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特許7309885潤滑剤溶液、磁気ディスクおよびその製造方法
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  • 特許-潤滑剤溶液、磁気ディスクおよびその製造方法 図1
  • 特許-潤滑剤溶液、磁気ディスクおよびその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】潤滑剤溶液、磁気ディスクおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 173/02 20060101AFI20230710BHJP
   C10N 40/18 20060101ALN20230710BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230710BHJP
   C10M 107/38 20060101ALN20230710BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20230710BHJP
   C10N 50/02 20060101ALN20230710BHJP
   G11B 5/725 20060101ALN20230710BHJP
   G11B 5/84 20060101ALN20230710BHJP
【FI】
C10M173/02 ZAB
C10N40:18
C10N30:00 Z
C10M107/38
C10N20:04
C10N50:02
G11B5/725
G11B5/84 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021537591
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2020021229
(87)【国際公開番号】W WO2021024585
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2019144650
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】清水 豪
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-282642(JP,A)
【文献】特表2001-503179(JP,A)
【文献】特開2018-024614(JP,A)
【文献】特開昭63-023735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
G11B 5/725
G11B 5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)を満たすパーフルオロポリエーテル化合物と、水とを含む潤滑剤溶液。
OH/(Mn/1500)≧2 ・・・(I)
式(I)中、NOHは上記パーフルオロポリエーテル化合物1分子中の水酸基の数を表し、Mnは上記パーフルオロポリエーテル化合物の数平均分子量を表す。
【請求項2】
上記パーフルオロポリエーテル化合物は、下記式(1)の構造を有する、請求項1に記載の潤滑剤溶液。
-(CF(CF(CF))O(CFO)(CFCFO)(CFCFCFO)(CFCFCFCFO)(CF(CF)CFO)-(CF(CF))(CF- ・・・(1)
式(1)中、xは0~3の実数であり、yは0~1の実数であり、z、l、m、n、oは、それぞれ0~15の実数であり、ただし、x、yのいずれか一方は1以上の実数であり、かつ、z、l、m、n、oの少なくともいずれか1つは1以上の実数である。
【請求項3】
上記パーフルオロポリエーテル化合物が下記式(2)で表される、請求項1または2に記載の潤滑剤溶液。
1-R2-R ・・・(2)
式(2)中、R2はパーフルオロポリエーテル骨格を有する有機基であり、
およびRはそれぞれ独立して、末端にフッ素原子、水酸基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、エステル基、アミド基またはアリール基を有する有機基である。
【請求項4】
さらに有機溶剤を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の潤滑剤溶液。
【請求項5】
フッ素溶剤の含有量が20重量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の潤滑剤溶液。
【請求項6】
記録層、保護層および潤滑層がこの順に積層されてなる磁気ディスクの製造方法であって、記録層と保護層とが積層されてなる積層体の、当該保護層の露出表面に請求項1~5のいずれか1項に記載の潤滑剤溶液を積層して潤滑層を形成する工程を含む、磁気ディスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤溶液、磁気ディスクおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクにおいては、基板上に形成された記録層の上に、記録層に記録された情報を保護するための保護層が形成され、保護層の上にさらに潤滑層が設けられた構成が主流である。
【0003】
磁気ディスクの潤滑層を形成するために従来技術として、フッ素溶剤を溶媒として含む潤滑剤溶液に磁気ディスクを浸漬する技術が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では潤滑剤であるパーフルオロポリエーテル化合物をフッ素溶剤に溶解させ潤滑剤溶液として使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-175279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、磁気ディスクへ塗布する潤滑剤溶液の溶媒には、フッ素溶剤を使用せざるを得なかった。しかしながら、フッ素溶剤はオゾン層保護法および地球温暖化対策推進法の対象となっており、環境負荷が高い問題があった。
