(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20230711BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K3/26
(21)【出願番号】P 2019026209
(22)【出願日】2019-02-18
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三好 健太
(72)【発明者】
【氏名】孫 澤蒙
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-250737(JP,A)
【文献】特開2002-164251(JP,A)
【文献】特開2013-189521(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021787(WO,A1)
【文献】特開2018-111822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)~
(VII)を満たし、さらに
炭酸カルシウムの粒子を含有することを特徴とするポリ
エチレンテレフタレート樹脂組成物。
(M3-M1)-0.03S>0 (I)
(M1+M2/2)/M3<1 (II)
B/A≦2 (III)
0.25≦M1≦2.10 (IV)
0.25≦M2≦0.90 (V)
0.81≦M3≦2.10 (VI)
5≦S≦133 (VII)
ここで、M1:ポリ
エチレンテレフタレート樹脂組成物のアルカリ金属元素の含有量(mol/t)、M2:ポリ
エチレンテレフタレート樹脂組成物のMn元素の含有量(mol/t)、およびM3:ポリ
エチレンテレフタレート樹脂組成物のP元素の含有量(mol/t)であり、ポリ
エチレンテレフタレート樹脂組成物中の粒子の表面積:S[m
2/樹脂g]である。Aはポリ
エチレンテレフタレート樹脂組成物中の粗粒の数であり、Bはポリ
エチレンテレフタレート樹脂組成物加熱後の粗粒の数である。
【請求項2】
線状オリゴマー発生量≦1000ppmであることを特徴とする請求項1に記載のポリ
エチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
ΔCOOH末端基量が30eq/t以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリ
エチレンテレフタレート樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
粒子含有ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。ポリエステルの中でも、特にポリエチレンテレフタレート(以降PETと記す)は、透明性や加工性に優れていることから、光学用フィルムや離型用フィルムなど高品位性が求められる用途に幅広く使われている。
しかしながら、用途が幅広くなるにつれて、求められる品位も向上し、例えば、偏光板離型用フィルムであれば近年、高輝度タイプの液晶ディスプレイの普及に伴い、フィルム中の微小成分が輝点となるため、検査精度の低下を招く問題が生じている。そのため、より欠点の少ない、高品位のフィルムが要求されている。
これらの課題に対して、以下の文献に示されるような検討がされてきている。
特許文献1滑剤として投入している炭酸カルシウム粒子分散性の向上を目的にリン化合物を添加することが記載されている。
特許文献2では、樹脂の耐熱性を向上させることによりゲル異物発生が抑制されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4―277552号公報
【文献】特開2011―190387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来の技術のような粒子分散性向上技術と、樹脂の耐熱性向上による異物抑制技術では、長期間の溶融加熱における粒子の再凝集に対する効果は不十分である。それは、樹脂が加熱されることにより樹脂のモノマー成分や低分子量体(オリゴマー成分)といった線状オリゴマーが滑剤粒子と結合し、粒子の再凝集を引き起こすためである。
本発明の目的は、加熱による粒子の再凝集が少なく、さらに線状オリゴマー発生量が少なく、良好な熱安定性、耐加水分解性および粒子分散性を有する粒子含有ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、加熱による粒子の再凝集が少なく、さらに線状オリゴマー発生量が少なく、良好な熱安定性、耐加水分解性および粒子分散性を有する粒子含有ポリエステル樹脂組成物を見出し、本発明に到達した。
本発明の目的は以下の手段によって達成される。
(1)式(I)~(III)を満たし、さらに粒子を含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
(M3-M1)-0.03S>0 (I)
ここで、M1:ポリエステル樹脂組成物のアルカリ金属元素の含有量(mol/t)、M2:ポリエステル樹脂組成物のMn元素の含有量(mol/t)、およびM3:ポリエステル樹脂組成物のP元素の含有量(mol/t)であり、ポリエステル樹脂組成物中の粒子の表面積:S[m2/樹脂g]である。
(M1+M2/2)/M3<1 (II)
B/A≦2 (III)
(Aはチップ中の粗粒の数、Bはチップ加熱後の粗粒の数)
(2)M3≦2.1(mol/t)であることを特徴とする(1)のポリエステル樹脂組成物。
(3)粒子が炭酸カルシウムであることを特徴とする(1)又は(2)に記載のポリエステル樹脂組成物。
(4)線状オリゴマー発生量≦500ppmであることを特徴とする(1)~(3)のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
(5)ΔCOOH末端基量が30eq/t以下であることを特徴とする(1)~(4)のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
(6)ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする(1)~(5)のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物
【発明の効果】
【0006】
