(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】化粧シート及び化粧部材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20230711BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/40
(21)【出願番号】P 2019080110
(22)【出願日】2019-04-19
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】折原 隆史
(72)【発明者】
【氏名】冨永 孝史
(72)【発明者】
【氏名】大久保 透
(72)【発明者】
【氏名】村田 大輔
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-025653(JP,A)
【文献】特開2001-347618(JP,A)
【文献】特開2017-030170(JP,A)
【文献】特開平09-085905(JP,A)
【文献】特開2016-210141(JP,A)
【文献】特開2014-069505(JP,A)
【文献】特開2005-194170(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152094(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 1/00-201/10
C08G 18/00-18/87
C08G 71/00-71/04
B05D 1/00-7/26
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、
前記基材層の一方の面に積層されたプライマー層と、を備え、
前記プライマー層は、ウレタン系樹脂と塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合樹脂との混合体を含む主成分と、前記主成分に対して添加されたセルロース樹脂とシリカと、を含み、
前記ウレタン系樹脂は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリアルキレングリコール及びポリイソシアネートを構成要素として
おり、
前記シリカの平均粒径は、1μm以上20μm以下の範囲内であり、
前記シリカの添加量は、前記主成分の100質量部に対して1質量部以上15質量部以下の範囲内である
ことを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記セルロース樹脂は、セルロースアセテートブチレートであること
を特徴とする請求項1に記載した化粧シート。
【請求項3】
前記セルロース樹脂の添加量は、前記主成分100質量部に対して1質量部以上15質量部以下の範囲内であること
を特徴とする請求項1または2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記ウレタン系樹脂は、前記構成要素としてネオペンチルグリコールをさらに含み、
前記ポリイソシアネートは、ジイソシアネート及び該ジイソシアネートの水添物のうち少なくとも一方であり、
前記ウレタン系樹脂の前記構成要素の各単位としてのカプロラクトンユニット、アルキレングリコールユニット、ジイソシアネートユニット、及び前記ネオペンチルグリコールの物質量をそれぞれX,Y,Z,Nとした場合に、以下の関係式(1)~(3)を満たす
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の化粧シート。
3<(X+Y+Z)/N<50 …(式1)
0.1<X/Y<10 …………(式2)
Z/(X+Y+Z+N)<0.5…(式3)
【請求項5】
木質系材料または金属系材料により形成された基板と、
前記基板の表面側に貼り合わされた請求項1から4のいずれか1項に記載の化粧シートと、
を備えることを特徴とする化粧部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート及び化粧部材に関する。
【背景技術】
【0002】
壁、天井、床、玄関ドア等の建築物の内装材または外装用部材、窓枠、扉、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具または造作部材には、一般的に、鋼板等の金属部材、樹脂部材、木質部剤を被着剤(基材)として、これらの被着剤に化粧シートを貼りあわせた化粧部材が用いられる。このような化粧部材に用いる化粧シートは、基材との接着性を向上させるため、化粧シートの裏面(接着面)に裏面プライマーとしてバックコート層が形成される場合がある(例えば特許文献1)。
