(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】固体電解質及び固体電解質接合体
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20230710BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20230710BHJP
H01M 8/1246 20160101ALI20230710BHJP
H01M 8/1253 20160101ALI20230710BHJP
H01M 8/126 20160101ALI20230710BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20230710BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20230710BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20230710BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M8/1246
H01M8/1253
H01M8/126
H01M8/1213
H01M8/12 101
C04B41/87 F
B32B9/00 A
(21)【出願番号】P 2020523077
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2019021765
(87)【国際公開番号】W WO2019235383
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2018110030
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井手 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】大山 旬春
(72)【発明者】
【氏名】八木 輝明
(72)【発明者】
【氏名】田平 泰規
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】特許第6088715(JP,B1)
【文献】特開2014-148443(JP,A)
【文献】国際公開第2012/176749(WO,A1)
【文献】特開2004-244282(JP,A)
【文献】特開2003-208901(JP,A)
【文献】国際公開第2009/084404(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 1/08
H01M 8/1246
H01M 8/1253
H01M 8/126
H01M 8/1213
H01M 8/12
C04B 41/87
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物イオン伝導性を有するアパタイト型複合酸化物からなり、X線回折測定によって得られる004のピーク強度I
004に対する002のピーク強度I
002の比であるI
002/I
004の値が0.3以上0.8以下であ
り、
前記複合酸化物が、一般式:A
9.33+x
[T
6.00-y
M
y
]O
26.0+z
(式中のAは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。式中のTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。式中のMは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。)で表され、式中のxは-1.33以上1.50以下の数であり、式中のyは0.40以上3.00以下の数であり、式中のzは-5.00以上5.20以下の数であり、Tのモル数に対するAのモル数の比率が1.33以上3.61以下である複合酸化物を含む、固体電解質。
【請求項2】
前記複合酸化物が、La
9.33+x
[T
6.00-y
M
y
]O
26.0+z
で表される複合酸化物を含む、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
c軸に配向している請求項1又は2に記載の固体電解質。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の固体電解質と、金属酸化物の中間層又は金属電極層とが接合されてなる固体電解質接合体。
【請求項5】
前記金属酸化物が、サマリウム、イットリウム、ガドリニウム及びランタンからなる群から選ばれる一種又は二種以上の元素を含む酸化セリウムからなる請求項4に記載の固体電解質接合体。
