(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】表面粗さ推定装置及び表面粗さ推定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 5/28 20060101AFI20230711BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20230711BHJP
B24B 5/04 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
G01B5/28 102
B24B49/10
B24B5/04
(21)【出願番号】P 2019084542
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】臂 安彦
(72)【発明者】
【氏名】今枝 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岩井 英樹
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-196740(JP,A)
【文献】特開平11-179656(JP,A)
【文献】特開平04-319601(JP,A)
【文献】特開平07-077416(JP,A)
【文献】特開2008-183629(JP,A)
【文献】国際公開第2006/028295(WO,A1)
【文献】特開昭62-282865(JP,A)
【文献】特開2001-041739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/28
B24B 49/00 - 49/18
B24B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸の周りに回転可能に支持された工作物を加工する工作機械に設けられ、前記工作物に接触させる接触子を有し、前記接触子と前記工作物との接触を検出することにより前記工作物の寸法を計測可能な定寸装置の前記接触子を前記工作物に接触させ
、かつ前記工作物を回転させながら、前記工作物に対して前記定寸装置を
前記中心軸に平行な方向に移動させたときの前記接触子の変位に対応する前記定寸装置による計測結果を取得する計測結果取得部と、
前記計測結果取得部が取得した計測結果を、前記工作物の表面粗さの代用特性となる代用値に変換する変換部と、
前記代用値と前記工作物の表面粗さの実測値との関係を示すモデルを記憶するモデル記憶部と、
前記モデルと前記代用値とに基づき、前記工作物の表面粗さを推定する推定部と、
を備える、表面粗さ推定装置。
【請求項2】
前記モデルは、前記代用値と前記実測値との関係を示す回帰モデルである、請求項1に記載の表面粗さ推定装置。
【請求項3】
前記変換部は、異なる複数の変換手法を用いて、前記計測結果を異なる複数の前記代用値に変換し、
前記モデルは、複数の前記代用値及び前記実測値を学習データとする機械学習により生成された学習モデルである、請求項1に記載の表面粗さ推定装置。
【請求項4】
前記表面粗さ推定装置は、さらに、前記代用値及び前記実測値を学習データとする機械学習により前記学習モデルを生成するモデル生成部を備える、請求項3に記載の表面粗さ推定装置。
【請求項5】
前記変換部は、前記計測結果から抽出した複数の抽出データの値から前記抽出データの値の平均値の絶対値の合計を、複数の前記抽出データの数で除した値を前記代用値の1つとする、請求項1-4の何れか一項に記載の表面粗さ推定装置。
【請求項6】
前記工作物は、回転体であり、
前記計測結果取得部は、前記接触子を前記工作物の外周面又は内周面に接触させながら、前記工作物に対して前記定寸装置を移動させたときの前記計測結果を取得する、請求項1-5の何れか一項に記載の表面粗さ推定装置。
【請求項7】
前記工作機械は、
前記工作物を前記
中心軸の周りに回転可能に支持する工作物支持装置と、
前記工作物を加工する工具を支持する工具支持装置と、
前記工作物支持装置に対して前記工具支持装置を移動させる工具移動装置と、
前記工作物支持装置、前記工具移動装置及び前記定寸装置に関する制御を少なくとも行う制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記工具による前記工作物の加工が終了した後であって、前記工具を前記工作物の加工済面から後退させつつ、前記接触子を前記工作物の前記加工済面に接触させ
、かつ前記工作物を回転させながら前記工作物に対して前記定寸装置を移動させ、
前記計測結果取得部は、前記制御装置により前記工具を前記工作物の前記加工済面から後退させつつ、前記接触子を前記工作物の前記加工済面に接触させながら前記工作物の前記加工済面に対して前記定寸装置を
前記中心軸に平行な方向に移動させたときの前記接触子の変位に対応する前記定寸装置による前記計測結果を取得する、請求項1-
6の何れか一項に記載の表面粗さ推定装置。
【請求項8】
前記工作機械は、
前記工作物を
中心軸の周りに回転可能に支持する工作物支持装置と、
前記工作物を加工する工具を支持する工具支持装置と、
前記工作物支持装置に対して前記工具支持装置を移動させる工具移動装置と、
前記工作物支持装置、前記工具移動装置及び前記定寸装置に関する制御を少なくとも行う制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記工具による前記工作物の一の加工面の加工を行った後において、前記工具による前記工作物の他の加工面の加工を行いつつ、加工が終了した前記工作物の加工済面に前記接触子を接触させ