【0003】
建材用途の化粧シートは、特に高温多湿になり得る建物外装材や浴室の壁材等に用いる場合に高温多湿に対する耐久性(耐湿熱性)が要求される。しかしながら、従来の化粧シートでは、高温多湿の環境下においてプライマーが加水分解を生じ易く、化粧シートと基材とが十分な密着性を保てなくなるという問題がある。
また、例えば基材と貼り合わせる前の化粧シートをロール状で保管していると、フィルム原反同士が密着し、ブロッキングが発生する場合がある。ブロッキングの強度が大きくなると、印刷ロールを剥がした際に、インキの剥がれやフィルム原反が切れる等の問題ある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐湿熱性に優れ、かつ安定した接着強度を維持してブロッキングの発生を抑制可能な化粧シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、基材層と、前記基材層の一方の面に積層されたプライマー層と、を備え、前記プライマー層は、ウレタン系樹脂と塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合樹脂との混合体を含む主成分と、前記主成分に対して添加されたセルロース樹脂とシリカと、を含み、前記ウレタン系樹脂は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリアルキレングリコール及びポリイソシアネートを構成要素としており、前記シリカの平均粒径は、1μm以上20μm以下の範囲内であり、前記シリカの添加量は、前記主成分の100質量部に対して1質量部以上15質量部以下の範囲内である。
また、本発明の他の態様は、木質系材料または金属系材料により形成された基板と、前記基板の表面側に貼り合わされた上記一態様による化粧シートと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、耐湿熱性に優れ、かつ安定した接着強度を維持してブロッキングの発生を抑制可能な化粧シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る化粧シートを表す断面図である。
【
図2】本発明の変形例に係る化粧シートを表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のある実施形態に係る化粧シート及び化粧部材について、図面を参照しつつ説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識を基に設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた形態も、本発明の範囲に含まれる。また、各図面は、理解を容易にするため適宜誇張して表現している場合がある。また、各図面において、「表面」とは、化粧シートの基材における一方の面(表面、おもて面)を基準として、同じ向きの面を各層の「表面」とし、各層の「表面」と反対側の面(他方の面)を「裏面」と称する。
【0010】
(構成)
図1に示すように、本発明の実施形態に係る化粧部材100は、基板11と、基板11の表面11a側に貼り合わせて設けられた化粧シート10と、を備えている。
(基板)
基板11の材料としては、例えば、木質系材料、金属系材料を用いることができる。木質系材料としては、例えば、木材単板、木材合板、集成材、パーティクルボード、中密度繊維板、硬質繊維板を採用することができる。また、金属系材料としては、例えば、鋼板、真鍮板、アルミニウム板、ジュラルミン板、ステンレス板を採用することができる。基板11と化粧シート10との間には、必要に応じて、例えば、接着剤層を設けてもよい。
【0011】
(化粧シート)
図1に示すように、本発明の実施形態に係る化粧シート10は、基材層1と、基材層1の表面1a側に設けられた絵柄層2と、絵柄層2の表面2a側に設けられた接着性樹脂層3と、接着性樹脂層3の表面3a側に設けられた透明樹脂層4と、透明樹脂層4の表面4a側に設けられた表面保護層5と、基材層1の裏面1b側(一方の面側の一例)に設けられたプライマー層6と、を備える。化粧シート10は、裏面1b側においてプライマー層6を介して基板11に張り付けられる。なお、場合によりプライマー層6と基板11の表面11aとの間に所定の接着剤層を設けてもよい。
【0012】
化粧シート10は、基材層1の一方の面(
図1中において、基材層1の裏面1b)にプライマー層6を積層し、基材層1の他方の面(