【0007】
本発明の一態様は、フッ素溶剤を用いることなく磁気ディスク上に塗布できる潤滑剤溶液の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、数平均分子量と水酸基の数とが特定の式を満たすパーフルオロポリエーテル化合物が水溶性であり、且つその化合物を水に溶解させた潤滑剤溶液が、従来の潤滑剤溶液と同等の機能を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を含む。
<1>下記式(I)を満たすパーフルオロポリエーテル化合物と、水とを含む潤滑剤溶液。
OH/(Mn/1500)≧2 ・・・(I)
式(I)中、NOHは上記パーフルオロポリエーテル化合物1分子中の水酸基の数を表し、Mnは上記パーフルオロポリエーテル化合物の数平均分子量を表す
2>上記パーフルオロポリエーテル化合物は、下記式(1)の構造を有する、<1>に記載の潤滑剤溶液。
-(CF(CF(CF))O(CFO)(CFCFO)(CFCFCFO)(CFCFCFCFO)(CF(CF)CFO)-(CF(CF))(CF - ・・・(1)
式(1)中、xは0~3の実数であり、yは0~1の実数であり、z、l、m、n、oは、それぞれ0~15の実数であり、ただし、x、yのいずれか一方は1以上の実数であり、かつ、z、l、m、n、oの少なくともいずれか1つは1以上の実数である。
<3>上記パーフルオロポリエーテル化合物が下記式(2)で表される、<1>または<2>に記載の潤滑剤溶液。
1-R2-R ・・・(2)
式(2)中、R2はパーフルオロポリエーテル骨格を有する有機基であり、
およびRはそれぞれ独立して、末端にフッ素原子、水酸基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、エステル基、アミド基またはアリール基を有する有機基である。
<4>さらに有機溶剤を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の潤滑剤溶液。
<5>フッ素溶剤の含有量が20重量%以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の潤滑剤溶液。
<6>記録層、保護層および潤滑層がこの順に積層されてなる磁気ディスクであって、
前記潤滑層は、<1>~<5>のいずれか1つに記載の潤滑剤溶液を含む、磁気ディスク。
<7>記録層、保護層および潤滑層がこの順に積層されてなる磁気ディスクの製造方法であって、記録層と保護層とが積層されてなる積層体の、当該保護層の露出表面に<1>~<5>のいずれか1つに記載の潤滑剤溶液を積層して潤滑層を形成する工程を含む、磁気ディスクの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、フッ素溶剤を用いることなく磁気ディスクに塗布できる潤滑剤溶液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る磁気ディスクの構成を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る磁気ディスクの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0012】
〔1.潤滑剤溶液〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤溶液は、下記式(I)を満たすパーフルオロポリエーテル化合物と、水とを含む。
OH/(Mn/1500)≧2 ・・・(I)
式(I)中、NOHは上記パーフルオロポリエーテル化合物1分子中の水酸基の数を表し、Mnは上記パーフルオロポリエーテル化合物の数平均分子量を表す。
【0013】
本明細書において潤滑剤溶液とは、上記パーフルオロポリエーテル化合物等の潤滑剤を溶媒に溶解させた溶液を意味する。また、本明細書において、パーフルオロポリエーテル化合物の数平均分子量は日本電子製JNM-ECX400による19F-NMRによって測定された値である。NMRの測定において、試料は溶媒に希釈されず、試料そのものが測定に使用される。ケミカルシフトの基準は、パーフルオロポリエーテル化合物の骨格構造の一部である既知のピークをもって代用する。
【0014】
例えば、数平均分子量が2000であって水酸基を4個有する化合物の場合、4/(2000/1500)=3である。
【0015】
従来は特許文献1に記載のように、パーフルオロポリエーテル化合物をフッ素溶剤に溶解させることで潤滑剤溶液として使用していた。本発明者は、多価水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物の合成・精製の過程で、式(I)を満たすパーフルオロポリエーテル化合物が水溶性であることを発見した。従来の一般的なパーフルオロポリエーテル化合物は水に不溶であったため、この発見は驚くべきものであった。そして、本発明者は上記式(I)を満たすパーフルオロポリエーテル化合物を水または水と有機溶剤の混合溶媒に溶解させた潤滑剤溶液を使用した場合、従来のフッ素溶剤を使用した潤滑剤溶液と比較して、同等以上の膜厚の潤滑層が得られることを見出した。当該潤滑剤溶液は、フッ素溶剤を使用する必要がないため、安価であり、環境負荷が低い。
【0016】
