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特許7309869磁石システム内の電圧の異常を検出する方法および磁石システムへの機械的衝撃の特性を求める方法
<図1>
  • 特許-磁石システム内の電圧の異常を検出する方法および磁石システムへの機械的衝撃の特性を求める方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】磁石システム内の電圧の異常を検出する方法および磁石システムへの機械的衝撃の特性を求める方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20230710BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20230710BHJP
   H01F 6/00 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A61B5/055 331
G01N24/00 620Y
G01N24/00 ZAA
H01F6/00 180
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021523369
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2019078464
(87)【国際公開番号】W WO2020088959
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】1817592.7
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516298515
【氏名又は名称】シーメンス ヘルスケア リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Siemens Healthcare Limited
【住所又は居所原語表記】Parkview, Watchmoor Park, Camberley, GU15 3YL, United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ポール ウィリアム エッジリー
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0052210(US,A1)
【文献】特開2008-168121(JP,A)
【文献】特開平07-092016(JP,A)
【文献】特開2008-172235(JP,A)
【文献】国際公開第2018/162371(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0194790(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00
H01F 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続されて電流を搬送する超伝導コイルを含む磁石システム内の電圧の異常を検出する方法であって、前記方法が、
‐前記磁石システム内の超伝導コイル間に電気的に配置されたタップポイント(20)から電圧(18)を受信するステップと、
‐前記電圧を該電圧のデジタル表現に変換するステップ(14)と、
‐前記デジタル表現を保存するステップ(17)と、
‐前記タップポイント(20)での前記電圧(18)の検出された変動をカテゴリ分類するために前記デジタル表現を処理するステップ(16)と、
を含み、
前記タップポイント(20)での前記電圧(18)の検出された変動をカテゴリ分類して、前記電圧変動の原因を、
‐大きな機械的衝撃、
‐小さな機械的衝撃、
‐近隣の物体に起因する磁場における、機械的衝撃を発生させない干渉、
のうちの1つとして識別し、
前記方法が、
機械的振動センサから信号を受信するステップと、
前記タップポイント(20)での前記電圧(18)の検出された変動をカテゴリ分類する処理ステップでの支援のために、前記機械的振動センサ(22)からのデータを前記電圧のデジタル表現で補足するステップと、
をさらに含む、
方法。
【請求項2】
前記デジタル表現を保存するステップ(17)と、前記デジタル表現を処理するステップ(16)とが、所定の閾値を超える前記タップポイントからの電圧の検出に応じて実行される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記デジタル表現を保存するステップ(17)と、前記デジタル表現を処理するステップ(16)とが、所定の時間閾値を超える持続時間にわたって続く、所定の電圧閾値を超える前記タップポイントからの電圧の検出に応じて実行される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記所定の電圧閾値を、質量閾値に等しい質量を有する物体の磁力による衝撃を表すように選定し、前記質量閾値は、損傷の発生が予測されない場合に磁石に機械的に衝撃を与えうる材料の最大質量を表し、かつ損傷の発生が予測された場合に磁石に機械的に衝撃を与えうる材料の最小質量に対応する、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
磁石システム内の電圧の異常を検出する方法であって、前記方法は、
‐前記磁石システム内の超伝導コイル間に電気的に配置されたタップポイント(20)から電圧(18)を受信するステップと、
‐前記電圧を該電圧のデジタル表現に変換するステップ(14)と、
‐前記デジタル表現を保存するステップ(17)と、
