IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-モーター制御装置 図1
  • 特許-モーター制御装置 図2
  • 特許-モーター制御装置 図3
  • 特許-モーター制御装置 図4
  • 特許-モーター制御装置 図5
  • 特許-モーター制御装置 図6
  • 特許-モーター制御装置 図7
  • 特許-モーター制御装置 図8
  • 特許-モーター制御装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】モーター制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20230711BHJP
   B60K 1/02 20060101ALI20230711BHJP
   B60K 7/00 20060101ALI20230711BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20230711BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60K1/02
B60K7/00
H02P5/46 H
B60L9/18 P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018187961
(22)【出願日】2018-10-03
(65)【公開番号】P2020058156
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】古賀 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】彦田 一輝
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-192446(JP,A)
【文献】特開2015-195698(JP,A)
【文献】特開2016-073107(JP,A)
【文献】特開2015-192471(JP,A)
【文献】特開2006-060913(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073184(WO,A1)
【文献】特開2016-111777(JP,A)
【文献】特開2007-261477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
B60K 1/02
B60K 7/00
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左軸を介して左輪に駆動力を伝達する左モーターと右軸を介して右輪に駆動力を伝達する右モーターとが搭載された車両のモーター制御装置であって、
前記左モーターと前記左軸との間、及び、前記右モーターと前記右軸との間の動力伝達経路における捩れ特性がモデル化されたドライブトレイン捩れモデルと前記左モーターの第一回転速度と前記右モーターの第二回転速度とを用いて、前記動力伝達経路の捩れ振動の影響を受けた左軸回転速度及び右軸回転速度を算出するドライブトレイン捩れモデル算出部と、
前記左軸回転速度前記右軸回転速度との差に基づき、前記動力伝達経路の捩れ振動による前記左軸及び前記右軸のトルク振動を減少させるフィードバック補正量を算出する補正値算出部と、
前記フィードバック補正量に基づき、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを制御する制御部とを備える
ことを特徴とする、モーター制御装置。
【請求項2】
前記補正値算出部が、前記左軸回転速度と前記右軸回転速度との差の微分値が小さくなるように前記フィードバック補正量を算出する
ことを特徴とする、請求項1記載のモーター制御装置。
【請求項3】
前記補正値算出部が、
前記左軸回転速度と前記右軸回転速度との差の微分値を算出する微分演算部と、
前記微分演算部で算出された前記微分値から所定の周波数成分を抽出する周波数フィルターと、
前記周波数フィルターで抽出された前記周波数成分に比例する補正量である比例項を算出する比例項算出部と、
前記周波数フィルターで抽出された前記周波数成分の積分値に相当する補正量である積分項を算出する積分項算出部と、
前記周波数フィルターで抽出された前記周波数成分の微分値に相当する補正量である微分項を算出する微分項算出部と、を有し、
前記フィードバック補正量が、前記比例項と前記積分項と前記微分項との合算値である
ことを特徴とする、請求項2記載のモーター制御装置。
【請求項4】
前記制御部が、前記左軸及び前記右軸の要求トルク差に前記フィードバック補正量を反映させる
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のモーター制御装置。
【請求項5】
前記要求トルク差として、前記車両に要求されているヨーモーメントを生じさせるのに必要な左右輪のトルク差であるヨー運動要求トルク差を算出する車体姿勢制御装置を備え、
前記制御部が、前記車体姿勢制御装置で算出された前記ヨー運動要求トルク差から前記フィードバック補正量を減じたものである補正後トルク差とドライバー要求トルクとに基づき、前記補正後トルク差が生じるように、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを算出する
ことを特徴とする、請求項4記載のモーター制御装置。
【請求項6】
前記車両の走行状態に基づき、前記左軸に要求されるトルクである要求左軸トルクと前記右軸に要求されるトルクである要求右軸トルクとを算出する各軸駆動トルク算出部と、
前記左軸及び前記右軸の共振特性をモデル化したトルク伝達モデルと前記要求左軸トルクと前記要求右軸トルクとに基づき、前記左軸及び前記右軸の各々におけるトルク振動を推定するトルク振動推定部と、
