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特許7310270ロボットの原点出し方法およびロボットの原点出しシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】ロボットの原点出し方法およびロボットの原点出しシステム
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20230711BHJP
【FI】
B25J9/10 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019084122
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2020179463
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 大介
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-028529(JP,A)
【文献】特開昭60-055406(JP,A)
【文献】特開2009-274188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットが有する複数の軸のうち原点出しの対象とする前記軸である対象軸の角度が予め定められた基準角度となるように作業者が前記対象軸を回転させた状態で前記対象軸を駆動するモータの回転角度を検出するエンコーダの検出値と前記対象軸の実際の角度との関係を較正する原点出しを行うための方法であって、
前記モータは、減速機を介して前記軸を駆動するようになっており、
前記エンコーダの検出値には、前記モータの1回転内の回転角度を表す1回転データと、前記モータが何回転したかを表す多回転データとが含まれており、
前記対象軸を駆動する前記モータの回転角度を検出する前記エンコーダの検出値のうち前記多回転データと前記対象軸の実際の角度との関係を較正する前記原点出しである多回転データ原点復旧を行う際、
前記対象軸を指定する軸指定処理手順と、
前記対象軸について現在の角度で前記多回転データ原点復旧が実行されたと仮定し、その実行後に前記エンコーダの検出値に基づいて得られる前記対象軸の角度に相当する補正後角度を求める角度算出処理手順と、
前記対象軸に対応する前記基準角度と、前記角度算出処理手順により求められた前記補正後角度と、を表示装置に表示させる表示処理手順と、
前記作業者による実行のための操作に応じて前記多回転データ原点復旧を実行する実行処理手順と、
を含み、
前記表示処理手順では、
前記基準角度と前記補正後角度との差である誤差角度または前記誤差角度に関する情報を前記表示装置に表示させ、
さらに、前記誤差角度が前記モータの1/2回転に対応した前記対象軸の角度以下の所定の角度である閾値角度未満であるか否かを判定する判定処理手順を含み、
前記表示処理手順では、前記判定処理手順による判定の結果を表す結果表示を前記表示装置に表示させるロボットの原点出し方法。
【請求項2】
ロボットが有する複数の軸のうち原点出しの対象とする前記軸である対象軸の角度が予め定められた基準角度となるように作業者が前記対象軸を回転させた状態で前記対象軸を駆動するモータの回転角度を検出するエンコーダの検出値と前記対象軸の実際の角度との関係を較正する原点出しを行うための方法であって、
前記モータは、減速機を介して前記軸を駆動するようになっており、
前記エンコーダの検出値には、前記モータの1回転内の回転角度を表す1回転データと、前記モータが何回転したかを表す多回転データとが含まれており、
前記対象軸を駆動する前記モータの回転角度を検出する前記エンコーダの検出値のうち前記多回転データと前記対象軸の実際の角度との関係を較正する前記原点出しである多回転データ原点復旧を行う際、
前記対象軸を指定する軸指定処理手順と、
前記対象軸について現在の角度で前記多回転データ原点復旧が実行されたと仮定し、その実行後に前記エンコーダの検出値に基づいて得られる前記対象軸の角度に相当する補正後角度を求める角度算出処理手順と、
前記対象軸に対応する前記基準角度と、前記角度算出処理手順により求められた前記補正後角度と、を表示装置に表示させる表示処理手順と、
前記作業者による実行のための操作に応じて前記多回転データ原点復旧を実行する実行処理手順と、
を含み、
前記表示処理手順では、
前記基準角度と前記補正後角度との差である誤差角度または前記誤差角度に関する情報を前記表示装置に表示させ、
さらに、前記誤差角度が前記モータの1/2回転に対応した前記対象軸の角度以下の所定の角度である閾値角度未満であるか否かを判定する判定処理手順を含み、
前記判定処理手順において前記誤差角度が前記閾値角度以上であると判定された場合には前記実行処理手順の実行を禁止し、前記判定処理手順において前記誤差角度が前記閾値角度未満であると判定された場合には前記実行処理手順の実行を許可するロボットの原点出し方法。
【請求項3】
ロボットが有する複数の軸のうち原点出しの対象とする前記軸である対象軸の角度が予め定められた基準角度となるように作業者が前記対象軸を回転させた状態で前記対象軸を駆動するモータの回転角度を検出するエンコーダの検出値と前記対象軸の実際の角度との関係を較正する原点出しを行うための方法であって、
前記モータは、減速機を介して前記軸を駆動するようになっており、
前記エンコーダの検出値には、前記モータの1回転内の回転角度を表す1回転データと、前記モータが何回転したかを表す多回転データとが含まれており、
前記対象軸を駆動する前記モータの回転角度を検出する前記エンコーダの検出値のうち前記多回転データと前記対象軸の実際の角度との関係を較正する前記原点出しである多回転データ原点復旧を行う際、
前記対象軸を指定する軸指定処理手順と、
前記対象軸について現在の角度で前記多回転データ原点復旧が実行されたと仮定し、その実行後に前記エンコーダの検出値に基づいて得られる前記対象軸の角度に相当する補正後角度を求める角度算出処理手順と、
前記対象軸に対応する前記基準角度と、前記角度算出処理手順により求められた前記補正後角度と、を表示装置に表示させる表示処理手順と、
前記作業者による実行のための操作に応じて前記多回転データ原点復旧を実行する実行処理手順と、
を含み、
前記表示処理手順では、
前記基準角度と前記補正後角度との差である誤差角度または前記誤差角度に関する情報を前記表示装置に表示させ、
さらに、
前記誤差角度が前記モータの1/2回転に対応した前記対象軸の角度以下の所定の角度である閾値角度未満であるか否かを判定する判定処理手順と、
前記判定処理手順において前記誤差角度が前記閾値角度未満であると判定されると前記対象軸の回転を妨げる力である回転抑制力を発生する回転抑制処理手順と、
を含むロボットの原点出し方法。
【請求項4】
複数の軸を有するロボットと、前記ロボットの動作を制御するコントローラと、前記ロボットに関する表示を行うための表示装置と、を備え、前記複数の軸のうち原点出しの対象とする前記軸である対象軸の角度が予め定められた基準角度となるように作業者が前記対象軸を回転させた状態で前記対象軸を駆動するモータの回転角度を検出するエンコーダの検出値と前記対象軸の実際の角度との関係を較正する原点出しを行うためのシステムであって、
前記モータは、減速機を介して前記軸を駆動するようになっており、
前記エンコーダの検出値には、前記モータの1回転内の回転角度を表す1回転データと、前記モータが何回転したかを表す多回転データとが含まれており、
前記コントローラは、
前記対象軸を駆動する前記モータの回転角度を検出する前記エンコーダの検出値のうち前記多回転データと前記対象軸の実際の角度との関係を較正する前記原点出しである多回転データ原点復旧を行う際、前記対象軸を指定する軸指定処理部と、
前記対象軸について現在の角度で前記多回転データ原点復旧が実行されたと仮定し、その実行後に前記エンコーダの検出値に基づいて得られる前記対象軸の角度に相当する補正後角度を求める角度算出処理部と、
前記対象軸に対応する前記基準角度と、前記角度算出処理部により求められた前記補正後角度と、を前記表示装置に表示させる表示処理部と、
