(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20230711BHJP
C08K 3/40 20060101ALI20230711BHJP
C08K 5/5313 20060101ALI20230711BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K3/40
C08K5/5313
C08L91/06
(21)【出願番号】P 2019074411
(22)【出願日】2019-04-09
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】523168917
【氏名又は名称】グローバルポリアセタール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆介
【審査官】蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/200082(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/060117(WO,A1)
【文献】特開2011-148922(JP,A)
【文献】特表2016-509114(JP,A)
【文献】特開2015-105378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 ~ 101/14
C08K 3/00 ~ 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)40~55質量%のポリアミド樹脂、
(B)35~
55質量%の円形断面を有する強化繊維、
(C)1~15質量%のホスフィン酸塩およびジホスフィン酸塩の少なくとも1種を含むリン系難燃剤、
(D)0.01~2質量%のワックス、ならびに、
(E)0~10質量%の添加剤のみからなり、
前記添加剤は、ホウ酸亜鉛およびポリフェニレンエーテルを含まず、
前記(A)ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂を含み、
前記(D)ワックスは、ポリオレフィンワックス、ケトンワックス、アミドワックス、および、パラフィンワックスから選ばれる少なくとも1種を含み、
前記(E)添加剤は、核剤、難燃助剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤および着色剤からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記(A)~(E)の総量が100質量%である、
樹脂組成物。
【請求項2】
(B)強化繊維がガラス繊維を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン系難燃剤が、下記式(I)で表される化合物および下記式(II)で表される化合物の少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【化1】
(式(I)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。mはMの価数を表す自然数である。)
【化2】
(式(II)中、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表す。R
3は直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、炭素数7~10のアルキルアリーレン基、または炭素数7~10のアリールアルキレン基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。nはMの価数を表す自然数である。n、a、bは、2×b=n×aの関係式を満たす自然数である。)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、各種性能に優れていることから、様々な分野に応用されている。
特に、機械的強度が要求される分野に用いられる場合、強化繊維を配合することが行われている。また、難燃性が要求する分野に用いられる場合、難燃剤を配合することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、難燃性および機械的強度の向上を考慮して、(A)ポリアミド樹脂、(B)リン系難燃剤、および(C)非円形断面を有するガラス繊維を含有してなる難燃性樹脂組成物であって、該組成物中の含有量が、それぞれ、(A)ポリアミド樹脂が15~78重量%、(B)リン系難燃剤が2~20重量%、(C)非円形断面を有するガラス繊維が20~65重量%である難燃性樹脂組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、少なくとも2つの対向する壁を含み、それらの間に、コンタクトピンの挿入を受け入れるための通路が画定され、前記壁が、ポリアミドポリマーと、難燃剤系と、繊維状強化剤とを含む繊維強化難燃性熱可塑性ポリマー組成物から形成される、ファインピッチ電気コネクタソケットであって、前記ポリアミドポリマーが、少なくとも280℃の溶融温度Tm-Aを有する少なくとも1種類の半結晶性ポリアミド(A)と、任意選択により第2のポリアミド(B)とを含み;前記ポリアミドポリマーが、少なくとも50J/gの結晶化エンタルピーΔHcを有し、前記溶融温度Tm-Aおよび結晶化エンタルピーΔHcは、ISO11357-1/3に準拠した方法で20℃の加熱および冷却速度でDSCによって測定され;前記難燃剤系が、(C-1)ジアルキルホスフィン酸および/またはジホスフィン酸の金属塩と、(C-2)リン酸金属塩との組合せを含み;(C-1)および(C-2)は、前記組成物の全重量に対して5~35重量%の総量、および95/5~55/45の範囲内の重量比C-1/C-2で存在し;前記組成物が、ISO75-1/2に準拠して測定して少なくとも265℃の加熱ひずみ温度を有する、ソケットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-163317号公報