本発明は、加熱による粒子の再凝集が少なく、さらに線状オリゴマー発生量が少なく、良好な熱安定性、耐加水分解性および粒子分散性を有する粒子含有ポリエステル樹脂組成物を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂組成物とは、(1)式(I)~(III)を満たし、さらに粒子を含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物である。
(M3-M1)-0.03S>0 (I)
ここで、M1:ポリエステル樹脂組成物のアルカリ金属元素の含有量(mol/t)、M2:ポリエステル樹脂組成物のMn元素の含有量(mol/t)、およびM3:ポリエステル樹脂組成物のP元素の含有量(mol/t)であり、ポリエステル樹脂組成物中の粒子の表面積:S[m2/樹脂g]である。
(M1+M2/2)/M3<1 (II)
B/A≦2 (III)
(Aはチップ中の粗粒の数、Bはチップ加熱後の粗粒の数)
本発明のポリエステル樹脂組成物は、P元素の含有量:M3(mol/t)とアルカリ金属元素の含有量M1(mol/t)と樹脂分散中の粒子の表面積:Sが、式(I)で表される関係を満たす必要がある。式(I)の下限としては、0よりも大きいことが必要である。上限としては、3.0以下であることが好ましく、2.0以下がより好ましい。上記範囲とすることで、粒子分散性の発揮により重合時の粒子分散性の向上と、P元素による、粒子表面の保護による、粒子分解の抑制が可能になり、粒子の凝集、分解がしにくいポリエステル樹脂組成物を提供することが可能である。
式(I)のSは粒子の表面積を示し、係数である0.03はポリエステル樹脂組成物における粒子表面のイオン化率を示している。すなわち、0.03Sの項は粒子のみかけイオン濃度(mol/t)を示すこととなる。そこでリン化合物はアルカリ金属との親和性が高く、リン化合物が第一に反応するアルカリ金属の含有量をあらかじめ引き、第二に粒子の表面に反応するため、0.03Sの差分を算出する。残る値は、ポリエステル樹脂組成物中の未反応のリン元素量を示すこととなるため、式(I)を達成し得ない場合、粒子の保護作用が不足し、粒子の凝集、分解を引き起こすことを示している。
【0008】
本発明のポリエステル樹脂組成物はアルカリ金属元素の含有量M1(mol/t)、Mn元素の含有量M2(mol/t)、およびP元素の含有量M3(mol/t)が、式(II)で表される関係を満たす必要がある。式(II)の下限としては、0.4以上であることがより好ましい。上限としては、1.0以下であることが必要であり、0.8以下がより好ましい。上記の数値範囲内にすることで、得られるポリエステル樹脂組成物に耐熱性、耐加水分解性を付与することが可能となり、加工工程における線状オリゴマー発生量を低減できる。
本発明のポリエステル樹脂組成物はチップ中の粗粒A(個/mm2)と加熱チップ中の粗粒B(個/mm2)が式(III)で表される関係を満たす必要がある。ポリエステル樹脂組成物はチップ中の粗粒の数Aが30個/mm2以下であることが好ましい。さらにチップ加熱後の粗粒の数≦50個/mm2以下であることが好ましい。式(III)の上限としては、2.0以下であることが必要であり、1.4以下がより好ましい。上記の数値範囲内にすることで、ポリエステル樹脂組成物の加熱による粒子の再凝集を防ぐことができる。
【0009】
ポリエステル樹脂組成物中のP元素の含有量M3は特に規定しないが、下限として好ましくは0.81(mol/t)以上であり、より好ましくは1.10(mol/t)以上である。また上限として好ましくは2.10(mol/t)以下であり、より好ましくは1.80(mol/t)以下である。
また、本発明のポリエステル樹脂組成物中のアルカリ金属元素の含有量M1は特に限定しないが、下限として好ましくは0.25(mol/t)以上であり、より好ましくは0.50(mol/t)以上である。また上限として好ましくは2.10(mol/t)未満であり、より好ましくは1.00(mol/t)以下である。上記範囲とすることで、耐熱性、耐加水分解性が良好となり、分解による線状オリゴマー発生を抑制できる。なお、耐加水分解性に優れる点から、アルカリ金属元素がナトリウムまたはカリウムであることが好ましい。
【0010】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、Mn元素(マンガン元素)の含有量M2は特に限定しないが、下限として好ましくは0.25(mol/t)以上であり、より好ましくは0.35(mol/t)以上である。また上限として好ましくは0.90(mol/t)以下であり、より好ましくは0.70(mol/t)以下である。上記範囲とすることで、熱安定性が良好となる。Mn元素はフィルム延伸工程などのポリエステル融点以下の比較的低い温度での加熱処理においても触媒活性が高いためにポリエステルの熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のMn元素量を満たすことで、加工工程における線状オリゴマー発生量を低減することが可能となる。
本発明の樹脂分散中の粒子の表面積:Sとは下記式により算出される値であり、特に規定しないが、下限としては5(m2/樹脂g)以上が好ましく、15(m2/樹脂g)以上はさらに好ましい。上限としては133(m2/樹脂g)以下が好ましく、80(m2/樹脂g)以下はさらに好ましい。 上記範囲とすることで、成形品とした際に優れたアンチブロッキング性を実現することができる。
S=6w/rρ
w:樹脂中の粒子重量率(g/樹脂g)
r:平均粒径の半径(μm)
ρ:粒子の真密度(kg/m3)
各特性の求め方については後述する。
【0011】
本発明の粒子の種類は特に規定しないが、熱安定性、耐加水分解性および粒子分散性の点から無機粒子であることが好ましい。例えば、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、リン酸カルシウム、フッ化カルシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウムおよびカーボンブラックなどを用いることが可能である。また、粒子の混合物でもよく、複合酸化物のような単一化合物でもよい。粒子分散性および成形品とした際のアンチブロッキング性の点から、炭酸カルシウムを用いることがさらに好ましい。
