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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】油孔付きドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/06 20060101AFI20230711BHJP
【FI】
B23B51/06 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021537239
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2020028832
(87)【国際公開番号】W WO2021024848
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2019145240
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】大野 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 直樹
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-205844(JP,A)
【文献】国際公開第2014/118881(WO,A1)
【文献】特開2018-015861(JP,A)
【文献】中国実用新案第204686127(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚以上の切れ刃と、冷却媒体を流す流路と、前記流路の開口部である油孔を備えた油孔付きドリルであって、
前記油孔付きドリルの軸方向と直交する方向の断面において前記流路の断面形状は、少なくとも、長さが互いに異なる第1ないし第3直線部を含み、
前記各直線部同士は所定の曲率半径を有して前記油孔の内側から外側に向かって湾曲する曲線部により連結されており、
前記第1直線部は前記油孔付きドリルの回転方向の前方側に位置し、前記第2直線部は前記油孔付きドリルの回転方向の後方側に位置し、前記第3直線部は前記油孔付きドリルの中心軸側に位置し、かつ前記第1直線部と前記第2直線部は互いに平行な位置関係にあることを特徴とする油孔付きドリル。
【請求項2】
前記曲線部は、前記油孔付きドリルの外周コーナ側に位置して相互が滑らかにつながる第1ないし第3曲線部,前記第2直線部と前記第3直線部の間に位置する第4曲線部,前記油孔付きドリルの中心軸側に位置して相互が滑らかにつながる第5ないし第7曲線部と、を有しており、第1ないし第3曲線部間では前記第2曲線部の曲率半径が最も大きく、かつ第5ないし第7曲線部間では前記第6曲線部の曲率半径が最も大きいことを特徴とする請求項1に記載の油孔付きドリル。
【請求項3】
前記流路の開口部であるシャンク側の油孔は、前記シャンクの端部にある凹形状の溝内に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の油孔付きドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却媒体を圧送できる流路を内部に備えた油孔付きドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
ドリルを用いた切削加工時における被削材との摩擦熱を低減するために、ドリルの先端から切削液を吐出する、いわゆる油孔付きドリルがある。
この油孔から出た切削液は切れ刃が2枚のドリルの場合、前方側および後方側の2枚の切れ刃に対して冷却効果を発揮するように油孔の位置や大きさが設計されている。
従来の油孔付きドリルに関しては、下記特許文献1ないし3が例として挙げられる。
【0003】
特許文献1および2に開示されているドリルは油孔の形状を扇形として、かつドリル表面に開口する割合を大きくすることで切削液の量を増大し、ドリルへの冷却効果を高めることが説明されている。
また、特許文献3に記載されているドリルは油孔を凹型を有した非対称の腎臓形状にすることで、切削液をシンニング部から溝を介して流し、切削加工により生じた切り屑の冷却効果を高める点が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許第5926877号公報
【文献】日本国特許第5951113号公報
【文献】日本国特許第6386530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および2に示すドリルのように油孔の面積を広げても切削液の流量が単純に増えるだけであり、切削液の流れる箇所は変化しない。
つまり、切削液が流れるドリルの特定部位のみが冷却効果の恩恵を受ける。
また、特許文献3に示すドリルではドリルの溝に切削液が流れるので、ドリルと被削材との切削箇所である切れ刃、更には切削速度が最大となる外周コーナへの冷却効果は非常に限定される。
【0006】