【文献】特表2017-500705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記樹脂組成物は、難燃性および機械的強度に優れているが、用途に応じて、さらなる新規な材料が要求される。特に、難燃剤として、リン系難燃剤を用いた処方であって、難燃性および機械的強度に優れた樹脂組成物についての需要がある。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、難燃性および機械的強度に優れた樹脂組成物およびその成形品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、離型剤として、ワックスを用い、ポリアミド樹脂、強化繊維および難燃剤の含有量を調整することにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
【0008】
<1>(A)40~65質量%のポリアミド樹脂、
(B)35~60質量%の円形断面を有する強化繊維、
(C)1~15質量%の、ホスフィン酸塩およびジホスフィン酸塩の少なくとも1種を含むリン系難燃剤、
(D)0.01~2質量%のワックス、ならびに、
(E)0~20質量%の添加剤のみからなり、
前記添加剤は、ホウ酸亜鉛およびポリフェニレンエーテルを含まず、
前記成分(A)~(E)の総量が100質量%である、樹脂組成物。
<2>(B)強化繊維がガラス繊維を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>(A)ポリアミド樹脂が、半芳香族ポリアミド樹脂である、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記難燃剤が、下記式(I)で表される化合物および下記式(II)で表される化合物の少なくとも1種を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【化1】
(式(I)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。mはMの価数を表す自然数である。)
【化2】
(式(II)中、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表す。R
3は直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、炭素数7~10のアルキルアリーレン基、または炭素数7~10のアリールアルキレン基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。nはMの価数を表す自然数である。n、a、bは、2×b=n×aの関係式を満たす自然数である。)
<5><1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、難燃性および機械的強度に優れた樹脂組成物および成形品を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0011】
本発明の樹脂組成物は、(A)40~65質量%のポリアミド樹脂、(B)35~60質量%の円形断面を有する強化繊維、(C)1~15質量%のホスフィン酸塩およびジホスフィン酸塩の少なくとも1種を含むリン系難燃剤、(D)0.01~2質量%のワックス、ならびに、(E)0~20質量%の添加剤のみからなり、前記添加剤は、ホウ酸亜鉛およびポリフェニレンエーテルを含まず、前記成分(A)~(E)の総量が100質量%であることを特徴とする。
かかる構成とすることにより、成形品としたときに、優れた難燃性を維持しつつ、機械的物性を向上させることができる。
このメカニズムは以下の通りであると推定される。ポリアミド樹脂と強化繊維と難燃剤を含む樹脂組成物において、リン系難燃剤の含有量が多いと、リン系難燃剤由来のガスが放出しやすい。そこで、難燃剤の含有量を減らすことが考えられる。しかしながら、難燃剤の含有量を減らすと当然に難燃性が劣ってしまう。そこで、強化繊維の含有量を相対的に多くすることで、機械的強度を向上させると同時に、ポリアミド樹脂の含有量を相対的に少なくし、燃えやすい樹脂成分の含有量を減らすことが考えられる。しかしながら、強化繊維の含有量が多く、ポリアミド樹脂の割合が比較的少ない樹脂組成物においては、強化繊維とポリアミド樹脂とのせん断応力が高くなり、コンパウンドや成形加工時の発熱が危惧される。そこに、離型剤として、脂肪酸金属塩が含まれると、難燃剤であるホスフィン酸塩と複分解反応を起こし、リン由来の酸を放出してしまう。このような酸はポリアミド樹脂に攻撃し機械的強度を低下させてしまう。これに対して、本発明の樹脂組成物では、離型剤として、脂肪酸金属塩に代えて、ワックスを採用したため、ガラス繊維とポリアミド樹脂とのせん断を低減し、さらには酸を放出する反応を抑制することができた。これにより、難燃性と機械的強度の両立を実現できたものと考えられる。
また、本発明の樹脂組成物が、ホウ酸亜鉛およびポリフェニレンエーテルを含まない構成とすることにより、難燃性の低下をより効果的に抑制できる。さらに、ホウ酸亜鉛を含まない構成とすることにより、機械的強度の低下もより効果的に抑制できる。
以下、本発明について説明する。
【0012】
<(A)ポリアミド樹脂>
本発明で用いるポリアミド樹脂は、その種類を特に定めるものではなく、公知のポリアミド樹脂を用いることができる。ポリアミド樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂であっても、半芳香族ポリアミド樹脂であってもよく、両方を含んでいてもよい。本発明では、半芳香族ポリアミド樹脂を含むことが好ましい。
【0013】
脂肪族ポリアミド樹脂は、例えば、ポリアミド6、11、12、46、66、610、612、6/66、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリイソホロンアジパミド等が挙げられる。
【0014】
半芳香族ポリアミド樹脂とは、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の20~80モル%(好ましくは30~70モル%)が芳香環を含む構成単位であることをいう。このような半芳香族ポリアミド樹脂を用いることにより、得られる成形品の機械的強度を高くすることができる。半芳香族ポリアミド樹脂は、例えば、ポリアミド4T、6I、6T、6T/6I、6/6T、66/6T、66/6T/6I、9T、10T、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド等が挙げられる。なお、上記「I」はイソフタル酸成分、「T」はテレフタル酸成分を示す。
