IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特許-転舵装置 図1
  • 特許-転舵装置 図2
  • 特許-転舵装置 図3
  • 特許-転舵装置 図4
  • 特許-転舵装置 図5
  • 特許-転舵装置 図6
  • 特許-転舵装置 図7
  • 特許-転舵装置 図8
  • 特許-転舵装置 図9
  • 特許-転舵装置 図10
  • 特許-転舵装置 図11
  • 特許-転舵装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】転舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20230711BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20230711BHJP
   F16H 19/04 20060101ALI20230711BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20230711BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20230711BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230711BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
B62D5/04
B62D6/00
F16H19/04 Z
F16H25/22 A
F16H25/20 E
F16H25/20 A
F16H25/22 M
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019072373
(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公開番号】P2020132130
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2019027146
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾形 俊明
(72)【発明者】
【氏名】近藤 美雄
(72)【発明者】
【氏名】仲村 圭史
(72)【発明者】
【氏名】岸田 文夫
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-045978(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0369099(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0004279(KR,A)
【文献】特開平09-242839(JP,A)
【文献】特開2004-189038(JP,A)
【文献】特開2018-111426(JP,A)
【文献】特開2005-035368(JP,A)
【文献】特開2007-062412(JP,A)
【文献】特開2001-032901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
B62D 6/00 - 6/10
F16H 25/20 - 25/24
F16H 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状のハウジングと、
前記ハウジングの内部に収容され、軸方向の第一の領域に左ねじ及び右ねじの一方の巻き方で形成された第一雄ねじ溝を有し、第一の領域と異なる第二の領域に左ねじ及び右ねじの他方の巻き方で形成された第二雄ねじ溝を有し前記ハウジングに対して軸方向に相対移動することで左右の転舵輪を転舵する転舵軸と、
前記第一雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持される第一ナットと、
前記第二雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持される第二ナットと、
第一駆動力を発生する第一駆動源と、
前記第一駆動源とは独立して作動して第二駆動力を発生する第二駆動源と、
前記第一駆動源が発生した前記第一駆動力を前記第一ナットに伝達し、前記第一ナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第一動力伝達部と、
前記第二駆動源が発生した前記第二駆動力を前記第二ナットに伝達し、前記第二ナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第二動力伝達部と、
前記ハウジングと前記転舵軸とに跨って設けられ、前記ハウジングに対する前記転舵軸の前記軸方向における相対移動を許容し、且つ前記ハウジングに対する前記転舵軸の軸周りにおける相対回転を規制する回転規制部と、を備え
前記回転規制部は、
前記転舵軸に設けられる転舵軸側係合部であり、前記転舵軸の径方向外方に向かって突設される突起と、
前記ハウジングに設けられるハウジング側係合部であり、前記ハウジングの内周面に前記転舵軸の前記軸方向に延在して形成される溝であり、前記突起と係合して前記ハウジング及び前記転舵軸の前記軸方向における相対移動を許容するとともに前記ハウジングに対する前記転舵軸の前記軸周りにおける相対回転を規制する前記溝と、備え、
前記突起は、環状部材の外周面に突設され、前記環状部材の内周面が前記転舵軸の外周面に嵌合されて前記転舵軸に固定され、
前記環状部材が嵌合する前記転舵軸の嵌合部の前記外周面の外径は、前記嵌合部以外の前記転舵軸の外周面の外径より大きい、転舵装置。
【請求項2】
係合する前記突起及び前記溝は、前記転舵軸の前記軸周りに等角度間隔で複数設けられる、請求項に記載の転舵装置。
【請求項3】
中空状のハウジングと、
前記ハウジングの内部に収容され、軸方向の第一の領域に左ねじ及び右ねじの一方の巻き方で形成された第一雄ねじ溝を有し、第一の領域と異なる第二の領域に左ねじ及び右ねじの他方の巻き方で形成された第二雄ねじ溝を有し前記ハウジングに対して軸方向に相対移動することで左右の転舵輪を転舵する転舵軸と、
前記第一雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持される第一ナットと、
前記第二雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持される第二ナットと、
第一駆動力を発生する第一駆動源と、
前記第一駆動源とは独立して作動して第二駆動力を発生する第二駆動源と、
前記第一駆動源が発生した前記第一駆動力を前記第一ナットに伝達し、前記第一ナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第一動力伝達部と、
前記第二駆動源が発生した前記第二駆動力を前記第二ナットに伝達し、前記第二ナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第二動力伝達部と、
前記ハウジングと前記転舵軸とに跨って設けられ、前記ハウジングに対する前記転舵軸の前記軸方向における相対移動を許容し、且つ前記ハウジングに対する前記転舵軸の軸周りにおける相対回転を規制する回転規制部と、を備え
前記回転規制部は、
前記転舵軸に設けられる転舵軸側係合部と、
前記ハウジングに設けられ、前記転舵軸側係合部と係合して、前記ハウジング及び前記転舵軸の前記軸方向における相対移動を許容するとともに前記ハウジングに対する前記転舵軸の前記軸周りにおける相対回転を規制するハウジング側係合部と、備え、
前記転舵軸側係合部は、ラック歯であり、
前記ハウジング側係合部は、前記ラック歯と噛合するピニオンギアのピニオン歯であり、
前記ピニオンギアは軸状に形成され、前記ピニオンギアの軸心周りに回転可能となるよう前記ハウジングの内周面に支持される、転舵装置。
【請求項4】
前記ピニオンギアは、前記ピニオン歯の歯筋が前記ピニオンギアの前記軸心と平行になるよう形成される、請求項に記載の転舵装置。
【請求項5】
