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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】拡翼掘削機と壁杭の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02F 5/02 20060101AFI20230710BHJP
   E21D 1/06 20060101ALI20230710BHJP
   E02D 5/20 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
E02F5/02 E
E21D1/06
E02F5/02 L
E02D5/20 102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020115236
(22)【出願日】2020-07-02
(65)【公開番号】P2022013000
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】平山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】矢島 清志
(72)【発明者】
【氏名】岩田 曉洋
(72)【発明者】
【氏名】秋月 通孝
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 徹
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-100124(JP,A)
【文献】特開昭63-125729(JP,A)
【文献】実開平06-034039(JP,U)
【文献】特開平09-158241(JP,A)
【文献】特開2005-240334(JP,A)
【文献】特開2009-002156(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00020779(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 5/02
E21D 1/06
E02D 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースマシンと、前記ベースマシンからワイヤにて吊り下げられている拡翼掘削体と、を有し、直方体状の壁杭の二つの広幅面の少なくとも一方に拡幅部を有する壁杭の孔壁を造成する、拡翼掘削機であって、
前記拡翼掘削体は、
平面視において前記壁杭の壁厚に直交する方向に延出する回動軸を有し、孔壁に反力を取るスタビライザを有する架構と、
前記回動軸に対して前記壁杭の壁厚方向に回動自在な拡翼カッタと、
前記回動軸に対して前記拡翼カッタを回動させる回動駆動手段と、
前記拡翼カッタを回転させる回転駆動手段と、
前記反力を特定する反力特定手段と、
コントローラと、を有し、
前記コントローラは、
前記スタビライザを駆動するスタビライザ駆動部と、
前記回動駆動手段と前記回転駆動手段を駆動する拡翼カッタ駆動部と、
前記反力特定手段にて特定された特定反力値と、反力閾値とを格納する格納部と、
前記反力閾値と前記特定反力値を比較する演算部と、を有し、
前記演算部にて前記特定反力値が前記反力閾値を超えたと判断された際に、前記拡翼カッタ駆動部は、前記回動駆動手段に対して前記拡翼カッタの回動速度を下げる制御を実行し、かつ、前記回転駆動手段に対して前記拡翼カッタの回転速度を上げる制御を実行することを特徴とする、拡翼掘削機。
【請求項2】
前記架構の外形は、前記回動軸の長手方向に長い正面視長方形の直方体であり、
前記スタビライザは、前記架構における前記回動軸の長手方向の幅を有する帯状を呈し、
直方体の前記架構の二つの広幅面のそれぞれの上下において、帯状の前記スタビライザが該広幅面に直交する方向に張り出し自在に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の拡翼掘削機。
【請求項3】
前記反力特定手段として、以下のいずれか一種を備えていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の拡翼掘削機。
A:前記スタビライザに装備されている圧力センサ、
B:前記コントローラに内蔵され、前記拡翼カッタが回転する際の回転トルクと前記拡翼カッタが回動する際の回動トルクの少なくとも一方のトルク値と、前記反力との関係に基づいて該反力を特定する、反力特定部。
【請求項4】
直方体状の壁杭の一般部と、該一般部の二つの広幅面の少なくとも一方にある拡幅部と、を有する壁杭の造成方法であって、
一般部掘削機により、前記直方体状の壁杭の一般部造成孔を造成するA工程と、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の拡翼掘削機により、前記スタビライザにて前記孔壁に反力を取り、該反力を随時特定しながら、拡翼カッタを回転させ、かつ拡幅方向に回動させて、前記一般部造成孔の二つの広幅面の少なくとも一方に拡幅部造成孔を造成し、この際、前記一般部造成孔の下端に余掘り部を設けておき、該余掘り部に前記拡幅部造成孔を造成した際の掘削泥土を溜めておくB工程と、
少なくとも前記一般部掘削機により、前記余掘り部に溜められている掘削泥土を排泥するC工程と、
前記一般部造成孔に鉄筋籠を設置し、該一般部造成孔と前記拡幅部造成孔にコンクリートを打設して拡幅部を有する壁杭を施工するD工程と、を有し、
前記B工程では、特定された前記反力が、予め設定されている反力閾値を超えた際に、前記拡翼カッタの回転速度を上げ、回動速度を下げる制御を実行することを特徴とする、壁杭の施工方法。
【請求項5】
前記壁杭の施工方法は、前記拡翼掘削体の有する前記回動軸を前記一般部造成孔における設計中心軸に位置決めする際の、前記スタビライザのストローク量を特定するE工程をさらに有し、前記B工程に先行して前記E工程を行い、
前記B工程では、前記E工程において前記回動軸が前記設計中心軸に位置決めされた前記拡翼掘削体を回動させることを特徴とする、請求項に記載の壁杭の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡翼掘削機と壁杭の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続地中壁等の壁杭の支持力強化手法として、壁杭の有する二つの広幅面の一方もしくは双方に拡幅部(もしくは、拡底部、拡張部)を形成する(片側拡底、両側拡底)手法が挙げられる。この拡幅部により、壁杭の支持力の増加に加えて、壁杭の引抜き抵抗力の増加も図ることができる。そのため、アスペクト比が大きく、転倒モーメントが卓越して引抜き力が課題となり得る高層ビルや超高層ビル、高層タワー等の基礎杭として、拡幅部を有する壁杭は好適となる。尚、この拡幅部は、「突起」や「節」なとど称されることもあり、壁厚方向に直交する壁の延伸方向に間欠的に複数の突起状もしくは節状の拡幅部が形成される形態や、壁の延伸方向に連続する拡幅部が形成される形態などがある。
