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特許7309729ビラスチン、β-シクロデキストリンおよび少なくとも1種のゲル化剤を含有する眼科用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】ビラスチン、β-シクロデキストリンおよび少なくとも1種のゲル化剤を含有する眼科用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/454 20060101AFI20230710BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230710BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230710BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230710BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230710BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230710BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230710BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20230710BHJP
   A61P 27/14 20060101ALI20230710BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A61K31/454
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/26
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/40
A61P27/14
A61P43/00 113
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020539288
(86)(22)【出願日】2019-01-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 EP2019050433
(87)【国際公開番号】W WO2019141563
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】18382021.6
(32)【優先日】2018-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504389452
【氏名又は名称】ファエス・ファルマ・ソシエダッド・アノニマ
【氏名又は名称原語表記】FAES FARMA, S.A.
【住所又は居所原語表記】Autonomia,10 E-48940 Leioa-Vizcaya ES
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】エルナンデス エレーロ、ゴンサロ
(72)【発明者】
【氏名】ゴンサロ ゴロスティサ、アナ
(72)【発明者】
【氏名】モラン ポラドゥラ、パブロ
(72)【発明者】
【氏名】サスペ アルセ、アルトゥーロ
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス エルナンド、ニエベス
(72)【発明者】
【氏名】ゴンサレス ガルシア、タニア
(72)【発明者】
【氏名】タト セルデイラス、パロマ
(72)【発明者】
【氏名】オテロ エスピナル、フランシスコ ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス フェレイロ、アンショ
(72)【発明者】
【氏名】ディアス トメ、ビクトリア
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0343041(US,A1)
【文献】特表2012-520880(JP,A)
【文献】特開平09-169667(JP,A)
【文献】特表2005-513106(JP,A)
【文献】History of Changes for Study: NCT03231969,ClinicalTrials.gov archive [online],2017年,<URL:https://www.clinicaltrials.gov/ct2/history/NCT03231969?V_4=View#StudyPageTop>,retrieved on 24 June 2022
【文献】眼科New Insight 第2巻 点眼薬-常識と非常識-,第3刷,1997年,pp.6-14
【文献】製剤の達人による製剤技術の伝承 下巻 非経口投与製剤の製剤設計と製造法,2013年,pp.104-113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性眼科用医薬組成物であって、
a)少なくとも0.4w/v%以上0.7w/v%以下のビラスチン、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、該ビラスチンまたはその塩もしくは溶媒和物が前記水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解しているもの;
b)未修飾のβ-シクロデキストリン、C1~アルキル-β-シクロデキストリン、C1~ヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリン、C1~カルボキシアルキル-β-シクロデキストリン、カルボニル-β-シクロデキストリン、C2~スルホアルキルエーテルβ-シクロデキストリンおよびそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1種のβ-シクロデキストリン(ここで、前記C1~カルボキシアルキル-β-シクロデキストリンは、いくつか又はすべてのOH基がOR基(Rは、C(O)C1~6アルキルである)である、β-シクロデキストリンの誘導体である。);および
c)ヒアルロン酸、ジェランガムおよびそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1種の薬学的に許容される水溶性ゲル化剤またはその許容される塩
を含有し、前記組成物のpH値が4~9の範囲(該範囲の下限値と上限値の両方が含まれる)である、水性眼科用医薬組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種のβ-シクロデキストリンが、未修飾のβ-シクロデキストリン、C1~アルキル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシブチル-β-シクロデキストリン、C1~カルボキシアルキル-β-シクロデキストリン、カルボニル-β-シクロデキストリン、C2~スルホアルキルエーテルβ-シクロデキストリンおよびそれらの混合物からなる群から選択され、前記C1~カルボキシアルキル-β-シクロデキストリンは、いくつか又はすべてのOH基がOR基(Rは、C(O)C1~6アルキルである)である、β-シクロデキストリンの誘導体である、請求項1に記載の眼科用医薬組成物。
【請求項3】
少なくとも0.6w/v%のビラスチンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含有し、該ビラスチンまたはその塩もしくは溶媒和物が前記水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解している、請求項1または2に記載の眼科用医薬組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の眼科用医薬組成物であって、
a)少なくとも0.6w/v%以上0.7w/v%以下のビラスチンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、該ビラスチンまたは該その塩もしくは溶媒和物が前記水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解しているもの;
b)未修飾のβ-シクロデキストリン、C1~アルキル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシブチル-β-シクロデキストリン、C1~カルボキシアルキル-β-シクロデキストリン、カルボニル-β-シクロデキストリン、C2~スルホアルキルエーテルβ-シクロデキストリンおよびそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1種のβ-シクロデキストリン(ここで、前記C1~カルボキシアルキル-β-シクロデキストリンは、いくつか又はすべてのOH基がOR基(Rは、C(O)C1~6アルキルである)である、β-シクロデキストリンの誘導体である。)であって、該β-シクロデキストリンの濃度が少なくとも5w/v%以上15w/v%以下であるもの;および
c)ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩であって、該ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の濃度が少なくとも0.05w/v%以上1w/v%以下であるもの
を含有する、眼科用医薬組成物。
【請求項5】
前記C1~ヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリンが、ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンおよび2-ヒドロキシブチル-β-シクロデキストリンからなる群から選択されるヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリンである、請求項1または3のいずれか一項に記載の眼科用医薬組成物。
【請求項6】
前記ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩が600000Da以下の分子量を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の眼科用医薬組成物。
【請求項7】
前記pHが5~8の範囲(該範囲の下限値と上限値の両方が含まれる)である、請求項1から6のいずれか一項に記載の眼科用医薬組成物。
【請求項8】
前記組成物が250mOsm/kg~600mOsm/kgの範囲の浸透圧を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の眼科用医薬組成物。
【請求項9】
グリセリン、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、リビトール、ガラクチトール、マルチトール、マクロゴール、ラクチトール、およびそれらの混合物からなる群から選択される等張化剤をさらに含有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の眼科用医薬組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の眼科用医薬組成物であって、
a)少なくとも0.6w/v%以上0.7w/v%以下のビラスチンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、該ビラスチンまたは該その塩もしくは溶媒和物が前記水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解しているもの;