‐前記タップポイント(20)での前記電圧(18)の検出された変動をカテゴリ分類するために前記デジタル表現を処理するステップ(16)と、
を含み、
前記タップポイント(20)での前記電圧(18)の検出された変動をカテゴリ分類して、前記電圧変動の原因を、
‐大きな機械的衝撃、
‐小さな機械的衝撃、
‐近隣の物体に起因する磁場における、機械的衝撃を発生させない干渉、
のうちの1つとして識別し、
前記タップポイント(20)での前記電圧(18)の検出された変動をカテゴリ分類するために前記デジタル表現を処理するステップ(16)は、コイル電圧外乱値が所定の電圧閾値を超える時間の周期性を導出するステップを含む、
方法。
【請求項6】
前記タップポイント(20)での前記電圧(18)の検出された変動をカテゴリ分類するために前記デジタル表現を処理するステップ(16)は、前記磁石システムがMRIシステムで利用されているかどうかを判定するステップを含む、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記タップポイント(20)での前記電圧(18)の検出された変動をカテゴリ分類するために前記デジタル表現を処理するステップ(16)は、磁石の軸方向中心の両側における電圧の合計が0になるように、前記タップポイントからの電圧が対称であるかどうかを判定するステップを含む、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度の磁石システムに関する障害評価のための異常検出に関する。このような磁石システムの例として、例えば超伝導磁石を用いる磁気共鳴イメージング(MRI)システムが挙げられる。このようなシステムについて、以下の記述でより詳細に考察するが、本発明は他の磁石システムにも同様に適用可能である。
【0002】
超伝導磁石を利用したMRIシステムに固有の危険要因は、強い磁場(通常1.5Tから3.0T)が連続的に存在しているために、不注意に強磁性物体を磁石に近づけると、強磁性物体が磁石に強く引き寄せられ、損傷をもたらしかねないことである。典型的には、このような磁場においては患者の準備と管理とに細心の注意が払われる。放射線専門医および技師は、このような環境における作業の訓練を受け、経験を積んでいる。
【0003】
通例、強磁性物体の衝撃による損傷の確率を低減するための第一義的な対策は、スタッフの訓練などの予防的なものである。事前のスキャンチェックとして金属探知システムを利用できるが、このようなシステムは、典型的には、常に綿密に監視される患者を対象としている。
【0004】
しかしながら、定期清掃およびメンテナンス作業については、典型的に、MRIシステム周辺環境の利用および立ち入りの管理が甘くなっている。床掃除機、メンテナンス用具などの強磁性物体が磁石に強く引き寄せられ、磁石の損傷が生じることが知られている。
【0005】
このような事象の影響によって磁石に様々な損傷が生じ、磁石を包囲する真空室の外装または当該真空室の一部に直接に損傷が生じたり、懸架部材などの内部部品の歪みによって、低温剤の損失に繋がる低温熱負荷の可能性が生じたり、または発生した強い力によって内室または磁石部品に損傷が生じたりすることがある。
【0006】
本発明は、磁石に損傷を与える可能性のある物体によって発生する異常を識別してクラス分類する方法および装置を提供する。このような異常には、機械的衝撃、およびイメージングシステムに近接する想定外の物体によってイメージング磁場で生じる干渉も含まれる。
【0007】
磁石に引き寄せられる所定の物体の効果を考慮すると、物体の総質量と物体の強磁性質量とが共に、物体によって発生する損傷の一因となる。例えば、4kgの工具箱はほぼ4kgの強磁性材料を含みうるが、10kgの車椅子は1kgの強磁性材料しか含まないこともある。物体への力は強磁性の質量によって決定されるが、発生する損傷は衝撃が加わったときの物体の運動エネルギに依存し、この運動エネルギは物体の総質量と衝撃速度とによって決定される。衝撃速度は、物体への力(強磁性質量の関数)と(総質量の関数でもある)最終的な加速度とによって決定される。
【0008】
磁石システムへの衝撃があった場合、保証またはサービスの苦情に関して、システムのユーザとシステムの製造者または他のサービス業者との間で摩擦が生じる可能性がある。物体による衝撃など、根本的な原因の直接の証拠がなければ、製造者または他のサービス業者が不要な金銭的損失を被る可能性がある。本発明は、MRIシステムなどの磁石システムへの衝撃の事象を識別する方法および装置を提供する。
【0009】
例えば、製造者のシステム保証では、閾値質量以下、例えば10kg以下の総質量を有する物体の衝撃による損害が対象となる場合がある。製造者が、例えば本発明のシステムまたは方法を使用することで、磁石システムが物体の衝撃を受けたと証明できれば、生じるどのような損害も保証対象から除外することができる。さらに、本発明のシステムおよび方法によって提供可能であるように、衝撃の規模を推定することによって、起こりうる損傷の推定を事前に実行することができ、これにより適切なサービス計画を立てることができる。本発明の幾つかの実施例では、磁石システムにおいて起こりうる衝撃の位置を推定し、予期される損傷の種類を示すことができる可能性があり、このため、サービス仲介の効果が向上する。
【0010】
他の検出可能な異常では、機械的衝撃が発生せず、イメージングシステムに損傷が生じない可能性もある。しかしながら、予期されない物品が接近してイメージング磁場が歪み、サービスコールが発生することがある。歪みが急激に発生したことが明らかであって、歪みの規模とタイミングとが記録されている場合、イメージングシステムの近くに物品を不適切に配置したことに起因して歪みが生じたと証明できる可能性がある。この場合、対応する物品を識別して取り除き、または少なくとも保証としてのサービスコールを回避しうる可能性がある。
