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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20230710BHJP
   A61K 6/54 20200101ALI20230710BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/54
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020536976
(86)(22)【出願日】2019-01-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-08
(86)【国際出願番号】 US2019012043
(87)【国際公開番号】W WO2019136060
(87)【国際公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】62/613,241
(32)【優先日】2018-01-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517264281
【氏名又は名称】デンツプライ シロナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】レン,キャロライン
(72)【発明者】
【氏名】スジラット,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ヨアヒム イー.
(72)【発明者】
【氏名】ショイフラー,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】エルスナー,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】ティゲス,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ウォーム,マッティアズ
(72)【発明者】
【氏名】リッター,ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】ジン,シャオミン
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-514338(JP,A)
【文献】特開2006-176511(JP,A)
【文献】特表2007-520465(JP,A)
【文献】特開2005-225839(JP,A)
【文献】特開2017-197528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I):
【化1】
の重合性酸性化合物を含む歯科用組成物
(式中、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子またはメチル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキル基、C3~8シクロアルキル基または直鎖状もしくは分岐鎖状C2~6アルケニル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、-COOM、-POM、-O-POおよび-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子を表す)から選択される基で置換された一価の有機部分を表すか、あるいは
およびRは一緒に、-COOM、-POM、-O-POおよび-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子を表す)から選択される基で置換された二価の有機部分を形成し、
Lは、(m+n+1)価の有機リンカー基を表し、
Xは、水素原子あるいは-COOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子である)から選択される基を表し、
mは~6の整数であり、
nは~6の整数である)
【請求項2】
mは1である、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
nは1である、請求項1または2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
は以下の式(II):
【化2】
の基である、請求項1、2または3に記載の歯科用組成物
(式中、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子またはC1~4アルキル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子またはC1~4アルキル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子またはC1~4アルキル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子またはC1~4アルキル基を表し、
Yは酸素原子または硫黄原子を表し、
Zは、-COOM、-POM、-O-POまたは-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子である)から選択される基を表し、
aは1~6の整数であり、
bは0または1の整数であり、かつ
cは1~6の整数である)。
【請求項5】
は水素原子を表す、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
はC1~6アルキル基またはC2~6アルケニル基を表す、請求項1~5のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
Lは、(m+n+1)価の脂肪族もしくは脂環式リンカー基を表す、請求項1~6のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
、R、RおよびRは水素原子を表す、請求項4~のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
Xは水素原子である、請求項のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
溶媒および/または粒子状充填剤をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項11】
歯科用修復もしくは歯科用補綴組成物である、請求項1~10のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項12】
歯科用接着剤組成物、歯科用コンポジット組成物、樹脂で修飾された歯科用セメント、小窩裂溝填塞材、減感剤またはバーニッシュである、請求項1~11のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項13】
歯科用組成物の調製のための、以下の式(I):
【化3】
の重合性酸性化合物の使用
(式中、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子またはメチル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキル基、C3~8シクロアルキル基または直鎖状もしくは分岐鎖状C2~6アルケニル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、-COOM、-POM、-O-POおよび-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子を表す)から選択される基で置換された一価の有機部分を表すか、あるいは
およびRは一緒に、-COOM、-POM、-O-POおよび-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子を表す)から選択される基で置換された二価の有機部分を形成し、
Lは、(m+n+1)価の有機リンカー基を表し、
Xは、水素原子あるいは-COOM(式中、Mは水素原子または金属原子である)から選択される基を表し、
mは~6の整数であり、
nは~6の整数である)
【請求項14】
歯科用接着剤組成物、歯科用コンポジット組成物、樹脂で修飾された歯科用セメント、小窩裂溝填塞材、減感剤およびバーニッシュから選択される、請求項13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の重合性酸性化合物を含む歯科用組成物に関する。本発明は歯科用組成物の調製のための特定の重合性酸性化合物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