前記作業者による実行のための操作に応じて前記多回転データ原点復旧を実行する実行処理部と、
を備え
前記表示処理部は、
前記基準角度と前記補正後角度との差である誤差角度または前記誤差角度に関する情報を前記表示装置に表示させ、
前記コントローラは、
さらに、前記誤差角度が前記モータの1/2回転に対応した前記対象軸の角度以下の所定の角度である閾値角度未満であるか否かを判定する判定処理部を備え、
前記表示処理部は、前記判定処理部による判定の結果を表す結果表示を前記表示装置に表示させるロボットの原点出しシステム。
【請求項5】
複数の軸を有するロボットと、前記ロボットの動作を制御するコントローラと、前記ロボットに関する表示を行うための表示装置と、を備え、前記複数の軸のうち原点出しの対象とする前記軸である対象軸の角度が予め定められた基準角度となるように作業者が前記対象軸を回転させた状態で前記対象軸を駆動するモータの回転角度を検出するエンコーダの検出値と前記対象軸の実際の角度との関係を較正する原点出しを行うためのシステムであって、
前記モータは、減速機を介して前記軸を駆動するようになっており、
前記エンコーダの検出値には、前記モータの1回転内の回転角度を表す1回転データと、前記モータが何回転したかを表す多回転データとが含まれており、
前記コントローラは、
前記対象軸を駆動する前記モータの回転角度を検出する前記エンコーダの検出値のうち前記多回転データと前記対象軸の実際の角度との関係を較正する前記原点出しである多回転データ原点復旧を行う際、前記対象軸を指定する軸指定処理部と、
前記対象軸について現在の角度で前記多回転データ原点復旧が実行されたと仮定し、その実行後に前記エンコーダの検出値に基づいて得られる前記対象軸の角度に相当する補正後角度を求める角度算出処理部と、
前記対象軸に対応する前記基準角度と、前記角度算出処理部により求められた前記補正後角度と、を前記表示装置に表示させる表示処理部と、
前記作業者による実行のための操作に応じて前記多回転データ原点復旧を実行する実行処理部と、
を備え
前記表示処理部は、
前記基準角度と前記補正後角度との差である誤差角度または前記誤差角度に関する情報を前記表示装置に表示させ、
前記コントローラは、
さらに、前記誤差角度が前記モータの1/2回転に対応した前記対象軸の角度以下の所定の角度である閾値角度未満であるか否かを判定する判定処理部を備え、
前記判定処理部において前記誤差角度が前記閾値角度以上であると判定された場合には前記実行処理部による前記多回転データ原点復旧の実行を禁止し、前記判定処理部において前記誤差角度が前記閾値角度未満であると判定された場合には前記実行処理部による前記多回転データ原点復旧の実行を許可するロボットの原点出しシステム。
【請求項6】
複数の軸を有するロボットと、前記ロボットの動作を制御するコントローラと、前記ロボットに関する表示を行うための表示装置と、を備え、前記複数の軸のうち原点出しの対象とする前記軸である対象軸の角度が予め定められた基準角度となるように作業者が前記対象軸を回転させた状態で前記対象軸を駆動するモータの回転角度を検出するエンコーダの検出値と前記対象軸の実際の角度との関係を較正する原点出しを行うためのシステムであって、
前記モータは、減速機を介して前記軸を駆動するようになっており、
前記エンコーダの検出値には、前記モータの1回転内の回転角度を表す1回転データと、前記モータが何回転したかを表す多回転データとが含まれており、
前記コントローラは、
前記対象軸を駆動する前記モータの回転角度を検出する前記エンコーダの検出値のうち前記多回転データと前記対象軸の実際の角度との関係を較正する前記原点出しである多回転データ原点復旧を行う際、前記対象軸を指定する軸指定処理部と、
前記対象軸について現在の角度で前記多回転データ原点復旧が実行されたと仮定し、その実行後に前記エンコーダの検出値に基づいて得られる前記対象軸の角度に相当する補正後角度を求める角度算出処理部と、
前記対象軸に対応する前記基準角度と、前記角度算出処理部により求められた前記補正後角度と、を前記表示装置に表示させる表示処理部と、
前記作業者による実行のための操作に応じて前記多回転データ原点復旧を実行する実行処理部と、
を備え
前記表示処理部は、
前記基準角度と前記補正後角度との差である誤差角度または前記誤差角度に関する情報を前記表示装置に表示させ、
前記コントローラは、
さらに、
前記誤差角度が前記モータの1/2回転に対応した前記対象軸の角度以下の所定の角度である閾値角度未満であるか否かを判定する判定処理部と、
前記判定処理部において前記誤差角度が前記閾値角度未満であると判定されると前記対象軸の回転を妨げる力である回転抑制力を発生する回転抑制処理部と、
を備えるロボットの原点出しシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の軸を有するロボットの軸の原点出しを行うためのロボットの原点出し方法およびロボットの原点出しシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば産業用のロボットシステムにおいては、コントローラが認識する各軸の位置情報とロボットアームの実際の位置との関係を較正すること、言い換えるとロボットの各軸の原点位置を較正することが必要となる。なお、本明細書では、このような原点位置の較正のことを原点出しと称することがある。原点出しは、ロボットアーム(軸)の原点と、そのロボットアームを駆動するモータの回転角度を検出するエンコーダの原点と、を合わせ込む作業である。このような原点出しは、例えば特許文献1に記載されているように、基本的には出荷前の段階で工場にて行われる。
【0003】
原点出しが行われる際、まず、原点出しの作業を実施する作業者は、原点出しの対象となる軸の角度が予め定められた基準角度となるように、ロボットアームを回転させる。なお、本明細書では、原点出しの対象となる軸のことを対象軸と称することがある。このようにして対象軸の角度が基準角度に一致するように回転された状態で、基準角度とエンコーダの検出値から計算して得られる検出角度との差に基づいて、原点出しのためのデータ、つまり基準角度と検出角度とを対応させる補正用データが生成され、その補正用データがコントローラに記憶される。コントローラは、エンコーダの検出値と補正用データとに基づいて、ロボットアームの実際の角度を精度良く検出することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-274188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記構成において、モータは、減速機であるギアを介してロボットアームを駆動するようになっている。そのため、ロボットシステムに用いられるエンコーダは、モータの1回転内の回転位置を検出する機能だけでなく、モータが何回転したかをカウントして多回転データとして記憶する機能も有している。このようなエンコーダは、システムの主電源が落ちても内蔵されたバックアップ用の電池により多回転データのカウントおよび保持を行うようになっている。
【0006】
しかし、上記エンコーダでは、電池が消耗して電池切れを起こした場合、モータの1回転内の回転角度を示すデータは保持されるものの、多回転データについては消滅してしまう。そのため、ロボットなどが工場から出荷されて設置先に設置された後であっても、エンコーダの電池が電池切れを起こした場合には、上述した原点出しを再度行う必要があった。なお、本明細書では、このように再度行われる原点出しのことを原点復旧と称することがある。
【0007】
エンコーダの電池切れに起因して行われる原点復旧では、1回転内の回転角度を示す1回転データは電池が切れる前後で値が変化しないため、多回転データだけを考慮して原点出しを行えばよい。なお、本明細書では、このように多回転データだけを考慮して行われる原点復旧のことを多回転データ原点復旧と称することがある。この場合、1回転データは不問とすることができるため、作業者が対象軸の角度を基準角度に固定する際における誤差が、モータの半回転(1/2回転)分の誤差未満であれば、電池が切れる前、つまり多回転データが消滅する前と同等の精度での原点出しを行うことが可能となる。