【0011】
Brookhaven Science Associates LLCによる米国特許出願公開第2013/0293987号明細書には、超伝導磁石のクエンチ検出システムが記載されている。高温超伝導リードにおけるクエンチの検出とアクティブ伝搬とのためのデータ取得システムが記載されている。
SYNAPTIVE MEDICAL BARBADOS INCによる米国特許第10082547号明細書には、MRに不適な物体を検出し、MRに不適な物体が運用上の危険をもたらすものとして判定された場合に、磁場の強度を低減する装置が記載されている。
GRAESSNER JOACHIMによる米国特許出願公開第2007/194790号明細書には、磁場との相互作用に起因して磁気共鳴装置上または磁気共鳴装置内へ引き寄せられる物体を自動的に検出する検出装置が記載されている。
GE MED SYS GLOBAL TECH CO LLCによる日本国特開2006-034528号公報には、振動検出器および補償装置を備えた磁気共鳴イメージングシステムが記載されている。
【0012】
本発明の上記の目的およびさらなる目的、特徴および利点について、単なる例示としてではあるが、所定の実施形態の以下の記述を図面と共に参照することで理解を深めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る診断インタフェースを示す概略図である。
図2】第1の衝撃に応じてコイル電圧を表すデータを示す図である。
図3】第1の衝撃に応じて機械的衝撃を表すデータを示す図である。
図4】第2の衝撃に応じてコイル電圧を表すデータを示す図である。
図5】第2の衝撃に応じて機械的衝撃を表すデータを示す図である。
図6】意図的なクエンチに応じてコイル電圧を表すデータを示す図である。
図7】本発明の他の実施形態に係る診断インタフェースの概略図である。
図8】第3の衝撃に応じてコイル電圧を表すデータを示す図である。
図9】第4の衝撃に応じてコイル電圧を表すデータを示す図である。
図10A】導出されたコイル外乱電圧を示す図である。
図10B】導出されたコイル外乱電圧を示す図である。
図10C】コイル外乱電圧のフーリエ解析結果を表し、基本周波数の比較的高い規模を示す図である。
【0014】
本発明の実施形態において、診断インタフェースが、超伝導コイル間における超伝導磁石の回路に備えられた電圧タップポイントに接続されている。例示の実施形態において、このような診断インタフェースは、抵抗と、電圧制限器、例えば電圧依存性抵抗またはtransorb(過渡電圧抑制ダイオード)との抵抗回路網を含む。
【0015】
好ましくは、診断インタフェースは、磁石システムの低温剤容器内に封じ込められ、当該低温剤容器の外に設置可能なデータ取得システムに電気的に接続される。
【0016】
図1は、本発明に係る異常検出システムの例示の実施形態を示す。診断インタフェース10はデータ取得システム11に接続されていてよい。データ取得システム11は、信号処理のためのアナログインタフェース12と、診断インタフェース10から受信した電圧のデジタル表現を提供するアナログデジタル変換器14と、デジタル表現の後続処理のためのプロセッサ16と、デジタル表現を保存するメモリ17とを備えていてよい。プロセッサ16は、マイクロコントローラなど、任意の適切な処理装置であってよく、またメモリ17を内蔵していてもよい。プロセッサ16は、診断インタフェース10からの電圧信号18の値に基づいてデータ収集と分析とを開始するようにプログラミングされていてよい。
【0017】
図1に示した本発明の実施形態において、磁石はシールドコイル1,2、ドライブコイル3,4および内挿コイル5,6,7,8を含み、全て直列に接続されている。接地電位120が直列接続部の途中に接続されていてもよい。超伝導スイッチ130は、磁石が持続的ノードにおいて動作できるように超伝導回路を閉成すべく作動される。超伝導スイッチが開放されている際には、直流電流が0vおよび+で示されている電圧端子から導入されうる。
【0018】
本実施形態の特徴によれば、タップポイント20が、超伝導回路における所定のポイント、この例ではシールドコイル2の両端において確認される。シールドコイルはドライブコイル3,4または内挿コイル5~8よりも外部干渉に影響されやすいため、この構成が好ましいとされうる。典型的には、シールドコイル1,2は磁石の外表面に最も近く、遮蔽されていないため外乱の影響を受けやすい。
【0019】
図1の実施形態では専用センサが備えられていない。診断インタフェース10は、タップポイント20とデータ取得システム11とに接続されている。診断インタフェース10は、タップポイント20から電圧を受け、その電圧をデータ取得システム11に送る。診断インタフェース10は、データ取得システム11に供給される電圧および電流が許容限度内に収まるように、電流制限抵抗101および電圧制限素子102を備えていてもよい。さらに、電圧制限素子102に対して並列に抵抗回路網を設けて電圧スケーリングを行ってもよい。データ取得システムに印加される電圧18は結果的にシールドコイル2両端の電圧を表し、さらに磁石システム内のコイル電圧を表すと考えられる。以下に詳細に記載する通り、コイル電圧の変動によって機械的衝撃の発生を示すことができる。タップポイント20での電圧変動を分析することによって、さらに衝撃の種類および強さを示すこともできる。
【0020】
