(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】骨手術用器具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/15 20060101AFI20230710BHJP
【FI】
A61B17/15
(21)【出願番号】P 2021562571
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2020043425
(87)【国際公開番号】W WO2021111907
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019220047
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304050912
【氏名又は名称】オリンパステルモバイオマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】秋山 武徳
(72)【発明者】
【氏名】横山 靖治
【審査官】神ノ田 奈央
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-029657(JP,A)
【文献】特開2006-158972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/14-17/15
A61B 17/56-17/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨の特定点回りの周方向に骨切り刃を案内する骨手術用器具であって、
前記特定点に位置決めされる中心部と、
該中心部を通る軸線回りの周方向に延びるスリットを有するガイド部であって、前記スリットが、前記ガイド部を前記軸線に平行な方向に貫通し、前記スリット内に挿入された前記骨切り刃を前記軸線回りの周方向に案内する、ガイド部と、
固定部材を使用して前記骨に固定される固定部とを備え
、
前記中心部が、前記軸線に平行な方向に前記中心部を貫通するピン孔を有する
、骨手術用器具。
【請求項2】
骨の特定点回りの周方向に骨切り刃を案内する骨手術用器具であって、
前記特定点に位置決めされる中心部と、
該中心部を通る軸線回りの周方向に延びるスリットを有するガイド部であって、前記スリットが、前記ガイド部を前記軸線に平行な方向に貫通し、前記スリット内に挿入された前記骨切り刃を前記軸線回りの周方向に案内する、ガイド部と、
固定部材を使用して前記骨に固定される固定部と
、
前記中心部と前記ガイド部とを相互に接続する支柱部とを備える骨手術用器具。
【請求項3】
骨の特定点回りの周方向に骨切り刃を案内する骨手術用器具であって、
前記特定点に位置決めされる中心部と、
該中心部を通る軸線回りの周方向に延びるスリットを有するガイド部であって、前記スリットが、前記ガイド部を前記軸線に平行な方向に貫通し、前記スリット内に挿入された前記骨切り刃を前記軸線回りの周方向に案内する、ガイド部と、
固定部材を使用して前記骨に固定される固定部とを備え
、
前記スリットが、前記軸線回りの周方向に曲率半径が漸次小さくなる曲線に沿って延びる
、骨手術用器具。
【請求項4】
骨の特定点回りの周方向に骨切り刃を案内する骨手術用器具であって、
前記特定点に位置決めされる中心部と、
該中心部を通る軸線回りの周方向に延びるスリットを有するガイド部であって、前記スリットが、前記ガイド部を前記軸線に平行な方向に貫通し、前記スリット内に挿入された前記骨切り刃を前記軸線回りの周方向に案内する、ガイド部と、
固定部材を使用して前記骨に固定される固定部と
、
前記軸線回りの周方向に移動可能に前記ガイド部に連結される可動部とを備え
、
該可動部は、前記軸線に直交する径方向に平行な方向に貫通し、前記軸線に向かってガイドワイヤまたは該ガイドワイヤが挿入されるガイドスリーブを案内するガイド孔を有し、
該ガイド孔を貫通する前記ガイドワイヤの外周面が、前記軸線および前記ガイド孔の中心軸線に直交するオフセット方向に前記軸線から離間した位置に配置される
、骨手術用器具。
【請求項5】
脛骨の粗面部の遠位部を円弧状または略円弧状に骨切りするために使用される、請求項1
から請求項4のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項6】
前記ガイド部
の前記軸線に平行な方向の厚さは、
10mm以上25mm以下である、請求項1
から請求項
5のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項7】
前記固定部が、前記ガイド部に対して前記中心部とは反対側に設けられている、請求項1から請求項
6のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項8】
前記スリットの幅が、
1mm以上2mm以下である、請求項1から請求項
7のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項9】
前記軸線に沿う方向に見た平面視において、前記ガイド部の外形が、前記スリットの形状と相似または略相似であり、
前記スリットを囲む前記ガイド部の縁部の肉厚が、1mmから5mmである、請求項1から請求項
8のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項10】
前記軸線に沿う方向の一側に前記骨の表面と接触する接触面を有し、
該接触面が、前記骨の表面の形状と適合する凹面である、請求項1か
ら請求項
9のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項11】