重合性化合物を含有する重合性歯科用組成物は公知である。従来より重合性歯科用組成物は幅広い用途のために提供されており、従って多くの異なる要求に応えなければならない。例えば重合性歯科用組成物は、歯科用接着剤組成物、ボンディング材、小窩裂溝填塞材、歯科用減感組成物、覆髄組成物、歯科用コンポジット、歯科用グラスアイオノマーセメント、歯科用セメント、歯科用根管充填材組成物または歯科用溶浸剤であってもよい。
【0003】
典型的には(メタ)アクリレートはラジカル重合におけるそれらの優れた反応性により重合性歯科用組成物中の重合性成分として使用されている。架橋能力を与えるために、Bis-GMAなどの多官能性(メタ)アクリレートが広範囲に使用されている。欧州特許第2895138A1号は、N置換アクリル酸アミド化合物を含む重合性歯科用組成物を開示している。欧州特許第15178515号および欧州特許第15188969号は、N,N’-ジアリル-1,4-ビスアクリルアミド-(2E)-ブタ-2-エン(BAABE)を開示している。
【0004】
歯科用修復材は、エナメルおよび/または象牙質の物理的損傷またはう蝕関連の破壊によって損傷された歯の構造の機能、形態および完全性を修復するために知られている歯科用組成物である。歯科用修復材は、高い生体適合性、良好な機械的特性ならびに長期間にわたる機械的および化学的耐性を有することが求められる。
【0005】
歯科用修復材としては、良好な生体適合性および歯の硬組織への良好な接着を有するグラスアイオノマーセメントが挙げられる。さらに、グラスアイオノマーセメントはフッ化物イオンの放出により抗う蝕性を与えることができる。グラスアイオノマーセメントは反応性ガラス粉末とポリアルケン酸との酸塩基反応によって硬化される。しかし従来のグラスアイオノマーセメントは、比較的低い曲げ強度を有し、かつポリ酸と塩基性ガラスとの間の塩のような構造により脆い。
【0006】
グラスアイオノマーセメントの機械的特性は、水性歯科用グラスアイオノマー組成物中の重合性化合物の選択によって向上させることができる。
【0007】
国際公開第03/011232A1号は、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリセロールモノもしくはジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ウレタンメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、メタクリルアミド、グリセロールホスフェートモノメタクリレート、グリセロールホスフェートジメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートホスフェートおよびクエン酸ジもしくはトリメタクリレートなどの水溶性、水混和性もしくは水分散性アクリレートおよびメタクリレートからなる群から選択されるα,β-不飽和モノマーを含有し得る水性の歯科用グラスアイオノマーセメントを開示している。
【発明の概要】
【0008】
本発明の課題は、従来の(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドおよびアリルエーテルと共重合可能であり、かつ好ましい重合エンタルピーと、水および/または酸性環境における良好な溶解性と、生体適合性とを有する特定の重合性化合物を含む歯科用組成物を提供することにある。
【0009】
さらに本発明の課題は、歯科用組成物に使用することができる特定の重合性化合物を提供することにある。
【0010】
本発明の課題は特許請求の範囲に従って解決される。従って本発明は、以下の式(I):
【化1】
の重合性酸性化合物を含む歯科用組成物を提供し、
式中、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子またはメチル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキル基、C3~8シクロアルキル基または直鎖状もしくは分岐鎖状C2~6アルケニル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、-COOM、-POM、-O-POおよび-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子を表す)から選択される基で置換された一価の有機部分を表すか、あるいは
およびRは一緒に、-COOM、-POM、-O-POおよび-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子を表す)から選択される基で置換された二価の有機部分を形成し、
Lは、(m+n+1)価の有機リンカー基を表し、
Xは、水素原子あるいは-COOM、-POM、-O-POまたは-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子である)から選択される基を表し、
mは0~6の整数であり、
nは0~6の整数であり、
ここでは(m+n)は少なくとも2であるが、
但し、nが0である場合、Xは水素原子にはなり得ない。
【0011】
さらに本発明は、歯科用組成物の調製のための式(I)の重合性酸性化合物の使用を提供する。
【0012】
本発明は、式(I)の重合性酸性化合物が優れた重合エンタルピーを有するという認識に基づいている。さらに本発明は、式(I)の化合物の粘度が典型的には歯科用組成物の分野において適用される(メタ)アクリレートの範囲内であるという認識に基づいている。また式(I)の重合性化合物は、有利な最大重合速度および曲げ強度などの望ましい機械的特性を提供する。さらに重合性酸は水または水性酸性製剤に可溶である。歯科用グラスアイオノマーセメント組成物に使用される場合、式(I)の化合物の1つ以上の酸性基はセメント反応に関与することができ、それによりさらなる硬化機序を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
「重合」および「重合性」という用語は、モノマーなどの多数のより小さい分子を共有結合してすなわち巨大分子またはポリマーであるより大きい分子を形成することによる結合またはその結合能力に関する。モノマーを結合して直鎖状巨大分子のみを形成してもよく、あるいはモノマーを結合して一般に架橋ポリマーと呼ばれる3次元巨大分子を形成してもよい。例えば単官能性モノマーは直鎖状ポリマーを形成し、少なくとも2つの官能基を有するモノマーはポリマーネットワークとしても知られている架橋ポリマーを形成する。より高い変換率の重合性モノマーの場合、多官能性モノマーの量を減少させることができたり、浸出問題を軽減したりすることができる。
【0014】
「硬化」および「光硬化」という用語は、官能性オリゴマーおよびモノマーまたはさらにはポリマーの架橋ポリマーネットワークへの重合および/またはセメント反応における組成物の硬化を意味する。例えば硬化は、架橋剤の存在下での不飽和モノマーまたはオリゴマーの重合であってもよい。
【0015】
「化学線」は光化学作用を生成することができる任意の電磁放射線であり、かつ少なくとも150nmから最大1250nm(この値を含む)の波長、典型的には少なくとも300nmであって最大750nm(この値を含む)の波長を有することができる。
【0016】
「光開始剤」という用語は、例えば化学光への曝露または光化学プロセスにおける共開始剤との相互作用によって活性化された場合にフリーラジカルを形成するあらゆる化合物である。
【0017】
「共開始剤」という用語は、光化学プロセスにおける光開始剤などの別の分子において化学変化を生じさせる分子を指す。共開始剤は光開始剤または電子ドナーであってもよい。
【0018】
本明細書で使用される「電子ドナー」という用語は、光化学プロセスにおいて電子を供与することができる化合物を意味する。好適な例としては、例えばアミン化合物などの非共有電子対を有するヘテロ原子を有する有機化合物が挙げられる。
【0019】
「多酸性ポリマー」という用語は、ポリマーが反応性ガラスとのセメント反応に関与することができる複数の酸性基、好ましくはカルボン酸基を有することを意味する。カルボン酸基は好ましくは骨格中に存在し、かつアクリル酸、メタクリル酸および/またはイタコン酸に由来する。
【0020】
「直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキル基」および「直鎖状もしくは分岐鎖状C2~6アルケニル基」は特に限定されない。好ましくは「直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキル基」および「直鎖状もしくは分岐鎖状C2~6アルケニル基」は、直鎖状C1~4アルキル基または直鎖状C2~4アルケニル基を表す。「C3~8シクロアルキル基」は特に限定されない。好ましくは、「C3~8シクロアルキル基」はC3~6シクロアルキル基である。
