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特許7310140ゴム質重合体、グラフト共重合体および熱可塑性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】ゴム質重合体、グラフト共重合体および熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20230711BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20230711BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20230711BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C08F2/44 B
C08F220/18
C08F265/06
C08F290/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018563334
(86)(22)【出願日】2018-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2018000993
(87)【国際公開番号】W WO2018135481
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2017009602
(32)【優先日】2017-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】岩永 崇
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/119040(WO,A1)
【文献】特開2012-144714(JP,A)
【文献】特表2007-528286(JP,A)
【文献】特開2008-101119(JP,A)
【文献】特開昭53-014788(JP,A)
【文献】特表2011-526637(JP,A)
【文献】国際公開第2008/108390(WO,A1)
【文献】特開2008-239785(JP,A)
【文献】特開2016-145284(JP,A)
【文献】米国特許第05686518(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 - 2/60
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1~11のアルキル(メタ)アクリレートと、下記式(1)で表される架橋剤(以下、「架橋剤(1)」と称す。)と、該アルキル(メタ)アクリレートと該架橋剤(1)との合計100質量部に対して0.1~10質量部の流動パラフィンとを含む原料混合物の重合反応物であり、該アルキル(メタ)アクリレートと該架橋剤(1)と重合物中に流動パラフィンが混在するゴム質重合体(A)であって、ゲル含有率が80~100%であり、かつ、体積平均粒子径が150~800nmであり、アセトンによる膨潤度が500~1200%であることを特徴とするゴム質重合体(A)。
CH2=CR1-CO-(X)-COCR1=CH2 …(1)
式(1)中、Xは、ポリアルキレングリコール残基、ポリエステルジオール残基およびポリカーボネートジオール残基から選ばれる少なくとも1種のジオール残基を示す。Rは、H又はCHを示す。
【請求項2】
請求項1において、前記原料混合物は、更に油溶性開始剤、乳化剤、および水を含み、前記重合物は、微小油滴化された前記アルキル(メタ)アクリレートと前記架橋剤(1)と重合物であることを特徴とするゴム質重合体(A)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゴム質重合体(A)に、芳香族ビニル、アルキル(メタ)アクリレート、およびシアン化ビニルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のビニル単量体(b)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(B)。
【請求項4】
請求項に記載のグラフト共重合体(B)を含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項6】
炭素数1~11のアルキル(メタ)アクリレートと、下記式(1)で表される架橋剤(1)との合計100質量部に対して、0.1~10質量部の流動パラフィンの存在下に、該アルキル(メタ)アクリレートと該架橋剤(1)とを重合して、ゲル含有率80~100%であり、かつ、体積平均粒子径が150~800nmのゴム質重合体(A)を製造することを特徴とするゴム質重合体(A)の製造方法。
CH2=CR1-CO-(X)-COCR1=CH2 …(1)
式(1)中、Xは、ポリアルキレングリコール残基、ポリエステルジオール残基およびポリカーボネートジオール残基から選ばれる少なくとも1種のジオール残基を示す。Rは、H又はCHを示す。
【請求項7】
請求項において、アセトンによる膨潤度が500~1200%のゴム質重合体(A)を製造することを特徴とするゴム質重合体(A)の製造方法。
【請求項8】
請求項又はにおいて、前記アルキル(メタ)アクリレート、前記架橋剤(1)、前記流動パラフィン、油溶性開始剤、乳化剤、および水を含む混合物をミニエマルション化し、得られたミニエマルション内で前記重合を行ってゴム質重合体(A)を製造することを特徴とするゴム質重合体(A)の製造方法。
【請求項9】
請求項ないしのいずれか1項に記載の製造方法で得られたゴム質重合体(A)に、芳香族ビニル、アルキル(メタ)アクリレート、およびシアン化ビニルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のビニル単量体(b)をグラフト重合してグラフト共重合体(B)を得ることを特徴とするグラフト共重合体(B)の製造方法。
【請求項10】
請求項に記載の製造方法で得られたグラフト共重合体(B)を用いた熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法で得られた熱可塑性樹脂組成物を成形する成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性が良好で、耐衝撃性、低温耐衝撃性、耐候性、外観に優れた成形品を提供し得るグラフト共重合体を得ることができるゴム質重合体に関する。本発明は、このゴム質重合体を用いたグラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、自動車分野、住宅・建材分野、電気・電子機器分野、プリンター等のOA機器をはじめとする多くの分野で使用されている。その中でも、スチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、α-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、スチレン-アクリロニトリル-フェニルマレイミド共重合樹脂等に、これらの樹脂と相溶性を付与させるような単量体をゴム質重合体にグラフト重合して得られるグラフト共重合体を配合した樹脂、例えば、ABS樹脂、ASA樹脂等は、耐衝撃性、流動性に優れることから広く使用されてきた。
【0003】
ゴム質重合体に飽和ゴムであるアルキル(メタ)アクリレートゴム等の成分を用いたASA樹脂は耐候性を付与し得る反面、ABS樹脂に比べて耐衝撃性に劣る。
【0004】
ASA樹脂の耐衝撃性を改良するために、高分子架橋剤を利用する方法が提案されている(特許文献1、2)。
【0005】
特許文献1ではゴム相に高分子架橋剤を導入している。特許文献1では、重合を2段階以上に分けて行い、高分子架橋剤は2段階目以降に使用している。これは、1段目に高分子架橋剤を使用すると、高分子架橋剤の分子量が大きいため、油滴からミセルへ高分子架橋剤が移行できず凝塊物が多くなるためである。このように、重合を2段階以上に分けた場合、高分子架橋剤を含まない粒子も生成するため、得られるゴム質重合体はゲル含有量が低く、耐衝撃性の改善効果は不十分である。
