低いPC用電源、データ通信モジュール、マウス等の構成について図示および説明を省略する。電源部45、表示部50、および演算部60はケーブル43により、キャップ10、筒部20、筐体30および制御部40を含むハンドピース70と接続されている。なお、ハンドピース70のみの構成で口腔内スキャナと呼んでもよい。口腔内スキャナ100は、取得した歯の三次元形状のデータ(三次元データともいう)を演算部60に送り、演算部60で三次元データに対する演算処理を行う。
【0016】
演算部60に送られてくる三次元データは、撮影位置を変えながら連続的に対象物99を撮影した複数のデータである。演算部60では、これらのデータをつなぎ合わせて歯列弓全体または歯列弓の一部の三次元データを形成する貼り合わせ処理を実行することができる。また、演算部60では、貼り合わせ演算処理以外に、校正情報を口腔内スキャナ100に対して適用する処理、表示部50に表示する対象物99を立体的に見せるように貼り合わせ処理した三次元データに対してレンダリングを行う処理、送られてくる三次元データ、貼り合わせ処理した三次元データなどを記憶部に保存する処理などを行う。演算部60は、ハードウェア構成として、例えば、前述の処理を行うCPU(Central Processing Unit)、当該処理をCPUで実行させるためのプログラムやデータ等を記憶する記憶部、CPUのワークエリアとして機能するRAM(Random Access Memory)、主に画像処理を行うGPU(Graphics Processing Unit)、周辺機器との信号の整合性を保つための入出力インターフェイス等が設けられている。記憶部には、演算部60の内部に設けられたハードディスク等の記憶装置、ネットワークを介して接続される記憶装置などが含まれる。
【0017】
さらに、演算部60は、三次元データの欠損歯部に適合する補綴物を設計するためプログラム(CADプログラム)を実行することで、貼り合わせ処理した三次元データから補綴物を設計する処理が可能となる。もちろん、CADプログラムを演算部60で実行せずに、ネットワークを経由して接続された別のPCなどでCADプログラムを実行させて、当該PCで貼り合わせ処理した三次元データから補綴物を設計してもよい。CADプログラムは、例えば公知の歯科用CADソフトウェア等を提供されており、当該ソフトウェアをインストールすることで演算部60で実行可能である。
【0018】
演算部60は、CADプログラムを実行することで、口腔内スキャナ100で取得した咬合面部分を含む歯牙の三次元データと、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データとに基づいて、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙と接する部分を少なくとも含む補綴物を作成するためのデータを生成することができる。つまり、演算部60は、CADプログラムを用いて、貼り合わせ処理した三次元データから補綴物の三次元形状のデータ(補綴物設計データ)を生成することができる。演算部60は、CADプログラムを実行することで、補綴物を作成するための補綴物設計データを生成するデータ生成装置として動作する。演算部60は、生成した補綴物設計データを補綴物生成装置90に送ることができる。演算部60から補綴物生成装置90へのデータ転送は、無線通信、有線通信などの通信でも、メモリ等を介してのコピー操作などでもよい。補綴物生成装置90は、例えば、ミリングマシンや3Dプリンタであり、受信した補綴物設計データに基づいて欠損歯の補綴物を生成する。口腔内スキャナ100は、CADプログラムを実行する演算部60を含めることでデータ生成システムを構成することができる。補綴物生成装置90でCADプログラムを実行する場合、口腔内スキャナ100と補綴物生成装置90とを含めてデータ生成システムと呼んでもよい。
【0019】
演算部60は、ハンドピース70とは別のPCとして設けられると説明したが、これに限られず、ハンドピース70に内蔵されるCPU、ケーブル43の中間位置に設置された演算装置、クラウド上の演算装置などで構成してもよい。また、CADプログラムは、演算部60で実行すると説明したが、これに限られず、ハンドピース70に内蔵されるCPU、ケーブル43の中間位置に設置された演算装置、補綴物生成装置90に内蔵されるCPU、クラウド上の演算装置など実行してもよい。つまり、補綴物設計データの生成を、ハンドピース70に内蔵されるCPU、ケーブル43の中間位置に設置された演算装置、補綴物生成装置90に内蔵されるCPU、クラウド上の演算装置などで行ってもよい。
【0020】
さらに、CADプログラムは、ディープラーニングなど機械学習が可能なAI(人工知能)エンジンを利用することができるプログラムでもよい。CADプログラムが、AIエンジンを利用することで、患者情報(年齢・性別等)、貼り合わせ処理した三次元データから抽出した対合歯、隣接歯の形状の特徴情報などの情報から、学習済モデルに基づいて補綴物を自動的に設計してもよい。
【0021】
補綴物生成装置90は、CADプログラムで生成された補綴物設計データから補綴物を生成するのではなく、口腔内スキャナ100で撮影した三次元データを直接入力して補綴物を生成するようにしてもよい。さらに、補綴物生成装置90は、補綴物の生成ではなく、口腔内スキャナ100で撮影した三次元データから、撮影した歯列の模型を生成することができ、患者への説明(カウンセリング)、手術計画、矯正設計、補綴物の適合確認、咬合運動の確認などの用途に使用することができる。
【0022】
キャップ10は、対象物99がある口腔内に差込まれ、対象物99にパターンを有する光(以下、パターンともいう)を投影し、パターンが投影された対象物99からの反射光を筒部20および筐体30に導いている。また、キャップ10は、筒部20に対して着脱可能であるので、感染対策として、生体に接触する可能性のあるキャップ10だけを筒部20から取り外して滅菌処理(例えば高温高湿環境でのオートクレーブ処理や、乾熱滅菌処理、薬液浸漬処理など)を施すことが可能である。なお、キャップ10は、ミラーと、一方でミラーを保持し、他方で筒部20を覆う筐体12とで構成されている。