前記トルク振動に由来する前記左軸及び前記右軸のトルク振動を減少させる制振トルクを算出する制振トルク算出部とを備え、
前記制御部が、ドライバー要求トルクと前記要求左軸トルクと前記要求右軸トルクと前記制振トルクと前記フィードバック補正量とに基づき、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを制御する
ことを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のモーター制御装置。
【請求項7】
前記制御部が、前記要求左軸トルク、及び、前記要求右軸トルクの一方から前記制振トルクを減じた値と他方に前記制振トルクを加えた値との軸トルク差に前記フィードバック補正量を反映させたものに基づき、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを制御する
ことを特徴とする、請求項記載のモーター制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左モーターと右モーターとが搭載された車両のモーター制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載された二つのモーターで左輪の駆動力と右輪の駆動力とを個別に制御する技術が知られている。すなわち、左右輪の駆動力を個別に制御することで、旋回性能や車体安定性を向上させる技術である。左右のモーターは、左右輪のそれぞれに対して接続され、左右輪の駆動力伝達経路は互いに独立させることが可能である(特許文献1参照)。また、二つのモーターを左右輪のそれぞれに接続しつつ、左右輪の駆動力伝達経路を差動装置で連結した車両も開発されている。このような構造により、走行状態に応じて受動的なトルク配分と能動的なトルク配分とを使い分けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-161190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
左右輪が独立して動作しうる車両では、トルク振動や駆動軸の捩れ振動を抑制するための制御が、左輪側と右輪側とで個別に制御されている。一方、駆動輪のトルク振動は、左右輪のそれぞれの構造だけでなく、左右輪のトルク差の変動によっても発生しうる。また、左右輪のトルク差は、車両の旋回時だけでなく、路面やタイヤの状態に応じて変化する。従来のシステムでは、このようなトルク差に由来する振動が考慮されておらず、車室内の静粛性や乗り心地を向上させる上で改善の余地がある。
【0005】
なお、近年の車両に搭載されるモーターは応答性が高く、左右輪のドライブトレインにおける固有振動数に近い変動周期でトルク差を変化させることも可能である。それゆえに、モーターのトルク差を利用して左右輪のトルクを分配するシステムでは、油圧を利用した既存のトルク分配システムと比較して、ドライブトレインの固有振動数付近での振動が目立ちやすいという実情がある。
【0006】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、左右輪のトルク差に由来する振動を抑制し、静粛性,乗り心地を改善できるようにしたモーター制御装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで開示するモーター制御装置は、左軸を介して左輪に駆動力を伝達する左モーターと右軸を介して右輪に駆動力を伝達する右モーターとが搭載された車両のモーター制御装置である。
(1)開示のモーター制御装置は、前記左モーターと前記左軸との間、及び、前記右モーターと前記右軸との間の動力伝達経路における捩れ特性がモデル化されたドライブトレイン捩れモデルと前記左モーターの第一回転速度と前記右モーターの第二回転速度とを用いて、前記動力伝達経路の捩れ振動の影響を受けた左軸回転速度及び右軸回転速度を算出するドライブトレイン捩れモデル算出部を備える。また、前記左軸回転速度前記右軸回転速度との差に基づき、前記動力伝達経路の捩れ振動による前記左軸及び前記右軸のトルク振動を減少させるフィードバック補正量を算出する補正値算出部を備える。また、前記フィードバック補正量に基づき、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを制御する制御部を備える。
【0008】
(2)前記補正値算出部が、前記左軸回転速度と前記右軸回転速度との差の微分値が小さくなるように前記フィードバック補正量を算出することが好ましい。
(3)前記補正値算出部が、前記左軸回転速度と前記右軸回転速度との差の微分値を算出する微分演算部と、前記微分演算部で算出された前記微分値から所定の周波数成分を抽出する周波数フィルターと、前記周波数フィルターで抽出された前記周波数成分に比例する補正量である比例項を算出する比例項算出部と、前記周波数フィルターで抽出された前記周波数成分の積分値に相当する補正量である積分項を算出する積分項算出部と、前記周波数フィルターで抽出された前記周波数成分の微分値に相当する補正量である微分項を算出する微分項算出部と、を有することが好ましい。また、前記フィードバック補正量が、前記比例項と前記積分項と前記微分項との合算値であることが好ましい。
)前記制御部が、前記左軸及び前記右軸の要求トルク差に前記フィードバック補正量を反映させることが好ましい。
【0009】
(5)前記要求トルク差として、前記車両に要求されているヨーモーメントを生じさせるのに必要な左右輪のトルク差であるヨー運動要求トルク差を算出する車体姿勢制御装置を備え、前記制御部が、前記車体姿勢制御装置で算出された前記ヨー運動要求トルク差から前記フィードバック補正量を減じたものである補正後トルク差とドライバー要求トルクとに基づき、前記補正後トルク差が生じるように、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを算出することが好ましい。