【0006】
特許文献2でも、特許文献1と同様に、高分子架橋剤を含まないシード粒子に高分子架橋剤を含むモノマーを滴下して合成している。このため、高分子架橋剤を含まない粒子も生成するため、耐衝撃性の改善効果は不十分であった。
【0007】
【文献】特開2012-144714号公報
【文献】特許第5905115号公報
【0008】
本発明は、成形性が良好で、耐衝撃性、低温耐衝撃性、耐候性、外観に優れた成形品を提供し得るグラフト共重合体を得ることができるゴム質重合体を提供することを目的とする。本発明はまた、このゴム質重合体を用いたグラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物、およびその成形品を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0009】
本発明者は、アルキル(メタ)アクリレート、特定の高分子架橋剤、および所定量の疎水性物質を用いて得られる高ゲル含有率のゴム質重合体(A)により、上記目的を達成できることを見出し、本発明に達した。
【0010】
すなわち、本発明は以下を要旨とする。
【0011】
[1] アルキル(メタ)アクリレートと、下記式(1)で表される架橋剤(以下、「架橋剤(1)」と称す。)と、疎水性物質とを含み、該アルキル(メタ)アクリレートと該架橋剤(1)との合計100質量部に対する該疎水性物質の割合が0.1~10質量部である原料混合物の重合反応物であって、ゲル含有率が80~100%であることを特徴とするゴム質重合体(A)。
CH2=CR1-CO-(X)-COCR1=CH2 …(1)
式(1)中、Xは、ポリアルキレングリコール残基、ポリエステルジオール残基およびポリカーボネートジオール残基から選ばれる少なくとも1種のジオール残基を示す。Rは、H又はCHを示す。
【0012】
[2] [1]において、体積平均粒子径が150~800nmであり、アセトンによる膨潤度が500~1200%であることを特徴とするゴム質重合体(A)。
【0013】
[3] [1]又は[2]において、前記アルキル(メタ)アクリレート、前記架橋剤、前記疎水性物質、油溶性開始剤、乳化剤、および水を含むミニエマルションの重合反応物であることを特徴とするゴム質重合体(A)。
【0014】
[4] [1]ないし[3]のいずれかに記載のゴム質重合体(A)に、芳香族ビニル、アルキル(メタ)アクリレート、およびシアン化ビニルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のビニル単量体(b)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(B)。
【0015】
[5] [4]に記載のグラフト共重合体(B)を含む熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
[6] [5]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【0017】
[7] アルキル(メタ)アクリレートと、下記式(1)で表される架橋剤(1)と、疎水性物質とを含み、該アルキル(メタ)アクリレートと該架橋剤(1)との合計100質量部に対する該疎水性物質の割合が0.1~10質量部である原料混合物を重合して、ゲル含有率80~100%のゴム質重合体(A)を製造することを特徴とするゴム質重合体(A)の製造方法。
CH2=CR1-CO-(X)-COCR1=CH2 …(1)
式(1)中、Xは、ポリアルキレングリコール残基、ポリエステルジオール残基およびポリカーボネートジオール残基から選ばれる少なくとも1種のジオール残基を示す。Rは、H又はCHを示す。
【0018】
[8] [7]において、体積平均粒子径が150~800nmであり、アセトンによる膨潤度が500~1200%のゴム質重合体(A)を製造することを特徴とするゴム質重合体(A)の製造方法。
【0019】
[9] [7]又は[8]において、前記アルキル(メタ)アクリレート、前記架橋剤、前記疎水性物質、油溶性開始剤、乳化剤、および水を含む混合物をミニエマルション化し、得られたミニエマルションを重合してゴム質重合体(A)を製造することを特徴とするゴム質重合体(A)の製造方法。
【0020】
[10] [7]ないし[9]のいずれかに記載の製造方法で得られたゴム質重合体(A)に、芳香族ビニル、アルキル(メタ)アクリレート、およびシアン化ビニルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のビニル単量体(b)をグラフト重合してグラフト共重合体(B)を得ることを特徴とするグラフト共重合体(B)の製造方法。
【0021】
[11] [10]に記載の製造方法で得られたグラフト共重合体(B)を用いた熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0022】
[12] [11]に記載の製造方法で得られた熱可塑性樹脂組成物を成形する成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のゴム質重合体(A)およびグラフト共重合体(B)によれば、成形性が良好であり、耐衝撃性、低温耐衝撃性、耐候性、成形品外観に優れた熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
本明細書において「単位」とは、重合前の単量体化合物(モノマー)に由来する構造部分をさす。例えば、「アルキル(メタ)アクリレート単位」とは「アルキル(メタ)アクリレートに由来する構造部分」をさす。
「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」と「メタクリレート」の一方又は双方を意味する。
「成形品」とは、熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものを意味する。
【0026】
「残基」とは、重合体等の反応生成物(本発明ではゴム質重合体(A)や後述の架橋剤(1))の製造に用いられた化合物に由来して、当該反応生成物に組み込まれた構造部分を示す。例えば、後述の残基Xは、ポリアルキレングリコール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、或いはこれらの1種以上の重合体の2個の水酸基から、水素原子が1個ずつ取れた残りの基に該当する。
【0027】
[ゴム質重合体(A)]
本発明のゴム質重合体(A)について説明する。
【0028】
本発明のゴム質重合体(A)は、アルキル(メタ)アクリレートと、下記式(1)で表される架橋剤(以下、「架橋剤(1)」と称す。)と、所定量の疎水性物質とを含む原料混合物の重合反応物であって、ゲル含有率が80~100%であることを特徴とする。
CH2=CR1-CO-(X)-COCR1=CH2 …(1)
式(1)中、Xは、ポリアルキレングリコール残基、ポリエステルジオール残基およびポリカーボネートジオール残基から選ばれる少なくとも1種のジオール残基を示す。Rは、H又はCHを示す。
【0029】
本発明のゴム質重合体(A)は、アルキル(メタ)アクリレート、架橋剤(1)、および疎水性物質、好ましくは更に乳化剤を含む原料混合物、より好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート、架橋剤(1)、疎水性物質、油溶性開始剤、乳化剤、および水を含む原料混合物からプレエマルションを調製する工程と、得られたプレエマルションを重合する工程とを含むミニエマルション重合により製造される。
【0030】
以下に、アルキル(メタ)アクリレート、架橋剤(1)、疎水性物質、油溶性開始剤、乳化剤、および水を含む原料混合物からプレエマルションを調製し、得られたプレエマルションを重合するミニエマルション重合により、本発明のゴム質重合体(A)を製造する方法について説明する。上記原料混合物は、アルキル(メタ)アクリレート、架橋剤(1)以外に、必要に応じて用いられるこれらと共重合可能なその他のビニル化合物を含んでいてもよい。
【0031】
