(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】小型回折限界近赤外(NIR)分光器および関連する検出器
(51)【国際特許分類】
G01J 3/18 20060101AFI20230710BHJP
G01J 3/36 20060101ALI20230710BHJP
A61B 3/10 20060101ALI20230710BHJP
G02B 13/14 20060101ALN20230710BHJP
【FI】
G01J3/18
G01J3/36
A61B3/10 100
G02B13/14
(21)【出願番号】P 2021530992
(86)(22)【出願日】2019-11-22
(86)【国際出願番号】 US2019062737
(87)【国際公開番号】W WO2020112521
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-06-22
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501226778
【氏名又は名称】ライカ マイクロシステムズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Leica Microsystems Inc.
【住所又は居所原語表記】1700 Leider Lane, Buffalo Grove, IL 60089, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ロバート エイチ. ハート
(72)【発明者】
【氏名】ペーター シュトローベル
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0014081(US,A1)
【文献】特開2016-197169(JP,A)
【文献】特開平08-145794(JP,A)
【文献】特開2010-035949(JP,A)
【文献】特開2009-128607(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0262720(US,A1)
【文献】特開2004-191244(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0242988(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0331225(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0030483(US,A1)
【文献】Demonstration and design of acompact diffraction limited spectrograph,Proc. SPIE,2012年09月24日,Vol.8446,84463,doi:10.1117/12.925824
【文献】Design of a aberration-corrected VIS-NIR imaging spectrograph,OPTICS COMMUNICATIONS,2007年,272,330-335,doi:10.1016/j.optcom.2006.11.047
【文献】Four-element lens systems of the Cooke Triplet family: designs,APPLIED OPTICS,1980年03月01日,Vol.19, No.5,pp.698-701
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - A61B 3/18
G01J 3/00 - G01J 4/04
G01J 7/00 - G01J 9/04
G02B 9/00 - G02B 17/08
G02B 21/02 - G02B 21/04
G02B 25/00 - G02B 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光器システムであって、前記分光器システムは、
検出器アレイ(220;320;420)と、
前記検出器アレイに接続されたイメージングレンズアセンブリ(327)であって、正の屈折力の第1素子(336:436)、前記第1素子(336:436)に続く負の屈折力の第2素子(333;433)、および対向する同一の2つのシングレットに分解された正の屈折力の素子(325;425)を含むイメージングレンズアセンブリ(327)と、
前記イメージングレンズアセンブリに接続された分散素子(345;445)と、
前記分散素子に接続された固定焦点コリメータアセンブリ(260;360)と、
を有する分光器システム。
【請求項2】