前記支柱部が、前記中心部と前記ガイド部の前記周方向の中央との間で、前記軸線に交差する方向に延びる、請求項
2に記載の骨手術用器具。
【請求項12】
前記スリットが、一定の曲率半径を有する円弧に沿って延びる、請求項1
、請求項2または請求項
4に記載の骨手術用器具。
【請求項13】
前記スリットが、前記軸線回りの周方向に相互に連続する複数の直線部からなり、該複数の直線部の各々が、前記軸線を中心とする円周の接線方向または略接線方向に延びる、請求項
3に記載の骨手術用器具。
【請求項14】
各前記直線部の両端および前記中心部を頂点とする三角形が、前記直線部を底辺とする直角三角形であり、
一の直角三角形の対辺と、該一の直角三角形と隣接する他の一の直角三角形の斜辺とが共通である、請求項
13に記載の骨手術用器具。
【請求項15】
前記中心部と前記スリットとの間の距離が、前記軸線回りの周方向に所定の角度だけ変位する毎に所定の長さだけ短くなる、請求項
3または請求項
13に記載の骨手術用器具。
【請求項16】
前記中心部と前記スリットとの間の距離が、45mmから65mmである、請求項1から請求項
15のいずれかに記載の骨手術用器具。
【請求項17】
前記可動部が、前記軸線に直交する平面に沿って前記骨切り刃を案内する第2ガイド部を備える、請求項
4に記載の骨手術用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨手術用器具に関し、特に、骨切り術において骨切り刃を案内するガイドとして使用される器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、膝の内側関節痛の治療法として、膝のアライメントを矯正する内側開大式高位脛骨骨切り術(HTO)および内側開大式粗面下骨切り術(DTO)が知られている。
図7に示されるように、HTOでは、粗面部Bの近位側で骨切りが行われ、DTOでは、粗面部Bの遠位側で骨切りが行われる。
【0003】
HTOにおいて、膝蓋骨Cの低位に伴う膝蓋大腿関節(PF)の変形性膝関節症(OA)が問題となっている。DTOは、HTOとは異なり、手術の前後で膝蓋骨Cの位置が変化しない。そのため、HTOと比較すると、DTOは、術後に膝蓋骨Cの低位に伴うPFOAが進行し難いという利点がある。その一方で、脛骨Aの骨端部が膝蓋腱Dによって引っ張られることによる術後の骨の不安定性とそれに伴う骨癒合の遅延が、DTOの課題となっている。
【0004】
脛骨の骨切り術の他の方法として、脛骨を円弧状に骨切りする方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。円弧状の骨切りによって骨切り部の接触面積を増大し、それによる骨癒合の早期化を期待することができる。
さらに、脛骨の骨切り術の他の方法として、粗面部の遠位部を円弧状に骨切りするDTAO(Distal Tibia Tuberosity Arc Osteotomy)が提案されている。粗面部よりも遠位側で脛骨を離断する非特許文献1の方法とは異なり、DTAOでは、脛骨の骨端部と骨幹部との間の連続性が維持されるように、粗面部の遠位部を途中まで前後方向に骨切りする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】田賀谷 健一、外3名、「高位脛骨骨切り術でのCitieffeアーチノミの骨癒合への有用性」、中国・四国整形外科学会雑誌、中国・四国整形外科学会、2000年4月15日、第12巻、第1号、p.111-116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1の方法の課題の1つとして、骨切りの操作が非常に煩雑であることが挙げられる。非特許文献1では、ハンマでアーチノミを叩きながらアーチノミで脛骨を円弧状に骨切りしている。この方法で、DTAOにおいて粗面付近をアーチ状に骨切りする場合、粗面下の皮質骨は硬いため、粗面部を円弧状の線に沿って正確に骨切りすることは難しいと共に、アーチノミを叩くことによる負荷が骨に加わり、骨の連続性を保つことが困難となる。粗面部の骨切り面に凹凸が生じた場合、接触面積が小さくなったり、骨切り面を隣接する骨面に無理に接触させることにより不均一な負荷が骨に加わったりし、骨の不安定性を増大してしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、円弧状の骨切りを正確にかつ簡便に行うことができる汎用性の高い骨手術用器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、骨の特定点回りの周方向に骨切り刃を案内する骨手術用器具であって、前記特定点に位置決めされる中心部と、該中心部を通る軸線回りの周方向に延びるスリットを有するガイド部であって、前記スリットが、前記ガイド部を前記軸線に平行な方向に貫通し、前記スリット内に挿入された前記骨切り刃を前記軸線回りの周方向に案内する、ガイド部と、固定部材を使用して前記骨に固定される固定部とを備える骨手術用器具である。
【0009】
本態様によれば、骨の特定点に中心部を位置決めし、骨切りすべき位置にスリットが位置するようにガイド部を骨上に配置し、骨手術用器具が骨に対して移動しないように固定部材を使用して固定部を骨に固定する。この状態において、スリットは、特定点回りの周方向に延びる。したがって、スリットによる案内に従って骨切り刃を移動させながら骨切り刃による骨切りを進めることによって、円弧状または略円弧状の骨切りを正確にかつ簡便に行うことができる。
また、骨手術用器具は、スリットの幅よりも薄い様々な骨切り刃と組み合わせることができるので、汎用性の高い骨手術用器具を提供することができる。
【0010】
上記態様において、骨手術用器具が、脛骨の粗面部の遠位部を円弧状または略円弧状に骨切りするために使用されてもよい。