)各軸駆動トルク算出部とトルク振動推定部と制振トルク算出部とを備えることが好ましい。前記各軸駆動トルク算出部は、前記車両の走行状態に基づき、前記左軸に要求されるトルクである要求左軸トルクと前記右軸に要求されるトルクである要求右軸トルクとを算出する。前記トルク振動推定部は、前記左軸及び前記右軸の共振特性をモデル化したトルク伝達モデルと前記要求左軸トルクと前記要求右軸トルクとに基づき、前記左軸及び前記右軸の各々におけるトルク振動を推定する。前記制振トルク算出部は、前記トルク振動に由来する前記左軸及び前記右軸のトルク振動を減少させる制振トルクを算出する。また、前記制御部が、ドライバー要求トルクと前記要求左軸トルクと前記要求右軸トルクと前記制振トルクと前記フィードバック補正量とに基づき、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを制御することが好ましい。
【0010】
)前記制御部が、前記要求左軸トルク、及び、前記要求右軸トルクの一方から前記制振トルクを減じた値と他方に前記制振トルクを加えた値との軸トルク差に前記フィードバック補正量を反映させたものに基づき、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
左右輪のトルク差に由来する振動を抑制することができ、静粛性,乗り心地を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】モーター制御装置が適用された車両の構成を示すブロック図である。
図2】モーター制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】フィードフォワード制御部の機能を示すブロック図である。
図4】フィードバック制御部の機能を示すブロック図である。
図5】フィードバック・フィードフォワード制御部の機能を示すブロック図である。
図6】フィードバック・フィードフォワード制御部の変形例を示すブロック図である。
図7】トルク振動の経時変化を示すグラフ(比較例)である。
図8】トルク振動の経時変化を示すグラフ(実施例)である。
図9】車両の構成の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[1.ハードウェア構成]
以下、図面を参照して実施形態としてのモーター制御装置が適用される車両10の構成を説明する。図1に示すように、この車両10にはAYC(アクティブヨーコントロール)機能を持つ差動装置5(ディファレンシャル装置)が搭載される。差動装置5は、左輪1(左駆動輪)に連結される左軸3と右輪2(右駆動輪)に連結される右軸4との間に介装される。
【0017】
AYC機能とは、左右駆動輪における駆動力(駆動トルク)の分担割合を主体的に制御することでヨーモーメントの大きさを調節し、これを以て車両10のヨー方向の姿勢を安定させる機能である。本実施形態の差動装置5は、AYC機能だけでなく、駆動力を左右輪に伝達して車両10を走行させる機能と、車両10の旋回時に発生する左右輪の回転数差を受動的に吸収する機能とを併せ持つ。
【0018】
差動装置5には二つのモーター6,7が内蔵される。一方は、左軸3を介して左輪1に駆動力を伝達する左モーター6であり、他方は右軸4を介して右輪2に駆動力を伝達する右モーター7である。これらはいずれも電動機としての機能と発電機としての機能とを兼ね備えたモータージェネレーター(MG)である。左モーター6はおもに左輪1の駆動を担当し、右モーター7はおもに右輪2の駆動を担当する。
【0019】
各モーター6,7の内部には、ステーター(固定子)に対するローター(回転子)の回転角や回転速度を検出するセンサー16,17としてのレゾルバやエンコーダーが内蔵される。左回転速度センサー16は左モーター6の回転速度(単位時間あたりの回転数)である第一回転速度を検出し、右回転速度センサー17は右モーター7の回転速度である第二回転速度を検出する。これらのセンサー16,17で検出された信号は、モーター制御装置15に伝達される。
【0020】
各モーター6,7の作動状態は、左インバーター8と右インバーター9とによって制御される。各インバーター8,9は、バッテリー11から給電される直流電力を交流電力に変換して各モーター6,7に供給する変換器(DC-ACインバータ)である。各インバーター8,9には、複数のスイッチング素子を含む三相ブリッジ回路が内蔵される。交流電力は、各スイッチング素子の接続状態を断続的に切り替えることで生成される。また、スイッチング周波数や出力電圧を制御することで、各モーター6,7の出力(軸トルクや回転数)が調節される。各モーター6,7及び各インバーター8,9の作動状態は、実施形態としてのモーター制御装置15(M-ECU; Motor - Electronic Control Unit)で制御される。
【0021】
モーター制御装置15は、左右輪1,2のトルク差に由来する振動を抑制するための制御を実施する電子制御装置(コンピューター)である。図2に示すように、モーター制御装置15には、プロセッサー61(中央処理装置),メモリ62(メインメモリ),記憶装置63(ストレージ),インタフェース装置64などが内蔵され、これらが内部バス65を介して接続される。プロセッサー61は、制御ユニット(制御回路)や演算ユニット(演算回路),キャッシュメモリ(レジスタ群)などを内蔵する中央処理装置である。
【0022】
また、メモリ62は、プログラムや作業中のデータが格納される記憶装置であり、例えばROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory)がこれに含まれる。記憶装置63は、メモリ62よりも長期的に保持されるデータやファームウェアが格納されるメモリ装置であり、例えばフラッシュメモリやEEPROMなどの不揮発性メモリがこれに含まれる。インタフェース装置64は、モーター制御装置15と外部との間の入出力(Input and Output;I/O)を司るものである。