、かつ前記工作物を回転させながら前記工作物の前記加工済面に対して前記定寸装置を
前記中心軸に平行な方向に移動させ、
前記計測結果取得部は、前記制御装置により前記工具による前記工作物の前記他の加工面の加工を行いつつ、加工が終了した前記工作物の前記加工済面に前記接触子を接触させながら前記工作物の前記加工済面に対して前記定寸装置を
前記中心軸に平行な方向に移動させたときの前記接触子の変位に対応する前記定寸装置による前記計測結果を取得する、請求項1-
6の何れか一項に記載の表面粗さ推定装置。
【請求項9】
前記工作物は、外径が異なる複数の円筒面を備える、請求項
8に記載の表面粗さ推定装置。
【請求項10】
前記工作機械は、
前記工作物を
中心軸の周りに回転可能に支持する工作物支持装置と、
前記工作物支持装置に対して相対移動可能に設けられる砥石台と、
前記砥石台に回転可能に支持され、前記工作物を研削加工する砥石車と、
を備え、
前記計測結果取得部は、プランジ研削により研削された前記工作物の加工済面に前記接触子を接触させ
、かつ前記工作物を回転させながら、前記工作物の前記加工済面に対して前記定寸装置を
前記中心軸に平行な方向に移動させたときの前記接触子の変位に対応する前記定寸装置による前記計測結果を取得する、請求項1-
6の何れか一項に記載の表面粗さ推定装置。
【請求項11】
前記表面粗さ推定装置は、さらに、前記代用値、又は、前記推定部による推定結果に基づき、前記砥石車の修正を行うタイミングであるか否かを判定する修正時期判定部を備える、請求項
10に記載の表面粗さ推定装置。
【請求項12】
前記表面粗さ推定装置は、さらに、前記代用値、又は、前記推定部による推定結果に基づき、前記工作物の良否判定を行う良否判定部を備える、請求項1-
11の何れか一項に記載の表面粗さ推定装置。
【請求項13】
前記計測結果取得部は、加工が終了した前記工作物の加工済面に前記接触子を前記工作物に接触させ
、かつ前記工作物を回転させながら前記工作物の前記加工済面に対して前記定寸装置を
前記中心軸に平行な方向に移動させたときの前記接触子の変位に対応する前記定寸装置による前記計測結果を取得する、請求項1-
6の何れか一項に記載の表面粗さ推定装置。
【請求項14】
前記計測結果取得部は、工具が前記工作物の前記加工済面から離れた状態において、前記工作物の前記加工済面に前記接触子を前記工作物に接触させ
、かつ前記工作物を回転させながら前記工作物の前記加工済面に対して前記定寸装置を
前記中心軸に平行な方向に移動させたときの前記接触子の変位に対応する前記定寸装置による前記計測結果を取得する、請求項
13に記載の表面粗さ推定装置。
【請求項15】
中心軸の周りに回転可能に支持された工作物を加工する工作機械に設けられ、前記工作物に接触させる接触子を有し、前記接触子と前記工作物との接触を検出することにより前記工作物の寸法を計測可能な定寸装置の前記接触子を前記工作物に接触させ
、かつ前記工作物を回転させながら、前記工作物に対して前記定寸装置を
前記中心軸に平行な方向に移動させたときの前記接触子の変位に対応する前記定寸装置による計測結果を取得する計測結果取得部と、
前記計測結果取得部が取得した計測結果を、前記工作物の表面粗さの代用特性となる代用値に変換する変換部と、
前記代用値、及び、前記工作物の表面粗さの実測値を学習データとする機械学習により、前記工作物の表面粗さを推定するための学習モデルを生成するモデル生成部と、
を備える、表面粗さ推定装置。
【請求項16】
中心軸の周りに回転可能に支持された工作物を加工する工作機械に設けられ、前記工作物に接触させる接触子を有し、前記接触子と前記工作物との接触を検出することにより前記工作物の寸法を計測可能な定寸装置の前記接触子を前記工作物に接触させ
、かつ前記工作物を回転させながら、前記工作物に対して前記定寸装置を
前記中心軸に平行な方向に平行移動させる計測工程と、
前記計測工程で取得した前記接触子の変位に対応する前記定寸装置による計測結果を、前記工作物の表面粗さの代用特性となる代用値に変換する変換工程と、
前記代用値と、前記工作物の表面粗さの実測値との関係を示すモデルとに基づき、前記工作物の表面粗さを推定する推定工程と、
を備える、表面粗さ推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面粗さ推定装置及び表面粗さ推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、カンチレバーに支持された触針をワークに接触させた状態で移動させたときに触針に生じる変位量を検出することにより、ワークの表面形状を測定する表面粗さ測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の表面粗さ測定装置を用いてワークの表面粗さを測定するには、工作機械等で加工したワークを表面粗さ測定装置に搬送する必要があり、ワークの搬送に要する時間の分だけ、サイクルタイムが長くなる。従って、ワークの加工に用いる工作機械の機上で、加工後のワークの表面粗さを把握することが、サイクルタイムの短縮を図る点において、望ましい。
【0005】
本発明は、工作機械の機上で加工後の工作物の表面粗さを把握することができる表面粗さ推定装置及び表面粗さ推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1.表面粗さ推定装置)
