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特許7310053対人用化粧料含浸シート、対人用化粧料含浸シート用積層不織布
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】対人用化粧料含浸シート、対人用化粧料含浸シート用積層不織布
(51)【国際特許分類】
   A45D 44/22 20060101AFI20230711BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20230711BHJP
   D04H 1/498 20120101ALI20230711BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20230711BHJP
   D04H 3/11 20120101ALI20230711BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20230711BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
A45D44/22 C
D04H1/425
D04H1/498
D04H3/16
D04H3/11
A61K8/06
A61K8/73
A61Q19/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019072026
(22)【出願日】2019-04-04
(65)【公開番号】P2020168226
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(73)【特許権者】
【識別番号】391029325
【氏名又は名称】明星産商株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【弁理士】
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 順也
(72)【発明者】
【氏名】原 吉彦
(72)【発明者】
【氏名】新井 浩
(72)【発明者】
【氏名】大西 春二
(72)【発明者】
【氏名】京塚 渉
(72)【発明者】
【氏名】岩井 克仁
【審査官】村山 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-281003(JP,A)
【文献】特開2018-176522(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0129908(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 44/22
D04H 1/425
D04H 1/498
D04H 3/16
D04H 3/11
A61K 8/06
A61K 8/73
A61Q 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパンボンド不織布である中間層、および前記中間層の両方の表面の側にそれぞれ配置された、コットンを50質量%以上含むコットン表面層を含む積層不織布であって、
前記中間層と、前記コットン表面層とが、繊維同士の交絡により一体化されており、
前記中間層と前記コットン表面層との間のMD方向の剥離強力が1.5N以上であり、
前記スパンボンド不織布が、3N/5cm以上15N/5cm以下のMD方向の破断強度を有し、
前記スパンボンド不織布は、MD方向において破断伸度が3%~10%であり、
前記積層不織布は厚さ変化率が21%以上であり、
湿潤時のMD方向の剛軟度が0.65N以下である、
積層不織布に、化粧料を含浸させてなる対人用化粧料含浸シート。
【請求項2】
前記厚さ変化率は、厚み測定機(商品名 THICKNESS GAUGE モデル CR-60A (株)大栄科学精器製作所製)を用い、300Paおよび2.0kPaの荷重をそれぞれ加えた状態で前記積層不織布の厚さt1およびt2を測定し、以下の式に従って算出した厚さ変化率である、請求項1に記載の対人用化粧料含浸シート:
厚さ変化率(%)=[(t1-t2)/t1]×100。
【請求項3】
比容積が5.0cm/g~15.0cm/gである、請求項1または2に記載の対人用化粧料含浸シート。
【請求項4】
スパンボンド不織布である中間層、および前記中間層の両方の表面の側にそれぞれ配置された、コットンを50質量%以上含むコットン表面層を含む化粧料を含浸させてなる積層不織布であって、
前記中間層と、前記コットン表面層とが、繊維同士の交絡により一体化されており、
前記中間層と前記コットン表面層との間のMD方向の剥離強力が1.5N以上であり、
前記スパンボンド不織布が、3N/5cm以上15N/5cm以下のMD方向の破断強度を有し、
前記スパンボンド不織布は、MD方向において破断伸度が3%~10%であり、
前記積層不織布は厚さ変化率が21%以上であり、
湿潤時のMD方向の剛軟度が0.65N以下である、
化粧料を含浸させてなる対人用化粧料含浸シート用積層不織布。
【請求項5】
前記厚さ変化率は、厚み測定機(商品名 THICKNESS GAUGE モデル CR-60A (株)大栄科学精器製作所製)を用い、300Paおよび2.0kPaの荷重をそれぞれ加えた状態で前記積層不織布の厚さt1およびt2を測定し、以下の式に従って算出した厚さ変化率である、請求項4に記載の対人用化粧料含浸シート用積層不織布:
厚さ変化率(%)=[(t1-t2)/t1]×100。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化粧料を含浸させてなる対人用化粧料含浸シート、及び化粧料を含浸させてなる対人用化粧料含浸シート用積層不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コットン(木綿)を原料繊維として作製した不織布が種々の分野で使用されている。消費者が対人用化粧料含浸シートを選ぶ際には、基材の素材が重視されることがあり、その場合、コットン(木綿)を素材とする対人用化粧料含浸シートが優先的に選ばれることが少なからずある。これは、コットンが天然素材であって、肌に優しく、触感および風合いがよいこと、ならびに天然素材としての使用実績が長く、衣服および衛生材料の素材として広く使用されていて、安全であるという印象を消費者が有していることによる。また、コットンで構成された不織布は、コシがあって手で持ったときにしっかりとした感触を有していて高級感を有すること、コットンの高い吸水性に由来して、比較的大量の化粧料を含浸させた対人用化粧料含浸シートが提供されることも、コットンが根強い人気を有する理由となっている。
