(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】自動車の摩擦ブレーキ用の摩擦制動体、摩擦ブレーキおよび摩擦制動体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20230710BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20230710BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20230710BHJP
【FI】
F16D65/12 E
F16D65/12 M
B23K26/342
B23K26/21 N
(21)【出願番号】P 2021568811
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 EP2020063588
(87)【国際公開番号】W WO2020234144
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】102019207292.5
(32)【優先日】2019-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】イリヤ ポタペンコ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン シュナッテラー
(72)【発明者】
【氏名】カンジャン ウー
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-055351(JP,A)
【文献】特表2015-505940(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0293849(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0072307(US,A1)
【文献】特開2014-161858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/12
B23K 26/342
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の摩擦ブレーキ用の摩擦制動体(1)
であって、
基体(3)と、
前記基体(3)に被着された少なくとも1つの摩耗防護層(5)と、
前記摩耗防護層(5)と前記基体(3)との間に位置する少なくとも1つの金属製の中間層(6)と、
を備える、摩擦制動体(1)において、
前記中間層(6)は、レーザ肉盛溶接によって被着された金属製の中間層(6)であ
り、
前記摩耗防護層(5)は、炭化物、酸化物、窒化物もしくはホウ化物から成る硬質材料粒子が挿入された鉄系合金として形成されており、
前記中間層(6)の層厚さが、前記摩耗防護層(5)に挿入された前記硬質材料粒子の平均粒径の少なくとも2倍に相当することを特徴とする、摩擦制動体(1)。
【請求項2】
前記中間層(6)は、ニッケル系合金、コバルト系合金または鉄系合金であることを特徴とする、請求項1記載の摩擦制動体(1)。
【請求項3】
前記中間層(6)は、少なくとも2相の組織を有することを特徴とする、請求項1または2記載の摩擦制動体(1)。
【請求項4】
各々の前記相は、前記中間層(6)の少なくとも5体積%を構成することを特徴とする、請求項3記載の摩擦制動体(1)。
【請求項5】
前記摩耗防護層(5)は、溶射またはレーザ肉盛溶接によって前記中間層(6)に被着された摩耗防護層(5)であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の摩擦制動体(1)。
【請求項6】
前記中間層(6)の前記摩耗防護層(5)側の表面が、熱的に前処理されていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の摩擦制動体(1)。
【請求項7】
自動車用の摩擦ブレーキであって、
少なくとも1つのブレーキディスク(2)と、
前記ブレーキディスク(2)に対応配置された変位可能な少なくとも1つの制輪子と、
を備える、摩擦ブレーキにおいて、
前記ブレーキディスク(2)は、請求項1から
6までのいずれか1項記載の摩擦制動体(1)として形成されていることを特徴とする、摩擦ブレーキ。
【請求項8】
自動車の摩擦ブレーキ用の摩擦制動体(1)を製造する方法であって、
基体(3)に、少なくとも1つの摩耗防護層(5)と、該摩耗防護層(5)と前記基体(3)との間に位置する少なくとも1つの金属製の中間層(6)と、を設ける、方法において、
前記中間層(6)をレーザ肉盛溶接によって前記基体(3)に被着
し、
前記摩耗防護層(5)は、炭化物、酸化物、窒化物もしくはホウ化物から成る硬質材料粒子が挿入された鉄系合金として形成されており、
前記中間層(6)の層厚さが、前記摩耗防護層(5)に挿入された前記硬質材料粒子の平均粒径の少なくとも2倍に相当することを特徴とする、方法。
【請求項9】
前記中間層(6)を、該中間層(6)が少なくとも2相の組織を有するように、前記基体(3)に被着することを特徴とする、請求項
8記載の方法。
【請求項10】