本発明の第一の表面粗さ推定装置は、中心軸の周りに回転可能に支持された工作物を加工する工作機械に設けられ、前記工作物に接触させる接触子を有し、前記接触子と前記工作物との接触を検出することにより前記工作物の寸法を計測可能な定寸装置の前記接触子を前記工作物に接触させ、かつ前記工作物を回転させながら、前記工作物に対して前記定寸装置を前記中心軸に平行な方向に移動させたときの前記接触子の変位に対応する前記定寸装置による計測結果を取得する計測結果取得部と、前記計測結果取得部が取得した計測結果を、前記工作物の表面粗さの代用特性となる代用値に変換する変換部と、前記代用値と前記工作物の表面粗さの実測値との関係を示すモデルを記憶するモデル記憶部と、前記モデルと前記代用値とに基づき、前記工作物の表面粗さを推定する推定部とを備える。
【0007】
当該第一の表面粗さ推定装置によれば、推定部は、定寸装置から得られた計測結果を変換した代用値、及び、代用値と工作物の表面粗さの実測値との関係を示すモデルとに基づき、工作物Wの表面粗さを推定する。この場合、当該第一の表面粗さ推定装置は、工作機械の機上で、加工後の工作物の表面粗さを把握することができる。これにより、工作機械は、工作機械の機外に設けられた外部装置を用いて工作物の表面粗さを測定する場合と比べて、加工後の工作物を工作機械から外部装置へ搬送する工程を省略できるので、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0008】
本発明の第二の表面粗さ推定装置は、中心軸の周りに回転可能に支持された工作物を加工する工作機械に設けられ、前記工作物に接触させる接触子を有し、前記接触子と前記工作物との接触を検出することにより前記工作物の寸法を計測可能な定寸装置の前記接触子を前記工作物に接触させ、かつ前記工作物を回転させながら、前記工作物に対して前記定寸装置を前記中心軸に平行な方向に移動させたときの前記接触子の変位に対応する前記定寸装置による計測結果を取得する計測結果取得部と、前記計測結果取得部が取得した計測結果を、前記工作物の表面粗さの代用特性となる代用値に変換する変換部と、前記代用値、及び、前記工作物の表面粗さの実測値を学習データとする機械学習により、前記工作物の表面粗さを推定するための学習モデルを生成するモデル生成部とを備える。
【0009】
当該第二の表面粗さ推定装置によれば、モデル生成部は、工作物の表面粗さを推定するための学習モデルを機械学習により生成する。そして、当該第二の表面粗さ推定装置は、当該学習モデルを用いることにより、工作物Wの表面粗さの推定精度を高めることができる。また、当該第二の表面粗さ推定装置は、定寸装置から得られた計測結果を変換した代用値と学習モデルとに基づき、工作物Wの表面粗さを推定することができるので、工作機械は、加工後の工作物の表面粗さを工作機械の機上で把握することができる。
【0010】
(2.表面粗さ推定方法)
本発明の表面粗さ推定方法は、中心軸の周りに回転可能に支持された工作物を加工する工作機械に設けられ、前記工作物に接触させる接触子を有し、前記接触子と前記工作物との接触を検出することにより前記工作物の寸法を計測可能な定寸装置の前記接触子を前記工作物に接触させ、かつ前記工作物を回転させながら、前記工作物に対して前記定寸装置を前記中心軸に平行な方向に平行移動させる計測工程と、前記計測工程で取得した前記接触子の変位に対応する前記定寸装置による計測結果を、前記工作物の表面粗さの代用特性となる代用値に変換する変換工程と、前記代用値と、前記工作物の表面粗さの実測値との関係を示すアルゴリズムとに基づき、前記工作物の表面粗さを推定する推定工程とを備える。当該表面粗さ推定方法によれば、上記した第一の表面粗さ推定装置と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】表面粗さ推定装置の学習フェーズの構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】表面粗さ推定装置の推定フェーズの構成を示す機能ブロック図である。
【
図6】モデル生成部により生成される回帰モデルの一例を示すグラフである。
【
図7】制御装置により実行される表面粗さ推定工程を示すフローチャートである。
【
図8】表面粗さ推定工程の中で実行される計測工程の第一例を示すフローチャートである。
【
図9】表面粗さ推定工程の中で実行される計測工程の第二例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1.表面粗さ推定装置の概要)
表面粗さ推定装置は、工作物の加工を行う工作機械の機上で、加工後の工作物の表面粗さを推定する。工作機械は、定寸装置を備え、表面粗さ推定装置は、工作機械による工作物の加工後に、定寸装置の接触子を工作物の加工面に接触させた状態で、工作物に対して定寸装置を相対移動させながら、定寸装置による工作物の計測を行う。そして、表面粗さ推定装置は、定寸装置から得られた計測結果に基づいて、工作物の表面粗さを推定する。
【0013】
(2.研削盤1の構成)
最初に、
図1を参照して、工作機械の一例である研削盤1の構成について説明する。本実施形態において、研削盤1は、砥石台トラバース型の円筒研削盤である。なお、工作機械は、テーブルトラバース型の研削盤であってもよく、研削盤以外の工作機械、例えば、旋盤等であってもよい。また、本実施形態において、工作物Wは、外径が異なる複数の円筒面を有するクランクシャフトである。なお、工作物Wは、クランクシャフトに限られるものではない。即ち、工作物Wは、クランクシャフト以外の回転体、例えば、軸方向全体に亘って外径が同一である回転体であってもよい。また、工作物Wは、回転体に限るものではない。
【0014】
