(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】不安障害を治療するための(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-メチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オールまたはその代謝産物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/454 20060101AFI20230710BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A61K31/454
A61P25/22
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021192957
(22)【出願日】2021-11-29
(62)【分割の表示】P 2018561545の分割
【原出願日】2017-05-23
【審査請求日】2022-01-04
(32)【優先日】2016-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002956
【氏名又は名称】田辺三菱製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【氏名又は名称】新田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】レミ・リュトランジェ
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510331(JP,A)
【文献】松本真知子、吉岡充弘,日薬理誌,2000年,Vol.115, No.1,pp.39-44
【文献】井上 猛,精神経誌,2012年,Vol.114, No.9,pp.1085-1092
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不安障害と診断されるヒト患者における不安障害の少なくとも1つの症状を治療する方法で使用するための、式(I):
【化1】
(I)
の化合物(化合物I)または式(II):
【化2】
(II)
の化合物(化合物II)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物を含む医薬組成物であって、
該治療方法が、患者に治療有効量の医薬組成物を経口投与することを含み、該治療有効量が、化合物Iまたは化合物IIの1日総量
0.5mg~2.5mgであって、
患者が大うつ病性障害(MDD)と診断されている医薬組成物。
【請求項2】
0.5 mgの化合物Iまたは化合物IIを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
大うつ病性障害(MDD)が、中等度~重度と診断されている、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
化合物Iまたは化合物IIが、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間および少なくとも6週間からなる群から選択される治療期間の間、投与される、請求項1~3のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2016年5月25日出願の米国仮出願第62/341,517号;および2016年8月11日出願の米国仮出願第62/373,720号に対する優先権および利益を主張する;上記各出願の開示の全体は、参照することにより本出願に包含される。
技術分野
本開示は、患者における不安障害を治療する組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不安障害は、過度の恐怖と不安、および関連する行動障害という特徴を共有する精神障害のカテゴリーである。異なる不安障害には異なる症状プロファイルがあり、主なタイプとして以下のものが挙げられる:全般性不安障害(GAD)、不安発作(パニック障害)、強迫性障害(OCD)、恐怖症、社交不安障害、および心的外傷後ストレス障害(PTSD)。
【0003】
集合的に、不安障害は、米国で最も一般的な精神障害の1つであり、米国の成人人口の12ヶ月の罹患率は約18%であり、不安障害を有する米国の成人人口の約4%が、重度であると分類されている。(http://www.nimh.nih.gov/health/statistics/prevalence/any-anxiety-disorder-among-adults.shtml)。不安障害は、世界的に一般的な健康問題でもある。最近の調査の結果は、臨床的不安が、北米、西ヨーロッパ、オーストラリア/ニュージーランドで約10%の人々、中東で約8%、アジアで約6%の人々を襲うことを示している。(Baxter、A.J. et al.、Global prevalence of anxiety disorders:a systematic review and meta-regression。Psychol. Med. 2013 43:897-910)。
【0004】
不安障害の患者は、典型的に、身体的、感情的、認知的および行動的症状の組み合わせを経験する。不安障害の1つ以上の症状を治療するために、現在、多くの異なる薬物が使用されている。不安障害と診断された多くの人々は、うつ病にも苦しんでいるので、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)およびセロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)などの抗うつ薬がしばしば使用される。不安障害を治療するために使用される他の医薬品として、次のものが挙げられる:不安、パニック発作、または過度の恐怖、心配などの症状を軽減するのに役立つ、ベンゾジアゼピンなどの抗不安薬;および不安な状況での急な心拍、動揺、振戦および赤面などの不安の身体症状をコントロールするのに役立つ、プロプラノロールおよびアテノロールなどのベータ遮断薬。しかしながら、現在使用されている医薬は、最適な有効性および副作用プロファイルを示さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不安障害の症状を治療する際の改善された有効性および/または副作用の低減の可能性を提供する追加の薬剤および方法を特定する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概略
本開示は、式(I):
【化1】
(I)
の化合物(化合物I)の塩酸塩が、6週間の治療後のハミルトン不安評価尺度(HAM-A)においてベースラインからの変化によって測定される大うつ病性障害(MDD)を有する成人被験者のコホートにおいてプラセボと比較して不安症状を減少させることを示す臨床データに基づいている。HAM-A尺度は、Hamilton M:The assessment of anxiety states by rating. British Journal of Medical Psychology. 32:50-55、1959に記載されている。
【0007】
この(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-メチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オール・一塩酸塩は、MIN-117(以前は、SON-117およびWf-516として知られる)と命名され、大うつ病性障害(MDD)の治療のために、Minerva Neurosciences(Waltham、MA)によって臨床開発中である。MIN-117原薬は、(2S)立体配置、分子式C25H25Cl2N3O4・HClおよび分子量538.85のエナンチオマーである。この研究薬は、5-HT1Aおよび5-HT2A受容体、ならびにセロトニンおよびドーパミン再取り込みの両方に対するアンタゴニストとして挙動すると同時に、α1A-およびα1B-アドレナリン受容体に対する親和性を有すると記載されている(Minerva Neurosciences、Inc.、Form 10K、14 March 2016)。
【0008】
式(II):
【化2】
(II)
の化合物(化合物II)は、MIN-117(M1)の主要代謝産物である。
【0009】
化合物IIの化学名は、(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-ヒドロキシメチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オールである。式(I)および(II)の化合物は、類似の受容体および親和性結合プロファイルを有し、式(I)および(II)の化合物は、不安障害に苦しんでいるヒト被験者に投与された場合、同様の露出を有するであろうことが期待される。したがって、式(II)の化合物、たとえば、単離された化合物IIまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物は、MIN-117が有用であることが見出された同様の用量でそのような被験者における不安症状の軽減を生じることが期待される。他に特定されない限り、本明細書に開示される組成物、方法、または使用において、化合物IIまたはその薬学的に許容される塩、水和物、もしくは溶媒和物は、単離された形態、たとえば、精製された形態である。