前記ピニオンギアは、前記軸心が前記転舵軸の前記軸方向と直交するよう配置される、請求項に記載の転舵装置。
【請求項6】
係合する前記ハウジング側係合部及び前記転舵軸側係合部の間には潤滑部が介在する、請求項1~5の何れか1項に記載の転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、下記特許文献1に記載の特開2010-214978号公報に開示された転舵装置が知られている。従来の転舵装置は、転舵輪に連結されて転舵輪を転舵する転舵軸が、二つに分割された分割転舵軸を備えている。この従来の転舵装置は、運転者によって操作されるステアリングホイールとの機械的な連結が解除されたステアバイワイヤ(SBW)式の操舵装置に適用されている。従来の転舵装置は、それぞれの分割転舵軸に左右ねじの関係となるねじ軸部と滑りねじナットから構成される滑りねじ機構を有している。そして、滑りねじ機構には、それぞれに出力伝達機構を介して駆動力を伝達するモータが設けられている。このような滑りねじ機構を備えることによって、従来の転舵装置は、何れか一方のモータの失陥時においても転舵を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-214978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、転舵装置は一般的に、サスペンションによって支持された転舵輪の上下方向への移動を可能とするため、転舵軸(分割転舵軸)と転舵輪とがボールジョイントを介して連結される。この場合、上記特許文献1に記載の転舵装置においては、モータが滑りねじ機構を介して分割転舵軸を軸方向に移動させる場合、滑りねじ機構及び分割転舵軸が共に軸周りに回転する可能性がある。その結果、滑りねじナットが回転しても分割転舵軸が軸方向に移動せず、転舵軸を転舵できないおそれがある。
【0005】
このため、分割転舵軸の回転を防止するために、それぞれの分割転舵軸に、例えば、ラックアンドピニオン等の回り止め機構(回転規制部)が必要となる。しかしながら、転舵輪を最大まで転舵させるようにモータの出力が大きくなった場合には、回り止め機構には大きな負荷がかかる。従って、強度を確保するために、回り止め機構の大型化や材質の変更が必要になり、その結果、ステアバイワイヤ式の操舵装置が大型化すると共に高価になる虞がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためのなされたものであり、安価且つ小型であるとともに、何れか一方のモータが失陥した場合においても、転舵可能な転舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、中空状のハウジングと、
前記ハウジングの内部に収容され、軸方向の第一の領域に左ねじ及び右ねじの一方の巻き方で形成された第一雄ねじ溝を有し、第一の領域と異なる第二の領域に左ねじ及び右ねじの他方の巻き方で形成された第二雄ねじ溝を有し前記ハウジングに対して軸方向に相対移動することで左右の転舵輪を転舵する転舵軸と、
前記第一雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持される第一ナットと、
前記第二雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持される第二ナットと、
第一駆動力を発生する第一駆動源と、
前記第一駆動源とは独立して作動して第二駆動力を発生する第二駆動源と、
前記第一駆動源が発生した前記第一駆動力を前記第一ナットに伝達し、前記第一ナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第一動力伝達部と、
前記第二駆動源が発生した前記第二駆動力を前記第二ナットに伝達し、前記第二ナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第二動力伝達部と、
前記ハウジングと前記転舵軸とに跨って設けられ、前記ハウジングに対する前記転舵軸の前記軸方向における相対移動を許容し、且つ前記ハウジングに対する前記転舵軸の軸周りにおける相対回転を規制する回転規制部と、を備え
前記回転規制部は、
前記転舵軸に設けられる転舵軸側係合部であり、前記転舵軸の径方向外方に向かって突設される突起と、
前記ハウジングに設けられるハウジング側係合部であり、前記ハウジングの内周面に前記転舵軸の前記軸方向に延在して形成される溝であり、前記突起と係合して前記ハウジング及び前記転舵軸の前記軸方向における相対移動を許容するとともに前記ハウジングに対する前記転舵軸の前記軸周りにおける相対回転を規制する前記溝と、備え、
前記突起は、環状部材の外周面に突設され、前記環状部材の内周面が前記転舵軸の外周面に嵌合されて前記転舵軸に固定され、
前記環状部材が嵌合する前記転舵軸の嵌合部の前記外周面の外径は、前記嵌合部以外の前記転舵軸の外周面の外径より大きい、転舵装置にある。
また、本発明の他の態様は、中空状のハウジングと、
前記ハウジングの内部に収容され、軸方向の第一の領域に左ねじ及び右ねじの一方の巻き方で形成された第一雄ねじ溝を有し、第一の領域と異なる第二の領域に左ねじ及び右ねじの他方の巻き方で形成された第二雄ねじ溝を有し前記ハウジングに対して軸方向に相対移動することで左右の転舵輪を転舵する転舵軸と、
前記第一雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持される第一ナットと、
前記第二雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持される第二ナットと、
第一駆動力を発生する第一駆動源と、
前記第一駆動源とは独立して作動して第二駆動力を発生する第二駆動源と、
前記第一駆動源が発生した前記第一駆動力を前記第一ナットに伝達し、前記第一ナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第一動力伝達部と、
前記第二駆動源が発生した前記第二駆動力を前記第二ナットに伝達し、前記第二ナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第二動力伝達部と、
前記ハウジングと前記転舵軸とに跨って設けられ、前記ハウジングに対する前記転舵軸の前記軸方向における相対移動を許容し、且つ前記ハウジングに対する前記転舵軸の軸周りにおける相対回転を規制する回転規制部と、を備え、
前記回転規制部は、
前記転舵軸に設けられる転舵軸側係合部と、
前記ハウジングに設けられ、前記転舵軸側係合部と係合して、前記ハウジング及び前記転舵軸の前記軸方向における相対移動を許容するとともに前記ハウジングに対する前記転舵軸の前記軸周りにおける相対回転を規制するハウジング側係合部と、備え、
前記転舵軸側係合部は、ラック歯であり、
前記ハウジング側係合部は、前記ラック歯と噛合するピニオンギアのピニオン歯であり、
前記ピニオンギアは軸状に形成され、前記ピニオンギアの軸心周りに回転可能となるよう前記ハウジングの内周面に支持される、転舵装置にある。
【0008】
これによれば、転舵装置は、転舵軸を軸方向に移動させる際、伝達された第一駆動力及び第二駆動力によって、転舵軸における第一の領域と第二の領域とに互いに相殺する方向に作用するトルクを発生させることができる。このため、通常時において転舵軸は、回転規制部を用いずともハウジングに対する相対回転が良好に規制された状態で軸方向への移動が制御される。また、転舵装置は、ハウジングと転舵軸とに跨って設けられる安価で小型の回転規制部を備える。これにより、転舵装置では、第一駆動源又は第二駆動源の何れか一方の失陥時においても、ハウジングに対する転舵軸の相対回転が回転規制部によって良好に規制された状態で転舵軸の軸方向への移動ができるので、転舵が良好に制御できる。このため、一方の駆動源の失陥時においても、少なくとも車両を安全な場所に移動させることができる。従って、転舵装置を安価に製造することができると共に転舵装置の小型化を達成することができる。また、何れか一方の駆動源が失陥した場合においても、回転規制部と他方の駆動源が転舵を可能とし、少なくとも車両を安全な場所に移動させることができるので、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】転舵装置の構成を示す全体図である。