【0008】
しかしながら、上記誤差がモータの半回転分の誤差以上である場合、最大でモータの1回転分の誤差が生じるおそれがある。このような誤差の発生を防止するためには、作業者が、原点出しの際に対象軸をより慎重に且つより精細に動かさなくてはならなくなる。このようなことから、エンコーダの電池切れに起因して行われる原点出しの精度を良好にするためには、作業工数が必要以上に増加するおそれがあった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業工数の増加を招くことなくロボットの軸の原点出しの精度を良好にすることができるロボットの原点出し方法およびロボットの原点出しシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1~3に記載のロボットの原点出し方法は、ロボットが有する複数の軸のうち原点出しの対象とする軸である対象軸の角度が予め定められた基準角度となるように作業者が対象軸を回転させた状態で、対象軸を駆動するモータの回転角度を検出するエンコーダの検出値と対象軸の実際の角度との関係を較正する原点出しを行うための方法である。この場合、モータは、減速機を介して軸を駆動するようになっており、また、エンコーダの検出値には、モータの1回転内の回転角度を表す1回転データと、モータが何回転したかを表す多回転データとが含まれている。
【0011】
この方法には、対象軸を駆動するモータの回転角度を検出するエンコーダの検出値のうち多回転データと対象軸の実際の角度との関係を較正する原点出しである多回転データ原点復旧を行う際、つまりエンコーダの電池切れに起因して行われる原点出しの際に行われる各手順が含まれている。これら各手順は、次のような手順である。すなわち、軸指定処理手順は、対象軸を指定する手順である。
【0012】
角度算出処理手順は、対象軸について現在の角度で多回転データ原点復旧が実行されたと仮定し、その実行後にエンコーダの検出値に基づいて得られる対象軸の角度に相当する補正後角度を求める手順である。このようにして求められる補正後角度は、現在の対象軸の角度が基準角度に完全に一致している場合には基準角度と同じ角度になるが、現在の対象軸の角度と基準角度とに差がある場合には基準角度からその差だけずれた角度になる。表示処理手順は、対象軸に対応する基準角度と、角度算出処理手順により求められた補正後角度と、を表示装置に表示させる手順である。実行処理手順は、作業者による実行のための操作に応じて多回転データ原点復旧を実行する手順である。
【0013】
これによれば、作業者は、多回転データ原点復旧を行う際、表示装置に表示される基準角度および補正後角度に基づいて、基準角度に対する現在の対象軸の角度のずれ、言い換えると、対象軸の角度を基準角度に固定する(一致させる)作業の精度を確認することができる。前述したように、多回転データ原点復旧では、対象軸の角度を基準角度に固定する際における誤差が、モータの半回転分の誤差未満であれば、多回転データが消滅する前と同等の精度での原点出しを行うことが可能となる。
【0014】
そのため、作業者は、表示装置に表示される基準角度および補正後角度を確認しながら、基準角度に対する現在の対象軸の補正後角度の誤差がモータの半回転分の誤差より十分に小さくなっているか否かを判断し、誤差がモータの半回転分の誤差より十分に小さくなったと判断した時点で、対象軸を動かす作業を停止することができる。つまり、上記方法によれば、作業者は、自身の原点出しに関する経験(勘、コツなど)による判断に頼ることなく、表示装置に表示される基準角度および補正後角度などの客観的な指標により、対象軸の角度がどの程度の精度で基準角度に固定できているか(一致しているか)を確認できる。
【0015】
したがって、この場合、作業者は、必要以上に慎重に且つ精細に対象軸を動かさなくともよい。その後、作業者は、実行のための操作をすることにより、多回転データが消滅する前と同等の精度での原点出しを行うことができる。したがって、このような方法によれば、作業工数の増加を招くことなくロボットの軸の原点出しの精度を良好にすることができるという優れた効果が得られる。
【0016】
請求項1~3に記載の原点出し方法における表示処理手順では、基準角度と補正後角度との差である誤差角度または誤差角度に関する情報を表示装置に表示させるようになっている。なお、誤差角度に関する情報としては、例えば、誤差角度とモータの半回転に対応する対象軸の角度との割合などを挙げることができる。このようにすれば、作業者は、多回転データ原点復旧の際、基準角度と補正後角度との差を頭の中で計算せずとも、表示装置に表示された情報から直接的に対象軸の角度を基準角度に固定させる作業の精度を確認することができるため、その確認作業を一層容易にすることができる。
【0017】
多回転データ原点復旧を含む原点出しに関する作業の経験がある程度あるような作業者であれば、多回転データ原点復旧では、対象軸の角度を基準角度に固定する際における誤差がモータの半回転分の誤差未満であれば多回転データが消滅する前と同等の精度での原点出しを行うことが可能となることを知っている可能性が高いため、表示装置に誤差角度さえ表示されていれば、前述した多回転データ原点復旧に関する作業工数の低減効果が得られると考えられる。
【0018】
しかし、多回転データ原点復旧を含む原点出しに関する作業の経験がほとんどないような作業者(ロボットを新規に購入したユーザなど)の場合、表示装置に誤差角度などが表示されていたとしても、その誤差角度で問題があるのか否かを判断することが難しくなることが考えられる。そこで、請求項に記載の原点出し方法には、さらに、誤差角度がモータの1/2回転に対応した対象軸の角度以下の所定の角度である閾値角度未満であるか否かを判定する判定処理手順が含まれる。そして、この場合、表示処理手順では、判定処理手順による判定の結果を表す結果表示を表示装置に表示させるようになっている。
【0019】
このようにすれば、作業者は、表示装置に表示される情報のうち、少なくとも判定処理手順による判定の結果を表す結果表示を確認すれば、その時点における誤差角度に問題があるのか否か、つまり対象軸の角度を基準角度に一致させる作業の精度に問題があるのか否かを容易に判断することができる。したがって、上記方法によれば、より経験の浅い作業者が多回転データ原点復旧の作業を行う場合であっても、その作業工数を低減することができるという効果が得られる。
【0020】
請求項に記載の原点出し方法には、さらに、誤差角度がモータの1/2回転に対応した対象軸の角度以下の所定の角度である閾値角度未満であるか否かを判定する判定処理手順が含まれる。そして、この場合、判定処理手順において誤差角度が閾値角度以上であると判定された場合には実行処理手順の実行を禁止し、判定処理手順において誤差角度が閾値角度未満であると判定された場合には実行処理手順の実行を許可する。
【0021】
このようにすれば、対象軸の角度を基準角度に固定させるための作業の精度に問題がある場合には多回転データ原点復旧を実行することができず、その作業の精度に問題がない場合にだけ多回転データ原点復旧を実行することが可能となる。したがって、上記方法によれば、精度が良好ではない原点出しが行われることがなくなり、実行される原点出しの精度を良好に維持することができる。
【0022】
請求項に記載の原点出し方法には、さらに、判定処理手順および回転抑制処理手順が含まれる。判定処理手順は、誤差角度がモータの1/2回転に対応した対象軸の角度以下の所定の角度である閾値角度未満であるか否かを判定する手順である。回転抑制処理手順は、判定処理手順において誤差角度が閾値角度未満であると判定されると対象軸の回転を妨げる力である回転抑制力を発生する手順である。
【0023】
上記方法によれば、作業者は、対象軸の角度を基準角度に一致させるために対象軸を回転させる作業を実施している際、誤差角度が閾値角度未満になると、つまりその作業の精度に問題がない状態になると、回転抑制力の発生によって対象軸を回転させ難くなることから、対象軸の回転を直ちに且つ容易に停止することができる。そのため、誤差角度が閾値角度未満になったにもかかわらず、勢い余って対象軸を回転させてしまい、再び誤差角度が閾値角度以上になってしまう状態、いわゆるオーバーシュートが発生することを防止できる。このようなオーバーシュートが発生した場合、作業者は、再び対象軸を回転させる作業を行う必要が生じてしまう。したがって、上記方法によれば、このような無駄な作業が生じることなく、一層容易に原点出しの精度を向上することができる。