b)少なくとも1種のC1~ヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリンであって、該β-シクロデキストリンの濃度が少なくとも5w/v%以上15w/v%以下であるもの;
c)ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩であって、該ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の濃度が少なくとも0.05w/v%以上1w/v%以下であるもの;
d)セルロースのエーテル誘導体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、およびそれらの混合物からなる群から選択される、0.001w/v%~15w/v%の少なくとも1種の薬学的に許容される水溶性ポリマー(ここで、前記セルロースのエーテル誘導体は、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである);および
e)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、エリスリオール、アラビトール、キシリトール、リビトール、ガラクチトール、マルチトール、マクロゴール、ラクチトール、およびそれらの混合物からなる群から選択される、0.05w/v%~5w/v%の少なくとも1種の等張化剤
を含有する、眼科用医薬組成物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の眼科用医薬組成物であって、
a)少なくとも0.6w/v%以上0.7w/v%以下のビラスチンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、該ビラスチンまたは該その塩もしくは溶媒和物が前記水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解しているもの;
b)少なくとも1種のC1~ヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリンであって、該β-シクロデキストリンの濃度が少なくとも5w/v%以上15w/v%以下であるもの;
c)ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩であって、該ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の濃度が少なくとも0.05w/v%以上1w/v%以下であるもの;
d)0.001w/v%~15w/v%の、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、およびそれらの混合物からなる群から選択されるセルロースのエーテル誘導体;および
e)0.05w/v%~5w/v%のグリセリン
を含有する、眼科用医薬組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の眼科用医薬組成物であって、
a)少なくとも0.6w/v%以上0.7w/v%以下のビラスチンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、該ビラスチンまたは該その塩もしくは溶媒和物が前記水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解しているもの;
b)少なくとも1種のC1~ヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリンであって、該β-シクロデキストリンの濃度が少なくとも5w/v%以上15w/v%以下であるもの;
c)ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩であって、該ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の濃度が少なくとも0.05w/v%以上1w/v%以下であるもの;
d)0.005w/v%~0.1w/v%のメチルセルロース;および
e)0.5w/v%~2w/v%のグリセリン
を含有する、眼科用医薬組成物。
【請求項13】
1日1回投与される眼科用医薬組成物であることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の眼科用医薬組成物。
【請求項14】
ヒスタミン受容体の拮抗作用によって改善しやすい障害または疾患の治療および/または予防のための、請求項1から13のいずれか一項に記載の水性眼科用医薬組成物。
【請求項15】
前記Hヒスタミン受容体の拮抗作用によって改善しやすい障害または疾患が、眼のアレルギー性障害、アレルギー性疾患またはアレルギー症状である、請求項14に記載の水性眼科用医薬組成物。
【請求項16】
前記Hヒスタミン受容体の拮抗作用によって改善しやすい障害または疾患が、鼻炎、鼻結膜炎、アレルギー性結膜炎、春季角結膜炎、アトピー性角結膜炎、巨大乳頭結膜炎、眼刺激、掻痒感、発赤、流涙、結膜浮腫、乾性角膜炎、乾性角結膜炎または機能不全涙症候群である、請求項14または15のいずれか一項に記載の水性眼科用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1日1回の投与に適した高濃度のビラスチンを含有する水性医薬組成物、ならびに抗ヒスタミン薬および抗アレルギー性眼科用医薬組成物としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒスタミンが、アレルギー型疾患、例えばアレルギー性鼻炎、結膜炎、鼻結膜炎、皮膚炎、蕁麻疹および喘息において非常に重要な役割を果たしていることは以前から知られている。H受容体ヒスタミンレベルで作用する抗ヒスタミン化合物は、そのような状態を治療するのに有用である。
【0003】
アレルギー症状が主に眼性である場合、全身治療よりも局所治療が好ましいようである。局所薬は、全身薬よりも作用の発現が早く(数分以内)、優れているため、アレルギー応答を直ちに妨害することができる。結膜抗原チャレンジモデルを用いて直接比較したいくつかの研究では、アレルギー性結膜炎の治療において、局所薬が全身性抗ヒスタミン薬よりも優れていることが実証されている。経口抗ヒスタミン薬は、眼だけでなく他のアレルギー症状も緩和することができるが、局所眼薬と比較して作用の発現が遅れる。また、局所抗ヒスタミン薬は、結膜に浸透するのに必要な用量が少なく、局所使用による血清レベルが無視できるため、全身性抗ヒスタミン薬に比べて副作用が少ない。
【0004】
アレルギー性結膜炎を治療するための現在入手可能な局所製品の有効性にもかかわらず、不完全な症状緩和を感じている患者には、1日1回の投薬という利便性で1日中症状の緩和をもたらす製品を使用することが有益である可能性が高い。1日1回の投薬は費用対効果が高く、患者の服薬遵守を向上させ、さらに重要なことには、患者の生活の質の向上をもたらすので、より頻繁な投薬を避けることは患者にとってより利便性が高い。
【0005】
文献EP0818454A1およびEP0580541A1は、選択的H抗ヒスタミン活性を有しかつ催不整脈作用の無いベンズイミダゾール化合物を開示している。また、特許出願EP3040334A1は、中枢神経系および心血管系に対する活性が無い、強力な選択的H抗ヒスタミン活性を有するベンズイミダゾール化合物を開示している。
【0006】
上記の性質を有する特定の化合物は、2-[4-(2-{4-[1-(2-エトキシエチル)-1H-ベンズイミダゾール-2-イル]-1-ピペリジニル}エチル)フェニル]-2-メチルプロパン酸(別名ビラスチン)であり、下記式:
【化1】
を有し、スペインのFaes Farma社によって創製された。ビラスチンは、鎮静副作用、心毒性作用、および肝代謝を伴わないHアンタゴニストベンズイミダゾール化合物である。さらにビラスチンは、アレルギー性鼻結膜炎および蕁麻疹の対症療法にも有効であることが証明されている。
【0007】
ビラスチンは1999年1月に初めて開示され、それ以来、抗ヒスタミン薬を含有する多くの点眼液が開示され市販されており、例えば、EP2709610B1は高濃度のオロパタジンを含有する局所点眼液を開示しており、食品医薬品局(FDA)は最近、0.77%オロパタジン塩酸塩点眼液の新製剤を承認した。しかしながら、1日1回の投与に適した高濃度のビラスチンを含有する眼科用医薬組成物を提供することが可能な開示は、先行技術において一つも存在しない。
【0008】
特許出願WO9413299A1は、1-(2-エトキシエチル)-2-(4-メチル-1-ホモピペラジニル)-ベンズイミダゾール(別名エメダスチン)の点眼液を開示している。ビラスチンと構造的に類似しているにもかかわらず(エメダスチンは、イミダゾール環の窒素原子にエトキシエチル鎖を結合して含む、ベンズイミダゾール誘導体である)、エメダスチンの水溶解度はビラスチンの水溶解度よりもはるかに高いため、エメダスチン(濃度約8mg/mL)を、例えばEDTA、NaCl、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などの当業者に公知の一般的な賦形剤や、pH調整剤であるNaOH/HClおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと共に含有する点眼液の提供が可能になる。
【0009】
ビラスチン投与による眼のアレルギー症状の治療を扱う当該技術分野における唯一の開示は、すべて経口投与のビラスチンに言及しており、この分子の点眼液を提供することの難しさを強調している。例えば、Horak Fら、Inflammation Research,2010年,(59)391~398またはJ Bartraら、J.Investig.Allergol.Clin.Immunol.,2011年,第21巻,補遺3:24~33は、ビラスチン錠の開示のみである。
【0010】
US2007265247は、ビラスチンを含有する局所製剤を開示している。
【0011】
WO03089425A1は、ビラスチンが点眼剤に使用可能であることを開示しているが、上記溶液を成功裏に調製する方法に関する技術的な詳細を何ら提供していない。WO2007047253A2は、ヒドロキシブテニルシクロデキストリンを用いて抗真菌アゾールの水溶解度を高める方法を開示している。WO2009003199A1は、鼻および眼の組織に対するコルチコステロイド、抗ヒスタミン薬およびスルホアルキルエーテルシクロデキストリン誘導体を含有する水溶液製剤を開示している。
【0012】
高濃度ビラスチンの眼科用医薬組成物を提供することが可能な先行技術開示が1つも存在しないだけでなく、アレルギーの徴候および症状の日常的な軽減のためのオロパタジン対ビラスチンの使用を先行技術が明確に指向していることも考慮すると、この問題は明らかである。Beauregard C.ら(ARVO Annual Meeting Abstract、2008年5月)はさらに、ビラスチンが、生体内においてオロパタジンの抗ヒスタミン作用の効力または持続時間に匹敵しないことを教示している。
【0013】
したがって、上記ベンズイミダゾール化合物を高濃度に含有する1日1回の投与に適した点眼液を提供することが、当該技術分野で必要とされている。
【発明の概要】
【0014】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、ビラスチンを含有する本発明の眼科用製剤により、上記化合物の眼に対する有効性の持続時間が予想外に増大することを見出した。ビラスチンならびにその比較抗ヒスタミン化合物であるオロパタジンおよびアゼラスチンに関する前臨床的研究では、このような有効性の増大が認められなかったことを考慮すると、これらの知見は特に驚くべきものである。したがって本発明は、ビラスチンを含有する1日1回の眼科用製剤を初めて提供するものである。
【0015】
したがって、第一の態様において、本発明は眼科用医薬組成物であって、
