(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】グルココルチコイド受容体モジュレーターの投与によるクッシング症候群における凝固亢進症の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4738 20060101AFI20230710BHJP
A61K 31/567 20060101ALI20230710BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20230710BHJP
A61P 5/46 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A61K31/4738
A61K31/567
A61P7/02
A61P5/46
(21)【出願番号】P 2021536300
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 US2019067894
(87)【国際公開番号】W WO2020132469
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-10-18
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503345477
【氏名又は名称】コーセプト セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モライティス、アンドレアス ジー.
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0261693(US,A1)
【文献】Neuroendocrinology,2010年,Vol.92, Suppl.1,p.55-59
【文献】Circulation,2001年,Vol.104,p.2826-2831
【文献】Clinical Pharmacology in Drug Development,2018年,Vol.7, No.4,p.408-421
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/,45/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッシング症候群の患者における凝固亢進症のリスクを減少させるための、有効量のグルココルチコイド受容体モジュレーター(GRM)を含む医薬であって、
前記GRMは、ミフェプリストン、レラコリラント、CORT122928、及びCORT113176から選択され、
前記患者は、他のクッシング症候群の患者と比べて、凝固亢進症に罹患する上昇したリスクを有すると判定されて
おり、
前記患者が凝固亢進症に罹患する上昇したリスクを有すると判定することは、
前記患者における血液凝固マーカーを測定すること又は血栓を確認すること、及び
前記測定した血液凝固マーカーを前記血液凝固マーカーの正常値と比較すること、
を含み、
減少した血液凝固時間、上昇した血小板数、上昇したフィブロネクチン若しくはDダイマーのレベル、又は血栓の存在により、前記患者は凝固亢進症の上昇したリスクを有すると判定される、医薬。
【請求項2】
経口投与される、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
前記クッシング症候群の患者は、クッシング病に罹患する、請求項1に記載の医薬。
【請求項4】
前記GRMはミフェプリストンである、請求項1に記載の医薬。
【請求項5】
前記GRMは、レラコリラント、CORT122928、及びCORT113176から選択される、請求項1に記載の医薬。
【請求項6】
前記GRMはレラコリラントである、請求項1に記載の医薬。
【請求項7】
前記患者は第2の抗凝固療法をさらに受ける、請求項1に記載の医薬。
【請求項8】
前記患者における前記凝固亢進症を発症するリスクは、薬物療法1か月の時点において、クッシング症候群のための外科的処置を受けたクッシング症候群の患者における手術1か月後において凝固亢進症を発症するリスクと比べて減少する、請求項
1に記載の医薬。
【請求項9】
クッシング症候群の患者における深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)、又は静脈血栓塞栓症(VTE)を発症するリスクを減少させるための、有効量のグルココルチコイド受容体モジュレーター(GRM)を含む医薬であって、
前記GRMは、ミフェプリストン、レラコリラント、CORT122928、及びCORT113176から選択され、
前記患者は、他のクッシング症候群の患者と比べて、DVT、PE、又はVTEを発症する上昇したリスクを有すると判定されて
おり、
前記患者が深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)、又は静脈血栓塞栓症(VTE)を発症する上昇したリスクを有すると判定することは、
前記患者における血液凝固マーカーを測定すること又は血栓を確認すること、及び
前記測定した血液凝固マーカーを前記血液凝固マーカーの正常値と比較すること、
を含み、
減少した血液凝固時間、上昇した血小板数、上昇したフィブロネクチン若しくはDダイマーのレベル、又は血栓の存在により、前記患者はDVT、PE、又はVTEを発症する上昇したリスクを有すると判定される、医薬。
【請求項10】
経口投与される、請求項
9に記載の医薬。
【請求項11】
前記患者は、クッシング症候群に罹患する、請求項
9に記載の医薬。
【請求項12】
前記GRMはミフェプリストンである、請求項
9に記載の医薬。
【請求項13】
前記GRMは、レラコリラント、CORT122928、及びCORT113176から選択される、請求項
9に記載の医薬。
【請求項14】
前記GRMはレラコリラントである、請求項
13に記載の医薬。
【請求項15】
前記患者は第2の抗凝固療法をさらに受ける、請求項
9に記載の医薬。
【請求項16】
前記患者における前記DVT、PE、又はVTEを発症するリスクは、薬物療法1か月の時点において、クッシング症候群のための外科的処置を受けたクッシング症候群の患者における手術1か月後においてDVT、PE、又はVTEを発症するリスクと比べて減少する、請求項
9に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2018年12月21日に出願された米国特許出願第62/784,270号からの利益及び優先権を主張し、該米国特許出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
血液の凝固は、健康に必要である極めて重要な能力であり、創傷の修復、出血の回避、及びその他の理由において極めて重要である。血液凝固を担う1又は複数の因子の不足又は欠如は、深刻な遺伝性疾患である血友病の原因である。しかしながら、血液の凝固亢進(血液が過度に凝固する傾向)は、重大な、時には生命を脅かす状態を引き起こす可能性があり、そのような状態としては、塞栓症及び脳卒中(脳卒中は、塞栓症が脳血管系に留まり、凝血塊の下流の脳領域への血液供給が遮断されると発生する)を引き起こし得る静脈内及び動脈内の凝血塊(血栓)が挙げられる。深部静脈における血栓の形成又は存在は深部静脈血栓症(DVT)と称され、このような血栓の形成又は存在は典型的には下肢におけるものであるが、そのような血栓は上肢にも形成され得る。肺塞栓症(PE)は、肺動脈又はその分枝の閉塞によって引き起こされ、このような塞栓は、元々は深部静脈に形成された血栓によって引き起こされることが多い。DVT及びPEの組み合わせは静脈血栓塞栓症(VTE)と呼ばれ、深刻な状態である。クッシング症候群(Cushing’s syndrome)は、過度の血液凝固を呈し得る疾病である。
【0003】
しばしばクッシング症候群と称される副腎皮質機能亢進症は、ストレスホルモンであるコルチゾールの過剰な活性によって引き起こされる。クッシング症候群がグルココルチコイド(GC)薬の投与によって引き起こされる場合、それは「外因性クッシング症候群」と称される。患者によって過剰なコルチゾールが産生される場合は、「内因性クッシング症候群」と称される。内因性クッシング症候群は、下垂体腫瘍(典型的には腺腫)によって引き起こされることが多く、クッシング病(Cushing’s Disease)と称される。下垂体以外のコルチゾール源によって引き起こされる内因性クッシング症候群の場合は、「異所性クッシング症候群」と称される。内因性クッシング症候群は、20~50歳の成人に最も多く影響を与える希少疾患である。米国内では、推定20,000人の患者がクッシング症候群に罹患しており、毎年約3,000人の新規患者が診断されている。症状は様々であるが、ほとんどの人は以下の症状の1又は複数を経験する:高血糖(高血糖症)、糖尿病、高血圧、上半身肥満、円形顔貌、首周りの脂肪増加、四肢の痩せ、痣のできやすさ、顔面多血症、ざ瘡、身体に紫紅色の線条、極度の倦怠感、及び筋力低下。過敏性、不安、認知障害、及び抑うつも一般的である。クッシング症候群は、身体の全ての臓器系に影響を与える可能性があり、効果的に治療されないと死に至る可能性がある。クッシング症候群の患者の死因の1つは、当該症候群に関連する凝固亢進症(hypercoagulopathy)による塞栓によるものである。凝固亢進症は、肺塞栓症及び深部静脈血栓症などの動脈血栓症又は静脈血栓塞栓症(VTE)に関連する塞栓症に関連しており、それらを引き起こす可能性がある。このような塞栓は、発生する可能性があり、しばしば致命的である。脳卒中は、凝固亢進症による塞栓のある別の結果としてよく認められる。
【0004】
クッシング症候群の患者は、過剰なコルチゾールの産生源を可能な限り多く取り除くために、外科的に、及び他の手段によって治療することができる。クッシング症候群の患者は、過剰なコルチゾールの影響を軽減又は遮断するために、ミフェプリストン(mifepristone)などのグルココルチコイド受容体モジュレーターの投与などによる薬物療法を受けることが可能である(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第9,943,526号及び米国特許第9,956,216号を参照)。しかしながら、クッシング症候群の患者が経験する凝固亢進症は、クッシング症候群の手術後も続くことがよくある。凝固第VIII因子及びフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand Factor)は、術後1か月で「上昇」し、術前に確認されたレベルよりも低下するのに6か月以上を要した(Casonato, et al. Blood Coagulation and Fibrinolysis 10(3):145-151(1999))。
【0005】
したがって、凝固亢進症、DVT、PE、VTE、又は他の塞栓性疾患を発症するリスクを減少させるためにクッシング症候群の患者を治療する方法は、当技術分野では不足しており、必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
出願人は、凝固亢進症を予防又は治療するための新規な方法を提供する。ある実施形態では、これらの新規な方法は、凝固亢進症を発症する上昇したリスクに関連する疾患若しくは状態、又は深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)、及び静脈血栓塞栓症(VTE)を発症する上昇したリスクに関連する疾患若しくは状態、のリスクがある又は罹患している、クッシング症候群の患者における凝固亢進症を予防又は治療するのに効果的である。ある実施形態では、これらの新規方法は、凝固亢進症を発症する上昇したリスクに関連する疾患若しくは状態、又はDVT、PE、及びVTEを発症する上昇したリスクに関連する疾患若しくは状態、に罹患しているクッシング症候群の患者における炎症状態を治療するのに効果的である。ある実施形態では、これらの新規方法は、凝固亢進症、DVT、PE、若しくはVTEに罹患している又は発症するリスクのあるクッシング症候群の患者における炎症状態を顕在化するのに効果的である。