【0024】
請求項4~6に記載のロボットの原点出しシステムは、上記したロボットの原点出し方法と共通する技術的思想に基づくものである。したがって、このようなロボットの原点出しシステムによっても、上記した原点出し方法と同様に、作業工数の増加を招くことなくロボットの軸の原点出しの精度を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係るロボットシステムの構成を模式的に示す図
図2】第1実施形態に係るロボットシステムの電気的構成を模式的に示す図
図3】第1実施形態に係る補正後角度とエンコーダ角度との関係を模式的に示す図
図4】第1実施形態に係る多回転データ原点復旧の際にコントローラで実行される処理内容を模式的に示す図
図5】第1実施形態に係る表示処理により表示される画面の第1具体例を模式的に示す図
図6】第1実施形態に係る表示処理により表示される画面の第2具体例を模式的に示す図
図7】第2実施形態に係るロボットシステムの電気的構成を模式的に示す図
図8】第2実施形態に係る多回転データ原点復旧の際にコントローラで実行される処理内容を模式的に示す図
図9】第2実施形態に係る表示処理により表示される画面の第3具体例を模式的に示す図その1
図10】第2実施形態に係る表示処理により表示される画面の第3具体例を模式的に示す図その2
図11】第3実施形態に係る表示処理により表示される画面の第4具体例を模式的に示す図
図12】第3実施形態に係る表示処理により表示される画面の第5具体例を模式的に示す図
図13】第4実施形態に係るロボットシステムの電気的構成を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、ロボットの原点出しシステムの複数の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図1図6を参照して説明する。
【0027】
図1に示すロボットシステム1は、例えば一般的な産業用ロボットシステムであり、ロボット2、ロボット2の動作を制御するコントローラ3およびロボット2に関する操作および表示を行うためのティーチングペンダント4を備えている。ロボット2は、例えば6軸の垂直多関節型ロボットである。
【0028】
ロボット2は、ベース5、ベース5に水平方向に回転可能に支持されたショルダ部6、ショルダ部6に上下方向に回転可能に支持された下アーム7、下アーム7に上下方向に回転可能に支持された第1の上アーム8、第1の上アーム8に捻り回転可能に支持された第2の上アーム9、第2の上アーム9に上下方向に回転可能に支持された手首10および手首10に捻り回転可能に支持されたフランジ11から構成されている。ベース5、ショルダ部6、下アーム7、第1の上アーム8、第2の上アーム9、手首10およびフランジ11は、ロボット2のアームとして機能し、アーム先端であるフランジ11には、図示はしないが、エンドエフェクタ(手先)が取り付けられる。
【0029】
この場合、ベース5とショルダ部6との間を連結する回転関節の関節軸を第1軸J1、ショルダ部6と下アーム7との間を連結する回転関節の関節軸を第2軸J2、下アーム7と第1の上アーム8との間を連結する回転関節の関節軸を第3軸J3、第1の上アーム8と第2の上アーム9との間を連結する回転関節の関節軸を第4軸J4、第2の上アーム9と手首10との間を連結する回転関節の関節軸を第5軸J5、手首10とフランジ11との間を連結する回転関節の関節軸を第6軸J6とする。
【0030】
図2に示すように、ロボット2に設けられる複数の軸J1~J6、ひいては各アーム12は、それぞれに対応して設けられるモータ13により駆動される。また、この場合、各モータ13は、例えばギアである減速機14を介して各アーム12(軸J1~J6)を駆動するようになっている。各モータ13の近傍には、それぞれの回転軸の回転角度を検出するためのエンコーダ15が設けられている。
【0031】
エンコーダ15は、例えばアブソリュートエンコーダであり、モータ13の1回転内の回転角度を検出する機能と、モータ13が何回転したかをカウントして記憶する機能と、を備えている。エンコーダ15の検出値には、モータ13の1回転内の回転角度を表す1回転データと、モータ13が何回転したかを表す多回転データと、が含まれる。エンコーダ15は、コントローラ3から供給されるロボットシステム1の主電源により動作するようになっている。
【0032】
また、エンコーダ15は、コントローラ3の電源がオフになるなどして主電源の供給が停止された場合でも、ロボット2に内蔵されたバックアップ用の電池により多回転データのカウントおよび保持(記憶)を行うようになっている。なお、エンコーダ15では、このような電池が消耗して電池切れを起こした場合、1回転データは保持されるものの、多回転データについては消滅する。
【0033】
ティーチングペンダント4は、例えば使用者が携帯あるいは手に所持して操作可能な程度の大きさで、例えば薄型の略矩形箱状に形成されている。ティーチングペンダント4は、表面部の中央部に例えば液晶ディスプレイからなる表示部16を有している。表示部16には、各種の画面が表示される。表示部16は、ロボット2に関する表示を行うための表示装置の一例である。表示部16は、タッチパネルで構成されている。またティーチングペンダント4には、表示部16の周囲に各種のキースイッチ17が設けられている。キースイッチ17および上記タッチパネルに設けられるタッチスイッチは、図2に示す操作部18に対応している。使用者は、操作部18により種々の入力操作を行う。
【0034】
ティーチングペンダント4は、ケーブルを経由してコントローラ3に接続され、通信インターフェイスを経由してコントローラ3との間で高速のデータ転送を実行するようになっており、操作部18の操作により入力された操作信号などの情報はティーチングペンダント4からコントローラ3へ送信される。また、コントローラ3は、ティーチングペンダント4へ制御信号や表示用の信号などとともに駆動用の電力を供給する。
【0035】
ユーザは、上記のティーチングペンダント4を用いてロボット2の運転や設定などの各種機能を実行可能であり、例えば操作部18の操作により、予め記憶されている制御プログラムを呼び出して、ロボット2の起動や各種のパラメータの設定などを実行できる。さらに、このような構成のロボットシステム1は、ロボット2をマニュアル操作で動作させて各種の教示作業、ロボット2の各軸J1~J6の原点出しなども実行可能となっている。したがって、本実施形態のロボットシステム1は、ロボットの原点出しシステムに相当する。
【0036】
上記した原点出しとは、ロボット2の各軸J1~J6の原点位置を較正することである。この場合、原点出しでは、複数の軸J1~J6のうち原点出しの対象とする軸である対象軸の角度が予め定められた基準角度となるように作業者が対象軸を回転させた状態で、対象軸を駆動するモータ13の回転角度を検出するエンコーダ15の検出値と対象軸の実際の角度との関係が較正される。なお、上述した基準角度は、次の2つの方法のいずれかにより定めることができる。
【0037】
すなわち、1つ目は、メカニカルに決める方法である。メカニカルに決める方法では、ロボット2のアーム12が所定の物体に接触したときの角度が基準角度とされる。具体的には、メカニカルに決める方法では、メカストッパ(メカエンド)などのメカニカルな構造体にロボット2のアーム12が押し当てられた際の角度、ノックピン(位置決めピン)を用いてアーム12が固定された際の角度などが基準角度とされる。2つ目は、目視で決める方法である。目視で決める方法では、予め対象軸(例えば軸J4)を挟む2つのアーム12(例えば第1の上アーム8および第2の上アーム9)にマーキングを施しておき、それらのマーキングが所定の状態(例えば、2つのマークが連なるような状態など)となる角度、アーム12が水平となる0度や垂直となる90度などが基準角度とされる。
【0038】