【請求項6】
前記金属酸化物が、ビスマスの酸化物からなる請求項4に記載の固体電解質接合体。
【請求項7】
前記金属酸化物が、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する混合伝導体からなる請求項4に記載の固体電解質接合体。
【請求項8】
前記固体電解質接合体において前記中間層又は前記電極層が配置されている面と反対側の面に、該中間層又は該電極層と同一の又は異なる中間層又は電極層が配置されている請求項4ないし7のいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項9】
酸素透過素子、ガスセンサ、水蒸気電解又は固体電解質形燃料電池として用いられる請求項4ないし8のいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電解質及び固体電解質接合体に関する。本発明の固体電解質及び固体電解質接合体は、その酸化物イオン伝導性を利用した様々な分野に利用される。
【背景技術】
【0002】
酸化物イオン伝導性の固体電解質が種々知られている。かかる固体電解質は、例えば酸素透過素子、燃料電池の電解質、及びガスセンサなどとして様々な分野で用いられている。例えば特許文献1には、アノード側電極とカソード側電極との間にアパタイト型複合酸化物からなる固体電解質が介装された電解質・電極接合体が記載されている。カソード側電極と固体電解質との間には、酸化物イオン伝導が等方性を示す中間層が介装されている。中間層は、サマリウム、イットリウム、ガドリニウム又はランタンがドープされた酸化セリウムからなる。固体電解質は、LaxSi6O1.5X+12(8≦X≦10)からなる。この電解質・電極接合体によれば、固体酸化物形燃料電池の発電性能が向上すると、同文献には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
特許文献1に記載のとおり、酸化物イオン伝導性の固体電解質を利用したデバイスは種々提案されているものの、デバイス全体で評価した場合、固体電解質が本来的に有している酸化物イオン伝導性を十分に引き出しているとは言えなかった。特に、固体電解質自体の酸化物イオン伝導性が高い場合であっても、固体電解質と電極との界面における電気抵抗が高くなってしまい、デバイス全体としての電気抵抗が高くなる場合がある。
【0005】
したがって本発明の課題は、固体電解質を備えたデバイスの電気抵抗を低減し得る固体電解質及び該固体電解質を備えた固体電解質接合体を提供することにある。
【0006】
前記の課題を解決すべく本発明者は鋭意検討した結果、特定の結晶構造を有するアパタイト型複合酸化物を固体電解質として用いることで、前記の課題が解決されることを知見した。本発明はこの知見に基づきなされたものであり、酸化物イオン伝導性を有するアパタイト型複合酸化物からなり、X線回折測定によって得られる004のピーク強度I004に対する002のピーク強度I002の比であるI002/I004の値が0.3以上0.8以下である固体電解質を提供することにより前記の課題を解決したものである。
【0007】
また本発明は、前記の固体電解質と、金属酸化物の中間層又は金属電極層とが接合されてなる固体電解質接合体を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の固体電解質を備えたデバイスの一実施形態を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の固体電解質を備えたデバイスの別の実施形態を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の固体電解質を備えたデバイスの更に別の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の固体電解質は酸化物イオン伝導性を有するアパタイト型複合酸化物からなる。固体電解質は、酸化物イオンがキャリアとなる導電体である。
【0010】
アパタイト型複合酸化物としては、例えばランタン及びケイ素を含む複合酸化物が挙げられる。このアパタイト型複合酸化物としては、三価元素であるランタン(La)と、四価元素であるケイ素(Si)と、酸素(O)とを含有し、その組成がLaxSi6O1.5x+12(xは8以上10以下の数を表す。)で表されるものが、酸化物イオン伝導性が高い点から好ましい。このアパタイト型複合酸化物の最も好ましい組成は、La9.33Si6O26である。この複合酸化物は、例えば特開2013-51101号公報に記載の方法に従い製造することができる。
【0011】
