(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20230711BHJP
【FI】
B41J2/335 101F
B41J2/335 101C
(21)【出願番号】P 2019195338
(22)【出願日】2019-10-28
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】西 宏治
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-210076(JP,A)
【文献】特開2019-147300(JP,A)
【文献】特開2011-156665(JP,A)
【文献】実開平02-082537(JP,U)
【文献】特開2012-162018(JP,A)
【文献】米国特許第05745147(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/335
B41J 2/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に形成され、主走査方向に延びる帯状であり且つ主走査方向と直角である断面の形状が前記基板の厚さ方向に膨出した形状であるヒーターグレーズと、
前記ヒーターグレーズ上に形成された抵抗体層と、
前記抵抗体層に通電するための電極層と、
少なくとも前記抵抗体層を覆う保護層と、
を備え、
前記保護層は、
前
記厚さ方向視において前記抵抗体層に重なる第1部、および、前記抵抗体層に重ならず且つ前記第1部より厚い第2部を有する第1保護層と、
前記第1保護層に対して前記基板とは反対側に配置され、前
記厚さ方向視において少なくとも前記抵抗体層に重なる第2保護層と、
を備え、
前記第2部は、前記断面において前記基板から最も離れた第2部頂部を備え、
前記ヒーターグレーズは、前記断面において前記基板から最も離れたグレーズ頂部を備え、
前記基板から前記第2部頂部までの前記厚さ方向の寸法は、前記基板から前記グレーズ頂部までの前記厚さ方向の寸法より大き
く、
前記第1保護層は、第1層と、前記厚さ方向視において前記第1層の一部に重なる第2層とを備えており、
前記第1部は、前記第1層のうち前記第2層から延出した部分によって構成され、
前記第2部は、前記第1層および前記第2層の一部ずつによって構成されている、
サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記第2層は、前記第1層に対して前記基板側に配置されている、
請求項
1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
基板と、
前記基板に形成され、主走査方向に延びる帯状であり且つ主走査方向と直角である断面の形状が前記基板の厚さ方向に膨出した形状であるヒーターグレーズと、
前記ヒーターグレーズ上に形成された抵抗体層と、
前記抵抗体層に通電するための電極層と、
少なくとも前記抵抗体層を覆う保護層と、
を備え、
前記保護層は、
前
記厚さ方向視において前記抵抗体層に重なる第1部、および、前記抵抗体層に重ならず且つ前記第1部より厚い第2部を有する第1保護層と、
前記第1保護層に対して前記基板とは反対側に配置され、前
記厚さ方向視において少なくとも前記抵抗体層に重なる第2保護層と、
を備え、
前記第2部は、前記断面において前記基板から最も離れた第2部頂部を備え、
前記ヒーターグレーズは、前記断面において前記基板から最も離れたグレーズ頂部を備え、
前記基板から前記第2部頂部までの前記厚さ方向の寸法は、前記基板から前記グレーズ頂部までの前記厚さ方向の寸法より大き
く、
前記第1部の厚さは、前記第2部の厚さの半分以下である、
サーマルプリントヘッド。
【請求項4】
基板と、
前記基板に形成され、主走査方向に延びる帯状であり且つ主走査方向と直角である断面の形状が前記基板の厚さ方向に膨出した形状であるヒーターグレーズと、
前記ヒーターグレーズ上に形成された抵抗体層と、
前記抵抗体層に通電するための電極層と、
少なくとも前記抵抗体層を覆う保護層と、
を備え、
前記保護層は、
前
記厚さ方向視において前記抵抗体層に重なる第1部、および、前記抵抗体層に重ならず且つ前記第1部より厚い第2部を有する第1保護層と、
前記第1保護層に対して前記基板とは反対側に配置され、前
記厚さ方向視において少なくとも前記抵抗体層に重なる第2保護層と、
を備え、
前記第2部は、前記断面において前記基板から最も離れた第2部頂部を備え、
前記ヒーターグレーズは、前記断面において前記基板から最も離れたグレーズ頂部を備え、
前記基板から前記第2部頂部までの前記厚さ方向の寸法は、前記基板から前記グレーズ頂部までの前記厚さ方向の寸法より大き
く、
前記第1部は、前記第2保護層より熱伝導率が低く、前記第2保護層より薄い、
サーマルプリントヘッド。
【請求項5】
前記第1部の厚さは、前記第2保護層の厚さの半分以下である、
請求項
4に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項6】
前記第1部は、前記断面において前記基板から最も離れた第1部頂部を備え、
前記基板から前記第2部頂部までの前記厚さ方向の寸法は、前記基板から前記第1部頂部までの前記厚さ方向の寸法より小さい、
請求項
1ないし5のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項7】
前記第2部は、副走査方向において前記抵抗体層より上流側に位置する上流側第2部と、下流側に位置する下流側第2部とを備える、
請求項
6に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項8】
前記上流側第2部が、前記第2部頂部を有する、
請求項
7に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項9】
前記第2部は、副走査方向において前記抵抗体層と前記上流側第2部との間に位置する分離第2部をさらに備え、
前記分離第2部が、前記第2部頂部を有する、
請求項
7に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項10】
前記下流側第2部は、前記断面において前記基板から最も離れた第2部第2頂部を備え、
前記基板から前記第2部第2頂部までの前記厚さ方向の寸法は、前記基板から前記グレーズ頂部までの前記厚さ方向の寸法より大きく、前記基板から前記第1部頂部までの前記厚さ方向の寸法より小さい、
請求項
8または
9に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項11】
基板と、
前記基板に形成され、主走査方向に延びる帯状であり且つ主走査方向と直角である断面の形状が前記基板の厚さ方向に膨出した形状であるヒーターグレーズと、
前記ヒーターグレーズ上に形成された抵抗体層と、
前記抵抗体層に通電するための電極層と、
少なくとも前記抵抗体層を覆う保護層と、
を備え、
前記保護層は、
前
記厚さ方向視において前記抵抗体層に重なる第1部、および、前記抵抗体層に重ならず且つ前記第1部より厚い第2部を有する第1保護層と、
前記第1保護層に対して前記基板とは反対側に配置され、前
記厚さ方向視において少なくとも前記抵抗体層に重なる第2保護層と、
