(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】土壌浸食防止剤
(51)【国際特許分類】
C09K 17/14 20060101AFI20230710BHJP
C09K 17/18 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
C09K17/14 H
C09K17/18 H
(21)【出願番号】P 2022205278
(22)【出願日】2022-12-22
【審査請求日】2022-12-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-284844(JP,A)
【文献】特開2020-189934(JP,A)
【文献】国際公開第2015/122333(WO,A1)
【文献】特開平01-207384(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110484268(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/14
C09K 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)硫酸エステル塩型、スルホン酸エステル塩型及びリン酸エステル塩型から選ばれる少なくとも1種のアニオン性界面活性剤と、(B)非イオン性界面活性剤とを含有
し、(B)成分に対する(A)成分の質量比が0.01以上50以下である、土壌浸食防止剤。
【請求項2】
(B)非イオン性界面活性剤が、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、及び脂肪酸アルカノールアミドから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の土壌浸食防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌浸食防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けた取り組みが求められている中、目標13は「気候変動への具体的な対策を」であり、ターゲット13-1は「すべての国々において、気候変動に起因する危険や自然災害に対するレジリエンスおよび適応力を強化する。」としている。近年ではゲリラ豪雨や長雨等の自然災害が増えてきているが、温暖化等との関連性も指摘されている。このことに伴い、自然災害についてこれまで以上に新たな対策を講じることが望まれており、そのための技術改良が検討されつつある。
【0003】
造成地、道路、ダム等の建設に伴う盛土や切土等の法面は、そのまま放置すると降雨や風化等によって浸食され、地滑りや落石等の事故が発生する。そのような開発工事や災害等で発生する山腹の裸地斜面や法面等の緑化困難地に対する緑化復元を目的として、植物の生育が可能な表土を再生するために植生基材吹付による生育基盤造成工事が行われている。
【0004】
そのような生育基盤造成工事においては、通常、客土、有機肥料、浸食防止剤、植物種子等を水と混合して流動性を持たせた泥土に、高分子凝集剤や無機凝集剤を配合した水溶液を吹付けノズルで混合して吹き付け(特許文献1)、造成した生育基盤の浸食を防止することを目的として発芽や生育初期の旺盛な草本類を早期に密生させる方法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-209705号公報
【文献】特開2017-190436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ダム冠水法面等に造成される緑化基盤は、長期間の浸水状態に耐えることが求められると共に、緑化基盤中に混合された植物種子の発芽と生育に支障をきたしてはならない。また緑化基盤を洗い出した雨水等は河川へ流出するため、緑化基盤から有害な物質が発生することは許容されない。従来使用されている緑化基盤の浸食防止剤は、表面が疎水性になることで植物の生育を阻害したり、薬害によって植物の生育に悪影響を及ぼすことがあり、所望の効果を発揮しないことがある。
従来、界面活性剤は、移植機のセル苗に使用される育苗用の培養土等において、撥水抑制に用いることが提案されているが(特許文献2)、土壌の浸食防止効果については全く検討されていない。特に土壌の浸食防止においては新たな技術課題として、上記したようにSDGsの達成に向けてゲリラ豪雨や長雨等の自然災害へのこれまで以上の対策を講じることが検討されつつあるが、特許文献2では培養土のためそのような着眼点からの改良を示唆するものではなかった。
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、浸食防止性能に優れ、植物の生育性が向上し、植物の根張りによって長期間にわたり緑化基盤や植生基盤等の生育基盤が強固になる土壌浸食防止剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者は鋭意検討を行った。土壌の土粒子は、界面に負電荷を持つが、カチオン性界面活性剤は親水基が土粒子界面に吸着して土粒子間の疎水性を高め、これに対してアニオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤は、疎水基が土粒子界面に吸着して親水性を高める。基本的に土粒子は負電荷であるが、土粒子の中に正電荷のものが混在していた場合は上記と逆のことが起きる。しかし非イオン性界面活性剤は電荷の影響を受けずに固体面の親水性を高めるよう作用する。これらの知見から、特定のアニオン性界面活性剤と、非イオン性界面活性剤とを併用することで、土壌のイオン性による影響を受けにくく、その保水性により所望の効果である浸食防止性能と植物の生育性を最大限に発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の土壌浸食防止剤は、(A)硫酸エステル塩型、スルホン酸エステル塩型及びリン酸エステル塩型から選ばれる少なくとも1種のアニオン性界面活性剤と、(B)非イオン性界面活性剤とを含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の土壌浸食防止剤は、締固め密度を向上させ、優れた固化度合を発揮するため、浸食防止性能に優れる。また緑化基盤や植生基盤等の生育基盤の保水性が向上して植物の生育性が向上する。すなわち植物の根張りによって生育基盤が強固になる。本発明の土壌浸食防止剤を用いることで締固め密度を向上させ、植物の生育に悪影響を与えることなく優れた固化度合を発揮するため、土壌浸食防止剤の固化性能と植物の根張りによって長期にわたり浸食防止性能に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。