a)少なくとも0.4w/v%のビラスチン、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、該ビラスチンまたはその塩もしくは溶媒和物が上記水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解しているもの;
b)アルキル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリン、カルボキシアルキル-β-シクロデキストリン、カルボニル-β-シクロデキストリン、スルホアルキルエーテルβ-シクロデキストリンおよびそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1種のβ-シクロデキストリン;および
c)ヒアルロン酸、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、ポビドン、κ-カラギーナン、アルギン酸ガム、デキストラン、デキストラン硫酸塩、キトサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1種の薬学的に許容される水溶性ゲル化剤またはその許容される塩;
を含有し、上記組成物のpH値が4~9の範囲(該範囲の下限値と上限値の両方が含まれる)である、眼科用医薬組成物を提供する。
【0016】
第二の態様において、本発明は、医薬として使用するための上記の水性眼科用医薬組成物に関する。
【0017】
第三の態様において、本発明は、Hヒスタミン受容体の拮抗作用によって改善しやすい障害または疾患の治療および/または予防に使用するための、上記の水性眼科用医薬組成物に関する。
【0018】
本発明の別の態様は、上記の水性眼科用医薬組成物、さらに薬学的に許容される担体、アジュバントまたはビヒクルに関する。
【0019】
本発明の別の態様は、Hヒスタミン受容体の拮抗作用によって改善しやすい障害または疾患の治療および/または予防のための医薬の製造における上記の水性眼科用医薬組成物の使用に関する。
【0020】
本発明の別の態様は、Hヒスタミン受容体の拮抗作用によって改善しやすい障害または疾患の治療および/または予防のための方法に関し、該方法は、このような治療および/または予防を必要とする被験体に、上記で定義された水性眼科用医薬組成物中の治療有効量のビラスチンを投与することを包含する。
【0021】
これらの態様およびその好ましい実施形態はまた、本明細書中以下にさらに記載され、特許請求の範囲に定義されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】tでの種々のpHの媒体中における9w/v%の5種のβ-シクロデキストリン存在下での6.5mg/mLを超える濃度のビラスチン溶液の安定性を示す図である。
図2】tでの種々のpHの媒体中における9w/v%の5種のβ-シクロデキストリン存在下での6.5mg/mLを超える濃度のビラスチン溶液の安定性を示す図である。
図3】ビラスチン0.4w/v%およびHPB9w/v%を含有する本発明の組成物についての眼での平均保持時間(ART)を示す図である。AHはヒアルロン酸ナトリウム、GGはジェランガム、MCはメチルセルロースである。
図4】モルモットのヒスタミン誘発結膜炎に対する本発明の眼科用製剤の作用を示す図である。
図5】3種のビラスチン濃度(ビラスチン0.2w/v%、ビラスチン0.4w/v%およびビラスチン0.6w/v%)について、ベースライン、16時間、8時間および15分での結膜アレルゲンチャレンジ(CAC(登録商標))後の種々の時間(分)に測定された、最小二乗平均値(LSMeans)を用いて活性とビヒクルの差(Active-Vehicle)として算出した平均眼掻痒感スコアで表された治療差を示す図である。
図6】ベースライン、16時間、8時間および15分でのCAC(登録商標)後の種々の時間(分)に測定された平均眼掻痒感スコア(0~4の尺度)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本発明者らは驚くべきことに、ビラスチンと、少なくとも1種のβ-シクロデキストリンおよび少なくとも1種の薬学的に許容される水溶性ゲル化剤またはその許容される塩との組み合わせが、眼において優れた持続性作用を示すので、ビラスチンを含有する1日1回の眼科用製剤の提供を可能にし、眼科用途に最適であることを見出した。驚くべきことに、これらの結果は、前臨床研究および臨床研究に関する実施例に示されるように、前臨床治験では観察できなかった。
【0024】
したがって、第一の態様において、本発明は眼科用医薬組成物であって、
a)少なくとも0.4w/v%のビラスチン、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、該ビラスチンまたはその塩もしくは溶媒和物が上記水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解しているもの;
b)アルキル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリン、カルボキシアルキル-β-シクロデキストリン、カルボニル-β-シクロデキストリン、スルホアルキルエーテルβ-シクロデキストリンおよびそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1種のβ-シクロデキストリン;および
c)ヒアルロン酸、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、ポビドン、κ-カラギーナン、アルギン酸ガム、デキストラン、デキストラン硫酸塩、キトサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1種の薬学的に許容される水溶性ゲル化剤またはその許容される塩;
を含有し、上記組成物のpH値が4~9の範囲(該範囲の下限値と上限値の両方が含まれる)である、眼科用医薬組成物を提供する。
【0025】
ビラスチン
本発明の水性眼科用医薬組成物は、下記式のビラスチン
【化2】
またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含有する。本化合物は、2-[4-(2-{4-[1-(2-エトキシエチル)-1H-ベンズイミダゾール-2-イル]-1-ピペリジニル}エチル)フェニル]-2-メチルプロパン酸(別名ビラスチン)である。ビラスチンの合成は、文献EP0818454A1、EP0580541A1およびEP3040334A1に記載されている。
【0026】
ビラスチンは、塩または溶媒和物の形態であってもよく、好ましくは薬学的に許容される塩または溶媒和物の形態であってもよい。
【0027】
本発明はまた、本明細書に記載された化合物の「塩」を提供する。例示として、上記塩は酸付加塩、塩基付加塩または金属塩であってもよく、当業者に公知の従来の化学的方法によって、塩基部分または酸部分を含有する親化合物から合成され得る。例えば、このような塩は一般に、上記化合物の遊離酸または遊離塩基の形態を、水中もしくは有機溶媒中またはこれら2つの混合物中で、化学量論量の適切な塩基または酸と反応させることによって調製される。一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、アセトン、イソプロパノールまたはアセトニトリルなどの非水系媒体が好ましい。酸付加塩の実例としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機酸付加塩や、例えば、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩などの有機酸付加塩が挙げられる。塩基付加塩の実例としては、例えば、アンモニウム塩などの無機塩基塩や、例えば、エチレンジアミン、エタノールアミン、N,N-ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミン、グルタミン、アミノ酸塩基性塩などの有機塩基塩が挙げられる。金属塩の実例としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩およびリチウム塩が挙げられる。
【0028】
本発明による用語「溶媒和物」は、非共有結合を介して別の分子(ほとんどの場合、極性溶媒)に結合されている、本発明による活性化合物の任意の形態を意味するものと理解されるべきである。溶媒和物の例としては、水和物およびアルコラートが挙げられる。溶媒和の方法は、先行技術において一般に公知である。
【0029】
本発明の化合物はまた、1つ以上の同位体濃縮原子の存在のみが異なる化合物を包含することが意図される。例えば、重水素もしくは三重水素による水素の置換、または13C-もしくは14C-濃縮炭素による炭素の置換、または15N-濃縮窒素による窒素の置換を除く本構造を有する化合物は、本発明の範囲内である。
【0030】
少なくとも0.4w/v%の濃度とは、ちょうど1mLの水に4mgより多いビラスチンが完全に溶解して、すなわち沈殿の兆候をほとんど示さずに、存在することを意味する。本発明において、特に明記しない限り、パーセンテージはすべてw/v単位である。別の実施形態において、ビラスチンは少なくとも0.6w/v%、好ましくは少なくとも0.7w/v%の濃度で本発明の医薬組成物中に完全に溶解している。別の実施形態において、ビラスチンは少なくとも0.6w/v%以上1.0w/v%以下の濃度で本発明の医薬組成物中に完全に溶解している。特定の実施形態において、医薬組成物は、少なくとも0.4w/v%、少なくとも0.6w/v%、少なくとも0.7w/v%、少なくとも0.8w/v%、少なくとも0.9w/v%、または少なくとも0.6w/v%以上1.0w/v%以下のビラスチンを、ビラスチンが完全に溶解した状態で含有している。別の特定の実施形態において、医薬組成物は、少なくとも0.4w/v%、少なくとも0.6w/v%、少なくとも0.7w/v%、少なくとも0.8w/v%、少なくとも0.9w/v%、または少なくとも0.6w/v%以上1.0w/v%以下のビラスチンを、ビラスチンが完全に溶解した状態で含有している。好ましい実施形態において、ビラスチンは少なくとも0.6w/v%以上1.0w/v%以下の濃度で本発明の医薬組成物中に完全に溶解している。
【0031】
シクロデキストリン
本発明との関連において、シクロデキストリン(CD)とは、1、4位で連結された5個以上のβ-D-グルコピラノース単位からなる環状構造であり、典型的には、1個のシクロデキストリン分子中に6個(α-シクロデキストリン)、7個(β-シクロデキストリン)、8個(γ-シクロデキストリン)または9個(δ-シクロデキストリン)の糖単位を有する。
【0032】
MS値(平均モル置換度)は、グルコピラノース1モルあたりの置換基の平均モル数である。例えば、β-シクロデキストリンの場合、β-シクロデキストリン1コアあたりの平均置換基数は、MS値に7を乗じて算出され得る(β-シクロデキストリンはシクロデキストリン1分子あたり7個の糖単位を含有する)。この値の明確な表記法はDS(置換度)である。
【0033】
