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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】基礎構造及び基礎工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/34 20060101AFI20230711BHJP
   E02D 27/12 20060101ALI20230711BHJP
   E02D 5/80 20060101ALI20230711BHJP
   E02D 5/56 20060101ALI20230711BHJP
   E02D 5/28 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
E02D27/34 A
E02D27/12 Z
E02D5/80 Z
E02D5/56
E02D5/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019095121
(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公開番号】P2020190098
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月15日 株式会社総合土木研究所発行 基礎工12月号、第46巻第12号 通巻545号、第036~039頁にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】黒川 雄太
(72)【発明者】
【氏名】岩間 和博
(72)【発明者】
【氏名】金田 崇興
(72)【発明者】
【氏名】若井 修一
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-256896(JP,A)
【文献】特開平05-140931(JP,A)
【文献】特開平10-082057(JP,A)
【文献】実開昭57-105340(JP,U)
【文献】特開2013-170378(JP,A)
【文献】特開昭58-024017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/34
E02D 27/12
E02D 5/80
E02D 5/56
E02D 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に埋設された複数の杭と、
前記複数の杭に支持されると共に上方の構造物を支持するフーチングと、
前記フーチングに固定され平面視で前記複数の杭に囲まれた領域内に配置された地盤アンカーと、
を備え、
前記地盤アンカーは、
前記複数の杭に等しい軸力を導入している、
基礎構造。
【請求項2】
地盤に埋設された複数の杭と、
前記複数の杭に支持されると共に上方の構造物を支持するフーチングと、
前記フーチングに固定され平面視で前記複数の杭に囲まれた領域内で、前記領域の図心に配置された一つの地盤アンカー、または、前記領域の図心に対して点対称に配置された複数の地盤アンカーと、
を備えた基礎構造。
【請求項3】
地盤に埋設された複数の杭と、
前記複数の杭に支持されると共に上方の構造物を支持するフーチングと、
前記フーチングに固定され平面視で前記複数の杭に囲まれた領域内に配置された一つの地盤アンカーと、
を備え、
前記地盤アンカーの中心軸の位置が、前記領域の図心の位置と一致する、基礎構造。
【請求項4】
地盤に埋設された複数の杭と、
前記複数の杭に支持されると共に上方の構造物を支持するフーチングと、
前記フーチングに固定され平面視で前記複数の杭に囲まれた領域内に配置された複数の地盤アンカーと、
を備え、
前記複数の地盤アンカーの中心の位置が、前記領域の図心の位置と一致する、基礎構造。
【請求項5】
地盤に埋設された複数の杭と、
前記複数の杭に支持されると共に上方の構造物を支持する、平面視で長方形状のフーチングと、
前記フーチングに固定され平面視で前記複数の杭に囲まれた領域内に配置された複数の地盤アンカーと、
を備え、
前記複数の杭は、前記フーチングにおける4つの角部にそれぞれ設けられた角部杭、及び、前記フーチングにおける長辺方向の中央部の前記角部杭に挟まれた位置にそれぞれ設けられた中央部杭であり、
