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特許7310042DCライン障害の場合のフルブリッジ型又は混合アーム型のモジュラーマルチレベルコンバータの制御
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】DCライン障害の場合のフルブリッジ型又は混合アーム型のモジュラーマルチレベルコンバータの制御
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/49 20070101AFI20230710BHJP
【FI】
H02M7/49
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023501178
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-15
(86)【国際出願番号】 EP2020069644
(87)【国際公開番号】W WO2022008085
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-03-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519431812
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・スウィツァーランド・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY SWITZERLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンネソン,ニクラス
(72)【発明者】
【氏名】アブダルラフマン,アディル
(72)【発明者】
【氏名】クマール-ナヤク,キロッド
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/177098(US,A1)
【文献】Jiabing HU et al.,DC fault ride‐through of MMCs for HVDC systems: a review,The Journal of Engineering,2016年09月,Vol. 2016,No. 9,p.321-331
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/00 - 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DC故障の場合にフルブリッジ型又は混合アーム型の、モジュラーマルチレベルコンバータ、MMC、を制御する方法(100)であって、
前記MMCのDC極電圧(Udp)の大きさが上方電圧閾値(Ud_max_lim)を下回ったか否かを判定すること(102,104)と、
前記DC極電圧が前記上方電圧閾値を下回ったと判定される場合、
前記DC極電圧に基づいて、前記MMCに対するAC有効電流基準(IVD_ORD)の大きさとDC電圧基準(UDC_REF)の大きさの両方を低減すること(106)とを含み、前記AC有効電流基準の前記大きさを低減することは、前記AC有効電流基準の前記大きさを前記DC極電圧に比例して設定することを含み、前記DC電圧基準の大きさを低減することは、前記低減されたAC有効電流基準に比例する前記DC電圧基準の大きさを設定することであって、前記AC有効電流基準の大きさを上方一定値(IVD_max_lim)で除算することによってスケーリングし前記AC有効電流基準の修正値(IVD_MOD)を提供し、前記AC有効電流基準の修正値を定常状態のDC電圧基準と乗算し、前記低減された大きさのDC電圧基準を生成することを含む、方法(100)。
【請求項2】
前記MMCのDC電流コントローラ又は循環電流コントローラを使用してDC電流の上方レベルを制限することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記DC極電圧の前記大きさが前記上方電圧閾値を超える場合、前記AC有効電流基準の前記大きさを前記上方一定値(IVD_max_lim)に設定することをさらに含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記DC極電圧の前記大きさが下方電圧閾値(Ud_min_lim)を下回る場合、前記AC有効電流基準の前記大きさを下方一定値(IVD_min_lim)に設定することをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記DC電圧基準の前記大きさが前記MMCの定常状態DC電圧基準(UDC_ORD)の大きさを超えないように強制することをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