なお、環境負荷の低減のため、本発明者はフッ素溶剤の一部をフッ素溶剤以外の溶媒に置換することも検討した。その際、本発明者は、パーフルオロポリエーテル化合物をフッ素溶剤とアルコールとの混合溶媒に溶解させた場合、潤滑層の形成が困難であることを見出した。この観点からも、上記パーフルオロポリエーテル化合物をフッ素溶剤以外の溶媒を用いた潤滑剤溶液によって十分な膜厚の潤滑層を形成できることは驚くべきことである。
【0017】
本明細書中、「潤滑層の膜厚」はFT-IR(Bruker製、VERTEX70)によって評価される。本明細書中、「環境負荷が高い」溶剤かどうかは国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change, IPCC)発表のGWP(Global Warming Potential:地球温暖化係数)により評価される。
【0018】
本明細書においてパーフルオロポリエーテル化合物とは、パーフルオロポリエーテル骨格、すなわち、フッ化炭素がエーテル結合を介して連結した骨格を有する化合物を意味する。上記パーフルオロポリエーテル骨格としては、例えば、下記式(1)で表される構造が挙げられる。
-(CF(CF(CF))O(CFO)(CFCFO)(CFCFCFO)(CFCFCFCFO)(CF(CF)CFO)-(CF(CF))(CF- ・・・(1)
式(1)中、xは0~3の実数であり、yは0~1の実数であり、z、l、m、n、oは、それぞれ0~15の実数であり、ただし、x、yのいずれか一方は1以上の実数であり、かつ、z、l、m、n、oの少なくともいずれか1つは1以上の実数である。
【0019】
上記式(1)としては、例えば、デムナム骨格:-CFCFO-(CFCFCFO)CFCF-、フォンブリン骨格:-CFO-(CFO)(CFCFO)CF-、C2骨格:-CFO-(CFCFO)CF-、C4骨格:-CFCFCFO-(CFCFCFCFO)CFCFCF-、クライトックス骨格:CF(CF)O-(CF(CF)CFO)CF(CF)-が挙げられる。前記骨格中、z、l、m、n、oは1~15の実数である。なお、フォンブリン骨格においてCFOとCFCFOとはランダムに繰り返され得る。
【0020】
上記パーフルオロポリエーテル化合物は、式(1)で表される構造を分子中に少なくとも1つ有していることが好ましい。すなわち、上記パーフルオロポリエーテル化合物は、式(1)で表される構造を分子中に2つ以上有していてもよい。その場合、式(1)で表される構造の2つ以上が任意の有機基を介して結合していてもよい。当該有機基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。当該脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基は、エーテル結合および/または水酸基を有していてもよい。
【0021】
例えば、上記パーフルオロポリエーテル化合物は下記式(2)で表される。
1-R2-R ・・・(2)
式(2)中、Rは、パーフルオロポリエーテル骨格を有する有機基である。Rは、例えば上述の式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル骨格であり、上述のように式(1)で表される構造の2つ以上が任意の有機基を介して結合していてもよい。
【0022】
およびRはそれぞれ独立して、末端にフッ素原子、水酸基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、エステル基、アミド基またはアリール基を有する有機基である。例えば、RおよびRはそれぞれ独立して、-F、-CHOH、-CHOCHCH(OH)CHOH、-CHOCHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOH、-CHO(CHOH、-CHOCHCH(OH)CHOC12O、-CHOCHCH(OH)CHOC10、またはCHOCHCH(OH)CHOC-Rである。ここで、gは1~10の実数であり、Rとしては、水素原子、水酸基、炭素数1~4のアルコキシ基、アミノ基、アミド残基等が挙げられる。Rは、好ましくは水酸基、アルコキシ基である。
【0023】
また、2つ以上のパーフルオロポリエーテル骨格が任意の有機基を介して結合したパーフルオロポリエーテル化合物としては、例えば、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0024】
-R-R-R-R ・・・(3)
およびRは、パーフルオロポリエーテル骨格を有する有機基であり、例えば、上述の式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル骨格である。
【0025】
は任意の有機基であり、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。当該脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基は、エーテル結合および/または水酸基を有していてもよい。
【0026】
およびRは式(2)と同様の有機基である。
【0027】
パーフルオロポリエーテル化合物の数平均分子量は特に限定されないが、500~6000であることが好ましく、1000~4000がより好ましい。また、パーフルオロポリエーテル化合物の1分子中の水酸基の数も限定されないが、1~10個が好ましく、2~8個がより好ましく、4~8個がさらに好ましい。
【0028】
潤滑剤溶液中のパーフルオロポリエーテル化合物の濃度は、0.001重量%~0.1重量%が好ましく、0.005重量%~0.05重量%がより好ましく、0.005重量%~0.01重量%がさらに好ましい。上記濃度は、例えば、0.1g/L~15g/Lであってもよく、0.7g/L~1.5g/Lであってもよい。
【0029】
