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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】防汚保護のための組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/42 20060101AFI20230710BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20230710BHJP
   A01N 37/44 20060101ALI20230710BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20230710BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20230710BHJP
   A01P 15/00 20060101ALI20230710BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20230710BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20230710BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230710BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A01N37/42
A01N25/10
A01N37/44
A01N59/16 Z
A01N59/20 Z
A01P15/00
C09D5/14
C09D5/16
C09D7/63
C09D201/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021512436
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-29
(86)【国際出願番号】 US2020063193
(87)【国際公開番号】W WO2021113564
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2021-08-13
(31)【優先権主張番号】19214311.3
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520346882
【氏名又は名称】アークサーダ・アー・ゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中江 隆
(72)【発明者】
【氏名】カポック,ポール
(72)【発明者】
【氏名】岩▲瀬▼ 吉幸
(72)【発明者】
【氏名】シュレーア,ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】リーグラー,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ファン・アーケン,ペーテル
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-331207(JP,A)
【文献】特開2000-248207(JP,A)
【文献】特表2011-524795(JP,A)
【文献】特開平09-296153(JP,A)
【文献】特開平04-009364(JP,A)
【文献】特表2011-506739(JP,A)
【文献】特表2017-509506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IA及び/又はIB
【化1】
[式中、
Meが、Cu又はZnを表し、
R1がそれぞれFであるか、又は、3つのR1のうち2つがF、1つがHであり
R2がそれぞれ、NH及びOから独立して選択され、
R3が、N(R4)及びOであり、
R4が、H、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、tert-ブチル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、Cアルキル、Cアルキル、C10アルキル、C11アルキル、C12アルキル及びベンジルであり、
R5及びR6がそれぞれ、H、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、tert-ブチル及びベンジルから独立して選択され、又は
R5及びR6が一緒になって、=CH(OCH);=CH(OC);=CH(OnC);=CH(OiC);=CH(OnC);=CH(OiC);=CH(OtertC)、=CH(NHCH);=CH(NHC);=CH(NHnC);=CH(NHiC);=CH(NHnC);=CH(NHiC);=CH(NHtertC)基を形成する。]
の化合物を含む防汚組成物。
【請求項2】
R1がそれぞれFである、請求項1に記載の防汚組成物。
【請求項3】
2-ピリジンチオール-1-オキシド銅(銅ピリチオン、CuPT)、2-ピリジンチオール-1-オキシド亜鉛(亜鉛ピリチオン、ZnPT)、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(DCOIT)、酸化銅(I)(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル(トラロピリル)、エタン-1,2-ジイルビス(ジチオカルバメート)亜鉛(ジネブ)、N,N-ジメチルカルバモジチオエート亜鉛(ジラム)、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア(ジウロン)、チオシアン酸銅(I)(CuSCN)、4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(メデトミジン)、トリアジン、フルアニド及び2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル(クロロタロニル)からなる群から選択される1種以上の殺生物剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の防汚組成物。