【0021】
直鎖状もしくは分岐鎖状アルキル基のための実例は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、ペンチルまたはヘキシルであり、直鎖状もしくは分岐鎖状アルケニル基のための実例は、エテニル、n-プロペニル、i-プロペニル、n-ブテニル、イソブテニル、tert-ブテニル、sec-ブテニル、ペンテニルまたはヘキセニルである。
【0022】
「アルケニル」という用語は、上に定義されている炭素数を有する炭化水素に由来する一価の基を意味する。このアルケニル基は好ましくは、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合、より好ましくは1~3つの炭素-炭素二重結合、さらにより好ましくは1つまたは2つの炭素-炭素二重結合、最も好ましくは1つの炭素-炭素二重結合を含む。さらにアルケニル基の少なくとも1つの炭素-炭素二重結合は、アルケニル基を式(I)の化合物に結合する第1の炭素に隣接する第2の炭素原子と第3の炭素原子との間に位置していることが好ましい。
【0023】
本発明は歯科用組成物を提供する。本歯科用組成物は歯科用修復もしくは歯科用補綴組成物であってもよい。好ましくは本歯科用組成物は、歯科用接着剤組成物、歯科用コンポジット組成物、樹脂で修飾された歯科用セメント、小窩裂溝填塞材、減感剤およびバーニッシュから選択される。
【0024】
本発明の歯科用組成物は、以下の式(I):
【化2】
の特定の重合性酸性化合物を含む。
【0025】
式(I)において、Rは、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子またはメチル基を表す。好ましくは、Rは水素原子を表す。
【0026】
式(I)において、Rは、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキル基、C3~8シクロアルキル基または直鎖状もしくは分岐鎖状C2~6アルケニル基を表す。好ましい実施形態によれば、Rは、水素原子、C1~6アルキル基またはC2~6アルケニル基を表す。より好ましい実施形態によれば、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基およびアリル基から選択される。
【0027】
式(I)において、Rは、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、-COOM、-POM、-O-POおよび-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子を表す)から選択される基で置換された一価の有機部分を表す。一価の有機部分は好ましくは1~20個の炭素原子、より好ましくは2~10個の炭素原子を有する有機部分である。有機部分は、その主鎖の中に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選択されるヘテロ原子を含んでいてもよい。具体的には、有機部分はエーテル、エステル、チオエーテル、アミド、尿素またはウレタン結合などの結合を含んでいてもよい。一価の有機部分は、共有結合的単結合によって窒素原子に結合されている。有機部分は-COOM、-POM、-O-POおよび-SOM(式中、Mは上に定義したとおりである)以外の基でさらに置換されていてもよい。例えば有機部分は、ヒドロキシル基、チオール基、ケト基およびフッ素などのハロゲン原子から選択される1~5つの基で置換されていてもよい。
【0028】
式(I)の化合物の特定の実施形態によれば、RおよびRは一緒に、-COOM、-POM、-O-POおよび-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子を表す)から選択される基で置換された二価の有機部分を形成していてもよい。
【0029】
二価の有機部分は好ましくは1~20個の炭素原子、より好ましくは2~10個の炭素原子を有する有機部分である。有機部分は、その主鎖の中に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選択されるヘテロ原子を含んでいてもよい。具体的には、二価の有機部分はエーテル、エステル、チオエーテル、アミド、尿素またはウレタン結合などの結合を含んでいてもよい。二価の有機部分は共有結合的単結合によって窒素原子に結合されている。二価の有機部分は、-COOM、-POM、-O-POおよび-SOM(式中、Mは上に定義したとおりである)以外の基でさらに置換されていてもよい。例えば有機部分は、ヒドロキシル基、チオール基、ケト基およびフッ素などのハロゲン原子から選択される1~5つの基で置換されていてもよい。
【0030】
好ましくは、Rは以下の式(II):
【化3】
の基であり、
式中、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子またはC1~4アルキル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子またはC1~4アルキル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子またはC1~4アルキル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子またはC1~4アルキル基を表し、
Yは、酸素原子または硫黄原子を表し、
Zは、-COOM、-POM、-O-POまたは-SOMから選択される基(式中、Mは独立して水素原子または金属原子である)を表し、
aは1~6の整数であり、
bは0または1の整数であり、かつ
cは1~6の整数である。
【0031】
好ましい実施形態によれば、R、R、RおよびRは水素原子を表す。
【0032】
式(I)において、Lは(m+n+1)価の有機リンカー基を表す。
【0033】
有機リンカー基は好ましくは1~20個の炭素原子、より好ましくは2~10個の炭素原子を有する有機部分である。有機リンカー基は、その主鎖の中に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選択されるヘテロ原子を含んでいてもよい。具体的には、有機部分はエーテル、エステル、チオエーテル、アミド、尿素またはウレタン結合などの結合を含んでいてもよい。一価の有機部分は、共有結合的単結合によって窒素原子に結合されている。有機部分は、-COOM、-POM、-O-POおよび-SOM(式中、Mは上に定義したとおりである)以外の基でさらに置換されていてもよい。例えば、有機部分は、ヒドロキシル基、チオール基、ケト基およびフッ素などのハロゲン原子から選択される1~5つの基で置換されていてもよい。好ましい実施形態によれば、Lは(m+n+1)価の脂肪族もしくは脂環式リンカー基を表す。
【0034】
式(I)において、Xは、水素原子あるいは-COOM、-POM、-O-POまたは-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子である)から選択される基を表す。好ましい実施形態によれば、Xは-COOM、-POMまたは-O-PO(式中、Mは水素原子である)から選択される基を表す。好ましい実施形態によれば、Xは水素原子である。
【0035】
式(I)において、mは0~6の整数である。特定の実施形態によれば、mは0である。さらなる特定の実施形態によれば、mは1である。さらなる特定の実施形態によれば、mは2である。好ましくは、mは0~2である。
【0036】
式(I)において、nは0~6の整数である。特定の実施形態によれば、nは0である。さらなる特定の実施形態によれば、nは1である。さらなる特定の実施形態によれば、nは2である。好ましくは、nは0~2である。
【0037】
式(I)において、(m+n)は少なくとも2である。特定の実施形態によれば、mは0であり、かつnは2である。さらなる特定の実施形態によれば、mは1であり、かつnは1である。さらなる特定の実施形態によれば、mは2であり、かつnは0である。
【0038】
但し式(I)においてnが0である場合、Xは水素原子にはなり得ない。従って、式(I)の化合物は、-COOM、-POM、-O-POまたは-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子である)から選択される酸性基を常に含む化合物である。
【0039】
式(I)の化合物は好ましくは本歯科用組成物の総重量に基づいて1~70重量%の量で本発明に係る歯科用組成物に含有されている。より好ましくは本歯科用組成物は、歯科用組成物の総重量に基づいて5~50重量%の式(I)化合物を含有している。