【0015】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来することが好ましい。本明細書では、このようなポリアミド樹脂を、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂ということがある。さらに、本発明では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂が好ましい。
【0016】
キシリレンジアミンとしては、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンを用いることができる。本発明では、キシリレンジアミンは、メタキシリレンジアミンのみであるか、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンとの混合物(共重合物)であることが好ましい。
キシリレンジアミンにおける、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンとの比率は、100:0~10:90であることが好ましく、95:5~15:85であってもよく、90:10~50:50であってよもく、80:20~60:40であってもよい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、一層好ましくは70モル%以上、より一層好ましくは80モル%以上、さらに一層好ましくは90モル%以上、よりさらに一層好ましくは95モル%以上がキシリレンジアミンに由来する。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位は、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
【0017】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0018】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できる。これらの中でもアジピン酸またはセバシン酸がより好ましく、アジピン酸がさらに好ましい。
【0019】
上記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0020】
本発明で用いるポリアミド樹脂の実施形態の一例として、下記ポリアミド樹脂(a1)とポリアミド樹脂(a2)のブレンド物が例示される。ポリアミド樹脂(a1)とポリアミド樹脂(a2)のブレンド比率(質量比)は、10:1~5:1であることが好ましく、9:1~6:1であることがより好ましく、8.5:1~6.5:1であることがさらに好ましい。
<<ポリアミド樹脂(a1)>>
ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸(好ましくはアジピン酸)に由来し、前記キシリレンジアミンの90モル%以上がメタキシリレンジアミンであるポリアミド樹脂
<<ポリアミド樹脂(a2)>>
ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸(好ましくはアジピン酸)に由来し、前記メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンとのモル比率が、95:5~15:85であるポリアミド樹脂
上記ポリアミド樹脂(a1)およびポリアミド樹脂(a2)のより好ましい範囲は、上記齟齬が無い限り、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のところで述べたものが援用される。
【0021】
本発明に用いられるポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を主成分として構成されるが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、ポリアミド樹脂を構成する構成単位のうち、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計数が全構成単位のうち最も多いことをいう。本発明では、ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましい。
【0022】
ポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)の下限が、6,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、15,000以上であることが一層好ましく、20,000以上であることがより一層好ましく、22,000以上であることがさらに一層好ましい。上記Mnの上限は、35,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、28,000以下がさらに好ましく、26,000以下が一層好ましい。このような範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0023】
本発明の樹脂組成物におけるポリアミド樹脂の割合は、40質量%~65質量%であるが、41質量%以上であることが好ましく、42質量%以上であることがより好ましく、43質量%以上であることがさらに好ましい。前記含有量の上限値は、通常、64質量%以下であり、55質量%以下であることが好ましく、53質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、48質量%以下であってもよく、45質量%以下であってもよい。
ポリアミド樹脂は1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂等を例示することができる。本発明の成形品は、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量が本発明の成形品の5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが一層好ましい。