前記分光器システムは、セルハウジング(326)をさらに有し、前記イメージングレンズアセンブリは、前記セルハウジングに配置されている、
請求項1記載の分光器システム。
【請求項3】
前記分光器システムは、熱膨張係数の小さい材料から成る分光器ハウジングをさらに有し、前記イメージングレンズアセンブリは、前記分光器ハウジングに配置されている、
請求項1また2記載の分光器システム。
【請求項4】
負の屈折力の前記第2素子は、視野絞りとしても機能する、
請求項1から3までのいずれか1項記載の分光器システム。
【請求項5】
前記分散素子は、回折格子であり、
前記固定焦点コリメータアセンブリは、熱膨張係数の小さい一片の材料を有し、
前記一片の材料により、前記回折格子用の格子取付機能と、コリメーティングレンズアセンブリ(353)用のコリメーティングレンズ取付機能と、の両方が提供される、
請求項1から4までのいずれか1項記載の分光器システム。
【請求項6】
前記コリメーティングレンズアセンブリは、第1の負の屈折力の素子(365)と、前記第1の負の屈折力の素子(365)に続く第2の正の屈折力の素子(355)と、を含み、これにより、固定焦点のコリメートされた光が、光放射入力ファイバから、前記コリメートされた光に対して相対的に固定の角度で支持された前記回折格子に供給される、
請求項5記載の分光器システム。
【請求項7】
前記一片の材料は、入力ファイバ用の固定式の取付機能をさらに有し、前記固定焦点コリメータアセンブリは、分光器ハウジングに固定されており、前記分光器ハウジングは、前記固定焦点コリメータアセンブリと同じ熱膨張係数の小さい一片の材料から機械加工される、
請求項5または6記載の分光器システム。
【請求項8】
波長分散光放射は、225mmを下回る全体光路長を有する、前記検出器アレイへの法線入射である、
請求項1から7までいずれか1項記載の分光器システム。
【請求項9】
前記分光器システムは、小型回折限界近赤外(NIR)分光器を有する、
請求項1から8までのいずれか1項記載の分光器システム。
【請求項10】
前記分光器システムは、10μmの検出器ピクセル幅および223mmの短い光路長を有する、
請求項1から9までのいずれか1項記載の分光器システム。
【請求項11】
近赤外(NIR)分光器に使用されるイメージングレンズアセンブリであって、前記イメージングレンズアセンブリは、
正の屈折力の第1素子と、
負の屈折力の第2素子と、
対向する同一の2つのシングレットに分解される正の屈折力の素子と、
を有し、
前記第1素子に前記第2素子が続き、次に前記正の屈折力の素子が続く、
イメージングレンズアセンブリ。
【請求項12】
前記イメージングレンズアセンブリは、セルハウジングをさらに有し、前記イメージングレンズアセンブリは、前記セルハウジングに配置される、
請求項11記載のイメージングレンズアセンブリ。
【請求項13】
前記イメージングレンズアセンブリは、分光器ハウジングに配置されており、前記分光器ハウジングは、熱膨張係数の小さい材料から構成されている、
請求項11または12記載のイメージングレンズアセンブリ。
【請求項14】
負の屈折力の
前記第2素子は、視野絞りとしても機能する、
請求項11から13までのいずれか1項記載のイメージングレンズアセンブリ。
【請求項15】
前記分光器は、小型回折限界近赤外(NIR)分光器を有する、
請求項11から14までのいずれか1項記載のイメージングレンズアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年11月29日に出願された米国仮出願第62/772754号明細書の優先権を主張するものであり、その内容は参照により、その全体がここに組み込まれるものである。
【0002】
本発明概念は、イメージングに関し、より具体的にはスペクトラルドメイン光干渉トモグラフィ(SDOCT:Spectral Domain optical coherence tomography)システムおよび関連する装置に関する。
【背景技術】
【0003】
光干渉トモグラフィ(OCT:Optical coherence tomography)は、光波数に依存し、固定された群遅延で試料光と参照光とを混合することによって生成される干渉信号を取得することによって、生体試料の顕微トモグラフィ切り出しを行う非侵襲性のイメージング技術である。フーリエドメインOCT(FD-OCT)アプローチを使用する異なる2つの手法が開発されている。一般にスペクトルドメインまたは分光器ベースのOCT(SDOCT:Spectral-domain OCT)と称される第1の手法では、広帯域光源が使用され、検出器アームにおける分散型分光器によってスペクトル弁別が実現される。一般に波長掃引型OCT(SSOCT:swept-source OCT)または光周波数領域イメージング(OFDI:optical frequency-domain imaging)と称される第2の手法では、広い光学帯域幅を通して、狭帯域源を高速に調整することによって波数が時間符号化される。