図2】転舵装置の構成を詳細に示す断面図である。
図3】第一トルク及び第二トルクを説明するための図である。
図4図2に記載の回転規制部のIV-IV矢視断面図である。
図5図4においてQ方向から視た回転規制部の透視図である。
図6】転舵装置を適用した操舵装置の構成を示す全体図である。
図7】第一変形例に係る回転規制部の図4に対応する図である。
図8】第二変形例に係る回転規制部の図4に対応する図である。
図9】第三変形例に係る回転規制部の図4に対応する図である。
図10】第四変形例に係る回転規制部の図4に対応する図である。
図11図10においてR方向から視た回転規制部の透視図である。
図12】第二変形例に対応する回転規制部の変形態様の図であり、図8に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.転舵装置10の構成)
転舵装置10は、図1に示すように、左右の転舵輪としての左右前輪FW1,FW2に連結されて、左右前輪FW1,FW2を転舵するための転舵軸11を備えている。転舵軸11は、図1及び図2に示すように、両端がボールジョイント12,13に連結されている。そして、転舵軸11は、ボールジョイント12,13に連結されたリンク機構(例えば、タイロッド)を介して左右前輪FW1,FW2に連結されている。
【0011】
又、転舵軸11は、中空状のハウジング14の内部に軸方向への変位可能に収容されている。転舵軸11は、軸方向の第一の領域に左ねじ及び右ねじの一方の巻き方で形成された第一雄ねじ溝11a2を有する。また、転舵軸11は、第一の領域と異なる第二の領域に左ねじ及び右ねじの他方の巻き方で形成された第二雄ねじ溝11b2を有する。なお、本実施形態において、第一の領域及び第二の領域は、軸方向における転舵軸11の両端に相当する。転舵軸11は、ハウジング14に対して軸方向に相対移動することで左右の前輪FW1,FW2(転舵輪)を転舵する。
【0012】
そして、ハウジング14の内部に回転可能に支持される第一ボールねじナット17(第一ナット)が第一雄ねじ溝11a2に螺合される。又、ハウジング14の内部に回転可能に支持される第二ボールねじナット18(第二ナット)が第二雄ねじ溝11b2に螺合される。これにより、転舵軸11は、両端のうちの第一の領域に、第一雄ねじ溝11a2及び第一ボールねじナット17によって、第一ボールねじ部11aが形成される。又、転舵軸11は、第二の領域に、第二雄ねじ溝11b2及び第二ボールねじナット18によって、第二ボールねじ部11bが形成される。
【0013】
第一ボールねじナット17は、図2に示すように、球状転動体としてのボール11a1を転動させるための転動路11a3を有している。第二ボールねじナット18は、球状転動体としてのボール11b1を転動させるための転動路11b3を有している。そして、転動路11a3と転動路11b3とは、左右ねじ(互いに逆ねじ)の関係となっている。尚、転動路11a3及び転動路11b3においては、それぞれ、複数のボール11a1及びボール11b1が循環しながら転動するようになっている。
【0014】
又、転舵装置10は、図1及び図2に示すように、第一駆動源としての第一電動モータ15と、第二駆動源としての第二電動モータ16と、を備えている。第一電動モータ15及び第二電動モータ16は、それぞれ、転舵制御装置S1、S2によって作動が独立に制御される。これにより、第一電動モータ15は第一駆動力を発生し、第二電動モータ16は第一電動モータ15とは独立して第二駆動力を発生するようになっている。ここで、第一電動モータ15と第二電動モータ16とは、図2に示すように、出力軸(より詳しくは、後述するプーリ15a及びプーリ16a)が互いに対向するように、ハウジング14に固定される。
【0015】
又、転舵装置10は、第一動力伝達部に含まれて第一動力伝達部を構成する第一螺合部材としての上述した第一ボールねじナット17と、第二動力伝達部に含まれて第二動力伝達部を構成する第二螺合部材としての上述した第二ボールねじナット18と、を備えている。第一ボールねじナット17は、転舵軸11に設けられた第一ボールねじ部11aの第一雄ねじ溝11a2と同軸に配置されている。第二ボールねじナット18は、転舵軸11に設けられた第二ボールねじ部11bの第二雄ねじ溝11b2と同軸に配置されている。
【0016】
第一ボールねじナット17は、図2に示すように、第一電動モータ15から第一動力伝達部を構成するプーリ15a、第一動力伝達部を構成する無端部材であるベルト15b及びプーリ15dを介して第一駆動力が伝達されるようになっている。第一ボールねじナット17は、有底円筒形のプーリ15dの中に収納固定されている。第一ボールねじナット17は、第一電動モータ15からプーリ15a、ベルト15b及びプーリ15dを介して第一駆動力が伝達されると、第一雄ねじ溝11a2に対して相対回転する。
【0017】
これにより、第一ボールねじ部11aの第一雄ねじ溝11a2と第一ボールねじナット17との間に配置されたボール11a1が転動路11a3に沿って転動し、第一電動モータ15の第一駆動力が転舵軸11を軸方向に移動させる力、即ち左右前輪FW1,FW2を転舵する転舵力に変換される。この場合、第一ボールねじナット17は、第一電動モータ15から伝達された第一駆動力を、回転速度を減速して第一ボールねじ部11aの第一雄ねじ溝11a2、即ち転舵軸11に伝達し、第一ボールねじ部11aにおいて第一トルクT1を発生させる。
【0018】
第二ボールねじナット18は、図2に示すように、第二電動モータ16から第二動力伝達部を構成するプーリ16a、第二動力伝達部を構成する無端部材であるベルト16b及びプーリ16dを介して第二駆動力が伝達されるようになっている。第二ボールねじナット18は、有底円筒形のプーリ16dの中に収納固定されている。第二ボールねじナット18は、第二電動モータ16からプーリ16a、ベルト16b及びプーリ16dを介して第二駆動力が伝達されると、第二雄ねじ溝11b2に対して相対回転する。
【0019】
これにより、第二ボールねじ部11bの第二雄ねじ溝11b2と第二ボールねじナット18との間に配置されたボール11b1が転動路11b3に沿って転動し、第二電動モータ16の第二駆動力が転舵軸11を軸方向に移動させる転舵力に変換される。この場合、第二ボールねじナット18は、第二電動モータ16から伝達された第二駆動力を、回転速度を減速して第二ボールねじ部11bの第二雄ねじ溝11b2、即ち転舵軸11に伝達し、第二ボールねじ部11bにおいて第二トルクT2を発生させる。
【0020】
ここで、第一ボールねじ部11aの第一雄ねじ溝11a2は、上述したように、左ねじ及び右ねじの一方である。また、第二ボールねじ部11bの第二雄ねじ溝11b2は、左ねじ及び右ねじの他方である。即ち、第一雄ねじ溝11a2及び第二雄ねじ溝11b2は、左右ねじ(逆ねじ)の関係を有するように転舵軸11に設けられる。又、第一電動モータ15及び第二電動モータ16は、互いに対向するようにハウジング14に固定される。
【0021】
ここで、図2においてボールジョイント12側からボールジョイント13側に向かう転舵軸11の軸方向を基準として見た場合、第一電動モータ15及び第二電動モータ16は、互いに逆の回転方向の駆動力となる第一駆動力及び第二駆動力を第一ボールねじナット17及び第二ボールねじナット18に伝達する。従って、図3に示すように、転舵軸11に作用する第一トルクT1及び第二トルクT2は互いに逆向きとなる。尚、第一電動モータ15及び第二電動モータ16の回転方向を第一電動モータ15及び第二電動モータ16自身を基準として見れば、第一駆動力及び第二駆動力は互いに同一の回転方向である。
【0022】
ところで、第一電動モータ15及び第二電動モータ16が第一駆動力及び第二駆動力を第一ボールねじナット17及び第二ボールねじナット18に伝達する場合において、第一トルクT1及び第二トルクT2の絶対値を等しくすることが可能である。これにより、第一トルクT1と第二トルクT2とが完全に相殺することによって転舵軸11に回転を生じさせることなく転舵軸11を軸方向に移動させて、左右前輪FW1,FW2を転舵することができる。