前記中間層(6)を、該中間層(6)の層厚さが、前記摩耗防護層(5)に挿入された硬質材料粒子の平均粒径の少なくとも2倍に相当するように、前記基体(3)に被着することを特徴とする、請求項
8または
9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の摩擦ブレーキ用の摩擦制動体、特にブレーキディスクであって、特にねずみ鋳鉄から作製された基体と、この基体に被着された摩耗防護層と、この摩耗防護層と基体との間に位置する中間層と、を備える、摩擦制動体に関する。
【0002】
さらに、本発明は、自動車用の摩擦ブレーキであって、少なくとも1つのブレーキディスクと、このブレーキディスクに対応配置された変位可能な少なくとも1つの制輪子と、を備える、摩擦ブレーキ、ならびに上述した摩擦制動体を製造する方法に関する。
【0003】
背景技術
自動車用の摩擦ブレーキは、一般に、摩擦制動体として、ブレーキディスクと、ブレーキパッドを備えた少なくとも1つの制輪子とを有する。制輪子は、制動作用を得るために、ブレーキディスクに押し付けられる。ブレーキディスクは、一般に、自動車の車輪に相対回動不能に結合されており、制輪子は、車体に取り付けられて変位可能に配置されている。制輪子がブレーキディスクに押し付けられると、制輪子とブレーキディスクとの間の摩擦接触に基づきブレーキディスクに擦傷が生じて、ブレーキディスクの摩耗ならびにブレーキ粉塵を発生させ、ブレーキ粉塵は周囲環境に達してしまう。この摩耗を低減するために、摩擦制動体の、少なくとも制輪子との接触領域に、摩耗防護層を設けることが知られている。例えば、摩擦制動体の、ねずみ鋳鉄から作製された基体に、超硬合金または炭化物を基礎とする摩耗防護層を被着することが知られている。さらに、摩耗防護層と基体との間に、特にこの摩耗防護層と基体との間の定着剤および防食層として働く中間層を設けることが知られている。
【0004】
発明の開示
請求項1の特徴を有する本発明に係る摩擦制動体は、中間層への摩耗防護層の付着、ならびに摩擦制動体の耐亀裂性および耐食性が改善されるという利点を有する。このためには、中間層が、本発明によれば、金属製の中間層であり、レーザ肉盛溶接によって基体に被着されている。
【0005】
特に、この金属製の中間層は、ニッケル系合金、コバルト系合金または鉄系合金である。この中間層の、レーザ肉盛溶接により達成することができる低い気孔率と、その結果としての高い耐亀裂性とによって、摩擦制動体の層列内での亀裂伝播と腐食とが回避される。このほか、レーザ肉盛溶接によって、高い層間付着が、一方では材料結合に基づき中間層と基体との間に生じ、他方ではレーザ肉盛溶接により被着された中間層の好ましくは高い表面粗さおよびその結果としての高い結合力に基づき摩耗防護層と中間層との間に生じることが保証される。
【0006】
特に好ましくは、中間層の摩耗防護層側の表面が、熱的に前処理されており、これによって、中間層への摩耗防護層のいっそう良好な付着が得られる。特に、中間層の表面は、例えばレーザビーム処理による前処理によってクリーニングされる。
【0007】
本発明の好ましい改良形態によれば、金属製の中間層は、少なくとも2相の組織を有する。互いに異なる複数の層によって、中間層の破壊靭性を高めることができる。なぜならば、亀裂進展が、1つの相から隣接する相への移行部で、両相の互いに異なる構造によって抑制されるからである。
【0008】
好ましくは、各々の相が、中間層の少なくとも5体積%を構成する。これによって、破壊靭性を高める有利な組織が生じる。
【0009】
さらに好ましくは、摩耗防護層は、溶射またはレーザ肉盛溶接によって中間層に被着された摩耗防護層であることが特定されている。したがって、摩耗防護層も好ましくはレーザ肉盛溶接によって中間層に被着されるので、層列の作製時に廉価な作製プロセスが得られる。
【0010】
本発明の好ましい改良形態によれば、摩耗防護層は、セラミック製のコーティングとして形成されているか、または炭化物、酸化物、窒化物もしくはホウ化物から成る硬質材料粒子が挿入された鉄系合金として形成されている。上記の添加物によって、鉄系合金は強化され、耐摩耗性に構成される。特に好ましくは、中間層の層厚さが、摩耗防護層に挿入された硬質材料粒子の平均粒径の少なくとも2倍に相当する。これによって、作製時に意図せずに硬質材料粒子が中間層内に取り込まれてしまった場合でも、閉じた密な中間層による有効な防食が保証される。
【0011】
請求項9の特徴を有する本発明に係る摩擦ブレーキは、ブレーキディスクが、本発明に係る摩擦制動体として形成されていることを特徴とする。これによって、既述の利点が生じる。
【0012】
請求項10の特徴を有する本発明に係る方法は、金属製の中間層が、レーザ肉盛溶接によって基体に被着されることを特徴とする。これによって、既述の利点が生じる。
【0013】
他の利点および好ましい実施形態は、特に請求項ならびに上記の説明から明らかになる。
【0014】