【0004】
FDOCTの分光器ベースの実装は、光源および検出モジュールが受動的であるため、位相が安定するという考えられ得る利点を有する。しかしながら、実践的には、高解像度イメージング用の分光器ベースの設計が、いくかの欠陥を有することが判明した。高解像度分光器は、広い焦平面にわたってほぼ一定の拡大イメージングを提供する光学系を備えた高分散素子に依拠している。所望の結果を達成するために透過型体積位相ホログラムまたは反射型エシェル回折格子を使用する光学設計は、よく知られており、多くの実験装置に使用されている。
【0005】
しかしながらメーカに判明したのは、比較的製造が容易でありかつ環境変動に直面しても受動的に安定である分光器を開発するのが困難であるということである。環境的な安定性の課題に対して提案されている解決手段は、Wei等によるFourier-domain Optical Coherence Tomography Imagerという名称の米国特許第7480058号明細書に述べられており、その内容は、その全体が本明細書において説明されているかのように、参照によって組み込まれるものとする。そこで述べられているシステムは、分光器の特性を最適化するために、能動的に制御される折り返しミラーを使用して位置合わせを連続して調整する能力を有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明概念のいくつかの実施形態により、検出器アレイと、正の屈折力の第1素子、これに続く負の屈折力の第2素子、および対向する同一の2つのシングレットに分解された正の屈折力の素子を含みかつ検出器アレイに接続されたイメージングレンズアセンブリと、イメージングレンズアセンブリに接続された分散素子と、分散素子に接続された固定焦点コリメータアセンブリと、を含む分光器システムが提供される。
【0007】
別の実施形態において、システムはさらにレンズセルハウジングを含み、イメージングレンズアセンブリは、レンズセルハウジングに配置可能である。
【0008】
さらに別の実施形態において、システムはさらに、熱膨張係数の小さい材料から成る分光器ハウジングを含んでいてよい。イメージングレンズアセンブリは、分光器ハウジングに配置可能である。
【0009】
いくつかの実施形態において、負の屈折力の第2素子は、視野絞りとしても機能することが可能である。
【0010】
別の実施形態において、分散素子は、回折格子であってよく、固定焦点コリメータアセンブリは、熱膨張係数の小さい一片の材料を含んでいてよく、一片の材料により、回折格子用の格子取付機能と、コリメーティングレンズアセンブリ用のコリメーティングレンズ取付機能との両方を提供可能である。
【0011】
さらに別の実施形態において、コリメーティングレンズアセンブリは、第1の負の屈折力の素子と、これに続く第2の正の屈折力の素子とを含んでいてよく、これにより、コリメートされた光が、光放射入力ファイバから、コリメートされた光に対して相対的に固定の角度で支持された回折格子に供給される。
【0012】
いくつかの実施形態において、一片の材料はさらに、入力ファイバ用の取付機能を含んでいてよく、固定焦点コリメータアセンブリは、分光器ハウジングに固定可能である。分光器ハウジングは、固定焦点コリメータアセンブリと同じ熱膨張係数の小さい一片の材料から機械加工されてよい。
【0013】
別の実施形態において、波長分散光放射は、225mmを下回る全体光路長を有する、検出器アレイへの法線入射であってよい。
【0014】
さらに別の実施形態において、分光器システムは、小型回折限界近赤外(NIR)分光器であってよい。
【0015】
いくつかの実施形態において、システムは、10μmの検出器ピクセル幅および223mmの短い光路長を有していてよい。
【0016】
本発明概念の別の実施形態により、近赤外(NIR)分光器に使用されるイメージングレンズアセンブリが提供される。イメージングレンズアセンブリは、正の屈折力の第1素子と、負の屈折力の第2素子と、対向する同一の2つのシングレットに分解される正の屈折力の素子と、を有し、第1素子に第2素子が続き、次に正の屈折力の素子が続く。
【0017】
本発明概念のさらに別の実施形態により、近赤外分光器に使用される固定焦点コリメータアセンブリが提供される。固定焦点コリメータアセンブリには、熱膨張係数の小さい一片の材料が含まれており、一片の材料により、分光器の回折格子用の格子取付機能と、コリメーティングレンズアセンブリ用のコリメーティングレンズ取付機能との両方が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】従来の眼科用フーリエドメイン光干渉トモグラフィ(OCT:optical coherence tomography)システムを示す図である。