を備え、
前記第1部は、前記断面において前記基板から最も離れた第1部頂部を備え、
前記第2部は、前記断面において前記基板から最も離れた第2部頂部
と、副走査方向において、前記抵抗体層より上流側に位置する上流側第2部と、下流側に位置する下流側第2部と、前記抵抗体層と前記上流側第2部との間に位置する分離第2部と、を備え、
前記ヒーターグレーズは、前記断面において前記基板から最も離れたグレーズ頂部を備え、
前記基板から前記第2部頂部までの前記厚さ方向の寸法は、前記基板から前記グレーズ頂部までの前記厚さ方向の寸法より大き
く、
前記基板から前記第2部頂部までの前記厚さ方向の寸法は、前記基板から前記第1部頂部までの前記厚さ方向の寸法より小さく、
前記分離第2部が、前記第2部頂部を有する、
サーマルプリントヘッド。
【請求項12】
前記下流側第2部は、前記断面において前記基板から最も離れた第2部第2頂部を備え、
前記基板から前記第2部第2頂部までの前記厚さ方向の寸法は、前記基板から前記グレーズ頂部までの前記厚さ方向の寸法より大きく、前記基板から前記第1部頂部までの前記厚さ方向の寸法より小さい、
請求項
11に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項13】
前記第1部の厚さは、2μm以下である、
請求項1ないし
12のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項14】
前記第2部の厚さは、5.5~13.5μmである、
請求項1ないし
13のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項15】
前記第2部は、前記厚さ方向視において、前記ヒーターグレーズに重なる、
請求項1ないし
14のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項16】
前記第1保護層は、非晶質ガラスにより形成されている、
請求項1ないし
15のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項17】
前
記厚さ方向視において、前記第1部の全体は、前記第2保護層に重なる、
請求項1ないし
16のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サーマルプリントヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来のサーマルプリントヘッドの一例が開示されている。同文献に開示されたサーマルプリントヘッドは、基板、電極層、抵抗体層および保護層を備えている。電極層はフォトエッチングによって基板に積層され、抵抗体層は電極層の上面に配設されている。保護層は、抵抗体層および電極層を覆うように積層されている。保護層は、ガラスを主成分としたガラスペーストを塗布して焼成することにより形成されている。
【0003】
近年、印字速度の高速化が求められている。印字速度が高速化すると、保護層の摩耗量が大きくなる。したがって、サーマルプリントヘッドの耐久性が低下する。このことは、抵抗体層上の保護層を薄く形成する場合に、より問題になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、保護層の摩耗量を抑制できるサーマルプリントヘッドを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によって提供されるサーマルプリントヘッドは、基板と、前記基板に形成され、主走査方向に延びる帯状であり且つ主走査方向と直角である断面の形状が前記基板の厚さ方向に膨出した形状であるヒーターグレーズと、前記ヒーターグレーズ上に形成された抵抗体層と、前記抵抗体層に通電するための電極層と、少なくとも前記抵抗体層を覆う保護層とを備え、前記保護層は、前記基板の厚さ方向視において前記抵抗体層に重なる第1部、および、前記抵抗体層に重ならず且つ前記第1部より厚い第2部を有する第1保護層と、前記第1保護層に対して前記基板とは反対側に配置され、前記基板の厚さ方向視において少なくとも前記抵抗体層に重なる第2保護層とを備え、前記第2部は、前記断面において前記基板から最も離れた第2部頂部を備え、前記ヒーターグレーズは、前記断面において前記基板から最も離れたグレーズ頂部を備え、前記基板から前記第2部頂部までの前記厚さ方向の寸法は、前記基板から前記グレーズ頂部までの前記厚さ方向の寸法より大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示のサーマルプリントヘッドによれば、保護層の摩耗量を抑制できる。
【0008】
本開示のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す平面図である。
【
図3】
図1のサーマルプリントヘッドを示す要部拡大平面図である。
【
図4】
図3のIV-IV線に沿う要部拡大断面図である。
【
図5】
図1のサーマルプリントヘッドの要部拡大断面図である。
【
図6】
図1のサーマルプリントヘッドの要部拡大断面図である。
【
図7】印字凸部の形状と摩耗量との関係を説明するためのサーマルプリントヘッドの模式的な断面図である。
【
図8】
図1のサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部拡大断面図である。
【
図9】
図1のサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部拡大断面図である。
【
図10】
図1のサーマルプリントヘッドの製造方法の一例を示す要部拡大断面図である。
【
図11】本開示の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部拡大断面図である。
【
図12】本開示の第3実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部拡大断面図である。
【
図13】本開示の第4実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部拡大断面図である。
【
図14】本開示の第5実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0011】
<第1実施形態>
図1~
図6は、本開示に係るサーマルプリントヘッドの一例を示している。本実施形態のサーマルプリントヘッドA1は、基板1、グレーズ層2、電極層3、抵抗体層4、保護層5、駆動IC71、封止樹脂72、コネクタ73、配線基板74および放熱部材75を備えている。サーマルプリントヘッドA1は、プラテンローラ81との間に挟まれて搬送される印刷媒体82に印刷を施すプリンタに組み込まれるものである。このような印刷媒体82としては、たとえばバーコードシートやレシートを作成するための感熱紙が挙げられる。
【0012】
図1は、サーマルプリントヘッドA1を示す平面図である。
図2は、
図1のII-II線に沿う断面図である。
図3は、サーマルプリントヘッドA1を示す要部拡大平面図である。
図4は、
図3のIV-IV線に沿う要部拡大断面図である。
図5~