図1中において、基材層1の表面1a)、絵柄層2、接着性樹脂層3、透明樹脂層4および表面保護層5を積層して形成されている。絵柄層2、接着性樹脂層3、透明樹脂層4および表面保護層5を総称して「化粧層」という場合がある。なお、化粧シート10において、プライマー層6を除く構成は、特に限定されるものではない。化粧シート10の厚さは40μm以上300μm以下が好ましい。
【0013】
また、表面保護層5の表面5aには、エンボス加工により形成された凹凸模様15が設けられている。凹凸模様15としては、例えば、絵柄層2の絵柄と同調した模様や、絵柄と非同調の模様を用いることができる。凹凸模様15の凹凸の深さは、耐汚染性能や触感性能等の面から、10μm以下が好ましい。
【0014】
(基材層)
基材層1の材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂を用いることができる。ポリオレフィン系樹脂としては、特に制限はなく、従来の化粧シートで基材に使用されている熱可塑性樹脂と同様のものを使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン樹脂や、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体金属中和物(アイオノマー)等のオレフィン系共重合体樹脂等のポリオレフィン系樹脂等、或いはこれらの2種以上の混合物、共重合体、複合体、積層体等を使用できる。
【0015】
ポリオレフィン系樹脂としては、既に列挙した多くの種類から、化粧シート10の使用目的等に応じて適宜選択して使用すればよい。特に、一般的な用途に最も好適なのは、ポリプロピレン系樹脂、すなわち、プロピレンを主成分とする単独又は共重合体である。例えば、ホモポリプロピレン樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂、ブロックポリプロピレン樹脂等を単独又は適宜配合したり、それらに更にアタクチックポリプロピレンを適宜配合した樹脂等を使用することができる。また、プロピレン以外のオレフィン系単量体を含む共重合体であってもよく、例えば、ポリプロピレン結晶部を有し、且つプロピレン以外の炭素数2~20のα-オレフィン、好ましくはエチレン、ブテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1又はオクテン-1のコモノマーの1種又は2種以上を15モル%以上含有するプロピレン-α-オレフィン共重合体等を例示できる。また、通常ポリプロピレン系樹脂の柔軟化に用いられている低密度ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-プロピレン共重合ゴム、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体又はその水素添加物等の改質剤を適宜添加できる。
【0016】
また、本実施形態における基材層1は、不透明に着色された着色熱可塑性樹脂層であって隠蔽性を有することが好ましい。これにより、基材層1は、例えば化粧シート10と基板11とを貼り合わせて化粧部材100を形成する際に、基板表面の色のばらつきや欠陥等を隠蔽することができる。また、基板11の表面の質感を活かす場合、基材層1は、基板11の表面を透視可能な程度の透明性を有する着色熱可塑性樹脂層であることが好ましい。
【0017】
(絵柄層)
絵柄層2は、化粧シート10に絵柄による意匠性を付与するための層である。絵柄層2は、印刷インキやコーティング剤等を用いて形成される。印刷インキ等としては、特に制限はなく、従来の化粧シートで絵柄層に使用されている印刷インキ等と同様のものを使用できる。例えば、アクリル系インキを用いることができる。アクリル系インキとしては、例えば、アクリルポリオール系ビヒクルにイソシアネート硬化剤を配合してなる2液硬化型ウレタン樹脂をバインダ樹脂に用いたインキを使用することができる。また、絵柄層2には、その他の樹脂成分を必要に応じ添加してもよい。絵柄層2のバインダ樹脂以外の成分としては、例えば、顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、光安定剤など各種添加剤などを用いることができる。顔料としては、例えば、縮合アゾ、不溶性アゾ、キナクリドン、イソインドリン、アンスラキノン、イミダゾロン、コバルト、フタロシアニン、カーボン、酸化チタン、酸化鉄、雲母等のパール顔料等が挙げられる。
【0018】