潤滑剤溶液は溶媒として少なくとも水を含むが、上記パーフルオロポリエーテル化合物の水への溶解性を高めるために、さらに有機溶剤を含んでいてもよい。本明細書において、有機溶剤とは、フッ素原子を含まない有機溶剤を意味する。有機溶剤としてはアルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t-ブタノール、n-ブタノール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等が挙げられる。中でも、ケトン類が好ましい。
【0030】
潤滑剤溶液の溶媒における有機溶剤の割合は、50体積%以下であることが好ましく、40体積%以下であることがより好ましく、30体積%以下であることがさらに好ましい。有機溶剤の割合の下限は特に限定されないが、5体積%以上であってもよく、10体積%以上であってもよい。
【0031】
潤滑剤溶液は、好ましくは上記パーフルオロポリエーテル化合物および水のみからなるか、または上記パーフルオロポリエーテル化合物、水および有機溶剤のみからなるが、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、Fomblin(登録商標) Zdol(Solvay Solexis製)、Ztetraol(Solvay Solexis製)、Demnum(登録商標)(ダイキン工業製)、Krytox(登録商標)(Dupont製)等の公知の磁気ディスク用潤滑剤、PHOSFAROL A20H(MORESCO PHOSFAROL A20H)(MORESCO製)、MORESCO PHOSFAROL D-4OH(MORESCO製)等が挙げられる。
【0032】
潤滑剤溶液は、フッ素溶剤の含有量が20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることがさらに好ましい。最も好ましくは、フッ素溶剤の含有量が0重量%、すなわち、潤滑剤溶液はフッ素溶剤を含まない。なお、本明細書において、フッ素溶剤とは、フッ素原子を含む化合物を成分として含む溶媒を意味する。フッ素溶剤の例としては、三井・ケマーズ・フロロプロダクツ製Vertrel-XF、AGC製アサヒクリンAK-225G、3M製Novec7100、Novec7200等が挙げられる。
【0033】
当該潤滑剤溶液は、磁気ディスクの摺動特性を向上させるための記録媒体用潤滑剤として用いられ得る。また、磁気ディスク以外にも磁気テープ等の記録媒体とヘッドとの間に摺動が伴う他の記録装置における記録媒体用潤滑剤としても用いられ得る。さらに、記録装置に限らず、摺動を伴う部分を有する機器の潤滑剤としても用いられ得る。
【0034】
〔2.潤滑剤溶液の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤溶液の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、上述のパーフルオロポリエーテル化合物を水、または水および有機溶剤の混合溶媒に溶解させることにより、潤滑剤溶液を得ることができる。
【0035】
前記パーフルオロポリエーテル化合物の製造方法も特に限定されない。例えば、上述の式(2)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物は、末端に水酸基を有する直鎖フルオロポリエーテル(a)と、グリシドール、2,2-ジメチル-4-(2,3-エポキシ)プロポキシメチル-1,3-ジオキソランおよび/または3-(2-オキシラニルメトキシ)-1,2-プロパンジオール等とを反応させること等により得られる。
【0036】
直鎖フルオロポリエーテル(a)は、上述の式(1)で表される構造を含むHOCH(CF(CF(CF))O(CFO)(CFCFO)(CFCFCFO)(CFCFCFCFO)(CFCF(CF)O)-(CF(CF))(CFCHOHで表される。x、y、z、l、m、n、oの定義は上述の式(1)の項目で説明した通りである。
【0037】
具体的には、HOCHCFO(CFO)(CFCFO)CFCHOHで示される化合物、HOCHCFO(CFCFO)CFCHOHで示される化合物、HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOHで示される化合物、HOCHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCFCHOHで示される化合物等が挙げられる。この直鎖フルオロポリエーテル(a)の数平均分子量は通常200~5000、好ましくは400~1500である。この数平均分子量は上述のパーフルオロポリエーテル化合物の数平均分子量と同様の方法によって測定される。
【0038】
直鎖フルオロポリエーテル(a)は、分子量分布を有する化合物であり、重量平均分子量/数平均分子量で示される分子量分布(PD)として、好ましくは1.0~1.5であり、より好ましくは1.0~1.3であり、さらに好ましくは1.0~1.1である。なお、当該分子量分布は、東ソー製HPLC-8220GPCを用いて、ポリマーラボラトリー製のカラム(PLgel Mixed E)、溶離液としてはHCFC系代替フロン、基準物質としては無官能のパーフルオロポリエーテルを使用して得られる特性値である。
【0039】
