(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】紙および板紙用途に好適な二峰性沈殿炭酸カルシウムスラリー、それを作製するための方法、およびその使用
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20230710BHJP
D21H 19/38 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
C09D17/00
D21H19/38
(21)【出願番号】P 2020543979
(86)(22)【出願日】2019-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2019054220
(87)【国際公開番号】W WO2019162329
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-01-26
(32)【優先日】2018-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】319006807
【氏名又は名称】イメルテック ソシエテ パル アクシオン サンプリフィエ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ジャーヴィス ニゲル ヴィー
(72)【発明者】
【氏名】プリング グラハム エム
(72)【発明者】
【氏名】ペイトン デズモンド チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】フィンドレイ アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】チーズマン マシュー
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-189518(JP,A)
【文献】特開2010-132555(JP,A)
【文献】特表2014-502298(JP,A)
【文献】特開2010-150067(JP,A)
【文献】特開2019-052065(JP,A)
【文献】特開平09-202865(JP,A)
【文献】特表2001-525894(JP,A)
【文献】特開昭63-173556(JP,A)
【文献】特開平06-040717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
D21H 19/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sedigraphにより測定される1.0~3.0μmの範囲内の粒子サイズ分布における第1の極大値、および0.2~1.0μmの範囲内の粒子サイズ分布における第2の極大値を有する、二峰性粒子サイズ分布を有する沈殿炭酸カルシウムを含む水性スラリーであって、
粒子サイズ分布における前記第1の極大値が、凝集粒子を表し、粒子サイズ分布における前記第2の極大値が、凝集していない粒子を表し、
前記凝集粒子が、粒子サイズ分布における前記第2の極大値により表される凝集していない粒子と同じサイズである一次粒子で構成され、
前記沈殿炭酸カルシウムが、偏三角面体沈殿炭酸カルシウムである、前記水性スラライー。
【請求項2】
60wt.%以上の固形分を有する、請求項1に記載の水性スラリー。
【請求項3】
沈殿炭酸カルシウムが、4~12m
2/gの範囲内のBET表面積を有する、請求項1又は2に記載の水性スラリー。
【請求項4】
カートン用板紙製造に使用するための、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性スラリー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水性スラリーを含み、接着剤、顔料、および増粘剤から選択される1つまたは複数を含んでもよい紙コーティング組成物。
【請求項6】
水性炭酸カルシウムスラリーを調製する方法であって、
(i)得られる乾燥PCCの量を基準として0.02~0.2wt.%のクエン酸を添加し、35℃~65℃の範囲内の開始温度を使用して水性水酸化カルシウム懸濁液を炭酸化するステップと、
(ii)60wt.%以上の固形分を有するスラリーを得るために、機械的または熱的脱水機器を使用して、ステップ(i)において得られた炭酸化生成物を脱水して、フィルタケーキを得るステップと、
(iii)ステップ(ii)の最後に得られたフィルタケーキを高速分散ユニットに移し、活性分散剤およびフィルタケーキの固形物量の合計を基準として0.2~1.2wt.%の量のポリカルボキシレート分散剤を添加して、均質スラリーを生成するステップと
を含む方法。
【請求項7】