すなわち、中心部を脛骨の骨端部のヒンジ点に位置決めすることによって、ヒンジ点を中心とする円弧状または略円弧状のラインに沿って、粗面部の遠位部を正確にかつ簡便に骨切りすることができる。
【0011】
上記態様において、前記ガイド部は、前記骨切り刃の先端の前記スリットからの突出量が所定量以下になる厚さを有していてもよい。
骨切り刃の先端の刃先のスリットからの突出量は、ガイド部の厚さによって制限される。上記構成によれば、スリットからの刃先の突出量を所定量以下に制限することによって、軸線に平行な方向の過度な骨切りを防止することができる。
【0012】
上記態様において、前記中心部が、前記軸線に平行な方向に前記中心部を貫通するピン孔を有していてもよい。
骨切り術において、骨の特定点に、位置および方向の基準となるピンが挿入されることがある。ピン孔内を通るピンによって中心部は特定点に位置決めされ、スリットの深さ方向はピンの長手軸の方向と平行になる。したがって、ピンの長手軸に平行な骨切り面を形成することができる。
【0013】
上記態様において、前記固定部が、前記ガイド部に対して前記中心部とは反対側に設けられていてもよい。
この構成によれば、骨手術用器具を骨上に配置した状態で中心部を通る軸線に交差する面に沿って切削器具で骨切りするとき、切削器具の固定部材との干渉を防止することができる。
【0014】
上記態様において、前記スリットの幅が、前記骨切り刃の厚さよりも0.5mmから1.5mmだけ大きくてもよい。
この構成によれば、スリット内に骨切り刃が挿入された状態においてスリットの内側に適度な空間的余裕が形成される。これにより、切削時の骨切り刃のブレを軽減しながら、骨切り刃のスリットの内面との干渉を防止することができる。
【0015】
上記態様において、前記軸線に沿う方向に見た平面視において、前記ガイド部の外形が、前記スリットの形状と相似または略相似であり、前記スリットを囲む前記ガイド部の縁部の肉厚が、1mmから5mmであってもよい。
この構成によれば、X線透視下において、ガイド部の像からスリットの位置を正確に把握することができる。したがって、中心部を通る軸線に交差する面に沿ってスリットの位置まで骨切りする骨切り術において、スリットの位置を超えて過度に骨切りしてしまうことを防止することができる。
【0016】
上記態様において、前記軸線に沿う方向の一側に前記骨の表面と接触する接触面を有し、該接触面が、前記骨の表面の形状と適合する凹面であってもよい。
骨手術用器具が配置される骨の表面は、凸の曲面である。上記構成によれば、凹面が骨の表面に接触するように骨手術用器具を骨上に配置することによって、骨手術用器具を骨に対してより安定的に位置決めすることができ、骨切り時の骨手術用器具のブレを軽減することができる。
【0017】
上記態様において、前記中心部と前記ガイド部とを相互に接続する支柱部を備え、該支柱部が、前記中心部と前記ガイド部の前記周方向の中央との間で、前記軸線に交差する方向に延びていてもよい。
この構成によれば、中心部を通る軸線に沿う方向に見た平面視において、骨手術用器具は、支柱部に対して対称な略T字形状を有する。このような形状により、骨上に配置された骨手術用器具が傾いてしまうことを防止し、骨に対して骨手術用器具をより安定的に配置することができる。
【0018】
上記態様において、前記スリットが、一定の曲率半径を有する円弧に沿って延びていてもよい。
円弧状のスリットによる案内に従って骨切りした後、円弧状の骨切り線に沿って、骨切り刃の厚さに応じた空隙が形成される。上記構成によれば、特定点と骨切り線との間の距離が、骨切り線の全長にわたって同一である。したがって、空隙の幅を一定に維持しながら、特定点を含む骨片を特定点回りに回転させることができる。すなわち、空隙を隔てて相互に対向する2つの骨面が回転中に相互に干渉することがなく、骨片を容易に回転させることができる。
【0019】
上記態様において、前記スリットが、前記軸線回りの周方向に曲率半径が漸次小さくなる曲線に沿って延びていてもよい。
この構成によれば、中心部とスリットとの間の距離が、スリットの一端から他端に向かって周方向に漸次減少するので、特定点と骨切り線との間の距離も、骨切り線の一端から他端に向かって漸次減少する。したがって、特定点を含む骨片を特定点回りに回転させるにつれて、空隙が次第に狭くなる。これにより、骨片の回転による骨の矯正後、空隙を隔てて相互に対向する2つの骨面同士を接触させるために必要な骨の圧迫および変形を軽減できる。
【0020】
上記態様において、前記スリットが、前記軸線回りの周方向に相互に連続する複数の直線部からなり、該複数の直線部の各々が、前記軸線を中心とする円周の接線方向または略接線方向に延びていてもよい。
この構成によれば、平行面上を可動するタイプの骨切り刃であっても、スリットによって容易に案内することができる。
【0021】
上記態様において、各前記直線部の両端および前記中心部を頂点とする三角形が、前記直線部を底辺とする直角三角形であり、一の直角三角形の対辺と、該一の直角三角形と隣接する他の一の直角三角形の斜辺とが共通であってもよい。
この構成によれば、中心部回りの周方向に連続的に配列する複数の直角三角形を用いて、複数の直線部からなり曲率半径が漸次短くなるスリットの形状を容易に設計することができる。
【0022】
上記態様において、前記中心部と前記スリットとの間の距離が、前記軸線回りの周方向に所定の角度だけ変位する毎に所定の長さだけ短くなっていてもよい。
この構成によれば、特定点を含む骨片を所定の角度だけ回転させる毎に、空隙が、所定の長さずつ狭くなる。したがって、骨切り刃の厚さおよび特定点を含む骨片の矯正角度に応じて所定の角度および所定の長さを設計することによって、回転後の空隙の幅が所望の寸法となるように容易に設計することができる。
