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特許7310113眼科用組成物及びその製造方法、ならびに吸着抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】眼科用組成物及びその製造方法、ならびに吸着抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/07 20060101AFI20230711BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230711BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20230711BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
A61K31/07
A61K9/08
A61K47/06
A61K47/10
A61K47/22
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/44
A61P27/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018187455
(22)【出願日】2018-10-02
(65)【公開番号】P2019065008
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2017194200
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椛嶋 恭平
(72)【発明者】
【氏名】田淵 照人
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-101582(JP,A)
【文献】特開2014-129327(JP,A)
【文献】特開2011-111425(JP,A)
【文献】特表2005-502392(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066651(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/225729(WO,A1)
【文献】特開2001-158734(JP,A)
【文献】特開2011-213599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 27/00-27/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)レチノールと、
(B)非イオン性界面活性剤、
(C-1)メントール、ボルネオール、カンフル、ゲラニオール及びシネオール、酢酸d-α-トコフェロールならびに流動パラフィンから選ばれる2種以上、及び
(C-2)ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸及びヒアルロン酸塩から選ばれる1種以上
を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物。
【請求項2】
(C-1)成分が、酢酸d-α-トコフェロールを含む、請求項1記載のソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物。
【請求項3】
(C-2)成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項1又は2記載のソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物。
【請求項4】
(B)成分が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである請求項1~3のいずれか1項記載のソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物。
【請求項5】
(B)成分が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールである請求項1~3のいずれか1項記載のソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物。
【請求項6】
シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズ用である、請求項1~5のいずれか1項記載のソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物。
【請求項7】
上記(A)成分、(B)成分及び(C-1)成分を含む油相を、50~90℃の水相に添加して攪拌する工程を含む、請求項1~6のいずれか1項記載のソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レチノールを含有するソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物及びその製造方法、ならびにレチノールのソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ソフトコンタクトレンズ(以下SCLと略す場合がある。)装用者の割合は増加しているが、SCL装用による眼障害の一種として角膜上皮障害が挙げられる。また、レチノールは正常な視覚に必須の成分で、さらにムチン産生機能の亢進や角膜上皮細胞の損傷に対して有効であることが知られている。これらより、SCL装用による角膜上皮障害に対してレチノールが効果的である。以上のことから、レチノールを含有するソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-41749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レチノールがSCLに及ぼす影響は今までに全く検討されていなかった。これらの影響について様々な検討を実施したところ、レチノールがSCLへ著しく吸着するということ、さらに、一度吸着すると生理食塩水等での洗浄で脱離しないという課題を知見した。SCLへのレチノール吸着は、物性変化や着色といったSCL自体に対する問題や、異物感やぼやけ、眼刺激といった使用感の問題を生じさせるおそれがある。従って、SCLへのレチノール吸着を効果的に抑制する方法の開発が望まれる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、レチノールのソフトコンタクトレンズへの吸着が抑制されるソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物、その製造方法、ならびにレチノールのソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、(A)レチノールを含有するソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物に、(B)非イオン性界面活性剤と共に、