ステップ(i)において、前記クエン酸が、得られる乾燥PCCの量を基準として0.05~0.1wt.%の範囲内の量で添加される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(ii)において、フィルタケーキが、送風下12バール以上の圧力で機械的フィルタプレスで得られる、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
ポリカルボキシレートが、アクリル酸のホモポリマーおよび/またはコポリマーである、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
アクリル酸のホモポリマーおよび/またはコポリマーが、中和剤を使用して完全または部分的に中和され、中和剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(iii)の最後に得られた均質スラリーが、Sedigraphにより測定される1.0~3.0μmの範囲内の粒子サイズ分布における第1の極大値、および0.2~1.0μmの範囲内の粒子サイズ分布における第2の極大値を有する、二峰性粒子サイズ分布を有する沈殿炭酸カルシウムを含む、請求項6~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
紙、板紙、カートン用板紙、またはボール紙の製造における、請求項1~11のいずれか1項に記載の水性スラリーまたは紙コーティング組成物または方法の使用。
【請求項13】
原紙、板紙、カートン用板紙、またはボール紙の地色を隠蔽する方法であって、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性スラリー、もしくは請求項5に記載の紙コーティング組成物を塗布するステップを含む、または請求項6~11のいずれか1項に記載の方法ステップを含む方法。
【請求項14】
ベース紙、板紙、カートン用板紙、またはボール紙の板紙明度および/または不透明度を改善する方法であって、前記ベース紙、板紙、カートン用板紙、もしくはボール紙を、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性スラリー、もしくは請求項5に記載の紙コーティング組成物でコーティングするステップを含む、または請求項6~11のいずれか1項に記載の方法ステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、紙および板紙(board)用途において使用するための組成物に関し、組成物は、水性二峰性沈殿炭酸カルシウムスラリーを含む。本出願はさらに、本出願による組成物を作製する方法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
コート紙およびコート厚紙は、包装、アート紙、パンフレット、雑誌、カタログおよびチラシを含む広範な製品に使用される。そのようなコート紙およびコート厚紙は、明度、不透明度およびシート光沢、ならびに印刷性能を含む、コーティングにより付与され得る一連の特性を有する必要がある。
コート紙およびコート厚紙の明度および不透明度を改善するために、紙コーティング顔料として炭酸カルシウムを使用することが当技術分野において周知である。EP0768344A2は、紙コーティング組成物における顔料としての沈殿炭酸カルシウム(PCC)の使用、および紙コーティング用途に特に好適なそのようなPCCを作製するための方法を開示している。そのようなPCCを作製するための方法は、磨砕媒体を用いた高剪断磨砕による粉末化ステップを含む。そのような粉末化ステップは、エネルギーおよび時間のかなりの入力を必要とし、したがってそのようなPCCの調製コストに著しく寄与する。
特に強い地色を有する厚紙(paperboard)をコーティングする場合、審美的に許容され得る最終製品を達成するためには、地色がコーティング組成物によって十分に隠蔽されることが必須である。満足のいく結果を達成するために、厚紙の強い地色は、コーティング組成物を使用することによって可能な限り十分に隠蔽される必要がある。
したがって、紙および厚紙用の改善されたコーティング組成物を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、添付の特許請求の範囲において定義される。
特に、本出願は、1.0~3.0μmの範囲内の粒子サイズ分布における第1の極大値、および0.2~1.0μmの範囲内の粒子サイズ分布における第2の極大値を有する、二峰性粒子サイズ分布を有する沈殿炭酸カルシウムを含む水性スラリーによって具現化される。本出願による水性スラリーを使用することによって、改善された特性を得ることができることが判明したが、前記水性スラリーは、紙または厚紙用途におけるコーティングとして塗布され得る。本出願によるスラリー中に含まれる沈殿炭酸カルシウムは、未粉砕沈殿炭酸カルシウムであってもよい。