【
図2】本発明概念のいくつかの実施形態による小型近赤外(NIR)分光器のアイソメトリック図である。
【
図3】本発明概念のいくつかの実施形態による小型NIR分光器の破断図である。
【
図4】本発明概念のいくつかの実施形態による100nmの帯域幅の小型NIR分光器についての光学配置を示す図である。
【
図5】本発明概念のいくつかの実施形態による100nmの帯域幅の小型NIR分光器の光学・機械設計を示す図である。
【
図6A】本発明概念のいくつかの実施形態によるレイトレースを示す図である。
【
図6B】本発明概念のいくつかの実施形態にしたがい、エアリーディスク直径内のすべての光線によって定められる回折限界性能を示すスポットダイヤグラムである。
【
図6C】本発明概念のいくつかの実施形態にしたがい、エアリーディスク直径内のすべての光線によって定められる回折限界性能を示す別のスポットダイヤグラムである。
【
図6D】本発明概念のいくつかの実施形態にしたがい、エアリーディスク直径内のすべての光線によって定められる回折限界性能を示すさらに別のスポットダイヤグラムである。
【
図6E】本発明概念のいくつかの実施形態にしたがい、エアリーディスク直径内のすべての光線によって定められる回折限界性能を示すさらに別のスポットダイヤグラムである。
【
図6F】本発明概念のいくつかの実施形態にしたがい、エアリーディスク直径内のすべての光線によって定められる回折限界性能を示すさらに別のスポットダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明概念の実施形態が示されている添付の図を参照して、本発明概念をより完全に説明する。しかしながらこの発明概念は、択一的な多くの形態で実現可能であり、ここで説明される実施形態に限定されるものとして解釈すべきでない。
【0020】
したがって本発明概念には、さまざまな変更および択一的な実施形態が可能であるが、そのいくつかの特定の実施形態が、実施例として図面に示されており、以下ではこれらを詳細に説明する。しかしながら、開示された特定の形態に発明概念を限定することは意図されておらず、逆に発明概念には、すべての変更形態、等価形態、特許請求の範囲によって定められる発明概念の精神および範囲内に入る択一的な形態が含まれ得ることを理解されたい。同様の参照符号は、図の説明を通して同様の要素を示す。
【0021】
ここで使用される用語は、特定の実施形態を説明することだけを目的としており、発明概念を限定する意図はない。ここで使用される単数形「1つの(不定冠詞a)」、「1つの(不定冠詞an)」および「その(定冠詞the)」は、文脈において明に別に示されていない限り、複数形も同様に含むことを意図している。さらに「有する」、「有している」、「含む」および/または「含んでいる」という語がこの明細書において使用される場合、提示された機能、整数、ステップ、演算、素子および/またはコンポーネントが存在することを規定するが、1つまたは複数の別の機能、整数、ステップ、演算、素子、コンポーネントおよび/またはこれらから成るグループが存在することまたはこれが付加されることを除外するものはではないことを理解されたい。さらに素子が、別の素子に「応じて」または「接続されている」と称される場合、この素子は、この別の素子に直接に応じてまたは接続されていてよく、または介入する複数の素子が存在してもよい。これに対し、素子が、別の素子に「直接に応じて」または「直接に接続されている」と称される場合、介入する素子は存在しない。本明細書で使用されるように、用語「および/または(かつ/または)」は、関連する記載項目のうちの1つまたは複数の項目のあらゆるすべての組み合わせを含んでおり、「/」として略記されることがある。
【0022】
特に別の定義がなされない限り、本明細書で使用される(技術用語および科学用語を含めた)すべての用語は、本発明概念が属する技術分野における通常の知識を有するものによって一般に理解されるのと同じ意味を有する。さらに、本明細書で使用される用語は、本明細書および関連する技術分野の文脈におけるそれらの意味に一致する意味を有すると解釈すべきであり、本明細書で特に定義されない限り、理想化されて解釈されるかまたは過度に形式的に解釈されるべきでないことを理解されたい。
【0023】
