(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】吸収性物品用不織布
(51)【国際特許分類】
A61F 13/511 20060101AFI20230710BHJP
A61F 13/514 20060101ALI20230710BHJP
A61F 13/15 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A61F13/511 300
A61F13/511 100
A61F13/511 400
A61F13/514 100
A61F13/514 200
A61F13/514 310
A61F13/514 320
A61F13/15 355B
A61F13/15 340
(21)【出願番号】P 2022561740
(86)(22)【出願日】2020-11-10
(86)【国際出願番号】 JP2020041969
(87)【国際公開番号】W WO2022101999
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-01-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀行
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 吉彦
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-102456(JP,A)
【文献】特開2017-038838(JP,A)
【文献】特開2017-104501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
B32B5/26
D04H1/54
D06C23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凸部及び該凸部間に位置する凹部を有する吸収性物品用不織布であって、
前記凹部は、エンボス部及び繊維同士の融着部を有し、
前記エンボス部の周辺において、前記凸部側に立ち上がる、繊維同士の融着長さが長い融着部の割合が5%以上
70%以下であり、
前記エンボス部の周辺の方が前記凸部の頂部よりも、前記の融着長さが長い融着部の割合が高い、
吸収性物品用不織布。
【請求項2】
前記凸部を構成する繊維の繊維径の平均変動値は、
0%以上30%以下である、請求項1に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項3】
2層以上の繊維層からなり、下層よりも上層の方が、前記エンボス部の周辺において前記の融着長さが長い融着部の割合が高い、請求項1又は2に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項4】
前記凹部の底部におけるエンボス部の面積が、前記底部全体の面積の50%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布
。
【請求項5】
2層以上の繊維層からなる積層構造を有する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項6】
上層と下層との積層構造を有し、前記上層からなる前記凸部の内部は、前記下層が入り込んだ中実構造を有し、前記凹部の底部では前記上層と前記下層とが積層されており、前記エンボス部が前記底部における前記上層に配され、前記下層には配されていない、請求項1~
5のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項7】
上層と下層との積層構造を有し、前記上層からなる前記凸部の内部は、前記下層が入り込んだ中実構造を有し、前記凹部の底部では前記上層と前記下層とが積層されており、前記エンボス部が前記底部における前記上層及び前記下層に配されている、請求項1~
5のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項8】
上層と下層との積層構造を有し、前記上層からなる前記凸部の内部は、中空で、かつ、前記上層の裏面側に下層が配された閉鎖中空構造を有し、前記凹部の底部では前記上層と前記下層とが積層されており、前記エンボス部が前記底部における前記上層及び前記下層に配されている、請求項1~
5のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項9】
上層と下層との積層構造を有し、前記上層からなる前記凸部の内部は、中空で、かつ、前記上層の裏面側に下層が配された閉鎖中空構造を有し、かつ、前記上層の前記凸部に対応する位置の前記下層が前記凸部側に入り込んでおり、前記凹部の底部では前記上層と前記下層とが積層されており、前記エンボス部が前記底部における前記上層及び前記下層に配されている、請求項1~
5のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項10】
上層と下層との積層構造を有し、前記上層からなる前記凸部に対応する位置の前記下層が、前記凸部とは反対側に凸状になっている、請求項1~
5のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項11】
前記上層の方が前記下層よりも繊維の交点融着部密度が低い、請求項
6~
10のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項12】
前記凸部が突出する面側から見た平面視において、前記エンボス部の面積が前記凸部の面積よりも小さい、請求項1~
11のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項13】
前記凸部が突出する面側から見た平面視において、一方向に延出する凸部が該一方向と交差する他の方向に等間隔で複数配置されており、前記他の方向に隣り合う前記凸部同士を、前記他の方向に延出する中間高さ凸部で繋いでおり、前記凸部と前記中間高さ凸部とによって囲まれた部分が前記凹部とされており、該凹部の底部に前記エンボス部が配されている、請求項1~
12のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項14】
複数の繊維層からなる積層構造を有し、最上層の繊維密度と最下層の繊維密度の比(最上層の繊維密度/最下層の繊維密度)が0.50以上1.35以下である、請求項1~
13のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布を用いた吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸収性物品用不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
おむつ等の吸収性物品には不織布が用いられることが多い。この不織布について種々の機能を持たせる技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、表裏面の一方の面が他方の面に対して5mm以上可動し得る不織布が記載されている。該不織布の製造方法として、繊維同士が未融着状態の繊維ウエブ(以下、未融着ウエブともいう)を、凹凸形状を有する支持体雌材と支持体雄材とで挟んで賦形し、次いで熱風処理を行って不織布化する技術が記載されている。
特許文献2には、エアジェットノズル等のガス噴射手段を用いて未融着ウエブを凹凸賦形し、賦形した凹凸形状を熱処理で定着させて凹凸不織布を得る技術が記載されている。熱処理により繊維同士の融着点を備えた凹凸不織布は、吸収性物品の表面シートとして組み込む際に下層の吸収要素とエンボス加工によって接合されることが記載されている。
また、特許文献3及び4には、繊維同士を融着させてなる不織布を凹凸形状に賦形する技術が記載されている。不織布の凹凸賦形時に、凹部底部を加圧して該底部の剛性化や圧密化することが記載されている。さらに、特許文献5には低交絡度のウエブを用いて立体賦形する技術が記載されている。特許文献6には3次元に構造化されていないウエブを多数の雄型をもつ雄型ロールと多数の窪みをもつ雌型ロールとによって係合させながら延伸をさせ、その後熱間ロールやピンロールによって開裂させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-44321号公報
【文献】特開2015-198706号公報
【文献】特開2009-61025号公報
【文献】特開2009-155741号公報
【文献】特開2010-133071号公報
【文献】特表2002-531726号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、複数の凸部及び該凸部間に位置する凹部を有する吸収性物品用不織布であって、前記凹部は、エンボス部及び繊維同士の融着部を有し、前記エンボス部の周辺において、前記凸部側に立ち上がる、繊維同士の融着長さが長い融着部の割合が5%以上である、吸収性物品用不織布を提供する。
【0006】
また、本発明は、複数の凸部及び該凸部間に位置する凹部を有する吸収性物品用不織布の製造方法であって、複数の突起及び窪みを有し、互いに噛合い可能な凹凸形状を有する一対以上のロールを用いて、繊維を用いた未融着ウエブに凹凸賦形加工を施して噛合い賦形ウエブを形成する賦形工程と、前記賦形工程と同時又は該賦形工程後に、複数の前記突起の一部若しくは全部又は複数の前記窪みの一部若しくは全部の位置において、前記噛合い賦形ウエブの凹部の底部の繊維の一部又は全てを接合させるエンボス熱融着工程又はエンボス圧着工程と、前記エンボス熱融着工程又は前記エンボス圧着工程によってエンボスされたウエブに、加熱流体により、繊維交点における融着部を形成する熱流融着工程と、を含む吸収性物品用不織布の製造方法を提供する。
【0007】
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る吸収性物品用不織布の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明に係る吸収性物品用不織布における、融着長さが長い融着部が配されたエンボス部周辺部分の一例を拡大して示す図面代用写真である。
【
図3】本発明に係る吸収性物品用不織布の別の実施形態(二層構造かつ中実構造)を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明に係る吸収性物品用不織布の別の実施形態(二層構造かつ中実構造)を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明に係る吸収性物品用不織布の別の実施形態(二層構造かつ閉鎖中空構造)を模式的に示す断面図である。
【
図6】本発明に係る吸収性物品用不織布の別の実施形態(二層構造かつ閉鎖中空構造)を模式的に示す断面図である。
【
図7】(A)~(C)は、本発明に係る吸収性物品用不織布における凸部と凹部との配置パターンの一実施形態(具体例1~3)を表面側から模式的に示す平面図である。
【
図8】(A)~(C)は、本発明に係る吸収性物品用不織布における凸部と凹部との配置パターンの別の実施形態(具体例4~6)を表面側から模式的に示す平面図である。
【
図9】(A)~(D)は、本発明に係る吸収性物品用不織布における凸部と凹部との配置パターンの別の実施形態(具体例7~10)を表面側から模式的に示す平面図である。
【
図10】(A)及び(B)は、本発明に係る吸収性物品用不織布における凸部と凹部との配置パターンの別の実施形態(具体例11及び12)を表面側から模式的に示す平面図である。
【
図11】(A)~(C)は、本発明に係る吸収性物品用不織布における凸部と凹部との配置パターンの別の実施形態(具体例13~15)を表面側から模式的に示す平面図である。
【
図12】本発明の吸収性物品用不織布の製造方法において、賦形工程(工程(I))とエンボス熱融着工程又はエンボス圧着工程(工程(II))とを同時に行う場合の第1ロールと第2ロールとの噛合い状態の一例を模式的に示す断面図であり、(A)は第1ロールの突起の位置にてエンボスを行う状態を示しており、(B)は第2ロールの突起の位置にてエンボスを行う状態を示している。
【
図13】本発明の吸収性物品用不織布の製造方法において、賦形工程(工程(I))の後にエンボス熱融着工程又はエンボス圧着工程(工程(II))を逐次行う場合の第2ロールの突起とポイント接合手段との配置関係の一例を模式的に示す断面図であり、(A)はポイント接合手段として超音波装置を用いる例を示しており、(B)はポイント接合手段としてフラットロールを用いる例を示しており、(C)はポイント接合手段として凸型ヒートロールを用いる例を示している。
【
図14】本発明の吸収性物品用不織布の製造方法において、賦形工程(工程(I))の後にエンボス熱融着工程又はエンボス圧着工程(工程(II))を逐次行う場合の第2ロールの窪みとポイント接合手段との配置関係の一例を模式的に示す断面図であり、(A)はポイント接合手段として超音波装置を用いる例を示しており、(B)はポイント接合手段として凸型ヒートロールを用いる例を示している。
【
図15】本発明に係る吸収性物品用不織布の製造方法に用いられる製造装置の一例を示す概略図である。
【
図16】本発明に係る吸収性物品用不織布の製造方法に用いられる製造装置の別の例を示す概略図である。
【発明の詳細な説明】
【0009】
本発明は、上記の点に鑑み、厚み変形を伴う良好なクッション性を有しながら、押圧時に適度な厚みが残りやすく、柔らかい風合いを有する吸収性物品用不織布に関する。
【0010】
特許文献1~6に記載されたような技術で凹凸形状を付与された不織布は、厚み方向に変形(厚み変形ともいう)しやすく、良好なクッション性を備える。半面、その変形性ゆえに、押圧時にも適度な厚みが感じられやすくするには更なる改善の余地があった。それゆえ、凹凸状繊維構造で、柔らかい風合付与の点で改善の余地があった。特許文献5および6については、賦形後の繊維交点における融着形成について示唆されておらず、毛羽立ちや圧縮後の厚み回復不足により良好な風合いのものを得るには改善の余地があった。また、繊維の移動の自由度が極めて小さい不織布を凹凸賦形した場合、人によっては凸部表面に張りが感じられるということがあり、この点においても柔らかい風合いを高める点において改善の余地があった。
【0011】
本発明の吸収性物品用不織布は、厚み変形を伴う良好なクッション性を有しながら、押圧時に適度な厚みが残りやすく、柔らかい風合いを有する。
【0012】
本発明の吸収性物品用不織布は、吸収性物品の種々の構成部材として用いることができる。例えば、肌に触れる表面材、着衣側の裏面材、表面材と裏面材との間に介在する吸収体における表面包皮材であるコアラップシート、吸収体を構成する吸収シート、立体防漏ギャザー部材、更に表面材と吸収体との間に介在するサブレイヤー等として用いることができる。また、吸収性物品がファスニングテープやウイング部を有する場合、該ファスニングテープの基材シートや該ファスニングテープが係合するランディングテープ用シート、ウイング部の基材シート等としても用いることができる。
また、本発明の吸収性物品用不織布を用いる吸収性物品としては、体液を吸収することを目的とする種々のものを特に制限なく含みえる。例えば、おむつ、生理用ナプキン、パンティーライナ、尿とりパッドなどが挙げられる。
【0013】
以下、本発明の吸収性物品用不織布の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
本実施形態の吸収性物品用不織布10(以下、単に不織布10ともいう)は、
図1に示すように、複数の凸部1と凸部1、1間に位置する凹部2とを有する。
凸部1は、不織布10の表裏面の内の一方の面側に突出する部分であり、凹部2は、前記一方の面側において、突出する凸部1、1間に挟まれた窪み部分である。凸部1と凹部2とは、不織布10の平面方向に交互に配されて、不織布10の前記一方の面側の凹凸面を形成している。
本実施形態において、凸部1が突出する前記一方の面側を表面側10Sと称し、前記反対面側を裏面側10Rと称して説明する。不織布10は、吸収性物品に組み込まれた場合に、表面側10Sが吸収性物品の肌面側に向けられ、裏面側10Rが吸収性物品の非肌面側に向けられる。
凸部1は、不織布10の厚み方向に対して、後述する押圧前の初期厚み(0.5gf/cm
2荷重時)(T0)の表面側10Sの1/4の範囲とする。同様に、凹部2は、初期厚みの裏面側10Rの1/4の範囲とする。不織布10の厚み方向に対して、凸部1と凹部2との間の、後述する押圧前の初期厚み(0.5gf/cm
2荷重時)(T0)の、表面側10Sの1/4の位置(凹部2表面)から3/4の範囲にある、表面側10Aの繊維層を中間壁部122という。
【0015】
上記の厚み方向の区分において、凸部1は、頂部11と頂部11から下る側壁部121とを有し、凹部2は、底部21と底部21から上る側壁部123とを有する。
中間壁部122、凸部12の側壁部121及び凹部2の側壁部123は、不織布10の厚み方向に継ぎ目なく連続した繊維層を形成している。この中間壁部122、凸部12の側壁部121及び凹部2の側壁部123をまとめて壁部12ということがある。