1つの特定の実施形態によれば、本出願による水性スラリー中に含まれる沈殿炭酸カルシウムは、偏三角面体沈殿炭酸カルシウムを含む。本出願による水性スラリー中に偏三角面体沈殿炭酸カルシウムを使用すると、特に有利な特性が得られることが判明した。
1つの特定の実施形態によれば、本出願による水性スラリーの固形分は、60wt.%以上であってもよい。本出願によるスラリーは、特に高い固形分を維持することができ、スラリーの取り扱いおよび塗布に関する利点を提供することが判明した。
1つの特定の実施形態によれば、本出願による水性スラリー中に含まれる沈殿炭酸カルシウムは、4~12m2/gの範囲内のBET表面積を有する。この表面積の範囲内では、本出願の利点が特に顕著となることが判明した。
【0004】
1つの特定の実施形態によれば、本出願による水性スラリー中に含まれる沈殿炭酸カルシウムの粒子サイズ分布における第1の極大値は、凝集粒子を表し、粒子サイズ分布における第2の極大値は、実質的に凝集していない粒子を表す。そのような組成物は、既知の方法ステップの新たな組合せを使用して容易に得られることが判明した。一実施形態において、凝集粒子は、粒子サイズ分布における第2の極大値により表される実質的に凝集していない粒子と実質的に同じサイズである一次粒子で構成されてもよい。
本出願によれば、本出願のスラリーは、例えば紙、厚紙、板紙、カートン用板紙等のコーティング等、一般にコーティングの形成のために塗布され得る。スラリーは、高い不透明度および/または高い明度を必要とするコーティングの形成における使用に特に好適であり、したがって、地色が特に強い用途、例えば板紙コーティング用途において適用され得ることが判明した。
【0005】
また、本出願の水性炭酸カルシウムスラリーの調製のための方法も本出願の一部である。この方法は、得られる乾燥PCCの量を基準として0.02~0.2wt.%のクエン酸を添加し、35℃~65℃の範囲内、または40℃~60℃の範囲内の開始温度を使用して水性水酸化カルシウム懸濁液を炭酸化するステップと、続いて、60wt.%以上の固形分を有するスラリーを得るために、機械的または熱的脱水機器を使用して、前のステップにおいて得られた炭酸化生成物を脱水して、フィルタケーキを得るステップと、最後に、得られたフィルタケーキを高速分散ユニットに移し、活性分散剤およびフィルタケーキの固形物量の合計を基準として0.2~1.2wt.%の量のポリカルボキシレート分散剤を添加して、均質スラリーを生成するステップとを含む。本出願による方法を使用して、粉砕ステップを使用することなく沈殿炭酸カルシウムを含む本出願のスラリーを得ることができることが判明した。
【0006】
1つの特定の実施形態によれば、使用されるクエン酸の量は、得られる乾燥PCCの量を基準として0.05~0.1wt.%の範囲内であってもよい。そのような量は、特にある特定の所望範囲内の固形物投入量、粒子サイズ分布、および所望の結晶学を有する粒子を含む生成物を得るのに役立つことが判明した。
1つの特定の実施形態によれば、フィルタケーキを得るための脱水機器は、送風下12バール以上の圧力で使用される機械的フィルタプレスである。そのような条件は、所望の生成物を得るのに特に有利であることが判明した。
1つの特定の実施形態によれば、使用されるポリカルボキシレートは、アクリル酸のホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。これは、取り扱いの観点から使用に好適であり、また所望の生成物を得るのに好適であることが判明した。一実施形態において、アクリル酸のホモポリマーおよび/またはコポリマーは、中和剤を使用して完全または部分的に中和されてもよい。中和剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【0007】
1つの特定の実施形態によれば、本出願による方法から得られる生成物は、1.0~3.0μmの範囲内の粒子サイズ分布における第1の極大値、および0.2~1.0μmの範囲内の粒子サイズ分布における第2の極大値を有する、二峰性粒子サイズ分布を有する沈殿炭酸カルシウムを含む均質スラリーであってもよい。得られる生成物は、本出願の生成物である。
また、紙、板紙、カートン用板紙、またはボール紙(cardboard)の製造における、本出願による水性スラリーの使用、または本出願による方法の使用も本出願の一部である。
また、原紙(raw paper)、板紙、カートン用板紙、またはボール紙の地色を隠蔽する方法であって、本出願による水性スラリーを塗布するステップを含む、または本出願による方法の方法ステップを含む方法も本出願の一部である。
【0008】
また、ベース紙(base paper)、板紙、カートン用板紙、またはボール紙の板紙明度および/または不透明度を改善する方法であって、前記ベース紙、板紙、カートン用板紙、もしくはボール紙を、本出願による水性スラリーでコーティングするステップを含む、または本出願による方法の方法ステップを含む方法も本出願の一部である。