【0023】
モーター制御装置15には、インタフェース装置64を介して、アクセル開度センサー12,車速センサー13,車体姿勢制御装置14(車体姿勢ECU)が接続される。アクセル開度センサー12はアクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)に対応する信号を出力するセンサーであり、車速センサー13は車両10の走行速度(車速)に対応する信号を出力するセンサーである。車両10のドライバー要求トルクは、アクセル開度及び走行速度に基づいて設定され、モーター制御装置15に取得される。なお、モーター制御装置15がドライバー要求トルクを算出する制御構成としてもよいし、他の装置で算出されたドライバー要求トルクをモーター制御装置15が受信する制御構成としてもよい。
【0024】
車体姿勢制御装置14は、車速や前後加速度,横加速度,角速度,操舵角などに応じて、左右輪1,2を含む各車輪の目標トルクを調節するための電子制御装置である。モーター制御装置15は、車体姿勢制御装置14で算出されたヨー運動要求トルク差を取得する。ヨー運動要求トルク差とは、車両10に要求されているヨーモーメントを生じさせるのに必要な左右輪1,2のトルク差を意味する。なお、モーター制御装置15がヨー運動要求トルク差を算出する制御構成としてもよい。
【0025】
図2に示すように、モーター制御装置15は、少なくとも二つの機能を持つ。第一の機能は、ドライバー要求トルクとヨー運動要求トルク差とに基づき、要求左モーター軸トルク、及び、要求右モーター軸トルクを算出する機能である。第二の機能は、各インバーター8,9の作動状態を制御することで、左モーター6から出力されるトルクを要求左モーター軸トルクに一致させるとともに、右モーター7から出力されるトルクを要求右モーター軸トルクに一致させる機能である。また、第一の機能に関して、各モーター6,7の軸トルクの算出手法としては、以下に示す四種類のいずれかを採用することができる。
【0026】
第一の手法は、フィードフォワード制御によるものである。フィードフォワード制御では、左軸3,右軸4の共振特性をモデル化したトルク伝達モデルが用いられる。モーター制御装置15は、トルク伝達モデルを用いて各軸3,4のトルク振動を推定し、それらの差(すなわち軸トルク差)の振動を減少させる制振トルクを算出する。また、左モーター6,右モーター7の軸トルク(要求左モーター軸トルク,要求右モーター軸トルク)は、左軸3に要求される要求左軸トルク,右軸4に要求される要求右軸トルク,制振トルクの三者に基づいて制御される。
【0027】
なお、要求左軸トルク、及び、要求右軸トルクは、車両10の走行状態(例えば、要求トルク差やドライバー要求トルクなど)に基づいて算出される。このように、あらかじめ用意されたトルク伝達モデルを用いて左軸3,右軸4の振動状態を予測することで、トルク差に由来する振動が発生する前に抑制することができ、良好な応答性が得られやすくなる。以下、フィードフォワード制御を実施する主体(回路やプログラム)のことを、フィードフォワード制御部20と呼ぶ。
【0028】
第二の手法は、フィードバック制御によるものである。フィードバック制御では、左モーター6の第一回転速度と右モーター7の第二回転速度とに基づいてフィードバック補正量が算出される。また、左モーター6,右モーター7の軸トルク(要求左モーター軸トルク,要求右モーター軸トルク)は、車両10の走行状態(例えば、要求トルク差やドライバー要求トルクなど)とフィードバック補正量とに基づいて制御される。このように、各モーター6,7の回転速度を軸トルクの大きさにフィードバックさせることで、トルク差に由来する振動を精度よく修正することができ、制御安定性が向上する。以下、フィードフォワード制御を実施する主体(回路やプログラム)のことを、フィードバック制御部30と呼ぶ。
【0029】
第三の手法は、フィードバック制御を主体として、これにフィードフォワード制御を付加したものである。この場合、フィードフォワード制御で算出される各軸3,4の軸トルクの差(要求軸トルク差)を算出し、これにフィードバック補正量を反映させる。このように、フィードバック制御とフィードフォワード制御とを併用することで、トルク差に由来する振動の抑制効果がさらに向上する。以下、フィードバック制御を基本としたフィードフォワード制御を実施する主体(回路やプログラム)のことを、フィードバック・フィードフォワード制御部40と呼ぶ。
【0030】
第四の手法は、フィードフォワード制御を主体として、これにフィードバック制御を付加したものである。この場合、フィードフォワード制御で各軸3,4のトルク振動を推定する際に、トルク伝達モデルに入力される値にフィードバック補正量を反映させる。このようなフィードバック制御とフィードフォワード制御との併用時においても、トルク差に由来する振動の抑制効果を向上させることが可能である。以下、フィードフォワード制御を基本としたフィードバック制御を実施する主体(回路やプログラム)のことを、フィードバック・フィードフォワード制御部60と呼ぶ。
【0031】
[2.ソフトウェア構成]
[A.フィードフォワード制御]
図3は、モーター制御装置15で実行されるプログラムの一つ(フィードフォワード制御部20)の処理内容を説明するためのブロック図である。これらの処理内容は、アプリケーションプログラムとして、モーター制御装置15の記憶装置63やモーター制御装置15が読み取り可能な記録媒体に記録され、メモリ62上に展開されて実行される。ここで実行される処理内容を機能的に分類すると、フィードフォワード制御部20には、各軸駆動トルク算出部21,トルク振動推定部22,制振トルク算出部23,モーター軸トルク制御部24が設けられる。
【0032】