本発明の樹脂組成物は、特に、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂が樹脂成分の85質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、99質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0025】
<(B)強化繊維>
本発明の樹脂組成物は円形断面を有する強化繊維を含む。ここでの円形は、幾何学的な意味での真円に加え、本発明の技術分野において通常円形と称されるものを含む趣旨である。扁平断面を有する強化繊維に比べて、円形断面を有する強化繊維は、難燃性が低くなりやすい。本発明では、このような円形断面等を有する強化繊維を用いつつ、高い難燃性の維持に成功したものである。
【0026】
強化繊維は、有機強化繊維であっても、無機強化繊維であってもよく、無機強化繊維が好ましい。強化繊維は、植物繊維、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、アラミド繊維等が例示され、炭素繊維およびガラス繊維から選択されることがより好ましく、ガラス繊維であることがさらに好ましい。
【0027】
ガラス繊維としては、一般的に供給されるEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、および耐アルカリガラス等のガラスを溶融紡糸して得られる繊維が用いられるが、ガラス繊維にできるものであれば使用可能であり、特に限定されない。本発明では、Eガラスを含むことが好ましい。
【0028】
ガラス繊維は、例えば、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。表面処理剤の付着量は、ガラス繊維の0.01~1質量%であることが好ましい。さらに必要に応じて、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウム塩等の帯電防止剤、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の被膜形成能を有する樹脂、被膜形成能を有する樹脂と熱安定剤、難燃剤等の混合物で表面処理されたものを用いることもできる。
【0029】
本発明の樹脂組成物に用いるガラス繊維は、市販品として入手できる。市販品としては、例えば、日本電気硝子(NEG)社製、T286H、T756H、T289、T289DE、T289H、T296GH;オーウェンスコーニング社製、DEFT2A、PPG社製、HP3540;日東紡社製、CSG3PA-810S、CSG3PA-820;セントラルグラスファイバー社製、EFH50-31(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0030】
本発明の樹脂組成物に用いる強化繊維は、数平均繊維長が1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることがさらに好ましい。上限値としては、10mm以下であることが好ましく、8mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の樹脂組成物に用いる強化繊維は、その数平均繊維径が1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。上限値としては、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明の樹脂組成物における強化繊維(好ましくはガラス繊維)の割合は、下限値が、35質量%以上であり、38質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、42質量%以上であることがさらに好ましく、45質量%以上であってもよい。前記含有量の上限値は、60質量%以下であり、通常、59質量%以下であり、55質量%以下であることが好ましく、52質量%以下であることがより好ましい。上記下限値以上とすることにより、機械的強度を向上させることができると共に、難燃性も向上させることができる。一方、強化繊維の量を上記上限値以下とすることにより、成形性がより向上する傾向にある。
本発明の成形品は、強化繊維を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0033】
<(C)リン系難燃剤>
本発明の樹脂組成物は、ホスフィン酸塩およびジホスフィン酸塩の少なくとも1種を含むリン系難燃剤を含む。
ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩は、下記式(I)で表される化合物および下記式(II)で表される化合物の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0034】
【化3】
(式(I)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。mはMの価数を表す自然数である。)
【0035】
式(I)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表し、メチル基、エチル基、プロピル基、またはフェニル基であることが好ましい。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。mはMの価数を表す自然数であり、2または3であることが好ましい。
【0036】
【化4】
(式(II)中、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表す。R
3は直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、炭素数7~10のアルキルアリーレン基、または炭素数7~10のアリールアルキレン基を表す。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。nはMの価数を表す自然数である。n、a、bは、2×b=n×aの関係式を満たす自然数である。)
式(II)において、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を表し、メチル基、エチル基、プロピル基、またはフェニル基であることが好ましい。R