本出願は、以下の図面を参照することによってさらに例示される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】Sedigraphに従って測定される、本出願によるスラリーの固形分の粒子サイズ分布を表すグラフである。
【
図2】本出願による組成物、先行技術の組成物、および粉砕後の本出願の組成物を使用してコート厚紙の明度に関して得られた実験データを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明および図面の参照は、本出願の例示的実施形態に関連しており、特許請求の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
添付の特許請求の範囲による本出願は、紙および板紙コーティングの形成において使用するための沈殿炭酸カルシウムの水性スラリーを提供する。スラリー中に含まれる沈殿炭酸カルシウムは、sedigraphにより測定される二峰性粒子分布を有し、本明細書に開示される方法に従って得ることができる。最後に、本出願による方法およびスラリーは、原紙、板紙、カートン用板紙、もしくはボール紙の地色を隠蔽するのに使用されてもよく、または、ベース紙、板紙、カートン用板紙、またはボール紙の板紙明度および/もしくは不透明度を改善するのに使用されてもよい。
本明細書において使用される場合、粒子サイズ分布は、当業者に知られている方法に従って測定された。別段に言及されない限り、特性は、Micrometrics Instruments Corporation(Norcross、Georgia、USA)により供給される「Sedigraph 5100」機器(本明細書では「Micrometrics Sedigraph 5100ユニット」と呼ばれる)を使用して、水性媒体中に完全に分散した状態の粒子材料の沈降により測定された。
本明細書において使用される場合、「二峰性粒子サイズ分布」という用語は、粒子サイズ分布曲線における極大値を表す2つの別個の粒子サイズが存在する粒子サイズ分布を指す。本明細書において使用される場合、第1および第2の極大値は、粒子サイズ分布曲線における別個のピークとして表される。
【0011】
沈殿炭酸カルシウム(PCC)を作製するためのプロセスは、非常に純度の高い炭酸カルシウム結晶および水をもたらす。結晶は、使用される特定の反応プロセスに応じて、様々な異なる形状およびサイズで生成され得る。PCC結晶の3つの主要な形態は、アラゴナイト、菱面体および偏三角面体であり、それらは全て、それらの混合物を含め、本出願の実施形態における使用に好適である。本出願の1つの特定の実施形態において、PCC結晶は、偏三角面体である。実際に達成されるPCC形態は、100%偏三角面体形態である可能性は低い。支配的である場合でも、1つのPCC結晶形態が他の形態と混合しているのが通例である。そのような混合形態は、適切に改善された生成物特性を与える。一実施形態において、本出願によるPCC生成物中の結晶の少なくとも50wt.%、または少なくとも80wt.%が偏三角面体形態であり、例えば、少なくとも85wt.%、または少なくとも90wt.%、または少なくとも95wt.%、または少なくとも98wt.%、またはさらに少なくとも99wt.%が偏三角面体形態である。
本出願によれば、PCCスラリーの全てが、
図1の例示的様式で表される二峰性粒子サイズ分布を有する。
図1において確認され得るように、グラフに表された粒子混合物は、約1.8μmに第1の極大値、および約0.6μmに第2の極大値を有する。
【0012】
本出願によれば、粒子サイズ分布は、第1の極大値が1.0~3.0μmの範囲内である、例えば約1.0μm、または約1.00μm、または約1.1μm、または約1.2μm、または約1.3μm、または約1.4μm、または約1.5μm、または約1.6μm、または約1.7μm、または約1.8μm、または約1.9μm、または約2μm、または約2.0μm、または約2.1μm、または約2.2μm、または約2.3μm、または約2.4μm、または約2.5μm、または約2.6μm、または約2.7μm、または約2.8μm、または約2.9μm、または約3μm、または約3.0μmであるような粒子サイズ分布であってもよい。例えば、第1の極大値は、3.0μm未満および1.1μm超、または1.2μm超、または1.3μm超、または1.4μm超、または1.5μm超、または1.6μm超、または1.7μm超、または1.8μm超、または1.9μm超、または2μm超、または2.0μm超、または2.1μm超、または2.2μm超、または2.3μm超、または2.4μm超、または2.5μm超、または2.6μm超、または2.7μm超、または2.8μm超、または2.9μm超であってもよい。例えば、第1の極大値は、1.0μm超および3μm未満、または3.0μm未満、または2.9μm未満、または2.8μm未満、または2.7μm未満、または2.6μm未満、または2.5μm未満、または2.4μm未満、または2.3μm未満、または2.2μm未満、または2.1μm未満、または2μm未満、または2.0μm未満、または1.9μm未満、または1.8μm未満、または1.7μm未満、または1.6μm未満、または1.5μm未満、または1.4μm未満、または1.3μm未満、または1.2μm未満、または1.1μm未満であってもよい。一実施形態によれば、第1の極大値は、1.5μm~2.0μmの範囲内である。