(C)下記(C-1)群及び(C-2)群から選ばれる1種以上の成分
(C-1)テルペノイド、クロロブタノール、酢酸d-α-トコフェロール、流動パラフィン
(C-2)ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸塩、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、エデト酸、エデト酸塩、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩、ピリドキシン、ピリドキシン塩
から選ばれる1種以上の成分を配合することにより、上記課題を解決できることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は下記発明を提供する。
[1].(A)レチノール、
(B)非イオン性界面活性剤、
(C)下記(C-1)群及び(C-2)群から選ばれる1種以上の成分
(C-1)テルペノイド、クロロブタノール、酢酸d-α-トコフェロール、流動パラフィン
(C-2)ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸塩、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、エデト酸、エデト酸塩、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩、ピリドキシン、ピリドキシン塩
を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物。
[2].(C)成分が、(C-1)群から選ばれる1種以上、又は(C-1)群から選ばれる1種以上と(C-2)群から選ばれる1種以上との組み合わせである[1]記載のソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物。
[3].(C)成分が、(C-1)群から選ばれる1種以上と(C-2)群から選ばれる1種以上の組み合わせである[2]記載のソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物。
[4].(B)成分が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである1~3のいずれかに記載のソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物。
[5].(B)成分が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールである1~3のいずれかに記載のソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物。
[6].シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズ用である、[1]~[5]のいずれかに記載のソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物。
[7].上記(A)成分、(B)成分及び(C-1)成分を含む油相を、50~90℃の水相に添加して攪拌する工程を含む、[2]~[6]のいずれか1項記載のソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物を製造する方法。
[8].(A)レチノール及び(B)非イオン性界面活性剤を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物中の(A)成分のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法であって、
上記ソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物に、
(C)下記(C-1)群及び(C-2)群
(C-1)テルペノイド、クロロブタノール、酢酸d-α-トコフェロール、流動パラフィン
(C-2)ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸塩、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、エデト酸、エデト酸塩、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩、ピリドキシン、ピリドキシン塩
から選ばれる1種以上の成分を配合する、(A)成分のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レチノールのソフトコンタクトレンズへの吸着が抑制されるソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物及びその製造方法、ならびにレチノールのソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法を提供することができる。以下、レチノールのソフトコンタクトレンズへの吸着抑制を「吸着抑制」と記載する場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
[(A)成分]
レチノールは上述したように、眼に対して優れた効果、例えば、角膜・結膜損傷治療効果、ドライアイ改善、疲れ目・かすみ目の改善効果を有している。(A)成分の眼科用組成物(以下、単に組成物と略す場合がある)中の配合量は、10~150,000国際単位/100mLが好ましく、30~100,000国際単位/100mLがより好ましく、50~50,000国際単位/100mLがさらに好ましい。少なすぎると上記(A)成分の効果が不十分となるおそれがあり、多すぎるとレチノールの安定性が損なわれるおそれがある。なお、上記範囲をw/v%(質量/容量%、g/100mL)に換算すると、0.000003~0.045w/v%が好ましく、0.000009~0.03w/v%がより好ましく、0.000015~0.015w/v%がさらに好ましい。