不織布10において、凸部1の内部13が中空にされている。この「凸部1の内部13」とは、頂部11と側壁部121とで囲まれた裏面側10Rの領域だけに限らず、凸部1の裏面側10Rの領域であって、凸部1の頂部11及び側壁部121、中間壁部122、並びに凸部1に隣接する凹部2の側壁部123で囲まれた領域を意味する。言い換えると、凸部1の配置位置において、凸部1の裏面側10Rにある、不織布10の厚み方向全体に亘る領域を、「凸部1の内部13」という。したがって、「凸部1の内部13が中空である」というとき、凸部1の頂部11及び側壁部121、中間壁部122、並びに凸部1に隣接する凹部2の側壁部123で囲まれた領域が繊維で満たされていない空間になっていることを意味する。
【0016】
ここで「中空」とは、凸部1の裏面側10Rの内部において実質的に繊維で満たされていない空間であり、具体的には、繊維密度が5本/mm2未満であることを意味する。「中実」とは、凸部1の裏面側10Rの内部が実質的に繊維で満たされていることをいい、具体的には、繊維密度が5本/mm2以上であることを意味する。
【0017】
(繊維密度の測定方法)
繊維密度は、不織布10の断面を観察して、以下の手法により測定することができる。不織布10を測定対象の凸部1の頂部11を通るように厚み方向に切断する。走査電子顕微鏡(SEM)を使用して切断面を拡大観察し、一定面積の切断面内の切断されている繊維の断面を数える。拡大観察は、繊維断面が30本から60本程度計測できる倍率(150倍以上500倍以下)に調節する。次に、1mm2当たりの繊維の断面数に換算し、これを繊維密度(本/mm2)とする。3カ所の測定結果を平均して、そのサンプルの繊維密度とする。なお、上記走査電子顕微鏡(SEM)としては、種々の装置を用いることができる。例えば、日本電子株式会社製のJCM-5100(商品名)などが挙げられる。
【0018】
また、不織布10において、凹部2の表面側10Sには、表面側10Sに開放された空間部22が配されている。この「凹部2の表面側10S」は、凹部2の底部22及び側壁部123、中間壁部122、並びに凹部2に隣接する凸部1の側壁部121で囲まれた領域を意味する。すなわち、凹部2の配置位置において、凹部2の表面側10Sにある、不織布10の厚み方向全体に亘る領域を、「凹部1の表面側10S」という。したがって、表面側10Sに開放された空間部22は、凹部2の底部22及び側壁部123、中間壁部122、並びに凹部2に隣接する凸部1の側壁部121で囲まれた領域が繊維で満たされていない空間を意味する。
【0019】
このように不織布10は、凸部1の内部13である裏面側10Rと凹部2の表面側10Sとの両面の領域に空間部分を抱え込みながら、凸部1、中間壁部122及び凹部2の繊維層が厚み方向に上下に蛇行した凹凸形状を備えている。
【0020】
凸部11の表面側10Sの外形は、頂部1に加わる押圧力等の荷重を分散して吸収し、肌に触れた際に柔らかい風合いを感じさせることができる種々の形状とすることができる。例えば、全体として稜線が丸みを帯びた扁平な直方体又は截頭四角錐体が挙げられる。またこれに限らず、凸部1の底辺が平面内において、円状や楕円状、五角形状、六角形状、八角形状などでもよく、厚み方向には蛸壺の口を底辺としたようなドーム状や、半球状、截頭円錐状でありうる。特にドーム状であることが構造的に潰れにくいため好ましい。凸部1がドーム状である場合、頂部11は角の無い球面状であり、頂部11と側壁部121とは境界の無い曲面を形成している。
【0021】
凸部1の内部13は
図1に示すように中空になっている場合に限らず、内部13が繊維で満たされた中実になっていてもよい。「中空」であるか「中実」であるかの判断は、前述に定義した繊維密度(本/mm
2)によって行う。
【0022】
凹部2は、エンボス部3及び繊維同士の融着部を有する。エンボス部3は、凹部2の底部21に配されている。「エンボス部」とは、底部21にある繊維層がエンボス加工によって圧搾され、繊維が加圧融着又は圧着された部分を意味する。エンボス部3においては、繊維が周囲よりも高密度化されている。前記「繊維同士の融着部」とは、下記に示す「加圧融着」や「圧着」された部分とは異なり、繊維が潰れずに融着した部分を意味する。
【0023】
「加圧融着」とは、繊維同士の接合界面における少なくとも一方の繊維の樹脂が圧力と熱(分子間摩擦や圧縮による自己発熱や外部加熱による)によって溶融し、他方の繊維に接合することを意味する(この加圧融着の処理をエンボス熱融着ともいう)。加圧融着では少なくとも挟持によって圧力を外部より繊維に加える。圧力により繊維を構成する樹脂の融点が下がる樹脂もあるため、未荷重下における樹脂の融点よりも低い加熱温度(加工ロールなどの表面温度)であってもよい。
加圧融着されていることは、走査電子顕微鏡にて不織布の断面を観察することで他の部位と比べて繊維が潰れて変形しており、繊維を構成する樹脂の少なくとも1種以上の樹脂が溶融しており繊維形態を有していないことで確かめられる。繊維が潰れて変形している程度に関し、エンボス部と繊維との境界部分の断面(エンボス境界部ともいう)の少なくとも一部において、エンボスされていない箇所にくらべて繊維断面(繊維の長手方向に対して垂直方向の断面)の平均扁平率(長辺/短辺の比)が20%以上高くなっていることが好ましい。平均扁平率の増加量(%)は[(エンボス境界部の平均扁平率-エンボスされていない箇所の平均扁平率)/エンボスされていない箇所の平均扁平率]×100として求められる。繊維断面外周が円形や楕円形状でない場合は、繊維外周を断面積が同じとなるような楕円形状に近似して長辺と短辺を求める。
また、上記の繊維形態を有するとは繊維の長さと繊維の断面積から求めた直径(真円として計算)との比(前者/後者)が300倍以上となっているものとする。溶融箇所の少なくとも一部分において繊維の外周面が溶融によって他の繊維の外周面との境界が判別できない場合、溶融して繊維形態を有していないものとする。複合繊維など2種以上の樹脂を用いている場合は、他方の樹脂が溶融せずに繊維形態を保っていても、少なくとも1種以上の樹脂が溶融して繊維の外周面と他の繊維の外周面との境界が判別できない場合は、溶融して繊維形態を有していないとする。
【0024】
「圧着」とは、樹脂が熱や圧力によって溶融されずに繊維が他方の繊維に密着することを意味する(この圧着の処理をエンボス圧着ともいう)。圧着においても少なくとも挟持によって圧力を外部より加える。繊維が密着する力(密着力ともいう)は、シートが搬送できる程度以上の強度があればよい。
圧着していることは、走査電子顕微鏡にて不織布の断面を観察することで他の部位と比べて繊維が潰れて変形しており、繊維同士の接触点における繊維断面にて接触長さが圧着されていない箇所よりも増えていることで確かめられる。繊維が潰れて変形している程度については、加圧融着と同様である。溶融されていないことは、圧着箇所において繊維の外周面と他の繊維の外周面との境界が判別できることで確かめられる。また、繊維同士の接触点当たりの接触長さが平均して圧着されていない箇所よりも10%以上増加していることが好ましい。接触長さの増加量(%)は[(圧着されている箇所の繊維外周の接触長さ-圧着されていない箇所の接触長さ)/圧着されていない箇所の接触長さ]×100として求めることができる。繊維同士の接触点断面観察はサンプルを樹脂包埋(エポキシ樹脂やアクリル樹脂など構成繊維を膨潤や変形させにくい樹脂で固めた)後に、鋭利な刃によって断面を形成する。
エンボス部3において、一例として繊維は、不織布10の平面方向に沿う状態にあり、潰れて扁平になったり、フィルム化したりする傾向にある。また、エンボス部3は、他の部分よりも繊維密度が高い。このようなエンボス部3は厚みが圧縮された平板形状を有することが好ましい。
図1において、エンボス部3は、その存在を把握できるよう便宜上、黒塗りで示した(以下、他の図面においても同様。)。
【0025】
エンボス部3は、底部21の一部又は全部に配されている。底部21におけるエンボス部3の面積は、凸部1の形状維持性の観点から、底部21全体の面積の50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
また、エンボス部3は、凸部1を基準にして見たときに、凸部1を囲むように連続的に配されていてもよく、間欠的に配されていてもよい。後者の場合、例えば不織布10が吸収性物品の表面材等の構成部材として組み込まれたときに、凸部1から含浸した体液の透過がエンボス部3によって閉鎖され難く、エンボス部3近傍に体液が残り難いという利点がある。この場合において、1つの凸部1を囲むエンボス部3の数は、任意に設定することが可能であるが、4個から12個の範囲で間欠的に配することが好ましい。
【0026】
エンボス部3の周辺には、
図2に示すように、凸部1側に立ち上がる、繊維同士の融着長さが長い融着部4が存在する(
図2の1点鎖線の楕円で囲まれた部分参照)。「融着長さが長い融着部」とは、前述のエンボス部3を除き、繊維直径の10倍以上の長さで融着している部分を意味する。「融着長さが長い融着部」においては、繊維同士がその繊維長に沿って部分的に線状に融着(線融着ともいう)している。このような線融着している「融着長さが長い融着部」は、融着しているそれぞれの繊維の繊維径以上の太さを有する部分であり、繊維同士が融着部から枝分かれするまでの部分として区分できる。また、「エンボス部3」の周辺とは、不織布10の厚み方向において、エンボス部3を下に、凸部1を上にして見たときに、エンボス部3の表面から一定の高さまでの領域Rをいう。前記一定の高さとは、エンボス部3の表面から凸部1の頂部11までの高さに対して10%までの範囲をいう。エンボス部3の表面から凸部1の頂部11までの高さの10%の値が繊維直径の10倍の長さよりも短い場合は、繊維直径の20倍の長さを前記高さ範囲とする。
より具体的には、「融着長さが長い融着部」は、凹部2の側壁部123の繊維層における上記の一定の高さ範囲の領域Rに存在している。
融着長さが長い融着部4は、エンボス部3のように不織布10の平面方向に沿うのではなく、凸部1側に立ち上がっており、凹部2の底部21から立ち上がる側壁部123に接続する部分に含まれている。融着長さが長い融着部4の立ち上がり平均角度は厚み方向に対して60度以下であることが好ましい。上記に定義される融着長さが長い融着部4は、壁部12の下端部分である、凹部2の側壁部123の曲げ強度を高め、不織布10の凸部1が押しつぶされるなど種々の荷重が加わった際に適度な反発力を生む。
【0027】
前記融着部はウエブの繊維交点を融着できる種々の加熱流体によって形成することができる。加熱流体には、熱風(加熱空気や加熱ガス等)や水蒸気などが用いられ、繊維交点に融着部(繊維交点融着部又は熱流融着部ともいう)を形成する。融着部においては少なくとも1種以上の樹脂がいったん溶融して流動し固化することによって融着部を形成する。融着部における樹脂は同種であることが融着部の強度を高める点で好ましいが、少なくとも片方の樹脂が流動することで融着部を形成することができる。流動していることは、融着部の断面形状と融着していない部分の繊維断面形状を比較して、相似形でないことで確かめることができる。加熱流体によって繊維に加えられる圧力は前記エンボスに比べ小さいため、加熱流体を加える前後で繊維断面の平均扁平率の増加量は20%未満であることが好ましい。
【0028】
融着長さが長い融着部4は、後述する製造方法に示す各工程を順に経ることにより得られる部分である。
すなわち、不織布よりも繊維の移動の自由度が高い未融着ウエブを噛合い加工で凹凸賦形することにより、繊維を厚み方向に沿わせた、すなわち配向させた部分ができる(未融着ウエブを凹凸賦形したものを噛合い賦形ウエブという)。次いで、凹状に賦形された繊維層の底部をエンボス加工することにより底部の繊維が圧密化し、そこから厚み方向に沿って延びる繊維の密度を高められる(繊維間距離が短くなる)。すなわち、エンボス加工部分の境界外側近傍の繊維が厚み方向に配向し、かつ高密度化された状態に保持される。これにより、繊維長の長い範囲で融着しやすい状況を作り出す。この状況でエンボスされたウエブに加熱流体を付与して繊維交点における融着部を形成し、不織布化することにより、エンボス部3周辺には、前述のように定義される融着長さが長い融着部4が形成される。
このような各工程を順に経ることで、一般的なエアスルー不織布で形成される融着部では得られない、従来に無い、融着長さが長い融着部4をエンボス部3周辺に後述のように高い割合で得られる。
従来技術のように一般的なエアスルー不織布を凹凸噛合い賦形し、エンボス加工した場合、この順でエアスルー加工時に繊維交点融着部が形成されるため、上記のようにエンボス部3周辺に融着長さが長い融着部を高い割合で形成することが困難である。
さらに、別の従来技術のように未融着ウエブを凹凸賦形し、熱処理により融着点を形成し、不織布化した後にエンボス加工した場合では、エンボス部周辺で高密度化される前に繊維交点融着部が形成されているため、繊維同士の配置関係が固定化された状態でのエンボス加工となる。そのため、エンボス部周辺で融着長さを十分に長くすることが困難である。
これに対し、本実施形態の不織布10は、従来の加工工程では得られない、上記に定義した融着長さが長い融着部4を後述のように高い割合で備える。
【0029】
不織布10において、エンボス部3の周辺には、凸部1側に立ち上がる、融着長さが長い融着部4の割合が5%以上である。この割合は、エンボス部3の周辺、すなわち前述のエンボス部3の表面から一定の高さまでの領域Rにおいて、繊維同士の融着部の総数に占める「融着長さが長い融着部4」の数の割合をいう。
これにより、壁部12の下端部分が十分な曲げ強度を備え、凸部1は、荷重時に潰れてしまう(へたるともいう)ことが抑えられて、クッション性が高められる。その結果、不織布10は、不織布の柔らかい肌触りや柔軟性を頂部11に有しながら、荷重時に厚みが残りやすくなる。すなわち、不織布10は、厚み変形を伴う良好なクッション性を有しながら、押圧時に適度な厚みが残りやすく、柔らかい風合いを備えるものとなる。また、不織布10は、吸収性物品の表面材として用いられた場合、上記の効果に加えて体液の吸収速度が向上し、液残り低減効果が高められる。
【0030】
融着長さが長い融着部4の割合は、エンボス部3の周辺において、壁部12の下端部分の曲げ剛性を高める観点から、5%以上であって、10%以上が好ましい。
融着長さが長い融着部4の割合は、エンボス部3の周辺において、硬くなりすぎるのを防いで風合いを保持する観点から、70%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。
【0031】
(融着長さが長い融着部4の割合の測定方法)
(1)吸収性物品等から測定対象の不織布をハサミ等でカットしてサンプリングする。不織布が他の部材と接合している場合は、他の部材と接合したままサンプリングする。この不織布を非荷重状態にて凸部が上になるように置き、温度23±2℃、湿度65±5%RHにて48時間以上72時間以下保存する。
(2)上記のサンプリングしたものを20mm×10mm角の大きさに調製する。この時、一辺は観察対象とするエンボス部3の中心を含む線上で、鋭利なハサミなどでエンボス部3を中央として20mmの長さでカット(カット線1)する。エンボス同士の間隔が10mm以上の場合は、エンボスピッチの4倍(カット線1側)×2倍の長さでカットする。カット線1は対象とする凸部1をカットせずに、凸部1に隣接するエンボス部3をカットするようにする。下層の「融着長さが長い融着部4」を観察する際は、カット線1は対象とする凸部1をカットするようにする。
(3)カット線1における断面サンプルを金スパッタ蒸着(蒸着時間は観察に必要な最低時間とする)後、走査電子顕微鏡(SEM)により、凹凸の断面又は側面の観察を行う。凸部1の表面側(壁面12)を観察する。
(4)サンプルのうちカット線1に沿って並ぶ中央の凸部1を対象とし、エンボス部3の表面側10Sの境界3Aから厚み方向、すなわち凸部1の頂部11方向へエンボス部3の表面から凸部1の頂部11までの高さの10%までの範囲Rで、繊維径に応じて50倍以上300倍以下にて観察する(
図1参照)。対象範囲の幅(シートの平面方向の観察範囲)は観察倍率における全幅とする。
エンボス部3の表面から凸部1の頂部11までの高さの10%の値が繊維直径の10倍の長さよりも短い場合は、繊維直径の20倍の長さを前記高さ範囲とする。
(5)上記範囲において、繊維同士が繊維交点融着した融着部をマークする。融着長さが繊維直径の10倍以上の長さを有する融着部4の数を観察対象範囲内の融着部の数で割った値を100倍する。同様に異なる10カ所について測定し、この値を平均してエンボス部3周辺における融着長さが長い融着部の割合(%)とする。少なくとも5つ以上の断面サンプルの観察により測定する。
なお、上記測定には以下のことに注意する。
(i)融着部かどうかは繊維形状を未融着部と比較して、繊維交点において未融着部と異なった形状をして繊維樹脂が融着しているとみられるものを融着部とする。
(ii)融着部において2本の繊維の繊維径が異なる場合は、2本を平均した繊維直径を求め、これを基準に融着長さが10倍以上であるかどうかを判断する。
(iii)上記の繊維交点における融着部には、エンボス部の融着部分が観察範囲にある場合は、融着部の数にエンボス部の融着部分の数を含めないものとする。繊維交点の融着部とエンボス部の融着部分とは、前述の「加圧融着」又は「圧着」している部分であるか否かで判別する。