【0040】
本発明に係る歯科用組成物は溶媒および/または粒子状充填剤をさらに含んでいてもよい。
【0041】
歯科用組成物の調製のための、以下の式(I):
【化4】
の重合性酸性化合物の使用
(式中、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子またはメチル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、水素原子、直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキル基、C3~8シクロアルキル基または直鎖状もしくは分岐鎖状C2~6アルケニル基を表し、
は、2つ以上のRが存在する場合には同じであっても異なってもよいが、-COOM、-POM、-O-POおよび-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子を表す)から選択される基で置換された一価の有機部分を表すか、あるいは
およびRは一緒に、-COOM、-POM、-O-POおよび-SOM(式中、Mは独立して水素原子または金属原子を表す)から選択される基で置換された二価の有機部分を形成し、
Lは、(m+n+1)価の有機リンカー基を表し、
Xは、水素原子あるいは-COOM、-POM、-O-POまたは-SOM(式中、Mは水素原子または金属原子である)から選択される基を表し、
mは0~6の整数であり、
nは0~6の整数であり、
ここではm+nは少なくとも2であり、
但し、nが0である場合、Xは水素原子にはなり得ない)。
【0042】
本歯科用組成物は、歯科用接着剤組成物、歯科用コンポジット組成物、樹脂で修飾された歯科用セメント、小窩裂溝填塞材、減感剤およびバーニッシュから選択されてもよい。
【0043】
好ましい実施形態によれば、本歯科用組成物は水性の樹脂で修飾された歯科用グラスアイオノマー組成物であり、これは好ましくは
(A)反応性粒子状ガラス、
(B)セメント反応において粒子状ガラスと反応する酸性基を含み、かつ好ましくは重合性基を有する水溶性ポリマー、
(C)本発明に係る式(I)の重合性酸性化合物を含有する重合性樹脂、および
(D)重合開始剤系
を含む。
【0044】
「反応性粒子状ガラス」という用語は、熱溶融プロセスによってガラスに変換され、かつ各種プロセスによって粉砕された主に金属酸化物の固体混合物を指し、このガラスはセメント反応において酸性基を含有するポリマーと反応することができる。このガラスは粒子の形態である。さらに反応性粒子状ガラスは例えばシラン化または酸処理によって表面改質されていてもよい。あらゆる従来の反応性歯科用ガラスを本発明の目的のために使用することができる。粒子状反応性ガラスの具体例は、カルシウムアルミノシリケートガラス、カルシウムアルミノフルオロシリケートガラス、カルシウムアルミニウムフルオロボロシリケートガラス、ストロンチウムアルミノシリケートガラス、ストロンチウムアルミノフルオロシリケートガラス、ストロンチウムアルミノフルオロボロシリケートガラスから選択される。好適な粒子状反応性ガラスは、例えば米国特許第A3,655,605号、米国特許第A3,814,717号、米国特許第A4,143,018号、米国特許第A4,209,434号、米国特許第A4,360,605号および米国特許第A4,376,835号に記載されているような酸化亜鉛および/または酸化マグネシウムなどの金属酸化物の形態および/またはイオン浸出性ガラスの形態であってもよい。
【0045】
好ましくは、(A)に係る反応性粒子状ガラスは、
1)20~45重量%のシリカ、
2)20~40重量%のアルミナ、
3)20~40重量%の酸化ストロンチウム、
4)1~10重量%のP、および
5)3~25重量%のフッ化物
を含む反応性粒子状ガラスである。
【0046】
本水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、本組成物の総重量に基づいて好ましくは20~90重量%、より好ましくは30~80重量%の反応性粒子状ガラスを含む。
【0047】
反応性粒子状ガラスは通常、例えば電子顕微鏡法あるいはMALVERN Mastersizer SまたはMALVERN Mastersizer 2000装置によって具現化されているような従来のレーザー回折粒度測定によって測定した場合に、0.005~100μm、好ましくは0.01~40μmの平均粒径を有する。
【0048】
反応性粒子状ガラスは単峰性もしくは多峰性(例えば二峰性)粒度分布を有していてもよく、ここでは多峰性の反応性粒子状ガラスは、異なる平均粒径を有する2つ以上の粒子画分の混合物を表す。反応性粒子状ガラスは、修飾されたポリ酸および/または重合性(メタ)アクリレート樹脂の存在下で反応性粒子状ガラスを凝集させることによって入手可能な凝集した反応性粒子状ガラスであってもよい。凝集した反応性粒子状ガラスの粒径は、粉砕などの好適なサイズリダクションプロセスによって調整してもよい。
【0049】
反応性粒子状ガラスは、(B)、(C)および/または(D)に係る成分によって表面改質されていてもよい。特に反応性粒子状ガラスは、水性条件下で重合開始剤系(D)の1種以上の成分が酸と接触するのを回避するために、重合開始剤系(D)の1種以上の成分によって表面改質されていてもよい。
【0050】
反応性粒子状ガラスは、代わりまたは追加として、表面改質剤によって表面改質されていてもよい。好ましくは表面改質剤はシランである。シランは反応性粒子状ガラスに好適な疎水性を与え、これにより水性歯科用グラスアイオノマー組成物の(B)、(C)および(D)に係る有機成分との有利な均一混合が可能になる。
【0051】
酸性基を含み、かつ好ましくは重合性基を有する水溶性ポリマーは、カルボン酸基などのイオン化ペンダント基を含む有機ポリマー化合物である。当該ポリマーのカルボン酸基はセメント反応において反応性粒子状ガラスと反応してグラスアイオノマーセメントを形成することができる。
【0052】
(B)に係る酸性基を含む水溶性ポリマーは、共重合工程a)、カップリング工程b)、および任意の脱保護工程を含むプロセスによって入手可能である。
【0053】
「重合性ポリマー」という用語に関する文脈において使用される「水溶性」という用語は、少なくとも0.1g、好ましくは0.5gの重合性ポリマーが20℃で100gの水に溶解されることを意味する。
【0054】
成分(B)に関する文脈において使用される「重合性基を有するポリマー」という用語は、硬化された水性歯科用グラスアイオノマー組成物の機械的特性ならびに長期間の機械的および化学的耐性を向上させるために当該ポリマーを重合および架橋させることができる1つ以上の重合性部分を含有するポリマーを指す。
【0055】
(B)に係る水溶性ポリマーは好ましくは加水分解安定性であり、これは当該ポリマーが歯科用組成物中などの酸性媒体中で加水分解に対して安定であることを意味する。具体的には当該ポリマーは、室温で1ヶ月以内にpH3の水性媒体中で加水分解するエステル基などの基を含有していない。
【0056】
(B)に係る酸性基を含み、かつ好ましくは重合性基を有する好ましい水溶性ポリマーは、アミノ基含有コポリマーを得るために、(i)少なくとも1つの任意に保護されたカルボン酸基および第1の重合性有機部分を含む第1の共重合性モノマーと、(ii)1つ以上の任意に保護された第一級および/または第二級アミノ基および第2の重合性有機部分を含む第2の共重合性モノマーとを含む混合物を共重合させる工程a)を含むプロセスによって入手可能である。この混合物はさらなるモノマーも含有していてもよい。
【0057】
工程a)で使用される第1の共重合性モノマーは、少なくとも1つ、好ましくは1~3つ、より好ましくは1つまたは2つ、最も好ましくは1つの任意に保護されたカルボン酸基を含む。
【0058】
任意に保護されたカルボン酸基の保護基は、有機化学の当業者に公知のカルボキシル保護基である限り、特に限定されない(P.G.M.WutsおよびT.W.Greene,有機合成におけるGreeneの保護基(Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis),第4版,John Wiley and Sons社,2007を参照)。好ましくはカルボキシル保護基は、トリアルキルシリル基、アルキル基およびアリールアルキル基から選択される。より好ましくは、カルボキシル保護基はアルキル基またはアリールアルキル基から選択される。最も好ましくは、カルボキシル保護基はtert-ブチル基およびベンジル基から選択される。好ましい一実施形態では、カルボキシル保護基はtert-ブチル基である。
【0059】