【0023】
具体的に、第一ボールねじナット17が第一ボールねじ部11aに回転速度を減速して伝達する減速比を第一減速比G1とし、第二ボールねじナット18が第二ボールねじ部11bに回転速度を減速して伝達する減速比を第二減速比G2とする。又、プーリ15a、ベルト15b及び第一ボールねじナット17の各間の減速比及びプーリ16a、ベルト16b及び第二ボールねじナット18の間の減速比は同一であるとする。
【0024】
第一電動モータ15及び第二電動モータ16が発生した第一駆動力及び第二駆動力は、第一ボールねじナット17及び第二ボールねじナット18を介して第一ボールねじ部11a及び第二ボールねじ部11bに伝達される。これにより、第一ボールねじ部11aには第一トルクT1が発生し、第二ボールねじ部11bには第二トルクT2が発生する。この場合、第一減速比G1と第二減速比G2とが等しい場合には、第一駆動力及び第二駆動力を等しくすることにより、転舵軸11に作用する第一トルクT1及び第二トルクT2は絶対値が等しく且つ作用方向が逆向きになって互いに相殺する。従って、転舵軸11を軸方向に移動させる際、或いは、転舵軸11を軸方向にて任意の位置に停止させる際に、転舵軸11に回転が生じないようにすることができる。
【0025】
一方、第一減速比G1と第二減速比G2とが異なる場合には、第一減速比G1及び第二減速比G2に基づいて予め算出可能な第一トルクT1及び第二トルクT2の絶対値が等しくなるように、第一電動モータ15及び第二電動モータ16が第一駆動力及び第二駆動力を発生させる。これにより、転舵軸11を軸方向に移動させる際、或いは、転舵軸11を軸方向にて任意の位置に停止させる際に、転舵軸11に回転が生じないようにすることができる。
【0026】
ここで、第一減速比G1及び第二減速比G2は、例えば、第一ボールねじ部11aにおける転動路11a3のリードと第二ボールねじ部11bにおける転動路11b3のリードとが同一である場合、同一の減速比とすることができる。
【0027】
(1-1.回転規制部19)
転舵装置10は、転舵軸11の中央部分、即ち、転舵軸11の両端に設けられた第一ボールねじ部11aと第二ボールねじ部11bとの間に、回転規制部19を備える(図2参照)。回転規制部19は、ハウジング14に対する転舵軸11の相対回転を機械的に規制する回り止め機構である。
【0028】
つまり、回転規制部19は、主として、例えば、第一電動モータ15及び第二電動モータ16の一方が失陥し作動不能となり、上述した第一トルクT1及び第二トルクT2の一方が発生しない状態が生じても、転舵軸11がハウジング14に対して相対回転することがないよう設けられる。ただし、上記態様に限らず、回転規制部19は、上述した第一トルクT1及び第二トルクT2の絶対値がバラつきによって完全には等しくならず、若干異なって出力される状態が生じても、ハウジング14に対する転舵軸11の相対回転を規制することができる。
【0029】
回転規制部19は、転舵軸11に設けられる突起21(転舵軸側係合部、及び一方に相当)と、ハウジング14に設けられ、突起21の一部と係合する溝23(ハウジング側係合部、及び他方に相当)とを備える。このとき、突起21と溝23とが係合する際、突起21の側面と溝23内の側面とが当接し係合する。このように、溝23が、突起21と係合して、ハウジング14に対する転舵軸11の軸方向における相対移動を許容するとともにハウジング14に対する転舵軸11の軸周りにおける相対回転を規制する。
【0030】
詳細には、突起21は、転舵軸11の外周面11c(図4参照)に内周面が嵌合されて転舵軸11に固定される環状部材22の環状部材外周面22aに突設される。つまり、突起21は、環状部材22の外周面22aから転舵軸11の径方向外方に向かって突設される。そして、環状部材22の内周面が転舵軸11の外周面に嵌合されて転舵軸11に固定される。
【0031】
このとき、環状部材22が嵌合する転舵軸11の外周面11cの外径は、転舵軸11の環状部材22が嵌合する外周面11c以外の外周面11d(図5参照)の外径より若干、大径に形成されている。これにより、環状部材22の内周面を転舵軸11の外周面11cに容易に圧入(嵌合)し、環状部材22を転舵軸11と一体的に固定することができる。また、突起21を形成するにあたり、嵌合部以外の転舵軸外周面の外径より大きい外径を有する転舵軸外周面11cの嵌合部に突起21を備える環状部材22を嵌合させる固定法を採用したため、転舵軸11に穴を開け別体で形成された突起を穴に嵌合させる固定法の場合と比べて転舵軸11の曲げ強度の低下を防ぐことができる。
【0032】
そして、本実施形態において、突起21は、環状部材22の環状部材外周面22aにおける周方向において、任意の位置に一箇所突設される。図5に示すように、突起21は、転舵軸11の軸方向において所定の長さだけ延在し形成される。その長さは、転舵軸11の周り止めの機能と強度、耐久性を満たし、転舵軸11が全ストローク移動しても転舵装置10内の意図しない場所に干渉しない等の条件を満たすよう設定すればよい。
【0033】
次に、溝23について説明する。溝23(ハウジング側係合部に相当)は、ハウジング14の内周面14aに軸方向に延在して設けられる。このとき、内周面14aからの溝23の深さは、突起21の先端が溝23の底面と隙間を有するか、または低い面圧で当接するよう設定すればよい。このような構成によって、溝23は、突起21と係合し、ハウジング14及び転舵軸11の軸方向における相対移動を許容する。また、溝23は、突起21と係合して、ハウジング14に対する転舵軸11の軸周りにおける相対回転を規制する。詳細については後に述べる。
【0034】
溝23は、図5に示すように、ハウジング14の内周面のうち、最も内径が小さな中央部14bの両端間を軸方向に貫通(連通)させて形成される。なお、上記態様に限らず、溝23は、中央部14bの両端のいずれか一端のみが軸方向に貫通し形成されてもよい。これによっても、転舵軸11をハウジング14内に組み付ける際、溝23が軸方向に貫通された中央部14bの両端のいずれか一端から突起21を挿入することにより、ハウジング14への転舵軸11の組み付けができる。
【0035】
このように、回転規制部19は、図4図5に示すように、ハウジング14と転舵軸11とに跨って設けられる。つまり、回転規制部19の構成要素の一つがハウジング14上に設けられ、回転規制部19の構成要素のもう一つが転舵軸11上に設けられ、両要素が組み合わされて回転規制部19の機能をもたらしている。これにより、回転規制部19は、ハウジング14に対する転舵軸11の軸方向における相対移動を許容し、且つハウジング14に対する転舵軸11の軸周りにおける相対回転を規制する。
【0036】
また、本実施形態では、一例として、突起21の表面に、潤滑性を備えたフッ素樹脂コーティングFCがコーティングされている(図4参照)。つまり、突起21及び溝23の間には、潤滑部であるフッ素樹脂コーティングFCが介在している。これにより、転舵軸11がハウジング14に対して軸方向に移動する際、突起21と溝23との間の摩擦力が低減されスムーズに移動できる。
【0037】
なお、上記において、フッ素樹脂コーティングFCは、突起21の表面に形成すると説明したが、この態様には限らない。フッ素樹脂コーティングFCは、係合する突起21に対向する溝23の表面に形成されても良い。さらには、フッ素樹脂コーティングFCは、突起21及び突起21と対向する溝23の両方の表面に形成してもよい。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0038】
また、上記態様では、突起21及び溝23の間に設けられる潤滑部は、フッ素樹脂コーティングFCであるとしたが、この態様には限らない。潤滑性を有する樹脂コーティングであれば、どのようなものでもよい。また、潤滑部として、突起21及び溝23の間に、例えば、図略の二硫化モリブデンやグラファイトなどの固体潤滑剤を介在させてもよい。また、潤滑部として、突起21及び溝23の間に、例えば、粘性の高い、グリスのような液状の潤滑剤(図略)を介在させてもよい。
【0039】