前記フーチングにおける一方の短辺側で対向する2つの前記角部杭と2つの前記中央部杭とで囲まれる第一領域と、前記フーチングにおける他方の短辺側で対向する2つの前記角部杭と2つの前記中央部杭とで囲まれる第二領域と、にそれぞれ配置される前記複数の地盤アンカーは、中心が、前記第一領域及び前記第二領域の重心と一致するように配置されると共に、
前記重心は、前記角部杭の軸心からの距離に対して、前記中央部杭の軸心からの距離が2倍となる位置である、基礎構造。
【請求項6】
地盤に複数の杭を埋設する工程と、
平面視で前記複数の杭に囲まれた領域内に地盤アンカーを配置する工程と、
前記複数の杭の上にフーチングを構築する工程と、
前記フーチングの上に構造物を構築した後に、前記地盤アンカーに緊張力を付与して、前記複数の杭に等しい軸力を導入する工程と、
を備えた基礎工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に常時作用する鉛直力を杭で支持し、地盤アンカーに緊張力を付与することで地震時等の引き抜き力に抵抗する基礎構造及び基礎工法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、杭基礎の周囲に配置したグランドアンカーに緊張力を付与することで、杭の引き抜き抵抗力を高めた耐震杭基礎工法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-82057公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建築物の基礎においては、柱ごとにフーチングを設けることが一般的であり、地震時の引き抜きは、フーチング全体に作用する。上記特許文献1に示された耐震杭基礎工法においては、グランドアンカーに緊張力を導入した際に、グランドアンカーに近い位置にある杭基礎にはプレストレスが導入される一方、グランドアンカーから離れた位置にある杭基礎にはプレストレスが導入されにくい。これにより、それぞれの杭の引き抜き抵抗力にばらつきが生じ、グランドアンカーから離れた位置にある杭基礎が地震時に引き抜かれる、又は引き抜き抵抗力の大きな杭同士の間でフーチングに過大な力が作用する可能性がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮して、複数の杭の引き抜き抵抗力を高めると共に、引き抜き抵抗力のばらつきが生じ難い基礎構造及び基礎工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の基礎構造は、地盤に埋設された複数の杭と、前記複数の杭に支持されると共に上方の構造物を支持するフーチングと、前記フーチングに固定され平面視で前記複数の杭に囲まれた領域内に配置された地盤アンカーと、を備え、前記地盤アンカーは、前記複数の杭に等しい軸力を導入している。
【0007】
請求項1に記載の基礎構造では、地盤アンカーからフーチングを介して杭に軸力が導入される。これにより、地震時に杭に作用する引き抜き力に対して抵抗力(引き抜き抵抗力)を高めることができる。また、地盤アンカーは、複数の杭に囲まれた領域内に配置される。これにより、複数の杭に囲まれた領域外に配置される場合と比較して、杭の引き抜き抵抗力にばらつきが生じることを抑制できる。
【0008】
一態様の基礎構造は、前記地盤アンカーは、前記複数の杭に等しい軸力を導入している。
【0009】
一態様の基礎構造によると、地盤アンカーが複数の杭に等しい軸力を入力しているため、杭の引き抜き抵抗力にばらつきが生じることを抑制できる効果を高められる。
請求項2の基礎構造は、地盤に埋設された複数の杭と、前記複数の杭に支持されると共に上方の構造物を支持するフーチングと、前記フーチングに固定され平面視で前記複数の杭に囲まれた領域内で、前記領域の図心に配置された一つの地盤アンカー、または、前記複数の杭に囲まれた領域の図心に対して点対称に配置された複数の地盤アンカーと、を備える。
請求項3の基礎構造は、地盤に埋設された複数の杭と、前記複数の杭に支持されると共に上方の構造物を支持するフーチングと、前記フーチングに固定され平面視で前記複数の杭に囲まれた領域内に配置された一つの地盤アンカーと、を備え、前記地盤アンカーの中心軸の位置が、前記複数の杭に囲まれた領域の図心の位置と一致する。