【0007】
ある実施形態では、これらの方法は、クッシング症候群の患者における凝固亢進症の発症リスクを減少させるのに適切で効果的な予防方法を含む。ある実施形態では、これらの方法は、クッシング症候群の患者におけるDVT、PE、又はVTEの発症リスクを減少させるのに適切で効果的な予防方法を含む。
【0008】
ある実施形態では、出願人は、クッシング症候群に罹患している患者における凝固亢進症を治療する方法を本明細書に開示し、前記方法は、有効量のグルココルチコイド受容体モジュレーター(GRM)を前記患者に投与することを含み、これにより、前記凝固亢進症が治療される。ある実施形態では、クッシング症候群に罹患している患者における凝固亢進症を治療する前記方法は、クッシング症候群の患者が凝固亢進症に罹患している、又は発症する上昇したリスクを有すると判定することをさらに含む。ある実施形態では、GRMはグルココルチコイド受容体アンタゴニスト(GRA)である。ある実施形態では、GRMはミフェプリストン(mifepristone)である。ある実施形態では、GRM又はGRAは、ヘテロアリールケトン縮合アザデカリンGRM(heteroaryl-ketone fused azadecalin GRM)(HKGRM)である。ある実施形態では、HKGRMはレラコリラント(relacorilant)である。
【0009】
ある実施形態では、出願人は、クッシング症候群に罹患している患者におけるDVT、PE、又はVTEを発症するリスクを減少させる方法を本明細書に開示し、前記方法は、有効量のグルココルチコイド受容体モジュレーター(GRM)を前記患者に投与することを含む、クッシング症候群のための薬物療法を実施することを含み、それにより、クッシング症候群のための前記薬物療法を事前に受けていないクッシング症候群の患者におけるDVT、PE、又はVTEを発症するリスクと比べて、DVT、PE、又はVTEを発症するリスクが減少する。ある実施形態では、クッシング症候群の患者におけるDVT、PE、又はVTEを発症するリスクは、薬物療法1か月の時点において、クッシング症候群のための外科的処置を受けたクッシング症候群の患者における手術1か月後におけるDVT、PE、又はVTEを発症するリスクと比べて減少する。ある実施形態では、クッシング症候群に罹患している患者におけるDVT、PE、又はVTEを発症するリスクを減少させる前記方法は、クッシング症候群の患者が、凝固亢進症に罹患している、又は発症する上昇したリスクを有すると判定することをさらに含む。
【0010】
ある実施形態では、出願人は、クッシング症候群に罹患している患者における炎症状態を顕在化した後に軽減する方法を本明細書に開示し、前記方法は、前記患者に有効量のGRMを投与することを含み、前記有効量は前記投与を開始してから約4週間以内に前記患者における炎症症状を増加させるのに効果的であり、かつ、その後、前記投与を開始してから約3~4か月までに前記患者における前記炎症症状を減少させるのに効果的であり、前記投与によりクッシング症候群における前記炎症状態が軽減される。クッシング症候群に罹患している患者における炎症状態を顕在化した後に軽減する前記方法のある実施形態では、炎症症状は、正常のC反応性タンパク質レベルよりも高いC反応性タンパク質レベルを含む。ある実施形態では、クッシング症候群に罹患している患者における炎症状態を顕在化した後に軽減する前記方法は、クッシング症候群の患者が凝固亢進症に罹患している、又は発症する上昇したリスクを有すると判定することをさらに含む。
【0011】
本明細書に開示される方法のある実施形態では、GRMは、ヘテロアリールケトン縮合アザデカリンGRMであり、レラコリラントであってもよい。本明細書に開示される方法のある実施形態では、GRMはステロイド系GRMであり、ミフェプリストンであってもよい。
【0012】
出願人は、レラコリラントで処置されたクッシング症候群の患者の凝固プロファイルは、ベースラインと比べて改善されたことを本明細書に開示する。外科的に処置されたクッシング症候群の患者について以前に観察された内容とは対照的に、レラコリラント投与は、第VIII因子又はフォン・ヴィレブランド因子のいずれの増加ももたらさず、わずか数か月のレラコリラント処置で減少した。APTT測定値はレラコリラントを投与されたクッシング症候群の患者において増加し、これは凝固のリスク及びDVT、PE、及びVTEのリスクが減少したことを示す。これらの結果は、レラコリラント処置がクッシング患者の凝固プロファイルを改善することを示す。これらの結果はさらに、クッシング患者のレラコリラント処置が、処置後のより早い段階で、手術が与える凝固因子プロファイルよりも、より良好な凝固因子プロファイルを与えることを示唆する。
【0013】
したがって、出願人は、本明細書において、クッシング症候群の患者に見られる凝固亢進症を、手術よりもはるかに安全なやり方で治療するための方法を提供する。クッシング症候群の成功した手術に伴うコルチゾール活性又はコルチゾールレベルの急激な低下は、過剰なコルチゾールによって抑制され成功した手術により再燃する潜在的な炎症の影響により、術後期間(約4か月以下)において凝固亢進症を悪化させるリスクをもたらす。本明細書に開示される方法によって提供される慢性コルチゾール過剰の段階的治療は、潜在性炎症の急性増悪を予防し、DVT、PE、及びVTEのリスクが高い患者の凝固プロファイルを改善する。
【0014】
クッシング症候群の手術が成功した後の凝固因子の変化を、GRMで薬物処置された患者における凝固因子の変化と比較すると、ステロイド誘発性凝固亢進症に関連する2つの主要な凝固因子(第VIII因子及びVWF)は、薬物療法により徐々に減少するが、一方で、手術を受けた患者では、これらの因子の両方が術後に増加し、術後1か月間以上上昇したままであることが明らかになる(Casonato, et al. Blood Coagulation and Fibrinolysis 10(3):145-151(1999))。これは、クッシング症候群の治療が成功した後にDVT、PE、及びVTEのリスク増加が観察されること、及び手術が成功した後3か月間以上抗凝固薬の使用を推奨するクッシング症候群の治療ガイドラインとも一致する。それゆえ、本GRM処置は、外科的治療に比しての利点を提供する。
【0015】
凝固亢進症の唯一の治療として使用される、又はDVT、PE、若しくはVTEの治療用として使用される、又は炎症状態を顕在化して治療するために使用される場合、本方法は、凝固亢進症の基底となる状態、DVT、PE、又はVTEのリスク、及び炎症状態に対して、従来の外科的又は薬物療法と比べてより良い治療を提供すると考えられる。他の治療と組み合わせて使用する場合、本方法は、そのような他の治療と相乗的に作用して、凝固亢進症、DVT、PE、又はVTEのリスク、及び炎症状態に対して、他の治療単独で提供されるよりもより効果的な治療を提供すると考えられる。本明細書に開示される方法は、クッシング症候群の患者における凝固亢進症、DVT、PE、VTE、及び炎症状態を治療する利点を提供するが、これは、GRMの単独投与することによるものでも、又は、第2の抗凝固療法と併用して投与する場合には、当該先の治療に対して追加して当該先の治療を改善することによるものでもよい。本明細書に開示される方法は、外科的処置から生じるアウトカムと少なくとも同等に好ましい又はそれよりも良好なアウトカムをもたらす治療でありながらも、外科手術を必要とせず、そしてまた、手術を受けることができない若しくは受けたくない患者、又は手術が不完全に成功した若しくは成功しなかったことが判明した患者に対して利用可能である治療を提供すると考えられる。
【0016】
本明細書に開示される方法の他の目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明及び図から当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、レラコリラントで処置されたクッシング症候群の患者における凝固因子である第VIII因子及びフォン・ヴィレブランド因子の経時的なレベルを示した図である。(縦軸は正常な対象のレベルを100とした場合の割合(%)を示す。)レラコリラント投与前のベースライン(左端の列の対)、4週間のレラコリラント処置後(中央の列の対)、及び3又は4か月のレラコリラント処置後(右端の列の対)の、第VIII因子(列の各対の中で左側にある濃色の棒)及びフォン・ヴィレブランド因子(列の各対の中で右側にある薄色の棒)を示す。第VIII因子レベルは、ベースラインと比べて、4週目及び3又は4か月のレラコリラント処置後に低減される。フォン・ヴィレブランド因子レベルは、最初はある程度上昇し(4週目)、その後3又は4か月のレラコリラント処置後にベースラインレベルに戻る。
【0018】
【
図1B】
図1Bは、手術後(上)及びレラコリラントによる処置中(下)のクッシング症候群の患者におけるフォン・ヴィレブランド因子を経時的に示した図である。
【0019】
【
図1C】
図1Cは、手術後(上)及びレラコリラントによる処置中(下)のクッシング症候群の患者における第VIII因子を経時的に示した図である。手術患者における第VIII因子の変化を示す上のグラフのデータは、Casonato et al.,1999からのものである。矢印は、第VIII因子の正常レベルの上限を示す。
【0020】
【
図2A】
図2Aは、レラコリラント投与前後のクッシング症候群の患者において測定された活性化プロトロンビン時間(APTT)を示した図である。最大16週間のレラコリラント投与後のAPTT測定値は、ベースラインのAPTT測定値と比べてこれらの患者で増加した。
【0021】
【
図2B】
図2Bは、凝固に対するレラコリラントの効果を示した図である。クッシング症候群の患者では、血栓性イベントのリスクが高い。レラコリラントで処置されたクッシング症候群の患者は、凝固因子の改善を示した。この結果は、血栓性イベントのリスクが高いクッシング症候群の患者において(クッシング症候群の手術前に)手術前凝固制御を改善するために、レラコリラントが有用であり得ることを示す。
【0022】
【
図3】
図3は、レラコリラントで処置されたクッシング症候群の患者におけるC反応性タンパク質レベルを経時的に示した図である。C反応性タンパク質レベルは、患者における炎症のレベルと相関される。C反応性タンパク質レベルは、最初はある程度上昇し(4週目)、そして、その後3又は4か月のレラコリラント処置後にベースラインレベルに戻る。C反応性タンパク質レベルのこれらの変化は、フォン・ヴィレブランド因子レベルでも同様に観察されたものと類似する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
序論
本明細書で提供されるのは、凝固亢進症又は凝固亢進症に関連する症状及び有害事象のリスクがある患者を治療するための方法である。ある実施形態では、凝固亢進症のリスクがある患者は、深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)、又は静脈血栓塞栓症(VTE)を発症するリスクがある。ある実施形態では、凝固亢進症のリスクがある患者は、炎症状態に罹患するか、又は炎症状態を発症するリスクがある。ある実施形態では、そのような凝固亢進症のリスクがある、DVT、PE、若しくはVTEを発症するリスクがある、又は炎症状態に罹患している若しくは炎症状態を発症するリスクがある患者は、クッシング症候群に罹患している患者である。ある実施形態では、そのようなクッシング症候群の患者は、ACTH依存性クッシング症候群などの内因性のクッシング症候群に罹患している患者でもよく、また、クッシング症候群は下垂体クッシング症候群(すなわち、クッシング病)であってもよく、ACTH非依存性クッシング症候群であってもよい。
【0024】
凝固亢進症、DVT、PE、若しくはVTE、又は炎症状態を治療するための方法は、グルココルチコイド受容体モジュレーター(GRM)の投与を含む。ある実施形態では、GRMの投与は、グルココルチコイド受容体アンタゴニスト(GRA)の投与を含む。いくつかの実施形態では、GRAはグルココルチコイド受容体の選択的阻害剤である。ある実施形態では、GRMは非ステロイド系GRM化合物である。ある実施形態では、GRMは、ヘテロアリールケトン縮合アザデカリンGRM(HKGRM)である。ある実施形態では、HKGRMはレラコリラントである。ある実施形態では、GRMはステロイド系化合物である。ある実施形態では、GRMはミフェプリストンである。