【0023】
上記態様において、前記中心部と前記スリットとの間の距離が、45mmから65mmであってもよい。
この構成によれば、粗面部の遠位部の骨切りにおいて、円弧状または略円弧状の骨切り線の膝蓋腱との干渉を防止することができる。また、骨切り線よりも近位側に位置する粗面部の骨切り部に十分な広さを確保することができ、骨切り部を固定するための骨ねじを骨切り部に容易に挿入することができる。
【0024】
上記態様において、前記軸線回りの周方向に移動可能に前記ガイド部に連結される可動部を備え、該可動部は、前記軸線に直交する径方向に平行な方向に貫通し、前記軸線に向かってガイドワイヤまたは該ガイドワイヤが挿入されるガイドスリーブを案内するガイド孔を有し、該ガイド孔を貫通する前記ガイドワイヤの外周面が、前記軸線および前記ガイド孔の中心軸線に直交するオフセット方向に前記軸線から離間した位置に配置されてもよい。
上記態様において、前記可動部が、前記軸線に直交する平面に沿って前記骨切り刃を案内する第2ガイド部を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、円弧状の骨切りを正確にかつ簡便に行うことができる汎用性の高い骨手術用器具を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る骨手術用器具の平面図である。
【
図2】
図1Aおよび
図1Bの骨手術用器具を使用したDTAOの手順を説明する図である。
【
図3】
図1Aおよび
図1Bの骨手術用器具を使用したDTAOの手順を説明する図である。
【
図4】
図1Aおよび
図1Bの骨手術用器具を使用したDTAOの手順を説明する図である。
【
図5】
図1の骨手術用器具の一変形例の斜視図である。
【
図6】
図1の骨手術用器具の他の変形例の平面図である。
【
図8A】本発明の他の実施形態に係る骨手術用器具の平面図である。
【
図8B】ガイド孔の中心軸線に沿う方向に見た
図8Aの骨手術用器具の側面図である。
【
図8C】可動部をガイド部に連結する連結構造の一例を示す
図8Aの骨手術用器具の斜視図である。
【
図9A】本発明の他の実施形態に係る骨手術用器具の平面図である。
【
図9B】
図9Aの骨手術用器具における可動部の第2部分の一例の斜視図である。
【
図9C】
図9Aの骨手術用器具における可動部の第2部分の他の例の斜視図である。
【
図9D】
図9Aの骨手術用器具における可動部の第2部分の他の例の斜視図である。
【
図10】第2部分のガイド孔内にガイドスリーブおよびガイドワイヤを挿入した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の一実施形態に係る骨手術用器具について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る骨手術用器具1は、骨の特定点回りの周方向に延びる円弧状または略円弧状のラインに沿って骨切りする骨切り術に使用される。本実施形態においては、骨切り術の一例として、脛骨Aの粗面部Bを略L字状に骨切りするDTAO(Distal Tibia Tuberosity Arc Osteotomy)について説明する。骨手術用器具1は、DTAOに限らず、他の任意の骨切り術にも使用することができる。
【0028】
図4に示されるように、DTAOは、開大におけるヒンジ点Hを中心とする円弧状または略円弧状のラインに沿って粗面部Bの遠位部を骨切りする点において、内側開大式のHTOおよびDTOと相違する。
図4は、骨端部A1と粗面部Bの骨切り部との一塊をヒンジ点H回り回転させることによる矯正後の状態を示している。
【0029】
DTAOにおいて、粗面部Bの後方が脛骨軸に平行に骨切りされ、粗面部Bの遠位部が脛骨軸に垂直に骨切りされる。これにより、骨切り面として、粗面部Bの後方の下面E(
図3参照。)と粗面部Bの遠位部の側面Fとが形成される。ここで、粗面部Bの遠位部の骨切りは、ヒンジ点Hを中心とする円弧状または略円弧状のラインに沿って行われ、側面Fは、ヒンジ点Hを脛骨Aの前後方向に通る軸線回りに湾曲する凸面となる。
次に、脛骨Aの内側からヒンジ点Hに向かって脛骨Aが骨切りされ、骨切り線Lが形成される。
参照する図面において、脛骨Aの右側が内側であり、脛骨Aの左側が外側であり、紙面に垂直な方向が前後方向である。
【0030】
次に、骨端部A1と粗面部Bの骨切り部との一塊がヒンジ点H回りに矯正角度θだけ回転させられて骨切り線Lが開大し、脛骨Aの変形が矯正される。このときに、側面Fは、骨幹部A2の凹面Gに沿ってスライドする。
次に、開大部に、人工骨または自家骨が移植される。
次に、粗面部Bの骨切り部に圧迫を加えて下面Eおよび側面Fを隣接する骨面と接触させた状態で、粗面部Bの骨切り部が骨ねじ等で後方の骨A2に固定される。
【0031】
このように、DTAOの場合、粗面部Bの骨切り部が下面Eおよび側面Fにおいて隣接する骨面と接触し、HTOおよびDTOと比較して、骨切り部の接触面の数および接触面積が増大する。したがって、DTAOは、骨の安定性を高め、骨切り部の早期の骨癒合および固定強度の向上が可能である点で優れている。
【0032】
骨手術用器具1は、側面Fの形成に使用される骨切り刃を円弧状または略円弧状のラインに沿って案内するガイドデバイスである。骨手術用器具1は、
図1Aおよび
図1Bに示されるように、中心部2と、スリット4を有するガイド部3と、中心部2とガイド部3とを相互に接続する支柱部5と、固定部材を使用して脛骨Aに固定される固定部6と、を備える。
図1Aは、中心部2を通る所定の軸線Iに沿う方向に見た骨手術用器具1の平面図であり、
図1Bは、
図1Aの骨手術用器具1を右側から見た側面図である。
【0033】