絵柄層2を設ける方法は、特に限定さるものではなく、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、インキジェット印刷など通常の印刷方法を用いることができる。また、絵柄層2の絵柄としては、任意の絵柄を用いることができ、例えば、木目柄、石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学模様等、或いはこれらの2種類以上の組み合わせ等を用いることできる。
【0019】
(接着性樹脂層)
絵柄層2を印刷形成した基材層1に透明樹脂層4を接合する方法は特に限定されるものではなく、例えば、必要に応じて接着性樹脂層3を介した熱ラミネート、押出ラミネート、ドライラミネート、サンドラミネートなどの各種ラミネート手法を用いることができる。
接着性樹脂層3の材料は、特に限定されるものではなく、例えば、ウレタン系、アクリル系、アクリルシリコン系、フッ素系、エポキシ系などの樹脂材料から適宜選択して用いることができる。接着性樹脂層3は、適宜選択しインキ化した材料を、例えば、グラビアコート、マイクログラビアコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコートなど通常の塗布方法を用いて形成される。
【0020】
(透明樹脂層)
透明樹脂層4の材料は、特に限定されるものではなく、例えば、ポリオレフィンが好適に用いられる。ポリオレフィン系樹脂としては、特に制限はなく、従来の化粧シートで基材に使用されている熱可塑性樹脂と同様のものを使用できる。本実施形態において、透明樹脂層4は、例えば透明熱可塑性樹脂層として形成される。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテンや、各種αオレフィンコポリマ(プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどの共重合体)が用いられる。透明樹脂層4は、必要に応じて、例えば、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、着色剤、光散乱剤および艶調整剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0021】
透明樹脂層4の作製方法は、特に限定されるものではなく、例えば、カレンダー成膜や押出成膜など通常の方法を用いることができる。
【0022】
(表面保護層)
表面保護層5は、化粧シート10に耐候性、耐傷性、耐汚染性、意匠性などの機能を付与するために設けられた層である。表面保護層5の材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、ウレタン系、アクリル系、アクリルシリコン系、フッ素系、エポキシ系などの樹脂材料より適宜選択して用いられる。
表面保護層5は、必要に応じて、例えば、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、着色剤、光散乱剤および艶調整剤等の各種添加剤を配合してもよい。
表面保護層5の形成方法は、特に限定されるものではなく、前述の材料を塗液化したものを、例えばグラビアコート、マイクログラビアコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコートなど通常の方法で塗布した後、熱硬化や紫外線硬化など材料に適合した方法で硬化させることで表面保護層5を形成する。
【0023】
(プライマー層)
プライマー層6は、プライマー(下塗り剤)を基材層1の一方の面(本例では裏面1b)に塗布することで形成されている。また、基材層1の一方の面に形成されたプライマー層6は、裏面プライマーと呼称される場合がある。
【0024】
プライマーは、被着材表面の接着性を改善するために塗布する、不揮発分の少ない低粘度液体である。プライマー層6の上に接着剤を塗布する場合には、プライマーが充分に乾いたところで接着剤を塗り重ねる。プライマーの種類は、被着材や接着剤の種類に応じて異なる。
本実施形態では、プライマー層6の構成を、主成分が、ウレタン系樹脂と、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合樹脂(以下、「塩酢ビ樹脂」と記載する場合がある)と、の混合体を含んで形成されている。なお、主成分とは、例えば、全体の50質量%以上を表す。
【0025】
本実施形態のウレタン樹脂は、公知技術、即ちポリオールとポリイソシアネートとの付加重合反応により合成できる。当該ウレタン樹脂の末端は、通常は水酸基またはアミンで封止されたイソシアネート基である。当該ウレタン樹脂の末端を水酸基とする場合は、上述の主成分に、例えばイソシアネートなどの硬化剤を配合することでプライマー層6を硬化させることができる。
【0026】