従来技術の説明において述べたように、上記した原点出しには、出荷前の段階で工場にて行われるものだけでなく、工場から出荷されて設置先に設置された後に再度行われる原点出しである原点復旧も含まれる。また、原点復旧には、エンコーダの電池切れに起因して行われる多回転データ原点復旧が含まれる。多回転データ原点復旧は、対象軸を駆動するモータ13の回転角度を検出するエンコーダ15の検出値のうち多回転データと対象軸の実際の角度との関係を較正する原点出しのことである。
【0039】
コントローラ3は、CPU、ROM、RAMなどを備えており、上記した原点出し、特には多回転データ原点復旧を実行するための構成を備えている。すなわち、図2に示すように、コントローラ3は、軸指定処理部19、角度算出処理部20、表示処理部21および実行処理部22などの機能ブロックを備えている。これら各機能ブロックは、コントローラ3のCPUがROMなどに格納されているプログラムを実行することでプログラムに対応する処理を実行することにより実現されている、つまりソフトウェアにより実現されている。なお、これら各機能ブロックの少なくとも一部をハードウェアにより実現してもよい。
【0040】
軸指定処理部19は、多回転データ原点復旧などの原点出しを行う作業者(例えばユーザ)の操作部18に対する所定の操作に応じて対象軸を指定する。軸指定処理部19により実行される各処理は、軸指定処理手順に相当する。なお、以下の説明などでは、複数の軸J1~J6のうち軸指定処理部19により指定されなかった軸を非対象軸とする。角度算出処理部20は、対象軸について現在の角度で多回転データ原点復旧が実行されたと仮定し、その実行後にエンコーダ15の検出値に基づいて得られる対象軸の角度に相当する補正後角度を求める。
【0041】
補正後角度A[deg]の算出式は、例えば下記(1)式により表わされる。ただし、対象軸に対応する基準角度をB[deg]とし、対象軸に対応するエンコーダ15の検出値に基づいて検出される角度であるエンコーダ角度をE[deg]とし、対象軸に対応する減速機14の減速比をGとする。また、[ ]内の値は、四捨五入した整数とする。
A=E-(360/G)×[(G/360)×(E-B)] …(1)
【0042】
なお、上記(1)式では、ロボット2のアーム12の角度の単位系で補正後角度を計算するようになっているが、補正後角度は、モータ13の角度の単位系でも同様に計算することができるし、エンコーダ15のパルス数の単位系でも同様に計算することができる。このようにして算出される補正後角度とエンコーダ角度との関係は、図3に示すようなものとなる。
【0043】
ただし、この場合、対象軸に対応する減速機14の減速比が100であり、対象軸に対応する基準角度が0度であるものとする。したがって、この場合、モータ13の1回転(360度)は、アーム12の角度では3.6度に相当する。図3に示すように、補正後角度は、モータ13の1回転の周期で、基準角度を中心にモータ13の1回転分の幅(3.6度)で鋸波状に変動する。補正後角度は、1回転データとしてエンコーダ15の検出値そのものを用いるとともに、多回転データとしてエンコーダ角度が基準角度に最も近くなるように合わせ込んだ角度を用い、それら1回転データおよび多回転データから求められる角度であると言える。
【0044】
表示処理部21は、対象軸に対応する基準角度と、角度算出処理部20により求められた補正後角度とを表示部16に表示させる。また、表示処理部21は、基準角度と補正後角度との差である誤差角度または誤差角度に関する情報を表示部16に表示させる。なお、誤差角度に関する情報としては、例えば、誤差角度とモータ13の半回転に対応する対象軸の角度との割合などを挙げることができる。表示処理部21により実行される各処理は、表示処理手順に相当する。
【0045】
実行処理部22は、作業者の操作部18に対する実行のための操作に応じて原点出しを実行する。具体的には、実行処理部22は、上記実行のための操作が行われると、その時点でのエンコーダ15の検出値から計算して得られる対象軸の検出角度と基準角度との差に基づいて、基準角度と検出角度とを対応させる補正用データを生成し、その補正用データをコントローラ3のROMなどに記憶する、といった処理を実行する。実行処理部22により実行される各処理は、実行処理手順に相当する。このような原点出しが行われることにより、コントローラ3は、エンコーダ15の検出値と補正用データとに基づいて、各軸J1~J6の実際の角度を精度良く検出することが可能となる。
【0046】
次に、上記構成の作用について説明する。
[1]原点出し方法の流れ
上記構成のロボットシステム1を用いたロボット2の各軸J1~J6の原点出し(多回転データ原点復旧)は、次のような流れで行われる。なお、ここでは、軸J1を対象軸とする場合を例にして多回転データ原点復旧の流れを説明する。この場合、軸J1に対応する基準角度は、前述した目視で決める方法(例えばマーキングによるもの)で定められており、例えば0度に設定されているものとする。
【0047】
まず、原点出しの作業を実施する作業者は、対象軸である軸J1の角度が予め定められた基準角度となるように、ショルダ部6を動作(回転)させる。このように作業者によるショルダ部6の回転が行われることにより、軸J1の角度が基準角度である0度とされる。このようにして軸J1の角度が基準角度となるようにショルダ部6が回転された状態で、基準角度とエンコーダ15の検出値のうち多回転データから計算して得られる検出角度との差に基づいて、前述した補正用データの生成および記憶が行われる。
【0048】
[2]多回転データ原点復旧の精度について
多回転データ原点復旧では、エンコーダ15の検出値のうち1回転データは不問とすることができるため、作業者が対象軸の角度を基準角度に固定する(一致させる)際における誤差が、モータの半回転(1/2回転)分の誤差未満であれば、電池が切れる前、つまり多回転データが消滅する前と同等の精度での原点出しを行うことが可能となる。
【0049】
具体的には、例えば、対象軸に対応する減速機14の減速比が100であり、対象軸の角度を基準角度に合わせるために回転させるアーム12が直径100mmの筒状であり、基準角度がマーキングによるもの(マーク位置を合わせるもの)である場合、上記誤差が下記(2)式に示す誤差α(=約1.57mm)未満であれば、多回転データが消滅する前と同等の精度での原点出しを行うことができる。ただし、上記したアーム12の半径をrとし、減速機14の減速比をGとする。
α=πr÷G …(2)
【0050】
一般的な人の場合、上記したマーク位置を合わせる作業を行う際、対象軸の角度を基準角度に完全に一致させる(誤差をゼロとする)ことは難しいものの、誤差が1mm~2mm程度となるようにマーク位置を合わせることは比較的容易となる。そこで、本実施形態の原点出し方法では、多回転データ原点復旧を行う際、現在の上記誤差を作業者に対して伝えるための表示(詳細は後述する)が行われるようになっている。このような表示を行うことにより、作業者は、上記作業を行う際、現在の上記誤差がモータ13の半回転分の誤差よりも十分に小さくなっているか否かを判断することが可能となる。
【0051】
[3]多回転データ原点復旧の際にコントローラ3で実行される処理
多回転データ原点復旧の際にコントローラ3を主体として実行される処理は、図4に示すような内容となる。図4に示す多回転データ原点復旧に関する一連の処理は、作業者の操作部18に対する所定の操作に応じて開始される。まず、ステップS100では、軸指定の操作が有ったか否かが判断される。ここで、作業者によって軸指定のための操作が行われると、ステップS100で「YES」となり、ステップS200に進む。
【0052】
なお、軸指定のための操作としては、例えば表示部16に表示された各軸J1~J6を表すアイコンのうちいずれかをタッチ操作して選択するといった操作、表示部16に表示された軸番号を入力するための入力欄に対して所望する軸の番号(数字)を入力するといった操作など、様々な態様の操作を適用することができる。ステップS200では、作業者の操作により指定された軸が対象軸に設定される。ステップS200の実行後はステップS300に進み、作業者の操作により指定されなかった軸が非対象軸に設定される。