【0023】
筒部20は、キャップ10と嵌合可能な形状をしており、筐体30から突出した部分である。筒部20は、キャップ10で採光した光を筐体30へ導くためのリレーレンズや、偏光子、光学フィルタ、光学ウィンドウ、波長板(λ/4板など)等の光学部品を含んでいる。なお、キャップ10と筒部20とでプローブ25を構成している。また、筒部20は、筐体30の一部であっても、筐体30とは別の構成であってもよい。
【0024】
筐体30は、キャップ10を介して対象物99にパターンを投影し、投影したパターンを撮像する。筐体30は、対象物99に投影するパターンを生成する光学部品および光源、パターンを対象物99の表面に結像するためのレンズ部品、レンズのピントを調整するためのピント調整機構、投影したパターンを撮像する撮像素子などを有している。なお、筐体30は、合焦法の技術を用いて三次元形状を取得する構成として説明するが、当該構成に限定されず、共焦点法、三角測量法、白色干渉法、ステレオ法、フォトグラメトリ法、SLAM法(Simultaneous Localization and Mapping)、光干渉断層法(Optical Coherence Tomography: OCT)などの技術を用いて三次元形状を取得する構成でもよい。つまり、筐体30は、光学的な手法を用いて三次元形状を取得する構成であればいずれの原理を用いた構成であっても適用することが可能である。
【0025】
制御部40は、筐体30に内蔵され、筐体30内に設けられた機構部品および電子部品の動作を制御するとともに、撮像した三次元データを演算部60に送信する。制御部40は、制御中枢としてのCPU(Central Processing Unit)、CPUが動作するためのプログラムや制御データ等を記憶しているROM(Read Only Memory)、CPUのワークエリアとして機能するRAM(Random Access Memory)、主に画像処理を行うGPU(Graphics Processing Unit)、周辺機器との信号の整合性を保つための入出力インターフェイス等が設けられている。なお、CPUやGPUを、FPGA(field-programmable gate array)で構成してもよい。なお、制御部40は、演算部60での処理を実行できるようにしてもよく、演算部60での処理が実行できる場合、三次元データを表示部50に直接出力することが可能である。さらに、制御部40は、筐体30の設定などの情報を図示していない入力装置などで入力できるようにしてもよい。
【0026】
なお、貼り合わせ処理、校正情報を口腔内スキャナ100に対して適用する処理などの処理を、演算部60や制御部40でソフトウェアを実行することで実現すると説明したが、これに限られず、前述の処理を専用に行うハードウェアとして実現してもよい。また、当該ハードウェアを、筐体30の内部に組み込んでも、ケーブル43の中間位置に設けてもよい。また、
図2では口腔内スキャナ100の各構成要素(30、50、45、60)がケーブル43によって配線されているように描かれているが、これらの配線のうち一部または全部が無線通信によって接続されていてもよい。あるいは電気的なケーブルではなく、光ケーブルで接続されていてもよい。なお、制御部40は、筐体30に内蔵せずに、別体とすることでハンドピース70の軽量化を図ることができる。
【0027】
電源部45は、筐体30および制御部40を駆動するための電力を供給するための装置である。電源部45は、
図1に示すように制御部40の外部に設けられていても、制御部40の内部に設けられていてもよい。また、電源部45は、筐体30、表示部50のそれぞれに個別に給電できるように複数設けられてもよい。
【0028】
表示部50は、制御部40で得られた対象物99の三次元形状の結果を表示するための表示装置である。また、表示部50は、筐体30の設定情報や、患者情報、スキャナの起動状態、取扱説明書、ヘルプ画面などの、その他の情報を表示するための表示装置としても利用することができる。表示部50には、たとえば据え置き式の液晶ディスプレイや、ヘッドマウント式やメガネ式のウェアラブルディスプレイなどが適用できる。また、表示部50は複数あってもよく、三次元形状の計測結果やその他の情報が、複数の表示部50上に同時表示あるいは分割表示されてもよい。
【0029】
[キャップの構成]
次に、キャップ10の構成についてさらに詳しく説明する。
図2は、本実施の形態1に係るキャップ10の構成を説明するための概略図である。まず、
図2(a)を用いてキャップ10の構成について説明する。キャップ10は、筒部20と接続するための開口部11を有する筐体12と、開口部11とは反対側の筐体12に設けられた計測窓13(採光部)と、計測窓13から取り込んだ光を開口部11の方向に反射するミラー14(反射部)とを含む。開口部11は、筒部20を挿入するための挿入部である。
【0030】
キャップ10を筒部20に取り付けた場合、口腔内スキャナ100の被写界Sは、キャップ10の計測窓13から所定の範囲に設定される。被写界Sの所定の範囲は、撮像対象である歯が含まれる範囲ある。キャップ10は、筒部20に取り付けた場合、筒部20の先端から被写界Sまでの光路Lが一定となるように筐体12の長手方向の長さが決められている。そのため、口腔内スキャナ100は、筒部20にキャップ10を取り付け、キャップ10を歯列に沿わせることで歯の三次元形状を撮像することができる。ここで、口腔内スキャナ100の被写界Sは、
図2(a)に示すように筐体12の表面に形成された計測窓13から所定の範囲としている。しかし、ミラー14の取り付け位置などの要因により、口腔内スキャナ100の被写界Sが、計測窓13の内側から始まる場合もある。そのため、口腔内スキャナ100の被写界Sは、筐体12の表面に形成された計測窓13の位置からでなく計測窓13の近傍から所定の範囲内であってもよい。なお、キャップ10を、標準キャップと呼ぶこととする。
【0031】
撮像対象の歯が欠損のない健常な歯である場合、