さらに、潤滑部として、焼結金属、成長鋳鉄、又は合成樹脂等の多孔質材料に潤滑油を含浸して作られた軸受部材を、突起21及び溝23の間に介在させてもよい。このとき、含浸した潤滑油は、運転時の温度上昇で膨張する。これにより、潤滑油は突起21及び溝23との間の隙間に染み出て供給され潤滑作用をはたす。温度低下時、潤滑油は再び軸受部材の内部へ戻るため長期的な使用が可能となる。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。また、上記態様に限らず、突起21がハウジング14側に設けられて径方向内方に延在し、溝23が転舵軸11側に設けられてもよい。これによっても同様の効果が期待できる。
【0040】
そして、回転規制部19は、第一トルクT1及び第二トルクT2が相殺するよう制御される運転時においては、転舵軸11の回転を規制することなく且つ転舵軸11の軸方向への移動を阻害しないよう構成される。
【0041】
従って、回転規制部19には、高い強度は必要なく、安価で且つ簡易的な構造を有していれば良い。このように、回転規制部19は、例えば、転舵軸11の中央部分に固定された当接部材(突起21)とハウジング14に設けられた被当接部材(溝23)等とから構成することができる。つまり、回転規制部19は、簡易で安価な構造でよく低コストに対応できる。
【0042】
転舵装置10は、転舵制御装置S1、S2によって作動が統括的に制御される。転舵制御装置S1、S2は、CPU、ROM、RAM等を主要構成部品とするマイクロコンピュータであり、図1に示すように、左右前輪FW1,FW2を転舵させる目標転舵量を表す電気信号δを入力するようになっている。又、転舵制御装置S1には、第一電動モータ15に設けられたレゾルバ等の回転角センサ15cから第一電動モータ15の回転角θ1を入力する。又、転舵制御装置S1には、第二電動モータ16に設けられたレゾルバ等の回転角センサ16cから第二電動モータ16の回転角θ2を入力する。ここで、回転角θ1及び回転角θ2は、転舵軸11の軸方向における位置即ち転舵量に対応する。
【0043】
転舵制御装置S1、S2は、回転角θ1及び回転角θ2、即ち転舵軸11の位置をフィードバック制御する。そして、転舵制御装置S1、S2は、電気信号δによって表される目標転舵量(目標転舵軸位置)となるように、図示省略の駆動回路を、例えば、PID制御し、第一電動モータ15に駆動電流I1を供給し、第二電動モータ16に駆動電流I2を供給する。これにより、左右前輪FW1,FW2は、電気信号δによって表される目標転舵量と一致する転舵量まで転舵することができる。尚、転舵制御装置S1、S2は、回転角θ1及び回転角θ2をフィードバック制御することに代えて、又は、加えて、駆動電流I1及び駆動電流I2をフィードバック制御することも可能である。
【0044】
(1-2.転舵装置10の作動)
転舵制御装置S1、S2は、電気信号δを入力すると、第一電動モータ15及び第二電動モータ16のそれぞれに駆動電流I1及び駆動電流I2を供給する。第一電動モータ15は、駆動電流I1が供給されると、プーリ15a及びベルト15bを介して第一ボールねじナット17に第一駆動力を伝達する。又、第二電動モータ16は、駆動電流I2が供給されると、プーリ16a及びベルト16bを介して第二ボールねじナット18に第一駆動力と同一方向に作用する第二駆動力を伝達する。
【0045】
第一ボールねじナット17が第一電動モータ15からの第一駆動力を転舵軸11の第一ボールねじ部11aに伝達すると、第一ボールねじ部11aにおいて第一トルクT1が発生する。又、第二ボールねじナット18が第二電動モータ16からの第二駆動力を転舵軸11の第二ボールねじ部11bに伝達すると、第二ボールねじ部11bにおいて第二トルクT2が発生する。
【0046】
ところで、第一電動モータ15及び第二電動モータ16は対向するように配置されている。このため、第一電動モータ15及び第二電動モータ16自身を基準として見て同一方向となる第一駆動力及び第二駆動力を発生した場合、第一ボールねじナット17と第二ボールねじナット18とは、転舵軸11に対して、互いに逆向きに回転する。ここで、第一ボールねじ部11aの転動路11a3と第二ボールねじ部11bの転動路11b3とは左右ねじ(逆ねじ)の関係を有している。このため、第一ボールねじナット17及び第二ボールねじナット18が互いに逆向きに回転することによって、転舵軸11には軸方向にて同一方向の転舵力が発生する。これにより、転舵軸11が軸方向に移動し、左右前輪FW1,FW2を転舵する。
【0047】
この場合、転舵制御装置S1は、第一電動モータ15の回転角センサ15cから出力される回転角θ1即ち転舵軸11の軸方向位置をフィードバック制御し、電気信号δによって表される目標転舵量となるまで、駆動電流I1をPID制御して第一電動モータ15を駆動させる。又、転舵制御装置S2は、第二電動モータ16の回転角センサ16cから出力される回転角θ2即ち転舵軸11の軸方向位置をフィードバック制御し、電気信号δによって表される目標転舵量となるまで、駆動電流I2をPID制御して第二電動モータ16を駆動させる。
【0048】
ところで、転舵制御装置S1、S2は、転舵軸11を軸方向に移動させる際に、転舵軸11に発生する第一トルクT1と第一トルクT1と逆向きに発生する第二トルクT2との絶対値が等しくなるように、例えば、駆動電流I1及び駆動電流I2を制御する。これにより、第一トルクT1と第二トルクT2とが相殺することにより、ハウジング14に対して相対回転させるような回転が転舵軸11に生じることを防止することができる。
【0049】
しかしながら、第一電動モータ15又は第二電動モータ16の何れか一方が失陥した場合には、第一トルクT1と第二トルクT2とのバランスが崩れる。このため、失陥していない方のモータ(第一電動モータ15又は第二電動モータ16)のトルクT(第一トルクT1又は第二トルクT2)によって、転舵軸11がハウジング14に対して軸周りに相対回転する力を受ける。
【0050】
しかし、本実施形態では、回転規制部19を備える。このため、転舵軸11が軸回りの回転力を受けると突起21の一方の側面が、フッ素樹脂コーティングFC(潤滑部)を介して係合する溝23内の一方の側面に当接し、ハウジング14に対する転舵軸11の軸回りにおける相対回転を規制する。これにより、失陥していない方のモータ(第一電動モータ15又は第二電動モータ16)のトルクT(第一トルクT1又は第二トルクT2)による転舵軸11の回転を規制しつつ、トルクTが第一ボールねじ部11a又は第二ボールねじ部11bにより軸力に変換されて転舵軸11に印加されることにより、転舵軸11はハウジング14に対して軸方向に移動できる。
【0051】
このように、第一電動モータ15又は第二電動モータ16の何れか一方が失陥しても、失陥していない方のモータ(第一電動モータ15又は第二電動モータ16)のトルクT(第一トルクT1又は第二トルクT2)のみによって、車両を安全な場所まで操舵し移動できるので信頼性の向上が図れる。また、回転規制部19では、突起21と溝23との間に潤滑部(フッ素樹脂コーティングFC)が介在している。これにより、突起21が溝23内を軸方向への移動(摺動)する際、抵抗少なくスムーズに摺動できる。
【0052】
(1-3.転舵装置10を用いた操舵装置)
上述した転舵装置10は、図6に示すように、ステアバイワイヤ式の操舵装置1に適用することができる。操舵装置1は、運転者によって回動操作されるステアリングホイール2を備えている。ステアリングホイール2は操舵入力軸3の上端に固定されている。操舵入力軸3には、操舵角センサ4、操舵トルクセンサ5及び反力アクチュエータ6が接続されている。
【0053】
操舵角センサ4は、ステアリングホイール2の操作量、即ち操舵入力軸3の回転角を操舵角として検出して操舵制御部7に出力する。操舵トルクセンサ5は、ステアリングホイール2の操作量、即ち操舵入力軸3に入力されたトルクを操舵トルクとして検出して操舵制御部7に出力する。反力アクチュエータ6は、電動モータ及び減速機構を備えており、運転者によるステアリングホイール2の回動操作に対して所定の反力を付与する。
【0054】