請求項4の基礎構造は、地盤に埋設された複数の杭と、前記複数の杭に支持されると共に上方の構造物を支持するフーチングと、前記フーチングに固定され平面視で前記複数の杭に囲まれた領域内に配置された複数の地盤アンカーと、を備え、前記複数の地盤アンカーの中心の位置が、前記複数の杭に囲まれた領域の図心の位置と一致する。
請求項5の基礎構造は、地盤に埋設された複数の杭と、前記複数の杭に支持されると共に上方の構造物を支持する、平面視で長方形状のフーチングと、前記フーチングに固定され平面視で前記複数の杭に囲まれた領域内に配置された複数の地盤アンカーと、を備え、
前記複数の杭は、前記フーチングにおける4つの角部にそれぞれ設けられた角部杭、及び、前記フーチングにおける長辺方向の中央部の前記角部杭に挟まれた位置にそれぞれ設けられた中央部杭であり、前記フーチングにおける一方の短辺側で対向する2つの前記角部杭と2つの前記中央部杭とで囲まれる第一領域と、前記フーチングにおける他方の短辺側で対向する2つの前記角部杭と2つの前記中央部杭とで囲まれる第二領域と、にそれぞれ配置される前記複数の地盤アンカーは、中心が、前記第一領域及び前記第二領域の重心と一致するように配置されると共に、前記重心は、前記角部杭の軸心からの距離に対して、前記中央部杭の軸心からの距離が2倍となる位置である。
【0010】
請求項6の基礎工法は、地盤に複数の杭を埋設する工程と、平面視で前記複数の杭に囲まれた領域内に地盤アンカーを配置する工程と、前記複数の杭の上にフーチングを構築する工程と、前記フーチングの上に構造物を構築した後に、前記地盤アンカーに緊張力を付与して、前記複数の杭に等しい軸力を導入する工程と、を備えている。
【0011】
請求項6に記載の基礎工法では、地盤アンカーからフーチングを介して杭に軸力が導入される。これにより地震時に杭に作用する引き抜き力に対する抵抗力(引き抜き抵抗力)を高めることができる。また、地盤アンカーは、複数の杭に囲まれた領域内に配置される。これにより、複数の杭に囲まれた領域外に配置される場合と比較して、杭の引き抜き抵抗力にばらつきが生じることを抑制できる。
【0012】
さらに、フーチングの上に構造物を構築した「後」に地盤アンカーに緊張力を付与する。これにより、フーチングの上に構造物を構築する「前」に地盤アンカーに緊張力を付与する場合と比較して、地盤アンカーに緊張力を付与することで得た杭軸力のプレストレス量の低下を抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、複数の杭の引き抜き抵抗力を高めると共に、引き抜き抵抗力のばらつきが生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る基礎構造を示した立断面図である。
図2】(A)は本発明の実施形態に係る基礎構造において、複数の杭に囲まれた領域の図心に1つのアンカーを配置した例を示す平面図であり、(B)は複数の杭に囲まれた領域の図心に複数のアンカーの中心を配置した例を示す平面図であり、(C)は複数の杭に囲まれた領域の図心に複数のアンカーの中心を配置した別の例を示す平面図であり、(D)は複数の杭に囲まれた領域それぞれの重心に複数のアンカーの中心を配置した例を示す平面図である。
図3】(A)は複数の杭に囲まれた領域の図心に1つのアンカーを配置した例において、アンカーに緊張力を付与して杭に軸力が導入された状態を示す立断面図であり、(B)は複数の杭に囲まれた領域の図心に複数のアンカーの中心を配置した例において、アンカーに緊張力を付与して杭に軸力が導入された状態を示す立断面図である。
図4】2つの杭の中心と2つのアンカーの中心の位置とを異ならせた例を示す立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る基礎構造及び基礎工法について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略したり異なる構成と入れ替えたりする等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0016】