3は直鎖もしくは分枝鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、炭素数7~10のアルキルアリーレン基、または炭素数7~10のアリールアルキレン基を表し、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、フェニレン基であることが好ましい。Mはカルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、または亜鉛イオンを表す。nはMの価数を表す自然数である。n、a、bは、2×b=n×aの関係式を満たす自然数である。nは2または3であることが好ましい。bは1、2または3であることが好ましく、1または3であることがより好ましい。aは1または2であることが好ましい。
【0037】
ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩としては、具体的には、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物または金属酸化物を用いて水性媒体中で製造されたものが挙げられる。ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩は、基本的にモノマー性化合物であるが、反応条件に依存して、環境によっては縮合度が1~3のポリマー性ホスフィン酸塩となる場合もある。
【0038】
ホスフィン酸またはジホスフィン酸としては、例えば、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル-n-プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸およびジフェニルホスフィン酸等が挙げられる。
【0039】
ホスフィン酸塩としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛等が挙げられる。
【0040】
ジホスフィン酸塩としては、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)亜鉛等が挙げられる。
【0041】
これら、ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩の中でも、特に、難燃性、電気特性の観点から、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。具体的な商品としては、クラリアント製、Exolit OP 1230(ホスフィン酸アルミニウム)、同 OP 1400、いずれも商品名が挙げられる。
【0042】
本発明の樹脂組成物におけるリン系難燃剤の含有量は、樹脂組成物中で、1質量%以上であり、2質量%以上であることが好ましく、2.5質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。上限としては、15質量%以下であり、12質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下であってもよく、7質量%以下であってもよく、6質量%以下であってもよい。難燃剤の量が多すぎると、ノズルからガスが放出する原因となる。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、ホスフィン酸塩およびジホスフィン酸塩から選択されるリン系難燃剤以外の他のリン系難燃剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。ホスフィン酸塩およびジホスフィン酸塩以外のリン系難燃剤としては、リンやリン酸塩、リン酸エステル、ホスファゼン、メラミンとリン酸との反応生成物等が例示される。メラミンとリン酸との反応生成物は、特開2018-065974号公報の段落0028の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
他の難燃剤の含有量としては、ホスフィン酸塩およびジホスフィン酸塩の少なくとも1種リン系難燃剤の合計量の30質量%以下であることをいい、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよく0.1質量%以下であってもよい。
【0044】
<(D)ワックス>
本発明の樹脂組成物はワックスを含む。ワックスとは、常温以上である油脂状の物質をいい、通常融点が50℃以上である。ワックスとしては、ポリオレフィンワックスおよびケトンワックス、アミドワックス、エステルワックス、パラフィンワックス、が好ましい。
【0045】
<<(D-1)ポリオレフィンワックス>>
ポリオレフィンワックスの例には、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリエチレン共重合体、またはそれらを酸化変性または酸変性することによって極性基を導入した、変性ポリエチレンワックスが含まれる。また、酸化変性または酸変性することによって、極性基を導入した、変性ポリエチレンワックスをポリオレフィンワックスの1~10質量%の量で配合すると、ポリアミド樹脂中での分散性を向上させることができ、より好ましい。
ポリオレフィンワックスの数平均分子量(Mn)は、適宜選択して決定すればよいが、20,000未満であることが好ましく、500~15,000がより好ましく、1,000~10,000であることがさらに好ましく、1,000~9,000であることが特に好ましい。ポリオレフィンワックスのMnは、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定できる。その他の詳細な分析条件は、特開2017-171880の段落0020を参照することができ、この内容を本明細書に組み込む。
本発明において用いられるポリオレフィンワックスは、融点が60~145℃であることが好ましい。
ポリオレフィンワックスとしては、ハイワックス800P(商品名) HDPE-WAX 三井化学社製、Mn8000が挙げられる。
【0046】
<<(D-2)ケトンワックス>>
ケトンワックスは下記式(G1)で表される化合物が挙げられる。
式(G1):R11-CO-R12
式(G1)において、R11およびR12は、それぞれ独立に、炭素数が9以上25以下である直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基である。