【0003】
従来、上記する拡幅部を有する壁杭の施工方法が種々提案されている。一つの施工方法は、鉛直方向を軸として回転するケリーバーと、このケリーバーの先端に取り付けられ、ケリーバーの回転に伴って回転して地盤を掘削する径方向に開閉自在なバケットと、を備える掘削装置を用いて、節状の拡張部が形成された杭を施工する杭施工方法である。より具体的には、予め形成された掘削孔に閉じた状態のバケットを挿入する工程と、バケットを開きながらケリーバーを所定の角度範囲で正回転および逆回転を繰り返して、バケットで掘削孔の内壁面の一部を掘削することにより、節状の拡張部に対応する拡張空間を形成する工程と、掘削孔の中にコンクリートを打設して節状の拡張部が形成された杭を形成する工程とを有する(例えば、特許文献1参照)。
他の施工方法は、平面形状が矩形状の矩形柱部を有する軸部と、地盤の支持層において軸部の底部が拡大した平面形状が円状の拡底部とを備え、拡底部は軸部の底部における全周に亘って側方に拡大するように構成されている杭の構築方法である。より具体的には、軸部を形成するための孔を掘削する第1工程と、第1工程の後に孔の底部を拡底する第2工程とを有する。第1工程では、地上から吊り下げられる掘削機本体、掘削機本体に設けられて水平軸の周りに回転する掘削歯、掘削機本体の姿勢を検出する姿勢検出装置、及び掘削機本体の姿勢を修正する姿勢修正装置を有するリバースサーキュレーション型で水平多軸型の掘削機を使用して掘削機本体の姿勢を姿勢検出装置により検出し、姿勢修正装置にて掘削機本体の姿勢を修正しながら孔を掘削する。第2工程では、複数の軸が接続されたロッド、ロッドの先端に取付けられた掘削機本体、及び掘削機本体に回転半径を調整可能に設けられた拡幅ビットを有するリバースサーキュレーション型の掘削機を使用して、第1工程で掘削した孔の底部を拡底する(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-45780号公報
【文献】特開2012-167450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2のいずれの壁杭の施工方法においても、拡底掘削機のベースマシンとしてアースドリル掘削機が適用され、ケリーバーの先端に拡底バケットを搭載し、所定の深度において拡底バケットを開き、バケットを回転させることにより拡底掘削を行う。このようにケリーバーを用いて拡底掘削する場合、駆動モータが地上部にあることから駆動トルクが低減され、掘削可能深度に限界があるといった課題を有している。また、例えば特許文献1においては、節状の拡張部のための孔を長方形状の掘削孔の一方側に形成することにより、隣地境界と干渉することなく拡張部を有する壁杭を施工できるとしている。しかしながら、ケリーバーにて拡底バケットを支持しながら掘削を行う方法であることから、掘削時の反力にてケリーバーが押されて拡底バケットが位置ずれし、掘削精度が低下するといった課題を有している。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、多様な掘削深度に対応でき、掘削精度に優れた拡翼掘削機と壁杭の施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による拡翼掘削機の一態様は、
ベースマシンと、前記ベースマシンからワイヤにて吊り下げられている拡翼掘削体と、を有し、直方体状の壁杭の二つの広幅面の少なくとも一方に拡幅部を有する壁杭の孔壁を造成する、拡翼掘削機であって、
前記拡翼掘削体は、
平面視において前記壁杭の壁厚に直交する方向に延出する回動軸を有し、孔壁に反力を取るスタビライザを有する架構と、
前記回動軸に対して前記壁杭の壁厚方向に回動自在な拡翼カッタと、
前記回動軸に対して前記拡翼カッタを回動させる回動駆動手段と、
前記拡翼カッタを回転させる回転駆動手段と、
前記反力を特定する反力特定手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、ケリーバーを適用することなく、ワイヤにて吊り下げられている拡翼掘削体を適用する(ワイヤリングによる拡翼掘削体の投入)ことにより、拡翼掘削体が地中にて駆動できることから、多様な掘削深度に対応しながら壁杭の拡幅部の孔壁を造成することができる。また、スタビライザにて孔壁に反力を取りながら拡翼掘削体の姿勢制御を行うことにより、優れた掘削精度の下で壁杭の拡幅部の孔壁を造成することができる。さらに、スタビライザが孔壁から受ける反力を特定する反力特定手段を備えることにより、スタビライザから過度の押圧力を地盤に付与して地盤が崩壊することを防止でき、かつ、反力特定手段により特定される反力に基づいてスタビライザのストローク量を調整することにより、拡翼掘削体の位置調整を精度よく行うことができ、このことによっても優れた掘削精度の下で壁杭の拡幅部の孔壁を造成することを可能にする。
【0009】
本態様によれば、ケリーバーを適用することなく、ワイヤにて吊り下げられている拡翼掘削体を適用する(ワイヤリングによる拡翼掘削体の投入)ことにより、拡翼掘削体が地中にて駆動できることから、多様な掘削深度に対応しながら壁杭の拡幅部の孔壁を造成することができる。さらに、スタビライザにて孔壁に反力を取りながら拡翼掘削体の姿勢制御を行うことにより、優れた掘削精度の下で壁杭の拡幅部の孔壁を造成することができる。本態様の拡翼掘削機では、拡翼掘削体をワイヤにて吊り下げるベースマシンとして、クローラクレーンやトラッククレーン等を適用することができる。拡翼掘削体の有する架構において壁杭の壁厚に直交する方向に回動軸が延出し、この回動軸に対して拡翼カッタが壁杭の壁厚方向に回動自在に取り付けられている。すなわち、従来の透かし掘り掘削工法(例えばSATT工法)のように、壁杭の壁厚方向に直交する方向(壁杭の延長方向)に拡翼カッタが回動して、埋設物等の直下を掘削する方法に対して、拡翼カッタの回動方向が90度相違する。直方体状の壁杭内にある回動軸を中心に拡翼カッタが回動しながら掘削を行うことにより、二つの広幅面の双方に拡幅部の孔壁を造成できることは勿論のこと、二つの広幅面の一方側に官民境界等の隣地境界が存在する場合は、隣地境界の反対側となる広幅面の片方側にのみ拡幅部の孔壁を造成することができる。