【0010】
[(B)成分]
本発明で用いる非イオン性界面活性剤としては、眼科用組成物に用いられるものであれば特に限定されず、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。(A)レチノールの保存安定性、外観澄明性、レチノールのソフトコンタクトレンズへの吸着抑制の観点から、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが好ましく、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを併用、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルと、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとを併用することがより好ましい。
【0011】
ポリオキシエチレン(POE)ソルビタン脂肪酸エステルとしては、酸化エチレンの平均付加モル数や、脂肪酸の種類が異なるいくつかの種類が知られている。例えば、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)が挙げられ、中でもモノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)が好ましい。なお、( )内は平均付加モル数である(以下、同じ)。
【0012】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、水添したヒマシ油に酸化エチレンを付加重合することによって得られる化合物であり、酸化エチレンの平均付加モル数が異なるいくつかの種類が知られている。例えば、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)、ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40)等が挙げられ、中でも、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)が好ましい。
【0013】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとしては、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール、ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコール、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコールが挙げられ、中でもポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコールが好ましい。
【0014】
(B)成分の組成物中の配合量は、(A)成分の配合量にもよるが、0.01~2.0w/v%が好ましく、0.05~1.0w/v%がより好ましい。この範囲で、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。また、(B)/(A)で表される配合質量比で(B)/(A)≦100が好ましく、(B)/(A)≦50がより好ましく、(B)/(A)≦30がさらに好ましい。この範囲で(A)成分の安定性が良好である。(B)/(A)の下限は特に限定されず、1≦(B)/(A)とすることもできる。(C-1)成分を配合する場合、(B)/((A)+(C-1))で表される配合質量比で、1≦(B)/((A)+(C-1))であることが好ましく、2≦(B)/((A)+(C-1))であることがより好ましく、5≦(B)/((A)+(C-1))がさらに好ましい。この範囲で製剤澄明性が良好である。なお、(B)/((A)+(C-1))の上限は特に限定されず、(B)/((A)+(C-1))≦200とすることもできる。
【0015】
[(C)成分]
(C)下記(C-1)群及び(C-2)群から選ばれる1種以上の成分であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
(C-1)テルペノイド、クロロブタノール、酢酸d-α-トコフェロール、流動パラフィン
(C-2)ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸塩、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、エデト酸、エデト酸塩、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩、ピリドキシン、ピリドキシン塩
【0016】
(C)成分が、(A)レチノールのソフトコンタクトレンズへの吸着を抑制するメカニズムは明らかでないが、単に(C)成分がソフトコンタクトレンズに吸着することで、(A)レチノールのソフトコンタクトレンズへの吸着を抑制するものではなく、本発明の組成とすることで(A)成分が含まれるエマルション全体の性質が変化し、(A)成分のソフトコンタクトレンズへの吸着を抑制していると推測される。なお、(C-1)成分は油性成分、(C-2)成分は水性成分である。
【0017】
(C)成分は、いずれも単体で配合することで十分な吸着抑制効果を発揮できるが、テルペノイド、クロロブタノール、酢酸d-α-トコフェロール、流動パラフィン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸又はその塩、コンドロイチン硫酸又はその塩、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、エデト酸又はその塩が好ましく、テルペノイド、酢酸d-α-トコフェロール、流動パラフィン、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸又はその塩がさらに好ましい。特に、(B)成分がポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの場合、流動パラフィン、ヒアルロン酸又はその塩、コンドロイチン硫酸又はその塩、エデト酸又はその塩、アスパラギン酸又はその塩、ピリドキシン又はその塩が好ましい。
【0018】
また、(C)成分は組み合わせて配合することで、さらなる吸着抑制効果を発揮できる。(C-1)群から選ばれる1種以上、又は(C-1)群から選ばれる1種以上と(C-2)群から選ばれる1種以上との組み合わせが好ましく、(C-1)群から選ばれる1種以上と(C-2)群から選ばれる1種以上の組み合わせがより好ましい。