ミニエマルション重合では、まず、超音波発振機などを利用して強い剪断力をかけることによって、100~1000nm程度のモノマー油滴を調製する。この際、乳化剤分子はモノマー油滴表面に優先的に吸着し、水媒体中にはフリーの乳化剤やミセルがほとんど存在しなくなる。したがって、理想的なミニエマルション系の重合では、モノマーラジカルが水相と油相に分配されることはなく、モノマー油滴が粒子の核になって重合が進行する。その結果、形成されたモノマー油滴はそのままポリマー粒子に変換され、均質なポリマーナノ粒子を得ることが可能となる。
【0032】
これに対して、一般的な乳化重合で調製したポリマー粒子では、モノマー油滴からミセルへモノマーが移行して反応が進行するため、疎水性の異なるモノマーを複数含有するとミセルへの移行しやすさが異なり、均質なポリマーを形成できない。
【0033】
<ミニエマルション重合>
本発明のゴム質重合体(A)を製造するミニエマルション重合は、これに限定されるものではないが、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、架橋剤(1)、疎水性物質、および乳化剤、好ましくは更に油溶性開始剤、水を混合する工程、得られた混合物(以下「混合物(a)」と称す場合がある。)に剪断力を付与してプレエマルションを調製する工程、ならびにこのプレエマルションを重合開始温度まで加熱して重合させる工程を含む。ミニエマルション化の工程では、重合用モノマーと乳化剤とを混合した後、例えば、超音波照射による剪断工程を実施することにより、前記剪断力によりモノマーが引きちぎられ、乳化剤に覆われたモノマー微小油滴が形成される。その後、油溶性開始剤の重合開始温度まで加熱することにより、モノマー微小油滴をそのまま重合し、高分子微粒子が得られる。プレエマルションを形成させるための剪断力を加える方法は公知の任意の方法を用いることができる。
【0034】
プレエマルションを形成できる高剪断装置としては、これらに限定されるものではないが、例えば、高圧ポンプおよび相互作用チャンバーからなる乳化装置、超音波エネルギーや高周波によりミニエマルションを形成させる装置等がある。高圧ポンプおよび相互作用チャンバーからなる乳化装置としては、例えば、SPX Corporation APV社製「圧力式ホモジナイザー」、(株)パウレック製「マイクロフルイダイザー」等が挙げられる。超音波エネルギーや高周波によりミニエマルションを形成させる装置としては、例えば、Fisher Scient製「ソニックディスメンブレーター」や(株)日本精機製作所製「ULTRASONIC HOMOGENIZER」等が挙げられる。
【0035】
プレエマルションを調製する際の水溶媒の使用量は、作業性、安定性、製造性等の観点から、重合後の反応系の固形分濃度が5~50質量%程度となるように、水以外の混合物(a)100質量部に対して100~500質量部程度とすることが好ましい。
【0036】
<アルキル(メタ)アクリレート>
本発明のゴム質重合体(A)を構成するアルキル(メタ)アクリレートとしては、好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1~11のアルキル(メタ)アクリレートである。例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート;ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等のアルキルメタクリレートが挙げられる。熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性が向上することから、これらのアルキル(メタ)アクリレートの中でも、n-ブチルアクリレートが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
アルキル(メタ)アクリレートは、アルキル(メタ)アクリレートと架橋剤(1)と必要に応じて用いられる後述のその他のビニル化合物の合計中のアルキル(メタ)アクリレートの含有量が10~99.9質量%、特に50~99.5質量%、とりわけ70~99質量%となるように用いることが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートの使用量が上記範囲内であれば、得られるゴム質重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、耐候性に優れたものとなる。
【0038】
<架橋剤(1)>
本発明のゴム質重合体(A)の製造に際しては、上記のアルキル(メタ)アクリレートから得られるポリアルキル(メタ)アクリレート成分に架橋構造を導入するために、アルキル(メタ)アクリレートとともに下記式(1)で表される架橋剤(1)を用いる。
CH2=CR1-CO-(X)-COCR1=CH2 …(1)
式(1)中、Xは、ポリアルキレングリコール残基、ポリエステルジオール残基およびポリカーボネートジオール残基から選ばれる少なくとも1種のジオール残基を示す。Rは、H又はCHを示す。
なお、式(1)中の2個のR1は同一であってもよく、異なるものであってもよい。
【0039】
以下において、式(1)中のXを「ジオール残基X」と称す場合がある。また、架橋剤(1)の製造原料として用いられ、架橋剤(1)中のジオール残基Xを構成するジオール化合物を「X源」と称す場合がある。
【0040】
架橋剤(1)に含まれるジオール残基Xの構造としては、単独構造単位の繰り返しまたは2以上の構造単位の繰り返しのいずれでもよい。Xの構造が2以上の構造単位の繰り返しの場合、その構造単位の並び方は、各構造単位がランダムに存在するもの、各構造単位がブロックで存在するもの、又は各構造単位が交互に存在するもののいずれであってもよい。
【0041】
ジオール残基Xの数平均分子量(Mn)は300~10000であることが好ましく、600~7000がより好ましく、900~5000がさらに好ましい。ジオール残基Xの数平均分子量(Mn)が上記下限以上であれば、架橋剤(1)を用いて得られる本発明のゴム質重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合した熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が優れたものとなる。
【0042】
架橋剤(1)の具体例としては、新中村化学工業(株)製の「NKエステル9G」、「NKエステルAPG-700」(ポリプロピレングリコールジアクリレート、ジオール残基XのMn:696)、「NKエステル14G」(ポリエチレングリコールジメタクリレート、ジオール残基XのMn:616)、「NKエステル23G」(ポリエチレングリコールジメタクリレート、ジオール残基XのMn:1012)、「NKエステルBPE-100」、「NKエステルBPE-200」、「NKエステルBPE-500」、「NKエステルBPE-900」、「NKエステルBPE-1300N」、「NKエステル1206PE」、「NKエステルA-400」、「NKエステルA-600」(ポリエチレングリコールジアクリレート、ジオール残基XのMn:616)、「NKエステルA-1000」(ポリエチレングリコールジアクリレート、ジオール残基XのMn:1012)、「NKエステルA-B1206PE」、「NKエステルABE-300」、「NKエステルA-BPE-10」、「NKエステルA-BPE-20」、「NKエステルA-BPE-30」および「NKエステルA-BPE-4」;日油(株)製「ブレンマーPDE-400」、「ブレンマーPDE-600」(ポリエチレングリコールジメタクリレート、ジオール残基XのMn:616)、「ブレンマーPDP-400N」、「ブレンマーPDP-700」(ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ジオール残基XのMn:696)、「ブレンマーPDT-650」(ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、ジオール残基XのMn:648)、「ブレンマー40PDC-1700」(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールのランダム共重合体ジメタクリレート、ジオール残基XのMn:1704)、「ブレンマーPDBE-200」、「ブレンマーPDBE-250」、「ブレンマーPDBE-450」、「ブレンマーPDBE-1300」、「ブレンマーPDBP-600」、「ブレンマーADE-400」、「ブレンマーADE-600」(ポリエチレングリコールジアクリレート、ジオール残基XのMn:616)および「ブレンマーADP-400」;宇部興産(株)製「UH-100DA(ポリカーボネートジオールジアクリレート ジオール残基XのMn:1000)」および「UH-100DM(ポリカーボネートジオールジメタクリレート ジオール残基XのMn:1000)」;三菱レイヨン(株)製「アクリエステルPBOM」(ポリブチレングリコールジメタクリレート、ジオール残基XのMn:648);共栄社化学(株)製「ライトエステル9EG」および「ライトエステル14EG」;並びに日立化成(株)製「ファンクリルFA-321M」および「ファンクリルFA-023M」(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0043】
