(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02F 1/00 20060101AFI20230711BHJP
F02F 1/18 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
F02F1/00 Z
F02F1/18 F
F02F1/18 C
(21)【出願番号】P 2019039775
(22)【出願日】2019-03-05
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青柳 享秀
(72)【発明者】
【氏名】原 崇
【審査官】中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-036470(JP,A)
【文献】国際公開第2015/054537(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0245506(US,A1)
【文献】特開平08-151924(JP,A)
【文献】特開平08-100702(JP,A)
【文献】特開2010-037978(JP,A)
【文献】実開昭55-132344(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00
F02F 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室が形成されるシリンダと、
前記シリンダの上端に接続されるシリンダヘッドと、
前記シリンダヘッドに形成され、前記燃焼室に連通する吸気ポートと、
前記吸気ポートを開閉する吸気バルブと、
前記シリンダの内周面において前記上端から離隔し、前記吸気バルブの弁体と対向する位置に形成され、前記シリンダの径方向外側に窪む窪み部と、
を備え
、
前記吸気ポートは、
前記燃焼室と連通する端部において、前記燃焼室側に拡径する座面を備え、
前記窪み部は、
前記シリンダの中心位置と前記吸気バルブの中心位置とを通る前記シリンダの軸方向に沿った平面上において、前記座面の延長線と前記シリンダの内周面とが交わる交点、または、前記交点よりも前記シリンダの下端側に形成される、エンジン。
【請求項2】
前記窪み部は、軸方向に沿って湾曲している請求項
1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記窪み部の前記径方向の深さは、前記吸気バルブのリフト量の半分以下である請求項1
または2に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンは、吸気ポートからシリンダ内に吸気が流入する。吸気ポートには、吸気ポートを開閉する吸気バルブが設けられる。吸気バルブがシリンダの延長線に接する構造をとる場合、シリンダと吸気バルブとの干渉を避けるために、シリンダの上端にバルブリセスが設けられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、吸気バルブがシリンダの延長線より内側に位置する構造をとる場合において、燃焼室内に吸気バルブがリフトする際、吸気バルブとシリンダとの隙間が小さいと、燃焼室内に流入する空気量を確保できないことがある。このような場合、シリンダ内に流入する空気量が低下し、燃焼効率が低下するといった問題があった。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑み、シリンダ内に流入する空気量を増加させ、燃焼効率を向上することが可能なエンジンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るエンジンは、燃焼室が形成されるシリンダと、シリンダの上端に接続されるシリンダヘッドと、シリンダヘッドに形成され、燃焼室に連通する吸気ポートと、吸気ポートを開閉する吸気バルブと、シリンダの内周面において上端から離隔し、吸気バルブの弁体と対向する位置に形成され、シリンダの径方向外側に窪む窪み部と、を備え、吸気ポートは、燃焼室と連通する端部において、燃焼室側に拡径する座面を備え、窪み部は、シリンダの中心位置と吸気バルブの中心位置とを通るシリンダの軸方向に沿った平面上において、座面の延長線とシリンダの内周面とが交わる交点、または、交点よりもシリンダの下端側に形成される。
【0008】
窪み部は、軸方向に沿って湾曲していてもよい。
【0009】
窪み部の径方向の深さは、吸気バルブのリフト量の半分以下であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、シリンダ内に流入する空気量を増加させ、燃焼効率を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、エンジン100の概略的な構成を示す図である。
図1に示すように、エンジン100は、シリンダブロック102、シリンダヘッド104、および、ピストン106を備える。シリンダヘッド104は、シリンダブロック102の上端に接続される。エンジン100は、燃料ガスを燃焼させることで動力を得るミラーサイクルのガスエンジンである。ただし、エンジン100は、レシプロエンジンであれば、ガスエンジンでなくてもよい。
【0014】
シリンダブロック102には、シリンダライナ102aが圧入または鋳込まれる。シリンダライナ102aの内周面によってシリンダ102bが形成される。なお、シリンダライナ102aは設けられていなくてもよく、シリンダブロック102によってシリンダ102bが形成されていてもよい。シリンダ102bには、ピストン106が収容される。
【0015】