本発明において、線状オリゴマーとは、ポリエステルのモノマー成分やオリゴマー成分であり、具体的にはポリエステルを構成するジカルボン酸成分や、ジカルボン酸のカルボキシル基とジオールのヒドロキシル基が反応してできる鎖状の反応物のことを指し、環状三量体のような環状のオリゴマーは含めない。具体的にはジカルボン酸単量体およびグリコール成分とのモノエステル、ジエステルである。この線状オリゴマーは昇華や析出しやすく、溶融成形などの加工工程において、工程汚れや成形品の表面汚れを引き起こすものである。代表的なポリエステルであるPETを例に挙げると、TPA(テレフタル酸)、テレフタル酸とエチレングリコールの反応物である、MHT(モノヒドロキシエチルテレフタレート)およびBHT(ビスヒドロキシエチルテレフタレート)である。これら線状オリゴマーの総量として、発生量が1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは700ppm以下、さらに好ましくは400ppm以下である。線状オリゴマーの発生量を上記範囲内とすることで、成形加工時に問題となる線状オリゴマーに起因した工程汚れや表面汚れの低減を実現することができる。
【0012】
なお、線状オリゴマー発生量は温度23℃、湿度50%の環境下に24時間以上静置したポリエステル樹脂組成物を窒素下、290℃で20分間加熱処理した際の線状オリゴマーの増加量である。通常、ポリエステルは溶融加工前に乾燥を行い、加水分解の抑制を図っている。線状オリゴマーはポリエステルの加水分解によっても発生するため、溶融加工前に乾燥しておくことが好ましいが、未乾燥状態のポリエステルであってもこの線状オリゴマー発生が抑制できれば乾燥工程を省くことができ、大幅なコストダウンとなる。本発明は、ポリエステル樹脂組成物の熱安定性や耐加水分解性を向上させたことで、水分率が高い状態でも線状オリゴマー発生量を飛躍的に低減可能としたものである。
本発明のポリエステル樹脂組成物はCOOH末端基量が30eq/t以下であることが好ましい。20eq/t以下であることがより好ましく、15eq/t以下であることがさらに好ましい。上記範囲とすることで、得られるポリエステル樹脂組成物に良好な耐加水分解性を付与することが可能となり、加水分解に起因する線状オリゴマーの発生を抑制できる。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂組成物の耐加水分解性はΔCOOHで評価する。ΔCOOHとは、飽和水蒸気下で155℃、4時間湿熱処理した際のCOOH末端基増加量であり、処理前のCOOH末端基量を引いた値である。値が低ければ低いほど、耐加水分解性が良好となる。本発明のポリエステル樹脂組成物のΔCOOHの値が30.0以下であることが好ましい。ΔCOOHの値が25.0以下の場合、耐加水分解性は良好であり、加水分解に起因する線状オリゴマーの発生などを抑制できる。本発明のポリエステル樹脂組成物を構成するポリエステルは、本発明の効果である熱安定性、耐加水分解性および粒子分散性を十分奏する点からPETであることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で共重合成分が含まれていてもよい。
【0014】
次に、本発明のポリエステル組成物の製造方法について記載する。
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、ジカルボン酸成分またはそのエステルとジオール成分を主原料とし、次の2段階の工程からなる。すなわち、(A)エステル化反応、または(B)エステル交換反応からなる1段階目の工程と、それに続く(C)重縮合反応からなる2段階目の工程である。
本発明のポリエステル組成物を製造する原料は、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとジオールを用いることができ、2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0015】
本発明のジカルボン酸は、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニル4,4’-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、ダイマー酸などが挙げられる。また、ジカルボン酸エステルとは、先に述べたジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などであり、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本発明のジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとしてより好ましい態様は、融点が高く、フィルムや繊維などに加工しやすいポリエステル組成物を得ることができる点で、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、またはこれらのアルキルエステルである。
【0016】
本発明のジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノールなどの飽和脂環式1級ジオール、イソソルビドなどの環状エーテルを含む飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンタンジオールなどの各種脂環式ジオールや、パラキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS,スチレングリコール、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香環式ジオールが例示できる。またジオール以外にも本発明の効果を損なわない範囲で、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールも用いることができる。本発明の効果を十分果たすことができる点、およびフィルムや繊維などに加工しやすいポリエステル組成物を得ることができる点でエチレングリコールが好ましい。
【0017】