中心部2、ガイド部3、支柱部5および固定部6は、共に一体に形成されており、したがって、骨手術用器具1は単一の部材から構成されている。
骨手術用器具1は、切削器具との摩耗を考慮し、ステンレス鋼、チタンまたはチタン合金から形成されることが好ましい。
【0034】
中心部2は、脛骨Aのヒンジ点(特定点)Hに位置決めされる部分であり、軸線Iに平行な方向に中心部2を貫通するピン孔2aを有する。
図2および
図3に示されるように、DTAOにおいて、ヒンジ点Hには、脛骨Aの前後方向にヒンジピンP1が挿入される。ピン孔2aは、軸線Iと同軸または略同軸であり、ヒンジピンP1の外径よりも若干大きい内径を有する。ピン孔2a内にヒンジピンP1を通すことによって、軸線IがヒンジピンP1の長手軸と一致または略一致するように、中心部2をヒンジ点Hに位置決めすることができる。
【0035】
ガイド部3は、軸線I回りの周方向に延び、全長にわたって一定の曲率半径を有する円弧状である。スリット4は、軸線I回りの周方向に延び、全長にわたって一定の曲率半径を有する円弧状である。したがって、軸線Iに沿う方向に見た平面視において、ガイド部3の外形は、スリット4の形状と相似または略相似である。
【0036】
スリット4は、ガイド部3を軸線Iに平行な方向に貫通している。軸線Iに平行な方向のガイド部3の厚さt、すなわちスリット4の深さは、骨切り刃の長さよりも小さく、スリット4を貫通する骨切り刃の刃先がスリット4から突出する。
スリット4を囲むガイド部3の縁部の肉厚dは、全周にわたって略均一である。肉厚dは、ガイド部3のスリムな構造と、それによるX線透視画像でのガイド部3の視認性との観点から、1mmから5mmであることが好ましい。
【0037】
軸線Iに直交する径方向における中心部2とスリット4との間の距離r、すなわちスリット4の曲率半径は、45mmから65mmであることが好ましい。距離rは、ヒンジ点Hと側面Fとの間の距離に相当する。距離rが上記範囲内であることによって、側面Fの骨切り線が膝蓋腱Dと干渉することを防ぐことができる。また、側面Fよりも近位側に位置する粗面部Bの骨切り部に十分な広さを確保することができ、矯正後に骨切り部を固定するための骨ねじを骨切り部に挿入することができる。距離rが65mmよりも大きい場合、側面Fの骨切り線が骨幹部に近付いて皮質骨が大きくなり、骨切りが困難になる。
ヒンジ点Hから、側面Fを形成すべき粗面部Bの遠位部までの距離には、患者間の個人差がある。したがって、患者毎に適切なサイズの骨手術用器具1を選択することができるように、距離rが相互に異なる複数のサイズの骨手術用器具1が用意されていることが好ましい。
【0038】
支柱部5は、中心部2と、ガイド部3の周方向の中央との間で、軸線Iに直交する径方向に直線状に延びている。したがって、軸線Iに沿う方向に見た平面視において、骨手術用器具1は、支柱部5に対して対称な略T字状である。
【0039】
固定部6は、固定部6を軸線Iに平行な方向に貫通する固定孔6aを有する。中心部2がヒンジピンP1によってヒンジ点Hに位置決めされた状態で、固定孔6aを経由して固定ピンP2を脛骨Aに挿入することによって、脛骨Aに対して軸線Iに直交する方向に動かないように骨手術用器具1を固定することができる。固定部6は、ガイド部3に対して中心部2とは反対側に位置し、
図1Aの骨手術用器具1の場合、固定部6は、支柱部5の延長線上に位置している。
【0040】
固定ピンP2による骨手術用器具1の固定位置を術者が変更または選択することができるように、固定孔6aと同様の1以上の固定孔5aが、支柱部5に設けられていてもよい。
図1Aの例において、支柱部5は、支柱部5の長手方向に相互に間隔をあけて配列する7個の固定孔5aを有する。複数の固定孔5aが等間隔をあけて配列している場合には、複数の固定孔5aを目盛として使用することができる。すなわち、中心部2をヒンジ点Hに位置決めして脛骨A上に骨手術用器具1を配置した後、粗面部Bの遠位部と複数の固定孔5aとの位置関係に基づき、より小さい適切なサイズの骨手術用器具1を選択することができる。
【0041】
ガイド部3およびスリット4の寸法は、側面Fの形成に使用される骨切り刃の寸法に応じて設計される。骨切り刃は、薄い鋸刃のような一般的な骨切り刃である。
具体的には、ガイド部3の厚さtは、骨切り刃の先端のスリット4からの突出量が所定量以下になるように、骨切り刃の長さに応じて設計される。例えば、厚さtは、骨切り刃の長さよりも5mmから25mmだけ小さいことが好ましい。
また、軸線Iに直交する径方向におけるスリット4の幅wは、スリット4内での骨切り刃のがたつきを防止するために、骨切り刃の厚さよりも0.5mmから1.5mmだけ大きいことが好ましい。
【0042】
好ましい例において、骨切り刃は、厚さ0.3mmから0.8mm、幅5mmから15mm、長さ15mmから45mm程度である。骨切り刃の厚さおよび幅が大き過ぎる場合、骨の切削量が多くなる。その結果、骨切り面を隣接する骨面に接触させるために大きな圧迫力が必要となり、骨に加わる負荷が大きくなる。また、骨切り刃の幅が大き過ぎる場合、複雑な形状への骨切りが困難となる。骨切り刃の長さが大き過ぎる場合、骨切削時の負荷によって骨切り刃がたわみやすく、骨切り刃の長さが小さ過ぎる場合、骨を十分な深さまで切削することができない。
【0043】
上記の骨切り刃の寸法を考慮すると、ガイド部3による骨切り刃のガイド性および骨の切削量を確保するために、ガイド部3の厚さtは、10mmから25mmであることが好ましい。また、スリット4の幅wは、1mmから2mmであることが好ましい。
図1Aおよび
図1Bの骨手術用器具1は、全体にわたって一定の厚さを有するが、中心部2、ガイド部3、支柱部5および固定部6が、相互に異なる厚さを有していてもよい。
【0044】