【0019】
(C)成分の組成物中の総量としては、(C)/(A)で表される配合質量比で、0.1≦(C)/(A)≦1,000が好ましく、0.15≦(C)/(A)≦500がより好ましく、0.2≦(C)/(A)≦200がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。なお、上記比率は(w/v%比であるが、質量比と同じ値となる。上記比率を満たしていれば、(C)成分の眼科用組成物中の総量(w/v%)は特に限定されないが、吸着抑制効果及び(A)成分の安定性の観点より、0.2≦(C)/(A)≦200が好ましい。
【0020】
テルペノイドとは、イソプレンユニットを構成単位とする構造を有するテルペン類のうち、カルボニル基やヒドロキシル基等の官能基を有する誘導体をいう。例えば、具体的には、限定されないが、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、リナロール、シトロネロール、カルボン、オイゲノール、リモネン、リュウノウ、酢酸リナリル又はこれらの誘導体等が挙げられる。これらのテルペノイドは、d体、l体又はdl体のいずれでも使用することができる。中でも、メントール、ボルネオール、ゲラニオールであり、特に好ましくはゲラニオールである。また、テルペノイド類として、上記化合物を含有する精油を使用してもよい。具体的には、ユーカリ油、ベルガモット油、ペパーミント油、クールミント油、スペアミント油、ハッカ油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ローズ油等が挙げられ、好ましくはユーカリ油である。
【0021】
(C)成分がテルペノイドの場合、0.1≦(C)/(A)≦20が好ましく、0.15≦(C)/(A)≦15がより好ましく、0.2≦(C)/(A)≦10がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.001~1w/v%が好ましく、0.001~0.5w/v%がより好ましく、0.002~0.5w/v%がさらに好ましい。
【0022】
クロロブタノールは、例えば、メルク(株)製の1,1,1-Trichloro-2-methyl-2-propanol hemihydrate等を用いることができる。(C)成分がクロロブタノールの場合、0.05≦(C)/(A)≦100が好ましく、0.1≦(C)/(A)≦100がより好ましく、0.2≦(C)/(A)≦50がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.005~2w/v%が好ましく、0.01~1w/v%がより好ましく、0.01~0.5w/v%がさらに好ましい。
【0023】
酢酸d-α-トコフェロールは特に制限されないが、例えば、理研ビタミン(株)製の理研Eアセテートα等が挙げられる。(C)成分が酢酸d-α-トコフェロールの場合、0.5≦(C)/(A)≦20が好ましく、0.5≦(C)/(A)≦15がより好ましく、1≦(C)/(A)≦10がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.005~2w/v%が好ましく、0.01~1w/v%がより好ましく、0.01~0.5w/v%がさらに好ましい。
【0024】
流動パラフィンは炭素鎖長22~39の常温液体の炭化水素からなり、トリグリセリドからなる植物油や炭化水素の中でも、炭素鎖長の短いスクワラン等と比較して極性が低い油分である。流動パラフィンは炭化水素の混合物であり、比重が0.860~0.890(日局 20/20℃)である。流動パラフィンは鉱油、ミネラルオイルとも呼ばれており、流動パラフィンとしては、軽質流動パラフィン等が挙げられる。流動パラフィンは特に制限されないが、例えば、島貿易(株)製のKAYDOL等を用いることができる。流動パラフィンの粘度はその分子量と相関しており、第17改正日本薬局方第1法(37.8℃)の測定方法において、粘度30~100mm2/sのものが好ましく、粘度37~88mm2/sのものがより好ましく、74~88mm2/sのものがさらに好ましい。(C)成分が流動パラフィンの場合、0.05≦(C)/(A)≦200が好ましく、0.1≦(C)/(A)≦100がより好ましく、0.2≦(C)/(A)≦50がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.001~2w/v%が好ましく、0.005~1w/v%がより好ましく、0.01~0.5w/v%がさらに好ましい。
【0025】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースとしては特に限定されず、例えば、信越化学工業(株)製のメトローズ60SH(粘度グレード15、50、100、400、1500、4000、8000)、65SH(粘度グレード50、400、1500、4000)、90SH(粘度グレード100、400、4000)等を用いることができる。メトローズ60SH(粘度グレード4000)が好ましい。(C)成分がヒドロキシプロピルメチルセルロースの場合、0.1≦(C)/(A)≦200が好ましく、0.5≦(C)/(A)≦100がより好ましく、1≦(C)/(A)≦50がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.01~2w/v%が好ましく、0.05~1w/v%がより好ましく、0.1~0.5w/v%がさらに好ましい。
【0026】
ポリビニルピロリドンは特に制限されないが、例えば、BASF社製のKollidon(12RF、17PF、25、30、90F)等を用いることができる。中でも、Kollidon 90Fが好ましい。(C)成分がポリビニルピロリドンの場合、0.1≦(C)/(A)≦500が好ましく、0.5≦(C)/(A)≦400がより好ましく、1≦(C)/(A)≦300がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.01~5w/v%が好ましく、0.05~4w/v%がより好ましく、0.1~3w/v%がさらに好ましい。
【0027】
ポリビニルアルコールは特に制限されないが、例えば、日本合成化学工業(株)製のゴーセノールEGシリーズ(粘度グレード03、05、18、22、30、40、48)等が挙げられ、中でも、EG-05Pが好ましい。(C)成分がポリビニルアルコールの場合、0.1≦(C)/(A)≦500が好ましく、0.5≦(C)/(A)≦300がより好ましく、1≦(C)/(A)≦200がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.01~5w/v%が好ましく、0.05~3w/v%がより好ましく、0.1~2w/v%がさらに好ましい。