(基礎構造)
図1には、本発明の実施形態に係る基礎構造10の一例が示されている。基礎構造10は、地盤Gに構築する建物の基礎構造であり、フーチング20と、杭30と、地盤アンカー40(以下、アンカー40と称す)と、を備えている。杭30は、地盤G中に複数埋設されている。
【0017】
フーチング20には、二点鎖線で示す基礎梁22及び柱24が接合されている。基礎梁22及び柱24は、本発明における構造物としての建物の構造躯体である。すなわち、フーチング20は上方の構造物を支持している。
【0018】
フーチング20には、杭30の杭頭部(上端部)が埋設されている。換言すると、杭30は杭頭部がフーチング20に固定されている。これにより、フーチング20は複数の杭30に支持されている。杭30は、羽根付き鋼管で形成された既成杭である。「既成杭」とは予め工場等で製作されたものを地盤へ埋設する杭の総称である。「羽根付き鋼管杭」とは、鋼管杭の先端や中間部に螺旋形状の羽根が溶接された鋼管杭である。杭30においては、先端部30Aに羽根32が形成され、先端部30Aは、地盤Gにおける支持層GAに根入れされている。
【0019】
杭30は、全旋回機等を用いて回転させながら圧入することにより地盤Gに埋設される。この際、螺旋状の羽根32が回転することにより地盤Gが掘り進められる。
【0020】
また、フーチング20には、アンカー40の上端部40Aが固定されている。一方、アンカー40の下端部40Bは、支持層GAに根入れされている。アンカー40は、上端部40Aから下端部40Bに亘って配設されたワイヤ42を備えている。このワイヤ42には緊張力Tが付与されている。この緊張力Tがフーチング20を介して杭30へ伝達され、杭30に軸力(圧縮力)Sが導入されている。なお、以下の説明においては、「ワイヤ42に緊張力Tが付与されている」ことを、「アンカー40に緊張力Tが付与されている」と表現する場合がある。
【0021】
アンカー40は、地盤Gに形成された挿入孔50に挿入されている。アンカー40の下端部40Bにおいては、ワイヤ42の先端に圧着グリップ42A及び支圧板42Bが固定されている。圧着グリップ42Aは、先端部キャップ42Cで被覆されている。
【0022】
支圧板42Bの上方には耐荷体42Dが設けられている。耐荷体42Dは、ワイヤ42を被覆する管状体である。また、耐荷体42Dの上方にはシース管42E、42Fが設けられている。シース管42Eはワイヤ42を被覆する管状体であり、上端部がフーチング20に挿入されている。また、シース管42Eは、シース管42Fの下端部に接続されている。シース管42Fは、フーチング20に埋設された管状体であり、外周にスパイラル筋42Gが取付けられている。
【0023】
シース管42E、42F及び耐荷体42Dとワイヤ42との間にはグリース等が充填され、ワイヤ42はアンボンド加工されている。これにより、ワイヤ42に緊張力Tが入力されると、圧着グリップ42A及び支圧板42Bを介して耐荷体42Dに上向きの力が作用する。
【0024】
耐荷体42Dに作用した力は、耐荷体42Dの周囲に加圧注入された定着体に伝達される。定着体は圧縮状態となり、アンカー40は、この定着体と支持層GA(挿入孔50の孔壁)との間の周面摩擦によって、緊張力Tに抵抗する。
【0025】
このように、本実施形態におけるアンカー40は、単一耐荷体(耐荷体42D)方式の圧縮型定着体を用いて形成されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば耐荷体を複数配置した分散耐荷体方式の圧縮型定着体を用いてもよい。
【0026】
または、圧縮型定着体に代えて引張型定着体を用いてもよい。引張型定着体を用いる場合は、アンカー40の先端の圧着グリップ42A、支圧板42B及び耐荷体42D等を省略し、アンカー40からの引張力を、付着抵抗力によって定着体へ伝達する。
【0027】
さらに、本実施形態におけるアンカー40は、定着体と支持層GA(挿入孔50の孔壁)との周面摩擦によって緊張力Tに抵抗する摩擦定着型の支持方式とされているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば定着体と支持層GAとの間の支圧力によって緊張力Tに抵抗する支圧定着型の支持方式としてもよいし、周面摩擦及び支圧力の双方によって緊張力Tに抵抗する複合(摩擦・支圧併用定着型)方式としてもよい。またさらに、本発明におけるアンカーとしては、上記で説明した実施形態に限らず、様々な定着構造、施工方法を採用することができる。