フルブリッジ型又は混合アーム型のモジュラーマルチレベルコンバータ、MMC、(300)であって、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法を実行することによって前記MMCを制御するように構成されたコントローラ(340)を含む、モジュラーマルチレベルコンバータMMC(300)。
【請求項7】
請求項6に記載の少なくとも1つのモジュラーマルチレベルコンバータ、MMC、(301,302)を含むコンバータステーション(350)。
【請求項8】
DCリンク(326)を介して接続された少なくとも2つのコンバータステーション(351,352)を含む電力伝送システム(360)であって、前記少なくとも2つのコンバータステーションの少なくとも一方が、請求項7に記載のコンバータステーションである、電力伝送システム(360)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、フルブリッジ型又は混合アーム型のモジュラーマルチレベルコンバータの分野に関する。より詳細には、本開示は、例えばDC故障などのDCライン障害の場合のそのようなコンバータの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
フルブリッジ(FB)型のコンバータセルを含む相アームを有するモジュラーマルチレベルコンバータ(MMC)は、例えばハーフブリッジ(HB)型のコンバータセルのみを含むものとは異なり、例えばDC故障などの、MMCが接続されているDCライン上の障害の場合に、コンバータのAC側とDC側との間のサージ電流の流れを遮断するのを助けることができる。そのDC故障ライドスルー機能により、そのようなMMCは、無効電力によってACグリッドを依然としてサポートしながらDC故障を分離することができる。しかしながら、これらの動作が適切に機能するためには、コンバータによって生成されるDC電圧を可能な限り早く低減することを含む、DC故障が発生したときのMMCの適切な制御が必要である。
【0003】
したがって、ロバストで信頼性の高いコンバータを提供するためには、DC故障を可能な限り迅速に検出する必要がある。しかしながら、DC故障の検出が速すぎると、故障検出の感度が所望のレベルを超えて上昇する可能性がある。これは、一切の偶発事故なしにMMCの誤トリガ及びトリップのリスクを高め、故障検出のロバスト性を低下させる可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
本開示は、上述の問題を少なくとも部分的に改善することを模索する。これを達成するために、独立請求項によって定義されるような、DC故障の場合にMMCを制御する方法、MMC、コンバータステーション、及び電力伝送システムが提供される。さらなる実施形態は、従属請求項に提供される。
【0005】
本開示の第1の態様によれば、DCライン障害の場合にフルブリッジ型又は混合アーム型のモジュラーマルチレベルコンバータ(MMC)を制御する方法が提供される。本方法は、MMCの(例えば、MMCの両端の)DC電圧の大きさが上方電圧閾値を下回ったか否かを判定することを含む。本方法は、DC電圧の大きさが上方電圧閾値を下回ったと判定した場合、DC電圧に基づいて、MMCのAC有効電流基準の大きさ及びDC電圧基準の大きさの両方を低減することをさらに含む。DC電圧は、例えば、測定DC電圧であってもよい。DC電圧は、例えば、MMCの両端の電圧、及び/又は例えばDC極電圧などであってもよい。
【0006】
本明細書では、「DCライン障害」は、例えばAC故障、DC故障、又は他のタイプの故障若しくは障害によって引き起こされるDCライン電流及び/又は電圧の障害を含み得る。以下では、DC故障がDCライン障害の例として使用されるが、DCライン障害は、加えて、又は代替的にそのような他のタイプの故障を含んでもよく、本明細書に開示される方法及びその利点はDC故障のみに限定されないことに留意されたい。
【0007】
以下では、例えば、図面に示される実施形態の詳細な説明において、DC電圧がDC極電圧であり、このDC極電圧が通常、定常状態動作中、正電圧(例えば接地電位に関して測定されるものとして)であることも仮定される。例えば、DC電圧は、正DC極のDC電圧であってもよい。しかしながら、MMCが負DC極に接続されている場合、DC電圧は通常、例えば負DC極のDC電圧などの負の電圧であってもよいことも想定される。本明細書で前述したように、本開示の方法は、DC電圧の大きさを使用し、AC有効電流基準及びDC電圧基準の大きさを低減する。これにより、本方法は両方の状況を(すなわち、例えば共通接地電位に関して測定されるものとして、DC電圧が通常正又は負のいずれであるかとは無関係に)処理することができる。
【0008】