磁石の磁場内で移動する強磁性物体を導入することによって、磁石コイル内の電圧が誘導される。このような誘導電圧が、上述のタップポイント20に現れてデータ取得システム11に送られる。コイルが超伝導であるため、このような電圧は、過渡状態の電圧であり、強磁性材料結合の磁石コイルとの相互作用(ファラデーの法則)による磁束の変化率の結果として誘導される。コイルセットの相互誘導により、当該誘導電圧がどのように他のコイルに結合されるかが定義される。このようなコイル電圧を監視することによって、物体の運動の存在を検出することができる。物体が磁石システムに機械的衝撃を与える場合、生じるコイルの機械的振動がさらなる電圧外乱を誘導する。
【0021】
強磁性物体による衝撃の検出に加えて、本発明の変形形態では、非鉄材料の機械的衝撃、または地震などによる実際の大きな振動を検出するように適合化可能である。磁石システムへの機械的衝撃によって、磁石の磁場内のコイル、熱放射シールド、低温剤容器などの部品に機械的振動が生じる。磁場内のこのような振動は電流を発生させ、直接にコイル内の電流となるかまたは各部品内の渦電流となり、この場合、渦電流はそれぞれ磁場を発生させて、対応する電圧をさらにコイル内に誘導する。当該電圧はタップポイント20に現れるので、強磁性物体の衝撃による電圧変動と同様に診断インタフェース10によって検出される。
【0022】
図示の実施形態において、診断インタフェース10は、磁石コイルの端子に直接に繋がる電気接続部20を含む。例えば磁石のクエンチの際、こうした場所で超高電圧が観測されることがある。好ましくは、過大な値が磁石の外で観測されないように、診断インタフェース10内に電流電圧制限機能が備えられる。これは、診断インタフェース10を担持する回路板上に電圧制限素子102および電流制限素子101を備えることで実現されうる。図1に示す実施形態では、電圧制限素子102は各タップポイント20と接地電圧との間に設けられている。抵抗などの電流制限素子101は、タップポイント20とデータ取得システム11との間に設けられている。
【0023】
物体が磁石に衝突する場合、電圧振動が磁石のタップポイント20間で発生する。このことは、機械的衝撃によって発生する磁場内の磁石コイルの機械的振動に起因するか、または熱遮蔽体内の渦電流によってコイル内に誘導される電流に起因し、当該渦電流は、システムへの機械的衝撃によって発生する熱放射シールドの機械的振動によって発生する。
【0024】
データ取得システム11は、タップポイント20での電圧変動を受信し、電圧および電流が適切に制限され、電圧変動をストレージ17および処理部16のためのデジタル表現に変換14する。
【0025】
本発明の好適な実施形態において、プロセッサ16は取得データをリアルタイムで監視する。所定の閾値を超える監視電圧18の変動に応じて、データ収集を開始し、監視電圧18のデータ表現測定値をメモリに保存する。以下により詳細に述べる通り、以降の保存データの処理によって事象の性質を求めることができる。
【0026】
本発明の診断インタフェース10およびデータ取得システム11は、何らかの理由による磁石のクエンチの際に、すなわち、物体の衝撃の結果として、または稼働中の緊急停止制御によるもしくはシステムの予期せぬクエンチによる個別の事象として、計画通りのサービス間隔であっても発生するクエンチの際に、コイル情報を収集するために用いることもできる。
【0027】
図2は、車椅子の機械的衝撃の際に捕捉された、タップポイント20でのコイル電圧18を表すデータを示す。この例では、車椅子は約15kgの質量を有し、そのうち少なくとも50%が強磁性体の質量であった。衝撃の際、シールドコイルにおける誘導電圧のピークは約40Vである。まさにこのような衝撃の性質として、物体が大きすぎて磁石のボアに入れない場合に、システムの一端で衝撃が発生する。当該非対称性は、シールドコイル内の電圧がそれぞれ逆の極性および同等の規模を有するように分岐する状態として観測され、これを利用して、大きすぎて磁石のボアに入らない物体の非対称な衝撃を示すことができる。
【0028】
図2に示す車椅子の衝撃について、システムからの電圧検出の時間が長くなっているのは車椅子が崩壊した結果である。当該事象では、初期の電圧上昇で示されている通り、車椅子は最初に真空室にぶつかり、その後一定時間を経て、磁石のボアの入口内へ崩壊していったのである。
【0029】
評価目的のために、種々の機械的衝撃センサが磁石システムのカバーと真空室上とに設置されて、本発明のデータ取得システムからの読み取りが評価され、場合により較正される。使用に際して、本発明の所定の実施形態は、機械的衝撃の別の指標を提供する機械的衝撃センサを備えることもでき、機械的衝撃センサからの電圧または他の出力が必要に応じてアナログからデジタルに変換されてからプロセッサ16に供給される。図7を参照して、このような実施形態の例について述べる。
【0030】
図3は、車椅子の衝突の際に任意の単位において機械的衝撃センサから収集したデータを示す。このデータを、同じ衝撃によってタップポイントに発生する、図2に示す電圧変動のデータと比較されうる。当該比較によって、図2のコイル電圧の変動が実際の機械的衝撃を示すことが再認識される。
【0031】
図4は、4kgの強磁性物体の衝撃、ここでは磁石のボアに入る、一般的な工具を含む工具箱であってよい軟鋼棒の衝撃による、タップポイント20での変動するコイル電圧18を表すデータの追跡を示す。機械的衝撃センサからの、任意の単位において対応する独立した振動監視データを図5に示す。したがって図4および図5に示すデータは図2および図3のデータに相当するが、4kgの棒が磁石のボアに入りうるために異なっている。衝撃は単独事象ではなく、より長い時間持続し、初期の作用は緩やかである。初期の事象は、物体が磁石に引き込まれて磁石のボアを通り反対側に抜け、その後ボアに再び入って磁石に機械的衝撃を与える際の振動のうちの1つである。