架橋剤(1)の製造方法としては特に限定されないが、酸触媒の存在下に、X源を(メタ)アクリル酸と反応させて(メタ)アクリル酸エステル前駆体を生成させた後、副生する水を系外に除去する方法(脱水反応)、或いはX源を低級(メタ)アクリル酸エステルと反応させて(メタ)アクリル酸エステル前駆体を生成させた後、副生する低級アルコールを除去する方法(エステル交換反応)などを用いることができる。
【0044】
架橋剤(1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
架橋剤(1)は、アルキル(メタ)アクリレートと、架橋剤(1)と必要に応じて用いられる後述のその他のビニル化合物の合計中の架橋剤(1)の含有量が0.1~20質量%、特に0.5~10質量%、とりわけ1~5質量%となるように用いることが好ましい。架橋剤(1)の使用量が上記範囲内であれば、得られるゴム質重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が優れたものとる。
【0046】
<その他のビニル化合物>
必要に応じて用いられるその他のビニル化合物としては、アルキル(メタ)アクリレート、架橋剤(1)と共重合可能であれば特に限定されない。例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-またはp-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン等の芳香族ビニル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド類や、無水マレイン酸、エチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼンや、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、アリルメタクリレート等のアリル化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
その他のビニル化合物を用いる場合、その他のビニル化合物の使用量は特に制限はないが、アルキル(メタ)アクリレートと架橋剤(1)とその他のビニル化合物の合計に対するその他のビニル化合物の割合が0~90質量%、特に0.1~50質量%、とりわけ0.3~30質量%となるように用いることが好ましい。
【0048】
<疎水性物質>
本発明のゴム質重合体(A)の製造では、疎水性物質を所定の割合で用いる。プレエマルションを形成させる際に、疎水性物質を添加するとミニエマルション重合の製造安定性がより向上する傾向にあり、ゲル含有率の高いゴム質重合体(A)を製造することができる。
【0049】
疎水性物質としては、例えば炭素数10以上の炭化水素類、炭素数10以上のアルコール、質量平均分子量(Mw)10000未満の疎水性ポリマー、疎水性モノマー、例えば、炭素数10~30のアルコールのビニルエステル、炭素数12~30のアルコールのビニルエーテル、炭素数12~30のアルキル(メタ)アクリレート、炭素数10~30(好ましくは炭素数10~22)のカルボン酸ビニルエステル、p-アルキルスチレン、疎水性の連鎖移動剤、疎水性の過酸化物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
疎水性物質としては、より具体的には、ヘキサデカン、オクタデカン、イコサン、流動パラフィン、流動イソパラフィン、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、オリーブ油、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、500~10000の数平均分子量(Mn)を有するポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0051】
本発明では、このような疎水性物質を、前述のアルキル(メタ)アクリレートと架橋剤(1)との合計100質量部に対して0.1~10質量部、好ましくは1~3質量部用いる。疎水性物質の使用量が0.1質量部未満であると、重合時の凝塊物が多く、製造安定性が劣るものとなり、得られるゴム質重合体を用いたグラフト共重合体を配合した熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が劣る結果となる。疎水性物質の使用量が10質量部を超えると当該熱可塑性樹脂組成物の耐候性が劣り、成形時のガス発生量が多くなり成形性にも劣るものとなる。
【0052】
<乳化剤>
本発明のゴム質重合体(A)を製造する際に用いる乳化剤としては、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ロジン酸のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩等で例示されるカルボン酸系の乳化剤、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムなどの中から選ばれたアニオン系乳化剤等、公知の乳化剤を単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
乳化剤の添加量はアルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して0.01~1.0質量部が好ましく、さらに好ましくは0.05~0.5質量部である。
【0054】
<油溶性開始剤>
油溶性開始剤とは、油溶性、即ち、アルキル(メタ)アクリレートや架橋剤(1)に溶解するラジカル重合開始剤である。油溶性開始剤としては、例えば、アゾ重合開始剤、光重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、有機過酸化物と遷移金属と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらのうち、加熱により重合を開始できるアゾ重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、レドックス系開始剤が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
アゾ重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]フォルムアミド、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクヘキサンカルボキシレート)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等が挙げられる。
【0056】
無機過酸化物としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等が挙げられる。
【0057】