【0003】
対人用化粧料含浸シートは、人の顔面の皮膚に所定の化粧料を付与する、または化粧料により人体の皮膚から所定の物質を取り除くために用いられ、人の顔面にあてて使用される。対人用化粧料含浸シートの基材として、不織布が一般的に使用されている。
【0004】
コットンを使用した不織布は、例えば、特許文献1で提案されている。特許文献1は、セルロース系短繊維を50質量%以上含むセルロース系短繊維層の少なくとも一方の表面に、コットンを50質量%以上含むコットン繊維層が位置し、セルロース系短繊維層とコットン繊維層とが繊維同士の交絡により一体化されてなる積層不織布を提案している。この積層不織布の好適な用途の一例として、美容用フェイスマスクが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-9356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、コットンの特徴(例えば、良好な触感等)を活かしつつ、化粧料を含浸させたときの取り扱い性により優れた、対人用化粧料含浸シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、スパンボンド不織布である中間層、および前記中間層の両方の表面の側にそれぞれ配置された、コットンを50質量%以上含むコットン表面層を含む積層不織布であって、
前記中間層と、前記コットン表面層とが、繊維同士の交絡により一体化されており、
前記中間層と前記コットン表面層との間のMD方向の剥離強力が1.5N以上であり、
前記スパンボンド不織布が、17N/5cm以下のMD方向の破断強度を有し、湿潤時のMD方向の剛軟度が0.65N以下である、積層不織布に、化粧料を含浸させてなる対人用化粧料含浸シートを提供する。
【0008】
本開示は、スパンボンド不織布である中間層、および前記中間層の両方の表面の側にそれぞれ配置された、コットンを50質量%以上含むコットン表面層を含む化粧料を含浸させてなる積層不織布であって、
前記中間層と、前記コットン表面層とが、繊維同士の交絡により一体化されており、
前記中間層と前記コットン表面層との間のMD方向の剥離強力が1.5N以上であり、
前記スパンボンド不織布が、17N/5cm以下のMD方向の破断強度を有し、
湿潤時のMD方向の剛軟度が0.65N以下である、
化粧料を含浸させてなる対人用化粧料含浸シート用積層不織布を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態によれば、コットンの特徴、特に良好な触感や風合い等を有しつつ、化粧料を含浸させた状態での取り扱い性に優れた対人用化粧料含浸シートが得られる。したがって、かかる対人用化粧料含浸シートは、取り出しや折り畳まれたものはその状態から広げるときの伸びが抑制され、開封から貼り付け等の使用までの動作をスムーズに行うことが可能で、かつ柔らかくて、触感に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本実施形態に至った経緯)
コットンを使用した不織布を、繊維同士を高圧流体流(特に水流)により交絡させる方法で製造する場合、地合が良好で、かつ強度の大きい不織布を得るには、流体流の圧力を高くして、繊維同士を強く交絡させる必要がある。ここで、地合の良し悪しは、繊維の量が少なく透けて見えるような部分と、繊維の量が多く白っぽい部分とが不織布において混在しているか否かで判断され、そのような混在が顕著であるほど、不織布の地合はより不良である。しかしながら、繊維同士の交絡が強くなると、不織布は硬くなり、風合いが低減し、人体の皮膚と接触する対人用化粧料含浸シートとして用いるために不適切となり得る。
【0011】
そのような事情を考慮して提案された不織布が、特許文献1で提案されたものである。特許文献1に記載の不織布は、コットンのみからなる水流交絡不織布が硬くて、伸びにくいという課題を解決するために、セルロース系短繊維層をコットン繊維層とを組み合わせて、良好な地合と、適度な伸長性を有するようにしたものである。しかしながら、特許文献1に記載の不織布は、液状化粧料を含浸させたときの強度が低くて、伸びやすいために、フェイスマスクとして使用すると、折り畳んだ状態から広げるときにフェイスマスクに伸びが生じやすく、取り扱いにくいという問題のあることがわかった。
【0012】
本発明者らは、コットンの風合いを損なうことなく、取り扱い性に優れた対人用化粧料含浸シートを得るために、コットンを含む2つの繊維層の間に、不織布の強度を確保し、伸びを抑制する繊維層(中間層)が位置する構成の積層不織布をさらに検討した。そして、本発明者らはスパンボンド不織布を中間層として選択し、対人用化粧料含浸シートへの適用を試みた。しかしながら、スパンボンド不織布それ自体は強度が大きいものの、他の繊維層と一体化させるに際して、例えば高圧流体流交絡処理を実施しても、繊維同士が十分に交絡せず、積層不織布において層間剥離が生じやすく、層間剥離を生じさせないためには流体流の圧力を高くする必要があった。その結果、コットンに由来する風合いや柔らかさがやはり損なわれて、対人用化粧料含浸シートとして使用するのに適したものを得ることができなかった。
【0013】
そこで、本発明者らがさらに検討したところ、スパンボンド不織布として、目付が比較的小さくて、MD方向の破断強度が17N/5cm以下である、伸長性がやや高いものを使用すると、繊維同士の交絡が進行しやすいことを見出した。すなわち、そのようなスパンボンド不織布の上下にコットンを含む繊維層を配置して、高圧流体流を作用させると、高圧流体流の圧力を比較的低くしても、スパンボンド不織布とコットン繊維層が層間剥離を生じにくい程度に交絡し、かつコットンの風合いが損なわれず、また湿潤時に柔軟な不織布が得られることを見出した。