例えば、MMC内のDC故障を処理するための従来の方法及び制御は、DC故障を処理するために必要な制御動作を開始するために、DC故障検出アルゴリズムに依存し得る。そのようなDC故障検出アルゴリズムは、例えば、測定DC電流に依拠してもよく、本明細書で前述したように、DC故障を非常に迅速に検出するために必要とされ得、結果、検出が高感度になりすぎる(したがって、例えば、偶発事故なしにMMCがトリップする危険性がある)。
【0009】
DC故障の場合、DC極電圧は、例えばDC極間の短絡及び/又は例えばDC極の1つと接地との間の短絡に起因して突然低下する可能性がある。本明細書でより詳細に説明するように、本開示の方法は、DC極電圧が上方電圧閾値を下回ったことを検出することができ、その後のAC有効電流基準及びDC電圧基準の減少は、MMCの制御に含まれる従来のDC故障検出アルゴリズムによってDC故障が検出されるときまで、トリップなしに(例えば、停止なしに)MMCが動作することを可能にすることができる。別の言い方をすれば、本開示の方法は、DC故障を実際に検出することなく、十分な持続時間にわたってDC故障を処理することを可能にすることができる。結果として、従来のDC故障検出アルゴリズムの速度要件を緩和することができ、DC故障を検出するためにより多くの時間をとることができる。これにより、誤トリガの可能性を低減し、よりロバストなシステム動作を可能にすることができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、本方法は、MMCのDC電流コントローラ又は循環電流コントローラを使用してDC電流の上方レベルを制限することをさらに含むことができる。一般に、本明細書では、MMC「の」コントローラは、例えばMMC自体とは別の構造のコントローラ部分を除外しないが、例えばMMCの相アーム及びその中のコンバータセルを制御することができるように、制御信号を依然として送信することができる。後述するように、DC故障がMMCから遠く離れて発生した場合、DC電流の上方レベルを(例えば公称値まで、又は少なくとも公称値の近くまで)制限することが有益であり得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、AC有効電流基準の大きさを低減することは、AC有効電流基準をDC電圧に比例して設定することを含むことができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、本方法は、DC電圧の大きさが上方電圧閾値を超える場合、AC有効電流基準の大きさを上方一定値に設定することをさらに含むことができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、本方法は、DC電圧が下方電圧閾値を下回る場合、AC有効電流基準の大きさを下方一定値に設定することをさらに含むことができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、DC電圧基準の大きさを低減することは、AC有効電流基準の低減された大きさに比例してDC電圧基準の大きさを設定することを含むことができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、本方法は、DC電圧基準の大きさがMMCの定常状態DC電圧基準の大きさを超えないように強制することをさらに含むことができる。本明細書では、「定常状態」は、例えば、DC故障/ライン障害が存在しない時間中の動作状態を意味することができる。
【0016】
本開示の第2の態様によれば、フルブリッジ型又は混合アーム型のMMCが提供される。MMCは、コントローラを含む。コントローラは、例えば、本開示の第1の態様を参照して本明細書に記載されているような方法を実行することによってMMCを制御するように構成される。
【0017】
本開示の第3の態様によれば、コンバータステーションが提供される。コンバータステーションは、少なくとも1つのMMCを含む。少なくとも1つのMMCは、例えば、本開示の第1の態様又は第2の態様を参照して本明細書に記載されているようなMMCであってもよい。
【0018】
本開示の第4の態様によれば、電力伝送システムが提供される。電力伝送システムは、DCリンクを介して接続された少なくとも2つのコンバータステーションを含む。少なくとも2つのコンバータステーションのうちの少なくとも1つは、例えば本開示の第3の態様を参照して本明細書に記載されているようなコンバータステーションであってもよい。
【0019】
本開示は、特許請求の範囲に記載されている特徴のすべての可能な組み合わせに関する。第1の態様に従って記載されている目的及び特徴は、第2の態様、第3の態様、及び/又は第4の態様に従って記載されている目的及び特徴と組み合わせることができ、又はそれらに置き換えることができ、その逆も可能である。
【0020】
本開示の様々な実施形態のさらなる目的及び利点を、例示的な実施形態によって以下に説明する。
【0021】
図面の簡単な説明