次に、骨手術用器具1を使用したDTAOの一例について説明する。
まず、
図2に示されるように、骨切りの準備として、ガイドワイヤGWおよびヒンジピンP1を脛骨Aに挿入する。具体的には、脛骨Aに内側からヒンジ点Hに向かってガイドワイヤGWを挿入する。ヒンジ点Hは、脛骨Aの外側縁の近傍に設定される。脛骨Aの前後方向に並ぶ2本のガイドワイヤGWを相互に平行に脛骨Aに挿入してもよい。次に、ヒンジ点Hに脛骨Aの前後方向にヒンジピンP1を挿入する。
【0045】
次に、
図3に示されるように、骨手術用器具1を脛骨A上に配置する。具体的には、ピン孔2a内にヒンジピンP1を通すことによって中心部2をヒンジ点Hに位置決めし、スリット4が粗面部Bの遠位部に位置することを確認する。スリット4が粗面部Bの遠位部に位置していないときには、スリット4が粗面部Bの遠位部に位置するように骨手術用器具1のサイズを変更する。そして、固定孔6aを経由して脛骨Aに前後方向に固定ピンP2を挿入することによって固定部6を脛骨Aに固定する。
【0046】
次に、脛骨Aに内側から骨鋸を挿入し、粗面部Bの後方を脛骨軸に平行に骨切りする。
図3において、ハッチングが掛けられたガイドワイヤGWとガイド部3との間の領域が、骨切りされる領域である。これにより、1つ目の骨切り面として、ガイドワイヤGWとガイド部3との間に下面Eが形成される。この際、電動式または空動式の骨鋸を使用してもよい。
【0047】
下面Eの骨切りは、脛骨Aの前後方向のX線透視画像においてガイドワイヤGW、骨手術用器具1および骨鋸を観察しながら行われる。すなわち、術者は、ガイドワイヤGWおよびガイド部3を骨切りすべき範囲の境界の目印として骨切りを行うことができる。特に、ガイド部3の外形はスリット4と相似または略相似であるので、術者は、ガイド部3の外形からスリット4の位置を正確に把握することができる。したがって、この後に形成される側面Fを超えて過度に骨切りしてしまうことを防止することができる。
また、固定部6は、ガイド部3に対して中心部2の反対側に位置する。したがって、粗面部Bの後方を骨切りする際に、骨鋸が固定孔6aを通る固定ピンP2と干渉することを防止することができる。
【0048】
次に、骨手術用器具1を使用して、粗面部Bの遠位部を前後方向に骨切りする。すなわち、スリット4内に骨切り刃を挿入し、スリット4内で骨切り刃を周方向に移動させながら粗面部Bを骨切りする。これにより、2つ目の骨切り面として、粗面部Bの遠位部に側面Fが形成される。側面Fは、ヒンジピンP1の長手軸回りに円弧状に湾曲する凸面である。粗面部Bの側面Fと骨端部A1の凹面Gとの間には、骨切り刃の厚さに応じた幅の空隙が形成される。
次に、ガイドワイヤGWに沿って脛骨Aを内側から外側に向かって骨切りする。これにより、骨切り線Lに沿って3つ目の骨切り面が形成される。
【0049】
次に、
図4に示されるように、骨手術用器具1を脛骨Aから取り外し、骨端部A1と粗面部Bの骨切り部との一塊を、骨幹部A2に対してヒンジ点H回りに矯正角度θだけ回転させる。これにより、脛骨Aのアライメントが矯正され、脛骨Aに加わる荷重が内側から外側にシフトする。
スリット4が一定の曲率半径を有するので、側面Fおよび凹面Gは、ヒンジ点Hを中心とし一定の曲率半径をそれぞれ有する曲面である。したがって、空隙の幅は、骨切り部のヒンジ点H回りの回転角度に関わらず一定に維持される。すなわち、側面Fは、凹面Gとの間に一定の距離を常に保ちながら凹面Gに沿ってスライドし、側面Fの凹面Gとの干渉が防止される。これにより、骨切り部をヒンジ点H回りに容易に回転させることができる。
【0050】
次に、骨切り線Lにおける開大部に人工骨または自家骨を移植する。
次に、骨切り部に前後方向および脛骨軸に沿う方向に圧迫を加えて下面Eおよび側面Fを隣接する骨面と接触させた状態で、骨切り部を骨ねじ等で後方の骨に固定する。
【0051】
このように、本実施形態によれば、粗面部Bの遠位部の骨切りにおいて、ヒンジ点Hに中心が位置決めされた円弧状のスリット4によって骨切り刃が案内される。したがって、ヒンジ点Hを中心とする円弧状に粗面部Bを正確にかつ簡単に骨切りすることができる。
また、骨手術用器具1は、スリット4の幅wよりも厚さが小さい様々な骨切り刃と組み合わせることができ、汎用性の高い骨手術用器具1を提供することができる。
【0052】
円弧状に骨切りする手法として、円弧状のノミを使用する手法または円弧状に可動する電動式の骨鋸を使用する方法がある。しかし、ノミを使用する場合、ノミをハンマで叩くことによる衝撃が脛骨Aに加わり、骨端部A1と骨幹部A2との連続性の維持が難しいことがある。電動式の骨鋸を使用する場合、骨鋸の回転中心をヒンジ点Hに一致させることが困難である。
これに対し、本実施形態によれば、脛骨Aに過度な負荷をかけることなく、かつ、骨切り刃の回転中心である中心部2をヒンジ点Hに一致させた状態で、骨切りすることができる。
【0053】
本実施形態において、骨手術用器具1の脛骨Aの表面との接触面は、
図1Bに示されるように平坦面であってもよいが、
図5に示されるように、脛骨Aの表面の形状と適合する凹面(接触面)7であってもよい。
図5の骨手術用器具10において、固定部6は、ガイド部3と支柱部5との接続部に設けられている。
【0054】
凹面7は、軸線Iに沿う方向の一側の骨手術用器具10の端面に形成され、例えば、ガイド部3の端面に形成される。骨手術用器具10が配置される脛骨Aの前表面は、凸の曲面である。凹面7が脛骨Aの表面に沿うように骨手術用器具10を脛骨A上に配置することによって、脛骨Aに対して骨手術用器具10の位置および姿勢をより安定させることができ、骨切り時の骨手術用器具10のブレを低減することができる。
【0055】