以下、本実施形態の対人用化粧料含浸シートを説明する。
【0014】
(スパンボンド不織布)
本実施形態の対人用化粧料含浸シートは、スパンボンド不織布である中間層、および中間層の両方の表面の側にそれぞれ配置された、コットンを50質量%以上含むコットン表面層を含む積層不織布からなり、中間層とコットン表面層とが、繊維同士の交絡により一体化されており、中間層とコットン表面層との間のMD方向の剥離強力が1.5N以上である、積層不織布に、化粧料を含浸させてなる、対人用化粧料含浸シートである。ここではまず、中間層であるスパンボンド不織布を説明する。
【0015】
スパンボンド不織布は、合成樹脂からなる長繊維で構成され、繊維同士が圧着部により一体化された不織布である。圧着部は繊維が繊維を構成する材料(樹脂)によって互いに接着された、厚さのより薄い部分である。本実施形態では、比較的目付が小さく、かつ圧着部による圧着が比較的弱くて、そのためにMD方向の破断強度が17N/5cm以下であるスパンボンド不織布が好ましく用いられる。破断強度はより好ましくは15N/5cm以下であり、さらにより好ましくは13N/5cm以下であり、特に好ましくは10N/5cm以下である。破断強度の下限は、例えば、1N/5cmであり、特に3N/5cmであり、より特には5N/5cmが好ましい。
【0016】
スパンボンド不織布を構成する長繊維を構成する合成樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、およびその共重合体等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン-1、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66のようなポリアミド系樹脂等があげられる。
【0017】
スパンボンド不織布の長繊維は、特に、ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂からなることが好ましい。ポリエステル系樹脂の繊維からなるスパンボンド不織布は、オレフィン系樹脂の繊維からなるものと比べ、親水性が少し高いため、化粧料を積層不織布に含浸させやすくすることがある。
【0018】
長繊維は、1つの樹脂からなる、または複数の樹脂が混合されてなる単一繊維であってよく、あるいは複数の成分からなる複合繊維であってよい。複合繊維である長繊維は、例えば、芯成分と鞘成分とからなる芯鞘型複合繊維であってよい。また、スパンボンド不織布は、2以上の複数の種類の長繊維で構成されていてよい。
【0019】
スパンボンド不織布を構成する長繊維の繊度は、例えば、0.5dtex~7.0dtexであってよく、特に1.0dtex~4.0dtexであってよく、より特には1.2dtex~2.5dtexであってよい。繊度がこの範囲内にあると、コットン表面層との交絡が良好となりやすい。
【0020】
スパンボンド不織布の目付は、例えば、5g/m~30g/mであってよく、特に6g/m~20g/mであってよく、より特には7g/m~15g/mであってよい。目付がこの範囲内にあるスパンボンド不織布は、上記特定値以下の破断強度を有するものとなりやすい。
【0021】
スパンボンド不織布は、例えば、0.05mm~0.20mmの厚さを有してよく、特に0.08mm~0.17mm、より特には0.10mm~0.15mmの厚さを有してよい。
【0022】
スパンボンド不織布は、CD方向において0.1N/5cm~30N/5cmの破断強度、特に0.5N/5cm~10N/5cm、より特には1.0N/5cm~5N/5cmの破断強度を有してよい。また、スパンボンド不織布は、MD方向において、1%~50%の破断伸度、特に2%~30%、より特には3%~10%の破断伸度を有してよく、CD方向において、2%~70%の破断伸度、特に3%~30%、より特には4%~15%の破断伸度を有してよい。本実施形態で用いるスパンボンド不織布は、上記のとおり圧着の度合いが小さいために、比較的小さい機械的強度を有する。
【0023】
本実施形態で用いるスパンボンド不織布は、好ましくはいずれの方向においても伸縮性を有していないものである。ここでいう「伸縮性」とは、JIS L 1096:2010 8.15.1に準じて測定される20%伸長時の伸長回復率が50%以上であることをいう。スパンボンド不織布が伸縮性を有していると、例えば、対人用化粧料含浸シートである、フェイスマスクへの加工(例えば、顔の形状に合わせて打ち抜き加工)が難しくなることがある。
【0024】
(コットン表面層)
次に、スパンボンド不織布の両方の面に配置されるコットン表面層を説明する。
コットン表面層は、コットンを50質量%以上含む。コットンの割合が50質量%以上であると、コットンを用いることによる特性(例えば、良好な触感、風合い、高い吸水性)を得やすく好ましい。コットン表面層は、好ましくはコットンを70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上含み、最も好ましくはコットンのみからなる。
【0025】
コットンは、不織布製造に一般的に用いられているものを任意に使用できる。具体的には、例えば、20~60mm程度の繊維長(平均繊維長)を有するコットンを使用できる。コットン表面層は、繊維長および種類の異なるコットンを複数含んでよい。コットン表面層は平均繊維長が上記の範囲内にある限りにおいて、繊維長10mm程度のコットン(例:コーマ落綿)を含んでよい。平均繊維長は、ステープルダイアグラムを作成し、該ダイアグラムの曲線内の面積を測定し、これを面積の底辺の長さで割ることにより求めることができる。
【0026】
コットン表面層はコットン以外の他の繊維を含んでよい。他の繊維は、シルクおよびウールなどの天然繊維、ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標))等の再生繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維およびポリアミド系繊維、アクリルニトリルからなる(ポリ)アクリルの単一繊維、ならびにポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチックからなる繊維等であってよい。他の繊維が合成繊維である場合、当該合成繊維は単一繊維であってよく、芯鞘型複合繊維のような複合繊維であってもよい。