(iv)エンボス融着部がないサンプルについては凹部をエンボス融着部と仮定して測定する。
【0032】
不織布10において、クッション性及び繊維強度向上の観点から、凸部1を構成する繊維の繊維径の平均変動値が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましい。また、上限は変動のないことが好ましく、0%以上であることが好ましい。
ここで、「繊維径の平均変動値」とは、凸部1を構成する繊維の最大繊維径(MAX)から該繊維の最小繊維径(MIN)を減じ、これを該繊維の平均繊維径で割った値を100分率で表したものである(すなわち、「繊維径の平均変動値」=(「最大繊維径(MAX)」-「最小繊維径(MIN)」)/「平均繊維径」×100)。このように、繊維径の平均変動値が30%以下であることにより、延伸などによる部分的なネックイン箇所が減ることで繊維直径の小さな部分が少ないことから、クッション性がよく肌触りに優れた不織布が得られる。加えて、繊維の強度が高まり、凸部1が潰れてしまう(へたる)ことが生じ難く、不織布の厚みが残りやすくなる。
従来技術のように繊維同士の配置関係が固定化された不織布を凹凸賦形すると、繊維交点の融着部間の繊維が引き延ばされて、ダンベル状に一部繊維径の細い部分ができて平均変動値が高くなってしまう。これに対し、本実施形態の不織布10では、前述した特有の各工程を順に経ることで、ダンベル状の部分が少なく、上記の平均変動値を実現している。
【0033】
不織布10において、凸部1を構成する繊維の平均繊維径は、吸収性物品の表面材に使用する場合、体液の吸収後の表面材に残る液量を少なくする観点から、5μm以上が好ましく、8μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましい。
また、凸部1を構成する繊維の平均繊維径は、肌に接したときの風合を良くする観点から、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましい。
【0034】
(平均繊維径の測定方法)
平均繊維径は、以下の方法により測定することができる。すなわち、不織布10の凸部1側表面から走査電子顕微鏡(SEM)により観察する。観察範囲内でほぼ平均と思われる繊維径を代表繊維径として求める。観察倍率は繊維径によって異なり、観察倍率(倍)=6000/代表繊維径(μm)として、この値の±50%の範囲の倍率にて観察する。例えば代表繊維径が20μmの場合、150倍以上450倍以下にて観察する。上部側、すなわち電子線照射側の繊維にフォーカスを合わせて画像を撮影する。2層以上の繊維層からなる場合は表面側10Sの繊維層の繊維径を測定する。1画像について、繊維交点における融着部と繊維の端部を除いた部分において、ランダムに選んだ異なる繊維における繊維の太さ、すなわち繊維の長手方向に垂直な方向の幅を10ヶ所測定し、平均した値を繊維径とする。異なるサンプル5点について同様に測定した値を平均して、平均繊維径を求める。なお、繊維断面が円形でない場合は不織布の厚さ方向の断面観察により、SEM画面に対して垂直に向いている繊維を10ヶ所選び、それらの断面形状から断面積を求め、それを円形に仮定したときの直径から繊維径を求める。
【0035】
(繊維径の平均変動値の測定方法)
繊維径の平均変動値は、以下の方法により測定することができる。すなわち、平均繊維径の測定と同様にして、1画像あたりにつき、繊維交点における融着部と繊維の端部を除いた部分において、繊維の最も太い箇所の繊維の幅(繊維の長手方向に垂直な方向の幅)をD1、繊維の最も細い箇所の繊維の幅(繊維の長手方向に垂直な方向の幅)をD2として測定する。得られた値から「(D1-D2)/平均繊維径×100(%)」として繊維径の変動値を求める。異なるサンプル5点について同様に測定した値を平均して、繊維径の平均変動値を求める。繊維の最も太い箇所及び最も細い箇所は融着部の剥離跡も測定対象とする。なお、繊維断面が円形でない場合は、前記平均繊維径の測定と同様にして、10ヶ所について断面積を測定し、繊維を円形に仮定したときの直径から繊維の最大値D1と最小値D2を求める。
【0036】
不織布10において、エンボス部3の周辺の方が凸部1の頂部11よりも、前述の融着長さが長い融着部4の割合が高いことが好ましい。これにより、頂部11の柔軟性や柔らかい肌触りと壁部12の下端部の曲げ剛性とのコントラストがより明確になる。これにより、不織布10の前述の効果をより高めることができる。また同様の観点から、繊維交点に形成された融着部の密度が、エンボス部3の周辺の方が凸部1の頂部11よりも高いことがより好ましい。
なお、頂部11における融着部の測定は、不織布10の表面側10Sから、前記(融着長さが長い融着部4の割合の測定方法)と同様の方法により行うことができる。
【0037】
エンボス部3の周辺における融着長さが長い融着部4の割合(V1)と頂部11における融着長さが長い融着部4の割合(V2)との差(V1-V2)は、上記のコントラストをより明確にする観点から、2%ポイント以上が好ましく、5%ポイント以上がより好ましく、10%ポイント以上が更に好ましい。
【0038】
不織布10において、凸部1の突出方向と直交する方向から見た場合における、不織布10の凸部1の表面(凸部1の頂部11の表面)と凹部2の表面(凹部2の底部21の表面)との平均高さの差H1は、不織布10のクッション性をより高める観点、押圧時の変形量をより大きくする観点、柔らかい風合いをより良くする観点から、0.3mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましく、4mm以上が更に好ましい。
また、前記平均高さの差H1は、製品パッケージ内での圧力による不織布10の潰れにくさ(押圧時の厚みの残りやすさ)をより高める観点から、20mm以下が好ましく、12mm以下がより好ましく、8mm以下が更に好ましい。このような嵩高の凸部1は、一般的なエンボス加工(凸ロールとフラットロールとの熱圧力による)では形成することはできず、未融着ウエブに対する賦形工程を含む前述した特有の各工程を順に経ることで形成することが可能となり好ましい。
【0039】
前述のとおり、凸部1の表面とは凸部1の頂部11の表面であり、凹部2の表面とは凹部2の底部21の表面である。したがって、「凸部1の表面と凹部2の表面との平均高さの差H1」は、要するに、底部21の表面を基準とした場合における凸部1の平均高さである。
【0040】
(凸部1の表面と凹部2の表面との平均高さの差H1の測定方法)
凸部1の表面の高さ、凹部2の表面の高さ、及び凸部1の表面と凹部2の表面との平均高さの差H1は、以下の方法により測定することができる。すなわち、まず、自動圧縮試験機(カトーテック株式会社製のKES FB3-AUTO-A(商品名))の圧縮測定により、圧縮方向における0.5gf/cm2加圧時の、凸部1を含めた不織布10の厚みを求める。この厚みを複数(例えば5つ)のサンプルについてそれぞれ求め、それらの平均値を凸部1の表面の平均高さT0(mm)とする。この凸部1の表面の平均高さT0には、凸部1だけではなく、凹部2のエンボス部3の厚みや、さらに下層側に別の繊維層がある場合はその繊維層の厚みも含まれている。
次に、不織布10を鋭利なはさみ等でカットし、カット断面を走査電子顕微鏡(SEM)により観察することで、エンボス部の厚みに相当する凹部2の断面厚みを求める。断面厚みは繊維層の上面と下面のそれぞれについて繊維の存在する平均位置を直線で引き、2本の直線間の平均距離として求められる。なお、さらに下層側に別の繊維層がある場合はその繊維層の厚みも該「凹部2の断面厚み」に含める。この断面厚みについても同数(例えば5つ)のサンプルについてそれぞれ求め、それらの平均値を凹部2の表面の平均高さH2(mm)とする。そして、このようにして求められた「凸部1の表面の平均高さT0」から「凹部2の表面の平均高さH2」を差し引いた値を「凸部1の表面と凹部2の表面との平均高さの差H1」とする。
なお、「凸部1の表面の平均高さT0」は、後述の(圧縮特性の測定方法)における0.5gf/cm2荷重下での不織布厚みT0と同義である。
【0041】
不織布10の坪量は、凸部1の潰れにくさ、すなわち押圧時の厚みの残りやすさをより高める観点から、4g/m2以上が好ましく、8g/m2以上がより好ましく、12g/m2以上であることが更に好ましい。
また、不織布10の坪量は、クッション性と曲げ剛性をより高める観点から、100g/m2以下が好ましく、50g/m2以下がより好ましく、30g/m2以下が更に好ましい。
【0042】
不織布10は、
図1に示した1つの繊維層からなる単層構造を有するものに限らず、2層以上の繊維層からなる積層構造を有していてもよい。
2層以上からなる場合、前述の凸部1が配されている表面側10Sにある繊維層を上層と言い、上層よりも裏面側10Rにある繊維層を下層と言う。より具体的には、
図1に示す、凸部1、凹部2及び中間壁部122とからなる凹凸形状に立体的に賦形された繊維層、すなわち、後述の製造方法において凹凸賦形加工を施されて得られた繊維層を上層と言う。この凹凸賦形加工を施されて得られた繊維層よりも裏面側10Rにある繊維層を下層と言う。上層及び下層はそれぞれ単層であってもよく、複数層であってもよい。
不織布10の厚み方向において、積層構造における繊維層の積層数に拘らず、最も表面側10Sにある繊維層を最上層といい、最も裏面側10Rにある繊維層を最下層という。したがって、不織布10が、凹凸賦形加工を施されて得られた繊維層とその裏面側10Rにある繊維層の2層からなるとき、凸賦形加工を施されて得られた繊維層は上層であって、最上層となり、裏面側10Rにある繊維層は下層であって、最下層となる。また、
図1に示すような凹凸賦形加工を施されて得られた繊維層だけからなる場合であって、該繊維層が複数層からなる場合(前述に定義する下層が無い場合)、凹凸賦形加工を施されて得られた複数の繊維層のうち、最も表面側10Sにある繊維層を最上層といい、最も裏面側10Rにある繊維層を最下層という。
なお、本明細書において、「繊維層」とは、一枚の不織布がその中に有する層構造を指す。例えば、不織布10が複数の繊維ウエブを積層して作られたものである場合、すなわち積層構造を有する場合は、各繊維ウエブに由来する層のそれぞれを繊維層と呼ぶ。また、不織布10が繊維ウエブと別の原料不織布とを積層して作られたものである場合、繊維ウエブ及び不織布それぞれに由来する層のそれぞれを繊維層と呼ぶ。また、前述に定義する上層と下層の境界は繊維径、繊維密度や繊維配向の差異、目付比などによって認識されうる。
【0043】
不織布10が、前述に定義する上層と下層とを備えた複数の繊維層からなる積層構造を有する場合、不織布表面を手で撫でた時に表面層が低荷重で圧縮変形されより柔らかな風合いとする観点から、凸部1の表面側最上層の繊維密度が下層の繊維密度よりも低いことが好ましく、最下層の繊維密度よりも低いことがより好ましい。また、上層の繊維密度を低くし、変形量を増加させて、適度な厚み感が得られるようにする観点から、凸部1の内部は中実構造であることが好ましい。後述の製造方法において、上層に噛合い賦形された噛合い賦形ウエブ301を用い、下層に噛合い賦形されていない未融着ウエブを用いて第2ロール120とポイント接合手段130との間でエンボス熱融着又はエンボス圧着を行う場合、上層と下層の繊維密度は、第1ロール110及び第2ロール120との噛合い量や該ロールの突起形状などによって調整可能である。具体的には噛合い量が多いほど上層の繊維密度は低くなり、噛合い量が小さいほど上層の繊維密度を高くすることができる。噛合い賦形ウエブは前記噛合い賦形により上層の繊維層が嵩高になった状態でポイント接合手段130により凸部1が固定されて形成するため、加熱流体の圧力によって凸部1が潰れにくい。そのため、凸部1及びその内部13の繊維密度が上層のみならず、噛合い賦形されていない下層とともに低い状態を保ったまま、繊維交点融着部を形成することができる。
不織布表面を手で撫でた時に表面層が低荷重で圧縮変形されより柔らかな風合いとする観点から、最上層の繊維密度と最下層の繊維密度の比(最上層の繊維密度/最下層の繊維密度)は0.50以上1.35以下が好ましく、0.50以上0.90以下がより好ましく、0.70以上0.90以下が更に好ましい。また、同様の観点から、最上層の繊維密度は10本/mm2以上30本/mm2以下が好ましく、17本/mm2以上28本/mm2以下がより好ましく、最下層の繊維密度は11本/mm2以上35本/mm2以下好ましく、20本/mm2以上33本/mm2以下がより好ましい。また、一般的に繊維径が細くなると繊維密度が高くなる傾向にあるが、滑らかでソフトなクッション性を得る観点から、最上層の平均繊維径が最下層の平均繊維径よりも細く、かつ、前記噛合い賦形により最上層の繊維密度が最下層の繊維密度よりも低いことが好ましい。
繊維密度及び平均繊維径はそれぞれ5%以上の差を有意差とする。また、繊維密度及び平均繊維径の測定箇所は、凸部1頂部から厚み方向に、上層については上層の厚みの中心点の周辺を、同様に下層については下層の厚みの中心点の周辺を測定する。
【0044】
不織布10は、単層構造、積層構造のいずれを有する場合であっても、
図1に示すように凸部1の内部13が中空であってもよく、繊維で満たされた中実であってもよい。不織布10が単層構造を有する場合、中空の凸部1は、裏面側10Rに向けて解放された解放中空構造を有する。不織布10が積層構造を有し、凸部1の内部13が中空である場合、中空の凸部1は、裏面側10Rが繊維層で覆われた閉鎖中空構造を有することとなる。「閉鎖」というとき、凸部1の周辺の底辺が上層と下層とで完全に密閉されている場合と、若干の隙間を有する場合とがある。
【0045】
不織布10が積層構造を有する場合の具体例を以下に説明する。この具体例では二層構造として示すが、これに限定されず三層以上であってもよい。また、積層構造は下記の具体例に限定されるものでなく、前述した融着長さが長い融着部4の構成を具備し、それによる特有の作用を奏する限り種々の形態をとり得る。
【0046】
図3に示す不織布10(10A)は、上層(表面繊維層)7と下層(裏面繊維層)8との積層構造を有する。上層7からなる凸部1の内部13は、下層8が入り込んだ中実構造を有する。この場合、凹部2の底部21では、上層7と下層8とが積層されている。凸部1が中実であることで潰れ難いという利点がある。
この場合のエンボス部3は、凹部2の底部21における上層7のみに配されており、これに対応する位置にある下層8Aには配されていない。融着長さが長い融着部4は、上層7のエンボス部3の周辺において、凸部1側に立ち上がっており、その割合が5%以上とされている。
【0047】
図4に示す不織布10(10B)は、不織布10Aと同様に積層構造かつ中実構造を有し、かつ、エンボス部3が凹部2の底部21における上層7及びこれに対応する位置にある下層8の両方に配されている。この形態において、上層のエンボス部をエンボス部3A、下層のエンボス部をエンボス部3Bと区別して示す。融着長さが長い融着部4は、上層7のエンボス部3Aの周辺において、凸部1側に立ち上がっており、その割合が5%以上とされている。下層8のエンボス部3Bは、上層7のエンボス部3Aと位置が一致しており、エンボス部周辺の繊維密度が、
図3のものよりも高くできるため、毛管力による液の引き込み性が高まる。さらに、凸部1が中実であることで潰れ難いということに加え、壁部12の下端部分の曲げ強度がより高められ、凸部1のクッション性がより高められるという利点がある。また、上層7の繊維が熱伸張性繊維を含む場合には、伸長により凹凸厚みが増し、風合い及び体液の液戻り防止性に優れるという利点がある。
【0048】
図5に示す不織布10(10C)は、上層7と下層8との積層構造を有する。上層7からなる凸部1の内部は、中空で、かつ、上層7の裏面側10Rに下層8が積層された閉鎖中空構造を有する。上層7の凹部2の底部21に配されたエンボス部3Aと下層のエンボス部3Bとが厚み方向に重なる位置に配されている。融着長さが長い融着部4は、上記の不織布10Bと同様に上層7のエンボス部3Aの周辺において、凸部1側に立ち上がっており、その割合が5%以上とされている。この場合も、下層8のエンボス部3Bが上層7のエンボス部3Aと位置が一致することによる前述した利点がある。また、上層7の繊維が熱伸張性繊維を含む場合には、伸長により凹凸厚みが増し、風合い及び体液の液戻り防止性に優れるという利点がある。
【0049】
図6に示す不織布10(10D)は、不織布10Cと同様に、上層7の凸部1の内部が中空で、かつ、上層7の裏面側10Rに下層8が積層された、積層構造かつ閉鎖中空構造を有する。不織布10Dにおいてもエンボス部3に関し不織布10Cと同様の構成を有し、不織布10Cと同様の利点を有する。
加えて、不織布10Dにおいては、上層7からなる凸部1に対応する位置の下層8が凸部1側に入り込んでいる。すなわち下層8の裏面側10Rが表面側10Sに窪んでいる。下層8のエンボス部3Bの周辺においても、融着長さが長い融着部が前述の割合で凸部1側に立ち上がっており、これにより、凸部1の柔らかさとともに潰れ難さがより高まり、不織布10Aのクッション性、柔らかい風合いが更に向上する。
【0050】