アパタイト型複合酸化物の別の例として、一般式(1):A9.33+x[T6.00-yMy]O26.0+zで表される複合酸化物が挙げられる。この複合酸化物もアパタイト型構造を有するものである。式中のAは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。式中のTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。式中のMは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。c軸配向性を高める観点から、MはB、Ge及びZnからなる群から選ばれる一種又は二種以上の元素であることが好ましい。
【0012】
式中のxは、配向度及び酸化物イオン伝導性を高める観点から、-1.33以上1.50以下であることが好ましく、0.00以上0.70以下であることが更に好ましく、0.45以上0.65以下であることが一層好ましい。式中のyは、アパタイト型結晶格子におけるT元素位置を埋める観点から、0.00以上3.00以下であることが好ましく、0.40以上2.00以下であることが更に好ましく、0.40以上1.00以下であることが一層好ましい。式中のzは、アパタイト型結晶格子内での電気的中性を保つという観点から、-5.00以上5.20以下であることが好ましく、-2.00以上1.50以下であることが更に好ましく、-1.00以上1.00以下であることが一層好ましい。
【0013】
前記式中、Tのモル数に対するAのモル数の比率、言い換えれば前記式における(9.33+x)/(6.00-y)は、アパタイト型結晶格子における空間的な占有率を保つ観点から、1.33以上3.61以下であることが好ましく、1.40以上3.00以下であることが更に好ましく、1.50以上2.00以下であることが一層好ましい。
【0014】
前記の一般式(1)で表される複合酸化物のうち、Aがランタンである複合酸化物、すなわちLa9.33+x[T6.00-yMy]O26.0+zで表される複合酸化物を用いると、酸化物イオン伝導性が一層高くなる観点から好ましい。La9.33+x[T6.00-yMy]O26.0+zで表される複合酸化物の具体例としては、La9.33+x(Si4.70B1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Ge1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Zn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70W1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Sn1.30)O26.0+x、La9.33+x(Ge4.70B1.30)O26.0+zなどを挙げることができる。前記の一般式(1)で表される複合酸化物は、例えばUS2018/183068A1に記載の方法に従い製造することができる。
【0015】
アパタイト型複合酸化物として、上述したいずれのものを用いる場合であっても、該複合酸化物はランタンを含むものであることが、本発明の固体電解質を含むデバイスの電気抵抗を効果的に低減させ得る点から好ましい。また、いずれのアパタイト型複合酸化物を用いる場合であっても、該複合酸化物はc軸に配向していることが好ましい。c軸に配向しているとは、アパタイト型複合酸化物が多結晶体である場合、結晶軸がc軸に沿って揃っているという意味である。更にアパタイト型複合酸化物が単結晶で存在するときには、そのc軸方向がデバイスにおける酸化物イオンの伝導方向と一致させることが可能となる。
【0016】
アパタイト型複合酸化物は、これをX線回折測定したときに、該測定によって得られる004のピーク強度I004に対する002のピーク強度I002の比であるI002/I004の値が0.3以上0.8以下である点に特徴の1つを有する。これまで、c軸に強く配向したアパタイト型複合酸化物は、これをX線回折測定すると、00x(xは2以上の偶数を示す。)以外の回折ピーク強度が非常に小さく、定量的な解析が難しいという課題があった。しかし、本発明者は、002及び004の回折ピークの強度比が欠損部位の量を強く反映するという知見を得、更にその強度比が特定の範囲にあるアパタイト型複合酸化物は電極層との界面抵抗が低くなり、デバイス全体としての電気抵抗を低下させるものであることを見出した。特にアパタイト型複合酸化物がランタンを含むものである場合、該複合酸化物がアパタイト型の結晶構造を維持しつつランタンが欠損すると、電荷のバランスを保つようにするために構造中の酸素も欠損する。酸素欠損が生じると、酸化物イオンが移動しやすくなり酸化物イオンの伝導性が向上し、ひいては該複合酸化物と電極層との界面抵抗が一層低くなると本発明者は考えている。また、ランタン以外のAについても、アパタイト型複合酸化物中においてランタンと同じ結晶サイトに入り易いため、上述と同様の機構が発現すると考えられる。このように本発明は、固体電解質と接合される中間層や電極層に起因するのではなく、固体電解質そのものの結晶構造に起因して酸化物イオン伝導性を高めようとするものである。