用語の第1、第2等は、本明細書において種々異なる素子を表すために使用されることがあるが、これらの素子は、これらの用語によって限定されるべきでないことを理解されたい。これらの用語は、1つの素子と、別の1つの素子とを単に区別するために使用される。例えば、本開示の教示から逸脱することなく、第1素子は、第2素子と称することも可能であり、また同様に第2素子は、第1素子と称することも可能である。いくつかの図には、通信の主要な方向を示すために通信パス上に矢印が含まれるが、描画された矢印とは逆方向に通信が行われてもよいことを理解されたい。
【0024】
本願の背景技術において述べたように、分光器ベースの実装により、多くの利点が提供されるが、これらの実装の改善がさらに望まれる。例えば、上述のように、比較的製造が容易でありかつ環境変動に直面しても受動的に安定である分光器が求められる。本明細書のいくつかの実施形態にしたがい、堅固に固定される検出器アレイに結合される、機械的に安定な光学設計を有する一解決手段を述べる。
【0025】
イメージング深度にわたって高感度を実現しかつ信号の減退を少なくする、最善のOCTイメージング性能のために、回折限界光学性能で分光器を設計する。回折限界イメージングと、小型の検出器サイズとが組み合わさることにより、分光器に対し、極めて困難な機械的安定性の問題が生じ、時間と共に画像品質が結果的に劣化してしまうことが多い。この問題は、特に移動式イメージングシステムにおいてよくあることである。例えば、Bioptigen社製のハンドヘルド型OCTは、小児患者、拘束患者、または虚弱患者の眼科イメージング用の、患者が卓上型機器の前に座る必要のない最初の小型システムであり、このシステムは、本発明の譲渡人に譲渡された米国特許第8421855号明細書に述べられており、その内容は、その全体が本明細書において説明されているかのように参照によって組み込まれるものとする。
【0026】
本明細書において
図1~
図6Fに関してさらに述べるように、本発明概念のいくつかの実施形態により、最善のOCT画像に必要な光学性能および長期間の位置合わせ安定性を実現し、結果的に改善された全体システム品質を生じさせる分光器が提供される。
【0027】
特に、既存の分光器は、14μmピクセルサイズを有する2列の2048ピクセルリニアアレイをベースに設計されており、このリニアアレイにより、一般に28μmの合計ピクセル高さが結果的に得られ、このピクセル高さに、分光器画像が位置合わせされ、分光器の寿命にわたり、移送、連続使用および例えば手術室間の頻繁の再配置が行われても、位置合わせ状態に留まらなければならない。これにより、結果的に品質問題になり得る位置合わせ安定性に極めて困難な機械的要求が課される。既存の分光器では、機械的位置合わせの負担のいくつかを軽減することを目的として検出器を過充填するために焦点距離の長い、非回折限界光学設計が使用されるが、これには性能のトレードオフが伴う。結果的に光路長は375mmになり、これは依然として、時間およびシステムの頻繁な再配置に伴う位置合わせエラーの影響を受けやすい。さらに、慣用の卓上型設計のシステムは、ある場所から別の場所に容易に移動することはできず(すなわち移動用ではない)、したがって目標とされるOCT市場にこのシステムを使用できないようにしてしまう。
【0028】
新たな検出器技術により、ピクセル高さにおいて7倍の優位性を有するが0.7倍のピクセル幅を有するピクセルを提供することにより、分光器の光学位置合わせについての機械的な制約を緩和することが可能である。ピクセル幅の減少は、結果的に光学画像幅の減少に結び付く。したがって、新たな検出器設計を適切に利用し、OCTシステム分光器に対して最大限の光学性能を達成するために、本発明概念の複数の実施形態により、回折限界設計が提供される。
【0029】
特に、本発明概念の実施形態により、より高い機械的安定性のために10μm検出器ピクセル幅と、223mmの短い光路長とに基づく真の回折限界設計が提供される。以下で述べられるように、本発明概念のいくつかの実施形態において、
図1~
図6Fに関してさらに以下に述べるように、光学設計は、ポインティング安定性を改善する組み込み式回折格子を有するエアースペース型アクロマティックコリメータと、分解された複数の正の素子を有するエアースペース型トリプレットフォームファクタイメージングレンズアセンブリとから構成される。
【0030】
本発明において提供される実施例では、100nmの帯域幅の分光器について述べられているが、本発明概念の実施形態は、この構成に限定されないことを理解されたい。当業者には理解されるように、本発明概念の態様は、本発明概念の範囲から逸脱することなく、種々異なる分光器に使用可能である。さらに、本発明概念の実施形態は、本発明においてNIRスペクトルに関して述べられているが、本発明概念の実施形態は、これに限定されない。電磁スペクトルの別の領域も、本発明概念の範囲を逸脱することなく扱うことが可能である。
【0031】