【請求項4】
1種以上の殺生物剤が、CuPT、ZnPT、DCOIT、CuO及びトラロピリルからなる群から選択される、請求項に記載の防汚組成物。
【請求項5】
1種以上の殺生物剤が、CuPT及びCuOからなる群から選択される、請求項に記載の防汚組成物。
【請求項6】
式IA及び/若しくはIBの化合物(重量%)対CuPT(重量%)の比、並びに/又は式IA及び/若しくはIBの化合物(重量%)対CuO(重量%)の比が、100:1~1:100である、請求項に記載の防汚組成物。
【請求項7】
固体表面における海洋生物汚損の抑制のための、請求項1~のいずれか一項に記載の防汚組成物の使用。
【請求項8】
防汚組成物が、式IA及び/又はIBの化合物の制御放出を可能にするポリマー及び/又はコポリマーと組み合わせて用いられる、請求項に記載の使用。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の防汚組成物、並びに式IA及び/又はIBの化合物の制御放出を可能にするポリマー及び/又はコポリマーを含む、防汚塗料。
【請求項10】
式IA及び/又はIBの化合物の含有量が1~25重量%である、請求項に記載の防汚塗料。
【請求項11】
1種以上の殺生物剤の合計含有量が30重量%未満である、請求項又は10のいずれか一項に記載の防汚塗料。
【請求項12】
CuPTの合計含有量が10重量%未満である、請求項11のいずれか一項に記載の防汚塗料。
【請求項13】
固体表面における海洋生物汚損を抑制するための方法であって、請求項12のいずれか一項に記載の防汚塗料を表面に塗布することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶及び海洋構造物の表面の海洋生物汚損に対して非常に効果的な式IA及び/又はIBの化合物を含む防汚組成物、海洋生物汚損を抑制するためのそれらの使用並びに組成物を含む防汚塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、水産養殖魚網、水中構造物及び艤装は、例えば、フジツボ、コケムシ、ヒドロイド、イガイ及び藻類等の海洋生物によって攻撃されやすい。生物は成長及び繁殖し、遂には重大な問題を生じ得る。例えば、船舶の船体の場合、船体で海洋生物が成長することによって、船体と水との間の摩擦抵抗が増加して、これによって燃料消費が増加し、船舶の速度が低下する場合がある。船舶の船体は、最大の燃料効率を求めて清浄かつ平滑に保つために、海洋生物の成長に対して保護される必要がある。また、世界のある地域から別の地域へ海洋生物を運ぶことへの懸念もあり、外来生物が固有の生態環境を破壊する可能性がある。したがって、水中部分について、海洋生物汚損に対する十分な保護が必要であり、十分な保護は典型的に、防汚塗料によって達成される。
【0003】
このような防汚塗料に用いられる結合剤系は、典型的に、侵食性結合剤から構成される。塗料被膜の侵食は、経時的にコーティングから防汚剤(殺生物剤)を放出することによって、汚損を防止することを支援し、このようにして汚損性生物の付着を妨害する。2つの主なタイプの侵食性防汚コーティングがあり、産業界によって、「自己研磨型」及び「崩壊型」として記載されている。
【0004】
崩壊型コーティングの結合剤系は大部分がロジンから構成され、ロジンは海水と反応して水溶性となり、侵食されて去る。代替的には、ロジン又はロジン誘導体はまた、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ゴム樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂又はポリアミド樹脂などの非侵食性結合剤との混合物において用いられる。
【0005】
「自己研磨型防汚コーティング」では、結合剤系は、加水分解性アクリレートポリマーをベースとする。加水分解性の官能性は通例、金属炭酸塩アクリレートモノマー又はシリルアクリレートモノマーのいずれかによって、ポリマーに提供される。侵食性ポリエステル結合剤も用いられ、より低コストの防汚塗料をもたらす。崩壊型コーティングと自己研磨型コーティングとの違いは主に、浸出層の厚さ、及び自己研磨型コーティングについては、侵食が経時的により直線的な速度であることにある。
【0006】
結合剤系が自己研磨型塗料などにおける侵食性アクリレート及びロジンから構成される、「ハイブリッドコーティング」も存在する。浸出層の厚さは、崩壊型コーティングにおける厚さよりも薄いが、真の自己研磨型コーティングにおける厚さよりも厚い。
【0007】
大多数の市販の防汚塗料は、その中の殺生物剤として用いられる高濃度の酸化銅(I)(CuO)に起因する高い金属含有量、すなわち、典型的には、適当な防汚保護のために必要とされる約40重量%を含有する。酸化銅(I)は、多くの生物に対して、潜在的に有害である。防汚塗料からの浸出は、水中、堆積物中及び周囲の環境中の銅レベルの上昇に寄与する場合がある。人為的な高い銅レベルは、重大な生態環境への影響を有し得る。CuOは防汚剤として、防汚塗料中に非常に広く用いられているが、CuO単独では、フジツボのような硬質な汚損生物に対してしか効果的でないため、防汚塗料が追加の殺生物剤も含有する場合がある。
【0008】
追加の欠点として、酸化銅(I)は典型的に、防汚塗料被膜に強い赤褐色を付与し、また、大気中の二酸化炭素及び海水からの塩化物と反応して、コーティングの表面に不均一な縞を形成し得る。これは魅力的でない外観であり、例えば、船が海に進水した直後に生じ得る。ヨット所有者及びクルーズ船運転員には、酸化銅(I)を含有する塗料では得ることができない、明るい色及び均一な外観を好む者もいる。
【0009】
市販の防汚塗料中の酸化銅(I)を置き換える試みによって、色が白いチオシアン酸銅、及びフジツボに対する有効性を有する農業用殺有害生物剤であるトラロピリルなどの、酸化銅(I)に対する代替物が開発された。しかし、これら代替物についてはコストが高く、酸化銅(I)系防汚塗料ほど効果的ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そのため、従来用いられる防汚塗料中の銅含有量が低減した又は酸化銅(I)を完全に置き換えさえした、生態学的及び経済的に改善された海洋防汚塗料が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