図6は、サーマルプリントヘッドA1を示す要部拡大断面図である。なお、理解の便宜上、
図1および
図3においては、保護層5を省略している。また、これらの図において、サーマルプリントヘッドA1の長手方向(主走査方向)をx方向とし、短手方向(副走査方向)をy方向とし、厚さ方向をz方向として説明する。また、y方向については、
図1および
図3の下方(
図2および
図4の左方)を印刷媒体が送られてくる上流側とし、
図1および
図3の上方(
図2および
図4の右方)を印刷媒体が排出される下流側とする。以下の図においても同様である。
【0013】
基板1は、たとえばAlN、Al
2O
3、ジルコニアなどのセラミックからなり、たとえばその厚さが0.6~1.0mm程度とされている。
図1に示すように、基板1は、x方向に長く延びる長矩形状とされている。基板1は、ヒーターグレーズ形成領域11を有する。ヒーターグレーズ形成領域11は、後述するヒーターグレーズ22が形成される領域である。また、基板1は、第2保護層形成領域12を有する。第2保護層形成領域12は、z方向視において、第2保護層52に重なる領域である。基板1の下面には、たとえばAlなどの金属からなる放熱部材75が設けられている。本実施形態では、サーマルプリントヘッドA1は、基板1に加えて、配線基板74を備えている。配線基板74は、たとえばガラスエポキシ樹脂からなる基材層とCuなどからなる配線層とが積層された基板である。基板1および配線基板74は、放熱部材75上で、互いに隣接して配置され、基板1上の駆動IC71と配線基板74の配線とが、ワイヤ61によって接続されている。配線基板74には、
図1および
図2に示すコネクタ73が設けられている。なお、サーマルプリントヘッドA1は、配線基板74を備えず、コネクタ73が基板1に設けられていてもよい。また、基板1、配線基板74および放熱部材75の材料や寸法は限定されない。
【0014】
グレーズ層2は、基板1上に形成されており、たとえば非晶質ガラスなどのガラス材料からなる。このガラス材料の軟化点は、たとえば800~850℃である。グレーズ層2は、ガラスペーストを厚膜印刷したのちに、これを焼成することにより形成されている。本実施形態においては、基板1の図中上面すべてがグレーズ層2によって覆われている。
【0015】
本実施形態においては、
図4に示すように、グレーズ層2は、ヒーターグレーズ22およびガラス層23を有する。ヒーターグレーズ22は、x方向と直角である断面の形状がz方向に膨出した形状であり、x方向に長く延びるz方向視帯状である。ヒーターグレーズ22は、グレーズ頂部223を有する。
図5および
図6に示すように、グレーズ頂部223は、x方向と直角である断面(以下では、「yz断面」とする)において、ヒーターグレーズ22のうち基板1から最も離れた部分であり、x方向に延びている。また、
図4に示すように、ヒーターグレーズ22は、露出領域221を有する。露出領域221は、後述の個別電極帯状部38のy方向先端から露出した領域である。また、
図4~
図6に示すように、ヒーターグレーズ22は、露出面222を有する。露出面222は、ガラス層23に重ならず、ガラス層23から露出した面である。ガラス層23は、ヒーターグレーズ22に隣接して形成されており、上面が平坦な形状である。ガラス層23は、ヒーターグレーズ22の一部に重なっている。ガラス層23は、曲面231を有する。曲面231は、ガラス層23のy方向一端に位置する面であり、凸状の曲面である。
【0016】
なお、グレーズ層2の構成は特に限定されず、様々な構成とすることができる。また、グレーズ層2は、基板1の一部のみを覆う構成であってもよい。
【0017】
電極層3は、抵抗体層4に通電するための経路を構成するためのものであり、導電性材料によって形成されている。電極層3は、たとえば添加元素としてロジウム、バナジウム、ビスマス、シリコンなどが添加されたレジネートAuからなる。電極層3は、レジネートAuのペーストを厚膜印刷したのちに、これを焼成することにより形成されている。電極層3は、複数のAu層を積層させることによって構成してもよい。電極層3の厚さは、たとえば0.6~1.2μm程度である。本実施形態においては、電極層3は、グレーズ層2上に形成されている。
図3に示すように、電極層3は、共通電極33および複数の個別電極36を有している。
【0018】
共通電極33は、複数の共通電極帯状部34および連結部35を有している。連結部35は、基板1のy方向下流側端寄りに配置されており、x方向に延びる帯状である。複数の共通電極帯状部34は、各々が連結部35からy方向に延びており、x方向に等ピッチで配列されている。また、本実施形態においては、連結部35には、Ag層351が積層されている。Ag層351は、連結部35の抵抗値を低減させるためのものである。
【0019】
複数の個別電極36は、抵抗体層4に対して部分的に通電するためのものであり、共通電極33に対して逆極性となる部位である。個別電極36は、抵抗体層4から駆動IC71に向かって延びている。複数の個別電極36は、x方向に配列されており、各々が個別電極帯状部38、連結部37およびボンディング部39を有している。
【0020】
各個別電極帯状部38は、y方向に延びた帯状部分であり、共通電極33の隣り合う2つの共通電極帯状部34の間に位置している。隣り合う個別電極36の個別電極帯状部38と共通電極33の共通電極帯状部34との間隔はたとえば40μm以下となっている。
【0021】
連結部37は、個別電極帯状部38から駆動IC71に向かって延びる部分である。連結部37は、平行部371および斜行部372を有する。平行部371は、一端がボンディング部39につながり、かつy方向に沿っている。斜行部372は、y方向に対して傾斜している。斜行部372は、y方向において平行部371と、個別電極帯状部38との間に挟まれている。また、複数の個別電極36は、駆動IC71に集約される。このため、
図3におけるx方向における一端側での平行部371および斜行部372の境界と、他端側での平行部371および斜行部372の境界とは、y方向にずれL1が生じている。
【0022】
ボンディング部39は、個別電極36のy方向端部に形成されており、平行部371に繋がっている。ボンディング部39には、個別電極36と駆動IC71とを接続するためのワイヤ61がボンディングされている。複数のボンディング部39は、第1ボンディング部39Aと第2ボンディング部39Bとを含む。隣り合う2つの第1ボンディング部39Aに挟まれた平行部371の幅(x方向における長さ)は、たとえば10μm以下とされている。また、第2ボンディング部39Bは、y方向において第1ボンディング部39Aよりも抵抗体層4から遠ざかる側に位置する。第2ボンディング部39Bは、隣り合う2つの第1ボンディング部39Aに挟まれた平行部371につながっている。このような構成により、複数のボンディング部39は、連結部37のほとんどの部位よりも幅が大きいにも関わらず、たがいに干渉することが回避されている。連結部37のうち隣り合う第1ボンディング部39Aに挟まれた部位は、個別電極36において最も幅が小さい。
【0023】
なお、電極層3の各部の形状および配置は特に限定されず、様々な構成とすることができる。また、電極層3の各部の材料も限定されない。
【0024】