本実施形態の不織布10が2層以上の繊維層からなる積層構造を有する場合、下層8よりも上層7の方がエンボス部3周辺において、融着長さが長い融着部4の割合が高いことが好ましい。これにより、不織布10全体の柔らかさを保持しながら、表面側10Sにある凸部1の壁部12の曲げ剛性をより効果的に高めることができる。
この構造は、製造工程において、上層7及び下層8のいずれも未融着ウエブを加工原料として用い、上層7のみを賦形し、下層8は賦形なしとすることで形成されやすい。下層8は、賦形しないことで融着長さが長い融着部4の割合は上層7よりも低下する。この場合、凸部1は中実構造となりやすい。これにより、不織布10は高荷重時(50gf/cm2)の厚みが増し、肌触りに優れる。
【0051】
本実施形態の不織布10が2層以上の繊維層からなる積層構造を有する場合、上層7からなる凸部1に対応する位置の下層8が凸部1とは反対側に、すなわち裏面側10Rに凸状になっていることが好ましい(図示せず)。このとき上層7の凸部1と下層8の裏面側凸部の位置が厚み方向に対して一致していることが好ましい。これにより、不織布10全体の厚みが増し、前述の融着長さが長い融着部4による作用を更に高めて、不織布10はより潰れにくくなる。また、不織布10が吸収性物品の構成部材として組み込まれたときに、体液が下層8の凸状の部分から移行しやすくなり、液透過性を高める。
この構造は、製造工程において、上層7及び下層8のいずれも未融着ウエブを加工原料として用い、上層7の凹部2の底部21に対応する部分に限定して下層8をポイント接合(エンボス熱融着又はエンボス圧着)することで形成される。例えば、下層8側に接するロールも凹凸形状を有するものを用い、ロールの凸部同士で挟圧することで前記構造を形成できる。
【0052】
本実施形態の不織布10が2層以上の繊維層からなる積層構造を有する場合、上層7の方が下層8よりも繊維の交点融着部密度が低いことが好ましい。これにより、表面側10Sの上層7が嵩高で柔らかな風合いとなり、裏面側10Rにより不織布10全体の強度がより高められる。
この構造は、製造工程において、エンボス加工時に、上層7の凹部2の底部21に対しエンボスロールの突起部を当て、下層8に対しフラットロール(受けロール)を当てて処理することでフラットロールの熱が下層8に伝わり、より多くの繊維交点融着部が形成され得る。また、上層7に用いる繊維の太さを下層8の繊維よりも太いものを用いることで得ることができる。
【0053】
本実施形態の不織布10は、表面側10Sから見た平面視において、エンボス部3の面積が凸部1の面積よりも小さいことが好ましい。これにより、凸部1の周りにおいてエンボス部3内の平面方向に配向している繊維が少なくなり、エンボス部3周辺において凸部1側に立ち上がる繊維が多くなり、融着長さが長い融着部4の割合がより高くなる。そして、凸部1が潰れてしまう(へたる)ことがより生じ難くなり、不織布の厚みが残りやすくなる。
【0054】
次に、本実施形態の不織布10について、表面側10Sから見た平面視における凸部1と凹部2及びエンボス部3の配置パターンについて説明する。
不織布10は前述の通り複数の凸部1と該凸部1間に位置する凹部2とを有する。凸部1と凹部2とは、少なくとも不織布10の平面方向における一方向に交互に配列されている。凸部1と凹部2とが交互に配列する方向は、前記一方向のみであってもよく、該一方向に加えて該一方向と交差する他の方向にあってもよい(以下、一方向をX方向、他の方向をY方向として示す)。
X方向とY方向との交差角度は、不織布10の平面において直角であってもよく、それ以外の角度であってもよい。交差角度が直角である場合、前記2つの方向は、不織布の製造工程における機械流れ方向(Machine Direction;MD)、これに直交する幅方向(Cross Direction;CD)であることが好ましい。
【0055】
以下、凸部1と凹部2との配列パターンの具体例について、Y方向を機械流れ方向、X方向を幅方向として説明する。ただし、配列の方向はこれに限定されるものではなく、種々の方向とすることができる。
下記配列パターンは、この配列パターンにおける凸部1と凹部2及びエンボス部3とを反転させたパターンよりも、エンボス部3の周辺において凸部1側に立ち上がる、融着長さが長い融着部4の数が多くなり、潰れ難さ、すなわち、へたり難さの観点から好ましい。
【0056】
図7(A)に示す配列パターン(具体例1)では、X方向の凸部1、1間に凹部2が配置され、凸部1と凹部2とがX方向に交互に配列されている。凹部2の中にエンボス部3が形成される。凹部2にはエンボス部3を有さない箇所があってもよい。
凸部1は、Y方向に等間隔で複数配列されている。Y方向における凸部1と凸部1との間には、該凸部1よりも高さが低い中間高さ凸部1Aが配されている。凸部1と中間高さ凸部1AとがY方向に交互に配列され、尾根状に連なり、高低差のある山脈状の凸部列17がY方向に沿って形成されている。凸部1と中間高さ凸部1AとからなるY方向の凸部列17は、X方向に等間隔で複数配置されている。
一方、2つの凸部列17、17の間には、凹部2が、凸部列17と平行にY方向に筋状に延出して配されている(このY方向に筋状に延出する凹部2を縦溝27ともいう)。筋状の凹部2の底部21には、エンボス部3がY方向に等間隔で複数配列されている。エンボス部3は、凸部1とX方向に重なる位置に配置されている。これにより、凸部1とエンボス部3とがX方向に交互に配列されている。
エンボス部3は凸部1の周りの一部に配され、エンボス部3の面積が凸部1の面積よりも小さくされている。これにより、前述した、凸部1側に立ち上がる、融着長さが長い融着部4の数を多くすることができる。加えて、筋状の凹部2(縦溝27)の部分が流体の流通路となる。例えば、不織布10を吸収性物品の表面材としたときに、肌と不織布の間に直線状の隙間ができ、該隙間を空気等の通り道とすることができる。これにより、肌表面の湿度を下げることができる。
【0057】
図7(B)に示す配列パターン(具体例2)では、具体例1の配列パターンにおいて、エンボス部3を凸部1とX方向に重なる位置ではなく、Y方向にずれた位置に配置されている。すなわち、凹部2にあるエンボス部のY方向の位置が、凹部2に隣接する凸部列17においてY方向で隣り合う中間高さ凸部1A、1A同士の間にある。これにより、エンボス部3は、隣接する凸部列17における中間高さ凸部1AとX方向に重なる位置に配置されている。
このような配列パターンであることにより、凸部列17における凸部1と凸部1の間に
図7(A)に示す配列パターンよりも高さが低い中間高さ1Aが形成され、凸部1がより独立した凸部1を形成しやすくなる。これにより、Y方向とX方向の両方に空気等の通り道を形成することができる。
【0058】
図7(C)に示す配列パターン(具体例3)では、具体例1の配列パターンをX方向とY方向とを反転させたパターンである。この場合、凹部2はX方向に筋状に延出しており、横溝28ともいう。
【0059】
図8(A)に示す配列パターン(具体例4)では、具体例1の配列パターンにおいて、中間高さ凸部1Aの代わりに凹部2が配され、その底部21にエンボス部3が配されている。これにより、X方向だけでなく、Y方向においても凸部1と凹部2(及びエンボス部3)とが交互に配列されている。凹部2は、具体例1のY方向に筋状に延出する縦溝27だけでなく、X方向に筋状に延出する横溝28を形成している。
このような配列パターンであることにより、
図7(B)に示す配列パターンよりもさらに凸部1が独立したものになり、Y方向とX方向の両方に空気等の通り道を形成することができる。
【0060】
図8(B)に示す配列パターン(具体例5)では、具体例1の配列パターンにおいて、凹部2の底部21のY方向全長に亘って筋状のエンボス部3Aが配されている。すなわち、エンボス部3がY方向に筋状に延出して配置されている。
このような配列パターンであることにより、深い連続溝をなす縦溝27を備えた畝溝構造を形成することができる。
【0061】
図8(C)に示す配列パターン(具体例6)では、具体例1の配列パターンにおいて、Y方向に筋状に延出する凹部2がその底部21に開孔部29を有する。開孔部29は、Y方向で隣り合うエンボス部3、3間に配置されている。
このような配列パターンであることにより、縦溝27から高粘度の液が透過される際に開孔部29を通じて素早く透過され、いったん透過された液は凸部1による厚みによって凸部1の表面に戻りにくくすることができる。
【0062】
図9(A)に示す配列パターン(具体例7)では、凸部1と凹部2とがY方向、X方向それぞれにおいて交互に配列されている。すなわち、Y方向の凸部1、1間に凹部2が配置され、X方向の凸部1、1間に凹部2が配置されている。
これにより、Y方向に延在する凸部1と凹部2とによる凹凸列18がX方向に複数列設けられている。これらX方向に隣り合う凹凸列18間においては、一方の凹凸列18における凸部1のY方向の位置が、他方の凹凸列18におけるY方向の凸部1、1間に位置されるよう配列されている。これにより、複数の凸部1が平面視において千鳥格子状に配置されている。同様に、複数の凹部2が平面視において千鳥格子状に配置されている。このとき、一方の凹凸列18における凸部1の一部と他方の凹凸列18における凸部1の一部とが、X方向において互いに重なるように配列されていてもよい。
このような配列パターンであることにより、凹部2の周囲、および凸部1の周囲の両方に壁部12が形成されることで、融着長さが長い融着部4の数が増すとともに、エンボス部周辺の厚み方向に配向する繊維の数も増し、クッション性の良いものとなる。
【0063】
図9(B)に示す配列パターン(具体例8)では、具体例7の配列パターンにおいて、凸部1の大きさ(面積)を大小の2種類にして配置している。具体的には、一方の凹凸列18においては小凸部1BをY方向に配列し、これに隣接する他の凹凸列18においては大凸部1CをY方向に配列している。小凸部1Bを配列した凹凸列18におけるエンボス部3BのY方向の長さが、大凸部1Cを配列した凹凸列18におけるエンボス部3CのY方向の長さよりも長くされている。
このような配列パターンであることにより、大小の凸部1を形成することで、低荷重下では大凸部が肌と接して肌と不織布の接触面積を減らすことができ、高荷重下においては小凸部も肌と接するため、より潰れにくくすることができる。
【0064】
図9(C)に示す配列パターン(具体例9)では、具体例7の配列パターンにおいて、凸部1をY方向に細長くした形状とし、具体例7のものよりも面積を小さくしたエンボス部3Dを複数、凸部1の周りに、より多く配置している。
このような配列パターンであることにより、凸部1は長辺と短辺とを備え、単に凸部の面積を大きくしたものに比べ、長辺によって大きな凸部1を形成しつつ短辺により潰れにくくすることができる。
【0065】
図9(D)に示す配列パターン(具体例10)では、具体例7の配列パターンにおいて、具体例1に示した、凸部1と中間高さ凸部1AとがY方向に交互に配列された高低差のある山脈状の凸部列17を、X方向に隣り合う凹凸列18の間に配置させている。これにより、4つの凸部1を頂点とする菱形領域の中央に中間高さ凸部1Aが配され、全体として大きな隆起部をなしている。
このような配列パターンであることにより、山脈状の凸部1と中間高さ凸部1Aとからなる隆起部がX方向とY方向に連なって形成され、隆起部が荷重を受けた際、隆起部同士が支え合うため倒れにくくなり潰れにくい構造となる。
【0066】
図10(A)に示す配列パターン(具体例11)では、具体例1の配列パターンの凸部列17において、凸部1のY方向の長さを変えた長凸部1Dと短凸部1EとをY方向に交互に配列させている。凸部列17が縦畝をなし、凹部2がなす縦溝27と並走している。このとき、並走する2つの凸部列17、17同士において、一方の凸部列17における長凸部1DのY方向の位置が、他方の凸部列17における短凸部1Eの位置にX方向で重なるよう配列されている。
このような配列パターンであることにより、大凸部1Dと小凸部1Eが交互に連なる山脈状の凸部列17を形成し、隣り合う凸部列17がY方向に半ピッチずれた形となって、縦溝27が表面側から見て波線状となることで、風合いがよく布調の模様を呈することができる。
【0067】
図10(B)に示す配列パターン(具体例12)では、具体例1の配列パターンにおいて、凸部列17をX方向の幅を狭めた凸部1F(細長凸部1F)のみで形成している。細長凸部1Fが縦畝をなし、凹部2がなす縦溝27と並走している。加えて、エンボス部3を具体例1よりも面積を大きくしつつ、Y方向に隣り合うエンボス部3、3の間を、中間高さ凸部1Aとしている。これにより、不織布10の表面側10Sの平面全体として、エンボス部3の面積よりも凸部1の面積と中間高さ凸部1Aの面積を足した面積を大きくしている。
このような配列パターンであることにより、縦溝27の幅が太いものが形成でき、空気の通り道となる。
【0068】
図11(A)に示す配列パターン(具体例13)では、具体例1の配列パターンにおいて、凸部列17を、Y方向に延出する凸部1G(長凸部1G)のみで形成している。加えて、X方向に隣り合う凸部列17同士を、X方向に延出する中間高さ凸部1Aで繋いでいる。凸部1Gと中間高さ凸部1Aとによって囲まれた部分が凹部2とされており、該凹部2の底部21にエンボス部3が配されている。この状態で、エンボス部3を有する凹部2と中間高さ凸部1AとがY方向に交互に配列された凹凸列19を形成している。この凹凸列19が凸部列17を間に挟んでX方向に複数配されている。中間高さ凸部1Aの高さは、そのX方向の全長に亘って同じであってもよく、異なるようにしていてもよい。高さが異なる場合、中間高さ凸部1Aの厚み断面の形状は、種々とり得る。例えば、中間高さ凸部1Aは、そのX方向の全長の内の中央が裏面側10Bに窪むように湾曲した形状であってもよい。また、湾曲しているとき、中間高さ凸部1AのX方向の両端部が凸部列17(長凸部1G)の高さに一致するようにしていてもよい。
これにより、不織布10の表面側10Sの平面全体として、長凸部1Gからなる凸部列17が縦畝をなし、中間高さ凸部1Aが横畝をなして格子状の凸形状を形成している。縦畝及び横畝に囲まれた凹部2の底部21に、エンボス部3が升目状に配されている。このような配置において、凸部1の頂部11から下る側壁部121、中間壁部122及び凹部2の側壁部123からなる壁部12は、エンボス部3から垂直に立設されていることが好ましい。壁部12の立設方向に沿って繊維が垂直方向に配向していることが好ましい。前記「垂直」は実質的に垂直であることを意味し、例えば、エンボス部3の表面に対して88°以上92°以下の範囲の角度にあることを意味する。
この不織布の凹凸形状は、例えば、特開2019-44321号公報の
図3に示す形状、特開2019-44320号公報の
図1及び7に示す形状などが挙げられる。
このような配列パターンであることにより、中間高さ凸部1Aが形成する横畝によって凸部列17が形成する縦畝が荷重下において倒れるのを防止できる。また、エンボス部3の周辺に繊維密度の高い部分を形成しているため液の毛管力による引き込み性の高いものが得られる。
【0069】
図11(B)に示す配列パターン(具体例14)では、具体例13の配置パターンにおいて、凹凸列19の配置パターンを変えている。具体的には、並走する2つの凹凸列19、19同士において、一方の凹凸列19における中間高さ凸部1Aの位置が、他方の凹凸列19におけるY方向で隣り合う中間高さ凸部1A同士の間に位置されるように配置されている。これにより、一方の凹凸列19における中間高さ凸部1Aの位置が、他方の凹凸列19におけるエンボス部3の位置にX方向で重なるように配置されている。この配置パターンにおいても、
図11(A)について好ましい態様として示した壁部12の構造を有することが好ましい。
このような配列パターンであることにより、
図11(A)に示す配列パターンと同様に横畝によって縦畝が倒れるのを防止できる点、エンボス部3による液の引き込み性をあげられる点、そして、エンボス部3が千鳥配置をしていることか表面側から見て縦畝が波線状となり風合いが良く、布調の模様を呈することができる。
【0070】
図11(C)に示す配列パターン(具体例15)では、具体例1の配列パターンにおいて、中間高さ凸部1Aがなく、凸部1G(長凸部1G)からなる凸部列17と平行に凹部2がY方向に筋状に延出している。これにより、筋状の凸部1G(畝部)と凹部2(溝部)とがX方向に交互に配されて畝溝を形成している。凹部2の底部21に、エンボス部3がY方向に筋状に延出して配されている。この配置パターンにおいても、
図11(A)について好ましい態様として示した壁部12の構造を有することが好ましい。
このような配列パターンであることにより、畝溝構造を形成でき、空気の通り道ができるとともにY方向の強度の高い不織布が得られる。
【0071】
本実施形態の吸収性物品用不織布10は、上記具体例に限らず種々の配列パターンを取り得る。いずれの配列パターンにおいても、前述のとおり、複数のエンボス部3が一つの凸部1の周りに間欠的に配置されていることが好ましい。