【0010】
1つの態様では、本開示は、治療有効量の式(I)の化合物(化合物I)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物を含む組成物を被験者に経口投与することを含む、不安障害と診断されるヒト被験者における不安障害の少なくとも1つの症状を治療するための方法における使用のための、該組成物を提供する。
【0011】
もう1つの態様では、本開示は、治療有効量の式(II)の化合物(化合物II)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物を含む組成物を被験者に経口投与することを含む、不安障害と診断されるヒト被験者における不安障害の少なくとも1つの症状を治療するための方法における使用のための、該組成物を提供する。
【0012】
1つの実施態様では、治療有効量は、以下からなる群から選択される化合物Iまたは化合物IIの1日総量である:約0.1 mg~3 mg未満、約0.2 mg~約2.9 mg、約0.3 mg~約2.8 mg、約0.4 mg~約2.7 mg、約0.5 mg~約2.6 mg、約0.6 mg~約2.5 mg、約0.4 mg~約0.6 mgおよび約0.5 mg。
【0013】
もう1つの実施態様では、治療有効量は、以下からなる群から選択される化合物Iまたは化合物IIの1日総量である:約0.1 mg~約2.5 mg、約0.1 mg~約1 mg、約0.1 mg~約0.75 mg、約0.25~約0.75 mgおよび約0.45 mg~約0.55 mg。
【0014】
もう1つの実施態様では、治療有効量は、以下からなる群から選択される化合物Iまたは化合物IIの1日総量である:約0.1 mg~約2.0 mg;約0.1 mg~約1.0 mg;および約0.1 mg~約0.5 mg。
【0015】
もう1つの態様では、本開示は、不安障害と診断されるヒト被験者における不安障害の少なくとも1つの症状を治療する方法であって、被験者に治療有効量の化合物I、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物を投与することを含む方法を提供する。
【0016】
もう1つの態様では、本開示は、不安障害と診断されるヒト被験者における不安障害の少なくとも1つの症状を治療する方法であって、被験者に治療有効量の化合物II、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物を投与することを含む方法を提供する。
【0017】
1つの実施態様では、治療有効量の化合物Iまたは化合物II、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物は、以下からなる群から選択される化合物Iまたは化合物IIの1日総量で経口投与される:約0.1 mg~3 mg未満;約0.2 mg~約2.9 mg;約0.3 mg~約2.8 mg、約0.4 mg~約2.7 mg;約0.5 mg~約2.6 mg;約0.6 mg~約2.5 mg;約0.4 mg~約0.6 mg;および約0.5 mg。
【0018】
もう1つの実施態様では、治療有効量の化合物Iまたは化合物II、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物は、以下からなる群から選択される化合物Iまたは化合物IIの1日総量で経口投与される:約0.1 mg~約2.5 mg;約0.1 mg~約1 mg;約0.1 mg~約0.75 mg;約0.25~約0.75 mg;および約0.45 mg~約0.55 mg。
【0019】
もう1つの実施態様では、治療有効量の化合物Iまたは化合物II、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物は、以下からなる群から選択される1日総量で経口投与される:約0.1 mg~約2.0 mg;約0.1 mg~約1.0 mg;および約0.1 mg~約0.5 mg。
【0020】
もう1つの態様では、開示の上記組成物または方法で治療された被験者は、併発精神障害と診断されている。1つの実施態様では、併発精神障害は、抑うつ関連気分障害である。もう1つの実施態様では、併発精神障害は、大うつ病性障害(MDD)である。
【0021】
もう1つの態様では、開示の上記組成物または方法で治療された被験者は、抑うつ関連気分障害と診断されている。
【0022】
本開示の上記態様のいずれかのいくつかの実施態様では、不安障害は、以下からなる群から選択される:分離不安障害、選択的緘黙、特定恐怖症、社交不安障害(社交恐怖症)、パニック障害、パニック発作特定子(Panic Attack Specifier)、広場恐怖症、社交不安障害(社交恐怖症)、パニック障害、パニック発作特定子(Panic Attack Specifier)、広場恐怖症、全般性不安障害、物質/医薬品誘発不安障害、他の病状に起因する不安障害、その他特定された不安障害、不特定不安障害、強迫性障害(OCD)、身体異型障害、ホーディング障害、抜毛症(毛髪引っ張り障害)、皮膚むしり(皮膚ピッキング)障害、物質/医薬品誘発性強迫性障害および関連障害、他の病状に起因する強迫性障害および関連障害、他の特定された強迫性障害および関連障害、不特定強迫性障害および関連障害、反応性愛着障害、脱抑制型対人交流障害、心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、適応障害、他の特定された心的外傷およびストレス関連障害、不特定心的外傷およびストレス関連障害。1つの実施態様では、被験者は、米国精神医学会により出版された「精神疾患の診断統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」(DSM)に記載の基準に基づいて、これらの不安障害の1つと診断される。1つの実施態様では、DSMは、2000年に出版された第4版(DMS-IV-TR)または2013年に出版された第5版(DSM-5)である。
【0023】
本開示の上記態様のいずれかのいくつかの実施態様では、化合物Iまたは化合物IIは、少なくとも1つの不安症状の頻度および/または重症度を低減させるのに十分な長さの第1の治療期間にわたって、被験者に投与される。1つの実施態様では、第1の治療期間は、少なくとも2週間、少なくとも4週間、または少なくとも6週間である。1つの実施態様では、不安症状は、不安の身体症状、不安の感情的症状、不安の行動的症状または不安の認知的症状である。
【0024】
本開示の上記態様のいずれかのいくつかの実施態様では、被験者が第1の治療期間中に少なくとも1つの不安症状の減少を経験するならば、少なくとも12週間、少なくとも24週間、少なくとも48週間の第2の治療期間、または被験者が不安障害から寛解していると決定されるまで、治療的に有効な用量の化合物IIの投与を継続する。
【0025】
本開示の上記態様のいずれかのいくつかの実施態様では、ヒト被験者は、18歳以上であるが、本開示の上記態様のいずれかの他の実施態様では、ヒト被験者は、18歳未満である。
【0026】
本開示の上記態様のいずれかのいくつかの実施態様では、ヒト被験者は、以前に抗不安薬で治療されていない。本開示の上記態様のいずれかの他の実施態様では、ヒト被験者は、不適切な応答および/または耐え難い副作用を経験したため、抗不安薬による前の治療を中止している。
【0027】
本開示の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0028】
前述の概略および以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読む場合、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】プラセボ(実線)、2.5mgのMIN-117(長い破線)、または0.5mg MIN-117(短い破線)の1日1回の投与で6週間にわたって処置したMDD患者の集団におけるHAM-A合計スコア(y軸)におけるベースラインからの平均変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な記載
以下に示す実施例に記載するように、化合物Iは、不安の治療において臨床活性を有することが示されている。したがって、本明細書に包含されるのは、さまざまな不安障害を治療するための方法および組成物である。
【0031】
米国特許第6,720,320号は、化合物Iおよび化合物IIを含む多数のフェノキシプロピルアミン化合物および誘導体が、5-HT1A受容体に対する選択的親和性および拮抗活性、ならびに5-HT再取り込み阻害活性を有することを開示している。このインビトロ活性に基づいて、米国特許第6,720,320号は、これらの化合物のすべてが、急激発症抗うつ薬として有用であり、不安神経症、OCD、パニック障害、社交不安障害(社交恐怖症)およびPTSDを含む中枢神経系の多数の5-HT媒介疾患の治療に有用であると仮定した。しかしながら、開示された化合物または疾患のいずれかの動物モデルデータは、米国特許第6,720,320号には含まれていない。特に、米国特許第6,720,320号には、経口投与の場合の記載されたフェノキシプロピルアミン化合物の一般的な1日用量は、0.5~10mg/kg、好ましくは1~5mg/kgの重量ベースの用量であると記載されている。