【0013】
本出願によれば、粒子サイズ分布は、第2の極大値が0.2~1.0μmの範囲内である、例えば約0.2μm、または約0.20μm、または約0.3μm、または約0.4μm、または約0.5μm、または約0.6μm、または約0.7μm、または約0.8μm、または約0.9μm、または約1.0μm、または約1.00μmであるような粒子サイズ分布であってもよい。例えば、第2の極大値は、0.2μm超および1.0μm未満、または1.00μm未満、または0.95μm未満、または0.90μm未満、または0.85μm未満、または0.80μm未満、または0.75μm未満、または0.70μm未満、または0.65μm未満、または0.60μm未満、または0.55μm未満、または0.50μm未満、または0.45μm未満、または0.40μm未満、または0.35μm未満、または0.30μm未満、または0.25μm未満であってもよい。例えば、第2の極大値は、1.0μm未満および0.20μm超、または0.25μm超、または0.30μm超、または0.35μm超、または0.40μm超、または0.45μm超、または0.50μm超、または0.55μm超、または0.60μm超、または0.65μm超、または0.70μm超、または0.75μm超、または0.80μm超、または0.85μm超、または0.90μm超、または0.95μm超であってもよい。一実施形態によれば、第2の極大値は、0.5μm~0.7μmの範囲内である。
【0014】
本出願の一実施形態によれば、水性スラリーは、60wt.%以上、例えば62wt.%以上、または64wt.%以上、または66wt.%以上、または68wt.%以上、または70wt.%以上、または71wt.%以上、または72wt.%以上の固形分を有してもよい。本出願によるスラリーの固形分には特定の上限はないが、スラリーが不均質となる時に固形物投入量が実際の最大値に達することが当業者に知られている。最大固形分は、選択される脱水機器、および許容され得る粘度を有する鉱物スラリーを有することが予測されることの両方に依存し得る。通常、許容され得る粘度は、スラリーを容易にポンピングおよび移送することができる粘度として当業者にはみなされる。最大固形物投入量は、約73wt.%、または約74wt.%、または約75wt.%、または約76wt.%、または約77wt.%、または約78wt.%、または約79wt.%、またはさらに約80wt.%まで高くてもよい。本出願の一実施形態によれば、固形分は、68wt.%~76wt.%の範囲内であってもよい。
【0015】
本出願の一実施形態によれば、スラリー中のPCCは、4~12m2/gの範囲内のBET表面積を有する。例えば、BET表面積は、約4m2/g、または約4.0m2/g、または約5m2/g、または約6m2/g、または約7m2/g、または約8m2/g、または約9m2/g、または約10m2/g、または約11m2/g、または約12m2/g、または約12.0m2/gであってもよい。例えば、BET表面積は、4m2/g以上および12m2/g未満、または12.0m2/g未満、または11m2/g未満、または10m2/g未満、または9m2/g未満、または8m2/g未満、または7m2/g未満、または6m2/g未満、または5m2/g未満であってもよい。例えば、BET表面積は、12m2/g以下および4m2/g超、または4.0m2/g超、または5m2/g超、または6m2/g超、または7m2/g超、または8m2/g超、または9m2/g超、または10m2/g超、または11m2/g超であってもよい。
【0016】
本出願の一態様によれば、水性スラリー中の炭酸カルシウムの二峰性粒子サイズ分布における粗大粒子分画は凝塊で構成されてもよく、sedigraph測定により示される、および検出される粒子サイズは、凝塊の粒子サイズである。凝塊は、水性スラリー中の炭酸カルシウムの二峰性粒子サイズ分布における微細粒子分画の範囲内の粒子サイズを有する微細な一次粒子で構成される。換言すれば、水性スラリーは、微細粒子および凝塊化した微細粒子を含んでもよく、凝塊化した微細粒子は、二峰性粒子サイズ分布において検出される粗大粒子分画に対応する。したがって、スラリーの粉砕によって凝塊が一次粒子に解砕され、二峰性粒子サイズ分布が失われる可能性があるため、本出願による水性スラリーは、未粉砕スラリーであってもよい。