【0032】
機械的衝撃センサからのデータとタップポイント20の電圧18との双方の差は、本発明の所定の実施形態において行われるように、タップポイント20の電圧18の変動を表すデータの分析によって衝撃の種類を判別可能とするのに充分であることは明らかである。
【0033】
既述の通り、本発明の異常検出システムのデータ取得システム11および診断インタフェース10は、タップポイント20に現れる電圧18を記録し分析することによってクエンチの際のコイル情報を収集することができる。さらには、本発明の所定の実施形態において、システムを利用して意図的にクエンチを起こすこともできる。クエンチを自動的に起こすこともでき、ここでは、システムコントローラが機械的衝撃または磁気外乱の検出を識別可能であり、自動的にクエンチが開始される。磁石が自発的なクエンチ条件、すなわち磁石の動作がパラメータの所望の範囲から逸脱するとクエンチが自動的に発生しうる条件のもとで保護されるため、このようなクエンチ起動能力によって、磁石の設計者は磁石設計において材料と磁石の特性とをさらに最適化することができる。
【0034】
パッシブクエンチ構成は、磁石コイルの両端の電圧を利用してクエンチヒータに適用されてもよい。例えば、磁石の1つ以上のコイルの両端における20~30Vの電圧を抵抗によってスケーリングして、従来のクエンチヒータでクエンチを誘起するための適切な電圧を導出することができる。このように、導出された電圧は大きな機械的衝撃を表すものとして選定されてもよいし、機械的衝撃に応じてクエンチが受動的に伝搬するように、導出された電圧がスケーリングされてもよい。例えば、銅含有量を減らした超伝導線を選択したコスト最適化磁石設計が原因でパッシブクエンチが充分早く起こらない場合、磁石を保護するためにアクティブクエンチが必要となることがある。これによってシステムコストは減少するが、クエンチの発生時に配線が局所加熱に耐える能力も低下してしまう。局所加熱を低減するために、アクティブクエンチを高速で伝搬させてクエンチ中の最高温度を制限することもできる。
【0035】
例示の一実施形態において、閾値判定ステップが含まれる。例えば、閾値判定では、典型的には数ボルトの閾値をピーク時に超えるコイル電圧外乱の検出が要求されうる。これにより、機械的衝撃を、磁石システムに損傷を与えうる大きな衝撃として、または磁石システムに損傷を与えるおそれがない程度の衝撃として、クラス分類することができる。このような閾値判定は、上述の通り、導出された電圧に応じてクエンチが受動的に伝搬するように導出された電圧をスケーリングすることによって、受動的に実現することができる。代替的に、アクティブクエンチ伝搬構成において、コントローラに大きな衝撃の発生を示す閾値をソフトウェアまたはハードウェアの実装において設定することもできる。その後、このことに応じて、コントローラはクエンチの伝搬を開始することができる。
【0036】
パッシブクエンチ伝搬構成は、クエンチヒータ用のエネルギをコイル電流から引き出すことを必要とする。クエンチが開始されるまでには必然的に遅延があり、クエンチヒータの伝搬回路での電流の誘導が可能となるには、磁石の磁場の破壊が始まらなくてはならない。これは比較的緩慢なプロセスとなることがあり、クエンチ伝搬を開始するのに充分なエネルギをクエンチヒータが受信するまでに数百ミリ秒かかる。アクティブ伝搬により、大きなコイル電圧を検出することで機械的衝撃をほぼ瞬時に検出することができ、電流がきわめて急速にコントローラからクエンチヒータに供給されうる。これによって、クエンチはより急速に磁石を通って伝搬するので、クエンチコイルで到達される最高温度は低下する。
【0037】
一部の実施形態では、所定の持続時間、一般的には数ミリ秒の間、コイル電圧外乱が閾値を超えているかどうかを判定するために評価を行うことができる。このような基準は機械的衝撃の種類をカテゴリ分類するために用いられる。例えば、図2および図4のコイル外乱電圧の比較では、図2のコイル外乱は延長時間にわたって高いままなのに対し、図4のコイル外乱電圧が高い値に達しているのはごく短い時間である。
【0038】
ピークコイル電圧外乱値およびピークコイル電圧外乱値の持続時間といったパラメータを考慮して、磁石のクエンチを起こすべきかどうかを決定してもよい。
【0039】
図6は、意図的なクエンチの際の所定のタップポイント20での電圧、超伝導スイッチでの電圧、種々のコイル端子での電圧を示す。電圧変動は、機械的衝撃またはシステムへの磁気妨害によるどのような変動とも大きく異なりうる。
【0040】
本発明の所定の実施形態において、データ取得システム11は診断インタフェース10から情報を受信し、他のセンサからの入力も受信する。一例では、図7に概略的に示す通り、例えばMEMSセンサなどの振動センサ22を備えていてよく、診断インタフェース10と組み合わせて、システムが耐えうる衝撃の種類を識別する際にさらなる区別を追加するために使用できる。
【0041】
本発明のシステムおよび方法は、何らかの衝撃の検出または磁石システムの磁場に対する他の外乱を検出するには充分であるが、発生した可能性がある衝撃または他の事象の種類を推定するには人間の技術者の知見が必要となる場合がある。本説明では、例示の電圧および加速度の追跡を検討し、所定の典型的な特性を提示する。蓄積された知識とこのような例示の追跡との比較によって、技術者は、サービス依頼に応じて磁石システムから取得した所与の電圧および/または加速度の追跡によって示される衝撃の種類を推定することができる。データストレージメモリを設ける必要から、機械的衝撃を示すデータが保存されてもよい。一例では、ローリング短期記憶メモリが、全ての電圧および/または加速度のセンサデータを保存することができ、ローリング短期記憶メモリのコンテンツは、本発明の方法にしたがって、機械的衝撃または他の外乱の検出に応じて長期記憶メモリに保存することもできる。