【0027】
他の繊維の繊度は特に限定されず、例えば0.6dtex以上6dtex以下であり、特に0.8dtex以上4.8dtex以下、より特には1.2dtex以上3.5dtex以下、さらにより特には1.5dtex以上2.5dtex以下である。また、他の繊維の繊維長も特に限定されず、例えば、10mm以上100mm以下、特に25mm以上100mm以下、より特には32mm以上70mm以下であり、さらにより特には38mm以上65mm以下であってよく、コットン表面層の作成方法等に応じて適宜選択される。
【0028】
コットン表面層の目付は、例えば、5g/m~50g/mであってよく、特に10g/m~45g/mであってよく、より特には15g/m~40g/mであってよい。コットン表面層の目付が5g/m以上であると、対人用化粧料含浸シート全体の風合いを維持しやすく好ましく、目付が50g/m以下であると、中間層であるスパンボンド不織布との一体化を向上し易く、層間で剥離を生じ難くなり得、好ましい。
【0029】
スパンボンド不織布の両面にそれぞれ位置するコットン表面層は、同じものであってよく、異なっていてもよい。例えば、一方のコットン表面層の目付が、他方のコットン表面層の目付よりも大きくてよく、あるいは一方のコットン表面層中のコットンの割合が、他方のコットン表面層中のそれよりも大きくてよい。あるいはまた、両方のコットン表面層は、目付およびコットンの割合において互いに異なっていてもよい。
【0030】
[対人用化粧料含浸シート用積層不織布の構成等]
本実施形態の対人用化粧料含浸シートは、スパンボンド不織布である中間層の両方の表面の側に、コットン表面層が配置され、中間層と、コットン表面層とが、繊維同士の交絡により一体化され、かつ中間層とコットン表面層との間のMD方向の剥離強力が1.5N以上である、積層不織布を基材として含む。この積層不織布には、コットン表面層と中間層との一体化が阻害されない限度において、コットン表面層と中間層との間に他の繊維層が含まれてよい。他の繊維層は、例えば、コットン以外の繊維からなる目付の小さい(例えば、10g/m以下の)繊維層である。
【0031】
中間層の繊維とコットン表面層の繊維との交絡は、例えば、高圧流体流処理またはニードルパンチ処理等により実現されたものであってよい。中間層とコットン表面層との一体化の度合い、すなわち繊維同士の交絡の度合いは、コットン表面層と中間層との間で剥離が生じ難く、取り扱い性を維持でき、コットンの柔らかな触感を維持できる度合いに、適宜調整することが、好ましい。
【0032】
本実施形態では、上記のように目付が比較的小さくて、MD方向の破断強度が17N/5cm以下であるスパンボンド不織布を用いることにより、繊維同士の交絡の度合いを比較的弱くしても、層間の剥離が生じにくい本実施形態の対人用化粧料含浸シート用積層不織布(以下、単に「積層不織布」ともいう)を得ることができる。具体的には、積層不織布は、中間層とコットン表面層との間のMD方向の剥離強力が1.5N以上であるとともに、繊維同士の交絡の度合いが比較的弱くて触感が柔らかなものとして提供され得る。
【0033】
本実施形態の積層不織布のMD方向の剥離強力は、例えば、10N以下であることが好ましい。剥離強力が10N以下である場合、風合いの柔らかな積層不織布を得ることがより容易となり得、好ましい。本実施形態の積層不織布のMD方向の剥離強力は、例えば1.7N~6.0Nであってよく、特に2.0N~3.0Nであってよい。
【0034】
本実施形態の積層不織布の風合いの柔らかさ、または積層不織布の柔軟性は、例えば、ハンドルオメータを用いて測定される剛軟度によって示すことができる。具体的には、本実施形態の積層不織布は、乾燥状態で0.20N~0.85Nの剛軟度を有し、特に0.25N~0.80N、より特には0.30N~0.75Nの剛軟度を有してよい。剛軟度は積層不織布の目付によっても変化し得るが、本実施形態によれば、上記特定のスパンボンド不織布を使用し、積層不織布の目付等を適宜選択し、かつ積層不織布の製造において水流交絡処理の際の水圧を小さくすること等によって、前記範囲の剛軟度を有する積層不織布を提供することができる。
【0035】
また、本実施形態の積層不織布は、積層不織布100質量部に対して500質量部の水を含浸させた湿潤状態で測定される、剛軟度が0.65N以下であるものであってよく、特に0.61N以下であるものであってよく、より特には0.55N以下であってよい。本実施形態の積層不織布の柔軟性は液体を含浸させた状態でも発揮される。湿潤状態の剛軟度の下限値は、例えば0.25Nであってよく、特に0.30N、より特には0.35Nであってよい。
【0036】
本実施形態の積層不織布の目付は、例えば、30g/m~100g/mであってよく、特に35g/m~90g/mであってよく、より特には40g/m~80g/mであってよい。
積層不織布の目付が上述の範囲にある場合、コットン表面層の目付と、スパンボンド不織布の目付が、共に適度の量となり得、より適度の量の化粧料を含浸させることができ、積層不織布全体の風合いがより適度となり、剥離強力も適度となり得、より好ましい。
【0037】
本実施形態の積層不織布の比容積は、例えば、5.0cm/g~15.0cm/gであってよく、特に7.0cm/g~13.5cm/g、より特には10.0cm/g~12.0cm/gであってよい。比容積は、積層不織布の目付と厚さから求めることができ、ここで、積層不織布の厚さは試料294Paの荷重を加えた状態で測定されるものとする。積層不織布においては繊維同士の交絡の度合いが比較的弱いため、比較的大きな比容積を有するものとなりやすい。比容積の大きな積層不織布は、ふんわりとした触感を与えやすく、また、繊維間の空隙に比較的多量の化粧料を保持することができる。
【0038】
本実施形態の積層不織布の厚さ変化率は、21%以上であってよく、特に22%以上であってよく、より特には24%以上であってよい。厚さ変化率は、300Paおよび2.0kPaの荷重をそれぞれ加えた状態で厚さt1およびt2を測定し、以下の式に従って算出される。
厚さ変化率(%)=[(t1-t2)/t1]×100