抵抗体層4は、電極層3を構成する材料よりも抵抗率が大であるたとえば酸化ルテニウムなどからなり、ヒーターグレーズ22上でx方向に延びる帯状に形成されている。抵抗体層4は、共通電極33の複数の共通電極帯状部34と複数の個別電極36の個別電極帯状部38とに交差している。さらに、抵抗体層4は、共通電極33の複数の共通電極帯状部34と複数の個別電極36の個別電極帯状部38に対して基板1とは反対側に積層されている。抵抗体層4のうち各共通電極帯状部34と各個別電極帯状部38とに挟まれた部位が、電極層3によって部分的に通電されることにより発熱する発熱部41とされている。発熱部41の発熱によって印字ドットが形成される。抵抗体層4の厚さは、たとえば3~6μmである。なお、抵抗体層4の材料および厚さは限定されない。本実施形態においては、
図5および
図6に示すように、抵抗体層4は、z方向視において、ヒーターグレーズ22のグレーズ頂部223と重なるように設けられている。また、抵抗体層4は、抵抗体頂部43を有する。抵抗体頂部43は、z方向視においてグレーズ頂部223に重なる部分であって、yz断面において抵抗体層4のうち基板1から最も離れた部分であり、x方向に延びている。なお、抵抗体層4は、必ずしもグレーズ頂部223に重なる必要はなく、ヒーターグレーズ22上に形成されていればよい。この場合、yz断面において抵抗体層4のうち基板1から最も離れた部分が抵抗体頂部43であり、抵抗体頂部43は、グレーズ頂部223より基板1から離れている。
【0025】
保護層5は、電極層3および抵抗体層4を保護するためのものであり、抵抗体層4および電極層3のほぼ全体を覆っている。ただし、保護層5は、複数の個別電極36のボンディング部39を含む領域を露出させている。保護層5は、曲面55を有する。曲面55は、保護層5のy方向一端に位置する面であり、凸状の曲面である。保護層5は、第1保護層51および第2保護層52を備えている。
【0026】
第1保護層51は、抵抗体層4および電極層3に直接当接する。
図4に示すように、第1保護層51は、y方向において、基板1の下流側端縁手前(たとえば端縁より0.1~0.5mm手前)から個別電極36のボンディング部39の手前にわたる領域に形成されており、電極層3の大部分を覆っている。なお、第1保護層51は、y方向において、基板1の下流側端縁まで形成されていてもよい。第1保護層51は、たとえば非晶質ガラスなどのガラス材料からなる。このガラス材料の軟化点は、たとえば700℃程度である。第1保護層51は、
図4に示すように、第1部511および第2部512を備えている。
【0027】
第1部511は、第1保護層51のうち相対的に薄く形成されている部分である。第1部511は、z方向視において抵抗体層4の印字に寄与する部分の全体を覆っている。本実施形態では、第1部511は、ヒーターグレーズ22上に形成されている。第1部511の厚さt1は、たとえば0.5~3.5μm程度であり、第2保護層52の厚さt2より薄い(
図5参照)。本実施形態では、第1部511の厚さt1は2μm程度であり、第2保護層52の厚さt2の半分以下である。第1部511の厚さt1は、より薄い方が好ましく、少なくとも2μm以下であるのが望ましい。
【0028】
第2部512は、第1保護層51のうち相対的に厚く形成されている部分である。第2部512は、z方向視において抵抗体層4に重ならない。
図5および
図6に示すように、第2部512は、第3部5121および第4部5122を備えている。第3部5121は、z方向視においてヒーターグレーズ22に重なる部分である。また、第4部5122は、z方向視においてヒーターグレーズ22に重ならない部分である。つまり第2部512は、z方向視において、ヒーターグレーズ22に重なっている。
【0029】
本実施形態においては、第1部511および第2部512を有する第1保護層51を形成する手法として、第1層51aおよび第2層51bを形成する手法を採用している。より具体的には、第1保護層51は、第2層51bを形成した後、第1層51aを形成することで形成される。この手法では、まず、ガラスペーストを厚膜印刷したのちに、これを焼成することによって、第2層51bが形成される。そして、第2層51bが形成された後、ガラスペーストを厚膜印刷し、これを焼成することによって、第1層51aが形成される。本実施形態では、第1層51aおよび第2層51bは同じ材料からなるので、第1保護層51において、第1層51aと第2層51bとの境界は識別できない。
図4~
図6においては、第1層51aと第2層51bとの境界を破線で示している。なお、第1層51aおよび第2層51bの材料および形成方法は限定されない。第1層51aと第2層51bとが異なる材料で形成されてもよい。
【0030】
第1層51aは、第1保護層51が形成されるすべての領域に及んでいる。第1層51aの厚さt1は、たとえば0.5~3.5μm程度であり、本実施形態では2μm程度である。
【0031】
第2層51bは、第1層51aと電極層3との間に介在し、z方向視において、ヒーターグレーズ22に重なっている。第2層51bの厚さは、たとえば5~10μm程度であり、本実施形態では7.5μm程度である。第2層51bの厚さは、第2保護層52より厚いのが望ましい。
【0032】
第2層51bと第1層51aとが重なった部分が第2部512になる。つまり、第2部512は、第1層51aおよび第2層51bの一部ずつによって構成されている。また、第2部512の厚さt3は、第1層51aと第2層51bとを合わせた厚さである(
図5参照)。第1層51aのうち第2層51bと重ならない部分が第1部511になる。つまり、第1部511は、第1層51aのうち第2層51bから延出した部分によって構成され、第1層51aのみからなる。したがって、第1部511の厚さt1は、第1層51aの厚さt1である。また、第1層51aは第1部511および第2部512にわたって延びており、第2層51bは第2部512にのみ存在するとも言える。
【0033】
図4に示すように、第2部512は、y方向において第1部511を挟んで、上流側と下流側とに形成される。第2部512を上流側と下流側とで分けて説明する場合、第1部511に対してy方向上流側に形成される第2部512を上流側第2部512aとし、第1部511に対してy方向下流側に形成される第2部512を下流側第2部512bとする。y方向において、上流側第2部512aは抵抗体層4より上流側に位置し、下流側第2部512bは抵抗体層4より下流側に位置する。
【0034】
図4および
図5に示すように、上流側第2部512aは、上流側第2部頂部516aを有する。上流側第2部頂部516aは、上流側第2部512aのy方向下流側端部付近に形成され、yz断面において上流側第2部512aのうち基板1から最も離れた部分であり、x方向に延びている。上流側第2部512aのy方向下流側端部はヒーターグレーズ22上に位置するので、当該端部が抵抗体層4に近づくほど、上流側第2部頂部516aのz方向の位置は基板1から離れる。
図4および6に示すように、下流側第2部512bは、下流側第2部頂部516bを有する。下流側第2部頂部516bは、下流側第2部512bのy方向上流側端部付近に形成され、yz断面において下流側第2部512bのうち基板1から最も離れた部分であり、x方向に延びている。下流側第2部512bのy方向上流側端部はヒーターグレーズ22上に位置するので、当該端部が抵抗体層4に近づくほど、下流側第2部頂部516bのz方向の位置は基板1から離れる。また、