本発明の製造方法において、1段階目の工程のうち、(A)エステル化反応の工程は、ジカルボン酸とジオールとを所定温度でエステル化反応させ、所定量の水が留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル化反応により低重合体を得る場合、エステル化反応性、耐熱性の観点から、エステル化反応開始前のジカルボン酸とジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸)は、1.05以上1.40以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは1.05以上1.30以下、さらに好ましくは1.05以上1.20以下である。上記範囲とすることで、良好な反応性を有し、またジオールの2量体などの副生成物の生成を抑制できることから、耐熱性を良好にすることができる。
また(B)エステル交換反応の工程は、ジカルボン酸アルキルエステルとジオールとをエステル交換反応させ、所定量のアルコールが留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。エステル交換反応にて低重合体を得る場合、反応性、耐熱性の観点から、ジカルボン酸アルキルエステルとジオールのモル比(ジオール/ジカルボン酸アルキルエステル)は1.7以上2.3以下の範囲であることが好ましい。上記範囲とすることで、エステル交換反応を効率的に進行させることができ、ジオールの2量体の副生を抑えることができることから、耐熱性を良好にすることができる。
【0018】
2段階目の工程のうち、(C)重縮合反応は、(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応で得られた低重合体からポリエステル組成物を得る工程である。
また、本発明の製造方法は、バッチ重合、半連続重合、連続重合が適用できる。
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、(A)エステル化反応に用いられる触媒は、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの化合物を用いても構わないが、重縮合反応段階での熱分解や異物の発生などの観点から、エステル化反応は無触媒で実施することが好ましい。ここで、(A)エステル化反応は無触媒においてもカルボン酸の自己触媒作用によって、反応は十分に進行する。また、(B)エステル交換反応に用いられる触媒としては、公知のエステル交換触媒を用いることができる。エステル交換触媒としては、有機マンガン化合物、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、有機コバルト化合物、有機リチウム化合物などが挙げられ、具体的には、炭酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、酸化物、水酸化物などがあるが、これに限定されるものではない。
また、(C)重縮合反応に用いられる触媒は、公知の重縮合触媒を用いることが出来る。例えば、アンチモン、チタン、アルミニウム、スズ、ゲルマニウムなどの化合物などが挙げられる。
【0019】
アンチモン化合物としては、アンチモンの酸化物、アンチモンのカルボン酸塩、アンチモンアルコキシドなどが挙げられる。
チタン化合物としては、チタンキレート錯体、チタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物などが挙げられる。
アルミニウム化合物としては、カルボン酸アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムキレート化合物、塩基性アルミニウム化合物などが挙げられる。
スズ化合物としては、アルキル基を持つスズ化合物、ヒドロキシル基を持つスズ化合物などが挙げられる。
【0020】
ゲルマニウム化合物としては、ゲルマニウムの酸化物、ゲルマニウムアルコキシドなどが挙げられる。
【0021】
上記の金属化合物は、水和物であってもよい。
この中でも、重合時間および経済性の観点から、アンチモン化合物を重縮合反応触媒として用いることが好ましい。
【0022】
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、Mn元素を含む化合物、アルカリ金属元素を含む化合物および粒子は前記(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応工程、それに続く(C)重縮合反応工程のいずれの段階で添加してもよいが、重縮合反応終了前に添加することで、COOH末端基量を低減することによって耐加水分解性を向上させることができ、加水分解に起因する線状オリゴマーの発生を抑制できる。さらに、良好な粒子分散性を有するポリエステル組成物を得ることができる。
【0023】
本発明のポリエステル組成物に対して、Mn元素の添加量は好ましくは0.70(mol/t)以下である。上記上限以下とすることで、熱安定性を向上することが可能である。Mn元素はフィルム延伸工程などのポリエステル融点以下の比較的低い温度での加熱処理においても触媒活性が高いためにポリエステルの熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のMn元素量を満たすことで、加工工程における線状オリゴマー発生量を低減することが可能となる。
Mn元素を含む化合物は特に限定しないが、酢酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガンなどが挙げられ、溶解性及び触媒活性の点から酢酸マンガンが好ましい。
また、添加する際の形態は粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。この時の溶媒は、ポリエステル組成物のジオール成分と同一にすることが好ましい。例えば、PETの場合はエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂組成物に対して、アルカリ金属元素の含有量として0.25(mol/t)以上、2.10(mol/t)未満で含有していること好ましい。上記範囲とすることで、耐熱性、耐加水分解性が良好となり、分解による線状オリゴマー発生を抑制できる。
【0025】