図2(a)に示すように口腔内スキャナ100の被写界Sは撮像対象の歯を含む。しかし、撮像対象の歯に欠損があり、咬合面部分を含む歯牙の部分Cがなく、歯根の部分Rのみの場合(例えば、根管治療のために根管が露出されるよう形成された歯牙をスキャンしたい場合)、
図2(b)のように口腔内スキャナ100の被写界Sは、隣接歯に阻害されて欠損した歯の部分を含めることができない。欠損した歯の部分を撮像するために、口腔内スキャナ100の被写界Sを大きくすることが考えられる。口腔内スキャナ100の被写界Sを大きくすると、可動物体Q(例えば、舌、粘膜など)を含めて撮像することになるため、三次元形状のデータを形成する際に複数のデータの貼り合せ処理に失敗するリスクが増加する。また、撮像した三次元形状のデータから可動物体Qを演算により除外することも考えられるが、制御部40や演算部60の演算負荷が大きくなる。さらに、口腔内スキャナ100は、被写界Sを大きくするための光学機構を設けると筐体が大型化したり、製造コストが増えたりする問題がある。特に、合焦法を利用した口腔内スキャナでは、被写界を大きくするためには焦点を合わせる面の可動範囲を広くする必要があり、焦点を合わせるための光学素子を移動するモータが大型化する。
【0032】
そこで、本実施の形態に係る口腔内スキャナ100では、欠損のない健常な歯を撮像するためのキャップ10に比べて筐体12の長手方向の長さが短いキャップを取り付ける。ここで、筐体12の長手方向の長さとは、開口部11からミラー14までの光路長に対して直接影響を与える長さである。そのため、開口部11からミラー14までの光路長を変更しない単なる外形寸法の変更は、筐体12の長手方向の長さの変更に含まない。
図3は、本実施の形態1に係るキャップのうち筐体12の長手方向の長さが短いキャップ10Aの構成を説明するための概略図である。
【0033】
キャップ10Aを筒部20に取り付けた場合、口腔内スキャナ100の被写界Sは、キャップ10Aの計測窓13より離れた位置から所定の範囲に設定される。被写界Sは、
図3に示すように計測窓13より離れた位置から始まるため、より計測窓13から遠い位置にある歯根の部分を撮像することができる。
【0034】
キャップ10Aは、筒部20に取り付けた場合、筒部20の先端から被写界Sまでの光路Lがキャップ10と同じである。しかし、キャップ10Aは、キャップ10に比べて筐体12の長手方向の長さが距離Dだけ短い。なお、
図3では、キャップ10が破線で示されている。そのため、被写界Sの位置は、キャップ10Aを口腔内スキャナ100に取り付けた場合、筐体12の長手方向の長さが短くなった分だけ計測窓13より離れた位置にシフトする。そのため、口腔内スキャナ100は、筒部20にキャップ10Aを取り付け、キャップ10を歯列に沿わせることで、咬合面部分を含む歯牙の部分Cがなく、歯根の部分Rのみの欠損歯の三次元形状を撮像することができる。つまり、このような欠損症例の場合、キャップ10Aは根管用キャップであるとみなすことができる。
【0035】
口腔内スキャナ100は、筐体12の長手方向の長さが長いキャップ10と、筐体12の長手方向の長さが短いキャップ10Aとを着脱交換して使い分けることで、欠損歯を含む歯列弓の三次元形状を撮像することができる。欠損歯を含めた歯列弓の三次元形状を取得することで、欠損歯に最適な補綴物を作成することができる。図を参照して、口腔内スキャナ100で欠損歯を含む歯列弓の三次元形状を撮像し、補綴物を生成する具体的な方法について説明する。
図4は、口腔内スキャナ100で欠損歯を含む歯列弓の三次元形状を撮像し、補綴物を生成する方法を説明するための図である。
【0036】
まず、
図4(a)は、口腔内スキャナ100にキャップ10を取り付け、歯列弓に沿って口腔内スキャナ100を移動させて歯列弓を撮像する。
図4(b)は、
図4(a)で撮像した結果から得られた歯列弓の三次元形状のデータである。
図4(b)の三次元形状のデータには、咬合面部分を含む歯牙の三次元形状のデータは含まれているが、欠損歯の深い部分(例えば、根管の部分)について三次元形状のデータは含まれていない。
【0037】
そこで、
図4(c)は、口腔内スキャナ100にキャップ10Aを取り付け、欠損歯を含む範囲を口腔内スキャナ100で撮像する。
図4(d)は、
図4(c)で撮像した結果から得られた欠損歯の三次元形状のデータである。
図4(d)の三次元形状のデータには、欠損歯の深い部分(例えば、根管の部分)の三次元形状のデータが含まれる。
【0038】
図4(e)は、
図4(b)の三次元形状のデータと
図4(d)の三次元形状のデータとを組み合わせた歯列弓の三次元形状のデータである。
図4(e)の三次元形状のデータには、咬合面部分を含む歯牙の三次元形状のデータも、欠損歯の深い部分(例えば、根管の部分)について三次元形状のデータも含まれている。この
図4(e)の三次元形状のデータを利用して、
図1に示す補綴物生成装置90で欠損歯に最適な補綴物(
図4(f))を作成する。なお、
図4(b)の三次元形状データと、
図4(d)の三次元データとを組み合わせて、
図4(e)の三次元形状データを得る方法としては、ICP(Iterative Closest Point)アルゴリズム等の公知の方法を使用することができ、具体的に
図4(b)の三次元形状データと、
図4(d)の三次元データとで共通する領域の三次元座標が最も重なるように座標調整することで、
図4(e)の三次元形状データが取得できる。
【0039】
このように、本実施の形態1に係るキャップ10Aは、口腔内スキャナ100に着脱可能なキャップである。キャップ10Aは、口腔内スキャナ100の少なくとも一部と接続するための開口部11を有する筐体12と、開口部11とは筐体12の反対側に設けられた計測窓13と、計測窓13から取り込んだ光を開口部11の方向に反射するミラー14とを備える。筐体12の長手方向の長さは、口腔内スキャナ100の被写界が計測窓13から所定の範囲となるプローブに比べて短い。これにより、キャップ10Aは、計測窓13より離れた位置に被写界Sを移動させることができ、口腔内スキャナ100を大型化させることなく、撮像する被写界Sに自由度を与えることができる。そのため、キャップ10Aを取り付けた口腔内スキャナ100は、欠損歯の深い部分(例えば、根管の部分)の三次元形状のデータを取得することができる。