【0028】
ワイヤ42の上端部はフーチング20の上面から突出している。この上端部は、アンカーヘッド42Hに形成された貫通孔に挿通されている。貫通孔とワイヤ42の上端部の間には楔42Iが配置されている。なお、ワイヤ42の上端部は、フーチング20の上面から突出させなくてもよい。この場合、フーチング20の上面を座彫りして、ワイヤ42の上端部をフーチング20の上面より低い位置に配置する。
【0029】
(基礎工法)
基礎構造10を構築するためには、まず、図示しない掘削機によって地盤Gを掘削して挿入孔50を形成する。そして、アンカー40を挿入孔50に挿入する。アンカー40の挿入に際しては、適宜ケーシングパイプを用いて孔壁を保護することが好ましい。
【0030】
アンカー40を挿入孔50へ挿入した後、アンカー40と挿入孔50との間に注入材(グラウト材)を注入する。これにより、アンカー40が地盤Gに埋設される。アンカー40は、複数の杭30に囲まれた領域内に配置する。なお、アンカー40を地盤Gに埋設する前又は埋設した後に、杭30を地盤Gに埋設する。
【0031】
アンカー40及び複数の杭30を地盤Gに埋設した後、フーチング20を形成するコンクリートを打設する。コンクリートは、アンカー40のシース管42F、スパイラル筋42G及び杭30の杭頭を被覆するように打設する。これにより、複数の杭30の上にフーチング20を構築する。
【0032】
フーチング20を形成するコンクリートの硬化後、フーチング20の上面から突出したワイヤ42の上端部にアンカーヘッド42Hを被せ、アンカーヘッド42Hに形成された貫通孔にワイヤ42の上端部を挿通する。
【0033】
ここで、ワイヤ42に緊張力を付与する前に、フーチング20の上方に構造物を構築する。この構造物としては、少なくとも建物の構造躯体である基礎梁22及び柱24を構築する。また、建物のスラブ、構造壁、階段等の主要構造部を構築することが望ましい。さらに、間仕切壁などの雑壁、仕上げ材などを構築することがさらに好ましい。
【0034】
フーチング20の上方に構造物を構築後、ワイヤ42に緊張力を付与する。緊張力は、ジャッキを用いて付与される。ジャッキを用いてワイヤ42を引張った状態で、アンカーヘッド42Hの貫通孔とワイヤ42との間に、楔42Iを配置する。これによりフーチング20にアンカー40が固定され、ジャッキの引張力を解除してもワイヤ42の緊張力Tが保持される。
【0035】
ワイヤ42に緊張力Tを作用させると、ワイヤ42の先端に固定された支圧板42Bが、耐荷体42Dを上向きに押圧する。耐荷体42Dの周面には凹凸が形成されている。この凹凸は、挿入孔50と耐荷体42Dとの間に充填された注入材(グラウト材)との間で付着応力を伝達する。
【0036】
ワイヤ42に緊張力Tを付与した後、ジャッキを撤去して、ワイヤ42の上端部、アンカーヘッド42H及び楔42Iを、頭部キャップ42Jによって被覆する。
【0037】
(杭及びアンカーの配置)
図2(A)~(D)には、フーチング20に固定された杭30及びアンカー40の配置例が示されている。
【0038】
図2(A)に示した例では、平面視で略正方形状とされたフーチング20における4つの角部にそれぞれ杭30が設けられている。4つの杭30に囲まれた領域(1点鎖線で囲まれた部分)内の図心O1には、アンカー40が配置されている。アンカー40は、アンカー40の中心軸O2の位置が、図心O1の位置と一致するように配置されている。アンカー40とそれぞれの杭30との距離は、互いに等しい。
【0039】
なお、以下の説明においては、複数の杭30に囲まれた領域の図心O1の事を、「複数の杭30の図心O1」又は「図心O1」と記載する場合がある。また、複数のアンカー40に囲まれた領域の図心のことを、「複数のアンカー40の図心」と記載する場合がある。
【0040】
図3(A)に示すように、アンカー40に付与された緊張力Tは、フーチング20を介して杭30に軸力(プレストレス力)Sとして導入される。アンカー40の中心軸O2の位置が、図心O1の位置と一致するように配置されていることにより、それぞれの杭30に導入される軸力Sは互いに等しい値となる。すなわち、アンカー40は複数の杭30に等しい軸力Sを導入している。