また、凸部1の高さや、凸部1の平面視面積の大きさは、1種類のみでなく、2種以上異なるものとすることができる。2種以上の異なる高さの凸部1を形成した場合は、圧縮した際に高さの高い凸部1が先に荷重を受け、その後、高さの低い凸部1も荷重を受けて全体で潰れていくため、初期に柔らかく、圧縮量が増すにつれ徐々に硬くなるものにすることができ、柔らかさと潰れにくさを両立できる点で好ましい。このようにするにはエンボス部3のMD方向又はCD方向のピッチを大小交互に設けたり、エンボス部3の面積をMD方向又はCD方向に大小交互に設けたりすることで2種の異なる凸部1を得ることができる。3種以上の異なる凸部1を得るには、交互ではなく3種以上の異なるピッチやエンボス部3の面積を3種以上の異なる面積とすることで得ることができる。
凹部2の平面視面積や形状も1種類のみでなく、2種以上異なるものであることが同様の理由により好ましい。
凸部1の頂部11の厚み方向の断面形状は、平面や凸状の湾曲形状がよく、頂部11における平面方向の形状は、円形、楕円、三角形、四角形(長方形、正方形、ダイヤ形を含む)、五角形、六角形等の形状をとることができる。
凹部2の底部21の厚み方向の断面形状は、平面や凸状又は凹状の湾曲形状など種々の形状をとることができる。底部21の平面方向の輪郭形状は、凹部2同士が離散に配置されるパターン、すなわち複数の凹部2の底部21が互いに平面方向に独立しているパターンにおいては円形、楕円、三角形、四角形(長方形、正方形、ダイヤ形を含む)、五角形、六角形、X字状、Y字状、S字状、不連続な格子状等の種々の形状をとることができる。上記輪郭形状の内側は、全体をエンボス部3としてもよく、上記輪郭形状の内側にエンボス部3を別のパターンで設けることもできる。一方、凹部2が連続的なパターン、すなわち複数の凹部2の底部21が互いに平面方向に連続するパターンを形成する場合においては、凹部2は、連続格子状や凸部1の周りを取り囲むような形で連続したエンボス部3を有していてもよく、筋状のエンボス部3を間欠的に有していてもよい。
【0072】
このような本実施形態の吸収性物品用不織布10は、前述の構造を有することにより下記に示す優れた摩擦特性、粗さ特性及び圧縮特性を有する。
【0073】
[摩擦特性]
不織布10は、適度な摩擦を有することで感触が良いと感じさせることができる。この観点から、平均摩擦係数(MIU)は、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。これにより、フィルムのようなつるつるした感触ではなく、繊維の柔らかい感触を得ることができる。また、皮膚に貼り付くような感触がなく、皮膚を傷めないようにする観点から、平均摩擦係数(MIU)は、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましい。
【0074】
不織布10は、適度な滑らかさを有すると感触が良いと感じさせることができる。平均摩擦係数(MIU)が前記の適度な範囲にあり、表面摩擦係数の平均偏差値(MMD)が小さいと適度な滑らかさを感じる傾向にある。この観点から、表面摩擦係数の平均偏差値(MMD)は、0.001以上が好ましく、0.002以上がより好ましい。また、摩擦が小さいほど、表面に凹凸があっても引っ掛かり等がなく、摩擦係数の変動が小さく滑らかと感じさせることができる。この観点から、表面摩擦係数の平均偏差値(MMD)は、0.01以下が好ましく、0.006以下がより好ましい。
【0075】
(摩擦特性の測定方法)
平均摩擦係数(MIU)及び表面摩擦係数の平均偏差値(MMD)は、以下の方法により測定することができる。すなわち、自動表面試験機(カトーテック株式会社製のKES FB4-AUTO-A)を用いて、直径0.5mmのSTEELピアノ線を用いた測定子により、測定子面積1cm2、荷重50gf/cm2、速度1mm/sにて、30mm長を往復移動させたときの摩擦力を測定する。解析距離は両端の5mmのデータをカットして20mm長とする。表面摩擦係数をMIU、表面摩擦係数の平均偏差値をMMDとして求める。測定面は表面側が測定子側となるようにし、測定方向は前記X方向とY方向として、その測定値を平均する。初期のサンプル張力は10gf/cmとする。それぞれの測定値はシートを5点測定して、その平均値とする。
【0076】
[粗さ特性]
不織布10は、凸部1の頂部11に適度な表面粗さがあることによって手で触った時の凹凸感を感じて不織布における繊維の柔らかい感触を感じることができる。この観点から、表面粗さの平均偏差値(SMD)は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上が更に好ましい。また、表面粗さが小さいほど、肌に優しい接触を維持することができる。この観点から、表面粗さの平均偏差値(SMD)は、4μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1.5μm以下であることが更に好ましい。
【0077】
(粗さ特性の測定方法)
表面粗さの平均偏差値(SMD)は、以下の方法により測定することができる。すなわち、上述の自動表面試験機を用いて、直径0.5mmのSTEELピアノ線1本からなる幅5mmの測定子により、荷重10gf/cm2、速度1mm/sの条件下にて、30mm長を往復移動させたときの粗さを測定する。摩擦特性と同様に解析距離内について表面粗さの平均偏差値をSMDとして求める。測定面は表面側が測定子側となるようにし、測定方向は前記X方向とY方向として、その測定値を平均する。初期のサンプル張力は10gf/cmとする。それぞれの測定値はシートを5点測定して、その平均値とする。
【0078】
[圧縮特性]
不織布10は、凸部1における圧縮特性の線形性(LC)が大きいほど押圧時の厚みが残りやすく手等の肌で押した際の戻りの反発性、すなわちクッション性がよいと感じ得る。この観点から、凸部1における圧縮特性の線形性(LC)は、0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。また、初期はソフトな力で変形し、圧縮量が増すにつれ反発力が高くなるものが良いと感じる傾向にあることから、凸部1における圧縮特性の線形性(LC)は、0.8以下が好ましく、0.7以下がより好ましい。
【0079】
不織布10は、凸部1における圧縮エネルギー(WC)が高すぎず低すぎないことで、手で押した際の変形量に対する抵抗力が適度になりふんわりした風合いのものとなる。この観点から、凸部1における圧縮エネルギー(WC)は、3gfcm/cm2以上が好ましく、4.5gfcm/cm2以上がより好ましい。また、反発力を抑えて適度な風合いを維持する観点から、凸部1における圧縮エネルギー(WC)は、10gfcm/cm2以下が好ましく、8gfcm/cm2以下であることがより好ましい。
【0080】
さらに、不織布10は、凸部1における回復エネルギー(WC’)が大きいと、手等の肌で押した際の戻りの反発性、すなわちクッション性が適度になり風合いに優れるものとなる。この観点から、凸部1における回復エネルギー(WC’)は、1.7gfcm/cm2以上が好ましく、2gfcm/cm2以上がより好ましい。また、反発力を抑えて適度な風合いを維持する観点から、凸部1における回復エネルギー(WC’)は、10gfcm/cm2以下が好ましく、8gfcm/cm2以下であることがより好ましい。
【0081】
そして、これら圧縮エネルギー(WC)及び回復エネルギー(WC’)から、圧縮のレジリエンスRC(WC’/WC×100)が求められる。
不織布10は、下記の変形量が多い場合、このRC値が大きいほど、圧縮と回復の弾性応力においてヒステリシスが小さくクッション性が良いと感じ、適度な弾性を有する。すなわち、不織布10の圧縮時の塑性変形(へたり)が少ないと感じ得る。この観点から、RC値は、42%以上が好ましく、44%以上がより好ましい。また、RC値は、100%に近い方ほど弾性が良い。この観点から、RC値は、100%以下が好ましく、100%であることがより好ましい。
【0082】
また、不織布10は、押圧前の初期厚み(0.5gf/cm2荷重時)(T0)が大きいほど、押圧時の変形量を大きくすることが可能となり、より柔らかい感触を感じ得る。この観点から、押圧前の初期厚み(0.5gf/cm2荷重時)(T0)は、1mm以上が好ましく、4mm以上がより好ましい。また、凸部1における繊維本数が少なくなりすぎないようにする観点から、押圧前の初期厚み(0.5gf/cm2荷重時)(T0)は、12mm以下が好ましく、8mm以下がより好ましい。
【0083】
不織布10は、50gf/cm2押圧時の厚み(TM)が大きいほど、高荷重時でも潰れてしまうことが抑えられ、塑性変形(へたり)が少ないと感じ得る。この観点から、50gf/cm2押圧時の厚み(TM)は、0.5mm以上が好ましく、0.6mm以上がより好ましい。また、特に上限はないが坪量が100g/m2以下の場合、変形量が小さい方が繊維間の距離が広くなりすぎることを防ぎ、クッション性や強度を優れたものとする観点から、50gf/cm2押圧時の厚み(TM)は、2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。
【0084】
不織布10は、厚みの変形量(T0-TM)が大きいほど、より柔らかい感触を有するものとなる。この観点から、厚みの変形量(T0-TM)は、0.5mm以上が好ましく、2.5mm以上がより好ましく、3.3mm以上であることが更に好ましい。また、厚みの変形量(T0-TM)は、特に上限はないが坪量が100g/m2以下の場合、変形量が小さい方が繊維間の距離が広くなりすぎることを防ぎ、クッション性や強度に優れたものとする観点から、10mm以下が好ましく、7mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることが更に好ましい。荷重を加えたときの変形量は、その値が大きいほど、柔らかいと感じる。
【0085】
(圧縮特性の測定方法)
これらの圧縮特性は、以下の方法により測定することができる。すなわち、上述の自動圧縮試験機を用い、速度0.05mm/s、測定子面積2cm2にて、圧縮荷重0.5g/cm2以上50g/cm2以下の範囲において、測定子によりシートを圧縮し、最大荷重を加えた後にただちに回復方向に移動させたときの厚みとその時の荷重を測定する。荷重が0.5gf/cm2荷重下での不織布厚みをT0とし、50gf/cm2荷重下での不織布厚みをTMとする。圧縮特性の線形性をLC、圧縮エネルギーをWC、回復エネルギーをWC’、圧縮のレジリエンスをRC(WC’/WC×100)、変形量を「T0-TM」として求める。測定面は表面側が測定子側となるようにする。それぞれの測定値はシートを5点測定して、その平均値とする。
【0086】
[測定サンプルの準備]
上述した各測定にあたり、吸収性物品から不織布10(サンプル)を準備する場合、ホットメルト接着剤で接着されているものについてはコールドスプレー等を用いて、不織布10(サンプル)へのダメージが少ないようにして吸収性物品から不織布10(サンプル)を剥がして準備する。また、走査電子顕微鏡(SEM)で観察する際に、導電性の低いものは、必要に応じて最小限のAuスパッタ蒸着を行う。なお、各測定において特に指定のない場合は、無作為に選んだ箇所を測定する。
【0087】
次に、本実施形態の吸収性物品用不織布10の製造方法の好ましい実施形態について説明する。
【0088】
本実施形態の吸収性物品用不織布10の製造方法は、下記(I)~(III)に示す工程を有する(以下、それぞれ工程(I)、工程(II)、工程(III)ともいう。)。
(I)複数の突起及び窪みを有し、互いに噛合い可能な凹凸形状を有する一対以上のロールを用いて、繊維を用いた未融着ウエブに凹凸賦形加工を施して噛合い賦形ウエブを形成する賦形工程。
(II)前記賦形工程と同時又は該賦形工程後に、複数の前記突起の一部又は全部若しくは複数の前記窪みの一部又は全部の位置において、前記噛合い賦形ウエブの凹部の底部の繊維の一部又は全てを接合させるエンボス熱融着工程又はエンボス圧着工程。
(III)前記エンボス熱融着工程又は前記エンボス圧着工程によってエンボスされたウエブに、加熱流体により、繊維交点における融着部を形成する熱流融着工程。
上記の各工程を順に経ることにより、前述した本実施形態の吸収性物品用不織布を好適に得ることができる。
【0089】
工程(I)の賦形工程は、凹凸形状を有する一対以上のロールを互いに噛み合わせるようにして回転させることで行う。例えば、一方のロール(以下、第1ロールという)の周面にある突起が他方のロール(以下、第2ロールという)の窪みと噛合い、他方のロールの突起が一方のロールの窪みと噛み合うようにして互いのロールを対向配置する。噛合い状態にある第1ロールと第2ロールとを一定の速度で回転させながら、両ロール間に未融着ウエブを送り込むことにより該未融着ウエブを凹凸賦形する。この凹凸賦形により噛合い賦形ウエブを形成する。凹凸賦形された噛合い賦形ウエブは下流側へと搬送されていく。噛合い賦形ウエブにおいては、繊維の繊維交点における融着ができるだけ少ないこと、すなわち、融着があっても後工程に必要となるウエブ全体の繊維の自由度が制限されない程度の局所的なものであることが好ましく、前記未融着ウエブの繊維状態のままであることがより好ましい。
【0090】
未融着ウエブとは、不織布ではなく、前述のとおり、繊維同士が融着をしていない繊維ウエブであり、不織布になる前の綿状の繊維集合体である。また、ニードルパンチやスパンレースなどの機械交絡や水流交絡をしていない繊維集合体である。具体的には、工程(II)におけるエンボスによる加圧融着部もしくは圧着部が形成される前の状態のものをいう。
未融着ウエブにおいては、繊維同士の交点が未融着状態のため、繊維の配置が固定されておらず、繊維の動きの自由度が不織布に比べて格段に高い(ただし、工程(II)の後においてはエンボス部3以外の部分で繊維の動きの自由度が高い)。
このような未融着ウエブを、工程(II)及び工程(III)の融着処理の前に直接立体賦形する方式は、「ダイレクト賦形」と呼ばれる。
【0091】
このような未融着ウエブを工程(I)にて凹凸賦形するので、繊維が凹凸に沿って厚み方向に配向しやすい。すなわち、凹凸賦形された噛合い賦形ウエブの凸部の頂部と凹部の底部とを繋ぐ壁部、すなわち前述の凸部1の側壁部121、中間壁部122及び凹部2の側壁部123となる繊維層において、厚み方向の繊維配向性が、不織布を凹凸賦形した場合に比べて格段に高くなる。言い換えると、立ち上がった角度で揃えられた繊維が前記壁部において多くなる。
また、凹凸賦形をロールの噛合いによって行うため、従来のように凹凸型上で未融着ウエブを熱風処理により賦形する場合よりも高さのある凸部の形成が可能となる。さらに、未融着ウエブを凹凸賦形することにより、不織布に対する凹凸賦形に比べて賦形後の繊維の戻りが格段に小さく、より高い凸部の形成が可能となる。
【0092】
未融着ウエブを構成する繊維材料は、任意の一般繊維及び熱伸長繊維を用いることができる。繊維材料は、毛羽立ち及び強度の観点から連続繊維であることが好ましいが、これに限定されず、長繊維や短繊維であってもよい。
連続繊維は、製品部材の端面での繊維切断箇所や毛羽立ち部の一部の繊維の切断を除き、実質的に繊維が連続しているものであり、スパンボンド法に見られるものである。
長繊維は、有効長(80mm以上)の繊維長を有するものであり、メルトブローン法に見られるものである。
短繊維は、77mm長以下の繊維であり、エアスルー不織布やスパンレース不織布、エアレイド不織布に用いられる。
【0093】
未融着ウエブの供給方法としては、スパンボンド法(エンボス前のもの、連続繊維)、エレクトロスピニング法(連続繊維)、スパンメルト法(熱風伸長と冷風延伸を組み合わせた方法、長繊維)、メルトブローン法(長繊維)、カード法(短繊維)、エアレイド法(短繊維)が挙げられる。特にスパンボンド法、カード法によるものが嵩高な立体賦形不織布が得られるため好ましい。また、これらの供給方法を組み合わせることも可能である。
【0094】
繊維材料は、熱可塑性繊維を含むことが好ましい。例えば、ポリエチレン(以下、PEともいう)繊維、ポリプロピレン(以下、PPともいう)繊維等のポリオレフィン繊維;ポリエチレンテレフタレート(以下、PETともいう)、ポリアミド等の熱可塑性樹脂を単独で用いてなる繊維;芯鞘型、サイドバイサイド型等の構造の複合繊維等が挙げられる。このような複合繊維としては、例えば、鞘成分がPE樹脂又は低融点PP樹脂である芯鞘構造の繊維等が挙げられる。芯鞘構造の繊維の代表例としては、芯がPET樹脂を、鞘がPE樹脂を有するもの、芯がPP樹脂を、鞘がPE樹脂を有するもの、芯がPP樹脂を、鞘が低融点PP樹脂を有するもの等の芯鞘構造の繊維等が挙げられる。用いられる樹脂の融点は断りのない限り大気圧下(N2ガス雰囲気中)で測定された融点を意味する。
【0095】
繊維材料は、PE繊維、PP繊維等のポリオレフィン系繊維、PE複合繊維、又はPP複合繊維を含むことが好ましい。PE複合繊維は、PET樹脂とPE樹脂とを含む複合組成であり、PP複合繊維は、PET樹脂と低融点PP樹脂とを含むことが好ましい。より具体的には、芯がPET樹脂を、鞘がPE樹脂を有するもの、芯がPET樹脂を、鞘が低融点PP樹脂を有するものが挙げられる。これらの繊維は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いて、未融着ウエブを構成することができる。また、未融着ウエブには、コットン、パルプ等の天然繊維やレーヨン、キュプラ等の再生繊維等の熱可塑性繊維以外の繊維が含まれていてもよい。したがって、製造される本実施形態の吸収性物品用不織布10には、上記の繊維を含むことが好ましい。