【0017】
本出願の一態様によれば、水性スラリーには、紙コーティングまたは厚紙コーティングにおける使用に好適なさらなる粒子成分が混合されていてもよい。これらのさらなる粒子成分は、二酸化チタン、焼成粘土、タルク、硫酸カルシウム、カオリン粘度、焼成カオリンおよび沈殿もしくは粉砕炭酸カルシウム、またはそれらの混合物からなる群から選択され得る。そのような顔料混合物は、本出願による炭酸カルシウム粒子としての固形分の5wt.%~99wt.%、または40wt.%~70wt.%を構成し得る。
【0018】
本出願のさらなる態様によれば、前述の請求項のいずれか1項に記載の水性スラリーを含み、接着剤、顔料、および増粘剤から選択される1つまたは複数を含んでもよい紙コーティング組成物が開示される。接着剤は、例えば、デンプン、カゼイン等のタンパク質性接着剤、ならびに例えばスチレンブタジエンゴムおよびアクリルポリマーのラテックスからなる群から選択される、当技術分野において使用される既知の紙コーティング接着剤の1つであってもよい。増粘剤は、先行技術において増粘剤として使用される1種または複数種の物質、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロースまたは合成アクリル増粘剤を含み得る。
【0019】
本出願のさらなる態様によれば、水性炭酸カルシウムスラリーは、本出願による方法によって得ることができる。PCCの形成のための一般的方法は、当業者に周知である。参照によりその内容が本明細書に組み込まれる、TAPPI Monograph Series No 30, "Paper Coating Pigments", pages 34-35は、製紙業において使用するための生成物の調製における使用に好適であるが、本出願の実施形態に関連しても使用され得る沈殿炭酸カルシウムを調製するための3つの主要な商業的プロセスを説明している。3つ全てのプロセスにおいて、まず石灰石が焼成されて生石灰が生成され、次いで生石灰が水中で消和され、水酸化カルシウムまたは乳状石灰が生じる。第1のプロセスにおいて、乳状石灰は、二酸化炭素ガスで直接炭酸化される。このプロセスは、副生成物が形成されず、また炭酸カルシウム生成物の特性および純度を制御することが比較的容易であるという利点を有する。第2のプロセスにおいて、乳状石灰はソーダ灰と接触され、複分解により炭酸カルシウムの沈殿物および水酸化ナトリウムの溶液を生成する。このプロセスが商業的に魅力あるものである場合、水酸化ナトリウムは、炭酸カルシウムから実質的に完全に分離されるべきである。第3の主要な商業的プロセスにおいて、乳状石灰はまず塩化アンモニウムと接触され、塩化カルシウム溶液およびアンモニアガスを生成する。次いで、塩化カルシウム溶液はソーダ灰と接触され、複分解により沈殿炭酸カルシウムおよび塩化ナトリウムの溶液を生成する。
【0020】
本出願によれば、水性水酸化カルシウム懸濁液は、クエン酸を添加し、35℃~65℃、または40℃~60℃の範囲内、または45℃~55℃の範囲内の開始温度で、例えば二酸化炭素含有ガスを吹き込むことにより炭酸化される。クエン酸は、得られる乾燥PCCの量を基準として0.02wt.%~0.2wt.%の量で添加される。クエン酸の添加は、炭酸化の開始前、または炭酸化の間に行われてもよい。次いで、得られた生成物は、高い固形分を有するスラリーを得るために、機械的または熱的脱水機器を使用して脱水される。これによってフィルタケーキが形成される。次いで、このフィルタケーキは、分散剤の添加により沈下される。このステップにおいて、フィルタケーキは、例えば、均質スラリーを生成するのに十分に長い期間、高速分散ユニット、例えばCellier、Dispercelまたは同様のものを使用して、ポリカルボキシレート分散剤の助けを借りて均質スラリーに転換される。ポリカルボキシレート分散剤は、分散剤および組成物の固形分の合計を基準として0.2wt.%~1.2wt.%の量で、例えば0.4wt.%~0.8wt.%の量で使用される。
【0021】
得られる水性スラリーは、粗大分画が一次粒子の凝塊を表し、微細分画が凝塊化していない一次粒子を表す二峰性粒子サイズ分布を有する。本出願によれば、二峰性粒子サイズ分布は、凝塊化一次粒子を表す1.0~3.0μmの範囲内の粒子サイズ分布における第1の極大値、および凝塊化していない一次粒子を表す0.2~1.0μmの範囲内の粒子サイズ分布における第2の極大値を有してもよい。
【0022】