各軸駆動トルク算出部21は、車両10の走行状態に基づいて、左軸3に要求される要求左軸トルクと右軸4に要求される要求右軸トルクとを算出するものである。ここで参照される車両10の走行状態には、少なくとも要求トルク差とドライバー要求トルクとが含まれる。なお、左右輪1,2の路面摩擦抵抗が同等であって車両10が直進しているときには、要求左軸トルクと要求右軸トルクとがほぼ同一値として算出される。一方、車両10の旋回中や左右輪1,2の路面摩擦抵抗が不均一であるときには、要求左軸トルクと要求右軸トルクとが相違する値として算出されうる。ここでの算出結果は、トルク振動推定部22に伝達される。
【0033】
トルク振動推定部22は、左軸3,右軸の各々におけるトルク振動を推定するものである。トルク振動の推定には、左軸3,右軸4の共振特性をモデル化したトルク伝達モデルが用いられる。トルク伝達モデルは、左軸3の要求左軸トルクに対する実際のトルク振動が模擬された左トルク推定値と、右軸4の要求右軸トルクに対する実際のトルク振動が模擬された右トルク推定値とを出力する。このように、トルク振動推定部22は、トルク伝達モデルと要求左軸トルクと要求右軸トルクとに基づき、左軸3,右軸4の各々におけるトルク振動を推定する機能を持つ。ここで推定された二つのトルク推定値は、制振トルク算出部23に伝達される。
【0034】
制振トルク算出部23は、左軸3,右軸4の軸トルク差の振動を減少させる制振トルクを算出するものである。ここでは、トルク推定値の差分(例えば、左トルク推定値から右トルク推定値を減じたもの)を本来意図された値にするための補正値として、制振トルクが算出される。例えば、車両10の直進走行中に左トルク推定値と右トルク推定値が同一であるときには、制振トルクの値が0となる。一方、車両10の直進走行中に左トルク推定値が右トルク推定値よりも大きければ、制振トルクの値は正となる。反対に、車両10の直進走行中に左トルク推定値が右トルク推定値よりも小さければ、制振トルクの値は負となる。また、車両10の旋回中には、その旋回状態に応じた大きさの制振トルクが算出される。ここで算出された制振トルクの値は、モーター軸トルク制御部24に伝達される。
【0035】
モーター軸トルク制御部24(制御部)は、要求左軸トルクと要求右軸トルクと制振トルクとに基づき、左モーター6及び右モーター7の軸トルクを制御するものである。ここでは、要求左軸トルク、及び、要求右軸トルクの一方から制振トルクを減じた値と、他方に制振トルクを加えた値とに基づいて、要求左モーター軸トルクと要求右モーター軸トルクとが算出される。
【0036】
本実施形態では、要求左軸トルクと制振トルクとを加算したものが、最終的に左軸3に要求されている軸トルクとされ、かつ、要求右軸トルクから制振トルクを減じたものが、最終的に右軸4に要求されている軸トルクとされる。また、要求左モーター軸トルクは、前者を左軸3に発生させるのに要する左モーター6の軸トルクであり、要求右モーター軸トルクは、後者を右軸4に発生させるのに要する右モーター7の軸トルクである。モーター軸トルク制御部24は、左モーター6で要求左モーター軸トルクが発生するように左インバーター8に制御信号を出力するとともに、右モーター7で要求右モーター軸トルクが発生するように右インバーター9に制御信号を出力する。
【0037】
[B.フィードバック制御]
図4は、モーター制御装置15で実行されるプログラムの一つ(フィードバック制御部30)の処理内容を説明するためのブロック図である。これらの処理内容は、上述のフィードフォワード制御部20と同様に、アプリケーションプログラムとして実行される。ここで実行される処理内容を機能的に分類すると、ドライブトレイン捩れモデル算出部31,微分演算部32,周波数フィルター33,比例項算出部34,積分項算出部35,微分項算出部36,配分制御部37が設けられる。
【0038】
ドライブトレイン捩れモデル算出部31は、各モーター6,7の回転速度に基づいて左軸3及び右軸4の各々の回転速度(左軸回転速度,右軸回転速度)を算出するものである。ここでは、各モーター6,7と各軸3,4との間の動力伝達経路における減速比や捩れ特性をモデル化したドライブトレイン捩れモデルが用いられる。ここで算出された左軸回転速度と右軸回転速度との差分情報は、微分演算部32に伝達される。本実施形態では、左軸回転速度から右軸回転速度を減じた回転数差が微分演算部32に伝達される。
【0039】
微分演算部32は、回転数差の時間変化勾配である微分値を算出するものである。ここでは、所定の単位時間あたりの回転数差の変化量が抽出される。微分演算を施すことで、各軸3,4の回転数差の大小に関わらず、その変化の度合いに応じたフィードバック補正量を算出することが可能となる。ここで抽出された変化量の情報は周波数フィルター33で必要な周波数成分を抽出したのちに、三種の算出部34~36のそれぞれに伝達される。
【0040】
比例項算出部34は、周波数フィルター33の出力に比例する補正量(比例項)を算出するものである。同様に、積分項算出部35は、周波数フィルター33の出力の積分値に相当する補正量(積分項)を算出し、微分項算出部36は、周波数フィルター33の出力の微分値に相当する補正量(微分項)を算出する。これらの補正量を合算したものが、最終的なフィードバック補正量となる。なお、図4中に符号31~36で示す各要素は、第一回転速度と第二回転速度とに基づいてフィードバック補正量を算出する補正値算出部として機能している。
【0041】
フィードバック補正量は、左モーター6の第一回転速度と右モーター7の第二回転速度との差の微分値を小さくする(差の微分値を0に近づける,差の時間変化を抑える)ように作用するものであり、車体姿勢制御装置14で算出されたヨー運動要求トルク差を補正するのに用いられる。以下、ヨー運動要求トルク差からフィードバック補正量を減じたもののことを、補正後トルク差と呼ぶ。
【0042】