【0025】
ある実施形態では、出願人は、凝固亢進症に罹患しているクッシング症候群の患者における凝固亢進症を治療する方法を開示し、前記方法は、
有効量のグルココルチコイド受容体モジュレーター(GRM)を前記患者に投与すること、ここで、前記GRMの投与は第1の抗凝固療法を構成する、
を含み、それにより前記凝固亢進症が治療される。ある実施形態では、第1の抗凝固療法は、レラコリラント投与を含む。さらなる実施形態では、第2の抗凝固療法が患者に実施され、前記第2の抗凝固療法は、前記第1の抗凝固療法の実施前に、実施と並行して、実施後に、又はそれらの組み合わせで実施されてもよい。
【0026】
ある実施形態では、出願人は、凝固亢進症の上昇したリスクを有するクッシング症候群の患者における凝固亢進症を治療する方法を開示し、前記方法は、
クッシング症候群の患者が凝固亢進症を発症する上昇したリスクを有すると判定すること、及び
有効量のグルココルチコイド受容体モジュレーター(GRM)を前記患者に投与すること、ここで、前記GRMの投与は第1の抗凝固療法を構成する、
を含み、それにより前記凝固亢進症が治療される。ある実施形態では、第1の抗凝固療法は、レラコリラント投与を含む。さらなる実施形態では、第2の抗凝固療法が患者に実施され、前記第2の抗凝固療法は、前記第1の抗凝固療法の実施前に、実施と並行して、実施後に、又はそれらの組み合わせで実施されてもよい。ある実施形態では、前記上昇したリスクは、以下の1又は複数によって判定される:凝固時間(凝固時間の短さは、凝固亢進症の上昇したリスクを示す);血液凝固因子のレベル(凝固因子の上昇したレベル(例えば、第VIII因子、第IX因子、第X因子、フォン・ヴィレブランド因子、及びその他の凝固因子)は、凝固亢進症の上昇したリスクを示す);血小板レベル(血小板の上昇したレベルは凝固亢進症の上昇したリスクを示す);フィブリン、フィブロネクチン、Dダイマーの上昇したレベル、及び他のフィブリン関連分子の上昇したレベルは、凝固亢進症の上昇したリスクを示す;並びに患者における凝血の存在は、凝固亢進症の上昇したリスクを示す。
【0027】
そのような方法のある実施形態では、患者はクッシング症候群に罹患し、前記方法は、前記第1の抗凝固療法を受けていないクッシング症候群の患者における凝固亢進症を発症するリスクと比べて、凝固亢進症を発症するリスクを減少させた。ある実施形態では、患者はクッシング病に罹患している。ある実施形態では、患者はACTH依存性クッシング症候群又はACTH非依存性クッシング症候群に罹患している。ある実施形態では、患者は異所性クッシング症候群に罹患している。
【0028】
クッシング症候群の患者において凝固亢進症を発症するリスクを減少させる方法のある実施形態では、凝固亢進症を発症するリスクは、薬物療法1か月の時点において、クッシング症候群の外科的処置を受けたクッシング症候群の患者における手術1か月後において凝固亢進症を発症するリスクと比べて減少する。
【0029】
ある実施形態では、出願人は、DVT、PE、又はVTEを発症するリスクのある患者において、DVT、PE、又はVTEを発症するリスクを減少させる方法を開示し、前記方法は、
有効量のグルココルチコイド受容体モジュレーター(GRM)を前記クッシング症候群の患者に投与すること、ここで、前記GRMの投与は第1の抗凝固療法を構成する、
を含み、
それにより前記DVT、PE、又はVTEを発症するリスクが減少する。ある実施形態では、第1の抗凝固療法は、レラコリラント投与を含む。さらなる実施形態において、第2の抗凝固療法が患者に実施され、前記第2の抗凝固療法は、前記第1の抗凝固療法の実施前に、実施と並行して、実施後に、又はそれらの組み合わせで実施されてもよい。
【0030】
DVT、PE、又はVTEを発症するリスクのある患者におけるDVT、PE、又はVTEを発症するリスクを減少させる方法のある実施形態において、患者はクッシング症候群に罹患しており、そして前記第1の抗凝固療法を受けていないクッシング症候群の患者におけるDVT、PE、又はVTEを発症するリスクと比べて、DVT、PE、又はVTEを発症するリスクは減少する。ある実施形態では、患者はクッシング病に罹患している。ある実施形態では、患者はACTH依存性クッシング症候群又はACTH非依存性クッシング症候群に罹患している。ある実施形態では、患者は異所性クッシング症候群に罹患している。
【0031】
DVT、PE、又はVTEを発症するリスクのある患者におけるDVT、PE、又はVTEのリスクを減少させる方法のある実施形態において、DVT、PE、又はVTEを発症するリスクは、薬物療法1か月の時点において、クッシング症候群の外科的処置を受けたクッシング症候群の患者における手術1か月後においてDVT、PE、又はVTEを発症するリスクと比べて減少する。
【0032】
ある実施形態では、出願人は、クッシング症候群に罹患している患者における炎症状態を顕在化した後に軽減する方法を本明細書に開示し、前記方法は、
前記患者に有効量のグルココルチコイド受容体モジュレーター(GRM)を投与することを含み、
ここで、前記有効量のGRMは、前記GRMの投与を開始してから約4週間以内に、前記患者における炎症症状を増加させるのに効果的であり、かつ、前記GRMの投与を開始後約3~約4ヶ月までに前記患者における前記炎症症状を減少させるのに効果的であり、
それにより前記クッシング症候群の患者における前記炎症状態が軽減される。ある実施形態では、GRMはレラコリラントである。
【0033】
クッシング症候群に罹患している患者における炎症状態を顕在化した後に軽減する方法のある実施形態では、前記炎症状態の症状は、正常な対象において典型的に見られるC反応性タンパク質レベルよりも高い、前記クッシング症候群の患者におけるC反応性タンパク質レベルを含む。
【0034】
本明細書に開示される方法のある実施形態では、患者は、クッシング症候群の手術を受ける前に、GRM(例えば、レラコリラント)で処置され、そのような手術後の凝固亢進症のリスクを減少させるのに有効である。本明細書に開示される方法によるGRM(例えば、レラコリラント)の投与は、例えば手術中のクッシング症候群において、凝固亢進症の術後リスクを減少させるのに効果的であると考えられる。したがって、本明細書に開示される方法は、クッシング症候群における凝固亢進症の予防を提供すると考えられ、特定の実施形態では、本明細書に開示される方法は、手術を計画している又は準備しているクッシング症候群における凝固亢進症のため、手術中のクッシング症候群における凝固亢進症のため、及び手術直後(例えば、術後数日以内)のクッシング症候群の患者における凝固亢進症のための予防法を提供すると考えられる。
【0035】
本明細書に開示されるいずれかの方法のある実施形態において、患者は、血液凝固時間が短く、血液凝固因子(例えば、フォン・ヴィレブランド因子、第VIII因子、異常な血小板レベル、又は、凝固障害の増加したリスクを示す異常な血液凝固のその他の兆候)のレベルが過剰であると特定されることにより、前記治療方法から利益を得る可能性が高い患者として特定される。
【0036】
本明細書に開示される方法のある実施形態では、GRMはGRAである。ある実施形態では、GRMは、ヘテロアリールケトン縮合アザデカリンGRM化合物(HKGRM)である。ある実施形態では、HKGRMはレラコリラントである。ある実施形態では、GRMはミフェプリストンである。
【0037】
ある実施形態では、GRMは、患者に経口投与される。ある実施形態では、GRMは1日1回投与される。ある実施形態では、GRMは1日2回投与される。ある実施形態では、GRMは1日3回投与される。ある実施形態では、GRMは1日おきに投与される。ある実施形態では、GRMは3日に1回投与される。
【0038】
本明細書に開示される方法での使用に適したHKGRM化合物としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:
下記構造を有する、(R)-(1-(4-フルオロフェニル)-6-((1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-4,4a,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1H-ピラゾロ[3,4-g]イソキノリン-4a-イル)(4-(トリフルオロメチル)ピリジン-2-イル)メタノン(「レラコリラント」と称される;「CORT125134」とも称される)。
【0039】
【0040】
;下記構造を有する、(R)-(1-(4-フルオロフェニル)-6-((4-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)-4,4a,5,6,-7,8-ヘキサヒドロ-1H-ピラゾロ[3,4-g]イソキノリン-4a-イル)(チアゾール-2-イル)メタノン(「CORT122928」と称される)。
【0041】
【0042】
;及び
下記構造を有する、(R)-(1-(4-フルオロフェニル)-6-((4-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)-4,4a,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1-H-ピラゾロ[3,4-g]イソキノリン-4a-イル)(ピリジン-2-イル)メタノン(「CORT113176」と称される)。
【0043】
【0044】
ある実施形態では、GRMは、レラコリラント、CORT122928、及びCORT113176から選択されるヘテロアリールケトン縮合アザデカリン化合物である。ある実施形態では、HKGRMの用量は、患者に経口投与される。ある実施形態では、HKGRMの用量は、50ミリグラム(mg)、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、及び700mgから選択される。ある実施形態では、HKGRM用量は、1日用量である。ある実施形態では、HKGRM用量は1日1回投与される。ある実施形態では、HKGRMはレラコリラントである。
【0045】
ある実施形態では、GRMはステロイド系化合物である。ある実施形態では、GRMはグルココルチコイド受容体アンタゴニスト(GRA)である。ある実施形態では、GRMはミフェプリストンである。ある実施形態では、ミフェプリストンの用量は、患者に経口投与される。ある実施形態では、ミフェプリストンの用量は、300ミリグラム(mg)、600mg、900mg、及び1200mgから選択される。ある実施形態では、ミフェプリストンの用量は、1日用量である。ある実施形態では、ミフェプリストンの用量は1日1回投与される。
【0046】
ある実施形態では、患者は、GRM抗凝固療法に加えて第2の抗凝固療法を受ける。ある実施形態では、第2の抗凝固療法は、例えば、血栓溶解剤の投与、抗凝固剤の投与、抗血小板剤(血小板凝集を阻害する薬剤)の投与、又は他の薬剤を含んでもよい。ある実施形態では、第2の抗凝固療法は、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ストレプトキナーゼ、及びウロキナーゼから選択される血栓溶解剤の投与を含む。ある実施形態では、第2の抗凝固療法は、アスピリン(aspirin)、クロピドグレル(clopidogrel)、ジピリダモール(dipyridamole)、及びアブシキシマブ(abciximab)から選択される抗血小板剤の投与を含む。ある実施形態では、第2の抗凝固療法は、低分子量ヘパリンなどのヘパリンの投与を含む。ある実施形態では、第2の抗凝固療法は、ヘパリン(heparin)、ワルファリン(warfarin)(クマジン(coumadin))、フォンダパリヌクス(fondaparinux)(Arixtra)、リバーロキサバン(rivaroxaban)(Xarelto)、ダビガトラン(dabigatran)(Pradaxa)、アピキサバン(apixaban)(Eliquis)、エドキサバン(edoxaban)(Savaysa)、及びエノキサパリン(enoxaparin)(Lovenox)から選択される薬剤の投与を含む。ある実施形態では、第2の抗凝固療法は、GRM抗凝固療法の実施と同時に、又は時間的に近接して実施される。ある実施形態では、第2の抗凝固療法は、GRM抗凝固療法の実施のある時間後に実施される。ある実施形態では、GRM抗凝固療法の前記実施後の時間は、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、10時間、12時間、1日、2日、3日、1週間、及び2週間から選択される時間である。ある実施形態では、第2の抗凝固療法は、GRM抗凝固療法の実施のある時間前に実施される。ある実施形態では、GRM抗凝固療法の前記実施前の時間は、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、10時間、12時間、1日、2日、3日、1週間、及び2週間から選択される時間である。