【0040】
また、口腔内スキャナ100は、口腔内の歯牙の形状を三次元データとして取得する三次元スキャナである。口腔内スキャナ100は、キャップ10,10Aと着脱可能に接続する筒部20を含む。
【0041】
さらに、口腔内スキャナ100は、キャップ10(第1キャップ)が取り付けられている場合、咬合面部分を含む歯牙の三次元データを取得し、キャップ10A(第2キャップ)が取り付けられている場合、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データを取得する。これにより、口腔内スキャナ100は、歯の浅い部分の三次元形状のデータと歯の深い部分の三次元形状のデータとを取得することができる。
【0042】
データ生成システムは、口腔内の歯牙の形状を三次元データとして取得する口腔内スキャナ100と、補綴物を作成するためのデータを生成するデータ生成装置と、を備える。なお、データ生成装置には、CADプログラムを実行する演算部60、CADプログラムを実行する補綴物生成装置90などが含まれる。口腔内スキャナ100は、口腔内スキャナ100の被写界が計測窓13から所定の範囲となるキャップ10(第1キャップ)が取り付けられた状態で、咬合面部分を含む歯牙の三次元データを取得し、口腔内スキャナ100の被写界が計測窓13より離れた位置から所定の範囲となるキャップ10A(第2キャップ)が取り付けられた状態で、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データを取得する。データ生成装置は、口腔内スキャナ100で取得した咬合面部分を含む歯牙の三次元データと、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データとに基づいて、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙と接する部分を少なくとも含む補綴物を作成するためのデータを生成する。これにより、データ生成システムは、喪失した歯牙の三次元データを考慮して補綴物を作成することができるので、最適な補綴物を作成することができる。
【0043】
データ生成システムで補綴物を作成するためのデータを生成するデータ生成方法は、以下のステップを含む。口腔内スキャナ100で、口腔内スキャナ100の被写界が計測窓13から所定の範囲となるキャップ10(第1キャップ)を取り付け、咬合面部分を含む歯牙の三次元データを取得するステップがある。口腔内スキャナ100で、口腔内スキャナ100の被写界Sが計測窓13より離れた位置から所定の範囲となるキャップ10A(第2キャップ)を取り付け、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データを取得するステップがある。データ生成装置で、口腔内スキャナ100で取得した咬合面部分を含む歯牙の三次元データと、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データとに基づいて、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙と接する部分を少なくとも含む補綴物を作成するためのデータを生成するステップがある。
【0044】
(実施の形態2)
実施の形態1では、筐体12の長手方向の長さが異なるキャップ10,10Aを用意し、このキャップ10,10Aを取り換えることで口腔内スキャナ100の被写界Sの位置を移動させていた。しかし、本実施の形態2では、同じキャップであっても口腔内スキャナの取り付け位置を変更する可変機構部を設けることで口腔内スキャナの被写界の位置を移動させることができる構成について説明する。なお、本実施の形態2において、実施の形態1で説明したキャップ、口腔内スキャナ、データ生成システムの構成と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を繰り返さない。
【0045】
図5は、本実施の形態2に係るキャップの構成の第一例を示す概略図である。
図5に示すキャップ10Bには、可変機構部として筐体12の内壁に溝15が2つ設けてある。一方の溝15は開口部11の近い位置に、他方の溝15は開口部11から遠い位置にそれぞれ設けてある。当該溝15に対応する突起部21が口腔内スキャナ100の筒部20に設けてある。
【0046】
溝15と突起部21とは嵌合することで筒部20に対するキャップ10Bの位置を固定することができる。そのため、
図5の上段のように2組の溝15と突起部21とが嵌合する位置(第2位置)でキャップ10Bを筒部20に取り付ける場合、筒部20の先端からミラー14までの距離が短くなり、筒部20からミラー14までの光路が短くなった分だけ計測窓13より離れた位置に被写界の位置をシフトさせることができる。
【0047】
一方、
図5の下段のようにキャップ10Bを筐体12の長手方向に距離Dだけ移動させ、1組の溝15と突起部21とが嵌合する位置(第1位置)でキャップ10Bを筒部20に取り付ける。この場合、筒部20からミラー14までの距離が長くなり、筒部20の先端からミラー14までの光路が長くなった分だけ計測窓13側の位置に被写界の位置をシフトさせることができる。
【0048】
図5で示した溝15および突起部21の構成は一例であり、溝15および突起部21の形状は図示した形状に限定されない。また、溝15と突起部21とを形成する位置をキャップ10Bと筒部20とで反対にしてもよい。さらに、溝15および突起部21を形成する個数は2組に限られず、より多くの溝15および突起部21を形成してもよい。
【0049】
次に、
図6は、本実施の形態2に係るキャップの構成の第二例を示す概略図である。
図6に示すキャップ10Aには、可変機構部としてキャップ10Aに取り付け可能なスペーサ10aが設けてある。スペーサ10aは、キャップ10Aの開口部11側に取り付けることで筐体12の開口部11側を延長することができる。
【0050】
そのため、