アルカリ金属元素を含む化合物は特に限定しない。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムのリン酸塩、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、塩化物などが挙げられる。耐加水分解性の点から、ナトリウムまたはカリウムを含む化合物であることが好ましく、リン酸ナトリウム金属塩またはリン酸カリウム金属塩であることがさらに好ましい。リン酸ナトリウム金属塩またはリン酸カリウム金属塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムが挙げられる。耐加水分解性の点からリン酸二水素ナトリウムまたはリン酸二水素カリウムが特に好ましい。また、複数のリン酸アルカリ金属塩を併用しても構わない。リン酸とリン酸アルカリ金属塩を混合し、緩衝溶液として添加することで、より良好な耐加水分解性が発現し、加工工程における線状オリゴマー発生量を低減することが可能となる。リン酸とリン酸アルカリ金属塩の添加時期として、より好ましくは、(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応終了後から重縮合反応開始までの間である。上記時期に添加することで、重縮合反応を遅延させることなく、効果的にポリエステル組成物に耐加水分解性を付与することができる。
【0026】
また、上記リン酸アルカリ金属塩と、リン酸アルカリ金属塩以外のアルカリ金属化合物を併用しても構わない。例えば、水酸化カリウムを併用することで、静電印加製膜に必要なポリエステルの溶融比抵抗を小さくすることができ、成形性が向上する。
アルカリ金属元素を含む化合物を添加する際の形態は粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。この時の溶媒は、ポリエステル組成物のジオール成分と同一にすることが好ましく、PETの場合はエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0027】
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、重縮合反応が終了するまでの段階で、リン化合物を添加することが好ましい。リン化合物として、リン酸、トリメチルリン酸、エチルジエチルホスホノアセテート、亜リン酸などを利用することができ、複数のリン化合物を併用することも可能である。このリン化合物はリン酸またはトリメチルリン酸であることが特に好ましい。リン化合物を添加することにより、ポリエステル組成物に耐加水分解性を付与させることができ、さらに粒子分散性を向上させることができる。
リン化合物の添加量は特に規定しないが、ポリエステル組成物中のP元素の含有量M3は0.81(mol/t)以上2.10(mol/t)以下になるように添加することが好ましい。上記範囲とすることで、重合の遅延を起こすことがなく、ポリエステル組成物に良好な粒子分散性を付与することができる。
【0028】
また、Mn元素、アルカリ金属元素およびP元素を含む化合物を添加する際、ポリエステル組成物中のMn元素の含有量M1(mol/t)、アルカリ金属元素の含有量M2(mol/t)およびP元素の含有量M3(mol/t)が、式(II)で表される関係を満たすように添加することが必要である。
(M1+M2/2)/M3<1(II)
式(II)の下限としては、0.4以上であることがより好ましい。上限としては、1.0以下である必要があり、0.8以下であることがさらに好ましい。上記の数値範囲内にすることで、得られるポリエステル組成物の耐熱性、耐加水分解性を付与することが可能となり、加工工程における線状オリゴマー発生量を低減できる。
【0029】
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、(A)エステル化反応を経て実施する場合、エステル化反応後から、アルカリ金属化合物、リン化合物を添加するまでの間に、エチレングリコールなどグリコール成分の追加添加を実施することが好ましい。より好ましくは、マンガン化合物添加後から、リン酸アルカリ金属塩を添加するまでの間である。エステル化反応にて得られるポリエステル組成物の低分子量体は、エステル交換反応で得られる低分子量体よりも重合度が高いためにリン酸アルカリ金属塩が分散しにくく、異物化が起こりやすい。したがって、エチレングリコールなどグリコール成分を追加添加し、解重合によって重合度を低下させておくことで異物化を抑制できる。この時、マンガン化合物が存在しているとより効率的に解重合できる。
【0030】
この追加添加するエチレングリコールなどグリコール成分は、全酸成分に対し0.05倍モル以上0.5倍モル以下であることが好ましい。より好ましくは0.1倍モル以上0.3倍モル以下である。上記範囲とすることで、重合系内の温度降下による重合時間の遅延を起こすことなく、リン酸アルカリ金属塩の異物化を抑制できる。
【0031】
本発明のポリエステル組成物の製造方法において、添加する粒子の種類は特に規定しないが、熱安定性、耐加水分解性および粒子分散性の点から無機粒子であることが好ましい。例えば、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、リン酸カルシウム、フッ化カルシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウムおよびカーボンブラックなどを用いることが可能である。また、粒子の混合物でもよく、複合酸化物のような単一化合物でもよい。粒子分散性および成形品とした際に優れたアンチブロッキング性の点から、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウムを用いることがさらに好ましい。
本発明の粒子の粒径を限定しないが、ポリエステル中の粒子の体積平均径が3.0μm以下の場合、粒子の凝集が少なく、良好な粒子分散性を有するポリエステル組成物を提供することが可能である。体積平均径が2.0μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明では粒子の添加量は特に規定しないが、添加量の下限として好ましくは0.2wt%以上である。上限として好ましくは5.0wt%以下であり、より好ましくは2.0wt%以下である。上記範囲とすることで、粒子分散性および成形品とした際に優れたアンチブロッキング性が良好となる。
粒子を添加する際の形態は粉体、スラリーのいずれでもよく、粒子分散性の点から、スラリーとして添加することが好ましい。スラリーとして添加する場合、粒子分散溶媒はポリエステル組成物のジオール成分と同一にすることが好ましく、PETの場合はエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