図5および
図6に示すように、第1部511は、第1部頂部517を有する。第1部頂部517は、z方向視において抵抗体頂部43に重なる部分であって、yz断面において第1部511のうち基板1から最も離れた部分であり、x方向に延びている。
【0035】
本実施形態においては、
図5に示すように、z方向において、上流側第2部頂部516aは、グレーズ頂部223と第1部頂部517との間に位置する。すなわち、基板1から上流側第2部頂部516aまでの距離(z方向の寸法)haは、基板1からグレーズ頂部223までの距離(z方向の寸法)h1より大きく、基板1から第1部頂部517までの距離(z方向の寸法)h2より小さい。また、
図6に示すように、z方向において、下流側第2部頂部516bは、グレーズ頂部223と第1部頂部517との間に位置する。すなわち、基板1から下流側第2部頂部516bまでの距離(z方向の寸法)hbは、基板1からグレーズ頂部223までの距離h1より大きく、基板1から第1部頂部517までの距離h2より小さい。本実施形態においては、距離haと距離hbとは同程度である。本実施形態においては、上流側第2部頂部516aが本開示の「第2部頂部」に相当し、下流側第2部頂部516bが本開示の「第2部第2頂部」に相当する。
【0036】
第1保護層51は、薄保護膜領域513を有する。薄保護膜領域513は、第1部511の一部である。第1部511は、第1層51aのうち第2層51bと重ならない部分であり、第2部512と比べて薄くなっている部分である。第1部511のうち第2部512に隣接している部分では、第2部512の厚さt3から徐々に薄くなって、第1層51aの厚さt1になる。薄保護膜領域513は、この隣接部分を含まない領域である。また、
図4に示すように、第1保護層51は、第2保護層形成領域515を有している。第2保護層形成領域515は、第2保護層52が形成される領域である。
【0037】
第2保護層52は、第1保護層51の外側(基板1とは反対側)に形成されている。第2保護層52は、z方向視において、第1保護層51の第1部511の全体を覆って、第2部512に重なるように形成されている。本実施形態では、第2保護層52は、y方向において、第1保護層51のy方向下流側の端縁から個別電極36の斜行部372の中央付近にわたる領域に形成されている。また、本実施形態では、第2保護層52は、第1保護層51のy方向下流側の端部を覆って基板1に接しており、第1保護層51の端部から第2保護層52の厚みの分だけy方向下流側まで形成されている。したがって、基板1の第2保護層形成領域12は、第1保護層51の第2保護層形成領域515より、y方向下流側まで広がっている。なお、第2保護層52が形成される範囲は限定されず、第2保護層52は、z方向視において、少なくとも抵抗体層4の印字に寄与する部分の全体を覆っていればよい。ただし、第2保護層52は、z方向視において第1部511の全体を覆うように形成されるのが望ましい。第2保護層52は、第1保護層51の全体を覆ってもよい。
図4に示すように、第2保護層52は、曲面521を有する。曲面521は、第2保護層52のy方向上流側端部に位置する面であり、凸状の曲面である。また、
図5および
図6に示すように、第2保護層52は、第2保護層上流側頂部522a、第2保護層下流側頂部522b、および第2保護層頂部523を有する。第2保護層上流側頂部522aは、z方向視において上流側第2部頂部516aに重なる部分であり、x方向に延びている。第2保護層下流側頂部522bは、z方向視において下流側第2部頂部516bに重なる部分であり、x方向に延びている。第2保護層頂部523は、z方向視において第1部頂部517に重なる部分であり、x方向に延びている。
【0038】
本実施形態では、第2保護層52は、例えばSiALONにより形成されている。SiALONは、チッ化珪素(Si
3N
4)にアルミナ(Al
2O
3)とシリカ(SiO
2)を合成したチッ化珪素系のエンジニアリングセラミックスである。第2保護層52は、例えばスパッタリング法によって形成される。したがって、第2保護層52の厚さは全領域で均一であり、第1保護層51の表面形状がそのまま第2保護層52の表面形状として表れる。第2保護層52の厚さt2は、たとえば3~6μm程度であり、第1保護層51の第1部511の厚さt1より厚い(
図5参照)。つまり、第1保護層51の第1部511の厚さt1は、第2保護層52の厚さt2より薄い。なお、第2保護層52の厚さt2は限定されず、第1保護層51の第1部511の厚さt1より薄くてもよい。第2保護層52は、熱伝導率が第1保護層51の第1部511の熱伝導率の70~80倍であり、熱伝導性に優れている。なお、第2保護層52は、熱伝導率が第1部511の熱伝導率よりも高い材料であればよく、たとえばSiCなどにより形成されていてもよい。また、第2保護層52は、Siを主成分とするものに限られず、たとえばC(炭素)を主成分とするものなどの他の材料により形成されていてもよい。第2保護層52は、熱伝導性、耐摩耗性、耐熱性に優れているものが望ましい。特に、第2保護層52の熱伝導率は、少なくとも第1保護層51の熱伝導率の10倍以上であるのが望ましい。
【0039】
駆動IC71は、複数の個別電極36を選択的に通電させることにより、抵抗体層4を部分的に発熱させる機能を果たす。駆動IC71には、複数のパッドが設けられている。駆動IC71のパッドと複数の個別電極36とは、それぞれにボンディングされた複数のワイヤ61を介して接続されている。ワイヤ61は、たとえばAuからなる。
図1および
図2に示すように、駆動IC71およびワイヤ61は、封止樹脂72によって覆われている。封止樹脂72は、たとえば黒色の軟質樹脂からなる。また、駆動IC71とコネクタ73とは、図示しない信号線によって接続されている。
【0040】
図7は、印字凸部の形状と摩耗量との関係を説明するためのサーマルプリントヘッドの模式的な断面図である。印字凸部99は、サーマルプリントヘッドにおいて印字を行う部分であり、印刷媒体に対向する面において印刷媒体側に突出する部分である。サーマルプリントヘッドA1においては、ヒーターグレーズ22および抵抗体層4と、z方向視においてこれらに重なる電極層3および保護層5とからなる部分が印字凸部99に相当する。印字凸部99の主走査方向(x方向)と直角である断面(yz断面)の形状は、ヒーターグレーズの形状から、概略的には半楕円形状として考えることができる。
図7においては、基板1および印字凸部99のyz断面を模式的な断面図として示している。
【0041】
印字凸部99のyz断面を、長径が2aで短径が2bの楕円の上半分の半楕円形状と考えると、印字凸部99のyz断面の外形は、2次元直交座標系で、下記(1)式で表すことができる。下記(1)式を変形すると、下記(2)式が得られる。
(X/a)2+(Y/b)2=1 ・・・ (1)
X=a√{1-(Y/b)2} ・・・ (2)
【0042】
図7においてハッチングで示す部分は、摩耗により摩耗量Rだけすり減った部分を示している。摩耗部分と印字凸部99との境界点を(X
1,Y
1)とすると、摩耗面のy方向寸法である摩耗幅Wは、上記(2)式から、下記(3)式で表される。
W=2X
1
=2a√{1-(Y
1/b)