【0047】
ある実施形態では、本明細書に開示される方法は、他の点ではGRM又はGRAによる処置を特に必要としない患者の治療に指向されてもよい。このような「他の点ではGRM又はGRAによる処置を特に必要としない」患者は、GRM又はGRAで効果的に治療可能であることが当技術分野で知られている状態に罹患していない患者である。GRM又はGRAで効果的に治療可能であることが当技術分野で知られている状態としては、薬物離脱、精神病、認知症、ストレス障害、及び精神病性大うつ病が挙げられ得るが、これらに限定されない。したがって、ある実施形態では、本発明の方法は、他の点ではGRM又はGRAによる処置を特に必要としない、又は受けていない患者に対して指向される。
【0048】
出願人は、クッシング症候群の患者における凝固亢進症の改善に関して、レラコリラント処置が手術(過剰なコルチゾールレベルを引き起こす1つ又は複数の腫瘍を除去するため)と少なくとも同じくらいは効果的であることを本明細書で開示する。手術で処置したクッシング症候群の患者における第VIII因子レベルの変化に関する研究では、第VIII因子レベルは術後に最初は上昇し、外科的処置後1か月で第VIII因子のレベルが悪化することを示した(Casonato, et al. Blood Coagulation and Fibrinolysis 10(3):145-151(1999))。
図1に示されるように、レラコリラントで処置されたクッシング症候群の患者における第VIII因子レベルは、手術なしで正常範囲の第VIII因子レベルに徐々に低下することを示した。これらの結果は、手術後の第VIII因子レベルの変化(外科的処置後1か月での悪化レベル)と比べて、薬物療法(レラコリラント投与)による第VIII因子レベルのより好ましい変化を示す。したがって、レラコリラントで処置されたクッシング症候群の患者で観察された凝固プロファイルは、手術で処置されたクッシング症候群の患者で観察された凝固プロファイルよりも良好であった。レラコリラントには、コルチゾールを上昇させず、低カリウム血症のリスクを増加させないという利点もある(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる2018年12月20日出願の米国特許出願第62/783,015号を参照)。
【0049】
手術で処置されたクッシング症候群の患者で観察されたDVT、PE、及びVTEのアウトカムと比べて、レラコリラントで処置されたクッシング症候群の患者で観察されたDVT、PE、及びVTEのアウトカムは、凝固因子について
図1に示された結果と一致している。血栓塞栓症のイベントは、レラコリラントで処置された35人のクッシング症候群の患者の臨床試験では観察されなかったが、公開された外科事例では、抗凝固剤で処置されていない患者でVTE率が高かった。
【0050】
上記のように、第VIII因子レベルは、レラコリラントで処置された患者において、4週目に改善し、試験終了時(3又は4か月目)に正常化した。出願人は、レラコリラントで処置されたクッシング症候群の患者で観察されたフォン・ヴィレブランド因子のレベルの変化(
図1を参照)は、手術で処置されたクッシング症候群の患者で観察されてきた変化と類似していたことに注目する。したがって、フォン・ヴィレブランド因子レベルは、手術が成功した患者で観察されたものと同じ傾向に従った:すなわち、フォン・ヴィレブランド因子レベルは、手術直後に増加し、手術後3か月で低下し始めた。
【0051】
理論に拘束されることなく、出願人は、フォン・ヴィレブランド因子が炎症状態を有する患者で上昇することに注目し、グルココルチコイドがフォン・ヴィレブランド因子レベルを低下させることにさらに注目する。C反応性タンパク質(炎症マーカー)の時間的トレンドは、レラコリラントで処置されたクッシング患者におけるフォン・ヴィレブランド因子レベルの時間的トレンドと類似している。したがって、GRM処置は潜在的炎症状態を顕在化するように思われ、そうした潜在的な炎症状態は、クッシング症候群の患者におけるコルチゾール過剰によって慢性的に抑制されていた。GRM(例えば、レラコリラント)処置は、そのようなコルチゾール過剰の影響を緩和し、それによって潜在的な炎症状態を顕在化し、経時的に、その炎症を軽減する(GRM処置開始後3又は4か月までにC反応性タンパク質が後に減少することに見られる)。したがって、C反応性タンパク質レベルの変化は、フォン・ヴィレブランド因子レベルにおいて我々が観察した変化と密接に関連する。加えて、これらの変化は、レラコリラント処置のGRアンタゴニスト作用のさらなる追加の薬力学的エビデンスを提供する。
【0052】
I.定義
本明細書で使用される用語「1(つ)」(「a」)、「1(つ)」(「an」)、又は「前記」(「the」)は、1つのものを伴う態様を含むだけでなく、2つ以上のものを伴う態様も含む。例えば、単数形である「1(つ)」(「a」)、「1(つ)」(「an」)、及び「前記」(「the」)は、文脈が別途の規定を明確に指示していない限り、複数の指示対象物をも包含する。したがって、例えば、「1つの細胞(a cell)」なる記載は、複数のそのような細胞をも包含し、「前記薬剤(the agent)」なる記載は、当業者に知られている1つ又は複数の薬剤の記載を包含する、等々である。
【0053】
本明細書で使用される用語「下垂体腫瘍(pituitary tumor)」は、プロラクチン産生腺腫(lactotrophic adenoma)又はプロラクチノーマ(prolactinoma)、ACTH分泌腺腫(ACTH-secreting adenoma)、成長ホルモン分泌腺腫(somatotrophic adenomas)、副腎皮質刺激ホルモン分泌腺腫(corticotrophic adenoma)、性腺刺激ホルモン分泌腺腫(gonadotrophic adenoma)、甲状腺刺激ホルモン分泌腺腫(thyrotrophic adenomas)、及びヌル細胞腺腫(null cell adenoma)を含むがこれらに限定されない。ACTH分泌下垂体腫瘍は、下垂体の前葉に見られ得、通常は直径約5mm未満である。ほとんどのACTH分泌下垂体腺腫(約90%)はサイズが小さい(すなわち、微小腺腫)。
【0054】
「クッシング症候群」という用語は、内因性又は外因性のグルココルチコイドへの長期暴露によって引き起こされる疾患を指す。クッシング症候群の患者は、副腎皮質機能亢進症に続発する高血糖症にしばしば罹患する。クッシング症候群の症状は、以下の1又は複数を含むが、これらに限定されない:高血糖症、高血圧、体重増加、短期記憶の低下、集中力の低下、過敏性、過剰な発毛、免疫機能不全、赤ら顔、頚部の過剰な脂肪、円形顔貌、倦怠感、赤色皮膚線条、月経不順、又はそれらの組み合わせ。クッシング症候群の症状は、追加的又は代替的に、以下の1又は複数を含みうるが、これらに限定されない:不眠症、再発性感染症、薄い皮膚、痣のできやすさ、弱い骨、ざ瘡、禿頭症、抑うつ、腰部又は肩部の機能低下、四肢の腫脹、糖尿病、白血球数の上昇、低カリウム血症の代謝性アルカローシス、又はそれらの組み合わせ。
【0055】
「内因性クッシング症候群」という用語は、クッシング症候群のうち、患者によるコルチゾールの内因性過剰産生によって引き起こされる種類のものを指し、典型的には下垂体ACTH分泌腫瘍(クッシング病)、非下垂体ACTH分泌腫瘍、又はコルチゾール分泌腫瘍(副腎又は副腎外)が原因である。ACTH分泌腫瘍は、例えば、下垂体腺腫、下垂体腺癌、カルチノイド腫瘍、神経内分泌腫瘍、又は他の腫瘍であり得る。コルチゾール分泌腫瘍は、コルチゾール産生副腎腺腫、副腎皮質癌、原発性色素性小結節性副腎皮質疾患(PPNAD)、ACTH非依存性大結節性副腎皮質過形成(AIMAH)、及び副腎外コルチゾール分泌腫瘍(例えば、卵巣癌)を含むがこれらに限定されない。
【0056】
「患者」及び「対象」は、クッシング症候群の治療を必要とする可能性のあるヒト対象を指すために互換的に使用される。場合によっては、患者はクッシング病の治療を必要とする者でもよい。
【0057】
「投与(する)」という用語は、経口投与、局所接触、坐剤としての投与、静脈内、腹腔内、筋肉内、病変内、髄腔内、鼻腔内若しくは皮下の投与、又は徐放性デバイス、例えばミニ浸透圧ポンプ、の対象への移植を含む。投与は、非経口及び経粘膜など(例えば、頬、舌下、口蓋、歯肉、鼻、膣、直腸、又は経皮)の任意の経路による。非経口投与は、例えば、静脈内、筋肉内、細動脈内、皮内、皮膚上、皮下、腹腔内、心室内、及び頭蓋内の投与を含む。他の送達様式は、リポソーム製剤の使用、静脈内注入、経皮パッチなどを含むが、これらに限定されない。
【0058】
「試料」という用語は、ヒト対象から得られた生体試料を指す。このような試料は、典型的には、対象から取り出され、そして、取得される際に、対象から完全に分離される(すなわち、インビトロ試料である)。試料は、ヒト対象から得られる任意の細胞、組織、又は液体試料であり得る。試料は、例えば、患者から得られる血液試料、唾液試料、尿試料、又は他の試料であってもよい。試料は、本明細書に記載される方法に従って分析される前に、様々な処置、保管、又は処理手順を受けてもよい。通常、「試料(sample)」又は「複数の試料(samples)」という用語は、その供給源、由来、調達方法、処置、処理、保管若しくは分析、又は任意の改変によって制限されることを意図しない。したがって、ある実施形態では、試料はインビトロ試料であり、インビトロ法を使用して分析されてもよい。本明細書に開示される方法は、ヒト対象から得られる試料及びヒト対象から取り出される試料を用いた場合はインビトロ法である。
【0059】
「副腎皮質刺激ホルモン」又は「ACTH」という用語は、通常は下垂体前葉によって産生及び分泌されるポリペプチドベースのホルモンを指す。ACTHは、副腎皮質の特殊化細胞によるコルチゾール及びその他のグルココルチコイド(GCs)の分泌を刺激する。健康な哺乳類では、ACTHの分泌は厳密に制御される。ACTHの分泌は、視床下部によって放出される副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)によって正に制御される。ACTHの分泌は、コルチゾール及びその他のグルココルチコイドによって負に制御される。厳密に制御される視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸に対する破壊は、低いレベルのACTH及びコルチゾールをもたらし得、これはさらには、二次性副腎機能不全をもたらし得る。
【0060】
「グルココルチコイド」(「GC」)という用語は、グルココルチコイド受容体アゴニスト、グルココルチコイド、グルココルチコステロイド、コルチコイド、コルチコステロイド、又はグルココルチコイド受容体に結合してこれを活性化するステロイド、として称される、当技術分野で知られている任意の化合物を含む。「グルココルチコステロイド」は、グルココルチコイド受容体に結合するステロイドホルモン又はステロイド分子を指す。グルココルチコステロイドはGCである。グルココルチコステロイドは、典型的には、21個の炭素原子を有し、A環にα,β-不飽和ケトンを有し、及びD環に結合したα-ケトール基を有することを特徴とする。それらグルココルチコステロイド同士は、C-11、C-17、及びC-19での酸素化度又はヒドロキシル化度が異なる(Rawn, “Biosynthesis and Transport of Membrane Lipids and Formation of Cholesterol Derivatives,” in Biochemistry, Daisy et al.(eds.), 1989, pg. 567)。