プライマー層6の主成分におけるウレタン樹脂としては、特定の構成要素、即ちポリカプロラクトンポリオール、ポリアルキレングリコール及びポリイソシアネートを少なくとも含むウレタン樹脂を用いることが好ましい。上述のウレタン樹脂は、公知技術、即ちポリオールとポリイソシアネートとの付加重合反応により合成できる。
【0027】
本実施形態においてプライマー層6の主成分が含有するウレタン樹脂を構成するポリカプロラクトンポリオールは、εカプロラクトンの開環重合で得られる材料であり、内部にエステル結合を有する。このため、ポリカプロラクトンポリオールは、プライマー層6において、種々の素材で形成される基板11および基板11と化粧シートとの間に適宜設けられる接着剤層に対して良好な密着力を有し、と化粧シート10との密着性の向上に寄与する。また、上述のポリカプロラクトンポリオールは、例えばアジピン酸などのジカルボン酸とジオールとの重縮合で得られる汎用ポリエステルポリオールと比べて、一般に耐加水分解性が優れている。
【0028】
また、本実施形態において上述のウレタン樹脂を構成するポリアルキレングリコールは、ポリエーテル構造を有しており、前述のポリカプロラクトンポリオールに対し耐加水分解性に劣るが、柔軟性に優れている。このため、加工時における曲げ加工密着性が向上される。本実施形態に用いるウレタン樹脂の構成要素として、ポリアルキレングリコールとポリカプロラクトンポリオールとを併用することで、高温多湿環境下での加水分解への耐久性(耐湿熱性)及び加工性を向上させることができる。
ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを用いることができ、疎水性が大きいポリテトラメチレングリコールが高温多湿に対する耐久性(耐湿熱性)の観点から好ましい。
【0029】
本実施形態において上述のウレタン樹脂は、構成要素として、さらにネオペンチルグリコールを含むことが好ましい。ネオペンチルグリコールを含有させることで耐湿熱性が向上する。
本実施形態のポリカプロラクトンポリオール及びポリアルキレングリコールは、例えば、市販の各種材料から分子量や官能機数(一分子あたりの水酸基数)などの観点より適宜選択して用いることができる。
【0030】
また、本実施形態において上述のウレタン樹脂を構成するポリイソシアネートは、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどのジイソシアネート及びその水添物などを用いることができ、耐湿熱性の点でイソホロンジイソシアネートが好適である。
【0031】
本実施形態のウレタン樹脂の組成は特に限定されるものではないが、塗布形成されるプライマー層6の適性や化粧シート10の諸性能を考慮すると、下記構造式に示すウレタン樹脂の構成要素の各単位(カプロラクトンユニット(CLユニット)、アルキレングリコールユニット(AGユニット)、ジイソシアネートユニット(Iユニット)、ネオペンチルグリコールユニット(NPGユニット)の物質量をそれぞれX,Y,Z,Nとしたときに、以下の関係式(式1~3)を満たすことが望ましい。
【0032】
【0033】
3<(X+Y+Z)/N<50 …(式1)
0.1<X/Y<10 …………(式2)
Z/(X+Y+Z+N)<0.5…(式3)
【0034】
本実施形態のウレタン樹脂の分子量は特に限定されるものではないが、通常印刷によって形成されるプライマー層6の印刷適性や化粧シート10の諸性能を考慮すると、重量平均分子量(Mw)が5,000から100,000の範囲であることが望ましい。
【0035】
また、プライマー層6の主成分におけるウレタン系樹脂と塩酢ビ樹脂との混合体には、セルロース樹脂が添加されている。
セルロース樹脂としては、例えばエステル基を持つセルロース樹脂や酢酸セルロース等を用いることができる。特に、エステル基を持つセルロース樹脂のうちセルロースアセテートブチレート(CAB)は、プライマー層6において耐ブロッキング性に寄与する。セルロースは天然のものでも人工のものでも構わない。
セルロース樹脂の添加量は、主成分100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下の範囲内であることが望ましい。以下、ここで挙げたセルロース樹脂の添加量の範囲を、適正範囲と称する場合がある。
【0036】
さらに、プライマー層6の主成分におけるウレタン系樹脂と塩酢ビ樹脂との混合体には、シリカが添加されている。
本実施形態において、シリカの平均粒径は、1μm以上20μm以下の範囲内であることが望ましい。