非晶質および結晶質シクロデキストリンはいずれも本願の範囲内である。本明細書中で使用される場合、用語「シクロデキストリン」は、シクロデキストリンまたはシクロデキストリン誘導体を指す場合がある。シクロデキストリンは市販されているか、または当該技術分野で周知の方法により合成され得る。シクロデキストリンの例としては、修飾または未修飾のα-、β-、γ-およびδ-シクロデキストリンが挙げられるが、これらに限定されない。本発明のシクロデキストリンは、β-シクロデキストリンである。本発明のシクロデキストリン誘導体、特にβ-シクロデキストリン誘導体としては、OH基の一部または全部がOR基に変換されているものが挙げられる。上記誘導体としては、例えばメチル化、エチル化、プロピル化およびブチル化シクロデキストリンなどのC1~6アルキル基を有し、Rがメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基である誘導体;例えばヒドロキシプロピルシクロデキストリンまたはヒドロキシエチルシクロデキストリンなどのヒドロキシアルキル置換基を有し、Rが-CHCH(OH)CH基またはCHCHOH基である誘導体;例えばマルトース結合シクロデキストリンなどの分岐シクロデキストリン;カチオン性シクロデキストリン;四級アンモニウム;例えばアルボキシメチルシクロデキストリン、シクロデキストリン硫酸塩およびシクロデキストリンコハク酸塩などのアニオン性シクロデキストリン;例えばカルボキシメチル/第4級アンモニウムシクロデキストリンなどの両性シクロデキストリンが挙げられる。他の特定の修飾としては、1つ以上のヒドロキシアルキルエーテル(例えば、RはC1~6アルキレンヒドロキシ)部分;1つ以上のスルホアルキルエーテル(例えば、RはC2~6アルキレンSO )部分;カルボキシアルキル(例えば、RはC(O)C1~6アルキル)部分;置換フェノキシ部分;トリプトファン部分;またはそれらの混合が挙げられる。シクロデキストリン1分子あたりのOR基の総数は、置換/修飾度として定義される。
【0034】
本発明において、眼科用医薬組成物のシクロデキストリンはβ-シクロデキストリンである。好ましい実施形態において、β-シクロデキストリンは、アルキル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリン、カルボキシアルキル-β-シクロデキストリン、カルボニル-β-シクロデキストリン、スルホアルキルエーテルβ-シクロデキストリンおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0035】
1つの実施形態において、β-シクロデキストリンはアルキル-β-シクロデキストリンである。好ましいアルキル-β-シクロデキストリンとしては、メチル-β-シクロデキストリン;ジメチル-β-シクロデキストリン;トリメチル-β-シクロデキストリン;エチル-β-シクロデキストリン;ジエチル-β-シクロデキストリン;プロピル-β-シクロデキストリン;およびブチル-β-シクロデキストリンが挙げられる。より好ましい実施形態において、β-シクロデキストリンは、メチル-β-シクロデキストリンまたはジメチル-β-シクロデキストリンからなる群から選択される。本発明との関連において、「アルキル-β-シクロデキストリン」という用語が使用される場合、アルキル部分が任意に置換されているβ-シクロデキストリンを包含することを意味するが、ヒドロキシアルキル-β-シクロデキストリンを除く。
【0036】
アルキルβ-シクロデキストリン誘導体は、好ましくは約1~約18、約3~約16、約4~約14、約4~約12.6、より好ましくは約4~6の置換/修飾度を有する。
【0037】
特定の実施形態において、β-シクロデキストリンはアルケニル-β-シクロデキストリンではなく、特にβ-シクロデキストリンはヒドロキシブテニル-β-シクロデキストリンではない。
【0038】
別の実施形態において、シクロデキストリンはヒドロキシアルキル-β-シクロデキストリンである。好ましいヒドロキシアルキル-β-シクロデキストリンとしては、ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(これは2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンと等価である)および2-ヒドロキシブチル-β-シクロデキストリンが挙げられる。より好ましい実施形態において、シクロデキストリンは、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCDまたはHP-β-CD)である。
【0039】
ヒドロキシアルキルシクロデキストリン誘導体、特にヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンは、好ましくは約1~約14、より好ましくは約4~約8の置換/修飾度を有する。
【0040】
さらなる実施形態において、シクロデキストリンは、カルボキシアルキル-β-シクロデキストリンである。本明細書で用いられる好ましいカルボキシアルキル-β-シクロデキストリンとしては、カルボキシメチル-β-シクロデキストリンおよび(2-カルボキシエチル)-β-シクロデキストリンが挙げられる。
【0041】
さらなる実施形態において、シクロデキストリンは、スルホアルキルエーテルβ-シクロデキストリンである。本明細書で用いられる好ましいスルホアルキルエーテル-β-シクロデキストリンは、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンである。
【0042】
スルホアルキルエーテル-β-シクロデキストリン誘導体は、好ましくは約1~約14、好ましくは約1~約7の置換/修飾度を有する。
【0043】
好ましい実施形態において、シクロデキストリンは、アルキル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリン、カルボキシアルキル-β-シクロデキストリン、スルホアルキルエーテルβ-シクロデキストリンおよびそれらの混合物からなる群から選択されるβ-シクロデキストリンである。
【0044】
別の好ましい実施形態において、シクロデキストリンは、ヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリン、カルボキシアルキル-β-シクロデキストリン、スルホアルキルエーテルβ-シクロデキストリンおよびそれらの混合物からなる群から選択されるβ-シクロデキストリンである。
【0045】
最も好ましい実施形態において、シクロデキストリンは、ヒドロキシアルキル-β-シクロデキストリン、スルホアルキルエーテルβ-シクロデキストリンおよびそれらの混合物からなる群から選択されるβ-シクロデキストリンである。
【0046】
本発明の実施例において、以下のβ-シクロデキストリンが用いられる:
-β-CD:β-シクロデキストリン(Sigma-Aldrich Ref.:C4767-25G)
-HP-β-CD:置換度5.6の2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(Sigma-Aldrich Ref.:332607-5G)
-HPB:置換度4.5の2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(Kleptose(商標)Roquette Pharma)
-CM-β-CD:置換度3のカルボキシメチル-β-シクロデキストリンナトリウム塩(Sigma-Aldrich Ref.:21906-5G)
-DM-β-CD:ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリン(Sigma-Aldrich Ref.:H0513-5G)
-SBE-β-CD:置換度6.2~6.9のβ-シクロデキストリンスルホブチルエーテルナトリウム塩-USP(Carbosynth Ref.:SBECD)。
【0047】
好ましい実施形態において、シクロデキストリンは、薬学的に許容されるシクロデキストリンである。
【0048】
特定の実施形態において、シクロデキストリンは、約0.1%~約50w/v%の量で組成物中に存在する。ここで、w/vとは重量/体積%濃度(g/100mL)を意味し、例えば、シクロデキストリンが約0.1%~約50%の量で組成物中に存在する場合、約1mg/mL~約500mg/mLの量で存在することを意味する。本発明において、特に明記しない限り、パーセンテージはすべてw/v単位である。特定の実施形態において、シクロデキストリンは、約0.25%~約30%、約0.5%~約25%、約1%~約20%、約2%~約15%、または約3%~約10w/v%の量で存在する。好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物のシクロデキストリンは、少なくとも5w/v%以上15w/v%以下の濃度、すなわち約50~150mg/mLの濃度である。より好ましくは、シクロデキストリンは、少なくとも8%以上10w/v%以下の量で存在する。別の好ましい実施形態において、本発明の組成物は、9w/v%のシクロデキストリンを含有する。
【0049】
ゲル化剤
水溶性ゲル化剤とは、他の特性を実質的に変化させることなく、本発明の眼科用医薬組成物のような水溶液の粘度を増加させることができるが、弱凝集性内部構造を形成するコロイド混合物として液相中に溶解してゲルを形成する物質をいう。好ましい実施形態において、少なくとも1種のゲル化剤は、眼科用途のための薬学的に許容されるゲル化剤である。
【0050】
好ましい実施形態において、本発明の眼科用医薬組成物の少なくとも1種のゲル化剤またはその許容される塩は、ヒアルロン酸、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、ポビドン、κ-カラギーナン、アルギン酸ガム、デキストラン、デキストラン硫酸塩、キトサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0051】
好ましい実施形態において、少なくとも1種の薬学的に許容される水溶性ゲル化剤またはその許容される塩は、ヒアルロン酸、ジェランガム、およびそれらの混合物から選択される。
【0052】
したがって、好ましい実施形態において、少なくとも1種の薬学的に許容される水溶性ゲル化剤は、ヒアルロン酸またはその許容される塩である。
【0053】
特定の実施形態において、ゲル化剤またはその許容される塩は、約0.001w/v%~約2w/v%、好ましくは約0.003w/v%~約1w/v%の量で本発明の水性組成物中に存在する。特定の実施形態において、ゲル化剤は、約0.05%、約0.1%、約0.25%、約0.50%、約0.75%、約1%、約1.5%、または約2%の量で本発明の水性組成物中に存在する。特に明記しない限り、パーセンテージはすべてw/v単位である。好ましい実施形態において、ゲル化剤は、少なくとも0.05w/v%以上1w/v%以下の量で、最も好ましくは0.1w/v%で本発明の水性組成物中に存在する。
【0054】
好ましい実施形態において、本発明の眼科用医薬組成物は、以下を含有する:
a)少なくとも0.6w/v%以上1.0w/v%以下のビラスチン、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、該ビラスチンまたは該その塩もしくは溶媒和物が上記水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解しているもの;
b)アルキル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリン、カルボキシアルキル-β-シクロデキストリン、カルボニル-β-シクロデキストリン、スルホアルキルエーテルβ-シクロデキストリンおよびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のβ-シクロデキストリンであって、該β-シクロデキストリンの濃度が少なくとも5w/v%以上15w/v%以下であるもの;および
c)ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩であって、該ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の濃度が少なくとも0.05w/v%以上1w/v%以下であるもの。
【0055】
特定の実施形態において、ゲル化剤は、ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩であり、600000Da以下の分子量を有する。ゲル化剤の分子量は、当該技術分野で公知の技術によって測定され得る。好ましくは、限定されるものではないが、ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の平均分子量は、多角度光散乱検出器と連結したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC-MALLS)を用いて決定されてもよい。あるいは、ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の平均分子量はまた、固有粘度およびMark-Houwinkの関係式を用いて決定されてもよい。