2} ・・・ (3)
【0043】
摩耗量Rは、摩耗面に係る圧力(面圧)P、印字速度V、および印刷時間Tに比例するので、比例定数をKとして、下記(4)式で表すことができる。
R=K・P・V・T ・・・ (4)
【0044】
面圧Pは、印字凸部99の形状に依存し、摩耗量Rの変化に応じて変化する。プラテンローラの押し付け力をN、摩耗面のx方向寸法である摩耗長をLとすると、面圧Pは下記(5)式で表すことができる。
P=N/(W・L) ・・・ (5)
【0045】
上記(3)式と上記(5)式とから、面圧Pは、下記(6)式で表すことができる。
【数1】
【0046】
上記(6)式に示すように、面圧Pは、印字凸部99のyz断面の長径2aに反比例する。つまり、面圧Pは、長径2aが大きくなるほど小さくなる。摩耗量Rは上記(4)式で表されるので、面圧Pが小さいほど、摩耗量Rも小さくなる。つまり、摩耗量Rは、長径2aが大きくなるほど小さくなる。したがって、印字凸部99をy方向に大きくすれば、摩耗量Rを抑制できることが解る。
【0047】
本実施形態では、ヒーターグレーズ22の大きさを固定したまま、第1保護層51の形状を調整することで、印字凸部99の形状をy方向に大きくしたのと同等の状態にしている。具体的には、第1保護層51の第2部512の抵抗体層4側の端部を抵抗体層4に近づけた位置まで延ばしている。ヒーターグレーズ22の表面(基板1とは反対側を向く面)は、y方向において抵抗体層4に近づくほど基板1から離れる。したがって、第2部512の抵抗体層4側の端部は、抵抗体層4に近づくほど、基板1から離れる。よって、上流側第2部頂部516aおよび下流側第2部頂部516bも基板1から離れる。つまり、z方向において、上流側第2部頂部516aおよび下流側第2部頂部516bが第1部頂部517に近づく。短径2b(基板1から第1部頂部517までの距離)が同じであれば、z方向において上流側第2部頂部516aおよび下流側第2部頂部516bが第1部頂部517に近づくほど、第1部頂部517、上流側第2部頂部516aおよび下流側第2部頂部516bに接する楕円の扁平率は大きくなって、長径2aを大きくしたのと同様になる。つまり、サーマルプリントヘッドA1は、第2部512の抵抗体層4側の端部を抵抗体層4に近い位置まで延ばして、基板1から上流側第2部頂部516aまでの距離haおよび基板1から下流側第2部頂部516bまでの距離hbを大きくすることで、疑似的に長径2aを大きくして、摩耗量Rが小さくなるように設計されている。距離haおよび距離hbが小さいと、長径2aをあまり大きくできないので、摩耗量Rの抑制の効果が小さい。したがって、距離haおよび距離hbは、基板1からグレーズ頂部223までの距離h1より大きいのが望ましい。また、距離haおよび距離hbが大きすぎると、印刷媒体を第2保護層頂部523に当接しにくくなる。したがって、距離haおよび距離hbは、基板1から第1部頂部517までの距離h2より小さいのが望ましい。
【0048】
次に、サーマルプリントヘッドA1の製造方法の一例について、
図8~
図10を参照しつつ以下に説明する。
図8~
図10は、
図4に相当する要部拡大断面図である。
【0049】
まず、たとえばAlNからなる基板1を用意する。次いで、基板1上にガラスペーストを厚膜印刷した後に、これを焼成することを複数回繰り返すことにより、ヒーターグレーズ22およびガラス層23を有するグレーズ層2を形成する。次いで、レジネートAuのペーストを厚膜印刷した後に、これを焼成することにより、金属膜を形成する。次いで、金属膜に対してたとえばエッチング等を用いたパターニングを施すことにより、電極層3を形成する。次いで、電極層3の連結部35上の所定領域にAgを含むペーストを厚膜印刷した後に、これを焼成することにより、Ag層351を形成する。そして、
図8に示すように、たとえば酸化ルテニウムなどの抵抗体を含む抵抗体ペーストを厚膜印刷し、これを焼成することにより、抵抗体層4を形成する。
【0050】
次いで、第1保護層51を形成する。まず、
図9に示すように、たとえばガラスペーストを厚膜印刷し、これを焼成することにより、第2層51bを形成する。このとき、ガラスペーストは、ヒーターグレーズ22上の第1部511が形成される領域を除いた領域に印刷される。これにより、第2層51bは、当該領域を除く領域に形成される。本実施形態では、本工程において、ガラスペーストを抵抗体層4に比較的近づけた位置まで印刷している。
【0051】
次いで、
図10に示すように、たとえばガラスペーストを厚膜印刷し、これを焼成することにより、第1層51aを形成する。このとき、ガラスペーストは、y方向において、基板1の下流側端縁手前から個別電極36のボンディング部39の手前にわたる領域に印刷される。これにより、第1層51aが形成される。以上により、第1保護層51が形成される。第1層51aの形成後は、第1層51aと第2層51bとが一体化している。第1層51aのうち第2層51bに重ならない部分は、抵抗体層4を覆う、厚さの薄い第1部511になる。また、第1層51aのうちの第2層51bに重なる部分と第2層51bとは、抵抗体層4に重ならない、厚さの厚い第2部512になる。また、上流側第2部512aの第1部511との境界付近には、上流側第2部頂部516aが形成され、下流側第2部512bの第1部511との境界付近には、下流側第2部頂部516bが形成される。
【0052】
次いで、第2保護層52をスパッタリング法により形成する。そして、駆動IC71の実装およびワイヤ61のボンディング、基板1および配線基板74の放熱部材75への取り付けなどを行うことにより、サーマルプリントヘッドA1が得られる。
【0053】
次に、サーマルプリントヘッドA1の作用について説明する。
【0054】
本実施形態によると、基板1から上流側第2部頂部516aまでの距離ha、および、基板1から下流側第2部頂部516bまでの距離hbは、基板1からグレーズ頂部223までの距離h1より大きい。したがって、第1部頂部517、上流側第2部頂部516aおよび下流側第2部頂部516bに接する楕円の扁平率は十分大きい。よって、保護層5の印字媒体との接触面での面圧が小さく、摩耗量が小さい。これにより、印字速度が高速になっても、保護層5の摩耗量を抑制できる。
【0055】
また、本実施形態によると、距離haおよび距離hbは、基板1から第1部頂部517までの距離h2より小さい。したがって、印刷媒体が第2保護層頂部523に当接しにくくなることを抑制できる。
【0056】
また、本実施形態によると、第1保護層51のうち抵抗体層4を覆う第1部511は、第2保護層52と比較して、熱伝導率が低いが、厚さが薄い。相対的に熱伝導率が低い第1保護層51の第1部511が相対的に薄く形成され、相対的に熱伝導率が高い第2保護層52が相対的に厚く形成されている。これにより、抵抗体層4からの熱をより速やかに印刷媒体82に伝えつつ、抵抗体層4や電極層3を適切に保護することができる。したがって、印字速度が高速化した場合でも、従来のものと比較して、書き出しの発色性を改善できる。また、第1部511は、抵抗体層4から伝わった熱を放熱しやすい。したがって、印字速度が高速化した場合でも、従来のものと比較して、にじみを抑制できる。つまり、第1部511は熱しやすく冷めやすいので、本実施形態においては、印字速度が高速であっても、印字性能が低下することを抑制できる。