ケトンワックスとして、具体的には、ジリグノセリルケトン、ジベヘニルケトン、ジステアリルケトン、ジエイコシルケトン、ジパルミチルケトン、ジミリスチルケトン、ジラウリルケトン、ラウリルミリスチルケトン、ラウリルパルミチルケトン、ミリスチルパルミチルケトン、ミリスチルステアリルケトン、ミリスチルベヘニルケトン、パルミチルステアリルケトン、パルミチルベヘニルケトンおよびステアリルベヘニルケトンが挙げられる。
具体的な商品としては、カオワックスT1(花王社製、ケトンワックス(ジステアリルケトン))が挙げられる。
【0047】
<<(D-3)アミドワックス>>
アミドワックスは脂肪酸のモノアミドおよび/またはビスアミドである。脂肪酸モノアミドとしてはオレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド等が挙げられ、脂肪酸ビスアミドとしてはメチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等が挙げられる。
具体的な商品としては、ライトアマイドWH255(共栄社化学社製、脂肪酸ビスアミド(ステアリン酸、セバシン酸およびエチレンジアミンの重縮合物))が挙げられる。
【0048】
<<(D-4)エステルワックス>>
エステルワックスは脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルである。脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。具体例としては、モンタン酸エステルワックス、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0049】
<<(D-5)パラフィンワックス>>
パラフィンワックスは主成分がn-パラフィンおよび/またはi-パラフィン等の飽和脂肪族炭化水素、あるいは低分子量のポリエチレンで末端に水酸基を有し、蝋状の外観を有する物質が挙げられる。上記飽和脂肪族炭化水素のGPC法で測定された分子量は、通常300~1500、好ましくは300~1000である。
【0050】
本発明の樹脂組成物においては、ワックスを0.01~2質量%で含む。下限値としては、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましい。上限値としては、1.8質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましい。ワックスは1種を用いても2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合はその合計量が上記の範囲となる。
本発明の樹脂組成物は、ワックス以外の他の離型剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。本発明の樹脂組成物は、離型剤が実質的にワックスのみからなることが好ましい。ここでの実質的にとは、例えば、他の離型剤の含有量が、ワックスの10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.01質量%以下であってもよい。また、本発明の樹脂組成物は、本発明の効果に影響を与えない範囲で脂肪酸金属塩を含んでいてもよいことは言うまでもない。
【0051】
<(E)他の添加剤>
本発明の樹脂組成物は、上記成分(A)~(D)以外の(E)0~20質量%の添加剤を含んでいてもよい。すなわち、本発明の樹脂組成物は、前記成分(A)~(E)の総量が100質量%である。
添加剤としては、核剤、難燃助剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、着色剤等の添加剤が挙げられる。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落番号0130~0155の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
これらの合計は、樹脂組成物の0~20質量%であり、0.1質量%以上であることが好ましい。また、上限値としては、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、3質量%以下であることが一層好ましく、1質量%以下であることがより一層好ましい。これらの添加剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上用いる場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0052】
本発明の樹脂組成物は、ホウ酸亜鉛を含まない。ホウ酸亜鉛は、リン系難燃剤の難燃助剤として知られている化合物であるが、本発明者が検討したところ、本発明の樹脂組成物においては、却って難燃性を低下させることが分かった。さらに、機械的強度も低下させることが分かった。
なお、本発明における、ホウ酸亜鉛を含まないとは、ホウ酸亜鉛の含有量が完全に0の場合に加え、本発明の効果に影響を与えない範囲で、微量のホウ酸亜鉛が含まれている場合も含まれる趣旨である。例えば、不純物として混入する場合や通常の測定方法で検出限界以下の場合などが例示される。
【0053】
また、本発明の組成物は、ポリフェニレンエーテルを含まない。ポリフェニレンエーテルはポリアミド樹脂とブレンドされうる樹脂の1種であるが、本発明者が検討したところ、本発明の樹脂組成物においては、ポリフェニレンエーテルを配合すると難燃性を低下させることが分かった。
なお、本発明における、ポリフェニレンエーテルを含まないとは、ポリフェニレンエーテルの含有量が完全に0の場合に加え、本発明の効果に影響を与えない範囲で、微量のポリフェニレンエーテルが含まれている場合も含まれる趣旨である。例えば、不純物として混入する場合や通常の測定方法で検出限界以下の場合などが例示される。
【0054】
<<核剤>>
核剤は、タルクおよび炭酸カルシウムが好ましく、タルクがより好ましい。
核剤の平均粒径は、下限値が、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。核剤の平均粒径は、上限値が、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、28μm以下であることが一層好ましく、15μm以下であることがより一層好ましく、10μm以下であることがさらに一層好ましい。