例示的な実施形態は、添付の図面を参照して以下で論じられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示による方法の1つ以上の実施形態の流れの概略図である。
図2a】本開示の1つ以上の実施形態による電圧依存電流リミッタの概略図である。
図2b】本開示の1つ以上の実施形態による、DC極電圧に基づいてAC有効電流基準をどのように低減することができるかを示す概略図である。
図2c】本開示の1つ以上の実施形態による、DC極電圧に基づいてDC電圧基準をどのように低減することができるかを示す概略図である。
図3a】本開示の1つ以上の実施形態によるMMCの概略図である。
図3b】本開示の1つ以上の実施形態によるコンバータステーションの概略図である。
図3c】本開示の1つ以上の実施形態による電力伝送システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面において、特に明記しない限り、同様の参照符号は同様の要素に使用される。反対のことが明示的に述べられていない限り、図面は、例示的な実施形態を図解するために必要な要素のみを示しているが、他の要素は、明確にするために省略又は示唆されているだけである場合がある。図に示すように、要素及び領域のサイズは、図解目的のために誇張されている場合があり、したがって、実施形態の一般的な構造を図解するために提供されている。
【0024】
詳細な説明
図1を参照して、ここで本開示による方法をより詳細に説明する。
【0025】
図1は、本開示の一例示的実施形態による方法100のフローチャートを概略的に示す。最初のステップ102において、MMCのDC極電圧(Udp)が取得される(例えば、測定される)。次のステップ104において、DC極電圧(Udp)が上方電圧閾値(Ud_max_lim)を下回ったか否かが判定される。ステップ104において、DC極電圧が上方電圧閾値を下回っていない(すなわち、条件Udp≧Ud_max_limが満たされる)と判定された場合、本方法は、例えば停止するか、又は例えばステップ102に戻ってUdpの更新値を取得することができる。しかしながら、ステップ104において、DC極電圧が上方電圧閾値を下回った(すなわち、条件Udp<Ud_max_limが満たされる)と判定された場合、方法はステップ106に進むことができ、ことにおいて、DC極電圧Udpに基づいて、MMCに対するAC有効電流基準(IVD_ORD)とDC電圧基準(UDC_REF)の両方が低減される。更新された(低減された)値IVD_ORD及びUDC_REFは、その後、MMCに提供し、MMCの後続の制御中に使用することができる。ステップ106の後、方法100は、例えば、停止してもよく、又は方法100は、例えば、ステップ102に戻ってUdpの更新値を取得してもよい。
【0026】
DC故障(例えば、DC極と接地との間の短絡、及び/又は例えば、1つのDC極と別のDC極との間の短絡)の場合、DC極電圧Udpが低下する可能性がある。本開示の方法(図1を参照して説明した方法100など)を使用することは、DC極電圧Udpが特定の上方電圧閾値を下回ったときにMMCによって(すなわち、DC電圧基準UDC_REFを低減することによって)生成されるDC電圧を低減するのに役立ち得る。これは、故障に供給されるDC電流が低減され得ることを保証することができ、可能な限り早くDC故障を分離するのに役立ち得る。また、MMCのDC側の電圧(すなわちUdp)が低下するときはいつでも、本明細書に開示される方法はまた、MMCのAC側の有効電力を(すなわち、AC有効電流基準/次数IVD_ORDを低減することによって)低減するのに役立ち得る。これは、MMC内の電力バランスを維持し、また、望ましくないセルの充電及び放電を回避するのに役立ち得る。
【0027】
図2a、図2b、及び図2cを参照して、AC有効電流基準IVD_ORD及びDC電圧基準UDC_REFを低減する方法の様々な例をここでより詳細に説明する。
【0028】
図2aは、本開示による電圧依存電流リミッタ(VDCL)の一例を概略的に示す。そのようなVDCLは、例えば、図1を参照して本明細書で説明した方法100のステップ102、104及び106のうちの1つ以上を実行するために使用することができる。
【0029】
VDCL200は、その入力として、DC極電圧Udp、AC有効電流基準IVD_ORD(有効電力に対応する)に対する制限値(IVD_max_lim及びIVD_min_lim)、並びにDC極電圧Udpに対する上方電圧閾値及び下方電圧閾値(Ud_max_lim及びUd_min_lim)をとる。上方電圧閾値及び下方電圧閾値は、AC有効電流基準IVD_ORDがUdpに基づいて低減される電圧領域を画定するために使用され、一方、AC有効電流基準IVD_ORDに対する制限値は、AC有効電流基準を制限値範囲内に維持するために使用される。Udpに基づいて、VDCL200は、更新された(例えば、低減された)AC有効電流基準IVD_ORDを出力する。例えば、他のより小さい障害中及び/又はMMCの定常状態動作中にVDCL200が干渉しないように、IVD_max_lim、IVD_min_lim、Ud_max_lim及びUd_min_limの様々な値が選択されてもよいことが想定される。