そこで、本発明はシンニング部から切れ刃に至る領域に加えて、切削加工時に被削材と接して、切削速度が最大となる外周コーナを重点的に冷却できる油孔付きドリルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これまでのドリルの油孔から吐出される切削液の流れ(方向)について鋭意研究した結果、以下の点を明らかにした。
従来の油孔付きドリルは、油孔の形態により切削液の流れる方向は大きく変化すると思われてきた。
しかし、油孔の場所が大きく変化しない限り、その切削液の流れの方向はほとんど変化せずに、その大部分が後方側の切れ刃へ流れていくことが分かった。
【0008】
これは、油孔から出た冷却液がドリルの回転による慣性力を受けていることが原因である。
図6は従来の油孔付きドリル100を用いて被削材W100を切削加工した際の丸い油孔H101から吐出される切削液のシミュレーション結果、図7は従来の油孔付きドリル100の丸い油孔H101から吐出される切削液の流れの方向を示す模式図をそれぞれ示している。
【0009】
油孔H101の形態が丸い形状である場合には、図6および図7に示す様に油孔H101から吐出される切削液の大部分はヒール付近および後方の切れ刃に流れていることが判明した。
油孔付きドリルのヒール付近は切削加工時において熱影響が最も少ない部分である。
つまり、油孔から出る切削液が油孔付きドリルのヒール付近へ流れていくことは、油孔付きドリルの冷却効率を低下させる要因であると考えた。
【0010】
そこで、本発明では油孔からヒール付近に流れる切削液を制限し、それに替わり切削液を外周コーナに重点的に流れる油孔の形態とした。
言い換えると、油孔から吐出する切削液を前方の切れ刃に対しては外周コーナへ、後方の切れ刃に対してはシンニング切れ刃から後方の切れ刃全域へ切削液が流れるような孔形態とした。
【0011】
具体的には、前述した課題を解決するために、本発明では2枚以上の切れ刃と、冷却媒体を流す流路と、この流路の開口部である油孔と、を備える油孔付きドリル(以下、「ドリル」という)であって、ドリルの軸方向と直交する方向の断面における流路の断面形状は、少なくとも、3本の直線部である第1ないし第3直線部を含む。
また、これらの各直線部同士は曲線部により連結されており、第1直線部はドリルの回転方向の前方側に位置し、第2直線部はドリルの回転方向の後方側に位置し、第3直線部はドリルの中心軸側に位置している。
ここで、第1直線部と第2直線部を互いに平行な位置関係にしてもよい。
【0012】
各直線部同士を連結する曲線部は、ドリルの外周コーナ側に位置して相互が滑らかにつながる第1ないし第3曲線部,第2直線部と第3直線部の間に位置する第4曲線部,ドリルの最も中心軸側に位置して相互が滑らかにつながる第5ないし第7曲線部から構成する。
第1ないし第3曲線部間では第2曲線部の曲率半径を最も大きくし、かつ第5ないし第7曲線部間では第6曲線部の曲率半径を最も大きくしても良い。
また、流路の開口部であるシャンク側の油孔については、シャンクの端部に設けられた凹部形状の溝内に設けても構わない。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るドリルは、油孔の形態をこれまでの曲線のみから成る形状から複数の直線部を含む形態とする。
これにより、当該直線部を含む箇所は比較的に曲率半径の小さい曲線部に比べてより多くの切削液が流れることになった。
また、油孔の直線部は切れ刃の外周コーナの方向およびシンニング部の方向にそれぞれ分散して配置した。
その結果、油孔から吐出する切削液は前方の切れ刃の外周コーナおよびシンニング切れ刃から後方の切れ刃全域へ集中的に冷却できる効果を奏する
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るドリル1の正面図である。
図2】本発明に係るドリル1の先端部分の拡大斜視図である。
図3】本発明に係るドリル1の後端部分の拡大斜視図である。
図4図1に示すドリル1のA-A線断面図である。
図5図4に示す流路Pの拡大断面図である。
図6】従来ドリル100から吐出される切削液の流れを示すシミュレーション図である。
図7】従来ドリル100の油孔H101からの切削液の流れを示す模式図である。
図8】本発明のドリル1から吐出される切削液の流れを示すシミュレーション図である。
図9】本発明のドリル1の油孔H1からの切削液の流れを示す模式図である。
【符号の説明】
【0015】
1,100 油孔付きドリル
2 切れ刃
3(3A,3B) 逃げ面
4 すくい面
5 ねじれ溝
6 シンニング部
7 外周コーナ
10 シャンク
11 溝
11B 溝底
H1,H2,H101 油孔
O ドリルの中心軸
P 流路
S 流路の断面形状
RD ドリルの回転方向
C1~C7 第1ないし第7曲線部
L1~L3 第1ないし第3直線部
P1~P6,P11~P14 接点
W1,W100 被削材
r1~r7 第1ないし第7曲線部の曲率半径
θ 第1直線部と第2直線部の成す角度
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る油孔付きドリル1(以下、ドリル1と称する)の実施形態について、以下に図面を用いて説明する。