本明細書で使用される「重合性有機部分」という用語は、この分子を化学反応(重合)においてこの部分と反応する他の分子に共有結合的に結合させて、繰り返しもしくは交互の構造単位の巨大分子を形成するために使用することができる分子の有機部分を意味する。好ましくはこの重合性有機部分は、エチレン性不飽和部分の場合と同様の炭素-炭素二重結合である。
【0060】
好ましい実施形態では、第1の共重合性モノマーは一般式(1):
【化5】
によって表される。
【0061】
式(1)において、R10は水素原子、-COOZ基、または-COOZ基で置換されていてもよい直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキル基である。好ましくは、R10は水素原子、-COOZ基またはメチル基である。より好ましくは、R10は水素原子またはメチル基である。
【0062】
式(1)において、R20は水素原子、-COOZ’基、または-COOZ’基で置換されていてもよい直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキル基である。好ましくは、R20は水素原子または-COOZ’基である。より好ましくは、R20は水素原子である。式(1)において点線は、R20がシスもしくはトランス配向のいずれであってもよいことを示す。
【0063】
式(1)において、Aは単結合または直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキレン基であり、この基はアルキレン炭素鎖の2つの炭素原子の間に1~3つのヘテロ原子を含んでいてもよく、このヘテロ原子は酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選択され、かつ/またはこのアルキレン基はアルキレン炭素鎖の2つの炭素原子の間にアミド結合またはウレタン結合から選択される1~3つの基を含んでいてもよい。好ましくは、Aは単結合または直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキレン基であり、この基はアルキレン炭素鎖の2つの炭素原子の間にヘテロ原子を含んでいてもよく、このヘテロ原子は酸素原子または窒素原子から選択され、かつ/またはこのアルキレン基はアルキレン炭素鎖の2つの炭素原子の間にアミド結合またはウレタン結合から選択される基を含んでいてもよい。より好ましくは、Aは単結合または直鎖状C1~6アルキレン基である。最も好ましくは、Aは単結合である。
【0064】
式(1)において、Z’は、同じであっても異なってもよいが、独立して水素原子、金属イオン、カルボン酸基のための保護基を表すか、あるいはZ’は当該分子中に存在するさらなる-COOZ’基と一緒に分子内無水物基を形成している。金属イオンはアルカリ金属イオンなどの一価の金属イオンであってもよい。一実施形態では、Z’はカルボン酸基のための保護基である。別の実施形態では、Z’は水素原子である。Z’が当該分子中に存在するさらなる-COOZ’基と一緒に分子内無水物基(-C(O)OC(O)-)を形成している場合は、イタコン酸無水物の場合などに好ましくはさらなる-COOZ’基がR上に存在してもよい。
【0065】
好ましい実施形態では、Z’は水素原子であり、かつ重合反応はアルカリ性環境で行われる。他の好ましい実施形態では、Z’は水素原子であり、かつ第1の共重合性モノマーおよび第2の共重合性モノマーのアミノ基は保護基を有する。
【0066】
好ましくは、第1の共重合性モノマーは保護された(メタ)アクリル酸モノマーである。より好ましくは、第1の重合性モノマーは、tert-ブチルアクリレートおよびベンジルアクリレートから選択される。最も好ましくは、第1の重合性モノマーはtert-ブチルアクリレートである。
【0067】
本発明の水性歯科用グラスアイオノマー組成物の好ましい実施形態では、第2の共重合性モノマーは一般式(2):
【化6】
によって表される。
【0068】
式(2)において、R30は水素原子または直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキル基であり、この基は-COOZ’基で置換されていてもよい。好ましくは、R30は水素原子である。式(2)において点線は、R30がシスもしくはトランス配向のいずれであってもよいことを示す。
【0069】
式(2)において、X’は、保護されたアミノ基または保護基を有することができるアミノ基で置換された1~20個の炭素原子を有する炭化水素基であり、ここでは炭化水素基は1~6つのヘテロ原子を含んでいてもよく、このヘテロ原子は酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選択され、かつ/またはこの炭化水素基はアミド結合またはウレタン結合から選択される基を含んでいてもよく、かつこの炭化水素基は-COOZ’、アミノ基、ヒドロキシル基およびチオール基から選択される最大6つの基でさらに置換されていてもよい。好ましくは、X’は1~20個の炭素原子を有する炭化水素基であり、これは保護基を有することができるアミノ基で置換されており、ここでは炭化水素基はヘテロ原子を含んでいてもよく、このヘテロ原子は酸素原子および窒素原子から選択され、かつ/またはこの炭化水素基はアミド結合またはウレタン結合から選択される基を含んでいてもよく、かつこの炭化水素基は-COOZ’基でさらに置換されていてもよい。より好ましくは、X’は1~20個、さらにより好ましくは1~6個の炭素原子の炭素原子を有する炭化水素基であり、これは保護基を有することができるアミノ基で置換されており、ここでは炭化水素基は酸素原子を含んでいてもよく、かつ/またはこの炭化水素基はアミド結合を含んでいてもよく、かつこの炭化水素基は-COOZ’基でさらに置換されていてもよい。Xが保護されたアミノ基である特定の実施形態では、式(2)の化合物はアリルアミンであり、ここではアミノ基は保護基を有する。
【0070】
保護されたアミノ基または任意に保護されたアミノ基の保護基は特に限定されず、例えば、P.G.M.WutsおよびT.W.Greene,有機合成におけるGreeneの保護基(Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis),第4版,John Wiley and Sons社,2007に記載されているようなアミノ基のための任意の従来の保護基であってもよい。好ましくは、アミノ保護基は、アシル基、アリールアルキル基、アルコキシカルボニル基およびアリールオキシカルボニル基から選択される。より好ましくは、アミノ保護基はアシル基である。最も好ましくは、アミノ保護基はホルミル基である。
【0071】
式(2)において、Y’は水素原子または1~20個の炭素原子を有する炭化水素基であり、ここでは炭化水素基は1~6つのヘテロ原子を含んでいてもよく、このヘテロ原子は酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選択され、かつ/またはこの炭化水素基はアミド結合またはウレタン結合から選択される基を含んでいてもよく、かつこの炭化水素基は-COOZ’’、アミノ基、ヒドロキシル基およびチオール基から選択される最大6つの基でさらに置換されていてもよい。好ましくは、Yは水素原子または1~20個の炭素原子を有する炭化水素基であり、ここでは炭化水素基はヘテロ原子を含んでいてもよく、このヘテロ原子は酸素原子および窒素原子から選択され、かつ/またはこの炭化水素基はアミド結合またはウレタン結合から選択される基を含んでいてもよく、かつこの炭化水素基は-COOZ’’基でさらに置換されていてもよい。より好ましくは、Y’は水素原子または1~20個の炭素原子、さらにより好ましくは1~6個の炭素原子を有する炭化水素基であり、ここでは炭化水素基は酸素原子を含んでいてもよく、かつ/またはこの炭化水素基はアミド結合を含んでいてもよく、かつこの炭化水素基は-COOZ’’基でさらに置換されていてもよい。好ましい一実施形態では、Yは水素原子である。
【0072】
式(2)において、Z’’は、同じであっても異なってもよいが、独立して水素原子、金属イオン、カルボン酸基のための保護基を表すか、あるいはZ’’は当該分子中に存在するさらなる-COOZ’’基と一緒に分子内無水物基を形成している。一実施形態では、Z’’はカルボン酸基のための保護基である。別の実施形態では、Z’’は水素原子である。金属イオンはアルカリ金属イオンなどの一価の金属イオンであってもよい。別の実施形態では、Z’’は水素原子である。Z’が当該分子中に存在するさらなる-COOZ’’基と一緒に分子内無水物基(-C(O)OC(O)-)を形成している場合。
【0073】