【0096】
工程(I)において、互いに噛合い可能な凹凸形状を有するロールの対が一対ではなく複数対ある場合、前記賦形工程としては複数回の凹凸賦形処理を行うこととなる。その形態としては、上記の未融着ウエブを首尾よく凹凸形状にし得る種々の形態をとり得る。
例えば、噛合うロールが3つ(第1ロール、第2ロール及び第3ロール)ある場合、第1ロールと第2ロールが対をなし、第2ロールと第3ロールとが対をなしてそれぞれで噛み合う。このとき第2ロールは、第1ロールとの噛合い位置とは異なる周面位置で第3ロールと噛合いを行う。このようにしてリレー形式で噛合いを引き継ぎ、複数回の凹凸賦形処理を行う。噛み合うロールが4つ以上ある場合、同様にリレー形式の噛合いをしてもよい。または、ロールを共有することなく、2つ1組のロールを複数配置して、それぞれの組で独立の噛合いを行うようにしてもよい。さらに、第1ロールを主ロールとして、第1ロールの周面上に複数のロール(第2ロール、第3ロールなど)を配置し、複数ロールが第1ロールとそれぞれ噛合い可能に配置することもできる。これにより、押し込まれた繊維が戻りにくくなり、ロールから、凹凸賦形された噛合い賦形ウエブが遠心力によって剥離されるのを防ぐことができる。
いずれの形態においても、それぞれのロール間の噛み合いは、同一の未融着ウエブに対して行ってもよく、異なる未融着ウエブに対して行ってもよい。
それぞれに噛合うロール表面の凹凸パターンについては後述する。
【0097】
工程(II)のエンボス熱融着工程又はエンボス圧着工程は、凹凸賦形と同時又は凹凸賦形後に行われる。繊維に対してエンボス熱融着工程では加圧融着が行われ、エンボス圧着工程では圧着が行われる。本実施形態においては、エンボス熱融着よりもエンボス圧着の方が、噛合い賦形ウエブのロールからの剥離性の観点から好ましい。未融着ウエブに対して、噛合い凹凸賦形され、エンボスされたウエブをエンボスウエブと称する。なお、一般的には上記のエンボス熱融着を単にエンボスということが多いが、本明細書においては上記のエンボス熱融着とエンボス圧着とを総称して単に「エンボス」ということがある。
【0098】
工程(II)のエンボス熱融着工程又はエンボス圧着工程は、噛合い賦形ウエブの凹状部分(一方の面側から見た凹状部分。反対面側から見た凸状部分)の凹部底部のすべて、または一定領域の繊維に対して行われる。これにより面状の接着部を形成することができる。このとき、噛合い賦形ウエブの凸状部分(一方の面側から見た凸状部分。反対面側から見た凹状部分)にはエンボスは行わない。
これにより、前記底部の繊維を圧密化してエンボス部を形成し、該エンボス部から厚み方向に沿って延びる繊維(凹部2の底部21に接続する側壁部123の付け根付近となる繊維層の繊維)の密度が高まり、繊維間距離が短くなる。これにより、エンボス部周辺の、厚み方向に配向して向きを揃えた繊維同士が、繊維長に沿って接近した状態に保持される。繊維長の長い範囲で融着しやすい状況が作り出される。
【0099】
上記のエンボス部の形成は、少なくとも1枚の凹凸賦形された噛合い賦形ウエブに対して行われる。1枚の凹凸賦形された噛合い賦形ウエブの単層または複層に対して行われてもよく、1枚の凹凸賦形された噛合い賦形ウエブと凹凸賦形されていない未融着ウエブまたは不織布との積層体に対して行われてもよく、2枚以上の凹凸賦形された噛合い賦形ウエブの積層体に対して行われてもよい。
【0100】
工程(II)を凹凸賦形と同時に行うとは、前述の噛合い状態にある一対のロールにおいて凹凸賦形をしながらエンボスを行うことである。具体的には、噛み合うロール間の入り口側からロールの最下点、すなわち噛合いが最も深く入った地点までにおいて凹凸賦形が行われ、ロールの最下点及びその前後にてエンボスが行われる。すなわち、一対のロールの噛合いによって、同一ロール周面上において、凹凸賦形とエンボスとを行う。これにより、一対のロールの周面上において、凹凸賦形された噛合い賦形ウエブが形成されると同時に、該噛合い賦形ウエブが即時にエンボスウエブとなる。
例えば、
図12(A)に示すように、第1ロール110の突起111の位置にてエンボスが行われる。具体的には、第1ロール110の突起111の頂部と第2ロール120の窪み122の底部とが噛合い賦形ウエブ301を介して互いに押圧し合い、エンボスが行われ、エンボスウエブ302が形成される。この場合、第1ロール110の窪み112の底部と第2ロール120の突起121の頂部とは離間して押圧が無く、上記のようなエンボスは行われない。
または
図12(B)に示すように、第2ロール120の突起121の位置にてエンボスが行われる。具体的には、第2ロール120の突起121の頂部と第1ロール110の窪み112の底部とが噛合い賦形ウエブ301を介して互いに押圧して、エンボスが行われ、エンボスウエブ302が形成される。この場合、第2ロール120の窪み122の底部と第1ロール110の突起111の頂部とは離間して押圧がなく、上記のようなエンボスは行われない。
上記の一方のロールの突起と他方のロールの窪みとによるエンボスは、複数の突起及び窪みの一部において行ってもよく、全部において行ってもよい。
【0101】
図12(A)に示すエンボスを行った場合、エンボスウエブ302の、第1ロール110の突起111の頂部と第2ロール120の窪み122の底部とに挟まれてエンボスされた部分321が、製造される不織布10の凹部2の底部21となる。エンボスウエブ302の、第1ロール110の窪み112の底部と第2ロール120の突起121の頂部との間にある部分311が、製造される不織布10の凸部1の頂部11となる。上記のエンボスウエブ302の部分311がある面が不織布10の表面側10Sとなり、その反対面側が不織布10の裏面側10Rとなる。
図12(B)に示すエンボスを行った場合、エンボスウエブ302の、第2ロール120の突起121と第1ロール110の窪み112の底部とに挟まれてエンボスされた部分311が、製造される不織布10の凹部2の底部21となる。エンボスウエブ302の、第2ロール120の窪み122の底部と第1ロール110の突起111との間にある部分321が、製造される不織布10の凸部1の頂部11となる。上記のエンボスウエブ302の部分321がある面が不織布10の表面側10Sとなり、その反対面側が不織布10の裏面側10Rとなる。
【0102】
エンボスを凹凸賦形と同時に行う場合(
図12(A))、互いに噛合い可能な凹凸形状を有する一対のロールである第1ロール110と第2ロール120に関し、第1ロール110は、第2ロール120よりもロール表面温度が2℃以上20℃以下高いことが好ましい。これにより、第2ロール120に噛合い賦形ウエブ301及びエンボスウエブ302が貼り付き難くなり、エンボスウエブ302を第2ロールから引き剥がす際に、ウエブが伸ばされにくく、凹凸形状を保持しやすくなる。これにより、噛合い賦形ウエブ301における凹凸形状を良好なものとすることができる。
第1ロール110のロール表面温度は、加工原料である未融着ウエブ300の構成樹脂の種類にもよるが、例えば構成樹脂のうち、最も低い融点を有する樹脂の当該融点に対して例えば±20℃の温度とすることが好ましい。この加熱温度を採用することで、未融着ウエブ300が第1ロール110に接し始める点からロールの最下点(挟持点)に至るまでの間で、樹脂の溶融を防止しつつ、熱により未融着ウエブ300の繊維を柔らかくして繊維が切れずに伸びやすくすることが可能となる。
第2ロール120のロール表面温度は、加工原料である未融着ウエブ300の構成樹脂の種類にもよる。第2ロール120のロール表面温度は、例えば単芯の繊維からなる場合(ポリプロピレン樹脂を主体とした繊維やポリエチレンを主体とした繊維等)は、構成樹脂のうち、最も低い融点を有する樹脂の融点よりも低いロール表面温度、例えば10℃以上50℃以下低い温度で行うことが好ましく、例えば芯鞘繊維のような複合繊維からなる場合は、構成樹脂のうち、最も低い融点を有する樹脂の融点以下の低いロール表面温度、例えば0℃以上30℃以下低い温度とすることが好ましい。
【0103】
エンボスを凹凸賦形と同時に行う場合、第1ロール110(
図12(A))は、未融着ウエブ300、噛合い賦形ウエブ301及びエンボスウエブ302を吸引させるための吸引部を有することが好ましい。これにより、未融着ウエブ300、噛合い賦形ウエブ301及びエンボスウエブ302が熱気などによって浮かずに安定して第2ロール120上に保持され、また、第2ロール120にエンボスウエブ302が貼り付き難くなり、エンボスウエブ302を第2ロール120から引き剥がす際に、第1ロール110にエンボスウエブ302が保持されるため凹凸形状を保持しやすくなる。
具体的には、第1ロール110の周面に設けられた多数の突起と突起の間に貫通孔(吸引口)を設け、該貫通孔を介してロールの内部から吸引することでエンボスウエブ302を該ロール上に保持することが可能である。また、第1ロール110からエンボスウエブ302を剥離する際に第1ロール110の内部から排気するとウエブが過度に引き伸ばされずに剥離できるため凹凸形状を保持しやすくなる点で好ましい。
【0104】
工程(II)を凹凸賦形後に逐次行うとは、前述の噛合い状態にある一対のロールの少なくとも一方のロールから凹凸賦形後の噛合い賦形ウエブが離間した後に、エンボスを行うことである。
例えば、前述の第1ロール110及び第2ロール120において、エンボスを行わず凹凸賦形のみを行った後に、別工程としてエンボスを行う。具体的には、第1ロール110との噛合いから解放された第2ロール120の周面の突起121と窪み122の凹凸に噛合い賦形ウエブ301を沿わせた状態で、熱融着又は圧着する手段を対向させて行う。凹凸にされた噛合い賦形ウエブ301の第2ロール120の突起121の頂部に沿わされた部分の繊維または第2ロール120の窪み122の底部に沿わされた部分の繊維のいずれか一方に局所的にエンボス熱融着又はエンボス圧着を行う。これにより、エンボスウエブ302が形成される。
【0105】
上記のように局所的に繊維の融着又は圧着(エンボス)する手段として、ポイント接合手段130を用いることが好ましい。これにより、非エンボス部分に余分な熱が伝わりにくくなり、噛合い賦形ウエブ301の柔らかさを保持することができる。また、エンボスを2層以上の積層体に対し行う場合、平面方向に並ぶエンボス部分同士の間にある繊維層が反対面側にも凸状になりやすく、得られる不織布10の厚みが増す。例えば、製造された不織布10が
図4及び5に示すような上層7と下層8との積層構造を有するものである場合、上層7の凸部1の裏面側10Rに位置する下層8が裏面側10Rに、凸部1の位置に対して表裏反対側に凸状になって、厚みが増す。これにより、不織布10は、荷重時のエンボス部3周辺での潰れ難さを備えながら、厚み変形量、クッション性、柔らかい風合いが増す(例えば
図13(A)、
図13(C)の装置を用いて積層体をエンボスした場合)。
【0106】
ポイント接合手段130は、第2ロール120の突起又は窪みの配置に応じて、不織布10におけるエンボス部3の配置パターンに合わせた構成を種々採用できる。各種パターンについては後述するが、例えば、ポイント接合手段130の構成として、MD方向に沿うストライプ状に噛合い賦形ウエブ301と接し、該接した部分の繊維同士を融着する構成や、横縞状に噛合い賦形ウエブ301と接し、該接した部分の繊維同士を融着する構成が挙げられる。また、斜め格子状に噛合い賦形ウエブ301と接し、該接した部分の繊維同士を融着する構成や、ドット状に噛合い賦形ウエブ301と接し、該接した部分の繊維同士を融着する構成等の任意の構成が挙げられる。
MD方向に沿うストライプ状に噛合い賦形ウエブ301と接する構成では、噛合い賦形ウエブ301の縦方向(MD)の強度を高めることができる。横縞状に噛合い賦形ウエブ301と接する構成では、噛合い賦形ウエブ301の横方向(CD)の強度を高めることができる。斜め格子状に噛合い賦形ウエブ301と接する構成では、噛合い賦形ウエブ301の縦方向(MD)及び横方向(CD)の強度を高めることができる。また、ドット状に噛合い賦形ウエブ301と接する構成では、厚みの厚いものとなりクッション性に優れる。
【0107】
ポイント接合手段130としては、超音波によって加熱する超音波装置や、加熱されたヒートロール(カレンダーロール)装置、圧着装置を採用することができる。超音波装置としては、周面がフラット(円弧状や平面状)なもの(
図13(B)参照)や、周面に凸構造131Aを有するもの(
図13(A)、
図14(A)参照)等が挙げられる。ヒートロール装置としては、周面がフラットなもの(
図13(B)参照)や、周面に凸構造133Aを有するもの(
図13(C)、
図14(B)参照)等が挙げられる。このような装置を用いて、噛合い賦形ウエブ301の凹部の底部の繊維をポイントで加熱してエンボス熱融着することができる。
また、圧着装置としては、上記の超音波装置やヒートロール装置と同様のロール周面形状(凸構造131Aや凸構造133Aを有するロール周面形状、フラットなロール周面形状等)を有し、噛合い賦形ウエブ301の凹部の底部の繊維をポイントで加圧してエンボス圧着するものが挙げられる(図示せず)。
以下に、超音波装置及びヒートロール装置の具体例を示す。以下に示す具体例に関する事項は、圧着装置にも同様に適用される。
【0108】
図13(A)に示す超音波装置131は、第2ロール120の突起121と整合する位置に凸構造131Aを有する。該凸構造131Aと第2ロール120の突起121との挟持により、噛合い賦形ウエブ301の凹部の底部の繊維をエンボスするよう構成されている。
【0109】
図13(B)に示すフラットロール132は、その周面と第2ロール120の突起121との挟持により、噛合い賦形ウエブ301の凹部の底部の繊維をエンボスするよう構成されている。
【0110】
図13(C)に示す凸型ヒートロール133は、周面方向、すなわちMD方向に沿って延びるリング状の凸構造133Aが軸方向、すなわちCD方向に所定の間隔をおいて複数設けられている。この凸構造133Aは、第2ロール120の突起121と整合する位置に配されている。第2ロール120の突起121はMD方向に間欠的であると、MD方向に間欠的なエンボス部3を形成することができる。該凸構造133Aと第2ロール120の突起121との挟持により、噛合い賦形ウエブ301の凹部の底部の繊維をエンボスするよう構成されている。
【0111】
図14(A)に示す超音波装置131は、第2ロール120の窪み122と整合する位置に凸構造131Aを有する。該凸構造131Aと第2ロール120の窪み122との挟持により、噛合い賦形ウエブ301の凹部の底部の繊維をエンボスするよう構成されている。
【0112】
図14(B)に示す凸型ヒートロール133は、前述のリング状の凸構造133Aが第2ロール120の窪み122と整合する位置に配されている。該凸構造133Aと第2ロール120の窪み122との挟持により、噛合い賦形ウエブ301の凹部の底部の繊維をエンボスするように構成されている。
【0113】
特に図示はしないが、
図14(A)、
図14(B)では第2ロール120の窪み122に対して超音波装置131の凸構造131Aや凸型ヒートロール133の凸構造133Aが当接して噛合い賦形ウエブ301を挟持するようにしていたが、第2ロール120の突起121に超音波装置131や凸型ヒートロール133の凹構造が当接して噛合い賦形ウエブ301を挟持する構成とすることもできる。これにより、
図6に示される不織布を得ることができる。
【0114】
超音波装置131を用いた場合やフラットロール132を用いた場合、第2ロール120の突起121はMD方向に連続的に形成されていてもよく、間欠的になっていてもよい。
ヒートロール装置の場合、凸型ヒートロール133の凸構造133Aが、第2ロール120の突起121又は窪み122に対して、MD方向に連続的に形成されていてもよい。また、凸構造133Aと突起121又は窪み122とが、噛合い賦形ウエブ301をエンボス可能に間欠的になっていてもよいし、片方が連続的、片方が間欠的になっていてもよい。同様に、凸型ヒートロール133の凹構造が、第2ロール120の突起121に対して、MD方向に連続的に形成されていてもよい。また、凹構造と突起121とが、噛合賦形ウエブ301をエンボス可能に間欠的になっていてもよいし、片方が連続的、片方が間欠的になっていてもよい。
さらに、CD方向についても同様なことが言える。
特に凸型ヒートロール133の凸構造133Aが第2ロール120の突起121とで噛合賦形ウエブ301を挟持する場合は、片方のロールの凸部がMD方向に間欠的でCD方向に連続的であり、もう片方のロールの凸部がMD方向に連続的でCD方向に間欠的であると、両ロールの位置がMD方向とCD方向の両方にずれた際も安定的に間欠的なエンボス部3を形成できる点で好ましい。
【0115】
超音波装置又はヒートロール装置の凸構造が第2ロール120の突起121又は窪み122とで噛合賦形ウエブ301を挟持する場合、超音波装置又はヒートロール装置の凸構造(凸構造131A、133A)のMD方向の長さやCD方向の幅は、第2ロール120の突起121のMD方向の長さやCD方向の幅と一致していてもよく、突起121よりも大きくても小さくてもよい。超音波装置又はヒートロール装置の位置、特にCD方向の位置が多少ずれても安定的にエンボス部3を形成できる点から、前記凸構造のMD方向の長さまたはCD方向の幅は突起121のそれよりも大きいことが好ましい。第2ロール120の窪み122と挟持する場合についても位置がずれたときに安定的にエンボスができる点で前記凸構造のMD方向の長さまたはCD方向の幅は第2ロール120の窪み122のそれよりも小さいことが好ましい。