式IA及び/又はIBの化合物を含む本発明の防汚組成物は、この必要性を満たす。発明者は、驚くべきことに、式IA及び/又はIBの化合物が、崩壊型塗料又は自己研磨型塗料などのすべてのタイプの防汚塗料の防汚性能を強化する、非常に効果的で汎用性のある薬剤であること、並びに単純接触浸出コーティングにも用いられ得ることの両方を見出した。
【0012】
したがって、今や、防汚塗料中のCuOを部分的に又は完全に置き換えることができ、それ故、適当な防汚性能を維持しながら、その中の金属含有量を劇的に低減することができる。さらに、式IA及び/又はIBの化合物を含む本発明の防汚組成物は、本質的に無色であり、それ故、船舶の船体にしばしば所望される明るい色に干渉しない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例2、表1の防汚塗料によってコーティングされたパネルを示す図である。この図は、海水中(姫路、深さ1.5m)で6カ月後のパネルの外観を示す。黒い四角形は、陰性対照、すなわち、いずれの防汚成分も含まないコーティングのための領域を示す。
図2】実施例2、表2の防汚塗料によってコーティングされたパネルを示す図である。この図は、海水中(姫路、長崎及び女川)で4カ月後のパネルの外観を示す。「長崎」試行及び「姫路」試行のパネル6はそれぞれ、海水中で1カ月後のパネルを示す。「女川」試行のパネル6は、海水中で4カ月後のパネルを示す。
図3】実施例2、表3の防汚塗料によってコーティングされたパネルを示す図である。この図は、海水中(長崎、深さ1.5m)で1カ月後のパネルの外観を示す。黒い四角形は、陰性対照、すなわち、いずれの防汚成分も含まないコーティングのための領域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
別途定義されない限り、本明細書で用いられるすべての技術用語及び科学用語は、この発明が関係する分野における当業者によって通例理解されるものと同じ意味を有する。以下の省略形及び用語が、本明細書において用いられる。
AIBN:アゾビス(イソブチロニトリル)
AMBN:アゾビス-(2-メチルブチロニトリル)
A630-20X:脂肪酸アミド
BA:ブチルアクリレート
クロロタロニル:2,4,5,6-テトラクロロベンゼン-1,3-ジカルボニトリル
銅Omadine(登録商標)、CuPT、銅ピリチオン:2-ピリジンチオール-1-オキシド銅
CuO:酸化銅(I)
CuSCN:チオシアン酸銅(I)
DCOIT:4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン
ジウロン:3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素
Disparlon A650-20x:合成ポリアミドワックス分散体。重い顔料及び金属含有材料(metallics)のための優れた沈殿防止剤として作用する。高度なせん断減粘性を有し、優れた塗布性をもたらす。
ETFAA:エチル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート
Laroflex(登録商標) MP 25:塩化ビニル及びビニルイソブチルエーテルのコポリマー
2MEA:2-メトキシエチルアクリレートモノマー
メデトミジン:4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール
MMA:メチルメタクリレートモノマー
MIBK:メチルイソブチルケトン
MPM:メトキシプロピレンモノマー
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
TIPX:トリイソプロピルシリルアクリレートモノマー
トラロピリル:4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル
VAGH:塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコールコポリマー(市販品)
ジネブ:エタン-1,2-ジイルビス(ジチオカルバメート)亜鉛
ジラム:N,N-ジメチルカルバモジチオエート亜鉛
Zn(ETFAA):本明細書においてZnETFAAとも呼ばれる、ジ(エチル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート)亜鉛
ZnO:酸化亜鉛
ZnPT:亜鉛ピリチオン:2-ピリジンチオール-1-オキシド亜鉛
「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレートモノマー及びメタクリレートモノマーの両方を示す集合名である。「メタクリレート」又は「メタ-アクリレート」という用語は、メタクリレートモノマーのみを示す。
【0015】
Bentone SD2は、沈殿防止性のために加えられる有機粘土であり、Bentone#38は、クオタニウム18-ヘクトライト粘土であり、Minex 4は霞石閃長岩粘土である。Disparlon 6900-20x(A630-20Xポリアミドワックス)は、レオロジー調整剤として用いられるポリアミドワックスのキシレン中20%分散体であり、Disperbyk 161は分散添加剤である。樹脂は、本発明の防汚塗料に用いられる結合剤のための原材料として機能し得る、すべてのプレポリマー又はポリマーを指す。ロジン又はガムロジンは、コロホニー(CAS: 8050-09-7、https://www.megaglori.com/what-is-gum-rosin/も参照されたい)を指す。
【0016】
「殺生物剤」は、表面に海洋生物が住み着くことを防止する、及び/又は表面で海洋生物が成長することを防止する、及び/又は表面から海洋生物を追い払うことを促進する、任意の化学化合物を意味する。
【0017】
「防汚塗料」、「防汚コーティング」及び「防汚配合物」という用語は、本明細書において互換的に用いられる。
【0018】