【0032】
公開された特許出願(US2014-0206722)は、うつ病の症状を治療または軽減するための化合物Iの使用を開示し、選択された障害の有効な治療が0.001mg/kgに近い経口投与で起こり得ることを教示する。しかしながら、不安または不安障害を治療するための化合物Iの使用は、US2014-0206722において言及されていない。
【0033】
現在、0.5mgおよび2.5mgの化合物Iの総経口1日量が、HAMA-A尺度で測定されてMDDと診断された患者の1つ以上の不安症状の重症度を低下させることができ、0.5mg用量では、2.5mgの用量よりも総HAMA-Aスコアにおいてより急速な減少が実証されることが予想外に観察されている。参考のために挙げると、70kgの被験者に対する2.5mgの用量は、0.036mg/kgの重量ベースの用量に等しく、これは、米国特許第6,720,320号に記載されている最低の経口1日用量よりも10分の1以上低い。
【0034】
したがって、本開示の目的は、被験者に治療有効量の化合物Iまたは化合物II、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物を含む組成物を投与することを含む、不安障害と診断されたヒトにおける不安障害の少なくとも1つの症状を治療する方法を提供することである。
【0035】
また、本開示の目的は、被験者に治療有効量の化合物Iまたは化合物II、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物を含む組成物を投与することを含む、不安障害と診断されたヒトにおける不安障害の少なくとも1つの症状を治療する方法において使用するための、該組成物を提供することである。
【0036】
本開示のさらなる目的は、不安障害、および抑うつなどの併発精神障害と診断されたヒトにおける不安障害の少なくとも1つの症状を治療するために、本開示の組成物および方法を使用することである。
【0037】
実施態様では、他に特定されない限り、化合物II、またはその薬学的に許容される塩、水和物、またはそれらの溶媒和物は、単離された形態である。
【0038】
本明細書中で使用される場合、用語「単離された」または「単離された形態で」という表現は、天然に存在する場合に見出されうる他の成分から化合物が実質的に分離されることを意味する。化合物は、必ずしも精製することなく単離することができる。1つの実施態様では、本明細書の式(I)または式(II)の単離された化合物(あるいは化合物Iまたは化合物II)は、合成された化合物である。もう1つの実施態様では、化合物IIは、代謝産物であり、天然環境に存在する場合に見出されうる他の成分、たとえば、ヒトまたは適当な非ヒト哺乳動物、たとえば、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヤギ、およびラクダなどの哺乳動物の細胞から単離される。実施態様では、本明細書に開示の該化合物またはその塩、水和物、または溶媒和物は、それぞれ、40%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、92%以上、95%以上、97%、または99%以上の純度を有する。
【0039】
特に記載のない限り、本明細書で使用されるように、「治療する」、「治療すること」、「治療」などの用語は、不安障害と戦うための被験者の管理およびケアを含み、不安障害の1つ以上の症状の発症を予防するか、不安障害の1つ以上の症状の頻度、強度または重症度を低減するか、またはさらなる症状の発症を遅延させるか、または回避するか、またはこれらの治療目的の任意の組み合わせにとって十分な量および治療期間での化合物Iまたは化合物IIの投与を含む。1つの実施態様では、化合物Iまたは化合物IIによる治療の効果は、ベースライン(たとえば、化合物IまたはIIによる治療の前)と、少なくとも1つの治療期間後との被験者の不安の重症度を比較することによって評価される。1つの実施態様では、治療期間は、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも8週間、または少なくとも12週間である。
【0040】
1つの実施態様では、ハミルトン不安尺度(HAM-A)を用いて治療の効果を測定する。HAM-Aは14の項目で構成され、それぞれ下記の第1表に示す一連の症状によって定義される。被験者は、0レベルから4レベルまでの5段階の尺度を使用して各項目の重症度を評価するよう求められる。ここで0は存在せず、であり、4は重症である。次に、結果を照合し、不安の重症度を決定するために集計する:<17のHAM-Aスコアは、軽度の不安症、18-24のHAM-Aスコアは、軽度から中程度の不安症、25-30のHAM-Aスコアは、中程度から重症の不安症である。
【0041】
第1表:ハミルトン不安尺度(HAM-A)
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
総スコア
【0042】
本明細書で使用される、用語「被験者」および「患者」は、互換的に使用されてよく、任意の年齢のヒトを意味する。1つの実施態様では、被験者は、6歳以上の年齢である。いくつかの実施態様では、被験者は、少なくとも18、19、20または21歳の年齢である。被験者は、不安障害と診断される。いくつかの実施態様では、被験者は、別の併発精神障害と診断されない。他の実施態様では、被験者は、別の併発精神障害と診断される。
【0043】
いくつかの実施態様では、本開示の組成物または方法は、抗不安薬に対して治療未経験である不安障害と診断された被験者を治療するために使用される。本明細書で使用される抗不安薬は、化合物Iまたは化合物IIを含まず、不安または不安障害の治療について規制機関によって承認されている任意の薬物である。
【0044】
他の実施態様では、本開示の組成物または方法は、以前に抗不安薬で治療されたが、該薬物が被験者の不安症状を適切にコントロールしていない、および/または被験者が薬物の副作用を許容できなかったなどの理由で、このような治療を中止した不安障害と診断された被験者を治療するために使用される。
【0045】
本明細書に包含される開示の目的のために、用語「不安障害」は、2000年および2013年に出版のそれぞれ第4版(DSM-IV-TR)または第5版(DSM-5)の「精神疾患の診断統計マニュアル」において不安障害として定義される条件を包含するものとして理解されるべきである。
【0046】
1つの実施態様では、本開示の組成物および方法を用いて治療される不安障害の少なくとも1つの症状は、パニック発作、安の身体症状、不安の感情的症状、不安の行動的症状または不安の認知的症状からなる群から選択される。当業者には明らかであるように、これらの不安症状の1つ以上を有する被験者は、症状が、被験者に重大な苦痛を与える、および/または被験者の機能を妨害するように、症状があるレベルの強度、持続時間および頻度に達しない限り、不安障害を有するとは典型的にはみなされないであろう。
【0047】
1つの実施態様では、不安障害症状は、突然で強烈な恐怖感および/または不快感が明瞭な期間持続するパニック発作である。典型的には、被験者が、次の症状のうち少なくとも4つを有する場合、被験者はパニック発作と診断される:
心臓の動悸および/または拍動;発汗;震えまたは動揺;息切れまたは息苦しさの感覚;窒息感;胸痛または不快感、吐き気;めまい、不安定さ、くらくらする感覚、または気絶;ホットフラッシュまたは悪寒;しびれ感またはひりひり感;現実感喪失(非現実感)、離人症(自分から離れた感覚);コントロールを失うことの恐れ;および死の恐怖。いくつかの実施態様では、被験者は、パニック発作を引き起こす特定可能な情報源を持たない、予期しない(偶発的な)パニック発作に苦しんでいる。他の実施態様では、被験者は予期される(手掛かりのある)パニック発作、すなわち明白な手掛かりまたはトリガーを伴う攻撃に苦しんでいる。
【0048】
1つの実施態様では、不安障害症状は、以下からなる群から選択される身体的症状である:不穏感、息切れ、窒息感、汗ばんだ手のひら、どきどきしている心臓、胸の痛みまたは不快感、緊張して落ち着かない、筋肉の緊張、震え、痙攣、吐き気、下痢、めまい、気絶しそうな感覚、ホットフラッシュ、悪寒、しびれ感、ひりひり感、誇張された驚愕反応、頭痛、睡眠障害、および疲労。
【0049】
1つの実施態様では、以下からなる群から選択される感情的症状である:不安感または恐怖感、苦痛、恐怖、緊張感、圧倒される感覚、パニック、不安、心配、恐怖(fear)または恐怖(terror)、びくびくすることまたはとげとげすること、苛立ち、心が空白になったような感覚。
【0050】