核剤の含有量は、樹脂組成物中、0.1~2質量%であることが好ましい。
【0055】
<<着色剤>>
着色剤としては、無機顔料(カーボンブラックなどの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料)、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。
着色剤の含有量は、組成物の0.01~10質量%であることが好ましい。着色剤は1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0056】
<樹脂組成物の特性>
本発明の樹脂組成物を、ISO178に準拠して、ISO引張り試験片(4mm厚)に成形したときの、温度23℃、湿度50%の環境下での曲げ強さが330MPa以上であることが好ましく、350MPa以上であることがより好ましく、360MPa以上であることがさらに好ましく、368MPa以上であることが一層好ましい。前記曲げ強さの上限値は、特に定めるものではないが、400MPa以下でも要求性能を満たすものである。
【0057】
本発明の樹脂組成物を、ISO178に準拠して、ISO引張り試験片(4mm厚)に成形したときの、温度23℃、湿度50%の環境下での曲げ弾性率は、13GPa以上であることが好ましく、15GPa以上であることがより好ましく、17GPa以上であることがさらに好ましい。上限値は、特に定めるものではないが、25GPa以下が実際的で以下でも要求性能を満たすものである。
上記機械的特性は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0058】
本発明の樹脂組成物を、ISO179-1,2に準拠して、ISO引張り試験片(4mm厚)に成形したときの、温度23℃、湿度50%の環境下でのノッチ付シャルピー衝撃強度は、10kJ/m2以上であることが好ましく、11kJ/m2以上であることがより好ましい。上限値は、特に定めるものではないが、20kJ/m2以下が実際的で以下でも要求性能を満たすものである。
【0059】
本発明の樹脂組成物は、1.5mm厚の試験片に成形したとき、UL94試験において、V-0の評価となることが好ましい。UL94の試験の詳細については、後述の実施例に記載の方法に従って測定される。
【0060】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明において、樹脂組成物の製造方法は、特に定めるものではなく、公知の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。具体的には、各成分を、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸押出機、二軸押出機、ニーダーなどで溶融混練することによって樹脂組成物を製造することができる。
【0061】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、樹脂組成物を製造することもできる。
さらに、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって、ペレットを製造することもできる。
【0062】
<成形品の製造方法>
本発明の成形品は、本発明の樹脂組成物から形成される。
本発明の成形品の製造方法は、特に定めるものではない。
例えば、本発明の成形品は、各成分を溶融混練した後、直接に各種成形法で成形してもよいし、各成分を溶融混練してペレット化した後、再度、溶融して、各種成形法で成形してもよい。
【0063】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
【0064】
本発明の成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。
本発明の成形品の利用分野については特に定めるものではなく、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム等の日用品、防衛および航空宇宙製品等に広く用いられる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0066】
<原料>
(A)ポリアミド樹脂
MXD6(6000):ポリメタキシリレンアジパミド、三菱ガス化学社製、MXナイロン 6000
変性MXD6(MP6):下記合成例に従って合成した。
<MP6の合成>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロートおよび窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、アジピン酸(Roadia社製)7220g(49.4mol)および酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム・一水和物(モル比=1/1.5)11.66gを仕込み、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹搾しながら170℃まで加熱溶融した。
メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンのモル比が70/30である混合キシリレンジアミン6647g(メタキシリレンジアミン34.16mol、パラキシリレンジアミン14.64mol、三菱ガス化学社製)を、反応容器内の溶融物に撹拌下で滴下し、生成する縮合水を系外に排出しながら、内温を連続的に2.5時間かけて260℃まで昇温した。滴下終了後、内温を上昇させ、270℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに内温を上昇させて280℃で20分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、ペレット化することにより、ポリアミド樹脂を得た。以下、「MP6」ということがある。
【0067】
(B)強化繊維
T275H:円形断面を有するガラス繊維(日本電気硝子社製、Eガラス、3mmにカットされたチョップドストランド、数平均繊維径10μm)
【0068】
(C)リン系難燃剤
EXOLIT OP1400:クラリアントケミカルズ社製、ホスフィン酸金属塩