ここで、上記「平均粒径」の測定方法としては、例えば、Malvern Panalytical社製Mastersizer3000測定器を用いて測定することが好ましい。また、この測定器と同様の主旨で平均粒径を測定する測定器であればこの測定器に限られない。
またシリカの添加量は、主成分の100質量部に対して1質量部以上15質量部以下の範囲内であることが望ましい。プライマー層6において、上述の主成分に対しシリカを添加すると、化粧シート10の巻取保存時のブロッキングの防止や投錨効果による接着力の向上に有効である。以下、ここで挙げたシリカの平均粒径および添加量の範囲を、適正範囲と称する場合がある。
【0037】
なお、プライマー層6には、上述の主成分に対し、セルロース樹脂およびシリカ以外にも、所定の添加物が添加されてもよい。所定の添加剤としては、例えば硬化剤が添加されてもよい。例えば上述のウレタン樹脂の硬化に用いる硬化剤は特に限定されるものではく、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等のポリイソシアネート及びその水添物、あるいはジフェニルメタンジイソシアネート及びその水添物などを含む市販の硬化剤から適宜選択して用いることができる。
【0038】
(凹凸模様)
凹凸模様15は、化粧シート10の表面に立体的な意匠感を付与するためのものである。凹凸模様15としては、任意の凹凸形状を用いることができる。例えば、木目導管状、石目状、布目状、抽象柄状、和紙状、スウェード状、皮革状、梨地状、砂目状、ヘアーライン状、平行直線群、或いはこれらの組み合わせ等を用いることができる。また、凹凸模様15の形成方法としては、例えば、基材層1の表面1aに対する表面保護層5の積層前、積層後又は積層と同時に行われる、ダブリングエンボス法、押出ラミネート同時エンボス法等を採用することができる。
【0039】
(変形例)
なお、上記実施形態では、化粧シート10を、基材層1と、絵柄層2と、接着性樹脂層3と、透明樹脂層4と、表面保護層5と、プライマー層6とを備える構成とする例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、
図2に示すように、化粧シート10を、基材層1及びプライマー層6のみを備える構成としてもよい。つまり、化粧シート10には、化粧層(絵柄層2、接着性樹脂層3、透明樹脂層4および表面保護層5)が設けられていなくてもよい。
【0040】
以上説明したように、本実施形態による化粧シート10は、基材層1の裏面1b(一方の面の一例)に積層されたプライマー層6を備える化粧シートであって、プライマー層6は、ウレタン系樹脂と塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合樹脂との混合体を含む主成分と、当該主成分に対して添加されたセルロース樹脂とシリカと、を含み、当該ウレタン樹脂は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリアルキレングリコール及びポリイソシアネートを構成要素としている。これにより、耐湿熱性に優れ、且つ安定した接着強度を維持可能であってブロッキングの発生を抑制可能な化粧シート10を提供することができる。
【0041】
また、プライマー層6の主成分に添加するセルロース樹脂をセルロースアセテートブチレートとし、さらに当該セルロース樹脂の添加量を主成分100質量部に対して1質量部以上15質量部以下の範囲内とすることで、より安定した接着強度を維持可能な化粧シート10を提供可能となる。
また、プライマー層6の主成分に添加するシリカの平均粒径を1μm以上20μm以下の範囲内とし、シリカの添加量を主成分の100質量部に対して1質量部以上15質量部以下の範囲内とすることで、さらに安定した接着強度を維持可能な化粧シート10を提供可能となる。
【0042】
また、本実施形態による化粧部材100は、木質系材料または金属系材料により形成された基板11と、基板11の表面11a側に貼り合わせて形成された本実施形態による化粧シート10とを備える。これにより、耐湿熱性に優れ、且つ安定した接着強度を維持可能な化粧部材100を提供することが可能となる。
【0043】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
<実施例1>
着色ポリエチレン樹脂で形成した基材層1(厚み:55μm)の一方の面(本例では表面11a)に、コロナ放電処理を施した後、ウレタン系印刷インキからなる絵柄層2と、ウレタン系接着剤による接着性樹脂層3と、ポリプロピレン(PP)を材質とする透明熱可塑性樹脂層である透明樹脂層4(厚み:70μm)と、アクリル系樹脂組成物を主成分とした表面保護層5と、をこの順に形成した。