【0017】
アパタイト型複合酸化物における欠損部位の量が多いほど、I004に対するI002の比の値は小さくなり、アパタイト型複合酸化物と電極層との界面抵抗が低くなる。この観点から、I004に対するI002の比の値は0.5以上0.8以下であることが好ましく、0.5以上0.75以下であることが更に好ましい。
【0018】
I002及びI004の値は、X線回折法を用いて測定される。詳細には、点収束型のX線集光ミラー(CMF光学系)、及び0次元検出器を用いて測定することができる。本発明でいうX線回折のピーク強度とは積分強度のことである。
【0019】
このX線回折のピーク強度については、アパタイト型結晶構造中における欠損部位の量をより正確に測定するために、より高いX線回折強度が得られる002と004とのピーク強度比を指標として選定することとした。なお、アパタイト型結晶構造における002と004のX線回折のピーク位置は、公知の結晶データベース等から一意に決めることができる。
【0020】
I004に対するI002の比の値が上述した範囲を満たすようにするためには、アパタイト型複合酸化物に欠損部位を形成することが好ましい。欠損部位を形成するためには、例えばアパタイト型複合酸化物に隣接する異なる組成の膜を形成し、該膜をアニールすることよって結晶構造から構成元素、特にランタンを除去することが有利であることが本発明者の検討の結果判明した。この場合、アパタイト型の結晶構造を保持した状態で、ランタン等の構成元素を除去する必要がある。この目的のために、ランタンが拡散できるか又はランタンを固溶できる膜(以下「La吸収膜」ともいう。)を、アパタイト型複合酸化物の表面に積層する。そして、700℃以上の高温でアニールすることによって、アパタイト型複合酸化物中のランタンをLa吸収膜に拡散又は固溶させて、ランタンを欠損させたアパタイト型複合酸化物を得ることが好ましい。La吸収膜は、その後、所定の手段によって除去してもよい。
【0021】
本発明の固体電解質は、その具体的な用途に応じ、そのままの状態で用いることができ、あるいは他の部材と組み合わせたデバイスの状態で用いることができる。
図1にはそのようなデバイスの一例が示されている。
図1に示すデバイスは、本発明の固体電解質を備えた固体電解質接合体10である。以下、この固体電解質接合体10について説明する。
【0022】
図1に示すとおり、固体電解質接合体10は、上述した固体電解質からなる層(以下「固体電解質層」という。)11を備えている。固体電解質層11の一面には、該固体電解質層11に接して積層された中間層12が接合されている。
図1に示す実施形態においては、固体電解質層11と中間層12が直接接しており、両者間に他の層は介在していない。中間層12は、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する材料からなる。
【0023】
固体電解質層11の厚みは、固体電解質接合体10の電気抵抗を効果的に低下させる観点から、10nm以上1000μm以下であることが好ましく、50nm以上700μm以下であることが更に好ましく、100nm以上500μm以下であることが一層好ましい。この固体電解質層11の厚みは、例えば触針式段差計、ノギス又は電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0024】
固体電解質接合体10は、
図1に示すとおり、固体電解質層11の2つの面のうち、中間層12が配置されている面と反対側の面に接合された金属電極層13を有していてもよい。固体電解質層11、中間層12及び金属電極層13がこのような順序で配置されていることにより、固体電解質接合体10からなるデバイス20が構成される。
図1に示す実施形態においては、固体電解質層11と金属電極層13とは直接に接しており、両者間に他の層は介在していない。
【0025】
中間層12は金属酸化物を含んで構成されている。中間層12は、金属酸化物のみからなるか、又は金属酸化物及びその他の物質を含むものである。中間層12は固体電解質層11との間での酸化物イオンの授受を円滑に行う目的で形成されている。本実施形態によれば、固体電解質層11として上述した特定の結晶構造を有する固体電解質を用いていることに起因して、中間層12の種類によらず固体電解質層11と中間層12との間での界面抵抗を低下させることができ、酸化物イオンの授受を一層円滑に行うことができる。
【0026】