本発明は、船舶の船体又は任意の他の海洋構造物などの水中物体の表面の汚損を抑制するための、新しい取り組みを提供する。詳細には、本発明は、式IA及び/又はIB
【0019】
【化1】
[式中、
Meは、金属を表し、好ましくはCu、Zn、Co、Ni、Ca、Mg又はMnを表し、
R1は、例えば高い疎水性をもたらす、任意の官能性であってよく、
R1はそれぞれ、水素、ハロゲン、直鎖又は分枝状C1~20アルキル、C2~20アルケニル、C2~20アルキニル、C3~12シクロアルキル、C6~20アリール及びC7~20アリールアルキルから独立して選択され、
R2はそれぞれ、NH、O、S及びSeから独立して選択され、
R3は、NH、N(R4)、O、S及びSeであり、
R4は、水素、直鎖又は分枝状C1~20アルキル、C2~20アルケニル、C2~20アルキニル、C3~12シクロアルキル、C6~20アリール、C7~20アリールアルキルであり、
R5及びR6はそれぞれ、H、直鎖若しくは分枝状C1~20アルキル、C2~20アルケニル、C2~20アルキニル、C3~12シクロアルキル、C6~20アリール及びC7~20アリールアルキルから独立して選択され、又は
R5及びR6が一緒になって、=O、=S、=Se、=NR4、=C(R4)、=C(R4)(OR4)、=C(R4)(NHR4)基を形成する。]
の化合物を含む防汚組成物を提供する。
【0020】
一実施形態では、本発明は、上に図示される式IA及び/又はIB
[式中、
Meは、Cu、Zn、Ca、Mg又はMnを表し、
R1はそれぞれ、H、F、Cl、Br、I、直鎖又は分枝状C1~12アルキル、C2~12アルケニル、C2~12アルキニル、C6~12アリール及びC7~12アリールアルキルから独立して選択され、
R2はそれぞれ、NH、O及びSから独立して選択され、
R3は、NH、N(R4)、O及びSであり、
R4は、H、直鎖又は分枝状C1~12アルキル、C2~12アルケニル、C2~12アルキニル、C3~8シクロアルキル、C6~12アリール、C7~12アリールアルキルであり、
R5及びR6はそれぞれ、H、直鎖若しくは分枝状C1~4アルキル、C2~4アルケニル、C2~4アルキニル、C3~6シクロアルキル、C6~12アリール及びC7~12アリールアルキルから独立して選択され、又は
R5及びR6が一緒になって、=O、=S、=NR4、=C(R4)、=C(R4)(OR4)、=C(R4)(NHR4)基を形成する。]
の化合物を含む防汚組成物を提供する。
【0021】
一実施形態では、本発明は、上に図示される式IA及び/又はIB
[式中、
Meは、Cu又はZnを表し、
R1はそれぞれ、H、F、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、tert-ブチル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、Cアルキル、Cアルキル、C10アルキル、C11アルキル、C12アルキル及びベンジルから独立して選択され、
R2はそれぞれ、NH及びOから独立して選択され、
R3は、N(R4)及びOであり、
R4は、H、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、tert-ブチル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、Cアルキル、Cアルキル、C10アルキル、C11アルキル、C12アルキル及びベンジルであり、
R5及びR6はそれぞれ、H、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、tert-ブチル及びベンジルから独立して選択され、又は
R5及びR6が一緒になって、=CH(OCH);=CH(OC);=CH(OnC);=CH(OiC);=CH(OnC);=CH(OiC);=CH(OtertC)、=CH(NHCH);=CH(NHC);=CH(NHnC);=CH(NHiC);=CH(NHnC);=CH(NHiC);=CH(NHtertC)基を形成する。]
の化合物を含む防汚組成物を提供する。
【0022】
一実施形態では、本発明は、上に図示される式IA及び/又はIB
[式中、
Meは、Cu又はZnを表し、
R1はそれぞれ、H及びFから独立して選択され、
R2はそれぞれ、NH及びOから独立して選択され、
R3は、N(CH)、N(C)及びOであり、
R4は、H、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、tert-ブチル、Cアルキル、Cアルキル、C10アルキル、C11アルキル、C12アルキル及びベンジルであり、
R5及びR6はそれぞれHであり、又は
R5及びR6が一緒になって=CH(OCH);=CH(OC)、=CH(NHCH);=CH(NHC)基を形成する。]
の化合物を含む防汚組成物を提供する。
【0023】
一実施形態では、式IBの化合物は上に定義される通りであり、ただし、MeがCuである場合、各R1はFであり、各R2はOであり、R3はOであり、R5及びR6はそれぞれHであり、R4はエチルではない。
【0024】
式IA及びIBの好適な化合物はそれぞれ、例えば、
エチル3-アミノ-4,4,4-トリフルオロクロトネート;
[エチル3-アミノ-4,4,4-トリフルオロクロトネート]Zn、
[エチル3-アミノ-4,4,4-トリフルオロクロトネート]Cu、
エチル3-アミノ-2-メチレン-(メチルアミノ)-4,4-ジフルオロクロトネート、
[エチル3-アミノ-2-メチレン-(メチルアミノ)-4,4-ジフルオロクロトネート]Zn、
[エチル3-アミノ-2-メチレン-(メチルアミノ)-4,4-ジフルオロクロトネート]Cu
4,4,4-トリフルオロ-N,N-ジメチル-3-オキソブタンアミド;
[4,4,4-トリフルオロ-N,N-ジメチル-3-オキソブタンアミド]Cu、
[4,4,4-トリフルオロ-N,N-ジメチル-3-オキソブタンアミド]Zn、
ドデシル4,4,4-トリフルオロ-3-オキソブタノエート、
[ドデシル4,4,4-トリフルオロ-3-オキソブタノエート]Zn、
ドデシル4,4,4-トリフルオロ-3-オキソブタノエート]Cu、
ベンジル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート、