特に、基体はねずみ鋳鉄から作製される。好ましくは、基体に、まず金属製の中間層が、次いで摩耗防護層が被着される。好ましくは、基体は、中間層の被着前に、特に幾何学的な要求を満たすために、機械的または熱的に前処理される。好ましくは、中間層も、摩耗防護層の被着前に、摩耗防護層と中間層との間の良好な層間付着を保証するために、熱的に前処理され、例えばレーザビーム処理によって、特にクリーニングされる。特に、中間層として、ニッケル系合金、コバルト系合金または鉄系合金が基体に被着される。中間層は、好ましくは、破壊靭性を高めるために、中間層が少なくとも2相の組織を有するように作製される。好ましくは、中間層は、各々の相が中間層の少なくとも5体積%を構成するように作製される。好ましくは、摩耗防護層は、特にセラミック製のコーティングとしてまたは鉄系合金として、特に、好ましくは炭化物、酸化物、窒化物またはホウ化物から成る硬質材料粒子が挿入された鉄系合金として、レーザ肉盛溶接または溶射によって中間層に被着される。
【0015】
以下に、本発明を図面につき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】有利な摩擦制動体を簡略化して示す斜視図である。
【
図2】摩擦制動体を製造する方法を簡略化して示す図である。
【
図3】製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0017】
図1は、自動車の摩擦ブレーキ(詳細には図示せず)用の、ブレーキディスク2として形成された摩擦制動体1を簡略化した斜視図で示す。摩擦制動体1は、ねずみ鋳鉄から作製された円環状の基体3を有する。ブレーキディスク2の、任意選択的に存在するポット形のブレーキディスクハットは、
図1に示されていない。基体3は、両端面にそれぞれ1つの環状の摩擦接触表面4を有する。摩擦接触表面4は、摩擦制動体1の摩耗防護層5によって形成されている。摩耗防護層5は、規定通りに使用される場合、摩擦ブレーキの少なくとも1つの制輪子またはブレーキパッドに対する摩擦接触パートナを形成する。制輪子またはブレーキパッドは、制動動作を実施するために、摩擦制動を達成すべく摩擦接触表面4に押し付けられる。ブレーキディスク2は一般に、自動車の車輪に相対回動不能に結合されており、一方、制輪子は、ハウジングに取り付けられており、ブレーキディスク2の方向にのみ変位可能である。ブレーキディスク2と制輪子との間の相対運動により、制輪子を摩擦接触表面4に押し付けたときに、摩擦制動体1の擦傷が生じ、この擦傷が摩擦制動体1の摩耗とブレーキ粉塵とを発生させる。ブレーキ粉塵は、自動車の周囲環境に達してしまう。
【0018】
摩耗防護層5は、この摩耗を低減し、摩擦制動体1の耐擦傷性を高める。特に摩耗防護層は、セラミック製のコーティングとしてまたは鉄系合金として形成されている。鉄系合金は、上記の利点を保証するために、炭化物、酸化物、窒化物またはホウ化物から成る挿入された硬質材料粒子を有する。
【0019】
基体3への摩耗防護層5の確実な付着を保証するために、摩耗防護層5と基体3との間に、金属製の中間層6が形成されている。中間層6は、レーザ肉盛溶接によって基体3に被着される。
【0020】
これについては
図2が、レーザ肉盛溶接のプロセスを簡略化した断面図で示す。基体3の表面層7がレーザビーム8によって、表面層7が溶融するように加熱される。同時に、金属製の中間層をニッケル系合金、コバルト系合金または鉄系合金として作製するための溶加材9が、レーザビームによって溶融し、次いで、溶融した表面層7と混合されることによって、特に溶接ビード10が生じ、この溶接ビード10が中間層6を形成する。
【0021】
このように作製された中間層6に、摩耗防護層5が、特に同様にレーザ肉盛溶接によって被着される。
【0022】
好ましくは、金属製の中間層6は、この中間層6が少なくとも2相の組織を有するように被着される。特にこの場合、各相がそれぞれ中間層の少なくとも5体積%を構成することによって、中間層の有利な耐亀裂性もしくは破壊靭性が保証される。互いに異なる複数の相の存在によって、形成されつつある亀裂が、1つの相から隣接する相への移行部で止められるかまたは抑制されることが達成されるので、中間層6を貫通する亀裂伝播は、有利に阻止される。
【0023】
図3は、摩擦制動体1を製造する有利な方法をフローチャートで示す。第1のステップS1で、基体3が提供される。有利には、すでに前述したように、基体はねずみ鋳鉄から作製される。次のステップS2で、基体3の少なくとも一方の端面側の表面が、特に金属製の中間層6を被着する予定の表面を粗面化するかもしくは幾何学的に適合させるために、機械的または熱的に前加工もしくは前処理される。次いで、ステップS3で、基体3のこの端面側の表面に、レーザ肉盛溶接によって金属製の中間層6が被着される。特に、中間層はニッケル系合金、コバルト系合金または鉄系合金である。レーザ肉盛溶接に基づく材料結合によって、中間層6と基体3との有利な層間付着が保証されていることが確保される。次いで、中間層6が十分な程度まで凝固したかもしくは冷却された後に、ステップS4において任意選択的に、中間層6の露出した表面が、例えばレーザビーム処理によって熱的に前処理される。次いでステップS5で、中間層6に摩耗防護層5が、特にレーザ肉盛溶接または溶射によって被着される。すでに前述したように、摩耗防護層5は、特に耐摩耗性を高めるための炭化物、酸化物、窒化物またはホウ化物を有する鉄系合金として、またはセラミック製のコーティングとして形成される。
【0024】
次いでステップ6で、完成した摩擦制動体1が得られる。任意選択的に、摩耗防護層5は、摩擦ブレーキの制輪子との協働のために所望される表面粗さを保証するために、機械的または熱的に後処理され、特に研削される。