燃焼室108は、シリンダ102b内部に形成される。燃焼室108は、シリンダライナ102a(シリンダ102b)、シリンダヘッド104、および、ピストン106の冠面106aによって囲繞される。
【0016】
シリンダヘッド104には、吸気ポート110および排気ポート112がそれぞれ2個ずつ形成される。なお、吸気ポート110および排気ポート112の数は、いくつであってもよく、例えば1個ずつ形成されていてもよい。
【0017】
吸気ポート110および排気ポート112は、燃焼室108に連通する。吸気ポート110には、吸気バルブ114が設けられる。吸気バルブ114は、シリンダ102bの軸方向に沿って摺動可能にシリンダヘッド104に支持される。吸気バルブ114は、吸気ポート110における燃焼室108との連通口を開閉する。
【0018】
排気ポート112には、排気バルブ116が設けられる。排気バルブ116は、シリンダ102bの軸方向に沿って摺動可能にシリンダヘッド104に支持される。排気バルブ116は、排気ポート112における燃焼室108との連通口を開閉する。
【0019】
吸気バルブ114および排気バルブ116は、シリンダ102bの内周面よりも径方向内側に全てが位置するように配置される。つまり、吸気バルブ114および排気バルブ116は、シリンダ102bの軸方向に沿って摺動しても、シリンダ102bと干渉しない位置に設けられる。
【0020】
吸気ポート110には、空気(吸気)と燃料ガスとの混合気が導かれる。混合気は、吸気ポート110を介して、燃焼室108に流入する。燃焼室108から排気ポート112に排出された排気は、排気ポート112を介して外部に排出される。
【0021】
シリンダヘッド104には、燃焼室108と連通する連通路118が形成される。連通路118には、不図示の副燃焼室が連通される。副燃焼室は、例えば、燃焼室108に対し、ピストン106と反対側に位置する。ただし、燃焼室108と副燃焼室が連通していれば、副燃焼室は、この配置に限定されない。また、副燃焼室の数も限定されない。
【0022】
エンジン100は、例えば、4サイクルエンジンである。吸気行程において、ピストン106が下死点に向かう。また、吸気バルブ114が開弁し、排気バルブ116が閉弁する。燃料ガスと空気との混合気は、吸気ポート110から燃焼室108に流入する。
【0023】
圧縮行程において、ピストン106が上死点に向かう。また、吸気バルブ114および排気バルブ116が閉弁する。ピストン106によって圧縮された混合気が、燃焼室108から副燃焼室に導かれる。
【0024】
膨張(爆発)行程において、不図示の点火装置によって副燃焼室の混合気が点火され、火炎が燃焼室108に噴出する。燃焼室108において混合気が燃焼し、ピストン106が下死点側に押圧される。
【0025】
排気行程において、ピストン106が上死点に向かう。また、吸気バルブ114が閉弁し、排気バルブ116が開弁する。排気ガスは、排気ポート112を通って燃焼室108から排出される。
【0026】
ところで、エンジン100では、シリンダ102bに流入する空気量を増加させ、燃焼効率を向上させることが希求されている。そこで、エンジン100には、シリンダ102bの内周面に窪み部が形成される。なお、以下では、吸気バルブ114に対向する窪み部を吸気窪み部120aとする。また、排気バルブ116に対向する窪み部を排気窪み部120bとする。
【0027】
図2は、
図1のII-II断面図である。なお、
図2では、シリンダブロック102を省略している。
図1および
図2に示すように、吸気窪み部120aは、シリンダ102bの径方向において、吸気バルブ114の弁体114aと対向する位置に設けられる。排気窪み部120bは、シリンダ102bの径方向において、排気バルブ116の弁体116aと対向する位置に設けられる。吸気窪み部120aおよび排気窪み部120bは、それぞれ2個ずつ設けられる。
【0028】
図1に示すように、吸気窪み部120aおよび排気窪み部120bは、シリンダ102bの上端から所定距離だけ離隔した位置に形成される。吸気窪み部120aおよび排気窪み部120bは、シリンダ102bの内周面側から径方向外側に向かって窪んでいる。
【0029】
図2に示すように、吸気窪み部120aは、シリンダ102bにおいて、吸気バルブ114の弁体114aと最も近接した位置を基準として、シリンダ102bの周方向の両側における所定範囲に形成される。排気窪み部120bは、シリンダ102bにおいて、排気バルブ116の弁体116aと最も近接した位置を基準として、シリンダ102bの周方向の両側における所定範囲に形成される。
【0030】
以下では、吸気窪み部120aの詳細な形状について説明する。なお、排気窪み部120bは、吸気窪み部120aと同一形状であるため、説明は省略する。
【0031】
図3は、吸気窪み部120aの形状を説明する図である。なお、
図3は、シリンダ102bの中心位置と、吸気バルブ114(吸気ポート110の連通口)の中心位置とを通る軸方向に沿った断面図である。また、
図3では、閉弁時の吸気バルブ114を実線で示し、最も下方にリフトしているときの吸気バルブ114を一点鎖線で示す。
【0032】
図3に示すように、吸気ポート110の連通口には、バルブシート110aが設けられる。バルブシート110aは、燃焼室108から離隔するほど(
図3中、上側ほど)、径方向の内側となる向きに傾斜する座面110bが形成される。なお、吸気ポート110にバルブシート110aが設けられてなく、吸気ポート110に座面110bが形成されていてもよい。つまり、吸気ポート110は、燃焼室108と連通する端部において、燃焼室108側に向けて拡径する座面110bが形成される。
【0033】
吸気バルブ114は、燃焼室108側の端部に、拡径する弁体114aが形成される。弁体114aには、バルブシート110aと当接する当接面114bが形成される。当接面114bは、軸方向に対して、バルブシート110aの座面110bと同一の傾斜角に傾斜している。