式(2)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物は、具体的には以下の方法により合成され得る。まず、末端に水酸基を有する直鎖フルオロポリエーテル(a)と、グリシドール等とを触媒の存在下で反応させる。反応温度は好ましくは20~90℃、より好ましくは60~80℃である。反応時間は、好ましくは5~20時間、より好ましくは10~18時間である。直鎖フルオロポリエーテル(a)に対して、グリシドール等を1~3当量、触媒を0.01~0.5当量使用することが好ましい。触媒としてt-ブトキシナトリウム、t-ブトキシカリウムなどのアルカリ化合物を用いることができる。反応は溶剤中で行ってもよい。溶剤としてt-ブチルアルコール、トルエン、キシレンなどを用いることができる。その後、得られた反応産物を例えば水洗、シリカゲルクロマトグラフィーによって精製する。これにより例えば、実施例1の化合物1である、HOCHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOCHO(CO)CHOCHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOHで表されるパーフルオロポリエーテル化合物が得られる。
【0040】
また上述の式(3)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物は、例えば、前記直鎖フルオロポリエーテル(a)、または一方の末端に水酸基を有し、かつ他方の末端に水酸基を含むアルコキシ基を有する直鎖フルオロポリエーテル(b)と、2つのエポキシ基を有する脂肪族炭化水素(A)とを反応させることにより得られる。
【0041】
直鎖フルオロポリエーテル(b)を用いる場合は以下のように合成することができる。具体的には第一工程として、上述の直鎖フルオロポリエーテル(a)と、水酸基と反応して水酸基を有するアルコキシ基を形成する化合物(c)を反応させる。反応温度は好ましくは20~90℃、より好ましくは60~80℃である。反応時間は、好ましくは5~20時間、より好ましくは10~15時間である。化合物(c)の使用量は、直鎖フルオロポリエーテル(a)に対して0.5~1.5当量であることが好ましい。その後、例えばカラムクロマトグラフィーによる精製を行い、直鎖フルオロポリエーテル(b)を得る。前記反応は溶剤中で行うことができる。溶剤としてt-ブチルアルコール、ジメチルホルムアルデヒド、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等を用いることができる。前記反応には反応促進剤を使用することができる。反応促進剤としてナトリウム、カリウムt-ブトキシド、水素化ナトリウム等の塩基性化合物を例示することができる。
【0042】
化合物(c)としては、例えばエポキシ基を有する化合物、X(CHOHで示されるハロアルキルアルコール、エポキシ基を有するフェノキシ化合物(c-1)等を挙げることができる。
【0043】
エポキシ基を有する化合物として、例えば、グリシドール、プロピレンオキシド、グリシジルメチルエーテル、イソブチレンオキシド等を挙げることができる。
【0044】
X(CHOHで示されるハロアルキルアルコールにおいて、Xは塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子であり、pは2~8の実数である。ハロアルキルアルコールとして、例えば、2-クロロエタノール、3-クロロプロパノール、4-クロロブタノール、5-クロロペンタノール、6-クロロヘキサノール、7-クロロヘプタノール、8-クロロオクタノール、2-ブロモエタノール、3-ブロモプロパノール、4-ブロモブタノール、5-ブロモペンタノール、6-ブロモヘキサノール、7-ブロモヘプタノール、8-ブロモオクタノール、2-ヨードエタノール、3-ヨードプロパノール、4-ヨードブタノール、5-ヨードペンタノール、6-ヨードヘキサノール、7-ヨードヘプタノール、8-ヨードオクタノール等を挙げることができる。
【0045】
エポキシ基を有するフェノキシ化合物としては、例えば、下記式(c-1)で表される化合物が挙げられる。
【0046】
【化1】
【0047】
として、水素原子、水酸基、炭素数1~4のアルコキシ基、アミノ基、アミド残基等が挙げられる。
【0048】
炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等を挙げることができる。アミノ基としては、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ等を挙げることができる。アミド残基としては、例えばアセトアミド(―NHCOCH)、プロピオン酸アミド(―NHCOC)を挙げることができる。
【0049】
化合物(c-1)として、具体的には、グリシジル4-メトキシフェニルエーテル、グリシジル4-エトキシフェニルエーテル、グリシジル4-プロポキシフェニルエーテル、グリシジル4-ブトキシフェニルエーテル、グリシジル4-アミノフェニルエーテル、グリシジル4-メチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4-ジメチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4-エチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4-ジエチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4-アセトアミドフェニルエーテル、グリシジル4-プロピオン酸アミドフェニルエーテル等を例示することができる。
【0050】
例えば、直鎖フルオロポリエーテル(a)としてHOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOHを用い、化合物(c)としてグリシドールを用いた場合、両者の反応により、直鎖フルオロポリエーテル(b)としてHOCHCH(OH)CHOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOHが生成する。