操舵制御部7は、CPU、ROM、RAM等を主要構成部品とするマイクロコンピュータとモータ駆動回路とを備えており、操舵角センサ4及び操舵トルクセンサ5によって検出された操舵角及び操舵トルクを入力して反力アクチュエータ6の作動を制御する。即ち、操舵制御部7は、操舵角及び操舵トルクに応じた反力を生成するように、反力アクチュエータ6の作動を制御する。尚、操舵制御部7による反力アクチュエータ6の制御については、本発明に直接関係しないため、その説明を省略する。
【0055】
又、操舵制御部7は、入力した操舵角及び操舵トルクの少なくとも一方に基づいて、左右前輪FW1,FW2の目標転舵量を算出する。そして、操舵制御部7は、算出した目標転舵量を表す電気信号δを、転舵装置10の転舵制御装置S1、S2に出力する。これにより、転舵制御装置S1、S2は、操舵制御部7から入力した電気信号δに基づき、上述したように、第一駆動源としての第一電動モータ15及び第二駆動源としての第二電動モータ16を駆動させる。従って、転舵装置10をステアバイワイヤ式の操舵装置1に適用することが可能である。
【0056】
又、転舵装置10は、自動運転機能付きの車両、例えば、運転者によって操作されるステアリングホイールを備えない、或いは、通常時はステアリングホイールが格納される車両に適用することも可能である。自動運転機能付きの車両においては、例えば、乗員によって目的地が設定され、車両に搭載された地図データ又は外部センタの地図データベースに蓄積された地図データを用いて目的地までの経路が探索される。
【0057】
そして、自動運転機能付きの車両においては、例えば、探索された経路を表す経路データと、車両の現在位置を表す現在位置データと、に基づいて走行して目的地まで移動する。この場合、転舵装置10においては、例えば、進行方向前方に存在するカーブを走行する際に、経路データと現在位置データとから算出可能な左右前輪FW1,FW2の目標転舵量を表す電気信号δを、自動運転を統括する上位制御装置から入力する。これにより、転舵制御装置S1、S2は、上位制御装置から入力した電気信号δに基づき、上述したように、第一駆動源としての第一電動モータ15及び第二駆動源としての第二電動モータ16を駆動させる。従って、転舵装置10を自動運転機能付きの車両に適用することが可能である。
【0058】
(1-4.実施形態による効果)
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態の転舵装置10は、中空状のハウジング14と、ハウジング14の内部に収容され、軸方向の第一の領域に左ねじ及び右ねじの一方の巻き方で形成された第一雄ねじ溝11a2を有し、第一の領域と異なる第二の領域に左ねじ及び右ねじの他方の巻き方で形成された第二雄ねじ溝11b2を有しハウジング14に対して軸方向に相対移動することで左右の転舵輪である左右前輪FW1,FW2を転舵する転舵軸11と、第一雄ねじ溝11a2に螺合してハウジング14の内部に回転可能に支持される第一ボールねじナット17(第一ナット)と、第二雄ねじ溝11b2に螺合してハウジング14の内部に回転可能に支持される第二ボールねじナット18(第二ナット)と、第一駆動力を発生する第一駆動源としての第一電動モータ15と、第一電動モータ15とは独立して作動して第二駆動力を発生する第二駆動源としての第二電動モータ16と、第一電動モータ15が発生した第一駆動力を第一ボールねじナット17に伝達し、第一ボールねじナット17を回転させて転舵軸11に軸力を付与する第一動力伝達部と、第二電動モータ16が発生した第二駆動力を第二ボールねじナット18に伝達し、第二ボールねじナット18を回転させて転舵軸11に軸力を付与する第二動力伝達部と、ハウジング14と転舵軸11とに跨って設けられ、ハウジング14に対する転舵軸11の軸方向における相対移動を許容し、且つハウジング14に対する転舵軸11の軸周りにおける相対回転を規制する回転規制部19と、を備える。
【0059】
これによれば、第一ボールねじナット17が第一電動モータ15からの第一駆動力を第一雄ねじ溝11a2を備える第一ボールねじ部11aに伝達し、第二ボールねじナット18が第二電動モータ16からの第二駆動力を第二雄ねじ溝11b2を備える第二ボールねじ部11bに伝達することができる。第一雄ねじ溝11a2は、左ねじ及び右ねじの一方であり、第二雄ねじ溝11b2は、左ねじ及び右ねじの他方であり、これによって第一ボールねじ部11a及び第二ボールねじ部11bは左右ねじ(逆ねじ)の関係にある。
【0060】
このため、転舵装置10は、転舵軸11を軸方向に移動させる際、伝達された第一駆動力及び第二駆動力によって、第一ボールねじ部11aと第二ボールねじ部11bとが、互いに相殺する方向に作用するトルク(第一トルクT1及び第二トルクT2)を発生させる。これにより、ハウジング14に対し、転舵軸11が軸回りに回転することを防止しつつ軸方向に移動させ、左右前輪FW1,FW2を転舵させることができる。
【0061】
また、転舵装置10は、回転規制部19を収容するハウジング14の部位の外形寸法が、従来のEPSギヤのハウジングのピニオン軸収納部よりも格段に小さく抑えられつつ、且つ安価な回転規制部19を備える。これにより、転舵装置10を安価に製造できると共に転舵装置10の小型化に寄与できる。また、転舵装置10では、第一電動モータ15又は第二電動モータ16の何れか一方のモータ(駆動源)の失陥時においても、回転規制部19では、ハウジング14に対する転舵軸11の相対回転が良好に規制された状態で転舵軸11の軸方向への移動ができる。このため、転舵が良好に制御でき、信頼性が向上する。つまり、一方の駆動源の失陥時においても、車両を安全な場所に確実に移動させることができる。
【0062】
また、回転規制部19は、第一トルクT1及び第二トルクT2が発生する通常時においては、何ら転舵軸11の回転を規制しないように配置できる。これにより、回転規制部19としては、簡易的な構造とすることが可能である。そして、回転規制部19が簡易的な構造であっても、例えば、第一電動モータ15及び第二電動モータ16の一方が作動不能になった状況においては、一時的に転舵軸11のハウジング14に対する相対回転を規制することが可能である。従って、転舵装置10を安価にすることができると共に、上述した第一トルクT1及び第二トルクT2を発生させることに加えて冗長的に転舵軸11のハウジング14に対する相対回転を機械的に防止する構造を有することができる。
【0063】
また、上記実施形態によれば、第一電動モータ15及び第二電動モータ16は、互いに協働して転舵軸11を軸方向に移動させるように、自身を基準として同一方向となる第一駆動力及び第二駆動力を第一ボールねじナット17及び第二ボールねじナット18を介して転舵軸11に伝達するように構成される。このように、通常時において転舵軸11は、回転規制部19を用いずともハウジング14に対する相対回転が良好に規制された状態で軸方向への移動が制御される。
【0064】
また、上記実施形態によれば、転舵装置10においては、第一ボールねじナット17に伝達された第一駆動力によって第一ボールねじ部11aにおいて発生する第一トルクT1と、第二ボールねじナット18に伝達された第二駆動力によって第二ボールねじ部11bにおいて発生する第二トルクT2とは、絶対値が等しい。そして、転舵装置10においては、第一電動モータ15及び第二電動モータ16は、転舵軸11を軸方向に移動させる際に、第一トルクT1及び第二トルクT2の絶対値が等しくなるように、第一駆動力及び第二駆動力を発生させる。更には、転舵装置10においては、第一駆動力及び第二駆動力の絶対値が等しく、且つ、第一ボールねじナット17が第一ボールねじ部11aに回転速度を減速して伝達する第一減速比G1及び第二ボールねじナット18が第二ボールねじ部11bに回転速度を減速して伝達する第二減速比G2が等しい。
【0065】
これらによれば、第一ボールねじ部11aと第二ボールねじ部11bとに互いに相殺する第一トルクT1及び第二トルクT2をより確実に発生させることができ、転舵軸11を軸方向に確実に移動させる、即ち、左右前輪FW1,FW2を確実に転舵することができる。従って、転舵軸11と第一ボールねじナット17及び第二ボールねじナット18とが共に軸回りに回転することを良好に防止して転舵軸11をより確実に軸方向に移動させて左右前輪FW1,FW2を転舵することができる。
【0066】