本発明で使用される「光路長」とは、非空気光学素子に対する屈折率を含めた、光が走行する物理的な経路のことをいい、「焦点距離」とは、レンズ表面から、周辺光線がレンズの光軸に交わる点への距離のことをいい、「軸方向色シフト」とは、光の波長に対して相対的な焦点距離における変化のことをいい、「ペッツバール像面湾曲」とは、レンズまたはレンズアセンブリの光軸に対する接線の方向のフィールド位置に対して相対的な、レンズまたはレンズアセンブリの焦点距離の変化のことをいう。
【0032】
図1を最初に参照して、慣用のフーリエドメイン光干渉トモグラフィ(FDOCT:Fourier domain optical coherence tomography)眼科用イメージングシステムを示すブロック図について述べる。
図1に示したように、このシステムは、光源パス101に沿ってビームスプリッタ104に向けられた広帯域光源100を有し、光源からの放射は、参照パス105と試料パス107とに分解される。参照光は、参照反射装置106を通り、ビームスプリッタ104を介して戻り、参照光は、眼111の網膜のような試料から戻される光と混合される。合成波長に依存するインターフェログラムは、検出パス103を介して検出モジュール102に向けられる。合成されたスペクトルインターフェログラムは、フーリエ変換を使用して処理され、空間領域深さ分解画像が導出される。
【0033】
時間インターフェログラムを取得するために、参照ミラーにより、対象の画像についての関心の深さ範囲に適合する範囲を時間と共に走査する時間領域OCTシステムとは異なり、FDOCTシステムにより、対象を基準にした目標軸位置に適合する経路長である固定参照位置113から、空間インターフェログラムが取得される。空間インターフェグラムには、ウィンドウ114内のすべての深さについての情報が含まれる。このウィンドウは、この技術分野において公知のように検出のパラメータによって定められる。走査サブシステム108には、一対の走査ガルバノミラー109と、集束機能を有する対物レンズセット110と、が含まれている。後に続くイメージング、または網膜、眼科用イメージングのために、走査されたOCTビームは、網膜をイメージングするために眼112の瞳を通して向けられる。FDOCTシステムには、広帯域掃引周波数光源を使用した空間情報の順次の取得、また広帯域低コーヒレンス光源および分光器を使用した空間情報の並列な取得、またはこれらの手法の組み合わせが含まれていてよい。分光器ベースのシステムは、空間領域光干渉トモグラフィ(SDOCT:spectral domain optical coherence tomography)と称され、掃引光源システムは、掃引光源OCT(SSOCT: swept source OCT)と称される。
【0034】
本発明概念の実施形態は、分光器ベースのシステムに向けられている。
図2を参照すると、ここでは本発明概念のいくつかの実施形態による小型近赤外(NIR)分光器のアイソメトリック視を示す図について述べられている。
図2に示されているように、分光器システム200には、検出器アレイ220と、検出器アレイインタフェース230と、検出器アレイ取付部240と、分光器本体部250と、固定焦点コリメータアセンブリ260と、光放射入力ファイバコネクタ270と、が含まれている。
【0035】
検出器アレイインタフェース230により、光軸に対して相対的にサジタル方向に直線的な調整が行われる。検出器アレイ取付部240により、光軸の周りの回転調整と、焦点調整のための光軸に沿った平行移動と、が行われる。さらに、固定焦点コリメータアセンブリ260は、格子取付機能とコリメートレンズ取付機能との両方を実現する一片の材料である。いくつかの実施形態において、この一片の材料は、ステンレス鋼のような熱膨張係数の小さい材料である。しかしながら本発明概念の実施形態は、熱膨張係数の小さい材料に限定されるものではない。
【0036】
熱膨張とは一般に、温度の変化に応じて材料の大きさがわずかに変化することをいう。熱膨張係数とは、圧力を一定に保ったままで、ある特定の温度、ふつうは0度において温度が1度上昇する毎に材料の長さ、面積または体積が、その長さ、面積または体積に対してそれぞれ増加する比のことである。本発明概念のいくつかの実施形態に使用される材料について、0℃~100℃の温度において20μm/(m・℃)未満の線熱膨張係数は受け入れ可能である。したがってステンレス鋼が例示的な材料として示されているが、本発明概念の実施形態はこれに限定されるものではない。本発明概念の範囲から逸脱することなく、種々異なる膨張係数を有する材料を使用可能である。
【0037】
図3は、本発明概念のいくつかの実施形態による
図2の小型NIR分光器の破断図である。
図3には、
図2に示された多くの素子の異なる見え方と、
図2の素子および
図3の付加的な素子に関連付けられた詳細と、が示されている。