【0051】
また、例えば、直鎖フルオロポリエーテル(a)としてHOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOHを用い、化合物(c)として化合物(c-1)を用いた場合、両者の反応により、直鎖フルオロポリエーテル(b)としてCHOCOCHCH(OH)CHOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOHが生成する。
【0052】
第2工程として、第1工程で得られた前記直鎖フルオロポリエーテル(b)、または前記直鎖フルオロポリエーテル(a)と、前記脂肪族炭化水素(A)とを反応させて、上述のパーフルオロポリエーテル化合物を合成する。
【0053】
例えば第1工程で得られた直鎖フルオロポリエーテル(b)、または直鎖フルオロポリエーテル(a)と、脂肪族炭化水素(A)とを塩基の存在下、反応させる。反応温度は好ましくは20~90℃、より好ましくは60~80℃である。反応時間は、好ましくは5~20時間、より好ましくは10~15時間である。直鎖フルオロポリエーテル(a)または(b)に対して、脂肪族炭化水素(A)を0.5~1.5当量、塩基を0.5~2.0当量使用するのが好ましい。塩基としてナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム等を用いることができる。前記反応は溶剤中で行うことができる。溶剤としてt-ブタノール、トルエン、キシレン等を用いることができる。その後、例えば水洗、及び脱水する。これにより式(3)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物が得られる。
【0054】
脂肪族炭化水素(A)として、具体的には、1,3-ブタジエンジエポキシド、1,4-ペンタジエンジエポキシド、1,5-ヘキサジエンジエポキシド、1,6-ヘプタジエンジエポキシド、1,7-オクタジエンジエポキシド、1,8-ノナンジエンジエポキシド、1,9-デカンジエポキシド、1,10-ウンデカンジエポキシド、1,11-ドデカンジエポキシド、1,1,1,1-テトラ(グリシジルオキシメチル)メタン等を挙げることができる。
【0055】
第1工程で得られた直鎖フルオロポリエーテル(b)と脂肪族炭化水素(A)とを反応させることによって、具体的には、HOCHCH(OH)CHOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCH-OCHCH(OH)CHCHCHCHCH(OH)CHO-CHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOCHCH(OH)CHOH、HOCHCH(OH)CHOCHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCFCH-OCHCH(OH)CHCHCHCHCH(OH)CHO-CHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCFCHOCHCH(OH)CHOH、および実施例の化合物2である、HOCHCH(OH)CHOCHO(CO)CFCHOCHCH(OH)CHCHCHCHCH(OH)CHOCHCFO(CO)CHOCHCH(OH)CHOH等の化合物を得ることができる。
【0056】
また、前記フルオロポリエーテル(a)と、前記脂肪族炭化水素(A)とを反応させることによって、具体的には、HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCH-OCHCH(OH)CHCHCHCHCH(OH)CHO-CHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOH、HOCHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCFCH-OCHCH(OH)CHCHCHCHCH(OH)CHO-CHCFCFCFO(CFCFCFCFO)CFCFCFCHOH等の化合物を得ることができる。
【0057】
〔3.磁気ディスク〕
本発明の一実施形態に係る磁気ディスク1は、図1に示されるように、非磁性基板8の上に配置された記録層4、保護膜層(保護層)3および潤滑層2を含む。前記潤滑層2は、上述の潤滑剤溶液を含んでいる。
【0058】
また別の実施形態においては、磁気ディスクは、図2に示される磁気ディスク1のように、記録層4の下に配置される下層5、下層5の下に配置される1層以上の軟磁性下層6、および1層以上の軟磁性下層6の下に配置される接着層7を含むことができる。これらの層のすべては、一実施形態においては、非磁性基板8の上に形成することができる。
【0059】
潤滑層2以外の磁気ディスク1の各層は、当該技術分野において、磁気ディスクの個別の層として好適であることが知られている材料を含むことができる。例えば、記録層4の材料としては、鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性体を形成可能な元素にクロム、白金、タンタル等を加えた合金、またはこれら合金の酸化物等が挙げられる。また、保護層3の材料としては、カーボン、Si、SiC、SiO等が挙げられる。非磁性基板8の材料としては、アルミニウム合金、ガラス、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0060】
〔4.磁気ディスクの製造方法〕
本発明の一態様に係る磁気ディスクの製造方法は、記録層と保護層とが積層されてなる積層体の、当該保護層の露出表面に本発明の一実施形態に係る潤滑剤溶液を積層して潤滑層を形成する工程を含んでいる。
【0061】