【0042】
例えば、患者台のドッキングなどの小さな衝撃を受けることは、磁石システムにはきわめて当然のことである。重要なのは、このような日常的な衝撃とシステムに損傷を与えたはずの衝撃とを区別できることである。本明細書において提案する振動センサ22は、磁石システムが受けた衝撃の種類の区別にいて支援を行うことができる。MRIシステムの稼働中、立ち入りは綿密に監視される傾向がある。本発明は、MRIシステムが使用されていない場合に起こる事象の検出および記録の問題に対応している。当該基準は、傾斜磁場コイルが作動されていない場合に起こる衝撃事象のみを検出して分析する本発明の実施形態において具体化可能である。このような構成によって、検出されたコイル過渡電圧が傾斜磁場の作用によるものでないことも保証される。得られた電圧の特性によって、またはMRIシステムの稼働のタイミングに対するフィルタリングによって、患者台の操作から生じる衝撃の検出は除外されてもよい。どのような場合にも、患者台のドッキングで発生する衝撃による誘導電圧は、閾値より低いものとなりうる。所定の実施形態において、三軸センサを使用して機械的衝撃から生じる振動を検出してもよい。このような実施形態では、患者台の運動から生じる振動は区別可能でなくてはならない。
【0043】
大きな強磁性物体からの衝撃が、システムへの損傷をもたらす可能性が最も高い種類の衝撃である。こうした衝撃は、機械的衝撃および磁場との干渉の双方が原因となる大きな誘導電圧を有し、振動センサ22(図7)が対応して作動される衝撃としてカテゴリ分類される。強磁性とならないように設計された患者台のドッキングなど、通常作業からの衝撃は、当該衝撃の結果として、例えば磁石自体の低温50Kシールドを磁石懸架システムの制約内で移動させることによって、の電圧を誘導するのみであり、かなり低い誘導電圧を発生させる。発明者は、典型的には例えば10~20Vの低い電圧を発生させる木製ブロックを磁石システムにぶつける例において、発生した振動が対応する固有周波数で発振して減衰することを見出した。患者台のドッキングなどの事象は繰り返されることが多い。三軸動作検出器を使用する場合、患者台のドッキング動作は、常に1つの特定の軸で強力なピークを示す。
【0044】
別の事象として、通常の操作においては、MRIシステムの傾斜磁場コイルによって発生する様々な磁場が磁石コイル内で電圧を誘導する。しかしながら、これらの電圧は通常約20Vなどのより低い電圧となっており、磁石の中心線の両側で発生した等しい逆方向の電圧によって特徴付けられるため、合計するとゼロとなる。したがって、誘導電圧を分析することにより、これらの事象を識別でき、機械的衝撃または外部物体からの磁気的衝撃のいかなる分析からも除外できる。
【0045】
本発明の所定の実施形態において、独立した電源24(図1図7)をデータ取得システム11に設けることもできる。この場合、所定の実施形態で使用される振動センサ22は、磁石の磁場による物体の引き寄せによるものでない、磁石への通電を遮断した状態での移動中に衝突事象のデータロギングを可能とする。磁石が磁場に移動された場合、充分に説明した本発明の診断インタフェースを使用することができ、タップポイント20両端の電圧18を測定することによっていかなる機械的衝撃も記録される。
【0046】
上記のデータ取得システム11および診断インタフェース10は、単独のソリューションとして実現してもよいし、Magnet Supervisory(MSUP)として知られる制御システムの一部として統合されていてもよい。
【0047】
本発明の診断インタフェース10およびデータ取得システム11を磁石システムに追加するコストは、推定で約60ユーロである。金銭的な利益に関して、発明者は、上記の診断インタフェースが全てのMRIシステムに適応し、検出された衝撃が保証条件外の事象に起因するかどうかの判定に使用される場合、不当な保証請求にかかる年間何千ユーロもの金額を節約できると推定している。近傍の物体からのイメージング磁場との干渉などに起因した損傷が発生していない場合にも、不当な保証サービス訪問の費用を回避できる可能性がある。
【0048】
そのため、本発明は、診断インタフェース10および超伝導磁石においてタップポイント20での電圧変動を示すデータを記録できるデータ取得システム11を備える異常検出システムを提供する。電圧変動を表すデータはデータログとして保存されてよく、プロセッサが電圧変動の原因を識別するためにデータを分析することができる。すなわち、典型的には、当該原因は、
‐閾値を超える質量の物体からの大きな機械的衝撃、
‐閾値を超えない質量の物体からの大きな機械的衝撃、
‐日常的な機械的衝撃、または
‐近隣の物体に起因する磁場における、機械的衝撃を発生させない干渉、
として識別される。
【0049】
このような異常のクラス分類は、検出された電圧変動の特性を評価することによって行われうる。例えば、コイル電圧および/または加速度センサなどの他の特性を表すデータを訓練された技術者が評価し、発生した機械的衝撃または他の異常についての可能性の高い種類を推定することができる。以下に述べる適切な試験基準にしたがって、この評価の一部を自動化することもできる。機械振動センサなどの補助センサによって、さらなる識別を行うこともできる。
【0050】
衝撃のこのようなクラス分類は、事象を区別するための適切な信号処理をともなって行われうる。所定の実施形態では、コイル外乱電圧検出システムのピークが、例えば約30Vの閾値を、所定の時間、例えば数ミリ秒にわたって上回る場合、予想される機械的衝撃または他の異常の検出を開始することができる。このような検出は単一または複数のコイルを参照して行うことができる。検出された波形を表すデータを分析のために収集してもよい。所定の実施形態では、複数の検出ポイントを選択して意図的なクエンチを開始してもよい。