【0057】
また、本実施形態によると、第1保護層51のうち抵抗体層4に重ならない第2部512は、第1部511より厚さが厚い。したがって、第2部512は、電極層3を適切に保護することができる。また、本実施形態によれば、第2保護層52は、z方向視において、第1保護層51の第1部511の全体を覆って、第2部512に重なるように形成されている。したがって、電極層3は、第2保護層52および第2部512の少なくとも一方により保護される。
【0058】
図11~
図14は、本開示の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0059】
<第2実施形態>
図11は、本開示の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示している。本実施形態のサーマルプリントヘッドA2は、第1保護層51の形状が上述した実施形態と異なっている。本実施形態においては、下流側第2部512bの上流側端部が抵抗体層4の近くまで延びていない。したがって、基板1から上流側第2部頂部516aまでの距離haは、第1実施形態と同様に、基板1からグレーズ頂部223までの距離h1より大きいが、基板1から下流側第2部頂部516bまでの距離hbは距離h1より小さい。本実施形態においても、上流側第2部頂部516aが本開示の「第2部頂部」に相当する。
【0060】
本実施形態においても、距離haが第1実施形態と同様なので、第1部頂部517および上流側第2部頂部516aに接する楕円は、第1実施形態における楕円と同様であり、扁平率は十分大きい。よって、保護層5の印字媒体との接触面での面圧が小さく、摩耗量が小さい。これにより、印字速度が高速になっても、保護層5の摩耗量を抑制できる。さらに、本実施形態によると、距離hbが比較的小さいので、z方向において第1部511と下流側第2部512bとの境界に重なる第2保護層52の凹部に紙カスなどが付着することを抑制できる。
【0061】
なお、本実施形態では、距離haが第1実施形態と同様で、距離hbが距離h1より小さい場合について説明したが、反対に、距離hbは第1実施形態と同様で、距離haが距離h1より小さくてもよい。この場合でも、第1部頂部517および下流側第2部頂部516bに接する楕円は、第1実施形態における楕円と同様であり、扁平率は十分大きい。よって、保護層5の印字媒体との接触面での面圧が小さく、摩耗量が小さい。これにより、印字速度が高速になっても、保護層5の摩耗量を抑制できる。当該変形例においては、下流側第2部頂部516bが本開示の「第2部頂部」に相当する。つまり、距離haおよび距離hbの少なくとも一方が距離h1より大きければ、保護層5の摩耗量を抑制できる。
【0062】
<第3実施形態>
図12は、本開示の第3実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示している。本実施形態のサーマルプリントヘッドA3は、第1保護層51の構成が上述した実施形態と異なっている。
【0063】
本実施形態においては、上流側第2部512aの下流側端部および下流側第2部512bの上流側端部が抵抗体層4の近くまで延びていない。したがって、基板1から上流側第2部頂部516aまでの距離ha、および、基板1から下流側第2部頂部516bまでの距離hbが、基板1からグレーズ頂部223までの距離h1より小さい。一方、第1保護層51の第2部512は、分離第2部512cを有している。分離第2部512cは、y方向において上流側第2部512aと下流側第2部512bとの間に、上流側第2部512aおよび下流側第2部512bから離間して形成されている。本実施形態では、分離第2部512cは、y方向において上流側第2部512aと抵抗体層4との間に配置されている。分離第2部512cは、第2層51bの形成のためのガラスペーストを印刷する際に、上流側第2部512aの一部になる部分からy方向に離間した部分を印刷し、その後、第1層51aを形成することで形成される。分離第2部512cは、分離第2部頂部516cを有する。分離第2部頂部516cは、分離第2部512cに形成され、yz断面において分離第2部512cのうち基板1から最も離れた部分であり、x方向に延びている。分離第2部頂部516cは、z方向において、グレーズ頂部223と第1部頂部517との間に位置する。すなわち、基板1から分離第2部頂部516cまでの距離(z方向の寸法)hcは、距離h1より大きく、距離h2より小さい。本実施形態においては、分離第2部頂部516cが本開示の「第2部頂部」に相当する。
【0064】
本実施形態によると、距離hcは、距離h1より大きい。したがって、第1部頂部517および分離第2部頂部516cに接する楕円の扁平率は十分大きい。よって、保護層5の印字媒体との接触面での面圧が小さく、摩耗量が小さい。これにより、印字速度が高速になっても、保護層5の摩耗量を抑制できる。
【0065】
なお、本実施形態では、距離hbが距離h1より小さい場合について説明したが、距離hbは距離h1より大きくてもよい。また、本実施形態では、分離第2部512cが上流側第2部512aと抵抗体層4との間に配置されている場合について説明したが、分離第2部512cは、下流側第2部512bと抵抗体層4との間に配置されてもよい。これらの場合でも、保護層5の摩耗量を抑制できる。
【0066】
上記第1~第3実施形態から明らかなように、yz断面において第2部512のうち基板1から最も離れた部分である頂部(たとえば上流側第2部頂部516a、下流側第2部頂部516b、分離第2部頂部516c)の基板1からの距離が、基板1からグレーズ頂部223までの距離h1より大きければ、保護層5の摩耗量を抑制できる。
【0067】
<第4実施形態>
図13は、本開示の第4実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示している。本実施形態のサーマルプリントヘッドA4は、第1保護層51の構成が上述した実施形態と異なっている。
【0068】
本実施形態においては、第1保護層51の第1層51aと第2層51bとが、異なる材料からなる。第2層51bは、第1実施形態と同様、たとえば非晶質ガラスなどのガラス材料からなる。一方、第1層51aは、SiO2からなる。本実施形態においても、第2保護層52は、第1保護層51の第1部511(第1層51a)より、熱伝導性に優れている。第1保護層51は、ガラスペーストの厚膜印刷および焼成により第2層51bを形成した後、たとえばスパッタリング法によりSiO2を成膜することで形成される。なお、第1層51aの材料および形成方法は限定されない。
【0069】
本実施形態によっても、第1実施形態と同様に、上流側第2部頂部516aおよび下流側第2部頂部516bが形成される。したがって、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0070】
<第5実施形態>
図14は、本開示の第5実施形態に係るサーマルプリントヘッドを示している。本実施形態のサーマルプリントヘッドA5は、第1保護層51の構成が上述した実施形態と異なっている。
【0071】