記録層と保護層とが積層されてなる積層体の、当該保護層の露出表面に前記潤滑剤溶液を積層して潤滑層を形成する方法としては、特に限定されるものではない。積層時、すなわち塗布時には、潤滑剤溶液を加熱することが好ましい。塗布時の潤滑剤溶液の温度は25℃~80℃であることが好ましい。
【0062】
記録層と保護層とをこの順に形成し、前記潤滑剤を前記保護層の露出表面に積層した後、紫外線照射または熱処理を行ってもよい。
【0063】
紫外線照射または熱処理を行うことで、潤滑層と保護層の露出表面との間に、より強固な結合を形成し、加熱による潤滑剤の蒸発を防ぐことができる。紫外線照射を行う場合には、潤滑層および保護層の深部に影響を与えず、露出表面を活性化させるために、185nmまたは254nmの波長を主波長とする紫外線を用いることが好ましい。熱処理を行う場合の温度は、60~170℃であることが好ましく、80~170℃がより好ましく、80~150℃がさらに好ましい。
【実施例
【0064】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における膜厚評価を以下の方法によって行った。
【0065】
〔潤滑層の膜厚評価〕
潤滑層の膜厚は、FT-IR(Bruker製、VERTEX70)を用いて測定した。
【0066】
〔実施例1〕
下記式で表される化合物1を以下のように合成した。
HOCHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOCHO(CO)CHOCHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOH
2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノール(70g)、エピクロロヒドリン(100g)、テトラブチルアンモニウムブロミド(9g)、50%NaOH水溶液(70g)、n-ヘキサン(350g)を反応容器に加え、80℃に加熱し、3時間撹拌を行った。その後、得られた反応産物を水洗し、次いで脱水し、中間体1(2,2-ジメチル-4-(2,3-エポキシ)プロポキシメチル-1,3-ジオキソラン)を60g得た。
【0067】
アルゴン雰囲気下、t-ブチルアルコール(65g)、HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOHで表されるパーフルオロポリエーテル(25g)、カリウムt-ブトキシド(0.3g)、および中間体1(9.6g)の混合物を70℃で23時間撹拌した。得られた反応産物を水洗し、次いで脱水した後、メタノール(100g)と水(11g)、60%硝酸水溶液(0.4g)を加え、39時間撹拌した。その後、得られた反応産物を水洗し、次いで脱水した後、蒸留により精製し、化合物1を20g得た。NMRを用いて行った化合物1の同定結果を示す。
【0068】
19F-NMR(溶媒:なし、基準物質:生成物中の-OCFCFCFO-を-129.7ppmとする。)
δ=-129.7ppm[11F、-OCFCFCFO-]
δ=-84.1ppm[22F、-OCFCFCFO-]
δ=-124.0ppm[4F、-OCFCFCHOCHCH(OH)CHOCH(OH)CHOH、-OCFCFCHOCHCH(OH)CHOH]δ=-86.4ppm[4F、-OCFCFCHOCHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOH、-OCFCFCHOCHCH(OH)CHOH]
19F-NMRの結果、化合物1はm=5.5であることがわかった。化合物1は数平均分子量が1487であり、NOH/(Mn/1500)=6.1であった。
【0069】
H-NMR(溶媒なし、基準物質DO)
δ=3.0~4.4ppm[24H、HOCHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOCHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOH]
δ=4.6ppm[6H、HOCHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOCHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOH]
得られた化合物1を、0.09g/Lの濃度で、水に溶解させ実施例1の潤滑剤溶液とした。潤滑剤溶液をディップ法にて磁気ディスクへ塗布した。潤滑剤溶液の温度は25℃とし、浸漬時間5分、引き上げ速度2mm/secで塗布した。
【0070】
〔実施例2〕
実施例1で得た潤滑剤溶液を用い、当該潤滑剤溶液の温度を80℃としたこと以外は実施例1と同様に磁気ディスクへ塗布した。
【0071】
〔実施例3〕
化合物1を実施例1と同じ濃度で、水とアセトンが体積比50:50で混合された混合溶媒に溶解させ、実施例3の潤滑剤溶液とした。当該潤滑剤溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に磁気ディスクへ塗布した。
【0072】
〔実施例4〕
化合物1を実施例1と同じ濃度で、水とアセトンが体積比50:50で混合された混合溶媒に溶解させ、実施例4の潤滑剤溶液とした。当該潤滑剤溶液の温度を50℃としたこと以外は実施例1と同様に磁気ディスクへ塗布した。
【0073】
〔実施例5〕
下記式で表される化合物2を以下のように合成した。
HOCHCH(OH)CHOCHO(CO)CFCHOCHCH(OH)CHCHCHCHCH(OH)CHOCHO(CO)CHOCHCH(OH)CHOH