有機過酸化物としては、例えばペルオキシエステル化合物が挙げられる。その具体例としては、α,α’-ビス(ネオデカノイルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルペルオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシ2-ヘキシルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ2-ヘキシルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、t-ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシマレイックアシッド、t-ブチルペルオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(m-トルオイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシ-m-トルオイルベンゾエート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、ビス(t-ブチルペルオキシ)イソフタレート、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロドデカン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、n-ブチル4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシド)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジイソノナノイルペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジメチルビス(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ビス(t-ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ブチル-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレラート、2-エチルヘキサンペルオキシ酸t-ブチル、ジベンゾイルパーオキシド、パラメンタンハイドロパーオキシドおよびt-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0058】
レドックス系開始剤としては、有機過酸化物と硫酸第一鉄、キレート剤および還元剤を組み合わせたものが好ましい。例えば、クメンヒドロペルオキシド、硫酸第一鉄、ピロリン酸ナトリウム、およびデキストロースからなるものや、t-ブチルヒドロパーオキシド、ナトリウムホルムアルデヒトスルホキシレート(ロンガリット)、硫酸第一鉄、およびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを組み合わせたもの等が挙げられる。
【0059】
油溶性開始剤としては、これらのうち、特に有機過酸化物が好ましい。
【0060】
油溶性開始剤の添加量は、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、例えば0.001~3質量部である。
【0061】
油溶性開始剤の添加はプレエマルションを形成される前後のいずれでもよい。油溶性開始剤の添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。
【0062】
<ゴム成分>
本発明のゴム質重合体(A)の製造に際して、プレエマルションを作製する工程に他のゴム成分が存在する複合ゴムからなるゴム質重合体(A)を所望の性能を損なわない程度で製造してもよい。この場合、他のゴム成分としては、ポリブタジエン等のジエン系ゴム、ポリオルガノシロキサンなどが挙げられる。これらのゴム成分の存在下でアルキル(メタ)アクリレートを重合することで、ブチルアクリルゴム等のアルキル(メタ)アクリレート系ゴムを複合してなるジエン/アルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムや、ポリオルガノシロキシサン/アルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムからなるゴム質重合体(A)が得られる。
本発明に係る複合ゴムはこれらに限定されるものではない。複合させるゴム成分は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
<反応条件>
上記のプレエマルションを調製する工程は通常常温(10~50℃程度)で行われる。ミニエマルション重合の工程は40~100℃で30~600分程度行われる。
【0064】
<ゲル含有率>
本発明のゴム質重合体(A)のゲル含有率は、80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90~100%である。ゴム質重合体(A)のゲル含有率は、次のようにして求められる値である。
【0065】
ゴム質重合体(A)のラテックスを凝固、乾燥させて、ポリマーを得、このポリマーを約1g精秤(W0)し、これを約50gのアセトン中に温度23℃で48時間浸漬して、ポリマーを膨潤させた後、アセトンをデカンテーションにて除く。ここで、膨潤したポリマーを精秤(WS)した後、80℃で24時間減圧乾燥して、ポリマーが吸収したアセトンを蒸発、除去し、再び、精秤(W)する。次式によりゲル含有率を算出する。
ゲル含有率(%)=W/W0×100
は乾燥したポリマーの重量であり、W0はアセトンに浸漬する前のポリマーの重量である。
【0066】
ゲル含有率が80%以上のゴム質重合体(A)であれば、このゴム質重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合した熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性に優れたものとなる。
【0067】
<アセトン膨潤度>
本発明のゴム質重合体(A)は、好ましくは500~1200%、より好ましくは600~1000%、さらに好ましくは700~900%の範囲のアセトンによる膨潤度を有する。ゴム質重合体(A)のアセトンによる膨潤度は、次のようにして求められる値である。
【0068】
上記のゲル含有率の測定におけると同様の操作をし、次式により膨潤度を算出する。
膨潤度(%)=(WS-W)/W×100
Sは膨潤したポリマーの重量であり、Wは乾燥したポリマーの重量である。
【0069】
ゴム質重合体(A)の膨潤度が上記範囲内であれば、このゴム質重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合した熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより良好となる。
【0070】
<粒子径>
本発明のゴム質重合体(A)の粒子径は、体積平均粒子径で好ましくは150~800nmであり、より好ましくは200~500nm、さらに好ましくは250~400nmである。体積平均粒子径が上記範囲内であれば、重合時の凝塊物が少なく、このゴム質重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合した熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより良好となる。
【0071】
本発明のゴム質重合体(A)の粒子径はまた、体積平均粒子径(X)をXで表し、粒子径分布曲線における上限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度上限10%体積粒子径(Y)としてYで表し、粒子径分布曲線における下限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度下限10%体積粒子径(Z)としてZで表したとき、以下の(1)又は(2)を満たすことで、得られる成形品の耐衝撃性、成形外観が良好となることから好ましい。
(1)体積平均粒子径(X)がX≦300nmであり、頻度上限10%体積粒子径(Y)がY≦1.6X、頻度下限10%体積粒子径(Z)がZ≧0.5Xである。