また基材層1のもう一方の面(本例では裏面11b)には、コロナ放電処理を施した後、プライマーを塗布してプライマー層6(厚さ:1μm)を形成し、実施例1の化粧シート10(層厚:135μm)を得た。
実施例1において、プライマー層6のプライマーは、主成分に、ポリオールとして、ポリカプロラクトンポリオール、ポリテトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールを用い、ポリイソシアネートとして、イソホロンジイソシアネートを用いたウレタン樹脂と、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合樹脂との混合体を含有して形成した。また、当該主成分に、セルロース樹脂としてセルロースアセテートブチレート(CAB)を主成分100質量部に対して10質量部添加し、さらに平均粒径が2μmのシリカ粒子を主成分100質量部に対して6質量部添加して実施例1におけるプライマー層6のプライマーを得た。
プライマー層6の形成後、化粧シート10のプライマー層6側の面に建材用接着剤(ノーテープ工業製、No.5211)を用いて、アルミ基材である基板11と化粧シート10とを貼り合せることで化粧部材100を得た。
【0044】
<比較例1>
化粧シート10のプライマー層6において、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合樹脂を無添加とした以外は、実施例1と同様の方法で比較例1の化粧部材100を得た。
<比較例2>
化粧シート10のプライマー層6において、セルロースアセテートブチレートを無添加とした以外は、実施例1と同様の方法で比較例2の化粧部材100を得た。
<比較例3>
化粧シート10のプライマー層6において、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体及びセルロースアセテートブチレート(CAB)を無添加とした以外は、実施例1と同様の方法で比較例3の化粧部材100を得た。
<比較例4>
化粧シート10のプライマー層6の主成分としてポリカプロラクトンポリオールに代えてポリエステルポリオールを用いた以外は、実施例1と同様の方法で比較例4の化粧部材を得た。
<比較例5>
化粧シート10のプライマー層6の主成分としてポリカプロラクトンポリオールに代えてポリエステルポリオールを用い、セルロース樹脂(本例では、セルロースアセテートブチレート(CAB))の添加量を主成分100質量部に対して0.5質量部とした以外は、実施例1と同様の方法で比較例5の化粧部材を得た。
<比較例6>
化粧シート10のプライマー層6の主成分としてポリカプロラクトンポリオールに代えてポリエステルポリオールを用い、セルロース樹脂の添加量を主成分100質量部に対して18質量部とした以外は、実施例1と同様の方法で比較例6の化粧部材を得た。
【0045】
<評価>
上記実施例及び比較例で得られた化粧シートについて、以下の方法で耐ブロッキング性評価及び耐湿熱性評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0046】
(a)ブロッキング試験(耐ブロッキング性評価)
下記実施例、比較例について、5cm×5cm角の化粧シート10を、表(表面保護層5)を上にした状態で10枚重ね、20kgの荷重をかけた状態で、40℃雰囲気下に1週間放置したときのブロッキング状態を確認した。
評価基準
○:容易に剥がすことができ、抵抗もほぼ無し
△:剥がした際に抵抗はあるが、生産上問題無し
×:剥がすことが困難で、生産上も問題有り
【0047】
(b)密着力試験(耐湿熱性評価)
下記実施例、比較例の化粧部材100について、85℃85%環境下に1~4週間放置し、常温常湿で1日乾燥させた後、基板11と化粧シート10との密着力を確認した。
ここで、本発明の目的である「安定した接着強度の維持」とは、例えば、化粧部材100について、温度85℃湿度85%環境(以下、「85℃85%環境」という)下に4週間放置し、常温常湿で1日乾燥させた後、基板11と化粧シート10との密着力が維持されていることが目安である。
評価基準
○:剥離時に剥離界面ができず、シート材破
△:剥離時に剥離界面を生じながらシート材破
×:剥離時にシートが材破せず、剥離界面が生じる
【0048】
【0049】
表1に示すように、実施例1に示した化粧シート10は、耐ブロッキング性及び耐湿熱性の評価結果がいずれも合格「○」となった。一方、表1に示すように、比較例1~4の化粧シート10は、耐ブロッキング性及び耐湿熱性のうち少なくとも一方の評価結果に「×」が含まれ、課題を要する点が見受けられた。
【0050】