【0051】
波形データが捕捉された後、データをMRIシステムの製造者または他のサービス業者に、通常インターネットを介してまたは携帯電話網によって返送してもよい。代替的に、サービス訪問の際のデータへのアクセスも可能である。
【0052】
この場合、データ分析が行われ、例えば、
‐電圧ピークの規模、または加速度、または他の測定された特性、
‐ピーク信号および急速な減衰によって特徴付けられる、一端における衝撃の性質、
‐ピーク過渡事象に続く所定の持続期間の持続レベルによって特徴付けられる、磁石のボアに引き込まれる物体の指標、
‐強い基本周波数の周期信号によって特徴付けられる、ボアへの取り付け前の磁石の一端から他端までの振動を示す磁石のボアに入る物体の指標、
により、発生した異常の種類を識別することができる。
【0053】
例示の試験では、導出されたコイル電圧のピーク値を測定し、当該ピーク値と、導出されたコイル電圧が機械的衝撃に応じて最初に閾値を横切る時点から、導出されたコイル電圧が機械的衝撃に応じて最後に閾値を横切る時点までに経過した時間の長さとを比較する。例えば、図10Aは、磁石システムの端部にぶつかる大きな物体(ここではガスシリンダなど)の場合に得られる典型的なコイル外乱電圧を示す。大きな初期電圧が発生し、外乱電圧における振動が急激に低レベルに下がっている。一方、図10Bは、本明細書において説明した車椅子の場合のような、より長い衝撃を表している。より小さな初期コイル外乱電圧が発生し、コイル外乱電圧における振動は、低レベルに下がるまでより長い時間継続している。図10Cは、コイル外乱電圧のフーリエ解析結果を表しており、基本周波数の比較的大きな規模が示されている。このような結果によって、磁石のボアに入り込む、ボアへの取り付け前に磁石の一端から他端までの振動を示す物体が示される。フーリエ解析は、強い基本周波数の周期信号を示している。
【0054】
所定の閾値を超えるコイル外乱電圧における過渡事象の数をカウントし、その周期を測定して初期評価を行うことによって、「発生した可能性がある磁石への衝撃」のラインに沿った相対的に粗い指標を検出することができる。当該評価は、適切な訓練を受けた技術者が行ってもよい。より自動的なアプローチとして、波形データの自動パターンマッチングが行われてもよい。
【0055】
ユーザが、製造者または磁石システムの修理またはサービスの他のサポート業者に連絡した場合、製造者または他のサポート業者は記録したデータを検証して、修理またはサービスの要請が必要となるような何らかの機械的または磁気的事象が磁石システムに起こったかを調査することができる。典型的には、磁石システムが大きな機械的衝撃を受けていることを示すデータが記録されている場合、これによって発生した修理またはサービス作業は保証の対象にならない。代替的に、磁石システムで磁場に干渉する物品が接近することで磁場に外乱が発生したことを示すデータが記録されている場合、オペレータにその問題を説明し、磁場に外乱を発生させる物品を識別して取り除いてもらうことでサービス訪問を回避することもできる。
【0056】
本発明の診断インタフェースおよびデータ取得システムは、電圧変動およびタップポイントおよび/または機械的衝撃を表す、取得した信号の適切な分析を行う。このような分析によって、例えばMRIシステムに物体が衝突したと判定できる。衝撃の規模を推定し、サービス訪問計画に備えて、起こりうる損傷を推定してもよい。このシステムの利点は、製造者または他のサービス業者への不必要な金銭的損失が最小限になるように、保証またはサービス請求について製造者との摩擦を適切に解消できることである。
【0057】
図8は、10kgの軟鋼棒の衝撃による、検出されたコイル外乱電圧を示す。当該棒は超伝導磁石のボアに入り、図4で説明した4kgの棒と同様に磁石と反応するが、誘導電圧ははるかに大きくなっている。当該例では、コイル電圧外乱のピークは100Vを超えている。
【0058】
図9は、60kgのガスシリンダの衝撃による、検出されたコイル外乱電圧を示す。ガスシリンダは大きすぎて磁石のボアには入らず、磁石の軸端面にぶつかる。最初の衝撃の後、ガスシリンダの変形は持続しないが、図2で説明した車椅子とほぼ同様に反応する。その結果、過渡電圧の持続時間はより短いが、誘導電圧ははるかに大きくなっている。シリンダは大きすぎて磁石のボアには入らないため、磁石を収納している真空容器にぶつかってすぐに止まる。当該例では、コイル電圧外乱のピークは1200Vを超えている。
【0059】
図9のガスシリンダの例における衝撃は、追跡の最後に持続的に上昇するコイル電圧からわかるように、磁石クエンチを誘導している。
【0060】
本発明を、MRIシステムで使用する超伝導磁石に関連して詳細に説明したが、本発明を他の種類のシステムの超伝導磁石、実際には抵抗コイルを使用する磁石と共に利用してもよい。
【0061】
例示の所定の実施形態について説明したが、重要なのは、検出および閾値が磁石システムごとに異なることである。そのため、対象の磁石システムに応じて、本発明の検出システムに較正が必要となる。対象の磁石システムの共振周波数におけるコイル外乱電圧振動に対して、電圧閾値レベルを求めなければならない。このことは、任意の所与のシステムに対して、実験により、つまり、小さな電圧から電圧を測定して、要求される閾値物体質量まで電圧を大きくしていき、誘導電圧に応じて閾値を設定するようにして行われてもよい。
【0062】