(2)体積平均粒子径(X)がX=300~1000nmであり、頻度上限10%体積粒子径(Y)がY≦1.8X、頻度下限10%体積粒子径(Z)がZ≧0.4Xである。
【0072】
本発明のゴム質重合体(A)の体積平均粒子径、粒子径分布は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0073】
[グラフト共重合体(B)]
本発明のグラフト共重合体(B)は、上記のようにして製造された本発明のゴム質重合体(A)に、芳香族ビニル、アルキル(メタ)アクリレートおよびシアン化ビニルから選ばれる少なくとも1種のビニル単量体(b)をグラフト重合してなるものである。
本発明のゴム質重合体(A)に、これらのビニル単量体(b)の重合反応物からなるグラフト層が形成されたものである。本発明のグラフト共重合体(B)を構成するグラフト層とは、ゴム質重合体(A)に、ビニル単量体(b)の一部または全部が化学的および、または物理的に結合したものを指す。
【0074】
グラフト共重合体(B)のグラフト層のグラフト率は以下の方法により算出する。
【0075】
<グラフト率の算出>
グラフト共重合体(B)2.5gにアセトン80mLを加え65℃の湯浴で3時間還流し、アセトン可溶分の抽出を行う。残留したアセトン不溶物を遠心分離により分離し、乾燥した後質量を測定し、グラフト共重合体(B)中のアセトン不溶物の質量割合を算出する。得られたグラフト共重合体(B)中のアセトン不溶物の質量割合より次の式を用いて、グラフト率を算出する。
【0076】
【数1】
【0077】
本発明のグラフト共重合体(B)のグラフト率は10~90%、特に30~85%が好ましい。グラフト共重合体(B)のグラフト率が上記範囲内であれば、このグラフト共重合体(B)を用いて良好な耐衝撃性、成形外観の成形品を得ることができる。
【0078】
グラフト共重合体(B)を構成するグラフト層には、芳香族ビニル、アルキル(メタ)アクリレート、及びシアン化ビニル以外のその他のビニル単量体が含まれていてもよい。その他のビニル単量体としては、本発明のゴム質重合体(A)の製造において、必要に応じて用いられるその他のビニル化合物として例示したもののうちの、芳香族ビニル、シアン化ビニル以外のビニル化合物の1種又は2種以上が挙げられる。
【0079】
グラフト層を形成するビニル単量体(b)として、芳香族ビニル、好ましくはスチレンと、シアン化ビニル、好ましくはアクリロニトリルの混合物を使用すると、得られるグラフト共重合体(B)の熱安定性が優れるため好ましい。この場合、スチレン等の芳香族ビニルとアクリロニトリル等のシアン化ビニルとの割合は、芳香族ビニル50~90質量%に対してシアン化ビニル10~50質量%であることが好ましい(ただし、芳香族ビニルとシアン化ビニルとの合計で100質量%とする)。
【0080】
グラフト共重合体(B)のグラフト層は、ゴム質重合体(A)10~90質量%に対して、ビニル単量体(b)90~10質量%を乳化グラフト重合させて得られるものであると、このグラフト共重合体(B)を用いて得られる成形品の外観が優れるため好ましい(ただし、ゴム質重合体(A)とビニル単量体(b)との合計で100質量%とする。)。この割合は、さらに好ましくは、ゴム質重合体(A)30~70質量%で、ビニル単量体(b)70~30質量%である。
【0081】
ゴム質重合体(A)へのビニル単量体(b)のグラフト重合方法としては、ミニエマルション重合により得られたゴム質重合体(A)のラテックスにビニル単量体(b)を添加し、1段又は多段で重合する方法が挙げられる。多段で重合する場合には、ゴム質重合体(A)のゴムラテックスの存在下で、ビニル単量体(b)を分割添加又は連続添加して重合することが好ましい。このような重合方法により良好な重合安定性が得られ、且つ所望の粒子径および粒子径分布を有するラテックスを安定に得ることができる。このグラフト重合に用いる重合開始剤としては、前述のアルキル(メタ)アクリレートのミニエマルション重合に用いる油溶性開始剤と同様のものが挙げられる。
【0082】
ゴム質重合体(A)にビニル単量体(b)を重合する際には、ゴム質重合体(A)のラテックスを安定化させ、得られるグラフト共重合体(B)の平均粒子径を制御するために、乳化剤を添加することができる。ここで用いる乳化剤としては、特に限定しないが、前述のアルキル(メタ)アクリレートのミニエマルション重合に用いる乳化剤と同様のものが挙げられ、アニオン系乳化剤およびノニオン系乳化剤が好ましい。ゴム質重合体(A)にビニル単量体(b)をグラフト重合させる際の乳化剤の使用量は、特に限定しないが、得られるグラフト共重合体(B)100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、0.2~5質量部がより好ましい。
【0083】
乳化重合で得られたグラフト共重合体(B)のラテックスから、グラフト共重合体(B)を回収する方法としては、特に限定されないが、下記の方法が挙げられる。
グラフト共重合体(B)のラテックスを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入し、グラフト共重合体(B)を固化させる。次いで、固化したグラフト共重合体(B)を、水または温水中に再分散させてスラリーとし、グラフト共重合体(B)中に残存する乳化剤残渣を水中に溶出させ、洗浄する。次いで、スラリーを脱水機等で脱水し、得られた固体を気流乾燥機等で乾燥することによって、グラフト共重合体(B)を粉体または粒子として回収する。
【0084】
凝固剤としては、無機酸(硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等)、金属塩(塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等)等が挙げられる。凝固剤は、乳化剤の種類に応じて適宜選定される。例えば、乳化剤としてカルボン酸塩(脂肪酸塩、ロジン酸石鹸等)のみを用いた場合、どのような凝固剤を用いてもよい。乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムのような酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤を用いた場合、無機酸では不十分であり、金属塩を用いる必要がある。
【0085】
本発明のゴム質重合体(A)を用いて上述のようにして製造される本発明のグラフト共重合体(B)の粒子径は、体積平均粒子径で通常1000nm未満である。本発明のグラフト共重合体(B)の体積平均粒子径は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0086】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述した本発明のグラフト共重合体(B)を含有する。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、通常、本発明のグラフト共重合体(B)と他の熱可塑性樹脂とを混合してなる。本発明の熱可塑性樹脂組成物100質量部中のグラフト共重合体(B)の含有量は、20~60質量部が好ましい。熱可塑性樹脂組成物中のグラフト共重合体(B)の含有量が20質量部未満であると、ゴム量が少なくなり、得られる成形品の耐衝撃性が低下する傾向にある。熱可塑性樹脂組成物中のグラフト共重合体(B)の含有量が60質量部超であると、流動性に劣るものとなる傾向にある。
流動性と成形品の耐衝撃性、その他の物性バランスを考慮すると、本発明の熱可塑性樹脂組成物100質量部中のグラフト共重合体(B)の含有量は、30~40質量部がより好ましい。
【0087】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて他の熱可塑性樹脂や添加剤を含有していてもよい。
【0088】