また、上記実施形態によれば、第一ボールねじナット17は、第一ボールねじ部11aの第一雄ねじ溝11a2に螺合する第一螺合部材であり、第二ボールねじナット18は、第二ボールねじ部11bの第二雄ねじ溝11b2に螺合する第二螺合部材である。
【0067】
これによれば、第一螺合部材及び第二螺合部材として構造が簡単であり且つ比較的安価な第一ボールねじナット17及び第二ボールねじナット18を用いることができる。これにより、転舵装置10の製造コストを低減することができ、転舵装置10を安価で提供することが可能となる。
【0068】
(2.変形例)
(2-1.第一変形例)
上記実施形態においては、回転規制部19は、突起21及び溝23を転舵軸11の外周面の周方向において、任意の位置に一箇所だけ設ける態様について説明した。しかしこの態様には限らない。図7に示すように、第一変形例として、回転規制部119は、突起121及び溝123が、転舵軸111の軸周りに等角度間隔(例えば45deg間隔)で複数(例えば8個)設けられてもよい。なお、45deg間隔及び8個はあくまで一例を示したのみであって、任意に設定すればよい。
【0069】
このように、突起121及び溝123を転舵軸111の軸周りに等角度間隔で複数配置することにより、上記実施形態と同様の効果を得られるとともに、転舵軸111は、ハウジング114内で軸心位置に安定して配置できる。また、突起121及び溝123を複数備えるので、ハウジング114に対する転舵軸111の軸周りにおける相対回転を規制する際、各突起121が溝123内の側面と当接して受け持つ分担荷重は小さくなり耐久性が向上する。
【0070】
(2-2.第二変形例)
上記実施形態の第二変形例として、図8に示すように、回転規制部219は、突起21、121及び溝23、123ではなく、転舵軸211に設けられる転舵軸側係合部221と、ハウジング214側に設けられるハウジング側係合部223とを備えていてもよい。
【0071】
図8に示すように、転舵軸側係合部221は、転舵軸211の外周面において、所定の曲率で形成される円柱外周面211aとは異なる曲率で形成される。つまり、軸線と直交する転舵軸211の断面形状がD形状に形成され、D形状における直線部で形成される面が転舵軸側係合部221として形成される。そして、ハウジング側係合部223は、転舵軸側係合部221と面同士で対向する転舵軸対向面に設けられ転舵軸側係合部221と当接するよう形成される。このとき、面同士で当接する転舵軸側係合部221とハウジング側係合部223との係合部を当接部217と称す。
【0072】
そして、当接部217におけるハウジング側係合部223と転舵軸側係合部221との間には、上記で説明した潤滑部のうちのいずれか一つの潤滑剤(フッ素樹脂コーティングFC、固体潤滑剤(二硫化モリブデンやグラファイト)、又は液状の潤滑剤、図略)を備えていることが好ましい。これにより、軸方向における転舵軸211とハウジング214との間の相対移動時において、当接部217では、ハウジング側係合部223が転舵軸側係合部221上を良好に摺動できる。
【0073】
なお、第二変形例の構造の一例を説明すると、当接部217のハウジング側係合部223は、図8に示すように、ハウジング214とは別体で形成され、ハウジング214に対して相対移動可能となるようハウジング14に設けられるガイド部材215の所定の面に形成されてもよい。このとき、ガイド部材215は、例えば、円柱形状又は円筒形状に形成され、転舵軸211と対向する転舵軸対向面(図8において右側の端面)にハウジング側係合部223が形成されればよい。この場合、ガイド部材215は、図8に示すようにハウジング214内に配置され、ハウジング側係合部223の背向面が、ハウジング214に螺着されるプラグ216によって支持される。
【0074】
このとき、プラグ216は、ハウジング214に形成されためねじに螺着される。そして、プラグ216の端面によってガイド部材215におけるハウジング側係合部223の背向面を転舵軸211側に付勢してガイド部材215を固定する。このような構成によって、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0075】
また、図8に示すように、プラグ216とガイド部材215との間にコイルスプリング等の付勢部材218を介在させてもよい。つまり、付勢部材218によって、ガイド部材215を転舵軸211側に付勢する付勢力の大きさを所定の大きさに制御してもよい。これにより、軸方向における転舵軸211とハウジング214との間の相対移動時における摺動抵抗を精度よく制御でき、確実に相対移動可能とすることができる。
【0076】
なお、第二変形例においては、ハウジング側係合部223は、ハウジング214と別体で形成されたガイド部材215に設けられた。しかし、この態様には限らず、ハウジング側係合部223は、ハウジング214と一体で形成された一体形成部分に形成されてもよい(図略)。
【0077】
(2-3.第三変形例)
上記実施形態の第三変形例として、回転規制部319は、図9に示すような転舵軸311に設けられる転舵軸側係合部321と、ハウジング314に設けられるハウジング側係合部323とを備えていてもよい。このとき、転舵軸側係合部321は、第二変形例における転舵軸側係合部221と同じ形状であるものとする。
【0078】
ハウジング側係合部323は、図9に示すように、円柱状のローラ315の外周面に形成される。ローラ315は、自身の回転軸が、回転軸の両端に配置されるボールベアリング316を介してハウジング314に軸回りに回転可能に支持される。このように構成されることにより、ローラ315の外周面であるハウジング側係合部323が、転舵軸側係合部321と当接部317で当接する。このとき、当接部317は、直線で相互に接触している。
【0079】
そして、ハウジング314に対する転舵軸311の軸方向における相対移動時には、ローラ315が転舵軸側係合部321上を転動し、相対移動を可能とする。また、ハウジング314に対する転舵軸311の軸周りにおける相対回転は、直線状に当接する当接部317によって確実に規制される。これにより、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0080】
なお、当接部317におけるローラ315の外周面(ハウジング側係合部323)と転舵軸側係合部321との間には、上記で説明した潤滑部のうちのいずれか一つの潤滑剤(フッ素樹脂コーティング(図略)、固体潤滑剤(二硫化モリブデンやグラファイト、図略)、又は液状の潤滑剤(図略)を備えていることが好ましい。これにより、軸方向における転舵軸311及びハウジング314の相対移動時において、当接部317では、ハウジング側係合部323と転舵軸側係合部321とが摩擦によって摩耗することを効果的に抑制できる。
【0081】
(2-4.第四変形例)
上記実施形態の第四変形例として、図10図11に示すように、回転規制部419は、転舵軸側係合部が、ラック歯421によって形成され、ハウジング側係合部が、ラック歯421と噛合するピニオンギア415のピニオン歯423によって形成されてもよい。第四変形例において、ピニオンギア415は、図10図11に示すように軸状に形成され、回転軸が、両端に配置されるボールベアリング416、416を介してハウジング414の内周面に自身の軸心周りに回転可能に支持される。各ボールベアリング416は、各プラグ418によって、回転軸C2の軸方向外方から支持され固定される。なお、このようなボールベアリングによる支持方法は、公知であるとともに発明の主要な部分ではないため、これ以上詳細な説明については行なわない。
【0082】
第四変形例において、回転規制部419のピニオンギア415は、図11に示すように、ピニオン歯423(ハウジング側係合部)の歯筋TL2が、ピニオンギア415の回転軸C2(軸心)と平行になるよう形成される。また、ピニオンギア415は、回転軸C2が転舵軸11の中心軸C1の軸方向と直交するよう配置される。また、回転規制部419のラック歯421(転舵軸側係合部)は、図11に示すように、歯筋TL1が転舵軸411の中心軸C1の軸方向と直交して形成される。また、ラック歯421の歯筋TL1は、ピニオンギア415のピニオン歯423(ハウジング側係合部)の歯筋TL2と平行に形成される。そして、ラック歯421は、ピニオン歯423と歯面同士で当接し係合する。このとき、歯面同士で当接するラック歯421とピニオン歯423との係合部を当接部417と称す。