1つの実施態様では、不安障害症状は、以下からなる群から選択される不安症の行動的症状である:不安を生じさせる状況(たとえば、親睦会)または場所(たとえば、エレベータの代わりに階段を使用する)を回避することを意味する、不安回避;不安を生じさせる状況または場所から脱出すること;被験者が恐ろしい出来事について学び、予行予習し、および/または予期しようとする対処戦略である鋭敏化;被験者が安全な対象物または人に過度に懐く、安全行動(たとえば、離別を避けるために、出かけること、家から離れること、学校に通うこと、仕事をすることを拒否する);不健全な、危険な、または自己破壊的行動に従事すること(たとえば、不安を処理するための過度の飲酒または薬物使用);感情は、不安の全体的なレベルを減らすために、自分の日常活動の量と範囲を制限せざるを得ないという感覚(たとえば、被験者の家にとどまるなど)。
【0051】
1つの実施態様では、不安障害症状は、以下からなる群から選択される不安症の認知的症状である:集中問題(すなわち、仕事に従事し続けることにおける困難);記憶困難;および抑うつ症状(たとえば、絶望、無気力、食欲不振)。
【0052】
1つの実施態様では、本開示の組成物または方法は、全般性不安障害(GAD)と診断されたヒト患者を治療するために用いられる。1つの実施態様では、治療されたGADの症状は、慢性的な心配、一般的な恐怖や不安感、不安が制御不能であるという感覚、不確実性に耐えられない、神経質、緊張、不眠、吐き気、下痢、不穏および疲労からなる群から選択される。
【0053】
1つの実施態様では、本開示の組成物または方法は、より多くの発作を起こすこと、および発作の結果を心配することについての絶え間ない懸念によって少なくとも1ヶ月間続く、繰り返される予期せぬパニック発作を特徴とする、パニック障害と診断されたヒト患者を治療するために用いられる。
【0054】
1つの実施態様では、本開示の組成物または方法は、恐怖症と診断されたヒト患者を治療するために用いられる。1つの実施態様では、恐怖症は、広場恐怖症、特定の恐怖症または対人恐怖症(社交不安障害)である。典型的には、被験者は、恐怖症を抱えると診断されるためには、少なくとも6ヶ月間持続する症状を有さなければならない。
【0055】
広場恐怖症の典型的症状として、激しい恐怖、不安およびパニック発作が起こった場合に困難回避または援助が得られない非特異的状況の回避が挙げられる。典型的には、被験者は、以下の状況のうち少なくとも2つにおいてこれらの症状が現れる場合、広場恐怖症と診断される:公共交通機関を利用している、広い空間にいる、閉鎖された空間にいる、列に並んでいる、群衆の中にいる、単独で自宅の外にいる。
【0056】
特定の恐怖症の典型的な症状として、飛行、高さ、注射、動物などの対象または状況によって提起される実際の危険に比例しない、激しい恐怖、不安および特定の対象または状況の回避が挙げられる。
【0057】
対人恐怖症の典型的な症状として、激しい恐怖、不安および他者がせんさくするか、または否定的に判断する可能性のある社会的状況の回避が挙げられる。
【0058】
1つの実施態様では、本開示の組成物または方法は、発言が期待される特定の状況で発言ことに対する、典型的には少なくとも1ヶ月間の永続的な拒否を特徴とする、選択的緘黙と診断されたヒト患者を治療するために用いられる。
【0059】
本開示の組成物および方法はまた、不安障害および抑うつ関連気分障害の両方を有すると診断された患者における、不安の1つ以上の症状を治療するためにも使用されうる。1つの実施態様では、抑うつ関連気分障害は、大うつ病性障害、持続性抑うつ障害、双極性障害に関連する抑うつ、気分変調性障害、気分循環性障害、および物質誘発性気分障害からなる群から選択される。
【0060】
本開示の方法は、被験者に治療有効量の化合物Iまたは化合物II、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物を投与することを採用する。本明細書で使用される場合、用語「治療有効量」は、少なくとも1つの不安症状の存在および/または重症度を、ベースラインと比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも40%、または少なくとも80%低下させるのに有効な量を意味する。被験者における不安症状は、限定的ではないが、HAM-A尺度、状態-特性不安尺度(STAI、Mind Garden、855 Oak Grove Avenue、Suite 215、Menlo Park、CA 94025から入手可能、http://www.mindgarden.com/index.htm)、ベックうつ病調査票(BAI、www.pearsonassessments.comにて入手可能)、病院不安およびうつ尺度-不安(HADS-A、Nfer Nelson、The Chiswick Centre、414 Chiswick High Road、London W4 5TF United Kingdom、www.nfer-nelson.co.ukから入手可能)などの当技術分野で一般に受け入れられている任意の測定ツールを用いて測定することができる。
【0061】
本開示の組成物および方法のいくつかの実施態様では、不安障害と診断された被験者に投与される化合物Iまたは化合物IIの用量は、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間または少なくとも6週間の治療後に、少なくとも25%、少なくとも50%、または少なくとも75%までベースラインから総スコアを減少させるのに有効である。
【0062】
本開示のさらにもう1つの態様では、本開示の組成物は、本明細書に具体的に記載されている1日総量のいずれかの経口投与と実質的に等価である化合物Iまたは化合物IIの用量を提供する様式で製剤され、被験者に投与される。当業者は、このような機能的等価性を提供する製剤および投与経路を容易に選択することができる。
【0063】
本開示はまた、不安障害と診断されたヒト患者における不安障害の症状の少なくとも1つを治療するための医薬の製造における、化合物Iまたは化合物IIまたはその薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物または多形体の使用を提供する。たとえば、医薬は、経口投与に適する。たとえば、該医薬は、約0.5mg~約2.5mgである化合物Iの1日総量に対応する治療有効量の化合物Iを含む。
【0064】
当業者であれば、治療医は、治療される被験者の健康状態および疾患、ならびに治療の望ましい転帰に基づいて、適切であると考えられる上記のガイドライン内の用量および投薬計画を選択することができることを理解するであろう。たとえば、治療医は、治療有効用量より低い用量の化合物Iまたは化合物IIを用いて治療を開始することを選択し、標的治療有効用量まで漸増することができる。たとえば、化合物Iまたは化合物IIの1日総量を、単回投与または複数回投与で投与することができる。
【0065】
本明細書で使用されるように、約数値X~約数値Yの範囲として列挙された量的表現は、XおよびYのそれぞれより10%高いか、または低い任意の値を包含し、XとYとの間に入る任意の数値も包含する。したがって、たとえば、約0.5mgの用量には、0.45~0.55mgの用量が包含される。
【0066】
本明細書中の化合物Iおよび化合物IIに対する全ての言及は、特に断りがない限り、すべての薬学的に許容される塩およびすべての溶媒和物ならびにそれらの代替の物理的形態を含む。化合物Iについての本明細書に列挙される全ての用量は、特に断りがない限り、組成物中のその薬学的に許容される塩、水和物または溶媒和物あるいは任意の賦形剤よりもむしろ、化合物Iの遊離塩基の重量に基づく。同様に、化合物IIについての本明細書に列挙される全ての用量は、特に断りがない限り、組成物中のその薬学的に許容される塩、水和物または溶媒和物あるいは任意の賦形剤よりもむしろ、化合物IIの遊離塩基の重量に基づく。さらに、本明細書に列挙された、化合物IまたはIIのすべての用量は、特に断りがない限り、フラット用量(たとえば、患者の体重に依存しない)である。
【0067】
本開示による治療投与のために、化合物Iは、その遊離塩基の形態で使用することができるが、好ましくは薬学的に許容される塩の形態で使用される。1つの実施態様では、本開示の組成物および方法で用いられる化合物Iの形態は、(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-メチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オール・一塩酸塩である。1つの実施態様では、本開示の組成物および方法で用いられる化合物IIの形態は、(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-ヒドロキシメチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オール・一塩酸塩である。
【0068】
関連する科学文献または現場の標準的な参考教科書から得ることができるような保護基の使用などの、有機分子の製造および官能基の変換および操作のための標準的な合成方法および手順を用いて、化合物(I)および化合物(II)を合成することができる。いずれか1つまたは複数の源に限定されるものではないが、認識された有機合成の参考書として、以下のものが挙げられる:Smith、M. B.;March、J. March’s Advanced Organic Chemistry:Reactions、Mechanisms、and Structure、5th ed.;John Wiley & Sons:New York、2001;およびGreene、T.W.;Wuts、P.G. M. Protective Groups in Organic Synthesis、3rd;John Wiley & Sons:New York、1999。化合物(I)を製造するための方法は、米国特許第6,720,320号に記載されている。