他の熱可塑性樹脂としては、例えばポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-メチルメタクリレート共重合体、スチレン-アクリロニトリル-N-フェニルマレイミド共重合体、α-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合体、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-N-フェニルマレイミド共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリフェニレンエーテル-ポリスチレン複合体などの1種又は2種以上が挙げられる。これらのうち、耐衝撃性と流動性の観点から、アクリロニトリル-スチレン共重合体が好ましい。
【0089】
添加剤としては、例えば顔料、染料等の着色剤、充填剤(カーボンブラック、シリカ、酸化チタン等)、難燃剤、安定剤、補強剤、加工助剤、耐熱剤、酸化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0090】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(B)と、必要に応じて他の熱可塑性樹脂や添加剤とをV型ブレンダやヘンシェルミキサー等により混合分散させ、得られた混合物を押出機、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、ロール等の混練機等を用いて溶融混練することにより製造される。
各成分の混合順序には特に制限はなく、全ての成分が均一に混合されればよい。
【0091】
[成形品]
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものであり、耐衝撃性、低温耐衝撃性、耐候性、外観に優れる。
【0092】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、射出圧縮成形機法、押出法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、カレンダー成形法およびインフレーション成形法等が挙げられる。これらのなかでも、量産性に優れ、高い寸法精度の成形品を得ることができるため、射出成形法、射出圧縮成形法が好ましい。
【0093】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品は、耐衝撃性、低温耐衝撃性、耐候性、外観に優れることから、車両内外装部品、OA機器、建材などに好適である。
【0094】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品の工業的用途例としては、車両部品、特に無塗装で使用される各種外装・内装部品、壁材、窓枠等の建材部品、食器、玩具、掃除機ハウジング、テレビジョンハウジング、エアコンハウジング等の家電部品、インテリア部材、船舶部材および通信機器ハウジング等が挙げられる。
【実施例
【0095】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
【0096】
以下において、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0097】
[体積平均粒子径の測定]
実施例および比較例で製造したゴム質重合体(A-1)~(A-21)と、グラフト共重合体(B-1)~(B-21)の体積平均粒子径は、日機装社製のNanotrac UPA-EX150を用いて動的光散乱法より求めた。
また、上記と同様の方法で粒子径分布を求め、頻度上限10%の粒子径を頻度上限10%粒子径(Y)とし、頻度下限10%の粒子径を頻度下限10%粒子径(Z)とし、それぞれ体積平均粒子径(X)に対する比を算出した。
【0098】
[凝塊物量の測定]
実施例および比較例で製造したゴム質重合体(A-1)~(A-21)と、グラフト共重合体(B-1)~(B-21)のラテックスを100メッシュの金網で濾過し、100メッシュの金網に残った凝塊物を乾燥させて秤量し、各々、ゴム質重合体(A-1)~(A-21)、グラフト共重合体(B-1)~(B-21)に対する割合(質量%)を求めた。凝塊物量が少ないほど、ゴム質重合体(A-1)~(A-21)、グラフト共重合体(B-1)~(B-21)ラテックスの製造安定性が良好である。
【0099】
[ゴム質重合体の製造]
<実施例I-1:ゴム質重合体(A-1)の製造>
以下の配合でゴム質重合体(A-1)を製造した。
〔配合〕
n-ブチルアクリレート(BA) 98.0部
UH-100DM 2.0部
アリルメタクリレート(AMA) 0.4部
流動パラフィン(LP) 0.5部
アルケニルコハク酸ジカリウム(ASK) 0.2部
ジラウロイルペルオキシド 0.6部
蒸留水 406部
【0100】
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に、蒸留水、n-ブチルアクリレート、UH-100DM(宇部興産(株)社製 ポリカーボネートジオールジメタクリレート、ジオール残基XのMn:1000)、流動パラフィン、アリルメタクリレート、アルケニルコハク酸ジカリウム、ジラウロイルペルオキシドを仕込み、常温下で(株)日本精機製作所製ULTRASONIC HOMOGENIZER US-600を用いて振幅35μmで20分間超音波処理を行うことでプレエマルションを得た。得られたラテックスの体積平均粒子径は560nmであった。
プレエマルションを60℃に加熱し、ラジカル重合を開始した。アクリレート成分の重合により、液温は78℃まで上昇した。30分間75℃で維持し、アクリレート成分の重合を完結させた。製造に要した時間は90分であり、固形分18.3%、凝塊物量1.3%、体積平均粒子径(X)560nmのゴム質重合体(A-1)のラテックスを得た。
【0101】
<実施例I-2~I-17、比較例I-1~I-3:ゴム質重合体(A-2)~(A-20)の製造>
アルキル(メタ)アクリレート、架橋剤(1)、疎水性物質、乳化剤の量、架橋剤(1)の種類を表1~4(表1A~表4A)に示す通り変更したこと以外は、実施例I-1と同様にして、それぞれゴム質重合体(A-2)~(A-20)のラテックスを得た。
なお、架橋剤(1)の「PBOM」は三菱レイヨン(株)製「アクリエステルPBOM」(ポリブチレングリコールジメタクリレート、ジオール残基XのMn:648)である。
【0102】
<比較例I-4:ゴム質重合体(A-21)の製造>
以下の配合でゴム質重合体(A-21)を製造した。
〔配合〕
n-ブチルアクリレート 98.0部
UH-100DM 2.0部
アリルメタクリレート 0.4部
t-ブチルハイドロパーオキシド 0.25部
硫酸第一鉄 0.0002部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.33部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.0004部
アルケニルコハク酸ジカリウム 1.0部
蒸留水 406部
【0103】
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた窒素置換された反応器に蒸留水100部、アルケニコハク酸ジカリウム0.05部、n-ブチルアクリレート5部、アリルメタクリレート0.02部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.05部を仕込み、60℃に加熱後、硫酸第一鉄、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを添加し60分間反応させた。その後、蒸留水306部、n-ブチルアクリレート93部、UH-100DM2.0部、アリルメタクリレート0.35部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.2部の混合液をポンプで300分間にわたって滴下した。滴下終了後30分間75℃で維持し、アクリレート成分の重合を完結させてゴム質重合体(A-21)のラテックスを得た。製造に要した時間は420分であり、得られたラテックス中のゴム質重合体(A-21)の固形分は19.1%、凝塊物量0.5%、体積平均粒子径(X)は270nmであった。
【0104】
表1~4(表1A~表4A)にゴム質重合体(A-1)~(A-21)の評価結果をまとめる。