【0010】
また、本発明による拡翼掘削機の他の態様において、前記架構の外形は、前記回動軸の長手方向に長い正面視長方形の直方体であり、
前記スタビライザは、前記架構における前記回動軸の長手方向の幅を有する帯状を呈し、
直方体の前記架構の二つの広幅面のそれぞれの上下において、帯状の前記スタビライザが該広幅面に直交する方向に張り出し自在に設けられていることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、拡翼掘削体を構成する架構の外形が回動軸の長手方向に長い正面視長方形の直方体である形態において、スタビライザが架構における回動軸の長手方向の幅を有する大きな面積の帯状を呈していて、このスタビライザが直方体の架構の二つの広幅面のそれぞれの上下において張り出し自在に取り付けられていることにより、スタビライザが孔壁を押圧する際の単位面積当たりの押圧力を可及的に低減することができる。このことにより、スタビライザにて孔壁を押圧した際に孔壁が崩壊することを効果的に抑制できる。
【0012】
また、本態様による拡翼掘削機の他の態様において、前記拡翼掘削機はさらにコントローラを有し、
前記コントローラは、
前記スタビライザを駆動するスタビライザ駆動部と、
前記回動駆動手段と前記回転駆動手段を駆動する拡翼カッタ駆動部と、
前記反力特定手段にて特定された特定反力値と、反力閾値とを格納する格納部と、
前記反力閾値と前記特定反力値を比較する演算部と、を有し、
前記演算部にて前記特定反力値が前記反力閾値を超えたと判断された際に、前記拡翼カッタ駆動部は、前記回動駆動手段に対して前記拡翼カッタの回動速度を下げる制御を実行し、かつ、前記回転駆動手段に対して前記拡翼カッタの回転速度を上げる制御を実行することを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、コントローラにおいて、反力特定手段にて特定された特定反力値と反力閾値とが比較され、特定反力値が反力閾値を超えたと判断された際に拡翼カッタ駆動部による所定の制御が実行されることにより、スタビライザによる孔壁の過度な押圧とこのことに起因する孔壁崩壊を抑制することができる。コントローラによる具体的な制御は、拡翼カッタ駆動部により、回動駆動手段に対して拡翼カッタの回動速度を下げる制御と、回転駆動手段に対して拡翼カッタの回転速度を上げる制御である。拡翼カッタの回動速度を下げる制御により、拡翼カッタが回動する際に孔壁に付与される押圧力(押し付け力、押し込み力)が低減される。また、拡翼カッタの回動速度を低減しながら拡翼カッタの回転速度を上げることにより、回転速度の速い拡翼カッタにて孔壁が速やかに緩められることから、結果として拡翼カッタから孔壁に付与される押圧力をより一層低減できるとともに、回転速度の速い拡翼カッタにより掘削性が高められ、効率的に拡幅部造成孔の造成を行うことができる。
【0014】
また、本発明による拡翼掘削機の他の態様は、前記反力特定手段として、以下のいずれか一種を備えていることを特徴とする。
A:前記スタビライザに装備されている圧力センサ、
B:前記コントローラに内蔵され、前記拡翼カッタが回転する際の回転トルクと前記拡翼カッタが回動する際の回動トルクの少なくとも一方のトルク値と、前記反力との関係に基づいて該反力を特定する、反力特定部。
【0015】
本態様によれば、スタビライザに装備されている圧力センサにて測定された測定反力値、もしくは、コントローラの内部にある反力特定部(圧力センサと反力特定部はいずれも反力特定手段の一例)にて特定された特定反力値が反力閾値と比較されることにより、高精度にスタビライザのストローク量を制御することが可能になる。ここで、スタビライザに圧力センサが装備されている形態では、圧力センサにて計測された測定反力値がコントローラの受信部にて受信され、受信部から格納部に測定反力値が格納される。この形態では、測定反力値が特定反力値となる。
一方、コントローラにある反力特定部にて反力値が特定される場合は、回転駆動手段により特定される拡翼カッタの回転トルクや、回動駆動手段により特定される拡翼カッタの回動トルク(地盤に対する押し込みトルク)が、特定反力値としてコントローラの受信部にて受信される。すなわち、この形態では、特定される回転トルクや回動トルクが特定反力値に含まれる。一方、施工場所における地山反力(もしくは地山強度)と、この地山反力を生じさせる回転トルクや回動トルクとの相関を、実施工に先行する試験施工により、もしくは、過去の同様な地盤における経験則等により特定しておき、これらの相関データをコントローラの格納部に格納しておく。これらいずれか一方の形態の反力特定手段により特定された特定反力値に基づき、スタビライザのストローク量が制御されることになる。
【0016】
また、本態様による拡翼掘削機では、回動軸の長手方向に複数の拡翼カッタが回動自在に並設されているのが好ましい。
この構成によれば、回動軸の長手方向にある複数の拡翼カッタが回動して掘削することにより、壁杭の延長方向に延びる拡幅部の孔壁を効率的に造成することができる。例えば、一つの回動軸に対して複数の拡翼カッタが回動自在に取り付けられている、一列多軸型の拡翼掘削機において、回動軸を中心に全ての拡翼カッタを同一方向である例えば時計回りに回動させることにより、直方体状の壁杭の二つの広幅面の一方に拡幅部の孔壁が造成される。次いで、回動軸を中心に全ての拡翼カッタを同一方向である他の反時計回りに回動させることにより、直方体状の壁杭の二つの広幅面の他方に拡幅部の孔壁を造成することができる。
【0017】
また、本態様による拡翼掘削機は、平面視において複数の回動軸が間隔を置いて並設し、それぞれの回動軸の長手方向に複数の拡翼カッタが回動自在に並設されていてもよい。
この構成によれば、複数の回動軸が間隔を置いて並設し、それぞれの回動軸の長手方向にある複数の拡翼カッタが回動して掘削することにより、壁杭の延長方向に延びる拡幅部の孔壁をより一層効率的に造成することができる。例えば、並設する二つの回動軸に対して複数の拡翼カッタが回動自在に取り付けられている、二列多軸型の拡翼掘削機において、一方の回動軸に取り付けられている全ての拡翼カッタを同一方向である例えば時計回りに回動させ、同時に、他方の回動軸に取り付けられている全ての拡翼カッタを同一方向である他の反時計回りに回動させることにより、直方体状の壁杭の二つの広幅面の双方に拡幅部の孔壁を同時に造成することができる。
【0018】