厚さ変化率が大きいと、繊維間の空隙に保持された液体が厚さ方向に加わる力により放出されやすい。したがって、厚さ変化率が大きい不織布を用いた対人用化粧料含浸シートを、皮膚に貼り付けた後、上から軽く押さえると、利用者は化粧料がさらに皮膚に供給される実感を有することができる。
【0039】
本実施形態の積層不織布は、例えば、MD方向の破断伸度が30%~100%であってよく、特に35%~80%であってよく、より特には40%~60%であってよく、CD方向の破断伸度が75%~160%であってよく、特に85%~140%であってよく、より特には95%~120%であってよい。また、積層不織布は、例えば、MD方向の破断強度が20N/5cm~90N/5cmであってよく、特に30N/5cm~80N/5cmであってよく、より特には40N/5cm~70N/5cmであってよく、CD方向の破断強度が5N/5cm~60N/5cmであってよく、特に10N/5cm~50N/5cmであってよく、より特には17N/5cm~40N/5cmであってよい。また、積層不職布は、例えば、MD方向の10%伸長時応力が10N/5cm~30N/5cmであってよく、特に13N/5cm~25N/5cmであってよく、より特には16N/5cm~21N/5cmであってよく、CD方向の10%伸長時応力が0.5N/6cm~10N/5cmであってよく、特に0.5N/5cm~3N/5cmであってよく、より特には1.0N/5cm~1.8N/5cmであってよい。
【0040】
本実施形態の積層不織布を構成するスパンボンド不織布は、圧着の度合いが比較的小さく、機械的強度は比較的小さいが、コットン表面層と一体化されると、コットンと長繊維とが比較的強く絡み合うために、比較的大きな機械的強度を有する積層不織布を与える。
【0041】
[積層不織布の製造方法]
本実施形態の積層不織布は、中間層であるスパンボンド不織布の両面に、コットン表面層となるコットンを含む繊維ウェブ(以下、「コットン繊維ウェブ」)を配置して、積層繊維ウェブを作成し、この積層繊維ウェブに交絡処理を施すことを含む製造方法で製造することができる。
コットン繊維ウェブは、公知の方法で作成することができる。コットン繊維ウェブの形態は、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイウェブ、および湿式抄紙ウェブのいずれの形態であってもよい。スパンボンド不織布の両面に配置するコットン繊維ウェブは、互いに異なっていてよく、例えば、一方がパラレルウェブであって、他方がセミランダムウェブであってよい。
【0042】
繊維間の交絡処理は、好ましくは高圧流体流を噴射する、高圧流体流交絡処理である。高圧流体は、例えば、圧縮空気等の高圧気体、および高圧水等の高圧液体である。不織布の製造においては、高圧流体として高圧水を用いた水流交絡処理を用いることが多く、本実施形態においても、実施の容易性等の点から、水流交絡処理が好ましく用いられる。以下においては、高圧流体として高圧水(以下においては、単に「水流」とも呼ぶ)を用いた場合の製造方法を説明する。
【0043】
水流交絡処理は、例えば、80メッシュ~100メッシュの平織の支持体の上に、積層繊維ウェブを載置して、当該ウェブに水流を噴射して実施してよい。水流交絡処理は、孔径0.05mm~0.5mmのオリフィスが、0.3mm~1.5mmの間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa~5MPaの水流を、ウェブの表裏面にそれぞれ1~5回ずつ噴射することにより実施してよい。水圧は、好ましくは1MPa~3.5MPaであり、より好ましくは1MPa~3MPaである。水圧が高すぎると、得られる積層不織布の湿潤時の剛軟度が高くなり、対人用化粧料含浸シートに適した柔軟性を得られないことがある。ノズルとウェブとの間の距離は、例えば5mm~100mmとしてよく、特に10mm~50mmとしてよい。また、支持体上のウェブの搬送速度は、例えば、2m/分~6m/分としてよい。
【0044】
水流交絡処理を施して得られた積層不織布は乾燥処理に付する。乾燥処理は、例えば、熱風貫通式熱処理機(エアスルー式熱加工機とも呼ぶ)、熱風吹き付け式熱処理機、または赤外線式熱処理機等を用いて実施してよい。
【0045】
[対人用化粧料含浸シートの使用]
本実施形態の対人用化粧料含浸シートは、化粧料を含浸させて用いてよい。化粧料およびその含浸量は、適宜選択される。化粧料のうち、液状化粧料の処方及びその作製方法の一例を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
化粧料(例えば液状化粧料)は、不織布100質量部に対して、例えば、600質量部以上2500質量部以下の含浸量で含浸させてよく、特に600質量部以上1500質量部以下の含浸量で含浸させてよく、より特には700質量部以上1500質量部以下の含浸量で含浸させてよい。ここで、「含浸」という用語には、化粧料を不織布の一方の面または両方の面に塗布することで、化粧料を不織布に担持させることも含むものとする。
【0048】
本実施形態の対人用化粧料含浸シートは、例えば、人の皮膚に一定時間密着させて、含浸させた化粧料を皮膚に供給する、または化粧料の機能を発揮させるものであってよい。あるいは、本実施形態の対人用化粧料含侵シートは、皮膚を擦るように用いることで、化粧料を皮膚に供給ないし塗布する、または化粧料の機能を発揮させるものであってよい。化粧料の機能を発揮させることには、例えば、皮膚に付着した別の化粧料を落とすためのクレンジング等が含まれる。
【0049】
本発明に用いる化粧料としては、例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、クレンジング料、日焼け止め料、制汗組成物、抗菌組成物等の基礎化粧料や、ヘアローション、ヘアミルク、ヘアクリーム、整髪料、染毛剤等の頭髪化粧料、メイクアップ化粧料を挙げることができる。化粧料の剤形としては、例えば、水系、油性系、乳化系(水中油乳化型、油中水乳化型、多価アルコール中油型、油中多価アルコール型)、可溶化系等を挙げる事ができる。使用部位としては、顔面、顔面の一部、頭部、首、胸元、手足等各種使用することができる。
【0050】