図1に示すように、研削盤1は、主として、ベッド10、工作物支持装置20、工具支持装置30、工具移動装置40、定寸装置50、定寸装置移動装置60、砥石車修正装置70、及び、制御装置80を備える。
【0015】
ベッド10は、設置面上に固定されている。工作物支持装置20は、工作物Wを回転可能に支持する。本実施形態において、工作物支持装置20は、主軸台21と、心押台22とを備える。主軸台21は、ベッド10の上面に設けられ、工作物Wを中心軸線回り(Z軸回り)に回転可能に支持する。心押台22は、ベッド10の上面において、主軸台21に対向する位置に設けられている。工作物支持装置20は、主軸台21及び心押台22によって工作物Wを回転可能に両端支持し、工作物Wは、主軸台21に設けられたモータ23の駆動により回転される。
【0016】
工具支持装置30は、工具を回転可能に支持する。本実施形態において、工具支持装置30は、工具としての砥石車31と、砥石台32とを主に備える。砥石車31は、複数の砥粒を結合材により固定されて構成された円盤状の工具である。砥粒には、一般砥粒と超砥粒が存在する。一般砥粒としては、アルミナや炭化ケイ素などのセラミックス質の材料などが良く知られている。超砥粒は、ダイヤモンドやCBNである。砥石台32は、砥石車31を回転可能に支持する。なお、砥石台32には、砥石車31を回転させるための駆動力を付与するモータ33が設けられる。
【0017】
工具移動装置40は、ベッド10に対して砥石車31を相対移動させる。本実施形態において、工具移動装置40は、第一テーブル41と、モータ42とを主に備える。第一テーブル41は、ベッド10に対してZ軸方向へ移動可能に設けられ、モータ42は、第一テーブル41をZ軸方向へ移動させるための駆動力を付与する。第一テーブル41の上面には、砥石台32が設けられ、砥石台32は、第一テーブル41に対し、工作物Wに接近及び離間する方向(X軸方向)へ移動可能に設けられる。また、工具移動装置40には、第一テーブル41に対して砥石台32をX軸方向へ移動させるための駆動力を付与するモータ43が設けられる。つまり、研削盤1は、工具移動装置40を用いて、砥石車31を工作物Wに対してX軸方向及びZ軸方向へ相対移動させることができる。
【0018】
定寸装置50は、主として、工作物Wの加工部位の外径を計測する。これに加え、定寸装置50は、工作物Wの加工面の表面粗さを推定する際に用いられる。なお、定寸装置50の構成については、後述する。定寸装置移動装置60は、第二テーブル61と、モータ62とを主に備える。第二テーブル61は、工作物支持装置20に対して第一テーブル41の反対側において、ベッド10に対してZ軸方向へ移動可能に設けられる。モータ62は、第二テーブル61をZ軸方向へ移動させるための駆動力を付与する。第二テーブル61の上面には、定寸装置50が設けられ、定寸装置50は、第二テーブル61に対し、Z軸方向へ相対移動可能である。つまり、研削盤1は、定寸装置移動装置60を用いて、定寸装置50を工作物Wに対してZ軸方向へ相対移動させることができる。
【0019】
砥石車修正装置70は、砥石車31の表面状態を修正する。砥石車修正装置70は、砥石車31の修正として、ツルーイングとドレッシングの少なくとも一方を行う。さらに、砥石車修正装置70は、砥石車31の寸法(径)を測定する機能も有する。
【0020】
ここで、ツルーイングは、形直し作業であり、研削によって砥石車31が摩耗した場合に工作物Wの形状に合わせて砥石車31を成形する作業、偏摩耗によって砥石車31の振れを取り除く作業等である。ドレッシングは、目直し(目立て)作業であり、砥粒の突き出し量を調整したり、砥粒の切れ刃を創成したりする作業である。ドレッシングは、目つぶれ、目詰まり、目こぼれ等を修正する作業であって、通常ツルーイング後に行われる。また、ツルーイングとドレッシングは、特段区別することなく実施される場合もある。
【0021】
制御装置80は、NCプログラム及びPLCの制御プログラムに基づいて、各駆動装置を制御する。制御装置80は、NCプログラムに基づいて、研削盤1に設けられた各モータ23,33,42,43,62を制御する。また、PLCの制御プログラムは、入力機器の指令信号のON/OFFに応じて出力機器を動作する。例えば、制御装置80は、定寸装置50により計測される工作物Wの径に基づいて、工作物Wが仕上げ形状となるまで研削を行う。また、制御装置80は、砥石車31の交換又は修正(ツルーイング、ドレッシング)を実施する場合に、各モータ42,43、及び、砥石車修正装置70等を制御する。
【0022】
(3.定寸装置50の構成)
次に、
図2を参照して、定寸装置50の構成を説明する。
図2に示すように、定寸装置50は、装置本体51と、一対の接触子52a,52bと、一対のフィンガ53a,53bと、差動トランス54とを主に備える。接触子52a,52bは、工作物Wの外周面に対して接触可能に設けられる。具体的に、一対の接触子52a,52bのうち、一方の接触子52aは、工作物Wの外周面に対して上方から接触し、他方の接触子52bは、工作物Wの外周面に対して下方から接触する。フィンガ53a,53bは、接触子52a,52bを保持すると共に、装置本体51に対し、接触子52a,52bを相対変位可能に支持する。具体的に、一対のフィンガ53a,53bのうち、一方のフィンガ53aは、一方の接触子52aを支持し、他方のフィンガ53bは、他方の接触子52bを支持する。
【0023】