【0030】
図2bは、図2aを参照して説明したVDCL200から出力されるAC有効電流基準IVD_ORDがDC極電圧Udpに基づいてどのように低減され得るかの一例を概略的に示す。
【0031】
Udpが上方電圧閾値Ud_max_limを上回る場合、IVD_ORDは、MMCの最大許容有効電流(又は、例えば、電力)基準に対応する一定の上限値IVD_max_limに制限される。同様に、Udpが下方電圧閾値Ud_min_limを下回る場合、IVD_ORDは一定の下限値IVD_min_limに制限される。IVD_min_limの値は、例えば、0又は0に近い値に設定され得る。
【0032】
Ud_min_limとUd_max_limとの間に画定された領域内にUdpが存在する場合には、Udpに基づいてAC有効電流基準IVD_ORDが低減される。図2bを参照して説明される例では、IVD_ORDはUdpに比例して、すなわち、(Ud_min_limとUd_max_limとの間の間隔内で)IVD_ORDの値がUdpの線形増加関数になるように、低減される。一例として、この領域では、AC有効電流基準は、IVD_ORD=IVD_min_lim+(IVD_max_lim-IVD_min_lim)*(Udp-Ud_min_lim)/(Ud_max_lim-Ud_min_lim)として与えられ得る。
【0033】
図2bは、Udpに対するIVD_ORDの線形依存性を示しているが、Udpが上方電圧閾値(Ud_max_limなど)を下回るときに、Udp値の少なくとも何らかの領域内で、Udpが低減されるにつれて、AC有効電流IVD_ORDが低減される限り、他の依存性も使用され得ることも想定される。
【0034】
図2cは、本開示による、Udpに基づいてDC電圧基準UDC_REFがどのように低減され得るかの一例を概略的に示す。図2cに示すように、VDCL200から出力されるAC有効電流基準IVD_ORDはスケーリングユニット204に供給され、スケーリングユニットにおいて、IVD_ORDの値が、修正されたAC有効電流基準IVD_MODがIVD_MOD=IVD_ORD/IVD_max_limとして与えられるように、IVD_ORDをIVD_max_limで除算することによってスケーリングされる。別の言い方をすると、スケーリングユニット204の後、IVD_ORDの値は間隔[IVD_min_lim/IVD_max_lim,1]にバインドされる。次いで、AC有効電流基準の修正値IVD_MODは乗算ユニット206に提供され、乗算ユニットにおいて、この値は値UDC_ORDと乗算される。値UDC_ORDは、MMCの定常状態動作のDC電圧基準に対応する。乗算ユニット206からの出力は、DC電圧基準UDC_REFである。したがって、IVD_ORDの値が1を下回る(これは、Udpが上方電圧閾値Ud_max_limを下回る場合に当てはまる)場合、DC電圧基準UDC_REFは、定常状態DC電圧基準UDC_ORDと比較して低減されたDC電圧基準を表す。ここで、UDC_REFは、例えば図1を参照して説明した方法100を参照して本明細書で説明されている、低減されたDC電圧基準である。
【0035】
次いで、DC電圧基準UDC_REF及びAC有効電流基準IVD_ORDは、MMCの制御の他の部分208に提供され、そこで、それらは、AC有効電流(及びそれによってMMCのAC側の有効電力)及びMMCによって生成されるDC側電圧(DC故障に供給される電流も低減され得るように)の両方を低下させるために使用される。
【0036】
本明細書で前述したように、DC電圧(例えば、DC極電圧)が、通常、例えば負DC極電圧などの負電圧であってもよいことも想定される。これが該当する場合、図1図2a、図2b及び図2cを参照して上述した方法の様々な実施形態が、例えば、代わりにUdpの絶対値が使用され、DC電圧に基づいて低減されるのがAC有効電流基準及びDC電圧基準の大きさであるように修正されることが想定される。
【0037】