【0056】
さらなる実施形態
特定の実施形態において、本発明の眼科用医薬組成物はさらに、セルロースのエーテル誘導体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、およびそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1種の薬学的に許容される水溶性ポリマーを粘性剤として含有する。
【0057】
水溶性ポリマーとは、少なくとも部分的に水に可溶な親水性ポリマーをいう。好ましい実施形態において、少なくとも1種の水溶性ポリマーは、薬学的に許容される水溶性ポリマーである。
【0058】
好ましい実施形態において、少なくとも1種の水溶性ポリマーは、セルロースのエーテル誘導体であり、最も好ましくはメチルセルロースである。別の実施形態において、少なくとも1種の水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコールである。
【0059】
特定の実施形態において、水溶性ポリマーは、本発明の水性組成物中に約0.001w/v%~約15w/v%、好ましくは約0.01w/v%~約15w/v%の量で存在する。特定の実施形態において、水溶性ポリマーは、本発明の水性組成物中に約0.01%、約0.05%、約0.1%、約0.25%、約0.50%、約0.75%、約1%、約3%、約5%、約7%、約10%、約13%または約15%の量で存在する。特に明記しない限り、パーセンテージはすべてw/v単位である。
【0060】
- セルロースエーテル誘導体
1つの実施形態において、水溶性ポリマーは、セルロースのエーテル誘導体である。セルロースエーテル誘導体とは、セルロースのヒドロキシル基が部分的または完全に置換されてセルロースエーテル(-OR)を提供するセルロースをいう。1つの実施形態において、セルロースのエーテル誘導体は、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロースおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0061】
好ましい実施形態において、セルロースのエーテル誘導体は、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシアルキルセルロースおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0062】
1つの実施形態において、セルロースエーテル誘導体はアルキルセルロースである。本明細書での使用に好ましいアルキルセルロースとしては、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース、エチルメチルセルロースおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0063】
1つの実施形態において、セルロースエーテル誘導体はヒドロキシアルキルセルロースである。本明細書での使用に好ましいヒドロキシアルキルセルロースとしては、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)およびエチルヒドロキシエチルセルロースが挙げられる。
【0064】
1つの実施形態において、セルロースエーテル誘導体はカルボキシアルキルセルロースである。本明細書での使用に好ましいカルボキシアルキルセルロースとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)が挙げられる。CMCおよびカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCNa)は等価である。
【0065】
- ポリエチレングリコール(PEG)
PEGは、ポリエチレンオキシド(PEO)またはポリオキシエチレン(POE)の別名でも知られる。1つの好ましい実施形態において、PEGは低分子量PEGであり、これは300~10000g/モルの分子量を有するPEGを意味する。PEGの分子量は、より好ましくは300~500g/モルである。好ましい実施形態において、分子量は400g/モル、すなわちPEG400である。
【0066】
特定の実施形態において、組成物は、約200mOsm/kg~約640mOsm/kg、好ましくは約250mOsm/kg~約600mOsm/kgの範囲の浸透圧を有する。好ましい実施形態において、浸透圧は、約240mOsm/kg~約340mOsm/kgである。本発明の眼科用医薬溶液の浸透圧は、当該技術分野で周知の標準的な方法を用いて測定されてもよい。好ましくは、限定されるものではないが、本発明の眼科用医薬溶液の浸透圧は、浸透圧計を用いて溶液の凝固点降下を測定することによって決定されてもよい。
【0067】
特定の実施形態において、本発明の組成物はさらに、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、エリスリオール、アラビトール、キシリトール、リビトール、ガラクチトール、マルチトール、マクロゴール、ラクチトール、およびそれらの混合物から選択される浸透圧剤または等張化剤を含有し得る。上記浸透圧剤または等張化剤は、存在する場合、約0.05%、約0.1%、約0.25%、約0.50%、約0.75%、約1%、約1.5%、約1.6%、約2%、約3%、約5%、約7%、約10%、約13%または約15%の量で本発明の水性組成物中に存在する。前者に適合する実施形態において、上記浸透圧剤または等張化剤は、15%未満、13%、10%、7%、5%、3%または2%の量で本発明の水性組成物中に存在する。特に明記しない限り、パーセンテージはすべてw/v単位である。
【0068】
好ましい実施形態において、浸透圧剤または等張化剤は、存在する場合、0.05%~5w/v%の量で本発明の水性組成物中に存在する。
【0069】
特定の実施形態において、本発明者らは驚くべきことに、本発明の組成物が安定であり、かつ有利には、ドライアイおよび眼刺激症状を引き起こすことが知られている防腐剤、例えば塩化ベンザルコニウム、イミダゾリジニル尿素、メチルパラベン、プロピルパラベン、フェノキシエタノール、EDTA二ナトリウム、チメロサール、クロロブタノールおよびソルビン酸などの添加を必要としないことを見出した。したがって、特定の実施形態において、本発明の眼科用医薬組成物は防腐剤を含有しない。
【0070】
特定の実施形態において、本発明の組成物はグリセリンを含有する。グリセリン(glycerin)は、グリセロールまたはグリセリン(glycerine)と同義である。好ましくは、グリセリンは、0.05%~5w/v%、より好ましくは0.05%~3w/v%の量で本発明の水性組成物中に存在する。好ましい実施形態において、グリセリンは、2.5%以下の濃度で等張化剤として存在する。好ましい実施形態において、本発明の組成物は、約1.6%、好ましくは1.61%の量のグリセリンを含有する。特に明記しない限り、パーセンテージはすべてw/v単位である。
【0071】
pH
本発明の水性医薬組成物は、好ましくは、眼科用途および/または投与のために開発されたものであり、すなわち、水性眼科用医薬組成物は、これらの目的に適合している。眼、特にヒトの眼の生理的pHは、約6.5~8.0であることが知られている。
【0072】
好ましい実施形態において、医薬組成物は、4~9の範囲のpH値(下限値と上限値の両方が含まれる)を有する。いくつかの実施形態において、本発明の水性眼科用医薬組成物のpHは、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9.0、9.1、9.2、9.3または9.4である
【0073】
pH値との関連において、pH値4はまた、pH3.6~4.4の範囲に対応するものとして特定され得ることを容易に理解しなければならない。同様に、pH値9もまた、pH8.6~9.4の範囲に対応するものとして特定され得る。別の好ましい実施形態において、医薬組成物のpH値は、4.0、5.5、7.4、8.0または9.0である。
【0074】
1つの実施形態において、塩酸、ホウ酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはそれらの組み合わせからなる群から選択されるpH調整剤が存在する。
【0075】
1つの実施形態において、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される緩衝剤が存在する。
【0076】
別の実施形態において、組成物は、ビラスチンの化学的、物理的、および/または生理学的安定性を維持する範囲であり、かつ、眼に十分許容される範囲のpHを有する。
【0077】
用途
ビラスチンは、ヒスタミンH受容体の拮抗薬であることが見出されており、したがって、ヒスタミンH受容体の拮抗薬によって改善しやすいことが知られている疾患の治療および/または予防において有用であろう。
【0078】
したがって、本発明の1つの態様は、医薬として使用するための上記で定義された水性眼科用医薬組成物に関する。
【0079】
本発明の別の態様は、Hヒスタミン受容体の拮抗作用によって改善しやすい障害または疾患の治療および/または予防に使用するための、上記で定義された水性眼科用医薬組成物に関する。そのような疾患は、例えば、アレルギー性疾患もしくは障害、またはアレルギー由来の症状である。
【0080】
好ましい実施形態において、本発明は、眼のアレルギー性障害、アレルギー性疾患もしくはアレルギー症状の治療および/または予防に使用するための、上記で定義された水性眼科用医薬組成物に関する。好ましくは、アレルギー性疾患、障害または症状は、鼻炎、鼻結膜炎、アレルギー性結膜炎、春季角結膜炎、アトピー性角結膜炎、巨大乳頭結膜炎、眼刺激、掻痒感、発赤、流涙、結膜浮腫、乾性角膜炎、乾性角結膜炎または機能不全涙症候群から選択される。好ましい実施形態において、アレルギー性疾患または障害は、鼻炎、鼻結膜炎、アレルギー性結膜炎、春季角結膜炎、アトピー性角結膜炎、巨大乳頭結膜炎、および結膜浮腫から選択される。別の好ましい実施形態において、アレルギー症状は、眼の刺激、掻痒感、発赤、流涙、乾性角膜炎、乾性角結膜炎または機能不全涙症候群から選択される。本発明との関連において、ドライアイ症候群は、乾性角膜炎、乾性角結膜炎または機能不全涙症候群を包含する。
【0081】
好ましくは、本発明は、アレルギー性結膜炎の治療および/または予防に使用するための、上記で定義された水性眼科用医薬組成物に関する。別の好ましい実施形態において、本発明は、ドライアイ症候群の治療および/または予防に使用するための、上記で定義された水性眼科用医薬組成物に関する。より好ましい実施形態において、本発明は、アレルギー性結膜炎およびドライアイ症候群の同時治療および/または予防に使用するための、上記で定義された水性眼科用医薬組成物に関する。
【0082】
本明細書との関連における用語「治療」または「治療する」は、疾患または該疾患に伴う1つ以上の症状を改善または排除するために、本発明による化合物または製剤を投与することを意味する。「治療」はまた、疾患の生理学的後遺症を改善または排除することを包含する。
【0083】
本発明との関連における用語「改善する」は、治療される患者の状況の任意の改善を意味するものと理解される。
【0084】
本明細書との関連における用語「予防」または「予防する」は、疾患または該疾患に伴う1つ以上の症状の罹患または発症のリスクを軽減するために、本発明による化合物または製剤を投与することを意味する。
【0085】
医薬組成物
「水性眼科用医薬組成物」という表現は、眼での使用に適した水を含有する液体医薬組成物をいう。