【0053】
ステップS200およびS300が実行されることにより、ロボット2の各軸J1~J6のそれぞれが対象軸および非対象軸のいずれかに分類される。詳細は後述するが、このような分類を行うのは、対象軸および非対象軸で表示の態様を異ならせることを目的としている。ステップS300の実行後はステップS400に進み、角度算出処理部20によって前述した各処理(角度算出処理)が実行される。ステップS400の実行後はステップS500に進み、表示処理部21によって前述した各処理(表示処理)が実行される。
【0054】
表示処理が実行されると、表示部16には図5または図6に示すような画面が表示される。このような画面の内容については後述する。ステップS500の実行後はステップS600に進み、多回転データ原点復旧を実行するための操作が有ったか否かが判断される。ここで、作業者によって多回転データ原点復旧を実行するための操作が行われると、ステップS600で「YES」となり、ステップS700に進む。なお、多回転データ原点復旧を実行するための操作の内容については後述する。ステップS700では、実行処理部22によって前述した各処理(実行処理)が実行される。ステップS700の実行後、原点出しに関する一連の処理が終了となる。
【0055】
[4]表示処理により表示される画面の第1具体例
表示処理が実行されることにより表示される画面の第1具体例は、図5に示すような画面となる。この場合、軸J1が対象軸に設定されているとともに、軸J2~J6が非対象軸に設定されているものとする。図5に示すように、画面上部の領域23の左端部には、現在実施中の作業を示す文字である「多回転データ原点復旧」が表示されている。領域23の下側に設けられた領域24には、各軸J1~J6のそれぞれに関する角度(基準角度および補正後角度)などを表す角度表示25、実行キー26およびCANCELキー27が表示されている。
【0056】
角度表示25に表示される基準角度は、各軸J1~J6のそれぞれについて予め定められた角度である。したがって、角度表示25に表示される基準角度の値は、対応する軸が動いた(回転した)場合でも変化することはない。また、角度表示25に表示される補正後角度は、各軸のJ1~J6のそれぞれについて、現在の角度で多回転データ原点復旧が実行されたと仮定し、その実行後にエンコーダ15の検出値に基づいて得られる角度である。したがって、角度表示25に表示される補正後角度の値は、対応する軸が動いた(回転した)場合、それに応じて変化する。
【0057】
さらに、角度表示25に表示される誤差は、基準角度と補正後角度との差である誤差角度に相当する。具体的には、角度表示25に表示される誤差は、基準角度と補正後角度の差の絶対値として表されている。したがって、角度表示25に表示される誤差は、対応する軸が動いた(回転した)場合、それに応じて変化する。
【0058】
角度表示25では、対象軸である軸J1に対応する角度などの表示態様と非対象軸である軸J2~J6のそれぞれに対応する角度などの表示態様とが、互いに異なる表示態様とされている。具体的には、対象軸(J1)の角度などが表示された欄は、その背景が白色とされているのに対し、非対象軸(J2~J6)の角度などが表示された欄は、その背景がグレーとされている、つまり非対象軸の角度などはグレーアウト表示となっている。
【0059】
実行キー26およびCANCELキー27は、いずれも作業者によりタッチ操作可能な操作キーである。実行キー26がタッチ操作されると、実行処理部22によって実行処理が実行される、つまり多回転データ原点復旧が実行される。そして、多回転データ原点復旧が完了した旨が表示されるなどした後、図5に示す画面全体が閉じられる(非表示とされる)。
【0060】
このように、本実施形態では、実行キー26に対するタッチ操作が、多回転データ原点復旧を実行するための操作となっている。なお、多回転データ原点復旧を実行するための操作としては、例えば特定のキースイッチ17に対する操作など、様々な態様の操作を適用することができる。CANCELキー27がタッチ操作されると、実行処理、つまり多回転データ原点復旧が実行されることなく、図5に示す画面全体が閉じられる(非表示とされる)。
【0061】
[5]表示処理により表示される画面の第2具体例
表示処理が実行されることにより表示される画面の第2具体例は、図6に示すような画面となる。第2具体例の画面は、図5に示した第1具体例の画面に対し、角度表示25に代えて角度表示28が設けられている点が異なる。角度表示28には、角度表示25に表示されていた誤差に代えて、誤差割合が表示されている。
【0062】
角度表示25に表示される誤差割合は、誤差角度とモータ13の半回転に対応する対象軸の角度(例えば1.8度)との割合に相当する。具体的には、角度表示28に表示される誤差割合は、誤差角度をモータ13の半回転に対応する対象軸の角度で除算して得られる値として表されている。したがって、角度表示25に表示される誤差割合は、対応する軸が動いた(回転した)場合、それに応じて変化する。
【0063】
以上説明したように、本実施形態によれば次のような効果が得られる。
本実施形態のロボットシステム1を用いて多回転データ原点復旧が行われる際、コントローラ3では、多回転データ原点復旧を行う作業者の操作に応じて対象軸を指定する処理と、対象軸について現在の角度で多回転データ原点復旧が実行されたと仮定し、その実行後にエンコーダ15の検出値に基づいて得られる対象軸の角度に相当する補正後角度を求める角度算出処理と、対象軸に対応する基準角度と角度算出処理により求められた補正後角度とを表示部16に表示させる表示処理と、作業者による実行のための操作に応じて多回転データ原点復旧を実行する実行処理と、が実行される。
【0064】
上記した処理により求められる補正後角度は、現在の対象軸の角度が基準角度に完全に一致している場合には基準角度と同じ角度になるが、現在の対象軸の角度と基準角度とに差がある場合には基準角度からその差だけずれた角度になる。そのため、作業者は、多回転データ原点復旧を行う際、表示部16に表示される基準角度および補正後角度に基づいて、基準角度に対する現在の対象軸の角度のずれ、言い換えると、対象軸の角度を基準角度に固定する(一致させる)作業の精度を確認することができる。前述したように、多回転データ原点復旧では、対象軸の角度を基準角度に固定する際における誤差が、モータ13の半回転分の誤差未満であれば、多回転データが消滅する前と同等の精度での原点出しを行うことが可能となる。
【0065】
そのため、作業者は、表示部16に表示される基準角度および補正後角度を確認しながら、基準角度に対する現在の対象軸の角度の誤差がモータ13の半回転分の誤差よりも十分に小さくなっているか否かを判断し、その誤差がモータ13の半回転分の誤差よりも十分に小さくなったと判断した時点で、対象軸を動かす作業を停止することができる。なお、誤差がモータ13の半回転分の誤差よりも十分に小さくなったか否かの判断は、例えば、誤差がモータ13の1/4回転分の誤差未満であるか否かに基づいて行うことができる。
【0066】
上記方法によれば、作業者は、マーキング位置の目視での確認やメカストッパに対して押し付ける力の加減などの自身の経験(勘、コツなど)による判断に頼ることなく、表示部16に表示される基準角度および補正後角度などの客観的な指標により、対象軸がどの程度の精度で基準角度に固定できているか(一致しているか)を確認することができる。したがって、この場合、作業者は、必要以上に慎重に且つ精細に対象軸を動かさなくともよい。その後、作業者は、実行のための操作をすることにより、多回転データが消滅する前と同等の精度での原点出しを行うことができる。したがって、本実施形態の原点出し方法によれば、作業工数の増加を招くことなくロボット2の各軸J1~J6の原点出しの精度を良好にすることができるという優れた効果が得られる。
【0067】