中間層12としては、金属酸化物からなり、且つ酸化物イオン伝導性を有するものが好適に用いられる。中間層12として、例えばサマリウム、イットリウム、ガドリニウム及びランタンからなる群から選ばれる一種又は二種以上の元素(以下、これらの元素のことを便宜的に「ドープ元素」ともいう。)を含む酸化セリウムを用いることができる。この場合、ドープ元素の含有量は、M/(M+Ce)×100で表して(Mはドープ元素のモル数を表す。)0.1モル%以上0.5モル%以下であることが好ましく、0.15モル%以上0.4モル%以下であることが更に好ましく、0.2モル%以上0.3モル%以下であることが一層好ましい。
【0027】
中間層12としてビスマスの酸化物を用いることもできる。ビスマスの酸化物としては例えば酸化ビスマス(III)やビスマスと他の金属元素との複合酸化物が挙げられる。他の金属元素としては、例えば一種以上の希土類元素が挙げられる。希土類元素としては、例えばランタン、ガドリニウム、イットリウム、エルビウム、イッテルビウム、ジスプロシウムなどが挙げられる。特に中間層12は、ビスマスと、ランタン、ガドリニウム又はイットリウムとの複合酸化物を含んで構成されることが、固体電解質層11と中間層12との間での電気抵抗を効果的に低下させ得る観点から好ましい。更にこの複合酸化物は、(LnmBin)2O3で表されることが好ましい。式中、Lnは希土類元素を表す。mとnの和は1であり、n>0である。また、mは0.1以上0.4以下であることが好ましい。
【0028】
中間層12として、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する混合伝導体を用いることもできる。混合伝導体とは、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性の2つの伝導性、すなわち混合伝導性を有する物質のことである。特に、固体電解質層11と中間層12との界面において、配向方向に対して直交する面の格子整合を図る観点から、中間層12を構成する材料はペロブスカイト型酸化物であることが好ましい。特に、固体電解質層11を構成する材料が上述した一般式(1)で表されるものである場合に、中間層12を構成する材料がペロブスカイト型酸化物であると、前記の格子整合を首尾よく図ることができる。
【0029】
特に、中間層12を構成する材料として、一般式(2):ABO3で表されるものを用いることが、酸化物イオン伝導性の更に一層の向上の観点から好ましい。式中、Aは、例えばLa、Sr、Ba及びCaから選択される一種又は二種以上の金属元素を用いることが好ましく、特に好ましい金属元素はLa及びSrのうちの少なくとも一種である。Bは遷移金属元素であり、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、Fe、Cuから選択される一種又は二種以上の金属元素を用いることが好ましく、特に好ましい金属元素はCo及びNiのうちの少なくとも一種である。とりわけ一般式(2)で表される材料は、La、Sr、Co及びNiを含む複合酸化物であることが好ましい。
【0030】
一般式(2)で表される複合酸化物のうち、特に好ましいものは、La0.6Sr0.4Co0.9Ni0.1O3-δで表されるものである。
【0031】
一般式(2)で表される複合酸化物からなる中間層12は、例えば種々の薄膜形成法を用いて固体電解質層11の一面に形成することができる。薄膜形成法としては、物理気相蒸着法や化学気相蒸着法などが挙げられ、これらのうち物理気相蒸着法を用いると中間層12を一層首尾よく形成することができる。物理気相蒸着法のうち、特にPLD(Pulsed Laser Deposition)法を用いることが好ましい。
【0032】
中間層12を構成する材料が上述したもののいずれであっても、固体電解質層11を構成する材料と、中間層12を構成する材料とが、いずれも、固体電解質層11と中間層12との積層方向に沿って一軸配向していることが、界面抵抗を低下させる観点から有効である。固体電解質層11を構成する材料と、中間層12を構成する材料を、前記積層方向に沿っていずれも一軸配向させるためには、例えば、基板となる固体電解質層11を所定温度に加熱しながら、酸素分圧をコントロールした雰囲気で、物理気相蒸着法や化学気相蒸着法など利用し、固体電解質層11上に中間層12の薄膜を形成し、局所的にエピタキシャル成長させればよい。また、原子層堆積法(ALD)を用い、固体電解質層11上に、中間層12の一軸配向薄膜を形成することもできる。ただし、これらの手法に限定されるものではない。
【0033】
固体電解質層11を構成する材料と、中間層12を構成する材料とが、いずれも一軸配向しているか否かは、接合界面のTEM(透過型電子顕微鏡)による断面観察から判断することができる。固体電解質層11及び中間層12の格子定数や面間隔は、搖動させながらX線回折測定を行うことで得られる回折パターンから算出することができる。