配分制御部37(制御部)は、少なくともフィードバック補正量に基づいて、左モーター6及び右モーター7の軸トルクを算出するものである。ここでは、補正後トルク差とドライバー要求トルクとに基づいて、要求左モーター軸トルク、及び、要求右モーター軸トルクが算出される。すなわち、補正後トルク差が生じるように、要求左軸トルクと要求右軸トルクとが算出されるとともに、それらに基づいて要求左モーター軸トルクと要求右モーター軸トルクとが算出される。また、配分制御部37は、左モーター6で要求左モーター軸トルクが発生するように左インバーター8に制御信号を出力するとともに、右モーター7で要求右モーター軸トルクが発生するように右インバーター9に制御信号を出力する。
【0043】
[C.併用制御(その1)]
図5は、モーター制御装置15で実行されるプログラムの一つ(フィードバック・フィードフォワード制御部40)の処理内容を説明するためのブロック図である。図5中の符号41~46は、図4中の符号31~36と同一であり、図5中の符号48~50は、図3中の符号21~23と同一である。フィードバック・フィードフォワード制御部40は、フィードフォワード制御部20における要求左軸トルク、及び、要求右軸トルクをフィードバック補正量で補正するように機能する。
【0044】
フィードバック・フィードフォワード制御部40の配分制御部47(制御部)は、要求左軸トルクと要求右軸トルクと制振トルクとフィードバック補正量とドライバー要求トルクとに基づいて、要求左軸トルクと要求右軸トルクとを算出するものである。ここでは、図5に示すように、要求左軸トルク、及び、要求右軸トルクの一方から制振トルクを減じた値と、他方に制振トルクを加えた値とが算出されるとともに、それらの差(要求軸トルク差)が算出される。
【0045】
また、要求軸トルク差からフィードバック補正量を減じた補正後トルク差とドライバー要求トルクとが配分制御部47に入力される。配分制御部47は、補正後トルク差とドライバー要求トルクとに基づいて、要求左モーター軸トルク、及び、要求右モーター軸トルクを算出する。また、配分制御部47は、左モーター6で要求左モーター軸トルクが発生するように左インバーター8に制御信号を出力するとともに、右モーター7で要求右モーター軸トルクが発生するように右インバーター9に制御信号を出力する。
【0046】
[D.併用制御(その2)]
図6は、モーター制御装置15で実行されるプログラムの一つ(フィードバック・フィードフォワード制御部60)の処理内容を説明するためのブロック図である。図6中の符号41~46は、図4中の符号31~36と同一であり、図6中の符号49~50は、図3中の符号22~23と同一である。フィードバック・フィードフォワード制御部60は、フィードフォワード制御部20におけるヨー運動要求トルク差をフィードバック補正量で補正するように機能する。
【0047】
フィードバック・フィードフォワード制御部60の各軸駆動トルク算出部48は、車両10の走行状態とフィードバック補正量とに基づいて、要求左軸トルクと要求右軸トルクとを算出する。各軸駆動トルク算出部48には、図6に示すように、ヨー運動要求トルク差からフィードバック補正量を減じたものとドライバー要求トルクとが入力される。したがって、ここで算出される要求左軸トルク、及び、要求右軸トルクは、フィードバック補正量が反映された値である。
【0048】
モーター軸トルク制御部51(制御部)は、フィードバック補正量が反映された要求左軸トルク、及び、要求右軸トルクと制振トルクとに基づいて、要求左モーター軸トルク、及び、要求右モーター軸トルクを算出するものである。ここでは、要求左軸トルク、及び、要求右軸トルクの一方から制振トルクを減じた値と、他方に制振トルクを加えた値とに基づいて、要求左モーター軸トルクと要求右モーター軸トルクとが算出される。
【0049】
本実施形態では、要求左軸トルクと制振トルクとを加算したものが、最終的に左軸3に要求されている軸トルクとされ、かつ、要求右軸トルクから制振トルクを減じたものが、最終的に右軸4に要求されている軸トルクとされる。また、モーター軸トルク制御部51は、左モーター6で要求左モーター軸トルクが発生するように左インバーター8に制御信号を出力するとともに、右モーター7で要求右モーター軸トルクが発生するように右インバーター9に制御信号を出力する。
【0050】
[3.作用,効果]
図7は、上記のフィードフォワード制御やフィードバック制御を実施しなかった場合のトルク振動を示すグラフである。このグラフは、左右輪1,2のトルク差が変化したときに各モーター6,7にトルク振動が発生することと、トルク差の振動が収束しにくいことを示している。このような振動は、車室内の静粛性や乗り心地を低下させる。
【0051】
一方、図8は、図5に示すフィードバック・フィードフォワード制御部40による制御が実施された場合のトルク振動を示すグラフである。フィードフォワード制御やフィードバック制御を実施することで、左軸3,右軸4の振動状態が予測されるとともに、各モーター6,7の軸トルクの大きさにフィードバックがかけられる。これにより、トルク差の振幅が小さくなるとともに、実トルク差が要求トルク差に対して短時間で収束し、車室内の静粛性や乗り心地が向上する。
【0052】
(1)フィードバック制御部30では、左モーター6の第一回転速度と右モーター7の第二回転速度とに基づいてフィードバック補正量が算出される。また、図4に示すように、車両10の走行状態とフィードバック補正量とに基づいて各モーター6,7の軸トルクが制御される。このような制御により、左右輪1,2のトルク差に由来する振動を抑制することができ、車両10の静粛性や乗り心地を改善することができる。
【0053】
(2)フィードバック制御部30では、第一回転速度と第二回転速度との差の微分値が小さくなるように、フィードバック補正量が算出される。これにより、各モーター6,7の回転速度差の大小に関わらず、左右輪1,2のトルク差に由来する振動を抑制することができる。例えば、車両10の旋回中であっても、所定の回転速度差を保ちつつトルク振動を抑制することができる。
【0054】