【0028】
ヒドロキシエチルセルロースは特に制限されないが、例えば、住友精化(株)製のHEC、Cシリーズ(粘度グレードCF-G、CF-V、CF-W、CF-X、CF-Y)等が挙げられ、CF-Vが好ましい。(C)成分がヒドロキシエチルセルロースの場合、0.1≦(C)/(A)≦300が好ましく、0.5≦(C)/(A)≦200がより好ましく、1≦(C)/(A)≦100がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.01~3w/v%が好ましく、0.05~2w/v%がより好ましく、0.1~1w/v%がさらに好ましい。
【0029】
ヒアルロン酸又はその塩は特に制限されないが、ヒアルロン酸、その誘導体、これらの薬学的生理学的に許容される塩類が挙げられる。例えば、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸マグネシウム、ヒアルロン酸カルシウム等が挙げられ、中でも、ヒアルロン酸ナトリウムが好ましい。なお、由来(鶏冠由来、微生物由来等)や分子量は特に限定されない。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。ヒアルロン酸又はその塩は特に制限されないが、例えば、キユーピー(株)製又はキッコーマンバイオケミファ(株)製の精製ヒアルロン酸ナトリウム等が挙げられる。(C)成分がヒアルロン酸又はその塩の場合、0.1≦(C)/(A)≦200が好ましく、0.5≦(C)/(A)≦100がより好ましく、1≦(C)/(A)≦50がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.01~2w/v%が好ましく、0.03~1w/v%がより好ましく、0.05~0.5w/v%がさらに好ましい。
【0030】
コンドロイチン硫酸又はその塩は特に制限されないが、コンドロイチン硫酸ナトリウム等の薬学的生理学的に許容される塩類が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。コンドロイチン硫酸又はその塩は特に制限されないが、例えば、マルハニチロ(株)製のコンドロイチン硫酸エステルナトリウム等が挙げられる。(C)成分がコンドロイチン硫酸又はその塩の場合、0.1≦(C)/(A)≦200が好ましく、0.5≦(C)/(A)≦100がより好ましく、1≦(C)/(A)≦50がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.01~2w/v%が好ましく、0.03~1w/v%がより好ましく、0.04~0.5w/v%がさらに好ましく、0.05~0.5w/v%が特に好ましい。
【0031】
プロピレングリコールは特に制限されないが、例えば、(株)ADEKA製のプロピレングリコール等が挙げられる。(C)成分がプロピレングリコールの場合、0.1≦(C)/(A)≦500が好ましく、0.5≦(C)/(A)≦400がより好ましく、1≦(C)/(A)≦300がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.01~5w/v%が好ましく、0.05~4w/v%がより好ましく、0.1~3w/v%がさらに好ましい。
【0032】
ポリエチレングリコールは特に制限されないが、例えば、ポリエチレングリコール200(平均分子量190~210)、ポリエチレングリコール300(平均分子量280~320)、ポリエチレングリコール400(平均分子量380~420)、ポリエチレングリコール600(平均分子量570~630)、ポリエチレングリコール1000(平均分子量950~1050)、ポリエチレングリコール1500(重合度5~6のもの及び)28~36のものの等量混合物)、ポリエチレングリコール1540(平均分子量1290~1650)、ポリエチレングリコール2000(平均分子量1850~2150)、ポリエチレングリコール4000(平均分子量2600~3800)、ポリエチレングリコール6000(平均分子量7300~9300)、ポリエチレングリコール11000(平均分子量9300~12500)、ポリエチレングリコール20000(平均分子量15500~25000)等が挙げられる。上記記載及び平均分子量の測定は医薬部外品原料規格2006に基づく。ポリエチレングリコール4000が好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。ポリエチレングリコール4000は特に制限されないが、例えば、三洋化成工業(株)製のマクロゴール4000等が挙げられる。(C)成分がポリエチレングリコールの場合、1≦(C)/(A)≦500が好ましく、10≦(C)/(A)≦400がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや点眼時のぼやけや、べたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.1~5w/v%が好ましく、0.5~4w/v%がさらに好ましい。
【0033】
(C)成分がグルコースの場合、0.1≦(C)/(A)≦200が好ましく、0.5≦(C)/(A)≦100がより好ましく、1≦(C)/(A)≦50がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.01~2w/v%が好ましく、0.03~1w/v%がより好ましく、0.05~0.5w/v%がさらに好ましい。
【0034】
エデト酸又はその塩は特に制限されないが、エデト酸、その誘導体、これらの薬学的生理学的に許容される塩類が挙げられる。例えば、エデト酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。エデト酸ナトリウムは特に制限されないが、例えば、ナガセケムテックス(株)製のクレワットNが挙げられる。(C)成分がエデト酸又はその塩の場合、0.01≦(C)/(A)≦100が好ましく、0.05≦(C)/(A)≦50がより好ましく、0.1≦(C)/(A)≦30がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれが低い。組成物中の配合量は、0.001~0.5w/v%が好ましく、0.003~0.3w/v%がより好ましく、0.005~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0035】