【0061】
本明細書で使用されるように、「コルチゾール」という用語は、以下の構造を有する天然に存在するグルココルチコイドホルモン(ヒドロコルチゾンとしても知られる)を指す。
【0062】
【0063】
コルチゾールは、副腎の束状帯によって生成されるグルココルチコイドホルモンである。「総コルチゾール」という用語は、コルチゾール結合グロブリン(CBG又はトランスコルチン)に結合されているコルチゾール及び遊離コルチゾール(CBGに結合されていないコルチゾール)を意味する。「遊離コルチゾール」という用語は、コルチゾール結合グロブリン(CBG又はトランスコルチン)に結合されていないコルチゾールを意味する。本明細書で使用する場合、「コルチゾール」という用語は、総コルチゾール、遊離コルチゾール、及び/又はCBGに結合されたコルチゾールを指す。
【0064】
「グルココルチコイド受容体」(「GR」)は、コルチゾール及び/又はデキサメタゾンなどのコルチゾール類似体に特異的に結合するII型GRを指す(例えば、Turner & Muller, J Mol Endocrinol, 2005 35 283-292を参照)。GRは、コルチゾール受容体とも称される。この用語は、GRのアイソフォーム(イソ型)、組換えGR、及び変異GRを含む。ヒトGR受容体II型(Genbank:P04150)に対する阻害定数(Ki)は、0.0001nM~1,000nMnの間であり、好ましくは0.0005nM~10nMの間であり、最も好ましくは0.001nM~1nMの間である。
【0065】
「グルココルチコイド受容体モジュレーター」又は「GRM」という用語は、合成若しくは天然のコルチゾール又はコルチゾール類似体などのグルココルチコイド受容体(GR)アゴニストのGRへの結合を変化させる(「調節する」)、又はGRアゴニスト結合に起因するGRの活性を変化させる(「調節する」)、任意の組成物又は化合物を指す。したがって、GRMは、GRMの非存在下で起こるGRアゴニスト結合の効果に対する変化を与える。
【0066】
「グルココルチコイド受容体アンタゴニスト」又は「GRA」という用語は、合成若しくは天然のコルチゾール又はコルチゾール類似体などのグルココルチコイド受容体(GR)アゴニストのGRへの結合を部分的又は完全に阻害する(拮抗する)GRMを指す。GRAは、GRAの非存在下で起こるGRアゴニスト結合の効果に対する拮抗的な調節を提供するGRMである。「特異的グルココルチコイド受容体アンタゴニスト」は、GRのアゴニストへの結合に関連する生物学的応答を阻害する任意の組成物又は化合物を指す。「特異的」であることによって、薬剤は鉱質コルチコイド受容体(MR)、アンドロゲン受容体(AR)、又はプロゲステロン受容体(PR)などの他の核内受容体よりもGRに優先的に結合する。特異的グルココルチコイド受容体アンタゴニストは、MR、AR、若しくはPR、MR及びPRの両方、MR及びARの両方、AR及びPRの両方、又はMR、AR、及びPR、に対する親和性よりも10倍大きい(1/10倍のKd値)親和性でGRに結合することが好ましい。より好ましい実施形態では、特異的グルココルチコイド受容体アンタゴニストは、MR、AR、若しくはPR、MR及びPRの両方、MR及びARの両方、AR及びPRの両方、又はMR、AR、及びPR、に対する親和性よりも100倍大きい(1/100倍のKd値)親和性でGRに結合する。
【0067】
グルココルチコイド受容体の文脈における「選択的阻害剤」という用語は、特異的グルココルチコイド受容体アゴニストとグルココルチコイド受容体との結合を選択的に妨害する化学化合物を指す。
【0068】
ステロイド骨格を含むグルココルチコイド受容体アンタゴニストの文脈における「ステロイド骨格」という用語は、内因性ステロイド系グルココルチコイド受容体リガンドであるコルチゾールの基本構造の修飾を含むグルココルチコイド受容体アンタゴニストを指す。ステロイド骨格の基本構造は、式Iとして提供される。
【0069】
【0070】
グルココルチコイドアンタゴニストを作るためのコルチゾールのステロイド骨格の構造修飾の2つの最も一般的に知られているクラスは、11-βヒドロキシ基の修飾及び17-β側鎖の修飾を含む(例えば、Lefebvre(1989)J. Steroid Biochem. 33:557-563を参照)。
【0071】
本明細書で使用される場合の「ミフェプリストン」という用語は、11β-(4-ジメチルアミノフェニル)-17β-ヒドロキシ-17α-(1-プロピニル)-エストラ-4,9-ジエン-3-オン)を指し、RU486若しくはRU38.486、又は17-β-ヒドロキシ-11-β-(4-ジメチル-アミノフェニル)-17-α-(1-プロピニル)-エストラ-4,9-ジエン-3-オン)とも称される。ミフェプリストンは、グルココルチコイド受容体(GR)に通常は高い親和性で結合し、任意のコルチゾール又はコルチゾール類似体のGR受容体への結合によって開始/媒介される生物学的効果を阻害する。ミフェプリストンの塩、水和物、及びプロドラッグは全て、本明細書で使用される用語「ミフェプリストン」に包含される。したがって、本明細書で使用される「ミフェプリストン」は、以下の構造を有する分子、並びにその塩、水和物、及びプロドラッグ、並びにそれらの医薬組成物を指す。
【0072】
【0073】
本明細書で使用される場合、非ステロイド骨格を含むグルココルチコイド受容体アンタゴニストの文脈における「非ステロイド骨格」という語句は、コルチゾールと構造的相同性を共有しない、又はコルチゾールの改変体(modifications)ではない、グルココルチコイド受容体アンタゴニストを指す。そのような化合物としては、部分的にペプチド性、偽ペプチド性、及び非ペプチド性の分子的存在などの、タンパク質の合成模倣物及び類似体が挙げられる。
【0074】
非ステロイド系GRM化合物としては、ヘテロアリールケトン縮合アザデカリン骨格を有するグルココルチコイド受容体アンタゴニストも挙げられる。例示的なヘテロアリールケトン縮合アザデカリン骨格を有するGRMとして、米国特許第8,859,774号、第9,273,047号、及び第9,707,223号に記載されたものが挙げられる。上記及び下記の、本明細書に引用される全ての特許、特許公開、及び刊行物は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれ、それには本明細書に引用される特許、特許公開、及び刊行物に開示される全ての化合物及び組成物が含まれる。
【0075】
本明細書で使用される場合、「レラコリラント(relacorilant)」という用語は、以下の構造を有するヘテロアリールケトン縮合アザデカリン化合物(R)-(1-(4-フルオロフェニル)-6-((1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-4,4a,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1H-ピラゾロ[3,4-g]イソキノリン-4a-イル)(4-(トリフルオロメチル)ピリジン-2-イル)メタノン(米国特許第8,859,774号の実施例18)を指す。
【0076】
【0077】
本明細書で使用される場合、「CORT122928」という用語は、以下の構造を有するヘテロアリールケトン縮合アザデカリン化合物(R)-(1-(4-フルオロフェニル)-6-((4-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)-4,4a,5,6,-7,8-ヘキサヒドロ-1H-ピラゾロ[3,4-g]イソキノリン-4a-イル)(チアゾール-2-イル)メタノン(米国特許第8,859,774号の実施例1C)を指す。
【0078】
【0079】
本明細書で使用される場合、「CORT113176」という用語は、以下の構造を有するヘテロアリールケトン縮合アザデカリン化合物(R)-(1-(4-フルオロフェニル)-6-((4-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)-4,4a,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1-H-ピラゾロ[3,4-g]イソキノリン-4a-イル)(ピリジン-2-イル)メタノン(米国特許第8,859,774号の実施例1)を指す。
【0080】
【0081】
「医薬的に許容される非薬効成分(excipient)」及び「医薬的に許容される担体」は、対象への活性剤の投与及び対象による吸収を助ける物質を指し、患者に重大で有害な毒性効果を引き起こすことなく、本発明の組成物に含ませることができる。医薬的に許容される非薬効成分の非限定的な例としては、水、塩化ナトリウム、生理食塩水、乳酸リンゲル液、通常のスクロース(normal sucrose)、通常のグルコース(normal glucose)、結合剤、増量剤、崩壊剤、潤滑剤、コーティング、甘味料、香味料、及び着色料などが挙げられる。当業者は、他の医薬的非薬効成分(excipient)が本発明において有用であることを認識するであろう。
【0082】
診断方法及び治療方法
クッシング症候群は、該症候群を特徴づける過剰なコルチゾール又はGC作用の源が不明であっても診断され得る。したがって、処置(例えば、ミフェプリストンなどのGRMの投与)を開始することは出来ても、患者の状態に最適な治療を患者に提供するために、さらなる診断情報を取得することが必要となり得る。本方法は、クッシング症候群のGRM処置を提供し、それと同時に、該処置は、凝固亢進症、DVT、PE、及びVTE、並びに患者における炎症状態などのクッシング症候群に関連する状態の治療に効果的である。
【0083】
前記方法は、クッシング症候群に罹患している患者から生体試料を得ることを含んでもよい。生体試料は、患者からの唾液、尿、全血、血漿、血清、又は別の生体試料であり得る。いくつかの実施形態では、生体試料は血液試料である。ある実施形態では、血液凝固の内因的経路の因子の検出又は測定は、そのような試料を用いて行われる。ある実施形態では、血液凝固の外因的経路(組織因子経路とも称される)の因子の検出又は測定は、そのような試料を用いて行われる。ある実施形態では、凝固パラメーター(例えば、凝固時間など)若しくは血小板、又は凝固因子(例えば、第VIII因子、フォン・ヴィレブランド因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、第XII因子(ハーゲマン(Hageman)因子)、第XIII因子、フィブリン、フィブリノーゲン、トロンビン、プロトロンビン、血漿トロンボラスチン前駆物質、スチュアート(Stuart)因子など)のレベルは、患者から得られた血液試料から決定される。ある実施形態では、患者における炎症を示すマーカー又は因子及び炎症状態の有無又は程度を示すマーカー又は因子(例えば、赤血球沈降速度、及びC反応性タンパク質のレベル、プロカルシトニン、好酸球数、血小板数、サイトカインレベル(例えば、インターロイキン-6、腫瘍壊死因子、アディポネクチン、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、CD40リガンド、リポタンパク質関連ホスホリパーゼA2(Lp-PLA(2))、フィブリノーゲン、フェリチンなどのレベル)は、患者から得られた血液試料から決定される。
【0084】
このような凝固因子及び炎症マーカーの一部のものについての正常範囲としては、以下が挙げられる:APTT:22~34秒;フォン・ヴィレブランド因子:50~217%;第VIII因子:50~180%;第IX因子:60~160%;第X因子:70~150%;Dダイマー:0.4999μg/mL以下;血漿フィブリノーゲン:2~4g/L;トロンビン-アンチトロンビン:3.99μg/L以下;オステオカルシン:8~37UG/L;C反応性タンパク質:3.099μg/L以下;血小板数:130,000~400,000細胞/mm3;好酸球:0.05~0.55×103/μL(又は、パーセントとしては、好酸球:白血球の0~7%)。