本発明の一実施形態であるドリル1の正面図を図1、ドリル1の先端部分(切れ刃側)の拡大斜視図を図2、ドリル1の後端部分(シャンク側)の拡大斜視図を図3にそれぞれ示す。
【0017】
本発明に係るドリル1の先端側は、図1および図2に示す様に2枚の切れ刃2,2を有して、それらの切れ刃2,2に連続して形成される逃げ面3,3、すくい面4,4、ねじれ溝5,5、後端側にはシャンク10をそれぞれ備える。
逃げ面3は切れ刃2から近い順に第1逃げ面(二番面)3Aと第2逃げ面(三番面)3Bに分かれており、第2逃げ面3Bには切削液を吐出する開口部(油孔H1,H1)が設けられている。
また、切れ刃2からドリル1の中心側(チゼル側)にはシンニング部6、外周側には外周コーナ7がそれぞれ設けられている。
【0018】
ドリル1の後端側は図3に示すようにシャンク10の端部に凹型の溝11が形成されている。
その溝11の溝底11Bには図2に示す2ヶ所の油孔H1,H1とドリル1内部に設けられた2条の流路(図示せず)を介してつながっている2ヶ所の油孔H2,H2が設けられている。
図1に示すドリル1のA-A線における断面図を図4、その断面図における流路Pの断面形状Sの拡大図を図5に示す。
【0019】
ドリル1には、図4に示す様に内部に2条の流路P,Pを備えている。
これらの2条の流路P,Pはドリル1の軸方向に沿って図2に示す油孔H1,H1と図3に示す油孔H2,H2をつないでおり、内部に切削液を流す役割を果たす。
また、ドリル1の軸方向と直交する方向の断面において流路Pの断面形状Sは図5に示すようにホームベース型に類似した概ね五角形の形状である。
【0020】
以下、この流路Pの断面形状Sについて詳細に説明する。
この断面形状Sは、少なくとも、長さが互いに異なる第1ないし第3直線部L1~L3を含み、これらの第1ないし第3直線部L1~L3同士は曲線部により連結されている。
図4図5に示すように、ドリル1の回転方向をRDと表現すると、第1直線部L1は3本の直線部L1~L3の中で最も回転方向RDの前方側に位置し、第2直線部L2は3本の直線部L1~L3の中で最も回転方向RDの後方側に位置している。
第1直線部L1と第2直線部L2は、野球のホームベース形状の様に互いに略平行な位置関係にあるのが好ましい。
さらに、第3直線部L3は3本の直線部L1~L3の中で最もドリル1の中心軸O側に位置している。
【0021】
次に、これらの第1ないし第3直線部L1~L3に接続する複数の曲線部について説明する。
図5に示す流路Pの断面形状Sは、第1ないし第3直線部L1~L3の他に所定の曲率半径を有する第1ないし第7の曲線部C1~C7から形成されている。
これらの複数の曲線部C1~C7は、大別すると最も外周コーナ側に位置する第1ないし第3曲線部C1~C3、第2直線部L2と第3直線部L3の間に位置する第4曲線部C4、ドリル1の最も中心軸O側に位置する第5ないし第7曲線部C5~C7である。
【0022】
まず、最も外周コーナ側に位置する第1ないし第3曲線部C1~C3は、第1直線部L1と接点P2(第2接点)を介して接続している第1曲線部C1(曲率半径r1)、第2直線部L2と接点P3(第3接点)を介して接続される第3曲線部C3(曲率半径r3)、これら2本の第1および第3曲線部C1,C3の間に位置して、接点P11(第11接点),接点P12(第12接点)を介して接続される第2曲線部C2(曲率半径r2)から構成されている。
【0023】
次に、ドリル1の最も中心軸O側に位置する第5ないし第7曲線部C5~C7は、第3直線部L3と接点P6(第6接点)を介して接続している第5曲線部C5(曲率半径r5)、第1直線部L1と接点P1(第1接点)を介して接続される第7曲線部C7(曲率半径r7)、これら2本の第5および第7曲線部C5,C7の間に位置して、接点P13(第13接点),接点P14(第14接点)を介して接続される第6曲線部C6から構成されている。
第6曲線部C6は、第1ないし第7曲線部C1~C7の中で最も大きい曲率半径r6を有する。
【0024】
第2直線部L2と第3直線部L3の間に位置する第4曲線部C4(曲率半径r4)は、ドリル1の中心軸O側であり、かつドリル1の回転方向RDの逆側(後方側)に位置している。
なお、第4曲線部C4を介した第2直線部L2と第3直線部L3の成す角度(内角)θは、110°~150°の範囲が好ましい(図5に示す第2直線部L2と第3直線部L3の成す角度は130°)。
なお、図5に示す上述した複数の接点P1~P6,P11~P14は直線部と曲線部または曲線部同士の境界を示すために便宜上図示しているものであり、流路の断面形状を形成する直線部と曲線部および曲線部同士は段差なく滑らかに接続されている。
【0025】
本発明に係るドリルの断面形状において、ドリルの回転方向前方側に第1直線部を配置し、同時にドリルの反回転方向の後方側(ヒール)および中心軸側に第2および第3直線部を配置した。
これら3本の直線部を油孔の形状の一部とすることで、第1直線部を配置した箇所から前方の切れ刃の外周コーナに向けて切削液が吐出されて、同時に第2および第3直線部を配置した箇所から油孔から吐出される切削液がシンニング部を経由して後方の切れ刃の外周コーナに到達する。