[ベンジル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート]Zn、
[ベンジル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート]Cu、
オクチル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート、
[オクチル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート]Zn、
[オクチル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート]Cu、
イソプロピル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート、
[イソプロピル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート]Zn、
[イソプロピル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート]Cu、
エチル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート、
[エチル4,4,4-トリフルオロアセトアセテート]Zn
tert-ブチル4,4,4-トリフルオロ-3-オキソブタノエート、
[tert-ブチル4,4,4-トリフルオロ-3-オキソブタノエート]Zn、
[tert-ブチル4,4,4-トリフルオロ-3-オキソブタノエート]Cu
である。
【0025】
いくつかの実施形態では、防汚組成物は、上に定義される式IA又はIBの化合物を含む。いくつかの実施形態では、防汚組成物は、上に定義される式IA及びIBの化合物を含む。
【0026】
驚くべきことに、式IA及びIBの化合物は、海洋生物、例えばフジツボ、コケムシ、ヒドロイド、イガイ及び藻類等が住み着くことに対する、防汚組成物の防汚有効性を有意に強化することが見出された。
【0027】
本発明の防汚組成物は、物体の表面における汚損を防止することができる、1種以上の殺生物剤をさらに含み得る。
【0028】
このような殺生物剤は、無機殺生物剤、有機金属殺生物剤又は有機殺生物剤であり得る。
【0029】
無機殺生物剤の例は、銅及び銅酸化物などの銅化合物、例えば酸化銅(I)及び酸化銅(II);銅合金、例えば銅-ニッケル合金;銅塩、例えばチオシアン酸銅(CuSCN)、硫化銅;又はメタホウ酸バリウムである。
【0030】
有機金属殺生物剤の例は、2-ピリジンチオール-1-オキシド亜鉛[ZnPT、亜鉛ピリチオン];有機銅化合物、例えば2-ピリジンチオール-1-オキシド銅[CuPT、銅ピリチオン]、酢酸銅、ナフテン酸銅、8-ウイノリノネート銅(uinolinonate)[オキシン-銅]、ノニルフェノールスルホネート銅、ビス(エチレンジアミン)ビス(ドデシルベンゼンスルホネート)銅及びビス(ペンタクロロフェノレート)銅;ジチオカルバメート化合物、例えばN,N-ジメチルカルバモジチオエート亜鉛[ジラム]、エタン-1,2-ジイルビス(ジチオカルバメート)亜鉛[ジネブ]、エチレンビス(ジチオカルバメート)マンガン[マネブ]、又は亜鉛塩と錯形成したエチレンビス(ジチオカルバメート)マンガン[マンコゼブ]である。
【0031】
有機殺生物剤の例は、複素環式化合物、例えば2-(tert-ブチルアミノ)-4-(シクロプロピルアミン)-6-(メチルチオ)-1,3,5-トリアジン[シブトリン]、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[DCOIT]、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン[BIT]、2-(チオシアネートメチルチオ)-1,3-ベンゾチアゾール[ベンチアゾール]、3-ベンゾ[b]チエン-2-イル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-オキサチアジン-4-オキシド[ベトキサジン]及び2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジン;尿素誘導体、例えば3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア[ジウロン];カルボン酸、スルホン酸及びスルフェン酸のアミド及びイミド、例えばN-(ジクロロフルオロメチルチオ)フタルイミド、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチイ(dimethyi)-N-フェニルスルファミド[ジクロフルアニド]、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-p-トリルスルファミド[トリルフルアニド]及びN-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミド;他の有機化合物、例えばピリジントリフェニルボラン、アミントリフェニルボラン、3-ヨード-2-プロピニル-N-ブチルカルバメート[ヨードカルブ]、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル[クロロタルニル]、p-((ジヨードメチル)スルホニル)トルエン又は4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル[トラロピリル]である。
【0032】
殺生物剤の他の例は、テトラアルキルホスホニウムハロゲン化物、グアニジン誘導体、イミダゾール含有化合物、例えば4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール[メデトミジン]及び誘導体、アベルメクチン及びそれらの誘導体、例えばイベルメクチン、若しくはスピノシン及びそれらの誘導体、例えばスピノサドを含めた大環状ラクトン、又は酵素、例えばオキシダーゼ、若しくはタンパク質分解、ヘミセルロース分解、セルロース分解、脂肪分解若しくはデンプン分解に活性な酵素である。
【0033】