【0034】
中間層12を構成する材料が上述したもののいずれであっても、中間層12は、所定の厚みを有すれば固体電解質層11との間での電気抵抗を効果的に低下させることができる。詳細には、固体電解質層11に接合している中間層12の積層方向に沿う厚みは80nm以上であることが好ましく、100nm以上であることが更に好ましく、100nm以上1000nm以下であることが一層好ましい。中間層12の厚みは触針式段差計や電子顕微鏡によって測定することができる。
【0035】
固体電解質層11を挟んで中間層12と反対側に形成される金属電極層13は、形成が容易であり、且つ触媒活性が高い等の利点があることから、白金族の元素を含んで構成されることが好ましい。白金族の元素としては、例えば白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウム等が挙げられる。これらの元素は一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、金属電極層13として、白金族の元素を含むサーメットを用いることもできる。
【0036】
図1に示す実施形態の固体電解質接合体10及びデバイス20は、例えば以下に述べる方法で好適に製造することができる。まず、公知の方法で固体電解質層11を製造する。製造には、例えば特開2013-51101号公報やUS2018/183068A1に記載の方法を採用することができる。
【0037】
次いで固体電解質層11における2つの面のうちの一方に、中間層12を形成する。中間層12の形成には、種々の薄膜形成法を用いることができる。薄膜形成法の1つとして、例えば先に述べたPLD法を用いることができる。具体的には、固体電解質層11を構成する材料と、中間層12を構成する材料とを、いずれも、該固体電解質層11と中間層12との積層方向に沿って一軸配向させるために、先に述べたPLD法を用い、固体電解質層11の一面に中間層12を形成するときに、該固体電解質層11を所定温度に加熱すればよい。加熱温度は、例えば600℃以上700℃以下に設定することが、一層首尾よく一軸配向させられる点から好ましい。
【0038】
このようにして中間層12を形成したら、固体電解質層11における中間層12の形成面と反対側の面に金属電極層13を形成する。金属電極層13の形成には、例えば白金族の金属の粒子を含むペーストを用いる。該ペーストを固体電解質層11の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成することで多孔質体からなる電極が形成される。焼成条件は、温度600℃以上、時間30分以上120分以下とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。
【0039】
以上の方法で目的とする固体電解質接合体10及びデバイス20が得られる。このようにして得られたデバイス20は、その高い酸化物イオン伝導性を利用して例えば酸素透過素子、酸素センサを始めとする各種のガスセンサ、水蒸気電解又は固体電解質形燃料電池などとして好適に用いられる。デバイス20をどのような用途に用いる場合にも、中間層12をカソードとして、すなわち酸素ガスの還元反応が起こる極として用いることが有利である。例えばデバイス20を酸素透過素子として使用する場合には、金属電極層13を直流電源のアノードに接続するとともに、中間層12を直流電源のカソードに接続して、中間層12と金属電極層13との間に所定の直流電圧を印加する。それによって、中間層12側において酸素が電子を受け取り酸化物イオンが生成する。生成した酸化物イオンは固体電解質層11中を移動して金属電極層13に達する。金属電極層13に達した酸化物イオンは電子を放出して酸素ガスとなる。このような反応によって、固体電解質層11は、中間層12側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、固体電解質層11を通じて金属電極層13側に透過させることが可能になっている。なお、必要に応じ、中間層12の表面及び金属電極層13の表面の少なくとも一方に、白金等の導電性材料からなる集電層を形成してもよい。
【0040】
印加する電圧は、酸素ガスの透過量を高める観点から、0.1V以上4.0V以下に設定することが好ましい。両極間に電圧を印加するときには、固体電解質層11の酸化物イオン伝導性が十分に高くなっていることが好ましい。例えば酸化物イオン伝導性が、伝導率で表して1.0×10-3S/cm以上になっていることが好ましい。この目的のために、固体電解質層11を、又はデバイス20の全体を所定温度に保持することが好ましい。この保持温度は、固体電解質層11の材質にもよるが、一般に300℃以上600℃以下の範囲に設定することが好ましい。この条件下でデバイス20を使用することで、中間層12側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、固体電解質層11を通じて金属電極層13側に透過させることができる。