具体的には、比較例1では、プライマー層6の主成分に塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合樹脂が含有されていない。このため、比較例1の化粧部材100は、高温多湿環境下において化粧シート10と基板11とが安定した接着強度を維持することができず、85℃85%環境下において4週間目には密着力試験の結果が不合格「×」となった。
また、比較例2では、プライマー層6の主成分にセルロース樹脂(本例ではセルロースアセテートブチレート)が添加されていないため、化粧シート10に十分な耐ブロッキング性が付与されず、ブロッキング試験結果が不合格「×」となった。さらに、比較例2の化粧部材100は、高温多湿環境下において化粧シート10と基板11とが安定した接着強度を維持することができず、85℃85%環境下において4週間目には密着力試験の結果が不合格「×」となった。
また、比較例3では、プライマー層6の主成分に塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合樹脂が含有されず、さらにセルロース樹脂も添加されていない。このため、化粧シート10には十分な耐ブロッキング性が付与されず、ブロッキング試験結果が不合格「×」となった。さらに、比較例3の化粧部材100は、高温多湿環境下において化粧シート10と基板11とが安定した接着強度を維持することができず、85℃85%環境下において3週間目には密着力試験の結果が不合格「×」となった。
また、比較例4の化粧シートでは、プライマー層6の主成分のウレタン樹脂の構成要素として、ポリカプロラクトンポリオールに代えてポリエステルポリオールを用いた。このため、比較例4の化粧部材100は、高温多湿環境下において化粧シート10と基板11とが安定した接着強度を維持することができず、85℃85%環境下において4週間目には密着力試験の結果が不合格「×」となった。
【0051】
また、比較例5の化粧シートでは、セルロース樹脂の添加量を適正範囲(1質量部以上15質量部以下の範囲)の下限値未満(0.5質量部)とした。このため、比較例5の化粧シート10には十分な耐ブロッキング性が付与されず、ブロッキング試験結果が不合格「×」となった。また、比較例5の化粧シートでは、比較例4と同様にプライマー層6の主成分のウレタン樹脂の構成要素としてポリエステルポリオールを用いたため、85℃85%環境下において4週間目には密着力試験の結果が不合格「×」となった。
また、比較例6の化粧シートでは、比較例4と同様にプライマー層6の主成分のウレタン樹脂の構成要素としてポリエステルポリオールを用い、さらにセルロース樹脂の添加量を適正範囲(1質量部以上15質量部以下の範囲)の上限値を超過する値(18質量部)とした。このため、比較例6の化粧部材100は、高温多湿環境下において化粧シート10と基板11とが安定した接着強度を維持することができず、85℃85%環境下において3週間目には密着力試験の結果が不合格「×」となった。
【0052】
これに対し、実施例1の化粧シート10は、特定の構成要素(ポリカプロラクトンポリオール、ポリアルキレングリコール及びポリイソシアネート)を含むウレタン樹脂と、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合樹脂との混合体を含有した主成分に、セルロース樹脂としてセルロースアセテートブチレート(CAB)を適正範囲内の添加量(本例では10質量部)添加し、さらに適正範囲内の平均粒径(本例では、2μm)且つ添加量(本例では6質量部)のシリカ粒子を添加して形成されたプライマー層6を有している。このため、実施例1の化粧シート10には、十分な耐ブロッキング性が付与されてブロッキング試験結果が合格「〇」となった。さらに実施例1の化粧部材100は、高温多湿環境下において化粧シート10と基板11とが安定した接着強度を維持することができた。このため85℃85%環境下で4週間目においても密着力試験の結果が合格「〇」となった。
【0053】
以上のように、実施例1の化粧シート10は、比較例1~4の化粧シート10よりも、耐ブロッキング性および耐湿熱性に優れ、実施例1の化粧シート10を基板11に貼り合わせて形成された化粧部材100部材も同様に耐ブロッキング性および耐湿熱性に優れていることが確認された。
【0054】
本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【符号の説明】
【0055】
1 基材層
1a、2a、3a、4a、5a、11a 表面
1b 裏面
2 絵柄層
3 接着性樹脂層
4 透明樹脂層
5 表面保護層
6 プライマー層
10 化粧シート
11 基板
15 凹凸模様
100 化粧部材