【0069】
(D)ワックス
ケトンワックス:花王社製、カオワックスT1
PEワックス:三井化学社製、ハイワックス800P
アミドワックス:共栄社化学社製、ライトアマイドWH255
(D’)ワックス以外の離型剤
CS-8CP:モンタン酸カルシウム、日東化成工業社製
St-Ca:ステアリン酸カルシウム、日東化成工業社製
【0070】
(E)核剤
核剤 MW5000S:タルク、林化成社製、数平均粒子径5μm
(F)着色剤
カーボンブラック:三菱化学製、カーボンブラック#45(ファーネスブラ
ック、DBP吸収量53g/100cm3)
【0071】
その他
PPE:以下の製造法で得られた変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE)、SEBS含有量13質量%
<製造法>
ポリフェニレンエーテル樹脂(ポリキシレノールシンガポール社製「商品名:PX100L」、温度30℃、クロロホルム中で測定した固有粘度が0.47dL/gの、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル)100質量部と無水マレイン酸(試薬一級)0.8質量部とスチレン系樹脂(スチレン系化合物/共役ジエン系化合物ブロック共重合体の水素添加物(シェル社製「商品名:クレイトンG1652」、数平均分子量49,000)15質量部をスーパーミキサーで十分に混合し、得られた混合物を二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30XCT」)を用いて溶融混練し、ペレット化し作製した。
ホウ酸亜鉛:硼酸亜鉛、ボラックス・ジャパン社製「商品名:ファイヤーブレイクZB」、2ZnO・3B2O3・3.5H2O、数平均粒子径7~9μm
【0072】
実施例1~3、比較例1~9
<コンパウンド>
表1または表2に記載の成分のうち、ガラス繊維を除く成分を、それぞれ秤量(表1および表2は質量部で示している)し、タンブラーにてブレンドし、二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SS)の根元から投入し、溶融した。その後、ガラス繊維をサイドフィードしてポリアミド樹脂のペレットを作製した。二軸押出機の温度設定は、280℃とした。
【0073】
<曲げ強さおよび曲げ弾性率>
上述の製造方法で得られたポリアミド樹脂のペレットを120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX140III」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃、成形サイクル50秒の条件で、ISO引張り試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO178に準拠して、上記ISO引張り試験片(4mm厚)を用いて、温度23℃、湿度50%の環境下で曲げ強さ(単位:MPa)および曲げ弾性率(単位:GPa)を測定した。結果を下記表1または表2に示す。
【0074】
<ノッチ付シャルピー衝撃強度>
ISO179-1,2に準拠して、上記ISO引張り試験片(4mm厚)を用いて、温度23℃、湿度50%の環境下で1Jハンマーを用いノッチ付シャルピー衝撃強度を測定した。結果を下記表1または表2に示す。
【0075】
<難燃性(UL94試験)>
上述の製造方法で得られたポリアミド樹脂のペレットを120℃で4時間乾燥させた後、日本製鋼所製のJ50-EP型射出成形機を用いて、射出成形し、長さ125mm、幅13mm、厚さ1.5mmのUL試験用燃焼片を成形した。シリンダー温度および金型温度は、それぞれ、280℃、130℃の間とした。
上述の方法で得られたUL試験用燃焼片を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、UL94試験に準拠して行なった。結果を下記表1または表2に示す。
【0076】
<ノズルからの噴出ガス>
上述のUL試験用燃焼片を成形する際の、樹脂交換時にノズルから噴出するガスの量を目視で評価した。
結果を下記表1または表2に示す。
A:薄いガスが、ノズルから排出された樹脂から上へ穏やかに上る様子
B:上記Aよりもガスが濃い、および/または、ガスがAよりもノズルから排出された樹脂と共に勢いよく噴射した
<離型性>
上述の製造方法で得られたポリアミド樹脂のペレットを120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX140III」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃、成形サイクル30秒の条件で、100mm×100mm×2mmの平板を射出成形し、成形品を金型から取り出す際の反りの有無を確認した。材料の離型性が極端に低いと、平板成形品の離型抵抗が高まり、突出しピンに強く押されることによって、変形し、反りとして確認される。
結果を下記表1または表2に示す。
A:反りは確認されなかった
B:目視で認識できるレベルの反りが確認された(上記A以外)
【表1】
【表2】
【0077】
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、良好な機械的強度および高い難燃性を両立できた。さらに、難燃剤のノズルからの噴出ガスもなく、離型性についても良好な結果となった。
これに対して、ワックスの代わりに脂肪酸金属塩を用いた比較例1、2、5では、機械的強度が向上しなかった。また、ワックスを用いても難燃剤の量が多い場合(比較例3)、機械的強度が向上しなかった。さらに、ノズルからガスが噴出してしまった。ガラス繊維の含有量が少ない場合(比較例4、5)、難燃性が劣っていた。
また、ワックスを含まない場合(比較例6)、離型性が劣っていた。
さらに、難燃剤の量が少ない場合(比較例7)、難燃性が劣っていた。
加えて、ポリフェニレンエーテルまたはホウ酸亜鉛を含む場合(比較例8、9)、難燃性が劣っていた。特に、ホウ酸亜鉛を含む比較例9は機械的強度も劣っていた。
特に、ガラス繊維の含有量が少ない場合(比較例4、5)では、離型剤の種類(ワックス、脂肪酸金属塩)にかかわらず、機械的強度や難燃性は同等にもかかわらず、ガラス繊維の含有量が増えると(実施例1、比較例1)、機械的強度に顕著な差が出る点で、本発明の効果が驚くべきものであることが分かった。