差動トランス54は、装置本体51に収容される。差動トランス54は、一対の接触子52a,52bの変位に伴って変位する一対のフィンガ53a,53bの変位を検出し、フィンガ53a,53bの変位に応じた電気信号を出力する。研削加工時において、制御装置80は、差動トランス54から出力された電気信号に基づいて、一対の接触子52a,52bが工作物Wの外周面に接触したときのフィンガ53a,53bの位置を把握し、フィンガ53a,53bの位置に基づいて、工作物Wの外径を計測する。また、後述するように、表面粗さ推定装置100は、差動トランス54から出力された電気信号に基づいて、工作物Wの加工面の表面粗さを推定する。
【0024】
(4.表面粗さ推定装置100の概要)
次に、表面粗さ推定装置100の概要を説明する。表面粗さ推定装置100は、工作機械の一例である研削盤1により研削加工された工作物Wの表面粗さを推定する。なお、表面粗さ推定装置100は、研削盤1に組み込まれた装置とすることもでき、研削盤1とは別ユニットとすることもできる。
【0025】
ここで、定寸装置50による計測結果と表面粗さとの相関について説明する。研削盤1は、表面粗さ推定装置100による表面粗さの推定を行う際に、定寸装置50を用いる。具体的に、研削盤1は、加工後の工作物Wの加工面に対して、接触子52a,52bの少なくとも一方を接触させた状態で、加工面に対して接触子52a,52bを工作物Wの中心軸線方向(Z軸方向)へ移動させながら、定寸装置50による計測を行う。以下において、接触子52a,52bを接触させつつ、接触子52a,52bをZ軸方向へ移動させながら定寸装置50が計測した計測結果を「推定用計測結果」と称す。
【0026】
図3には、推定用計測結果の一例を示すグラフが図示されている。
図3に示すグラフにおいて、横軸は、計測開始地点からの接触子52a,52bの位置(移動距離)を示し、縦軸は、推定用計測結果として定寸装置50から得られた電気信号の出力値(例えば、電圧値)を示す。
【0027】
具体的に、
図3には、表面粗さの実測値が異なる3つの工作物W1-W3の加工面に対し、定寸装置50による計測を行うことで得られた推定用計測結果を示す3つのグラフ(1)-(3)が示されている。なお、工作物W1に対する推定用計測結果は、グラフ(1)で示され、工作物W2に対する推定用計測結果は、グラフ(2)で示され、工作物W3に対する推定用計測結果は、グラフ(3)で示される。また、3つの工作物W1-W3の中で、工作物W1は、表面粗さの実測値が最も小さく、工作物W3は、表面粗さの実測値が最も大きい。
【0028】
図3に示すように、グラフ(1)は、3つのグラフ(1)-(3)の中で最も振幅が小さく、グラフ(3)は、3つのグラフ(1)-(3)の中で最も振幅が大きい。つまり、表面粗さの実測値が最も小さい工作物W1の推定用計測結果を示すグラフは、3つのグラフ(1)-(3)の中で最も振幅が小さく、表面粗さの実測値が最も大きい工作物W3の推定用計測結果を示すグラフは、3つのグラフ(1)-(3)の中で最も振幅が大きい。
【0029】
このように、定寸装置50による計測結果と表面粗さの実測値との間には、相関が認められる。この点に着目し、表面粗さ推定装置100は、推定用計測結果に基づき、加工後の工作物Wの表面粗さを推定する。なお、本実施形態において、表面粗さ推定装置100は、工作物Wの外周面の表面粗さを推定する場合を例に挙げて説明するが、工作物Wの内周面の表面粗さを推定することも可能である。
【0030】
(5.表面粗さ推定装置100の構成)
次に、
図4及び
図5を参照して、表面粗さ推定装置100の構成について説明する。
図4に示すように、表面粗さ推定装置100は、学習フェーズとして機能する以下の構成を備える。即ち、表面粗さ推定装置100は、計測結果取得部110と、変換部120と、実測値取得部130と、モデル生成部140と、モデル記憶部150とを備える。
【0031】
計測結果取得部110は、推定用計測結果を取得する。具体的に、研削盤1は、研削加工が終了した直後の工作物Wの加工面に対し、接触子52a,52bを接触させる。この状態で、研削盤1は、第二テーブル61をZ軸方向へ移動させながら定寸装置50による計測を行う。そして、計測結果取得部110は、差動トランス54から出力された電気信号を、推定用計測結果として取得する。
【0032】
変換部120は、計測結果取得部110が取得した推定用計測結果を、工作物Wの表面粗さの代用特性となる代用値に変換する。実測値取得部130は、外部装置である表面粗さ測定装置によって測定した工作物Wの表面粗さの実測値を取得する。モデル生成部140は、変換部120が変換した代用値と、実測値取得部130が取得した実測値との関係を示すモデルを生成する。モデル記憶部150には、モデル生成部140が生成したモデルを記憶する。
【0033】
図5に示すように、表面粗さ推定装置100は、推定フェーズとして機能する以下の構成を備える。即ち、表面粗さ推定装置100は、計測結果取得部110と、変換部120と、モデル記憶部150、推定部160と、判定部170とを備える。
【0034】
推定部160は、新たに計測結果取得部110が取得した推定用計測結果を変換部120により変換した代用値と、モデル記憶部150に記憶されたモデルとに基づいて、工作物Wの表面粗さを推定する。判定部170は、推定部160による推定結果に基づいて判定を行う。具体的に、判定部170は、良否判定部171、及び、修正時期判定部172を備える。
【0035】
良否判定部171は、加工後の工作物Wが良品であるか否かの判定を行う。例えば、良否判定部171は、推定部160による推定結果として得られる表面粗さの推定値が、予め設定された第一閾値以下であるか否かを判定する。その結果、表面粗さの推定値が第一閾値以下であれば、良否判定部171は、当該工作物Wが良品であると判定する。