本発明の土壌浸食防止剤は、(A)硫酸エステル塩型、スルホン酸エステル塩型、及びリン酸エステル塩型から選ばれる少なくとも1種のアニオン性界面活性剤と、(B)非イオン性界面活性剤とを含有する。
【0011】
(A)成分のうち、硫酸エステル塩型のアニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
硫酸エステル塩型のアニオン性界面活性剤を構成する塩としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩、アミン塩又はアンモニウム塩等が挙げられる。アルカリ金属塩としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。アミン塩としては、特に限定されないが、例えば、アミン化合物由来の塩等が挙げられる。
【0012】
これらの中でも、本発明の効果を発揮させる観点から、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩が好ましく、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩がより好ましく、アルキルエーテル硫酸エステル塩がさらに好ましい。
【0013】
アルキル硫酸エステル塩としては、特に限定されないが、例えば、アルキル基が炭素数10~18であるもの等が挙げられる。アルコールのアルキル基は直鎖状でも分岐状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。具体的には、特に限定されないが、例えば、デシル硫酸エステル塩、ラウリル硫酸エステル塩、トリデシル硫酸エステル塩、ミリスチル硫酸エステル塩、セチル硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリル硫酸エステル塩等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、炭素数10~14のアルキル硫酸エステル塩が好ましく、ラウリル硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0014】
アルキルエーテル硫酸エステル塩としては、特に限定されないが、例えば、炭素数10~22のアルコールにエチレンオキサイド(EO)を1~10モル付加させたものを硫酸エステル化して得られるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩であることが好ましい。アルコールのアルキル基は直鎖状でも分岐状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。具体的には、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンデシルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンセチルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンエイコシルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、炭素数12~18でエチレンオキサイド(EO)1~10モル付加のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好ましく、ポリオキシエチレン(1)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(3)ステアリルエーテル硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0015】
なお、本明細書においてポリオキシエチレンにおける括弧内の数字は、エチレンオキサイドの付加モル数を示す。
【0016】
ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルカリウム、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でもエチレンオキサイド(EO)1~20モル付加のものが好ましく、ポリオキシエチレン(13)スチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウムがより好ましい。
【0017】
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジノニルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられ、具体的には、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンジノニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でもエチレンオキサイド(EO)1~20モル付加のものが好ましく、ポリオキシエチレン(7)ジノニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウムがより好ましい。
【0018】
(A)成分のうち、スルホン酸エステル塩型のアニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、スルホコハク酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、スルホ脂肪酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
スルホン酸エステル塩型のアニオン性界面活性剤を構成する塩としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩、アミン塩又はアンモニウム塩等が挙げられる。アルカリ金属塩としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。アミン塩としては、特に限定されないが、例えば、アミン化合物由来の塩等が挙げられる。
【0019】