【0085】
凝固亢進症は、血液凝固時間、フィブリン分解産物(例えば、Dダイマー試験)、赤血球沈降速度(又は他の血液粘度試験)、及び凝固パラメーター(例えば、血小板の測定、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)としても知られる活性化プロトロンビン時間)の測定、又はその他の適切な試験による)の測定などの血液検査によって;血栓を検出するための患者の身体検査によって;血栓を検出するためのイメージング(例えば、超音波又は他の適切なイメージング)によって、又はその他の手段によって、診断されてもよい。血液検査を使用して測定及び追跡され得る凝固マーカーとしては、例えば、第VIII因子、フォン・ヴィレブランド因子、血小板数、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)、第V因子、第X因子、トロンビン-アンチトロンビン、及びその他の因子が挙げられる。血液凝固時間は、例えば、APTT又はその他の試験によって測定されてもよい。
【0086】
深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)、静脈血栓塞栓症(VTE)、及びその他のそのような血栓性疾患は、患者の身体検査によって;血液検査(例えば、フィブリン分解産物の存在についてのDダイマー検査、又はその他の適切な検査による)、血小板数、及びその他の血液検査によって;イメージング(例えば、超音波CTスキャン、MRI、又はその他の適切なイメージング)によって;又はその他の適切な手段によって、診断されてもよい。
【0087】
炎症状態の存在は、患者の身体検査によって;単球、肥満細胞、T細胞、又はその他の血液細胞の蓄積の観察によって;例えば、サイトカイン、ケモカイン、インターロイキン、ヒスタミン、プロスタグランジン、C反応性タンパク質、腫瘍壊死因子などの炎症性因子レベルについての血液検査によって、診断されてもよい。
【0088】
グルココルチコイド受容体アンタゴニスト
本発明の方法は、一般に、グルココルチコイド受容体モジュレーター(GRM)を投与することを提供し、前記GRMはグルココルチコイド受容体アンタゴニスト(GRA)であってもよい。場合によっては、GRMは特異的GRMである。本明細書で使用される場合、特異的GRMは、他の核内受容体(NR)よりもGRに優先的に結合することによりグルココルチコイド受容体(GR)のアゴニストへの結合に関連する何らかの生物学的応答を調節する組成物又は化合物を指す。いくつかの場合には、GRAは特異的GRAである。本明細書で使用される場合、特異的GRAは、別の核内受容体(NR)よりもGRに優先的に結合することにより、GRのアゴニストへの結合に関連する何らかの生物学的応答を阻害する組成物又は化合物を指す。いくつかの実施形態では、特異的GRMは、鉱質コルチコイド受容体(MR)、アンドロゲン受容体(AR)、又はプロゲステロン受容体(PR)よりもGRに優先的に結合する。ある例示的な実施形態では、特異的GRMは、鉱質コルチコイド受容体(MR)よりもグルココルチコイド受容体に優先的に結合する。別のある例示的な実施形態では、特異的GRMは、プロゲステロン受容体(PR)よりもむしろGRに優先的に結合する。別のある例示的な実施形態では、特異的GRMは、アンドロゲン受容体(AR)よりもむしろグルココルチコイド受容体に優先的に結合する。さらに別のある例示的な実施形態では、特異的GRMは、MR及びPR、MR及びAR、PR及びAR、又はMR、PR、及びARと比べて、グルココルチコイド受容体に優先的に結合する。
【0089】
合成11-β-フェニル-アミノジメチルステロイドとしては、RU486としても知られるミフェプリストン、又は17-β-ヒドロキシ-11-β-(4-ジメチル-アミノフェニル)17-α-(1-プロピニル)エストラ-4,9-ジエン-3-オン)が挙げられる。ミフェプリストンは、プロゲステロン受容体及びグルココルチコイド(GR)受容体の両者の強力なアンタゴニストであることが示されている。したがって、いくつかの実施形態では、GRMはミフェプリストンである。このような処置は、クッシング症候群に関連する凝固亢進症、VTE、及び炎症状態の治療に有用であり得る。
【0090】
グルココルチコイド受容体モジュレーターとしての非ステロイド系抗グルココルチコイド
非ステロイド系GRMも、対象における凝固亢進症、VTE、及び炎症状態を治療するために本発明の方法で使用される。いくつかの実施形態では、凝固亢進症、VTE、及び炎症状態は、ヘテロアリールケトン縮合アザデカリン骨格を有する有効量の非ステロイド系GRMで処置されてもよい。例えば、凝固亢進症、VTE、及び炎症状態は、上述のGRMのうちの1種の有効量で治療することができる。ヘテロアリールケトン縮合アザデカリン骨格を有する例示的なGRMとして、米国特許第8,859,774号に記載されたものが挙げられる。
【0091】
グルココルチコイド受容体モジュレーターの医薬組成物
本明細書に開示される方法の実施において投与されるGRMは、多種多様な経口、非経口、及び局所の剤形などの任意の適切な形態で調製され得る。いずれかの経口製剤としては、患者による摂取に適した錠剤、丸薬、粉末、糖衣錠、カプセル、液剤、トローチ、オブラート剤(cachet)、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などが挙げられる。本発明のGRA組成物は、注射によって、すなわち静脈内、筋肉内、皮内、皮下、十二指腸内、又は腹腔内に投与されてもよい。また、本明細書に記載されたGRM組成物は、吸入により、例えば鼻腔内に投与されてもよい。加えて、本発明のGRM組成物は経皮投与されてもよい。本発明のGRM組成物は、坐剤、インサフレーション(吹送)、粉末、及びエアロゾル製剤(例えば、ステロイド吸入剤、Rohatagi, J. Clin. Pharmacol. 35:1187-1193, 1995; Tjwa, Ann. Allergy Asthma Immunol. 75:107-111, 1995を参照)などの、眼内、膣内、及び直腸内の経路によって投与されてもよい。したがって、本発明は、医薬的に許容される担体又は非薬効成分(excipient)及び本明細書に開示されるGRM化合物を含むGRMの医薬的組成物を提供する。
【0092】
本明細書に開示されるGRM化合物から医薬組成物を調製するために、医薬的に許容される担体は、固体又は液体のどちらでもよい。固形製剤として、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、オブラート剤(cachet)、坐剤、及び分散性顆粒剤が挙げられる。固体担体は、希釈剤、香味剤、結合剤、保存料、錠剤崩壊剤、又はカプセル化材料としても機能し得る1又は複数の物質とすることもできる。製剤化及び投与の技術に関する詳細は、科学文献及び特許文献に充分に説明されており、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Maack Publishing Co, Easton PA(「Remington’s」)の最新版を参照されたい。
【0093】
粉末では、担体は微細に分割された固体であり、微細に分割された活性成分と混合されている。錠剤では、活性成分は、必要な結合特性を有する担体と適切な比率で混合され、望ましい形状及びサイズに圧縮される。粉末及び錠剤は、好ましくは、本発明の化合物を5又は10%~70%含有する。
【0094】
適切な固形の非薬効成分(excipient)としては、これらに限定されないが、炭酸マグネシウム;ステアリン酸マグネシウム;タルク;ペクチン;デキストリン;デンプン;トラガカント;低融点ワックス;ココアバター;炭水化物;糖類(乳糖、スクロース、マンニトール、又はソルビトールが挙げられるがこれらに限定されない)、コーンスターチ、小麦、米、ジャガイモ又はその他の植物;セルロース(メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はカルボキシメチルセルロースナトリウムなど);及びアラビアガム及びトラガカントガムなどのガム;並びにタンパク質(ゼラチン及びコラーゲンが挙げられるがこれらに限定されない)が挙げられる。必要であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸又はその塩(アルギン酸ナトリウムなど)などの崩壊剤又は可溶化剤が添加されてもよい。
【0095】
糖衣錠のコアは、濃縮糖液などの適切なコーティングを備えており、該コーティングは、アラビアガム、タルク、ポリビニルピロリドン、カーボポールゲル(carbopol gel)、ポリエチレングリコール、及び/又は二酸化チタン、ラッカー溶液、及び適切な有機溶媒又は溶媒混合物を含んでいてもよい。製品の識別又は活性化合物の量(すなわち、用量)について特徴付けるために、錠剤又は糖衣錠コーティングに染料又は顔料が添加されてもよい。本発明の医薬製剤は、例えば、ゼラチン製の押し込み式カプセル、並びにゼラチン及びグリセロール又はソルビトールなどのコーティングから構成されるシールされた軟カプセルを使用して、経口的に使用することができる。押し込み式カプセルは、ラクトース又はデンプンなどの充填剤又は結合剤、タルク又はステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、及び所望により(optionally)安定剤と混合された本発明の化合物を含み得る。軟カプセルにおいて、本発明の化合物は、安定剤を含む又は含まない、脂肪油、流動パラフィン、若しくは液体ポリエチレングリコールなどの適切な液体に溶解又は懸濁されてもよい。
【0096】
坐剤を調製するために、脂肪酸グリセリドの混合物又はココアバターなどの低融点ワックスを最初に融解させ、本発明の化合物を撹拌などによりその中に均一に分散させる。次に、溶融された均質混合物は簡便な大きさの型に注がれ、冷えて(allowed to cool)凝固する。
【0097】
液体形態の製剤としては、溶液、懸濁液、及び乳濁液が挙げられ、例えば水又は水/プロピレングリコール溶液が挙げられる。非経口注射の場合、液体製剤はポリエチレングリコール水溶液中の溶液状態で製剤化することができる。
【0098】
経口使用に適した水溶液は、本発明の1又は複数の化合物を水に溶解し、必要に応じて適切な着色料、香味料、安定剤、及び増粘剤を加えることにより調製することができる。経口使用に適した水性懸濁液は、天然又は合成のガム、樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム及びアカシアガムなどの粘性物質、並びに天然のホスファチド(例えば、レシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンステアレート)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)、又はエチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトール無水物に由来する部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)などの分散剤又は湿潤剤を含む水に、細かく分割された有効成分を分散させることで製造することができる。水性懸濁液は、p-ヒドロキシ安息香酸エチル又はp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピルなどの1又は複数の保存料、1又は複数の着色剤、1又は複数の香味剤、及びスクロース、アスパルテーム、又はサッカリンなどの1又は複数の甘味剤も含んでもよい。製剤は、浸透圧を調整してもよい。
【0099】
使用の直前に、経口投与用の液体製剤に変換されることが意図された固形製剤も挙げられる。そのような液体形態としては、溶液、懸濁液、及び乳濁液が挙げられる。これらの製剤は、有効成分に加えて、着色料、香味料、安定剤、緩衝剤、人工及び天然の甘味料、分散剤、増粘剤、可溶化剤などを含んでいてもよい。