本出願の方法に従って使用されるクエン酸の量は、水酸化カルシウムの量を基準として0.02wt.%~0.2wt.%の範囲内、または0.05wt.%~0.1wt.%、または0.10wt.%~0.15wt.%の範囲内であってもよい。例えば、クエン酸の量は、得られる乾燥PCCの量を基準として約0.02wt.%、または約0.03wt.%、または約0.04wt.%、または約0.05wt.%、または約0.06wt.%、または約0.07wt.%、または約0.08wt.%、または約0.09wt.%、または約0.1wt.%、または約0.10wt.%、または約0.11wt.%、または約0.12wt.%、または約0.13wt.%、または約0.14wt.%、または約0.15wt.%、または約0.16wt.%、または約0.17wt.%、または約0.18wt.%、または約0.19wt.%、または約0.20wt.%、または約0.2wt.%であってもよい。例えば、クエン酸の量は、得られる乾燥PCCの量を基準として0.02wt.%超であるが0.20wt.%未満、または0.19wt.%未満、または0.18wt.%未満、または0.17wt.%未満、または0.16wt.%未満、または0.15wt.%未満、または0.14wt.%未満、または0.13wt.%未満、または0.12wt.%未満、または0.11wt.%未満、または0.10wt.%未満、または0.1wt.%未満、または0.09wt.%未満、または0.08wt.%未満、または0.07wt.%未満、または0.06wt.%未満、または0.05wt.%未満、または0.04wt.%未満、または0.03wt.%未満であってもよい。例えば、クエン酸の量は、得られる乾燥PCCの量を基準として0.20wt.%未満であるが0.02wt.%超、または0.03wt.%超、または0.04wt.%超、または0.05wt.%超、または0.06wt.%超、または0.07wt.%超、または0.08wt.%超、または0.09wt.%超、または0.1wt.%超、または0.10wt.%超、または0.11wt.%超、または0.12wt.%超、または0.13wt.%超、または0.14wt.%超、または0.15wt.%超、または0.16wt.%超、または0.17wt.%超、または0.18wt.%超、または0.19wt.%超であってもよい。
本出願の第1の態様による方法において、炭酸化ステップで形成された水性懸濁液は、10wt.%~25wt.%の(乾燥質量)固形物濃度を有し得る。
【0023】
本出願の一実施形態によれば、炭酸化ステップにおいて形成された水性懸濁液の脱水ステップは、送風下で機械的フィルタプレスを使用して、例えば送風下で12バール以上の圧力で機械的フィルタプレスを使用して行われてもよい。例えば、機械的フィルタプレスは、14バール以上の圧力で、または16バール以上の圧力で使用されてもよい。本出願による方法では、機械的フィルタプレスに使用される最大圧力は規定されないが、実用的または技術的判断から上限値が設定されてもよい。例えば、約30バールまたは約25バールの最大圧力が印加され得る。例えば、印加圧力は、12バール~30バールの範囲内、または14バール~25バールの範囲内、または16バール~20バールの範囲内であってもよい。使用されるフィルタプレスは、凹板ダイアフラムフィルタおよび水平配向チャンバを備えた自動濾過塔であってもよい。典型的には、フィルタは、完全な布洗浄および効率的なケーキ排出のための連続濾布を有する。プロセススラリーは、フィルタチャンバ内にポンピングされ、固形物が形成し始める。ポンピング圧力が増加すると、濾液が布に強制的に通される。高圧空気または水が、各チャンバの上に位置するダイアフラムを膨張させ、したがってチャンバ容積を減少させて固形物を絞り出し、より多くの濾液を除去する。最終脱水のために、圧縮空気が固形物に吹き付けられる。濾板が開き、脱水された固形物が移動する濾布上で運搬される。洗浄ユニットが布の両側に高圧水を噴霧する。
【0024】
脱水ステップは、前の炭酸化ステップ中に形成された凝集粒子の破壊をもたらすと考えられる。したがって、凝集粒子の脱凝集を制御し、ひいては粒子サイズ分布における第1の極大値として現れる凝集粒子、および粒子サイズ分布における第2の極大値として現れる別個の非凝集粒子の相対量に影響を与えるために脱水ステップ条件を適合させることが可能となり得る。
【0025】
本出願の一実施形態によれば、ポリカルボキシレート分散剤は、分散剤および組成物の固形分の合計を基準として0.2wt.%~1.2wt.%の量で使用され得る。例えば、使用されるポリカルボキシレート分散剤の量は、分散剤および組成物の固形分の合計を基準として約0.2wt.%、または約0.20wt.%、または約0.3wt.%、または約0.4wt.%、または約0.5wt.%、または約0.6wt.%、または約0.7wt.%、または約0.8wt.%、または約0.9wt.%、または約1.0wt.%、または約1wt.%、または約1.1wt.%、または約1.2wt.%、または約1.20wt.%であってもよい。例えば、ポリカルボキシレート分散剤は、分散剤および組成物の固形分の合計を基準として0.2wt.%以上および1.2wt.%未満、または1.20wt.%未満、または1.1wt.