また、本態様による拡翼掘削機において、拡翼掘削機は揚泥ポンプをさらに有し、拡翼カッタは、回動軸に対して回動するシャフトと、シャフトの周囲に配設されている掘削ビットとを有し、複数の拡翼カッタのうち、少なくとも一つの拡翼カッタの有するシャフトには、揚泥ポンプに連通して掘削泥が通過する排泥通路が形成されていてもよい。
この構成によれば、拡幅部の孔壁を造成した際に直方体状の壁杭の内部に溜まる掘削泥土を、拡翼カッタの有するシャフト内の排泥通路を介して揚泥ポンプにて排泥することができる。そのため、例えば、直方体状の壁杭(壁杭一般部)の孔壁を造成する際に適用される排泥機構を有する例えば回転式掘削機と、拡幅部の孔壁を造成する際に適用される拡翼掘削機とを交互に入れ替えることなく、拡翼掘削機により、拡幅部の孔壁を造成と発生した掘削泥土の排泥を行うことが可能になる。
【0019】
また、本態様による拡翼掘削機において、拡翼掘削機は給水ポンプをさらに有し、複数の拡翼カッタのうち、少なくとも一つの拡翼カッタ(例えば、三本の拡翼カッタのうちの中央の拡翼カッタ)の有するシャフトは、内管と外管を有する二重管構造を備えており、内管と外管のいずれか一方は排泥通路であり、他方は給水ポンプから提供された流体を掘削ビットに給水する給水通路であってもよい。例えば、内管と外管の間に給水を行い、内管を介して排泥される形態では、外管に注水孔を設け、当該注水孔を介して内管と外管の間に給水してもよいし、地上から内管と外管の間に給水を行ってもよい。この構成によれば、例えば粘着力のあるシルト層等を拡翼カッタが掘削した際に、掘削ビットに掘削泥土が付着した場合においても、給水ポンプから提供された流体を給水通路を介して掘削ビットに供給することにより掘削ビットから掘削泥土を取り除くことができる。そのため、掘削ビットに掘削泥土が付着して掘削不能になるといった問題は生じない。
また、拡翼カッタの先端にある土砂の粒径が大きい場合には、拡翼カッタの先端部で閉塞する恐れがあることから、拡翼カッタの先端部には粒径の大きな土砂をはね除ける棒状部材が設けられていてもよく、この構成により円滑な排泥が可能になる。
【0020】
また、本発明による壁杭の施工方法の一態様は、
直方体状の壁杭の一般部と、該一般部の二つの広幅面の少なくとも一方にある拡幅部と、を有する壁杭の造成方法であって、
一般部掘削機により、前記直方体状の壁杭の一般部造成孔を造成するA工程と、
前記拡翼掘削機により、前記スタビライザにて前記孔壁に反力を取り、該反力を随時特定しながら、拡翼カッタを回転させ、かつ拡幅方向に回動させて、前記一般部造成孔の二つの広幅面の少なくとも一方に拡幅部造成孔を造成し、この際、前記一般部造成孔の下端に余掘り部を設けておき、該余掘り部に前記拡幅部造成孔を造成した際の掘削泥土を溜めておくB工程と、
少なくとも前記一般部掘削機により、前記余掘り部に溜められている掘削泥土を排泥するC工程と、
前記一般部造成孔に鉄筋籠を設置し、該一般部造成孔と前記拡幅部造成孔にコンクリートを打設して拡幅部を有する壁杭を施工するD工程と、を有し、
前記B工程では、特定された前記反力が、予め設定されている反力閾値を超えた際に、前記拡翼カッタの回転速度を上げ、回動速度を下げる制御を実行することを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、一般部掘削機による一般部造成孔(もしくはガイド造成孔)の造成と、本発明による拡翼掘削機による拡幅部造成孔の造成により、直方体状の壁杭の一般部とこの一般部の二つの広幅面の少なくとも一方にある拡幅部とを有する壁杭の孔壁を効率的に造成することができる。一般部造成孔の造成の後、拡幅部造成孔の造成に際しては、一般部造成孔の下端に余掘り部を設けておくことにより、拡幅部造成孔を造成した際に発生する掘削泥土を一時的に仮溜めしておくことができ、その後に一般部掘削機による排泥をスムーズに行うことができる。さらに、B工程では、スタビライザが孔壁に取っている反力を随時特定し、特定された反力が、予め設定されている反力閾値を超えた際に、拡翼カッタの回転速度を上げ、回動速度を下げる制御を実行することにより、拡翼カッタが回動する際に孔壁に付与される押圧力を低減でき、回転速度の速い拡翼カッタにて孔壁を速やかに緩めることにより掘削性が高められることから、孔壁崩壊を抑制しながら効率的に拡幅部造成孔の造成を行うことができる。
【0022】
ここで、「一般部掘削機」としては、例えば、排泥機構を有する水平多軸型掘削機等が挙げられ、本発明による拡翼掘削機とは異なる形態の掘削機である。また、C工程における「少なくとも一般部掘削機により余掘り部に溜められている掘削泥土を排泥する」とは、水平多軸型掘削機等の一般部掘削機のみにより掘削泥土を排泥することの他に、一般部掘削機に加えて本発明による拡翼掘削機により掘削泥土を排泥することが含まれる。例えば、上記するように、拡翼カッタの有するシャフト内の排泥通路を介して揚泥ポンプにて排泥する形態の拡翼掘削機を適用する場合には、後者の排泥形態を適用することができる。
【0023】
尚、本態様の壁杭の施工方法は、B工程とC工程を、一般部造成孔の二つの広幅面に対してそれぞれ行ってもよい。この施工方法によれば、例えば本発明による一列多軸型の拡翼掘削機を適用することにより、B工程とC工程にて直方体状の一般部造成孔の二つの広幅面の一方に拡幅部造成孔を造成し、次いで、同様にB工程とC工程にて一般部造成孔の広幅面の他方にも拡幅部造成孔を造成することができる。
【0024】
また、本態様の壁杭の施工方法は、複数の回動軸が並設されている拡翼掘削機を使用する場合において、B工程とC工程を、一般部造成孔の二つの広幅面に対して同時に行ってもよい。この施工方法によれば、例えば本発明による二列多軸型の拡翼掘削機を適用することにより、B工程とC工程にて、直方体状の一般部造成孔の二つの広幅面の双方に拡幅部造成孔を同時に造成することができる。
【0025】
また、本発明による壁杭の施工方法の他の態様は、前記拡翼掘削体の有する前記回動軸を前記一般部造成孔における設計中心軸に位置決めする際の、前記スタビライザのストローク量を特定するE工程をさらに有し、前記B工程に先行して前記E工程を行い、
前記B工程では、前記E工程において前記回動軸が前記設計中心軸に位置決めされた前記拡翼掘削体を回動させることを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、拡翼掘削体の有する回動軸を一般部造成孔における設計中心軸に位置決めする際の、スタビライザのストローク量を特定するE工程をさらに有することにより、スタビライザの制御にて拡翼掘削体の回動軸を設計中心軸に精緻に位置決めした後、B工程において拡幅部造成孔を精度よく造成することが可能になる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の拡翼掘削機と壁杭の施工方法によれば、多様な掘削深度に対応でき、優れた掘削精度の下で拡幅部を有する壁杭を造成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施形態に係る拡翼掘削機の一例の側面図である。