好ましくは、本発明の方法は、磁石システムが適応閾値を使用して異常の種類を区別する方法を含む。ここで言う「適応閾値」は、測定される電圧の規模によって求められる値を有する閾値を意味する。例えば、コイル外乱電圧のピーク値を測定してもよく、この場合、閾値はピーク値の比率として設定される。コイル外乱電圧のピーク値を測定してもよい。適応閾値は、例えばピーク値の30%に設定されてよく、コイル外乱電圧が適応閾値を超える最初の時点からコイル外乱電圧が適応閾値を超える最後の時点までの期間を測定してもよい。本明細書において「適応閾値期間」と称する期間を、ピークコイル外乱電圧の絶対値および絶対閾値と併用して、衝撃のクラス分類の幾らかの自動化を行うことができる。一例では、クラス分類方法は、次のように進められる。コイル外乱電圧が、時間閾値を超える時間にわたって絶対閾値(例えば30V)を超える場合、関連コイル外乱電圧の評価を開始しうる。ピーク外乱電圧の絶対値は、検出された衝撃のクラス分類に使用される1つの特性である。上述の通り、例示の構成では、重くて硬い物体による衝撃のコイル外乱電圧は100Vを超える。これは、より軽い物体および/またはより柔らかい物体による衝撃についての、はるかに低い40~50Vのピーク電圧に比較される。100Vのピークコイル外乱電圧が測定される場合、30%の適応閾値を設定することができ、この場合は30Vとなる。その後、「適応閾値期間」を測定しうる。上述の通り、例示の構成では、重くて硬い物体による衝撃の適応閾値期間は比較的短く、例えば25msとなる。これは、より軽い物体および/またはより柔らかい物体による衝撃についての、はるかに長い180msの適応閾値期間に比較される。
【0063】
図2図4図8図9の例示のコイル外乱電圧を、例として以下に示す。
【0064】
図2は、15kgの車椅子の衝撃による、コイル外乱電圧を示す。当該電圧は、約620msの時点で初めて外乱電圧の30Vの絶対閾値を横切る。これにより、外乱電圧波形の評価を開始しうる。ピーク外乱電圧は約42Vであるため、30%の適応閾値を12.6Vに設定しうる。図示の通り、それぞれのコイルで逆方向の電圧を検出される可能性があるため、閾値をそれぞれ±12.6Vと±30Vに設定するのがより適切である。±12.6Vの適応閾値を最初に約590msで横切り、最後に約730msで横切るので、適応閾値期間は140msとなる。適応閾値期間に対するピーク外乱電圧の比は、42/0.140V/s=300V/sと計算されうる。
【0065】
図4は、4kgの軟鋼棒の衝撃によるコイル外乱電圧を示す。当該電圧は、約605msの時点で初めて外乱電圧の30Vの絶対閾値を横切る。これにより、外乱電圧波形の評価を開始しうる。ピーク外乱電圧は約70Vであるため、30%の適応閾値として21Vを設定しうる。図示の通り、それぞれのコイルで逆方向の電圧を検出される可能性があるため、閾値をそれぞれ±21Vと±30Vに設定するのがより適切である。±21Vの適応閾値を最初に約602msで横切り、最後に約615msで横切るので、適応閾値期間は13msとなる。適応閾値期間に対するピーク外乱電圧の比は、70/0.013V/s=5384V/sと計算されうる。
【0066】
図8は、10kgの軟鋼棒の衝撃によるコイル外乱電圧を示す。当該電圧は、約610msの時点で初めて外乱電圧の30Vの絶対閾値を横切る。これにより、コイル外乱電圧波形の評価を開始しうる。ピーク外乱電圧は約180Vであるため、30%の適応閾値を54Vに設定しうる。図示の通り、それぞれのコイルで逆方向の電圧を検出される可能性があるため、閾値をそれぞれ±54Vと±30Vに設定するのがより適切である。±54Vの適応閾値を最初に約650msで横切り、最後に約940msで横切るので、適応閾値期間は290msとなる。適応閾値期間に対するピーク外乱電圧の比は、180/0.290V/s=621V/sと計算されうる。
【0067】
図9は、60kgのスチールガスシリンダの衝撃によるコイル外乱電圧を示す。当該電圧は、約570msの時点で初めて外乱電圧の30Vの絶対閾値を横切る。これにより、コイル外乱電圧波形の評価を開始しうる。ピーク外乱電圧は約120Vであるため、30%の適応閾値を36Vに設定しうる。図示の通り、それぞれのコイルで逆方向の電圧を検出される可能性があるため、閾値をそれぞれ±36Vと±30Vに設定するのがより適切である。±36Vの適応閾値を最初に約570msで横切り、最後に約610msで横切るので、適応閾値期間は40msとなる。適応閾値期間に対するピーク外乱電圧の比は、120/0.040V/s=3000V/sと計算されうる。
【0068】
測定される可能性があるもう1つの特性は、適応閾値期間のうち、コイル外乱電圧が適応閾値を超える割合である。図2の車椅子の例では、適応閾値期間の大きな割合でコイル外乱電圧が適応閾値を超えている。図8の10kgの軟鋼棒の例では、適応閾値期間の非常に小さな割合でコイル外乱電圧が適応閾値を超えている。
【0069】
当該特性、すなわち
‐ピーク外乱電圧、
‐適応閾値期間、
‐適応閾値期間に対するピーク外乱電圧の比、
‐適応閾値期間のうち、コイル外乱電圧が適応閾値を超える割合、
が、検出された異常、特に機械的衝撃の特性を求めるために用いられうる。
【0070】
加速度センサなどの他のセンサからの出力が、異常の特性を求める際に用いられてもよい。
【0071】
各磁石のために、絶対電圧閾値および時間閾値を適切に選ばなくてはならない。閾値を実験的に求めてもよいが、選択された物体の衝撃によって発生した外乱電圧を測定することによって、当業者に周知のコンピュータモデリングシステムのうちの1つを用いて適切な絶対電圧を導出することが好ましい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C