一実施形態では、本発明の防汚組成物は、上に定義される式IA及び/又はIBの化合物、並びに2-ピリジンチオール-1-オキシド銅(CuPT、銅ピリチオン)、2-ピリジンチオール-1-オキシド亜鉛(ZnPT、亜鉛ピリチオン)、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(DCOIT)、酸化銅(I)(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル(トラロピリル)、エタン-1,2-ジイルビス(ジチオカルバメート)亜鉛(ジネブ)、N,N-ジメチルカルバモジチオエート亜鉛(ジラム)、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア(ジウロン)、チオシアン酸銅(I)(CuSCN)、4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(メデトミジン)、トリアジン、フルアニド及び2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル(クロロタロニル)からなる群から選択される、さらなる1種以上の殺生物剤を含む。
【0034】
好ましい実施形態では、本発明の防汚組成物は、上に定義される式IA及び/又はIBの化合物、並びにCuPT、ZnPT、DCOIT、CuO及びトラロピリルからなる群から選択される1種以上の殺生物剤を含む。
【0035】
より好ましい実施形態では、本発明の防汚組成物は、上に定義される式IA及び/又はIBの化合物、並びにCuPT及びCuOからなる群から選択される1種以上の殺生物剤を含む。式IA及び/若しくはIBの化合物(重量%)対CuPT(重量%)の比、並びに/又は式IA及び/若しくはIBの化合物(重量%)対CuO(重量%)の比は、有利には100:1~1:100であり、好ましくは15:1~1:15であり、最も好ましくは5:1~1:5である。
【0036】
詳細な実施形態では、本発明の防汚組成物は、式IA及び/若しくはIBの化合物並びにCuPTを含む。式IA及び/若しくはIBの化合物(重量%)対CuPT(重量%)の比は、有利には100:1~1:100であり、好ましくは10:1~1:10であり、最も好ましくは5:1~1:5である。
【0037】
別の詳細な実施形態では、本発明の防汚組成物は、式IA及び/若しくはIBの化合物並びにCuOを含む。式IA及び/若しくはIBの化合物(重量%)対CuO(重量%)の比は、有利には100:1~1:100であり、好ましくは10:1~1:10であり、最も好ましくは5:1~1:5である。
【0038】
より詳細な実施形態では、本発明の防汚組成物は、式IA及び/又はIBの化合物、CuPT並びにCuOを含み、式IA及び/又はIBの化合物(重量%)対CuPT(重量%)の比は5:1~1:5であり、式IA及び/又はIBの化合物(重量%)対CuO(重量%)の比は5:1~1:5である。
【0039】
別の詳細な実施形態では、本発明の防汚組成物は、式IA及び/又はIBの化合物並びにCuPTを含み、かつCuOを含まず、式IA及び/又はIBの化合物(重量%)対CuPT(重量%)の比は5:1~1:5である。
【0040】
上に定義される式IA及び/又はIBの化合物を含む本発明の防汚組成物は、卓越した防汚性を提供するだけでなく、本質的に無色であり、それ故、船舶の船体にしばしば所望される明るい色に干渉しない。
【0041】
本発明はさらに、固体表面における海洋生物汚損の抑制のための、本発明の防汚組成物の使用を提供する。固体表面は、水中物体、例えば、船舶、水産養殖魚網、水中構造物及び艤装、タンク、沖合建造物、パイプ、網、桟橋又は杭若しくは柱等の任意の固体表面であってよい。
【0042】
本発明の防汚組成物はさらに、自己研磨型又は崩壊型コーティングと同様に、中に含まれる式IA及び/又はIBの化合物の制御放出を可能にし、存在する場合、1種以上の殺生物剤の制御放出も可能にする(例えば、これらの薬剤を防汚コーティングから経時的に放出することによって)、ポリマー及び/又はコポリマーと組み合わせて用いられてもよい。
【0043】
発明者は、驚くべきことに、式IA及び/又はIBの化合物が、すべてのタイプの防汚コーティングに用いられ得る、すなわち、防汚コーティング組成物のための結合剤として典型的に用いられる、様々な異なるポリマー及び/又はコポリマーをベースとする防汚コーティングに用いられ得る、汎用性のある薬剤であることを見出した。したがって、中に含まれる式IA及び/又はIBの化合物の制御放出を可能にし、存在する場合、1種以上の殺生物剤の制御放出も可能にするポリマー及び/又はコポリマーは、防汚コーティングにおける結合剤として典型的に用いられる、任意のポリマー及び/又はコポリマーであってよい。この目的に好適なポリマー及び/又はコポリマーは、当業者に公知である。用いられる結合剤の量及び種類に応じて、式IA及び/又はIBの化合物並びに1種以上の殺生物剤は、所定の所望の速度において、例えば、船舶の航行パターンに適当な、制御された様式で放出される。
【0044】
例えば、「自己研磨型防汚コーティング」において結合剤として用いられる、式IA及び/又はIBの化合物並びに1種以上の殺生物剤の制御放出を可能にするポリマー及び/又はコポリマーは、(メタ)アクリレート系ポリマー及び/又はコポリマーなどの加水分解性アクリレートポリマーであり得る。(メタ)アクリレートポリマー及び/又はコポリマー中の(メタ)アクリレートモノマー部分は、アルキル(メタ)アクリレート、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソ-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート及びステアリル(メタ)アクリレート;これらのみならずフェニル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート;又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば、メトキシメチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、イソブトキシブチルジグリコール(メタ)アクリレート;これらのみならずフェノキシエチル(メタ)アクリレート;又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート若しくは2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートであってもよく;