【0086】
1つの実施形態において、ビラスチンは、少なくとも0.4w/v%の濃度で本発明の水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解している。別の実施形態において、ビラスチンは、少なくとも0.6w/v%、好ましくは少なくとも0.7%の濃度で本発明の水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解している。別の実施形態において、ビラスチンは、0.6~1.0w/v%の範囲の濃度で、好ましくは0.6~0.9w/v%の範囲の濃度で、より好ましくは0.6~0.8%の範囲の濃度で本発明の水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解している。好ましくは、ビラスチンは、0.6w/v%の濃度で本発明の水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解している。ここで、w/v%は重量/体積パーセント濃度(g/100mL)を意味し、例えば、ビラスチンが約0.6%~約1.0%の量で組成物中に存在する場合、ビラスチンが約6mg/mL~約10mg/mLの量で存在することを意味する。本発明において、特に明記しない限り、パーセンテージはすべてw/v単位である。
【0087】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物中のビラスチンの量は、好ましくは4500μg/mLを超え、好ましくは6000μg/mLを超え、好ましくは6500μg/mLを超え、好ましくは7000μg/mLを超え、好ましくは7500μg/mLを超え、好ましくは8000μg/mLを超え、好ましくは8500μg/mLを超え、好ましくは9000μg/mLを超え、より好ましくは9500μg/mLを超える。好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物中のビラスチンの量は、10500μg/mL未満である。
【0088】
特定の実施形態において、水性眼科用医薬組成物は、ビラスチン、β-シクロデキストリンおよびヒアルロン酸またはその許容される塩を含有し、該ビラスチンは該水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解している。別の特定の実施形態において、水性眼科用医薬組成物は、ビラスチン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンおよびヒアルロン酸またはその許容される塩を含有し、該ビラスチンは該水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解している。
【0089】
「治療有効量」という表現は、投与された場合に、その中に含有される1種以上の薬学的に活性な薬剤の量を供給して、疾患または病態の治療または管理において治療効果を提供する、薬の量を意味する。
【0090】
好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物は、治療有効量のビラスチンを含有する。
【0091】
本発明の水性眼科用医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤をさらに含有してもよい。
【0092】
「薬学的に許容される賦形剤」という表現は、活性成分と共に投与されるビヒクル、希釈剤、またはアジュバントをいう。そのような医薬賦形剤は、水および油などの滅菌液であってよく、これらとしては、石油、動物、植物、または合成起源のもの、例えば落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などが挙げられる。水または生理食塩水ならびにブドウ糖水溶液およびグリセリン水溶液は、特に注射用溶液のために、ビヒクルとして好ましく使用される。適切な医薬ビヒクルは、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、第21版、2005に記載されている。
【0093】
本発明の医薬組成物の所望の医薬投与形態を製造するために必要な賦形剤および補助物質は、とりわけ、選択された投与医薬形態に依存する。医薬組成物の上記医薬投与形態は、当業者に公知の従来の方法に従って製造される。種々の活性成分投与方法、使用される賦形剤およびそれらを製造するためのプロセスの概説は、「Tratado de Farmacia Galenica」,C.Fauli i Trillo,Luzan 5,S.A.de Ediciones,1993に見出され得る。
【0094】
「薬学的に許容される」という表現は、生理学的に許容可能であり、ヒトまたは動物に投与した場合に、アレルギー反応や類似の好ましくない反応、例えば胃疾患、めまいなどを典型的には生じない組成物および分子実体をいう。好ましくは、用語「薬学的に許容される」とは、動物に、より具体的にはヒトに使用するために、州または連邦政府の規制当局によって承認されているか、または米国薬局方または他の一般的に認められた薬局方に記載されていることを意味する。
【0095】
本明細書に開示される製剤はまた、1種以上の眼科用賦形剤を必要に応じてさらに含有する。眼科用賦形剤としては、非限定的な例として、粘膜接着剤、防腐剤、pH調整剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、キレート剤、抗菌性防腐剤、化学防腐剤、粘性剤またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の薬剤が挙げられる。特定の実施形態において、眼科用組成物は、上記で定義されたように水溶性ポリマーをさらに含有する。
【0096】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、コルチコステロイドを含有しない。
【0097】
好ましい実施形態において、眼科用医薬組成物は、以下を含有する:
a)少なくとも0.6w/v%以上1.0w/v%以下のビラスチン、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、該ビラスチンまたは該その塩もしくは溶媒和物が上記水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解しているもの;
b)少なくとも1種のヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリンであって、該β-シクロデキストリンの濃度が少なくとも5w/v%以上15w/v%以下であるもの;
c)ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩であって、該ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の濃度が少なくとも0.05w/v%以上1w/v%以下であるもの;
d)セルロースのエーテル誘導体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、およびそれらの混合物からなる群から選択される、0.001w/v%~15w/v%の少なくとも1種の薬学的に許容される水溶性ポリマー;および
e)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、エリスリオール、アラビトール、キシリトール、リビトール、ガラクチトール、マルチトール、マクロゴール、ラクチトール、およびそれらの混合物からなる群から選択される、0.05w/v%~5w/v%の少なくとも1種の等張化剤。
【0098】
別の好ましい実施形態において、眼科用医薬組成物は、以下を含有する:
a)少なくとも0.6w/v%以上1.0w/v%以下のビラスチンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、該ビラスチンまたは該その塩もしくは溶媒和物が上記水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解しているもの;
b)少なくとも1種のヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリンであって、該β-シクロデキストリンの濃度が少なくとも5w/v%以上15w/v%以下であるもの;
c)ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩であって、該ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の濃度が少なくとも0.05w/v%以上1w/v%以下であるもの;
d)0.001w/v%~15w/v%のセルロースのエーテル誘導体;および
e)0.05w/v%~5w/v%のグリセリン。
【0099】
より好ましい実施形態において、眼科用医薬組成物は、以下を含有する:
a)少なくとも0.6w/v%以上1.0w/v%以下のビラスチンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であって、該ビラスチンまたは該その塩もしくは溶媒和物が上記水性眼科用医薬組成物中に完全に溶解しているもの;
b)少なくとも1種のヒドロキシアルキルβ-シクロデキストリンであって、該β-シクロデキストリンの濃度が少なくとも5w/v%以上15w/v%以下であるもの;
c)ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩であって、該ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の濃度が少なくとも0.05w/v%以上1w/v%以下であるもの;
d)0.005w/v%~0.1w/v%のメチルセルロース;および
e)0.5w/v%~2w/v%のグリセリン。
【0100】
以下の表1は、本発明の眼科用組成物の例示的な好ましい製剤に適した例示的な成分およびこれらの成分の所望の重量/体積パーセントの一覧表を提供する。以下の表1は例示的なものであって、特に明記しない限り、製剤が本発明の範囲内であり得る限り、特定の成分を表に追加または表から削除してもよく、また特定の成分の濃度を変更してもよいことが理解されるものとする。
【0101】
【表1】
【0102】
医薬形態
医薬組成物の例としては、眼への局所投与のための任意の液体組成物が挙げられる。液体形態は、溶液、懸濁液または乳濁液である。
【0103】
眼への局所投与に適した調製物の例としては、点眼薬(すなわち、点眼剤または人工涙液)、点眼乳濁液、および眼軟膏が挙げられる。特定の実施形態において、本発明の組成物は、点眼薬としての眼科用調製物の形態である。眼科用調製物は、適切な抗菌剤を含有し得る。好ましい実施形態において、眼科用調製物は防腐剤を含有しない。より好ましい実施形態において、眼科用調製物は、塩化ベンザルコニウム、イミダゾリジニル尿素、メチルパラベン、プロピルパラベン、フェノキシエタノール、EDTA二ナトリウム、チメロサール、クロロブタノールおよびソルビン酸から選択される防腐剤を含有しない。
【0104】
本発明は、上記で定義された眼科用医薬組成物を提供する。好ましい実施形態において、上記眼科用医薬組成物は、1日1回の医薬組成物である。
【0105】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態の単なる例示であり、いかなる方法でも本発明を限定するものとみなすことはできない。
【実施例
【0106】
材料および方法
以下の材料が使用されている:ビラスチン(Sai Life Sciences提供、バッチ番号5000011325);β-CD、HP-β-CD、HPB、CM-β-CD、DM-β-CDおよびSBE-β-CDとして上述したシクロデキストリン;メチルセルロース1500(MC1500)(Acofarma);ジェランガム(GG)(Kelcogel CG-LA,CPKelco)、ヒアルロン酸ナトリウム(Caref)およびグリセリン(Merck-Millipore)。以下の実施例で使用された水は、Merck-MilliporeのElix(登録商標)精製水システムを用いて得られた精製水であった。