【0069】
1つの実施態様では、たとえば、官能的遊離塩基と、限定的ではないが、パルミチン酸、臭化水素酸、リン酸、酢酸、フマル酸、マレイン酸、サリチル酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸およびp-トルエンスルホン酸などの酸から誘導される塩などの、化合物Iまたは化合物IIと薬学的に許容される酸との別の塩は、治療投与においても利用されうる。
【0070】
限定されるものではないが、本明細書に記載の化合物I、化合物IIまたはそれらの製薬上許容される誘導体のすべての溶媒和物および別の結晶形体、非晶形体および多形体などのすべての代替の物理的形態もまた、本開示の範囲内であり、本明細書に記載の式IまたはIIの化合物に対するすべての参照は、そのすべての薬学的に許容される塩およびすべての溶媒和物および代替の物理的形態を包含する。
【0071】
治療的投与のために、化合物Iまたは化合物II、またはその薬学的に許容される塩、たとえば、HCl塩を純粋な形態で投与することができるが、身体に活性成分の有効レベルを提供する任意の適当な薬学的に許容され、有効である組成物に製剤されるのが好ましい。
【0072】
化合物または組成物に関して本明細書で使用される「薬学的に許容される」という用語は、化合物または組成物のバイオアベイラビリティを促進または増強させるために、被験者における化合物の溶解度または利用可能性を増加または増強しうる化合物または組成物の形態を意味する。1つの実施態様では、本明細書中の開示はまた、本明細書において具体化される化合物および組成物の薬学的に許容される、水和物、溶媒和物、立体異性体、または非晶質固体を包含する。たとえば、「薬学的に許容される塩」という用語は、化合物および/または組成物の溶解およびバイオアベイラビリティを促進するために、たとえば、患者の胃腸管の胃液中における化合物の溶解度を高めるために提示される本明細書の組成物の1つ以上の塩形態をいう。1つの実施態様では、薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される無機または有機の塩基および酸から誘導される塩を含む。適切な塩として、カリウムおよびナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属から誘導された塩およびアンモニウム塩、および製薬業界で周知の他の多くの酸から誘導された塩が挙げられる。ナトリウムおよびカリウム塩が、本開示に包含されるカルボン酸および遊離酸ホスフェート含有組成物の中和塩として特に好ましい。用語「塩」は、本開示に包含される化合物の使用にふさわしい任意の塩を意味するものとする。化合物がうつ病の治療を含む医薬適応症に使用される場合、用語「塩」は、薬剤としての化合物の使用にふさわしい、薬学的に許容される塩を意味するものとする。
【0073】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される誘導体」または「誘導体」は、患者への投与の際に、本発明の化合物または本発明の化合物の活性代謝産物を直接的または間接的に提供する薬学的に許容される任意のプロドラッグ形態(エステルまたはエーテルまたは他のプロドラッグ群など)をいう。
【0074】
上述のように、組成物は、組成物中の化合物の薬学的に許容される塩を含む。他の実施態様では、前記化合物の薬学的に許容される酸付加塩を調製するために使用される酸は、とりわけ、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、重酒石酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、糖酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩およびパモ酸塩[すなわち、1,1'-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエート)]塩などの非毒性酸付加塩、すなわち薬理学的に許容されるアニオンを含む塩を形成するものである。
【0075】
1つの実施態様では、組成物は、本発明化合物の塩基付加塩を含む。本質的に酸性である本化合物の薬学的に許容される塩基性塩を製造するための試薬として使用されうる化学塩基は、そのような化合物と無毒性の塩基塩を形成するものである。そのような非毒性塩基塩として、とりわけ、アルカリ金属カチオン(たとえば、カリウムおよびナトリウム)およびアルカリ土類金属カチオン(たとえば、カルシウムおよびマグネシウム)、アンモニウムまたはN-メチルグルカミン(メグルミン)などの水溶性アミン付加塩、および低級アルカノールアンモニウムおよび薬学的に許容される有機アミンのその他の塩基塩などのこのような薬学的に許容されるカチオンから誘導されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
本明細書中で使用される場合、薬学的に許容される塩または錯体という用語は、親化合物の所望の生物活性を保持し、もしあれば、望ましくない毒性学的影響を最小限に抑える塩または錯体(たとえば、溶媒和物、多形体)を示す。このような塩の非限定的例は、(a)無機酸(たとえば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸など)との酸付加塩;および酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パモ酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、およびポリガラクツロン酸などの有機酸との塩;(b)亜鉛、カルシウム、ビスマス、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、銅、コバルト、ニッケル、カドミウム、ナトリウム、カリウムなどの多価金属カチオン、またはN,N-ジベンジルエチレンジアミン、アンモニウムまたはエチレンジアミンから形成される有機カチオンと形成される塩基付加塩;または(c)たとえば、タンニン酸亜鉛塩などの(a)と(b)の組み合わせ;である。
【0077】
化合物の修飾は、活性種の溶解度、バイオアベイラビリティおよび代謝速度に影響を及ぼし、したがって活性種の送達を制御することができる。さらに、修飾は、化合物の不安緩解活性に影響を及ぼし、場合によっては、親化合物の活性も増加させることができる。このことは、誘導体を製造し、本明細書に包含される方法または当業者に公知の他の方法に従ってその活性を試験することによって容易に評価することができる。
【0078】
1つの実施態様では、組成物を、1つ以上の薬学的に許容される担体を用いて従来の方法で製剤化することができ、制御放出製剤で投与することもできる。これらの医薬組成物に用いることができる薬学的に許容される担体として、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムなどの緩衝物質、飽和植物性脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、硫酸プロラミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩などの塩または電解質、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
本明細書に包含される組成物は、経口投与されてもよい。他の実施態様では、組成物は、非経口的に、吸入スプレーによって、局所的に、直腸的に、経鼻的に、口腔的に、経膣的にまたはインプラントされたリザーバーを介して投与されてもよい。本明細書で使用される用語「非経口」は、皮下、経皮、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、くも膜下腔内、肝内、病巣内および頭蓋内注射または注入技術を含む。当業者に理解されるように、本明細書に包含される実施態様を考慮して、有効成分(1種または複数)(たとえば、式Iの化合物)の用量は、選択された投与経路に基づいて上方または下方に調節されうる。さらに、任意の選択された投与剤形のための活性成分の用量を最適化することが望ましく、それは、不安緩解化合物の有効性を評価するために本明細書に記載の方法または当該分野で公知の方法を用いることによって達成できることが理解される。
【0080】
本明細書に具体化される医薬組成物は、限定的ではないが、カプセル剤、錠剤、水性懸濁液剤または液剤などの任意の経口的に許容される投与剤形で経口投与されてもよい。経口使用のための錠剤の場合、一般的に使用される担体として、ラクトースおよびコーンスターチが挙げられる。1つの実施態様では、滑沢剤、たとえばステアリン酸マグネシウムも加えられる。カプセル形態の経口投与のために、有用な希釈剤として、2つの非限定的な例として、ラクトースおよび/または乾燥コーンスターチが挙げられる。水性懸濁液が経口使用のために必要とされる場合、活性成分は乳化剤および懸濁化剤と組み合わされる。必要に応じて、特定の甘味剤、香味剤または着色剤を添加してもよい。