また、本実施形態の表示処理によって表示部16に表示される画面の第1具体例では、基準角度と補正後角度との差である誤差も表示されるようになっている。このようにすれば、作業者は、多回転データ原点復旧の際、基準角度と補正後角度との差を頭の中で計算せずとも、表示部16に表示された誤差から直接的に対象軸の角度を基準角度に固定させる作業の精度を確認することができる。より具体的には、作業者は、表示部16に表示された誤差がモータ13の半回転分の誤差(例えば1.8度)よりも十分に小さいか否か、例えばモータ13の1/4回転分の誤差である0.9度未満であるか否かの判断に基づいて作業の精度の良否を判断することができる。したがって、このような第1具体例によれば、多回転データ原点復旧の際、対象軸の角度を基準角度に固定させる作業の精度について、その確認作業を一層容易にすることができる。
【0068】
また、本実施形態の表示処理によって表示部16に表示される画面の第2具体例では、誤差角度とモータ13の半回転に対応する対象軸の角度との割合である誤差割合も表示されるようになっている。このようにすれば、作業者は、多回転データ原点復旧の際、基準角度と補正後角度との差を頭の中で計算せずとも、表示部16に表示された誤差割合から直接的に対象軸の角度を基準角度に固定させる作業の精度を確認することができる。より具体的には、作業者は、表示部16に表示された誤差割合が十分に小さいか否か、例えば50%未満であるか否かの判断に基づいて作業の精度の良否を判断することができる。したがって、このような第2具体例によれば、多回転データ原点復旧の際、対象軸の角度を基準角度に固定させる作業の精度について、その確認作業を一層容易にすることができる。
【0069】
この場合、表示処理では、ロボット2の軸J1~J6のそれぞれに関する角度などを表示部16に表示させるようになっているが、対象軸に対応する角度などの表示態様と非対象軸に対応する角度などの表示態様とは、互いに異なる表示態様とされている。具体的には、対象軸に対応する角度などが表示された欄は、その背景が白色とされているのに対し、非対象軸に対応する角度などが表示された欄は、その背景がグレーとされている。
【0070】
このようにすれば、作業者は、現在の多回転データ原点復旧の対象となっている軸がどの軸であるのかを表示態様の違いにより容易に認識することができる。したがって、本実施形態の原点出し方法によれば、作業者は、現在、多回転データ原点復旧の対象となっている軸を確実に動かすことができるとともに、その対象となっていない軸を誤って動かしてしまうことを防止できるという効果が得られる。
【0071】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について図7図10を参照して説明する。
図2に示すように、本実施形態のロボットシステム31は、第1実施形態のロボットシステム1に対し、コントローラ3に代えてコントローラ32を備えている点が異なる。コントローラ32は、コントローラ3に対し、表示処理部21に代えて表示処理部33を備えている点が異なる。表示処理部33は、表示処理部21と同等の機能を有するとともに、さらに、判定処理部34を備えている。
【0072】
判定処理部34は、誤差角度が予め定められた閾値角度未満であるか否かを判定する。本実施形態では、閾値角度は、例えばモータ13の1/4回転に対応した対象軸の角度(例えば0.9度)に設定されている。なお、閾値角度は、モータ13の半回転(1/2回転)に対応した対象軸の角度(例えば1.8度)以下の所定の角度であればよく、その値は適宜変更することができる。判定処理部34により実行される各処理は、判定処理手順に相当する。この場合、表示処理部33は、対象軸に対応する基準角度、補正後角度および誤差角度に加え、判定処理部34による判定の結果を表す結果表示を表示部16に表示させる。
【0073】
次に、上記構成の作用について説明する。
[1]多回転データ原点復旧の際にコントローラ32で実行される処理
多回転データ原点復旧の際にコントローラ32を主体として実行される処理は、図8に示すような内容となる。図8に示すように、本実施形態における多回転データ原点復旧に関する一連の処理は、図4に示した第1実施形態における多回転データ原点復旧に関する一連の処理に対し、ステップS450が追加されている点、ステップS500に代えてステップS501が設けられている点などが異なる。
【0074】
この場合、ステップS400の実行後はステップS450に進み、判定処理部34によって前述した各処理(判定処理)が実行される。ステップS450の実行後はステップS501に進み、表示処理部33によって前述した各処理(表示処理)が実行される。表示処理が実行されると、表示部16には図9または図10に示すような画面が表示される。このような画面の内容については後述する。ステップS501の実行後はステップS600に進み、以降の処理が実行される。
【0075】
[2]表示処理により表示される画面の第3具体例
本実施形態の表示処理が実行されることにより表示される画面の具体例は、図9または図10に示すような画面となる。以下では、このような具体例のことを、第1実施形態における第1具体例および第2具体例と区別するため、第3具体例と称することとする。第3具体例の画面は、第1実施形態で説明した第1具体例の画面(図5)に対し、角度表示25に代えて角度表示35が設けられている点が異なる。角度表示35には、角度表示25に表示されていた各表示に加えて、判定処理部34による判定結果が表示されている。
【0076】
図9に示すように、対象軸である軸J1に対応する誤差が0.34567度である場合、誤差が閾値角度(0.9度)未満であることから、判定結果として「OK」が表示される。また、図10に示すように、対象軸である軸J1に対応する誤差が1.34567度である場合、誤差が閾値角度(0.9度)以上であることから、判定結果として「NG」が表示される。このような判定結果は、対応する軸が動いた(回転した)場合、それに応じて変化する。
【0077】
以上説明したように、本実施形態によれば次のような効果が得られる。
多回転データ原点復旧を含む原点出しに関する作業の経験がある程度あるような作業者であれば、多回転データ原点復旧では、対象軸の角度を基準角度に固定する際における誤差がモータ13の半回転分の誤差未満であれば多回転データが消滅する前と同等の精度での原点出しを行うことが可能となることを知っている可能性が高い。そのため、第1実施形態のように、表示部16に誤差角度さえ表示されていれば、前述した多回転データ原点復旧に関する作業工数の低減効果が得られると考えられる。
【0078】
しかし、多回転データ原点復旧を含む原点出しに関する作業の経験がほとんどないような作業者(ロボットを新規に購入したユーザなど)の場合、表示部16に誤差角度などが表示されていたとしても、その誤差角度で問題があるのか否かを判断することが難しくなることが考えられる。そこで、本実施形態のコントローラ32は、誤差角度がモータ13の1/2回転に対応した対象軸の角度以下に設定された閾値角度未満であるか否かを判定する判定処理を行い、誤差角度などと併せて、その判定の結果を表す結果表示も表示部16に表示させるようになっている。
【0079】
このようにすれば、作業者は、表示部16に表示される情報のうち、少なくとも判定処理による判定の結果を表す結果表示(OKまたはNG)を確認すれば、その時点における誤差角度に問題があるのか否か、つまり対象軸の角度を基準角度に一致させる作業の精度に問題があるのか否かを容易に判断することができる。したがって、本実施形態の原点出し方法によれば、より経験の浅い作業者が多回転データ原点復旧の作業を行う場合であっても、その作業工数を低減することができるという効果が得られる。
【0080】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について図11および図12を参照して説明する。
本実施形態では、表示処理などの内容が第2実施形態と異なっているが、ロボットシステムの構成自体は第2実施形態と共通する。本実施形態の表示処理が実行されることにより表示される画面の具体例は、図11または図12に示すような画面となる。以下では、これらの具体例のことを、上記各実施形態における第1具体例、第2具体例および第3具体例と区別するため、それぞれ第4具体例および第5具体例と称することとする。
【0081】