また、超音波装置又はヒートロール装置の凹構造が第2ロール120の突起121とで噛合賦形ウエブ301を挟持する場合、位置がずれたときに安定的にエンボスができる点で前記凹構造のMD方向の長さまたはCD方向の幅は第2ロール120の突起121のそれよりも大きいことが好ましい。
【0116】
以上のような、ポイント接合手段130としての超音波装置、ヒートロール装置又は圧着装置は、噛合い賦形ウエブ301の凹部を賦形するための突起121又は窪み122を有する第2ロール120と近接して配されている。超音波装置、ヒートロール装置又は圧着装置は、
図13(A)及び(C)、並びに
図14(A)及び(B)に示すように、第2ロール120の突起121又は窪み122と整合する位置に凸構造(凸構造131A、133A)を有している。これにより、該凸構造又は凹構造と該ロールの該突起121又は窪み122との挟持により、噛合い賦形ウエブ301の前記凹部の底部の繊維をエンボスする。これにより、エンボスウエブ302が形成される。
【0117】
第2ロール120の突起121の頂部に沿わされた噛合い賦形ウエブ301の部分311がエンボスされる場合(
図13(A)及び(C)参照)、エンボスウエブ302におけるその部分が、製造される不織布10の凹部2の底部21となる。エンボスウエブ302における、第2ロール120の窪み122の底部に沿わされた部分321が、製造される不織布10の凸部1の頂部11となる。上記のエンボスウエブ302の部分321がある面が不織布10の表面側10Sとなり、その反対面側が不織布10の裏面側10Rとなる。
第2ロール120の窪み122の底部に沿わされた噛合い賦形ウエブ301の部分321がエンボスされる場合(
図14(A)及び(B)参照)、エンボスウエブ302におけるその部分が、製造される不織布10の凹部2の底部21となる。エンボスウエブ302における、第2ロール120の突起121の頂部に沿わされた部分311が、製造される不織布10の凸部1の頂部11となる。上記のエンボスウエブ302の部分311がある面が不織布10の表面側10Sとなり、その反対面側が不織布10の裏面側10Rとなる。
【0118】
ポイント接合手段130の加熱温度は、ヒートロール装置においては、加工原料である未融着ウエブ300の構成樹脂の種類にもよるが、例えば単芯の繊維からなる場合(ポリプロピレン樹脂を主体とした繊維やポリエチレンを主体とした繊維等)は、構成樹脂のうち、最も低い融点を有する樹脂の融点よりも低いロール表面温度、例えば5℃以上30℃以下低い温度で比較的高い圧力下(線圧として30kg/cm以上80kg/cm以下)で行うことが好ましい。また、例えば芯鞘繊維のような複合繊維からなる場合は、構成樹脂のうち、最も低い融点を有する樹脂の融点に対してロール表面温度を、例えば±30℃の範囲内の温度で比較的低い圧力下(線圧として20kg/cm以上60kg/cm以下)で行うことが好ましい。超音波装置131においては、印加する電力と線圧によって同様に調整することができる。超音波装置131の表面温度は、第2ロール120のロール表面温度に対し、10℃以上70℃以下低いことが、風合いとエンボスウエブ302の強度を両立する点で好ましい。エンボスウエブ302の強度は剥離できる程度に比較的低い強度で良いため、ポイント接合手段130および第2ロール120からエンボスウエブ302を剥離しやすいように、低い線圧で挟持することが好ましい。
【0119】
図13(A)~(C)並びに
図14(A)及び(B)に示すように、エンボスを凹凸賦形後に逐次に行う場合、未融着ウエブ300を賦形する、互いに噛合い可能な凹凸形状を有する一対のロールである第1ロール110と第2ロール120に関し、第1ロール110は、第2ロール120よりもロール表面温度が20℃以上120℃以下低いことが好ましい。これにより、第1ロール110に、凹凸賦形された噛合い賦形ウエブ301が貼り付き難くなり、噛合い賦形ウエブ301を第1ロールから引き剥がす際に、ウエブが壊れにくく、凹凸形状を保持しやすくなる。
第1ロール110のロール表面温度は、加工原料である未融着ウエブ300の構成樹脂の種類にもよるが、例えば構成樹脂のうち、最も低い融点を有する樹脂の当該融点よりも低い温度、例えば非加熱、または10℃以上120℃以下低い温度とすることが好ましい。この加熱温度を採用することで、樹脂の溶融を防止しつつ、熱により噛合い賦形ウエブ301の繊維を柔らかくして繊維が切れずに伸びやすくすることが可能となる。さらに、加熱により繊維の弾性が低下するため、それぞれの凹部に押し込まれた繊維が第1ロール110から離れる際に噛合い賦形ウエブ301が賦形前の形状(フラット)に戻ろうとするのを防ぐことができ、凸部1の高さの高いものを得ることができる点で好ましい。
第2ロール120のロール表面温度は、加工原料である未融着ウエブ300の構成樹脂の種類にもよる。エンボスを凹凸賦形後に逐次に行う場合、例えば単芯の繊維からなる場合(ポリプロピレン樹脂を主体とした繊維やポリエチレンを主体とした繊維等)は、構成樹脂のうち、最も低い融点を有する樹脂の融点よりも低いロール表面温度、例えば5℃以上40℃以下低い温度で行うことが好ましく、例えば芯鞘繊維のような複合繊維からなる場合は、構成樹脂のうち、最も低い融点を有する樹脂の融点よりも高いロール表面温度、例えば5℃以上30℃以上高い温度とすることが好ましい。
【0120】
エンボスを凹凸賦形後に逐次行う場合、第2ロール120は、噛合い賦形ウエブ301を吸引させるための吸引部を有することが好ましい。これにより、第1ロール110に噛合い賦形ウエブ301が貼り付き難くなり、噛合い賦形ウエブ301を第1ロールから引き剥がす際に、凸部高さの戻りが起きにくく、凹凸形状を保持しやすくなる。また、第2ロール120の回転による遠心力により、噛合い賦形ウエブ301が第2ロール120から浮くのを防ぐことができる。
具体的には、第2ロール120の周面に設けられた多数の突起と突起の間に貫通孔(吸引口)を設け、該貫通孔を介してロールの内部から吸引することで噛合い賦形ウエブ301を該ロール上に保持することが可能である。また、同時に噛合い賦形ウエブ301の上から低風速(0.1m/s以上5m/s以下)の温風(ウエブ表面近傍にて40℃以上160℃以下)や水蒸気(ウエブ表面近傍にて40℃以上200℃以下)をロール側に吹き付けると高速時の遠心力によって繊維がロールから離れることを防ぐことができる点で好ましい。
【0121】
噛合い賦形ウエブ301の繊維表面温度は、エンボスを凹凸賦形後に逐次に行う場合において、前記エンボスをする熱融着又は圧着できる手段に至るまでに、構成樹脂のうち、最も低い融点を有する樹脂の融点よりも低い温度になるように加熱されることが好ましい。このように加熱されることにより、第2ロール120やポイント接合手段130の表面温度を下げても、十分な賦形強度や該ロールからの剥離に必要なウエブ強度を得ることができ、結果的に剥離時の該ロールとウエブの接着力を下げることができる。なお、前記繊維表面温度は、熱の伝達効率によって温風や水蒸気の温度よりも低くなるため、温風や水蒸気の温度は前記樹脂の融点よりも高いことが好ましい。
このように、第1ロール110により噛合い賦形ウエブ301を加熱しつつ、第2ロール120により吸引することにより、過剰な熱が噛合い賦形ウエブ301に加わらないため噛合い賦形ウエブ301の繊維の熱収縮が抑えられ、高さが高い凸部12を賦形することができ、これにより嵩高でクッション性の高い立体賦形不織布10とすることができる。
【0122】
また、エンボスを凹凸賦形後に逐次に行う場合において、前記エンボスをする熱融着又は圧着する手段よりも下流にて第2ロール120による吸引が維持されていると、エンボスウエブ302が冷却されるため、凹凸賦形形成が保持されたまま熱セットされる点で好ましい。第2ロール120周面上に巻きかけられたエンボスウエブ302が熱融着又は圧着する手段の出口点から第2ロール120を離れる点までの時間は、0.1秒以上が好ましく、上記熱セットを十分に行う観点から、0.5秒以上がより好ましい。
【0123】
さらに、吸引部を有する第2ロール120は、該ロールの貫通孔を通じてロール内部から外側に空気(又は冷風)を吹き出すことによってエンボスウエブ302を過度に引き伸ばさずに剥離することができるため好ましい。これにより、剥離時にエンボスウエブ302のMD方向の伸長を防止することができる。このような構成は、例えば、前記貫通孔をロールの周方向位置によって、吸引口として機能させる部分と吹出口として機能させる部分とにロール内部で区切る機構とすることで実現することが可能である。
【0124】
工程(I)の賦形工程において、前述の一対以上のロールにおける突起と窪みの配置パターンは、製造される不織布10における凸部1と凹部2との配置パターンに応じて種々設定できる。
【0125】
工程(I)において、前述の一対以上のロールの少なくとも1つのロールの周面には、前記噛合い賦形ウエブの前記凹部を賦形するための複数の突起が千鳥格子状に配置(散点配置)されていることが好ましい。このとき、ポイント接合手段130の凸構造は、不織布10の凹部2に相当する噛合い賦形ウエブ301の位置の一部又は全てに所定のパターンで接するように構成される。これにより、製造される不織布10は、
図9(A)~(D)に示すような凸部1と凹部2との千鳥格子状の配置パターン(散点配置パターン)を有するものとすることができる。不織布10の凸部1を千鳥格子配置とすることにより、凸部1が荷重によって一方向に倒れるのを防ぎ、不織布10の柔らかい風合いを維持することが可能となる。
また、ロール周面において、千鳥格子状に配置された各突起は、その一部が、該ロールの軸方向に隣り合う突起の一部と該軸方向に重なる位置に配されていることが好ましい。これにより、未融着ウエブ300、噛合い賦形ウエブ301及びエンボスウエブ302の搬送時の伸長を抑えることができ、賦形した形状が前記(III)の熱流融着工程までに崩れるのを防止することができる。さらに、前記第2ロール120のロール周面において、千鳥格子状に配置された各突起が、その一部が、該ロールの軸方向に隣り合う突起の一部と該軸方向に重なる位置に配されている場合、MD方向の強度が増すため、エンボスウエブ302をポイント接合手段130や第2ロール120から剥離する際にMD方向に過度に伸ばすことなく剥離できるため好ましい。
【0126】
上記以外に、例えば、第1ロール110が、軸方向に間隔を置いて配された円盤状の突起を複数備えたものとされ、第2ロール120が複数の突起を格子状に散点配置したものとされてもよい。これにより、例えば
図7(A)及び(B)の縦溝27を有する不織布10を製造することができる。このとき、ポイント接合手段130の凸構造は、フラットロール、もしくは不織布10の凹部2(縦溝27)に相当する噛合い賦形ウエブ301の位置の一部に軸方向に間隔を置いて配された円盤に突起を複数備えて接するように構成される。
【0127】
また、第1ロール110が、周面方向に間隔をおいた歯型のギア形状の突起を備えるものとされ、第2ロール120が複数の突起を格子状に散点配置したものとされてもよい。これにより、例えば
図8(A)や
図7(C)の横溝28を有する不織布10を製造することができる。このとき、ポイント接合手段130の凸構造は、フラットロール、もしくは不織布10の凹部2(横溝28)に相当する噛合い賦形ウエブ301の位置の一部に軸方向に間隔を置いて配された円盤に突起を複数備えて接するように構成される。
【0128】
また、第1ロール110が、周方向及び軸方向に突起を格子状に組んだものとされ、第2ロール120が、上記の格子状に組んだ突起に囲まれた穴に一致するように複数の突起を配置されたものとされてもよい。これにより、例えば
図11(A)及び(B)の配置パターンの不織布10を製造することができる。
さらに、第1ロール110が、周方向及び軸方向に延びる突起を格子状に散点配置したものとされ、第2ロール120が、軸方向に間隔を置いて配された円盤状の突起を複数備えたものとされてもよい。これにより、例えば
図8(B)の配置パターンの不織布10を製造することができる。
これらにおいて、ポイント接合手段130の凸構造は、フラットロール、もしくは不織布10の凹部2に相当する噛合い賦形ウエブ301の位置の一部又は全てに軸方向に間隔を置いて配された円盤状の突起を複数備えて接するように構成される。
【0129】
また、凹凸賦形をする一対以上のロールの少なくとも1つのロールが有する複数の突起の一部を、未融着ウエブに開孔を施すピン等の鋭利部にしてもよい。当該ロール周面に通常の突起と鋭利部とを交互に配して、例えば、
図8(C)に示す配置パターンを形成することができる。
【0130】
上記のロールを種々組み合わせて、凸部1と凹部2とを様々な配置パターンとすることも可能である。例えば、
図10(A)、(B)、
図11(C)に示す配置パターンの不織布10を製造することができる。このとき、ポイント接合手段130の凸構造は、不織布10の凹部2に相当する噛合い賦形ウエブ301の位置の一部又は全てにY方向(MD)に沿って接するように構成される。
【0131】
未融着ウエブ300を凹凸賦形する第1ロール110と第2ロール120との噛合い量は、前述の工程(II)を凹凸賦形と同時に行う場合において、また工程(II)を凹凸賦形後に逐次行う場合において、1mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましく、3mm以上が更に好ましい。これにより、製造される不織布10の凸部1の高さをより高くして、嵩高いクッション性をより高めることができる。
また、前記の噛合い量は、15mm以下が好ましく、12mm以下がより好ましく、10mm以下が更に好ましい。これにより、製造される不織布10の凸部1の頂部11における繊維本数を多くでき、凸部1の形状安定を高めることができる。噛合い量は各ロールの凸部における高さ位置の半径をそれぞれ足した値から、噛合い状態での各ロールの軸中心間距離の値を差し引くことで求められる。
【0132】
また、第2ロール120は、第1ロール110よりも、噛合い量における突起121の厚み方向の総面積が大きいことが好ましい。これにより、第2ロール120と噛合い賦形ウエブ301との接触面積の増加による摩擦により、第2ロールに噛合い賦形ウエブ301が巻きかけられた状態が保持されやすく、噛合い賦形ウエブ301のより安定した搬送が可能となる。
【0133】
工程(II)を凹凸賦形後に逐次に行う場合、凹凸賦形と同時に行う場合に比べて、接合に必要な温度と独立して第1ロール110、第2ロール120の温度を低くできる利点がある。また、凹凸賦形パターンと接合パターンを独立して変更できる利点、積層構造において
図4のようにエンボス部3Aと3Bの両方を形成したものが得られる利点などがある。そのため前記凹凸賦形工程後に、第2ロール120の、複数の突起の一部又は全部若しくは複数の窪みの一部又は全部の位置において、噛合い賦形ウエブの凹部の底部の繊維の一部又は全てを接合させるエンボス熱融着工程又はエンボス圧着工程を行うことが好ましい。
【0134】
工程(III)の熱流融着工程は、凹凸賦形され、エンボス部が形成されて該エンボス部周辺で厚み方向に沿う繊維の密度が高められた状態のエンボスウエブ302に対し、繊維交点を融着させて不織布化する。不織布化する加熱流は、熱風や水蒸気など、凹凸形状を崩さずにエンボスウエブ302の繊維交点を融着できる種々の流体を用いることができる。この加熱流によってエンボスウエブ302の繊維交点に融着部(繊維交点融着部又は熱流融着部ともいう)を形成して、前述の不織布10を形成する。これにより、工程(II)で形成したエンボス部3の周辺に、前述のように定義する融着長さが長い融着部4を前述の高い割合で形成することができる。
このとき、エンボスウエブ302のエンボス部のある面側及び無い面側のいずれから加熱流を付与してもよいが、エンボス部の無い面側(すなわち、凸部1の頂部11の側)から加熱流を付与することが好ましい。これにより、製造される不織布10の表面側10Sに配置される凸部1の柔らかい風合いをより高めることができる。工程(III)の熱流融着工程は水蒸気よりも熱風で行うことが、加熱流の圧力によって凸部1が潰れた形でより成形されにくく、形状が保持されやすい点で好ましい。
【0135】
工程(III)を工程(II)の後に行うことにより、工程(I)で賦形された凹凸形状が加熱流による圧力で潰れてしまうことを抑制できる。これにより、不織布10の凸部1を従来よりも高く形成することができる。
また、凸部1の高さは、エンボス熱融着又はエンボス圧着によって形成されるエンボス部の平面方向の間隔や、前述した凹凸賦形されるロール同士の噛み合わせ量(深さ)によってより好適に制御することができる。
【0136】
上記のように工程(I)~(III)をこの順に実施する本実施形態の製造方法は、通常用いることができる種々の製造装置を適宜用いて実施することができる。
【0137】
例えば、
図15に示す製造装置100を用いることができる。