【0041】
デバイス20を限界電流式酸素センサとしても使用する場合には、中間層12側で生成した酸化物イオンが、固体電解質層11を経由して金属電極層13側に移動することに起因して電流が生じる。電流値は中間層12側の酸素ガス濃度に依存するので、電流値を測定することで、中間層12側の酸素ガス濃度を測定することができる。
【0042】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、固体電解質層11の一面にのみ中間層12を配したが、これに代えて、
図2に示すとおり、固体電解質層11について中間層12と対向する面に、別途の中間層12’を配してもよい。固体電解質層11について中間層12と対向する面に別途の中間層12’を配する場合には、各中間層12,12’は同一のものであってもよく、あるいは異なるものであってもよい。この場合、固体電解質層11を構成する材料と、一方の中間層12を構成する材料と、他方の中間層12’を構成する材料とが、いずれも、それらの積層方向に沿って一軸配向していることが好ましい。
【0043】
また、固体電解質層11の各面に中間層12,12’を形成することに代えて、
図3に示すとおり、金属電極層13,13’を形成してもよい。この場合であっても、デバイス20全体の電気抵抗を低下させることができる。各金属電極層13,13’は同一のものであってもよく、あるいは異なるものであってもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0045】
〔実施例1〕
La2O3の粉体とSiO2の粉体とをモル比で1:1となるように配合し、エタノールを加えてボールミルで混合した。この混合物を乾燥させ、乳鉢で粉砕し、白金るつぼを使用して大気雰囲気下に1650℃で3時間にわたり焼成した。この焼成物にエタノールを加え、ボールミルで粉砕して焼成粉を得た。この焼成粉を、20mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形した。更に700MPaで1分間冷間等方圧加圧(CIP)を行ってペレットを成形した。このペレット状成形体を、大気中、1600℃で3時間にわたり加熱してペレット状焼結体を得た。この焼結体を粉末X線回折測定及び化学分析に付したところ、アパタイト型の結晶構造を有するLa2SiO5の構造であることが確認された。
【0046】
得られたペレット800mgと、B2O3粉末140mgとを、蓋付き匣鉢内に入れた。電気炉を用い、このペレット及びB2O3粉末を大気中にて1550℃(炉内雰囲気温度)で50時間にわたり加熱した。この加熱によって、匣鉢内にB2O3蒸気を発生させるとともにB2O3蒸気とペレットとを反応させ、目的とする固体電解質層11を得た。この固体電解質層11は、La9.33+x[Si6.00-yBy]O26.0+zにおいて、x=0.50、y=1.17、z=0.16であり、LaとSiのモル比は2.04であった。また、ノギスによって測定した厚みは350μmであった。以下、この化合物を「LSBO」と略称する。
【0047】
〔La吸収膜の製造〕
Bi2O3の粉体を、50mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形し、引き続きホットプレス焼結を行った。焼結の条件は、窒素ガス雰囲気、圧力30MPa、温度600℃、3時間とし、スパッタリング用のターゲットを得た。このターゲットを用いて高周波スパッタリング法によって、LSBOからなる固体電解質層11の両面に300nmの厚みでスパッタリングを行った。スパッタリングの条件は、RF出力が30W、アルゴンガスの圧力が0.8Paであった。スパッタリングの完了後、大気中、750℃で1時間にわたりアニーリングを行った。このアニーリングによって、固体電解質中のLaがBi2O3層(La吸収層)側へ拡散し、La欠損LSBOが形成された。次に、この固体電解質からLaを吸収させた層を除去する操作を行った。詳細には、精密研磨装置を用いて、Laを吸収させたBi2O3層を完全に除去した。その後ノギスによって測定したLa欠損LSBOの厚みは340μmであった。
【0048】
〔実施例2〕
実施例1において、La吸収層を800℃で1時間にわたりアニーリングした以外は、実施例1と同様にしてLa欠損LSBOを製造した。
【0049】
〔実施例3〕
実施例1において、La吸収層を850℃で1時間にわたりアニーリングした以外は、実施例1と同様にしてLa欠損LSBOを製造した。
【0050】
〔比較例1〕