これらの中でも、本発明の効果を発揮させる観点から、スルホコハク酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、スルホ脂肪酸エステル塩が好ましく、スルホコハク酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩がより好ましく、スルホコハク酸エステル塩がさらに好ましい。
【0020】
スルホコハク酸エステル塩としては、特に限定されないが、例えば、アルキルスルホコハク酸エステル塩等が挙げられる。アルキルスルホコハク酸エステル塩のアルキル基は、炭素数4~10が好ましく、直鎖状でも分岐状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。具体的には、例えば、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。アルキルスルホコハク酸エステル塩としては、モノ又はジアルキルスルホコハク酸塩(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等)、テトラデセンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、その中でもジアルキルスルホコハク酸ジエステル塩が好ましい。
【0021】
アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、アルキル基が炭素数10~18であるもの等が挙げられ、直鎖状でも分岐状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
アルキルスルホン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、アルキル基が炭素数10~20が好ましく、直鎖状でも分岐状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
スルホ脂肪酸エステル塩としては、特に限定されないが、例えば、アルキル基が炭素数10~20が好ましく、直鎖状でも分岐状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
アルキルナフタレンスルホン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、アルキル基が炭素数10~20が好ましく、直鎖状でも分岐状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
α-オレフィンスルホン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、アルケニル基が炭素数12~18であるもの等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
アルキルアリルスルホン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、アルキル基が炭素数10~20が好ましく、直鎖状でも分岐状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
(A)成分のうち、リン酸エステル塩型のアニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
リン酸エステル塩型のアニオン性界面活性剤のカチオンとしては、特に限定されないが、例えば、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、アンモニウムカチオン、アミン化合物由来のカチオン等が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、本発明の効果を発揮させる観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩が好ましい。
【0029】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩としては、特に限定されないが、例えば、アルキル基が炭素数10~22、好ましくは炭素数12~18のアルコールにエチレンオキサイド(EO)が1~60モル付加されているポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩等が挙げられる。アルコールのアルキル基は直鎖状でも分岐状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。具体的には、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンデシルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンミリスチルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンエイコシルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンベヘニルエーテルリン酸エステル塩等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテルリン酸カリウム、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテルリン酸カリウム、ポリオキシエチレン(50)オレイルエーテルリン酸カリウムが好ましく、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸エステル塩がより好ましく、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸エステル塩がさらに好ましい。
【0030】
アルキルリン酸エステル塩としては、特に限定されないが、例えば、アルキル基が炭素数8~22である、モノ又はジアルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。アルキル基は直鎖状でも分岐状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。具体的には、特に限定されないが、例えば、オクチルリン酸エステル塩、イソオクチルリン酸エステル塩、2-エチルヘキシルリン酸エステル塩、デシルリン酸エステル塩、ラウリルリン酸エステル塩、トリデシルリン酸エステル塩、ミリスチルリン酸エステル塩、セチルリン酸エステル塩、オレイルリン酸エステル塩、ステアリルリン酸エステル塩、エイコシルリン酸エステル塩、ベヘニルリン酸エステル塩等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