【0041】
また、図2(B)に示した例でも、平面視で略正方形状とされたフーチング20における4つの角部にそれぞれ杭30が設けられている。また、フーチング20の側面(Y方向に沿う側面)に沿って互いに隣接する2つの杭30の中心には、アンカー40が配置されている。また、アンカー40は、2つのアンカー40の中心O3の位置が、4つの杭30の図心O1の位置と一致するように配置されている。
【0042】
なお、本発明における地盤アンカーが配置された「平面視で複数の杭に囲まれた領域内」とは、図2(B)及び後述する図2(D)に示すように、複数の杭30に囲まれた領域とその外部領域との境界部を含むものとする。
【0043】
さらに、図2(C)に示した例でも、平面視で略正方形状とされたフーチング20における4つの角部にそれぞれ杭30が設けられている。また、4つの杭30に囲まれた領域内に、2つのアンカー40が配置されている。アンカー40は、2つのアンカー40の中心O3の位置が、4つの杭30の図心O1の位置と一致するように配置されている。
【0044】
このように、本実施形態においては、杭30によって囲まれる領域が1つの場合、複数の杭30の図心の位置と、1つのアンカー40の中心軸(例えば中心軸O2)、2つのアンカー40の中心(例えば中心O3)又は3つ以上のアンカー40の図心と一致するように配置される。
【0045】
またさらに、図2(D)に示した例では、平面視で長方形状とされたフーチング20における4つの角部及び長辺に沿った中央部に、それぞれ杭30が設けられている。また、フーチング20の側面(Y方向に沿う側面)に沿って互いに隣接する2つの杭30の間には、アンカー40が配置されている。
【0046】
アンカー40は、フーチング20における4つの角部に配置された杭30(杭30E)とフーチング20における長辺に沿った中央部に配置された杭30(杭30M)との間を3等分する位置のうち、杭30E寄りの位置に配置されている。
【0047】
図2(D)においては、杭30によって2つの領域が形成されている。すなわち、紙面上方の角部に配置された2つの杭30Eと、2つの杭30Mとで一方の領域R1を形成している。また、紙面下方の角部に配置された2つの杭30Eと、2つの杭30Mとで他方の領域R2を形成している。杭30Eは、それぞれ領域R1、R2のいずれかを形成している一方、杭30Mは、領域R1、R2の境界部に配置され、領域R1、R2の双方を形成している。
【0048】
ここで、領域R1の重心O4の位置を算出する。この際、領域R1を形成する杭30のそれぞれについて、重みづけを行なう。具体的には、杭30のそれぞれについて、当該杭30が構成する領域の数の比の逆数で重みづけする。
【0049】
杭30Eは構成する領域の数が「1」であり、杭30Mは構成する領域の数が「2」である。このため杭30Eの重み付けは「1」であり、杭30Mの重み付けは「1/2」となる。すなわち、杭30Mは、領域R1の重心を算出する際、杭30Eに対して重み付けが1/2となる。
【0050】
これにより、領域R1の重心O4は、杭30Eの軸心までの距離L1:杭30Mの軸心までの距離L2=1:2となるように設定される。
【0051】
領域R1に配置された2つのアンカー40の中心O3の位置は、領域R1の重心O4と一致している。換言すると、アンカー40は、2つのアンカー40の中心O3が領域R1の重心O4と一致するように配置されている。
【0052】
なお、領域R1と同様に、領域R2の重心O4は、領域R2に配置された2つのアンカー40の中心O3の位置と一致している。換言すると、アンカー40は、2つのアンカー40の中心O3が領域R2の重心O4と一致するように配置されている。
【0053】
このように、杭30に囲まれる領域が複数ある場合、それぞれの領域(領域R1、R2)に配置されるアンカー40は、中心O3が、それぞれの領域における杭30の重心O4(当該領域を形成する杭30毎に、形成する領域数に応じて重み付けを行なった場合の図心)と一致するように配置されている。
【0054】