第4具体例および第5具体例の画面は、対象軸である軸J1に対応する誤差が閾値角度(0.9度)未満である場合、第1実施形態で説明した第1具体例の画面(図5)と同様の画面となる。しかし、第4具体例の画面では、図11に示すように、対象軸である軸J1に対応する誤差(1.34567度)が閾値角度(0.9度)以上である場合、実行キー26が無効化された状態とされる。
【0082】
また、第5具体例の画面では、図12に示すように、対象軸である軸J1に対応する誤差(1.34567度)が閾値角度(0.9度)以上である場合、警告メッセージ41が元々の画面よりも前面に表示され、これにより、元々の画面に表示された実行キー26およびCANCELキー27などが無効化された状態とされる。そのため、第5具体例の画面では、実行キー26がタッチ操作されても実行処理部22によって実行処理が実行されることがない。
【0083】
警告メッセージ41には、多回転データ原点復旧の実行ができない旨を表す文面(例えば「補正誤差が大きいため、原点復旧できません。」)と、その対処方法を表す文面(例えば「基準角度に再移動させてから再実行して下さい。」)と、が含まれる。この場合、警告メッセージ41内には、OKキー42が表示されており、作業者は、このOKキー42をタッチ操作することにより、元の画面表示に戻すことができる。
【0084】
以上説明したように、本実施形態によれば次のような効果が得られる。
本実施形態の表示処理によって表示部16に表示される画面の第4具体例および第5具体例では、判定処理において誤差角度が閾値角度以上であると判定された場合には実行キー26が無効化され、誤差角度が閾値角度未満であると判定された場合には実行キー26が有効化される。つまり、本実施形態の原点出し方法では、判定処理において誤差角度が閾値角度以上であると判定された場合には実行処理の実行が禁止され、判定処理において誤差角度が閾値角度未満であると判定された場合には実行処理の実行が許可されるようになっている。
【0085】
このようにすれば、作業者は、対象軸の角度を基準角度に固定させるための作業の精度に問題がある場合には多回転データ原点復旧を実行することができないが、その作業の精度に問題がない場合には多回転データ原点復旧を実行することが可能となる。したがって、本実施形態の原点出し方法によれば、精度が良好ではない原点出しが行われることがなくなり、実行される原点出しの精度を良好に維持することができる。
【0086】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について図13を参照して説明する。
図13に示すように、本実施形態のロボットシステム51は、第2実施形態のロボットシステム31に対し、コントローラ32に代えてコントローラ52を備えている点が異なる。コントローラ52は、コントローラ32に対し、回転抑制処理部53が追加されている点が異なる。
【0087】
回転抑制処理部53は、判定処理部34により誤差角度が閾値角度未満であると判定されると対象軸の回転を妨げる力である回転抑制力を発生する。このような回転抑制力、つまり、作業者が対象軸を回転させる力に抗する力を発生する具体的な手法としては、様々な手法を採用することができる。回転抑制力は、例えば、対象軸を駆動するモータ13に対するブレーキを作用させること、対象軸を駆動するモータ13の駆動制御により、作業者が対象軸を回転させる方向とは逆方向のトルクを発生させること、などにより発生することができる。
【0088】
以上説明したように、本実施形態によれば次のような効果が得られる。
本実施形態の原点出し方法によれば、作業者は、対象軸の角度を基準角度に一致させるために対象軸を回転させる作業を実施している際、誤差角度が閾値角度未満になると、つまり、その作業の精度に問題がない状態になると、回転抑制力の発生によって対象軸を回転させ難くなることから、対象軸の回転を直ちに且つ容易に停止することができる。
【0089】
そのため、誤差角度が閾値角度未満になったにもかかわらず、勢い余って対象軸を回転させてしまい(手を止めたつもりが実際には止まっていないなど)、再び誤差角度が閾値角度以上になってしまう状態、いわゆるオーバーシュートが発生することを防止できる。このようなオーバーシュートが発生した場合、作業者は、再び対象軸を回転させる作業を行う必要が生じてしまう。したがって、本実施形態によれば、このような無駄な作業が生じることなく、一層容易に原点出しの精度を向上することができる。
【0090】
また、この場合、回転抑制力の発生により対象軸を回転させ難くすることによって、作業者に対して、判定処理部34による判定の結果がOKである旨を報知していることにもなり、第2実施形態と同様の効果、つまり、より経験の浅い作業者が多回転データ原点復旧の作業を行う場合であっても、その作業工数を低減することができるという効果も得られる。
【0091】
さらに、本実施形態の原点出し方法によれば、次のような効果も得られる。すなわち、対象軸の角度を基準角度に精度良く一致させるためには、作業者は、精細に対象軸を動かさなくてはならないが、人の手による作業には、限界があり、例えば1mmずつ動かすことはできても、例えば0.1mmずつ動かすことは困難である。しかし、上記方法によれば、誤差角度が閾値角度未満になると、回転抑制力が発生することから、作業者が対象軸を1mm動かすような力を加えたとしても、実際には、対象軸は1mmよりも短い距離(例えば0.1mm)しか動かない。言い換えると、この場合、作業者は、通常よりも、より精細に対象軸を動かすことが可能となる。その結果、上記方法によれば、対象軸の角度を基準角度に一致させる精度を一層高めることができるという効果が得られる。
【0092】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で任意に変形、組み合わせ、あるいは拡張することができる。
上記各実施形態で示した数値などは例示であり、それに限定されるものではない。
【0093】
本発明は、一般的な産業用ロボットシステムであるロボットシステム1、31、51に用いられるものに限らず、複数の軸を有するロボットと、そのロボットの動作を制御するコントローラと、そのロボットに関する表示を行うための表示装置とを備えたロボットシステム全般に適用することができる。
上記各実施形態では、本発明の原点出し方法について対象軸が1つの場合を例に説明したが、対象軸が複数ある場合でも同様の原点出し方法を適用することができる。
【0094】
表示装置としては、ティーチングペンダント4の表示部16に限らずともよく、例えば、コントローラ3、32、52から与えられる表示用の信号に基づいて各種の表示を行うディスプレイなどの表示装置であってもよいし、コントローラ3、32、52との通信が可能とされたパーソナルコンピュータ、モバイル操作端末(例えばスマートフォン、タブレット端末など)などの表示装置であってもよい。
【0095】
上記各実施形態では原点出しの際に実行される一連の処理、つまり軸指定処理手順、表示処理手順および実行処理手順がコントローラ3、32、52により行われるようになっていたが、それら処理の一部または全部を別の装置(例えば、ティーチングペンダント4に代えて用いられるモバイル操作端末など)が行うようにしてもよい。すなわち、コントローラ3、32、52とは別の装置により軸指定処理部、表示処理部および実行処理部などを構成してもよい。
【0096】
上記各実施形態において、軸指定処理部19は、作業者の操作部18に対する操作に応じて対象軸を指定する処理を実行するようになっていたが、自動的に対象軸を指定する処理を実行するようにしてもよい。例えば、エンコーダ15の電池切れを診断する診断機能を有するシステムである場合、軸指定処理部19は、その診断機能により電池切れが検出されたものに対応する軸を、自動的に対象軸に指定(設定)するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0097】
2…ロボット、3、32、52…コントローラ、13…モータ、15…エンコーダ、16…表示部、19…軸指定処理部、20…角度算出処理部、21、33…表示処理部、22…実行処理部、34…判定処理部、53…回転抑制処理部、J1~J6…軸。
図1
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