図2】実施形態に係る拡翼掘削機の有する拡翼掘削体の一例の正面図である。
図3】実施形態に係る拡翼掘削機の有する拡翼掘削体の一例の斜視図である。
図4図2のIV方向矢視図であって、拡翼掘削体の一例の側面図である。
図5図2のV方向矢視図であって、拡翼掘削体の一例の底面図である。
図6】拡翼掘削体の有する回動駆動手段の一例の側面図である。
図7】(a)は排泥通路を有する拡翼カッタを下方から見た図であり、(b)は排泥通路と給水通路を有する拡翼カッタを下方から見た図である。
図8】拡翼掘削機を構成するコントローラのハードウェア構成の一例を周辺機器とともに示す図である。
図9】拡翼掘削機を構成するコントローラの機能構成の一例を示す図である。
図10】実施形態に係る壁杭の施工方法の一例の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、実施形態に係る拡翼掘削機と壁杭の施工方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0030】
[実施形態に係る拡翼掘削機]
はじめに、図1乃至図9を参照して、実施形態に係る拡翼掘削機の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る拡翼掘削機の一例の側面図であり、図2は、実施形態に係る拡翼掘削機の有する拡翼掘削体の一例の正面図であり、図3は、実施形態に係る拡翼掘削機の有する拡翼掘削体の一例の斜視図である。また、図4は、図2のIV方向矢視図であって、拡翼掘削体の一例の底面図であり、図5は、図2のV方向矢視図であって、拡翼掘削体の一例の底面図であり、図6は、拡翼掘削体の有する回動駆動手段の一例の側面図である。
【0031】
拡翼掘削機60は、例えば、直方体状の壁杭の一般部と、この一般部の二つの広幅面の少なくとも一方にある拡幅部と、を有する壁杭の施工に当たり、直方体状の壁杭の一般部造成孔D1(もしくはガイド造成孔)から拡幅部造成孔D2を造成する際に適用される掘削機であり、一般部造成孔D1の造成は後述するように水平多軸型掘削機等の一般部掘削機により行われる。尚、造成される壁杭は、直方体状の壁杭の一般部の二つの広幅面の双方において、もしくは、二つの広幅面の一方において、壁の延伸方向に間欠的に複数の突起状もしくは節状の拡幅部が形成される形態や、壁の延伸方向に連続する拡幅部が形成される形態などがある。
【0032】
拡翼掘削機60は、地盤Gの地表面において走行自在なクローラクレーンからなるベースマシン10と、ベースマシン10の操作室に装備されているコントローラ50と、ベースマシン10のブームから吊り下げられているワイヤ20と、ワイヤ20の先端に取り付けられている拡翼掘削体30とを有する。尚、ベースマシン10は、クローラクレーン以外にも、走行自在であって、ワイヤ20を介して拡翼掘削体30を掘削孔内にワイヤリングできるトラッククレーン等の他の重機であってもよい。
【0033】
拡翼掘削体30は、鋼材を組み付けて構成された架構31と、架構31の側方において孔壁側へ伸縮自在なスタビライザ32と、架構31の下端にある回動軸34に回動自在に取り付けられている複数の拡翼カッタ33とを有する。
【0034】
図1に示す一般部造成孔D1は、壁厚方向が視認できるように図示されており、壁杭の壁厚方向に直交する方向(壁杭の延長方向)が紙面に直交する方向となる。図示する拡翼カッタ33は、壁杭の壁厚に直交する方向に延出する回動軸34を中心に壁厚方向であるX1方向やX2方向に回動することにより、拡幅部造成孔D2を造成する。すなわち、従来の透かし掘り掘削工法(SATT工法)のように、壁杭の壁厚方向に直交する方向に拡翼カッタが回動して、埋設物等の直下を掘削する方法に対して、拡翼カッタ33の回動方向は90度相違する。図1においては、一般部造成孔D1の二つの広幅面に対してそれぞれ拡幅部造成孔D2が造成されることにより形成される壁杭造成孔Dが示されているが、例えば、一般部造成孔D1の左側に官民境界等の隣地境界が存在する場合は、隣地境界の反対側となる一般部造成孔D1の広幅面の右側にのみ拡幅部造成孔D2が造成されることにより、壁杭造成孔Dが形成される。
【0035】
また、図1に示す拡翼掘削機60は、地上に載置されている排泥ポンプ40を有しており、拡翼カッタ33の有する排泥通路に連通する流通管38が排泥ポンプ40に通じている。以下で詳説するように、排泥ポンプ40を稼働させることにより、拡翼カッタ33にて掘削されて発生した泥土を地上に排泥することができるようになっており、排泥機構を備えた一般の水平多軸型掘削機と同様に拡翼掘削機60も排泥自在となっている。
【0036】
図2乃至図4に示すように、架構31の外形は、回動軸34の長手方向に長い正面視長方形の直方体であり、直方体の架構31の二つの広幅面のそれぞれの上下において、回動軸34の長手方向の幅t1を有する帯状で広い面積のスタビライザ32が、広幅面に直交する方向であるX3方向(孔壁側)に張り出し自在に設けられている。各スタビライザ32は、油圧シリンダ等により形成されるスタビライザ駆動手段32aにより、張り出し制御が実行される。
【0037】
各スタビライザ32を適宜伸長することにより、孔壁に反力を取りながら拡翼掘削体30の姿勢制御を実行することができる。すなわち、各スタビライザ32により拡翼掘削体30の姿勢制御が行われた後、回動軸34を中心に各拡翼カッタ33,33Aを同一方向に所望角度までX1方向もしくはX2方向に回動させることにより、一般部造成孔D1の二つの広幅面の少なくとも一方において、高い掘削精度の下で拡幅部造成孔D2を造成することが可能になる。尚、スタビライザ32による伸長量を調整することにより、多様な壁厚の一般部造成孔D1を造成することができる。
【0038】
特に、図示例のスタビライザ32は、架構31の幅t1を備えた広い面積を有していることから、スタビライザ32が孔壁に反力を取って拡幅部造成孔D2を造成する際に、孔壁に付与する単位面積当たりの押圧力を可及的に低減することができ、拡幅部造成孔D2を造成する際の孔壁崩壊を効果的に抑制することができる。
【0039】