以上示したように、図3(A)に示した例においては1つのフーチング20に対してアンカー40を1つのみ設けているが、アンカー40は、図2(B)、(C)、(D)に示した例のように、1つのフーチング20に対して複数設けてもよい。
【0055】
この場合、2つのアンカー40の中心O3(図2(B)、(C)、(D)参照)(アンカーが3本以上の場合は、複数のアンカー40の図心)の位置が、複数の杭30によって囲まれた領域それぞれの図心O1の位置と一致するように配置することが好ましい。なお、「一致」とは、中心O3又は図心が図心O1又は重心O4と完全に一致している状態の他、概ね杭30の杭径程度まで離間している状態を含む。本発明における「一致」も同様である。
【0056】
これにより、図3(B)に示すように、複数のアンカー40に付与された緊張力Tが、フーチング20を介して杭30に軸力Sとして導入される。それぞれのアンカー40に付与される緊張力Tは互いに等しい。また、それぞれの杭30に導入される軸力Sは互いに等しい。なお、上記の各実施形態において、杭30に導入される軸力が「等しい」とは、これらの軸力が厳密に同一である必要があることを意味しない。すなわち、複数の杭30に導入される軸力が同一となるように設計していればよく、施工誤差等によるばらつきはあってもよい。
【0057】
(作用)
本発明の実施形態に係る基礎構造10では、図1に示すように、アンカー40(ワイヤ42)に付与した緊張力Tによって、フーチング20を介して杭30に軸力Sが導入される(アンカー40からフーチング20を介して杭30に軸力Sが導入される)。これにより地震時に杭30に作用する引き抜き力に対する抵抗力(引き抜き抵抗力)を高めることができる。
【0058】
また、図2(A)~(D)に示すように、アンカー40は、複数の杭30に囲まれた領域内に配置される。これにより、アンカー40が複数の杭30に囲まれた領域外に配置される場合と比較して、杭30の引き抜き抵抗力にばらつきが生じることを抑制できる。
【0059】
さらに、基礎構造10では、2つのアンカー40の中心O3(図2(B)、(C)、(D)参照)又は複数のアンカー40の図心の位置が、複数の杭30によって囲まれた領域それぞれの図心O1又は重心O4の位置と一致するように配置されている。これにより、アンカー40が複数の杭30に等しい軸力を導入(入力)するので、杭の引き抜き抵抗力にばらつきが生じることを抑制できる効果が高められる。
【0060】
またさらに、基礎構造10では、フーチング20の上方に構造物を構築した「後」にアンカー40に緊張力を付与する。これにより、フーチング20の上方に構造物を構築する「前」にアンカー40に緊張力を付与する場合と比較して、アンカー40に緊張力を付与することで得た杭軸力のプレストレス量の低下を抑えることができる。
【0061】
また、基礎構造10では、杭30として羽根付き鋼管杭を用いている。杭30は、全旋回機等を用いて回転させながら圧入することにより地盤Gに埋設される。この際、螺旋状の羽根32が回転することにより地盤Gが掘り進められる。このため排土が発生し難い。また、羽根付き鋼管杭は杭体自体に掘削能力があるため、現場打ち杭を施工する場合と比較して、杭の打設用重機を小型化できる。これにより、建物を施工する敷地が狭い場合や、敷地に接続する道路の幅員が狭い場合においても杭30を施工することができる。
【0062】
なお、羽根付き鋼管杭は、現場打ち杭等と比較して、引き抜き抵抗力が小さい傾向がある。このため、アンカー40のような地盤アンカーを併用して引き抜き抵抗力を高めることが有効である。本実施形態のようにアンカー40によって杭30の引き抜き抵抗力を高めることで、地震時に基礎部に大きな引き抜き力が作用する建物(例えば塔状比が大きい建物)の地震に対する抵抗力を高めることができる。
【0063】
なお、本実施形態において杭30は支持層GAに根入れされた支持杭とされているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば杭30は支持層GAに根入れしない摩擦杭としてもよい。その他、杭30は羽根32を備えない鋼管杭としてもよいし、コンクリート杭としてもよい。さらに、杭30は場所打ち杭としてもよいし、各種の工法を用いて施工することができる。杭30がどのようなものであっても、アンカー40によって軸力Sを導入することができる。