図6の上段のようにスペーサ10aを取り付けていないキャップ10Aのみの位置(第2位置)では、筒部20の先端からミラー14までの距離が短くなり、筒部20からミラー14までの光路が短くなった分だけ計測窓13より離れた位置に被写界の位置をシフトさせることができる。
【0051】
一方、
図6の下段のようにキャップ10Aにスペーサ10aを取り付けることで、キャップ10A自体を筐体12の長手方向に距離Dだけ移動させた位置(第1位置)でキャップ10Aを筒部20に取り付けることができる。この場合、筒部20からミラー14までの距離が長くなり、筒部20の先端からミラー14までの光路が長くなった分だけ計測窓13側の位置に被写界の位置をシフトさせることができる。
【0052】
図6で示したスペーサ10aの構成は一例であり、スペーサ10aの形状は図示した形状に限定されない。また、スペーサ10aは、キャップ10Aに取り付ける構造を有していなくてもよく、単にキャップ10Aと筒部20との間に配置されているだけでもよい。さらに、スペーサ10aは、一体の構成に限られず、多くの構成を組み合わせてもよい。すなわち、複数のスペーサ(それぞれ長さが異なっていてもよい)をキャップ10Aと筒部20との間に挿入して使用してもよいし、長さが異なる複数のスペーサ10aをあらかじめ用意しておき、その中から少なくとも1つを選択してキャップ10Aと筒部20との間に挿入して使用する形態でもよい。
【0053】
次に、
図7は、本実施の形態2に係るキャップの構成の第三例を示す概略図である。
図7に示すキャップ10Cには、可変機構部として筐体12の開口部11側にカム機構のリブ16が設けられている。一方、当該リブ16に対応する溝22が口腔内スキャナ100の筒部20に設けてある。
【0054】
溝22とリブ16とは嵌合することで筒部20に対するキャップ10Bの位置を固定することができる。そのため、
図7の上段のように1つのリブ16が開口部11側にある溝22と嵌合する位置(第2位置)でキャップ10Cを筒部20に取り付ける場合、筒部20の先端からミラー14までの距離が短くなり、筒部20からミラー14までの光路が短くなった分だけ計測窓13より離れた位置に被写界の位置をシフトさせることができる。
【0055】
一方、
図7の下段のように筒部20に対してキャップ10Cを回転させ、開口部11側の溝22にあったリブ16を筐体12の長手方向に距離Dだけ移動させた位置(第1位置)でキャップ10Cを筒部20に取り付ける。この場合、筒部20からミラー14までの距離が長くなり、筒部20の先端からミラー14までの光路が長くなった分だけ計測窓13側の位置に被写界の位置をシフトさせることができる。
【0056】
図7で示したカム機構の構成は一例であり、カム機構の形状は図示した形状に限定されない。また、カム機構は、リブ16と溝22とを形成する位置をキャップ10Cと筒部20とで反対にしてもよい。カム機構は、同等の機構に置き換えてもよい。
【0057】
次に、
図8は、本実施の形態2に係るキャップの構成の第四例を示す概略図である。
図8に示すキャップ10Dには、可変機構部として開口部11の端部に設けた切込み部11aが設けられている。一方、当該切込み部11aに対応して口腔内スキャナ100の筒部20には、キャップ10Dの開口部11と接する位置が異なる壁23a,23bが設けられている。
【0058】
切込み部11aと壁23a,23bとの接する位置により筒部20に対するキャップ10Dの位置(第2位置)を固定することができる。そのため、
図8の上段のように切込み部11aと壁23bとが接するようにキャップ10Dを筒部20に取り付ける場合、筒部20の先端からミラー14までの距離が短くなり、筒部20からミラー14までの光路が短くなった分だけ計測窓13より離れた位置に被写界の位置をシフトさせることができる。
【0059】
一方、
図8の下段のように筒部20に対してキャップ10Dを回転させ、開口部11の端部と壁23bとが接する位置(第1位置)でキャップ10Dを筒部20に取り付ける。この場合、キャップ10D自体を筐体12の長手方向に距離Dだけ移動してキャップ10Dを筒部20に取り付けることができ、筒部20からミラー14までの距離が長くなり、筒部20の先端からミラー14までの光路が長くなった分だけ計測窓13側の位置に被写界の位置をシフトさせることができる。
【0060】
図8で示した切込み部11aの構成は一例であり、切込み部11aの形状は図示した形状に限定されない。また、切込み部11aを筐体12に形成する個数も限定されない。
【0061】
このように、本実施の形態2に係るキャップ10A~10Dは、口腔内スキャナ100の少なくとも一部と接続するための開口部11を有する筐体12と、開口部11とは筐体12の反対側に設けられた計測窓13と、計測窓13から取り込んだ光を開口部11の方向に反射するミラー14と、筒部20の先端(入光部)からミラー14までの光路Lの長さを変更するため、口腔内スキャナ100に対する取り付け位置を可変する可変機構部と、を含む。これにより、キャップ10A~10Dは、計測窓13より離れた位置に被写界Sを移動させることができ、口腔内スキャナ100を大型化させることなく、撮像する被写界Sに自由度を与えることができる。そのため、キャップ10A~10Dを取り付けた口腔内スキャナ100は、欠損歯の深い部分(例えば、根管の部分)の三次元形状のデータを取得することができる。
【0062】
可変機構部は、筐体12の開口部11側を延長するスペーサ10aであってもよい。また、可変機構部は、開口部11側の筐体12の内面に異なる位置に複数設けられた口腔内スキャナ100と嵌合する溝15または突起部であってもよい。可変機構部は、筐体12の開口部11側に設けられたカム機構の溝またはリブ16であってもよい。可変機構部は、キャップ10Dを取り付ける向きにより口腔内スキャナ100に当接する位置が異なるように開口部11の端部に設けた切込み部11aであってもよい。
【0063】
さらに、口腔内スキャナ100は、第1位置にキャップ10A~10Dが取り付けられている場合、咬合面部分を含む歯牙の三次元データを取得し、第2位置にキャップ10A~10Dが取り付けられている場合、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データを取得する。これにより、口腔内スキャナ100は、歯の浅い部分の三次元形状のデータと歯の深い部分の三次元形状のデータとを取得することができる。