好ましい実施形態では、Z’’は水素原子であり、かつ重合反応はアルカリ性環境で行われる。他の好ましい実施形態では、Z’’は水素原子であり、かつ第2の共重合性モノマーのアミノ基は保護基を有する。
【0074】
一実施形態では、第2の共重合性モノマーは、置換されていてもよい(メタ)アクリルアミド部分および保護されていてもよい置換された(メタ)アクリル酸の群から選択される第2の共重合性有機部分を含む。別の実施形態では、第2の共重合性モノマーは、アリルアミン、アミノプロピルビニルエーテル、アミノエチルビニルエーテル、N-ビニルホルムアミドおよび2-アミノメチルアクリル酸から選択される。好ましい実施形態では、第2の共重合性モノマーはアミノプロピルビニルエーテルである。アミノ基は塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩の形態であってもよい。アミノ基が保護基を有することもできる好ましい構造が以下のスキーム1に示されている。
【化7】
スキーム1
【0075】
工程a)において共重合された混合物における第1の共重合性モノマー:第2の共重合性モノマーのモル比(第1の共重合性モノマーのモル:第2の共重合性モノマーのモル)は、好ましくは100:1~100:50の範囲、より好ましくは100:2~100:20の範囲、さらにより好ましくは100:3~100:10の範囲である。
【0076】
工程a)で任意に使用されるさらなる共重合性モノマーは、カルボン酸基ではない少なくとも1つ、好ましくは1~3つ、より好ましくは1つまたは2つ、最も好ましくは1つの任意に保護された酸性基を含む。酸性基の具体例はスルホン酸基(-SOM’)、ホスホン酸基(-POM’)またはリン酸エステル基(-OPOM’)またはそれらの塩であり、式中、M’は独立して水素原子またはアルカリ金属もしくはアンモニウムイオンなどの一価のイオンであってもよい。
【0077】
任意のさらなるモノマーの具体例は、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルホスホネートおよびビニルスルホン酸から選択される。
【0078】
好ましい実施形態では、第1の共重合性モノマーおよび第2の共重合性モノマーを含有する溶液は、競合的アザマイケル付加の生じ得る副生成物を最小限に抑えるために、共重合のためにそれらを1つにまとめる前に別々に窒素で飽和されている。
【0079】
水性歯科用グラスアイオノマー組成物の工程a)は連鎖成長重合として進行する。一実施形態では、工程a)はラジカル共重合を含む。
【0080】
本発明の工程a)によって形成されるコポリマーの種類は、統計コポリマー、ランダムコポリマー、交互コポリマー、ブロックコポリマーまたはそれらの組み合わせであってもよい。
【0081】
本発明の工程a)によって得られるコポリマーは、例えばアクリレートとアミノプロピルビニルエーテルとの共重合によって入手可能なコポリマーなどのアミノ基含有コポリマーである。
【0082】
本発明の工程a)に係る重合反応の反応条件は特に限定されない。従って、溶媒の存在または非存在下で当該反応を行うことができる。好適な溶媒は、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)およびジオキサンの群から選択されてもよい。
【0083】
反応温度は特に限定されない。好ましくは、当該反応は-10℃から溶媒の沸点の間の温度で行われる。好ましくは、反応温度は0℃~80℃の範囲である。
【0084】
反応時間は特に限定されない。好ましくは反応時間は10分~48時間、より好ましくは1時間~36時間の範囲である。
【0085】
当該反応は好ましくは重合開始剤の存在下で行われる。本水性歯科用グラスアイオノマー組成物の好ましい実施形態では、重合開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)二塩酸塩、および4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)から選択される。重合開始剤の量は特に限定されない。好適には、この量は当該モノマーの総量に基づいて0.001~5モル%の範囲である。
【0086】
工程a)で得られた反応生成物は沈殿および濾過または凍結乾燥によって単離してもよい。当該生成物を従来の方法に従って精製してもよい。
【0087】
本水性歯科用グラスアイオノマー組成物の工程b)は、重合性部分と、第1の工程で得られたアミノ基含有コポリマー中の第2の共重合性モノマーに由来する繰り返し単位のアミノ基と反応する官能基とを有する化合物をカップリングする工程であり、ここでは保護されたアミノ基は任意に脱保護される。
【0088】
好ましくは、工程b)におけるカップリング反応は、アミド結合、尿素結合またはチオ尿素結合から選択される結合を形成する付加反応または縮合反応である。
【0089】
本明細書で使用される「アミノ基と反応する官能基」という用語は、アミノ基含有コポリマーのアミノ基と共有結合を形成することができるあらゆる基を意味する。好ましくは、アミノ基と反応する官能基は、カルボン酸基またはそのエステル基もしくは無水物などのその誘導体、イソシアネート基またはイソチオシアネート基である。より好ましくは、アミノ基と反応する官能基はカルボン酸基またはその誘導体である。
【0090】
第1の工程で得られたアミノ基含有コポリマー中の第2の共重合性モノマーに由来する繰り返し単位のアミノ基が保護されている場合、このアミノ基は工程b)の前または工程b)と同時に脱保護することができる。
【0091】
任意に保護されたアミノ基の脱保護のための条件は、使用される保護基に従って選択される。好ましくは、保護されたアミノ基は水素化分解または酸もしくは塩基による処理によって脱保護される。
【0092】
保護されたアミノ基の脱保護を工程b)と同時に行う場合、脱保護条件および工程b)のための条件を両方の反応が効率的に進行することができるように選択しなければならないことが当業者によって理解されるであろう。
【0093】
本水性歯科用グラスアイオノマー組成物の好ましい実施形態では、重合性部分と、第2の共重合性モノマーに由来する繰り返し単位のアミノ基と反応する官能基とを有する化合物は、一般式(3):
【化8】
によって表される化合物である。
【0094】
式(3)において、R40は水素原子または-COOZ’’基で置換されていてもよい直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキル基であり、かつR50は水素原子または-COOZ’’’基で置換されていてもよい直鎖状もしくは分岐鎖状C1~6アルキル基である。好ましくは、R40は水素原子であり、かつR50は水素原子またはメチル基である。より好ましくは、R40は水素原子であり、かつR50はメチル基である。式(3)において点線は、R40がシスもしくはトランス配向のいずれであってもよいことを示す。
【0095】
式(3)において、Z’’’は、同じであっても異なってもよいが、独立して水素原子、金属イオン、カルボン酸基のための保護基を表すか、あるいはZ’’’は当該分子中に存在するさらなる-COOZ’’’基と一緒に分子内無水物基を形成している。
【0096】
一実施形態では、Z’’’はカルボン酸基のための保護基である。別の実施形態では、Z’’’は水素原子である。好ましい実施形態では、Z’’’は水素原子であり、かつ重合反応はアルカリ性環境で行われる。他の好ましい実施形態では、Z’’’は水素原子であり、かつ第2の共重合性モノマーのアミノ基は保護基を有する。
【0097】
一実施形態では、式(3)においてLGは脱離基である。好ましくは、LGは塩素原子または臭素原子であるか、隣接するカルボニル基と一緒にカルボン酸無水物部分を形成している。より好ましくは、LGはショッテン・バウマン型反応において式(3)の化合物を反応させるのに適した基である。
【0098】
別の実施形態では、LGはZ’’’にとって代わってもよく、かつR40またはR50と一緒に分子内カルボン酸無水物基を形成してもよい。
【0099】
さらに別の実施形態では、式(3)の2つの分子は、共通のLG(ここではLGは酸素原子である)を共有することによって分子間カルボン酸無水物基を形成している。
【0100】
式(3)の化合物がアクリル酸、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、チグリン酸、アンゲリカ酸、2つの同一もしくは異なる酸から形成される上記酸の無水物、より好ましくは2つの同一の酸から形成される上記酸の無水物であることが特に好ましい。最も好ましくは、式(3)の化合物は(メタ)アクリル酸無水物である。
【0101】
本発明の工程b)に係るカップリングは1つ以上の重合性部分をアミノ基含有コポリマーの中に導入するために用いられ、この部分を後重合させて、さらなる共有結合的かつ有利にはイオン的でもある架橋を提供し、歯科材料にさらなる強度を与えることができる。