また、アルカリ金属化合物、リン化合物および粒子を添加する際、ポリエステル樹脂組成物は、P元素の含有量:M3(mol/t)とアルカリ金属元素の含有量M1(mol/t)と樹脂分散中の粒子の表面積:Sが、式(I)で表される関係を満たす必要がある。式(I)の下限としては、0よりも大きいことが必要である。上限としては、3.0以下であることが好ましく、2.0以下がより好ましい。上記範囲とすることで、粒子分散性の発揮により重合時の粒子分散性の向上と、P元素による、粒子表面の保護による、粒子分解の抑制が可能になり、粒子の凝集、分解がしにくいポリエステル樹脂組成物を提供することが可能である。
【0033】
粒子の添加時期について、前記(A)エステル化反応または(B)エステル交換反応工程、それに続く(C)重縮合反応工程のいずれの段階で添加してもよいが、本発明の目的を達成するため、重縮合反応終了前に添加する必要がある。粒子はアルカリ金属元素を含む化合物およびP元素を含む化合物の後に添加することがさらに好ましい。上記添加順であれば、線状オリゴマー発生量が少なく、さらに粒子の凝集を抑制することができ、良好な粒子分散性を有するポリエステル組成物を提供することが可能となる。
Mn元素を含む化合物、アルカリ金属元素を含む化合物および粒子の添加時および添加後は、反応系内を攪拌することが好ましい。攪拌することで添加物をより均一に分散でき、透明性を向上させることができる。
【0034】
また、本発明のポリエステル組成物の製造方法において、高分子量のポリエステル組成物を得るため、固相重合を行ってもよい。固相重合は、装置・方法は特に限定されないが、ポリエステル組成物を不活性ガス雰囲気下または減圧下で加熱処理することで実施される。不活性ガスはポリエステル組成物に対して不活性なものであればよく、例えば窒素、ヘリウム、炭酸ガスなどを挙げることができるが、経済性から窒素が好ましく用いられる。また、減圧条件では、より高真空にすることが固相重合反応に要する時間を短くできるため有利であり、具体的には110Pa以下を保つことが好ましい。
以下、本発明におけるポリエステル組成物の製造方法の具体例を挙げるが、これに制限されない。
【0035】
250℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート(BHT)が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸とエチレングリコール(テレフタル酸に対し1.15倍モル)のスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とする。
【0036】
こうして得られた255℃のエステル化反応物を重合装置に移送し、Mn元素を含む化合物、アルカリ金属元素を含む化合物、粒子、リン化合物および重縮合触媒などを添加する。これらの操作の際は、エステル化物が固化しないように、系内の温度を240~255℃に保つことが好ましい。
その後、重合装置内の温度を290℃まで徐々に昇温しながら、重合装置内の圧力を常圧から250Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させる。所定の撹拌トルクに到達した段階で反応を終了とし、反応系内を窒素ガスで常圧にし、溶融ポリエステルを冷水中にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル組成物を得る。
本発明のポリエステル樹脂組成物はチップ中の粗粒A(個/mm2)と加熱チップ中の粗粒B(個/mm2)が式(III)で表される関係を満たす必要がある。ポリエステル樹脂組成物はチップ中の粗粒の数Aが30個/mm2以下であることが好ましい。さらにチップ加熱後の粗粒の数≦50個/mm2以下であることが好ましい。式(III)の上限としては、2.0以下であることが必要であり、1.4以下がより好ましい。上記の数値範囲内にすることで、ポリエステル樹脂組成物の加熱による粒子の再凝集を防ぐことができる。
B/A≦2 (III)
本発明で得られたポリエステル組成物は、公知の成形加工方法で成形することができ、フィルム、繊維、ボトル、射出成形品など各種製品に加工することができる。
本発明のポリエステル組成物を各製品に加工する際に、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、顔料および染料を含む着色剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、核剤、可塑剤、離型剤などの添加剤を1種以上添加することもできる。
本発明のポリエステル組成物は、耐加水分解性、熱安定性および粒子分散性に優れ、溶融成形や加工工程にて発生するゲル組成物や線状オリゴマー発生量が少ない。したがってフィルム、繊維、ボトル、射出成形品など各製品として利用することができ、特に光学フィルムや離型フィルムなどの高品位フィルムに用いることが可能である。
【0037】
フィルムとしては、本発明のポリエステル組成物から構成される単膜フィルムでも本発明のポリエステル組成物を少なくとも1層有する積層フィルムでもよい。特に積層フィルムの場合は、本発明のポリエステル組成物からなる層を少なくとも片表面に有する積層フィルムが好ましい。本発明のポリエステル組成物からなる層がフィルム表面に存在する場合、フィルム表面からの線状オリゴマー揮発などが抑制されるため、線状オリゴマー欠点の発生を効果的に抑制できる。
【0038】
本発明のポリエステル組成物より製造された成形品は、熱安定性、色調に優れるため、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品、自動車用部品、電気・電子部品またはその他の用途として有用である。
【実施例】
【0039】
以下実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。以下記載する方法は、本発明のポリエステル組成物単成分の場合の測定方法を記載しているが、積層フィルムなどのように複数樹脂からなる成形品の場合、各層の樹脂を削り出すなどして単離し、分析を行う。
【0040】
(1)ポリエステル組成物の固有粘度(単位:dl/g)
ポリエステル樹脂組成物0.1gを0.001g以内の精度で秤量し、10mlのo-クロロフェノール(以降OCPと呼ぶ)を用いて100℃×30分間加熱して溶解した。溶液を室温まで冷却し、25℃の水槽中に設置したオストワルド粘度計に該溶液を8ml仕込み、標線を通過する秒数を計測した(A秒)。