アルゴン雰囲気下、t-ブチルアルコール(41g)、HOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOHで表されるパーフルオロポリエーテル(数平均分子量1980、分子量分布1.25)95g、カリウムt-ブトキシド(0.6g)、およびグリシドール(3.6g)の混合物を70℃で14時間撹拌した。その後、得られた反応産物を水洗し、次いで脱水し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することにより、一方の末端に1つの水酸基を有し、もう一方の末端に2つの水酸基を有する、パーフルオロポリエーテル(数平均分子量2110)を95g得た。このパーフルオロポリエーテル(95g)をメタキシレンヘキサフルオライド(95g)に溶解させ、水酸化ナトリウム(3.0g)および1,7-オクタジエンジエポキサイド(3.2g)を加えて70℃で14時間撹拌した。その後、得られた反応産物を水洗し、次いで脱水した後、蒸留により精製し、化合物2を60g得た。
【0074】
化合物2は、無色透明液体であり、20℃での密度は、1.74g/cmであった。NMRを用いて行った化合物1の同定結果を示す。
【0075】
19F-NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCFCFCFOを-129.7ppmとする。)
δ=-129.7ppm〔18F、-OCFCFCFO-〕
δ=-83.7〔36F、-OCFCFCFO-〕
δ=-124.2ppm〔8F、-OCFCFCHOCHCH(OH)CHCHCHCHCH(OH)CH-、-OCFCFCHOCHCH(OH)CHOH〕
δ=-86.5ppm〔8F、-OCFCFCHOCHCH(OH)CHCHCHCHCH(OH)CH-、-OCFCFCHOCHCH(OH)CHOH〕
19F-NMRの結果、化合物2はm=9.3であることがわかった。化合物2は数平均分子量が3934であり、NOH/(Mn/1500)=2.3であった。
【0076】
H-NMR(溶媒:なし、基準物質:D2O)
δ=3.2~3.8ppm〔30H,HOCHCH(OH)CHOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCH-OCHCH(OH)CHCHCHCHCH(OH)CHO-CHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOCHCH(OH)CHOH〕
δ=1.1ppm〔8H、HOCHCH(OH)CHOCHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCH-OCHCH(OH)CHCHCHCHCH(OH)CHO-CHCFCFO(CFCFCFO)CFCFCHOCHCH(OH)CHOH〕
得られた化合物2を0.35g/Lの濃度で水に溶解させたこと以外は、実施例1と同様に磁気ディスクへと塗布した。
【0077】
〔実施例6〕
実施例で得た潤滑剤溶液を用い、当該潤滑剤溶液の温度を80℃としたこと以外は実施例1と同様に磁気ディスクへ塗布した。
【0078】
〔実施例7〕
化合物2を実施例5と同じ濃度で、水とアセトンが50:50体積%で混合された混合溶媒に溶解させ実施例7の潤滑剤溶液とした。当該潤滑剤溶液を用いたこと以外は実施例5と同様に磁気ディスクへ塗布した。
【0079】
〔実施例8〕
化合物2を実施例5と同じ濃度で、水とアセトンが50:50体積%で混合された混合溶媒に溶解させ実施例8の潤滑剤溶液とした。当該潤滑剤溶液の温度を50℃としたこと以外は実施例1と同様に磁気ディスクへ塗布した。
【0080】
〔比較例1〕
化合物1を実施例1と同じ濃度で、三井・ケマーズ・フロロプロダクツ製Vertrel-XFに溶解させ比較例1の潤滑剤溶液とした。当該潤滑剤溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に磁気ディスクへ塗布した。
【0081】
〔比較例2〕
化合物1を実施例1と同じ濃度で、AGC製アサヒクリンAK-225Gに溶解させ比較例2の潤滑剤溶液とした。当該潤滑剤溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に磁気ディスクに塗布した。
【0082】
〔比較例3〕
化合物2を実施例5と同じ濃度で、三井・ケマーズ・フロロプロダクツ製Vertrel-XFに溶解させ比較例3の潤滑剤溶液とした。当該潤滑剤溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に磁気ディスクに塗布した。
【0083】
〔比較例4〕
化合物2を実施例5と同じ濃度で、AGC製アサヒクリンAK-225Gに溶解させ比較例4の潤滑剤溶液とした。当該潤滑剤溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に磁気ディスクに塗布した。
【0084】
〔潤滑層の膜厚評価の結果〕
溶媒およびそれぞれのGWP、塗布温度、形成された潤滑層の膜厚評価の結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1より、実施例1~8は比較例1~4に比べて膜厚に大きな差が無いことがわかる。すなわち、実施例1~8の潤滑剤溶液は溶媒として水を含むにも関わらず、フッ素溶剤を使用した潤滑剤溶液と同機能を有することがわかった。したがって、本発明の一実施形態に係る潤滑剤溶液は従来の潤滑剤溶液よりも低い環境負荷で潤滑層を形成できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の一態様に係る潤滑剤溶液は、磁気ディスク用の潤滑剤溶液として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 磁気ディスク
2 潤滑層
3 保護膜層(保護層)
4 記録層
5 下層
6 軟磁性下層
7 接着層
8 非磁性基板
図1
図2