実施例1において、La吸収層を形成せず、したがってアニーリングを行なかった以外は、実施例1と同様にして固体電解質を製造した。
【0051】
〔評価1〕
実施例及び比較例で得られた固体電解質について、以下に述べる方法でXRD測定を行いI002/I004の値を求めた。また、以下に述べる方法で酸化物イオンの伝導率を測定した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0052】
〔XRD測定〕
株式会社リガクの全自動多目的X線回折装置SmartLabを用いて以下の条件にて測定した。
管電圧:40kV
管電流:30mA
X線源:CuKα
入射光学素子:コンフォーカルミラー(CMF)
入射側スリット構成:コリメータサイズ1.4mm×1.4mm
受光側スリット構成:平行スリットアナライザ0.114deg、受光スリット20mm
検出器:シンチレーションカウンター
測定範囲:2θ=20~60deg
ステップ幅:0.01deg
スキャンスピード:1deg/分
解析は、株式会社リガクのPDXL2を用いた。バックグラウンドに端点を結ぶ直線、ピーク形状に分割型擬Voigt関数を選択し、プロファイルフィッティングすることで、002及び004のピーク強度(積分強度)を得た。002のピーク及び004のピークは、前述のとおり、c軸配向しているので、他の面のピークと重ならない独立したピークである。デバイスとして多層構成にした場合に想定される、別相由来のピークとの重なりがあった場合には、一般的なXRDデータ解析と同様にピーク分解できるので、002及び004のみのピーク強度を得ることができる。
【0053】
〔酸化物イオンの伝導率の測定〕
固体電解質の両面にスパッタリング法を用いて150nm厚の白金膜を製膜して電極を形成した。この固体電解質を加熱炉中に載置し、加熱炉の温度を変化させて固体電解質の複素インピーダンス解析を行った。解析にはインピーダンス測定装置を用い、周波数は0.1Hz~32MHzとした。全抵抗成分(粒内抵抗+粒界抵抗)から酸化物イオン伝導率(S/cm)を求めた。600℃での酸化物イオン伝導率を表1に示した。
【0054】
【0055】
表1に示す結果から明らかなとおり、I002/I004の値が特定の範囲である各実施例で得られた固体電解質は、比較例の固体電解質に比べて伝導率が約5倍以上も高く、酸化物イオン伝導性の向上効果が高いことが判る。
【0056】
〔実施例4〕
実施例1で得られた固体電解質の両面に、イットリウムを含むBi2O3からなる中間層12を形成した。中間層12の形成には、以下の方法で製造されたターゲットを用いた。このターゲットを用いて固体電解質の両面にスパッタリングを行い、中間層を形成した。中間層の形成後、700℃1時間にわたり加熱を行い、固体電解質接合体10を製造した。
【0057】
〔ターゲットの製造〕
Y2O3粉体とBi2O3の粉体とを所定量配合し、エタノールを加えてボールミルで混合した。この混合物を乾燥させ、乳鉢で粉砕し、アルミナるつぼを使用して大気雰囲気下700℃で3時間にわたり焼成した。この焼成物にエタノールを加えて遊星ボールミルで粉砕し、焼成粉末を得た。この焼成粉末を、50mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形し、引き続きホットプレス焼結を行った。焼結の条件は、窒素ガス雰囲気、圧力30MPa、温度600℃、3時間とした。このようにしてスパッタリング用のターゲットを得た。
【0058】
〔実施例5〕
実施例4において用いたターゲットに代えて、サマリウムを含む酸化セリウムからなるターゲットを用いた。このターゲットは、実施例4において用いたターゲットと同様の方法で製造した。このターゲットを用い、実施例4と同様の方法によって、サマリウムを含む酸化セリウムからなる中間層12を製造した。このようにして固体電解質接合体10を製造した。
【0059】
〔比較例2〕
比較例1で得られた固体電解質の両面に、サマリウムを含む酸化セリウムからなる中間層を形成した。中間層の形成は実施例5と同様にした。
【0060】
〔電流密度の測定〕
実施例4及び5並びに比較例2で得られた固体電解質接合体について、電気抵抗を測定した。測定は600℃で行った。大気中で中間層間に直流電圧1Vを印加し、得られた電流値から電流密度を算出した。この結果を表2に示す。
【0061】
【0062】
表2に示す結果から明らかなとおり、I002/I004の値が特定の範囲である固体電解質に中間層を設けた固体電解質接合体は、比較例の固体電解質接合体に比べて約7倍以上もの高い電流密度値が得られることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、固体電解質を備えたデバイスの電気抵抗を低減し得る固体電解質が提供される。また本発明によれば、電気抵抗の低い固体電解質接合体が提供される。