【0083】
そして、当接部417におけるピニオン歯423とラック歯421との間には、上記で説明した潤滑部のうちのいずれか一つの潤滑剤(フッ素樹脂コーティングFC(図略)、固体潤滑剤(二硫化モリブデンやグラファイト、図略)、又は液状の潤滑剤(図略))を備えていることが好ましい。これにより、軸方向における転舵軸411及びハウジング414の相対移動時において、当接部417では、ピニオン歯423とラック歯421とが摩擦によって摩耗することを効果的に抑制できる。
【0084】
なお、上述した様に、当接部417には、通常大きな力は加わらない。また、緊急時においても、避難用として短時間作動できればよい。このため、ピニオン歯423及びラック歯421に大きな強度は必要ない。また、噛合い部の強度向上や騒音低減を図るため、ピニオン歯423及びラック歯421の各歯をはす歯にする必要もない。このため、各歯車に軸方向の付勢力が付与されないので、歯車装置としての構造が簡素化でき、低コスト化を図ることができる。
【0085】
また、ピニオンギア415の歯筋TL2をピニオンギア415の回転軸C2と平行に形成しつつ、ピニオンギア415の回転軸C2を転舵軸11の中心軸C1の軸方向と斜交させ、ラック歯421の歯筋TL1を転舵軸11の中心軸C1の軸方向と斜交させるようにしてもよい。この構成でも、ピニオンギア415を押出し成形等により容易に製造でき、転舵装置10の低コスト化が図れる。
【0086】
このような構成によって、転舵装置10では、上記実施形態と同様の効果が期待できる。つまり、第一電動モータ15又は第二電動モータ16の何れか一方のモータ(駆動源)の失陥時においても、回転規制部419では、ハウジング414に対する転舵軸411の相対回転が良好に規制された状態で転舵軸411の軸方向への移動がスムーズにできる。このため、一方の駆動源の失陥時においても、車両を安全な場所に確実に移動させることができる。
【0087】
なお、上記第二変形例においては、回転規制部219は、転舵軸211に設けられる転舵軸側係合部221と、ハウジング214に設けられるハウジング側係合部223とを備えた。そして、転舵軸側係合部221及びハウジング側係合部223は、面同士で当接し、転舵軸211及びハウジング214の軸方向における相対移動を許容するとともに、ハウジング214に対する転舵軸211の相対回転を規制した。
【0088】
しかしながら、この態様には限らず、図12に示すように、回転規制部219は、転舵軸側係合部221及びハウジング側係合部223が当接する際、少なくとも一点で当接し係合するように各係合面が形成されてもよい。なお、図12においては、ハウジング側係合部223が転舵軸側係合部221に一点で当接している状態を示している。この場合、転舵軸側係合部221は、第二変形例と同様の形状とし、ハウジング側係合部223が凹凸を備えた面で形成されるものとする。そして、ハウジング側係合部223の凹凸の頂点TPが転舵軸側係合部221と一点で当接し、当接部517を形成するものとする。
【0089】
このとき、転舵軸側係合部221にハウジング側係合部223の凹凸の頂点TPを一点だけ当接させる場合の当接位置は、転舵軸211の軸線CLを通過し且つ軸線CLと直交する、転舵軸側係合部221の法線Lと転舵軸側係合部221との交差位置とすればよい。これにより、ハウジング214に対する転舵軸211の軸回りにおける相対回転を良好に規制できる。これによっても、上記実施形態に対し相応の効果が期待できる。なお、上記態様に限らず、上記実施形態と同様の効果を安定して得るためには、転舵軸側係合部221及びハウジング側係合部223の当接部では、二点以上で当接させることが望ましい(図略)。
【0090】
(3.その他)
なお、上記実施形態においては、第一動力源としての第一電動モータ15と第一螺合部材である第一ボールねじナット17と、がプーリ15a及びベルト15bを介して動力伝達可能に連結されるようにした。又、第二動力源としての第二電動モータ16と、第二螺合部材である第二ボールねじナット18と、がプーリ16a及びベルト16bを介して動力伝達可能に連結されるようにした。即ち、上記実施形態においては、第一電動モータ15の出力軸及び第二電動モータ16の出力軸は、転舵軸11と平行となるように構成した。
【0091】
しかしながら、上記態様に限らず、第一電動モータ15及び第二電動モータ16と同様に構成される第一電動モータ(図略)及び第二電動モータ(図略)を転舵軸11と同軸に配置しても良い。つまり、第一駆動力及び第二駆動力を直接的に第一ボールねじナット17及び第二ボールねじナット18に伝達するように構成してもよい。この場合には、第一電動モータのロータ(図略)と第一ボールねじナット17とが一体に連結され、第二電動モータのロータ(図略)と第二ボールねじナット18とが一体に連結されて構成される。
【0092】
このように、第一電動モータ及び第二電動モータが転舵軸11と同軸に配置された場合であっても、転舵装置10は、上記実施形態と同様に作動する。従って、上記実施形態と同様の効果が得られると共に、この第一変形例では、特に、転舵軸11の径方向における転舵装置10の更なる小型化が可能となる。
【0093】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態及び上記各変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0094】
例えば、上記実施形態においては、第一電動モータ15及び第二電動モータ16の出力軸が互いに対向するようにハウジング14に固定されるようにした。これに代えて、第一電動モータ15及び第二電動モータ16を出力軸が転舵軸11の左右方向にて同一方向となるように配置することも可能である。又、第一電動モータ15及び第二電動モータ16をハウジング14の周方向、及び径方向の少なくとも一方をずらして配置することも可能である。このように、第一電動モータ15及び第二電動モータ16がハウジング14に固定されて第一駆動力及び第二駆動力を発生するように構成することが可能である。
【0095】
この場合においても、転舵軸11の第一領域及び第二領域に設けられる第一ボールねじ部11a及び第二ボールねじ部11bが左右ねじ(逆ねじ)である。従って、転舵軸11を軸方向に移動させる場合、例えば、第二電動モータ16は第一電動モータ15が発生する第一駆動力に対して第一駆動力とは逆向きとなる第二駆動力を発生させる。
【0096】
これにより、第一ボールねじ部11aにて発生する第一トルクT1と第二ボールねじ部11bにて発生する第二トルクT2とは、絶対値が等しく且つ逆向きとなり、その結果、転舵軸11の回転を防止することができる。従って、この場合には、上記実施形態及び上記各変形例と同様の効果が得られると共に、例えば、転舵装置10を車両に組み付ける際の搭載上の自由度をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0097】
1…操舵装置、11、111、211、311、411…転舵軸、14、114、214、314,414…ハウジング、15…第一電動モータ(第一駆動源)、15a…プーリ(第一動力伝達部)、15b…ベルト(第一動力伝達部(無端部材))、16…第二電動モータ(第二駆動源)、16a…プーリ(第二動力伝達部)、16b…ベルト(第二動力伝達部(無端部材))、17…第一ボールねじナット(第一ナット)、18…第二ボールねじナット(第二ナット)、19、119、219、319、419…回転規制部、21、121…突起(転舵軸側係合部)、22…環状部材、22a…環状部材外周面、23、123…溝(ハウジング側係合部)、221、321、421…転舵軸側係合部、223、323、423…ハウジング側係合部、215…ガイド部材、217、317、417…当接部、315…ローラ、415…ピニオンギア、TL1…歯筋、TL2…歯筋。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12