【0081】
本開示に包含される医薬組成物はまた、鼻エアロゾルまたは吸入によって投与されうる。このような組成物は、医薬製剤分野で周知の技術に従って製造され、ベンジルアルコールまたは他の適切な防腐剤、バイオアベイラビリティを高めるための吸収促進剤、フルオロカーボンおよび/またはその他の従来の可溶化剤または分散剤を用いて、生理食塩水中の溶液として製造されてもよい。
【0082】
1つの実施態様では、治療有効量の化合物Iは、精神障害の治療のために指示される他の任意の薬物とは独立して投与される。
【0083】
もう1つの実施態様では、治療有効量の化合物Iは、不安障害を治療するため、または抑うつ関連気分障害などの併発疾患を治療するために、1つ以上の他の薬剤と併せて投与される。このような他の薬剤は、当該分野で公知の形態および用量で、または上記で化合物Iの投与について記載したような代替的形態で、投与または共投与されうる。他の薬物は、所望の治療期間中に、化合物Iの前、後または化合物Iと同時に投与されうる。
【0084】
1つの実施態様では、治療有効量の化合物Iは、抑うつ関連気分障害と診断された患者に投与されてもよく、すでに抗うつ薬で治療を受けている患者に投与されてもよい。
【0085】
1つの実施態様では、治療有効量の化合物IIは、精神障害の治療のために指示される他の任意の薬物とは独立して投与される。
【0086】
もう1つの実施態様では、治療有効量の化合物IIは、不安障害を治療するため、または抑うつ関連気分障害などの併発疾患を治療するために、1つ以上の他の薬剤と併せて投与される。このような他の薬剤は、当該分野で公知の形態および用量で、または上記で化合物IIの投与について記載したような代替的形態で、投与または共投与されうる。他の薬物は、所望の治療期間中に、化合物Iの前、後または化合物Iと同時に投与されうる。
【0087】
1つの実施態様では、治療有効量の化合物IIは、抑うつ関連気分障害と診断された患者に投与されてもよく、すでに抗うつ薬で治療を受けている患者に投与されてもよい。
【0088】
1つの実施態様では、本明細書に記載の化合物は、1つ以上の非定型抗精神病薬と同時投与されうる。非定型抗精神病薬の例として、フルフェナジン、リスペリドン、オランザピン、クロザピン、クエチアピン、ジプラシドン、アリピプラゾール、セルチンドール、ゾテピンおよびペルピロンが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に包含される併用療法に有用な抗うつ薬の例として、フルオキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、ベンラファキシン、デュロキセチンおよびブプロピオンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
例示的実施態様
本開示は、これらに限定されるものではないが、以下の実施態様を包含する。
【0090】
実施態様1:
不安障害と診断されるヒト患者における不安障害の少なくとも1つの症状を治療するための方法で使用するための、式(I):
【化3】
(I)
の化合物(化合物I)または式(II):
【化4】
(II)
の化合物(化合物II)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物を含む組成物であって、
該方法が、被験者に治療有効量の組成物を経口投与することを含み、該治療有効量が、
(i)約0.1 mg~3.0 mg未満;
(ii)約0.2 mg~約2.9 mg;
(iii)約0.3 mg~約2.8 mg;
(iv)約0.4 mg~約2.7 mg;
(v)約0.5 mg~約2.6 mg;
(vi)約0.6 mg~約2.5 mg;
(vii)約0.4 mg~約0.6 mg;および
(viii)約0.5 mg;
からなる群から選択される化合物Iまたは化合物IIの1日総量である、組成物。
【0091】
実施態様2:
治療有効量が、
(i)約0.25 mg~約2.5 mg;
(ii)約0.25 mg~約1.5 mg;
(iii)約0.25~約1.0 mg;
(iv)約0.25 mg~約0.75 mg;
(v)約0.1 mg~約2.0 mg;
(vi)約0.1 mg~約1.0 mg;および
(vii)約0.1 mg~約0.5 mg;
からなる群から選択される化合物Iまたは化合物IIの1日総量である、実施態様1に記載の組成物。
【0092】
実施態様3:
約0.5 mgの化合物Iまたは化合物IIを含む、実施態様1または2に記載の組成物。
【0093】
実施態様4:
組成物が、(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-メチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オール・一塩酸塩または(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-ヒドロキシメチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オール・一塩酸塩を含む、実施態様1~3のいずれか1つに記載の組成物。
【0094】
実施態様5:
組成物が、(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-メチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オール・一塩酸塩を含む、実施態様1~4のいずれか1つに記載の組成物。
【0095】
実施態様6:
不安障害と診断されるヒト患者における不安障害の少なくとも1つの症状を治療する方法であって、
該方法が、治療有効量の式(I):
【化5】
(I)
の化合物(化合物I)または式(II):
【化6】
(II)
の化合物(化合物II)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物を被験者に経口投与することを含み、該治療有効量が、
(i)約0.1 mg~3.0 mg未満;
(ii)約0.2 mg~約2.9 mg;
(iii)約0.3 mg~約2.8 mg;
(iv)約0.4 mg~約2.7 mg;
(v)約0.5 mg~約2.6 mg;
(vi)約0.6 mg~約2.5 mg;
(vii)約0.4 mg~約0.6 mg;および
(viii)約0.5 mg;
からなる群から選択される化合物Iまたは化合物IIの1日総量である、方法。
【0096】
実施態様7:
治療有効量が、
(i)約0.25 mg~約2.5 mg;
(ii)約0.25 mg~約1.5 mg;
(iii)約0.25~約1.0 mg;
(iv)約0.25 mg~約0.75 mg;
(v)約0.1 mg~約1.0 mg;
(vi)約0.1 mg~約0.75 mg;および
(vii)約0.1 mg~約0.5 mg;
からなる群から選択される化合物Iまたは化合物IIの1日総量である、実施態様6に記載の方法。
【0097】
実施態様8:
治療有効量が、約0.5 mgである、実施態様6または7に記載の方法。
【0098】
実施態様9:
投与される化合物1の形態が、(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-メチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オール・一塩酸塩である、実施態様6~8のいずれか1つに記載の方法。
【0099】
実施態様10:
不安障害と診断されるヒト患者における不安障害の少なくとも1つの症状を治療する方法のための医薬の製造における、式(I):
【化7】
(I)
の化合物(化合物I)または式(II):
【化8】
(II)
の化合物(化合物II)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、または溶媒和物の使用であって、
該方法が、被験者に治療有効量の組成物を経口投与することを含み、該治療有効量が、
(i)約0.1 mg~3.0 mg未満;
(ii)約0.2 mg~約2.9 mg;
(iii)約0.3 mg~約2.8 mg;
(iv)約0.4 mg~約2.7 mg;
(v)約0.5 mg~約2.6 mg;
(vi)約0.6 mg~約2.5 mg;
(vii)約0.4 mg~約0.6 mg;および
(viii)約0.5 mg;
からなる群から選択される化合物Iまたは化合物IIの1日総量である、使用。
【0100】
実施態様11:
治療有効量が、
(i)約0.25 mg~約2.5 mg;
(ii)約0.25 mg~約1.5 mg;
(iii)約0.25~約1.0 mg;
(iv)約0.25 mg~約0.75 mg;
(v)約0.1 mg~約2.0 mg;
(vi)約0.1 mg~約1.0 mg;および
(vii)約0.1 mg~約0.5 mg;
からなる群から選択される化合物Iまたは化合物IIの1日総量である、実施態様10に記載の使用。
【0101】
実施態様12:
約0.5 mgの化合物Iまたは化合物IIを含む、実施態様10または11に記載の使用。
【0102】
実施態様13:
組成物が、(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-メチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オール・一塩酸塩または(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-ヒドロキシメチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オール・一塩酸塩を含む、実施態様10~12のいずれか1つに記載の使用。
【0103】
実施態様14:
組成物が、(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-メチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オール・一塩酸塩を含む、実施態様10~13のいずれか1つに記載の使用。
【0104】
実施態様15:
被験者が、併発精神障害と診断されている、実施態様1~14のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0105】
実施態様16:
併発精神障害が、抑うつ関連気分障害である、実施態様1~15のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0106】
実施態様17:
併発精神障害が、大うつ病性障害である、実施態様16に記載の組成物、方法または使用。
【0107】
実施態様18:
被験者が、併発精神障害と診断されていない、実施態様1~14のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0108】
実施態様19:
不安障害が、分離不安障害、選択的緘黙、特定恐怖症、社交不安障害(社交恐怖症)、パニック障害、パニック発作特定子(Panic Attack Specifier)、広場恐怖症、全般性不安障害、物質/医薬品誘発不安障害、他の病状に起因する不安障害、その他特定された不安障害、不特定不安障害、強迫性障害、身体異型障害、ホーディング障害、抜毛症(毛髪引っ張り障害)、皮膚むしり(皮膚ピッキング)障害、物質/医薬品誘発性強迫性障害および関連障害、他の病状に起因する強迫性障害および関連障害、他の特定された強迫性障害および関連障害、不特定強迫性障害および関連障害、反応性愛着障害、脱抑制型対人交流障害、心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、適応障害、他の特定された心的外傷およびストレス関連障害、不特定心的外傷およびストレス関連障害からなる群から選択される、実施態様1~18のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0109】
実施態様20:
不安障害診断が、米国精神医学会により出版された「精神疾患の診断統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」(DSM)
に記載されている基準に基づく、実施態様1~19のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0110】
実施態様21:
少なくとも1つの不安症状が、不安の身体症状、不安の感情的症状、不安の行動的症状または不安の認知的症状である、実施態様1~20のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0111】
実施態様22:
治療が、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間および少なくとも6週間からなる群から選択される第1の治療期間の間、行われる、実施態様1~21のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0112】
実施態様23:
第1の治療期間が、被験者において少なくとも1つの不安症状の減少をもたらす場合、少なくとも12週間、少なくとも24週間、および少なくとも48週間からなる群から選択される第2の治療期間の間、治療が継続される、実施態様22に記載の組成物、方法または使用。
【0113】
実施態様24:
ヒト被験者が、以前に抗不安薬で治療されていない、実施態様1~23のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0114】
実施態様25:
ヒト被験者が、不適切な応答および/または耐え難い副作用を経験したため、抗不安薬による前の治療を中止している、実施態様1~23のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0115】
実施態様26:
ヒト被験者が、MDDと診断され、(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-メチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オール・一塩酸塩が、化合物Iまたは化合物IIを含まない抗うつ剤と共投与される、実施態様1~25のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0116】
実施態様27:
(2S)-1-[4-(3,4-ジクロロフェニル)ピペリジン-1-イル]-3-[2-(5-メチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ベンゾ[b]フラン-4-イルオキシ]プロパン-2-オール・一塩酸塩が、1つ以上の非定型抗精神病薬と同時投与される、実施態様1~25のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0117】
実施態様28:
化合物Iの1日総量が、単回投与で投与される、実施態様1~27のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0118】
実施態様29:
化合物Iの1日総量が、複数回投与、たとえば、1日2回または3回または4回で投与される、実施態様1~27のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0119】
実施態様30:
化合物IIの1日総量が、単回投与で投与される、実施態様1~27のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0120】
実施態様31:
化合物IIの1日総量が、複数回投与、たとえば、1日2回または3回または4回で投与される、実施態様1~27のいずれか1つに記載の組成物、方法または使用。
【0121】
以下、本明細書に包含される実施態様を、以下の実施例を参照して説明する。これらの実施例は説明のためだけに提供されており、本明細書に包含される開示は、決してこれらの実施例に限定されるものと解釈されるべきではなく、本明細書に提供される教示の結果として明らかになる任意およびすべての変形を包含すると解釈されるべきである。
【実施例1】
【0122】
MIN-117は、MDDと診断された患者の不安症状を軽減する。
MDD患者成人におけるMIN-117の有効性と安全性を検討するために、フェーズ2a、多施設、多国籍、無作為化、二重盲検、プラセボ対照および能動対照パラレルグループ試験を実施した。この研究の探索的目的の1つは、6週間の治療期間にわたって、ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)のベースラインからの変化により測定した不安におけるプラセボと比較したMIN-117の効果を評価することであった。
【0123】
この試験は、患者において抗うつ薬である薬剤または他の向精神薬を休薬する4週間の前処置段階と、それに続く6週間の治療段階と、次の、治療段階の終了から約2週間後の研究終了(EOS)フォローアップ来院からなった。この研究では、0.5mgおよび2.5mgの強度のMIN-117カプセルを使用した。カプセルは、薬物物質、ラクトース、コーンスターチ、低置換ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースおよび精製水を含有する白色硬質ゼラチンからなるサイズ4であった。
【0124】
84人の適格な患者(精神病性の特徴のない中等度~重度のMDDのDSM-5診断基準を満たした)は、1:1:1:1の比率で無作為化され、6週間にわたり、プラセボ、0.5mgのMIN-117、2.5mgのMIN-117、または活性比較対照として20mgのパロキセチンの1日1回の経口投与を受けた。パロキセチンは、SSRIクラスの抗うつ薬であり、MDD、OCD、PTSD、社交不安障害、パニック障害、GAD、月経前不快気分障害および閉経後ホットフラッシュの治療に使用されている。HAM-A尺度を用いて、スクリーニング、ベースライン、および1、2、4、6週間(または早期離脱)およびEOSにおける各被験者の不安の重症度を測定した。
【0125】
この研究の包含および除外基準を以下に示す。
【0126】
包含基準
被験者は、この研究への参加資格を得るために以下の包含基準をすべて満たさなければならなかった:
1.被験者は、同意書を読み、理解し、研究に関連する手続きを完了し、研究スタッフと連絡をとることができなければならない。