アスパラギン酸又はその塩は特に制限されないが、アスパラギン酸、その誘導体、これらの薬学的生理学的に許容される塩類が挙げられる。例えば、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム等が挙げられ、中でも、アスパラギン酸カリウムが好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。アスパラギン酸又はその塩は特に制限されないが、例えば、アルプス薬品工業(株)製のL-アスパラギン酸カリウムが挙げられる。(C)成分がアスパラギン酸又はその塩の場合、0.1≦(C)/(A)≦500が好ましく、0.5≦(C)/(A)≦300がより好ましく、1≦(C)/(A)≦200がさらに好ましく、1≦(C)/(A)≦100が特に好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれや、点眼時のぼやけやべたつきが発生するおそれが低い。組成物中の配合量は、0.01~5w/v%が好ましく、0.05~3w/v%がより好ましく、0.1~2w/v%がさらに好ましく、0.1~1w/v%が特に好ましい。
【0036】
ピリドキシン又はその塩は特に制限されないが、ピリドキシン、その誘導体、これらの薬学的生理学的に許容される塩類が挙げられる。例えば塩としては、塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられるが、中でも、ピリドキシン塩酸塩が好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。ピリドキシン又はその塩は特に制限されないが、例えば、BASFジャパン(株)製のピリドキシン塩酸塩が挙げられる。(C)成分がピリドキシン又はその塩の場合、0.01≦(C)/(A)≦100が好ましく、0.05≦(C)/(A)≦50がより好ましく、0.1≦(C)/(A)≦30がさらに好ましい。この範囲において、吸着抑制効果が良好である。また、(A)成分の安定性に影響を及ぼすおそれが低い。組成物中の配合量は、0.001~0.5w/v%が好ましく、0.003~0.3w/v%がより好ましく、0.005~0.2w/v%がさらに好ましく、0.005~0.1w/v%が特に好ましい。
【0037】
[その他の成分]
本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、眼科用組成物に配合されるその他の成分を適量配合することができる。その他の成分としては、防腐剤、(C)成分以外の糖類、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、安定化剤、(C)成分以外の多価アルコール、(C)成分以外の粘稠剤、薬物等が挙げられる。これらの成分は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合することができる。下記に示す成分の配合量は、配合する場合の好ましい範囲であり、組成物中の量である。
【0038】
防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、チメロサール、フェニルエチルアルコール、アルキルアミノエチルグリシン、クロルヘキシジングルコン酸、パラオシキ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸またはその塩等が挙げられる。防腐剤を配合する場合、その配合量は、組成物中に0.1w/v%以下が好ましく、0.01w/v%以下がより好ましく、0.001w/v%以下がさらに好ましく、配合しなくてもよい。
【0039】
糖類としては、シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。なお、これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよい。糖類の配合量は、組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~1w/v%がより好ましく、0.001~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0040】
緩衝剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂、リン酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、氷酢酸、トロメタモール、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。緩衝剤の配合量は、組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~2w/v%がより好ましく、0.001~1w/v%がさらに好ましい。
【0041】
pH調整剤としては、無機酸又は無機アルカリ剤が挙げられる。例えば、無機酸としては(希)塩酸が挙げられる。無機アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。組成物のpHは、3.5~13.0とすることもでき、3.5~8.0が好ましく、5.5~8.0がより好ましい。なお、pHの測定は、25℃でpHメータ(HM-25R、東亜ディーケーケー(株))を用いて行う。
【0042】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、乾燥炭酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等が挙げられる。中でも、塩化ナトリウムと塩化カリウムを少なくとも1種以上配合し、等張化されていることが好ましい。組成物の対生理食塩水浸透圧比は涙液油層不安定化が引き起こす諸症状をより改善する点から0.60~2.00が好ましく、0.60~1.55がより好ましく、0.70~1.20が最も好ましい。なお、浸透圧の測定は、25℃で自動浸透圧計(A2O、アドバンスドインストルメンツ社)を用いて行う。
【0043】
安定化剤としては、例えば、シクロデキストリン、亜硫酸塩、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。安定化剤の配合量は、組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~1w/v%がより好ましく、0.001~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0044】