(3)図4に示すように、ヨー運動要求トルク差にフィードバック補正量を反映させたものを配分制御部37に入力することで、各モーター6,7から出力される軸トルクの差を容易に調節することができる。これにより、例えばドライバー要求トルクを維持したままトルク配分を適正化することができ、左右輪1,2のトータルの駆動力を変化させることなく、トルク振動を抑制することができる。
【0055】
(4)フィードバック・フィードフォワード制御部40には、図5に示すように、各軸駆動トルク算出部48,トルク振動推定部49,制振トルク算出部50が設けられ、各軸3,4のトルク振動が推定されるとともに制振トルクが算出される。また、配分制御部47は、要求左軸トルクと要求右軸トルクと制振トルクとフィードバック補正量とドライバー要求トルクとに基づいて、要求左軸トルクと要求右軸トルクとを算出する。このように、左軸3,右軸4の共振特性をモデル化したトルク伝達モデルに基づいてトルク振動を推定した上で制振トルクを算出することで、左右輪1,2のトルク差に由来する振動を抑制することができ、車両10の静粛性や乗り心地を改善することができる。
【0056】
(5)フィードバック・フィードフォワード制御部40では、制振トルクが加減算された各軸トルクの差(すなわち要求軸トルク差)にフィードバック補正量が反映される。このように、フィードバック補正量が加減算される対象を「要求軸トルク差」とすることで、トータルの要求トルクを変化させることなくトルク振動を抑制することができる。これに加えて、要求左軸トルク,要求右軸トルクの一方から制振トルクを減算するとともに他方に加算することも、トータルの要求トルクを変化させずにトルク振動を抑制するのに寄与しうる。
【0057】
(6)フィードフォワード制御部20には、図3に示すように、各軸駆動トルク算出部21,トルク振動推定部22,制振トルク算出部23が設けられ、各軸3,4のトルク振動が推定されるとともに制振トルクが算出される。また、モーター軸トルク制御部24は、要求左軸トルクと要求右軸トルクと制振トルクとに基づいて、要求左軸トルクと要求右軸トルクとを算出する。このように、左軸3,右軸4の共振特性をモデル化したトルク伝達モデルに基づいてトルク振動を推定した上で制振トルクを算出することで、左右輪1,2のトルク差に由来する振動を抑制することができ、車両10の静粛性や乗り心地を改善することができる。
【0058】
(7)フィードフォワード制御部20では、要求左軸トルク、及び、要求右軸トルクの一方から制振トルクを減じた値と、他方に制振トルクを加えた値とが算出される。このような制御により、例えばドライバー要求トルクを維持したままトルク配分を適正化することができ、左右輪1,2のトータルの駆動力を変化させることなく、トルク振動を抑制することができる。
【0059】
(8)フィードバック・フィードフォワード制御部60には、図6に示すように、補正値算出部として機能する要素31~36が含まれる。また、モーター軸トルク制御部51は、要求左軸トルクと要求右軸トルクと制振トルクとフィードバック補正量とに基づいて各モーター6,7の軸トルクを制御している。このように、左右のモーター6,7間における回転速度差に基づいてフィードバック制御を実施することで、左右輪1,2のトルク差に由来する振動を抑制することができ、車両10の静粛性や乗り心地を改善することができる。
【0060】
(9)フィードバック・フィードフォワード制御部60では、図6に示すように、第一回転速度と第二回転速度との差の微分値が小さくなるように、フィードバック補正量が算出される。これにより、各モーター6,7の回転速度差の大小に関わらず、左右輪1,2のトルク差に由来する振動を抑制することができる。例えば、車両10の旋回中であっても、所定の回転速度差を保ちつつトルク振動を抑制することができる。
【0061】
(10)フィードバック・フィードフォワード制御部60では、図6に示すように、ヨー運動要求トルク差にフィードバック補正量が反映される。これにより、例えばドライバー要求トルクを維持したままトルク配分を適正化することができ、左右輪1,2のトータルの駆動力を変化させることなく、トルク振動を抑制することができる。
【0062】
[4.変形例]
上記の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、本実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0063】
上述の実施形態では、左右輪1,2が差動装置5を介して連結された車両10を例示したが、差動装置5は必須の要素ではない。例えば、図9に示すようなインホイールモーター型の車両10にモーター制御装置15を適用することが可能である。少なくとも、左軸3を介して左輪1に駆動力を伝達する左モーター6と、右軸4を介して右輪2に駆動力を伝達する右モーター7とが搭載された車両10であれば、モーター制御装置15を適用することで上述の実施形態と同様の作用,効果を奏するものとなる。
【0064】
上述の実施形態では、車両10の後輪についての左右輪1,2を駆動するモーター6,7の制御について詳述したが、前輪の制御にも適用可能である。また、電気自動車だけでなくハイブリッド自動車にも適用可能である。さらに、四輪の車両だけでなく三輪車両や電動カート,シニアカー(電動車いす)などにも適用可能であり、トラック,バスなどの大型車両にも適用可能である。
【0065】
[5.付記]
上記の変形例を含む実施形態に関し、以下の付記を開示する。
[付記1]
左軸を介して車両の左輪に駆動力を伝達する左モーターと、
右軸を介して前記車両の右輪に駆動力を伝達する右モーターと、
前記左モーターの第一回転速度を検出する左回転速度センサーと、
前記右モーターの第二回転速度を検出する右回転速度センサーと、
プロセッサー及びメモリを内蔵し、前記第一回転速度及び前記第二回転速度に基づき、前記左モーター及び前記右モーターを制御するコンピューターとを具備する車両のモーター制御システムにおいて、