【0036】
このように、表面粗さ推定装置100は、推定部160による推定結果に基づき、加工後の工作物Wに対する良否判定を行うことができる。そして、研削盤1は、加工後の工作物Wに対する良否判定を研削盤1の機上で行うことができる。よって、作業者は、研削盤1の機外に設けられた外部装置である表面粗さ測定装置を用いて加工後の工作物Wの表面粗さを測定する場合と比べて、研削盤1から表面粗さ測定装置への工作物Wの搬送作業を省略できる分、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0037】
また、工作物Wが不良品であると良否判定部171が判定した場合、作業者は、当該工作物Wに対する以後の加工処理を行う前に、当該工作物Wに対する処理(当該工作物の廃棄、再研削等)を行うことができる。つまり、作業者は、不良品である工作物Wに対して以後の加工処理が行われることを回避できるので、作業効率化を図ることができる。
【0038】
修正時期判定部172は、砥石車31を修正するタイミングであるか否かを判定する。ここで、本実施形態において、研削盤1は、工作物Wに対し、プランジ研削による研削加工を行う。そのため、表面粗さの推定値には、砥石車31の表面状態が反映されると考えられる。そこで、修正時期判定部172は、表面粗さの推定値が予め設定された第二閾値を超えるか否かを判定する。その結果、表面粗さの推定値が第二閾値を超えた場合に、修正時期判定部172は、砥石車31を修正するタイミングであると判定し、制御装置80は、砥石車31に対するツルーイング又はドレッシングを実行する。
【0039】
なお、第二閾値は、上記した第一閾値よりも大きな値である。即ち、表面粗さの推定値が第一閾値以下であり、工作物Wが良品と判定されたとしても、当該表面粗さの推定値が第二閾値を超えた場合には、砥石車31を修正するタイミングであると判定する。これにより、研削盤1は、砥石車31の表面状態の劣化に起因する不良品の発生を抑制できる。またこの場合、研削盤1は、砥石車31の表面状態を把握する目安となる工作物Wの表面粗さの推定値に基づいて砥石車31の修正時期を判断できる。よって、研削盤1は、例えば、予め決められた研削加工回数ごとに砥石車31の修正を行う場合と比べて、最適なタイミングで砥石車31の修正を行うことができるので、不良品の発生を抑制しつつ、砥石車31の工具寿命の長期化を図ることができる。以下に、表面粗さ推定装置100について、具体例を挙げながら説明する。
【0040】
(5-1.第一例の表面粗さ推定装置101)
最初に、表面粗さ推定装置100の第一例を説明する。
図4に示すように、第一例の表面粗さ推定装置101は、学習フェーズとして機能する以下の構成を備える。即ち、第一例の表面粗さ推定装置101は、計測結果取得部110と、変換部121と、実測値取得部130と、モデル生成部141と、モデル記憶部151とを備える。
変換部121は、予め記憶された変換手法を用いて、定寸装置50による計測結果を代用値に変換する。当該変換手法は、算術平均粗さに準じた計算式である。具体的に、変換部121は、まず、定寸装置50による計測結果からN個の抽出データの値Z
1-Z
n(例えば、電圧値)を抽出する。次に、変換部121は、N個の抽出データの値Z
1-Z
nの平均値Z
avgを算出すると共に、各々の抽出データの値Z
iと当該平均値Z
avgとの差の絶対値を算出する。そして、変換部121は、当該絶対値の合計を抽出データの数(N)で除することで得られた値を代用値とする。つまり、変換部121が用いる計算式は、以下の式で表される。
【0041】
【0042】
モデル生成部141は、複数の工作物Wに関して、当該工作物の加工面に対する推定用計測結果を変換部121で変換した代用値、及び、実測値取得部130が取得した当該加工面の表面粗さの実測値を収集する。そして、モデル生成部141は、収集した代用値と実測値とに基づき、代用値と実測値との関係を示す回帰モデルを生成する。この回帰モデルは、工作物の表面粗さを推定するためのモデルであり、モデル生成部141が生成した回帰モデルは、モデル記憶部151に記憶される。
【0043】
図5に示すように、第一例の表面粗さ推定装置101は、推定フェーズとして機能する以下の構成を備える。即ち、第一例の表面粗さ推定装置101は、計測結果取得部110と、変換部121と、モデル記憶部151、推定部161と、判定部170とを備える。推定部161は、新たに計測結果取得部110が取得した推定用計測結果を変換部121により変換した代用値と、モデル記憶部151に記憶された回帰モデルとに基づき、新たな工作物Wの加工面の表面粗さを推定する。
【0044】
図6には、実測値と代用値との関係を示す回帰モデルの一例を表したグラフが図示されている。
図6に示すように、実測値と代用値との間には、相関が認められる。つまり、実測値としての表面粗さが大きくなるほど、代用値の値が大きくなる関係が認められる。よって、表面粗さ推定装置100は、定寸装置50から得られた計測結果と、モデル記憶部151に記憶された回帰モデルとに基づき、工作物の表面粗さを推定することができる。
【0045】
このように、研削盤1は、第一例の表面粗さ推定装置101を用いることで、加工後の工作物の表面粗さを研削盤1の機上で把握することができる。よって、研削盤1は、研削盤1の機外に設けられた外部装置を用いて工作物Wの表面粗さを測定する場合と比べて、加工後の工作物Wを研削盤1から外部装置へ搬送する工程を省略できるので、サイクルタイムの短縮を図ることができる。また、第一例の表面粗さ推定装置101は、モデル生成部141により生成された回帰モデルを用いることで、工作物Wの表面粗さの推定精度を高めることができる。