【0064】
また、本実施形態においては、複数の杭30に等しい軸力Sを導入するために、2つのアンカー40の中心O3(図2(B)、(C)、(D)参照)又は複数のアンカー40の図心の位置を、複数の杭30によって囲まれた領域それぞれの図心O1又は重心O4の位置と一致するように配置し、かつ、複数のアンカー40に等しい緊張力Tを付与しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0065】
例えばアンカー40の中心又は図心の位置と、杭30の中心又は図心の位置とを異ならせ、さらに複数のアンカー40に付与する軸力を異ならせてもよい。
【0066】
具体的には、図4に示すように、アンカー40Cを、2つの杭30C、30DからそれぞれL1、L2だけ離れた位置に配置する。アンカー40Cには、緊張力T1を付与する。また、アンカー40Dを、2つの杭30C、30DからそれぞれL3、L4だけ離れた位置に配置する。アンカー40Dには、緊張力T2を付与する。
【0067】
この時、杭30Cに導入される軸力SC及び杭30Dに導入される軸力SDはそれぞれ以下のように示される。
SC=T1×L2/(L1+L2)+T2×L4/(L3+L4)
SD=T1×L1/(L1+L2)+T2×L3/(L3+L4)
【0068】
そこで
T1=(L3-L4)/(L3+L4)×(L1+L2)/(L2-L1)×T2
とすることで、
SC=(L2×L3-L1×L4)/(L2-L1)/(L3+L4)
SD=(L2×L3-L1×L4)/(L2-L1)/(L3+L4)
となり、杭30Cに導入される軸力SC及び杭30Dに導入される軸力SDは等しくなる。
【0069】
このように、2つのアンカー40の中心の位置と2つの杭30の中心の位置とをずらし、複数のアンカー40に付与する緊張力(T1、T2)を異ならせても、複数の杭30に導入される軸力(SC、SD)を等しくすることができる。換言すると、複数の杭30に導入される軸力が等しくなるようにアンカー40の位置及びアンカー40に付与する緊張力を調整すれば、杭30及びアンカー40は任意の位置に配置することができる。
【0070】
なお、図4においては、説明を簡略化するために杭30及びアンカー40をそれぞれ2本ずつ配置した例を示したが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、図4を用いて説明したアンカー40の中心又は図心の位置と、杭30の中心又は図心の位置とを異ならせる例において、杭30及びアンカー40の少なくとも一方を3本以上設けてもよい。
【0071】
一例として、杭30を3本設け、アンカー40を2本設けた構成としてもよい。別の一例として、杭30を3本設け、アンカー40を3本設けた構成としてもよい。杭30及びアンカー40の本数に拠らず、それぞれの杭30とアンカー40との距離及びそれぞれのアンカー40に付与する緊張力を調整して、複数の杭30に導入する軸力を等しくすればよい。
【0072】
また、上記の実施形態においては、複数の杭30に導入する軸力が等しくなるようにアンカー40の配置及び付与する軸力を調整しているが、複数の杭30に導入する軸力を等しくする構成としては、上記の実施形態に限らず、様々な構成を採用することができる。さらに、本発明の実施形態においては、複数の杭30に導入する軸力を必ずしも等しくする必要はない。
【0073】
例えばアンカー40は、2つの杭30の間又は複数の杭30に囲まれる領域内に配置すればよい。すなわち、1本のアンカー40の中心軸O2(図2(A)参照)の位置は、図心O1の位置と一致させなくてもよいし、領域ごとの複数のアンカー40の中心O3(図2(B)、(C)、(D)参照)又は図心の位置を、図心O1又は重心O4の位置と一致させなくてもよい。
【0074】
アンカー40を、2つの杭30の間又は複数の杭30に囲まれる領域内に配置すれば、アンカー40を2つの杭30の外側又は複数の杭30に囲まれる領域外に配置する場合と比較して、杭30の引き抜き抵抗力にばらつきが生じ難い効果を得ることができる。このように、本発明は様々な態様で実施できる。
【符号の説明】
【0075】
30 杭
20 フーチング
40 地盤アンカー
G 地盤
図1
図2
図3
図4