【0105】
[グラフト共重合体の製造と評価]
<実施例II-1:グラフト共重合体(B-1)の製造>
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に、以下の配合で原料を仕込み、反応器内を十分に窒素置換した後、攪拌しながら内温を70℃まで昇温した。
【0106】
〔配合〕
水(ゴム質重合体ラテックス中の水を含む) 230部
ゴム質重合体(A-1)ラテックス 50部(固形分として)
アルケニルコハク酸ジカリウム 0.5部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
硫酸第一鉄 0.001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.003部
【0107】
次いで、アクリロニトリル(AN)、スチレン(ST)、t-ブチルハイドロパーオキシドを以下の配合で含む混合液を100分間にわたって滴下しながら、80℃まで昇温した。
【0108】
〔配合〕
アクリロニトリル(AN) 12.5部
スチレン(ST) 37.5部
t-ブチルハイドロパーオキシド 0.2部
【0109】
滴下終了後、温度80℃の状態を30分間保持した後冷却して、グラフト共重合体(B-1)のラテックスを得た。得られたラテックス中のグラフト共重合体(B-1)の固形分は29.7%、凝塊物量は1.0%、体積平均粒子径は580nm、グラフト率は47%であった。
次いで、1.5%硫酸水溶液100部を80℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該水溶液にグラフト共重合体(B-1)ラテックス100部を徐々に滴下し、グラフト共重合体(B-1)を固化させ、さらに95℃に昇温して10分間保持した。
次いで、固化物を脱水、洗浄、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体(B-1)を得た。
【0110】
<実施例II-2~II-17、比較例II-1~II-4:グラフト共重合体(B-2)~(B-21)の製造>
ゴム質重合体(A-1)のラテックスの代りに、ゴム質重合体(A-2)~(A-21)のラテックスをそれぞれ用いたこと以外は、実施例II-1と同様にして、それぞれグラフト共重合体(B-2)~(B-21)を得た。各グラフト共重合体(B-2)~(B-21)の体積平均粒子径、凝集物量、グラフト率は、表1~4(表1B~表4B)に示す通りであった。
【0111】
表1~4中の略号は、以下の化合物を示す。
BA:n-ブチルアクリレート
UH-100:宇部興産(株)社製 ポリカーボネートジオールジメタクリレート「UH-100DM」
PBOM:三菱レイヨン(株)社製 ポリブチレングリコールジメタクリレート「アクリエステルPBOM」
AMA:アリルメタクリレート
LP:流動パラフィン
ASK:アルケニルコハク酸ジカリウム
ST:スチレン
AN:アクリロニトリル
【0112】
<熱可塑性樹脂組成物の製造>
各グラフト共重合体(B-1)~(B-21)30部と、懸濁重合法によって製造したアクリロニトリル-スチレン共重合体70部(ユーエムジー・エービーエス(株)社製「UMG AXS レジン S102N」)とをヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を240℃に加熱した押出機に供給し、混練してペレットを得た。
【0113】
<試験片の作製>
上記熱可塑性樹脂組成物のペレットを用い、各々、4オンス射出成形機(日本製鋼所(株)製)にて、シリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出率20g/秒の条件で成形して、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの棒状の成形体1を得た。
同様にして、熱可塑性樹脂組成物のペレットをシリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出率20g/秒の条件で、長さ100mm、幅100mm、厚み2mmの板状の成形体2を得た。
【0114】
<評価>
シャルピー衝撃強度の測定
ISO 179に準拠して、23℃および-30℃雰囲気下、成形体1にてシャルピー衝撃強度を測定した。
【0115】
メルトボリュームレート(MVR)の測定
ISO 1133規格に従い、220℃-98Nの条件で熱可塑性樹脂組成物のペレットのMVRを測定した。なお、MVRは熱可塑性樹脂組成物の流動性の目安となる。
【0116】
成形外観
成形体2を5枚、光学顕微鏡(倍率200倍)で観察し、100μm以上の凝塊物の個数の合計を測定し、下記基準で評価した。「B」又は「A」を成形外観は良好であるとした。
A:100μm以上の凝塊物の個数が0~5個
B:100μm以上の凝塊物の個数が6~13個
C:100μm以上の凝塊物の個数が14~20個
D:100μm以上の凝塊物の個数が21個以上
【0117】
耐候性
サンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)製)を用いて、成形体2をブラックパネル温度63℃、サイクル条件60分(降雨12分)の条件で1000時間処理した。そして、その処理前後の変色の度合い(ΔE)を色差計で測定して評価した。
ΔEが小さいほど耐候性が良好であり、「B」又は「A」を耐候性があると判定した。
A:0以上1未満。変色しておらず、成形品の意匠性を損なわない。
B:1以上3未満。ほとんど変色しておらず、成形品の意匠性を損なわない。
C:5以上10未満。わずかに変色しており、成形品の意匠性を損なう。
D:10以上。大きく変色しており、成形品の意匠性を損なう。
【0118】
上記の評価結果を表1~4(表1B~表4B)に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
各実施例および比較例の結果から、次のことが明らかとなった。
実施例II-1~II-17のグラフト共重合体(B)は、凝塊物が少なく、このグラフト共重合体(B)を用いた熱可塑性樹脂組成物は耐衝撃性、低温耐衝撃性、流動性(成形性)、成形外観、耐候性に優れる。
【0124】
比較例II-1~II-4のグラフト共重合体は、重合後の凝塊物量、これを用いた熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、低温耐衝撃性、流動性(成形性)、成形外観、耐候性のいずれかの項目において劣る。
比較例II-1、II-2では、ゴム質重合体製造時の疎水性物質の使用量が本発明の範囲外であるため、十分なミニエマルションを形成できず、粗大粒子由来の重合後の凝塊物が多く、生産性に劣り、得られた成形品も残存する凝塊物の影響により成形外観、耐候性に劣る。
比較例II-3では、ゴム質重合体のゲル含有率が本発明の範囲外であるため、耐衝撃性、低温耐衝撃性、成形外観に劣る。比較例II-4では、ゴム質重合体のゲル含有率が本発明の範囲外であるため、耐衝撃性に劣り、小粒子の生成により頻度下限10%体積粒子径(Z)が小さく、流動性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明のゴム質重合体(A)を用いた本発明のグラフト共重合体(B)を含む本発明の熱可塑性樹脂組成物は成形性に優れる。本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品は、耐衝撃性、低温耐衝撃性、成形外観、耐候性が良好なものである。この耐衝撃性、成形外観、耐候性のバランスは、従来の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形品に比べて非常に優れている。本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品は、各種工業用材料としての利用価値が極めて高い。
【0126】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2017年1月23日付で出願された日本特許出願2017-009602に基づいており、その全体が引用により援用される。