2.被験者は、研究に参加するための同意書を提出し、いつでも研究から離脱することができることを理解しなければならなかった。
3.男性または女性の被験者は、スクリーニング(来院1)で18歳~65歳の年齢でなければならない。
4.被験者は、スクリーニング(来院1)において、体重指数(BMI)が18~35kg/m2[BMI=体重(kg)/身長(m2)]である。
5.被験者は、臨床評価およびMINI、v7.0に基づいたスクリーニングにおいて、精神病性の特徴のない中等度~重度のうつ病の診断のための「精神疾患の診断統計マニュアル第5版(DSM-5)」の基準(ICD-9コード296.32および296.33; ICD-10コードF33.1およびF33.2)を満たさなければならない。
6.被験者は、現在のエピソードより前に、少なくとも1回のうつ病のエピソードを有する。
7.少なくとも8週間の現在の大うつ病エピソードが持続中である。
8.被験者は、スクリーニング(来院1)およびベースライン(来院2a)時に、研究責任医師評価MADRSで30以上のスコアを有さなければならない。
9.被験者は、スクリーニング(来院1)およびベースライン(来院2a)時に、研究責任医師評価CGI-Sで4以上のスコアを有さなければならない。
10.被験者は、試験に参加する前に、研究責任医師によって評価され、かつ病歴、身体診察、血液化学、血液学、尿検査、および心電図(ECG)によって決定されるような臨床関連の異常がない、良好な一般的な健康状態でなければならない。
11.女性被験者は、閉経後でなければならないか、または子宮摘出術または卵管結紮を受けていなければならないか、そうでなければ妊娠不能でなければならず、試験期間中および試験治療の最後の投与の90日後まで、2つの承認された避妊方法(経口または非経口ホルモン避妊薬または子宮内装置または障壁+殺精子薬)の一貫した使用に同意しなければならない。
12.研究の期間中および試験の最後の投与後90日までコンドームを使用する予定である男性被験者は、たとえ精管切除術を受けていても、研究薬を服用していることをパートナーに知らせなければならない。精管切除を受けていない被験者の女性パートナーもまた、試験治療の最後の投与の90日後まで承認された避妊方法を使用することに同意しなければならない。
【0127】
除外基準
以下の基準のいずれかに合致した被験者は、この研究に参加することから除外された:
1.現在の(進行中の)強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、神経性食欲不振、または神経性過食症のDSM-5診断。
2.研究評価を妨げる可能性のある過去のまたは現在の神経学的または神経外科的障害(限定的ではないが、脳卒中、中枢神経系[CNS]関連腫瘍、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、現在の抗痙攣薬を必要とする発作障害、脳損傷または外傷の病歴、または神経梅毒など)
3.統合失調症または任意の精神病性障害、双極性障害、精神遅滞、またはクラスターB人格障害、産後発症気分障害、身体表現性障害、慢性疲労症候群または線維筋痛の病歴または現在の診断。
4.スクリーニング来院前の12ヶ月以内の薬物乱用(アルコールまたは薬物)、またはスクリーニング来院前の6ヶ月以内の薬物依存(ニコチンおよびカフェインを除く)、または乱用薬物についての陽性試験のDSM-5基準を満たす。
5.自殺企図の履歴によって評価された暴力行為や自殺の中程度または高リスク、またはMADRS項目10における4を超えるスコア。
6.適切な期間、認可された用量で治療された場合の改善の失敗によって定義される、認可された抗うつ薬(パロキセチンを含む)を2回以上投与した場合の治療応答の不適切な履歴。
7.スクリーニング来院の6ヶ月以内における、光療法などの、電気痙攣療法(ECT)、経頭蓋磁気刺激(TMS)、迷走神経刺激(VNS)または任意の関連神経調節療法による治療歴。
8.研究責任医師の意見において、禁じられた併用薬を中止すべきではないか、または休薬に参加すべきではない被験者。
9.少なくとも3ヶ月間一定のままではないか、またはこの研究中に変化する可能性がある、ベースライン来院(無作為化)の前の1週間以内に心理教育以外の心理学的治療(たとえば、認知行動療法、対人心理療法、または精神力学的心理療法)を受けている。
10.有意な過去または現在の代謝、肝臓(スクリーニングおよびベースライン時の肝機能検査における正常[ULN]の3倍を超える上限を含む)、腎臓、血液学的、肺、心血管、代謝、胃腸または泌尿器疾患。
11.薬物または他の重大なアレルギーのいずれかの病歴または研究薬物のいずれかに対する既知の過敏症。
12.軽度の表在性皮膚疾患(すなわち、基底細胞がんおよび扁平上皮がん)を除いて、過去5年以内の悪性疾患の病歴。
13.研究薬の経口経腸吸収(たとえば、胃切除術)、代謝(たとえば、肝不全)、または排泄(たとえば、腎不全)を変えることができる可能性がある任意の病状。
14.スクリーニング前に少なくとも3ヶ月間適切な投薬によって安定化しない限り、甲状腺機能低下症または甲状腺機能亢進症(スクリーニング時には正常な甲状腺刺激ホルモン(TSH)が必要である)。
15.妊娠中または授乳中の女性。
16.計画された治療開始(第1日)の前6ヶ月以内における実験薬物の使用または実験的医療機器の使用。
17.スクリーニング時における陽性B型肝炎表面抗原(HBsAg)、またはC型肝炎抗体、またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)1および2抗体。
18.Friedericiaの公式(QTcF)を使用した心拍数について補正されたQT間隔値が>430msecである男性および>450msecである女性などの研究において安全性の問題となる可能性がある、スクリーニングまたはベースライン来院時において臨床的に有意な心電図(ECG)異常を有する被験者。
19.研究責任医師または研究センターの指導の下、従業員が提案された研究または他の研究に直接関与している場合の研究責任医師または研究センターの従業員;また、従業員または研究責任医師の家族。
20.法的能力が無いか、または法的能力が限られているか、インフォームドコンセントを得ることができない。
21.被験者が研究で協力しそうにない、および/または研究責任医師が予期していない低コンプライアンス。
【0128】
研究の各群(arm)に割り当てられた患者の人口統計学的特徴の概要を以下の第2表に示す。
第2表:人口統計学
【表15】
【0129】
プラセボまたは研究薬による治療の第1、2、4および6週におけるベースラインからのHAM-Aスコアの変化を
図1に示す。
図1に示すように、各研究薬は、この研究の過程でHAM-A尺度によって測定された治療の意図(ITT)集団において、プラセボと比較して不安症状の重症度の低下を示し、0.5mgの用量のMIN-117で処置された患者が、この有益な効果の最速開始を示した(4つの群のすべてについて第1週と第2週を比較して)。第6週までに、MIN-117の両方の用量は、症状の重症度を低下させる能力に関して同等となるようにみえた。両方の用量でのMIN-117による治療は十分に許容された。
【0130】
この研究は統計的有意性を達成するために行われたものではなかったが、これらの結果は、MIN-117が0.5mgまたは2.5mgの1日総量で1つ以上の不安症状の重症度を低下させることができることを示し、0.5用量が、治療を開始してから早ければ2週間でプラセボより有益な結果を達成する。
【0131】
均等物および参照による組み込み
本発明は、特定の好ましい実施態様を参照することにより本明細書に記載されている。しかしながら、本明細書に記載された開示に基づいて、当業者にはその特定の変形が明らかになるであろうから、本発明はそれに限定されると見なされるべきではない。
【0132】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。明細書および特許請求の範囲において、単数形には、文脈上他に明確に指示されない限り、複数形も含まれる。
【0133】
理解を容易にするために、当業者には正しく認識されるであろうが、本発明の一部を構成することもできる他の要素を排除しながら、本発明の明確な理解に関連する要素に焦点を当てるために、本発明の説明のうちの少なくともいくつかが簡略化されていることが理解されるべきである。しかしながら、そのような要素は当該技術分野において周知であり、必ずしも本発明のより良い理解を容易にするものではないので、そのような要素の説明は本明細書では提供されない。
【0134】
さらに、本方法が本明細書に記載された特定のステップの順序に依存しない限り、ステップの特定の順序は、特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本開示の方法に関する特許請求の範囲は、記載された順序でのそれらのステップの実行に限定されるべきではなく、当業者は、該ステップが、変更されてもよく、かつ本明細書の開示の真の趣旨および範囲内でありうることを容易に理解することができる。
【0135】
本明細書で引用したすべての特許、特許出願、参考文献および刊行物は、その全体が記載されているかのように、参照により十分かつ完全に組み込まれる。