【0064】
データ生成システムは、口腔内の歯牙の形状を三次元データとして取得する口腔内スキャナ100と、補綴物を作成するためのデータを生成するデータ生成装置と、を備える。なお、データ生成装置には、CADプログラムを実行する演算部60、CADプログラムを実行する補綴物生成装置90などが含まれる。口腔内スキャナ100は、口腔内スキャナ100の被写界が計測窓13から所定の範囲となる第1位置にキャップ10A~10Dが取り付けられた状態で、咬合面部分を含む歯牙の三次元データを取得し、口腔内スキャナ100の被写界が計測窓13より離れた位置から所定の範囲となる第2位置にキャップ10A~10Dが取り付けられた状態で、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データを取得する。データ生成装置は、口腔内スキャナ100で取得した咬合面部分を含む歯牙の三次元データと、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データとに基づいて、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙と接する部分を少なくとも含む補綴物を作成するためのデータを生成する。これにより、データ生成システムは、喪失した歯牙の三次元データを考慮して補綴物を作成することができるので、最適な補綴物を作成することができる。
【0065】
データ生成システムで補綴物を作成するためのデータを生成するデータ生成方法は、以下のステップを含む。口腔内スキャナ100で、口腔内スキャナ100の被写界が計測窓13から所定の範囲となる第1位置にキャップ10A~10Dを取り付け、咬合面部分を含む歯牙の三次元データを取得するステップがある。口腔内スキャナ100で、口腔内スキャナ100の被写界Sが計測窓13より離れた位置から所定の範囲となる第2位置にキャップ10A~10Dを取り付け、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データを取得するステップがある。データ生成装置で、口腔内スキャナ100で取得した咬合面部分を含む歯牙の三次元データと、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データとに基づいて、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙と接する部分を少なくとも含む補綴物を作成するためのデータを生成するステップがある。
【0066】
(実施の形態3)
実施の形態1では、筐体12の長手方向の長さが異なるキャップ10,10Aを用意し、このキャップ10,10Aを取り換えることで口腔内スキャナ100の被写界Sの位置を移動させていた。しかし、本実施の形態3では、同じ長さのキャップであってもキャップの筐体内に光学素子が設けられたキャップを選択して使用することで口腔内スキャナの被写界の位置を移動させることができる構成について説明する。なお、本実施の形態3において、実施の形態1で説明したキャップ、口腔内スキャナ、データ生成システムの構成と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を繰り返さない。
【0067】
図9は、本実施の形態3に係るキャップの構成の一例を示す概略図である。
図9(a)に示すキャップ10Eには、筒部20の先端から計測窓13へ至る光路L1の途中に屈折率nのガラス平板(光学素子)17が設けてある。ガラス平板17を光路L1の途中に設けることで、例えば合焦法の原理を使用した口腔内スキャナ100の場合、被写界を規定するピント距離は、ガラス平板17を設けない場合に比べ光路L2だけ長くなる。そのため、キャップ10Eを取り付けた場合の口腔内スキャナ100の被写界は、光路L2だけ遠ざかる方向にシフトする。シフト量は、L2=(1-1/n)tの近似式で計算される。tは、ガラス平板17の厚みであり、例えばt=12mmとすると、屈折率nが1.6であれば、ガラス平板17による被写界のシフト量はL2=4.5mmとなる。ガラス平板17は例示であって、屈折率nを有する光学素子であればガラス以外、例えば光学プラスチック、透明セラミックスや、光学結晶等でもよい。
【0068】
また、ガラス平板17は1枚のガラス平板で構成されている場合に限定されず、複数枚のガラス平板で構成されていてもよい。複数枚のガラス平板で光学素子を構成する場合、
図9(b)のようにそれぞれ異なる位置に配置してもよい。
図9(b)に示すキャップ10Fには、筒部20の先端から計測窓13へ至る光路L1の途中に屈折率nのガラス平板18aが、計測窓13に屈折率nのガラス平板18bがそれぞれ設けてある。ガラス平板18aとガラス平板18bとの合計した厚みが、ガラス平板17の厚みにすることで、同じ被写界のシフト量を得ることができる。
【0069】
なお、キャップにガラス平板を設ける場合、ガラス平板が厚いと屈折効果による画像歪みが生じる。そのため、この歪みを校正する演算を口腔内スキャナ100で行う必要がある。具体的に、ガラス平板を設けたキャップを口腔内スキャナ100に取り付けた場合と、ガラス平板を設けていないキャップを口腔内スキャナ100に取り付けた場合とで制御部40は制御モードを切り替える。なお、制御モードに切り替える処理など、以下の制御部40での処理は、制御部40で行わずに演算部60で行ってもよい。制御部40は、口腔内スキャナ100に取り付けたキャップの種類については後述する判別手段を用いて判別し、取り付けたキャップの種類に応じた制御モードに自動的に切り替える。例えば、制御部40は、ガラス平板を設けキャップを口腔内スキャナ100に取り付けた場合、校正テーブルAを使用して三次元形状のデータを生成し、ガラス平板を設けていないキャップを口腔内スキャナ100に取り付けた場合、校正テーブルBを使用して三次元形状のデータを生成する。