前記コンピューターが、
前記左モーターの第一回転速度と前記右モーターの第二回転速度とに基づき、前記左軸及び前記右軸のトルク振動を減少させるフィードバック補正量を算出する補正値算出部と、
前記車両の走行状態と前記フィードバック補正量とに基づき、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを制御する制御部とを備える。
【0066】
[付記2]
付記1記載のモーター制御システムにおいて、
前記補正値算出部が、前記第一回転速度と前記第二回転速度との差の微分値が小さくなるように前記フィードバック補正量を算出する。
【0067】
[付記3]
付記1または2に記載のモーター制御システムにおいて、
前記制御部が、前記左軸及び前記右軸の要求トルク差に前記フィードバック補正量を反映させる。
【0068】
[付記4]
付記1~3のいずれか1項に記載のモーター制御システムにおいて、
前記コンピューターが、
前記車両の走行状態に基づき、前記左軸に要求されるトルクである要求左軸トルクと前記右軸に要求されるトルクである要求右軸トルクとを算出する各軸駆動トルク算出部と、
前記左軸及び前記右軸の共振特性をモデル化したトルク伝達モデルと前記要求左軸トルクと前記要求右軸トルクとに基づき、前記左軸及び前記右軸の各々におけるトルク振動を推定するトルク振動推定部と、
前記トルク振動に由来する前記左軸及び前記右軸のトルク振動を減少させる制振トルクを算出する制振トルク算出部とを備え、
前記制御部が、前記要求左軸トルクと前記要求右軸トルクと前記制振トルクと前記フィードバック補正量と前記ドライバー要求トルクとに基づき、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを制御する。
【0069】
[付記5]
付記4記載のモーター制御システムにおいて、
前記制御部が、前記要求左軸トルク、及び、前記要求右軸トルクの一方から前記制振トルクを減じた値と他方に前記制振トルクを加えた値との軸トルク差に前記フィードバック補正量を反映させたものに基づき、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを制御する。
【0070】
[付記6]
左軸を介して車両の左輪に駆動力を伝達する左モーターと、
右軸を介して前記車両の右輪に駆動力を伝達する右モーターと、
前記車両のアクセル開度を検出するアクセル開度センサーと、
前記車両の車速を検出する車速センサーと、
前記車両のヨー運動要求トルク差を算出する車体姿勢制御装置と、
プロセッサー及びメモリを内蔵し、前記アクセル開度及び前記車速に基づいてドライバー要求トルクを設定するとともに、前記ドライバー要求トルクと前記ヨー運動要求トルク差とに基づき、前記左モーター及び前記右モーターを制御するコンピューターとを具備する車両のモーター制御システムにおいて、
前記コンピューターが、
前記ドライバー要求トルクと前記ヨー運動要求トルク差とに基づき、前記左軸に要求されるトルクである要求左軸トルクと前記右軸に要求されるトルクである要求右軸トルクとを算出する各軸駆動トルク算出部と、
前記左軸及び前記右軸の共振特性をモデル化したトルク伝達モデルと前記要求左軸トルクと前記要求右軸トルクとに基づき、前記左軸及び前記右軸の各々におけるトルク振動を推定するトルク振動推定部と、
前記トルク振動に由来する前記左軸及び前記右軸のトルク振動を減少させる制振トルクを算出する制振トルク算出部と、
前記要求左軸トルクと前記要求右軸トルクと前記制振トルクとに基づき、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを制御する制御部とを備える。
【0071】
[付記7]
付記6記載のモーター制御システムにおいて、
前記制御部が、前記要求左軸トルク、及び、前記要求右軸トルクの一方から前記制振トルクを減じた値と他方に前記制振トルクを加えた値とに基づき、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを制御する。
【0072】
[付記8]
付記6または7記載のモーター制御システムにおいて、
前記コンピューターが、
前記左モーターの第一回転速度と前記右モーターの第二回転速度とに基づき、前記左軸及び前記右軸のトルク振動を減少させるフィードバック補正量を算出する補正値算出部を備え、
前記制御部が、前記要求左軸トルクと前記要求右軸トルクと前記制振トルクと前記フィードバック補正量とに基づき、前記左モーター及び前記右モーターの軸トルクを制御する。
【0073】
[付記9]
付記8記載のモーター制御システムにおいて、
前記補正値算出部が、前記第一回転速度と前記第二回転速度との差の微分値が小さくなるように前記フィードバック補正量を算出する。
【0074】
[付記10]
付記8または9記載のモーター制御システムにおいて、
前記制御部が、前記左軸及び前記右軸の軸トルク差に前記フィードバック補正量を反映させる。
【符号の説明】
【0075】
1 左輪
2 右輪
6 左モーター
7 右モーター
10 車両
12 アクセル開度センサー
13 車速センサー
14 車体姿勢制御装置
15 モーター制御装置
16 左回転速度センサー
17 右回転速度センサー
20 フィードフォワード制御部
21,48 各軸駆動トルク算出部
22,49 トルク振動推定部
23,50 制振トルク算出部
24,51 モーター軸トルク制御部(制御部)
30 フィードバック制御部
31,41 ドライブトレイン捩れモデル算出部
32,42 微分演算部
33,43 周波数フィルター
34,44 比例項算出部
35,45 積分項算出部
36,46 微分項算出部
37,47 配分制御部(制御部)
40,60 フィードバック・フィードフォワード制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9