本実施形態において、スリット4が、一定の曲率半径を有する円弧に沿って延びることとしたが、これに代えて、スリット4が、曲率半径、すなわち距離rが一端から他端に向かって漸次小さくなる曲線に沿って延びていてもよい。
また、本実施形態において、スリット4が、全長にわたって滑らかに湾曲することとしたが、これに代えて、
図5および
図6に示されるように、周方向に相互に連続し、軸線Iを中心とする円周の接線方向または略接線方向にそれぞれ延びる複数の直線部4aから構成されていてもよい。
【0056】
図6の骨手術用器具20において、スリット4は、複数の直線部4aからなり、中心部2とスリット4との間の距離rが、スリット4の一端から他端に向かって漸次短くなっている。DTAO用の骨手術用器具20の場合、スリット4の一端は脛骨Aの外側に配置され、スリット4の他端は脛骨Aの内側に配置される。
【0057】
図6に示されるように、各直線部4aの両端および中心部2を頂点とする三角形が、直線部4aを底辺とする直角三角形であってもよい。各直角三角形は、斜辺と、直角を挟む底辺および対辺とを有し、斜辺および対辺は軸線Iから径方向に延びている。一の直角三角形の対辺と、一の直角三角形と隣接する他の一の直角三角形の斜辺とは共通であり、相互に同一の長さを有する。したがって、スリット4は、軸線I回りに連続して配列する複数の直角三角形の底辺から形成される。各直角三角形において対辺の長さL1は斜辺の長さL2よりも小さいので、
図6において、左側から右側に向かって、直角三角形の辺の長さ、すなわち距離rが漸次短くなる。
【0058】
このようなスリット4に沿って骨切り刃を案内すると、脛骨Aの外側から内側に向かってヒンジ点Hからの距離が漸次減少する骨切り面F,Gが形成される。したがって、矯正時に骨切り部が内側へ回転するにつれて、側面Fと凹面Gとの間の空隙が狭くなる。すなわち、回転初期には、側面Fと凹面Gとの間に十分な幅の空隙が存在するので、骨切り部を凹面Gと干渉することなく回転させることができる。さらに、回転終了時には空隙が狭くなっているので、側面Fを凹面Gに接触させるために必要な骨切り部の圧迫および変形が少なくて済み、脛骨Aへの負担を軽減することができる。
【0059】
また、複数の直角三角形の中心部2における頂角αが相互に等しい場合、矯正後の空隙の幅が全長にわたって均一となる。したがって、脛骨軸に沿う方向の圧迫によって側面Fと凹面Gとを均一に接触させることができ、矯正後に脛骨Aに部分的に負荷が集中することを防止することができる。
また、スリット4を直線部4aから構成することによって、平行面上を移動する骨切り刃を使用する場合、骨切り刃とスリット4の内面との干渉を防止することができる。
【0060】
距離rが周方向に漸次短くなるスリット4の他の例において、スリット4は、軸線I回りの周方向に所定の角度θ’だけ変位する毎に、中心部2とスリット4との間の距離rが所定の長さΔrだけ短くなるように、設計されていてもよい。
この場合、骨切り部をヒンジ点H回りに所定の角度θ’だけ回転させたときに、空隙の幅が長さΔrだけ狭くなる。したがって、所定の角度θ’が矯正角度θと等しく、長さΔrが骨切りによって生じる側面Fと凹面Gとの間の空隙の幅と等しい場合、骨切り部を矯正角度θだけ回転させた後、側面Fと凹面Gとが相互に接触し空隙がなくなる。すなわち、矯正後、脛骨Aに負担をかけることなく側面Fを凹面Gに接触させることができる。
【0061】
上記実施形態において、支柱部5が、中心部2とガイド部3の中央とを相互に接続することとしたが、これに代えて、中心部2と、ガイド部3の他の位置とを相互に接続してもよい。例えば、
図5に示されるように、支柱部5が、中心部2とガイド部3の一端部とを相互に接続していてもよい。
【0062】
上記実施形態において、
図8Aから
図8Cに示されるように、骨手術用器具1が、軸線I回りの周方向に移動可能にガイド部3に連結される可動部8をさらに備えていてもよい。可動部8は、ピン孔2a内に挿入されるヒンジピンP1に対してガイドワイヤGWが所定の位置関係に配置されるように、ガイドワイヤGWを案内するための部品である。可動部8は、骨手術用器具10,20にも適用することができる。
可動部8は、ガイド部3に連結される第1部分81と、第1部分81に連結される第2部分82とを有する。
【0063】
第1部分81は、ガイド部3の外面に沿って周方向に移動可能である。
図8Cは、第1部分81をガイド部3に連結する連結構造の一例を示している。
図8Cにおいて、ガイド部3は、径方向外側の外面に、径方向外方に突出するレール部3aを有する。第1部分81は、ガイド部3を囲む略C型の環状の部材であり、レール部3aに沿って移動する。レール部3aがガイド部3の厚さ方向の中央に設けられている場合、第1部分81を上下逆にガイド部3に取り付けることによって、左脚および右脚の両方に骨手術用器具1を使用することができる。可動部8は、ガイド部3に対して第1部分81を一時的に固定するためのネジ8aを有していてもよい。
連結構造は上記の構造に限定されるものではなく、ガイド部3に対して上下方向および径方向の第1部分81の位置が安定し、かつ、第1部分81がガイド部3に対して周方向に移動可能である限りにおいて、任意に変更可能である。上下方向は、軸線Iに平行な方向である。
【0064】
第2部分82は、ガイド部3に対して中心部2とは反対側に配置されている。第2部分82は、軸線I側に向かって径方向に平行な方向にガイドワイヤGWを案内する少なくとも1つのガイド孔9を有する。ガイド孔9は、ガイド部3に対して上下方向の一側(下側)に位置し、径方向に平行な方向に第2部分82を貫通する。複数本のガイドワイヤGWを同時に脛骨Aに挿入することができるように、複数のガイド孔9が上下方向に一列に配列していてもよい。