【0102】
本水性歯科用グラスアイオノマー組成物の一実施形態では、工程b)で得られたコポリマーのカルボン酸基は保護されておらず、かつ当該コポリマーはさらなる処理をしていない本発明に係るポリマーとして使用することができる。他の実施形態では、工程b)で得られたコポリマーのカルボン酸基は保護されており、かつ当該コポリマーが本発明に係るポリマーの特徴を示す前にカルボン酸基は脱保護されなければならない。
【0103】
本発明の工程b)に係る反応の反応条件は特に限定されない。従って当該反応を溶媒の存在または非存在下で行うことができる。好適な溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)およびジオキサンの群から選択されてもよい。
【0104】
反応温度は特に限定されない。好ましくは、当該反応は-10℃から溶媒の沸点の間の温度で行われる。好ましくは、反応温度は0℃~80℃の範囲である。
【0105】
反応時間は特に限定されない。好ましくは反応時間は10分~48時間、より好ましくは1時間~36時間の範囲である。
【0106】
工程b)で得られた反応生成物を沈殿および濾過によって単離してもよい。当該生成物を精製してもよい。
【0107】
本水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、重合性ポリマーを得るために工程a)または工程b)の後に保護されたカルボン酸基を脱保護する工程を任意に含んでもよい。好ましい実施形態では、本水性歯科用グラスアイオノマー組成物は重合性ポリマーを得るために保護されたカルボン酸基を脱保護する工程を含む。さらなる好ましい実施形態では、本水性歯科用グラスアイオノマー組成物は工程b)の後に保護されたカルボン酸基を脱保護する工程を含む。
【0108】
任意に保護されたカルボキシル基の脱保護のための条件は使用される保護基に従って選択される。好ましくは、保護されたカルボキシル基は水素化分解または酸もしくは塩基による処理によって脱保護される。
【0109】
(B)に係る重合性ポリマーは、欧州特許第3106146A1号または欧州特許第3231412A2号に開示されているものと同じであってもよい。
【0110】
(B)に係る重合性ポリマーは、好ましくは10、特に10~10Daの範囲の平均分子量Mを有する。より好ましくは、平均分子量Mは10~7・10Daまたは3・10~2.5・10Daの範囲である。
【0111】
(B)に係る重合性ポリマーは、(A)に係る反応性粒子状ガラスまたはあらゆるさらなる修飾されていないまたは修飾された粒子状の反応性および/または非反応性充填剤の存在下で凝結または硬化反応を引き起こすためにカルボン酸基の数または重量%において十分なものでなければならない。好ましくは、(B)に係る重合性ポリマーは本組成物の総重量に基づいて5~80重量%、より好ましくは10~50重量%、さらにより好ましくは15~40重量%の量で本水性歯科用グラスアイオノマー組成物中に存在する。
【0112】
(D)に係る重合開始剤系として、本発明に係る共重合反応を開始することができるあらゆる化合物または系を好適に使用することができる。(D)に係る重合開始剤は、光開始剤またはレドックス開始剤あるいはその混合物であってもよい。
【0113】
好適なレドックス開始剤は、光の存在に関係なく暗反応において典型的には互いに反応するかそれ以外の方法で協力して成分(B)および(C)中の重合性二重結合の重合を開始することができるフリーラジカルを生成する還元剤および酸化剤を含む。還元剤および酸化剤は、重合開始剤系が典型的な歯科条件下で貯蔵および使用を可能にするのに十分な貯蔵安定性を有し、かつ望ましくない着色を含まないように選択される。さらに還元剤および酸化剤は、重合開始剤系が本組成物への重合開始剤系の溶解を可能にするために樹脂系と十分に混合可能であるように選択される。
【0114】
有用な還元剤としては、米国特許第5,501,727号に記載されているようなアスコルビン酸、アスコルビン酸の酸誘導体および金属錯体化アスコルビン酸化合物、アミン、すなわち4-tert-ブチルジメチルアニリンなどの第三級アミン、p-トルエンスルフィン酸塩およびベンゼンスルフィン酸塩などの芳香族スルフィン酸塩、1-エチル-2-チオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,1-ジブチルチオ尿素および1,3-ジブチルチオ尿素などのチオ尿素ならびにそれらの混合物が挙げられる。他の二次還元剤としては、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、亜ジチオン酸もしくは亜硫酸アニオンの塩およびそれらの混合物が挙げられる。
【0115】
好適な酸化剤としては、過硫酸ならびにアンモニウム、ナトリウム、カリウム、セシウムおよびアルキルアンモニウム塩などのそれらの塩が挙げられる。さらなる酸化剤としては、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、クミルヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシドおよびアミルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド、塩化コバルト(III)および塩化第二鉄などの遷移金属の塩、硫酸セリウム(IV)、過ホウ酸およびそれらの塩、過マンガン酸およびその塩、過リン酸およびその塩ならびにそれらの混合物が挙げられる。1種以上の異なる酸化剤または1種以上の異なる還元剤を重合開始剤系に使用してもよい。また少量の遷移金属化合物を添加してレドックス硬化速度を加速させてもよい。還元剤および酸化剤は適切なフリーラジカル反応速度を可能にするのに十分な量で存在する。
【0116】
還元剤または酸化剤は、本組成物の貯蔵安定性を高め、かつ必要であれば還元剤および酸化剤を一緒に包装するのを可能にするためにマイクロカプセル化されていてもよい(米国特許第5,154,762号)。カプセル材の適当な選択により、貯蔵安定状態で酸化剤および還元剤とさらには酸官能性成分および任意の充填剤との組み合わせを可能にしてもよい。さらに水不溶性カプセル材の適当な選択により、貯蔵安定状態で還元剤および酸化剤と粒子状反応性ガラスおよび水との組み合わせが可能になる。
【0117】
フリーラジカルにより光重合性組成物を重合させるための好適な光開始剤としては、二成分系および三成分系が挙げられる。三成分光開始剤としては、米国特許第5,545,676号に記載されているようなヨードニウム塩、光増感剤および電子ドナー化合物が挙げられる。好適なヨードニウム塩としては、ジアリールヨードニウム塩、例えばジフェニルヨードニウムクロリド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスファート、ジフェニル-ヨードニウムテトラフルオロボラートおよびトリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートが挙げられる。好適な光増感剤は、約400nm~約520nm(好ましくは約450nm~約500nm)の範囲内のいくらかの光を吸収するモノケトンおよびジケトンである。
【0118】
特に好適な化合物としては、約400nm~約520nm(さらにより好ましくは約450~約500nm)の範囲のいくらかの光吸収を有するアルファジケトンが挙げられる。例としては、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6-テトラメチルシクロ-ヘキサンジオン、フェナントラキノン、1-フェニル-1,2-プロパンジオンおよび他の1-アリール-2-アルキル-1,2-エタンジオンおよび環式アルファジケトンが挙げられる。好適な電子ドナー化合物としては、置換されたアミン、例えばジメチルアミノ安息香酸エチルが挙げられる。
【0119】