(A)硫酸エステル塩型、スルホン酸エステル塩型及びリン酸エステル塩型から選ばれる少なくとも1種のアニオン性界面活性剤の土壌浸食防止剤に対する配合量は、特に限定されないが、浸食防止の点から、水を除く全量に対して、1~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、15~40質量%がさらに好ましい。
【0032】
(B)非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸アルカノールアミドが好ましく、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルがより好ましく、ポリオキシアルキレングリコールがさらに好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
ポリオキシアルキレングリコールとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらの中でも、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物が好ましく、エチレンオキサイド含有率が40%以下であることがより好ましく、例えば、プロピレンオキシド25~35モル付加物であるポリプロピレングリコールのエチレンオキサイド3~30モル付加物等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数12~18の直鎖状もしくは分岐鎖状アルコールのプロピレンオキサイド及び/又はエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらの中でも、炭素数12~18の直鎖状もしくは分岐鎖状アルコールのプロピレンオキサイド2~10モル付加物、炭素数12~18の直鎖状もしくは分岐鎖状アルコールのエチレンオキサイド2~10モル付加物、炭素数12~18の直鎖状もしくは分岐鎖状アルコールのエチレンオキサイド2~15モル、プロピレンオキサイド2~15モルのランダムもしくはブロック付加物が好ましい。ブロック付加物の場合は、乳化分散効果の点で末端エチレンオキサイド付加物が好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数8~12のアルキルフェノールの3~50モルのエチレンオキサイド付加物が好ましく、オクチルフェノールのエチレンオキサイド5~20モル付加物、ノニルフェノールのエチレンオキサイド5~20モル付加物がより好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、(モノ、ジ、トリ)スチレン化フェノールの3~50モルのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油としては、特に限定されないが、例えば、ヒマシ油もしくは硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド10~60モル付加物が好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
ポリオキシエチレンアルキルアミンとしては、特に限定されないが、例えば、脂肪族一級アミン(炭素数12~18の直鎖状もしくは分岐状)のエチレンオキシド2~20モル付加体等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
脂肪酸アルカノールアミドとしては、特に限定されないが、例えば、ラウリン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、パーム油脂肪酸ジエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
(B)非イオン性界面活性剤の土壌浸食防止剤に対する配合量は、特に限定されないが、浸食防止の点から、水を除く全量に対して、1~90質量%が好ましく、10~85質量%がより好ましく、20~80質量%がさらに好ましく、30~75質量%が特に好ましい。
【0041】
本発明の土壌浸食防止剤において、(B)成分に対する(A)成分の質量比((A)成分/(B)成分)は、浸食防止の点から、0.005~50が好ましく、0.01~30がより好ましく、0.05~10がさらに好ましく、0.1~5が特に好ましく、0.3~1が殊更好ましい。
【0042】
本発明の土壌浸食防止剤は、さらに固結剤を含有してもよい。固結剤としては、アスファルト乳剤、フライアッシュ、水性樹脂エマルジョンや水溶性高分子などが挙げられる。
【0043】
本発明の土壌浸食防止剤は、その剤型は特に限定されず、溶液状、固体状、ゲル状等が挙げられる。その中でも、ハンドリング性の観点から、溶媒に(A)成分及び(B)成分を溶解又は分散した溶液状であることが好ましい。
溶媒としては、(A)成分及び(B)成分を溶解又は分散できるものであれば特に限定されず、水、アルコール等の有機溶媒、及びこれらの混合物等が挙げられる。その中でも、ハンドリング性の観点から、アルコールが好ましい。
溶液とした場合における(A)成分及び(B)成分の濃度は、1~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましい。
【0044】
アルコールとしては、炭素数1~8の1価アルコール、炭素数1~8の2価アルコール、炭素数1~8の3価アルコール、及び炭素数2~8のアルコキシアルコールが挙げられ、炭素数1~8の1価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、イソブタノール、ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、ヘキサノール、メチルペンタノール、ジメチルブタノール、2-エチルブタノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール等が挙げられる。
炭素数1~8の2価アルコールとしては、例えば、メタンジオール、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。