【0070】
キャップに設ける光学素子は、ガラス平板だけでなくレンズでもよい。
図9(c)に示すキャップ10Gには、筒部20の先端から計測窓13へ至る光路L1の途中に凹レンズ(負レンズ)19が設けてある。凹レンズ19を光路L1の途中に設けることで、凹レンズ19を設けない場合に比べ光路L2だけ長くなる。そのため、キャップ10Gを取り付けた場合の口腔内スキャナ100の被写界は、光路L2だけ遠ざかる方向にシフトする。図示していないが、光路L1の途中に凸レンズ(正レンズ)を設けることで、凸レンズを設けない場合に比べ光路が短くなる。このようにレンズの有無や当該レンズの凹凸形状の異なるキャップを選択して筒部20に装着することによっても、ガラス平板の場合と同様に被写界の位置のシフト量を調整することができる。
【0071】
なお、キャップにレンズを設ける場合、レンズの倍率により画像の視野に差が生じる。そのため、この視野の差を校正する演算を口腔内スキャナ100(または演算部60)で行う必要がある。具体的に、レンズを設けキャップを口腔内スキャナ100に取り付けた場合と、レンズを設けていないキャップを口腔内スキャナ100に取り付けた場合とで制御部40は制御モードを切り替える。制御部40は、口腔内スキャナ100に取り付けたキャップの種類については後述する判別手段を用いて判別し、取り付けたキャップの種類に応じた制御モードに自動的に切り替える。例えば、制御部40は、凹レンズを設けキャップを口腔内スキャナ100に取り付けた場合、校正テーブルAを使用して三次元形状のデータを生成し、レンズを設けていないキャップを口腔内スキャナ100に取り付けた場合、校正テーブルBを使用して三次元形状のデータを生成し、凸レンズを設けキャップを口腔内スキャナ100に取り付けた場合、校正テーブルCを使用して三次元形状のデータを生成する。
【0072】
このように、本実施の形態3に係るキャップ10E~10Gは、口腔内スキャナ100の少なくとも一部と接続するための開口部11を有する筐体12と、開口部11とは筐体12の反対側に設けられた計測窓13と、計測窓13から取り込んだ光を開口部11の方向に反射するミラー14と、口腔内スキャナ100の被写界が計測窓13より離れた位置から所定の範囲となるように被写界をシフトさせる光学素子(ガラス平板17,18a,18b、凹レンズ19)と、を含む。これにより、キャップ10E~10Gは、計測窓13より離れた位置に被写界Sを移動させることができ、口腔内スキャナ100を大型化させることなく、撮像する被写界Sに自由度を与えることができる。そのため、キャップ10E~10Gを取り付けた口腔内スキャナ100は、欠損歯の深い部分(例えば、根管の部分)の三次元形状のデータを取得することができる。
【0073】
(実施の形態4)
実施の形態1および実施の形態3では、口腔内スキャナ100の被写界をシフトさせるために、異なる種類のキャップを口腔内スキャナ100に取り付ける必要がある。そのため、口腔内スキャナ100は、どの種類のキャップが取り付けてあるのかを判別する必要がある。また、実施の形態2であっても、口腔内スキャナ100のどの位置にキャップを取り付けたかにより被写界をシフトさせることができるため、取り付け位置を判別する必要がある。特に実施の形態3のように、口腔内スキャナ100に取り付けるキャップの種類に応じて校正テーブルを変えなければならないような状況において、上記判別は重要であり、その判別が自動的に行われることで利便性が向上する。
【0074】
図10は、本実施の形態4に係るキャップの種類の判別手段の一例を説明するための図である。口腔内スキャナ100にキャップを取り付けて対象物を撮像する場合、撮像する視野の一部にキャップの内壁、ミラー14の淵の一部分を映り込むように設計することができる。
図10(a)に示すように口腔内スキャナ100にキャップ10Aを取り付けた場合、口腔内スキャナ100で撮像する視野にキャップの内壁V2、ミラー14の淵V1,V3の一部分が映り込む。キャップ10Aは、筐体12の長手方向の長さが短いため、
図10(b)に示すキャップ10を取り付けた場合と比べ、口腔内スキャナ100の視野に映り込むキャップの内壁V2、ミラー14の淵V1,V3の見え方が異なる。
【0075】
制御部40(または演算部60)は、このキャップの内壁V2、ミラー14の淵V1,V3の見え方の違いを利用して、口腔内スキャナ100に取り付けたキャップが、根管用キャップであるキャップ10Aなのか、標準キャップであるキャップ10なのかを自動判別することができる。
【0076】
制御部40は、同様の手段を用いて、キャップがどの位置に取り付けられているのか、光学素子を設けたキャップか否かについても自動判別することができる。制御部40は、キャップの自動判別をおこなうことで、取り付けられているキャップに応じて、口腔内スキャナ100の制御モードを自動的に変更することが可能となる。具体的に、制御部40は、校正テーブルや、照明光の色や、発光強度を変える、三角法の場合は見込み角を変える、ズームレンズの倍率を変える、レンズの絞り値を変えることができる。また、ミラーの淵よりも外側に写った画像を、無効データとして除外する処理を行う際の、無効とする領域の大きさを、キャップの種類の判別結果に応じて変えることができる。
【0077】
実施の形態1および実施の形態3のように、口腔内スキャナ100に取り付けるキャップを異なる種類のキャップに取り換える場合、キャップの内壁V2、ミラー14の淵V1,V3の見え方の違いを利用してキャップの種類を判別するのではなく、各々のキャップに設けた識別情報に基づいてキャップの種類を判別してもよい。
【0078】
各々のキャップに設ける識別情報として、例えばRFID(radio frequency identifier)を内蔵したICチップ、2次元コードやバーコード、キャップの内壁または外壁の色などがある。具体的に、キャップの外壁に2次元コードを設けた場合の判別手段について図を用いて説明する。
図11は、本実施の形態4に係るキャップの種類の判別手段の別の一例を説明するための図である。
【0079】