好適な光開始剤としては、典型的には約380nm~約1200nmの機能的波長範囲を有するホスフィンオキシドも挙げられる。約380nm~約450nmの機能的波長範囲を有するホスフィンオキシドフリーラジカル開始剤の例としては、米国特許第4,298,738号、米国特許第4,324,744号および米国特許第4,385,109号ならびに欧州特許第0173567号に記載されているようなアシルおよびビスアシルホスフィンオキシドが挙げられる。アシルホスフィンオキシドの具体例としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ジベンゾイルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、トリス(2,4-ジメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、トリス(2-メトキシベンゾイル)ホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイル-ビス(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、および2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシドが挙げられる。約380nm~約450nm超の波長範囲で照射された場合にフリーラジカルの生成を開始することができる市販されているホスフィンオキシド光開始剤としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURE819)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI403)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドおよび2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(IRGACURE1700)の25:75(重量で)混合物、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドおよび2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(DAROCUR4265)の1:1(重量で)混合物ならびに2,4,6-トリメチルベンジルフェニルフェニルホスフィン酸エチル(LUCIRIN LR8893X)が挙げられる。典型的にはホスフィンオキシド開始剤は、本組成物の総重量に基づいて0.1重量%~5.0重量%などの触媒的に有効な量で本組成物中に存在する。
【0120】
第三級アミン還元剤をアシルホスフィンオキシドと組み合わせて使用してもよい。好適な芳香族第三級アミンの例としては、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸n-ブトキシエチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、およびN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。脂肪族第三級アミンの例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、およびトリエタノールアミントリメタクリレートが挙げられる。
【0121】
アミン還元剤は、本組成物の総重量に基づいて0.1重量%~5.0重量%の量で本組成物中に存在してもよい。
【0122】
重合開始剤の活性種の量は特に限定されない。好適には、(D)に係る重合系中の重合開始剤の量は、当該モノマーの総量に基づいて0.001~5モル%の範囲である。
【0123】
本水性歯科用グラスアイオノマー組成物は硬化性歯科用組成物であり、すなわち硬化された歯科用グラスアイオノマー組成物/セメントは、(B)に係る重合性ポリマーおよび(C)に係るモノマーを(A)に係る反応性粒子状ガラスおよび(D)に係る重合開始剤系の存在下で重合させることによってそこから得ることができる。
【0124】
好ましくは、本歯科用グラスアイオノマー組成物は、ISO29022:2013に従って測定した場合に少なくとも5MPaの象牙質への接着結合強度および/またはISO4049に従って測定した場合に少なくとも80MPaの曲げ強度を有する。
【0125】
以下、本発明について実施例を参照しながらさらに詳細に説明する。本発明は以下に記載されている実施例に限定されない。
【実施例
【0126】
合成例1:3-{アクリロイル-[3-(アクリロイル-エチル-アミノ)-プロピル]-アミノ}-プロピオン酸(ABADEP1)の合成
【0127】
工程1:N-[3-(ベンジル-エチル-アミノ)-プロピル]フタルイミドの合成
【化9】
20gのN-エチルベンジルアミンをアセトニトリルに溶解した。1.5当量の炭酸カリウムを添加した。混合物を室温で撹拌した。1.0当量のN-(3-ブロモプロピル)-フタルイミドをアセトニトリルに溶解し、混合物に添加した。混合物を65℃で24時間撹拌し、その後冷却した。この物質を濾過し、溶媒を真空下40℃で除去した。収率:90%
【0128】
工程2:N-ベンジル-N-エチル-プロパン-1,3-ジアミンの合成
【化10】
42.9gの工程1の化合物をエタノールに溶解した。4.5当量のヒドラジン一水和物を添加した。混合物を100℃で2.5時間撹拌し、その後冷却した。この物質を濾過し、溶媒を真空下40℃で除去した。残留物を水に溶解し、水相をジクロロメタンで抽出した。有機相をNaCl溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を真空下40℃で除去した。収率:94%
【0129】
工程3:3-[3-(ベンジル-エチル-アミノ)-プロピルアミノ]-プロピオン酸tert-ブチルエステルの合成
【化11】
24gの工程3の化合物を1当量のアクリル酸t-ブチルに添加した。混合物を室温で24時間撹拌した。生成物をカラムクロマトグラフィにより精製した。収率:77%
【0130】
工程4:3-(3-エチルアミノ-プロピルアミノ)-プロピオン酸tert-ブチルエステルの合成
【化12】
20.5gの工程3の化合物をメタノールに溶解した。触媒量のパラジウム/活性炭を添加した。混合物を水素下で24時間撹拌した。生成物を濾過し、メタノールで洗浄した。溶媒を真空下40℃で除去した。収率:96%
【0131】
工程5:3-{アクリロイル-[3-(アクリロイル-エチル-アミノ)-プロピル]-アミノ}-プロピオン酸tert-ブチルエステルの合成
【化13】
11.5gの工程4の化合物をTHFに溶解した。3.4当量の水酸化ナトリウムを水に溶解し、THF溶液に添加した。混合物を冷却し、2当量の塩化アクリロイルのTHF溶液をゆっくりと添加した。混合物を氷冷しながら5時間撹拌した。溶媒を真空下40℃で除去した。生成物を水に溶解し、酢酸エチルで抽出した。有機相をHCl溶液、NaHCO溶液およびNaCl溶液で連続的に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を真空下40℃で除去した。生成物をカラムクロマトグラフィにより精製した。収率:74%
【0132】
工程6:3-{アクリロイル-[3-(アクリロイル-エチル-アミノ)-プロピル]-アミノ}-プロピオン酸の合成
【化14】
1.4gの工程5の化合物をジクロロメタンと混合した。2mLのトリフルオロ酢酸を添加し、混合物を室温で4時間撹拌した。溶媒を真空下40℃で除去した。生成物をジクロロメタンに溶解し、水で洗浄した。有機相をNaCl溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を真空下40℃で除去した。収率:60%
【化15】
1H NMR[300MHz,CDCl]:δ9.19(H-12,1H,sb);δ6.47-6.63(H-3/H-8,2H,m);δ6.34-6.30(H-4a/H-12a,2H,m);δ5.71(H-4b/H-12b,2H,m);δ3.70-3.62(H-4b/H-12b,2H,m);δ3.46-3.33(H-4a/H-5/H-7/H-12a,m);δ2.68-2.60(H-11,2H,m);δ1.87(H-6,2H,m),δ1.23-1.11(H-1,3H,t)
【0133】
応用例1および比較例1
本発明に係る実施例1および比較例1の水性歯科用グラスアイオノマー組成物を以下の表1に列挙されている成分の液体および粉末組成物を形成することにより調製し、これらをそれぞれ100wt%にし、かつ両方の部分を示されている粉末/液体(P/L)比で混合した。
【0134】
[硬化時間]
作業時間:示されているP/L比の粉末およびガラスの混合の開始から測定した期間であって、その特性に対して有害作用を与えることなくこの材料を扱うことが可能な期間。
凝結時間:混合物が圧力下であっても変形しなくなる時点。
【0135】
[曲げ強度/弾性率]
試験片の調製のために、実施例1~5および比較例1~3の得られた歯科用グラスアイオノマー組成物を(25±2)mm×(2.0±0.1)mm×(2.0±0.1)mmのサイズを有するステンレス鋼製の型に充填した。このようにして得られた歯科用グラスアイオノマー組成物を歯科用硬化ライトで硬化させる(光硬化、LC)と共に、外部電源を使用せずに硬化させた(自己硬化、SC)。得られた硬化された歯科用グラスアイオノマー組成物のために、ISO4049に従って曲げ強度を決定した。
【表1】