炭素数1~8の3価アルコールとしては、例えば、グリセリン等が挙げられる。
炭素数2~8のアルコキシアルコールとしては、例えば、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(n-プロポキシ)エタノール、2-イソプロポキシ-1-エタノール、3-(n-プロポキシ)エタノール、2-(n-ブトキシ)エタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、4-メトキシ-1-ブタノール、1-エトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明においては、上記に例示したアルコールの中でも、炭素数1~8の1価アルコール及び炭素数1~8の2価アルコールから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0045】
アルコールの土壌浸食防止剤に対する配合量は、特に限定されないが、ハンドリング性の観点から、1~30質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましい。
【0046】
本発明の土壌浸食防止剤には、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記以外の他の成分を原料として添加することができる。このような他の成分としては、特に限定されないが、例えば、前記以外のアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤、塩類、消泡剤、増粘剤、減粘剤、殺菌剤、溶剤、香料、着色料、pH調整剤、栄養源やミネラル等の肥料分等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
本発明の土壌浸食防止剤は、例えば、水、種子、及びその他に必要に応じて土、肥料、種子吹き付け養生材等を混合し、屋外の法面に散布することで、散布直後は土壌浸食防止剤による土壌表面の固化により一時的な土壌の浸食が防止できるとともに、その後に発芽、生育する植物により土壌の安定を図ることができる。
土壌浸食防止剤を適用する対象としては、特に限定されないが、例えば、トンネル工事、道路工事等による裸地の斜面、盛土、埋立地や造成地の裸地等が挙げられる。
【0048】
本発明の土壌浸食防止剤は、緑化基盤材や植生基盤材等の、種子を含んだ生育基盤材として好適に用いることができる。緑化基盤や植生基盤等の生育基盤は、造成地、道路、ダム等の建設に伴う盛土や切土等の法面に、また開発工事や災害等で発生する山腹の裸地斜面や法面等の緑化困難地等に造成され、植物の生育が可能な表土を再生すること等を目的とする。本発明の土壌浸食防止剤を含有する生育基盤材は、吹き付け等により生育基盤を造成でき、発芽と生育によって植物を密生させることができる。本発明の効果を発揮させる観点から、植生基盤材等の生育基盤材には、バーク堆肥、ピートモス、黒土から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、3種全てを含有することがより好ましい。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.土壌浸食防止剤の調製
表1に記載した実施例、比較例に示す配合に従い、界面活性剤等の成分を室温で撹拌混合して土壌浸食防止剤を調製した。水及びアルコールは予め界面活性剤との混合液とし、この混合液を室温で添加、撹拌混合した。
【0050】
2.評価
実施例及び比較例の土壌浸食防止剤について、次の評価を行った。
(1)土壌浸食防止評価
ステンレスバットに以下の組成比率(質量)で植生基盤材を作製し、それらを用いて客土吹付工法と厚層基材吹付工法を実施した。実施箇所は、傾斜角が約45℃、吹付面の厚みはいずれも5mmであった。
植生基盤材組成
バーク堆肥:50%
ピートモス:20%
黒土 :30%
上記植生基盤材100質量部に対して、各種原料を以下の組成で混合した。
肥料(旭化成(株)製のハイコントロール700(商品名)):0.3%
種子(牧草:ケンタッキー31フェスク):0.05%
実施例及び比較例の浸食防止剤:5%
固結剤(水性樹脂エマルジョン:LANDY PL-3000(ミヨシ油脂株式会社製)):1%
【0051】
[崩壊の有無]
経過日数15日後と30日後に、1mの高さから100mm/hr×5分の降雨試験を行った後、崩壊の有無を測定し、以下の基準で評価した。
(1) 調製から15日後
◎+:10%未満
◎:10%以上30%未満
○:30%以上50%未満
×:50%以上
(2) 調製から30日後
◎+:10%未満
◎:10%以上30%未満
○:30%以上50%未満
×:50%以上
【0052】
[土壌流出量]
経過日数15日後と30日後に、1mの高さから100mm/hr×5分の降雨試験を行った後、土壌流出量を測定し、以下の基準で評価した。
(1) 調製から15日後
◎+:10%未満
◎:10%以上30%未満
○:30%以上50%未満
×:50%以上
(2) 調製から30日後
◎+:10%未満
◎:10%以上30%未満
○:30%以上50%未満
×:50%以上
【0053】
(2)生育性評価
ステンレスバットに傾斜角をつけずに上記植生基盤を作製し、牧草:ケンタッキー31フェスクについて、7日後の発芽率、30日経過後の発芽後の生育状態を測定し、以下の基準で評価した。
[発芽率]
◎+:95%以上
◎:90%以上95%未満
〇:80%以上90%未満
△:70%以上80%未満
×:70%未満
[発芽後の生育状態]
ステンレスバットに傾斜角をつけずに上記植生基盤を作製し、土壌改質剤を用いずに播種した試験区をブランクとした。吹付実施から30日経過後における、ブランクと比較した牧草の高さを以下の基準で評価した。
◎+:110%以上
◎:100%以上110%未満
〇:90%以上100%未満
△:85%以上90%未満
×:85%未満
【0054】
上記評価の結果を表1A~表1Cに示す。
【0055】
【0056】
【0057】
【要約】
【課題】浸食防止性能に優れ、植物の生育性が向上し、植物の根張りによって長期間にわたり緑化基盤や植生基盤等の生育基盤が強固になる土壌浸食防止剤を提供する。
【解決手段】本発明の土壌浸食防止剤は、(A)硫酸エステル塩型、スルホン酸エステル塩型及びリン酸エステル塩型から選ばれる少なくとも1種のアニオン性界面活性剤と、(B)非イオン性界面活性剤とを含有する。
【選択図】なし