液状化粧料の粘度は特に限定されないが、例えば、25℃において1~20000mPa・sを示すものであってよい。粘度値の測定にはブルックフィールド型粘度計を用いることができ、一例として、「単一円筒型回転粘度計-ビスメトロン」(芝浦システム社製)などを用いて測定できる。
【0051】
化粧料は、通常、化粧料に使用される成分、例えば、水、低級アルコール類、多価アルコール類、水溶性高分子、粉体、界面活性剤、油性成分、塩類、pH調整剤、キレート剤、防腐剤、清涼剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、紫外線防止成分、クレンジング成分、香料、保湿成分、角質柔軟成分、制汗成分、美白成分、血行促進成分、痩身成分、細胞賦活成分等の美容成分、抗炎症剤、抗酸化剤、植物抽出物、ビタミン類、アミノ酸類等の成分を配合することができる。また、シートに含浸可能であれば系中に肌の消炎効果を有する酸化亜鉛等やさらさら感を出す為の無水ケイ酸等、種々の粉体を含有するものであっても良い。化粧料を塗布する方法で含侵させる場合、化粧料はシートに塗布されて担持され得るものであればよく、粘性液状、ゲル状、乳液状、クリーム状の形態のものであってよく、この場合にも、化粧料が肌の消炎効果を有する酸化亜鉛等、種々の粉体を含有するものであってもよい。
【0052】
対人用化粧料含浸シートが例えばフェイスマスクである場合、フェイスマスクは、顔を被覆するのに適した形状を有し、さらに、例えば、目、鼻および口に相当する部分に、必要に応じて打ち抜き加工による開口部又は切り込み部が設けられた形態で提供される。あるいは、対人用化粧料含浸シートは、アイマスク、目元用マスクのように顔の一部分(例えば、目、目元、口元、鼻または頬)のみを覆うような形状のものであってよい。あるいはまた、対人用化粧料含浸シートは、目の周囲を覆う要素と、口の周囲を覆う要素とから成るセットとして提供してよく、あるいは首やデコルテ用マスクを含むように3以上の部分を別々に覆う要素のセットとして提供してよい。対人用化粧料含侵シートは、頭髪用や頭皮用マスクのように、頭髪部分を覆うものであってもよい。
【0053】
対人用化粧料含浸シートの使用方法は特に限定されるものではないが、肌に直接貼付して使用する方法や、適用部位に塗布する方法等が挙げられる。
対人用化粧料含浸シートの形状は、通常の方形シートから多角形や丸型等様々な形状のシートを用いることもできる。
【0054】
本実施形態の対人用化粧料含浸シートは、コットン表面層とスパンボンド不織布の中間層とが良好に一体化されているため、使用中、力が加わっても層間剥離が生じにくく、また、繊維同士の不十分な交絡に起因する毛羽立ちが生じにくい。そして、本実施形態の対人用化粧料含浸シートの使用中、どちらの面を皮膚に当てても、コットン表面層が皮膚と接触するので、柔らかな触感が利用者にもたらされる。また、本実施形態の対人用化粧料含浸シートは、剛軟度が比較的小さく、高いドレープ性を有するので、しなやかであり、凹凸を有する部分、特に顔面に密着させやすい。さらに、本実施形態の対人用化粧料含浸シートは、コットンの高い吸液性や、比較的大きな比容積によって高い保水性を示すので、対人用化粧料含浸シートを使用中の利用者は、液量感、すなわち、たっぷりの液状化粧料が皮膚に常に供給されて有効成分が作用する感覚を有することができる。
【0055】
本実施形態の対人用化粧料含浸シートにおいては、中間層のスパンボンド不織布が対人用化粧料含浸シートの過度な伸びを抑制し、また、コットン表面層が不織布に適度なコシを与えるので、本実施形態の対人用化粧料含浸シートは取り扱い性に優れている。例えば、ポップアップ方式で折り畳まれて収納された対人用化粧料含浸シートを容器から取り出すときに、対人用化粧料含浸シートに力が加わっても、対人用化粧料含浸シートに過度な伸びが発生しにくい。また、本実施形態の対人用化粧料含浸シートは、コシがあるため、折り畳まれた状態から開きやすく、また、伸びも生じにくい。
【実施例
【0056】
以下、本実施形態を実施例により説明する。
(実施例1)
コットン(平均繊維長25mm)を100質量%含むコットン繊維ウェブを、パラレルカード機を用いて、目付が20g/mとなるように作成した。コットン繊維ウェブは2枚作成した。
ポリエチレンテレフタレートからなり、熱圧着加工が施された、目付10g/mのスパンボンド不織布(SB1)を用意した。このスパンボンド不織布の機械的特性を表2に示す。なお、機械的特性の測定方法は後述のとおりである。
【0057】
【表2】
【0058】
スパンボンド不織布の両面に、コットン繊維ウェブを積層して積層繊維ウェブを得、これを90メッシュの平織の支持体に載置して、4m/分の速度で搬送しつつ、一方の表面の側から2.0MPaの水圧の水流を1回噴射し、続いてもう一方の表面の側から2.0MPaの水圧の水流を1回噴射する水流交絡処理を行った。水流交絡処理で使用したノズルは、孔径0.1mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルであり、処理中、ノズルと積層繊維ウェブとの間の間隔は20mmとした。次いで、水流交絡処理後の積層繊維ウェブを、80℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて乾燥させて、不織布を得た。
【0059】
(実施例2)
コットン繊維ウェブの目付を25g/mとした以外は実施例1と同様にして不織布を得た。
【0060】
(実施例3)
コットン繊維ウェブの目付を30g/mとした以外は実施例1と同様にして不織布を得た。
【0061】
(実施例4)
水流交絡処理を、一方の表面側から2.5MPaの水圧の水流を1回噴射し、続いてもう一方の表面の側から2.5MPaの水圧の水流を1回噴射して実施したこと以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0062】
(実施例5)
コットン繊維ウェブの目付を25g/mとした以外は実施例4と同様にして不織布を得た。
【0063】
(実施例6)
コットン繊維ウェブの目付を30g/mとした以外は実施例4と同様にして不織布を得た。
【0064】
(実施例7)
水流交絡処理を、一方の表面の側から3.0MPaの水圧の水流を1回噴射し、続いてもう一方の表面の側から3.0MPaの水圧の水流を1回噴射して実施したこと以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0065】