(C)成分以外の多価アルコールとしては、グリセリン、ブチレングリコール等が挙げられる。多価アルコールを配合する場合、多価アルコールの配合量は、組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~1w/v%がより好ましく、0.001~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0045】
(C)成分以外の粘稠剤としては、例えば、メチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。粘稠化剤を配合する場合、その配合量は、組成物中0.001~5w/v%が好ましく、0.001~3w/v%がより好ましく、0.001~1w/v%がさらに好ましく、0.003~0.1w/v%が特に好ましい。
【0046】
薬物(薬学的有効成分)としては、例えば、充血除去成分(例えば、エピネフリン、塩酸エピネフリン、エフェドリン塩酸塩、塩酸テトラヒドロゾリン、ナファゾリン塩酸塩、ナファゾリン硝酸塩、フェニレフリン塩酸塩、dl-メチルエフェドリン塩酸塩等)、消炎・収斂剤(例えば、ネオスチグミンメチル硫酸塩、イプシロン-アミノカプロン酸、アラントイン、ベルベリン塩化物水和物、ベルベリン硫酸塩水和物、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、リゾチーム塩酸塩等)、抗ヒスタミン剤(例えば、ジフェンヒドラミン塩酸塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩等)、水溶性ビタミン類(フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム等)、アミノ酸類(例えば、アミノエチルスルホン酸等)、サルファ剤等が挙げられる。薬物を配合する場合、薬物の含有量は、各薬物の有効な適性量を選択することができるが、眼への刺激性、組成物の安定性等の点から、組成物中0.001~5.0w/v%が好ましい。
【0047】
[製造方法]
本発明の組成物の調製方法は、残部(例えば、眼科用組成物中70~99.9w/v%、好ましくは70~99.884w/v%)を水とし、公知の製造方法で製造することができる。例えば、上記各成分を滅菌精製水、イオン交換水等の水等に溶解させて得ることができる。(A)成分は(B)成分に溶解した油相を調製した後、上記油相を他の水溶液成分を溶解した50~90℃の水相に添加することが好ましい。水相には、緩衝剤や薬物等の水溶性成分が配合され、これら成分は油相添加後に配合してもよい。(C-1)成分を配合する場合、上記(A)成分、(B)成分及び(C-1)成分を含む油相を、50~90℃の水相に添加して攪拌する工程を含むことが好ましい。水相には、緩衝剤や薬物等の水溶性成分が配合され、これら成分は油相添加後に配合してもよい。(C-1)成分は、プロピレングリコール等の可溶化剤に混和させて水層に添加することも可能であるが、レチノールの吸着抑制効果の点では好ましくない。即ち、レチノールの吸着抑制効果の発現には、(C-1)成分等の脂溶性成分は、レチノール、非イオン界面活性剤と共に油相中で混合されることが好ましい。
【0048】
また、得られた組成物を樹脂製容器に充填後、さらに包装体により密封し、上記容器と上記包装体との間に形成された空間の不活性ガス濃度を封入してもよく、眼科用組成物を樹脂製容器に充填し、脱酸素剤と共に包装体により密封してもよい。
【0049】
[眼科用組成物]
本発明の組成物は眼への適用を容易にする点から液体が好ましく、25℃における粘度は、涙液との混合を容易にし(A)成分の涙液への移行を容易にする点から、1~50mPa・sが好ましく、1~30mPa・sがより好ましく、1~10mPa・sがさらに好ましい。なお、粘度の測定方法はコーンプレート型粘度計(DV2T、英弘精機(株))を用いて行う。
【0050】
本発明は、ソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物であり、ソフトコンタクトレンズを装着する者が使用できるものである。具体的には、ソフトコンタクトレンズ用点眼剤(ソフトコンタクトレンズ装着中に使用可能)、ソフトコンタクトレンズ用装着液、ソフトコンタクトレンズ取り外し液等が挙げられるが、特にソフトコンタクトレンズ用点眼剤として好適に使用できる。ソフトコンタクトレンズ用点眼剤として使用する場合、1回につき10~50μL、1日につき3~18回点眼することにより、本発明の効果をより発揮することができる。
【0051】
本発明の組成物は、SCLへのレチノール吸着を抑制することができ、FDAによる4分類(グループI~IV)の全てのSCLに有用であるが、特に、レチノールが最も吸着しやすいグループIIIのシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズに有用である。
【0052】
本発明は、(A)レチノール及び(B)非イオン性界面活性剤を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物中の(A)成分のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法であって、
上記ソフトコンタクトレンズ用眼科用組成物に、
(C)下記(C-1)群及び(C-2)群から選ばれる1種以上の成分と
(C-1)テルペノイド、クロロブタノール、酢酸d-α-トコフェロール、流動パラフィン
(C-2)ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸塩、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、エデト酸、エデト酸塩、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩、ピリドキシン、ピリドキシン塩
を配合する、(A)成分のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法を提供する。
好ましい成分、配合量等は上記と同じである。
【0053】
本発明の組成物は、レチノールのソフトコンタクトレンズへの吸着抑制効果を有する。レチノールと相互作用するタンパク質や薬物は、レチノールを介してSCLへ吸着するため、本発明の組成物は、SCLへのタンパク質等の汚れ及び他の薬物の吸着を抑制する方法として有用である。また、SCLに対する影響(SCLのベースカーブ、屈折率、可視光透過率、酸素透過率、及び摩擦係数の変化、着色等)を抑制する方法として有用である。さらに、SCLに対する影響を抑制することにより、SCL装用時における異物感、ぼやけ、ゴロゴロ感、乾燥感、及び眼刺激等の使用感を改善する方法として有用である。