【0026】
つまり、従来のドリルのように回転方向の前方側の切れ刃のヒールに流れていた切削液を制限し、それに替わり前方の切れ刃の外周コーナの方向とシンニング部の方向の二方向へ切削液を重点的に流す油孔の形状とした。
これにより、ドリルの切削加工時において被削剤との摩擦熱が最も発生するドリルの外周コーナ付近への冷却効果を一層高めることができる。
【0027】
なお、本実施の形態では図1等に示す切れ刃が2枚である、いわゆる2枚刃のドリルの例を示しているが、その他に切れ刃が3枚以上であるドリルについても流路の断面形状を同様に適用できる。
また、流路の断面形状を形成する第1ないし第3直線部の長さ,第1ないし第7曲線部の長さや曲率半径の大きさ,第2直線部と第3直線部の成す角度などは切れ刃の枚数やドリルの直径などの諸条件に応じて任意に変更できる。
【実施例1】
【0028】
本発明に係るドリル(以下、「本発明品」という)と従来のドリル(以下、「従来品」という)を用いて、油孔の形態の違いによる切削液の流れの変化について流体解析(シミュレーション)を行なったので、その結果について図面を用いて説明する。
まず、従来品は丸い形状の油孔が2枚の切れ刃の後方側にそれぞれ配置されているドリルとした。
前述したように、従来品100の切削加工時において被削材W100内で切削液が流れる方向を可視化したシミュレーション結果を図6、油孔H101から吐出される切削液の各方向を矢印FD101~FD106で示した状態を図7にそれぞれ示す。
【0029】
従来品100の丸い形状の油孔H101の場合には、図6に示す様に吐出される切削液は、その大部分がヒール部分を含めたランド全体や溝に流れて、前方および後方の切れ刃の外周コーナに流れる切削液は非常に少ない。
また、従来品100の油孔H101から流れ出る切削液が方向FD101~FD106も、図7に示す様に多くの切削液が従来品100のランド全体に流れるものの、切れ刃の外周コーナへ流れる切削液は少ない。
【0030】
これに対して、本発明品1(ドリル1)の切削加工時において被削材W1内で切削液が流れる方向を可視化したシミュレーション結果を図8、油孔H1から吐出される切削液の各方向を矢印FD1~FD6で示した状態を図9にそれぞれ示す。
本発明品1の油孔H1の場合、吐出される切削液は油孔H1の一部に直線部を含むので、それらの直線部分と比較的に大きな曲率半径を有する曲線部から切削液が優先的に流れていることが把握される。
具体的には、図8に示す様に前方の切れ刃2側に位置する直線部からは前方の切れ刃2の外周コーナ7に向けて切削液が流れている状態が把握される。
【0031】
また、油孔H1には後方の切れ刃2側かつシンニング部6にも2本の直線部が形成されているので、それら2本の直線部からも切削液が優先的に流れており、切削液は溝5内にも流れ込むがシンニング部6を経由して後方の切れ刃2側にも接触していることがわかる。
【0032】
つまり、本発明に係るドリル1は図9に示す様に油孔H1から吐出される切削液は、全体として流れの方向FD1~FD6に大別されるが、油孔の形態にドリル回転方向の前方側に直線部を含むので、前方の切れ刃2の方向に切削液の流れFD1,FD2、特に前方の切れ刃2の外周コーナ7に向けて切削液の流れFD3も発生する。
同時に、ドリルの回転方向の逆側(後方側)にも2本の直線部を含むので、後方の切れ刃2の方向に切削液の流れFD6が発生する。
その結果、本発明のドリルではいずれの切れ刃の外周コーナへも切削液を重点的に冷却できることがわかる。
【実施例2】
【0033】
次に、前述の従来品と本発明品を用いた切削加工試験を行なったので、その試験結果について説明する。
従来品および本発明品ともにドリル径8mm、溝長さ64mm、ドリル長さ118mmの共通仕様とした。
また、被削材に炭素鋼(S50C)を用いて、加工穴は40mm深さの止まり穴とした。
なお、切削加工条件は以下のとおりとした。
・切削速度:120m/min
・回転数:4800min-1
・送り速度:1220mm/min
・送り量:0.256mm/rev
・切削油:水溶性切削油剤
・使用機械:立形マシニングセンタ(BT40)
なお、本試験の使用寿命はドリルの外周コーナにおける摩耗量がマージンの幅を超えた時点で寿命が尽きると判断し、その時点で切削加工試験を終了とした。
【0034】
従来品を用いた切削試験では、従来品が寿命に至るまでに加工できた総穴数は2750穴および3850穴であり、平均して3300穴の加工ができた。
これに対して、本発明品を用いた切削試験では、寿命に至るまでに加工できた総穴数は4950穴および4400穴であり、平均して4675穴の加工ができた。
この結果より、本発明品は従来品よりも1.4倍の寿命延長を図ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る油孔付きドリルは、冷却効果が高いため、各種ドリル工具として利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9