ピン孔2aおよびガイド孔9を利用することによって、既に脛骨Aに挿入されているガイドワイヤGWに対して所定の位置にヒンジピンP1を挿入することが可能となる、または、既に脛骨Aに挿入されているヒンジピンP1に対して所定の位置にガイドワイヤGWを挿入することが可能となる。
【0065】
ガイド孔9の中心軸線Kは、軸線Iおよび中心軸線Kの両方に直交する方向に径方向軸線Jに対してオフセットしている。径方向軸線Jは、軸線Iを通る径方向の軸線であり中心軸線Kに平行である。径方向軸線Jからの中心軸線Kのオフセット量は、距離Δdが骨切り刃の厚さと略同等となるように、好ましくは距離Δdが0mmよりも大きく2mm以下となるように、設計される。距離Δdは、軸線Iから、ガイド孔9を貫通するガイドワイヤGWの外周面までのオフセット方向の距離である。骨切り線Lの骨切り時、ガイドワイヤGWの外周面に沿って骨切り刃が挿入される。骨切り刃の厚さの分だけガイドワイヤGWを軸線Iから離間した位置に配置することによって、骨切りの回転中心をヒンジ点Hに正確に一致させることができる。
【0066】
図9Aから
図9Dに示されるように、第2部分82は、下面Eの骨切り時に軸線Iに直交する平面に沿って骨切り刃を案内する第2ガイド部11をさらに備えていてもよい。
図9Aから
図9Cの第2ガイド部11は、軸線Iに直交する平面に沿って広がる平坦面である。
図9Dの第2ガイド部11は、軸線Iに直交する平面に沿って広がる平坦なスリットである。平坦面およびスリットは、骨切り刃の幅よりも広い幅を有する。脛骨Aの前表面、骨切り刃およびガイドワイヤGWの位置関係を考慮し、第2ガイド部11は、上下方向においてガイド部3とガイド孔9との間に配置され、ガイド孔9から固定部6側へ広がる。下面Eの骨切り時に第2ガイド部11に沿って骨切り刃を移動させることによって、軸線IおよびヒンジピンP1に対して垂直に下面Eを形成することができる。下面EがヒンジピンP1に対して傾斜した場合、ヒンジ部および粗面部Bの一方が過度に薄くなってしまう可能性がある。第2ガイド部11を設けることによって、このような不都合を防ぐことができる。
【0067】
ガイド孔9および第2ガイド部11は、ガイド部3に対して上下方向に移動可能であってもよい。例えば、第2部分82が、第1部分81と連結される第1部材と、ガイド孔9および第2ガイド部11を有する第2部材とを備え、第2部材が、第1部材に対して上下方向に移動可能に第1部材に連結されていてもよい。この構成によれば、第2ガイド部11の位置を軸線Iに平行な方向に調整することによって、下面Eの位置および粗面部Bの厚さを調整することができる。
【0068】
図9Bに示されるように、第2部分82は、骨切り線Lの骨切り時に骨切り刃を案内する第3ガイド部として、ガイド孔9に外接し上下方向に延びる平坦なガイドスリット12を有していてもよい。ガイドスリット12を経由して骨切り刃を脛骨Aに挿入することによって、骨手術用器具1を脛骨A上に配置したまま、脛骨AをガイドワイヤGWに平行に骨切りすることができる。
【0069】
図10に示されるように、ガイドワイヤGWを脛骨Aに挿入する際、ガイドワイヤGWが挿入される円管状のガイドスリーブGSを使用することがある。したがって、ガイド孔9は、ガイドスリーブGSの外径よりもわずかに大きい内径を有し、ガイドスリーブGSを案内してもよい。
ガイド孔9がガイドスリーブGSを案内するものである場合、
図9Cおよび
図9Dに示されるように、第2部分82は、ガイドワイヤGWの直径よりも大きな幅を有しガイド孔9と平行に延びるスリット13を有していてもよい。
【0070】
スリット13は、最下位置のガイド孔9の下側に形成され、ガイド孔9の全長にわたって延び、ガイド孔9を第2部分82の外側に連通させる。複数のガイド孔9が設けられている場合、全てのガイド孔9が上下方向に連通し、最上位置のガイド孔9と最下位置のガイド孔9との間でガイドワイヤGWが上下方向に移動可能である。スリット13を設けることによって、ヒンジピンP1およびガイドワイヤGWを脛骨Aに挿入した状態のまま骨手術用器具1を脛骨Aから上方に取り外すことができる。すなわち、ガイド孔9からガイドスリーブGSを抜いた後に骨手術用器具1全体を上方に移動させることによって、ガイドワイヤGWをスリット13を経由してガイド孔9から抜き、ヒンジピンP1をピン孔2aから抜くことができる。
【0071】
図8Aから
図9Dにおいて、第2部分82は、第1部分81に対して中心軸線Kに平行な方向に直線移動可能に第1部分81に連結されている。一例において、第2部分82は、中心軸線Kに平行に延びるスライダ82aを有し、スライダ82aは、その長手方向に移動可能に第1部分81によって支持されている。これにより、第2部分82を骨面にできるだけ近い位置に配置し、第2部分82に遊びがない状態で脛骨AへのガイドワイヤGWの挿入および骨切り刃による骨切りを行うことができる。
第1部分81に対して第2部分82を位置決めする位置決め機構が設けられていてもよい。例えば、第1部分81にボールプランジャ(図示略)が設けられ、スライダ82aに、一列に並びボールプランジャをそれぞれ受ける複数の穴82bが設けられていてもよい。第1部分81に対して第2部分82をより強い力で一時的に固定するために、固定ねじ等の固定部材がさらに設けられていてもよい。
第2部分82は、第1部分81に対して固定されていてもよい。この場合、可動部8は、必ずしも2つの部分81,82から構成される必要は無く、単一の部材から構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1,10,20 骨手術用器具
2 中心部
2a ピン孔
3 ガイド部
4 スリット
5 支柱部
6 固定部
6a 固定孔
7 接触面、凹面
8 可動部
9 ガイド孔
11 第2ガイド部
A 脛骨
B 粗面部
GW ガイドワイヤ
H ヒンジ点(特定点)
I 軸線
P2 固定ピン(固定部材)