【0100】
油性懸濁液は、本発明の化合物を、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、若しくはココナッツ油などの植物油、又は流動パラフィンなどの鉱油、又はこれらの混合物に懸濁することにより製剤化することができる。油性懸濁液は、蜜蝋、硬質パラフィン、又はセチルアルコールなどの増粘剤を含むことができる。グリセロール、ソルビトール、又はスクロースなどの甘味剤を加えて、口当たりの良い経口製剤を提供することができる。これらの製剤は、アスコルビン酸などの抗酸化剤の添加により保存することができる。注射可能な油性ビヒクルの例としては、Minto, J. Pharmacol. Exp. Ther. 281:93-102, 1997を参照されたい。本発明の医薬製剤は、水中油型乳濁液の形態であり得る。油相は、上記の植物油若しくは鉱油、又はこれらの混合物であり得る。適切な乳化剤として、アカシアガム及びトラガカントガムなどの天然ガム、大豆レシチンなどの天然リン脂質、ソルビタンモノオレエートなどの脂肪酸及びヘキシトール無水物に由来するエステル又は部分エステル、並びにこれらの部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなど)が挙げられる。乳剤は、シロップ及びエリキシルの製剤中のように、甘味剤及び香味剤をも含んでいてもよい。そのような製剤は、粘滑剤、保存料、又は着色剤をも含んでいてもよい。
【0101】
本明細書で提供されるGRM組成物は、体内で徐放するためのマイクロスフェアとして送達され得る。例えば、マイクロスフェアは、皮下で徐放する薬物含有マイクロスフェアの皮内注射による投与用に(Rao, J. Biomater Sci. Polym. Ed. 7:623-645, 1995を参照);生分解可能及び注射可能なゲル製剤として(例えば、Gao Pharm. Res. 12:857-863, 1995を参照);又は経口投与用マイクロスフェアとして(例えば、Eyles, J. Pharm. Pharmacol. 49:669-674, 1997を参照)、製剤化することができる。経皮経路と皮内経路の両方で、数週間又は数か月間一定の送達が可能である。
【0102】
別のある実施形態では、本発明のGRM組成物は、静脈内(IV)投与又は体腔若しくは器官の管腔(lumen)への投与などの非経口投与用に製剤化することができる。投与用の製剤は、通常、医薬的に許容される担体に溶解された本発明の組成物の溶液を含むであろう。使用され得る許容可能なビヒクル及び溶媒には、水、及び等張塩化ナトリウムであるリンゲル液がある。加えて、無菌の固定油は、溶媒又は懸濁媒体として従来から使用され得る。この目的のために、合成モノグリセリド又はジグリセリドなどの、任意の無菌の固定油を使用し得る。加えて、オレイン酸などの脂肪酸を注射剤の調製に同様に使用し得る。これらの溶液は無菌であり、通常、望ましくない物質を含まない。これらのGRM製剤は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌されてもよい。製剤は、pH調整剤及び緩衝剤、毒性調整剤(例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなど)などの、生理学的状態に近づけるために必要な医薬的に許容される補助物質を含んでもよい。これらの製剤中の本発明の組成物の濃度は大きく変動してもよく、選択された特定の投与様式及び患者の必要性に従って、主に体液量、粘度、体重などに基づいて選択されることになる。IV投与の場合、GRM製剤は、無菌の注射用水性又は油性懸濁液などの無菌の注射用製剤であってもよい。この懸濁液は、それら適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を使用して、公知の技術に従って製剤化され得る。無菌の注射用製剤は、1,3-ブタンジオールの溶液など、非経口的に許容される非毒性の希釈剤又は溶媒中の無菌の注射用溶液又は懸濁液であってもよい。
【0103】
別のある実施形態では、本発明の組成物の製剤は、細胞膜と融合する又はエンドサイトーシスされるリポソームを使用することで、すなわち、リポソームに結合した又はオリゴヌクレオチドに直接結合したリガンドであって細胞の表面膜タンパク質受容体に結合してエンドサイトーシスを引き起こすリガンドを使用することで、送達することができる。リポソームを使用することにより、特にリポソーム表面が標的細胞に特異的なリガンドを有するか又はそれ以外の様式で特定の器官に優先的に指向されている場合、本発明の組成物の送達をインビボで標的細胞に集中させることができる(例えば、Al-Muhammed, J. Microencapsul. 13:293-306, 1996; Chonn, Curr. Opin. Biotechnol. 6:698-708, 1995; Ostro, Am. J. Hosp. Pharm. 46:1576-1587, 1989を参照)。
【0104】
脂質ベースの薬物送達システムとしては、脂質溶液、脂質乳濁液、脂質分散液、自己乳化薬物送達システム(Self-Emulsifying Drug Delivery Systems、SEDDS)、及び自己マイクロ乳化薬物送達システム(Self-Microemulsifying Drug Delivery Systems、SMEDDS)が挙げられる。特に、SEDDS及びSMEDDSは、脂質、界面活性剤、及び共界面活性剤の等方性混合物であり、水性媒体に自発的に分散して、微細エマルション(SEDDS)又はマイクロエマルション(SMEDDS)を形成し得る。本発明の製剤に有用な脂質としては、任意の天然又は合成の脂質が挙げられ、ごま油、オリーブ油、ひまし油、落花生油、脂肪酸エステル、グリセロールエステル、Labrafil(登録商標)、Labrasol(登録商標)、Cremophor(登録商標)、Solutol(登録商標)、Tween(登録商標)、Capryol(登録商標)、Capmul(登録商標)、Captex(登録商標)、及びPeceol(登録商標)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0105】
GRM組成物は、他の共存可能な(compabitle)治療薬を含むこともできる。本明細書に記載された化合物は、2種以上を互いに組み合わせて、グルココルチコイド受容体に拮抗するのに有用であることが公知である他の活性剤と組み合わせて、又は単独では有効ではないかもしれないものの活性剤の有効性に寄与し得るアジュバントと組み合わせて、使用することができる。
【0106】
グルココルチコイド受容体モジュレーターの投与
GRMは、グルココルチコイド受容体の選択的阻害剤であり得るGRAであってもよい。GRMはステロイド骨格を有してもよく、例えばミフェプリストンであってもよい。GRMは非ステロイド骨格を有していてもよい。場合によっては、GRMの骨格はヘテロアリールケトン縮合アザデカリンである。本明細書で提供される方法で使用することができるGRMの追加の詳細を以下に記載する。GRMは、1日に1回、2回、又はそれ以上投与されてもよい。GRMは、1日間、2日間、3日間、又はそれ以上の日数投与されてもよい。
【0107】
本明細書に開示される方法において有用なGRM化合物又は組成物は、経口、非経口(例えば、静脈内注射又は筋肉内注射)及び局所的方法などの任意の適切な手段によって送達することができる。局所経路による経皮投与方法は、アプリケータースティック、溶液、懸濁液、乳濁液(エマルション)、ゲル、クリーム、軟膏、ペースト、ゼリー、塗布薬、粉末、及びエアロゾルとして処方することができる。
【0108】
GRMの用量は、昼間又は夜間の任意の時間に投与されてもよい。本明細書で提供される方法の実施形態では、GRMは朝(morning)に投与され、朝(morning)朝食前に投与されてもよく(「空腹時」投与)、又は朝(morning)患者が朝食を食べるのを開始してから約30分以内若しくは約1時間以内に投与されてもよい(「食後」投与)。本明細書で提供される方法のいくつかの実施形態では、少なくとも1回分用量のGRMが午後11時頃に投与され(例えば、23:00)、総コルチゾールまたは遊離コルチゾール(例えば、朝の血漿総コルチゾール、朝の血清総コルチゾール、朝の唾液コルチゾール、血清遊離コルチゾール、血漿遊離コルチゾール、又は尿遊離コルチゾール)のレベルは、翌朝午前8時頃又はGRMの投与後10時間以内に測定される。
【0109】
医薬製剤は、好ましくは単位剤形形態である。このような形態では、製剤は、本発明の化合物及び組成物の適切な量を含む単位用量にさらに分割される(subdivided)。単位剤形は、包装された製剤とすることもでき、該包装は、バイアル又はアンプル中に包装された錠剤、カプセル、及び粉末などの、個別の量の製剤を含む。また、単位剤形は、一つの(a)カプセル、錠剤、オブラート剤(cachet)、又はトローチのそれ自体とすることもでき、又は、包装された形態の、適切な数量のこれらのうち任意のものとすることもできる。
【0110】
GRMは経口投与してもよい。例えば、GRMは、本明細書に記載された丸剤、カプセル剤、又は液体製剤として投与することができる。あるいは、GRMは非経口投与によって提供することができる。例えば、GRMは(例えば、注射又は注入(infusion)によって)静脈内に投与することができる。本明細書に記載された化合物及びその医薬組成物又は製剤のさらなる投与方法は、本明細書に記載されている。
【0111】
いくつかの実施形態では、GRMは1回用量で投与される。他の実施形態では、GRMは、2回以上の用量、例えば、2回用量、3回用量、4回用量、5回用量、6回用量、7回用量、又はそれより多い回数の用量で投与される。いくつかの場合においては、これらの用量は互いに同量である。他の場合には、これらの用量は互いに異なる量である。用量は、投与期間中に増加又は漸減させることができる。量は、例えば、GRMの特性及び患者の特性によって異なることになる。
【0112】
本明細書に開示される方法では、任意の適切なGRM用量を使用してもよい。投与されるGRMの用量は、1日あたり約50ミリグラム(mg)以上、約100mg/日以上、約150mg/日以上、約200mg/日以上、約250mg/日以上、約300mg/日以上、約350mg/日以上、約400mg/日以上、約450mg/日以上、約500mg/日以上、約550mg/日以上、約600mg/日以上、又はそれより多い用量とすることができる。例えば、GRAがHKGRMレラコリラントである場合、HKGRM用量は、例えば、1日あたり50ミリグラム(mg)、100mg/日、150mg/日、200mg/日、250mg/日、300mg/日、350mg/日、400mg/日、450mg/日、500mg/日、550mg/日、又は600mg/日であってもよい。例えば、GRAがミフェプリストンである場合、GRM用量は、例えば、300mg/日、600mg/日、900mg/日、又は1200mg/日のミフェプリストンであってもよい。ある実施形態では、GRMは経口投与される。いくつかの実施形態では、GRMは一回用量以上で投与される。換言すれば、GRMは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回用量又はそれより多い用量で投与され得る。ある実施形態では、GRMは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回用量又はそれより多い用量で経口投与される。
【0113】