(実施例8)
コットン繊維ウェブの目付を25g/mとした以外は実施例7と同様にして不織布を得た。
【0066】
(実施例9)
コットン繊維ウェブの目付を30g/mとした以外は実施例7と同様にして不織布を得た。
【0067】
(実施例10)
水流交絡処理を、一方の表面の側から3.5MPaの水圧の水流を1回噴射し、続いてもう一方の表面の側から3.5MPaの水圧の水流を1回噴射して実施したこと以外は、実施例3と同様にして不織布を得た。
【0068】
(実施例11)
コットン繊維ウェブの目付を22g/mとしたこと、および水流交絡処理を、一方の表面の側から2.0MPaの水圧の水流を1回噴射し、続いてもう一方の表面の側から2.0MPaの水圧の水流を1回噴射して実施したこと以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0069】
(比較例1)
スパンボンド不織布を、熱圧着の度合いがより強いもの(SB2)に変更した以外は、実施例6と同様にして不織布を得た。このスパンボンド不織布の機械的特性等は表3に示すとおりである。
【0070】
【表3】
【0071】
(比較例2)
水流交絡処理を、一方の表面の側から3.5MPaの水圧の水流を1回噴射し、続いてもう一方の表面の側から3.5MPaの水圧の水流を1回噴射して実施したこと以外は、比較例1と同様にして不織布を得た。
【0072】
(比較例3)
水流交絡処理を、一方の表面の側から1.5MPaの水圧の水流を1回噴射し、続いてもう一方の表面の側から1.5MPaの水圧の水流を1回噴射して実施したこと以外は、実施例3と同様にして不織布を得た。
【0073】
(比較例4)
コットンを100質量%含むコットン繊維ウェブを、パラレルカード機を用いて、目付が70g/mとなるように作成した。このコットン繊維ウェブを90メッシュの平織の支持体に載置して、4m/分の速度で搬送しつつ、一方の表面の側から2.5MPaの水圧の水流を1回噴射し、続いてもう一方の表面の側から2.5MPaの水圧の水流を1回噴射する水流交絡処理を行った。水流交絡処理で使用したノズルおよびノズル-積層繊維ウェブ間の距離は、実施例1のそれらと同じであった。次いで、水流交絡処理後の積層繊維ウェブを、80℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて乾燥させて、不織布を得た。
【0074】
(比較例5)
コットンを100質量%含むコットン繊維ウェブを、パラレルカード機を用いて、目付が26.5g/mとなるように作成した。コットン繊維ウェブは2枚作成した。
木材パルプからなる、目付17g/mの湿式抄紙不織布を用意した。
湿式抄紙不織布の両面に、コットン繊維ウェブを積層して積層繊維ウェブを得、これを90メッシュの平織の支持体に載置して、4m/分の速度で搬送しつつ、一方の表面の側から2.5MPaの水圧の水流を1回噴射し、続いてもう一方の表面の側から2.5MPaの水圧の水流を1回噴射する水流交絡処理を行った。水流交絡処理で使用したノズルおよびノズル-積層繊維ウェブ間の距離は、実施例1のそれらと同じであった。次いで、水流交絡処理後の積層繊維ウェブを、80℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて乾燥させて、不織布を得た。
【0075】
(比較例6)
コットンをビスコースレーヨン(繊度1.7dtex、繊維長40mm)に変更した以外は実施例6と同様にして不織布を得た。
【0076】
(比較例7)
コットン繊維ウェブの目付を22g/mとしたこと、および水流交絡処理を、一方の表面の側から4.5MPaの水圧の水流を1回噴射し、続いてもう一方の表面の側から4.5MPaの水圧の水流を1回噴射して実施したこと以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0077】
実施例1~11、比較例1~7で得た不織布を、不織布のMD方向が顔の縦方向に一致するように、顔面の形状に打ち抜き、目、口、および鼻に対応する箇所に切り込みを入れて、フェイスマスクの形状とした。これに表1に示した処方、作製方法で得た液状化粧料を不織布100質量部に対して約1300質量部となるように含浸させて、試験評価用サンプルを作成した。試験評価用サンプルについて、化粧品評価専門パネル20名が、「柔らかさ」、「密着感」、「液量」、「フェイスマスクの開きやすさ」、「毛羽立ち」について、各自が以下の官能評価基準に従って5段階評価し、サンプル毎に評点を付した。各サンプルの評点は20名のパネルの評点の平均値とし、小数点以下第1位を四捨五入した値を表3に示している。各官能評価の評点の合計点が17点以上を合格とし、特に21点以上であるものを「優」とした。
【0078】
官能評価基準:
「評価結果」:「評点」
非常に良好 :5点
良好 :4点
普通 :3点
やや不良 :2点
不良 :1点
【0079】
また、「フェイスマスクの層間剥離」及び「フェイスマスクの伸び」について以下の評価基準に従って評価した。
「フェイスマスクの層間剥離」評価基準:
フェイスマスクを広げたとき、又は使用している間のいずれかで、剥離が生じなかったものを「○」とし、少しでも剥離が生じたものを「×」とした。
「フェイスマスクの伸び」評価基準:
許容できる伸びを「○」とし、伸びが著しいものと「×」とした。
【0080】
総合評価を、以下の基準に従って決定した。
総合評価「◎」:官能評価の評点の合計が21点以上であり、かつ、「フェイスマスクの層間剥離」及び「フェイスマスクの伸び」の評価がいずれも「○」であるもの。
総合評価「○」:官能評価の評点の合計が17~20点であり、かつ、「フェイスマスクの層間剥離」及び「フェイスマスクの伸び」の評価がいずれも「○」であるもの。
総合評価「×」:官能評価基準の合計点が16点以下である、あるいは、「フェイスマスクの層間剥離」及び「フェイスマスクの伸び」の評価のうち、一方または両方が「×」であるもの。
【0081】
各実施例および各比較例の評価結果を表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