%未満、または1.0wt.%未満、または1wt.%未満、または0.9wt.%未満、または0.8wt.%未満、または0.7wt.%未満、または0.6wt.%未満、または0.5wt.%未満、または0.4wt.%未満、または0.3wt.%未満の量で使用され得る。例えば、ポリカルボキシレート分散剤は、分散剤および組成物の固形分の合計を基準として1.2wt.%以下および0.2wt.%超、または0.20wt.%超、または0.3wt.%超、または0.4wt.%超、または0.5wt.%超、または0.6wt.%超、または0.7wt.%超、または0.8wt.%超、または0.9wt.%超、または1wt.%超、または1.0wt.%超、または1.1wt.%超の量で使用され得る。一実施形態によれば、ポリカルボキシレート分散剤は、分散剤および組成物の固形分の合計を基準として0.4wt.%~0.8wt.%の量で使用され得る。
【0026】
本出願の一態様に従って使用されるポリカルボキシレート分散剤は、少なくとも1つのカルボン酸基で置換されたビニルもしくはオレフィン基を含むモノマー単位を含むホモポリマーもしくはコポリマー、またはそれらの水溶性塩であってもよい。好適なモノマーの例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イソクロトン酸、ウンデシレン酸、アンゲリカ酸およびヒドロキシアクリル酸である。例えば、ポリカルボキシレート分散剤は、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸のコポリマー、またはアクリル酸のホモポリマーおよびコポリマーの混合物から選択され得る。ポリカルボキシレート分散剤の数平均分子量は、低角レーザ光散乱検出器を使用したゲル透過クロマトグラフィーの方法によって測定して、20,000以下、例えば700~10,000の範囲内であるべきである。一実施形態によれば、アクリル酸のホモポリマーおよび/またはコポリマーは、中和剤により中和されてもよい。中和剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化アンモニウム、またはそれらの混合物からなる群から選択され得る。中和剤は、前記アクリル酸のホモポリマーおよび/またはコポリマーを部分的または完全に中和するような量で使用され得る。
【0027】
本出願による方法が使用される場合、本出願の生成物により、粒子状炭酸カルシウムの水性スラリーを得ることができ、炭酸カルシウム粒子は、二峰性粒子サイズ分布を有することが判明した。これは、
図1に示されるようなsedigraph分析により確認された。次いで、本出願による生成物は、紙または厚紙用のコーティング組成物として使用される場合、先行技術の組成物である「参照材料1」および「参照材料2」に勝る改善された明度および不透明度を得るのを助けることが判明した。特に、本出願の方法に従って得られる粒子組成物は、所望の特性を得るために粉砕を必要としなかった。逆に、生成物が粉砕されると、凝塊化粒子の脱凝塊が生じ、二峰性粒子サイズ分布の喪失、および
図2に示されるように厚紙試料へのプレコーティング組成物の塗布後に測定される明度値の低下がもたらされた。
【0028】
本出願および先行技術による様々なコーティング組成物を、以下のように試験した。実験室において、ロッドおよび速度を変更することにより7~15gsmのコート質量の範囲を達成するために、計量ロッドを有するK303 Multi-coater(RK Print Coat Instruments)を使用してコーティングを塗布した。使用したベース板紙は、低い明度を有する市販の非コートベース板紙であった。次いで、コート板紙の明度を測定し、12gsmのコーティング質量に補間した。
【0029】
参照材料1は、0.64μmのd50、93.3の明度(ISO)、および57の勾配を有するCalcitからの急勾配GCC「Coverplus」であった。参照材料2は、0.43μmのd50、95.8の明度(ISO)、および51の勾配を有するOmyaからのアラゴナイトPCC「Omyaprime HO 40」であった。使用したコーティング組成物は全て、100質量部の炭酸カルシウム、10質量部のラテックス結合剤(DL1066)、および0.5質量部の増粘剤(CMC FF10)からなっていた。スラリーは全て、55wt.%の固形分およびpH値9を有していた。
【0030】
本出願は、相互排他的な特徴の組合せを除いて、本明細書において言及される特徴および/または制限の任意の組合せを含み得ることに留意されたい。上記説明は、例示を目的として、本出願の特定の実施形態に関する。しかしながら、当業者には、本明細書に記載の実施形態に対する多くの修正および変更が可能であることが明らかである。そのような修正および変更は全て、添付の特許請求の範囲において定義される本出願の範囲内に含まれることが意図される。