図3に示されているように、システムには、検出器アレイ320と、イメージングレンズアセンブリ327と、分光器本体部350と、回折格子345と、コリメーティングレンズ正レンズ素子355と、コリメーティングレンズ負レンズ素子365と、固定焦点コリメータアセンブリ360と、ファイバ入力コネクタ370と、が含まれている。
【0038】
イメージングレンズアセンブリ327には、正の屈折力の第1素子336と、これに続きかつ視界絞りとしても機能する負の屈折力の第2素子333と、対向する同一の2つのシングレットに分解されておりかつレンズセル326、例えば真鍮レンズセルに収容されている最終の正の屈折力の素子325と、が含まれている。シングレットは、ここでは同一であるように示されているが、本発明概念の範囲を逸脱することなく、わずかな変更は許容可能であることを理解されたい。イメージングレンズアセンブリ327は、例えばステンレス鋼から成る分光器本体部350内に収容されており、分光器本体部350は、コリメーティングレンズアセンブリの容器としても機能する。コリメーティングレンズアセンブリには、第1の負の屈折力の素子365と、これに続く第2の正の屈折力の素子355と、が含まれており、これにより、光放射入力ファイバコネクタ370からのコリメートされた光が、コリメートされた光に対して相対的に固定の角度で支持された回折格子345に供給される。第1の負の屈折力の素子365と第2の正の屈折力の素子355とにより、矢印によって示されているコリメーティングレンズアセンブリ353が定められる。真鍮およびステンレス鋼のような材料は、実施例としてのみ挙げられており、本発明概念の実施形態は、この構成に限定されるものではないことを理解されたい。類似の結果をもたらす別の複数の材料も、本発明概念の範囲を逸脱することなく使用可能である。
【0039】
図4は、本発明概念のいくつかの実施形態による、100nmの帯域幅の小型NIR分光器についての光学配置を示す図である。上述のように、本発明概念の実施形態では、100nmの帯域幅を有する分光器が述べられているが、本発明概念の実施形態はこの構成に限定されるものではない。
図4に示されているように、この光学配置には、検出器アレイ420と、分解型の正の光学素子425と、組み合わせ型の負の光学素子および視界絞り433と、正の光学素子436と、回折格子445と、が含まれるが、光学配置はこれに限定されるものではない。分解型の正の光学素子425と、組み合わせ型の負の光学素子および視界絞り433と、正の光学素子436と、は矢印495によって示されたクックトリプレット変形レンズを構成している。
図4の光学配置には、100nm帯域幅の小型NIR分光器についてのいくつかの実施形態による一配置が示されており、波長分散される光学放射485は、225mmを下回る全体光路長を有する検出器アレイ420に法線入射する。ここで使用される「法線」とは垂直であることを示す。
【0040】
図5は、
図2~
図4に関して上述された、本発明のいくつの実施形態による100nm帯域幅の小型NIR分光器の分解光学・機械配置を示す図である。
【0041】
図6Aは、ここで述べられる実施形態による光学設計についてのレイトレースである。
図6Aは、
図4のレイトレースに類似しているが、逆向きに配置されている。
【0042】
図6B~
図6Fは、本発明概念のいくつかの実施形態にしたがい、エアリーディスク直径内のすべての光線によって定められる回折限界性能を示すスポットダイヤグラムである。
図6Dには、これらの実施形態において主光線でもある、帯域幅における中央波長についてのスポットダイヤグラムが示されている。
図6A~
図6Fは、説明のためだけに示されており、したがって本発明概念の実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0043】
図2~
図6Fに関して上述したように、本発明概念の実施形態は、分光器ベースのシステムに向けられており、このシステムにより、環境的に安定でありかつ電磁スペクトルの近赤外(NIR)領域において波長分散を行う受動的に位置合わせされる分光器が得られるが、この波長分散は、近赤外(NIR)領域に限定されるものではない。温度、衝撃および振動要件の広い範囲にわたる環境的な安定性は、ここで述べられる実施形態による設計を使用して得られる。特に、このシステム設計には、入力放射ファイバ270、370を発しかつ検出器アレイ220、320、420の表面における入力放射ファイバ270、370の波長分散画像で終わる短い全体光路長が含まれている。これは、固定焦点エアースペース型ダブレットコリメーティングレンズ(