本明細書で前述したように、DC故障の位置が、例えば、本開示による方法が1つ以上のMMCを制御するために実施されるコンバータステーションから遠く離れている場合、DC極電圧が上方電圧閾値(例えば、Ud_max_lim)を下回らない可能性がある。そのような状況では、例えばDC電圧基準の低減は行われない可能性があり、コンバータステーションは故障にDC電流を供給し続ける可能性がある。そのような望ましくない状況に対する対策として、本開示はまた、例えば、MMCのDC電流コントローラ又は循環電流コントローラがDC電流の上方レベルを制限するために使用される方法の1つ以上の実施形態を想定する。例えば、DC電流は、特定の値を超えて増加する場合、公称値に制限されるか、又は公称値に近くなり得る。これは、次いで、例えばMMCに通常見られる相アームコンデンサエネルギーコントローラと組み合わさって、MMCによって生成されたDC電圧を強制的に低下させて、定格の必要な循環電流を維持することができる。ここで、相アームコンデンサエネルギーコントローラは、例えば、相アームの総相アームエネルギー又は合計コンバータセル電圧を所望の値に維持しようと試みることができる。これにより、MMCのDC極電圧を上方電圧閾値を下回って低下させることができ、これはその後、本明細書に記載の方法によって検出することができ、DC極電圧に基づいてAC有効電流基準及びDC電圧基準を低下させるステップを実行することができる。
【0038】
本明細書で前述もしたように、MMC及びコンバータステーションにおけるDC故障を処理する既存の方法は、DC故障が検出された場合にのみフルブリッジ型又は混合アーム型のMMCの制御動作を開始するDC故障検出に依存し得る。これは、使用されるDC故障検出アルゴリズムのみに依存し得るため、問題となり得る。
【0039】
他励式変換器(LCC)に基づく(HVDC)システムに使用されるDC故障アルゴリズムは、通常、非常にロバストである。このロバスト性を達成するために、アルゴリズムは、保護によって故障が検出されるまでDC故障電流に対する制御を自律的に維持するためのLCC固有の能力を利用するように設計される。しかしながら、電圧を制御する電圧源コントローラ(すなわち、MMC)の場合、DC故障の発生を受けて制御動作に一切の変化がないまま、より長い時間待つことができない。これは、コンバータがDC故障を分離するためにDC電圧を低減することができず、また、コンバータがAC側とDC側との間の電力バランスを維持することもできないためである。
【0040】
その結果、DC故障の検出は、システムのより良好な制御及びロバスト性のために高速である必要がある。しかしながら、DC故障があまりにも速く検出される場合、検出が敏感になり過ぎ、その敏感なスイッチング素子に起因して、コンバータステーションが偶発事故なしにトリップする(例えば停止する)リスクがあり得る。したがって、本開示の方法は、DC故障検出アルゴリズムの速度要件の緩和を可能にするため、DC故障を自律的に処理することができる改善された制御を提供することができる。
【0041】
本明細書では、MMCが、(例えば、測定DC電流に基づいて)DC故障の検出及びその後の処理に適した追加の手段を含むことができることが想定される。
【0042】
図3a、図3b、及び図3cを参照して、本開示によるMMC、コンバータステーション、及び電力伝送システムの様々な実施形態をここでより詳細に説明する。
【0043】
図3aは、MMC300を概略的に示す。直流側では、MMC300は、第1の直流端子321及び第2の直流端子322に接続されている。DC端子321及び322の一方又は両方は、例えば、それぞれのDC極に対応することができる。本明細書に記載されるように、例えば、例としてDC端子321と接地との間に形成される短絡などが存在するように、DC故障323がMMC300に起因して発生し得ることが想定される。
【0044】
交流側では、MMC300は、1つ以上の交流相330に接続される。各AC相330に対して、MMC300は、それぞれの相レッグ313を有する。各相レッグ313は、上方相アーム311及び下方相312を含む。上方相アーム311は、第1のDC端子321とそのそれぞれのAC相330との間に接続され、下方相アーム312は、そのそれぞれのAC相330と第2のDC端子322との間に接続される。相アーム311は、直列に接続された複数のコンバータセル314を含む。本開示では、相アーム311が、フルブリッジ型又は混合型のいずれかのコンバータセル314を含むことが想定される。例えば、混合型では、相アーム311内のコンバータセル314が、フルブリッジとハーフブリッジの両方のコンバータセルの混合であってもよいことが想定される。MMC300が、(フルブリッジ型の)コンバータセル314を使用してDC故障電流をブロックすることにより、DC故障323によって引き起こされるDC故障電流を処理することができるように、フルブリッジ型の少なくともいくつかのコンバータセル314が存在する限り、コンバータセル型の他の組み合わせを使用してもよいことも想定される。
【0045】
MMCは、本開示による方法に従って、例えば、相アーム311及びコンバータセル314を動作させるように構成されたコントローラ340を含む。コントローラ340は、例えば、AC有効電流基準及びDC電圧基準を含む必要な基準を作成し、また本明細書に記載のようにDC極電圧に基づいてそれらの値を低減するために必要なハードウェア及び/又はソフトウェアを含むことができる。
【0046】