【0107】
実施例1:種々のpH値の水溶液中における9%の種々のβ‐シクロデキストリンの存在下での、25℃での6.5mg/mLを超えるビラスチンの安定性
本実施例は、種々のpH値の水溶液中における9.0w/v%の5種のシクロデキストリンβ-CD、HP-β-CD、CM-β-CD、DM-β-CDおよびSBE-β-CDの存在下での6.5mg/mL(0.65w/v%)を超える濃度のビラスチン溶液の安定性を示す。各pH値は、以下のように塩基性溶液からの調整によって得た。
【0108】
非緩衝液中のビラスチン(pH調整)
a.塩基性媒体中7mg/mLのビラスチン溶液:70mgのビラスチンを10mLメスフラスコに添加した。約5mLの脱イオン水を添加し、次いで、全てのビラスチンが溶解するまで混合物を振盪しながら1MのNaOHを滴下して添加した。次いで、900mgの対応するシクロデキストリンを加え、シクロデキストリンが完全に可溶化するまで混合物を振盪した(β-CDが完全な可溶化に至らなかった特定の場合を除いて)。次いで、体積を10mLに調整した。
【0109】
b.工程aで調製した5種のビラスチン+シクロデキストリン溶液900μLをそれぞれ別個のエッペンドルフチューブに移した。
【0110】
c.各エッペンドルフにおいて、必要に応じて50%AcOH、1MのHClまたは1MのNaOHを慎重に添加することによって、pHを所望の値に調整した。
【0111】
=0日
溶液を30℃で1時間攪拌した後、ビラスチン濃度を測定した。
【0112】
=7日
での分析後、溶液を22±2℃の恒温室内で撹拌せずに7日間保持し、再分析した。
【0113】
各エッペンドルフを一定の撹拌下(100rpm)でインキュベーター(VWR(登録商標)Incubating Mini Shaker)に入れ、30℃で1時間インキュベートした。次いで、各エッペンドルフの試料1.5mLを、12,500rpmで0.5時間遠心分離(SIGMA2-16P恒温遠心機)して、ビラスチンの固体粒子を除去した。上清の試料を適切に希釈(1:100)して、ビラスチンの濃度を決定した。ビラスチンの濃度は、ダイオードアレイ分光光度計Hewlett Packard8452Aを用いて測定した。アッセイは三連で実施した。結果を以下に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
ビラスチンの濃度値における7mg/mLからの偏差は、pH調整工程後の希釈の影響によるものである。
【0116】
【表3】
【0117】
1週間後でも、これらの値はまだ6.5mg/mLを超えている。tでの結果と比較すると、ビラスチンの濃度にわずかではあるが全般的な増加があり、これは溶媒のわずかな蒸発によって引き起こされるものである。
【0118】
本実施例は、6.5mg/mLを超えるビラスチン濃度が、pH4.0~9.0の範囲について30℃で1時間後および22℃で7日後に非緩衝溶液中で安定であることを示している。これらの結果を図1(t)および図2(t)に示す。
【0119】
実施例2:様々な組成物中のビラスチン0.4w/v%およびのHPB9%の眼生体接着
動物(ラット)の眼におけるビラスチン0.4w/v%およびHPB9%の組成物の生体接着を、ポジトロン放出断層撮影(PET)スキャンにより測定した。組成物は、粘性剤および等張化剤(メチルセルロースおよびグリセリン)およびゲル化剤(ヒアルロン酸ナトリウムおよび/またはジェランガム)の含有量が様々であった。ポジトロン放出トレーサー18FDGの添加により、ラットの眼組織における各組成物の平均保持時間を測定することが可能になった。
【0120】
【表4】
【0121】
表4は、メチルセルロース(MC)およびグリセリンの有無にかかわらず、ヒアルロン酸ナトリウム(HA)、ジェランガム(GG)またはAHおよびGGの混合物を、ビラスチンおよびHPBシクロデキストリンと併用した場合に、最長の保持時間(すなわち眼生体接着)が達成されることを示している。したがって、これらの結果は、少なくともGGまたはHAが、ビラスチンおよびHPB、ならびに随意にMCおよびグリセリンを含有する組成物の眼保持時間を増加させるのに適していることを示している。結果を図3に示す。
【0122】
実施例3:眼科用製剤の前臨床生体内有効性
動物モデル
受領時(Harlan Laboratories Inc./Envigo)に体重300~349gであり、標準的な飼育条件下(2匹/ケージ)で飼育された雄Dunkin-Hartleyモルモットを用いた。動物(1群あたり6~10匹)は、眼結膜の完全な回復が可能になるように、2回の連続使用の間に少なくとも4日の洗浄期間を経て再利用した。
【0123】
実験手順
2種のビラスチン水性眼科用製剤を、0.4%および0.6w/v%のビラスチン濃度で調製した。両製剤はまた、HPB90mg/mL、メチルセルロース0.1mg/mL、ヒアルロン酸ナトリウム1mg/mLおよびグリセリン16.1mg/mLを含有した。
【0124】
眼科用製剤を右眼に点眼し(25μL)、結膜嚢における生成物の永続性を確保するために、動物を2~3分間固定したままにした。次に、左眼は同体積の対応するビヒクルまたは市販の点眼剤の場合にはNaCl0.9%を受けた。各動物は、それ自身の陽性対照であった。
【0125】
確立した時間が経過すれば(10分~24時間であり得る)、ヒスタミン二塩酸塩溶液(0.9%NaCl中5%、25μL/眼)を各眼に投与し、2~3分間動物を固定したままにして、急性結膜炎を誘発させた。ヒスタミンに対する応答を、適用後30分で評価した。
【0126】
各眼について以下のパラメータをスコア化した:浮腫の程度(結膜浮腫)、結膜発赤および血管充血(結膜充血)ならびに涙液分泌(流涙)。重症度は、0~4の主観的尺度(ガイドラインOECDテストN405:0=正常;1=極小;2=中程度;3=激烈;4=重度)に従って評価した。各眼における各パラメータの個別スコアを加算した結果(0から12までの合計スコア)を、全体的な結膜炎度の平均とみなした。
【0127】
統計
統計学的有意に達しなかった製剤、または統計学的有意に達してはいるがヒスタミン拮抗作用のパーセンテージが30%以下であった製剤は、不活性とみなされた。各治療について、対照眼(左)および抗ヒスタミン治療眼(右)の合計スコアの平均値を算出した。さらに、阻害のパーセンテージ(薬理効果の平均)を次式に従って算出した:
阻害(%)=[(対照スコア-治療スコア)/対照スコア]×100
【0128】
統計解析には、ノンパラメトリック検定である「ウィルコクソン符号順位検定」(対データ)および「マン・ホイットニーのU検定」(独立データ用)を用いて、各治療とその対応する対照を、および治療間の差を、それぞれ比較した。p<0.05の場合に統計的有意差とみなした。
【0129】
市販製剤の作用
アゼラスチン0.5mg/ml(Afluon(登録商標))は、適用後9時間は活性を示したが(ヒスタミン誘発作用の38.4%阻害)、12時間後には活性を示さなかった(19.2%阻害)。オロパタジン1mg/mL(Opatanol(登録商標))は、その阻害活性が投薬後24時間に観察されたので(38.0%阻害)、はるかに長い活性持続時間を提供した。このモデルにおけるアゼラスチンとオロパタジンの間に観察された差は(図4参照)、ヒスタミン誘発結膜血管透過性のモルモットモデルを用いて、季節性アレルギー性結膜炎の局所治療用市販薬の抗ヒスタミン活性の持続時間を比較した以前の証拠と一致している(Beauregard C,Stephens D,Roberts L,Gamache DおよびYanni J.ヒスタミン誘発結膜血管透過性のモルモットモデルにおける局所抗アレルギー薬の作用持続時間。J Ocul Pharmacol Ther.2007,23:315~20)。興味深いことに、このヒスタミン誘発血管漏出動物モデルにおけるオロパタジン0.2%溶液の長い作用持続時間が、ヒト臨床試験で確認された(Vogelson CT,Abelson MB,Pasquine T,Stephens DM,Gamache DA,Gross RD,Robertson SM,Yanni JM.オロパタジン0.2%溶液の局所眼投与24時間後の前臨床的および臨床的抗アレルギー作用。Allergy Asthma Proc.2004,25:69~75)。
【0130】
ビラスチン濃度の影響
上記のビラスチン4mg/mL(0.4w/v%)の製剤を調製し、作用持続時間を決定した。アゼラスチン0.5mg/mLと同様に、モルモットのヒスタミン誘発結膜炎に対する本製剤を用いて観察された活性は、適用後9時間までは有意であった(36.4%阻害、図4)。
【0131】
上記のビラスチン6mg/mL(0.6w/v%)の製剤も調製し、その活性をビラスチン4mg/mLの活性と比較した。得られた結果は、投薬9時間後(40.5および36.4%阻害)および12時間後(29.0および20.4%阻害)の両方で、最も高いビラスチン濃度で阻害パーセンテージに関してわずかな改善を示している。いずれの時点でも統計差は認められなかった。同じ時間間隔で、オロパタジン1mg/mLは強い活性を示した(投薬後9時間および12時間で、それぞれ75.9%および63.9%の阻害)。ビラスチン濃度の増加は、作用の有効性および持続時間に関して顕著な改善を伴わないと結論付けた。
【0132】
メチルセルロースの影響
メチルセルロース0.1mg/mLの有りおよび無しでの等価なビラスチン0.4w/v%製剤の有効性を比較した。両製剤とも、HPB100mg/mL、ヒアルロン酸ナトリウム1mg/mLおよびジェランガム2mg/mLを含有した。投薬後9時間では、両製剤とも明らかに活性であった(それぞれ44.7%対47.4%のヒスタミン誘発作用の拮抗)。これらの結果は、メチルセルロースがビラスチン0.4w/v%製剤の活性の持続時間に関しては寄与しないことを示す。
【0133】
グリセリンの影響
グリセリン16.1mg/mLの有りおよび無しでの等価なビラスチン0.4w/v%製剤の有効性を比較した。両製剤とも、HPB100mg/mL、メチルセルロース0.1mg/mL、ヒアルロン酸ナトリウム1mg/mLおよびジェランガム2mg/mLを含有した。投薬後9時間では、両製剤ともに活性を示した(グリセリン有りおよび無しの製剤について、それぞれ33.5%対45.8%の阻害)。投薬後12時間では、両製剤ともに明らかに不活性であった(それぞれ24.5%対26.7%の拮抗)。いずれの時点でも統計差は認められなかった。これらの結果は、グリセリンがビラスチン0.4w/v%製剤の活性の持続時間に関しては寄与しないことを示す。
【0134】
実施例4:眼科用製剤の臨床生体内有効性
本実施例は、表5~6および図5~6とともに、結膜アレルゲンチャレンジ(ORA-CAC(登録商標))モデルにおけるアレルギー性結膜炎の治療について、ビヒクルと比較したビラスチン点眼液(0.2w/v%、0.4w/v%、および0.6w/v%)の有効性の、単一施設、二重盲検、ランダム化、ビヒクル対照、第II相、用量範囲評価の結果を示す。
【0135】
ビラスチンの水性眼科用製剤を0.2w/v%、0.4%および0.6w/v%のビラスチン濃度で調製した。ビヒクル製剤はビラスチンを全く含有しなかった。賦形剤は上の表1に示した通りであり、すなわち、HPB90mg/mL、メチルセルロース0.1mg/mL、ヒアルロン酸ナトリウム1mg/mLおよびグリセリン16.1mg/mLもまた含有した。
【0136】
CAC(登録商標)は、眼アレルギーの調査的療法を研究するための標準化モデルである。CAC(登録商標)は、結膜へのアレルゲンの直接投与によって、制御された方法で眼アレルギー(例えば、眼の発赤、腫脹、流涙、および眼の掻痒感)の徴候および症状を誘発する。
【0137】