【0046】
(5-2.第二例の表面粗さ推定装置102)
次に、表面粗さ推定装置100の第二例を説明する。
図4に示すように、第二例の表面粗さ推定装置102は、学習フェーズとして機能する以下の構成を備える。即ち、第二例の表面粗さ推定装置102は、計測結果取得部110と、変換部122と、実測値取得部130と、モデル生成部142と、モデル記憶部152とを備える。
【0047】
変換部122は、異なる複数の変換手法を用いて、推定用計測結果を複数の代用値に変換する。当該複数の変換手法は、表面粗さのパラメータに準じた計算式である。例えば、変換部122が用いる計算式としては、上記した算術平均粗さに準じた計算式、十点平均粗さ、中心平均粗さ、最大高さ等のパラメータに準じた計算式等が例示される。
【0048】
モデル生成部142は、変換部121により変換された複数の代用値と、表面粗さ測定装置で測定した工作物Wの表面粗さの実測値とを学習データとする機械学習により、工作物Wの表面粗さを推定するための学習モデルを生成する。具体的に、モデル生成部142は、複数の工作物Wに関して、当該工作物の加工面に対する推定用計測結果を変換部122で変換した複数の代用値、及び、当該加工面を表面粗さ測定装置で測定した実測値を収集する。そして、モデル生成部142は、収集した複数の代用値と実測値とに基づき、複数の代用値と実測値との関係を示す学習モデルを機械学習により生成し、生成された学習モデルは、モデル記憶部152に記憶される。
【0049】
図5に示すように、第二例の表面粗さ推定装置102は、推定フェーズとして機能する以下の構成を備える。即ち、第二例の表面粗さ推定装置102は、計測結果取得部110と、変換部122と、モデル記憶部152、推定部162と、判定部170とを備える。推定部162は、新たに計測結果取得部110が取得した推定用計測結果を変換部122により変換した複数の代用値と、モデル記憶部152に記憶された学習モデルとに基づいて、新たな工作物Wの加工面の表面粗さを推定する。
【0050】
このように、研削盤1は、第二例の表面粗さ推定装置102を用いることで、加工後の工作物の表面粗さを研削盤1の機上で把握することができる。よって、研削盤1は、研削盤1の機外に設けられた外部装置を用いて工作物Wの表面粗さを測定する場合と比べて、加工後の工作物Wを研削盤1から外部装置へ搬送する工程を省略できるので、サイクルタイムの短縮を図ることができる。また、第二例の表面粗さ推定装置102は、工作物の表面粗さを推定するための学習モデルを生成し、生成した学習モデルを用いて工作物Wの表面粗さを推定するので、工作物Wの表面粗さの推定精度を高めることができる。
【0051】
(6.表面粗さ推定工程)
次に、
図7に示すフローチャートを参照しながら、定寸装置50を用いて工作物Wの表面粗さを推定する際の手順である表面粗さ推定工程について説明する。本実施形態では、研削盤1が、プランジ研削により工作物Wに対する研削加工を行う場合を例に挙げて説明する。なお、研削盤1は、トラバース研削により工作物Wに対する研削加工を行うことも可能である。
【0052】
研削盤1は、表面粗さ推定工程における最初の工程として、定寸装置50による加工面の計測を行う(S1:計測工程)。具体的に、研削盤1は、砥石車31による工作物Wの研削加工が終了した加工面に対し、接触子52a,52bの少なくとも一方を接触させる。そして、研削盤1は、加工面に接触子52a,52bを接触させながら、工作物Wに対して定寸装置50を工作物Wの中心軸線方向(Z軸方向)へ移動させる。このとき、制御装置80は、加工面に接触子52a,52bを接触させた状態で、第二テーブル61をZ軸方向へ移動させながら、定寸装置50による計測を行う。そして、計測結果取得部110は、差動トランス54から出力された電気信号を、推定用計測結果として取得する。
【0053】
次に、変換部120は、計測結果取得部110が取得した推定用計測結果を代用値に変換する(S2:変換工程)。そして、推定部160は、変換部120により変換された代用値と、モデル記憶部150に記憶されたモデルとに基づき、工作物Wの表面粗さを推定する(S3:推定工程)。その後、判定部170は、推定部160による推定結果に基づき、工作物Wが良品であるか否かを判定すると共に、砥石車31の修正時期であるか否かを判定する(S4:判定工程)。
【0054】
(7.計測工程(S1)における研削盤1の動作例)
ここで、計測工程(S1)における研削盤1の動作例を説明する。つまり、制御装置80は、砥石車31による工作物Wの研削加工に伴う研削盤1の動作制御、及び、定寸装置50を用いた工作物Wの表面粗さの推定に伴う研削盤1の動作制御を並行して行うことにより、サイクルタイムの短縮を図ることができる。そこで、計測工程(S1)で制御装置80が行う研削盤1の動作制御について、例を挙げながら説明する。
【0055】
(7-1.計測工程(S1)における研削盤1の動作の第一例)
最初に、
図8に示すフローチャートを参照して、計測工程(S1)における研削盤1の動作の第一例を説明する。
図7に示すように、第一例の計測工程において、砥石車31による工作物Wの加工が終了すると(S11)、研削盤1は、砥石車31を工作物Wから後退させる後退動作を開始する(S12)。具体的に、制御装置80は、例えば、スパークアウトが終了した後に、モータ33を駆動し、砥石台32を工作物支持装置20から後退させる。
【0056】