また、OCPのみ8ml用いて前記と同様に25℃の水槽中に設置したオストワルド粘度計で標線を通過する秒数を計測した(B秒)。
【0041】
固有粘度は次の計算式で計算した。
【0042】
IV=-1+[1+4×K×{(A/B)-1}]^0.5/(2×K×C)
ここでKは0.343,Cは試料溶液の濃度(g/100ml)である。
【0043】
(2)ポリエステル組成物のアルカリ金属元素の定量(単位:ppm)
原子吸光法((株)日立製作所製:偏光ゼーマン原子吸光光度型180-80、フレーム:アセチレン-空気)にて定量を行った。
【0044】
(3)ポリエステル組成物中のMg元素、Mn元素、P元素の定量(単位:ppm)
理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて定量を行った。
【0045】
(4)ポリエステル樹脂組成物中の粒子重量率wの測定方法(g/樹脂g)
ポリエステル樹脂組成物をOCPに溶解し、遠心分離を行い、固形分を乾燥してから秤量し、重量値から含有量を算出した。
【0046】
(5)ポリエステル組成物中の粒子体積平均径rの測定方法(単位:μm)
ポリエステル組成物をプラズマ処理し、日立ハイテクノロジーズ製電界放射型操作電子顕微鏡(型番:Regulus8100形)、日本ローパー製Image-Pro画像処理ソフトにて、粒子の体積平均径測定をおこなった。また、粒子径を解析する際は倍率5000倍で20視野以上の測定を行い、最低200個以上の粒子から円相当径を測定し、それを擬似的な立体球状とみなし、体積平均粒子径を算出した。
【0047】
(6)粒子真密度ρの測定方法(kg/m3)
JIS R1620「ファインセラミックス粉末の粒子密度測定方法」に準拠したピクノメーター法(液相置換法)にて粒子の真密度を測定する。
【0048】
(7)耐熱性
ポリマー5gを試験管に採取し、160℃で5時間真空乾燥後、290℃のオイルバス中で窒素気流300ml/分流通下、6時間溶融した。溶融物の固有粘度[η]6hrを測定し、溶融前の測定値[η]0h[η]0hr を用いて下記式により主鎖分断率を算出した。
主鎖分断率(%)=0.26([η]6hr-1/0.77-[η]0hr-1/0.77)
この値が0.6%以上なら×、0.6%未満なら○とした。
【0049】
(8)ポリエステル組成物の線状オリゴマー発生量(単位:ppm)
凍結粉砕を実施したポリエステル組成物を0.1g計量し、160℃、6hr真空乾燥を実施し、窒素雰囲気下のアンプル管に封入し、290℃で20分溶融処理を行った。溶融処理を行ったアンプル管中試料を0.5%ギ酸HFIP(ヘキサフルオロ-2-プロパノール)1mlで溶解させ、クロロホルム1mlを加え混合し25mlメスフラスコに移した。アンプル管をクロロホルム2mlで洗い、洗液はメスフラスコに移した。メスフラスコに0.5%ギ酸DMF/メタノール=3/7を徐々に加え、25mlに定容した。その後、孔径0.45umのPTFEメンブレンフィルターでろ過した溶液を試料溶液とした。得られた試料溶液を、LC/UVクロマトグラムで分析することにより、溶融処理後のポリエステル組成物中の線状オリゴマー(TPA、MHET、BHET)の含有量を測定し、TPA、MHET、BHETの合計値を線状オリゴマー発生量とした。
【0050】
(9)ポリエステル組成物のCOOH末端基量(単位:eq/t)
Mauriceの方法によって測定した(文献 M.J.Maurice,F.Huizinga,Anal.Chem.Acta、22、363(1960))。
すなわち、ポリエステル樹脂組成物0.5gを0.001g以内の精度で秤量する。該試料にo-クレゾール/クロロホルムを7/3の質量比で混合した溶媒50mlを加え、加熱して内温が90℃になってから20分間加熱攪拌して溶解する。また混合溶媒のみもブランク液として同様に別途加熱する。溶液を室温に冷却し、1/50Nの水酸化カリウムのメタノール溶液で電位差滴定装置を用いて滴定をおこなう。また、混合溶媒のみのブランク液についても同様に滴定を実施する。
ポリエステル樹脂組成物のCOOH末端基量は、以下の式により計算した。
COOH末端基量(eq/t)={(V1-V0)×N×f}×1000/S
ここでV1は試料溶液での滴定液量(mL)、V0はブランク液での滴定液量(mL)、Nは滴定液の規定度(N)、fは滴定液のファクター、Sはポリエステル樹脂組成物の質量(g)である。
【0051】
(10)ポリエステル組成物の耐加水分解性評価(ΔCOOH)[耐加水分解性]
ポリエステル組成物を飽和水蒸気下、155℃で4時間湿熱処理し、処理前後のCOOH末端基量を測定することで、COOH末端基増加量(ΔCOOH=処理後COOH-処理前COOH)を算出し耐加水分解性を評価した。
なお、処理装置はPRESSER COOKER 306SIII(HIRAYAMA製作所(株)製)を使用した。
【0052】
(11)凝集粒子A
ポリエステル組成物をプラズマ処理し、日立ハイテクノロジーズ製電界放射型操作電子顕微鏡(型番:Regulus8100形)、日本ローパー製Image-Pro画像処理ソフトにて、粒子の粒度分布測定をおこなった。粒度分布の解析に際し倍率500倍で20視野以上の測定を行い、最低10000個以上の粒子を確認する。個数平均粒径の3倍以上の粒子径を持つものは粗粒と判断する。確認した面積から検出された粗粒の数より単位面積(1mm2)当たりの粗粒数算出し、凝集粒子数とする。
【0053】
(12)加熱処理品の凝集粒子数B
ポリエステル樹脂組成物を300℃、8時間溶融加熱処理した後、加熱処理を実施していない樹脂と同様の方法で求める。
【0054】
(13)フィルム輝点欠点
ポリエステル樹脂組成物を150℃で4時間乾燥、結晶化させたのち、窒素雰囲気下で押出機に供給し、押出温度280℃で5umのフィルターを通し、Tダイからキャスティングドラム(20℃)にて急冷、静電印加法にてシート化した後に、長手方向に2.0~5.0倍で縦延伸し、次いで20~50℃の温度のロール群で冷却する。続いて、縦延伸されたフィルムの両端をクリップで把持しながらテンターに導き、90~140℃の温度に加熱された雰囲気中で、長手に垂直な方向に横延伸する。延伸倍率は、縦と横それぞれ2.5~4.5倍に延伸して、二軸延伸されたフィルムの平面性と寸法安定性を付与するために、テンター内で150~230℃の温度で熱固定を行い、均一に徐冷後、室温まで冷却して巻き取り、31μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムをLEDライト(アトー製 HBLF-WSL1500、HBLF-WSL700)および角度調整が可能な第1の偏光板、受光手段として分解能50μmのCCDカメラ(ヒューテック製 GMFMB3B80)、角度調整が可能な第2の偏光板を組み合わせて複数配置されているクロスニコル検査器を用いて、フィルム1000mを検査し、検出サイズ100μm以上の輝点欠点個数を測定する。輝点欠点個数をクロスニコル検査での易検査性の指標としてそれぞれ評価した。(○以上を合格とした)。