コントローラ340がまた、相アーム311及びその中のコンバータセル314を制御するために必要な他のソフトウェア及び/又はハードウェアによって構成されてもよいことが想定される。ここで、「制御する」ことは、例えば、各相アーム311内のコンバータセル314のいずれが、特定の時点において、それぞれのDC端子と、間に相アームが接続されているAC相との間を流れる電流経路から挿入又はバイパスされるかを決定することを含むことができる。無論、「制御すること」は、本明細書で論述も説明もされていない1つ又は多くの他の機能を含み得ることも想定される。例えば、通常動作中(例えば、定常状態動作中)、コントローラ340は、所望に応じてAC側とDC側との間で電力を伝送するために、MMC330がインバータ又は整流器のいずれかとして動作することができるように相アーム311を制御することができる。
【0047】
図3bは、コンバータステーション350を概略的に示す。コンバータステーション350は、直流側に直流端子324及び325を有し、交流側の少なくとも1つの交流グリッド332に接続可能である。コンバータステーション350は、4つのMMC301,302,303,304を含む。少なくとも1つのそのようなMMCは、本明細書中に記載されるようなMMC、例えば、図3aを参照して記載されるMMC300であってもよい。
【0048】
図3cは、電力伝送システム360を概略的に示す。電力伝送システム360は、例えば、HVDC電力伝送システムであってもよい。電力伝送システム360は、DCリンク326を介して接続された少なくとも2つのコンバータステーション351及び352を含む。それぞれのAC側において、コンバータステーション351及び352は、それぞれのACグリッド336及び337に接続されている。図3cでは、電力伝送システム360は、(単一のDCリンク及び接地復路のみを使用する)単極構成にあるものとして示されている。本明細書で定義される電力伝送システムがまた、例えばバイポーラ構成などの他の構成であってもよいことが想定される。
【0049】
要約すると、本開示は、フルブリッジ型又は混合型の相アームを含むMMCのDC故障を処理する改善された方法を提供する。これは、DC電圧の大きさが所定の(上方)電圧閾値を下回るか否かを検出するために、MMCのDC電圧の大きさを監視することによって達成される。この場合、DC電圧の大きさは、MMCのAC有効電流基準の大きさとDC電圧基準の大きさの両方を低減するために使用される。これにより、DC故障が検出され、MMCの従来の手段によって処理される前に、DC故障(又は、むしろ、DCライン障害)を十分な持続時間にわたって自律的に処理することが可能になる。これにより、従来のDC故障検出アルゴリズムに対する速度要件を緩和することが可能になり、MMCの過感度及びトリップのリスクが低減される。
【0050】
さらに、本開示はまた、MMCが(直接的又は間接的に)接続されているDCライン上に深刻なDC電圧及び/又はDC電流障害がある場合の過電流及び/又は高いセル電圧を回避するために、MMCの改善された制御を提供する。そのような障害は、例えばDC故障からのものであり得るが、他の故障/障害からのものである場合もある。言い換えると、本開示はまた、DC電圧(例えば、DC極電圧)及び/又はDCライン電流が異常であっても、異常な高電流ストレス又は異常なセル電圧ストレスを受けることなくMMCを動作させる方法を提供する。
【0051】
さらに、本開示は、DC故障がMMCから遠くで発生する場合のような望ましくない状況を回避する方法も提供する。そのような状況では、本開示は、合計セル電圧制御と組み合わさったDC電流コントローラ(又は循環電流コントローラ)を使用してDC電流が自動的に制限される実施形態を提供する。全体として、本開示は、保護動作が行われ得る前のDC電流測定及びDC故障の実際の検出のみに依拠する従来のDC故障処理と比較して、よりロバストで信頼性が高く、他の過渡及びダイナミクスに対する感度が低い可能性があるDC故障処理に対する解決策を提供する。
【0052】
特徴及び要素は、特定の組み合わせで上述され得るが、各特徴又は要素は、他の特徴及び要素なしで単独で、又は他の特徴及び要素を伴って若しくは伴わずに様々な組み合わせで使用されてもよい。
【0053】
加えて、開示された実施形態に対する変更は、図面、開示、及び添付の特許請求の範囲の研究から当業者によって理解され、請求された発明を実施することができる。特許請求の範囲において、「備える(comprising)」及び「含む(including)」という単語は他の要素を排除するものではなく、不定冠詞「a」又は「an」は複数を除外しない。特定の特徴が相互に異なる従属請求項に列挙されているというだけの事実は、これらの特徴の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。
図1
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c