図11(a)では、キャップ10Aの外壁にマーキングされた2次元コードを、口腔内スキャナ100で撮像する。口腔内スキャナ100で撮像した画像を制御部40(または演算部60)で解析し、制御部40は、2次元コードを撮像したキャップ10Aの種類を判別する。
図11(b)では、種類を判別したキャップ10Aを口腔内スキャナ100に取り付ける。なお、キャップの筐体12の内側に識別情報が配置されていてもよく、キャップ10を筒部20に装着した場合に(あるいは半分だけ筒部に挿入した位置等、挿入作業の途中に)識別情報が画像に映るような位置に識別情報を配置してもよい。この場合、一度バーコード等を筒部に向けて読み取ってから、筒部に装着するという2段階かかっていた作業が、1段階少なくすることができ、操作者の作業性が向上する。
【0080】
このように、本実施の形態4では、口腔内スキャナ100の被写界が計測窓13から所定の範囲となるキャップ10(第1キャップ)、口腔内スキャナ100の被写界が計測窓13より離れた位置から所定の範囲となるキャップ10A(第2キャップ)かを判別するか、口腔内スキャナ100の被写界が計測窓13から所定の範囲となる第1位置にキャップ10が取り付けられているか、口腔内スキャナ100の被写界が計測窓13より離れた位置から所定の範囲となる第2位置にキャップ10が取り付けられているかを判別するかが可能な制御部40(判別部)を備えている。さらに、制御部40で判別された結果に応じて口腔内スキャナ100での制御モードを制御部40(モード変更部としても機能する)で変更する。これにより、本実施の形態4では、キャップの種類に応じた最適な制御モードで口腔内スキャナ100を制御することが可能となる。
【0081】
(実施の形態5)
実施の形態1では、
図4で示したように異なる種類のキャップを取り付け口腔内スキャナ100で取得した三次元形状のデータを組み合わせて表示する例を示した。本実施の形態5では、さらに別の情報を組み合わせて表示する例を説明する。
図12は、本実施の形態5に係る口腔内スキャナの表示例を説明するための図である。
【0082】
図12では、CT装置で取得したCTデータを、口腔内スキャナ100で取得した三次元形状のデータとを組み合わせて表示する例を示している。
【0083】
実施の形態1で説明した
図4(e)に示す歯の三次元形状のデータでは、根管用キャップを取り付けた口腔内スキャナ100で取得した三次元形状のデータと、通常キャップを取り付けた口腔内スキャナ100で取得した三次元形状のデータとを組み合わされている。そのため、歯の三次元形状のデータは浅い部分と深い部分のデータとが含まれる。使用者は、表示部50に表示された三次元形状のデータから歯列弓全体の形状、および欠損した歯の根管の形状を拡大して観察することができる。
【0084】
さらに、
図12(a)では、欠損した歯の根管の位置にCT装置で取得したCTデータを組み合わせている(ここでは例として、CTデータから特定の断層面を切り出したものを、歯の三次元データ(3Dデータ)とが重ねて表示されている状態を示している)。そのため、CTデータを組み合わせた歯の三次元形状のデータは、
図12(b)に示すように、口腔内スキャナ100で見えない部分(例えば、根尖などの生体内部画像)のデータも含まれる。使用者は、表示部50に表示された三次元形状のデータから歯列弓全体の形状、および欠損した歯の根管の形状を拡大して観察することだけでなく、生体内部の根尖までも一体として把握することができる。ここで、CTデータは、
図12(a)(b)のように2次元的な断面データとして重畳表示してもよいし、CTデータをサーフェスレンダリングした結果を3D的に重畳表示してもよい。このような異種データの重ねあわせは、口腔内スキャナでスキャンした三次元データと、前述のサーフェスレンダリング結果の表面データとを、ICP(Iterative Closest Point)アルゴリズム等の公知の方法を使用して座標調整することで、重ねあわせることができる。
【0085】
このように、本実施の形態5では、口腔内スキャナ100が、咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分が喪失したCT画像を取得した場合、咬合面部分を含む歯牙の三次元データと、咬合面部分が喪失し咬合面部分よりも歯槽骨側にある部分を含む歯牙の三次元データと、CT画像とを重ねて表示部50に表示させる。これにより、本実施の形態5では、口腔内スキャナ100では得られない情報を、三次元形状のデータと組み合わせて使用者に提供することができる。
【0086】
なお、歯の三次元形状のデータに組み合わせることができる情報は、CT装置で取得したCTデータに限定されず、OCT装置で取得した断層データ、X線レントゲン装置による二次元的なX線画像、超音波診断画像、赤外線画像など他の装置で取得した生体内部情報でもよい。
【0087】
(変形例)
本実施の形態1~5に係るキャップおよび撮像装置は口腔内スキャナに用いると説明したが、これに限定されるものではない。例えば、口腔内カメラ、光干渉断層診断装置(Optical Coherence Tomography: OCT)、紫外・赤外・テラヘルツイメージング装置、蛍光イメージング装置などの撮像装置に対して、本実施の形態1~5に係るキャップおよび撮像装置を用いてもよい。
【0088】
また、本実施の形態1~5に係る撮像装置の撮像の対象は、人間の根管治療を例に説明を行ったが、別の症例でも適用が可能である。例えば歯冠部から遠い位置に設置されたインプラント用アバットメントの評価や、人間よりも長い歯を有する動物の歯科診療においても同様に有用である。また、口腔内の歯や歯肉に限ったものではなく、外耳道などの生体組織や、建築物の壁の隙間、配管の内部や、空洞を有する工業製品などであっても良く、本発明は、狭隘で死角の生じやすい空間内を計測/観察する用途に対し広く適用可能である。
【0089】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
10,10A~10G キャップ、11 開口部、12 筐体、13 計測窓、14 ミラー、20 筒部、30 光学計測部、40 制御部、45 電源部、50 表示部、60 演算部、100 口腔内スキャナ。