【0034】
吸気窪み部120aは、シリンダ102bの中心位置と、吸気バルブ114(吸気ポート110の連通口)の中心位置とを通る軸方向の平面上において、座面110bの延長線L1とシリンダ102bの内壁面との交点P1に形成される。なお、吸気窪み部120aは、交点P1よりもシリンダ102bの下端側に形成されてもよい。換言すると、吸気窪み部120aの上端は、交点P1、または、交点P1よりも吸気ポート110から離隔する位置にある。
【0035】
吸気窪み部120aの下端は、軸方向において吸気バルブ114が最も下方にリフトした位置P2、または、位置P2よりもシリンダ102bの下端側に位置している。
【0036】
また、吸気窪み部120aの径方向の深さは、吸気バルブ114のリフト量H1の半分以下の長さH2である。
【0037】
また、吸気窪み部120aは、シリンダ102bの軸方向に沿って湾曲しており、断面がお椀状に形成される。つまり、吸気窪み部120aの断面は、シリンダ102bの径方向内側を中心とした曲率を有している。
【0038】
エンジン100では、吸気行程において吸気バルブ114が下方にリフトして吸気ポート110が開かれる。そうすると、混合気は、吸気ポート110のバルブシート110aと吸気バルブ114の弁体114aとの間を通って燃焼室108に導かれる。このとき、混合気の一部は、吸気バルブ114の弁体114aとシリンダ102bとの間を通過することになる。
【0039】
ここで、吸気窪み部120aが設けられている場合、吸気バルブ114とシリンダ102bとの間隔は、吸気窪み部120aが設けられていない場合よりも大きくなる。
【0040】
吸気バルブ114とシリンダ102bとの間隔が大きくなることで、混合気が燃焼室108に流入する際の圧損を低減することができる。これにより、吸気窪み部120aは、燃焼室108に流入する混合気の流入量(空気量)を増加させることができ、燃焼効率を向上させることができる。また、吸気窪み部120aは、空気量増加による効果により、圧縮比に対する膨張比を大きくすることができ、熱効率を向上させることができる。特に、ミラーサイクルのエンジン100では、吸気バルブ114が閉弁するタイミングが早い(リフト量が少ない)ため、効果的である。
【0041】
また、吸気窪み部120aが軸方向に沿って湾曲していることで、吸気窪み部120aを通過する混合気は、吸気窪み部120aの壁面に沿って流れることになる。これにより、吸気窪み部120aは、燃焼室108を縦方向(軸方向)に回転するタンブル流を促進させることになる。タンブル流が促進することで、混合気の燃焼伝搬が促進されるので、吸気窪み部120aは、燃焼効率を向上することができる。
【0042】
また、吸気窪み部120aの上端は、交点P1、または、交点P1よりも下端側に位置している。これにより、吸気ポート110から燃焼室108に流入した混合気が、吸気窪み部120aに直線的に導かれることになる。そのため、吸気窪み部120aは、燃焼室108内の混合気の流れを整流することができる。また、吸気窪み部120aは、吸気バルブ114の閉弁直前のバルブリフト量が小さくなる際に、吸気バルブ114とシリンダ102bとの間の流量を確保させることができる。
【0043】
また、吸気窪み部120aの径方向の深さは、吸気バルブ114のリフト量H1の半分以下の長さH2であるため、圧縮比の低下を抑制することができる。
【0044】
また、排気窪み部120bが設けられていることにより、排気バルブ116とシリンダ102bとの間隔を、排気窪み部120bが設けられていない場合よりも大きくすることができる。これにより、燃焼室108から排気ポート112に導かれる排気を、圧損を低減して効率よく排気ポート112に導くことができる。したがって、排気窪み部120bは、排気行程で燃焼室108に残存する排気量を減らすことができ、燃焼効率を向上させることができる。
【0045】
図4は、変形例の吸気窪み部220aを説明する図である。上述した実施形態では、吸気窪み部120aの断面が軸方向に湾曲しているお椀状に形成されていた。しかしながら、
図4に示すように、吸気窪み部220aの断面は、湾曲していない矩形であってもよい。同様に、排気窪み部も断面が矩形であってもよい。
【0046】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に技術的範囲に属するものと了解される。
【0047】
例えば、上述した実施形態および変形例では、吸気ポート110から燃焼室108に、空気と燃料ガスとの混合気が流入した。しかしながら、吸気ポート110から燃焼室108に空気が流入し、燃焼室108に燃料ガスが直接噴射されるようにしてもよい。
【0048】
また、上述した実施形態および変形例では、副燃焼室が設けられ、副燃焼室において混合気が点火されるようにした。しかしながら、副燃焼室が設けられておらず、燃焼室108において混合気が点火されるようにしてもよい。
【0049】
また、上述した実施形態では、排気窪み部120bが、排気バルブ116と対向する位置に設けられるようにした。しかしながら、排気バルブ116に対向する位置に排気窪み部120bが形成されていなくてもよい。つまり、排気窪み部120bがシリンダ102bに形成されていなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示は、エンジンに利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
100 エンジン
102b シリンダ
104 シリンダヘッド
110 吸気ポート
114 吸気バルブ
120a 吸気窪み部(窪み部)