【実施例
【0054】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」はw/v%(g/100mL)、比率は質量比(w/v%と同じ値)を示す。
【0055】
[実施例、比較例]
下表に示す各水性成分を90mLの水に溶解し、90℃15分間加温混合した。同時に、(A)成分、(B)成分及び(C-1)成分のプレミックスを作製し、90℃15分間加熱混合した。次に、プレミックスを上記水溶液に所定量加え、さらに90℃15分間加熱混合した。その後、室温まで冷却し、100mLになるように水を加えた。得られた組成物について、下記評価を行った。結果を表中に併記する。
【0056】
[SCLへのレチノール吸着抑制]
組成物5mLを20mL褐色バイアル瓶に分注し、バイアル瓶1本につき1枚のSCLを浸漬した。レンズを浸漬したバイアル瓶を37℃で1日振とうした後、溶液中のレチノール量を液体クロマトグラフィーで、常法に従い、標準品サンプルとの比較により定量した。SCLを浸漬させずに同様の処理を行ったものをコントロールとし、コントロール溶液中のレチノールに対する比率から下記計算式に基づいてレチノールのSCLへの吸着率及び吸着抑制率を測定した。一種のSCL用眼科組成物に対して3回測定を行い、SCLに対する平均吸着率及び平均吸着抑制率を算出し、評価を行った。実験操作及び分析による誤差を考え、得られたレチノールのSCLへの吸着抑制率から、下記判定基準によりレチノールのSCLへの吸着抑制効果を評価した。5%以上(△以上)の効果が成分を吸着抑制効果があるとした。
【0057】
レチノールのSCLへの吸着率(%)=[(コントロールのレチノール量-SCL浸漬液のレチノール量)/コントロールのレチノール量]×100
レチノールのSCLへの吸着抑制率(%)=[(比較例1におけるレチノールのSCL吸着率-各実施例におけるレチノールのSCL吸着率)/比較例1におけるレチノールのSCL吸着率]×100
【0058】
[レチノールのSCLへの吸着抑制効果判定基準]
◎:吸着抑制率20%以上
○:吸着抑制率10%以上20%未満
△:吸着抑制率5%以上10%未満
×:吸着抑制率5%未満
△以上を合格とする。
【0059】
(SCL)
使用したSCLは、FDAによる4分類のうち各分類の以下のSCLを使用した。
・グループI:ボシュロムメダリストプラス(ボシュロム・ジャパン(株))
・グループII:ボシュロムメダリストII(ボシュロム・ジャパン(株))
・グループIII:メダリストフレッシュフィットコンフォートモイスト(ボシュロム・ジャパン(株))
・グループIV:アキュビュー(ジョンソン・エンド・ジョンソン(株))
なお、表中にSCLの記載がない場合は、IIIレンズを用いて各検討を実施した。
【0060】
【表1-1】
【0061】
【表1-2】
【0062】
表1の結果のように、レチノールは全グループのSCLで吸着し、中でもグループIIIで最も吸着する。それに対し、l-メントールは、すべてのグループのSCLにおいてレチノール吸着抑制効果を有した。
【0063】
【表2-1】
【0064】
【表2-2】
【0065】
表2-1,2-2の結果から、l-メントールの吸着抑制効果は、濃度に大きく依存していないことが分かる。すなわち、本発明のレチノール吸着抑制効果は、l-メントールがSCLに吸着することによる競合阻害ではないと考えられる。
【0066】
【表2-3】
【0067】
【表3-1】
【0068】
【表3-2】
【0069】
【表4-1】
【0070】
【表4-2】
【0071】
【表5-1】
【0072】
【表6-1】
【0073】
【表6-2】
【0074】
【表7-1】
【0075】
【表7-2】
【0076】
【表7-3】
【0077】
【表8-1】
【0078】
【表8-2】
【0079】
【表8-3】
【0080】
【表8-4】
【0081】
【表8-5】
【0082】
【表9-1】
【0083】
【表9-2】
【0084】
上記例で使用した原料を下記に示す。なお、特に明記がない限り、表中の各成分の量は純分換算量である。
レチノール(Retinol、sigma-aldrich製)(2700国際単位/mg)
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油(HCO-60、日本サーファクタント工業(株)製)
モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(レオドール TW-O120V、花王(株)製)
ポリオキシエチレン(70)ポリオキシプロピレン(200)グリコール(Kolliphor、BASFジャパン(株)製)
流動パラフィン(KAYDOL、島貿易(株)製、粘度74~88mm2/s(第17改正日本薬局方第1法(37.8℃)))
塩化ナトリウム(塩化ナトリウム、富田製薬(株)製)
エデト酸ナトリウム(クレワットN、ナガセケムテックス(株)製)
l-メントール(薄荷脳、鈴木薄荷(株)製)
d-ボルネオール(特沸龍脳、(株)柳沢正巳商店製)
ユーカリ油(ユーカリ油、小川香料(株)製)
ゲラニオール(ゲラニオール、高砂香料工業(株)製)
クロロブタノール(1,1,1-Trichloro-2-methyl-2-propanol hemihydrate、メルク(株)製)
ヒアルロン酸ナトリウム(精製ヒアルロン酸ナトリウム、キッコーマンバイオケミファ(株)製)
コンドロイチン硫酸エステルナトリウム(コンドロイチン硫酸エステルナトリウム、マルハニチロ(株)製)
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトローズ 60SH-4000、信越化学工業(株)製)
ポリビニルピロリドン(Kollidon 90F、BASFジャパン(株)製)
ポリビニルアルコール(ゴーセノール EG-05P、日本合成化学工業(株)製)
ヒドロキシエチルセルロース(HEC CF-V、住友精化(株))
酢酸d-α-トコフェロール(理研Eアセテートα、理研ビタミン(株)製)
プロピレングリコール(プロピレングリコール、(株)ADEKA製)
ポリエチレングリコール(マクロゴール4000、三洋化成工業(株)製)
グルコース(グルコース、和光純薬工業(株))
L-アスパラギン酸カリウム(L-アスパラギン酸カリウム、アルプス薬品工業(株))
ピリドキシン塩酸塩(ピリドキシン塩酸塩、BASFジャパン(株))