さらに、図4に示すように、拡幅部造成孔D2の造成に当たり、壁厚方向の幅がt2の一般部造成孔D1の内部に拡翼掘削体30が挿入され、左右の孔壁に対して架構31の左右の広幅面の上下にある各スタビライザ32をそれぞれに応じたストローク量で張り出させることにより、回動軸34の軸芯を一般部造成孔D1の設計中心軸Lに位置決めすることができる。このように、回動軸34の軸芯が一般部造成孔D1の設計中心軸Lに位置決めされた後に拡幅部造成孔D2が造成されることにより、高い精度にて拡幅部造成孔D2を施工することが可能になる。尚、スタビライザ32のストローク量を調整することにより、多様な壁厚の一般部造成孔D1を造成することができる。
【0040】
一方、架構31の下端には、一本の回動軸34が壁杭の壁厚に直交する方向に延出しており、回動軸34には複数(図示例は三本)の拡翼カッタ33が回動自在に並設している。このように、図示例の拡翼掘削機60は、一列多軸型(一列三軸型)の掘削機である。
【0041】
三本の拡翼カッタ33のうち、左右端の拡翼カッタ33の頭部には自身を回転させる回転モータ35が搭載されており、中央の拡翼カッタ33Aはギヤリング36を介して左側の回転モータ35から伝達された駆動力により回転自在となっている。従って、図5に示すように、左端の拡翼カッタ33のY1方向の回転によって中央の拡翼カッタ33Aがギアを介してY2方向に回転する。右端の拡翼カッタ33は中央の拡翼カッタ33Aとは独立して自身の回転モータ35によりY2方向に回転する。
【0042】
拡翼カッタ33,33Aは、回動軸34に対して回動するシャフト33aと、シャフト33aの周囲に配設されている複数の掘削ビット33bとを有する。図2に示すように、隣接する拡翼カッタ33,33Aは、双方の掘削ビット33bが干渉しない態様で相互に一部ラップするようにして配設されている。そのため、拡翼カッタ33,33Aの各シャフト33aが回転して掘削した際に、掘削されない領域が発生することはなく、全体が均一に三本の拡翼カッタ33,33Aにより掘削される。
【0043】
中央の拡翼カッタ33Aが頭部に回転モータ35を備えていないことにより、排泥ポンプ40に通じている流通管38と中空のシャフト33aを連通させることができる。
【0044】
尚、図4において、一般部造成孔D1の下方に余掘り部D3を形成するようにして拡幅部造成孔D2の造成が行われる。このことにより、拡幅部造成孔D2の造成の際に発生した掘削泥土を余掘り部D3に仮に溜めておくことができ、水平多軸型掘削機等の一般部掘削機や拡翼掘削機60にて余掘り部D3から掘削泥土を排泥することが可能になる。
【0045】
また、図6に示すように、回動軸34を中心とした複数の拡翼カッタ33,33Aの回動は、回動軸34の上方斜め左右位置にある二本の油圧シリンダ37(回動駆動手段の一例)により実行される。図6に示すように、複数の拡翼カッタ33,33Aを左方向であるX1方向に回動させる際には、右側にある油圧シリンダ37のピストンロッド37aをZ1方向に伸長させることにより、ピストンロッド37aの先端に回動自在に装着されているリンク37bを介して、複数の拡翼カッタ33,33Aを同時にX1方向に回動させることができる。一方、複数の拡翼カッタ33,33Aを右方向であるX2方向に回動させる際には、左側にある油圧シリンダ37のピストンロッド37aをZ2方向に伸長させることにより、ピストンロッド37aの先端に回動自在に装着されているリンク37bを介して、複数の拡翼カッタ33,33Aを同時にX2方向に回動させることができる。
【0046】
図7は、二種の拡翼カッタを下方から見た図であり、図7(a)は、排泥通路を有する拡翼カッタを下方から見た図であり、図7(b)は排泥通路と給水通路を有する拡翼カッタを下方から見た図である。図7(a)に示す拡翼カッタ33Aは、シャフト33aの中央に排泥通路33cを有する。回動軸34に対して回動自在に並設する三本の拡翼カッタ33,33Aのうち、中央に位置する拡翼カッタ33Aが排泥通路33cを有することにより、例えば、図4に示す拡幅部造成孔D2の造成の際に発生した掘削泥土を、排泥ポンプ40の稼働により、排泥通路33cを介し、流通管38を介して地上に排泥することができる。
【0047】
一方、図7(b)に示す拡翼カッタ33Bは、内管と外管を有する二重管構造を備えており、内管が排泥通路33eとなり、外管が給水ポンプから提供された流体を掘削ビット33bに給水する給水通路33dとなっている。例えば粘着力のあるシルト層等を拡翼カッタ33が掘削した際に、掘削ビット33bに掘削泥土が付着した場合においても、給水ポンプから提供された流体を給水通路33dを介して掘削ビット33bに供給することにより掘削ビット33bから掘削泥土を取り除くことができる。このように、三本の拡翼カッタ33,33Bのうち、中央に位置する拡翼カッタ33Bが排泥通路33eと給水通路33dを有する二重管構造を備えている形態においては、例えば拡翼掘削体30の内部に給水ポンプ(図示せず)が設けられている。
【0048】
拡翼掘削機60によれば、ケリーバーを適用することなく、ワイヤ20にて吊り下げられている拡翼掘削体30を一般部造成孔D1にワイヤリングして拡幅部造成孔D2を造成することにより、拡翼掘削体30が地中にて駆動できることから、多様な掘削深度に対応しながら拡幅部造成孔D2を造成することができる。さらに、スタビライザ32にて孔壁に反力を取りながら拡翼掘削体30の姿勢制御を行うことにより、優れた掘削精度の下で拡幅部造成孔D2を造成することができる。
【0049】
さらに、拡翼掘削機60によれば、架構31の二つの広幅面のそれぞれの上下に張り出し自在に設けられた、帯状で広い面積の四基のスタビライザ32の各ストローク量をそれぞれ調整して孔壁に反力を取りながら、拡幅部造成孔D2を造成することにより、孔壁崩壊を抑制しながら、高い精度で拡幅部造成孔D2を造成することができる。
【0050】
次に、図8及び図9を参照して、拡翼掘削機60を形成するコントローラ50のハードウェア構成と機能構成の一例について説明する。ここで、図8は、拡翼掘削機を構成するコントローラのハードウェア構成の一例を周辺機器とともに示す図であり、図9は、拡翼掘削機を構成するコントローラの機能構成の一例を示す図である。
【0051】
図8に示すように、コントローラ50は、CPU(Central Processing Unit)51、RAM(Random Access Memory)52、ROM(Read Only Memory)53、HDD(Hard Disc Drive)54、及びNVRAM(Non-Volatile RAM)55等を有し、それらがシステムバスによりデータ通信可能に接続されている。
【0052】