本実施形態においては、第1保護層51の第2層51bが、第1層51aと第2保護層52との間に介在する。第1保護層51は、第1層51aを形成した後、第2層51bを形成することで形成される。具体的には、まず、ガラスペーストを厚膜印刷したのちに、これを焼成することによって、第1層51aが形成される。そして、第1層51aが形成された後、ガラスペーストを厚膜印刷し、これを焼成することによって、第2層51bが形成される。
【0072】
本実施形態によっても、第1実施形態と同様に、上流側第2部頂部516aおよび下流側第2部頂部516bが形成される。したがって、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0073】
本開示に係るサーマルプリントヘッドは、上述した実施形態に限定されるものではない。本開示に係るサーマルプリントヘッドの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0074】
〔付記1〕
基板と、
前記基板に形成され、主走査方向に延びる帯状であり且つ主走査方向と直角である断面の形状が前記基板の厚さ方向に膨出した形状であるヒーターグレーズと、
前記ヒーターグレーズ上に形成された抵抗体層と、
前記抵抗体層に通電するための電極層と、
少なくとも前記抵抗体層を覆う保護層と、
を備え、
前記保護層は、
前記基板の厚さ方向視において前記抵抗体層に重なる第1部、および、前記抵抗体層に重ならず且つ前記第1部より厚い第2部を有する第1保護層と、
前記第1保護層に対して前記基板とは反対側に配置され、前記基板の厚さ方向視において少なくとも前記抵抗体層に重なる第2保護層と、
を備え、
前記第2部は、前記断面において前記基板から最も離れた第2部頂部を備え、
前記ヒーターグレーズは、前記断面において前記基板から最も離れたグレーズ頂部を備え、
前記基板から前記第2部頂部までの前記厚さ方向の寸法は、前記基板から前記グレーズ頂部までの前記厚さ方向の寸法より大きい、
ことを特徴とするサーマルプリントヘッド。
〔付記2〕
前記第1部は、前記断面において前記基板から最も離れた第1部頂部を備え、
前記基板から前記第2部頂部までの前記厚さ方向の寸法は、前記基板から前記第1部頂部までの前記厚さ方向の寸法より小さい、
付記1に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記3〕
前記第2部は、副走査方向において前記抵抗体層より上流側に位置する上流側第2部と、下流側に位置する下流側第2部とを備える、
付記2に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記4〕
前記上流側第2部が、前記第2部頂部を有する、
付記3に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記5〕
前記第2部は、副走査方向において前記抵抗体層と前記上流側第2部との間に位置する分離第2部をさらに備え、
前記分離第2部が、前記第2部頂部を有する、
付記3に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記6〕
前記下流側第2部は、前記断面において前記基板から最も離れた第2部第2頂部を備え、
前記基板から前記第2部第2頂部までの前記厚さ方向の寸法は、前記基板から前記グレーズ頂部までの前記厚さ方向の寸法より大きく、前記基板から前記第1部頂部までの前記厚さ方向の寸法より小さい、
付記4または5に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記7〕
前記第1部の厚さは、前記第2部の厚さの半分以下である、
付記1ないし6のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記8〕
前記第1部は、前記第2保護層より熱伝導率が低く、前記第2保護層より薄い、
付記1ないし7のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記9〕
前記第1部の厚さは、前記第2保護層の厚さの半分以下である、
付記8のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記10〕
前記第1部の厚さは、2μm以下である、
付記1ないし9のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記11〕
前記第2部の厚さは、5.5~13.5μmである、
付記1ないし10のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記12〕
前記第2部は、前記厚さ方向視において、前記ヒーターグレーズに重なる、
付記1ないし11のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記13〕
前記第1保護層は、非晶質ガラスにより形成されている、
付記1ないし12のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記14〕
前記第1保護層は、第1層と、前記厚さ方向視において前記第1層の一部に重なる第2層と、を備えており、
前記第1部は、前記第1層のうち前記第2層から延出した部分によって構成され、
前記第2部は、前記第1層および前記第2層の一部ずつによって構成されている、
付記1ないし13のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記15〕
前記第2層は、前記第1層に対して前記基板側に配置されている、
付記14に記載のサーマルプリントヘッド。
〔付記16〕
前記基板の厚さ方向視において、前記第1部の全体は、前記第2保護層に重なる、
付記1ないし15のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【符号の説明】
【0075】
A1,A2,A3,A4,A5:サーマルプリントヘッド
1 :基板
11 :ヒーターグレーズ形成領域
12 :第2保護層形成領域
2 :グレーズ層
22 :ヒーターグレーズ
2 :グレーズ層
221 :露出領域
222 :露出面
223 :グレーズ頂部
23 :ガラス層
231 :曲面
3 :電極層
33 :共通電極
34 :共通電極帯状部
35 :連結部
351 :Ag層
36 :個別電極
37 :連結部
371 :平行部
372 :斜行部
38 :個別電極帯状部
39 :ボンディング部
39A :第1ボンディング部
39B :第2ボンディング部
4 :抵抗体層
41 :発熱部
43 :抵抗体頂部
5 :保護層
51 :第1保護層
51a :第1層
51b :第2層
511 :第1部
512 :第2部
512a :上流側第2部
512b :下流側第2部
512c :分離第2部
5121 :第3部
5122 :第4部
513 :薄保護膜領域
515 :第2保護層形成領域
516a :上流側第2部頂部
516b :下流側第2部頂部
516c :分離第2部頂部
517 :第1部頂部
52 :第2保護層
521 :曲面
522a :第2保護層上流側頂部
522b :第2保護層下流側頂部
523 :第2保護層頂部
55 :曲面
61 :ワイヤ
71 :駆動IC
72 :封止樹脂
73 :コネクタ
74 :配線基板
75 :放熱部材
81 :プラテンローラ
82 :印刷媒体
99 :印字凸部