患者は、例えば、2~48時間にわたり、1回又は複数回用量以上のうちの、少なくとも1回用量のGRMを投与されてもよい。GRMは経口投与されてもよい。患者は、1週間、2週間、3週間、4週間、2か月間、3か月間、4か月間、5か月間、6か月間、9か月間、1年間、1年半の間、2年間、又はそれより長い期間、毎日GRMを投与されてもよい。いくつかの実施形態では、GRMは単回用量で投与される。いくつかの実施形態では、GRMは、1日1回用量で投与される。他の実施形態では、GRMは1日あたり2回用量以上、例えば、2回用量、3回用量、4回用量、5回用量、又はそれより多い用量で投与される。いくつかの実施形態では、GRMは、2~48時間、2~36時間、2~24時間、2~12時間、2~8時間、8~12時間、8~24時間、8~36時間、8~48時間、9~36時間、9~24時間、9~20時間、9~12時間、12~48時間、12~36時間、12~24時間、18~48時間、18~36時間、18~24時間、24~36時間、24~48時間、36~48時間、又は42~48時間にわたり投与される。
【実施例】
【0114】
以下の実施例は、クレームされた発明を例示するためのものであって、限定するためのものではない。
【0115】
レラコリラントによる処置は、高血糖及び高血圧の改善をもたらし、該改善は、一般に、レラコリラントの治療用量を達成してから2週間以内に観察された。さらに、以下の表1に見られるように、他の多くのコルチゾール関連併存疾患でも有意な改善が観察された。
表1 レラコリラント処置はクッシング症候群の患者の改善につながる
【0116】
【0117】
上記表1では、P値はウィルコクソンの符号順位(Wilcoxon Signed Rank)のP値であり、ベースラインからの平均変化は初期(ベースライン)値から最後に観察された値までの平均変化を示し、第VIII因子値は、正常値の百分率(%)として表し、血小板数及び好酸球数は1リットルあたりの細胞数として表し、APTTは活性化部分トロンボプラスチン時間を秒単位で示し、並びに血清オステオカルシンはビタミンK関連ホルモンのオステオカルシンの骨外でのレベルの測定値である。
【0118】
図1Aは、レラコリラントで処置されたクッシング症候群の患者における凝固因子の経時的なレベルを示す。レラコリラントは、1日1回、4か月間患者に投与された。2つの群のクッシング症候群の患者は、レラコリラントを投与された。第1群は、1日あたり100ミリグラム(mg/日)投与され、耐容性を示した場合、16週間の試験期間中において200mg/日に増量された。第2群は、以下のスケジュールに従ってレラコリラントの用量が投与された:開始用量として1日あたり250ミリグラム(mg)のレラコリラントを4週間、続いて300mg/日のレラコリラントを次の4週間、続いて350mg/日のレラコリラントをさらに4週間、そして400mgのレラコリラントをさらなる4週間投与された。(一部の患者は高用量を耐容せず、試験期間中は低用量を継続したか、又は16週間より前に試験を終了した。)
【0119】
図1Aには、第VIII因子(列の各対の中で左側にある濃色の棒)及びフォン・ヴィレブランド因子(列の各対の中で右側にある薄色の棒(Vwf))の正規化されたレベルが示されている(正常な対象におけるレベルに対する割合(%))。レラコリラント投与前のベースライン時(左端の列の対)、4週間のレラコリラント処置後(中央の列の対)、及び3又は4か月のレラコリラント処置後(右端の列の対)の、第VIII因子及びフォン・ヴィレブランド因子である。第VIII因子レベルは、ベースラインと比べて、4週目及び3又は4か月のレラコリラント処置後に低減する。フォン・ヴィレブランド因子レベルは、最初はある程度上昇し(4週目)、その後3又は4か月のレラコリラント処置後にベースラインレベルに戻る。
【0120】
図2Aは、レラコリラント投与前後の12人のクッシング症候群の患者で測定された活性化プロトロンビン時間(APTT)を示す。レラコリラントを投与された第2群の患者におけるAPTTは、ベースライン時(レラコリラント投与前)及び16週間後(又は16週間のレラコリラント投与を完了した患者の最終レラコリラント投与の後)に測定された。
図2Aに示されるように、APTTは、レラコリラント投与後、この群で有意に増加した(p値:0.014)。増加したAPTTは、血液凝固にかかる時間の増加、すなわち、凝固亢進の低下を示す。したがって、これらの結果は、最初は凝固亢進症に罹患していた患者(すなわち、これらのクッシング症候群の患者におけるもののような凝固亢進症)では、該凝固亢進症が軽減し、DVT、PE、及びVTEなどの凝固亢進症に関連する凝固障害のリスクが減少することを示す。
【0121】
過剰なコルチゾール活性によって引き起こされる異常に上昇した凝固因子の改善/正常化は、レラコリラントによる処置の1か月後というほど早くに観察された。これは、凝固因子が手術後3か月で減少し始め、手術後6か月間以上上昇したままであることが多い、下垂体クッシング症候群の症例のための治癒的手術後に観察される経過とは対照的である(Trementino et al., Neuroendocrinology 92 Suppl 1:55-59(2010))。活動性のクッシング症候群を有し、かつ治癒的手術後の患者における血栓性イベントのリスクが高いことを考慮すると、レラコリラントは、周術期及び術後の血栓性イベントのリスクが高い患者における術前凝固制御のための選択肢でさえある可能性がある。
【0122】
図2Bは、凝固因子(トロンビン-アンチトロンビン)に対するレラコリラントの効果を示す。レラコリラントで処置されたクッシング患者の凝固プロファイルは、ベースラインと比べて改善された。凝固因子、並びにDVT、PE、及びVTEなどの障害のリスクは、クッシング症候群のための外科的処置後(例えば、クッシング病に罹患している患者の下垂体腫瘍の切除後)に変化する。手術を受けるクッシング患者における第VIII因子レベル及びフォン・ヴィレブランド因子レベルは、術前に上昇し(正常の約150%~200%)、術後1か月時点で増加した。これらのレベルが術前に得られたレベルに低下するまでに最大6か月以上を要した。第VIII因子及びフォン・ヴィレブランド因子のレベルは、術後12か月で改善され、通常の約125%未満のレベルとなった(Casonato, et al. Blood Coagulation and Fibrinolysis 10(3):145-151(1999))。
【0123】
対照的に、
図1A、
図1B、及び
図1Cに示されるように、第VIII因子及びフォン・ヴィレブランド因子のいずれも、レラコリラントの投与によって大幅に増加しなかった。さらに、第VIII因子レベルは、わずか3又は4か月のレラコリラント処置後に低下した。さらに、
図2に示されるように、APTT測定値は、レラコリラントを投与されたクッシング症候群の患者で増加したが、このことは、凝固のリスクが低下し、並びにDVT、PE、及びVTEのリスクが低下したことを示している。これらの結果は、レラコリラント処置がクッシング患者の凝固プロファイルを改善することを示す。これらの結果はさらに、クッシング患者のレラコリラント処置が、処置後のより早い段階で、手術よりも良好な凝固因子プロファイルを提供することを示唆する。
【0124】
図3は、レラコリラントで処置されたクッシング症候群の患者におけるC反応性タンパク質の経時的なレベルを示す。C反応性タンパク質のレベルは、患者における炎症のレベルと相関している。C反応性タンパク質レベルは、最初はある程度上昇し(4週目)、その後3又は4か月のレラコリラント処置後にベースラインレベルに戻る。C反応性タンパク質レベルにおけるこれらの変化は、フォン・ヴィレブランド因子レベルで観察された変化とやはり同様である。したがって、炎症マーカーC反応性タンパク質の変化は、凝固因子で見られる変化と類似している。
【0125】
上述の発明は、理解の明瞭性を目的として例示及び実例によりある程度詳細に説明してきたが、当業者は、ある程度の変更及び修正が、添付の特許請求の範囲内で実施され得ることを理解するであろう。さらに、本明細書で引用される各特許、特許公開、及び参考文献は、各特許、特許公開、及び参考文献が参照により個別に組み込まれる場合と同程度に、その全体が参照により組み込まれる。
本発明に係る態様には以下の態様も含まれる。
<1>
クッシング症候群の患者における凝固亢進症のリスクを減少させる方法であって、
前記患者が、他のクッシング症候群の患者と比べて、凝固亢進症に罹患する上昇したリスクを有すると判定すること、及び
有効量のグルココルチコイド受容体モジュレーター(GRM)を前記患者に投与すること、ここで、前記GRMの投与は第1の抗凝固療法を構成する、
を含み、
それにより前記第1の抗凝固療法を受けていないクッシング症候群の患者における凝固亢進症を発症するリスクと比べて、前記凝固亢進症を発症するリスクが減少する、方法。
<2>
前記患者が凝固亢進症に罹患する上昇したリスクを有すると判定することは、
前記患者における血液凝固マーカーを測定すること又は血栓を確認すること、及び
前記測定した血液凝固マーカーを前記血液凝固マーカーの正常値と比較すること、
を含み、
減少した血液凝固時間、上昇した血小板数、上昇したフィブロネクチン若しくはDダイマーのレベル、又は血栓の存在により、前記患者は凝固亢進症の上昇したリスクを有すると判定する、<1>に記載の方法。
<3>
前記GRMは経口投与される、<1>に記載の方法。
<4>
前記クッシング症候群の患者は、クッシング病に罹患する、<1>に記載の方法。
<5>
前記GRMはミフェプリストンである、<1>に記載の方法。
<6>
前記GRMは、ヘテロアリールケトン縮合アザデカリン骨格を有する非ステロイド系GRMである、<1>に記載の方法。
<7>
前記GRMは、レラコリラント、CORT122928、及びCORT113176から選択される、<5>に記載の方法。
<8>
前記GRMはレラコリラントである、<5>に記載の方法。
<9>
第2の抗凝固療法を実施することをさらに含む、<1>に記載の方法。
<10>
クッシング症候群の患者における深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)、又は静脈血栓塞栓症(VTE)を発症するリスクを減少させる方法であって、
前記患者が、他のクッシング症候群の患者と比べて、DVT、PE、又はVTEを発症するリスク罹患する上昇したリスクを有すると判定すること、及び
有効量のグルココルチコイド受容体モジュレーター(GRM)を前記患者に投与することであって、前記GRMの投与は、第1の抗凝固療法を構成すること、
を含み、
それにより前記第1の抗凝固療法を受けていないクッシング症候群の患者におけるDVT、PE、又はVTEを発症するリスクと比べて、前記DVT、PE、又はVTEを発症するリスクが減少する、方法。
<11>
前記患者が凝固亢進症に罹患する上昇したリスクを有すると判定することは、
前記患者における血液凝固マーカーを測定すること又は血栓を確認すること、及び
前記測定した血液凝固マーカーを前記血液凝固マーカーの正常値と比較すること、
を含み、
減少した血液凝固時間、上昇した血小板数、上昇したフィブロネクチン若しくはDダイマーのレベル、又は血栓の存在により、前記患者はDVT、PE、又はVTEを発症する上昇したリスクを有すると判定する、<10>に記載の方法。
<12>
前記GRMは経口投与される、<1>に記載の方法。
<13>
前記患者は、クッシング症候群に罹患する、<11>に記載の方法。
<14>
前記GRMはグルココルチコイド受容体アンタゴニスト(GRA)である、<11>に記載の方法。
<15>
前記GRMはミフェプリストンである、<14>に記載の方法。
<16>
前記GRMは、ヘテロアリールケトン縮合アザデカリン骨格を有する非ステロイド系GRMである、<14>に記載の方法。
<17>
前記GRMは、レラコリラント、CORT122928、及びCORT113176から選択される、<16>に記載の方法。
<18>
前記GRMはレラコリラントである、<17>に記載の方法。
<19>
第2の抗凝固療法を実施することをさらに含む、<11>に記載の方法。
<20>
前記DVT、PE、又はVTEを発症するリスクは、薬物療法1か月の時点において、クッシング症候群のための外科的処置を受けたクッシング症候群の患者における手術1か月後においてDVT、PE、又はVTEを発症するリスクと比べて減少する、<11>に記載の方法。
<21>
前記凝固亢進症を発症するリスクは、薬物療法1か月の時点において、クッシング症候群のための外科的処置を受けたクッシング症候群の患者における手術1か月後において凝固亢進症を発症するリスクと比べて、減少する、<2>に記載の方法。