次に、研削盤1は、砥石車31を工作物Wから後退させつつ、接触子52a,52bを工作物Wに接触させながら工作物Wに対して定寸装置50をZ軸方向へ移動させる(S13)。具体的に、制御装置80は、加工が終了した工作物Wの加工面に対し、接触子52a,52bの少なくとも一方を接触させた状態で、モータ62を駆動して第二テーブル61をZ軸方向へ移動させながら、定寸装置50による当該加工面の計測を行う。
【0057】
つまり、研削盤1は、プランジ研削において、工作物Wの一の加工面に対する研削加工が終了してから、次に加工する他の加工面に対する研削加工を開始するまでの間に、砥石台32及び第一テーブル41を移動させる必要がある。この点に関して、第一例の計測工程によれば、制御装置80は、砥石車31を工作物Wから後退させている間に、加工後の工作物Wの加工面に接触子52a,52bを接触させた状態で、定寸装置50を工作物Wに対してZ軸方向へ移動させながら、定寸装置50による当該加工面の計測を行う。これにより、研削盤1は、プランジ研削を行う際の研削盤1の動作時間とは別に、定寸装置50による工作物Wの加工面の計測を行うための待ち時間を設けることを不要とすることができるので、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0058】
またこの場合、研削盤1は、研削加工後において継続して回転する工作物Wに対し、定寸装置50による計測を行うことができる。つまりこの場合、研削盤1は、研削加工後に工作物Wの回転を停止した後、定寸装置50による計測を行うために工作物Wを再度回転させる必要がないので、サイクルタイムの短縮及び省電力化を図ることができる。
【0059】
(7-2.計測工程(S1)における研削盤1の動作の第二例)
最初に、
図9に示すフローチャートを参照して、計測工程(S1)における研削盤1の動作の第二例を説明する。
図9に示すように、第二例の計測工程において、砥石車31による工作物Wの加工が終了すると(S21)、制御装置80は、未加工の部位があるか否かを判定する(S22)。つまり、制御装置80は、研削加工が終了していない部位があるか否かを判定する。
【0060】
その結果、未加工の部位があれば(S22:Yes)、研削盤1は、未加工の部位の研削加工を開始する(S23)。そして、研削盤1は、砥石車31による工作物Wの加工を行いつつ、加工が終了した工作物Wの加工面に接触子52a,52bを接触させた状態で、工作物Wに対して定寸装置50を移動させる(S24)。具体的に、制御装置80は、加工が終了していない工作物Wの加工面に対し、砥石車31による研削加工を行いながら、加工が終了した工作物Wの加工面に対し、接触子52a,52bの少なくとも一方を接触させた状態で、モータ62を駆動して第二テーブル61をZ軸方向へ移動させながら、定寸装置50による当該加工面の計測を行う。
【0061】
このように、第二例の計測工程によれば、制御装置80は、未加工の部位に対して行う砥石車31による研削加工と、加工が終了した部位に対して行う定寸装置50による計測とを同時に行う。この場合においても、研削盤1は、プランジ研削を行う際の研削盤1の動作時間とは別に、定寸装置50による工作物Wの加工面の計測を行うための待ち時間を設けることを不要とすることができるので、サイクルタイムの短縮を図ることができる。また、研削盤1は、回転中である工作物Wに対し、定寸装置50による計測を行うことができるので、サイクルタイムの短縮及び省電力化を図ることができる。
【0062】
一方、未加工の部位がなければ(S22:No)、研削盤1は、第一例の研削加工と同様の処理を行う。つまりこの場合、研削盤1は、砥石車31を工作物Wから後退させる後退動作を開始する(S25)。次に、研削盤1は、砥石車31を工作物Wから後退させつつ、接触子52a,52bを工作物Wに接触させながら工作物Wに対して定寸装置50をZ軸方向へ移動させる(S26)。これにより、研削盤1は、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0063】
また、本実施形態において、工作物Wは、外径が異なる複数の円筒面を有するクランクシャフトである。この点に関して、表面粗さ推定装置100は、第二例の計測工程を採用することにより、加工後の工作物Wの表面粗さの推定を効率よく行うことができる。
【0064】
以上説明したように、研削盤1は、表面粗さ推定装置100を用いることにより、加工後の工作物Wの表面粗さを機上で把握することができるので、サイクルタイムの短縮を図ることができる。特に、表面粗さ推定装置100は、主として、加工中における工作物Wの寸法を計測するために用いる定寸装置50を、加工後の工作物Wの加工面の表面粗さを計測するために用いる。よって、表面粗さ推定装置100は、研削盤1に新たな装置を設けることを不要とすることができる。また、表面粗さ推定装置100は、研削加工時に使用する定寸装置50を、加工が終了した工作物Wの加工面の表面粗さを推定するために用いるので、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【符号の説明】
【0065】
1:研削盤(工作機械の一例)、 20:工作物支持装置、 30:工具支持装置、 31:砥石車、 32:砥石台、 40:工具移動装置、 50:定寸装置、 80:制御装置、 100,101,102:表面粗さ推定装置、 110:計測結果取得部、 120,121,122:変換部、 140,141,142:モデル生成部、 150,151,152:モデル記憶部、 160,161,162:推定部、 171:良否判定部、172:修正時期判定部、 W:工作物