(メタ)アクリレートポリマー及び/又はコポリマー中の(メタ)アクリレートモノマー部分はさらに、シリル(メタ)アクリレート、例えば、トリベンジルシリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリル(メタ)アクリレート、トリエチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-イソプロピルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-イソブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-t-ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-アミルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-ドデシルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-ヘキシルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-オクチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-プロピルシリル(メタ)アクリレート又はトリフェニルシリル(メタ)アクリレートであってもよく;
(メタ)アクリレートポリマー及び/又はコポリマーはまた、本明細書においては「金属塩(メタ)アクリレート」と呼ばれる、アクリル酸又はメタクリル酸の金属塩部分を含んでもよい。金属は、当業者に公知の任意の好適な金属であってよく、例えば、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、リチウム、鉄、ジルコニウム、アルミニウム、コバルト、ジルコニウム、バリウム及びビスマスであってもよい。
【0045】
式IA及び/又はIBの化合物の制御放出を可能にし、存在する場合、1種以上の殺生物剤の制御放出も可能にするポリマー及び/又はコポリマーは、VAGHコポリマーであってもよい。VAGHコポリマーは、2:3のキシレン:MIBK中に溶解され得る。
【0046】
したがって、一実施形態では、式IA及び/又はIBの化合物の制御放出を可能にし、存在する場合、1種以上の殺生物剤の制御放出も可能にするポリマー及び/又はコポリマーは、(メタ)アクリレートポリマー及び/若しくはコポリマー又はVAGHコポリマーを含む。(メタ)アクリレートポリマー及び/若しくはコポリマーは、アルキル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレート亜鉛及びシリル(メタ)アクリレートからなる群から選択されるモノマー部分のポリマー若しくはコポリマーであってもよく;又は(メタ)アクリレートポリマー及び/若しくはコポリマーは、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、メタクリレート亜鉛及びトリ-イソプロピルシリルアクリレートからなる群から選択されるモノマー部分のポリマー若しくはコポリマーであってもよく、好ましくは、(メタ)アクリレートポリマー及び/若しくはコポリマーは、エチルアクリレート、メチルメタクリレート及びメタクリレート亜鉛からなる群から選択されるモノマー部分のコポリマーであってもよく、より好ましくは、(メタ)アクリレートポリマーポリマー及び/若しくはコポリマーは、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、2-メトキシエチルアクリレート及びメタクリレート亜鉛からなる群から選択されるモノマー部分のコポリマーであってもよく、最も好ましくは、(メタ)アクリレートポリマーポリマー及び/又はコポリマーは、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート及びトリ-イソプロピルシリルアクリレートからなる群から選択されるモノマー部分のコポリマーであってもよい。
【0047】
その結果、本発明はさらに、本発明の防汚組成物、並びに式IA及び/又はIBの化合物の制御放出を可能にし、存在する場合、1種以上の殺生物剤の制御放出も可能にするポリマー及び/又はコポリマーを含む防汚塗料を提供する。
【0048】
本発明の防汚塗料中の式IA及び/又はIBの化合物の含有量は、約1~約25重量%であり、好ましくは約3~約20重量%であり、より好ましくは約4~約18重量%であり、最も好ましくは約5~約15重量%である。
【0049】
式IA及び/又はIBの化合物の卓越した強化特性に起因して、わずか少量の1種以上の殺生物剤が、本発明の防汚塗料中に必要とされる。本発明の防汚塗料中の1種以上の殺生物剤の合計含有量は、約30重量%未満であり、好ましくは約25重量%未満であり、より好ましくは約20重量%未満であり、最も好ましくは約18重量%未満である。
【0050】
本発明の防汚塗料中のCuPTの合計含有量は、約10重量%未満であり、より好ましくは約8重量%未満であり、最も好ましくは約7重量%未満である。
【0051】
本発明の防汚塗料中のCuOの合計含有量は、約20重量%未満であり、より好ましくは約15重量%未満であり、最も好ましくは約12重量%未満である。
【0052】
したがって、有毒な金属化合物の含有量、特にCuOの含有量は非常に低いレベルに保たれ、回避される場合さえある。
【0053】
本発明はさらに、固体表面における海洋生物汚損を抑制するための方法であって、本発明の防汚組成物を含む防汚塗料をこの表面に塗布することを特徴とする、方法を提供する。固体表面は、水中物体、例えば、船舶、水産養殖魚網、水中構造物及び艤装、タンク、沖合建造物、パイプ、網、桟橋並びに杭又は柱等の任意の固体表面であってよい。
【0054】