実施例2、3、5、6、8、9の不織布はフェイスマスクに要求される性能を高いレベルで有しており、フェイスマスクとして優れていた。特にコットン特有の柔らかさや密着感と、フェイスマスクの層間剥離や伸びの抑制という、相反する性能を高いレベルで両立している実施例5、6、8、9は非常に優れていた。一方、比較例4や比較例5の不織布は、柔らかさや密着性等という点では優れているが、フェイスマスクの開きやすさや伸びという点では不十分なものであった。比較例1の不織布は、熱圧着の度合いが強いスパンボンド不織布を中間層として用いたために、中間層とコットン表面層との間で繊維同士の交絡が不十分となり、層間剥離が生じやすいものであった。比較例2の不織布は、比較例1と同様の層構成において、層間剥離の発生が抑制されるように高い水圧で水流交絡処理を実施したために、柔らかさ等において評点が低かった。実施例6と比較例6を比べると、フェイスマスクの層間剥離や伸びについては両方とも問題なかったが、官能評価の点では、あらゆる評価項目において、表面層にコットンを使用した実施例6が、表面層にレーヨンを使用した比較例6に比べて優れていた。
【0084】
実施例6、実施例10、比較例1について、湿潤時の剛軟度、MD方向の剥離強力等を測定した。その結果を表5、表6に示す。
なお、測定は以下の方法により実施した。
【0085】
[厚さ]
不織布の厚さは、厚み測定機(商品名 THICKNESS GAUGE モデル CR-60A (株)大栄科学精器製作所製)を用い、300Paの荷重を加えた状態で測定した。
比容積は、不織布の目付と厚さとから計算により求めた。
【0086】
[厚さ変化率]
厚み測定機(商品名 THICKNESS GAUGE モデル CR-60A (株)大栄科学精器製作所製)を用い、300Paおよび2.0kPaの荷重をそれぞれ加えた状態で厚さt1およびt2を測定し、以下の式に従って算出した。
厚さ変化率(%)=[(t1-t2)/t1]×100
【0087】
[剛軟度]
不織布の剛軟度は、JIS L 1096:2010 8.21.5 E法(ハンドルオメータ法)に準じて測定した。具体的には、次の手順で測定した。
縦:20cm、横:20cmの試験片を試料台の上に、試験片の測定方向がスロット(隙間幅10mm)と直角になるように置く。
次に、試料台の表面から8mmまで下がるように調整されたペネトレータのブレードを下降させ、試験片を押し込んだとき、いずれか一方の辺から6.7cm(試験片の幅の1/3)の位置で、縦方向及び横方向それぞれ表裏異なる個所について、押し込みに対する抵抗値を読み取る。抵抗値として、マイクロアンメータの示す最高値(N)を読み取る。4辺の最高値の合計値を求めて3回の平均値を算出して、当該試料の剛軟度とする。
湿潤時(ウェット)の剛軟度は、不織布100質量部に500質量部の蒸留水を含浸させた状態で、不織布の下にポリエチレン製シート(縦23cm、横23cm、厚み0.06mm)を置いて測定した。得られた測定値から、ポリエチレン製シートのみの剛軟度の測定値を引いた値を湿潤時の剛軟度とした。
【0088】
[保水率]
不織布をMD方向×CD方向=100mm×100mmに切断し、不織布の質量を測定した後、蒸留水に2分間浸した。それから、蒸留水を含浸させた不織布の三隅を洗濯ばさみで挟んで吊し、10分経過後の質量を測定して、下記の式に従って保水率を算出した。
保水率(%)=[(M2-M1)/M1]×100
M1:蒸留水を含浸させる前の不織布の質量(g)
M2:蒸留水を含浸させてから10分間吊した後の不織布の質量(g)
【0089】
[破断強度、破断伸度、10%伸長時応力]
JIS L 1096:2010 8.14.1 A法(ストリップ法)に準じて、定速緊張形引張試験機を用いて、試料片の幅5cm、つかみ間隔10cm、引張速度30±2cm/分の条件で引張試験に付し、切断時の荷重値(破断強度)、破断伸度、ならびに10%伸長時応力を測定した。引張試験は、不織布の縦方向(MD方向)および横方向(CD方向)を引張方向として実施した。評価結果はいずれも3点の試料について測定した値の平均で示している。
湿潤時(ウェット)の破断強度等は、不織布100質量部に500質量部の蒸留水を含浸させた状態で測定した。
【0090】
[剥離強力]
長さ15cm(MD方向の寸法)、幅5cm(CD方向の寸法)の試料片を用意し、試料片の両表面にテープ(Tesa製No.4267 75mm×50m)を貼る。なお貼った後、試料片からはみ出したテープは切り取る。一方の表面層(第1表面層)のみを長さ方向に7.5cm中間層から剥離させ、剥離した第1表面層を定速緊張形引張試験機のチャックに2.5cm挟み、残った中間層と表面層(第2表面層)との積層体についても試験機のチャックに2.5cm挟んでつかみ間隔を10cmとする。速度30±2cm/分の条件で引張試験に付して第1表面層と中間層との剥離強力を測定し、その最大値を剥離強力とした。
【0091】
【表5】
【0092】
【表6】
【0093】
実施例6、10および11の不織布は、剛軟度が低い上に、剥離強力が大きいため、これに液状化粧料を含浸させたフェイスマスクは、風合い(肌当たり)が良く、取り扱い性が良かった。実施例10は、水流交絡処理の際の水圧がより高かったために、剥離強力がやや大きく、その分、剛軟度は少し高かった。実施例11の不織布は、目付が小さく、かつ水流交絡処理の際の水圧が小さかったために、より小さな剛軟度を有していた。
【0094】
比較例1の不織布は、剥離強力が低くて、不織布の端で剥離が生じやすく、フェイスマスクとして使用できなかった。また、比較例1の不織布は、破断強度が実施例1よりも小さく、これはスパンボンド不織布とコットン表面層との一体化の度合い、即ち繊維間の交絡の度合いが小さいことによると考えられる。さらに、比較例1の不織布は、スパンボンド不織布の熱圧着の度合いがより高いことに起因して、湿潤状態の剛軟度が0.65Nをやや上回り、柔軟性にやや劣っていた。比較例7の不織布は、水流交絡処理の際の水圧が高かったために、湿潤状態の剛軟度が0.65Nを超え、柔軟性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本実施形態の対人用化粧料含浸シートは、良好な触感および柔軟性等有しつつ、化粧料を含浸させたときの取り扱い性により優れる。