製造装置100は、不織布10の原料となる繊維を用いた未融着ウエブ300を供給するウエブ供給部102と、ウエブ供給部102から供給された未融着ウエブ300を搬送するコンベアベルト104と、コンベアベルト104により搬送される未融着ウエブ300を加圧するニップローラ106とを備えている。その下流に、未融着ウエブ300に対して賦形加工を施して噛合い賦形ウエブ301を形成する一対のロール(第1ロール110及び第2ロール120)と、第2ロール120により牽引される噛合い賦形ウエブ301の凹部の底部の繊維の一部又は全てを融着させるポイント接合手段130と、ポイント接合手段130により融着された融着部(エンボス部)を冷却させるクーリングロール114とを備えている。さらに、クーリングロール114の下流に、第2ベルトコンベア117と、前述の工程(I)及び(II)を施した前記エンボス部を備えたエンボスウエブ302に対し加熱流体を吹き付けて繊維交点を融着する、すなわち不織布化する熱流部118を有する。
【0138】
ウエブ供給部102、コンベアベルト104及びニップローラ106は、第1ロール110及び第2ロール120に向けて、繊維を用いた未融着ウエブ300を供給及び搬送するよう構成されている。また、クーリングロール114は、ポイント接合手段130によってエンボス部3が形成されたエンボスウエブ302を冷却させながら下流側に向けて搬送するよう構成されている。コンベアベルト104、ニップローラ106、クーリングロール114は適宜使用しない場合もあり得るが、安定的に生産する上でこれらを設けることが好ましい。このようなウエブ供給部102、コンベアベルト104、ニップローラ106及びクーリングロール114としては、通常用い得る種々の構成を採用可能である。
【0139】
以上の構成を備える製造装置100において、まず加工原料となる未融着ウエブ300をウエブ供給部102からコンベアベルト104上に供給し、該未融着ウエブ300をニップローラ106により加圧しつつ、コンベアベルト104により第1ロール110及び第2ロール120間に搬送する。ここで、ニップローラ106は、強固に繊維を接合させるものではなく、未融着ウエブ300を搬送できる程度に繊維同士を圧着させるものである。この際の圧着部のほとんどは、第1ロール110及び第2ロール120の噛合い時の引張張力により剥離する傾向にある。このように、剥離により圧着部が減ることで、繊維の自由度が増し風合いに優れるため好ましい。また、仮に圧着部の一部が残るとしても、当該圧着部は融着部ではないため、引っ掛かりに起因する風合いの低下を引き起こすことはほぼ無い。
【0140】
また、製造装置100において、ウエブ供給部102は単層の未融着ウエブ300を供給するものとして示しているが、これに限定されない。例えば、ウエブ供給部102が2つ以上の装置を備え、2層以上の厚みのある未融着ウエブ300を供給できるようにしてもよい。未融着ウエブ300が2層以上の積層体としてコンベアベルト104上に供給される場合、製造装置100においては第1ロール110及び第2ロール120による凹凸賦形が積層体全体に対してなされる。この場合、例えば
図1に示すものと同様の凹凸形状が賦形される。
【0141】
未融着ウエブ300が第1ロール110及び第2ロール120の噛合い部分に到達した後は、第1ロール110及び第2ロール120との噛合いによって未融着ウエブ300に凹凸形状が賦形され、噛合い賦形ウエブ301が形成される(工程(I))。
この噛合い賦形ウエブ301に対して、上記の第1ロール110及び第2ロール120によって賦形と同時に、又は賦形後にエンボス熱融着工程又はエンボス圧着工程(工程(II))を行う。賦形後にエンボス熱融着工程又はエンボス圧着工程を行う場合、賦形された噛合い賦形ウエブ301は、第2ロール120の吸引力によって該第2ロール120の周面に密着し、第2ロール120の回転により、凹凸形状が賦形された状態が保持されたままポイント接合手段130の位置へと搬送される。ポイント接合手段130と第2ロール120の突起又は窪みとの挟持により、噛合い賦形ウエブ301の凹部の底部の繊維がエンボス(加圧融着または圧着)される。これにより、エンボス部3が所定のパターンで形成される。
その後、エンボス部3が形成されたエンボスウエブ302は、クーリングロール114に引き渡されて冷却され、その下流の第2コンベアベルト117で搬送され、熱流部118の位置で繊維交点が融着される(工程(III))。
【0142】
これにより、1つの繊維層からなる単層構造の不織布10(例えば
図1に示す不織布)が製造される。
【0143】
また、
図16に示す製造装置200を用いて、2層の繊維層からなる積層構造の不織布10を形成することができる。
製造装置200は、前述の製造装置100において、第2ロール120とポイント接合手段130との間に、裏面側10Rの下層8を形成する繊維層400を供給する機構を備える。
下層8を形成する繊維層400は、未融着ウエブであってもよく不織布であってもよい。下層8を形成する繊維層400が未融着ウエブであるとき、噛合い賦形ウエブ301に形成された凸部1の内部に繊維層400の繊維が入り込み、二層構造かつ中実構造の不織布10(例えば
図4に示す不織布10B)が製造される。下層8を形成する繊維層400が不織布であるとき、二層構造かつ閉鎖中空構造の不織布10(例えば
図5に示す不織布10C)が製造される。
【0144】
そのほか、前述の製造装置100によって形成した不織布10の裏面側10Rにホットメルト接着剤を塗布し、別の未融着ウエブを供給することによっても二層構造かつ中実構造の不織布10(例えば
図3に示す不織布10A)が製造される。この場合、エンボス部3は、上層7のみに形成され、下層8には形成されない。
また、前述の製造装置100において、第2ロール120の周面上に巻きかけられた、凹凸賦形された噛合い賦形ウエブ301に別の不織布を供給して、第2ロール120に対し別の凹凸形状のロールを噛み合わせることもできる。この場合、凸部1に上記の別の不織布が浅く入り込んだ二層構造かつ閉鎖中空構造の不織布10(例えば
図6に記載の不織布10D)が製造される。
【実施例】
【0145】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。なお、本実施例において「部」および「%」は、特に断らない限りいずれも質量基準である。下記表中における、「-」は、項目に該当する値を有さないこと等を意味する。
【0146】
(実施例1)
上層と下層とからなる未融着ウエブを準備した。上層には繊度1.1dtexの芯鞘型(ポリエチレンテレフタレート(PET)(芯):ポリエチレン(PE)(鞘)=5:5(質量比)、平均繊維径11μm、平均繊維長44mm)の熱可塑性の同芯タイプの複合短繊維を用いた。下層には繊度3.3dtexの芯鞘型(ポリエチレンテレフタレート(PET)(芯):ポリエチレン(PE)(鞘)=5:5(質量比)、平均繊維径19.4μm、平均繊維長44mm)の熱可塑性の同芯タイプの複合短繊維を用いた。どちらも親水性油剤が塗布されたものを用いた。
カード機により上層(目付15g/m
2)と下層(目付15g/m
2)の未融着ウエブを形成し、その後、上層と下層を積層した未融着ウエブを、
図15に示す第1ロール110と第2ロール120により噛合い賦形し、特許文献1記載の
図3に示す凹凸形状を形成した。第1ロール110と第2ロール120の表面温度はそれぞれ50℃、110℃で行った(前述の工程(I))。前記噛合い賦形における噛合い量(押込み深さ)を8mmとした。その後、第2ロール120上でフラットロール(ポイント接合手段130)との間で噛合い賦形ウエブをエンボス圧着させて、
図11(A)に示す配置パターンのエンボス部3を形成した。フラットロ-ルの表面温度は100℃で行った(前述の工程(II))。フラットロールと接触する面を裏面(下層)側10Rとした。クーリングロール114の温度は25℃とした。各ロールから剥離後、熱流部118において、コンベアネット上で表面(上層)凸部1側から熱風温度136℃、風速1.5m/s、吹き付け時間6sにて熱風処理を行い繊維交点融着部を形成した(前述の工程(III))。これにより、実施例1の不織布試料S1を作製した。不織布試料S1の断面における凸部1は、
図1に示すような中空構造を有していた。
不織布試料S1は、エンボス部3の周辺において融着長さが長い融着部4を有しており、上層の融着長さが長い融着部4の割合は下記表1に示すとおりであった。下層の融着長さが長い融着部4の割合は6%であった。
【0147】
(実施例2)
図16に示す装置を用いて、上層の未融着ウエブに対し噛合い賦形を行い、その後、噛合い賦形を行った上層と未融着ウエブの下層とを積層してエンボス圧着を行った以外は、実施例1と同様にして実施例2の不織布試料S2を作製した。不織布試料S2の断面における凸部1は中実構造をなしていた。
不織布試料S2は、エンボス部3の周辺において融着長さが長い融着部4を有しており、上層の融着長さが長い融着部4の割合は下記表1に示すとおりであった。下層の融着長さが長い融着部4の割合は1%であった。
【0148】
(実施例3)
上層の噛合い量を実施例2における噛合い量に対して63%になるようにした以外は、実施例2と同様にして実施例3の不織布試料S3を作製した。不織布試料S3は、圧力0.5gf/cm2荷重時の厚みを実施例2よりも薄いものとした。不織布試料S3の断面における凸部1は中実構造をなしていた。変形量が高く、かつ、圧縮のレジリエンス(RC)の高いものが得られ、クッション性に優れていた。
不織布試料S3は、エンボス部3の周辺において融着長さが長い融着部4を有しており、上層の融着長さが長い融着部4の割合は下記表1に示すとおりであった。下層の融着長さが長い融着部4の割合は1%であった。
【0149】
(実施例4)
下層にあらかじめ熱風融着をさせたエアスルー不織布(目付15g/m2)を用いた以外は、実施例2と同様にして実施例4の不織布試料S4を作製した。不織布試料S4の断面における凸部1は中空構造をなしていた。
不織布試料S4は、エンボス部3の周辺において融着長さが長い融着部4を有しており、上層の融着長さが長い融着部4の割合は下記表1に示すとおりであった。下層の融着長さが長い融着部4の割合は2%であった。
【0150】
(実施例5)
下層にはエンボス処理を通さずに上層のみエンボス加工を行った以外は、実施例2と同様にして実施例5の不織布試料S5を作製した。下層はエンボス部3を有さず、熱風加熱流体による繊維交絡点融着部を有していた。不織布試料S5の断面における凸部1は中実構造をなしていた。
不織布試料S5は、エンボス部3の周辺において融着長さが長い融着部4を有しており、上層の融着長さが長い融着部4の割合は下記表1に示すとおりであった。下層の融着長さが長い融着部4の割合は1%であった。
【0151】
(比較例1)
実施例1で用いた上層及び下層の未融着ウエブをそれぞれ熱風融着して得られた上層不織布(目付18g/m2)と下層不織布(目付18g/m2)を原料とし、特開2016-077900号公報に記載された不織布の製造方法の歯溝延伸加工(同文献の明細書段落[0070]~[0080])を行った。これによって波板状の凹凸表面を有する比較例1の不織布試料C1を作製した。不織布試料C1の断面の凸部は中空構造をなしていた。
不織布試料C1は、エンボス部3の周辺において上層は融着長さが長い融着部4を有さなかった。下層の融着長さが長い融着部4の割合は0.5%であった。
【0152】
(比較例2)
実施例1で用いた上層と下層を積層した未融着ウエブに対し、特許文献1の明細書段落[0065]~[0073]に記載の賦形加工を行い、同文献の
図3に示す凹凸形状を有する比較例2の不織布試料C2を作製した。第1の熱風W1による吹き付け処理は、温度160℃、風速54m/s、吹き付け時間6sの条件にて行った。第2の熱風W2による吹き付け処理は、温度160℃、風速6m/s、吹き付け時間6sの条件にて行った。作製した不織布試料C2の断面は中空構造をなしていた。
不織布試料C2は、エンボス部3を有さなかった。
【0153】
実施例1~5の不織布試料S1~S5、比較例1、2の不織布試料C1、C2について、前述の(凸部1の表面と凹部2の表面との平均高さの差H1の測定方法)に基づいて、凸部1の表面高さ(0.5gf/m2加重下での不織布厚み)T0、凹部2の表面高さH2、凸部1の表面と凹部2の表面との平均高さの差H1を測定した。また、前述の(融着長さが長い融着部4の割合の測定方法)に基づいて、エンボス部3周辺の繊維の「融着長さが長い融着部」の長さ及びその割合を測定した。繊維径の平均変動値は、前述の(繊維径の平均変動値の測定方法)に基づいて、上層の凸部1の頂部にて測定した。加えて、繊維密度は、前述の(繊維密度の測定方法)に基づいて測定した。なお、表1に示した「最上層」及び「最下層」とは、実施例及び比較例における各不織布試料の上層及び下層を意味する。
加えて、実施例1~5の不織布試料S1~S5、比較例1、2の不織布試料C1、C2について、前述の(摩擦特性の測定方法)、(粗さ特性の測定方法)及び(圧縮特性の測定方法)に基づいて各種特性を測定した。
【0154】
また、実施例1~5の不織布試料S1~S5、比較例1、2の不織布試料C1、C2について、クッション性、手で押したときの変形量及び滑らかさ等の複合的な要因による官能評価により、比較例1の不織布を1点、花王株式会社製メリーズテープ型おむつMサイズ(2019年日本製造品)から表面材を剥離した立体賦形不織布を3点とし、点数が高いものほど風合いが良いとして5段階で評価した。評価は男性3名、女性3名の研究員により、ブラインド式で行った。得られた値は平均値の小数点以下を四捨五入した値とした。
なお、手で押したときの変形量は、その値が大きいほど、柔らかいと感じる傾向にある。変形量が多い場合、圧縮のレジリエンス(RC)が大きいほど、圧縮と回復の弾性応力においてヒステリシスが小さく、クッション性が良いと感じる傾向にある。さらに、滑らかさは、平均摩擦係数(MIU)が前記の適度な範囲にあり、表面摩擦係数の平均偏差値(MMD)が小さいと適度な滑らかさを感じる傾向にあり、表面に凹凸があっても引っ掛かり等がなく、摩擦係数の変動が小さく滑らかと感じる傾向にある。
【0155】
上記の結果は下記表1のとおりであった。
【0156】
【0157】
表1に示すとおり、実施例1~5の不織布試料S1~S5は、比較例の不織布試料C1、C2に比べ、0.5gf/m2荷重下の不織布厚み(T0)が厚く、圧縮変形量(T0-TM)が3mm以上と大きいものとなっていた。同時に、実施例1~5の不織布試料S1~S5は、変形量が大きいにも関わらず、50gf/m2荷重での不織布厚みTMが比較例の不織布試料C1、C2に比べて0.5mm以上と大きかった。すなわち、実施例1~5の不織布試料S1~S5は、押圧時に大きな厚み変形をする一方で、保持される厚みが大きく、圧縮のレジリエンス(RC)も42%以上と高いことで凸部が潰れてしまわない(へたらない)良好なクッション性を示していた。これにより、不織布の凹凸にした繊維構造による柔らかい肌触りを感じられるものとなっていた。
また、実施例1~5の不織布試料S1~S5は、平均摩擦係数(MIU)が比較例1、2の不織布試料C1、C2よりも高く適度な摩擦特性を有することで、繊維の柔らかい感触をより感じることができるものとなっていた。実施例5の不織布試料S5は平均摩擦係数(MIU)が0.2以上0.5以下と適度な範囲にあり、表面摩擦係数の平均偏差値(MMD)も0.006以下と小さいものとなって滑らかな肌触りが感じられた。実施例1、実施例5の不織布試料S1、S5は表面粗さの平均偏差値(SMD)について適度な表面粗さ(0.1以上2以下)を有することで優れていた。実施例1、実施例2、実施例5の不織布試料S1、S2、S5は圧縮特性の線形性(LC)について0.5以上を示し、押圧時の厚みが残りやすく手等の肌で押した際の戻りの反発性、すなわちクッション性がよいものであった。実施例1~5の不織布試料S1~S5は圧縮エネルギー(WC)が3gfcm/cm2以上10gfcm/cm2以下となり、高すぎず低すぎないことで、手で押した際の変形量に対する抵抗力が適度になりふんわりした風合いのものが得られた。また、実施例1、実施例2、実施例5の不織布試料S1、S2、S5は、回復エネルギー(WC’)が2gfcm/cm2以上と高く(10gfcm/cm2以下の範囲内になり)、凸部1における回復エネルギーが大きく、手等の肌で押した際の戻りの反発性(クッション性)が適度になり風合いに優れるものが得られた。
上記の優れた特性を備える実施例1~5の不織布試料S1~S5は、比較例の不織布試料C1、C2に比べ、柔らかい風合いの点で優れていた。
【0158】
本発明をその実施形態および実施例とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【符号の説明】
【0159】
1 凸部
11 頂部
12 壁部
121 凸部の側壁部
122 中間壁部
123 凹部の側壁部
13 (凸部の)内部
1A 中間高さ凸部
17 凸部列
18 凹凸列
2 凹部
21 底部
22 (凹部の)空間部
27 縦溝
28 横溝
29 開孔部
3 エンボス部
4 融着長さが長い融着部
7 上層
8 下層
10 吸収性物品用不織布
100、200 製造装置
110 第1ロール
120 第2ロール
130 ポイント接合手段
118 熱流部