以下において、実施例を参照しながら本発明がさらに記載されるが、本発明はこれらの実施例に決して限定されないものと解釈されるべきである。
【実施例
【0055】
[実施例1: 防汚塗料のための例示的なポリマー系結合剤の調製]
自己研磨型防汚塗料又はハイブリッドコーティングに用いられ得る、異なる例示的なポリマー系結合剤を、以下に概説されるように調製した。
【0056】
実施例1A: 本明細書において「Ac(AV=100-)」と呼ばれる、アクリレートポリマー「酸アクリレート低酸価」の合成
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1B: 本明細書において「Ac(AV=100)」と呼ばれる、アクリレートポリマー「酸アクリレート100酸価」の合成
【0059】
【表2】
【0060】
実施例1C: アクリレートポリマー「Ac(AV=100-)」を用い、本明細書において「Zn-Ac(AV=100-)」と呼ばれる亜鉛アクリレートポリマーを与える、結合剤成分の合成
【0061】
【表3】
【0062】
実施例1D: アクリレートポリマー「Ac(AV=100)」を用い、本明細書において「Zn-Ac(AV=100)」と呼ばれる亜鉛アクリレートポリマーを与える、結合剤成分の合成
【0063】
【表4】
【0064】
実施例1E: 本明細書において「Si-Ac」と呼ばれる、シリルアクリレートポリマー標準TIPX結合剤成分の合成
【0065】
【表5】
【0066】
実施例1F: 本明細書において「Si-Ac(TIPX-L)」と呼ばれる、シリルアクリレートポリマー低TIPX結合剤成分の合成
【0067】
【表6】
【0068】
[実施例2: 防汚塗料中のCuO及び本発明の化合物の効力]
本発明の式IA又はIBの化合物が防汚塗料中に存在する場合に、CuOの量を有意に低減できることを確認するため、実験用塗装パネルを試験筏において海水中に浸漬させることによって、一連の崩壊型防汚塗料の有効性を評価した。
【0069】
この目的のために、様々な崩壊型防汚塗料:a)本発明の化合物IA又はIBのみを含有する(すなわち、殺生物剤を含まない)、b)本発明の化合物IA又はIBと一緒に殺生物剤(すなわち、CuO)を含有する、c)殺生物剤のみ(すなわち、「陽性対照塗料」として、それぞれCuO又はCu2Oと一緒にCuPT)を含有する、及びd)殺生物剤を含まずかつ化合物IA又はIBを含まない(「陰性対照塗料」)を調製した。
【0070】
この実施例において使用される本発明の化合物は、下の表1に示される。塗料の詳細な配合は、下の表2~4に示される。次のように、塗料をPVCパネルに塗布した。
【0071】
各パネルを3つのセクションに分け、3つの異なる濃度、すなわち、それぞれ25%体積/体積、15%体積/体積及び5%体積/体積において、それぞれの塗料(すなわち、殺生剤若しくは本発明の化合物のいずれかを含有する、又は殺生剤と一緒に本発明の化合物を含有する)によってコーティングした。これらの成分の濃度は、図1~3に示される。
【0072】
結果:所定時間(下に示されるように1、4又は6カ月)海水中に浸漬した後の結果は、図1図2及び図3に示される。
【0073】
図1
パネル1は、下の表2に示されるように、CuOのみ配合の防汚塗料によって塗装されたパネルを図示している。3つのセクションは、異なる濃度においてCuOを含有する塗料によって処理された、パネルの3つの区域を示している。セクション1に塗布された塗料は15%体積/体積のCuOを含有し、パネルのセクション2に塗布された塗料は5%体積/体積のCuOを含有していた。パネル1の最後のセクション(四角形によって強調されている)は、塗料がいずれの防汚作用成分も含まない、すなわち、殺生剤も式IA又はIBの化合物も含まない、陰性対照の塗装パネルである。図1におけるパネル6及びパネル12は、陰性対照の未処理PVCパネルである。図1のパネル2~5及び7~10は、図1に示されるように、異なる濃度において式IA又はIBの化合物を含有する塗料に類似している。
【0074】
図2
図2において、試行のそれぞれ、すなわち、長崎、姫路及び女川におけるパネル1は、下の表3に示されるように、CuOのみ配合の防汚塗料を有する塗装パネルである。パネルの3つのセクションに塗布された塗料に含まれる成分の濃度は、図2に示される。濃度は、25体積%、15体積%、5体積%である。図2における各試行のパネル6は、陰性対照の未処理PVCパネルである。各試行におけるパネル4は、セクション1の25%体積/体積CuPTを有する塗料、セクション2の5%体積/体積Cu2O及び25%CuPTを有する塗料、並びにセクション3の5%体積/体積Cu2O及び15%体積/体積CuPTを有する塗料において類似している。各試行におけるパネル5は、セクション1の25%体積/体積ZnETFAAを有する塗料、セクション2の5%体積/体積Cu2O及び25%ZnETFAAを有する塗料、並びにセクション3の5%体積/体積Cu2O及び15%体積/体積ZnETFAAを有する塗料において類似している。
【0075】
図3
図3におけるパネル7及び10は、下の表3に示されるように、Cu2O及びCuO/CuPTのみ配合の防汚塗料によって塗装されている。濃度は、25体積%、15体積%、5体積%である。図3におけるパネル12は、陰性対照の未処理PVCパネルである。パネル1~6は、セクション1の25%体積/体積の本発明の化合物を有する塗料(すなわち、図3及び下の表1に示されるように、パネル1:Der-2-Cu、パネル2:Der-3-Cu、パネル3:Der-4-Cu、パネル4:Der-5-Cu、パネル5:Der-6-Cu、パネル6:Der-7-Cu)、セクション2の5%体積/体積のCu2O及び25%の本発明の化合物を有する塗料、並びにセクション3の5%体積/体積のCu2O及び15%体積/体積の本発明の化合物を有する塗料において類似している。
【0076】
未処理パネル対照及び普通塗料対照と比較して、異なる濃度の本発明の化合物を有する塗料に類似しているパネルのすべてのセクションは、改善された防汚性能を示している。評価したすべての誘導体が防汚塗料の性能を改善しているという、一般的な傾向が観察された。
【0077】
【表7】
【0078】
【表8】
【0079】
【表9】
【0080】
【表10】
図1
図2
図3