ROM53には、各種のプログラムやプログラムによって利用されるデータ等が記憶されている。RAM52は、ROM53に記憶されているプログラムをロードするための記憶領域や、ロードされたプログラムのワーク領域として用いられる。CPU51は、RAM52にロードされたプログラムを処理することにより、各種の機能を実現する。例えば、地盤の強度に応じた最適なスタビライザ32からの押圧力(孔壁崩壊をさせないスタビライザ32による押圧力に相当する、反力閾値)が格納され、スタビライザ32による押圧力をこの反力閾値内に制御しながらスタビライザ32のストローク量が制御され、拡翼掘削体30の姿勢制御が実行される。また、その他、スタビライザ32が地盤から受ける反力が反力閾値を仮に超えた際には、拡翼カッタ33,33Aの回転速度を上げ、回動速度を下げる制御が実行される。HDD54には、プログラムやプログラムが利用する各種のデータ等が記憶される。NVRAM55には、各種の設定情報等が記憶される。
【0053】
ベースマシン10の操作室にある各種の操作レバー等をオペレータが操作すると、コントローラ50により、拡翼掘削機60を構成する各種機器(ハードウェア)の動作が制御される。すなわち、拡翼カッタ33を回転させる回転駆動手段35、回動軸34に対して壁杭の壁厚方向に拡翼カッタ33を回動させる回動駆動手段37、スタビライザ32が孔壁から受ける反力を特定する反力特定手段58、スタビライザ32を張り出させるスタビライザ駆動手段32a等が制御される。ここで、以下で詳説するように、反力特定手段58は、スタビライザ32に装備される圧力センサと、コントローラ50の内部に内蔵される反力特定部502のいずれか一方により形成される。
【0054】
反力特定手段58が圧力センサである場合、スタビライザ32が孔壁から受ける反力が随時圧力センサ58にて測定され、測定された測定反力値はコントローラ50に随時送信されるようになっている。一方、反力特定手段58がコントローラ50の内部に内蔵される反力特定部502である場合は、拡翼カッタ33が回転する際の回転トルクや拡翼カッタ33が回動する際の回動トルクといったトルク値がコントローラ50に随時送信されるようになっている。後者の場合、コントローラ50において、受信したトルク値に基づいてスタビライザ32が孔壁から受ける反力が特定されることになる。
【0055】
図9に示すように、コントローラ50は、受信部500と、反力特定部502と、演算部504と、拡翼カッタ駆動部506と、スタビライザ駆動部508と、格納部510とを有する。
【0056】
反力特定手段58が圧力センサである場合、スタビライザ32が孔壁から受ける反力が随時圧力センサ58にてモニタリングされ、圧力センサ58による測定反力値が受信部500にて受信される。また、反力特定手段58がコントローラ50の内部に内蔵される反力特定部502である場合、拡翼カッタ33が回転する際の回転トルクや拡翼カッタ33が回動する際の回動トルクといったトルク値が、受信部500にて受信される。
【0057】
格納部510には、施工現場において、孔壁が崩壊する際の押圧力(スタビライザ32が受ける反力)が反力閾値として予め特定されている。例えば、施工場所における地山反力(もしくは地山強度)を、実施工に先行する試験施工により特定しておき、特定された反力閾値が格納部510に格納されている。また、格納部510では、施工場所における地山反力と、この地山反力を生じさせる回転トルクや回動トルクとの相関を、同様に実施工に先行する試験施工により、もしくは、過去の同様な地盤における経験則等により特定しておき、これらの相関データが格納部510に格納されている。
【0058】
反力特定手段58が圧力センサである場合、反力特定部502では、格納部510に格納されている測定反力値を特定反力値と判定する。一方、反力特定手段58が反力特定部502である場合、反力特定部502では、上記する相関データに基づき、拡翼カッタ33の回転トルクや回動トルクといったトルク値に対応する反力値を特定反力値と判定する。
【0059】
演算部504では、格納部510にて格納されている反力閾値と、反力特定部502にて特定された特定反力値とを比較する。そして、演算部504において特定反力値が反力閾値を超えたと判断した際に、拡翼カッタ駆動部506は、回動駆動手段37に対して拡翼カッタ33の回動速度を下げる制御を実行し、かつ、回転駆動手段35に対して拡翼カッタ33の回転速度を上げる制御を実行する。
【0060】
拡翼カッタ33の回動速度を下げる制御により、拡翼カッタ33が回動する際に孔壁に付与される押圧力が低減され、孔壁崩壊を抑制できる。また、拡翼カッタ33の回動速度を低減しながら拡翼カッタ33の回転速度を上げることにより、回転速度の速い拡翼カッタ33にて孔壁が速やかに緩められることから、結果として拡翼カッタ33から孔壁に付与される押圧力をより一層低減できるとともに、回転速度の速い拡翼カッタ33により掘削性が高められ、効率的に拡幅部造成孔の造成を行うことができる。
【0061】
また、拡翼掘削体30の回動軸34を一般部造成孔D1における設計中心軸L(図4参照)に位置決めする際の、スタビライザ32のストローク量が予め特定されており、このストローク量が格納部510に格納されている。拡幅部造成孔D2の造成に際し、一般部造成孔D1に拡翼掘削体30を収容し、その姿勢制御を行う際に、格納部510に格納されているストローク量に基づいて各スタビライザ32の張り出し制御を実行し、回動軸34を一般部造成孔D1における設計中心軸Lに位置決めした後、拡幅部造成孔D2の造成を行うことにより、高精度に拡幅部造成孔D2を造成することが可能になる。
【0062】
[実施形態に係る壁杭の施工方法]
次に、図10を参照して、実施形態に係る壁杭の施工方法の一例について説明する。ここで、図10は、(a)から(g)にかけて順に、実施形態に係る壁杭の施工方法の一例の工程図である。ここで、図示する壁杭の施工方法は、図1乃至図9に示す一列多軸型の拡翼掘削体30を有する拡翼掘削機60により拡幅部造成孔D2を造成し、壁杭を施工する方法である。
【0063】
工程(a)において、例えば低空頭の水平多軸型掘削機からなる一般部掘削機70により、直方体状の壁杭の一般部造成孔D1を造成する。左右一対のカッタは、掘削機本体の下端に配設されている水平二軸のカッタードラム71であり、油圧ユニットに動力ケーブルを介して接続され、油圧ユニットの駆動力により回転して地盤を解す。また、揚泥ポンプ72はホースを介して土砂分離機(図示せず)に接続され、孔内から孔内水とともに土砂を吸い上げて土砂分離機に送るようになっている(以上、A工程)。
【0064】