図3)を使用することによって実現可能であり、これによって負の屈折力を有する第1光学素子365により、入力ファイバ370の開口数を効率的に増大させることができ、これに続いて第2の正の光学素子355により、入力ファイバ370からの光をコリメートさせることができ、結果的に焦点距離が短縮されたコリメータが得られる。コリメートされたビームは次に、いくつかの実施形態において透過型回折格子345である分散素子に投影される。
【0044】
いくつかの実施形態において、固定焦点コリメータアセンブリ260、360の剛性は、ステンレス鋼のような熱膨張係数の小さい一片の材料から機械加工される格子取付機能部およびコリメーティングレンズ取付機能部を有することによって実現される。機械加工される単一部分260(固定焦点コリメータアセンブリ)には、入力ファイバ用の取付機能も含まれる。固定焦点コリメータアセンブリ260、360は次に、広い環境温度範囲にわたって機械的完全性を維持するために、熱膨張係数の小さい同じ一片の材料から同様に機械加工される分光器の本体部250、350に固定される。イメージングレンズアセンブリ327はまた、検出器220、320、420の表面全体にわたって分散された100nm光学放射入力帯域幅485を形成するために、短縮された焦点距離を提供するようにも設計されている。第1光学素子436を有するクックトリプレット設計495(425、435および441)を使用することにより、システムの視野絞りとしても機能しかつ第2の正の屈折力の光学素子を同じ2つのシングレットレンズ425に分解する負の屈折力の中央素子433との組み合わせにおいて正の屈折力が得られ、軸方向色シフトおよびペッツバール像面湾曲の両方が低減され、これにより、イメージングレンズアセンブリ327の光軸に対して垂直な検出器表面への平坦な焦平面入射が形成される。いくつかの実施形態では、イメージングレンズアセンブリ327の光学設計は、軸方向に、分光器本体部250、350についての熱膨張係数よりも大きな焦点深度も有し、したがって広い温度範囲にわたって集束が維持される。
【0045】
上述のように本発明概念の実施形態は、熱膨張係数の小さい材料に関して述べられているが、本発明概念の実施形態は、これに限定されるものではない。本発明概念の範囲から逸脱することなく、種々異なる膨張係数を有する材料を使用可能である。
【0046】
本発明の実施形態にしたがって述べられた検出器取付光学・機械設計により、分散方向交差方向に、すなわち光軸に対してサジタルに検出器を直線的に調整することができる。さらに検出器取付部240により、光軸の周りの回転調整も光軸に沿った焦点調整も可能になる。
【0047】
ここで述べられた複数の実施形態による光学設計により、入力ファイバからの、回折格子を通ったすべての波長分散光線が、いくかの実施形態において10ミクロンである検出器アレイ素子幅に等しい高さで集束される回折限界光学性能を得ることもできる。ここで述べられた設計判定基準は、これらの実施形態における特定の検出器アレイについて選択されており、したがって理論上の最も高い分解能限界が実現されることを可能にすることを理解されたい。
【0048】
手短に上述されたように、本発明概念のいくつかの実施形態により、焦点距離の短いコリメータと、コリメーティングレンズの全体焦点距離を短縮するエアースペース型ダブレットコリメータ光学設計と、機械的な感受性を低減する短縮された全体光路長と、格子角度に固定されたコリメータと、入力ファイバコリメーティングレンズおよび格子に対する共通の取付部と、検出器角度に固定された格子と、画像平面を傾斜させることなく軸方向色およびペッツバール湾曲を均等化する短焦点距離アポクロマートクックトリプレット変形イメージングレンズと、分散方向交差方向に直線的な調整を提供する検出器アレイインタフェース230(
図2)と、焦点調整および光軸の周りの回転調整を提供する検出器アレイ取付部240(
図2)と、を含む分光器システムが提供される。
【0049】
環境的に安定化される分光器のいくつかの手法は、適切な光学・機械設計から得られるのではなく、いくつかの位置合わせの制約を緩和するために垂直方向の大きなピクセル高さを具備する検出器アレイを使用することによって得られることを理解されたい。このようなタイプの検出器アレイは、本発明概念の実施形態に関して述べられた光学的な機能および光学・機械機能と共に使用可能であることに注意されたい。
【0050】
図面および明細書において、本発明概念の複数の例示的な実施形態が開示された。しかしながら、本発明概念の原理から大きく逸脱することなく、これらの実施形態に対して多くの変形および変更を行うことが可能である。したがって特定の用語が使用されてはいるが、これらの用語は、一般的かつ記述的な意味においてのみ使用されており、制限を目的として使用されておらず、本発明概念の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定められる。