割り当てられた被験物質の1回量(両眼に1滴ずつ)を、CAC(登録商標)試験およびアレルギー性結膜炎の徴候および症状の評価の15分前、8時間前、または16時間前に投与した。この研究は、約6~10週間にわたる8回の来院から構成された。有効性は、ORA,Inc.(Andover,Massachusetts,United States,01810)により実施されたCAC(登録商標)モデルを用いて評価した。CAC(登録商標)モデルは、スクリーニング、治療および追跡期間を含む。
【0138】
スクリーニング期間中、来診1では、被験者はインフォームドコンセントに署名し、アレルギー性皮膚試験を行った。来診2では、各適格被験者は、皮膚試験で陽性反応を示したアレルゲンを用いて両眼CAC(登録商標)滴定を受けた。CAC(登録商標)後に陽性反応が誘発された被験者は、来診2で適格とされたのと同じアレルゲンを用いて来診3で確認CAC(登録商標)を受けた。
【0139】
治療期間は、被験者をランダム化した後に来診4aで開始した。この来診時、被験者は治療を受けるためにランダム化され、院内投薬による治療を受けた。治験薬の点眼から約16時間後、被験者は来診4bでCAC(登録商標)を受けた。来診5aで、被験者は同じ治験薬の院内投薬を受けた。治験薬の点眼から約8時間後、被験者は来診5bでCAC(登録商標)を受けた。被験者は来診6で治験薬の最終投薬を受け、その約15分後にCAC(登録商標)を受けた。
【0140】
追跡期間では、全ての被験者に対し29(±3)日目に電話追跡を行った。表5に来診スケジュールの概要を示す。
【0141】
【表5】
【0142】
合計220人の被験者をスクリーニングし、1か所で約120人の被験者を登録した。第一の目的は、アレルギー性結膜炎の主症状として眼の掻痒感を測定することであった。
【0143】
CAC(登録商標)モデルでは、各患者に薬物またはビヒクルを投与し、特定のチャレンジ時間にアレルゲンに曝露する。治験のチャレンジ時間は、投薬の15分後、8時間後および16時間後であった。その後、来診4b(治験薬の点眼の16時間後)、来診5b(治験薬の点眼の8時間後)、および来診6(点眼の15分後)で、チャレンジ時間の3、5および7分後の判定時間に掻痒感を判定した。患者は、掻痒感スコアを得るために0~4の尺度(半単位の増分を許可)で眼の掻痒感を評価するように依頼され、各スコアにおいて0が最小で4が最大であった。したがって、患者は3回の薬物またはビヒクルの投与を受け、各投与の後にアレルゲンチャレンジが行われ、その後、前述のように被験者によって眼の掻痒感が評価された。
【0144】
治療成功は、CAC(登録商標)後の全3時点について少なくとも0.5単位、かつ、CAC(登録商標)後の大部分の時点について少なくとも1単位の差で、ビヒクルに対する臨床的優位性を示すビラスチン点眼液の少なくとも1つの濃度と定義した。これらの時点での判定結果を表6に提示し、そのデータを図5および6にグラフとして提示する。
【0145】
【表6】
【0146】
ビラスチン0.6w/v%は、治験薬点眼の15分後(来診6)、8時間後(来診5b)および16時間後(来診4b)での眼の掻痒感の軽減において、臨床的に有意な治療差を示した。ビラスチン0.2w/v%および0.4w/v%は、治験薬点眼の15分後(来診6)および8時間後(来診5b)での眼の掻痒感の治療において、臨床的に有意な治療差を示した。ビラスチンの全ての濃度が、全ての来院での眼の掻痒感の治療において、ビヒクルとの統計学的有意差を示した。
【0147】
表6および図5~6から分かるように、0.6w/v%の濃度のビラスチンは、眼の掻痒感の治療のためにCAC(登録商標)の16時間前(来診4b)に投与された場合、臨床的かつ統計的に有効であった唯一の試験濃度であった。このCAC(登録商標)研究の前には、ビラスチン濃度0.6w/v%の製剤が、点眼後16時間での眼の掻痒感を軽減するのに極めて有効であるという徴候がなかったので、このデータは特に驚くべきものである。
【0148】
急性結膜炎のモルモットモデルにおいて4mg/ml(0.4w/v%)および6mg/ml(0.6w/v%)の濃度でのビラスチン眼科用製剤の生体内有効性を評価した以前の前臨床小論(例えば、前の実施例の前臨床小論など)では、ビラスチンの濃度を0.4%から0.6w/v%に増加させても、作用の有効性および持続期間に関して顕著な改善を伴わないと結論付けた。ビラスチン0.6w/v%は、適用9時間後には活性があるとみなされたが、12時間後には活性がないとみなされた。また、オロパタジン1mg/mL(オパタノール(登録商標))は、投薬24時間後にその阻害活性が認められたことから、はるかに長い活性持続時間を提供することも確認された。興味深いことに、このヒスタミン誘発血管漏出動物モデルにおけるオロパタジン0.2%溶液の長い作用持続時間が、先行技術によりヒト臨床試験で確認されている(Vogelson CT,Abelson MB,Pasquine T,Stephens DM,Gamache DA,Gross RD,Robertson SM,Yanni JM.オロパタジン0.2%溶液の局所眼投与24時間後の前臨床的および臨床的抗アレルギー作用。Allergy Asthma Proc.2004,25:69~75)。別の臨床試験では、オロパタジン0.77%製剤によってもたらされる眼の掻痒感の軽減が、24時間にわたって維持されている(Torkildsen G.,Narvekar A.,Bergmann M.結膜アレルゲンチャレンジモデルを用いたアレルギー性結膜炎患者におけるオロパタジン塩酸塩0.77%の有効性および安全性。Clinical Ophthalmology 2015:9 1703~1713)。
【0149】
別の研究では、ヒスタミン誘発結膜血管透過性のモルモットモデルにおいて、ビラスチンおよびオロパタジンの抗ヒスタミン作用を比較した。生体内における抗ヒスタミン活性を測定するために、モルモットを局所薬またはビヒクルで前処理し、エバンスブルー色素を静脈内投与した後、結膜下ヒスタミンチャレンジを与えた。ビラスチンをヒスタミンチャレンジの2~8時間前に投与した場合、50%有効性は達成されなかったが、オロパタジンは0.1%未満のED50を維持した(2008年5月,第49巻,13号,ARVO Annual Meeting Abstract,結膜肥満細胞の安定化およびヒスタミン誘発血管透過性に対するオロパタジン、ベポタスチン、およびビラスチンの作用比較、C.Beauregard;D.J.Stephens;S.T.Miller;L.Roberts;D.A.Gamache;J.M.Yanni)。したがって、これまでの先行技術では、ビラスチンが生体内におけるオロパタジンの抗ヒスタミン作用の効力または持続時間に匹敵することはできないことが明確に指摘されている。
【0150】
しかしながら、驚くべきことに、表6および図5~6のデータは、CAC(登録商標)モデルで評価されたように、ビラスチンが0.6w/v%の濃度で、ビヒクルと比較して16時間での眼の掻痒感を統計学的に有意に緩和することを示しており、アレルギー性結膜炎に伴う眼の掻痒感の治療におけるビラスチン含有量が0.4w/v%を超える製剤の1日1回の投薬を支持するものである。
【0151】
現在利用可能な薬物療法の限界、例えば1日複数回投薬の必要性や眼への副作用などは、特に生活の質への悪影響がアレルギー性結膜炎自体によって負う悪影響を超える負担とみなされる場合には、治療アドヒアランスの低下または治療中断につながり得る。さらに、1日1回のレジメンは、投薬ミスのリスクを減らし、場合によっては治療成績および症状コントロールを改善することにより、患者の服薬遵守に大きく寄与することが示されている。
【0152】
したがって、抗アレルギー点眼薬の1回の投薬でアレルギー性結膜炎症状を管理することが困難であり、結果的に2回目の投薬を使用しなければならない患者は、ビラスチン含有量が少なくとも0.4w/v%の製剤の1日1回の投薬レジメンによる増大した利便性から恩恵を受け得る。
【0153】
実施例5:眼科用製剤の眼生体内分布
本実施例は、本発明の眼科用製剤中のビラスチンが、ウサギの眼への投与に際し、角膜、虹彩、網膜および水晶体組織と比較して、主に結膜中に見出されることを示すことにより、実施例4の結果を確認する。
【0154】
ビラスチンの水性眼科用製剤を、ビラスチン濃度0.6w/v%で調製した。賦形剤は上の表1に示した通りであり、すなわち、HPB90mg/mL、メチルセルロース0.1mg/mL、ヒアルロン酸ナトリウム1mg/mL、グリセリン16.1mg/mLもまた含有した。
【0155】
本実施例の結果は、以下の優良試験所基準に準拠して得られた:
・ Real Decreto(勅令)1369/2000年7月19日(スペイン)
・ 経済協力開発機構(OECD)優良試験所基準の原則(1997年改訂)、ENV/MC/CHEM(98)17;
・ 欧州諸共同体(EC)委員会指令2004/10/EC、2004年2月11日;
・ 2000年3月14日付省令(Arrete du 14 Mars 2000)(フランス)、2004/10/EC
・ 経済協力開発機構(OECD)ENV/JM/MONO(2002)9、2002年6月25日
・ アメリカ食品医薬品局(FDA)産業界向けガイダンス-生物分析法検証-2018年5月、および
・ 欧州医薬品庁(EMA)生物分析法検証に関するガイドラインEMEA/CHMP/EWP/192217/2009総説1改訂第2版-2011年7月。
【0156】
42匹の4~5ヶ月齢のDutch Beltedウサギを被験体として選択した。治療開始時の動物の体重は1.6~2.1kgであった。
【0157】
【表7】
【0158】
動物には、各眼に30μLの眼科用製剤を単回投与した。眼科用製剤を、自動ピペットを用いて各動物の両眼に直接配置した。新しいピペットチップを各眼に用いた。
【0159】
被験動物の眼は点眼後洗浄しなかった。動物は投与前に体重を測定し、投与後に観察を行い、可能な限りのあらゆる臨床徴候を記録した。
【0160】
2~3匹の動物を各時点(0.5、1、2、4、6、8、12および24時間)で屠殺し、両眼から以下の組織を採取した:房水、硝子体液、角膜、結膜、虹彩/毛様体、水晶体および網膜/脈絡膜。試料採取直後に、全ての固体マトリックスを秤量し(小数点以下4桁の精度)、採取した各組織の量を決定した。
【0161】
ビラスチン濃度は、LC-MS/MSによって決定した。
【0162】
ビラスチン分析は、以下の分析法:
- ウサギ血漿についてはPKH/MOA/1022、
- ウサギ房水についてはPKH/MOA/1042、
- ウサギ硝子体液についてはPKH/MOA/1043、
- ウサギ角膜ホモジネートについてはPKH/MOA/1028、
- ウサギ虹彩/毛様体ホモジネートについてはPKH/MOA/1041、
- ウサギ結膜ホモジネートについてはPKH/MOA/1036、
- ウサギ水晶体ホモジネートについてはPKH/MOA/1032、
- ウサギ網膜/脈絡膜ホモジネートについてはPKH/MOA/1029
に従って実施し、これらの分析法は、研究18-014A~18-014Hにおいて、産業界向けガイダンス-生物分析法検証-アメリカ食品医薬品局(FDA)2018年5月および欧州医薬品庁(EMA)ガイドライン-EMEA/CHMP/EWP/192217/2009-2011年7月21日に従い、Eurofins|ADME BIOANALYSESで以前に開発および検証されたものである。
【0163】
これらの分析法は、血漿についてはタンパク質沈殿を包含し、他のマトリックスについては希釈を包含し、続いて、内部標準としてF21201RR(ビラスチン-d6)を用いたLC-MS/MS分析を包含した。
【0164】
結果から、投与の24時間後に、顕著に高い濃度のビラスチンが結膜に認められたが(平均値:388.45ng/g)、残りの眼組織ではビラスチン濃度がより低いことが示された:角膜(平均値:28.68ng/g)、虹彩/毛様体(12.42ng/g)、網膜/脈絡膜(1.91ng/g)および水晶体(0.12ng/g)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6