○:200μm以上の輝点が0.6個/m2以下である。
△:200μm以上の輝点が0.6~1.0個/m2である。
×:200μm以上の輝点が1.0個/m2以上である。
【0055】
(実施例1)
250℃にて溶解したBHT105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とし、BHTを得た。
エステル化反応器から105重量部(PET100重量部相当)のBHTを重合装置へ溶融状態で仕込み、温度を255℃とした。酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液(Mn元素として0.46(mol/t))、三酸化二アンチモンのエチレングリコールスラリー(Sb元素として2.09(mol/t))を添加した。その後、エチレングリコール5重量部(テレフタル成分対比0.15倍モル)を追加添加して解重合を進め、次いでリン酸(P元素として0.84(mol/t))とリン酸2水素ナトリウム2水和物(Na元素として0.61(mol/t)、P元素として1.45(mol/t))の混合エチレングリコール溶液を添加した。リン化合物を添加した後、体積平均径が1umの炭酸カルシウム粒子を濃度が20wt%のエチレングリコールスラリーとして添加した(炭酸カルシウムとして1重量部)。
その後、重合装置内を290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から250Pa以下まで減圧し、290℃で所定の攪拌トルクを示すまで重合反応させた。重合反応終了後、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置内の溶融ポリエステルをストランド状に水槽へ吐出して冷却後、カッティングしてペレット状のポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表2に示す。
実施例1で得られたポリエステル組成物は、熱安定性、耐加水分解性および粒子分散性が良好であり、線状オリゴマー発生量も少なくフィルムに輝点も無いことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
【0056】
(実施例2~4、比較例1、2)
表1に記載の通り、P元素を含む化合物の添加量を変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。
表2に記載の通り、実施例2~4にて得られたポリエステル樹成物は、熱安定性、耐加水分解性および粒子分散性が良好であり、線状オリゴマー発生量も少なく、実施例2はフィルム輝点欠点がみられたが、問題ないレベルであり、実施例3,4はフィルム輝点欠点がみられず、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
表2に記載の通り、比較例1で得られたポリエステル組成物は、式(II)が1.30であり、耐熱性が劣り、線状オリゴマー発生量が多く粒子の凝集が確認され、フィルムに輝点欠点がみられた。
表2に記載の通り、比較例2で得られたポリエステル組成物は、式(II)が1.46であり、耐熱性が劣り、線状オリゴマー発生量が多く粒子の凝集が確認され、フィルムに輝点欠点がみられた。
【0057】
(実施例5~9、比較例3~5)
アルカリ金属含有化合物の種類を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。
実施例5~9で得られたポリエステル組成物は、熱安定性、耐加水分解性および粒子分散性が良好であり、線状オリゴマー発生量も少なく、フィルム輝点欠点がみられず、良好であった。
表2に記載の通り、比較例3で得られたポリエステル組成物は、式(II)が1.57であり、耐熱性、耐加水分解性が劣り、フィルムに輝点欠点が確認された。
表2に記載の通り、比較例4で得られたポリエステル組成物は、式(II)が1.14であり、耐熱性、耐加水分解性が劣り、フィルムに輝点欠点が確認された。
表2に記載の通り、比較例5で得られたポリエステル組成物は、式(II)が1.56であり、耐熱性、耐加水分解性が劣り、フィルムに輝点欠点が確認された。
【0058】
(実施例10~13、比較例6~8)
酢酸Mnの添加量を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。
実施例10~13で得られたポリエステル組成物は、熱安定性、耐加水分解性および粒子分散性が良好であり、線状オリゴマー発生量も少なくフィルムに輝点も見られなかった。
表2に記載の通り、比較例6,7にて得られたポリエステル組成物は、式(I)が0以下であり、線状オリゴマー発生量が多く、粒子の凝集が確認され、フィルムに輝点欠点が確認された。
比較例8にて得られたポリエステル組成物は、マンガン元素を含む化合物を使用しておらず、式(II)中の表2に記載の通り、線状オリゴマー発生量が多く粒子の凝集が確認され、フィルムに輝点欠点が確認された。
【0059】
(実施例14~24、比較例9~13)
粒子の添加濃度、粒子径およびP化合物の添加量を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。
実施例14~24で得られたポリエステル組成物は、熱安定性、耐加水分解性および粒子分散性が良好であり、線状オリゴマー発生量も少なくフィルムに輝点も見られなかった。
表2に記載の通り、比較例9~12にて得られたポリエステル組成物は、式(I)が0以下であり、粒子の凝集が確認され、フィルムに輝点欠点が確認された。
表2に記載の通り、比較例13にて得られたポリエステル組成物は、式(II)が1.51であり、耐熱性、耐加水分解性が劣り、線状オリゴマー発生量も多く、粒子の凝集が確認されフィルムに輝点欠点が確認された。
【0060】
【0061】