一般部造成孔D1が造成された後、工程(b)において、一般部掘削機70と拡翼掘削機60を交換し、クローラクレーンからなるベースマシン10から吊り下げられているワイヤ20を介して、拡翼掘削体30を一般部造成孔D1の所定深度まで吊り下げる。そして、拡翼掘削体30の有する複数のスタビライザ32にて孔壁に反力を取りながら、拡翼掘削体30の姿勢制御を行う。
【0065】
ここで、拡翼掘削体30の回動軸34を一般部造成孔D1における設計中心軸L(図4参照)に位置決めするべく、各スタビライザ32のストローク量を調整して各スタビライザ32の張り出し制御を実行し、回動軸34を一般部造成孔D1における設計中心軸Lに位置決めする(以上、E工程)。
【0066】
次いで、工程(c)において、回動軸34を中心に、複数の拡翼カッタ33を一般部造成孔D1の左側へX1方向に所定の回動角度まで回動させながら掘削を行うことにより、一般部造成孔D1の左側において拡幅部造成孔D2を造成する。ここで、拡幅部造成孔D2の造成に当たり、一般部造成孔D1の下方に余掘り部D3を形成するようにして拡幅部造成孔D2の造成を行う。このことにより、拡幅部造成孔D2の造成の際に発生した掘削泥土を余掘り部D3に仮に溜めておくことができる。
【0067】
拡幅部造成孔D2の造成においては、反力特定手段58により、スタビライザ32が孔壁から受ける反力を随時モニタリングしながら、拡幅部造成孔D2の造成を行う。ここで、反力特定手段58は、スタビライザ32に装備される圧力センサと、コントローラ50の内部に内蔵される反力特定部502のいずれか一方により形成される。既述するように、反力特定手段58が圧力センサである場合、スタビライザ32が孔壁から受ける反力が随時圧力センサ58にてモニタリングされ、圧力センサ58による測定反力値(特定反力値)と反力閾値を比較する。一方、反力特定手段58がコントローラ50の内部に内蔵される反力特定部502である場合、拡翼カッタ33が回転する際の回転トルクや拡翼カッタ33が回動する際の回動トルクといったトルク値を、予め特定されているトルク値と地盤反力との相関に適用して地盤の反力を特定し、この特定反力値と反力閾値を比較する。尚、反力閾値は、施工現場における地盤内の孔壁が崩壊する際の反力値であり、この反力閾値も予め特定しておく。
【0068】
仮に、特定反力値が反力閾値を超えたと判断された際には、回動駆動手段37による拡翼カッタ33の回動速度を下げ、かつ、回転駆動手段35による拡翼カッタ33の回転速度を上げながら拡幅部造成孔D2の造成を行う。拡翼カッタ33の回動速度を下げることにより、拡翼カッタ33が回動する際に孔壁に付与される押圧力が低減され、孔壁崩壊を抑制できる。また、拡翼カッタ33の回動速度を低減しながら拡翼カッタ33の回転速度を上げることにより、回転速度の速い拡翼カッタ33にて孔壁が速やかに緩められることから、結果として拡翼カッタ33から孔壁に付与される押圧力をより一層低減できるとともに、回転速度の速い拡翼カッタ33により掘削性が高められ、効率的に拡幅部造成孔D2の造成を行うことができる(以上、B工程)。
【0069】
次いで、工程(d)において、拡翼掘削機60と一般部掘削機70を交換し、一般部掘削機70にて余掘り部D3に仮溜めされている掘削泥土を外部に排泥する。尚、工程(c)において、排泥ポンプ40を稼働させることにより、拡翼掘削機60にて掘削泥土の一部を排泥することもできる(以上、C工程)。
【0070】
余掘り部D3から掘削泥土を排泥した後、工程(e)において、一般部掘削機70と拡翼掘削機60を再度交換し、拡翼掘削体30を一般部造成孔D1の所定深度まで吊り下げ、スタビライザ32にて孔壁に反力を取りながら拡翼掘削体30の姿勢制御を行う。そして、回動軸34を中心に、複数の拡翼カッタ33を一般部造成孔D1の右側へX2方向に所定の回動角度まで回動させながら掘削を行うことにより、一般部造成孔D1の右側において拡幅部造成孔D2を造成する。この拡幅部造成孔D2の造成に当たっても、一般部造成孔D1の下方に余掘り部D3を形成するようにして拡幅部造成孔D2の造成を行う(以上、2度目のB工程及びC工程)。
【0071】
次いで、工程(f)において、拡翼掘削機60と一般部掘削機70を再度交換し、一般部掘削機70にて余掘り部D3に仮溜めされている掘削泥土を外部に排泥することにより、工程(g)に示すように、一般部造成孔D1と左右の拡幅部造成孔D2により形成される壁杭造成孔Dを造成する。
【0072】
壁杭造成孔Dが造成された後、図示を省略するが、一般部造成孔D1に鉄筋籠を設置し、一般部造成孔D1と拡幅部造成孔D2にコンクリートを打設して拡幅部を有する壁杭を施工する(以上、D工程)。
【0073】
図示する壁杭の施工方法によれば、拡幅部造成孔D2の造成に際して拡翼掘削機60を適用することにより、多様な掘削深度に対応しながら拡幅部造成孔D2を造成することができる。さらに、孔壁に反力を取りながら拡翼掘削体30の姿勢制御を行うことにより、優れた掘削精度の下で拡幅部造成孔D2を造成することができる。尚、一般部造成孔D1の一方側に官民境界等の隣地境界が存在する場合は、隣地境界の反対側となる片方側にのみ拡幅部造成孔D2を造成し(例えば、図10の高低(d)までで壁杭造成孔が造成される)、壁杭が施工される。
【0074】
図示を省略するが、二列多軸型の拡翼掘削体を有する拡翼掘削機により拡幅部造成孔D2を造成し、壁杭を施工する方法であってもよい。この造成方法では、二列の回動軸を中心に複数の拡翼カッタを一般部造成孔の左右側へ所定の回動角度まで同時に回動させながら掘削を行うことにより、一般部造成孔の左右側においてそれぞれ拡幅部造成孔を効率的に造成することが可能になる。
【0075】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0076】
10:ベースマシン
20:ワイヤ
30:拡翼掘削体
31:架構
32:スタビライザ
32a:スタビライザ駆動手段
33,33A:拡翼カッタ
33a:シャフト
33b:掘削ビット
33c:排泥通路
33d:給水通路
33e:排泥通路
34:回動軸
35:回転モータ(回転駆動手段)
36:ギヤリング
37:油圧シリンダ(回動駆動手段)
37a:ピストンロッド
37b:リンク
38:流通管
40:排泥ポンプ
50:コントローラ
58:圧力センサ(反力特定手段)
60:拡翼掘削機
70:一般部掘削機(水平多軸型掘削機)
71:カッタードラム
72:揚泥ポンプ
500:受信部
502:反力特定部(反力特定手段)
504:演算部
506:拡翼カッタ駆動部
508:スタビライザ駆動部
510:格納部
G:地盤
D:壁杭造成孔
D1:一般部造成孔
D2:拡幅部造成孔
D3:余掘り部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10